2016年2月28日

2016年2月28日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 米国でも妊婦がジカ・ウイルスに感染 
  • 抗Sclerostin抗体の第三相が成功 
  • CHMPがB型血友病薬などに肯定的意見 
  • PTC、筋ジストロフィー薬の承認申請が却下 

【今週の話題】


米国でも妊婦がジカ・ウイルスに感染
(2016年2月26日発表)

米国のCDC(疾病管理予防センター)はMMWR(Morbidity and Mortality Weekly Report)の早期リリース版として、ジカ・ウイルス疾患に関する二つの重要なアナウンスメントを行った。

まず、昨年8月から今年2月までの間に、米国からの渡航者で9人の妊婦感染例が発生したこと。入院例や死亡例はないが、流産2例、中絶2例。出産3例のうち外見上健常が2例、重度小頭症が1例となっている。残りの2人は妊娠18週と34週で特に合併症は発生していない。

CDCは、これまで、ジカ・ウイルス流行地域に渡航しジカ・ウイルス感染症の症状を発症した妊婦は検査を受けるよう推奨していたが、2月5日付で、症状がなくても検査するよう変更した。

もう一つは、性的感染の確認例・可能例が6例あること。先日は輸血による感染のリスクも表面化している。感染しても5人中4人は発症しないので、CDCは、流行地渡航者は症状の有無を問わず献血をしないよう呼びかけている。

米国では累計で147例の感染が報告されており、うち107例は渡航に関連していた。地域で一番多いのはプエルトリコで117例。CDCはプエルトリコや米サモア、米バージン諸島で感染が広がるのを防ぐためにジカ予防キットを開発した。啓蒙資料と虫よけ、コンドーム、体温計、蚊が孵化しないように淀んだ水に入れる錠剤が入っている。米国本土でも帰国者のパートナーは注意が必要だ。

7年前にメキシコで新型インフルエンザ様疾患の局地的流行が報じられた時、日本とメキシコの渡航者数を調べて、もしパンデミック・インフルエンザであったとしても直ぐには入ってこないと推測した。しかし、メキシコ・アメリカ間とアメリカ・日本間は渡航者が多くアメリカ経由で伝播する可能性が高いことは見落とした。今回のブラジルも、私が渡航した時は米国経由だった。オリンピックがあるので日本人渡航者も増えるだろうが、時期的には日米旅行も活発化する時期なので、気を付けなければならない。

TV報道を見ていて気になったのは、取材クルーを通じた感染のリスクだ。現地に住む日本人妊婦にも取材していたが、流行地や病院、感染者に取材した後ではないことを確認したい。エボラウイルス疾患を発症した米国人の一人はTV局の取材で現地を訪問中に感染したという事実を、日本のジャーナリストも肝に銘じるべきである。

リンク: MMWRのサイト

【新薬開発】


抗Sclerostin抗体の第三相が成功
(2016年2月21日発表)

UCBと開発パートナーのアムジェンは、AMG785(romosozumab)の第三相骨粗鬆症予防試験のトップライン・データを発表した。主評価項目である新規椎体骨折で偽薬比有意な差があった。脊椎以外の骨折は駄目だった。両社は16年内の承認申請を目指して当局と相談する考え。

このFRAME試験は、骨塩密度が低い閉経後女性7,180人をromosozumab(210 mgを月一回皮注)群と偽薬群に無作為化割付して1年間治療し骨折リスクを比較。その後、両群ともアムジェンの骨粗鬆症治療薬Prolia(denosumab、和名プラリア)に切り替えてさらに1年間治療し、2年通算の骨折リスクも比較した。

romosozumabは造骨細胞の抑制をもたらすSclerostinを標的とするヒト化抗体。造骨促進、破骨抑制作用を持つ。投与を1年で止めるのは、おそらく、発癌リスクを警戒したのだろう。イーライリリーのForteo(teriparatide、和名フォルテオ)も造骨促進作用を持つが、大量投与した癌原性試験で骨肉腫リスクが見られたためか、臨床試験は最長2年までしか行われず、長期投与は不可である。

