2012年5月13日

海外医薬品ニュース週末版 2012年5月13日号

(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)

ニュース・ヘッドライン

  • ロシュがCETP阻害剤の開発を中止
  • FDAの諮問委員会がJAK阻害剤などの承認を支持、痛風用薬は駄目
  • セル・セラピュティクスの抗癌剤がEUで承認
  • グーグルの共同創立者がパーキンソン病の研究に巨額拠出


新薬開発


ロシュがCETP阻害剤の開発を中止

ロシュは日本たばこ(JT)から導入したCETP阻害剤、dalcetrapib(RG1658/JTT-705)の開発を中止した。第三相アウトカム試験の第二次中間解析で無益性が認定されたため。

CETP阻害剤は善玉コレステロールであるHDL-Cを長持ちさせる効果を持ち、数値が大きく増加する。ところが、ファイザーがtorcetrapibで大規模なアウトカム試験を実施したが、同じく無益性で中止になった。それどころか、心血管疾患や死亡者が増加した。

dalcetrapibやMSDのanacetrapib(MK-0859)は血圧やコルチゾール値を上げる副作用を持たないため安全性面での懸念は小さかったが、前者は仮説立証に失敗した。

「CETP阻害剤は善玉コレステロール増加を通じて血管アテローム部位のコレステロール・エステルを減らし、心筋梗塞などのリスクを削減する」という仮説である。

anacetrapibやイーライリリーが第三相試験の準備を進めているevacetrapib(LY-2484595)はHDL-Cを増やす効果がdalcetrapibよりかなり高く、また、スタチンに匹敵するLDL-C削減効果を持っている。

従って、dalcetrapibと同列に論じることはできないが、似たような薬が相次いで失敗したことを考えれば、楽観できないのではないだろうか。

リンク:ロシュのプレスリリース

JTの和文プレスリリース(pdfファイル)

MEDICINE BLOGの2007年の記事
torcetrapib(トルセトラピブ)の謎

torcetrapib(トルセトラピブ)とは

承認申請・承認



FDAの諮問委員会がJAK阻害剤などの承認を支持、痛風用薬は駄目

先週はFDAの諮問委員会が多く開催された。過半の委員の支持を受けたのが、ファイザーのリウマチ性関節炎治療薬tofacitinib、アリーナ/エーザイの体重管理薬lorcaserin、ギリアッドのHIV/AIDS治療用四剤配合剤Quadだ。

ギリアッドのHIV/AIDS治療薬Truvada(和名ツルバダ)を予防に用いる新用法も支持された。一方で、リジェネロンのIL-1拮抗剤rilonaceptを痛風尿酸降下療法時のフレア予防に用いる適応拡大は全員が反対した。

ファイザーのtofacitinibは、インターロイキンの受容体のシグナル伝達に関わるチロシンキナーゼであるJAKを阻害する画期的新薬。臨床検査値に与える影響は中外製薬の抗IL-6受容体抗体、アクテムラ(トシリズマブ)と類似している。経口剤。

臨床試験では癌や深刻な感染症の発生率が対照群よりやや高く、投与量や投与期間との関連性も疑われた。このため、承認が危ぶまれたが、諮問委員会では便益がリスクを上回ると回答した委員が8人、下回るとの回答は2人だけだった。順調なら今年8月に承認されることになる。

リンク:ファイザーのプレスリリース

アリーナ・ファーマシューティカルズ(NASDAQ: ARNA)は2009年12月に体重管理薬lorcaserinを承認申請、翌年にはエーザイと開発販売提携を結んだ。

しかし、FDAは承認しなかった。心血管安全性懸念や動物試験で癌原性のシグナルが見られたことなどが理由のようだ。

同社は追加的な試験や分析を実施して2012年1月にFDAに提出した。懸念が薄れた模様であり、諮問委員会では23人の委員のうち18人が承認を支持、反対4人や棄権1人を大きく上回った。

ヴィーヴァス社の体重管理用コンビ薬も同じような経過を辿っており、この領域全体に承認のハードルが極めて高い状態からやや高い状態に下がったようだ。

もっとも、lorcaserinの治療効果は決して高くない。治験の平均治療効果(偽薬群との差)は3%程度であり、体重100kgの患者が生活習慣改善で2kg痩せるとすると、lorcaserinを併用しても5kg痩せるだけである。

BMI値と心血管リスクの相関性は単純比例ではなく、一定水準を超えると加速的にリスクが上昇する。高度肥満の患者は3%の減量でも意味があるだろうが、それ以外の肥満症に対する臨床的便益は明確ではない。

順調なら6月27日までに承認されることになるが、FDAは市販後に心血管アウトカム試験を実施するよう求めるだろう。

米国では成人の3分の2以上が肥満又は太り過ぎ(オーバーウェイト)とされるので体重管理薬の潜在市場は極めて大きいが、ニーズに応えられるかどうかは、アウトカム試験の結果次第だろう。

