2014年10月26日

海外医薬ニュース2014年10月26日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • アビガンをエボラ向けに追加生産へ
  • 大鵬、米国でロンサーフの承認申請手続きを開始
  • Imbruvicaをマクログロブリン血症に適応拡大申請
  • CHMPが二種類の画期的新薬などに肯定的意見
  • バクスター、後天的A型血友病用薬が米国で承認


【今週の話題】


アビガンをエボラ向けに追加生産へ

(2014年10月20日発表)

富士フィルムは、インフルエンザ治療薬アビガン(ファビピラビル)をエボラ向けに追加生産することを発表した。11月中旬にギニアやフランスで臨床試験を開始、有効性や安全性が確認されれば広く使われる可能性があるので、予め在庫を積み増す。

エボラウイルス疾患の治療法としては、回復した患者の血漿、抗体カクテル療法、ワクチン、小分子薬などが開発・試用されている。血漿は米国人医師ブラントリー氏の血漿がネブラスカやダラスの患者に用いられた。抗体カクテル療法はMapp BiopharmaceuticalのZMappがサルの試験で12頭全てが生存と良い結果を出したが在庫がなくなった。従来の製法だと量産に時間が掛かるため、複数の企業が量産方法の開発に着手した。

ワクチンは準備が整えば一番量産しやすいのではないかと思われる。予防だけでなく、感染者と接触した人の暴露後予防や、もしかしたら発症後の治療にも有効かもしれないので、将来、エボラ対策の決め手が現れるとしたら最有力候補だろう。

小分子薬では、効果の点で有望なのがサルの試験で全頭が生存という良績を挙げたTekmira Pharmaceuticals(Nasdaq:TKMR)のTKM-Ebolaだ。ネブラスカの患者が投与を受けたと報じられている。ただ、この薬も量産性に難があるようだ。量産方法の開発は、通常、第二相、第三相試験と平行して行うが、TKM-Ebolaは第一相段階なので已むを得ない。

アビガンの長所はインフルエンザで900例を超える臨床成績を持っていることと、供給力が豊富であること。催奇性を持つので通常の季節性インフルエンザに用いることはできないが、難治性の新型インフルエンザが流行した時の切り札として、厚労大臣の指示があったら量産できるよう体制を整えていたはずだ。現時点で2万人分、原薬は30万人分のストックがある由。

効果の面では見劣りする。WHOの資料によれば、サルの試験で6頭中1頭しか生存しなかった。論文刊行されていないのでプロトコルは不明だが、これが最初の試験なら、おそらく、ウイルスを移植すると同時に投与したのだろう。現実の医療では2~21日経って発症してから投与するので、効果はもっと下がる可能性が高い。ZMappの試験では移植5日後に投与を開始したケースでも全頭生存した。

増量試験を実施中とのことだが、そうなると、インフルエンザ臨床試験よりも副作用が増加するリスクがある。悪心嘔吐の症状がある疾患に大量の錠剤を飲ませるというのも、どの程度現実的なのか分からない。増量試験で他の薬と同様な成果を挙げない限り、もっと有効な薬が登場するまでの繋ぎに留まりそうだ。

米国で評価を高めているのが、Chimerix(Nasdaq:CMRX)のCMX001(brincidofovir)だ。サイトメガロウイルス感染予防で第三相試験中なので、ある程度の安全性のエビデンスを持っている。二重連鎖DNAウイルス全てに有効と言われていたコンパウンドが単鎖RNAウイルスであるエボラに有効と言われても俄かにはピンと来ないが、理屈はどうでも効けば良いのだから、サルの試験がどのような結果になるか、期待して待ちたい。

ダラスやネブラスカの患者に投与されたが、ネブラスカの患者がCMX001を選んだのは忍容性が比較的良いからとのこと。現段階では多少忍容性が悪くてもサルのエビデンスのある薬の方が良いように感じられるが、複数の開発品を同時使用するケースが多いようなので、副作用の相乗効果を恐れているのかもしれない。

リンク:富士フィルムのプレスリリース(和文)

【承認申請】


大鵬、米国でロンサーフの承認申請手続きを開始

(2014年10月21日発表)

大鵬薬品は、米国でTAS-102(trifluridineとtipiracilの合剤、和名ロンサーフ配合錠)のローリング承認申請を開始したと発表した。承認申請に必要な三種類の書類を、完成したものから逐次提出して審査を開始してもらうもので、有望な新薬を早く患者に届けるための制度である。年内に完了する予定なので優先審査指定されれば来年前半にも承認されることになりそうだ。

ロンサーフは日本の第二相試験に基づいて今年3月に結腸直腸がんのサルベージ療法(承認されている全ての薬がフェールした患者の最後の手段)として厚労省に承認された。今回の申請は同様な内容のグローバル第三相試験に基づくもので、メジアン生存期間が7.1ヶ月と、偽薬群の5.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.68、pは0.0001を下回った。

リンク:大鵬薬品のプレスリリース(和文)

Imbruvicaをマクログロブリン血症に適応拡大申請

(2014年10月21日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、慢性リンパ性白血病やマントルセルリンパ腫向けに承認されているBTK阻害剤、Imbruvica(ibrutinib)を、ワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症(WM)の治療薬として米国で適応拡大申請した。この三種類の疾患全てでブレークスルーセラピー指定を受けている。

WMは非ホジキンリンパ腫の一種で、IgM抗体が過剰生産され血液の粘度が上昇する。症状は易出血性や視覚・神経異常など様々で無症状の場合もある。年1000~1500人が診断され、60代、70代が多いようだ。