骨粗鬆症の代表的な治療薬であるビスフォスフォン酸は破骨細胞を抑制する。作用期序がかなり異なるので使い分けできればよかったのだが、成就しなかった。

FRAME試験に戻ると、主評価項目の一つである1年目の新規椎体骨折は偽薬比73%少なく、もう一つの2年間椎体骨折は75%少なく、どちらも有意だった。椎体骨折は日常生活に影響しないことも珍しくないのでこれだけでは迫力がない。そこで二次的評価項目を見ると、1年目の臨床的骨折(症候性の椎体骨折と、椎体以外の骨折)は36%少なかった。一方、椎体以外の骨折は有意差なし。

偽薬対照期間の有害事象で発生率10%以上は、両群とも、関節痛、鼻咽頭炎、背痛。サブスタディで難聴やひざ変形性関節炎のリスクも観察したが各群差がなかった。顎骨壊死は査読で確認された症例が2例、非定型性大腿骨骨折の査読例は1例で、少数過ぎて薬との関連性は曖昧だが、骨粗鬆症治療薬に付き物のリスクと私は疑っている。椎体骨折発生率は未公表だが、おそらく、決して高くないだろう。今回の被験者のようにリスクが著高でない患者は、治療の便益とリスクを慎重に吟味して適否を決めるべきだろう。

両社は16年中の承認申請に向けて当局と話し合う予定。今回発表された情報を見る限りでは承認の障壁はなさそうだ。

リンク: 両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがB型血友病薬などに肯定的意見
(2016年2月26日発表)

EUの薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPが、2月の会議でB型血友病薬などの承認とオプジーボなどの適応拡大に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヵ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

血友病治療薬は頻繁に出血する患者に定期的に投与するルーチン予防法が普及したため、投与頻度が少なくて済む持効性製品の開発が活発化、次々と実用化されている。今回のCHMPでも二種類の長期作用性血液凝固第IX因子がルーチン予防と治療で肯定的意見を得た。

まず、バイオジェンがSwedish Orphan Biovitrumと共同開発したAlprolix(eftrenonacog alfa)。抗体の固定領域との遺伝子組換え型融合蛋白で、7~10日に一回、投与する。米国と日本では14年に承認済み。EUは成人だけでなく青少年の適応も最初から申請するよう求めており、その分、初承認が遅くなる。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

次に、CSLベーリングのIdelvion(albutrepenonacog alfa)。アルブミンの遺伝子組換え型融合淡白。日米でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース

大鵬薬品のロンサーフ配合錠(trifluridineとtipiracil、外国名Lonsurf)はセルビエによって承認申請され、CHMPの支持を得た。末期転移性結腸直腸癌のサルベージ療法(承認されている薬のうち使える薬を全て使い終わった患者の最後の手段)として用いる。海外の第三相試験では、メジアン生存期間が7.2ヶ月と最良支持療法だけの群の5.2ヶ月を上回り、1年生存率は各27%と17%だった。主な有害事象は骨髄抑制や疲労。セルビエは北米やメキシコ、アジア以外での開発販売権を保有している。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: セルビエのプレスリリース

イーライリリーのTaltz(ixekizumab) は中重度乾癬の治療薬。ノバルティスのCosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)と同様にIL-17Aを標的とするヒト化抗体で、角化細胞の増殖活性化を阻害する。臨床試験でアムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)より効果が高かったことがEMAのプレスリリースに明記されている。日米でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: イーライリリーのプレスリリース

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のDescovy(emtricitabineとtenofovir alafenamide fumarate、略称F/TAF)はHIV/AIDSの治療薬。TAFは15年の市販歴を持つ逆転写酵素阻害剤tenofovir disoproxil fumarate(略称TDF)の類薬で、どちらもプロドラッグだが、TAFのほうが局所的に作用するため腎臓や骨塩密度に対する副作用が小さい。

TAFは昨年、Genvoyaという4剤合剤の配合成分の一つとして欧米で承認されている。

リンク: ギリアドのプレスリリース

適応拡大では、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を扁平上皮以外の非小細胞性肺癌や腎細胞腫の二次治療に用いることが支持された。前者は臨床試験でメジアン生存期間が12.2ヶ月と、代表的な二次治療薬であるdocetaxelを投与した群の9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73だった。現在は扁平上皮の非小細胞性肺癌に限定されており、対象人口が倍以上に増えることになる。

