2013年12月29日

海外医薬ニュース2013年12月29日




私事で恐縮ですが、今年は異動で就業環境に大きな変化があり、正直、海外医薬ニュースを続けるのは大変でした。何とか来年も続けたいと思いますので、ご声援お願いします。

来年が新薬の研究に情熱を傾ける人たちや、病気に苦しむ人たちに少しでも良い年になりますように。

【ニュース・ヘッドライン】




  • NK-1受容体拮抗剤の第三相が成功したが
  • TAK-875が開発中止
  • 武田、MLN0002のFDA審査期限延期
  • ノボの第XIII因子が米国でも承認
  • ルンドベックの抗鬱剤が欧州でも承認


【新薬開発】


NK-1受容体拮抗剤の第三相が成功したが

(2013年12月23日発表)

TESARO(Nasdaq:TSRO)は、Opko Health(AMEX:OPX)からライセンスしたNK-1受容体拮抗剤rolapitantの三本の第三相試験のうち最初の二本が成功したと発表した。中度と高度の催吐性を持つ化学療法を受ける癌患者を組入れた悪心嘔吐予防試験で、5-HT3受容体拮抗剤とdexamethasoneを併用してrolapitantを一回投与したところ、化学療法開始の24時間後から120時間後の間の悪心嘔吐が偽薬比有意に少なかった。

残念だったのは、二次的評価項目である最初の24時間、あるいは全期間では有意差が無く、トレンドに留まったこと。10年前に承認された類薬であるEmend(aprepitant、和名イメンド)の試験では全期間でも有意差があった。

NK-1受容体拮抗剤は遅発性悪心嘔吐の予防に有効と考えられており、rolapitantの試験結果は意外ではない。また、Emendは3日間経口投与するが、rolapitantは半減期が長いため一回で足り、また、薬物相互作用リスクが小さい。ただそれにしても、10年以上遅れて発売される薬のデータが先行品に見劣りするのでは情けない。

rolapitantは09年にシェリング・プラウから権利を取得したもの。TESAROはエーザイが買収したMGIの経営陣などが設立した会社で、そう言えば、同社が開発した5-HT3受容体拮抗剤Aloxi(palonosetron)も第三相試験のデータが先行品より見劣りした。

リンク:Tesaroのプレスリリース

TAK-875が開発中止

(2013年12月27日発表)

武田薬品は、GPR40部分作動剤TAK-875(fasiglifam)の開発中止を発表した。第三相試験中で、日本では今年5月に試験成功が発表されたが、肝安全性懸念が浮上したようだ。

GPR40は膵島細胞に発現する遊離脂肪酸受容体で、TAK-875は部分作動して血糖濃度依存的にインスリン分泌を刺激する。第二相試験では50mg一日一回の投与でHbA1cが偽薬比0.99%低下した。深刻な有害事象の発生率は1%で、肝機能検査値異常、心停止・腎不全、冠動脈頸動脈疾患が見られた。

第三相では独立肝安全性評価委員会が設置されたとのことなので、FDAのガイダンスに対応して、Hyの法則に該当する症例について薬物誘導性肝障害であるかどうか判定するプロトコルが採用されたのだろう。その結果、5年前に開発中止となったTAK-475(lapaquistat)と同様に、関連性を否定できない症例が見つかったのだろう。

1000人に一人といった低頻度で発生する肝毒性は第三相試験でないと確認できない。血圧、血糖値、コレステロール値を下げる薬は効果に関しては後期第二相試験で十分に確認することができるので、第三相試験の意義は稀に起きる副作用の発見である。その意味では、武田がきちんとした体制を取って発売前にリスクを検出したことは賞賛すべきだろう。

リンク:武田のプレスリリース(和文)

【承認審査・委員会】


武田、MLN0002のFDA審査期限延期

(2013年12月25日発表)

武田薬品は、FDAが炎症性腸疾患治療薬MLN0002(vedolizumab)の潰瘍性大腸炎用途における承認審査期限を来年2月18日から5月20日に延期したと発表した。武田が添付文書の記述などを改定したことが申請内容の主要な変更と見做された模様だ。クローン病は標準審査で日程的な余裕があり、期限は変更されていない。

MLN0002はアルファ4ベータ7インテグリンを標的とする抗体医薬型免疫抑制剤で、バイオジェン・アイデックのTysabri(natalizumab)と似ているが、アルファ4ベータ1には結合しないのでPML(進行性多病巣性白質脳症)という深刻な副作用リスクを持たない可能性があり、現実に、臨床試験では一例も発生しなかった。しかし、Tysabriも発生頻度は数千人に一人なので、エビデンスが十分とは言えない。迂闊に安全と認定してしまうと、医師や患者が油断して発見・対応が遅れてしまうリスクがある。

このため、私は、REMS(リスク評価緩和戦略)という適正使用担保策が導入され医師・薬剤師の事前登録やPMLの原因であるJCウイルスの事前検査などが課されると予想しているが、武田のリリースはREMSに言及していない。もし特別なREMSがなく添付文書の注意喚起だけで済むのだとしたら、販売面でポジティブだ。

リンク:武田のプレスリリース(和文)

【承認】


ノボの第XIII因子が米国でも承認

(2013年12月20日発表)

ノボ ノルディスクは、Tretten(catridecacog)が第XIII因子欠乏症患者の出血予防薬としてFDAに承認されたと発表した。欧州では昨年承認されたが、米国は生産問題などが原因で遅れていた。

第XIII因子は、血栓のフィブリンとクロスリンクして網状に変え、強固な凝固塊にする。第XIII因子欠乏症は世界で1000人強の超希少疾患で、一旦は止血するものの再出血しやすい。第XIII因子は酵素活性を持つAサブユニットとBサブユニットで構成されるが、第XIII因子欠乏症の殆どは前者を欠いている。そこで、遺伝子組換え型の第XIII因子AサブユニットであるTrettenを月1回、点滴静注して、補充する。

リンク:ノボのプレスリリース

ルンドベックの抗鬱剤が欧州でも承認

(2013年12月27日発表)

ルンドベックは、Brintellix(vortioxetine)がEUで鬱病に承認されたと発表した。米国でも9月に承認。抗鬱剤はSSRIが普及、難治性患者にはSNRIなどもあり、一次治療薬に反応しなくても二次治療薬でかなりの患者が寛解するようになった。それでも三次治療薬、四次治療薬を必要とする患者はいるが、開発が難しく商業的なポテンシャルも小さくなったので、製薬会社の開発意欲は高くない。その中で、第三相試験がフェールしても諦めずに開発を続けたルンドベックが、遂に、欧米で承認に漕ぎ着けたことは意義深い。

リンク:ルンドベックのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年12月23日

海外医薬ニュース2013年12月23日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • BMSが代謝性疾患事業を売却
  • アクテリオンは旭化成に4億ドルを払うべし
  • C型慢性肝炎の治療はこの二剤で決まり
  • キュービスト、腹腔内感染試験も成功
  • オンノコバ、rigosertibの膵癌試験がフェール
  • KalydecoのR117H変異膿胞性線維症試験結果
  • ラピアクタが米国でも承認申請
  • ビクトーザが体重管理薬として承認申請
  • ランタスのバイオシミラーが米国でも承認申請
  • CHMPがエグゼリキシスの甲状腺癌用薬などの承認を支持
  • GSK、テラバンスのCOPD合剤が米国で承認
  • アクテリオンの肺動脈高血圧症治療薬が欧州で承認


【今週の話題】


BMSが代謝性疾患事業を売却

(2013年12月19日発表)

BMSは、代謝性疾患に係る提携資産をアストラゼネカに売却することで合意した。代価は一時金27億ドルと承認・販売目標達成報奨金14億ドル及び2025年までの売上ロイヤルティ。アストラゼネカが一部の資産を売却する場合は更に2.25億ドルを支払う。BMSで当該事業に係る4100人はアストラゼネカに転籍、研究開発や製造に係る従業員はBMSに残る。英国上場基準に則して算出された譲渡資産の公正価値は83億ドル、2012年の税前利益は4億ドルの赤字。

両社は07年に提携、BMSが創製したDPP-4阻害剤Onglyza(saxagliptin、和名オングリザ)やSGLT2阻害剤Forxiga(dapagliflozin)、BMSが買収したアミリンのアミリン誘導体Symlin(pramlintide acetate)、GLP-1作用剤Byetta(exenatide、和名バイエッタ)とその長期作用性製剤Bydureon、遺伝子組換え型レプチンmetreleptinなどを開発販売している。BMSと言えばドイツのメルクから導入したmetforminが大成功し糖尿病治療薬で大きなプレゼンスを持っていたが、少なくとも一旦は、姿を消すことになる。

重点領域を明確にして開発予算を集中的に投下する戦略がポピュラーになったが、各社の重点領域は殆ど同じなので、結果的に、開発競争は緩和しない。一流の研究体制を持つ企業同士なので競争は熾烈になるばかりである。その中でユニークなのがBMSの戦略で、Xa阻害剤でもファイザーと開発販売提携する一方、腫瘍学や自己免疫疾患では単独で独創的な新薬を次々と商品化している。

今回の戦線縮小も、開発や販売促進に費用が掛かりその割には他社製品と差別化しにくい分野ではなく、画期的新薬が続々と登場し高い価格が許容される高採算領域に特化することにより資本効率と利益成長力を強化する狙いだろう。他社の開発品を模倣し同じような製品を販売力に任せて拡販するme-too drug戦略と一線を画している。ビッグ・ファーマを目指す会社以外にとっては注視すべき戦略だ。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

アクテリオンは旭化成に4億ドルを払うべし

(2013年12月19日発表)

旭化成がスイスのアクテリオン社を提訴した損害賠償訴訟の控訴審は、原審を支持し、アクテリオンと経営陣に4.07億ドルを支払うよう命じた。アクテリオンは上告する考え。

旭化成は06年に脳血流改善剤エリル(fasudil)をCoTherix社にライセンスした。狭心症や肺動脈高血圧症の治療薬として開発されるはずだったが、アクテリオンがCoTherixを4.2億ドルで買収しライセンス返還したため、頓挫した。アクテリオンは安全性懸念を理由に挙げたが、旭化成は、アクテリオンの主力製品であるTracller(bosentan、和名トラクリア)の競合品の発売を阻止することが目的と見做し、契約違反で商事調停を求めると共に、アクテリオン及び3名のオフィサーに対して損害賠償を求めた。

ICCによる仲裁裁定はCoTherixの契約違反を認定し、0.91億ドルの賠償を課した。損害賠償請求裁判は第一審がアクテリオンに補償的賠償金、3人に懲罰的賠償金を課し、アクテリオンは2011年の決算で特別損失を計上した。今回、控訴審が原審を支持したことによって、ほぼ決着したと言ってよいだろう。企業を買収した後に開発プロジェクトの見直しを行うのはごく一般的であり、なぜこのような結果になったのか分からないが、おそらく、内部文書や内部告発が決め手になったのだろう。

リンク:アクテリオンのプレスリリース

【新薬開発】


C型慢性肝炎の治療はこの二剤で決まり

(2013年12月18日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は二種類の抗HCV薬の合剤を用いた遺伝子型I型のC型慢性肝炎の第三相試験三本の結果を発表した。一日一回、一粒を12週間服用するだけで9割以上の患者が奏功、一次治療だけでなく二次治療でも奏効率9割、一次治療なら8週間の治療で終わらせることも可能、という大変良い内容だ。14年第1四半期に承認申請する予定。日本でも第三相試験が行われている。

以前取り上げたアッヴィの4剤併用試験は難治性の肝硬変合併患者は対象外だったが、ギリアッドの試験は2割程度、組入れており、価値が高い。インターフェロンもribavirinも要らない、二剤併用でこれだけの成果が上がるなら、4剤併用の必要はないだろう。I型C型慢性肝炎治療の決定版と言えそうだ。

ギリアッドは今月、米国でNS5Bポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(sofosbuvir)の承認を取得した。WAC(問屋取得価格)が4週間分で28000ドルという大変高価な薬である。今回の合剤はNS5A複製複合体阻害剤GS 5885(ledipasvir)を配合したもので、sofosbuvirは400mg、ledipasvirは90mg。初めて治療を受けるナイーブ患者を対象とした一次治療試験二本と、二次治療(プロテアーゼ阻害剤を使う三剤併用療法を受けた患者も対象)一本が行われた。

一次治療におけるSVR12(治療終了後12週間経ってもウイルスが検出されなかった患者の比率)は、ION-1試験が12週間の治療で97.7%、ribavirinを併用した群が97.2%。ION-3試験は12週間で95.4%、8週間投与した群は99.1%、ribavirin併用で8週間投与した群は94.0%。二次治療のION-2試験は12週間で93.6%、ribavirin併用群は96.4%。各群大差なく、ribavirinは不要、一次治療は8週間で足りそうだ。

一部の試験では24週間コースの群も設けられているが、プロトコルを変更し12週間群の解析を先に行った。主な有害事象は疲労や頭痛。ribavirin併用群は悪心や不眠も増加した。貧血症の発生率は0.5%でribavirin併用群の9.2%より小さかった。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

キュービスト、腹腔内感染試験も成功

(2013年12月16日発表)

キュービスト(Nasdaq:CBST)は、CXA-201(ceftolozaneとtazobactamの合剤)の第三相複雑腹腔内感染症試験の成功を発表した。metronidazole併用で、効果がmeropenemと非劣性だった。先に成功した複雑尿道感染症と合わせて、14年上期に米国で、欧州でも下期に承認申請する予定。

