2015年10月25日

2015年10月25日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • エボラ治療の新しい候補薬が登場 
  • リリーのCETP阻害剤もフェール 
  • Tysabriの二次進行型試験はフェール 
  • エグゼリキシス、cabozantinibの適応拡大申請に着手 
  • FDA諮問委員会がURAT1阻害剤を支持 
  • CHMP、アムジェンのウイルス療法などに肯定的意見 
  • シャイア、ドライアイ治療薬が承認されず 
  • 低ホスファターゼ血症用薬が米国でも承認 
  • ヨンデリス、米国でも承認 
  • カリウム結合剤は他の薬とも結合? 
  • プラザキサ中和剤が米国で承認 
  • Cresemba、EUでも承認 
  • FDA、アッヴィの抗HCV薬の警告強化 
  • CHMP、TecfideraとCellCeptの警告強化


【今週の話題】


エボラ治療の新しい候補薬が登場
(2015年10月21日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)は、GS-5734が英国でエボラウイルス疾患(EVD)の患者に投与されたと発表した。効果のほどは未だ明らかではない。EVD治療薬候補としてはこれまでにモノクローナル抗体カクテル療法やRNA介入薬、RNAポリメラーゼ阻害剤、ヌクレオチド系薬などが浮上しているが、新たにGS-5734が加わった。

今回のEVDの流行は既に終わったようだが、中央アフリカでは数年おきにぶりかえしているので、次の流行に備えて治療法や封じ込め策の研究準備を進める必要がある。また、今回の英国人看護師のように、治癒して退院した人が数ヶ月後に再発症するケースも稀にあるようだ。目や精巣に隠れていたウイルスが再燃するらしい。エボラウイルスに感染したが命が助かった人は17000人と言われており、再発した時の治療法を用意しておく必要がある。

GS-5734はヌクレオチド系の抗ウイルス薬。米軍施設で実施された非ヒト霊長類試験でエボラウイルス感染後3日目から投与したところ、死亡例はゼロだったことが今年のIDWeek(IDSAなどの会議)で発表されている。

リンク: ギリアドのプレスリリース
リンク: Warrenらの抄録(2015IDWeek)

【新薬開発】


リリーのCETP阻害剤もフェール
(2015年10月12日発表)

イーライリリーは、LY-2484595(evacetrapib)の開発中止を発表した。2012年に急性冠症候群歴などを持つ患者の心血管疾患リスクを削減すべく第三相試験を開始したが、無益性が認定された。

LY-2484595のようなCETP阻害剤はHDL-Cを大きく増やしLDL-Cを減らす。前者はともかく、後者は心筋梗塞リスクを削減するのに寄与しそうなものだが、期待が裏切られ続けている。それどころか、ファイザーのtorcetrapibもロシュ(JT)のdalcetrapibも、心筋梗塞や全死亡が増加する懸念が浮上し開発中止になった。

まだ生き残っているのがMSDのanacetrapibだ。アウトカム試験の結果が17年に判明する見込みだが、組入れ数が3倍大きいので、良くても悪くても中間解析で結論が出ても不思議はない。第三相に入りそうなのがオランダのデジマファーマのDEZ-001だ。田辺三菱製薬のTA-8995をライセンスしたもので、デジマはベスト・イン・クラスと呼んでいる。今年9月にアムジェンがデジマを当初金と達成報奨金合わせて15.5億ドルで買収すると発表して期待が高まっていたところだが、冷や水を浴びせられた格好。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

Tysabriの二次進行型試験はフェール
(2015年10月21日発表)

バイオジェンは、Tysabri(natalizumab)の二次進行型多発性硬化症第三相試験がフェールしたと発表した。

Tysabriは再発寛解型の多発性硬化症の再発予防薬として承認されている抗アルファ4インテグリンヒト化抗体。市販後にPML(進行性多病巣性白質脳症)のリスクが表面化、一旦販売中止になったことがある。FDA諮問委員会にも上程されたが、第三者が意見を述べることのできるセッションで複数の車椅子の患者が諮問委員に訴えたことが効いたのか、適応範囲を限定して再発売することが認められた。