2%以上の患者で発生した深刻な有害事象は肺炎、肺塞栓、呼吸困難、胸水、呼吸不全。

腎細胞腫ではメジアン生存期間が25ヶ月とeverolimus(ノバルティスのmTOR阻害剤Afinitor)を投与した群の19.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73だった。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのEGFR・her2阻害剤Giotrif(afatinib)を扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療に単剤投与することも支持された。現在はEGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌の一次治療単剤療法として承認されている。

EGFR阻害剤は活性化変異型にしか効かないような気もするが、第一世代品が開発承認された頃はまだ認知されておらず、限定なしで承認されTarceva(erlotinib、和名タルセバ)は今でも承認されている。GiotrifはTarceva対照試験で延命効果が有意に上回った。もしTarcevaのこのセッティングでの効果が偽薬並みであったとしても、効果があることは否定できない。尤も、もし使えるならOpdivoの方が有望だろう。

リンク: EMAのプレスリリース

PTC、筋ジストロフィー薬の承認申請が却下
(2016年2月23日発表)

PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はTranslarna(ataluren)をナンセンス変異によるデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として開発し、EUでは14年7月に条件付き承認を獲得。米国でも1月にローリング承認申請を完了したが、FDAから却下(Refuse to File)通知を受領したと発表した。

EUもCHMPの当初の結論は、否定的意見だった。臨床試験がフェールしたこと、日常活動の改善効果が小さい、作用機序が曖昧、用量反応相関の検討が不十分、などが理由だったが、再審査請求を受けて再検討、結論を覆した。米国でも14年12月にローリング承認申請を開始したが、昨年10月に第三相試験がフェールしたことが明らかにされた。

難病の場合は、効果が曖昧でも、臨床症状がある程度軽快し深刻な副作用リスクがないようならば、承認される可能性がある。RTFは書類の不備や誤植が理由であることもあるので何とも言えないが、臨床試験が何度もフェールしているのだから承認されなくても文句は言えないだろう。

リンク: PTCのプレスリリース



今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2016年2月21日

2016年2月21日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ピオグリタゾンの脳梗塞再発予防試験が成功 
  • 膀胱癌用薬の承認申請をFDAが受理 
  • FDA、ゼチーアの心血管リスク削減効果を認めず 
  • FDAがUCBの抗癲癇薬を承認 
  • ファイザー、CDK4/6阻害剤の適応拡大が承認 
  • アストラゼネカ、URAT1阻害剤がEUでも承認 
  • アストラゼネカ、抗血小板薬の長期コースがEUで承認 

【今週の話題】


ピオグリタゾンの脳梗塞再発予防試験が成功
(2016年2月17日発表)

PPAR作動剤は二型糖尿病治療薬として承認・販売されているが、PPARという核内受容体は様々な遺伝子の転写を促すため、作用も副作用も多彩と考えられている。肝毒性や心毒性が問題になる前は様々な用途が探索されたし、膀胱癌リスクが顕在化する一方で、制癌性が注目された時期もあった。安全性懸念により殆どのコンパウンドが販売・開発中止になったが、生き残ったActos(pioglitazone)はアルツハイマー病予防など斬新な用途の臨床試験が進行している。

その一つであるIRIS試験の成功がISC(国際卒中会議)とNEJM誌で発表された。NIH傘下の国立神経学的障害卒中研究所の支援による研究者主導試験で、脳梗塞・TIA(一過性脳虚血発作)歴を持ち、糖尿病ではないがインスリン抵抗性(HOMA-IRが3.0超)の患者3876人を偽薬群とpioglitazone群に無作為化割付して、脳卒中と心筋梗塞のリスクを比較した。pioglitazoneは15mg/日で開始し、二型糖尿病における最大承認用量である45mg/日まで漸増した。

結果は、脳卒中・心筋梗塞の発症率がpioglitazone群は9.0%、偽薬群は11.8%となり、ハザードレシオ0.76、統計的に有意なリスク削減効果が確認された。卒中だけ、心筋梗塞だけを見ても、有意ではないが少なかった。