CXA-201は静注用複合セファロスポリンで、アステラス製薬から世界開発販売権を取得したグラム陰性緑膿菌に対する活性が既存のセフェム経抗生剤より高いceftolozaneとベータラクタマーゼ阻害剤tazobactamを配合。米国では認定感染症製品(QIDP)資格を持ち、承認後は5年間の特許期間補填を受けることができる。

この試験では、両群とも4~14日間治療したところ、細菌学的除菌成功率の差の95%信頼区間が-8.9%~0.5%となり、非劣性マージンの10%を下回った。この評価項目はFDAが求めたものだが、EUが求めた26~30日後の臨床的寛解率でも99%信頼区間が-4.2~4.3%となり、非劣性マージンの12.5%を下回った。主な有害事象は悪心嘔吐、下痢、発熱、不眠など。

リンク:キュービストのプレスリリース

オンノコバ、rigosertibの膵癌試験がフェール

(2013年12月17日発表)

オンコノバ(Nasdaq:ONTX)は、ESTYBON(rigosertib)の第2/3相転移性膵癌一次治療試験が中間解析で無益性認定となったことを発表した。rigosertibはPI-3やPLKを阻害する小分子薬。このadaptive試験ではgemcitabineと併用する効果を検討したが、治験を続行しても成功する可能性が低いため、打ち切られることになる。

難治性のMDS(骨髄異形成症候群)でも第三相試験中で、成否は今月中または14年第1四半期に判明する予定。rigosertibは日本ではシンバイオ製薬が、欧州ではバクスターがライセンスしている。

リンク:オンコノバのプレスリリース

KalydecoのR117H変異膿胞性線維症試験結果

(2013年12月19日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は、Kalydeco(ivacaftor)の適応拡大試験の結果を発表した。フェールしたが、18歳以上のサブグループに限れば有意な呼吸能力改善効果が示唆されたため、FDAと相談する考え。

膿胞性線維症はCFTRという蛋白の機能不全が関与しているが、原因となる遺伝子変異は様々である。Kalydecoは2012年にG551D変異型向けに承認されたが、単剤、またはVX-661併用で他の型に対する効能も研究されている。今回の第三相試験はR117H変異型に対するもので、FDAのブレークスルー・セラピー指定を受けている。6歳以上の患者69人を組入れたが、%予測1秒量の変化に偽薬比有意な差は無かった。

しかし、このうち18歳以上の患者50人に関する事前に予定されていた解析では、変化幅で5ポイント、p=0.01、変化率で9.1%、p=0.008と効果の兆しが示唆された。通常なら、主評価項目がフェールした以上二次的評価項目やサブグループ分析は当てにならないと断じるところだが、難病だけに無視できない。データの細部に問題が無く、17歳以下の患者との違いを合理的に説明できるならば、承認の可能性があるだろう。

膿疱性線維症の患者は世界で7万人、うち米国は3万人で、このうち既に承認されているG551D変異型は4%、適応拡大試験が成功し承認審査中の非G551Dゲーティング変異型は1%、今回の18歳以上のR117H変異型も1%。VX-661併用で第三相試験が進行中のF508欠損ホモ接合型が49%なので、ここまで適応拡大すれば過半の患者に対応できるようになる。

リンク:ヴァーテックスのプレスリリース

【承認申請】


ラピアクタが米国でも承認申請

(2013年12月20日発表)

バイオクリスト(Nasdaq:BCRX)は、米国でBCX-1812(peramivir、和名ラピアクタ)を非複雑性インフルエンザの治療薬として承認申請した。この静注用ノイラミニダーゼ阻害剤は日本で09年に承認されたが米国での開発は難航し、経口剤や筋注用製剤の開発は中止、日本と同じ点滴静注で重篤入院患者の第三相試験が実施されたが中間解析で無益性が認定された。なぜ承認申請できたのか、良く分からない。

リンク:バイオクリストのプレスリリース

ビクトーザが体重管理薬として承認申請

(2013年12月20日発表)

ノボ ノルディスクは、二型糖尿病治療薬Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)の活性成分を体重管理薬として欧米で承認申請した。食欲やインスリン分泌を調整する腸ホルモンGLP-1のアミノ酸配列の一部を置換し脂肪酸を結合したもの。Victozaは最大で一日1.6mgまで投与されるが、体重管理試験では1.8mg又は3mgを投与した。用量間の差は小さいように感じられるので、承認されるのは二型糖尿病でも数多くの治験実績がある1.8mgだけかもしれない。

リンク:ノボのプレスリリース(pdfファイル)

ランタスのバイオシミラーが米国でも承認申請

(2013年12月20日発表)

二型糖尿病領域で提携しているイーライリリーとベーリンガー・インゲルハイムは、前者が開発したLY2963016を米国で承認申請したと発表した。サノフィ・アベンティスのベストセラー持効性インスリン、Lantus(insulin glargine、和名ランタス)と同じ活性成分を持つバイオ後続品だが、形の上ではFDA法505条(b)(2)に基づく承認申請なので、薬局における自動代替(処方箋に特定の製品名が記されていても薬剤師の判断で代替可能)の対象にはならない。

まあ、バイオ後続品として承認されても自動代替のハードルは高いだろうから、結果は大差ないだろう。EUでは今年7月に承認申請が受理された。

リンク:両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがエグゼリキシスの甲状腺癌用薬などの承認を支持

(2013年12月19日発表)

CHMPは12月の会議でエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)のCometriq(cabozantinib)などに肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月以内にEUで承認されることになる。尚、CHMPは今回の会議から事前に議題を、事後には議事録も公開することになった。米国と同様に、域内国民に対する情報開示責任、説明責任を果たす狙いだ。日本も部会の議論の活発化と判断の根拠の開示、そして、伏字の制限が望まれる。

リンク:CHMPのプレスリリース

エグゼリキシスのCometriqはVEGF受容体やmet、RET、kit、flt3などを阻害するマルチ・キナーゼ阻害剤で、プログレッシブな切除不能の局所進行性・転移性甲状腺髄様腫(甲状腺癌の1割以下を占める)に承認申請された。第三相試験ではPFS(無増悪生存期間)が11.2ヶ月と偽薬群の4.0ヶ月を大きく上回った。下記のCHMPのリリースによると、RETに変異のない癌に対する効果が弱い可能性があるようだ。主な有害事象は下痢、手足症候群、体重食欲低下、悪心、疲労など。

EUで承認後はスエーディッシュ・オーファン(STO:SOBI)が2015年まで販売支援する。米国では11月に承認。前立腺癌でも第三相試験中。

リンク:EUのプレスリリース

リンク:エグゼリキシスのプレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンのSirturo(bedaquiline)は多剤耐性肺結核治療薬として条件付きの承認が肯定された。治験で死亡率が対照群より高かったためか、他に適切な治療法がない場合に限定された。この病気で今年、肯定的意見を受けたのは3剤目。第二相標準療法併用試験では24週陰転率が78%と標準療法群の58%を上回った。米国でも今月、同様な限定付きで承認されたが、死亡リスクが高まる可能性が枠付警告されている。

リンク:CHMPのプレスリリース

ノバルティスのアルコン子会社が高眼圧症と開放隅角緑内障の治療薬として承認申請したプロスタグランディンF2アルファ誘導体、Izba(travoprost)点眼液も肯定的意見を受けた。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

Galderma InternationalのMirvaso(brimonidine)も、成人の酒さによる顔面紅斑の治療薬として肯定的意見を得た。8月に米国でも承認されている。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

インドのPiramal Imaging社がアルツハイマー病の診断用薬として承認申請したNeuraceq(florbetaben)も肯定的意見を得た。米国で12年、欧州でも13年に承認されたイーライリリーのAmyvid(florbetapir)と同様に、PETでベータ・アミロイドの蓄積状況を調べるのに用いる。ベータ・アミロイド検査の有用性は明らかではないため、商業的なポテンシャルは不透明。Piramalは2012年にバイエルからPET検査用薬事業を買収した。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

新製剤では、ロシュのRoActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)の皮注用製剤が支持された。日本で今年3月に、米国でも10月に承認されている。既存の製剤は4週間に一回、静注するが、新製剤は週一回、自己注が可能。

リンク:ロシュのプレスリリース

一方、テバ製薬がアクティブ・バイオテック(Nasdaq Nordic:ACTI)からライセンスして再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として開発、承認申請したlaquinimodは、意見がまとまらなかった。1月の会議で再検討されるようだ。アクティブ・バイオテックがこのことを発表したのは、今回から議事録が公開されるので上場企業として適時開示したほうが良いと判断したからだろう。laquinimodの第三相試験は一勝一敗となり、今年3月に三本目の試験が始まった。

リンク:アクティブ・バイオテックのプレスリリース

【承認】


GSK、テラバンスのCOPD合剤が米国で承認

(2013年12月18日発表)

グラクソ・スミスクラインとテラバンス(Nasdaq:THRX)は、米国でAnoro(umeclidiniumとvilanterolの合剤)がCOPDの維持療法として承認されたと発表した。長期作用性ムスカリン拮抗剤と長期作用性ベータ2作用剤の合剤で、一日一回、吸入するだけで足りる。深刻な副作用は、逆説的な気道閉塞、心血管副作用、緑内障、尿滞留など。長期作用性ベータ2作用剤と喘息関連死のリスクに関する枠付警告が付せられた。

グラクソ・スミスクラインは喘息症・COPD維持療法薬Advair(fluticasoneとsalmeterolの合剤)が大成功したが、特許切れ期に入っていて、デンマークでノバルティスのサンド子会社のGE品が承認されたところ。AnoroはAdvairの穴を埋めるべき新薬の一つだが、Advairほどの成功は望めないだろう。

両社は呼吸器系新薬のパイプラインを持ち寄って共同開発している。今回の活性成分は何れもGSKのパイプラインなので、テラバンスは米国承認時に3000万ドル、発売時に3000万ドルを支払い、売上高の10%を得ることができる。

リンク:両社のプレスリリース

アクテリオンの肺動脈高血圧症治療薬が欧州で承認

(2013年12月20日発表)

アクテリオン(SIX:ATLN)は、Opsumit(macitentan)が肺動脈高血圧症の治療薬として欧州で承認されたと発表した。WHO機能分類II型とIII型の成人患者の長期療法として単剤または併用で使用する。Tracleer(bosentan、和名トラクリア)と同じ経口エンドテリンA/B受容体拮抗剤で、違いは、アウトカム試験のエビデンスを持っていること。尤も、効能の中心は6分歩行検査の悪化を遅らせることなので大差ないとも言える。肝機能検査値異常の発生率は高くなさそうだ。来年2月に先ずドイツで発売の予定。米国では10月に承認された。

リンク:アクテリオンのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年12月15日

海外医薬ニュース2013年12月15日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • SABCS:I-SPY 2初の卒業はPARP阻害剤
  • アッヴィの4剤併用C型肝炎試験が再び大成功
  • アストラゼネカ、新規痛風治療薬の第三相が成功
  • tivozanibの試験がまたフェール
  • MSDがBACE1阻害剤の第三相を本格化
  • スペクトラム、belinostatを米国で承認申請
  • 経口I型ゴーシェ病治療薬が米国でも承認申請
  • バクスター、豚由来の第VIII因子を承認申請
  • Aloxiのコンビ薬が承認申請
  • オレキシジェンが体重管理薬の追加データ提出
  • FDA諮問委員会がBMSのSGLT2阻害剤と脂肪萎縮症治療薬を支持
  • FDA諮問委員会が武田の炎症性腸疾患治療薬を支持


【新薬開発】


SABCS:I-SPY 2初の卒業はPARP阻害剤

(2013年12月13日発表)

先週号でneratinibがI-SPY 2試験初の卒業生と書いたが、実際に治験を行っている研究者がSABCSサンアントニオ乳癌会議で行った発表によると、アッヴィAbbVie(NYSE:ABBV)のPARP阻害剤、ABT-888(veliparib)が最初の卒業生だった。

ABT-888はNCI米国立がん研究所が初の第0相試験を行ったことでも知られており、第二の『史上初』を獲得したことになる。他社のPARP阻害剤は第三相がフェールした。革新的な臨床開発方法が成果を生むことができるか、これからが本番だ。

I-SPY 2は複数の開発品を次から次へとテスト。特定のバイオマーカーを持つ癌に効果の兆しが見られたら症例を更に増やすことによって確認し、駄目なら打ち切る。ベイズ確率という手法を用いて標準療法より意味のある且つ有意な差があるかどうかを推定し、300人程度の第三相試験の成功確率が85%以上と判定されたら卒業して第三相に進む。対象はステージ2の早期乳癌。paclitaxel、doxorubicin、cyclophosphamideの標準的術前化学療法に試験薬を追加し、摘出術時に癌が消失したかどうかを調べる。

ABT-888は単剤ではなくcarboplatinとセットで試験された。白金薬で癌細胞のDNAに障害を与え、PARP阻害剤でDNA修復メカニズムを妨げるアイディアだろう。結果は、被験者の2~3割を占める、her2やエストロゲン受容体、プロゲスチン受容体が何れも陰性のトリプルネガティブ乳癌で顕著な効果を示した。二剤を追加した群はpCR(病理組織学的完全反応率)が52%と標準療法の26%を上回り、第三相で有意な差が出るベイズ予測確率は92%となった。

