2014年12月28日

海外医薬ニュース2014年12月28日号



☆☆☆ 来週はお休みします。皆様、良いお年を! ☆☆☆

【ニュース・ヘッドライン】

  • バイオクリストの抗エボラウイルス薬の霊長類試験
  • LAL欠乏症治療薬の承認申請が受理
  • 第二のDMD治療薬のローリング承認申請
  • バクスター、VW病治療薬を承認申請
  • オプジーボが米国でも承認
  • ノボの体重管理薬が米国で承認
  • ラピアクタが米国でも承認


【今週の話題】


バイオクリストの抗エボラウイルス薬の霊長類試験

(2014年12月23日発表)

バイオクリスト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:BCRX)は、エボラウイルス疾患の治療薬候補として期待されているBCX4430の非ヒト霊長類試験の結果を公表した。最初の試験としては良好だ。

この試験は、ウイルスに感染させてから30~120分後に偽薬、16mg/kg、25mg/kgの何れかを一日二回、14日間筋注し、41日間生存率を比較したもの。偽薬群の生存はゼロだったが、16mg/kg群は6頭中4頭、25mg/kg群は6頭全てが生存し、抗ウイルス作用が確認された。

現実の医療では感染したばかりの患者を治療する機会は少ない。感染者の体液に暴露した人をケアすることはあるが、これは治療ではなく暴露後予防と呼ばれる。従って、次のステップとしては、感染の数日後に投与を開始する試験を行うことが望ましい(そんな時間は無いという反論が出るかもしれないが)。因みに、ZMappの試験では感染後5日経って発症した後に投与しても十分な効果があった。

今回の発表で朗報は、Marburgウイルスの試験(15mg/kg)と大差ない16mg/kgでも効果が見られたこと。in vitroの力価は半分で、必要量の安全性マージンは10~50倍と言われていたが、もし16mg/kgで足りるなら副作用が大きく増加する心配は小さいだろう。尤も、15mg/kgがヒトに安全というエビデンスは無いので、今後に持ち越された探求課題であることに変わりはないのだが。

エボラでキチンとした薬効確認臨床試験を行うのは難しく、それだけに、非ヒト霊長類の試験は重要な代替的エビデンスだ。安全性についてはワクチンを含めて臨床試験が進行中なので、ある程度のアイディアを掴めるだろう。重病人よりも健常者の方が副作用を発見しやすいので、治療薬候補に関しては暴露後予防の臨床試験も実施した方が良いだろう。

リンク:バイオクリストのプレスリリース

【承認申請】


LAL欠乏症治療薬の承認申請が受理

(2014年12月23日発表)

Synageva BioPharma(Nasdaq:GEVA、米国マサチューセッツ州)は、リソソーム酸リパーゼ(LAL)欠乏症治療薬SBC-102(sebelipase alfa)の承認申請がEUに受理されたと発表した。加速審査を受ける。米国でも今月、ローリング承認申請が完了しており、来年夏にも承認されることになるだろう。

LAL欠乏症は常染色体性劣性リソソーム貯蔵疾患で、脂肪が肝臓や血管壁などに蓄積、吸収不良や成長不全、肝臓障害、アテローム硬化などを発症する。新生児の100万人に二人が発症、6ヶ月以内に死亡することが多い。

SBC-102は遺伝子組換え型LALで、日米欧で希少疾患用薬指定を受けている。小児と成人患者66人を組入れて1mg/kgを二週間に一回点滴投与した試験では、20週後に肝機能検査値が正常化した患者が偽薬群比有意に多かった。肝脂肪やLDL-Cも有意に減少した。また、急速進行型幼児を組み入れた試験では、9人中6人が12ヶ月時点で生存していた。

リンク:Synagevaのプレスリリース(PR Newswire)

第二のDMD治療薬のローリング承認申請

(2014年12月23日発表)

PTCセラピューティクス(Nasdaq:PTCT)は、Translarna(ataluren、開発コードPTC124)のローリング承認申請を米国で開始したと発表した。進行中の第三相試験の結果を来年第4四半期に提出して完了する考え。ライバルのProsenta(バイオマリンが買収する予定)も10月にdrisapersenのローリング承認申請を開始しており、開発競争が最終段階に入ることになる。

両剤はナンセンス変異型DMD(デュシェンヌ型筋ジストロフィー)の治療薬として開発されている。DMDは男子の劣性遺伝性疾患で筋細胞膜の維持に必要なジストロフィンを十分に作れない。ナンセンス変異型は遺伝子の一部に翻訳中止箇所を示す塩基配列(ストップコドン)を持っているため、不完全なジストロフィンが作られる。

両剤はmRNAが翻訳される過程を攪乱しストップコドンが見過ごされるように仕向ける。その結果、不完全だがある程度機能するジストロフィンが産生されるようになる。DMDのうちナンセンス変異型は欧州では13%、米国は20%、イスラエルは50%を占め、欧米合計で4000人が治療対象と推定されている。

両剤ともジストロフィンを増やす効果が確認されているが、検査方法の妥当性に議論の余地があるようだ。臨床的な効用も不明確で、dripersenの第三相も、Translarnaの後期第二相も、6分歩行試験の成績を偽薬比有意に改善することができなかった。前者はGSK、後者はジェンザイムが開発提携していたが、何れも解消した。

希望が消えかけたが、今年8月にEUがTranslarnaを条件付き承認。FDAも両社が承認申請することを認めた模様だ。承認されても効果が不確かなら患者をぬか喜びさせるだけだが、まずはTranslarnaの第三相試験の結果を待つとしよう。

リンク:PTC社のプレスリリース

バクスター、VW病治療薬を承認申請

(2014年12月22日発表)

バクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)は、米国でBAX111をフォン・ヴィレブランド(VW)病の治療薬として承認申請したと発表した。VW病は常染色体性遺伝子疾患で、罹患率は1~2%と高いが多くは症状が軽い。BAX111は初めての高純度遺伝子組換え型VW因子で、臨床試験では22人の患者の出血治療に成功。インヒビターや塞栓性疾患は見られなかったが、重篤な治療関連有害事象が1例あった(心拍数上昇と胸部不快感)。

リンク:バクスターのプレスリリース

【承認】


オプジーボが米国でも承認

(2014年12月22日発表)

FDAは、小野薬品/BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を切除不能・転移性の黒色腫のサルベージ療法として承認したと発表した。BMSのYervoy(ipilimumab)と、BRAF-V600変異を持つ腫瘍の場合はBRAF阻害剤による治療を既に受けた患者が対象になる。第三相試験の中間客観的反応率(ORR)データに基づく加速承認で、審査期限より3ヶ月早いクリスマスプレゼントとなった。

活性化したTセルが発現する抑制刺激受容体、PD-1に結合するIgG4型完全ヒト化抗体で、癌細胞がPD-L1を結合させてTセルを抑制するのを妨げる。免疫強化療法はこれまでにIL-1やアルファ・インターフェロンが実用化されており、ORRは低いものの、反応した患者は効果が長期間持続する特徴がある。抗PD-1抗体はORRが上記の解析で32%と比較的高く、また、悪性黒色腫や腎細胞腫以外にも様々な癌に効果がありそうなことが長所だ。

一方で、免疫関連の有害事象も見られ、過去の様々な癌の試験では致死的な肺炎が574人中5人で発生した。結腸、肝臓、腎臓などの免疫関連有害事象も見られた。

Opdivoは小野がトランスジェニック・マウス抗体技術を持つメダレックスと共同で創製、BMSがメダレックスを買収したため両社の共同開発プロジェクトとなった。日本韓国台湾以外はBMSが販売する。報道によると、米国では月12500ドルで販売される模様。9月に同じ適応症で承認された抗PD-1完全ヒト化抗体、Keytruda(pembrolizumab)とほぼ同じだ。用法は3mg/kgを二週間に一回投与で、日本の用法である2mg/kg、三週間に一回より多い。

リンク:FDAのリリース

リンク:BMSのプレスリリース

ノボの体重管理薬が米国で承認

(2014年12月23日発表)

FDAは、ノボ ノルディスクのSaxenda(liraglutide)を肥満症、及び、高血圧や二型糖尿病、高脂血症などの疾病因子を持つオーバーウエートの患者の治療薬として承認したと発表した。二型糖尿病薬として承認されているGLP-1作用剤、Victoza(和名ビクトーザ)の高用量版で、1.2mg/1.8mgではなく3mg。

臨床試験では1年間の体重減少が偽薬群比4.5%大きかった。また、5%以上の減量に成功した患者の比率が62%と偽薬群の34%を上回った。16週間治療して4%以上減らなかったら成功する見込みが小さいので打ち切る。低カロリーダイエットと運動療法を併用する。

主な有害事象は悪心嘔吐。深刻な有害事象は膵炎、胆嚢疾患、腎障害、自殺思慮。心拍数が上昇することがあり、持続する場合は中止する。また、他のGLP-1作用剤と同様に、癌原性試験で甲状腺C細胞腫瘍が見られたがヒトに対するリスクは確立していないことが枠付警告された。FDAは、進行中の試験で乳癌や心血管疾患のリスクを評価するよう求めた。

リンク:FDAのリリース

リンク:ノボ ノルディスクのプレスリリース

ラピアクタが米国でも承認

(2014年12月22日発表)

FDAは、バイオクリストのRapivab(peramivir、和名ラピアクタ)を非複雑インフルエンザの治療薬として承認したと発表した。発症48時間以内の患者に600mgを15~30分で点滴投与する。上部気道症状などが原因で経口剤や吸入用薬を使えない患者に用いることが想定されている。

Tamiflu(oseltamivir)と同様なノイラミニダーゼ阻害剤。日本では2010年に承認されたが、米国の開発は難航、臨床試験フェールが続いた。直近では重症入院患者の第三相試験を行ったが中間解析で無益性が認定され、一転して、非複雑インフルエンザの治療薬として承認申請されることとなった。

FDAによると、臨床試験では体温が12時間早く正常化し、症状軽快も21時間早まった。主な有害事象は下痢。稀だが深刻な有害事象としてはスティーブンス・ジョンソン症候群のような深刻な皮膚反応が見られた。他のノイラミニダーゼ阻害剤と同様に幻覚や錯乱、異常行動が見られたが、薬のせいなのか病気のせいなのかは明らかではない。

重篤患者に対する効能が明確ではないので、出番は少ないだろう。需要の中心は国家備蓄用途と推測されているようだ。

リンク:FDAのリリース

リンク:バイオクリストのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年12月21日

海外医薬ニュース2014年12月21日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • GSK、帯状疱疹ワクチンの第三相が成功
  • ロシュ、二剤の第三相がフェール
  • ルンドベック、脳梗塞用薬の開発を中止
  • バイエル、A型血友病薬を米国でも承認申請
  • ジェネンテック、MEK阻害剤を承認申請
  • CHMPが幹細胞療法や体重管理薬などを支持
  • FDAがアッヴィの4剤併用抗HCV薬を承認
  • アストラゼネカ、PARP阻害剤が欧米で承認
  • MSDが買収する企業の抗生剤が米国で承認
  • アルコンの外耳炎用薬が米国で承認


【新薬開発】


GSK、帯状疱疹ワクチンの第三相が成功

(2014年12月18日発表)

グラクソ・スミスクラインは、帯状疱疹ワクチンHZ/suの第三相試験が良好な結果になったことを発表した。50歳以上の患者を組入れた試験で、帯状疱疹リスクを97.2%削減した。まだ進行中である模様であり、ヘルペス感染後疼痛を防ぐ効果があったのかは明らかではない。70歳以上を組入れた試験や免疫低下患者を組入れた試験も進行中。

帯状疱疹は潜伏している水痘ウイルスの再活動化が原因。加齢に伴い免疫力が低下すると発生しやすくなる。MSDの弱毒化生ワクチン、Zostavaxが06年に米国で発売されたが、生産が難しい模様で、数年前に供給不足になったことがある。

HZ/suはウイルスのgE抗原にAS01-Bアジュバントを添加したもの。AS01はAgenus(Nasdaq:AGEN)の植物由来の免疫刺激成分やMPL、リポゾームを含んでいる。

リンク:GSKのプレスリリース

ロシュ、二剤の第三相がフェール

(2014年12月19日発表)

ロシュは、抗癌剤とアルツハイマー病薬の第三相がフェールしたことを明らかにした。

まず、Kadcyla(ado-trastuzumab emtansine、和名カドサイラ)のher2陽性転移性乳癌一次治療試験がフェール。KadcylaはHerceptin(trastuzumab)の抗her2モノクローナル抗体に細胞毒を結合した抗体薬物複合体(ADC)で、二次治療試験でXeloda(capecitabine)とTykerb(lapatinib)の併用より優れた延命効果を示し、13年に日米欧で承認された。

今回の一次治療試験では、Kadcyla単剤群や抗2C4モノクローナル抗体Perjeta(pertuzumab、和名パージェタ)併用群のPFS(無進行生存期間)をHerceptinとタクサン系を併用する標準療法群と比較したが、どちらも有意な差は無かった。非劣性解析は成功したのでKadcylaの有用性が示されたことになるが、値段の違いを考えれば敢えて使う理由が無い。

不思議なのはPerjeta併用群だ。Perjetaは今回と同じ用途に承認されている。臨床試験ではHerceptinとTaxotere(docetaxel)の標準療法と比べてPerjetaも用いる三剤併用法は死亡リスクが34%小さかった。Kadcylaの効果がHerceptin・タクサン系併用と同じならば、Kadcyla・Perjeta併用レジメンの方が優れている筈だが、A+B+C>A+B、D=A+B、∴C+D>A+Bとはならなかった。

今回はTaxotere以外のタクサンも使用できたが、それが原因とも思えない。薬の相性の問題かもしれないし、治験のプロトコルや投薬実態に違いがあるのかもしれない。

リンク:ロシュのプレスリリース

もう一つは、抗アミロイド・ベータHuCAL完全ヒト化抗体、R1450(gantenerumab)の前駆アルツハイマー病試験。中間無益性解析で独立データ監視委員会が無益性を認定、中止が決まった。今年開始された、中度アルツハイマー病の大規模な第三相試験は続行される。

アミロイド仮説は若年性アルツハイマー病で見られる遺伝子変異が起源のようだが、どういう訳か、第三相試験は加齢性患者が対象になっている。多くの小分子薬や抗体医薬の第三相がフェールしたのだから、原点に回帰して、若年性患者の試験を行うべきだろう。それで駄目だったら研究資源を他のメカニズムに振り向けることができる。

リンク:ロシュのプレスリリース

ルンドベック、脳梗塞用薬の開発を中止

(2014年12月17日発表)

ルンドベックはドイツのPAION社からdesmoteplaseをライセンス、急性虚血性脳卒中の治療薬として第三相試験を二本実施したが、どちらもフェールし、この用途での開発を中止することを発表した。

ナミチスイコウモリが吸血時に分泌して血液が固まるのを防ぐプラスミノーゲン・アクティベータを元に創製した遺伝子組換え薬で、開発歴は長く、2000年にシエーリングがPAIONにライセンス、04年にフォレストが北米の権利を取得したがP2b試験がフェールしたため返還、05年にルンドベックがライセンスしたもの。

tPAより脳細胞毒性が小さい可能性があることと、新しい画像分析手法を用いれば治療対象を発症後9時間経った患者まで広げられそうなことが注目点だったが、駄目だった。

リンク:ルンドベックのプレスリリース

【承認申請】


バイエル、A型血友病薬を米国でも承認申請

(2014年12月17日発表)

バイエルは、BAY 81-8973をA型血友病薬として米国で承認申請したと発表した。遺伝子組換え型の第VIII因子で、培養過程などでヒトや動物由来の蛋白を用いていないため、感染症のリスクが小さいことが期待される。Kogenateの後継薬という位置付けだ。欧州でも今月、承認申請済み。

リンク:バイエルのプレスリリース

ジェネンテック、MEK阻害剤を承認申請

(2014年12月14日発表)

ジェネンテックはエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からライセンスしたGDC-0973/XL518(cobimetinib)をBRAF-V600変異型悪性黒色腫用薬として米国で承認申請したと発表した。EUでも承認審査中。同社のZelboraf(vemurafenib、和名ゼルボラフ)と併用する。

ZelborafはBRAF阻害剤、cobimetinibはMEK阻害剤で、成長因子受容体の細胞内シグナル伝達に関わる同じパスウェイを阻害する。同様な併用療法としては、GSKのbraf阻害剤Tafinlar(dabrafenib)とMEK阻害剤Mekinist(trametinib)の併用が米国で承認されている。

癌細胞の細胞内シグナル伝達因子は変異しやすいが、二つの標的を同時に狙えば片方が変異して効かなくなるリスクを削減できるかもしれない。MEK阻害剤はそれ自体にも穏やかな効果がある。また、braf阻害剤の副作用である皮膚扁平上皮細胞腫(多くは良性)のリスクも抑制できる可能性がある。

ジェネンテック/ロシュの一次治療併用試験では、PFSがメジアン11.3ヶ月とZelborof単剤群の6.0ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.6だった。グレード3以上の有害事象の発生率は65%対59%と高まり、肝臓酵素やCPKの上昇が併用群の方が多かった。

リンク:ジェネンテックのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが幹細胞療法や体重管理薬などを支持

(2014年12月19日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは12月の会議で幹細胞療法やオレキシジェンの体重管理薬などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

Chiesi FarmaceuticiのHoloclarは、中重度の角膜輪部幹細胞欠乏症(LSCD)の治療法。患者自身から採取した角膜上皮細胞(幹細胞を含む)を培養したもの。幹細胞療法がEUで承認されれば初。

LSCDは火傷や化学物質による外傷によって幹細胞が損傷、痛みや症状が続き、視力が悪化する。EUの有病率は10万人に3.3人で希少疾患用薬指定を受けている。Holoclarは幹細胞による再生を促す。角膜移植と異なり拒絶反応や手術を回避できる。前向き試験のエビデンスが無いことから、条件付き承認となる予定。

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:同(最初の幹細胞製品の承認推奨)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)のMysimba(naltrexoneとbupropionの合剤、米国名Contrave)は体重管理薬。活性成分はどちらも別の適応で承認されている。食欲を抑制し、エネルギー消費を促し、飽食感を増強する。肥満症(BMI30kg/m2以上)や、疾病リスク因子を持つ太り過ぎ(27~30kg/m2)の患者が、低カロリーダイエット及び運動療法と併せて服用する。16週間服用して体重が5%以上減少しなかったら打ち切る。

9月に承認された米国の用法は、12週間服用して5%以上減らなかったら止める。若干異なるのは、おそらく両地域の体重管理ガイドライン自体が異なっているのだろう。薬物療法は副作用もあるので週何キロという減量目標を達成できなかったら他の方法にスイッチすることが推奨されている。

体重管理薬は米国では12年にヴィーヴァス(Nasdaq:VVUS)のQsymia(phentermineとtopiramateの合剤)とアリーナ(Nasdaq:ARNA)/エーザイのBelviq(lorcaserin)が承認。オレキシジェン/武田薬品のContraveも今年9月に承認され、ニッチな市場で販売競争が行われている。EUはQsymiaもBelviqも承認しなかったため、オレキシジェンが先陣を切る。販売パートナーは決まっていないが、米国での反響が良ければ武田が権利を取得する可能性もありそうだ。

リンク:EMAのプレスリリース

イタリアのニューロン(SIX:NWRN)が開発し同じくイタリアのZambon社が承認申請したXadago(safinamide)も肯定的意見を獲得した。パーキンソン病の治療薬。05年に承認されたテバ/ルンドベックのAzilect(rasagiline)と同じMAO-B阻害剤で、ドパミンの再取込やグルタミン酸の放出を阻害する。Azilectは早期患者に単剤投与することが認められているが、Xadagoはレボドパを服用している中期・後期患者に追加投与する用法だけだ。

パーキンソン病にはレボドパが有効だが、長期間使ううちに有効時間(オン・タイム)が短くなる。Xadagoを追加投与した試験ではオン・タイムが30~50分長期化した。主な有害事象はジスキネジア、傾眠/不眠、眩暈、頭痛、悪心、起立性低血圧など。

早期患者向けが支持されなかったのは治療効果が穏やかであることや、新薬のニーズがそれほど切実ではないことが理由である模様。

米国でも5月に承認申請されたが、書類の目次の不備や添付文書がガイドラインに従っていないことから、受理されなかった。日本はMeiji Seikaファルマが開発販売権を保有。