全死亡は7.0%対7.5%、ハザードレシオ0.93、95%信頼区間は0.73から1.17で、有意差はなかった。信頼区間がそれほど広くないので、検出力不足という印象はあまりしない。致死的卒中も、致死的心筋梗塞も数値上は少なかったので、救命効果の兆しはあるがそれほどパワフルではないのだろう。

二型糖尿病発症者も少なかったが、当然のことだろう。pioglitazoneは血糖値を下げるのでもし発症したとしても発覚しない。世間で広く使われている簡便法、即ち、血糖治療薬服用の有無で判定すれば、pioglitazone群の患者は試験が始まった時点で全員が糖尿病になったことになる。

副作用では、手術や入院を必要とする骨折の発生率が5.1%対3.2%、体重が4.5kg以上増加した患者の比率が52%対33%、浮腫も35%対24%で、何れも有意に多かった。心不全による入院は51人対42人、膀胱癌は12人対8人で、有意差は無かったが、検出力不足だったのだろう。

100人に5年弱投与すると二人を脳卒中・心筋梗塞から救うことが出来るが二人を骨折させることになる。肥満や浮腫だけならまだしも、骨折はQOLに影響するので、どちらを選ぶか、悩ましいところだ。

リンク: Kernanらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

【承認申請】


膀胱癌用薬の承認申請をFDAが受理
(2016年2月19日発表)

スペクトラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:SPPI)は、EOquin(apaziquone)を承認申請しFDAに受理されたと発表した。審査期限は12月11日とのことなので優先審査ではない。承認されるかどうか、不透明だろう。

EOquinはプロドラックで膀胱内に注入するとがん細胞が発現する還元酵素によりアルキル化活性を獲得する。非浸潤性膀胱癌の切除術を受けた患者を組み入れた偽薬対照試験が二本実施され、フェールした。しかし、二本のプール分析では2年再発率のp値が0.0174となったため、FDAと相談し、承認申請に踏み切った。受理されたのだから希望は残っているが、マイナスのカードを二枚集めてもプラスにはならないので、楽観できないだろう。

オランダのNDDO Research Foundationからライセンス、アラガンにアジア以外の販売権を供与したが13年にライセンス返還となった。

リンク: スペクトラムのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA、ゼチーアの心血管リスク削減効果を認めず
(2016年2月15日発表)

MSDはZetia(ezetimibe、和名ゼチーア)の心血管リスク削減効果をレーベルに記載すべくFDAに承認申請したが、審査完了通知を受領した。もうすぐ特許が切れるので、これ以上の開発は行われないだろう。

Zetiaはシェリング・プラウが創製したオルターナティブ系のコレステロール治療薬。巧みなマーケティング手法に支えられ、simvastatin配合剤のVytorinと共に超大型薬に育った。その一方で、なぜか日本では殆ど報じられていないが、心血管アウトカム試験の裏付けがないまま強力な販促が行われていることを厳しく批判する声も強く、ACC米国心臓学会でパネリストが用途を限定すべきと断じたこともあった。

承認の12年後にIMPROVE IT試験が成功し、遂に心血管疾患リスク削減効果のエビデンスが出来たが、残念なことに、ハザードレシオ0.936と治療効果が小さかった。臨床の視点からは、非致死的な心筋梗塞のような、必ずしも臨床的に重要とは言えないイベントが減少しただけという意見があった。統計学上は、サブグループ分析で二型糖尿病患者や75歳以上の患者以外には効果が見られなかったことや、長期試験なので追跡打切り例が少なくなく、この人たちの転帰次第では結論が変わってしまう可能性があることが難点となった。

このため、昨年12月の諮問委員会でもダブルスコアで反対の意見が上回った。FDAが承認しなかったのはサプライズではない。

Zetiaは、第一選択薬であるスタチンに不耐不応の患者に対する代替的治療法、あるいは、スタチンだけではコレステロールを十分に管理できない患者に追加する薬としては有益と考えられている。しかし、心血管疾患を防ぐ十分なパワーがないならば、服用の意義が疑わしい。スタチンを試さずに、最初からZetiaを服用してきた患者にとっては尚更だ。処方した医師に文句を言いたくなる気持ちも分かるが、こういうことがあるから薬理学的な仮説を妄信せずに臨床的なエビデンスを確認することが重要なのである。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認】