当時、私は、患者の期待に応えるべくキチンとした臨床試験を行うべきと書いた。Tysabriの臨床試験は歩行に補助が必要な進行した患者を除外していたからだ。今回の二次進行型は、再発寛解型の寛解期間が次第に短くなり殆どなくなった状態で、被験者の大半が歩行支援を必要としていた。期待を裏切る残念な結果になった。それでも、同社がやるべきことをやったことは評価すべきだろう。

リンク: バイオジェンのプレスリリース

【承認申請】


エグゼリキシス、cabozantinibの適応拡大申請に着手
(2015年10月22日発表)

米国カリフォルニア州のエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)は、Cometriq(cabozantinib)を腎細胞腫の二次治療に用いる適応拡大に関するローリング承認申請に着手したと発表した。

VEGF受容体拮抗剤は腎細胞腫に有効で既に多くの製品がある。エグゼリキシスは切除不能甲状腺髄様癌をリード・インディケーションとして米国で12年に承認を取得。適応拡大試験も各種行ったが、結局、次に成功したのは腎細胞腫だった。他のVEGF受容体拮抗剤/抗VEGF抗体に反応しなくなった患者を組入れた二次治療試験で、PFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月とeverolimus群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.58だった、

リンク: エグゼリキシスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がURAT1阻害剤を支持
(2015年10月23日発表)

アストラゼネカは、FDA関節炎諮問委員会が痛風治療薬RDEA594(lesinurad)を検討し14人の委員のうち10人が承認に賛成したと発表した。薬効のエビデンスについては全員が支持、安全性については7人が支持、6人が不支持、一人は棄権した。

RDEA594は12年に12.6億ドルで買収したArdea Biosciencesの開発品で、腎臓近位管で尿酸の排出を調停するトランスポーター、URAT1を阻害する。痛風の標準療法であるキサンチン酸化酵素阻害剤は尿酸の合成を阻害するので、作用機序的に補完性があっても不思議はない。第三相試験では200mgと400mgをテスト、尿酸管理奏効率は400mgの方が高そうだが腎臓や心血管系の有害事象が増える懸念が生じたため、200mgだけを承認申請した。

薬物動態には個人差があるのでセーフティマージンは大き目に取る必要がある。口で言うのは簡単だが判定が難しく、諮問委員も安全性に限定すると意見が二つに割れている。審査期限は12月29日。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

CHMP、アムジェンのウイルス療法などに肯定的意見
(2015年10月23日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会議で、アムジェンのImlygicの承認などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク: CHMPのプレスリリース

Imlygic(talimogene laherparepvec)は切除不能なIIIB/IIIC/IVM1a期黒色腫に用いる。骨や脳、内臓に転移した患者は適応外。GM-CSFの遺伝子を導入した単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)によるウイルス療法で、腫瘍に注射するとウイルスが増殖して癌細胞が崩壊、集まってくる免疫細胞をウイルスとGM-CSFが強力に刺激して他の癌細胞を攻撃させる仕組み。

第三相試験では持続的反応率が25.2%と、GM-CSFだけを投与した群の1.2%を上回った。全生存の解析は、僅かに有意水準に届かなかった。グレード3以上の有害事象では蜂巣炎が増加した。

アムジェンが11年にBioVexを達成報奨金と合わせて10億ドルで買収して入手したもの。それ以前はOncoVEX(GM-CSF)と呼ばれていた。

リンク: CHMPのリリース
リンク: アムジェンのリリース

適応拡大では、ノバルティスの抗IL-17A抗体、Cosentyx(secukinumab、和名コセンティクス)を乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の第二選択薬として用いることが支持された。現在は尋常性乾癬の治療薬として承認されている。乾癬では一回150mgと300mgが承認されているが今回の用途は150mgだけのようだ。