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:両社のプレスリリース

アクタヴィス(NYSE:ACT)が11月に6.75億ドルで買収したDurata社のXydalba(dalbavancin、米国名Dalvance)も肯定的意見を得た。グラム陽性菌による急性細菌性皮膚皮膚構造感染症に用いる。バンコマイシン系でMRSAにも活性を持ち、一週間置いて二回の点滴で足りることが特徴。今年5月に米国でも承認されている。

米国は04年、欧州は07年に承認申請されたが、試験の内容が良くなかった模様で再試験を実施。バンコマイシン(必要に応じてlinexolidも)と比べて効果が非劣性だった。

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:Actavisのプレスリリース

適応拡大では、セルジーン(Nasdaq:CELG)のRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)を多発骨髄腫で造血幹細胞移植が不適な患者の一次治療及び維持療法に用いることが支持された。MM-015試験では、MPという二剤併用レジメンよりもRevlimidも併用しコース完了後もRevlimidだけ続けるMPR-Rレジメンの方が効果が高かった。

リンク:セルジーンのプレスリリース



Revlimidのライバルである武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)は08年に一次治療の承認を受けている(維持療法は無い)が、今回、マントルセルリンパ腫の一次治療適応拡大が支持された。造血幹細胞移植不適患者が適応になる。VcR-CAPという5剤併用レジメンで、臨床試験ではR-CHOP5剤併用レジメンよりPFSがメジアン11ヶ月長く、ハザードレシオ0.63だった。

Swedish Orphan BiovitriumのXiapex(collagenase clostridium histolyticum、米国名Xiaflex)はデュピュイトラン拘縮に承認されているが、ペロニー病に用いる適応拡大が肯定的意見を得た。コラーゲン分解酵素で、ペニスに良性のしこりができることによる痛みや弯曲を治療する。

Auxilium(Nasdaq:AUXL)の開発品。AuxiliumはEndo International(Nasdaq:ENDP)と合併する予定。

【承認】


FDAがアッヴィの4剤併用抗HCV薬を承認

(2014年12月19日発表)

FDAは、Viekiraパックを遺伝子型I型HCVによる慢性C型肝炎の治療薬として承認したと発表した。平行開発された三種類の新薬とritonavirの併用レジメンで、患者によっては12週間の治療で完了する。また、患者によってはribavirinを併用しなくてもよいので、かっての標準療法であるインターフェロンもribavirinも要らない、経口剤だけの治療法になる。

4剤のうち3剤は合剤で、NS5A阻害剤ombitasvir、NS3/4A阻害剤paritaprevir、3A4阻害剤ritonavirを配合。二錠を一日一回服用する。もう一剤は非核酸系NS5Bポリメラーゼ阻害剤dasabuvirで一日二回服用する。

この二錠を12週間服用するが、遺伝子型Ia型や肝硬変、肝移植患者はribavirinも併用。Ia型且つ肝硬変合併は24週間服用する。奏効率は95~100%と高い。

値段も高い。米国では12週間分が83319ドルで販売される模様で、これは、一日一回一錠服用するだけで足りるギリアド(Nasdaq:GILD)のHarvoni(NS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvirとNS5A複製複合体阻害剤ledipasvirの合剤)の63000~94500ドル(患者特性に応じて服用期間と薬剤費が異なる)と良い勝負である。

尤も、新薬が三剤もあり、paritaprevirはEnanta(Nasdaq:ENTA)からのライセンス品であることを考えれば、競争を意識して価格を抑えたと言っても良いだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:アッヴィのプレスリリース

アストラゼネカ、PARP阻害剤が欧米で承認

(2014年12月18日、19日発表)

アストラゼネカは、Lynparza(olaparib)が欧州と米国で相次いで承認されたことを発表した。06年にKuDOSを2億ドルで買収して入手、一度は開発中止の危機に陥ったが蘇った。米国の承認もウルトラCを使ったという印象だ。

Lynparzaはpoly ADP-ribose polymerase(PARP)阻害剤で、BRCA変異患者の卵巣癌に用いる。PARPとBRCAはどちらも遺伝子の修復に関わる蛋白で、BRCAに機能喪失変異を持つ人は乳癌や卵巣癌のリスクが持たない人より高い。癌細胞は活発に分裂するため遺伝子変異が起きやすいが、BRCA変異患者のPARPを阻害すると修復メカニズムが機能しなくなるため、癌細胞を抑制できる可能性がある。

第二相試験に基づく承認なのでエビデンスは明確ではなく、そのためか、欧州と米国では適応が若干異なっている。欧州は白金薬レジメンに反応した患者の維持療法として単剤投与する。BRCA変異は生殖細胞変異でも体細胞変異でも良い。米国も同じ適応で申請されたが、諮問委員会で13人の委員のうち11人が承認に反対した後に、変更された。BRCA生殖細胞変異型卵巣癌の4次治療として単剤投与する。米国は加速承認なので、進行中の第三相試験で効能を確認する必要がある。

FDAはMyriad Genetic LaboratoriesのBRCA血液検査もPMA(販売前申請)を優先審査で承認した。同社のラボで検査する。

欧州承認の根拠となった第二相試験はフェールしたが、BRCA生殖細胞変異患者の事後的分析ではPFSがメジアン11.2ヶ月と偽薬の4.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.18だった。主評価項目がフェールした後の事後的解析なので意義は曖昧だが、p値は0.00001を下回った。全生存の解析はハザードレシオ0.74、有意ではなかった。

米国承認の根拠となった第二相単群試験では客観的反応率が34%、反応持続期間はメジアン7.9ヶ月だった。

主な有害事象は悪心、嘔吐、疲労、貧血など。深刻な有害事象では骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病が見られたようだ。



リンク:アストラゼネカのプレスリリース(欧州承認、18日付)

リンク:FDAのリリース(米国承認、19日付)

リンク:アストラゼネカのプレスリリース(同)

リンク:Myriadのプレスリリース(同)

MSDが買収する企業の抗生剤が米国で承認

(2014年12月19日発表)

FDAは、Cubist(Nasdaq:CBST)のZerbaxaをグラム陰性菌による複雑尿道感染症と複雑腹腔内感染症の治療薬として承認したと発表した。アステラス製薬が創製・アウトライセンスしたセフェム系抗生剤ceftolozaneと、大鵬薬品が創製したベータ・ラクタマーゼ阻害剤tazobactamの静注用合剤で、後者の適応症ではmetronidazoleと併用する。臨床試験では効果が既存の薬と非劣性だった。院内感染細菌性肺炎でも第三相試験中。

CubistはMSDが84億ドルで買収を決めたばかり。合意直後に主力製品であるCubicinの特許裁判でGE薬メーカーに有利な判決が出る不運に見舞われ、20~30億ドル分払い過ぎとも言われているが、Zerbaxaは順調に承認された。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Cubistのプレスリリース

アルコンの外耳炎用薬が米国で承認

(2014年12月17日発表)

FDAは、Xtoro(finafloxacin)を急性外耳炎治療薬として承認した。キノロン系抗菌剤の懸濁液。主な有害事象は耳の痒みや悪心。ノバルティスの子会社であるアルコンの製品。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年12月14日

海外医薬ニュース2014年12月14日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:ノバルティス、CAR-Tのフォローアップデータ発表
  • ASH:アドセトリスの地固め療法が成功
  • 大塚・ルンドベック、OPC-34712のデータ発表
  • SABCS:アフィニトールの一次治療試験はフェール
  • SABCS:afatinibの乳癌試験がフェール
  • ガーダシル9が米国で承認
  • リリーの抗癌剤が適応拡大
  • アストラゼネカ、オピオイド誘導性便秘薬がEUで承認


【新薬開発】


ASH:ノバルティス、CAR-Tのフォローアップデータ発表

(2014年12月6日発表)

ノバルティスはASH(米国血液学会)でCTL019の小児急性リンパ芽球性白血病試験の追加データを発表した。再発性難治性の39例中36例、92%が完全寛解し、1年生存率は75%だった。

CTL019はペンシルバニア大学の研究者が開発したCAR-T(キメラ抗原受容体-Tセル)療法で、Bセル腫瘍の治療法として注目されている。Bセル特異的な抗原であるCD19とTセル受容体の細胞内シグナル伝達ドメインであるCD137及びCD3ゼータをリンカーで結んだ蛋白の遺伝子を、レンチウイルスを用いて患者から採取したTセルに導入、培養・活性化した上で患者に戻すと、Tセルが体内で増殖しBセルを攻撃する。ノバルティスはペン大とCAR-Tの研究開発商業化で提携しており、CTL019の権利を保有している。

副作用は、応答したすべての患者でサイトカイン放出症候群が発生、1/3は治療が必要だった。IL-6受容体拮抗剤(中外のアクテムラのことではないか)が有効である模様だ。

自家細胞療法ではデンドレオンのProvenge(sipuleucel-T)が2010年に米国で前立腺癌用薬として承認されたが、高価であることや、抗原提示細胞をex vivoで抗原に感作した後の培養が上手く行かないケースがあることなどから期待されたほど売れず、経営が破綻した。CTL019は培養しやすいのかどうか、何時頃商業化できるのか、気になるところだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ASH:アドセトリスの地固め療法が成功

(2014年12月8日発表)

シアトル・ジェネティクス(Nasdaq:SGEN)と武田薬品は、Adcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)のホジキンリンパ腫地固め療法試験が成功したと発表した。PFS(無進行生存期間)リスクを43%削減する良い内容で、標準療法になるのではないか。

Adcetrisは2011年に米国でホジキンリンパ腫の三次治療及び未分化大細胞性リンパ腫の二次治療向けに承認された抗体薬物複合体で、CD30に結合してリンパ球の内部に入り、タンパク質分解酵素によりリンカーが零落してMMAEが毒性を発揮する。今回の試験は自家造血幹細胞移植を受けたが再発リスクの高い患者を対象に、最長1年間投与した。結果は、試験薬群のメジアンPFSが43ヶ月、偽薬群は24ヶ月、ハザードレシオ0.57でp=0.001。2年無進行生存率は63%対51%でこちらもp=0.001だった。

偽薬群の患者は進行後にAdcetrisを用いることが可能であったせいか、全生存の中間解析は両群大差なかったようだ。最終解析は2016年の予定。主な有害事象は末梢神経症や好中球減少症など。尚、米国のレーベルでは致死的なPML(進行性多病巣性白質脳症)が枠付警告されている。1回100万円以上の薬なので費用も掛かる。

リンク:武田薬品のプレスリリース(pdfファイル、和文)

大塚・ルンドベック、OPC-34712のデータ発表

(2014年12月10日、11日発表)

大塚製薬と開発販売パートナーであるルンドベックは、OPC-34712(brexpiprazole)の第三相試験結果を学会発表した。鬱病アジャンクト治療試験(抗鬱剤に十分に反応しない患者に追加投与)は2mgを投与した試験が成功、1mgと3mgをテストした試験は後者が成功。統合失調症治療試験は0.25/2/4mgをテストした試験は2mgと4mgが成功、1/2/4mgの試験は4mgだけ成功。

承認を取得するためには二本の独立した試験で偽薬比有意な治療効果を確認する必要があるが、この二つの疾患は病状評価スコアの感受性があまりよくなく、治験がしばしばフェールする。今回の試験では二本成功したのは統合失調症の4mgだけであり、用量反応相関域も明確ではないが、成功しただけで立派だ。今年7月に米国で承認申請された。

OPC-34712は大塚/BMSのベストセラー非定型向精神薬Abilify(aripiprazole、和名エイビリファイ)の類縁体で、D2受容体に対する活性が低く、5-HT1A/2A受容体結合力が高い由。臨床的なプロファイルがどう異なるのかは不明だが、承認後に実際に使ってみて確かめることになるだろう。向精神薬は用量に関しても承認内容通りに使われるわけではなく、承認さえ取ってもらえればあとは自分たちで至適用量を調べる、というのが専門医の考え方だ。

リンク:両社のプレスリリース(鬱病試験、10日、pdfファイル、和文)

リンク:両社のプレスリリース(統合失調症試験、11日、pdfファイル、和文)

SABCS:アフィニトールの一次治療試験はフェール

(2014年12月12日発表)

ノバルティスはサン・アントニオ乳癌会議でAfinitor(everolimus)の第三相her2陽性末期乳癌一次治療試験の結果を発表した。第二相二次治療試験では良さそうな結果が出たのが、併用薬が異なるせいか、フェールした。

Afinitorは09年に腎細胞腫、12年には乳癌に承認されたが、乳癌の適応・用法はエストロゲン受容体陽性でher2陰性の再発癌にアロマターゼ阻害剤Aromasin(exemestane)と併用する。今回の試験は対象が異なるため、併用薬はpaclitaxelとHerceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)だった。

結果は、メジアンPFSが15.0ヶ月と偽薬を併用した群の14.5ヶ月と大差なく、ハザードレシオは0.89に留まった。事前に設定されたホルモン受容体陰性のサブグループ分析は各20.3ヶ月と13.1ヶ月となり、数値上は良さそうだが有意差は出なかった。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

SABCS:afatinibの乳癌試験がフェール

(2014年12月12日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムはSABCSで、Gilotrif/Giotrif(afatinib)の乳癌適応拡大試験がフェールしたことを発表した。昨年4月に独立データ監視委員会が中止を勧告した。

GilotrifはEGFRとher2を不可逆的に阻害する小分子薬で、EGFR活性化変異型腺腫非小細胞性肺癌の一次治療薬として欧米で承認されている。今回の試験はher2阻害力に期待したもので、Herceptinレジメンを既に受けたher2陽性患者を組入れて、vinorelbineと併用する効果をHerceptin併用と比較した。中間解析で全生存期間が短く、忍容性も悪かったため中止となった。

ベーリンガーは乳癌におけるvinorelbine併用レジメンの開発を断念した。マルチキナーゼ阻害剤はデュアルアクション、トリプルアクションが期待されるが、副作用も多彩になるので良し悪しである。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【承認】


ガーダシル9が米国で承認

(2014年12月10日発表)

FDAは、9種類のHPV(ヒト・パピローマ・ウイルス)型をカバーしたMSDのワクチン、Gardasil 9を承認したと発表した。06年に承認されたGardasilは4種類のHPV型(6、11、16、18)の抗原を含有しているが、新たに子宮頸癌の2割を占める5型(31、33、45、52、58)の抗原も入れることによって、子宮頸癌原因型の87%をカバーできるようになった。

接種対象となるのは9~26歳の女性と9~15歳の男性(性的感染するので根絶には男も接種した方が良い)。効能は、7種類のHPVによる子宮頸、外陰上皮、膣上皮、肛門の癌と6型、11型による

尖圭コンジローマ(性器いぼ)の予防。既にGardasilを接種した人はGardasil 9を接種すべきなのか?おそらく、ACIP(米国のワクチン勧奨委員会)が議論することになるだろう。

HPVワクチンは既にHPV感染している人に対する効果が明確ではないが、事前検査するわけではないので無駄打ちになっても表面化しない。ワクチンは治療薬より安価で忍容性も高く、個々人だけでなく社会全体を守るという意義もあるため、細かいことは気にしない傾向がある。接種後に稀に神経障害や失神が発生することはGardasilやCervarixが日本より先に発売された国でも騒ぎになったが、日本発売時には軽視された。

リンク:FDAのリリース

リリーの抗癌剤が適応拡大

(2014年12月12日発表)

FDAは、イーライリリーのCyramza(ramucirumab)を非小細胞性肺癌の二次治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。docetaxelと併用する。第三相試験では全生存期間がメジアン10.5ヶ月とdocetaxelと偽薬を併用した群の9.1ヶ月を1ヶ月強上回り、ハザードレシオは0.857、p=0.0235だった。グレード3以上の有害事象は好中球減少症(発熱性を含む)、疲労、白血球減少症、高血圧など。扁平上皮腫では肺出血が若干増加した。

CyramzaはVEGFR-2を標的とする完全ヒト化抗体で、抗VEGF抗体のAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)に似ている。今回の試験の延命効果は決して大きくないが、扁平上皮腫はAvastinの効果が確認されておらず恐らく肺出血リスクが高いだろうから、このタイプに関しては意義がありそうだ。

Cyramzaは末期胃癌用薬として今年、欧米で承認された。

リンク:FDAのプレスリリース

アストラゼネカ、オピオイド誘導性便秘薬がEUで承認

(2014年12月9日発表)

アストラゼネカは、Moventig(naloxegol oxalate)がEUでオピオイド誘導性便秘の治療薬として承認されたと発表した。緩下剤に反応しない成人患者に、一日一回経口投与する。ネクター社(Nasdaq:NKTR)が開発したPEG化naloxoneで脳血管関門通過性が低いため末梢選択的にMuオピオイド受容体を阻害、オピオイド常用者の8割で発生する便秘副作用を中和する。米国でもMovantik名で9月に承認された。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年12月7日

海外医薬ニュース2014年12月7日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • バクスター、PEG化第VIII因子を承認申請
  • バイエルも第VIII因子新製剤を欧州で申請
  • アストラゼネカ、イレッサを米国で承認申請
  • FDA諮問委員会がアクタビスの抗菌剤を支持
  • ダクルインザは米国では審査完了
  • アムジェンの二重特異性抗体が米国で承認
  • ジャカビが真性赤血球増加症に承認
  • ベーリンガー、nintedanibが癌でも承認
  • イクスタンジ、EUでもプリキモ承認


【承認申請】


バクスター、PEG化第VIII因子を承認申請

(2014年12月1日発表)

バクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)はBAX 855を米国でA型血友病治療薬として承認申請したと発表した。Advateの血液凝固第VIII因子をネクター(Nasdaq:NKTR)のポリエチレングリコール付与技術でPEG化し半減期を1.4~1.5倍に長期化したもので、12歳以上の第VIII因子補充療法経験者を組入れたルーチン予防試験では、週二回の投与で出血リスクを95%削減した。インヒビターの発生は見られなかった。

リンク:バクスターのプレスリリース

バイエルも第VIII因子新製剤を欧州で申請

(2014年12月4日発表)

Advateと並ぶ第VIII因子のベストセラー、Kogenateを販売するバイエルも複数の持効性製剤を開発しているが、まず、BAY 81-8973をEUでA型血友病の青少年・成人向けに承認申請した。Kogenateの後継品で、培養精製過程でヒトや動物由来の蛋白を用いていない。ルーチン予防試験では週3回の投与で出血リスクを96%削減、週2回投与群も93%削減、インヒビターの発生は見られなかった。

A型やB型の血友病で頻繁に出血する重度患者は、第VIII因子や第IX因子をルーチンに投与して予防するのが一般的になった。AdvateやKogenateのような既存の製剤は2~3日に一回、静注する必要があるが、バイオジェン・アイデックのEloctate(和名イロクテイト)を筆頭に、3~5日に一回で済む新薬が続々と申請・承認されている。

BAX 855やBAY 81-8973は既存勢力の反撃と言える。既存の製剤をベースにしているため、スイッチしやすいだろう。

中外製薬/ロシュも第IX因子と第X因子を架橋して後者を活性化するユニークな作用機序の二重特異性抗体、ACE910/RG6013を開発中。週一回皮注なので簡便だ。尤も、Eloctateも出血管理が良好な患者は週一回に減らせる可能性があるので、重要なのは、何割の患者が週一回で大丈夫なのかという直接比較試験のデータだろう。

リンク:バイエルのプレスリリース

アストラゼネカ、イレッサを米国で承認申請

(2014年12月2日発表)

EGFRチロシンキナーゼ阻害剤Iressa(gefitinib、和名イレッサ)は02年に日本で、03年には米国でも承認された。分子標的薬の第一号であり大きな注目を集めたが、その後の歩みは順調ではなかった。日本では間質性肺疾患が多発しメディアの攻撃を受けた。海外では薬効確認試験がフェールし、米国では05年に服用中の患者を除いて投与禁止となった。末期肺癌用薬なので事実上の承認取消である。その後、非小細胞性肺癌のうちEGFRが活性化変異しているタイプには有効であることが確立、09年にEUで初めて承認された。

アストラゼネカは、Iressaを米国でEGFR活性化変異型非小細胞性肺癌の一次治療薬として新薬承認申請し、受理されたと発表した。最初の承認申請から13年、長い回り道となったが、新薬開発に携わる全ての人々にとって重要な教訓だろう。その薬に最も応答するのはどのような患者なのか?腫瘍学では第二相試験に基づいて承認申請することが珍しくなくなったが、だからといって、大規模な試験を行ってファーマコジノミクスの臨床研究を疎かにしてはいけない。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がアクタビスの抗菌剤を支持