PARP阻害剤ではアストラゼネカのAZD2281(olaparib)が今年、EUで承認申請された。第三相白金薬感受性卵巣癌維持療法試験はフェールしたが、事後的サブグループ分析でBRCAに変異のある患者に延命効果が見られた。米国では承認申請されていない模様だが、おそらく、FDAが事後的分析であることを嫌ったのだろう。サノフィのBSI-201(iniparib)は転移性トリプルネガティブ乳癌の後期第二相試験で効果の兆しが見られたが、第三相はフェールした。

このように、PARP阻害剤の開発歴は楽観を許さない。ABT-888が第三相試験でどのような成果を上げるか、注目される。

リンク:SABCSのプレスリリース

アッヴィの4剤併用C型肝炎試験が再び大成功

(2013年12月10日発表)

アッヴィは、C型慢性肝炎の第三相二次治療試験が成功したと発表した。奏効率は先に発表された一次治療試験と大差ない。まだ数多くの第三相試験が進行中だが、14年第2四半期の承認申請に向けて着々と歩みを進めている。

この試験はABT-450(プロテアーゼ阻害剤)、ritonavir(ABT-450の代謝を妨げる3A4阻害剤)、ABT-267(NS5A複製複合体阻害剤)を配合したコンビ薬と、ABT-333(非核酸系ポリメラーゼ阻害剤)、そしてribavirinを、コンビ薬は一日一回、他の二剤は一日二回、12週間に亘って経口投与し、更に12週間経った段階でウイルスが検出されるかどうか(SVR12)を調べたもの。

被験者はインターフェロンとribavirinの二剤併用療法が奏功しなかった遺伝子型I型ウイルス感染者で、殆ど反応しなかったヌル・レスポンダーが49%を占めた。肝硬変を合併する患者は含まれていない(別の試験が進行中)。

結果は、SVR12が96%で、1a型(96%)にも1b型(97%)にも有効だった。二次治療試験としては大変良い成績だ。

他の試験は、肝硬変を合併する一次治療、二次治療の患者に同じ4剤を用いて12週間または24週間治療するもの、Ib型を対象に4剤併用とribavirin以外の3剤併用を比較する一次治療試験、二次治療試験、そしてIa型一次治療で4剤と3剤を比較する試験が進行中。

4剤併用という表現はritonavirを無視しているが、元々はHIV/AIDSの治療薬として開発されたもので、値段が高い。ribavirinはGE化したが決して安い薬ではない。新薬3剤と高価な2剤を併用するアッヴィのレジメンは効果だけでなく費用も高いだろう。

リンク:アッヴィのプレスリリース

アストラゼネカ、新規痛風治療薬の第三相が成功

(2013年12月13日発表)

アストラゼネカはRDEA594(lesinurad)の第三相試験が成功したと発表した。キサンチン酸化酵素阻害剤に不耐の痛風患者を組入れて尿酸管理奏効率を偽薬と比較したもの。この他にキサンチン酸化酵素阻害剤だけでは十分に管理できない患者を対象としたアドオン試験が3本進行中で、14年央に結果が出る見込み。

lesinuradは選択的URAT1阻害剤で、尿酸の排出を調節する腎臓近位管のトランスポーターを阻害する。allopurinolや武田のUloric(febuxostat)のようなキサンチン酸化酵素阻害剤は尿酸の合成を阻害するので、合成過剰ではなく排泄過少型の患者に適している可能性があり、また、併用でシナジーを生む可能性がある。やや心配なのは今回の第三相で、深刻例を含む血清クレアチニン上昇や腎有害事象が見られたこと。全4本の試験が完了すれば、リスクがどの程度なのか判明するだろう。

lesinuradは12年にArdea Biosciencesを12.6億ドルで買収して入手したもの。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

tivozanibの試験がまたフェール

(2013年12月13日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq:AVEO)は、開発パートナーのアステラス製薬が主導したtivozanibの第二相結腸直腸癌試験が中間解析で無益性認定されたことを明らかにした。oxaliplatinベースの一次治療を受ける患者を組入れてAvastinを併用する標準療法と比較したが、中間解析で治験を続行しても主目的を達成できる可能性は低いと判定された。

tivozanibはVEGF受容体阻害剤で、07年にキリンからアジア以外の権利を取得した。末期腎細胞腫の第三相活性薬対照試験が成功、米国で承認申請されたが、PFS(無増悪生存期間)のp値があまり低くないことや、延命効果が確認されずハザードレシオ自体はむしろ悪かったことから、承認されなかった。アステラスはEUでの承認申請を断念、腎細胞腫における追加試験の費用は負担しないことを決めた。

あと一本、トリプルネガティブ乳癌の第二相が進行中だが、もし成功したとしても、発売は早くて17年、VEGF受容体阻害剤の第一号発売の11年後となり、よほど効果や忍容性が優れていない限り、出番は無いだろう。難しい状態になった。

リンク:アヴェオのプレスリリース(pdfファイル)

MSDがBACE1阻害剤の第三相を本格化

(2013年12月10日発表)

MSDは、MK-8931(旧SCH 900931)のアルツハイマー病第二/三相試験を続行すると共に、新たに前アルツハイマー病の第三相試験を開始すると発表した。アミロイド・ベータの切り出しに係るベータ・セクレターゼを阻害する小分子薬で、同社が買収したシェリング・プラウとライガンド(Nasdaq:LGND)の共同研究の成果。

BACE阻害剤はイーライリリーやエーザイなど多数の製薬会社が開発しているが、イーライリリーのLY2886721は第二相で肝毒性が示唆され、開発中止となった。クラス・イフェクトではないと考えられているが、BACE阻害剤の前臨床では網膜や神経細胞などに影響する可能性が示唆されているようだ。そのせいか、MSDの第二/三相試験ではデータ安全性監視委員会が200例の中間安全性解析を行い、無事、プロトコル変更なく続行となった。

アミロイド・ベータを阻害する薬は抗体医薬もガンマ・セクレターゼ阻害剤も第三相がフェールした。却って悪化する可能性が浮上したコンパウンドもあるが、アミロイド仮説を支持する研究者たちは発症してから阻害しても遅い、もっと早期段階で治療を開始すべきと主張するようになった。この新仮説を検討するのが前アルツハイマー病の第三相だが、難点は、試験期間中にアルツハイマー病に進行する患者がどの程度いるか、判然としないこと。進行が遅いと治療効果を検出できない可能性があるため、結局、多くの症例を組入れて長期間試験する必要がある。

前例の少ない試験は結果を予測することが難しく、フェールする確率が高まる。前アルツハイマー病試験も二度、三度と実施してノウハウを蓄積する必要がありそうだ。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認申請】


スペクトラム、belinostatを米国で承認申請

(2013年12月10日発表)

スペクトラム・ファーマシューティカルズ(NasdaqGS:SPPI)は、トポターゲット(OMX:TOPO)からライセンスしたPXD101(belinostat)を再発性・難治性末梢Tセルリンパ腫に米国で承認申請したと発表した。HDAC阻害剤で、129人を組入れた第二相単群試験ではORR(客観的反応率)が26%だった。

HDAC阻害剤は遺伝子の転写に係るヒストン・ジアセチラーゼを阻害し腫瘍の成長を妨げる。末梢Tセルリンパ腫ではアステラスが創製したIstodax(romidepsin)が09年に米国で承認、現在はセルジーンが販売している。

リンク:スペクトラムのプレスリリース

経口I型ゴーシェ病治療薬が米国でも承認申請

(2013年12月11日発表)

サノフィの子会社であるジェンザイムは、Cerdelga(開発名GENZ-112638、eliglustat tartrate)を米国でI型ゴーシェ病の治療薬として承認申請し、FDAに受理されたと発表した。EUでも10月に申請受理されている。

グルコシルセラミド合成酵素阻害剤で、Cerezymeのような酵素補充療法と異なり経口投与できることが特徴。第三相では初治療でも、酵素補充療法を受けている患者がスイッチする用法でも、効果が見られた。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

バクスター、豚由来の第VIII因子を承認申請

(2013年12月10日発表)

バクスターは、遺伝子組換え型ブタ第VIII因子を後天性A型血友病の治療薬として承認申請した。昨年、経営破たんしたInspirationからOBI-1の権利を取得したもので、第二/三相試験が成功している。インヒビターを持つ患者に使われることになりそうだ。

リンク:バクスターのプレスリリース

Aloxiのコンビ薬が承認申請

(2013年12月9日発表)

スイスのHelsinn社とエーザイは、NEPAを化学療法誘導性悪心嘔吐の予防薬として米国で承認申請したと発表した。5-HT3受容体拮抗剤のAloxi(palonosetron)とNK1拮抗剤netupitantを配合したカプセル剤。この二種類はしばしば併用されるので、利便性が増すことになる。エーザイは米国で共同販促する。

リンク:両社のプレスリリース(pdfファイル)

【承認審査・委員会】


オレキシジェンが体重管理薬の追加データ提出

(2013年12月11日発表)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)は、体重管理薬Contrave(bupropion徐放性剤とnaltrexone徐放性剤のコンビ薬)の心血管アウトカム試験の中間解析予備的報告書をFDAに追加提出したと発表した。もし安全性が確認されるようならば、来年6月までに承認される可能性がある。米国は武田薬品が販売権を持っていて、オレキシジェンは共同販促するオプションを持っている。

リンク:オレキシジェンのプレスリリース

FDA諮問委員会がBMSのSGLT2阻害剤と脂肪萎縮症治療薬を支持

(2013年12月12日発表)

BMSとアストラゼネカは、FDA諮問委員会がForxiga(dapagliflozin)を支持したと発表した。2年前の諮問委員会では心血管安全性や腫瘍リスクを懸念し反対する委員が多数を占めたが、今回は、便益がリスクを上回る(承認に値する)と答えた委員が14人中13人、心血管安全性に関する合理的な裏付けがあると答えたのが10人と、覆った。承認申請後に完了した試験のデータを追加提出し、症例数が人年ベースで1.5倍に増えたことが寄与したようだ。

EUで2012年に承認されたSGLT2阻害剤が米国でも発売に一歩近づいたことになるが、腫瘍の問題が残っているので、まだ不透明だ。また、承認されたとしても、安全性問題は販売の足枷になる。

二型糖尿病薬は心血管アウトカム試験が義務付けられたが、叩けば埃が出るのが常で、DPP-4阻害剤はアウトカム試験で心不全の懸念が浮上した。心臓疾患のある患者には使うべきではないと主張する医学者もいるようだ。インスリンやSU剤はどうなのかと言いたくなるが、新人が何かと口うるさく言われるのは止むを得ないのかもしれない。

リンク:両社のプレスリリース

BMSとアストラゼネカは代謝学領域で開発販売提携している。BMSが買収したアミリンはアムジェンから遺伝子組換え型レプチンのmetreleptinをライセンス、小児成人の脂肪萎縮症の治療薬として米国で承認申請。諮問委員会で討議され、全身性脂肪萎縮症は12人中11人が支持、部分性脂肪萎縮症を伴う高トリグリセライド血症や糖尿病に関しては10人が反対となった。

脂肪萎縮症は世界で数千人の希少疾患で、糖尿病などの代謝性疾患にも使われるなら市場性が広がるか、失望的な結果になった。metreleptinは日本で塩野義製薬が承認申請、今年3月に承認された。日本の患者は100人。

リンク:両社のプレスリリース

FDA諮問委員会が花粉症経口免疫寛容療法を支持

(2013年12月11日、12日発表)

FDAアレルゲン性製品諮問委員会はStallergenes(Euronext Paris:GENP)が承認申請したOralairとMSDが承認申請したGrastekを検討、何れも承認を支持した。

どちらもアレルギー性鼻結膜炎のアレルゲンを含有する舌下錠で、欧州で販売されている。Grastekはコペンハーゲン証券取引所上場のALK-Abelloから導入したものでチモシー用だが、ブタクサ用が別途承認審査中。Oralairはハルガヤ、カモガヤ、多年生ライ麦、チモシー、ケンタッキー青草の5種類に対応している。効果は穏やかで、抗ヒスタミンに反応しない患者に対する代替的療法というのが私の印象だ。シーズンの4ヶ月前から毎日服用する。

Oralairは11日の委員会に上程され、10~65歳の患者には10人中9人が支持した。5~9歳に関しては症例数が少ないため、5人が賛成、5人が反対と分かれた。Grastekは12日の委員会で討議され、9人全員が5~65歳の患者に承認することを支持した。Grastekは日本でも鳥居薬品が開発中。

リンク:Stallergenesのプレスリリース

リンク:MSDのプレスリリース

FDA諮問委員会が武田の炎症性腸疾患治療薬を支持

(2013年12月9日発表)

武田薬品は、FDA諮問委員会がEntyvio(vedolizumab)の承認を支持したと発表した。アルファ4ベータ7インテグリンを標的とするヒト化抗体で、リューコサイト社が97年にジェネンテックにライセンス、第二相で良好な結果が出たがライセンス返還となり、その後、リューコサイトがミレニアムと合併、最優先品目ではなくなったが、類薬のTysabriでPML(進行性多巣性白質脳症)の懸念が高まったため、リスクが小さい可能性のある薬として注目されるようになった。武田がミレニアムを買収、承認申請に漕ぎ着けたもの。

適応症は難治性の中重度クローン病と同じく炎症性大腸炎。後者は全諮問委員が支持したが、クローン病は導入試験が一勝一敗だったため、維持療法については大多数が支持したが導入療法は反対が上回った。維持療法は導入療法が奏功した患者に施行するので、導入に使えないなら維持にも使えないはずだが、奇妙な結果になった。