リンク: ノバルティスのリリース

また、ファイザーのALK阻害剤、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)を一次治療に用いることが支持された。ALKに活性化変異のある非小細胞性肺癌の二次治療薬として承認されているが、一次治療試験で化学療法薬より優れた進行抑制・延命効果が見られた。

シャイア、ドライアイ治療薬が承認されず
(2015年10月19日発表)

英国のシャイアはlifitegrastをドライアイ治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。一般に、承認を取得するためには二つの独立した薬効確認試験が成功する必要があるが、lifitegrastは一本だけなので、承認されなくてもやむを得ない。三本目の試験の結果が年内に判明する見込みであり、成功なら改めて承認を求める予定。

lifitegrastは白血球のLFA-1を阻害する小分子薬で、Tセルが角膜結膜組織に移行するのを妨げる。13年に買収したSARcode Bioscienceの開発品。

リンク: シャイアのプレスリリース(CRL受領、10/16付)
リンク: 同(今後の方針について、10/19付)

【承認】


低ホスファターゼ血症用薬が米国でも承認
(2015年10月23日発表)

FDAは、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のStrensiq(asfotase alfa、和名ストレンジック)を承認したと発表した。希少疾患である低ホスファターゼ血症(HPP)に用いる酵素補充療法。HPPのうち幼児期発症型は1歳まで生きられない患者も少なくないが、Strensiqの試験に参加した患者は97%が生存した。日本では今年7月、EUでは9月に承認されている。

アレクシオンは11年にEnobia Pharmaを達成報奨金と合わせて10.8億ドルで買収して入手した。米国承認に際して希少小児疾患優先審査バウチャーを取得したので、売却して何割かを回収することが可能だろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: アレクシオンのプレスリリース

ヨンデリス、米国でも承認
(2015年10月23日発表)

FDAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンのYondelis(trabectedin、和名ヨンデリス)を軟組織肉腫の一部に用いることを承認した。末期の脂肪または平滑筋の肉腫に対するアンスラサイクリンの次の二次治療薬。臨床試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン4.2ヶ月とdacarbazine群の1.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.55、統計的に有意だった。全生存期間は両群大差なかった。深刻な有害事象は好中球減少症性肺血症、横紋筋融解症、心筋症、肝障害、アナフィラキシー、皮膚壊死、胎毒性など。

ホヤの一種から発見されたアルカロイドを化学合成したもので、スペインのPharmaMarが開発、欧州などの権利をJNJにライセンスしたもの。EUでは07年に卵巣癌用薬として承認されたが、米国では承認されず、仕切り直しとなった。

海から生まれた軟組織肉腫用薬というとエーザイのHalaven(eribulin、和名ハラヴェン)も適応拡大試験が成功、日米欧で承認審査中で米国の審査期限は来年1月29日となっている。臨床試験ではPFSがメジアン2.6ヶ月でdacarbazine群と同じ、但し全生存期間の解析はメジアン13.5ヶ月対11.5ヶ月、ハザードレシオ0.768で統計的に有意だった。どちらが効果が高いのか、議論ができるほど大きな差はどちらにもなさそうだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: JNJのプレスリリース

カリウム結合剤は他の薬とも結合?
(2015年10月21日発表)

FDAは、Relypsa(Nasdaq:RLYP)のVeltassa(patiromer)を高カリウム血症の治療薬として承認した。この病気では50年ぶりの新薬になる。カリウム結合ポリマーで、食中に水に溶かして飲むと結腸でカリウムに結合、排泄される。主な有害事象は便秘や低マグネシウム血症など。即効性ではないので救急治療には向かない。

驚くべきことに、この薬は薬物相互作用試験でテストした薬の半分に結合した。薬の効果や安全性に影響する可能性があるため、他の薬と同時使用する時は6時間以上、離す必要がある。Relypsaは市販後に更に相互作用研究を行う。FDAは、Kayexalate(sodium polystyrene sulfonate)やそのジェネリックのメーカーにも同様な薬物結合試験の実施を要求した。