FDAがUCBの抗癲癇薬を承認
(2016年2月19日発表)

FDAはUCBのBriviact(brivaracetam)を承認した。薬物療法を受けても部分発作を十分に防げない癲癇患者に追加投与する。EUでは1月に承認済み。同社のKeppra(levetiracetam、和名イーケプラ)と同じSVP(Synaptic Vesicle Protein)2A作動剤だが、選択性や力価が高い。

UCBによると、麻薬取締法の管理物質指定を受ける。Keppraは指定されていないので意外だ。Briviactは薬物依存性が高いのか、それとも、Keppraが承認された17年前の科学では検出できなかっただけなのだろうか?

リンク: FDAのリリース
リンク: UCBのプレスリリース

ファイザー、CDK4/6阻害剤の適応拡大が承認
(2016年2月19日発表)

ファイザーはFDAがIbrance(palbociclib)の適応拡大を承認したと発表した。昨年の初承認時と同様に、ホルモン受容体陽性でher2陰性の末期・転移性乳癌が対象だが、閉経後女性の一次治療としてletrozole(アロマターゼ阻害剤)と併用する用途用法に加えて、内分泌療法の後の二次治療としてfulvestrant(エストロゲン受容体ダウンレギュレーター)と併用することも可能になった。

第三相試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン9.5ヶ月とletrozoleだけの群の4.6ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.46だった。主な有害事象は骨髄抑制(好中球、白血球、血小板などの減少症)、感染症、貧血、疲労、悪心嘔吐など。

リンク: ファイザーのプレスリリース

アストラゼネカ、URAT1阻害剤がEUでも承認
(2016年2月19日発表)

アストラゼネカは、Zurampic(lesinurad)がEUで高尿酸血症治療薬として承認されたと発表した。キサンチン酸化酵素阻害剤だけでは尿酸値を十分に管理できない患者に追加投与する。

キサンチン酸化酵素阻害剤が尿酸の合成を阻害するのに対して、ZurampicはURAT1というトランスポータを阻害して尿酸の排泄を促進する。痛風のリスク要因である高尿酸血症には合成過多と排泄過少の二つのタイプがあるといわれているので、使い分けることが出来れば理想だろうが、残念なことに、使い分けの有効性を支持するエビデンスは存在しない。

200mgを一日一回投与する。400mgを投与した試験で腎・心血管リスクの懸念が浮上したため、市販後に200mgの調査・試験を行って安全性を確認する。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカ、抗血小板薬の長期コースがEUで承認
(2016年2月19日発表)

アストラゼネカの抗血小板薬Brilique(ticagrelor、米国名Brilinta)は急性心筋梗塞・冠症候群の治療薬として欧米で承認されている。アスピリン併用で1年投与しその後はアスピリンだけ続けるのが典型的だが、今回、1年経った後も続ける用法と、1~3年前に心筋梗塞を経験した患者が新たに開始する用法がEUで承認された。米国でも昨年9月に承認済み。

二種類の抗血小板薬を併用するDual Anti-Platelet Therapy(DAT)は虚血性心血管疾患を防ぐ効果が高いが出血リスクも高いので、患者毎に適否を検討する必要がある。今回の承認でBriliqueのDATも可能になったが、マストではない。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース



今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2016年2月14日

2016年2月14日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • アッヴィ、子宮筋腫治療薬の第三相が成功 
  • インサイト、ジャカビの固形癌用途は開発中止 
  • CTI、pacritinibの承認申請を撤回 


【新薬開発】


アッヴィ、子宮筋腫治療薬の第三相が成功
(2016年2月10日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)はelagolixの二本目の第三相試験が成功したと発表した。グローバル試験で、北米中心に実施された一本目の試験は昨年1月に成功発表済み。2017年に承認申請の計画。