(2014年12月5日発表)

アクタビス(NYSE:ACT)は、FDA抗感染症薬諮問委員会がCAZ-104/CAZ-AVIを二つの適応症で承認することを支持したと発表した。院内感染肺炎も申請していた模様だが、支持されなかった。

CAZ-104/CAZ-AVIは米国では85年に承認された第三世代セフェム系抗生剤、ceftazidimeと、新開発のベータラクタマーゼ阻害剤avibactamの合剤で、前臨床でceftazidime耐性菌にも活性を示した。既に承認されている薬を使っているため、今回の承認申請はFDA法505(b)(2)に基づいて、ceftazidimeに関する過去のデータと合剤の第二相試験のデータを薬効・安全性のエビデンスとした。

第二相試験の対象はグラム陰性菌による複雑腹腔内感染症と複雑尿道感染症だが、ceftazidimeは下部気道感染症などにも承認されているため、アクタビスは院内細菌感染性肺炎の承認も求めたようだ。前者の二適応症については第三相試験が完了したところ。後者は第三相試験中。

これらの背景を考えると、今回の諮問委員会は、新薬開発・承認をスピードアップするためにどこまで譲歩できるかを問うたものと言えるだろう。

結果は、最初の二つの適応症については治療の選択肢が限られているあるいは代替手段がない場合に限定して、腹腔内感染症は12人の委員中11人が、尿道感染症は9人が、承認を支持した。一方、肺炎は、薬効確認試験が完了していないため、全員が反対した。腹腔内感染症試験で腎機能低下患者の死亡率が対照薬を投与した群より高かったことも影を落としたようだ。

avibactamはフォレスト社がアベンティスのスピンアウトであるNovexel社から北米の権利を取得したもの。フォレストは後にアクタビスと合併、Novexelはアストラゼネカに買収され、今日では北米ではアクタビスが、欧州などではアストラゼネカが開発している。この合剤はFDAから適合感染症製品指定を受けているため、様々な優遇策と、承認の暁には、優先審査バウチャーが供与されることになる。

リンク:アクタビスのプレスリリース

ダクルインザは米国では審査完了

(2014年11月26日発表)

BMSはDaklinza(daclatasvir、和名ダクルインザ)を慢性C型肝炎治療薬として承認申請し、日本やEUでは承認されたが、米国ではFDAから審査完了通知を受領した。

DaklinzaはNS5A複製複合体阻害剤で、NS3A/4プロテアーゼ阻害剤asunaprevir(和名スンベプラ)と一緒に平行開発・承認申請されたが、asunaprevirは米国では申請撤回となった。Ia型ウイルスに対する効果がやや弱いことが理由と推測される。FDAがDaklinzaを承認しなかったのは、asunaprevir以外の薬と併用した症例が少ないことが理由のようだ。そういえば、日本で承認された時も、この両剤の併用に限定されていた。

インターフェロンやribavirinを必要としないレジメンが続々と登場していることを考えれば、この二剤併用法の重要性は少なくともIa型に関しては低下した。日本のようにIb型が多い国以外では、他のプロテアーゼ阻害剤と併用試験を行って十分な有効性を示すことが肝要だろう。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認】


アムジェンの二重特異性抗体が米国で承認

(2014年12月3日発表)

FDAは、アムジェンのBlincyto(blinatumomab)を前駆B急性リンパ性白血病用薬として承認した。承認申請の3ヶ月後、審査期限の5ヶ月前のスピード承認。再発性・難治性でフィラデルフィア染色体陰性の患者が適応になる。単群試験では32%の患者が完全寛解しメジアン6.7ヶ月持続した。致死的・命に係るサイトカイン放出症候群と脳症のリスクが枠付警告された。

12年にマイクロメット社を買収して入手した二重特異性抗体(BiTE抗体)で、BセルのCD19に結合する抗体可変領域と細胞傷害性Tセル(cTC)のCD3エプシロンに結合する抗体可変領域をプリペプチドで結合したもの。cTCは抗体受容体を持たないのでBiTE抗体で直接敵を教える。標的や、サイトカイン放出症候群のリスクがある点で、最近流行になりつつあるCAR-T(キメラ抗体受容体Tセル療法)と似ている。

Blincytoはアムジェンとアストラゼネカの日本における開発提携の対象。

リンク:FDAのリリース

リンク:アムジェンのプレスリリース

ジャカビが真性赤血球増加症に承認

(2014年12月4日発表)

FDAは、Jakafi(ruxolitinib、和名ジャカビ)を真性赤血球増加症(PV)に用いる適応拡大を承認したと発表した。PVは10万人に1~3人が罹患する希少疾患で、標準療法は瀉血、二次治療はヒドロキシウリア、Jakafiは三次療法で米国の対象患者は推定25000人。臨床試験では赤血球量管理成功・脾臓縮小奏効率が21%と、医師が選んだ治療法または支持療法のみを施行した群の1%を有意に上回った。日本でも適応拡大申請中。

JakafiはJAK1/2阻害剤で骨髄線維腫に承認されている。インサイト(Nasdaq:INCY)が開発、米国以外はノバルティスが開発販売。

リンク:FDAのリリース

リンク:インサイトのプレスリリース

ベーリンガー、nintedanibが癌でも承認

(2014年11月27日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムはVEGFR阻害剤nintedaibを特発性肺線維症と癌の二領域で開発している。前者はOfevという名称で10月に米国で承認、11月にはEUのCHMPで承認支持を受けた。後者はEUだけで承認申請された模様だが、Vargatef名で承認されたことが発表された。適応は局所進行性、転移性、または局所再発性の腺腫非小細胞性肺癌の二次治療でdocetaxelを併用する。

第三相試験ではPFS(無増悪生存期間)がメジアン4.0ヶ月とdocetaxelだけの群の2.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.77、p=0.0193だった。全生存の解析もメジアン12.6ヶ月対10.3ヶ月、ハザードレシオ0.83、p=0.0359だった。サブグループ分析であるせいか、p値はあまり低くない。Alimtaを併用した第三相試験はフェールした。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

イクスタンジ、EUでもプリキモ承認

(2014年12月2日発表)

アステラス製薬はXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の適応拡大がEUで承認されたと発表した。アンドロゲン枯渇療法に反応しなくなり化学療法もフェールした前立腺癌患者向けに承認されているが、新たに、化学療法が適応になる前の無症候性・軽度症候性患者に用いることが可能になった。米国でも9月に承認済み。

前立腺癌は進行が遅いことが多く、また、手術や放射線療法、抗アンドロゲン療法も有効だが、PSA値が再上昇し始めると次の治療手段を検討することが必要になり始める。高齢者が多いので副作用が比較的強い化学療法を施行するのは症状がある程度強くなってからになる。今回の承認で、状態がそれほど悪化していない患者に使うことができるようになったため、対象患者や治療期間が大きく増加する。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのZytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)が一足先に承認されているが、Xtandiはステロイド(prednisone)を併用しなくても良いので、出番が多そうだ。

リンク:アステラスのプレスリリース(和文)

今週は以上です。

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2014年11月23日

海外医薬ニュース2014年11月23日号



(!! 来週は都合により休刊とさせていただきます。 !!!

【ニュース・ヘッドライン】




  • 優先審査バウチャーの市場価格は100億円以上
  • 抗PD-1抗体の延命効果が明確に
  • AHA:ゼチーアが穏やかな心血管疾患予防効果
  • AHA:DATは1年でも3年でも同じ
  • AHA:アスピリンの初発予防試験は日本もフェール
  • CHMPが8新薬の承認を支持
  • HarvoniがEUでも承認


【今週の話題】


優先審査バウチャーの市場価格は100億円以上

(2014年11月19日発表)

米国は採算の取れにくい病気の新薬開発を促進するために様々な制度を導入しているが、その一つが優先審査バウチャーだ。顧みられない熱帯病や小児の希少疾患に用いる薬の承認を取得すると交付され、別の薬を承認申請する時に優先審査を求めることができる。通常の審査期間は承認申請受理から10ヶ月間だが6ヶ月に短縮できれば開発競争の激しい分野では価値がある。自分で使っても良いし、第三者に譲渡することもできる。

では、どれくらいの価値があるのか?最初に表面化したのはバイオマリンのディールだ。モルキオA症候群治療薬Vimizim(elosulfase alfa)で獲得した希少小児疾患優先審査バウチャーをリジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィに6750万ドルで売却した。

両社は共同開発している抗PCSK9完全ヒト化抗体、alirocumabの承認申請に用いる予定だ。アムジェンが類薬を先に承認申請しており、差を縮めるための切り札にする。一方のバイオマリンは希少疾患治療薬の開発に特化しており、バウチャーが無くても優先審査されるだろうから、売却したのは自然の成り行きである。

今回、二つ目のディールが表面化した。ナイト・セラピュティクス(TSX:GUD)がリーシュマニア症治療薬Impavido(miltefosine)の承認で獲得した熱帯病優先審査バウチャーをギリアド(Nasdaq:GILD)に1.25億ドルで売却したのだ。ギリアドは使途を明らかにしていない。

新薬の開発コストは数億ドルとも十数億ドルとも言われるが、熱帯病や希少疾患領域は様々な公的・民間支援が得られるのでもっと少ないだろう。1億ドルは大きく、難病対策として有効な手法だ。

リンク:ナイト社のプレスリリース

【新薬開発】


抗PD-1抗体の延命効果が明確に

(2014年11月16日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発している抗PD-1ヒト化抗体、Opdivo(nivolumab)の治験論文がNew England Journal of Medicine誌のウェブサイトで先行公開されたと発表した。

BRAF変異型ではない末期黒色腫の一次治療薬としての延命効果をdacarbazineと比較した第三相試験で、今年6月に中間解析で主目的を達成したことが公表された。ハザードレシオ0.42、99.79%信頼区間0.25~0.73、p値は0.001を下回った。メジアン生存期間はOpdivoは未達、dacarbazine群は10.8ヶ月、1年生存率は各73%と42%だった。忍容性は対照薬より良好で、有害事象による治験離脱の発生率は6.8%対11.7%、G3/4有害事象は11.7%対17.6%だった。

米国ではBMSのYervoy(ipilimumab)が二次治療限定なしで承認されたため、別途、Yervoyと比較・併用する第三相試験が進行中。併用は忍容性が課題であるように感じられるので、単剤同士の比較が注目される。

抗PD-1療法は過去の免疫強化療法と異なり、反応率が比較的高く、多くの患者に延命効果をもたらす。今回のデータはこの期待を裏切らないものだった。応答性とPD-L1発現状況の関連性が注目されているが、今回の試験では陽性にも陰性にも有効であった模様だ。

電子刊行は学会発表に合わせたものだが、BMS/小野薬品と熾烈な開発競争を行っているMSDもKeytruda(pembrolizumab)の延命効果に関連する学会発表・プレスリリースを出した。Yervoyに反応しなかった患者を組入れた540人規模の大規模な第二相試験で、承認されている用量(2mg/kgを3週間に一回)と高用量(10mg/kg、3週間に一回)の延命効果とPFS(無進行生存期間)を医師の選んだ化学療法と比較したもの。

PFS(盲検による独立中央評価)のハザードレシオは承認用量が0.57、高用量0.50、何れもpは0.0001を下回り、用量間の差は有意ではなかった。もう一つの主評価項目である全生存期間のデータは未だのようだ。

抗PD-1療法は様々な癌に有効である可能性がある。化学療法を受けると免疫力が低下する可能性があるのでその前に一次治療で用いるほうが好ましいかもしれないが、そうなると、様々な一次治療薬との併用試験を行う必要があり、開発費が嵩む。先週もドイツのメルクとファイザーが抗PD-1/PD-L1療法領域で提携したが、このような提携戦略は活発に行われるだろう。、

リンク:
OpdivoのNEJM論文(オープンアクセス)


リンク:MSDのリリース(11/16付)

AHA:ゼチーアが穏やかな心血管疾患予防効果

(2014年11月17日発表)

MSDはezetimibeの心血管疾患予防効果を検討したIMPROVE-IT試験が成功したことを正式に発表した。AHA科学部会での発表に合わせたもの。LDL-C治療薬の心血管疾患抑制作用はLDL-C低下率と相関すると考えられているが、この試験でも概ね整合的な結果、即ち、穏やかなLDL-C低下作用に見合った穏やかな予防効果が示された。

この試験は急性冠症候群を発症して10日以内の患者を組入れて、同社のsimvastatin(40mg)とVytorin(simvastatinとezetimibeの合剤、前者は40mgを使用)の効果を比較した二重盲検試験。各群のLDL-C値は1年後に69.9mg/dLと53.2mg/dLに低下しており、70mg/dL以下に引き下げる強化治療の有効性を検討した試験の一つと考えることもできる。

当初の解析計画では1万人を2年間追跡してリスクを9.375%削減する効果を検出する予定だったが、途中で目標症例数と追跡期間が拡大され、結局、1.8万人をメジアン6年間追跡した。このため、開票が3~4年遅れることになった。ezetimibeと言えばENHANCE試験の結果が中々公表されずデータ隠しの疑いが浮上したことがあり、色々な意味で注目されていた。

結果は、ハザードレシオ0.936、p=0.016で高度ではないが有意な再発予防効果が示された。各群の発生率は7年時点のカプラン・マイヤー推定で34.7%と32.7%だった。死亡リスク削減効果は見られなかった。もう一つ重要な注目点であった癌の発生率は各群10%で大差なかった。

NNTは50となるが、年率だと350、つまり、350人に1年間投与すると一人を心筋梗塞・脳卒中・心血管死から救うことができる。Vytorinの価格を年2500ドルとすると一人を救うコストは87万ドル、約1億円。日本では承認されていないのでゼチーア(ezetimibe)の価格を使うと3000万円。医療予算は無限ではないので、この費用対効果を他の治療法や他の病気の治療コストと比べた上で適否を判断することになる。尤も、この試験では4割以上の患者が途中で服用を止めたので、実際の費用はもっと小さいかもしれないが。

ezetimibeは忍容性がスタチンより高く、スタチン不耐患者には重要な選択肢だ。しかし、この試験の対象であるスタチン耐用患者に関しては、simvastatinより効果の高いスタチンを使うという選択肢もありそうだ。尚、この試験は心筋梗塞リスクが高い既往患者が対象であり、未発患者にも強化療法が有益とは限らない。常識的に考えればNNTが更に低下するだろうから、否定的に考えた方が良さそうだ。

リンク:MSDのプレスリリース

AHA:DATは1年でも3年でも同じ

(2014年11月16日発表)

冠動脈介入術でDES(薬物溶出ステント)を留置した後のDual Antiplatelet Therapy(DAT:アスピリンとチエノピリジンの併用)は、12ヶ月間と30ヶ月間のどちらが至適か?FDAの問題提起に医学者とステントメーカー、製薬会社が呼応して実施したDAT試験の結果がAHAで発表され、New England Journal of Medicine誌に論文先行公開された。NEJMのウェブサイトによるとこの論文のアクセスは4万件以上、ランキング二位となっており、いかに注目されていたかが分かる。

結果は常識的なものであった。ステント血栓の発生率は30ヶ月群が0.4%、12ヶ月で止めた群が1.4%、ハザードレシオ0.29、pは0.001未満。もう一つの主評価項目である主要心血管脳血管有害イベントは各4.3%、5.9%、0.71、0.001未満。一方で、中重度出血の発生率は2.5%対1.6%、p=0.001。効果もあるがリスクもあることが確認された。心血管疾患死は各群大差なかった。

結局、心筋梗塞などのリスクが高くDATに耐容する患者はDATを長く続け、それほど高くない、あるいはDATに不耐/出血リスク因子を持つ患者は早めにアスピリンのみにする、と使い分けるのが至適ということになりそうだ。

この試験のデザイン上の制約は、第一に、12ヶ月間のDATを終えた患者を組入れたこと。DES留置後1年以内に血行再建術などを受けた患者は除外されたので、本当に高リスクな患者は対象外だったことになる。また、DESはCypherが47%、チエノピリジンはPlavix(clopidogrel)が65%、適応症は安定狭心症が37%を占めたが、他のDESやEfient(prasugrel)、心筋梗塞患者なども含まれているので、分かり難いところがある。

DAT試験は複数の試験を同一のデザインで実施し結果を統合したものだが、その一つであるTaxus LiberteとEfientの試験結果もAHAで発表された。効果はDAT試験全体と同様だったが出血リスクは高まらなかった。Efientなら効果も出血リスクも高まりそうなものだが、今後、他のサブスタディの結果が公表されれば、全体像が見えてくるだろう。

大規模アウトカム試験は重要なエビデンスだが、難しいのは、大規模長期試験を行っているうちに世の中が変わってしまうリスクがあることだ。NEJMのエディトリアルや医療メディア報道を読むと反応は結構冷淡。今日では3~6ヶ月で止めるのが一般的になりつつあるので、この手法と30ヶ月を比較すべきだったというのだ。また、DESも日進月歩なので、いつまで経ってもエビデンスが追い付けない状態になっている。

リンク:DAT試験論文(NEJM、オープンアクセス)

さて、この試験では大きな問題が浮上した。死亡率が2.0%対1.5%、ハザードレシオ1.36、p=0.05と高かったのだ。実数は98例対74例で24例の差。上記のように心血管疾患によるものは同程度だったが、癌による死亡が31例対14例、p=0.02、出血による死亡が11例対3例、p=0.06と増加し、この二つで差を説明できる。

癌死が多かったのは治験開始時点で既に癌だった患者の数に偏りがあったことが原因かもしれない。研究者らが行ったチエノピリジンの試験のメタアナリシスでは有意な差は無かった。しかし、Plavixの日本試験で癌の発生が、Efientの海外試験では癌の死亡が偽薬群より多かったことがあり、3年間追跡した大規模な試験は今回が初めてなので、軽々には結論を出せないだろう。FDAはこのデータを検討する旨、発表した。

リンク:FDAのリリース

AHA:アスピリンの初発予防試験は日本もフェール

(2014年11月17日発表)

JPPP試験の結果がAHAとJAMA誌で発表された。アスピリンの心筋梗塞初発予防効果を検討したもので、海外の試験と同様にフェールした。結果は残念だが、こういうキチンとした試験を行った経験は今後の臨床研究に役立つだろう。

JPPP試験は高血圧などのリスク因子を持つ60~85歳の患者14000人以上を組入れてアスピリン(100mg)の心血管疾患予防効果を検討したもの。急速に高齢化が進む日本にとって重要な試験だ。1007施設のプライマリーケア医が参加した。二重盲検ではないが、いわゆるソフトなエンドポイントは採用されず、担当医の評価を第三者が査読したので主観性・恣意性は高くない。この試験のもう一つの長所は、女性が過半を占めたこと。

結果は、中間解析で無益性が認定され、メジアン5年間の追跡で繰上完了した。心筋梗塞・卒中・心血管疾患死の発生率はアスピリン群が2.77%、対照群が2.96%、ハザードレシオは0.94で95%信頼区間は1を跨ぎ、p=0.54だった。非致死的な心筋梗塞のリスクは47%削減、有意だったが、輸血や入院を必要とする頭蓋外出血が1.8倍に増加、こちらも有意だった。結局、効果はあるがリスクも大きいことになる。

リンク:JAMA論文(オープンアクセス)

【承認審査・委員会】


CHMPが8新薬の承認を支持

(2014年11月21日発表)

EUの承認審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会議で以下の8新薬に関して肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク:EMAのプレスリリース

サノフィの子会社であるジェンザイムが開発したCerdelga(eliglustat tartrate)はI型ゴーシェ病の治療薬。グルコシルセラミド合成酵素阻害剤で、酵素補充療法とは異なり一日二回の経口投与で治療することができる。CYP2D6の機能が著しく高いultra-rapid metabolizersは適応外。EUのゴーシェ病患者は15000人と推測されている。米国では8月に承認された。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

アッヴィは二種類の慢性C型肝炎治療薬が支持された。一つはViekirax(paritaprevir、ritonavir、ombitasvir)で、NS5A複製複合体阻害剤と3A4阻害剤、そしてNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤の合剤。一日一回、経口投与する。ritonavir以外は新規活性成分。もう一つはNS5Bポリメラーゼ阻害剤Exviera(dasabuvir)で、一日二回経口投与。

遺伝子型1型と4型が適応になる模様だ。臨床試験はこの二剤だけあるいはribavirinと三剤併用で実施された。インターフェロンを必要としない経口剤だけの治療が可能。ギリアドのHarvoni(sofosbuvirとledipasvirの合剤)は一日一回一錠なので、利便性はやや見劣りする。