リンク: FDAのリリース
リンク: Relypsaのプレスリリース
リンク: FDAのリリース(Kayexalateの追加試験要請について、10/22付)

プラザキサ中和剤が米国で承認
(2015年10月16日発表)

FDAは、ベーリンガー・インゲルハイムのPraxbind(idarucizumab)を承認した。同社の直接的経口トロンビン阻害剤、Pradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)に結合する完全ヒト化抗体フラグメントで、緊急手術や大出血時の中和剤として用いる。89%の患者で抗凝固作用が4時間以内に解消する。有害事象は低カリウム血症、錯乱、便秘、発熱、肺炎など。

リンク: FDAのリリース

Cresemba、EUでも承認
(2015年10月16日発表)

スイスのBasilea Pharmaceutica(SWX:BSLN)は、Cresemba(isavuconazonium sulfate)がEUで承認されたと発表した。アゾール系抗菌剤で、侵襲性アスペルギルス症とamphotericin Bに不適なムーコル菌症の治療に用いる。米国ではライセンス先であるアステラス製薬が3月に承認を取得している。

【医薬品の安全性】


FDA、アッヴィの抗HCV薬の警告強化
(2015年10月22日発表)

FDAは、アッヴィ(NYSE:ABBV)の二種類の慢性C型肝炎治療製品について肝臓副作用に関する安全性警告を発出した。

一つはTechnivie(和名ヴィキラックス配合錠)でombitasvir、paritaprevir、ritonavirの合剤。もう一つはViekiraパックで、TechnivieとExviera(dasabuvir)を同梱したもの。開発段階から肝毒性の懸念が見られたため何れも中度以上の肝障害を持つ患者は禁忌、Technivieは肝硬変を合併する患者は適応外とされている。

14年12月にViekiraパックが発売されて以来、今年7月までの間に、薬物関連疑い例・可能例が世界で26例、報告された。16例は肝機能不全を伴い、10例は肝不全により死亡または肝移植を受けた。

FDAは禁忌の遵守と肝毒性の兆候の監視を強化するよう求めた。

リンク: FDAの安全性警告

CHMP、TecfideraとCellCeptの警告強化
(2015年10月23日発表)

CHMPは10月の会議で、バイオジェンの再発寛解型多発性硬化症用薬Tecfidera(dimethyl fumarate)とロシュのCellCept(mycophenolate mofetil)の安全性警告を強化するよう勧告した。

TecfideraはPML(進行性多病巣性白質脳症)のリスクに関する警告を強化。リンパ球減少症が持続した後に発症することが多いので定期的な全血球計算が有益と考えられるが、その頻度を、これまでは治療開始前と半年後、その後は6~12ヶ月置きとしていたものを、3ヶ月置きに短縮することを勧告。リンパ球減少が半年以上続いたら中止を検討しなければならない。PMLの診断に役立てるために治療開始前にMRI画像も撮っておく。

ノバルティスが田辺三菱製薬からライセンスして開発したGilenya(fingolimod)もリンパ球減少が見られるため全血球計算が必要だが、頻度は治療開始の3ヶ月後とその後は少なくとも年1回となっている。比較すると、Tecfideraの規制は厳しい。

リンク: CHMPのリリース(Tecfidera)

CellCeptは催奇性警告を強化。臓器移植後の拒絶反応を抑制する薬だが、服用者は男も女も妊娠しないよう避妊を行うことが必要。

リンク: CHMPのプレスリリース(CellCept)



今週は以上です。

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2015年10月11日

2015年10月11日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ロシュ、ocrelizumabのデータ発表
  • 遅発性ジスキネジア用薬の第三相が成功
  • ヴァーテックス、Kalydecoの対象をさらに拡大へ
  • オプジーボ、NSNSCLCに承認


+++ 来週は都合によりお休みさせていただきます +++


【新薬開発】


ロシュ、ocrelizumabのデータ発表
(2015年10月8日発表)