2010年にニューロクライン(Nasdaq:NBIX)から経口ゴナドトロピン放出ホルモン拮抗剤NBI-56418をライセンスしたもので、経口投与できることと二種類の用量用法から選択できることが特徴。第三相試験では150mgを一日一回投与と200mg一日二回をテスト、どちらも非月経時骨盤痛と月経痛を偽薬比有意に改善した。効果は200mg一日二回のほうが高いが有害事象による治験離脱やホットフラッシュ、BMD低下が若干増加する。

リンク: アッヴィのプレスリリース

インサイト、ジャカビの固形癌用途は開発中止
(2016年2月11日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)はJAK1/2阻害剤Jakafi(ruxolitinib、欧州名Jakavi、和名ジャカビ)を骨髄線維症治療薬として開発、米国では11年に、欧州ではノバルティスによって12年に発売された。腫瘍学でも開発中だが、固形癌については一部を除いて中止すると発表した。リードインディケーションであった膵癌の第三相試験が無益性で中止になり、結腸直腸癌の第二相試験もフェールしたため。血液癌は続行する。

JAKはインターロイキンなどの受容体の細胞内シグナル伝達に係わる酵素で、阻害するとIL-6などが調停する炎症免疫反応や血球数が抑制される。インサイトはもう一つのJAK1/2阻害剤baricitinibをリウマチ性関節炎治療薬としてイーライリリーと共同開発、リリーが1月に米国で承認申請したところだ。骨髄抑制するので血液癌に有効であっても不思議はないが、固形癌は斬新な用途だけに注目されていた。

リンク: インサイトのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CTI、pacritinibの承認申請を撤回
(2016年2月8日発表)

CTIバイオファーマ(Nasdaq:CTIC)と開発販売パートナーであるバクスアルタ(NYSE:BXLT)はpacritinibを1月に米国で承認申請したが、早くも撤回した。安全性懸念が浮上したため。

pacritinibはJAK2阻害剤。赤血球や血小板の生成に係わるJAK1を阻害しないため、上述のJakafi(ruxolitinib)を使うことができない血小板数がマイクロリットル当り5万個未満の骨髄線維症患者の充足されないニーズに応える薬として承認申請された。対象患者は限られるが取り敢えず一本目の第三相試験のデータに基づいて承認を取り、10万個未満の患者を組み入れた二本目の試験の結果を待って適応拡大する計画だった。

ところが、2月8日付の第一報によると、2月3日にFDAから臨床試験部分停止命令を受領した。一本目のPERSIST-1試験で試験薬群と対照群(医師が選んだJAK2阻害剤以外の薬を用いる)の間に死亡数の偏りがあったため。特に、24週間の試験完了後に対照薬から試験薬にスイッチした患者で死亡が増えたとのことだ。

2月9日付けの第二報によると、2月8日に臨床試験完全停止命令を受領、承認申請撤回となった。二本目のPERSIST-2試験でも死亡例に偏りがあり、頭蓋内出血、心不全、心停止が増加した由。

この三つの重度有害事象はJAK阻害剤の作用と無関係であるようには感じられない。今後、ファイザーの抗リウマチ薬Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)も含めて、検討されるのではないだろうか。

pacritinibは12年にS*BIO社から開発資産を取得、13年にバクスアルタに世界商業化権を供与したもの。バクスアルタは英国のシャイアが320億ドルで買収する予定。

リンク: CTIのプレスリリース(2/8付)
リンク: 同(2/9付け)



今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/

2016年2月7日

2016年2月7日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • EMA、ROCKET-AF試験の結論に変更なし
  • アムジェン、Blincytoの延命効果を確認
  • ツルバダをHIV感染予防用途でEUに承認申請
  • FDA諮問委員会、抗鬱剤の認知機能改善効果を支持
  • Kalydeco、今度は適応拡大が認められず

【今週の話題】


EMA、ROCKET-AF試験の結論に変更なし
(2016年2月5日発表)

EMA(欧州薬品庁)はROCKET-AF試験のデータを再検討し、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)の安全性や便益危険バランスの評価に変更なしと結論した。

この試験はバイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXa阻害剤、Xareltoの心原性脳卒中予防効果をワーファリンと比較した大規模アウトカム試験。予防効果も出血リスクも非劣性であることが確認され、欧米では2011年に、日本でも2012年に、この用途に用いることが承認された。