リンク:アッヴィのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib)は、9月に腺腫非小細胞性肺癌の二次治療薬として肯定的評価を受けたが、今度は特発性肺線維症用薬としての承認が支持された。VEGF受容体など、肺線維芽細胞の増殖に関わる受容体のキナーゼを阻害する。米国では10月に承認された。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

ノバルティスの抗IL-17A完全ヒト化抗体Cosentyx(secukinumab)は中重度乾癬の治療に用いる。既存薬不応だけでなく一次治療も可。300mg皮注。FDAの諮問委員会用資料によると、最初は週一回、5回目からは4週間に一回投与する用法のようだ。米国では10月の諮問委員会に上程され、全員の支持を得た。抗IL-17A抗体はTNF阻害剤と同様に様々な疾患に有効である模様で、Cosentyxは乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の第三相試験も成功した。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:同(乾癬性関節炎試験の結果、11/16付)

リンク:同(強直性脊椎炎試験の結果、11/15付)

セルジーン(Nasdaq:CELG)のPDE-4阻害剤、Otezla(apremilast)は中重度の乾癬や乾癬性関節炎で紫外線療法や標準的な経口剤に十分に反応しない患者の二次治療に用いる。一日二回、経口投与する。米国では今年3月に乾癬性関節炎で、9月に乾癬でも、承認。

リンク:セルジーンのプレスリリース

塩野義製薬のSenshio(ospemifene、米国名Osphena)は閉経後の膣萎縮症でエストロゲンの局所性製剤が不適な患者に用いる、選択的エストロゲン受容体調節剤。QuatRx Pharmaceuticalsから北欧以外の権利をライセンスしたもの。

MSDのZontivity(vorapaxar)は心筋梗塞の再発予防に用いる。アスピリンと、適応になる場合はPlavixも併用する。米国では5月に承認された。PAR-1阻害剤で、トロンビンが血小板のPAR受容体に結合して活性を高めるのを阻害する。尚、Zontivityと前述のezetimibe、Keytrudaの三剤は何れもシェリング・プラウを買収して入手したものだ。

この他に、09年に承認されたLaboratoire HRA Pharmaの緊急避妊薬、ellaOne(ulipristal acetate)を処方箋の要らない店頭薬として販売することも支持された。レイプの被害者などが容易に入手できるようにする。既にlevonorgestrel配合剤が店頭薬として販売されているが、72時間以内の服用が必要。ellaOneは120時間以内。

リンク:EMAのプレスリリース

多くの新薬が承認された一方で、テバはEgranli(balugrastim)の承認申請を商業上の理由で撤回した。アムジェンのNeulasta(pegfilgrastim、和名ジーラスタ)とシミラーな持続性G-CSF製剤。CHMPは9月に承認を支持したが、米国は昨年、申請撤回された。テバはratiopharm買収で入手したLonquex(lipegfilgrastim)を13年にドイツなどで発売しており、拘る必要がなかったのだろう。

リンク:EMAのEgranilに関する質疑集

【承認】


HarvoniがEUでも承認

(2014年11月18日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)は、HarvoniがEUで遺伝子型1型と4型の慢性C型肝炎の治療薬として承認されたと発表した。NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirとNS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvirの合剤で、後者は1月にSovaldi名で承認されている。一日一回、一錠を服用するだけで治療できるので簡便。治療期間は遺伝子型や治療歴や肝硬変の合併状況などに応じて8週コース、12週コース、24週コースの中から選択する。

リンク:ギリアドのプレスリリース

Harvoniは米国で12週間分の価格が9.5万ドルと大変高価な薬だが、案の定、欧州ではもう少し安くなるようだ。報道によるとフランスはSovaldiを26%引きの4.1万ユーロ、5.1万ドルで調達することでギリアドと合意した。米国でも大口割引はあるのだろうが、フランスの患者は20万人なので超大口割引を獲得。患者負担ゼロで提供する由だ。Harvoniも4.8万ユーロ、6万ドルで調達することで暫定合意した模様。

今週は以上です。

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2014年11月16日

海外医薬ニュース2014年11月16日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • AHA2014の見どころ
  • エボラの臨床試験が12月に開始
  • デンドレオンが民事再生手続きを申請
  • アムジェンの抗IL-17A受容体抗体も第三相が成功
  • サノフィのLemtradaが米国でも承認
  • アバスチン、米でも卵巣癌承認


【今週の話題】



AHA2014の見どころ

本日11月16日からAHA米国心臓協会のサイエンティフィック・セッションが始まる。今年の注目は抗血小板薬とエゼチミブのアウトカム試験、そして新規のLDL-C治療薬である抗PCSK9抗体の第三相試験データだ。

日曜日のLate-Breaking Clinical Trialsでは、PCI(経皮的冠介入術)後のADP受容体拮抗剤の至適投与期間を検討した複数の試験の結果が発表される予定。

DES(薬物溶出ステント)は薬物を溶出しないステントよりも血栓リスクに長く晒されることが判明したため、Plavix(clopidogrel、和名プラビックス)のようなADP受容体拮抗剤をアスピリンと併用するDual Anti-Platelet Therapy(DAT)を1年以上続けて予防するのが一般的になった。しかし、費用や出血リスクも伴うので、大規模なアウトカム試験で便益と危険を定量化することが求められている。

AHAで発表されるDAPT試験はFDAと学会、メーカーが協力してデザインした大規模アウトカム試験なので、重要なエビデンスになるだろう。同様なテーマを追求したISAR-SAFEなどの結果も発表される予定。

月曜日は待ちに待ったIMPROVE-ITの結果が判明する。Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)のアウトカム試験で、急性冠症候群で再発リスクの高い患者1.8万人をsimvastatinだけの群とZetiaを併用する群に無作為化割付して、死亡・心筋梗塞・急性冠症候群による再入院・冠動脈再開通術のリスクを比較したもの。別途、投与期間中だけの解析結果も発表される模様(通常は投与中止後数日・数週間のイベントも含めて解析する)。

ZetiaのLDL-C低下作用は1割と小さいため、リスク削減率も小さいだろう。それでも、他のアウトカム試験やアテローム治療試験(ENHANCE試験)がフェールしたZetiaにとっては貴重なエビデンスになりそうだ。

結果は未公表だが、最悪の事態は回避したようである。Zetiaとsimvastatin配合剤VytorinはMSDがシェリング・プラウを買収して入手した製品で、無形資産がバランスシートに計上されているが、SECに提出された財務報告書によると、MSDはIMPROVE-ITの結果を評価した結果、この無形資産の減損を計上する必要はないと判断した由。つまり、IMPROVE-ITの結果が発表されても両剤の売上高が急減する可能性は無い。十分なエビデンスを持たない薬を12年間に亘り使い続けた医師には朗報だろう。

月曜日は、日本のJPPP試験の結果も発表される。アスピリンの一次予防アウトカム試験で、動脈硬化性疾患の危険因子を持つ60~85歳の患者1.5万人を組入れて、腸溶性アスピリン100mgの脳卒中・心筋梗塞予防効果を検討したもの。オープンレーベル試験であることが難点だが、客観性の高いハードなエンドポイントだけをカウントした模様なので、日本の他のアウトカム試験より優れている。

日本は高齢者医療のエビデンス作りで先陣を走るべきであり、JPPPはこの期待にも応えている。症例の過半が女性である点も好ましい。

更に、リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発している抗PCSK9抗体、REGN727/SAR236553(alirocumab)の数々の第三相試験の結果が発表される予定。

抗PCSK9抗体はLDL-Cを5割近く削減する効果を持つが、皮注であることのほかに、そもそもスタチンと同じような心血管疾患予防効果があるのかという疑問がある。ナイアシンやフィブラートの心血管アウトカム試験がフェールしたことから、LDL-Cが下がればそれで良いとは言えなくなった。alirocumabは第三相試験のポストホック分析で第三者査読によるMACE(主要有害心血管イベント)が対照群の半分で有意に少なかった。イベント数が少ないため未だ何とも言えない模様だが、各試験のデータが揃えばイメージが湧くだろう。

エボラの臨床試験が12月に開始

(2014年11月13日発表)

国境なき医師団(MSF)はエボラウイルス性疾患で初の臨床試験を12月に開始することを明らかにした。ワクチンを含めれば様々な臨床試験が進行中だが、MSFが治験に参加するのは珍しい。

一つはフランスの国立保健医療研究所の主導で、ギニアで200人の被験者に富山化学/富士フィルムのアビガン(ファビピラビル)を投与する。もう一つはオックスフォード大学主導で140人にChimerix(Nasdaq:CMRX)のbrincidofovirを投与する。治験実施施設は未定。更に、アントワープ熱帯病研究所の主導でエボラから回復した患者の回復期血漿をギニアの患者に投与する。何れも偽薬群は設定せず、14日生存率を主評価項目とする。

この二剤が選ばれたのは、どちらも別の適応症で開発が進められ、纏まった数の入手が可能だからだろう。偽薬対照試験ではないので本当の効果や安全性は確認できないが、サルの試験の結果が公表されれば、このようなケースで望むことができる最良のエビデンスを得ることができるだろう。

MSFは、治験薬を提供するメーカーに対して、試験の結果が判明する前に量産を開始して成功なら直ぐに配布できる体制を整えるよう要請した。治験のデザインを考えればもし効果が無くても悪い結果になる可能性は低いので、リーズナブルは意見だ。MSFは手の届く価格で提供することも求めた。11月2日号で書いたように、流行三ヶ国の一人当たりGDPは700~1400ドルで日本の26~53分の1である。タミフル並みなら一人1600円程度だが、数百円が求められるかもしれない。

リンク:MSFのプレスリリース

デンドレオンが民事再生手続きを申請

(2014年11月10日発表)

前立腺癌の細胞療法を実用化したことで有名なデンドレオン(Nasdaq:DNDN)が米国破産法の民事再生手続き、チャプター11の適用を申請した。Provenge(sipuleucel-T)の承認から4年、あまりにも早い転落だ。

Provengeは非症候性転移性去勢抵抗性前立腺癌の患者からアフェレーシスで採取した抗原提示細胞をPA2024腫瘍抗原とGM-CSFで感作し、体内に戻すもの。臨床試験では全生存期間のハザードレシオが0.775、p=0.032と統計学的にまあまあ有意な延命効果を示した。事業面では三種類の異なった課題に直面した。第一は、治療に必要な量を培養できるとは限らないこと。第二は患者一人当たり9.3万ドルと高価であること。第三は、その後に多くの新薬が承認され競争が激化したこと。

承認当時は年商10億ドル超の見方もあったが、3億ドル前後に留まった。最初の第三相試験を開始したのが2000年、フェールしたが二本目の試験のデータで承認申請したのが06年、承認が10年と、第三相からでも10年を掛けて開発した薬が行き詰ってしまったのは印象的だ。承認・発売はゴールではなく出発点に過ぎないことを改めて痛感する。

リンク:ウォール・ストリート・ジャーナルの記事

【新薬開発】


アムジェンの抗IL-17A受容体抗体も第三相が成功

(2014年11月11日発表)

アムジェンとアストラゼネカはAMG827(brodalumab)の二本目の第三相中重度乾癬試験が成功したと発表した。ジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab)を投与した群と比べても奏効率が高かった。AMG827はIL-17受容体のAユニットに結合する完全ヒト化抗体。IL-17Aを標的とする抗体医薬はノバルティスのCosentyx(secukinumab)が日米欧で承認審査中だが、こちらもアムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)より高い奏効率を示した。

主評価項目のPASI75奏効率は、偽薬、140mg、210mg、Stelaraの各群が6.0/69.2/85.1/69.3%となり、二用量とも偽薬を有意に上回った。Stelaraとの比較は奏功のハードルが高いPASI100で行われ、各群0.3/27.0/36.7/18.5%となりAMG827の勝ち。重篤な有害事象の発生率は1.0/1.6/1.4/0.6%で大差なかった。

AMG827はStelaraやCosentyxと同じ皮注用薬だが、投与頻度がAMG827は2週間に一回でStelaraの4週間に一回より多い。Cosentyxは最初は週一回で4回投与し、その後は4週間に一回。効果や忍容性だけでなく、この違いも重要なポイントになるだろう。

アムジェンは炎症領域の抗体医薬5品目に関してアストラゼネカと共同開発提携を結んでおり、AMG827はその一つ。日本や中国などでは協和発酵キリンが独占開発販売権を取得している。

Cosentyxは乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の第三相も成功しており、IL-17RA/IL-17A介入薬の用途は多そうだ。イーライリリーも抗IL-17Aヒト化抗体LY2439821(ixekizumab)を15年に中重度乾癬治療薬として承認申請する予定。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


サノフィのLemtradaが米国でも承認

(2014年11月14日発表)

サノフィの子会社であるジェンザイムは、FDAがLemtrada(alemtuzumab)を再発寛解型多発性硬化症の維持療法として承認したと発表した。CD52を標的とするヒト化抗体で、点滴静注薬だが、5日連続投与すれば次は1年後に3日連続投与するだけで済む。

深刻な有害事象が枠付警告された。命に係る可能性もある自己免疫疾患や点滴箇所反応、甲状腺癌や黒色腫、リンパ増殖性疾患などだ。投与を完了した後も4年間、定期的に検査してこれらの副作用が発生していないかチェックする必要がある。

白血病ではCampath/MabCampath名で販売されていたが、需要が小さく、価格がLemtradaより割安であるため、サノフィは多くの国で販売を中止した。米国ではLemtradaの価格が2年分で15.8万ドルとなる模様だが、Campathを流用出来たら半額で済むはずだった。尚、マブキャンパスは9月に薬事・食品審議会医薬品第二部会を通過した。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

アバスチン、米でも卵巣癌承認

(2014年11月14日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Avastin(bevacizumab)が白金薬抵抗性卵巣癌の三次治療薬としてFDAに承認されたと発表した。paclitaxel、topotecan、PEG化リポソマルdoxorubicinの何れかと併用する。この抗VEGFヒト化抗体の適応症は結腸直腸癌、非小細胞性肺癌、腎細胞腫、神経膠腫、子宮頸癌と合わせて6種類となった。

卵巣癌は他の国では一次治療なども承認されているが、米国では今回が初承認となった。これらの試験ではPFS(無進行生存期間)が有意に延びたが、延命効果は確認されず、今回の承認の裏付けとなったAURELIA試験もハザードレシオ0.89でAvastinを併用しない群と有意な差が無かった。FDAは一次治療薬には延命効果を求めるが、三次治療なら進行が遅れるだけでも十分と判定したのだろう。

リンク:ジェネンテックのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年11月9日

海外医薬ニュース2014年11月9日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • インターセプト、NASH試験の論文刊行
  • アムジェン/武田、trebananibの第三相の一本目はフェール
  • GSK、抗IL-5抗体を承認申請
  • ヴァーテックス、第二の膿胞性線維症用薬を承認申請
  • ギリアド、TAF配合剤を承認申請
  • ベーリンガー、スピリーバを喘息症に適応拡大申請
  • ノバルティス、FDA諮問委員会が再び承認に反対
  • JNJ、ソブリアードとSovaldiの併用が正式承認
  • イーライリリー、Cyramzaの併用療法が米国で承認


【新薬開発】


インターセプト、NASH試験の論文刊行

(2014年11月6日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)は、INT-747(obeticholic acid)の第二相NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)試験の論文がLancet誌に刊行されたと発表した。効果や忍容性に関する懸念が表面化したことから株価が大きく下落した。

INT-747は胆汁酸誘導体で、核内受容体farnesoid x receptor(FXR)を作動する。原発性胆汁性肝硬変の第三相試験が成功、年内にも欧米で承認申請される見込み。日本と中国の権利は大日本住友製薬が取得、DSP-1747という開発コードでこれらの二用途で開発中。

今回のNASH試験は283人の患者を偽薬群と試験薬群(25mgを一日一回、経口投与)に無作為化割付して72週間治療し、病理学的評価と症状スコアの変化を二重盲検方式で比較した。米国国立医療研究所(NIH)が主導。プロトコルに従って実施された中間解析で成功認定された。

主評価項目である奏効率は偽薬群21%、試験薬群45%、p=0.0002で有意な差があった。治療効果は症状の進行した患者のほうが大きかった。脂肪症や小葉炎症、ALTやAST、総ビリルビン値などの代理マーカーも有意に改善した。尤も、これらの代理マーカーの変化が患者のQOLにどのように、どの程度影響するかは判然としない。症状スコアの解析は有意な差が無かった。

忍容性面での懸念も表面化した。LDL-C値が上昇するため必要に応じて治療するプロトコルだったが、それでも10mg/dL上昇した。インスリン抵抗性も悪化する可能性が示唆された。また、体重が偽薬群比2.3kg減少した。症候性副作用では、23%で掻痒が発生(偽薬群は6%)、多くは中程度で、一人が治験離脱した。更に、薬物関連とは見做されなかったが、試験薬群の二名が死亡した。

一方で、中間解析成功が発表された時点で懸念が報じられた心血管リスクに関しては、結局、結局、重度有害事象も、うち心血管に関するものも、群間の偏りは無かったようだ。

これらのことから、Lancet論文は、長期的な便益と安全性をもっと明確にする必要があると結論した。インターセプトは第三相に進む考えだ。NASH試験では25mgを一日一回、経口投与したが、原発性胆汁性肝硬変の試験のように最初の半年は5mgを使ってその後、忍容性を確認しながら10mgに増量する用法なら忍容性が向上するかもしれない。

リンク:インターセプト社のプレスリリース

リンク:Lancet論文の抄録

アムジェン/武田、trebananibの第三相の一本目はフェール

(2014年11月4日発表)

アムジェンは、AMG386(trebananib)の第三相難治性卵巣癌試験の二次的評価項目である全生存期間の解析がフェールしたと発表した。主評価項目であるPFS(無進行生存期間)の解析は成功したが、治療効果は決して高くなかった。延命効果もないとなると、この試験で承認申請するのは困難だろう。他の二本の試験の結果を待つことになる。尚、アムジェンと腫瘍学分野で広範な提携関係にある武田薬品も類似した内容のプレスリリースを出している。

AMG386はVEGF受容体ではなくTie 2受容体のレガンドであるアンジオポイエチン1と2を中和するペプチバディ(Fc・ペプチド融合蛋白)。卵巣癌の第三相は再発治療試験が二本、一次治療試験が一本で、前者は白金薬治療に部分感受または抵抗性の患者を組入れて、今回の試験はpaclitaxelと併用する効果をpaclitaxelだけの群と、もう一本はDoxil(doxorubicinリポソーム製剤)との併用と単剤を比較、一次治療試験はpaclitaxel・carboplatinと三剤併用する効果を検討した。

一本目は昨年6月にPFS解析成功が発表された。メジアン値が5.4ヶ月から7.2ヶ月に1ヶ月強延長し、ハザードレシオ0.66、pは0.001を下回った。しかし、一番重要な全生存期間はメジアン18.3ヶ月から19.3ヶ月に1ヶ月しか延びず、フェールした。有害事象による治験離脱の発生率が7%対20%と高いことが影響したのかもしれない。

類似した作用機序を持つAvastin(bevacizumab)の初期の第三相卵巣癌試験でもPFSは延びたが全生存期間は大差なく、FDAは承認しなかった。アムジェンも延命効果が確認されたら承認申請、駄目なら開発中止というスタンスである模様だ。

米国の新薬承認が早いのは代理マーカーを活用しているからだが、その裏では、代理マーカーの有効性を厳しくチェックしている。PFSは無増悪生存期間と訳されることが多く、増悪が遅れるなら良いような印象を与えるが、実際には腫瘍の大きさなど症状とは必ずしも連動しない基準に基づく評価である。腫瘍の成長が21%であっても19%でもそれほど大きな差は無いが、PFSの判定では進行と未進行で線引きされてしまう。

判定の客観性を担保するためにはやむを得ないのだが、一方で、副作用という有害症状は必ず発生するので、QOLが改善するのか、それとも悪化するのかを十分に吟味する必要がある。

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認申請】


GSK、抗IL-5抗体を承認申請

(2014年11月5日発表)

グラクソ・スミスクラインは、SB240563(mepolizumab)を欧米で承認申請したと発表した。好酸球増多型重度喘息症の維持療法として100mgを4週間に一回、皮注する。抗IL-5完全ヒト化抗体で、08年に欧州で承認申請したが承認されず、好酸球増多型だけを組入れた第三相試験を実施して増悪リスク削減効果を確認した上で再申請となった。