ロシュは、RG1594(ジェネンテックの開発コードPRO70769、一般名ocrelizumab)の第三相多発性硬化症試験の結果をECTRIMS学会で発表した。再発型を対象とした実薬対照試験二本も、一次進行型の偽薬対照試験も成功。16年始めに承認申請する予定。

ocrelizumabはBセルの表面分子であるCD20を標的とする抗体医薬。同社がIDEC(現バイオジェン)からライセンスして共同開発したRituxan(rituximab)がマウス由来の可変領域をヒト由来の定常領域と繋げたキメラ抗体であるのに対して、ocrelizumabは可変領域の一部もヒト抗体のアミノ酸に置換したヒト化抗体。効果や安全性で優れる可能性があるため、特に自己免疫疾患用途で、Rituxanの後継薬になることが期待されていた。

ところが、リウマチ性関節炎の第三相試験で深刻な感染症が特にアジア地域の施設で増加、死亡例も発生した。免疫抑制効果の高さの裏返しであり用量調整で管理できる可能性もあるが、Rituxanの有効性が明らかな疾患ではリスクを冒してまで効果を高める必然性が乏しい。結局、多発性硬化症以外の開発は中止となった。

このような経緯を踏まえて今回のデータを見ると、まず、再発型を対象とした二本は、2年間の再発リスクをRebif(メルク・セローノのインターフェロン beta-1a)と比較した。副作用リスクがあるので偽薬を上回るだけでは足りない、という考え方だろう。

ocrelizumabは24週サイクルでサイクル当り600mgを点滴静注(再発型は初回だけ、一次進行型は全期間に亘って、第1日と15日に300mgずつ投与)。Rebifは44mcgを週3回、皮注するインターフェロンでは最も効果の高い用法。投与方法が全く異なるため夫々の偽薬を用意して二重盲検化した。

結果は、試験薬群の方がリスクが46~47%小さかった。EDSS症状評価スコアが悪化するリスクも低下した。有害事象は点滴箇所反応の発生率が34%対10%と多かったが、深刻な有害事象は6.9%対8.7%と大差なく、深刻な感染症も大差なかった。

多発性硬化症は歩行障害などの症状が出たり、寛解したりを繰り返す再発寛解型が多い(やがて、寛解期を挟まずに悪化していく二次進行期に進む)。一部の患者は最初から寛解期なしで悪化するため、一次進行型と呼ばれる。治療は専ら対症療法で進行を遅らせる薬はない。これらのことから、臨床試験は偽薬対照でEDSS進行リスクを主評価項目とした。EDSSはあまり鋭敏・精緻ではなく、その時々で変動する可能性もあるため、一定期間持続した場合だけ悪化を認定した。

結果は、リスクが25%小さかった。p値は0.0365なのであまり良い数値ではない。25フィート歩行時間の悪化を抑制する効果も見られたが、こちらもp=0.04。鋭敏でも精緻でもないスコアを使うとあまりよいp値は出ないものだが、再発型の試験ではEDSSのp値が二本とも0.01未満だった。偽薬と比べてこの程度なのだから、結局、効果は小さいと考えざるを得ない。

FDAは再発型に関してはEDSSを重視していないようだ。一次進行型は話が違うかもしれないが、p値があまりよくないだけに、承認されるかどうか不確かだろう。

忍容性面では、偽薬群の数値の悪さが目立つ。点滴箇所反応発生率は試験薬群39.9%、偽薬群は25.5%。深刻な有害事象は20.4%対22.2%で大差なかった。

深刻な感染症のリスクは高まらなかった模様。リウマチ試験ではサイクル当たり1000mgを投与した群でリスクが倍近く増加したが400mgの群は偽薬と大差なかった。今回の試験で安全域が600mgまで広がったことになる。

尤も、稀だが深刻な感染症のリスクはじっくりと評価する必要がある。多発性硬化症の最近の新薬は何れも市販後にPML(進行性多病巣性白質脳症)が発生している。Rituxanでも報告されているので、ocrelizumabにもリスクがあるだろう。もし第三相試験で発生しなかったとしたら治験の検出力が不十分であった可能性があり、敷衍して、他の稀な副作用の検出力も疑う余地があるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: ocrelizumabのリウマチ試験の安全性分析論文(Emeryらの抄録、PubMed)

