2012年5月27日

海外医薬品ニュース週末版 2012年5月27日号

(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)

ニュース・ヘッドライン

  • VEGF阻害剤の肺癌試験が又もフェール
  • メデイベーションとアステラス製薬が前立腺癌用薬を承認申請
  • バイエルが大腸がんのサルベージ療法薬を承認申請
  • FDAの諮問委員会はイグザレルトの急性冠症候群用途を支持せず
  • FDA諮問委員会がファイザーの希少疾患用薬の効果をある程度認めた
  • CHMPがエーザイの抗癲癇薬などの承認を支持
  • CHMPがプラザキサの出血リスクの検討を完了

新薬開発


VEGF受容体拮抗剤の肺癌試験が又もフェール 

バイエルとオニクス・ファーマシューティカル(NASDAQ: ONXX)は、Nexavar(和名ネクサバール;sorafenib)の非扁平上皮性非小細胞性肺癌(NSNSCLC)第三相単剤投与試験がフェールしたことを公表した。Nexavarは腎臓や肝臓の癌に承認されている。

VEGF受容体拮抗剤は多くの製薬会社が販売・開発している人気分野だが、肺癌向けの開発は難航している。今回の試験は三次治療、四次治療だが、一次治療、二次治療の併用試験もフェールした。他社の開発品も同様である。

今回の試験の主評価項目は全生存期間で、二次的評価項目である無増悪生存期間の解析は良好な結果であった模様だ。逆に言えば、第二相試験で無増悪生存期間が延びたとしても喜ぶのは早く、症例追跡を行って延命効果を確認する必要が、少なくともVEGF受容体拮抗剤に関しては、あるのだろう。

リンク:バイエルのプレスリリース

承認申請・承認


メディベーションとアステラス製薬が前立腺癌用薬を承認申請 

米国のメディベーション(NASDAQ: MDVN)とアステラス製薬はMDV3100(enzalutamide)を米国で承認申請した。去勢抵抗性前立腺癌でdocetaxelによる化学療法を既に受けた患者の二次治療に用いる。

MDV3100はアンドロゲン受容体の作用を阻害する経口剤で、テストステロンの結合、アンドロゲン受容体の核転座、そしてDNAに結合し活性化するのを阻害する。第三相試験では死亡ハザードレシオが0.631で偽薬比高度に有意だった。

リンク:両社のプレスリリース

バイエルが大腸がんのサルベージ療法薬を承認申請 

バイエルはBAY 73-4506(regorafenib)を転移性結腸直腸癌のサルベージ療法として欧米で承認申請した。オニクス・ファーマシューティカル(NASDAQ: ONXX)がロイヤルティ権を持っている。

Nexavarと同様なVEGF受容体拮抗剤で、1、2、3の三種類の受容体アイソタイプに加えて、kitやC-rafやB-rafなども阻害する。

第三相試験では承認されている全ての薬に不応不耐の患者に160mgを一日一回、3週間経口投与・1週間休薬のスケジュールで投与したところ、中間解析でメジアン無増悪生存期間が6.4ヶ月と偽薬群の5.0ヶ月を上回り、治験成功と判定された。

リンク:バイエルのプレスリリース

FDAの諮問委員会はイグザレルトの急性冠症候群用途を支持せず

バイエルのXa阻害剤Xarelto(和名イグザレルト;rivaroxaban)は心房細動患者の脳卒中予防などの用途で承認されている。

急性冠症候群亜急性期の患者を対象とした第三相試験、ATLAS-ACS 2 TIMI 51が成功し、昨年のAHA科学部会で大々的に発表された。しかし、FDA諮問委員会ではエビデンスの頑強性に疑問を呈する意見が多く出て、結局、承認に反対が6人、賛成4人、棄権1人と票が割れてしまった。

心筋梗塞などの複合評価項目のハザードレシオが2.5mg一日二回経口投与群と同じく5mg群の合計で偽薬比0.84、p=0.008と、中々良い結果だったのだが、最後までフォローアップできなかった被験者が全体の12%と多いことが判明。rivaroxaban群は出血が原因で治験離脱・欠測となった症例が多かったようだ。

事前に公表されたブリーフィング資料では審査担当者が肯定的な評価を示したが、諮問委員会でプレゼンテーションを行ったチーム・リーダーを務めるMarciniak博士がこの点を問題にした。氏はこれまでにも、抜き出し調査で未報告の心筋梗塞症例が発見されたことなど、大規模アウトカム試験の脆弱性を大胆に指摘してきた。

今回は、Nissen博士(クリーブランド・クリニック)やKaul博士(UCLA)などがMarciniak博士の意見を支持、エビデンス不十分と看做す意見が多数を占めた。尤も、反対意見と賛成意見の境界線は曖昧である模様だ。効果を疑うと言うよりも、アウトカム試験の実施方法に関する問題意識の強弱が票を分けたと考えるほうが良さそうだ。

リンク:バイエルのプレスリリース
ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース
循環器トライアルデータベースのATLAS-ACS 2 TIMI 51試験に関する記述(日本語)

FDA諮問委員会がファイザーの希少疾患用薬の効果をある程度認めた 

ファーザーはtafamidis megluminをTTR-FAP(トランスサイレチン家族性アミロイド多発性ニューロパチー)という希少疾患の治療薬として承認申請した。希少疾患なので治験も小規模であり、評価が難しいが、欧州は2011年11月に承認した。