商業的に重要なのはTysabriとの差別化で、第一のポイントは、Tysabriはクローン病でしか承認されていないこと。炎症性大腸炎で支持されたことは価値がある。第二のポイントは、PMLリスク。Tysabriは厳重な誤用防止策が導入されており、もしEntyvioのPML安全性が認定され同様な策が免除されれば、大きなセールスポイントになる。

諮問委員は好意的に評価したが、こういうことは最悪の事態を想定して行うものなので、おそらく、Tysabriと同様なREMS(リスク評価緩和戦略)が課されることになるだろう。REMSの検討は時間が掛かるため、もし課された場合、優先審査対象である炎症性大腸炎での承認審査期限が来年2月18日から延期される可能性もあるだろう。

リンク:武田薬品のプレスリリース(英文)

今週は以上です。

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2013年12月8日

海外医薬ニュース2013年12月8日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • ノバルティスのDAC阻害剤の第三相が成功
  • I-SPY 2試験で初の卒業生
  • ランタス新製剤の第三相が成功
  • 腎細胞腫は二次治療もVEGFR阻害剤?
  • イーライリリー、LY2216684の開発を中止
  • ZambonがEUでパーキンソン病薬を承認申請
  • ギリアッドの画期的抗HCV薬が米国で承認
  • XiaflexがPeyronie病に適応拡大
  • FDAがレノックス・ガストー症候群治療薬の皮膚毒性を警告


【新薬開発】


ノバルティスのDAC阻害剤の第三相が成功

(2013年12月6日発表)

ノバルティスは、LBH589(panobinostat)の第三相再発性難治性多発骨髄腫試験が成功したと発表した。データは後日、学会発表される予定。LBH589はクラスI、II、IVのジアセチラーゼを阻害する汎DAC阻害剤で、アルファ・チューブリンやp53などの遺伝子翻訳を阻害し、アポトーシスを誘導する。

今回の第三相は、bortezomib(武田のVelcade)とdexamethasoneを用いる標準療法にLBH589を追加する効用を検討したもので、主評価項目であるPFS(無増悪生存期間)が有意に延びたとのこと。ノバルティスは承認申請に向けて欧米の審査機関と相談する考え。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

I-SPY 2試験で初の卒業生

(2013年12月4日発表)

ロサンジェルスのプーマ・バイオテクノロジー(NYSE:PBYI)は、PB272(neratinib)がI-SPY 2試験を『卒業』したと発表した。PB272は11月に転移性乳癌で第三相入りしたところだが、早期乳癌のネオアジュバント(術前化学療法)でも第三相のI-SPY 3試験が始まることになる。

I-SPY 2試験は米国の20の医療機関がFDAやバイオマーカー・コンソーシアムの支援を得て実施しているステージ2早期乳癌の第二相試験で、8種類の新薬のpCR(病理組織学的完全反応:手術前の多剤併用療法で腫瘍が完全に消失)を検討する。事前に設定された10種類のバイオマーカーのうち一つ以上に該当するサブグループでベイズ推定によるpCRが標準療法より高ければ卒業して第三相に進み、全て駄目ならその薬はドロップする。

新しい開発手法なので不透明なところもあるが、数多い開発品の中から最も有望なものを素早くスクリーニングすることが期待されている。試験薬の提供者はアムジェン、ファイザーなど多数に亘り、一社だけではできないことを可能にした。治療成果とバイオマーカーを関連付けるのは有望な手法だが、これまでは結論が出るまで何年もかかり、EGFR阻害剤や抗EGFR抗体は市販後何年も経った段階でやっと最適な患者が見つかった。それまでは費用の面でも副作用の点でも患者のためにならない治療を行っていた訳で、こんなことを繰り返してはならない。

PB272はEGFR、her2、her4を阻害する小分子薬で、元々はワイスがHKI-272として開発していたものを2011年にプーマがライセンスした。I-SPY 2では、her2陽性でホルモン受容体陰性の患者に対して、標準療法だけよりも優れているベイズ予測確率が94.7%(p値では0.0053に相当)、第三相試験が成功する確率が78.1%だった。her2陽性患者全体でも良い数値が出た。

I-SPY 2試験が2010年に開始された当時は第三相試験の成功確率が85%以上なら卒業と報じられていたが、ハードルが引き下げられたのかもしれない。汎erbB阻害剤がher2陽性乳癌に適するというのは決して新しい発見ではない。初の卒業生が出たのは快挙だが、これらのことを考えると、医学的な意義は小さいのかもしれない。

リンク:プーマのプレスリリース

ランタス新製剤の第三相が成功

(2013年12月3日発表)

サノフィはLantus(insulin glargine、和名ランタス)の新製剤であるU300の第三相試験成功を発表した。14年上期に欧米などで承認申請する予定。日本の試験を含めて複数の試験が実施され、血糖管理効果がLantusと非劣性だった。夜間の低血糖リスクは一部の試験では有意に小さかったがノボ ノルディスクのTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)ほどではなく、EDITION III試験ではトレンドに留まった。

U300は薬物動態や薬力学を向上、血中濃度を長期間安定的にコントロールする。mL当り300単位とLantusの100単位より大きく、皮注量が少なくて済む。一日一回の投与頻度は同じ。将来、Lantusのバイオシミラーが発売される日に備えたとも言えそうだ。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

腎細胞腫は二次治療もVEGFR阻害剤?

(2013年12月2日発表)

Journal of Clinical Oncology誌のホームページで、ファイザーのTorisel(temsirolimus、和名トーリセル)の直接比較試験の結果が論文刊行された。腎細胞腫でSutent(sunitinib、和名スーテント)による治療を既に受けた患者を組入れて、Toriselとsorafenib(バイエルのNexavar、和名ネクサバール)のPFS(無増悪生存期間)を比較したもの。

結果は両群同程度でToriselが優れるという仮説は棄却されたが、意外なことに、全生存の解析では有意に劣っていた。Toriselはメジアン12.3ヶ月、sorafenibは16.6ヶ月、ハザードレシオは1.31だった。

SutentとsorafenibはどちらもVEGFの受容体チロシンキナーゼを阻害する。常識的に考えれば二次治療には一次治療薬と異なった作用機序の薬を用いたほうが良さそうなもので、私自身、SutentとNexavarをシーケンシャルに用いるやり方に疑問を持っていたが、今回の試験結果は常識を覆す意外なものだった。

この試験はあくまで特定の二剤を比較したものに過ぎず、最適な二次治療薬を検討するならToriselではなく同じmTOR阻害剤のAfinitor(everolimus、和名アフィニトール)をテストすべきかもしれない。Afinitorは複数の腎細胞腫試験が成功していて薬効のエビデンスが強固だ。

VEGFR阻害剤もsorafenibではなくInlyta(axitinib、和名インライタ)をテストすべきだったかもしれない。同様な二次治療試験でsorafenibより効果が高かったからだ(尤も、一次治療でSutentを用いたサブグループに関しては大差なかったが)。

リンク:Hutsonらの治験論文(JCO誌)

イーライリリー、LY2216684の開発を中止

(2013年12月5日発表)

イーライリリーはLY2216684(edivoxetine)の第三相試験が全てフェールしたため開発を中止すると発表した。選択的ノルエピネフィリン再取込阻害剤で、第三相ではSSRIだけでは症状を十分に管理できない鬱病患者を組入れて、LY2216684で補完する効果を検討した。セレトニン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤を服用するのと同じ効果になるのではないかと思っていたが、そうでもないようだ。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


ZambonがEUでパーキンソン病薬を承認申請

(2013年12月5日発表)

イタリアのZambon社は、Newron Pharmaceuticalsからライセンスしたアルファ・アミノアミド誘導体、safinamideをパーキンソン病治療薬としてEUで承認申請したと発表した。早期、中期、進行患者に追加投与する。米国では14年第1四半期に承認申請する予定。

第三相入りしたのは04年なので、9年掛かったことになる。元々はスイスのセラノ(後にドイツのメルクが買収)が世界開発販売権を持っていたが、治験成果が区々であったせいか、12年に返還した。日本はMeiji Seikaファルマが権利を保有。

リンク:Zambonのプレスリリース

【承認】


ギリアッドの画期的抗HCV薬が米国で承認

(2013年12月6日発表)

FDAは、ギリアッド(Nasdaq:GILD)のSovaldi(sofosbuvir)をC型慢性肝炎の治療薬として承認した。特徴は、第一に、遺伝子型I型からIV型まで様々なウイルスに有効であること。第二に、治療期間をIII型は24週間、それ以外は12週間に短縮できること。第三に、I型以外はribavirinと併用する、インターフェロンを使わない治療法であること。FDAはI型に関しても、インターフェロン不耐・不適なら二剤併用24週間コースも可とした。

Sovaldiはヌクレオチド系のNS5Bポリメラーゼ阻害剤で、ファースト・イン・クラス。インターフェロン、ribavirinと三剤併用した試験で見られた主な有害事象は疲労、頭痛、悪心、不眠、貧血など。

ギリアッドは11年にファーマセット社を110億ドルで買収して入手した。コストが高いせいか価格も極めて高く、WAC(問屋取得価格)は12週間分が84000ドル、一日10万円だ。C型肝炎治療薬は発売後の売上高が急速に増加するが1~2年でピークを付ける傾向があり、稼げる時に稼いでおく作戦だろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ギリアッドのプレスリリース

XiaflexがPeyronie病に適応拡大

(2013年12月6日発表)

FDAは、コラーゲン分解酵素製剤のXiaflex(collagenase clostridium histolyticum)をPeyronie病の治療に用いることを承認した。ペニスの皮下に瘢痕組織が蓄積し勃起時に曲率変形が起きる病気で、米国では年5000~6000人が注射薬や手術による治療を受ける模様。同剤は09年にデュピュイトラン拘縮(指から掌にかけての結合組織にコラーゲンが蓄積、指が曲がる)の治療薬として承認された。

Auxilium Pharmaceuticals(NasdaqGM: AUXL)の製品で、欧州アフリカの権利はSwedish Orphan Biovitriumが、カナダやオーストラリアなどの権利はスイスのアクテリオン社が、日本の権利は旭化成が持っている。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Auxilliumのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがレノックス・ガストー症候群治療薬の皮膚毒性を警告

(2013年12月3日発表)

FDAはルンドベックのOnfi(clobazam、和名マイスタン)の稀だが深刻な皮膚有害事象に関する安全性情報を発した。レノックス・ガストー症候群の治療薬として11年に承認、欧州では癲癇治療薬として30年以上の使用歴があり日本でも2000年に発売されたが、FDAの自発的有害事象報告に米国で6例、海外で14例のスティーブンス・ジョンソン症候群や中毒性表皮壊死による入院例が報告され、一名は失明、一名は死亡した。Onfiを服用開始してから2ヶ月以内の発症が多く、原因薬の可能性があるとのこと。

日本でも10月に重大な副作用として添付文書に記載された。

リンク:FDAの安全性情報

今週は以上です。

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2013年12月1日

海外医薬ニュース2013年12月1日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • キュビスト、アステラスが創製した抗生剤の第三相が成功
  • オレキシジェン、体重管理薬の心血管アウトカム試験中間データをFDAに提出へ
  • Noxafilの新製剤が米国で承認
  • FDAがAvandiaの処方制限を緩和


【新薬開発】


キュビスト、アステラスが創製した抗生剤の第三相が成功

(2013年11月25日発表)

キュビスト(Nasdaq:CBST)は、静注用複合セファロスポリンの第三相複雑性尿道感染症(cUTI)治療試験が成功したと発表した。良く分からないのは、数値が二本の試験の統合解析であることだ。通常は二本の試験で薬効を確認する必要があるが、プレスリリースには個々の試験の首尾に関する記述はない。事前に医薬品審査機関の同意を得たのだろうか?