ImbruvicaはB細胞の生存性を増強する酵素を阻害する小分子薬で、Pharmacyclics(Nasdaq:PCYC)から共同開発販売権を取得したもの。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが二種類の画期的新薬などに肯定的意見

(2014年10月24日発表)

EUの薬品規制庁であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の会議でオーストラリア企業の皮膚病薬やアストラゼネカのPARP阻害剤などの新薬と、メディベーション/アステラスの抗癌剤の対象患者拡大について、肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク:EMAのプレスリリース、

オーストラリアの皮膚病用薬開発会社、Clinuvel Pharmaceuticals(ASX:CUV)が開発したScenesse(afamelanotide)は、EPP(赤血球産生性プロトポルフィリン症)の対症療法。EPPは常染色体優性遺伝による希少疾患で、フェロキラターゼの欠損によりプロトポルフィリンがヘムに変換されずに骨髄や赤血球、皮膚などに蓄積する。プロトポルフィリンは光に反応して皮膚の痛みや腫れを起こするので、患者は日光などを避けなけらばならない。

Scenesseはメラニン細胞刺激ホルモンの類縁体で半減期を長期化したもの。メラニンを増やして皮膚を守る。第三相試験はフェールしたが、CHMPは、例外的環境条項に基づく承認を勧告した。薬効を評価するには患者を陽に当てて痛みが起きないことを確認する必要があるが、患者が嫌がるので、十分なエビデンスが無くても已むを得ないと判定した。

EUは承認審査に際して患者からヒアリングする制度を導入したが、Scenesseは第一号となった。

リンク:EMAのプレスリリース

アストラゼネカのPARP阻害剤、Lynparza(olaparib)は、BRCA変異を持つ再発性卵巣癌の維持療法用薬。薬効のエビデンスは第二相試験のサブグループ分析なので不確かなところがある。

BRCAとPARPは、遺伝子を修復する二つのメカニズムの夫々に関与する。BRCAに変異を持つ人は自然に発生した遺伝子変異・損傷を修復できないリスクがあり、乳癌や卵巣癌のリスクが高い。PARP阻害剤を使うと、活発に分裂するため遺伝子変異が起きやすい癌細胞は遺伝子修復ができなくなり、増殖を防げられる。片足で立つ癌細胞の残った足を蹴飛ばす訳だ。

臨床試験では、再発性白金感受性卵巣癌で白金ベース化学療法に反応した患者にLynparzaまたは偽薬を経口投与したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.35と大変良い数値が出たが、全生存期間には有意な差が無かった。アストラゼネカは一旦、開発を断念したが、事後的解析で、BRCA変異を持つ症例のPFSのハザードレシオが0.18で有意、全生存期間は0.74と有意ではないが良さそうな数字が出た。このため、昨年、第三相試験に進んだ。

抗癌剤の第二相試験の事後的サブグループ分析は当てにならず、第三相がフェールした例は枚挙に暇がない。このためFDAは第三相試験で確認するよう求めることが多いが、CHMPは好意的なところがある。今回のプレスリリースには条件付き承認とは記されていないが、もし本承認だとしたら、更に一歩踏み出したことになる。

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

新薬でもう一つ、肯定的意見を受けたのがバクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)のRixubis(nonacog gamma)。遺伝子組換え型第IX因子で、B型血友病患者の出血治療と予防に用いる。米国では13年に成人患者向けに承認されたが、EUは小児も含めて申請するよう求めているため、小児治験の結果を待って申請したもの。予防的投与では週二回投与した。

リンク:EMAのプレスリリース

ファイザーの選択的エストロゲン受容体調節剤Conbriza(bazedoxifene、和名ビビアント)の活性成分に混合エストロゲンを配合したDuaviveも肯定的評価を受けた。米国では閉経後女性の紅潮治療と骨粗しょう症予防の適応症で昨年10月に承認されたが、EUでは子宮を持つ閉経後女性のエストロゲン欠乏症状の治療という漠然とした適応になる。プロゲスチンが不適の場合に用いる。65歳以上の治験症例は限定的。

Conbrizaは09年にEUで承認されたが米国は未承認。エストロゲン製剤や選択的エストロゲン受容体調節剤は米国で一世を風靡したが、長期試験のエビデンスが積み重なるにつれて潮が引き、更年期障害の対症療法として限定的に用いられるだけになった。

リンク:EMAのプレスリリース

適応拡大では、メディベーション(Nasdaq:MDVN)がアステラス製薬と共同開発・販売する経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤、Xtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)を化学療法未施行の患者に用いることが支持された。

現在の適応は、ホルモン療法に反応しなくなり化学療法の治療歴を持つ患者。化学療法が適応になるのは骨転移などにより疼痛などの症状を持つ患者だが、適応拡大後は、症状が小さいあるいは穏やかなうちにXtandiで治療を行うことができるようになる。早い段階の方が対象患者数も治療期間も増えるので、薬の市場性が大きく拡大する。

リンク:EMAのプレスリリース

【承認】


バクスター、後天的A型血友病用薬が米国で承認

(2014年10月24日発表)

バクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)は、FDAがObizurを後天的A型血友病の成人の出血治療薬として承認したと発表した。インスピレーション社の開発品だったが、2012年にチャプター11申請を行い、バクスターが権利を買収したもの。

後天的A型血友病は第VIII因子に対する抗体(インヒビター)を持つのでヒト第VIII因子が使えない。患者の半分は原因不明、残りの半分は妊娠、癌、薬の副作用が関与している由だ。Obizurは遺伝子組換え型ブタ第VIII因子製剤で、インヒビターの影響を受けず、拒絶反応も誘導し難い。欧州でも承認審査中。

リンク:バクスターのプレスリリース

今週は以上です。

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