今回、FDA諮問委員会も好意的に評価した。進行抑制という臨床的な効能に関してはエビデンス不足であることから反対13人、賛成4人と認めない意見が多数を占めたが、下肢機能改善については、代理マーカーで作用が示唆されたことから臨床的な効用があると判定しても良い、と考える委員が13人対4人で上回った。

分かりにくい記述だが、例えば降圧剤は血圧降下作用を確認すれば心筋梗塞・卒中予防効果を確認しなくても承認を得ることができる。血圧と言う代理マーカーの信頼性が高く、血圧が下がれば心筋梗塞・卒中も減ると考えるのが合理的だからだ。

一方、TTR-FAPは患者数が世界で推定8000人と少ないため、薬効を評価するための代理マーカーは確立しておらず、かと言って、大規模アウトカム試験を行うのは現実的でないだけでなく、希少疾患用薬の開発を奨励する法制にも反する。そこで、FDAが賢者の知恵に頼ったのである。

今回の諮問委員会に関する報道はメディアによって区々だが、進行抑制効果を認めなかったことよりも代理マーカーの有効性を支持したことのほうが重要であり、承認に向けて一歩前進したと考えたい。

リンク:ファイザーのプレスリリース

CHMPがエーザイの抗癲癇薬などの承認を支持 

EUの薬品審査機関であるEMAの専門家委員会、CHMPが5月の会合で多くの新薬に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月以内に承認されることになる。

エーザイのFycompa(perampanel)はAMPA拮抗剤。部分癲癇(二次性全身性癲癇発作を含む)の治療薬として肯定的意見を受けた。複数の抗癲癇薬を服用しても十分に発作を防げない患者を組入れたアドオン試験で発作を大きく削減した。主な有害事象はめまい、眠気。

リンク:EUのプレスリリース(pdfファイル) 

ノボ ノルディスクのNovoThirteen(catridecacog)は遺伝子組換え型第XIII因子。先天性第XIII因子Aサブユニット欠乏症(患者数は世界で900人、うち欧州は300人)の患者の出血事故を予防するために、月一回投与する。第XIII因子は血栓カスケードの終わりの方に登場し、フィブリン網を強固にして溶解されにくくする。BMSが買収したサイモジェネティクスからライセンスしたもの。

リンク:EUのプレスリリース(pdfファイル)
ノボ ノルディスクのプレスリリース

バーテックス社のKalydeco(ivacaftor)はG551D型膿胞性繊維症の治療薬。治験では一秒呼吸量が有意に改善した。膿胞性繊維症の患者は世界で7万人、うちG551D多型を持つのは4%と推測されている。米国のバーテックス(NASDAQ: VRTX)がCFF(膿胞性繊維症財団)の補助金を受けて開発したもの。

リンク:EUのプレスリリース(pdfファイル)
バーテックスのプレスリリース

Almirall社のBretaris Genuair(aclidinium bromide)はCOPD(慢性閉塞性肺疾患)の維持療法として用いる長期作用性ムスカリン拮抗剤。ベーリンガー・インゲルハイムのベストセラーであるSpiriva(tiotropium)の競合品。GenuairはDPI(ドライパウダー吸入器)の製品名。

米国ではフォレスト(NYSE: FRX)が導入、7月頃に承認される見込み。日本は昨年11月、杏林製薬が開発販売権を取得した。

リンク:EUのプレスリリース

ファイザーのInlyta(axitinib)はVEGF受容体拮抗剤。Sutent(sunitinib)又はサイトカイン療法(ベータ・インターフェロンやIL-2)後の二次治療として用いる。治験ではNexavar(sorafenib)より無増悪生存期間が有意に優れていた。

リンク:EUのプレスリリース(pdfファイル)
ファイザーのプレスリリース

(SKのVotrient(pazopanib)は腎細胞腫に承認されているVEGF受容体拮抗剤だが、軟組織肉腫に適応拡大することが支持された。様々なサブタイプのうち、薬効確認試験で対象外だったGIST(消化管間質腫瘍)と脂肪肉腫は適応外。

化学療法後の維持療法として用いる。治験では無増悪生存期間がメジアン4.6ヶ月と偽薬群の1.6ヶ月を上回った。米国では今年4月に承認されたが、致死例を含む肝毒性が枠付警告されている。

リンク:EUのプレスリリース(pdfファイル)
GSKのプレスリリース

医薬品の安全性


CHMPがプラザキサの出血リスクの検討を完了

ベーリンガー・インゲルハイムの抗血栓薬Pradaxa(和名プラザキサ;dabigatran)は、心房細動患者の脳卒中を予防する用途が承認された後に、多くの致死的出血事故が報告された。多くは日本の症例だが、FDAやCHMPも再検討を行ってきた。人種や医療風土が異なるとはいえ看過できることではないからだろう。

結局、CHMPは評価を変える必要はないと判定した。市販後の致死的出血事故の発生率は承認の根拠となった臨床試験の発生率よりも低いとのことである。

一方で、医師や患者にリスクや対応法を明確に伝えるためにレーベルの文言を見直し、禁忌を明確にしたり腎機能の評価方法を詳述したりすることを決定した。また、事故や傷害後の症例が多いことから、転倒したり怪我をした場合は急いで医師にコンタクトするよう患者向けのリーフレットで勧告することを決めた。

リンク:EUのプレスリリース

今週は以上です。

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