リンク:GSKのプレスリリース

ヴァーテックス、第二の膿胞性線維症用薬を承認申請

(2014年11月5日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は、VX-809(lumacaftor)とKalydeco(ivacaftor)を12歳以上のホモF508欠損型膿胞性線維症の併用療法として欧米で承認申請したと発表した。

膿胞性線維症はCFTR遺伝子の機能不全が関与している。KalydecoはCFTRのポテンシエイターで、G551D型などの変異を持つ患者に承認されている。VX-809はCFTR矯正剤と呼ばれる新薬で、CFTRが細胞の表面に移行して機能を果たすのを支援する。ホモF508欠損型は両親から受け継いだ遺伝子がどちらもF508欠損型で、12歳以上の患者数は米国で8500人、欧州で12000人と推定されている。

患者が多く、また用量も大きいので、Kalydecoの売上高にも大きく寄与するだろう。

リンク:ヴァーテックスのプレスリリース

ギリアド、TAF配合剤を承認申請

(2014年11月6日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、tenofovirの新しい塩であるTAF(tenofovir alafenamide fumarate)を配合した4剤合剤を米国で承認申請したと発表した。従来の塩であるTDF(tenofovir disoproxil fumarate)と同様にプロドラッグだが、用量が1/30なので合剤を開発しやすく、また、TDFより腎機能や骨塩密度に与える悪影響が小さい長所を持つ。

この合剤は、分かりやすく言えば、Stribild(和名スタリビルド配合錠)のTDFをTAFに替えたもの。日本たばこからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤elvitegravir、3A4阻害剤cobicistat、逆転写阻害剤emtricitabineとTAFを配合している。欧州でも年内に承認申請する予定。

TDFは数年後に特許切れするので、同社がラインアップする数多くのTDF配合剤の需要をTAF合剤に切り替えさせることができれば業績面でポジティブだ。

リンク:ギリアドのプレスリリース(HPにアクセスできなかったためBusiness Wireのサイト)

ベーリンガー、スピリーバを喘息症に適応拡大申請

(2014年11月4日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、Spiriva Respimat(tiotropium、和名スピリーバ レスピマット)を難治性喘息症の成人の維持療法薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。EUでは今年9月に、吸入ステロイドとベータ2作用剤を併用しても増悪を十分に管理できない成人患者向けに承認されている。

COPDと喘息症は病理や発症年齢など多くの点で異なる疾患と考えられていたが、COPDの研究が進むにつれて案外に共通点があったり、併発症例も報告されるようになった。薬に関しても吸入ステロイドとベータ2作用剤はどちらの治療にも用いられているが、Spirivaのようなムスカリンブロッカーも承認されれば、また一つ共通点が増えることになる。上記の抗IL-5抗体もCOPD試験が進行中だ。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ノバルティス、FDA諮問委員会が再び承認に反対

(2014年11月6日発表)

ノバルティスは多くの有望開発品を持っていて、その幾つかは承認審査中だが、急性心不全治療薬として承認申請されたReasanz(serelaxin)に続いて、多発骨髄腫用薬Farydak(panobinostat)もFDA諮問委員会から厳しい評価を受けた。腫瘍学薬諮問委員会で7人の委員のうち5人が便益がリスクを上回るとは言えないと判定したのだ。今回も、第三相試験の結果が学会発表された時には明かされなかった問題点が表面化した。

panobinostatは汎ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤で、ヒストンやチューブリン、p53などの転写を妨げる酵素を阻害する。第三相試験では、再発性難治性の多発骨髄腫768人を組入れて、Velcade(bortezomib)及びdexamethasoneと三剤併用する効果をこの二剤だけを投与する群と比較した。PFSは二剤併用群がメジアン8.1ヶ月、三剤併用群は12.0ヶ月となり、ハザードレシオ0.63、p値は0.0001未満と大変良い結果となった。一方、深刻な有害事象は増加した。

問題点は、第一に、プロトコルと異なる基準に基づいて進行判定された症例が散見されたこと。基準を統一するために第三者による中央評価を行ったところ、メジアン7.7ヶ月対9.9ヶ月と、有意だが小さな差しか見られなかった。こういう場合は全生存期間の解析に頼るしかないが、まだ解析に必要なイベント数に到達しておらず、中間解析値もメジアン30.4ヶ月と33.6ヶ月で3ヶ月しか違わなかった。

忍容性では、有害事象による治験離脱が20%対36%と試験薬群の方が多く、深刻な有害事象の発生率も42%対60%と多かった。更に、治療中に癌の進行以外の理由で死亡した患者の比率も3.5%対7%で多かった。

治療の便益は十分に確立しておらず、副作用で死亡するリスクも決して小さくないとなると、承認反対が上回ったのも無理はないだろう。この第三相試験は日本の施設も参加しており、9月に日本でも承認申請されたが、機構はどのような判定を下すだろうか。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【承認】


JNJ、ソブリアードとSovaldiの併用が正式承認

(2014年11月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、慢性C型肝炎治療薬Olysio(simeprevir、和名ソブリアード)をギリアドのSovaldi(sofosbuvir)と二剤併用する用法が米国で承認されたと発表した。

インターフェロンやribavirinを併用する必要がないため米国では既にオフレーベルで広く用いられている。正式に承認されれば能動的な販促が可能になるが、この二剤を併用すると12週間コースで15万ドルかかる。10月に米国で承認されたギリアドの合剤、Harvoni(sofosbuvirとledipasvir)の9.4万ドルと比べて効果は大差ないのにあまりにも割高。

JNJが対抗するためにはOlysioの価格を6.6万ドルから1万ドルに下げる必要があり、断行するか、Harvoniが承認されていない国に重点を置くか、難しい判断を迫られることになる。

リンク:JNJのプレスリリース

イーライリリー、Cyramzaの併用療法が米国で承認

(2014年11月5日発表)

イーライリリーは、FDAがCyramza(ramucirumab)を末期・転移性胃癌の二次治療にpaclitaxelと併用することを認めたと発表した。この抗VEGFR-2完全ヒト化抗体は今年4月に二次治療として単剤投与する用法で初承認された。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年11月2日

海外医薬ニュース2014年11月2日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 米国のエボラ症例の概要
  • エボラ流行三ヶ国の概要
  • BMS、オプジーボの肺癌データを公表
  • FDA諮問委員会、リクシアナの承認を支持したが...
  • B群髄膜炎菌ワクチンが米国で承認


【今週の話題】


米国のエボラ症例の概要

米国のエボラ感染者に関する報道を読んでいて印象的なのは、転帰がそれほど悪くないことと、実名報道の多さだ。断片的ではあるものの、個々の患者の治療法も報じられている。そこで、新聞報道を元に、症例概要を纏めてみた。

その過程で感じた重要な教訓は、エボラウイルス疾患は治療することができるということだ。米国では5名が現地で医療従事中に感染、うち10月に感染したばかりの患者2名以外は既に治癒して退院した。感染後に米国で発症したリベリア人は診断・治療が遅かったせいか死亡したが、この患者のケアを行った2名の看護師は無事退院できた。現地取材中に感染したフリーランスカメラマンも退院した。入院中の2名を除くと、死亡は7人中1人、1割だけである。

三ヶ国での死亡率と比べて低いのは何故か?異なった国の医療を比較するのは困難であり、専門家にとっても難問のようだが、治癒例と死亡したリベリア人には幾つかの大きな違いがある。第一は、生存患者は深刻な伝染病の治療に習熟した医療施設で治療を受けたこと。第二は、患者自身が医師や看護師で感染症に対処する知識を持っていた、または、現地取材に際して十分なブリーフィングを受けていたと考えられること。だから、多少の紆余曲折はあったにせよ、早い段階で自己申告して治療を受けることができた。

治療法としては、下痢や嘔吐による脱水が激しい模様なので、水分補給や不足した電解質を補給する支持療法が有効である模様だ。効果のほどはまだはっきりしないが、多くの患者が回復期血漿や開発中の抗ウイルス剤を用いており、アベイラビリティの問題はあるものの、現時点での標準療法になりつつあるように感じられる。

次項で紹介するように、流行三ヶ国は貧しく、医師や医療施設が足りず、一方、患者数ははるかに多い。米国とは話が全く違うのだが、日本にとっては流行防御策も含めて米国のほうが参考になるのではないだろうか。私が提案したいのは、エボラは治療できることを広く知らしめることだ。

日本がエボラの拡散を防ぐ上で重要なのは、流行三ヶ国から来た人が発熱した場合に、速やかに自己申告することだ。ところが、最近は自己申告を妨げるような出来事が増えている。例えば、NY州は三ヶ国から来た人を強制隔離する措置を打ち出した。オーストラリアやカナダのように、三ヶ国からの渡航を拒否する国も出てきた。これだけ忌み嫌われたら、米国人でも流行国に滞在したことを隠そうとするかもしれないし、最初に嘘をつくと、発熱しても直ぐには病院に行き難くなるだろう。

エボラ患者として治療を受けるとマスコミが殺到して患者の状況をスクープしようとする。病気に関する情報は機微情報だがジャーナリストは気にしない。プライバシーをズタズタにされるリスクも自己申告を躊躇する理由になりうる。ここで明記したいのは、米国でも匿名のままの患者がいることだ。日本のジャーナリストは、エボラならプライバシーを破っても許されると誤解してはならない。新型インフルエンザの初症例のように、未成年者を追い掛け回すのは人間として最低、ジャーナリストとしても標的を間違えている。

一般的な認識は、エボラは死亡率が高く治療法はない。それなら隔離されて寂しく死ぬよりも残された時間を有効に使う方を選ぶかもしれない。だが、治る可能性が高いなら話が違う。早期治療が重要であることを知っていれば直ぐに自己申告するだろう。エボラは治療できる。早期治療が重要。今日ではSNSのような民間主導の情報伝達手段もあるのだから、この二つのメッセージを広く伝えることが重要だ。

米国のエボラ症例

Kent Brantly:リベリアでSamaritan's Purseの一員としてエボラ治療に携わり7月に感染、ZMappを使用、8月に帰国してアトランタのEmory University Hospital(以下、エモリー病院)で治療、発症から4週間後に退院。回復期血漿(感染から回復した患者の血清:ウイルスに対する抗体が含まれている可能性が高い)による治療を受け、自身も回復後に血漿を血液型の合う患者に提供。

Nancy Writebol:リベリアでServing in Missionの一員としてエボラ患者のケアに携わり7月に感染、ZMappを使用、8月に帰国してエモリー病院で治療、その後退院。回復期血漿を他の患者に提供。

Rick Sacra:リベリアでServing in Missionの一員として産婦人科医療に従事中に感染、9月に帰国してオマハのNebraska Medical Center(以下、ネブラスカMC)で治療、帰国の21日後に退院。Brantlyの回復期血漿とTekmira(Nasdaq:TKMR)のTKM-Ebolaを使用。

匿名患者:シエラレオネでWHOの下で勤務中の10月に感染、帰国してネブラスカMCで治療。英国人Will Pooleyの回復後血漿を使用した模様。

Craig Spencer:Doctors Without Borders(国境なき医師団)の一員としてギニアでエボラ治療に携わり、帰国の7日後に発症、ニューヨークのBellevue Hospital Centerに入院。Writebolの回復期血漿とChimerix(Nasdaq:CMRX)のCMX001(brincidofovir)を使用。発症前にあちこち出掛けたため、NY州が規制強化する契機となった。

Thomas Duncan:リベリア人。訪米の4日後に発症、翌日にTexas Health Presbyterian Hospital(以下、THP病院)の救急科に行ったが抗生剤を貰って帰宅、その3日後に救急車で搬送され、入院。激しい嘔吐や下痢が見られた。発症の2週間後に当たる10月8日に死亡。brincidofovirを使用したが発症の10日後で既に呼吸不全、臓器不全の状態だった模様。

リベリア出国時には発熱もエボラ患者接触歴もないと回答したため、リベリア大統領が帰国したら処罰すると非難。THP病院は当初、最初の来院時にリベリア渡航者であることを見落としたのは電子カルテシステムのせいと発表したが、後に訂正。

Nina Pham:THP病院でDuncanのケアを行った後、Duncan死亡の2日後に発症、翌日に陽性判定、その翌日の検査でも陽性となり診断確定、その4日後にNIHクリニカルセンターに転院、発症の2週間後、転院の8日後に当たる10月24日に退院。Brantlyの回復期血漿を使用。二次感染が発生したためプロトコルや器具、CDC(疾病管理予防センター)の対応に関する議論を呼んだ。

Amber Vision:THP病院でDuncanのケアを行った後、Duncan死亡の6日後に発症、翌日に陽性判定、エモリー病院に入院、発症の2週間後に退院。当初、彼女が発熱にもかかわらずクリーブランド発ダラス行きの飛行機に乗ったのは無分別という批判があったが、実際には搭乗前にCDCに相談、熱が基準より低かったため容認された経緯が判明、一転してCDCが批判を受けることになった。日本でエボラを疑われた患者が37度台に過ぎなかったのに一時隔離されたのは、この前例を参考にしたのではないか。

Ashoka Mukpo:フリーランスカメラマン。NBCの取材チームの一員としてリベリアで取材中に感染、帰国してネブラスカMCで治療、発症の19日後に退院。Brantlyの回復期血漿とbrincidofovirを使用。

それ以外の欧米等の症例

Patrick Sawyer:リベリアから米国に帰化。リベリアからナイジェリアに出張した7月20日に発症、5日後に死亡。治療に当たった医療従事者数人が二次感染で死亡。ナイジェリア政府がエボラを持ち込んだと非難。

Manuel Viejo:聖職者。シエラレオネでボランティア活動中に感染、スペイン帰国の4日後に当たる9月25日に死亡。69歳。

Miguel Pajares:聖職者。リベリアでボランティア活動中に感染、スペイン帰国の6日後に当たる8月12日に死亡。ZMappを使用。75歳。

Teresa Romero:アフリカ以外での最初の感染者。マドリッドのCarlos III HospitalでViejoとPajaresの看護を行なう。10月6日に陽性判定が出て隔離、10月19日にウイルス消失。カトリック尼僧の回復期血漿と抗ウイルス剤(病院側は公表していないが富山化学のfavipiravir(和名アビガン)と報じられている)を使用。ZMappの類似品であるZMabの提供をオファーされたが、医師が副作用を懸念して使わなかったと報じられている。

Will Pooley:英国人で初の感染者となった男性看護師。シエラレオネで看護従事中の8月24日に発症。死亡した感染者の子供(後に発症して死亡)と遊んでいて感染した可能性。8月25日に英国に搬送されRoyal Free Hospitalに入院、直ぐにZMappを長時間連続投与したところ軽快、入院の9日後に退院。嘔吐や出血症状は無かった模様。

匿名フランス人患者:国境なき医師団の一員としてリベリアで医療に従事中に感染、9月18日に帰国し軍の病院で治療、16日後に退院。favipiravirを使用。

ドイツ症例:ドイツは自国民以外の受け入れを表明した唯一の国である由。セネガル、ウルグアイ、スーダンの疫学者、医師、国連職員の3名が搬送され、一人は退院、一人死亡。

エボラ流行三ヶ国の概要

米国は一日に27.5万人が飛行機で来訪するが、そのうちギニア、リベリア、シエラレオネの三ヶ国は150人以下とのことだ。旅行者経由で持ち込まれる可能性は低く、一番気を付けなければならないのは現地で医療に携わる人たちの帰国後と考えていたが、上記のように、懸念された通りの結果になっている。

私たちにはあまり縁のない国だが、HIV/AIDSのような、アフリカの貧しい国で育ったウイルスが世界に拡散する事態を防ぐためには、これらの国の医療や経済を支援することが重要だ。情けは人の為ならず、向こうの国が援助頼みになり自立心を失わせる結果になるかもしれないが、私たち自身にとって必要なのである。

そういう私自身、最初はリベリアとリビアを混同していたくらいで知識がない。そこで、以下、外務省やCIAの資料を纏めてみた。

三ヶ国とも元植民地で、ギニアは1958年にフランスから独立。リベリアは1947年に米国から、シエラレオネは1961年に英国から独立したが、元々は解放された奴隷の移住地として開発された地域とのことだ。人種差別を止めて奴隷を故郷に帰すのは極めて人道的な行為だが、50~170年経っても国は貧しいままである。民族間宗教間の対立による内乱、戦争、政治不信、伝染病。エボラは国民の不幸の一つにしか過ぎない。

表にするとレイアウトが崩れる可能性があるため、以下、ギニア、リベリア、シエラレオネの順にデータを列挙する。カッコ内は日本。

人口:1170万人、430万人、610万人 (12710万人)

メジアン年齢:18歳、18歳、19歳 (46歳)

一人当たりGDP(PPP):1100ドル、700ドル、1400ドル (37100ドル)

医師数(人口千人当たり):0.1人、0.01人、0.02人 (2.14人)

病床数(同):0.3、0.8、0.4、13.7

HIV/AIDS罹患率(成人):1.7%、0.9%、1.5%、0.1%未満

進出日本企業数:なし、1社、なし

在留邦人:30人、7人、19人

在日当該国人:314人、34人、50人

サハラアフリカでは珍しくないことだが、メジアン年齢の低さには愕然とする。壮年・高齢者はどこに行ったのか?伝染病か、戦乱か、貧困か?ギニアはボーキサイト、リベリアやシエラレオネはダイアモンドが主要産品となっている。国民を豊かにする方法はあるのではないかと思われるが、何とかならないのだろうか。

【新薬開発】


BMS、オプジーボの肺癌データを公表

(2014年10月30日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発している抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第二相肺癌試験のトップラインデータを、学会(Chicago Multidisciplinary Symposium in Thoracic Oncology)とプレスリリースで公表した。良好な内容であり、細部に悪魔が潜んでいなければ、来年にも米国で承認されるだろう。

Tセルは活性化刺激や抑制的刺激を受け止める表面分子を持っている。PD-1は活性化したTセルが発現する抑制的刺激受容体。癌細胞はレガンド(PD-L1)を発現してTセルを鎮静化させてしまうので、抗体医薬を結合させてブロックしてしまうアイディアが抗PD-1抗体だ。9月にMSDのKeytruda(pembrolizumab)が米国で末期黒色腫のサルベージ療法として承認された。Opdivoも同じ用途で欧米で承認申請され、米国は3月までに審査結果が出る見込み。

今回の肺癌は、3月にローリング承認申請を開始。おそらく今回のデータを提出して承認申請完了、間に合えば第三相試験のデータを追加提出ということになりそうだ。MSDも肺癌でブレークスルーセラピー指定を取得したばかりだが、肺癌に関してはBMSの方が先行しているので重要な適応症になる。

このCheckMate-063試験は、扁平上皮非小細胞性肺癌で白金薬を含む二次治療以上の治療歴を持つ患者117人を組入れた単群試験。用量は悪性黒色腫と同じで、3mg/kgを二週間に一回、静注点滴した。単群試験なので主評価項目はORR(客観的反応率)。RECIST 1.1版を用いて評価し、独立放射線学的委員会が担当医の評価を検証した。

結果は、ORR15%、95%信頼区間8.7~22.2、反応持続期間のメジアンは未達(全患者を11ヶ月以上追跡)。肺癌の試験としては良好な結果である。IL-2やインターフェロンのような免疫強化療法薬は反応率が低くても反応した患者は効果が持続する傾向がある。今回の試験でも、1年生存率が41%と、扁平上皮非小細胞性肺癌三次治療の文献データである5~18%と比べて良好だった。但し、生存期間は患者背景に左右されるので、無作為化割付対照試験のデータほどは信頼できない。

抗PD-1抗体はPD-L1発現状況が反応予測因子になりうるが、この試験では相関性が見られなかった模様だ。陽性/陰性の閾値を変えても相関しないのかどうかは不明。

抗PD-1抗体は免疫刺激による副反応など多くの副作用を持つ。この試験ではG3/4の薬物関連有害事象が17%の患者で発生した。内容は疲労、肺炎、下痢など。薬物関連死亡は2例。元々色々な症状があるOpdivoに反応しなかった患者である由だが、精査が必要だろう。免疫刺激による副作用は奏功例ほど多いかもしれないが、もし反応率が低く副作用の多いサブグループが発見出来たら患者にはメリットがある。上記のPD-L1も含めて、承認後も検討が必要だろう。

非小細胞性肺癌の第三相試験は、扁平上皮腫とそれ以外を夫々に対象とした二次治療docetaxel対照試験が進行中。どちらも主評価項目は全生存期間で、二次的評価項目としてPD-L1発現とORR、PFS(無進行生存期間)、全生存期間との関連性も検討する。扁平上皮腫の方は米国承認前に成否が判明するだろうから、承認内容にも影響しそうだ。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、リクシアナの承認を支持したが...