遅発性ジスキネジア用薬の第三相が成功
(2015年10月8日発表)

ニューロクラインバイオサイエンス(Nasdaq:NBIX)は、NBI-98854(valbenazine)の第三相遅発性ジスキネジア治験の成功を発表した。16年に承認申請する予定。日本の開発販売権は田辺三菱製薬が保有している。

遅発性ジスキネジアは向精神薬のドパミン阻害作用などが原因で無意識に反復的動作を行ってしまう。米国の推定患者数は50万人。valbenazineは神経終末のVMAT2(小胞モノアミントランスポーター2)を阻害してドパミンの取り込みを抑制、機能正常化を誘導する。

今回の第三相は、統合失調症や統合失調性感情障害、双極障害、うつ病などを罹患し遅発性ジスキネジアを発症している234人を偽薬、40mg、80mgを一日一回経口投与する各群に無作為化割付して6週間治療した。主評価項目はAIMS(Abnormal Involuntary Movement Scale)の変化。

結果は、80mg群の変化が偽薬比3.1ポイント改善、p値は0.0001未満だった。40mgは1.8ポイントに留まりフェール。二次的評価項目であるCGI(Clinical Global Impression)-TDはどちらもフェールした。

過去のP2b試験では100mgと75mgが有効、50mgは不十分だった。今回の結果は整合的であり、第三相は一本だけだが、有効性を示す複数のエビデンスが揃ったと言えるだろう。但し、治療効果が十分なのか、私には知識が無い。

リンク: ニューロクラインのプレスリリース

【承認申請】


ヴァーテックス、Kalydecoの対象をさらに拡大へ
(2015年10月7日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)のKalydeco(ivacaftor)は嚢胞性線維症の患者のうち特定のタイプに有効だ。2012年に米国で承認された時点ではCFTR遺伝子にG551D変異を持つタイプだけが対象だったが、その後、更に9種類に適応拡大が認められた。年齢制限も2歳以上に広がった。

今回は、更に23種類の変異を対象に米国で適応拡大申請し、受理された。優先審査で審査期限は来年2月6日。患者数が少ないせいか、臨床試験の裏付けがあるのは数タイプだけで、残りはin vitroのデータしかない模様。

嚢胞性線維症の患者数は世界で7万人。うち、Kalydecoの対象になるのは4000人程度と推測されている。ivacaftorとlumacaftorのコンビ薬であるOrkambiも合わせると3万人に膨らむ。治験には時間が掛かるので、一歩一歩、対象患者拡大を進めることになる。

リンク: ヴァーテックスのプレスリリース

【承認】


オプジーボ、NSNSCLCに承認
(2015年10月9日発表)

BMSは、FDAがOpdivo(nivolumab)の適応拡大を承認したと発表した。3月に非小細胞性肺癌のうち扁平上皮腫の二次治療に用いることが承認済みだが、新たに非扁平上皮非小細胞性肺癌(NSNSCLC)の二次治療が認められ、対象患者が約3倍に増加した。

第三相のCheckMate-057試験では、メジアン生存期間が12.2ヶ月とdocetaxelを投与した群の9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73、p=0.0015だった。Daco社のPD-L1検査も承認されたが、検査は不要でPD-L1発現状況に関わらず適応になる。但し、EGFRチロシンキナーゼ阻害剤や抗EGFR抗体のように、承認後に適応が見直される可能性はありそうだ。