今回公表されたデータ自体は良好だ。この試験は治療効果を静注用levofloxacin(和名クラビット)と比較した非劣性試験。主評価項目は細菌学的除菌かつ臨床的治癒の奏効率。FDAの基準に即したものだ。副次的評価項目は細菌学的除菌奏効率。EMA(欧州薬品庁)の基準に則した。臨床的治癒の判定は、治療終了の5~9日後に行われた。再燃することがあるので、念を押したのである。

結果は、95%信頼区間が2.3~14.6%となり、下限が非劣性マージンの-10%を上回ったため、非劣性と認定された。0%を上回っているので奏効率が高いと考えてもよいだろう(統計学的には正しくない考え方かもしれないが)。治療時発現有害事象は34.7%で、levofloxacin群の34.4%とそれほど変わらなかった。抗生物質は稀に深刻な有害事象が発生するので、安全性については詳細なデータが明らかになるまで何とも言えないだろう。

CXA-201(ceftolozane、tazobactam合剤)はアステラス製薬からライセンスした多剤耐性緑膿菌にも優れた力価を持つセファロスポリンと、ベータ・ラクタマーゼ阻害剤を配合したもの。複雑性腹腔内感染症でも第三相試験が二本、進行中で今月中に開票の見込み。院内感染細菌感染症の第三相試験も予定されている。

この三適応症でFDAからQualified Infectious Disease Products指定を受けており、承認時に付与される新薬排他権期間が通常より5年分、上乗せされる。発売後はアステラスに売上高の一定割合(10%未満)のロイヤリティを払うことになる。

リンク:キュービストのプレスリリース

【承認審査・委員会】


オレキシジェン、体重管理薬の心血管アウトカム試験中間データをFDAに提出へ

(2013年11月25日発表)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)は、体重管理薬Contraveの心血管アウトカム試験の中間解析が良好な結果になったと発表した。このデータをFDAに提出し、順調なら来年6月に承認を取得する考え。販売は武田薬品が行い、オレキシジェンは共同販促する権利を留保している。

Contraveは鬱病や薬物依存の治療薬として承認されているbupropionと、アルコールやオピオイド依存の治療薬naltrexoneの夫々の徐放性製剤を合剤にしたもの。どちらもエネルギー消費を促したり空腹感を抑制したりする作用を持ち、また、naltrexoneは代償機構を抑制するのでシナジーがある。徐放性製剤を用いているのは作動のタイミングが重要であるためとのことだが、どちらの活性成分もジェネリック化しているので、特許対策という面もありそうだ。

2010年3月に米国で承認申請され、内分泌学代謝学薬諮問委員会では13対7で承認を支持する委員が反対を上回ったが、FDAは心血管疾患リスクが高まらないことを確認するよう求めた。このため、2012年6月にLIGHT試験を開始。第一のハードルは中間解析でハザードレシオの95%信頼区間上限が2を下回ること。今回、数値は公表されなかったが、この条件を満たしたとのことなので、承認に向けて一歩前進したことになる。

肥満症を治療する最大の目的は心筋梗塞など心血管疾患を防ぐことであり、本来なら、ハザードレシオは1を下回るべきである。従って、リスクが2倍より低いというだけでは足りず、おそらく、糖尿病治療薬と同様に、最終解析でリスクが1.3倍未満であることを確認しなければならないだろう。LIGHT試験は二重盲検が続行しており、おそらく、中間解析の数値は治験が終了するまで公表されないだろう。もし承認されたとしても不透明な状況は続くことになる。

体重管理薬は新興企業三社が開発、提携先を探していたが名乗りを上げたのは日本の二社だけだった。先に発売されたアリーナ/エーザイのBelviq(lorcaserin)もヴィーヴァスのQsymia(phentermineとtopiramateの合剤)も承認審査が長引き、発売後の売上も苦戦している。手を出さなかった欧米勢の方がFDAや米国市場を良く知っていたのである。日本企業が海外市場を理解するための方法は、一つは、海外医薬ニュースを読むことである。

もう一つは、現地の事情をよく知っている人間を現法ではなく本社のトップに迎え入れることだ。この意味で、武田薬品はよい選択をした。グラクソ・スミスクラインは人材が豊富で、世界の大手製薬会社の首脳に抜擢されたOBが数多くいる。販売が先か、それとも開発が先かは製薬会社に留まらず全ての企業が直面する課題だが、結局はどちらも重要なのだから、自分の弱点を強化すれば良い。研究所にグローバルスタンダードを導入し自分たちの価値観を医師や患者と一致させることができれば、本当のグローバル企業になれるだろう。

リンク:オレキシジェンのプレスリリース

【承認】


Noxafilの新製剤が米国で承認

(2013年11月26日発表)

MSDは、FDAがNoxafil(posaconazole)の遅延放出錠を承認したと発表した。造血幹細胞移植を受けた患者など、侵襲性のアスペルギルス感染症やカンジダ感染症のリスクが高い患者の予防に用いる。2006年に承認された経口懸濁液に次ぐ剤型で、静注用製剤も承認審査中。アゾール系の抗菌剤で、接合菌にも活性を持つことが特徴。

リンク:MSDのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがAvandiaの処方制限を緩和

(2013年11月25日発表)

FDAはグラクソ・スミスクラインの血糖治療薬、Avandia(rosiglitazone)の処方制限を緩和したと発表した。過去の一連の騒動が原因で売上高は激減しており、今更、回復はしないだろうが、PL訴訟には良い影響を与えるだろう。

Avandiaはグリタゾン系のインスリン抵抗性改善剤で、核転写因子であるPPARガンマを作動する。インスリン治療を受けている心血管疾患リスクの高い患者を組入れた試験で心毒性の懸念が浮上したが、当時は、インスリン抵抗性改善剤が二型糖尿病の根源的な治療法と持て囃されていたため、問題視されなかった。しかし、市販後に実施された長期投与試験で他の血糖治療薬より心筋梗塞が多く発生。症例数が少ないため統計学的な有意性はなかったが、全ての試験のメタアナリシスで有意差が出たことから、大騒ぎになった。

GSKにとって救いになったのが、EUの要請で実施した心血管アウトカム試験、RECORD試験のデータだ。標準療法であるmetforminやSU剤を投与した群と比べて、特に悪くはなかった。EUの要請で行われた試験なのでFDAはデザインに不満があったようだが、後から言っても遅い。その後、FDAは、全ての血糖治療薬に心血管アウトカム試験を求める姿勢に転じた。

結果的に無実の罪となった訳でGSKは気の毒だったが、社会を守るためには已むを得なかった。グリタゾンは第一号が心不全リスクで販売中止、第二号は心筋梗塞疑惑で殆ど使われなくなり、第三号は膀胱癌懸念が表面化した。他にも様々な化合物や、PPARアルファも作動する数多くのグリタザール系が開発されたが、その殆どが齧歯動物の癌原性試験でリスクを示し、また、臨床試験で心筋梗塞懸念や腎毒性が浮上したことから、開発中止となった。多彩な作用を持つ化合物は多彩な副作用も齎すという好例である。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年11月24日

海外医薬ニュース2013年11月24日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • GSKがアミカスに開発販売権を返還
  • ASH:ギリアッドのCLL新薬は効果が凄く高い
  • AHA:第一三共のedoxaban、低用量は承認されないリスク
  • アッヴィの5剤併用第三相C型慢性肝炎試験が成功
  • リジェネロンとサノフィの抗IL-6受容体抗体の第三相リウマチ試験が成功
  • サノフィがJAK2阻害剤の承認申請断念、開発中止
  • FDA諮問委員会がバイオマリンのモルキオ症候群A型治療薬を支持
  • CHMPがギリアッドやGSKの抗ウイルス剤などに肯定的意見
  • フォレストの向精神薬は承認されず
  • 第三のプロテアーゼ阻害剤が米国で承認
  • ネクサバールが甲状腺癌に適応拡大
  • 欧州でInvokana、レルベア、カドサイラなどが承認
  • FDAがアステラスの心機能検査補助剤の警告を強化


【今週の話題】


GSKがアミカスに開発販売権を返還

(2013年11月20日)

グラクソ・スミスクラインはAmigal(migalastat)、及び、同剤と日本ケミカルリサーチからライセンスしたJR-051の合剤の世界開発販売権をアミカス(Nasdaq:FOLD)に返還することを発表した。今後はアミカスが独力で開発することになる。

Amigalは07年にシャイアがライセンスしたが返還、2010年にGSKがライセンスしたが返還と3年毎に権利が移動している。アミカスの会長兼CEO、John Crowleyは映画『小さな声が呼ぶ時』の主人公のモデルだが、今回は苦労している。

Amigalはファーマシューティカル・シャペロンという新しいタイプの経口剤で、ファブリー病の治療薬として第三相試験が行われたがフェールした。もう一本の酵素補充療法対照試験の結果が2014年に開票するのを待って今後の開発方針を当局と相談する予定。JR-051は日本ケミカルリサーチが開発した遺伝子組換え型アルファ-グルコシダーゼAで、ファブリー病患者で不足している酵素を補充する。

GSKはインライセンス時にアミカスの株式を20%弱取得したが、返還に際して300万ドル追加出資する。将来、発売された時は米国以外の主要8市場におけるAmigalや合剤の売上高の一定割合をロイヤルティーとして得る。

リンク:GSKのプレスリリース

【新薬開発】


ASH:ギリアッドのCLL新薬は効果が凄く高い

(2013年11月18日発表)

ギリアッド・サイエンス(Nasdaq:GILD)は、GS-1101(idelalisib)の第三相慢性リンパ性白血病(CLL)試験の結果が12月10日にASH米国血液学会で発表されることを明らかにした。一般公開された抄録を読む限りではかなり良さそうだ。

この第三相試験は、再発性・難治性のCLLで化学療法には適さない患者を、Rituxan(rituximab)と偽薬を併用する群とidelalisib(150mgを一日二回服用)を併用する群に割付けてPFS(無増悪生存期間)を比較したもの。中間解析で主目的を達成し、偽薬群の患者もidelalisibを使えるよう、盲検解除された。

ハザードレシオは0.15、95%信頼区間0.008~0.28、メジアンは偽薬群5.5ヶ月、併用群は未達。客観的反応率は各13%と81%。全生存期間のハザードレシオは0.28、p=0.018となかなか良い。グレード3以上の重度有害事象は下痢や肝機能検査値異常、好中球・白血球減少症が若干増加した。

idelalisibはBセルの活性化や増殖、生存に不可欠な酵素であるPI3Kデルタを阻害する経口剤で、9月に米国で非ホジキン型リンパ腫に承認申請されたが、CLLの追加申請に向けてFDAと相談する考え。欧州では10月に両方の適応症で承認申請済み。2011年に買収したCalistoga Pharmaceuticalsの開発品で、買収費用3.75億ドル、達成報奨金が最大で2.25億ドル、合計6億ドルの大きな投資だが、十分にペイしそうだ。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

リンク:ASH抄録(LBA-6)

AHA:第一三共のedoxaban、低用量は承認されないリスク

(2013年11月20日発表)

第一三共が開発したXa阻害剤、Lixiana(edoxaban、和名リクシアナ)の心原性脳卒中試験の結果がAHA米国心臓協会科学部会で発表され、New England Journal of Medicine誌のホームページで論文刊行された。心房細動で脳卒中のリスクが高い患者に対する予防効果がワーファリンと非劣性、副作用である大出血のリスクは高用量群、低用量群共に有意に小さかった。

同じXa阻害剤であるバイエル/JNJのXarelto(rivaroxaban)やBMS/ファーザーのEliquis(apixaban)、そしてベーリンガー・インゲルハイムの直接的トロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran)と概ね同じ内容であり、今後は、後発の不利をどのように巻き返すか、販売戦略が注目される。米国はメーカーが価格決定権を持つので、割安な価格を設定しても良いのではないか。日本側では低用量の安全性に着目する意見が多いが、少なくとも米国では高用量しか承認されない可能性がある。

このENGAGE AF-TIMI 48試験は、米国の血栓学共同治験グループであるTIMIが主導して日本を含む46ヶ国で実施した無作為化割付二重盲検試験で、21,105人の患者をワーファリン群、低用量群(30mgを一日一回、経口投与)、高用量群(60mg一日一回)の何れかに割付け、メジアン2.8年間追跡して脳卒中や全身性血栓性疾患のリスクを比較した。

Lixianaは、体重60kg以下、あるいは、腎機能の代理マーカーであるクレアチニン・クリアランスが低い患者や、P糖蛋白を阻害する薬を同時使用する患者では用量を半減した。治験開始時だけでなく、その後に該当するようになった場合も半減。Lixianaは殆ど代謝されずに尿と一緒に排泄され、また、吸収・排泄に関わるP糖蛋白の基質なので、腎機能低下やquinidine、verapamil、dronedaroneの同時使用は効果が高くなりすぎる可能性がある。

結果は、脳卒中・全身性血栓の年率発生率が各群1.50%、1.61%、1.18%となり、両用量ともワーファリン群に対して非劣性だった。ハザードレシオの97.25%上限は低用量が1.31、高用量は0.99で、低用量は本当に非劣性といえるのか微妙だろう。尚、この試験は二種類の用量を一度にテストしたので、多重性を回避するために信頼区間が通常の95%より広く設定されている。

抗血栓薬は効果が高すぎると出血リスクが高まる。大出血の発生率は各群3.43%、1.61%、2.75%となり、両用量ともワーファリンより低かった。二次的評価項目だがハザードレシオの95%上限が何れも1を下回り、p値も0.001未満なので、統計的に有意といっても良いだろう。低用量のハザードレシオは0.47、95%信頼区間0.41-0.55なので、安全性に関してはかなり良い。

しかし、低用量は効果の点で見劣りする。脳卒中を主評価項目とする試験では脳梗塞だけでなく出血性脳卒中もカウントする。判別しにくいケースもあるので主観バイアスを排除する意図だが、効果の指標と副作用リスクの指標がごっちゃになっているので実態が覆い隠される危険がある。そこで、虚血性脳卒中だけの数値に注目すると、年率で各群1.25%、1.77%、1.25%となり、低用量のハザードレシオは1.41、95%信頼区間1.19-1.67、p<0.001と有意に劣っている。

脳卒中のような発生率があまり高くないイベントを評価する試験は大規模、長期になるため費用がかさむ。このため、二種類の用量をテストすることを嫌う会社もあるが、第一三共・TIMIは良心的に対応した。ベーリンガーも同様で、多くの国で両方の用量が承認され、出血リスクの高そうな患者には低用量、といった使い分けがなされている。例外は米国で、FDAは高用量しか承認しなかった。

審査文書によると、脳卒中は深刻な合併症であり十分に予防できる量を投与する必要があるからだ。もし低用量を必要とする患者がいるならば、臨床試験で該当者を明確にし、そのような患者でも投与量を変えれば十分な効果を享受できることを確認すべきである。ENGAGE試験は、正にこのことを確認した試験といえるだろう。

それだけに、予防効果の点で明らかに見劣りする低用量が米国で承認される可能性は低いだろう。標準用量は60mg、但し上記の条件に該当する患者は30mgに減量し、それ以外の患者も定期的に検査を行ってモニターする用法になりそうだ。

米国の既存三剤は一つ用量しか承認されていないため、二種類の用量から選択できるLixianaは有利という意見が日本で出ているが、FDAを知らない人の意見である。

リンク:第一三共のプレスリリース(和文)

リンク:NEJM論文(オープンアクセス)

アッヴィの5剤併用第三相C型慢性肝炎試験が成功

(2013年11月18日)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、5種類の経口剤を併用する第三相C型慢性肝炎試験が成功したと発表した。遺伝子型I型のウイルスに感染し初めて多剤併用療法を受ける、肝硬変を合併していない患者を対象とした試験で、SVR12(治療終了後12週間経ってもウイルスが検出されない、持続的ウイルス学的奏功率)が96%という大変良い結果になった。効果はIa型(95%)でもIb型(98%)でも大差なかった。

併用したのはABT-450(プロテアーゼ阻害剤)、ritonavir(3A4阻害剤・・・ABT-450の効果を長期化する)、ABT-267(NS5A複製複合体阻害剤)の一日一回服用型合剤と、ABT-333(非核酸系ポリメラーゼ阻害剤)及びribavirinを各一日二回。C型肝炎の標準薬であるアルファ・インターフェロンを使わないのが最大の特徴だ。治療期間は12週間と短い。有害事象による治験離脱の発生率は0.6%とのことなので、忍容性も良好のようだ。

素朴な疑問は、本当に5剤も必要なのかということだが、ribavirin以外の4剤と5剤併用の比較試験も進行しているので、やがて結論が出るだろう。次の問題は、この4剤または5剤を併用したら治療費はどれだけ高くなるのか?