(2014年10月31日発表)

FDAは10月30日に心血管腎臓薬諮問委員会を招集し、第一三共が承認申請したSavaysa(edoxaban、和名リクシアナ)の適応症の一つである非弁性心房細動(NVAF)のデータについて検討させた。10人中9人の委員が承認に賛成したが、対象が腎機能低下患者に限定される可能性がありそうだ。

Savaysaは過去6年間に続々と登場した経口抗凝固薬の一つ。これまでにベーリンガー・インゲルハイムのPradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)、BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)が承認されている。ファースト・イン・クラスの薬は承認のハードルが低いが、2番目、3番目と進むにつれて上がっていく。症例が積み重なるにつれ欠点も表面化するからだ。

Savaysaは日本では11年に下肢整形外科手術時の静脈血栓塞栓(VTE)予防で初承認、14年にNVAFの脳卒中予防と症候性VTE治療に適応拡大したが、欧米では今年1月にNVAF、症候性VTE治療、VTE再発予防(長期治療)の三用途で承認申請された。今回の諮問はNVAFだけで、委員会を招集したのは、承認審査に関わる部署の間の意見対立が背景であった模様。

事の発端は、第三相ENGAGE AF-TIMI 48試験のサブグループ分析で、腎機能が正常な患者に関する効能が明確でなかったこと。試験全体では60mg群の脳卒中リスクがワーファリン群と比べて非劣性、二次的評価項目の優越性解析では有意水準には届かなかったが優れるトレンドが見られた。しかし、腎機能が正常な患者(全体の1/3を占める)だけの解析ではハザードレシオ1.41と点推定値上はリスクが高く、95%信頼区間は0.97~2.05とリスクが倍以上である可能性が否定されなかった。

ワーファリンは脳卒中のリスクを6割削減する。Savaysaのリスクがもしワーファリンの2倍だとしたら、殆ど効果がないことになる。この種のサブグループ分析は慎重に考える必要があり、また、症例数が少ないので信頼区間は広くなる。しかし、こういう場合の鉄則は、薬にとって都合の良いことは懐疑的に受け止め、薬効不足や副作用のような不都合な事実は真剣に受け止めることだ。既に三種類の薬が存在し、独自の長所を持っているわけでもないので尚更である。

このデータは偶然かもしれないが、薬物動態的に説明できないでもない。edoxabanは半分が尿から、半分は糞便から排泄されるので、腎機能低下患者では血中濃度が上昇する。このため、CrCLが15~50mL/分の中度腎障害患者は量を半減する用法が採用された(体重60kg以下や薬物相互作用のある薬を服用する患者も半減する)。50~80mL/分の軽度腎障害患者は用量調整不要だが、薬物動態試験では、80mL/分以上の腎機能正常患者よりも暴露が1.4倍大きかった。

このことは、60mgは軽度腎障害患者には適切だが、正常腎患者には足りないことを示唆している。FDAの統計学的評価を行う部門がモデル分析に基づき正常腎には75~90mgを承認すべきと主張、意見対立が発生した。第三相試験でテストされた用量より多い量を承認するのは珍しいが、プラザクサの市販製剤は第三相試験で用いられた製剤より最大10%暴露が大きい由で、前例がない訳ではない。しかし、プラザクサはこの程度なら差が無いという判断、Savaysaは臨床的な差があることを前提とした議論なので、同一視すべきではないだろう。

FDAは承認すること自体には異論はないようだ。諮問委員も10人中9人が賛成した。問題は、第一に、対象を軽中度腎機能障害を持つ患者に限定すべきかどうか。第二に、正常腎も適応にする場合は用量を60mgより増やすべきかだ。

正常腎には薬効不足というサブグループ分析を偶然と判定したのは5人、リアル(現実)と考えたのは5人と、意見が分かれた。軽中度患者限定を支持したのは2人。正常腎に用量を増やすことに賛成したのは二人だけで、そのうち一人は、増やさないのだったら正常腎を適応とすることに反対と表明した。

FDA諮問委員会は、EUのCHMPと異なり、承認の是非を決める権限は持たない。諮問されたことについてだけ検討し意見を述べるだけだ。採決結果はあくまで参考に過ぎず、FDAは、採決結果に従うことも、その後のメーカー側との検討などに基づいて異なった判定を行うこともある。賛成率90%は良い数値だが、元々の重点議題である正常腎への対応に関しては反対意見も多かったので、最終的に、腎機能低下だけに承認される可能性が残っているだろう。

対象患者数が3~4割減少することになるが、おそらく、それ以上の影響があるだろう。医師にしてみれば様々な薬が存在する中で一部の患者にしか使えない薬をわざわざ選択する理由がない。そもそも、治療中に腎障害が中度に進行したり体重が60kg以下になったら用量を半減するというSavaysaの用法は面倒だ。患者にベストな医療を提供する上では重要な用法であり、もしかしたら他の薬も同じ用法を採用すべきなのかもしれないが、一般のパーセプションは、薬物動態が特殊だから格別の手間が必要と受け止めるのではないか。

FDAは、腎機能低下だけに承認する場合の選択肢として、誤って正常腎に用いないよう処方流通管理策を導入することを示唆している。実現した場合、医師の面倒がまた一つ増えることになる。

正常腎にも承認されたとしても4番目の薬なので市場性は大きくないが、軽中度腎機能低下だけに承認された場合は競争条件が大きく悪化するだろう。

リンク:第一三共のプレスリリース(和文)

【承認】


B群髄膜炎菌ワクチンが米国で承認

(2014年10月29日発表)

FDAは、初のB群髄膜炎菌ワクチンであるTrumenbaを承認したと発表した。ファイザーの開発品で、審査期限より3ヶ月早いスピード承認だ。髄膜炎菌は肺炎球菌と同様に髄膜炎を起こす。A、C、W、Y群のワクチンが普及し感染者が減少したが、近年はB群感染症例が増加、米国でも2012年は4割を占めるようになった。欧州では13年にノバルティスのBexseroが承認されたが、米国は遅れ、結局ファイザーの開発品が先に承認された。

B群は種類が多く、BexseroもTrumenbaも万能ではないが、後者の場合、米国に多い4種類の株に対する抗体が82%の患者で誘導できた。10~25歳の人が半年間に三回接種する。将来的には他の髄膜炎菌ワクチンなどとの複合ワクチンが開発されるのではないか。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ファイザーのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年10月26日

海外医薬ニュース2014年10月26日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • アビガンをエボラ向けに追加生産へ
  • 大鵬、米国でロンサーフの承認申請手続きを開始
  • Imbruvicaをマクログロブリン血症に適応拡大申請
  • CHMPが二種類の画期的新薬などに肯定的意見
  • バクスター、後天的A型血友病用薬が米国で承認


【今週の話題】


アビガンをエボラ向けに追加生産へ

(2014年10月20日発表)

富士フィルムは、インフルエンザ治療薬アビガン(ファビピラビル)をエボラ向けに追加生産することを発表した。11月中旬にギニアやフランスで臨床試験を開始、有効性や安全性が確認されれば広く使われる可能性があるので、予め在庫を積み増す。

エボラウイルス疾患の治療法としては、回復した患者の血漿、抗体カクテル療法、ワクチン、小分子薬などが開発・試用されている。血漿は米国人医師ブラントリー氏の血漿がネブラスカやダラスの患者に用いられた。抗体カクテル療法はMapp BiopharmaceuticalのZMappがサルの試験で12頭全てが生存と良い結果を出したが在庫がなくなった。従来の製法だと量産に時間が掛かるため、複数の企業が量産方法の開発に着手した。

ワクチンは準備が整えば一番量産しやすいのではないかと思われる。予防だけでなく、感染者と接触した人の暴露後予防や、もしかしたら発症後の治療にも有効かもしれないので、将来、エボラ対策の決め手が現れるとしたら最有力候補だろう。

小分子薬では、効果の点で有望なのがサルの試験で全頭が生存という良績を挙げたTekmira Pharmaceuticals(Nasdaq:TKMR)のTKM-Ebolaだ。ネブラスカの患者が投与を受けたと報じられている。ただ、この薬も量産性に難があるようだ。量産方法の開発は、通常、第二相、第三相試験と平行して行うが、TKM-Ebolaは第一相段階なので已むを得ない。

アビガンの長所はインフルエンザで900例を超える臨床成績を持っていることと、供給力が豊富であること。催奇性を持つので通常の季節性インフルエンザに用いることはできないが、難治性の新型インフルエンザが流行した時の切り札として、厚労大臣の指示があったら量産できるよう体制を整えていたはずだ。現時点で2万人分、原薬は30万人分のストックがある由。

効果の面では見劣りする。WHOの資料によれば、サルの試験で6頭中1頭しか生存しなかった。論文刊行されていないのでプロトコルは不明だが、これが最初の試験なら、おそらく、ウイルスを移植すると同時に投与したのだろう。現実の医療では2~21日経って発症してから投与するので、効果はもっと下がる可能性が高い。ZMappの試験では移植5日後に投与を開始したケースでも全頭生存した。

増量試験を実施中とのことだが、そうなると、インフルエンザ臨床試験よりも副作用が増加するリスクがある。悪心嘔吐の症状がある疾患に大量の錠剤を飲ませるというのも、どの程度現実的なのか分からない。増量試験で他の薬と同様な成果を挙げない限り、もっと有効な薬が登場するまでの繋ぎに留まりそうだ。

米国で評価を高めているのが、Chimerix(Nasdaq:CMRX)のCMX001(brincidofovir)だ。サイトメガロウイルス感染予防で第三相試験中なので、ある程度の安全性のエビデンスを持っている。二重連鎖DNAウイルス全てに有効と言われていたコンパウンドが単鎖RNAウイルスであるエボラに有効と言われても俄かにはピンと来ないが、理屈はどうでも効けば良いのだから、サルの試験がどのような結果になるか、期待して待ちたい。

ダラスやネブラスカの患者に投与されたが、ネブラスカの患者がCMX001を選んだのは忍容性が比較的良いからとのこと。現段階では多少忍容性が悪くてもサルのエビデンスのある薬の方が良いように感じられるが、複数の開発品を同時使用するケースが多いようなので、副作用の相乗効果を恐れているのかもしれない。

リンク:富士フィルムのプレスリリース(和文)

【承認申請】


大鵬、米国でロンサーフの承認申請手続きを開始

(2014年10月21日発表)

大鵬薬品は、米国でTAS-102(trifluridineとtipiracilの合剤、和名ロンサーフ配合錠)のローリング承認申請を開始したと発表した。承認申請に必要な三種類の書類を、完成したものから逐次提出して審査を開始してもらうもので、有望な新薬を早く患者に届けるための制度である。年内に完了する予定なので優先審査指定されれば来年前半にも承認されることになりそうだ。

ロンサーフは日本の第二相試験に基づいて今年3月に結腸直腸がんのサルベージ療法(承認されている全ての薬がフェールした患者の最後の手段)として厚労省に承認された。今回の申請は同様な内容のグローバル第三相試験に基づくもので、メジアン生存期間が7.1ヶ月と、偽薬群の5.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.68、pは0.0001を下回った。

リンク:大鵬薬品のプレスリリース(和文)

Imbruvicaをマクログロブリン血症に適応拡大申請

(2014年10月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、慢性リンパ性白血病やマントルセルリンパ腫向けに承認されているBTK阻害剤、Imbruvica(ibrutinib)を、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症(WM)の治療薬として米国で適応拡大申請した。この三種類の疾患全てでブレークスルーセラピー指定を受けている。

WMは非ホジキンリンパ腫の一種で、IgM抗体が過剰生産され血液の粘度が上昇する。症状は易出血性や視覚・神経異常など様々で無症状の場合もある。年1000~1500人が診断され、60代、70代が多いようだ。

ImbruvicaはB細胞の生存性を増強する酵素を阻害する小分子薬で、Pharmacyclics(Nasdaq:PCYC)から共同開発販売権を取得したもの。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが二種類の画期的新薬などに肯定的意見

(2014年10月24日発表)

EUの薬品規制庁であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会議でオーストラリア企業の皮膚病薬やアストラゼネカのPARP阻害剤などの新薬と、メディベーション/アステラスの抗癌剤の対象患者拡大について、肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク:EMAのプレスリリース、

オーストラリアの皮膚病用薬開発会社、Clinuvel Pharmaceuticals(ASX:CUV)が開発したScenesse(afamelanotide)は、EPP(赤血球産生性プロトポルフィリン症)の対症療法。EPPは常染色体優性遺伝による希少疾患で、フェロキラターゼの欠損によりプロトポルフィリンがヘムに変換されずに骨髄や赤血球、皮膚などに蓄積する。プロトポルフィリンは光に反応して皮膚の痛みや腫れを起こするので、患者は日光などを避けなけらばならない。

Scenesseはメラニン細胞刺激ホルモンの類縁体で半減期を長期化したもの。メラニンを増やして皮膚を守る。第三相試験はフェールしたが、CHMPは、例外的環境条項に基づく承認を勧告した。薬効を評価するには患者を陽に当てて痛みが起きないことを確認する必要があるが、患者が嫌がるので、十分なエビデンスが無くても已むを得ないと判定した。

EUは承認審査に際して患者からヒアリングする制度を導入したが、Scenesseは第一号となった。

リンク:EMAのプレスリリース

アストラゼネカのPARP阻害剤、Lynparza(olaparib)は、BRCA変異を持つ再発性卵巣癌の維持療法用薬。薬効のエビデンスは第二相試験のサブグループ分析なので不確かなところがある。

BRCAとPARPは、遺伝子を修復する二つのメカニズムの夫々に関与する。BRCAに変異を持つ人は自然に発生した遺伝子変異・損傷を修復できないリスクがあり、乳癌や卵巣癌のリスクが高い。PARP阻害剤を使うと、活発に分裂するため遺伝子変異が起きやすい癌細胞は遺伝子修復ができなくなり、増殖を防げられる。片足で立つ癌細胞の残った足を蹴飛ばす訳だ。

臨床試験では、再発性白金感受性卵巣癌で白金ベース化学療法に反応した患者にLynparzaまたは偽薬を経口投与したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.35と大変良い数値が出たが、全生存期間には有意な差が無かった。アストラゼネカは一旦、開発を断念したが、事後的解析で、BRCA変異を持つ症例のPFSのハザードレシオが0.18で有意、全生存期間は0.74と有意ではないが良さそうな数字が出た。このため、昨年、第三相試験に進んだ。

抗癌剤の第二相試験の事後的サブグループ分析は当てにならず、第三相がフェールした例は枚挙に暇がない。このためFDAは第三相試験で確認するよう求めることが多いが、CHMPは好意的なところがある。今回のプレスリリースには条件付き承認とは記されていないが、もし本承認だとしたら、更に一歩踏み出したことになる。

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

新薬でもう一つ、肯定的意見を受けたのがバクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)のRixubis(nonacog gamma)。遺伝子組換え型第IX因子で、B型血友病患者の出血治療と予防に用いる。米国では13年に成人患者向けに承認されたが、EUは小児も含めて申請するよう求めているため、小児治験の結果を待って申請したもの。予防的投与では週二回投与した。

リンク:EMAのプレスリリース

ファイザーの選択的エストロゲン受容体調節剤Conbriza(bazedoxifene、和名ビビアント)の活性成分に混合エストロゲンを配合したDuaviveも肯定的評価を受けた。米国では閉経後女性の紅潮治療と骨粗しょう症予防の適応症で昨年10月に承認されたが、EUでは子宮を持つ閉経後女性のエストロゲン欠乏症状の治療という漠然とした適応になる。プロゲスチンが不適の場合に用いる。65歳以上の治験症例は限定的。

Conbrizaは09年にEUで承認されたが米国は未承認。エストロゲン製剤や選択的エストロゲン受容体調節剤は米国で一世を風靡したが、長期試験のエビデンスが積み重なるにつれて潮が引き、更年期障害の対症療法として限定的に用いられるだけになった。

リンク:EMAのプレスリリース

適応拡大では、メディベーション(Nasdaq:MDVN)がアステラス製薬と共同開発・販売する経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を化学療法未施行の患者に用いることが支持された。

現在の適応は、ホルモン療法に反応しなくなり化学療法の治療歴を持つ患者。化学療法が適応になるのは骨転移などにより疼痛などの症状を持つ患者だが、適応拡大後は、症状が小さいあるいは穏やかなうちにXtandiで治療を行うことができるようになる。早い段階の方が対象患者数も治療期間も増えるので、薬の市場性が大きく拡大する。

リンク:EMAのプレスリリース

【承認】


バクスター、後天的A型血友病用薬が米国で承認

(2014年10月24日発表)

バクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)は、FDAがObizurを後天的A型血友病の成人の出血治療薬として承認したと発表した。インスピレーション社の開発品だったが、2012年にチャプター11申請を行い、バクスターが権利を買収したもの。

後天的A型血友病は第VIII因子に対する抗体(インヒビター)を持つのでヒト第VIII因子が使えない。患者の半分は原因不明、残りの半分は妊娠、癌、薬の副作用が関与している由だ。Obizurは遺伝子組換え型ブタ第VIII因子製剤で、インヒビターの影響を受けず、拒絶反応も誘導し難い。欧州でも承認審査中。

リンク:バクスターのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年10月19日

海外医薬ニュース2014年10月19日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 米国で二種類の特発性肺線維症用薬が承認
  • Imbruvicaが欧州でも承認
  • FDA諮問委員会、チャンピックスの枠付警告は未だ外せないと判定


【承認】


米国で二種類の特発性肺線維症用薬が承認

(2014年10月15日発表)

FDAは、特発性肺線維症治療薬を二剤、同日に、承認した。片方は審査期限より2ヶ月半早く、もう一つも1ヶ月半早かった。特発性肺線維症は肺の間質などが線維化し酸素を取り込む能力が低下する。5年生存率20~40%の難病。推定患者数は米国が10万人、欧州は8~11万人、日本は7000~8000人。二剤とも延命効果は確認されていないが、FVC(努力肺活量)の低下を遅らせる効果や急な増悪を抑制する効果を持つ。

ロシュが9月に買収したインターミューンのEsbriet(pirfenidone、和名ピレスパ)は抗線維化剤とされる。マルナック社からライセンスを取得した様々な会社が様々な用途に臨床開発を行ったが、日本の研究者が肺線維症に有効であることを発見、最初の臨床試験は曖昧な結果になったが再試験に成功、08年に世界に先駆けて承認され、塩野義製薬が発売した。インターミューンは再試験と並行して海外試験を実施、曖昧な結果になったが欧州は日本試験に基づいて11年に承認した。

一方、米国は承認されず再試験を実施、今回の承認に至った。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ロシュのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib)はVEGFやPDGF、FGFなどの受容体を阻害する小分子薬で、腺腫非小細胞性肺癌の二次治療薬としても欧州で承認審査中。特発性肺線維症の第三相ではFVCの下落率が偽薬比有意に小さく、病状判定スコアの悪化や急性増悪を防ぐ効果については、一本はフェールしたがもう一本は成功した。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

この二剤の使い易さを比較すると、どちらも経口剤だが服用頻度はEsbrietが一日三回、Ofevは二回なので若干少ない。Esbrietは重度肝機能障害と末期腎疾患、Ofevは中重度肝機能障害を持つ患者には推奨されない。Esbrietは皮膚光線過敏を招くことがあるので日光を避けるなりサンスクリーンを用いるなりする必要がある。ラッシュも起きることがある。Ofevは催奇性を持つので妊娠の可能性のある人は避妊が必要。

主な副作用は両剤とも悪心、嘔吐、腹痛、下痢、食欲低下などのリスクを持つ。OfevはVEGFR阻害作用を持つので血圧上昇リスクもある。

Esbrietの審査期限は11月、Ofevは来年1月だったが、同時に承認されたため販促競争が始まることになる。インターミューン一社では心許なかったが、ロシュならベーリンガーと遜色ないだろう。競争が価格抑制につながるなら医療経済にポジティブだが、希少疾患用薬で参入も二社だけなので、望み薄だろう。

Imbruvicaが欧州でも承認

(2014年10月17日発表)

カリフォルニアのファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)は、Btk阻害剤Imbruvica(ibrutinib)が欧州で承認されたと発表した。適応は昨年11月に承認された米国とほぼ同じで、再発性または難治性のマントルセルリンパ腫と、慢性リンパ性白血病の二次治療。後者は、化学療法不適で17p(第17染色体短腕)欠失あるいはTP53変異を持つ場合は一次治療に用いることもできる。

米国ではTP53変異に対する一次治療は承認されていない。17p欠失もTP53変異も化学療法応答性が低いので一次治療可としたのだろうが、薬効の裏付けはサブグループ分析なので、エビデンスの磐石性に関する評価が欧米で食い違ったのだろう。

マントルセルリンパ腫は米国で年5000人診断される難治性疾患。慢性リンパ性白血病は1.6万人で、うち、17p欠失は新患の7%、再発・難治性患者の20~40%を占めると推定されている。

Imbruvicaはファーマサイクリクスがジョンソン・エンド・ジョンソンと共同販売している。

リンク:ファーマサイクリクスのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA諮問委員会、チャンピックスの枠付警告は未だ外せないと判定

(2014年10月16日発表)

FDAの精神薬理学薬と薬品安全性・リスク管理に関わる諮問委員会が共催会議を開き、ファイザーの禁煙補助薬、Chantix(varenicline、和名チャンピックス)の神経精神学的副作用について検討、枠付警告を削除するのは早計との結論に至った。

Chantixが06年に米国で承認された時はピーク年商13億ドルの大型化が期待されたが、テキサスのミュージシャンの悲劇などがメディアに大きく取り上げられ、09年に市販後有害事象報告に基づいて枠付警告が導入されたため、08年の8.5億ドルをピークに頭打ちになってしまった。枠付警告があると医療組合・保険の処方制限が厳しくなるからだ。内容も、激性や鬱気分、行動異常、自殺思慮などが見られたら服用を止めるよう患者や介護者に説明することを推奨する厳しいものだ。

通常は、服薬中に有害事象が発生したら医師に相談せよと書くものだが、精神症状は本人でないと分からないこともあり、例えば鬱症状だったら、医療施設に行きたがらないかもしれない。だからリスクを患者自身に十分に説明する必要があるのだが、怖がって服用を拒否する可能性もあり、難しいところだ。これらの有害事象はChantixではなく禁煙すること自体の副作用である可能性も排除できないのである。

そのせいか、枠付警告では禁煙やChantixの効果についても言及し、便益と危険を十分に検討した上で決定するよう推奨している。枠付警告は深刻な副作用に注意を促すもので、通常、便益については言及しない。

今回、諮問委員会が開催されたのは、ファイザーが疫学試験や臨床試験のメタアナリシスに基づいてリスクは高まらないと判定し、枠付警告の削除・緩和をFDAに求めたため。

FDA審査官は、安全性確認試験の結果が15年に出るまで待つべきと考えた。理由は、神経精神学的有害事象症例の中にはタバコを吸い続けた患者もいるので、ニコチン依存の離脱症状と決めつけることはできない。また、過去の禁煙チャレンジでは発症しなかった患者もいる。更に、服薬を中断して症状が緩和したため再開したら再発という、薬の関与を疑うべき症例もあった。

18人の委員のうち、11人は枠付警告を維持すべきと判定した。6人は上記の便益に関する記述を廃止すべきと主張。警告廃止を推奨したのは一人だけだった。米国では厳しい制限が続くことになりそうだ。

薬の利益相反やバイアスというと製薬会社の話ばかりだが、実際には、医学者にも、患者のために良い薬であってほしい、良い薬なので使ってほしいという善意に基づくバイアスがある。子宮頸癌予防用ワクチンの神経学的有害事象は他の国でも騒ぎになったことがあり、日本でも発売前に十分に予見できたはずだ。普及を促すために効能に関する留保点や副作用とは断定できない有害事象を割愛するのは良くあること。日本のメディアは医療メディアも含めて大本営発表に忠実なので、私たち自身が注意しなければならない。

リンク:MedPage Todayの記事

今週は以上です。

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2014年10月12日

海外医薬ニュース2014年10月12日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • テキサスのエボラ患者、電子カルテに問題は無かった
  • エボラウイルス疾患の新たな治療薬候補
  • Sunesis、第三相がフェールも欧州で承認申請へ
  • BMS、スンベプラの承認申請を米国で撤回
  • Prosensa、アンチセンス薬の承認申請手続きを開始
  • Harvoni承認でC型肝炎の治療も一日一回、一錠の時代に
  • 米国でエーザイの制吐剤合剤が承認
  • ベルケイド、MCL一次治療に承認


【今週の話題】


テキサスのエボラ患者、電子カルテに問題は無かった

(2014年10月3日発表)

10月5日号で記載した、テキサス州の病院がエボラウイルス疾患を見落とし帰宅させてしまった事件の原因は、電子医療記録のシステム上の不備ではなかった。病院側が訂正したもので、医師が感染地域渡航歴を知ることのできる状態にあった。油断としか考えられず、この油断は、どの国のどの医師でも犯しうる。万が一に備えて、発熱患者には渡航歴を訊こう。

リンク:NY Timesの報道

エボラウイルス疾患の新たな治療薬候補

(2014年10月6日発表)

ノースカロライナ州の抗ウイルス薬開発企業、Chimerix(Nasdaq:CMRX)は、CMX001(brincidofovir)をエボラウイルス疾患の治療に用いるための緊急治験薬申請(EIND)がFDAに承認されたと発表した。報道によるとTexas Health Presbyterian Hospitalの患者に用いられたようだ。残念ながら不幸な転帰になったが、もっと早く投与できれば違った結果になったかもしれず、また、用量が足りなかったのかもしれない。

brincidofovirは、ギリアドのCMV網膜症治療薬、Vistideの活性成分であるcidofovirをリピッドと結合することによって抗ウイルス活性を増強し、経口投与を可能にし、腎毒性を緩和したもの。in vitroでヒトに感染する二重連鎖DNAウイルス全てに活性を示した。エボラは単鎖RNAウイルスだが、CDC/NIHのin vitro試験で同様な活性が認められたようだ。エボラの動物試験が進行中で、臨床試験もデザイン検討中。

この薬の良いところは、CMV網膜症などに900以上の臨床投与例を持っていること。造血細胞移植を受けた患者のCMV感染症予防で2013年に第三相試験に進んだ。先週、アデノウイルス感染症の第三相試験パイロット試験の結果が発表されたが、死亡率37%と文献データである80%よりかなり良いものだった。

勿論、in vitro試験と臨床は異なる。富山化学のアビガン(ファビピラビル)のように、ウイルスが異なれば至適用量が全然違うこともありうる。しかし、brincidofovirの場合はin vitroのEC50がアデノウイルスやCMVに対するそれと大差ないとのことなので、クリアしなければならなハードルの数が少ない。

それにしても、brincidofovirは三面記事ネタになる薬だ。薬効・忍容性を確認するには偽薬対照二重盲検試験が不可欠だが、命に係る疾患の場合、偽薬割付けは医療倫理に反する可能性がある。かと言って、望む患者に治験外で提供していたら、臨床試験に参加する患者がいなくなってしまう。エボラの臨床試験をどのように実施すべきなのかは現在でも議論の的である。

brincidofovirは既に洗礼を受けている。アデノウイルス感染症の子供の両親が、提供を断られて、ネットやメディアを巻き込んでキャンペーンを行い、コンパッショネート・プログラムという通常の臨床試験と異なる形で未承認薬を入手することに成功したのだ。少年は無事、退院できたようである。世間に知れ渡ったこと、結果が出たことで、偽薬対照試験を行うことが一層困難になった。

リンク:Chimerixのプレスリリース

【新薬開発】


Sunesis、第三相がフェールも欧州で承認申請へ

(2014年10月6日発表)

Sunesis Pharmaceuticals(Nasdaq:SNSS)は、Qinprezo(vosaroxin)の第三相急性骨髄性白血病二次治療試験がフェールしたことを発表した。欧州で承認申請に向かう計画。米国もFDAと今後を相談する考え。欧州はサブセグメント分析に基づいて条件付き承認をすることがあるが、現時点では薬効確認試験が予定されていないので、承認申請が受理されても承認はされないだろう。

この試験は、白金薬による前治療歴を持つ患者にcytarabineと併用する効果を検討した偽薬対照試験。主評価項目の全生存期間は併用群のメジアン値が7.5ヶ月、偽薬群が6.1ヶ月、ハザードレシオは0.865、p値は0.06でフェールした。

一方、事前に設定されていた、幹細胞移植を受けた患者を追跡打切りとする解析では各6.7ヶ月、5.3ヶ月、0.809、p=0.02となり、p値が0.05を下回った。同様に、事前に設定されていた60歳以上と未満のサブグループ分析では、60歳以上で各7.1ヶ月、5.0ヶ月、0.755、0.006という結果になった。おそらく、このサブグループ分析に基づいて、承認を求める意図なのだろう。711名というかなり大きな試験なので、サブグループ分析の症例も少なくはないだろう。

しかし、p値が0.06でも0.02でも統計的な有意性が高くないことに変わりはない。0.006は良い数値だが、主評価項目がフェールした後の解析なので、厳格な統計学では有意とは言えない。また、併用群の重篤有害事象発生率は55.5%と偽薬群の35.7%をかなり上回っており、体力の劣る60歳以上では偏りがもっと大きいと推測される。これらのことを考えると、欧州でも承認される可能性は低いのではないだろうか。

Qinprezoは03年に第日本住友製薬からライセンスしたキノロン誘導体で、DNA介入とトポイソメラーゼII阻害の二つの作用を持つとされる。

リンク:Sunesisのプレスリリース

BMS、スンベプラの承認申請を米国で撤回

(2014年10月7日発表)

BMSは、慢性C型肝炎治療薬BMS-650032(asunaprevir、和名スンベプラ)の米国の承認申請を撤回したことを明らかにした。理由は不明だが、おそらく、Ia型のウイルスに対する活性が低いからだろう。このNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤は、7月に日本でIb型に同社のDaklinza(daclatasvir、和名ダクルインザ)と二剤併用する用法で承認された。日本はIb型が7割を占めるので、ribavirinやインターフェロンに不耐不適な患者向けに役に立つという判断なのだろう。

ギリアドが昨年、NS5Bポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(sofosbuvir)を発売して以来、C型肝炎治療薬の開発競争に鎮静化の兆しがある。NS5A複製複合体ledipasvirを配合したHarvoniが先週、米国で承認されたことによって、この一剤を一日一回、8~24週間服用するだけで9割以上の患者が完解するのだから、最早、生半可な新薬はいらないと言っても過言ではない。一世を風靡したアルファ・インターフェロンも、ribavirinも、そしてプロテアーゼ阻害剤すら、一次治療薬としては役割を終えてしまった。

sofosvirはギリアドが2011年にファーマセット社を110億ドルで買収して入手したもの。入札で価格が吊り上がったと当時は報じられたが、投資に見合う大きな成功を収めた。ポリメラーゼ阻害剤は短期間で強力にウイルスを抑制できるが、耐性ウイルスが生じるリスクが比較的高い。ポリメラーゼ阻害剤はウイルス消失まで時間が掛かるが耐性ウイルスが出にくい。難点は副作用で、これまでに多くが胃腸や心臓、肝腎の副作用で開発中止になった。狭き門を潜り抜けたのがsofosvirで、それだけに、強い。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認申請】


Prosensa、アンチセンス薬の承認申請手続きを開始

(2014年10月10日発表)

Prosensa(NASDAQ:RNA)は、米国でPRO051(drisapersen)のローリング承認申請を開始したと発表した。欧州でも来年、承認申請の予定。2011年に第三相試験がフェールし今年に入ってグラクソ・スミスクラインが共同開発販売権を返還したため前途が危ぶまれたが、意外な展開になった。

エクソン・スキッピングという新しい作用機序を持つオリゴヌクレオチド薬で、デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療薬として開発されている。DMD患者の多くは筋細胞膜の維持に必要なジストロフィンの遺伝子に欠損や塩基配列重複などを持ち、正常なジストロフィンを産生できない。このうち、エクソン51に変異を持つ患者向けに開発されているのがdrisapersenで、RNAのスプライシングに介入し、短いがある程度の機能を持つジストロフィンが作られるようになる。

第三相試験では186人の小児患者を組入れて6分歩行試験で薬効を評価したが、偽薬群との差は10メートルに留まり、フェールした。二次的評価項目の解析もフェール。忍容性面では皮注箇所反応が78%で発生(偽薬群は16%)、腎有害事象も46%で発生した(同25%)。ジストロフィン量は増加するので効果はあるはずなのだが、臨床的転帰を改善できるだけの力が無いのかもしれない。そもそも、ジストロフィン量の計測が正しくないのかもしれない。

深刻な疾患なのでProsensaやSarepta社、あるいは日本新薬が開発しているエクソン53スキッピング薬が効いてほしいと思うが、今のところ、十分に納得できるエビデンスはないように感じられる。

リンク:Prosensaのプレスリリース

【承認】


Harvoni承認でC型肝炎の治療も一日一回、一錠の時代に

(2014年10月10日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)は、FDAがHarvoniをI型慢性C型肝炎の治療薬として承認したと発表した。昨年承認されたNS5Bポリメラーゼ阻害剤、Sovaldi(sofosbuvir)の活性成分と、NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirを配合している。C型肝炎のコンビ薬は初。インターフェロンやribavirinを併用しないレジメンの承認も米国では初。

ギリアドと言えばHIV/AIDSのコンビ薬の開発で大きな成果を上げ、場合によっては一日に10以上のピルを服用しなければならない多剤併用療法を、一日一回、一錠飲むだけに変えた。Harvoniの承認で、C型肝炎の治療も一日一回一錠の時代に入った。

報道によると、価格は8週間コースで63000ドル、12週間コースは94500ドル。Sovaldiはインターフェロンなど3剤合計で94726ドルとされるので、薬剤費全体では同等以下ということになる。治療期間はウイルス量の変化を見て決定することになるのだろうが、患者の半分程度は8週間で足りる模様。インターフェロンとribavirinを1年間(日本では不応なら延長)投与していた時代とは様変わりだ。日本でも9月に承認申請された。

リンク:ギリアドのプレスリリース

リンク:FDAのリリース

米国でエーザイの制吐剤合剤が承認

(2014年10月10日発表)

FDAは、Akynzeo(netupitant, palonosetron)を化学療法誘導性悪心嘔吐の予防薬として承認したと発表した。

配合二成分は何れもスイスのHelsinn社の開発品で、5-HT3受容体拮抗剤palonosetronはMGIファーマが米国で2003年に発売、化学療法施行後早い段階で発症する悪心嘔吐を抑える。NK1拮抗剤netupitantは今回が初承認、翌日以降に発症する遅発性悪心嘔吐を抑える。MGIを買収したエーザイが合剤の米国共同販促権を取得したもの。

NK1阻害剤はMSDが11年前にEmend(aprepitant、和名イメンド)を発売、来年にはGE化する見込みだが、エーザイは、コンビ薬であることや薬物相互作用が小さいことをアピールして、『アカンぜよ』と言われるのを防ぐことになりそうだ。

リンク:FDAのプレスリリース

ベルケイド、MCL一次治療に承認

(2014年10月9日発表)

武田薬品の子会社であるミレニアム・ファーマスーティカルズ社は、FDAがVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)をマントルセルリンパ腫の一次治療に用いることを承認したと発表した。03年に再発性・難治性の多発骨髄腫に、06年には再発性・難治性のマントルセルリンパ腫に承認されたプロテアソーム阻害剤が、また一つ用途を広げた。

予後の悪い難病なので、一次治療は多剤併用になる。第三相試験ではRituxan(rituximab)など5剤を併用するR-CHOPレジメンと、vincristineの代わりにVelcadeを用いるVcR-CAPレジメンのPFS(無進行生存期間)を比較したところ、メジアン14ヶ月対25ヶ月、ハザードレシオ0.63と大きな差があった。

リンク:ミレニアムのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年10月5日

海外医薬ニュース2014年10月5日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 発熱患者には渡航歴を尋ねよう
  • ESMO:抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体とMEK阻害剤のデータ発表
  • Xa阻害剤の解毒剤の第三相が成功
  • リリーは抗BLyS抗体の開発を中止
  • ギリアドの抗HIV薬が米国で承認


【今週の話題】


発熱患者には渡航歴を尋ねよう

(2014年10月3日発表)

ダラスに続いてトロントでもエボラウイルス感染症が疑われる患者が発生したようだ。日本に上陸し広がるのを防ぐ方法は四つある。第一は西アフリカでの流行を収めるべく支援すること。第二は不要不急な感染地域への渡航を避けること。第三は、流行地域から帰国後に発熱したら速やかに病院に行き、渡航の事実を告げた上で治療を受けること。第四は、医療従事者は発熱を訴える患者がいたら渡航歴を尋ねること。ダラスの事例は最後の二点に関する重要な教訓になりうる。

報道によると、この患者はリビエラから帰国して4日後に発熱し、その2日後に病院の救急部に行って診療を受けたが帰宅。更に2日後に入院するまでに数十人と接触してしまった。何故、診断が遅れたのか?

エボラは出血を合併するとは限らず、初期の段階では他の感染症と見分けるのが難しいため、渡航歴を尋ねることが重要だ。この症例でも看護師がアフリカ帰国者であることを聞き出し、EHR(電子医療記録)に記載したが、医師には伝わらなかった。看護師の入力内容は診断に必要ない事項も多く、渡航歴はそのような情報の一つとして扱われるため医師がすぐ気付くような形では表示されず、医師の側も看護師記録を読まない習慣があったからだ。

EHRの陥穽が露呈した格好だが、それ以前に、もし看護師が医師に直接伝えていれば、あるいは、もし医師が患者に渡航歴を尋ねていれば、多くの人が感染のリスクに曝されるのを防げたかもしれない。感染者の家族、友人もさることながら、自分自身や同僚、家族、そして病院にいる患者を守るために、発熱患者には渡航歴を尋ねよう。

リンク:MedPageの記事(要登録)

【新薬開発】


ESMO:抗PD-1抗体/抗PD-L1抗体とMEK阻害剤のデータ発表

(2014年9月29日発表)

ESMO(欧州臨床腫瘍学会)で、BMS/小野薬品やMSD、ロシュのPD-1/PD-L1を標的とする抗体医薬三品の様々な臨床成績が発表された。ロシュのMEK阻害剤の第三相結果と合わせて報告しよう。

BMSが小野薬品と共同開発している抗PD-1完全ヒト化抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)は欧米でも悪性黒色腫用薬として承認申請・受理されたところだが、薬効のエビデンスとなった第三相試験の中間解析結果が初めて公表された。9月に米国で承認されたMSDの抗PD-1完全ヒト化抗体、Keytruda(pembrolizumab)と概ね同じような成績だ。

このCheckMate-037試験は、BMSの抗CTLA-4完全ヒト化抗体Yervoy(ipilimumab)による前治療歴を持つ末期黒色腫患者を組入れて、Opdivoと医師が選んだ化学療法の効果や安全性を比較したもの。主評価項目はORR(客観的反応率)と全生存期間だが、中間解析はORRだけだったようだ。Opdivo群は32%(95%信頼区間24~41%)、化学療法群は11%(4~23%)。解析時点ではOpdivo群の95%の患者で反応が持続していた。

Keytrudaの単群試験のORRは24%(95%信頼区間15~34%)で数値上は見劣りするが、信頼区間が重なっているので効果は同程度と考えた方が良いだろう。この二本の試験はどちらもRECISTに基づいて評価、医師の判定を第三者が査読している。Yervoy前治療患者を対象としている点も同じ。大きな違いはKeytrudaは第二相単群試験であること。

リンク:BMSのプレスリリース(9/29付)

Keytrudaは驚くほど大規模な後期第一相試験が行われている。ESMOでは胃癌と膀胱癌のデータが初めて発表された。先ず、PD-L1陽性胃癌を組入れた試験はORRが31%と良さそうな結果が出た。胃癌は日本や韓国では診断・治療後の転帰が他の地域より良い傾向があり国際治験を行う上でかく乱要因になりうるが、Keytrudaの試験ではアジアもそれ以外の地域もORRは同程度だった。MSDは第二相に進む予定。

抗PD-1/PD-L1は腫瘍に対する免疫力を強化するので、IL-2やインターフェロン療法と似たところがある。悪性黒色腫や腎細胞腫、膀胱癌は免疫強化療法が有効な分野なので抗PD-1/PD-L1が効いても意外感はないが、胃癌は新鮮な驚きだ。

リンク:MSDのプレスリリース(9/28付)