一次治療は白金薬レジメンや、EGFR阻害剤やALK阻害剤が適応になる患者はこれらの薬を使うが、エビデンスが揃えば将来は抗PD-1抗体も選択肢の一つになるだろう。

免疫強化療法は副作用の出方が化学療法と大きく異なるので注意が必要だ。Opdivoの場合、免疫が調停する肺炎、大腸炎、肝炎、内分泌障害、腎炎などのリスクがある。

リンク: BMSのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年10月4日

2015年10月4日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • ロシュ、抗CD20抗体の一次進行型多発性硬化症試験成功
  • ジャズ、肝静脈閉塞性疾患治療薬を米国で再申請
  • サノフィ、リキスミアを米国で承認申請
  • サノフィ、PraluentがEUで承認
  • MSD、Keytrudaが肺炎に承認
  • BMS、ヤーボイとオプジーボの併用が承認

【新薬開発】


ロシュ、抗CD20抗体の一次進行型多発性硬化症試験成功
(2015年9月28日発表)

ロシュはRG1594(ジェネンテックの開発コードPRO70769、一般名ocrelizumab)の第三相一次進行型多発性硬化症試験が成功したと発表した。再発寛解型試験の成功も発表済みで、欧米で承認申請する予定。データは10月9~10日にECTRIMS欧州多発性硬化症学会議で発表される予定。

ocrelizumabは抗CD20ヒト化抗体。同社のRituxan(rituximab)と比べてマウス由来のアミノ酸が少なく過敏反応が起きにくい可能性があるため、自己免疫疾患領域での後継薬となることが期待された。しかし、第三相関節リウマチ試験で日和見感染症が特に日本の施設で増加したため、Rituxanの開発が進んでいなかった多発性硬化症を除いて、開発中止となった。

RituxanのPOC試験が成功した当時と比べると、多発性硬化症の免疫抑制療法は既に普及し薬の選択肢も経口剤を含めて充実した。しかし、一次進行型に有効性を示した薬は初めてなので、どの程度の進行遅延効果があるのか、データ発表が注目される。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認申請】


ジャズ、肝静脈閉塞性疾患治療薬を米国で再申請
(2015年9月30日発表)

ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)は、defibrotideを肝静脈閉塞性疾患(VOD)治療薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は16年3月31日。

肝VODは造血幹細胞移植に用いる抗癌剤の深刻な副作用の一つ。defibrotideはブタの小腸粘膜由来の核酸誘導体で血栓溶解作用を持つ。Gentium社が米国で申請したが承認されず、13年に同社を買収したジャズが再挑戦した。EUでは13年10月に例外的環境条項に基づいてDefitelio名で承認されている。

リンク: ジャズのプレスリリース

サノフィ、リキスミアを米国で承認申請
(2015年9月29日発表)

サノフィは、exendin類縁体であるLyxumia(lixisenatide、和名リキスミア)を二型糖尿病治療薬として米国で承認申請した。EUや日本は13年に承認したが、FDAは脳卒中などの心血管有害事象が増加する可能性を懸念、申請撤回となった。その後、ELIXA心血管アウトカム試験でリスクが大きく増加しないことを確認、今回の再申請に至った。

EU承認時の審査文書によると、主要有害心臓イベントのメタアナリシスでは、ハザードレシオが対照群の1.25倍、95%信頼区間は0.67~2.35だった。心臓疾患が倍増する可能性が否定されていないことになる。

信頼区間が広いのでEUや日本のように大目に見ることもFDAのように厳しく考えることも可能だろう。しかし、自分が服用するとしたら話は別だ。他に選択肢があるのに、わざわざ余計な心配を抱え込むようなことは、普通はしない。サノフィや、同様なパターンで承認が遅れたノボや武田には気の毒だが、時間が掛かっても無垢を確認してから発売するのが仁道だろう。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認】


サノフィ、PraluentがEUで承認
(2015年9月28日発表)

サノフィは、リジェネロン(Nasdaq:REGN)と共同開発した抗PCSK9完全ヒト化抗体、Praluent(alirocumab)がEUで承認されたと発表した。原発性の高脂血症や混合異脂血症でスタチンだけでは不十分な患者、あるいはスタチン不耐患者に用いる。米国では7月に承認。日本は8月に承認申請。