EMAが再評価に踏み切ったのは、ワーファリン群の一部で用いられたINR検査機器に欠陥が見つかり、リコールされたことがきっかけ。ワーファリンは定期的にINR検査を行って用量を加減しなければならないが、検査間違いが原因で過剰投与になり出血事故が増加してしまった可能性がないか、吟味する必要が生じた。

結果は、EMAによると、試験結果に与えた影響はごく限定的だった。また、Xareltoの相対的安全性やワーファリン群の出血発生率は他の大規模試験でも同様であった。

今回の判定を喜んでいるのは患者や医師だけではないだろう。Xa阻害剤はバイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソン陣営とBMS/ファイザー陣営が世界中で戦っているので、そよとの風でも無視できない。この試験を主導した研究員がFDA長官候補になったため、政治的色彩も帯びており、第三者であるEMAの評価は重要だ。

リンク: EMAのプレスリリース

【新薬開発】


アムジェン、Blincytoの延命効果を確認
(2016年2月4日発表)

アムジェンはBlincyto(blinatumomab)の第三相延命効果確認試験が中間解析で成功したと発表した。14年に米国で加速承認、15年にはEUでも条件付き承認されたが、本承認に切り替わることになるだろう。データ自体は未発表。

BlincytoはB細胞のCD19に結合する可変領域と細胞傷害性T細胞のCD3に結合する可変領域を持つBiTE抗体。フィラデルフィア染色体陰性の再発性難治性前駆B急性リンパ性白血病の第二相試験で完全寛解率32%を記録し、承認された。加速承認/条件付き承認された薬は市販後に改めて臨床的に重要な効果(抗癌剤なら延命効果)を持っていることを立証しなければならない。それが今回の試験だ。標準的支持療法だけを施行した群より延命した模様。

ミューニッヒ大学発のバイオベンチャーで12年にアムジェンに11.6億ドルで買収されたMicrometのパイプライン。日本ではアムジェンとアステラス製薬が共同開発。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認申請】


ツルバダをHIV感染予防用途でEUに承認申請
(2016年2月1日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はTruvada(tenofovir DFとemtricitabineの合剤、和名ツルバダ)をHIV/AIDSの暴露前予防に用いる適応拡大申請をEMAに行ない受理されたと発表した。HIV/AIDS治療薬として承認されている二種類の逆転写阻害剤の合剤を、感染者のセックスパートナーなどの感染予防に用いるもの。米国では12年に承認、医療保険の対象にもなっている。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、抗鬱剤の認知機能改善効果を支持
(2016年2月4日発表)

FDAは精神学薬諮問委員会を招集し、鬱病の認知機能障害を改善するという効能及びその評価方法の妥当性とルンドベック/武田薬品の効能追加申請について意見を聞いた。諮問委員の多くが肯定的で、効能追加については8対2で賛成の委員が反対を上回った。承認されれば史上初。

鬱病患者の認知機能障害は珍しいことではないらしい。両社のプレスリリースによると、鬱病患者を3年間追跡した前向き研究で、思考・集中力の低下や優柔不断のような認知症状が、急性鬱症状期には94%の患者で、寛解期でも44%の患者で、報告された。

効能追加申請されたBrintellix(vortioxetine)は13年に欧米で鬱病治療薬として承認。認知機能改善効果については二本の偽薬対照試験のエビデンスを持っているようだ。

リンク: 両社のプレスリリース

Kalydeco、今度は適応拡大が認められず
(2016年2月5日発表)

ヴァーテックス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VRTX)は嚢胞性線維症用薬Kalydeco(ivacaftor)の適応拡大をFDAに申請していたが、審査完了通知を受領したと発表した。

このCFTRポテンシエイターは、CFTR遺伝子の様々な変異のうち10種類について適応を取得している。今回は更に23種類について2歳以上の患者に承認を求めたが、臨床試験のエビデンスは8種類に関する19症例のみで、残りは前臨床データだけである模様。承認を待つ患者のために早道を探したが、無理があったのだろう。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース



今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/