リンク:アッヴィのプレスリリース

リジェネロンとサノフィの抗IL-6受容体抗体の第三相リウマチ試験が成功

(2013年11月22日)

リジェネロン(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、REGN88/SAR153191(sarilumab)の第三相リウマチ性関節炎試験の成功を発表した。methotrexateに十分反応しない中重度活性期リウマチの患者にsarilumabを追加投与したところ、偽薬、150mg、200mgの各群のACR20奏功率が24週間で各33%、58%、66%となり、両用量とも統計的に有意に上回った。身体機能の指標(16週間)や関節損傷の指標(52週間)でも有意に上回った。

sarilumabはIL-6受容体のアルファ・サブユニットに結合する完全ヒト化抗体で、中外/ロシュのActemra(tocilizumab)に類似している。週二回、皮注であることが特徴だったが、Actemraも週二回皮注用製剤が日米で承認された。

リンク:両社のプレスリリース(pdfファイル)

サノフィがJAK2阻害剤の承認申請断念、開発中止

(2013年11月18日)

サノフィはSAR302503(fedratinib)の開発中止を発表した。競合的JAK2阻害剤で、今年5月に骨髄線維症の第三相試験が成功、承認申請が期待されていた。しかし、複数の患者でウェルニッケ脳症が発生、FDAが全ての臨床試験の中断を命じた。この疾患はビタミンB1の欠乏が原因なのでサプルメントを併用する方法もあったのではないかと思われるが、よほど大きな影響が出たのだろう。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がバイオマリンのモルキオ症候群A型治療薬を支持

(2013年11月19日発表)

米国の希少疾患用薬会社バイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、FDAの内分泌学代謝学薬諮問委員会がVimizim(elosulface alfa)をムコ多糖症IVA(モルキオ症候群A型)の治療薬として承認することを支持したと発表した。21人の委員のうち19人が賛成、一人は一部のサブグループだけに承認することに賛成、反対は一人だけだった。

VimizimはNアセチルガラクトサミン-6-スルファターゼで、欠乏している酵素を補充する。臨床試験では週一回投与した群で6分歩行テストが偽薬比23メートルほど改善した。3分階段上昇試験や呼吸能力は改善しなかった。欧州でも承認審査中。

モルキオ症候群A型は上記酵素の欠乏が原因でグリコサミノグルカンが蓄積、骨の異形成や低身長、関節異常などを合併する。患者は世界で2500~3000人、うち日米欧で1000~1500人と推測されているが、診断されているのは400人のみ。

リンク:バイオマリンのプレスリリース

CHMPがギリアッドやGSKの抗ウイルス剤などに肯定的意見

(2013年11月21日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会議でギリアッドのC型慢性肝炎治療薬、グラクソ・スミスクラインが塩野義からライセンスした抗HIV薬、大塚製薬やLucane Pharmaの結核治療薬などに肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月で承認されるだろう。また、バイオジェン・アイデックの多発性硬化症薬に関して、前言を翻し新規活性成分と認めて10年間のデータ排他権を与えることを推奨した。

リンク:CHMPのプレスリリース

ギリアッド(Nasdaq:GILD)のSovaldi(sofosbuvir)はC型肝炎治療で初の核酸系ポリメラーゼ阻害剤。I型だけでなく様々な遺伝子型のウイルスに有効で、II型やIII型の場合、ribavirin併用でインターフェロンとribavirinを併用する既存療法と同程度の効果を発揮し、治療期間は12週間と半減できる。I型ではribavirin、インターフェロンと三剤併用で治療期間を12週間に短縮。一日一回経口投与なので利便性も高い。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

CHMPは、BMSのdaclatasvirをsofosbuvirと併用、またはribavirinと三剤併用する用法でコンパッショネート・ユースすることも推奨した。コンパッショネート・ユース・プログラムは命に関わる難病の治療薬を正式に承認される前に使うことができるプログラムで、今回の場合、I型ウイルスに感染し、非代償性肝疾患や死亡のリスクが高い成人患者が対象になる。

リンク:CHMPのプレスリリース

Tivicay (dolutegravir) はHIV/AIDSの多剤併用療法に用いるインテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤。既存のインテグラーゼ阻害剤に抵抗性を持つ株の多くにも有効。私見ではdolutegravirとlamivudine及びギリアッドの核酸系逆転写阻害剤tenofovirの三剤併用が一次治療のベストだが、残念ながらメーカーが異なるためトリプルコンビ薬が存在しない。

塩野義製薬が創製、GSKやファイザーとのHIV/AIDS薬合弁会社であるViiVヘルスケアが開発している。米国ではTivacay名で今年8月に承認された。

リンク:GSKのプレスリリース

大塚製薬のDeltyba(delamanid)は7月に否定的意見を受けたが、大塚の要請で再審査となり、肯定的意見を勝ち取った。それにしても、6ヶ月投与する薬なのに効果の裏付けが2ヶ月時点のデータだけというのは奇妙な話だ。私の推測は、最初は2ヶ月で成功する筈だったがフェールし、同意した患者に対して更に4ヶ月投与したら奏功率が向上したので、6ヶ月投与する薬として承認申請したのではないか?

CHMPは専門家などの意見を踏まえて、2ヶ月時点の評価が6ヶ月時点の評価と相関すると判定、別の臨床試験が成功することを条件に、条件付承認することを推奨した。適応になるのはMDR-TB(多剤耐性結核菌)による肺結核で既存薬に抵抗性・不耐の成人患者。欧米では希少疾患だが、症例の多い国の多くでは欧州や米国で承認を取れば簡単な手続きで承認されるので、今回の肯定的意見は意義がある。

フランスのLucane PharmaのPara-aminosalicyclic acid Lucaneは新製剤。活性成分は1946年から70年代にかけて標準療法として使われた古い薬だが、90年代のMDR-TB増加で再び使用されるようになった。こちらは条件付ではなく本承認が支持され、適応は既存薬抵抗性・不耐のMDR-TB感染症の成人・小児。

リンク:CHMPの二剤に関するプレスリリース

CHMPはBMS/アストラゼネカのSGLT2阻害剤dapagliflozinとmetforminの合剤、Xigduoにも肯定的評価を出した。二型糖尿病の治療に用いる。

リンク:両社のプレスリリース

バイオジェン・アイデックの再発寛解型多発性硬化症維持療法薬Tecfidera(dimethyl fumarate)は今年3月にCHMPの肯定的意見を受けた。その段階では新規活性成分とは認められなかったが、今回、CHMPが認めたので、3ヶ月以内に承認され10年間のデータ排他権を獲得することになるだろう。

EUは承認されている活性成分の光学異性体や代謝物については、何か長所がない限り新規活性成分として認めないスタンスを取っている。近年、この種の新薬が米国でしか承認申請されなくなったのは、これが原因だ。dimethyl fumarateはドイツで中重度乾癬の治療薬として20年の販売歴を持つので、新規活性成分と言えるかどうか微妙なところがあった。

私見では、適応症が大きく異なり、今日のスタンダードに適合した大規模な臨床試験を行う必要があったのだから、それなりの報酬があってしかるべきである。もし新薬と認められなかったら、EUの患者はこの優れた薬を使うことができなかったかもしれないので、好ましい結果になった。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

一方、ABサイエンス社が消化管間質腫瘍用薬として承認申請したMasican(masitinib)は否定的意見となった。薬効のエビデンスが第二相試験のみで、デザインが不適切であるために効果や安全性が確立していないと判定した。masitinibはc-KIT阻害剤で犬のマスト細胞腫瘍の治療薬として欧米で販売されている。

適応拡大ではセルジーン(Nasdaq:CELG)のAbraxane(アルブミン結合paclitaxel、和名アブラキサン)を膵癌に用いることを支持した。gemcitabineと併用する。臨床試験ではメジアン生存期間が8.5ヶ月と、gemcitabineだけを投与した群の6.7ヶ月を上回った。

また、ドイツのメルクがイーライリリーからライセンスして販売しているErbitux(cetuximab、和名エルビタックス)について、転移性結腸直腸癌に用いる時はkrasが変異していないだけでは足りず、rasが変異していない癌を適応とすることを推奨した。kras野生型の2割程度を占めるnrasに変異のある癌は適応外となる。FOLFOXという一次治療レジメンと併用する場合は、kras変異だけでなくnras変異も禁忌になる。

先にアムジェンのVectibix(panitumumab)も同様な適応変更を受けており、クラス・イフェクトなのだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

フォレストの向精神薬は承認されず

(2013年11月21日発表)

フォレスト(NYSE:FRX)とハンガリーのGedeon RichterはRGH-188(cariprazine)を統合失調症と双極障害I型の治療薬として米国で承認申請していたが、審査完了通知を受領した。プレスリリースからは明らかではないが、報道によると、薬物動態に関する追加情報を求められた模様だ。会社側はすぐにも回答可能と見ているようだが、承認が大きく遅れるという観測も出ているようだ。日本では田辺三菱製薬がMP-214として開発している。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


第三のプロテアーゼ阻害剤が米国で承認

(2013年11月22日発表)

FDAは、Olysio(simeprevir、和名ソブリアード)をC型肝炎で代償性肝疾患を合併する患者の一次、二次治療薬として承認したと発表した。スエーデンのメディビアが創製しジョンソン・エンド・ジョンソンが日欧米で承認申請したプロテアーゼ阻害剤で、日本は今年9月に承認された。先に発売された二剤と異なり、一日一回経口投与で足りる。

弱点は、米国のIa型ウイルスに多い、NS3プロテアーゼにQ80K置換のある株に対する効果が弱いこと。インターフェロンとribavirinと三剤併用するが、このタイプに対する奏功率は二剤併用とそれほど変わらなかった。このため、事前に検査をして該当する場合は他の治療法を考慮するという文言がレーベルに導入された。また、光毒性があり、入院例もあったようだ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

ネクサバールが甲状腺癌に適応拡大

(2013年11月22日発表)

FDAは、アムジェンの子会社になったオニクスがバイエルと共同販売しているNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を分化甲状腺癌の治療に用いることを承認した。局所再発性または転移性で進行性の分化甲状腺癌で放射性ヨードに反応しなくなった場合に適応になる。Nexavarのこれまでの適応症は、腎細胞腫、肝細胞腫。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:アムジェンのプレスリリース

欧州でInvokana、レルベア、カドサイラなどが承認

(2013年11月18~21日発表)

CHMPが9月の会議で肯定的意見を出した薬が続々と承認された。

ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発したSGLT2阻害剤、Invokana(canagliflozin)は、二型糖尿病薬。腎臓で濾し取られたグルコースがSGLT2というトランスポータによって血液中に戻るのを阻害、尿と一緒に排泄させる。性器の感染症に注意する。

リンク:JNJのプレスリリース(11月18日付)

グラクソ・スミスクラインのRelvar(fluticasone furoateとvilanterolの合剤、和名レルベア)は、COPDや喘息症の増悪・発作予防に用いる吸入用コンビ薬。米国ではCOPDのみ、日本では喘息症のみに承認された。

リンク:GSKのプレスリリース(11月18日付)

ロシュのKadcyla(trastuzumab emtansine、和名カドサイラ)はher2陽性転移性乳癌の二次治療薬。今後、ドイツなど一部の市場を除いて薬価審査が行われ、ドイツでも一年後に審査を受けることになる。欧州は日本と同様に価格に辛いので、どのような評価を受けるか注目される。米国では今年2月に承認され、月9800ドルの価格で発売された。

Herceptin(trastuzumab)に細胞毒を結合し効果を強化したもので、一般名で処方する場合は、薬剤師がHerceptinと間違えないように正確に書かなければならない。

リンク:ロシュのプレスリリース(11月20日付)

大塚製薬がルンドベックと提携して開発したAbilify Maintena(aripiprazole)は、異型向精神薬Abilifyの月一回筋注用新製剤。経口剤を飲みたがらない患者に適している。

リンク:ルンドベックのプレスリリース(11月21日付)

【医薬品の安全性】


FDAがアステラスの心機能検査補助剤の警告を強化

(2013年11月20日発表)