高力価スタチンと同程度の高いLDL-C降下作用を持つ。難点は第一に皮注用薬であること(二週間に一回)、第二に高いこと(米国の問屋取得価格は月1120ドル)。アムジェンの抗PCSK9完全ヒト化抗体Repatha(evolocumab)との違いは低量も製品化していることと、希少疾患であるホモ接合型家族性高脂血症を適応としていないこと。

リンク: サノフィのプレスリリース

MSD、Keytrudaが肺炎に承認
(2015年10月2日発表)

FDAは、MSDの抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)の適応拡大を承認したと発表した。非小細胞性肺癌で、白金薬を用いる一次治療レジメンや適応になる場合はEGFR阻害剤やALK阻害剤にも不応・再発の、PD-L1陽性癌に用いる。用量用法は14年に承認された悪性黒色腫と同じで、2mg/kgを30分点滴静注、三週間に一回施行する。

後期第一相試験の反応率データに基づく加速承認で、別途、延命またはそれに準じる効果を確認する必要がある。ORR(客観的反応率)は18%程度で、再発性非小細胞性肺癌用薬としては高いが、特効薬というほどでもない。ところが、サンプルの50%以上でPD-L1が発現している高発現症例(280例中61例)ではORRが41%と著しく高かった。

BMS/小野の抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab)は、扁平上皮腫やそれ以外の非小細胞性肺癌の三次治療試験でORRが15%前後だった。これらの試験はPD-L1陽性癌に限定していないので、おそらく、低発現癌に対する抗PD-1抗体の効果は陰性癌の場合と大差ないのだろう。

さて、非小細胞性肺癌での両剤の適応範囲を整理すると、現時点ではどちらも二次治療薬で対象はKeytrudaがPD-L1陽性(6割程度が該当)、Opdivoは扁平上皮腫(3割程度が該当)だが非扁平上皮腫(残りの7割)試験の成功がASCO米国臨床腫瘍学学会で発表されているので、承認前に普及するだろう。従って、実質的にはOpdivoのほうが対象患者が多いことになる。エビデンスも、実薬対照試験で延命効果が確認されているので、優れている。PD-L1検査代を節約できるメリットもある。

但し、一次治療に適応拡大する局面ではPD-L1検査が重要な要素になるのではないか。高発現症例のORR41%というのは標準療法である白金レジメンと比べてもそん色なく、延命効果が勝っているようならば、一次治療の選択肢の一つに留まらず文句なしの第一選択になる可能性があり、そうなると、EGFRやALKと同様にPD-L1検査もマストになるだろう。

リンク: FDAのリリース
リンク: MSDのプレスリリース

BMS、ヤーボイとオプジーボの併用が承認
(2015年10月1日発表)

BMSは、Yervoy(ipilimumab)とOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を悪性黒色腫の一次治療に併用することがFDAに承認されたと発表した。現時点では野生BRAFのみが対象で、活性化変異癌はBRAF阻害剤だけが適応だが、この二剤の併用も同程度の効果がありそうなので、近い将来、限定解除されるのではないか。

承認の根拠となった第二相試験では、cORR(確認客観的反応率)が60%と、Yervoyだけを投与した群の11%を有意に上回った。PFS(無進行生存期間)のメジアン値は8.9ヶ月と4.7ヶ月、ハザードレシオは0.40だった。

効果も高いが副作用リスクや治療費も高い。前者は、非小細胞性肺癌ではOpdivo主、Yervoy従の併用の方が良さそうな結果を出しており、黒色腫でもOpdivoではなくYervoyを減量することで効果を維持しながら忍容性を改善できないものか、もどかしく感じられる。

後者は、米国の標準価格で計算すると、最初の4回は二剤併用で14万ドル、その後はOpdivoだけを月1.25万ドル。合計治療期間を8ヶ月とすると一人20万ドル、実売価格が8掛けで自己負担率3割とすると患者の負担は薬代だけで576万円。臨床試験では薬物関連死亡も複数発生しており、効果だけでなく失うものも大きい。

リンク: BMSのプレスリリース


今週は以上です。

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