2012年7月8日

海外医薬品ニュース週末版 2012年7月8日号


【ニュース・ヘッドライン】


GSKが未承認用途販促問題などに関連して30億ドルの和解を結びました。米国では中枢神経系の医学者が製薬会社主催のセミナーで新しい用途での使用経験を披露することが珍しくありませんが、製薬会社が報酬を払った医学者の名前や金額を公表する事例も出てきたので、下火になりそうです。


  • GSKらのLAMA/LABAコンビ薬のCOPD第三相試験が成功
  • アービタックスの胃がん試験がフェール
  • ジョンソン・エンド・ジョンソンが多剤耐性結核の新薬を承認申請、ベルケイドの欧州適応拡大申請を撤回
  • GSKが未承認用途販促問題や治験データ秘匿問題で米国司法省と和解

【新薬開発】


GSKらのLAMA/LABAコンビ薬のCOPD第三相試験が成功
(2012年7月2日)

グラクソ・スミスクライン(GSK)と米国の新興企業テラバンス(Nasdaq:THRX)は、共同開発している長期作用性ムスカリン拮抗剤(LAMA)GSK573719A(umeclidinium)と、長期作用性ベータ2作用剤(LABA)GW642444(vilanterol)を配合したコンビ薬のCOPD第三相試験が成功したことを発表した。2012年末に世界で承認申請を開始する予定。LAMA単剤も2013年に申請予定。

LAMAではベーリンガー・インゲルハイム/ファイザーのSpiriva(tiotropium)が2011年度売上高31億ユーロと大成功している。ノバルティスも日本のそーせい社からライセンスしたglycopyrronium bromide(INN)をSeebri Breezhalerとして欧州で承認申請、今秋までに承認される見込みだ。Spirivaは特許切れを控えているので、新薬は何らかのセールスポイントが必要である。

今回のデータはコンビ薬を単剤や偽薬と比較したものなので、umeclidiniumとSpirivaのどちらが優れているのかは分からない。前者は一日一回投与なので便利だが、Spirivaも一日二回ではなく一回投与の第三相試験が進行中だ。

コンビ薬と単剤を比較したデータも釈然としない。主評価項目(trough FEV1(毎日の服用の前に計測した一秒量)が試験開始前と比べてどれだけ改善したか)の差が意外に小さいのだ。尤も、公表されたデータはごく一部であり、全体像が学会発表されるまで何とも言えないだろう。

COPD維持療法薬で最も重要なのは増悪リスクを削減する効果であり、服用前一秒量改善は代理マーカーに過ぎない。SpirivaとLABAの併用法と比べて増悪をどの程度防ぐかが重要だが、巨大な試験を行わなければならないので、実施されるとしても開始は市販後、結果が出るのは何年も先になるだろう。

リンク:GSK/テラバンスのプレスリリース

アービタックスの胃がん試験がフェール
(2012年7月5日)

ドイツのメルクKGaAは、Erbitux(cetuximab、和名アービタックス)の末期胃がん一次治療三剤併用試験がフェールしたと発表した。日本を含む25ヶ国で904人を組入れて無増悪進行期間を標準療法(capecitabineとcisplatinの二剤併用)と比較したが、Erbituxを追加しても効果はなかった。

ErbituxはEGFRに結合するキメラ抗体医薬でこれまでに転移性結腸直腸癌や局所進行性又は転移性の頭頚部癌に承認されているが、前者は承認後の試験でKRASというシグナル伝達物質に変異のあるタイプには効かないことが判明した。EGFRをブロックするとKRASなどの川下のシグナル伝達物質の活性化を防ぐことができるが、変異KRASは川上からの刺激が無くても川下にシグナルを発するので、意味が無いのである。

今回の試験は対象をEGFR陽性癌に限定してはいなかったようだ。陽性癌なら効果があるのか、サブセグメント分析が注目される。Avastin(bevacizumab)の第三相試験は日本や韓国の対照群の成績が予想以上に良かったためにフェールした。Erbituxの試験でも同じだったとしたら、今後は、日韓とそれ以外の国で別々に試験したほうが良いかもしれない。

尚、Erbituxは米国で販売されているものとEUで販売されているもので暴露が異なるようだ。米国の販売権を持つBMSと開発者に当るイーライリリーが7月6日に出したプレスリリースによると、米国用は暴露が22%大きい。他の抗体医薬でも開発中に生産プロセスを変えたら力価が変わったという話を聞くことがある。バイオ薬の良く分からないところだ。