FDAは安全性情報を発出し、米国でアステラス製薬が販売しているLexiscan(regadenoson)とAdenoscan(adenosine)の心臓発作・死亡リスクを改めて警告すると共に、レーベルの記載を変更したと発表した。労作性狭心症の心筋血流シンチグラフィを行う時は事前に運動負荷を与えるが、運動に適さない場合患者はこれらの動脈弛緩剤で血流を増強する。ところが、血流が強くなると狭窄していない血管に優先的に流れるようになり、狭窄部位の虚血が酷くなるリスクがあるようだ。

FDAが自発的有害事象報告を分析したところ、Adenoscanは95年の発売以降、心筋梗塞が6例、死亡が27例あった。Lexiscanも08年の発売以降、各26例と29例、あった。発症時期が明らかな症例では、投与後6時間以内に発症する傾向があった。市販歴の短いLexiscanのほうが多いが、一般に新薬のほうが副作用報告が多い傾向があるので、単純に比較することはできない。

FDAは、高リスク患者には用いないことと、心蘇生に必要な機器やスタッフを用意した上で投与することを推奨している。

リンク:FDAの安全性情報

今週は以上です。

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2013年11月17日

海外医薬ニュース2013年11月17日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • さようなら、コレステロール治療目標
  • 英国の薬品局が抗癲癇薬の交換可能性を評価
  • アルニラムが家族性ポリニューロパシーの第三相に着手
  • GSK、Lp-PLA2阻害剤の大規模試験がフェール
  • Sareptaの核酸医薬は承認申請遅延
  • FDA諮問委員会はサノフィの多発性硬化症薬を支持したが...
  • FDAがJNJの抗がん剤をスピード承認
  • EUがバイエルの前立腺癌用薬を承認


【今週の話題】


さようなら、コレステロール治療目標

(2013年11月12日発表)

ACC/AHAの新しいコレステロール治療ガイドラインがCirculation誌などで公開された。ATP IIIと呼ばれるこれまでのガイドラインと比べてかなり大きな方針変更がある。

まず、LDL-C値治療目標(100mg/dL以下、など)が廃止された。治療がうまくいっているか、定期的に確かめる必要はなくなった。次に、標準的治療薬はスタチンでそれ以外の薬は不耐患者のみに用いることが明記された。更に、患者の心疾患疾患リスクを評価する新しい手法が導入され、治療対象が拡大した。

これまでと同様に患者の特性に応じて治療法を選択するが、選択肢は二種類のみで、強度治療はLDL-Cを50%以上低下させる用量のスタチンを、中度治療は30~49%低下させる用量を、投与する。治療対象は、アテローム性心血管疾患、LDL-Cが190mg/dL超、そして、LDL-Cが70~190mg/dLの場合は40~75歳で、且つ、糖尿病又は向こう10年間にアテローム性心血管疾患を発症するリスクが7.5%を超えると推測される患者。最初の二類型は強度治療。最後の二類型は他の因子も考慮して強度または中度の治療を行う。

報道によると、目標値が廃止されたのは十分なエビデンスがないため。血圧と異なり検査が簡単安価ではないためか、プライマリーケア医はこれまでも特別な検査は行っていなかったようなので、現状追認と言えるだろう。スタチンに限定したのはナイアシンやフィブレートの心血管アウトカム試験がフェールし、Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)も今のところ否定的なデータしかないため。

ZetiaはIMPROVE-ITという大規模心血管アウトカム試験が2004年にロンチされたが、遅延に次ぐ遅延で結果が出るのは2014年の見込み。発売は2002年、米国のGE化は2017年なので、もし効果がなく処方が激減したとしても、12年間収益を上げ、失うのは3年分だけだ。

初発予防は、これまではリスクが20%以上が対象だったが、7.5%に引き下げられた。また、今回のリスク評価法は人種の違いなどを軽視しているという声もあり、医師の判断でもっと多くの患者が治療を受ける可能性もある。スタチンはコレステロール治療薬の中でシェアが上昇し、市場のパイも拡大することになる。殆どの製品がGE化したので、追加的なコストはそれほど大きくないだろう。

尤も、これまでの方針と大きく変わったため、今回のガイドラインに抵抗を示す医師も多いだろう。患者に口をすっぱくして言っていた事を翻さなければならないからだ。

スタチン以外の薬はシェア低下トレンドが続くだろう。十分なエビデンスもないのに多用されていた、今までが間違っていたのだ。問題は、第三相試験段階にある抗PCSK9抗体だ。FDAが心血管アウトカム試験のデータが出るまで承認しないか、それともLDL-C治療効果や安全性が確認されれば承認するのかによって発売時期が大きく変わってくる。

注目されているのは上記のIMPROVE-IT試験だ。スタチンと異なるメカニズムでLDL-Cを引き下げる薬がもし心血管疾患を減らすことができないとしたら、重要なのはLDL-C低下ではなくスタチンということになる。

尤も、私は、もしこの試験がフェールしてもメカニズムの問題と断定することはできないと考えている。スタチンの心血管疾患削減率はLDL-C低下率と相関しており、低力価スタチンを少量投与する試験を行ってもフェールするだろう。ZetiaのLDL-C低下作用は決して大きくなく、だから、小さな差でも統計的に有意になるように18000人という巨大な試験を何年も行うのだ。

私は、IMPROVE-IT試験の成否に関わらず、抗PCSK9抗体も心血管アウトカム試験が成功するまで承認されないと予想している。

リンク:ACC/AHAコレステロール治療ガイドライン(pdfファイル)

英国の薬品局が抗癲癇薬の交換可能性を評価

(2013年月日発表)

英国の薬品医療機器規制機関であるMHRAは、抗癲癇薬とそのGE品の交換可能性に関する推奨を発表した。

抗癲癇薬の中には生物学的利用率に大きな個人差があり、しかも、安全域があまり広くないものがある。GE薬はオリジナルの薬と完全に同じである必要はなく、誤差範囲が一定内に収まっていれば承認されるため、昔から、本当に大丈夫なのかという声が日本でも、米国でもある。GE薬を異なったメーカーの製品とスイッチする場合の交換可能性はもっと曖昧だ。

承認審査機関の建前では、承認された薬は全て問題ない。もし新たに問題が発生したら適切な措置を取るので、安心して使ってよい。勿論、患者の様子を注意深く見守る必要があるのは他の薬と同じである---FDAはこのようなスタンスと思われる。しかし、医師や患者が納得しているかどうかは不明である。

それだけに、MHRAが懸念に応えて推奨を出したことは、当局のあるべき姿を示唆したものとして注目できる。私の知識の範囲内ではあまり意外感はないので、英国の医療に大きな変化をもたらすものではないだろうが...

MHRAの推奨は抗癲癇薬を三種類のカテゴリーに分けている。現在服用している製品を続けるよう推奨するのがカテゴリー1の薬で、phenytoin、carbamazepine、phenobarbital、primidoneが該当する。

逆に、特別な問題がない限り特定の製品に拘る必要はない(スイッチしても良い)のがカテゴリー3の薬で、levetiracetam、lacosamide、tiagabine、gabapentin、pregabalin、ethosuximide、vigabatrinなど比較的新しいくするが該当する。

この中間がカテゴリー2の薬で、癲癇発作の頻度や治療歴などを考慮し、患者や保護者と相談した上で、医師がスイッチの妥当性を判断する。該当するのはvalproate、lamotrigine、perampanel、retigabine、rufinamide、clobazam、clonazepam、oxcarbazepine、eslicarbazepine、zonisamide、topiramate。

リンク:MHRAのプレスリリース

【新薬開発】


アルニラムが家族性ポリニューロパシーの第三相に着手

(2013年11月10日発表)

アルニラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)はALN-TTR02(patisiran)の第三相試験に着手した。異型トランスサイレチンによる家族性ポリニューロパシー(FAP)のステージI、IIの患者200人をALN-TTR02群と偽薬群に2対1割付けして18ヶ月間治療し、mNIS+7というニューロパシー・インペアメント・スコアを用いて治療効果を測定する。試験薬は三週間に一回、70分点滴静注する。

ALN-TTR02はRNA介入薬で、肝臓でトランスサイレチンの遺伝子が翻訳されるのを妨げる。第二相試験では血清トランスサイレチンが9割減少した。欧州などでFAPの治療に用いられているtafamidisなどのトランスサイレチン安定化剤を併用している患者にも効果があった模様。

FAPはトランスサイレチン遺伝子の点変異により発症する疾患で、日本はこの変異を持つ家系が比較的多いようだ。アルニラムは日本やアジアの権利をサノフィの子会社であるジェンザイムにライセンスしているが、残念ながら、clinicaltrials.govの記述を見る限りでは、日本の施設は今回の第三相試験には参加しないようだ。

リンク:アルニラムのプレスリリース

GSK、Lp-PLA2阻害剤の大規模試験がフェール

(2013年11月12日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK480848(darapladib)の第三相心血管アウトカム試験がフェールしたことを発表した。安定期冠状心疾患を対象とした試験で、もう一本の急性冠症候群試験は来年、開票する見込み。残念だが、Lp-PLA2阻害剤がアテローム性心疾患を防ぐというエビデンスは存在しないので、意外感はない。

Lp-PLA2(別名PAFアセチルハイドラーゼ)は脂肪酸の加水分解にかかわる酵素で、LDL-Cの酸化に関係しているようだ。高Lp-PLA2かつ高CRPの人は低い人と比べて心血管疾患のリスクが4倍、卒中リスクは8倍と高い。IVUS(血管内超音波検査)を用いた第二/三相試験では、プラク変形能、hsCRP量、プラク量の何れも有意な改善効果は見られなかったが、壊死性コアの増大を抑制効果は見られた模様。

作用機序が斬新なせいか既存の確立したバイオマーカーでは評価できなかったわけだが、今回の試験では主要有害心臓イベント(MACE:心筋梗塞など)が6%減っただけであり、pは0.199だったので、臨床的な効果はなく、もしあったとしても小さいことになる。

尚、Anthera Pharmaceuticalsが塩野義製薬らからライセンスしたPLA2阻害剤、varespladibも急性冠症候群の第三相が無益性により中止となり、AHA米国心臓協会科学部会で11月18日にデータ発表される見込み。

リンク:GSKのプレスリリース

Sareptaの核酸医薬は承認申請遅延

(2013年11月12日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)はAVI-4658(eteplirsen)をデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として承認申請することをFDAと相談していたが、結局、第二相試験に基づく申請は認められず、キチンとした第三相試験を行うことになりそうだ。9月22日号で書いたように、競合品の第三相試験がフェールしたことは朗報ではなかった。

第二相試験では12週間治療してジストロフィン量の変化を偽薬群と比較した。有意な差は出なかったが、偽薬群を試験薬に再無作為化割付して実施した延長試験では、試験薬を投与し続けた群も含めて全群、48週時点でベースライン比有意に増加した。しかし、同様な効果を示したProsensa(Nasdaq:RNA)・グラクソ・スミスクラインのPRO051/GSK2402968(drisapersen)の第三相試験はフェール、6分歩行テストの成績が改善しなかった。

FDAは、drisapersenの試験結果を踏まえて、ジストロフィンが一定以上増えないと運動機能を改善できない可能性があると判定。従来から指摘していた、Sareptaのジストロフィン量計測手法の妥当性に関する懸念を強めた。

また、上記の第二相試験の評価についても疑義を表明。被験者は全て、ベースライン時点の6分歩行テスト成績が350mを超えていたが、患者の自然経過に関する研究では、このような患者はその後の悪化が小さく、本当に悪化を防いだのか分からないと結論した。延長試験は偽薬対照試験でなかったことが裏目に出た格好だ。

幸か不幸かProsensa・GSKの試験がフェールしたので、Sareptaは急ぐ必要はなくなった。じっくりと第三相試験に取り組んで患者が納得するデータを作るべきだろう。

リンク:Sareptaのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はサノフィの多発性硬化症薬を支持したが...