膀胱癌の試験はORRが24%(29例中7例)で、完全反応率10%だった。抗PD-1/PD-L1抗体はPD-L1発現癌のほうが効果が高い可能性があるが、この解析は未だ行われていない模様だ。MSDは第三相へ進む予定。

リンク:MSDのプレスリリース(9/29付)

これらの試験は10mg/kgを2週間に一回投与した。悪性黒色腫の承認用法は2mg/kgを3週間に一回、7.5倍の量を使うので忍容性も注目される。胃癌では低酸素症で死亡した患者が医師に治療関連有害事象と判定された由。

ロシュのRG7446/MPDL3280Aは膀胱癌の第一相試験のアップデートが行われた。IHC法でPD-L1発現度が2または3と判定された患者はORRが52%(33例中17例)、0または1は14%(36例中5例)、PFS(無進行生存期間)のメジアン値は各24週間と8週間だった。やはり、膀胱癌に関してはPD-L1発現度に基づいてスクリーニングした方が良さそうだ。

リンク:ロシュのプレスリリース(9/29付)

悪性黒色腫の5割程度を占めるBRAFのV600変異型にはBRAF阻害剤のモノセラピーまたはMEK阻害剤併用が有効だ。グラクソ・スミスクラインはbraf阻害剤Tafinlar(dabrafenib)とMEK阻害剤Mekinist(trametinib)を13年に米国で発売。11年にbraf阻害剤Zelboraf(vemurafenib)を発売したロシュもエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)からGDC-0973/XL518(cobimetinib)を導入、第三相試験を実施し、ESMOでデータ発表した。

デザインはMekinistの併用試験と同様で、Zelboraf単剤療法と比較。主評価項目のPFSはZelboraf・cobimetinib併用群がメジアン9.9ヶ月、単剤群は6.2ヶ月、ハザードレシオは0.51で統計的に有意だった。医師の判定を第三者が査読した解析でも類似した結果になった。BRAF阻害剤は皮膚の良性腫瘍を刺激するリスクがあるが、この試験でも、MEK阻害剤併用で発生率を引き下げることができた。

分子標的薬の弱点は標的分子又はその川下の腫瘍関連分子が変異して効かなくなることだ。BRAF阻害剤とMEK阻害剤は夫々の薬効に加えてシナジーも生んでいる可能性があり、併用療法の未来を示唆している。

リンク:ロシュのプレスリリース(9/29付)

Xa阻害剤の解毒剤の第三相が成功

(2014年10月1日発表)

続々と登場した抗凝固薬新薬の弱点の一つは、解毒剤がないことだ。ワーファリンほど作用のオフセットが遅くないので大きな問題にはなっていないが、事故や緊急手術を行う時にはあったほうが良い。注目されているのがPortola社(Nasdaq:PTLA)が開発している遺伝子組換え型ヒトXa因子、PRT4445(andexanet alfa)で、一本目の第三相試験成功が発表された。

高齢健常者にEliquis(apixaban、和名エリキュース)を4日間投与した後に、PRT4445をボラス静注したところ、抗Xa因子レベルや非結合apixabanレベル、トロンビン生成などの評価項目で偽薬群を有意に上回った。

PortolaはXa阻害剤メーカーと提携して様々な第三相を行っている。Eliquisについてはボラス後に2時間連続点滴する試験も実施中。バイエル/JNJのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)、第一三共のSavaysa/Lixiana(edoxaban、和名リクシアナ)、Portolaがミレニアム社から導入・開発しているXa阻害剤、PRT021/MLN-1021(betrixaban)などの解毒試験も実施中。

FDAからブレークスルーセラピー指定を受けている。対象薬が多く競合品は少ないのでニッチだが有望な開発品だ。PortolaはCor社の研究者がミレニアム・ファーマスーティカルズに買収された時に独立して創設した会社。

リンク:Portolaのプレスリリース

リリーは抗BLyS抗体の開発を中止

(2014年10月2日発表)

イーライリリーは抗BAFF完全ヒト化抗体LY2127399(tabalumab)の第三相全身性エリトマトーデス試験のフェールと開発中止を発表した。二本のうち一本では高用量群の奏効率が偽薬群を有意に上回ったが、もう一本は二用量ともフェールした。

BAFFはBLySの別名なので、LY2127399はグラクソ・スミスクラインが11年に発売したBenlysta(belimumab)と同じような薬である。関節リウマチも第三相がフェールしており、Benlystaの売上高も期待外れであることから、開発を続行しても商業的な価値が小さいと判断したのだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認】


ギリアドの抗HIV薬が米国で承認

(2014年9月24日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)の抗HIV薬Stribild(和名スタリビルド配合錠)は12年に米国で、13年には日欧でも承認されたが、配合四成分のうち、新規活性成分であるインテグラーゼ阻害剤elvitegravirと3A4阻害剤cobicistatの単剤は、欧州ではスンナリ承認されたが米国は遅れていた。FDAの承認薬データベース、Drug@FDAによると9月に承認されたが、ギリアドがプレスリリースを出していないため気付かなかった。

Vitekta(elvitegravir)は日本たばこからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤。ピルバーデンを緩和するためにTybost(cobicistat)のような3A4阻害剤を併用する。Stribildはelvitegravirを150mg配合しているが、UGT1Aを阻害する薬と併用する場合は量を減らす必要があるため、Vitektaは85mgも商品化された。

TybostはBMSのプロテアーゼ阻害剤Reyataz(atazanavir、和名レイヤターズ)またはジョンソン・エンド・ジョンソンのPrezista(darunavir、和名プリジスタ)と併用する。両剤ともcobicistat配合剤が開発されている。アッヴィのベストセラー製品であるNorvir(ritonavir)は、遂に競合品が登場した。

リンク:Drug@FDAのリンク(Vitekta)

リンク:同(Tybost)

今週は以上です。

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2014年9月28日

海外医薬ニュース2014年9月28日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ESMO:ゼローダとアバスチンの適応拡大試験
  • 抗IL-17A抗体が乾癬性関節炎の試験も成功
  • ビリアード後継薬の第三相が成功
  • BMS、オプジーボを欧米で承認申請
  • アムジェン、急性リンパ芽球性白血病用薬を承認申請
  • CHMPが新薬5品などの承認を支持
  • セルジーン、Otezlaの適応拡大承認


【新薬開発】


ESMO:ゼローダとアバスチンの適応拡大試験

(2014年9月25日発表)

ロシュはESMO(欧州臨床腫瘍学会)でXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)とAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の適応拡大試験の結果を発表することを明らかにした。欧州時間本日28日に発表される。Xelodaのデータは大変良く、Avastinは統計的には有意だか効果自体は小さい。

XelodaのIMELDA試験は、her2陰性の転移性乳癌でdocetaxelとAvastinによる一次治療を受けて癌が進行しなかった患者に、AvastinとXelodaによる維持療法を施行して、Avastinだけの維持療法を受ける群とPFS(無進行生存期間)を比較したオープンレーベル試験。

結果は、メジアンPFSが各群11.9ヶ月と4.3ヶ月、ハザードレシオ(HR)は0.38、pは0.001未満となり成功した。転移性乳癌のPFSはあまりアテにならないが、二次的評価項目である全生存期間も夫々39.0ヶ月、23.7ヶ月、0.43、0.001未満と統計学的にも臨床的にも意味のある延命効果が見られた。

乳癌は効果の確立していない薬も含めて多数の選択肢があり、5次治療、6次治療を受ける患者も少なくないようだ。薬物療法のコースを終えて癌の進行をある程度制御できていたら、しばらく様子を見て、進行後に次の治療を開始するというのが一般的な方針で、抗癌剤の副作用から回復する時間的な余裕を与えるメリットもある。しかし、短期間で再燃する癌の場合は、そして、効果が大きい場合は、維持療法は有力な選択肢になる。

もう一本のTANIA試験は、転移性乳癌の一次治療でAvastinを併用した患者に二次治療を行う時に、もう一度Avastinを併用する便益を検討したオープンレーベル試験。主評価項目のPFSは6.3ヶ月と、化学療法だけの群の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.75、p=0.0068と統計学的には大変有意なデータが出たが、たった2ヶ月と言えないことも無い。2015年に全生存期間の解析結果が出るまでは何とも言えないだろう。

Avastinは乳癌ではPFSが延びるものの延命効果は確認されておらず、米国のように承認を取り消した国もある。

リンク:ロシュのプレスリリース

抗IL-17A抗体が乾癬性関節炎の試験も成功

(2014年9月25日発表)

ノバルティスは、AIN457(secukinumab)の第三相乾癬性関節炎試験が成功したと発表した。抗IL-17A抗体はプラク乾癬の試験で良績を上げているが、合併症である乾癬性関節炎の第三相が成功したのは初。AIN457は2013年に日米欧で承認申請されたが、2015年に乾癬性関節炎でも適応拡大申請される予定。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ビリアード後継薬の第三相が成功

(2014年9月24日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、GS-7340(tenofovir alafenamide fumarate:略称TAF)を配合した固定用量コンビ薬の第三相HIV/AIDS治療試験二本が成功したと発表した。

この合剤は、elvitegravir(インテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤)、cobicistat(3A4阻害剤)、emtricitabine(核酸系逆転写阻害剤)も配合しており一日一回服用で足りる。2012~13年に日米欧で承認されたStribild(和名スタリビルド配合錠)の成分のうち、tenofovir disoproxil fumarate(TDF)をTAFに置き換えた格好だ。

TAFとTDFはどちらもtenofovirのプロドラッグだが、TAFの臨床用量は10mgとTDFの300mgよりだいぶ小さく、コンビ薬を開発する上で都合が良い。また、腎副作用が比較的小さいため対象患者が広がる可能性がある。更に、TDFはテバが2017年に米国でGE薬を発売する見込みなので、Viread(TDF、和名ビリアード)やTDFを配合する数多くの医薬品の特許切れ対策にも有効だ。

新薬の販売促進活動は第三相試験のデザインを決める段階から始まっている。米国は製薬会社がレーベルに記載されていない用途や効能・特性を宣伝することを規制しているので、臨床試験でキチンと確認してレーベルに記載できるようにすることが重要なのだ。今回の試験も販促に役立つ内容となった。

具体的には、ウイルス消失奏効率が91~93%でStribild群の88~92%と比べて非劣性。過去の試験ではやや弱そうだったので、一安心。有害事象による治験離脱や安全性プロファイルは同程度。腎副作用はeGFR低下がStribuild群より有意に小さく、骨代謝に与える影響も腰椎や股関節の骨塩密度低下が有意に小さかった。但し、差は決して大きくなく臨床的にどの程度の意義があるのかは良く分からない。

ギリアッドは他の試験の結果を待って2014年末までに承認申請する予定。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

【承認申請】


BMS、オプジーボを欧米で承認申請

(2014年9月27日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を欧米で末期黒色腫用薬として承認申請し受理されたと発表した。米国は優先審査指定とブレークスルーセラピー指定を受け、審査期限は15年3月30日。EUも優先審査指定。第三相CheckMate-037試験の中間解析結果に基づくもので、データはESMOで現地(スペイン)の29日朝のプレスブリーフィングで明らかにされる予定。

この試験は同社のYervoy(ipilimumab)及び、brafV600変異型の場合はbraf阻害剤による治療を受けて再発した患者を組入れて、Opdivo(3mg/kg)を二週間に一回点滴静注する群と、dacarbazine又はcalboplatin・paclitaxel併用を三週間に一回静注する群の客観的反応率と全生存期間を比較したもの。今年4月に中間解析成功が発表された、米国の施設が参加していないCheckMate-066試験とは違う試験だ。

対象患者は今月承認されたMSDのKeytruda(pembrolizumab)と重なるが、037試験で延命効果が確認されたのだとしたらエビデンス面で上回ることになる。客観的奏効率の解析結果しかないのだとしたらKeytrudaと対等で、全生存期間の解析結果が出るのが先か、Keytrudaの第三相一次・二次治療試験の結果が発表されるのが先かという競争になる。

両剤とも他の薬との併用や他の癌の開発が活発に行われており、当面は、他社の開発品を含めて、デッドヒートが繰り広げられることになりそうだ。Opdivoは肺癌でも米国でローリング承認申請を開始、年内に完了する見込み。Keytrudaは三週間に一回の投与であることが他の薬と併用する上で有利。肺癌などではPD-L1の発現状況が応答性に関連している可能性があり、閾値をどこに置くかということも含めて開発者の腕の見せ所だ。

リンク:BMSのプレスリリース

アムジェン、急性リンパ芽球性白血病用薬を承認申請

(2014年9月22日発表)

アムジェンは、AMG 103(blinatumomab)を米国で承認申請した。フィラデルフィア染色体陰性の前駆B急性リンパ性白血病の成人に用いる。承認申請の根拠となった第二相単群試験では再発・難治性患者の34%が完全寛解、メジアン生存期間は6ヶ月だった。主な有害事象は熱性好中球減少症など骨髄抑制と、脳症も見られたようだ。6週サイクルで4週間、連続点滴静注する。

2012年に11.6億ドルで買収したドイツのマイクロメット社の開発品で、Bispecific T cell Engager(BiTE)抗体技術を用いて、二種類の抗体の短鎖可変領域をポリペプチドで結合した。片方はBセルが発現するCD19に結合し、もう片方は細胞傷害性TセルのCD3エプシロンに結合。Fcガンマ受容体を持たないため通常の抗体が結合できない細胞傷害性Tセルを活性化し、腫瘍を攻撃させる。

急性リンパ芽球性白血病は米国で年6000人、EUでも7000人が診断される癌で、再発・難治性患者のメジアン生存期間は3~5ヶ月とされる。blinatumomabの6ヶ月というのは決して効果が高い訳ではなく、化学療法によるサルベージセラピーと大差ない模様だが、選択肢の一つにはなるだろう。慢性骨髄性白血病やフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病におけるabl阻害剤のように、病気の根幹に介入する治療法を発見するための一里塚になるかもしれない。

リンク:アムジェンのプレスリリース

リンク:ASCO Daily News(14/6/23)

【承認審査・委員会】


CHMPが新薬5品などの承認を支持

(2014年9月26日発表)

EUの医薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、9月の月例会議で、新薬5品を含む15品の承認と3品の適応拡大・対象人口拡大に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

新薬では、まず、アストラゼネカのMoventig(naloxegol oxalate、米国名Movantik)。オピオイド系鎮痛剤の副作用で慢性便秘になり、緩下剤に十分反応しない患者に用いる。ネクター社が創製したPEG化naloxoneで、naloxoneより浸透性が低くP輸送蛋白の基質となるため脳血管関門通過性が低く、末梢選択的にミュー・オピオイド受容体を阻害、オピオイドの鎮痛効果は妨げずに便秘副作用だけを中和する。一日一回服用。米国では今月、承認された。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

ギリアッドのHarvoniは、NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirとNS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvirの合剤で、慢性C型肝炎の治療に用いる。I型ウイルス感染者の初治療試験では合剤を一日一回8週間服用するだけで99%の患者が奏功した。ribavirin不耐患者にとっては貴重な治療手段になる。日本でも第三相が成功、今月、承認申請された。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:ギリアッドのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのnintedanib(製品名は未決定の模様)は肺癌用薬で、局所進行性、転移性、または局所再発性の腺腫の二次治療にdocetaxelと併用する。腺腫以外も組入れた第三相試験では全患者で主評価項目のPFS解析が成功、解析計画に基づいて全生存の解析も行われ、腺腫ではHR0.83、p=0.0359と統計学的にも臨床的にもマージナルな差が見られたが、全患者の解析はフェールした。

扁平上皮以外の患者にAlimta(pemetrexed)と併用した第三相は無益性で打ち切られており、その意味でも、効果は限定的。

nintedanibはVEGFR、PDGFR、FGFR1を阻害する小分子薬。難病である特発性肺線維症の第三相が成功しており、商業的にはこちらの方が有望なのではないか。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

イーライリリーのCyramza(ramucirumab)は抗VEGFR-2完全ヒト化抗体。末期癌で白金薬と5-FUによる前治療を既に受けた患者に用いる。paclitaxelと併用するが、不耐ならモノセラピーも可。米国では4月に承認された。併用試験ではメジアン生存期間がpaclitaxel群の7.4ヶ月から9.6ヶ月に延長、ハザードレシオ0.807、モノセラピー試験では支持療法だけの群の3.8ヶ月から5.2ヶ月に延長、HR0.776だった。

同じくリリーのTrulicity(dulaglutide)は週一回投与型のGLP-1作用剤。食後の血糖値上昇時にインスリンの分泌を促進し、グルカゴンの分泌を抑制する作用も持つ。二型糖尿病の治療に、metforminなどに併用するが、metformin不耐不適はモノセラピー可。米国では今月承認された。

適応拡大的な新製品では、ノバルティスのSignifor(pasireotide)の月一回筋注用製剤を先端巨大に用いることが支持された。切除やSandostatin(octreotide)など既存のソマトスタチンに不適・不応の場合に用いる。即放性製剤は2012年にクッシング症候群の治療薬として承認された。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

GE化した活性成分の適応拡大という珍しいパターンが、HRA社のKetoconazole HRA。クッシング症候群に用いることが加速審査を経て支持された。ketoconazokeは抗真菌剤として長い市販歴を持つが、肝毒性を持つためCHMPは2013年に経口剤の承認停止を勧告した。その結果、30年以上に亘ってオフレーベルのまま使っていたクッシング症候群の患者が使えなくなってしまったため、今回、公知申請された。

リンク:CHMPのプレスリリース

新コンビ薬では、スペインのAlmirall社が開発しアストラゼネカが関連事業を取得した吸入用長期作用性ムスカリンaclidiniumとベータ2作用剤formoterolの合剤、Brimica/DuaklirがCOPDの維持療法として支持された。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのRezolstaはHIV/AIDS治療用の合剤で、非ペプチド系プロテアーゼ阻害剤darunavirとギリアッドの3A4阻害剤cobicistatを配合、後者が前者の代謝を妨げるため服用量・頻度を削減することができる。アッヴィのritonavirは抗HIV薬としてよりも他の抗HIV薬のピルバーデンを改善する用途の方が主流になったが合剤は同社のKaletraしかない。ギリアッドがcobicistatを開発したおかげで他社も3A4阻害剤合剤をラインアップできるようになった。

テバのEgranli(balugrastim)が化学療法誘導性好中球減少症の治療薬として支持された。アムジェンのNeulasta(pegfilgrastim、和名ジーラスタ)と同様な長期作用性G-CSF。米国でも承認申請されたが撤回された。

CHMPのプレスリリースには記されていないが、アストラゼネカのIressa(gefitinib、和名イレッサ)の適応を判定する検査法を追加することも支持された由だ。即時発効。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤はEGFRに活性化変異を持つ腫瘍が適応になる。従来は切除術などで採取した腫瘍を遺伝子検査して判定していたが、標本がない場合はctDNA(血中循環腫瘍のDNA)を代用できることになった。アストラゼネカはQiagen社とコンパニオン・ダイアグノスティックの開発で提携したばかり。

ct細胞/DNAは癌を発見する代理マーカーとして注目されているが、薬物応答性検査に用いるのは目新しい。her2など他の検査・薬にも使えるのか興味がわく。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

一方、ロシュのAvastinの神経膠腫適応拡大は再び否定的意見となった。臨床試験では画像診断に基づいて効果を判定したが、VEGF阻害剤を用いると血管の浸透性が低下し造影剤が染み出しにくくなるため、実態以上に腫瘍が小さくなったように見える可能性がある。PFSが延びたのに全生存期間が延びなかったことはこの仮説と符合する。EUは二次治療(モノセラピー)も一次治療化学療法併用も認めなかった。米国は二次治療モノセラピーだけ承認した。

日本は両方承認した。欧米の加速審査は、後に本承認に切り替える手続きが導入されていて、もし薬効確認試験がフェールした場合は承認取消になる。日本はこの辺がいい加減なので、医師や患者は本当に効くのか疑いながら使わなければならない。

【承認】


セルジーン、Otezlaの適応拡大承認

(2014年9月23日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、PDE4阻害剤Otezla(apremilast)を中重度乾癬の治療に用いることが米国で承認されたと発表した。今年3月に乾癬性関節炎の治療薬として承認されている。経口投与できることが長所だが効果は穏やか。副作用は下痢、悪心、頭痛など。体重が減少する可能性があるのでモニターする。鬱病のリスクがあり鬱病患者は禁忌。催奇性を持つ可能性がある。

リンク:セルジーンのプレスリリース

今週は以上です。

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