リンク:メルクKGaAのプレスリリース
リンク:イーライリリー/BMSのプレスリリース(米国で結腸直腸癌一次治療FOLFIRI併用が承認されたことに関するもの)

【承認申請・承認】


ジョンソン・エンド・ジョンソンが多剤耐性結核の新薬を承認申請、ベルケイドの欧州適応拡大を撤回
(各2012年7月2日と3日)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはTMC207(bedaquiline)を多剤耐性結核(MDR-TB)の治療薬として米国で承認申請した。承認されれば結核に対する40年振りの新薬となる。MDR-TBは米国では年百十数人が発症する稀な疾患だが、世界では年間に15万人が死亡するとのことだ。自国では承認審査を行わずに、米国、EU、スイス、日本の何れかで承認された薬は原則的に販売を許可するという国は多いので、米国で申請する意味はある。

薬効のエビデンスは第二相併用試験だけである模様だ。年内に第三相試験を開始する予定。WHOが現在推奨している治療法は18-24ヶ月掛かるのに対して、この第三相試験では7剤併用9ヶ月コースをテストする由。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンは武田薬品のVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)の米国外での開発販売権を持つ。EUで再発性濾胞性非ホジキンリンパ腫にRituxan(rituximab)と併用する適応拡大申請を行っていたが、撤回した。この申請の直後に武田も米国の適応拡大申請を撤回している。治験が成功したとはいえ効果が小さいことが障害になったのではないだろうか。

臨床成績は2010年のASHで発表されている。Rituxanだけを投与する群とVelcadeを併用する群の無増悪生存期間を比較したところ、ハザードレシオが0.82、p=0.039と統計的に有意な差があったが、メジアン値は11.0ヶ月が12.8ヶ月に1ヶ月強延びるに過ぎない。

そもそも、p値は十分に低くは無い。一般に、薬効確認試験一本だけで承認を取るためには、二本の試験のp値が共に0.05未満になる確率、即ち、0.0025未満であることが求められる。また、両群のデータの95%信頼区間はオーバーラップしている。

血液癌は有効な薬が少ないため承認のハードルが引き下げられることが多い。米国とEUは匙加減が異なるため、片方だけで承認されることも珍しくないが、今回は審査機関の評価が一致したようだ。

リンク:EUのプレスリリース
リンク:学会発表時のジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【製薬会社の動き】


GSKが未承認用途販促問題や治験データ秘匿問題で米国司法省と和解
(2012年7月2日)

米国司法省とグラクソ・スミスクライン(GSK)は、未承認用途販促や治験データ秘匿に関する問題で和解に達した。罰金と民事和解金を合わせて30億ドル払う。ロイターによると、ファイザー(23億ドル)、イーライリリー(14.2億ドル)、MSD(6.5億ドル)、BMS(5.1億ドル)、セファロン(4.25億ドル)などの前例を上回る、薬品業界で過去最高の金額とのことだ。

罰金の対象になったのは、まず、Paxil(paroxetine)を青少年鬱病患者向けに売り込むためにフェールした試験を恰も効果があったかのように論文刊行したり、フェールした他の二本の試験のデータを隠したりしたこと。Wellbutrin(bupropion)に関しては1999年から2003年に掛けて体重管理や性的不全、ADHDなどの未承認用途向けに販促した。Avandia(rosiglitazone)は市販後安全性データのFDA提出義務を怠った。

民事和解に関しては、他の製品も含めて未承認用途販促や医師に対するキックバック、メディケイド(貧困者向け医療制度)に対する虚偽価格報告などが対象になったようだ。

GSKは5年間の経営風土改善計画を実施する。一足早く2011年に、営業員の成果報酬を担当地域での売上高ではなくサービスの質に基づいて決定する方法を導入した。

製薬会社は様々な民事、刑事訴訟の対象になっているが、原告側の切り札になっているのが内部告発だ。政府に対する不正行為を告発した人は和解金の一定割合を獲得することが出来る。今回の和解でも複数の内部告発者が報奨金を得る模様だ。

リンク:米国司法省のプレスリリース
リンク:GSKのプレスリリース
リンク:薬品業界の高額和解金・罰金(ロイター)

今週は以上です。

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