尚、エーザイ提携は当初は米国市場だけだったが、米州20ヶ国に拡大したことが発表された。

リンク:アリーナ社/エーザイのプレスリリース

エーザイの和文プレスリリース

ギリアッドはHIV/AIDS治療薬の開発に積極的に取り組むと同時に、複数の活性成分を配合したコンビ薬も次々と開発、BMS/MSDと提携して2006年にAtriplaを、J&Jと提携して2011年にCompleraを発売した。

諮問委員会では、JTからライセンスしたインテグレーズ阻害剤、elvitegravirなど四剤を配合したQuadを、初めて多剤併用療法を受けるナイーブ患者に用いることが13人対1人の多数で支持された。上記二剤と同様に、一日一回一錠の服用で済むので簡便だ。

順調なら8月27日までに承認されることになる。

インテグレーズ阻害剤はHIVの遺伝子が宿主細胞の遺伝子に紛れ込む過程を阻害する。ファースト・イン・クラスはMSDのIsentress(和名アイセントレス)。抗HIV薬の中では比較的忍容性に優れるので、将来的に第一選択薬になる可能性がありそうだ。

Quadは他にcobicistat、emtricitabine、tenofovir disoproxil fumarateを配合している。cobicistatは新開発の3A4阻害剤で、elvitegravirの代謝を遅らせて作用を持続させる。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

TruvadaはQuadの四剤のうち、emtricitabineとtenofovir disoproxil fumarateの逆転写阻害剤二剤の合剤で米国では2001年にHIV/AIDS治療薬として発売された。

性的感染リスクが高い患者を組入れたHIV/AIDS感染予防試験が成功、適応拡大申請された。諮問委員会では、男性と性交する男の予防用途に関して22人中19人が承認に賛成。感染者と性交する非感染者向けも19人が賛成。

それ以外の高リスクな人向けは12人が賛成した。順調なら6月15日までに承認されることになる。

抗HIV薬を感染予防に使うのは四つの難問がある。第一は、既に感染していた場合に、Truvadaは二剤併用なので治療には十分な効果がなく、抵抗性変異が生じる可能性が高いことだ。事前に十分に検査する必要がある。

第二は、言うまでも無く、副作用だ。第三は油断。他の感染予防策を怠るかもしれない。第四は価格。年1.4万ドルの薬代を誰が負担するのか?様々な難しい問題を抱えている。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

一方、リジェネロン(NASDAQ: REGN)のArcalyst(rilonacept)の適応拡大は全員が反対した。CIAS1変異関連自己炎症定期的症候群の治療薬として既に承認されている薬だが、新用途は患者数が多く、効果もそれほど大きくないため、便益とリスクが釣り合わないと判定された。

この新用途は、痛風患者の尿酸降下療法に付随するフレア(痛風症状の増悪・・・結晶化した尿酸が溶解して血液中に入り込むことが原因と推測されている)を防ぐというもの。16週間の治験では回数が7割以上減少した。

一方で、癌や深刻な心臓疾患が偽薬群より多く発生した。16週間で癌になるとは考えられないが、心臓疾患リスクは懸念材料である。現実の医療では16週より長く投与を続ける可能性があるので、もっと増える可能性もある。

予防薬は治療薬より高い忍容性が求められる。承認審査期限は6月30日だが、承認されない可能性が高まった。

リンク:リジェネロンのプレスリリース

セル・セラピュティクスの抗癌剤がEUで承認

EUで、セル・セラピュティクスのアンスラサイクリン系抗癌剤Pixuvri(pixantrone)を再発性・難治性アグレッシブ非ホジキン型リンパ腫に用いることが承認された。

米国では3年前に承認申請したが承認されず、再申請も撤回となり、難航している。米国の敵をEUで討った格好だ。

リンク:セル・セラピュティクスのプレスリリース

トピック



グーグルの共同創立者がパーキンソン病の研究に巨額拠出

グーグルの共同創立者であるSergey Brin(38歳)はパーキンソン病の研究のためにマイケル・J・フォックス財団を通じて1.3億ドルの拠出を行っている。ブルンバーグが報じた。

パーキンソン病の患者の一部はLLRK2という遺伝子多型を持っている。Brin氏は、若くして発症した母親と同様に、この多型を保有している由であり、これが巨額拠出の動機であるようだ。

米国では企業や個人の寄付活動が活発で、例えば他国で自然災害が発生した場合、国の拠出は他の国より少ないがそれを補って余りあるほど民間が義捐金を出す。今回のエピソードは、病気の解明や治療法の開発でも富豪の寄付が重要な資金源になりうることを示している。

尚、フォックス財団は映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」の主演で一躍有名になり、その後パーキンソン病を発病した映画俳優が創立した財団で、研究者や治療薬開発企業に助成金を出している。

リンク:ブルンバーグの記事

今週は以上です。

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