(2013年11月13日発表)

FDA末梢中枢神経系薬諮問委員会はサノフィが再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として承認申請したLemtrada(alemtuzumab)を検討し、過半の委員が二次治療薬としてなら承認に値すると判定した。FDA審査官の評価は厳しいので、すんなり承認されるかどうかは不透明だ。

Lemtradaは抗CD52ヒト化抗体で、慢性リンパ性白血病用薬MabCampathとして2001年に欧米で承認された。多発性硬化症では3~5日間連続で点滴静注するコースを年一回施行する用法で開発され、高い再発予防効果を示したが、深刻な甲状腺疾患や免疫性血小板減少性紫斑症のリスクも見られた。このため、諮問委員会の前に公開されたFDAブリーフィング資料では、安全性に関する重大な懸念が表明されていた。また、これらの試験は皮注用インターフェロンを対照薬とした為、盲検ではなくオープンレーベルで行われた。

諮問委員は、18人中11人が臨床試験のデザインが不適当と判定したが、効果については12人が支持した。とは言え、障害進行抑制効果については14人が支持しなかった。安全性については、効果を評価せずに安全性だけに基づいて承認しないほど酷くはない点で全員が一致。但し、一次治療は適応外にして既存薬に不耐、不応の患者に限定することを16人が支持した。

FDAの末梢中枢神経系薬審査部門は審査が厳しく、ブリーフィング資料の内容を多少割り引いて受け止める必要がある。専門医が使う薬なので、多少リスクがあっても密接に監視することで早期に発見、対処できる可能性があり、副作用が中枢神経に関わるものなら自分で対処できるし、他の病気なら専門医の治療を受けるよう患者に指示することができる。専門医が担当する患者は難治性であることが多く、治療の選択肢は一つでも多いほうが良い。

それでも、上記のように諮問委員の評価は区々であり、全員が承認に賛成したわけではない。適切な使用、監視を担保するためのプログラム(REMS)を作成することも重要な課題だ。このため、Lemtradaが順調に年内承認となる可能性は低いだろう。尚、EUでは今年9月に承認された。

リンク:Medpage(要登録)の記事・・・サノフィはプレスリリースを出していない

【承認】


FDAがJNJの抗がん剤をスピード承認

(2013年11月13日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、FDAがImbruvica(ibrutinib)をマントルセルリンパ腫の二次治療薬として承認したと発表した。7月に承認申請されたばかりなので、4ヶ月のスピード承認だ。ブレークスルー・セラピー指定を受けており、今月承認されたロシュのGazyva (obinutuzumab)に次ぐ承認第二号となった。慢性リンパ性白血病でも審査中で、来年3月までに承認されるだろう。

ImbruvicaはBrutonチロシン・キナーゼ(Btk)阻害剤で、Bセルの生存に関わるBtkを阻害し細胞死を誘導する。再発性・難治性患者を組入れた第二相試験では、rIWG基準による反応率が65%、完全反応率17%、反応持続期間がメジアン17.5ヶ月と良い成績を上げた。血液癌は反応率と延命効果が相関することが多く、FDAはこれらの代理マーカーによる評価を認め加速承認した。

主な有害事象は出血、感染症、骨髄抑制、腎毒性、二次性原発性腫瘍、胚胎児毒性など。この試験では10%が有害事象により治験を離脱、14%が薬を減量した。

JNJはカリフォルニアのファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)から共同開発販売権を取得、開発費の6割を負担し、利益は折半する。報道によると一日薬価は360ドル、臨床試験のメジアン投与期間は8ヶ月強だったので、患者一人当たり約8万ドル掛かることになる。結構な値段だが、慢性リンパ性白血病では服用量が一日三カプセルと3/4で済むので若干安くなる。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

EUがバイエルの前立腺癌用薬を承認

(2013年11月15日発表)

バイエルは、Xofigo(radium-223 dichloride)を去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認したと発表した。症候性骨転移を合併し、腹部転移はない場合に適応になる。

Xofigoは放射線核種をカルシウムに類似した化学物質と結合し骨に分布するよう工夫した放射線核種薬。化学療法不耐、不適、不応の患者を組入れた第三相偽薬対照試験では、メジアン生存期間が14.9ヶ月と偽薬群の11.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.695、pは0.00007だった。米国では5月に承認されている。ノルウェーのAlgetaから開発販売権を取得したもの。

リンク:バイエルのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年11月10日

海外医薬ニュース2013年11月10日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • Gazyvaはリツキサンより効果が高い
  • アイリーアを糖尿病性黄斑浮腫で承認申請
  • 大日本住友製薬の抗癲癇薬が米国で承認
  • FDAがクレキサン等を麻酔と併用する時のリスクを再警告


【新薬開発】


Gazyvaはリツキサンより効果が高い

(2013年11月7日発表)

ロシュは、今月米国で承認されたCLL(慢性リンパ性白血病)用薬、Gazyva(obinutuzumab)の直接比較試験の結果を公表した。メジアンPFS(無増悪生存期間)がRituxan(rituximab、和名リツキサン)より1年程度長いという大変良い内容。Gazyvaはフコース除去という新しい技術を用いている。これまでに様々な抗体医薬改良技術が登場したが、第二、第三世代品が第一世代品を凌駕したのは今回が初めてであり、同様な技術を持つ協和発酵キリンなどの企業も喜んでいるだろう。

このCLL11試験は、初めて治療を受ける患者を組入れて、第1ステージではchlorambucilを単剤投与する群とGazyvaを併用する群を比較。中間無益性分析で良好な結果が出たため、chlorambucilとRituxanを併用する群と、chlorambucil・Gazyva併用群を比較する第2ステージを開始した。

米国承認は第1ステージの成績に基づくものだが、CLLの一次治療はRituxanもfludarabine及びcyclophosphamide併用で承認されており、患者や医師が治療法を選択する上で必要な情報がなかった。ロシュにとっても、Rituxanはやがてバイオシミラーが登場されるだろうから、雌雄を決するインセンティブがある。

第2ステージの成功は7月に公表されているが、ASH(米国血液学会)での発表が決まり、ヘッドライン・データが公表された。Gazyva群のメジアンPFSは26.7ヶ月、Rituxan群は15.2ヶ月、ハザードレシオ0.39、pは0.0001未満。完全反応率21%対7%。全生存期間のハザードレシオは0.66、pは0.09とまだ有意水準に達していないがデータが未成熟なのだろう(メジアン未到達)。

効果が高い一方で有害事象のリスクも高く、グレード3~5の有害事象発生率は各66%と47%。漸増投与法が採用されており、米国のレーベルによると、初回は100mg、一週間後の二回目は900mgに抑え、更に一週間後の三回目から1000mgを静注点滴する。28日サイクルで最初は4回投与するが、第2サイクル以降は1回、全部で6サイクル施行する。

点滴量は30分毎に漸増、1000mgを投与するのに3時間位かかる。Rituxanの用量は患者の体表面積によって変動するが、2平方メートルとすると点滴時間がやや長い。Rituxanと同様に過敏反応を抑制するためにステロイドなどを用いてプリメディケーションを行う。

報道によると米国のWAC(問屋に販売する時の基準となる価格)は24週間のコースで41300ドルで、Rituxanより2割高い模様だが、効果が高いことを考えればリーズナブルだ。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認申請】


アイリーアを糖尿病性黄斑浮腫で承認申請

(2013年11月5日、7日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)とバイエルは、Eylea(aflibercept硝子体注射用、和名アイリーア)を糖尿病性黄斑浮腫の治療に用いる適応拡大申請を欧米で行ったと発表した。Eyleaはロシュ/ノバルティスのLucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)の類薬で、異常な血管新生による黄斑障害を抑制する。Lucentisはこの用途でも既に承認されている。バイエルは米国外での開発販売権を持つ。

リンク:リジェネロンの決算発表リリース(11/5付)

リンク:バイエルのプレスリリース(11/7付)

【承認】


大日本住友製薬の抗癲癇薬が米国で承認

(2013年11月8日発表)

FDAは、大日本住友製薬の米国子会社であるスノビオンが承認申請していたAptiom(eslicarbazepine acetate、欧州名Zebinix)を部分癲癇の治療薬として承認したと発表した。薬物療法を受けても発作が起きる患者に追加投与する。麻薬指定はされなかった。2014年の第2四半期(4~6月)に発売される予定。

癲癇の新薬は、単剤投与偽薬対照試験のエビデンスを欠いていることが多いため、追加投与(アジャンクト)に限定して承認されるのが一般的だ。癲癇は有効な薬が多数存在し、また、癲癇発作を起こすと事故の危険だけでなく寿命にも影響するので、偽薬だけを投与して発作を予防しない群を設けることは臨床試験の倫理に反すると考えられている。最近では文献に基づく仮想偽薬群のデータと比較する単群試験も行われるようになったが、Aptiomは承認申請が4年前なので、間に合わなかったのだろう。

この問題の解決は難しく、活性薬対照試験を行えば倫理上の問題は発生しないが、差が小さいため多くの患者を組入れる必要があり、また、新薬の主用途は追加投与なのだから単剤投与時の効果が既存薬と同等である必要はない。薬の反応は人によって異なり、中枢神経系の薬は特にそうなので、代替的な選択肢はそれだけで価値がある。

米国は新薬承認審査と保険適用審査が異なった組織によって行われるため、医師は、追加投与しか承認されていない薬でも裁量に基づき単剤投与することが可能だ。一方、日本のように同じ組織が行う場合、保険適用されず実質的に使えない。工夫が必要だ。

さて、Aptiomはノバルティスが開発した抗癲癇薬、carbamazepine(Tegretol)の誘導体であるoxcarbazepine(Trileptal)の活性代謝物であるlicarbazepine(ノバルティスの開発コードLIC477)のS異性体。ノバルティスはLIC477を双極障害治療薬として開発したが2007年に中止。S異性体はポルトガルのBial-Portelaが開発、欧州はエーザイが共同販促している。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:スノビオンのプレスリリース(pdf)

【医薬品の安全性】


FDAがクレキサン等を麻酔と併用する時のリスクを再警告

(2013年11月6日発表)

FDAは、Lovenox(enoxaparin、和名クレキサン)などの低分子量ヘパリンを脊椎・硬膜外麻酔や腰椎穿刺と併用する時の血腫・麻痺リスクを改めて警告する安全性情報を発出した。米国や日本のレーベルの冒頭に警告されている既知のリスクだが、過去21年間に170件の有害事象報告が寄せられているため、改めて注意を呼び掛けた。

具体的には、麻酔用のカテーテルを留置するのは低分子量ヘパリンを投与してから12時間以上、経ってからにする。高量を投与した場合は更に長時間(24時間)、間を置く。措置後の投与はカテーテルを除去してから4時間以上経ってからとする。

FDAが上記170件のうち診断が確定できた100件についてリスク要因を分析したところ、女性あるいは高齢者が7割を占め、他の抗凝固・抗血栓薬を服用している患者も5割近くを占めた。従って、出血リスクを高める薬を服用していないかチェックすることも重要だ。

尚、米国では深静脈血栓予防用途では30mgを一日二回、または、40mgを一日一回、投与する。日本は2000IU(20mgに相当)を一日二回なので、投与量はそれほど変わらない。従って、対岸の火事ではないだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年11月3日

海外医薬ニュース2013年11月3日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • WCLC:PD-1阻害薬はやっぱり凄い
  • ファーザーの抗PCSK9抗体も第三相入り
  • ポテリジェント抗体が第三相入り
  • JNJがibrutinibをEUでも承認申請
  • BMSが日本で経口剤だけのC型肝炎治療法を承認申請
  • FDA諮問委員会が武田のvedolizumabを検討へ
  • FDAはEPAの心血管疾患予防効果に懐疑的
  • ロシュのフコース除去抗体が米国で承認
  • アリアドが抗癌剤の販売を一時中止


【新薬開発】


WCLC:PD-1阻害薬はやっぱり凄い

(2013年10月25日、29日発表)

WCLC(世界肺癌会議)でBMSとMSDの抗PD-1抗体の非小細胞性肺癌後期第一相試験のデータがアップデートされた。二次治療でメジアン生存期間が各10ヶ月と1年となっており、中々良さそうだ。また、ロシュのRG7446/MPDL3280Aと同様に、PD-L1の発現状況を検査して最適な患者をスクリーニングできる可能性も示唆された。

抗PD-1抗体は、活性化したTセルが発現する抑制刺激受容体であるPD-1に結合して、腫瘍細胞などが発現するレガンドであるPD-L1やPD-L2がTセルを抑制して免疫力を弱体化するのを妨げる。BMS-936558(nivolumab)はトランスジェニック・マウス抗体で小野薬品との共同開発品。MK-3475(lambrolizumab)はヒト化抗体。抗体医薬の固定領域は抗体依存的細胞傷害(NK細胞などを刺激して標的を攻撃させる)を惹起するためにIgG1型を用いることが多いが、両剤はTセルという重要な細胞を標的としているためIgG4型だ。

BMS-936558は2012年に非小細胞性肺癌で第三相入り、2014年後半から2015年にかけて結果が判明するのではないか。腎細胞腫と悪性黒色腫でも承認申請用試験が進行している。MK-3475は今年8月に悪性黒色腫でYervoy(ipilimumab)対照第三相試験がスタート。非小細胞性肺癌でも先月、第二/三相試験が始まったところで、結果はどちらも2015年頃だろう。RG7446/MPDL3280Aはまだ第三相はロンチされていないようだ。

WCLCでは、まず、BMS-936558の後期第一相試験のうち非小細胞性肺癌の途中経過が発表された。二次治療以降の患者を組入れて三種類の量の何れかを二週間に一回、静注投与したところ、129名の患者のメジアン生存期間は9.9ヶ月、1年生存率42%、2年生存率24%となった。前回の発表値と比べて、2年生存率がかなり上昇している。カプラン・マイヤー曲線の右側のデータは症例数が少なく誤差範囲が大きいので過大評価はできないが、何れにせよ、過半の患者が既に三次治療まで受けていたことを考えれば、立派な成果だ。

テストした3用量のうち最も小さい1mg/kgは効果が弱いように見える。第三相では中間の3mg/kgを採用したので、数値の向上が期待できそうだ。

MK-3475の後期第一相試験の途中経過も再発性非小細胞性肺癌が対象。10mg/kgを三週間に一回、静注した。第三者による検証を受けたRECIST反応率は33例中21%、メジアン生存期間は51週間だった。BMS-936558をやや上回るが、症例数が少なく、患者背景が異なる可能性もあるので、比較はできない。

サブグループ分析では、扁平上皮腫は反応率が33%、メジアン生存期間は未達(解析時点で過半の患者が生存)、扁平上皮腫以外は各16%と35週間。扁平上皮肺癌に有効な薬は少ないので注目できる。また、PD-L1発現状況に基づくサブグループ分析では、高発現度(7例)は反応率が57%と大変高く、一方、低発現度(22例)は9%だった。

忍容性面では、BMS-936558は過去の試験で薬物との関連が疑われる間質性肺炎が3%程度の患者で発生、非小細胞性肺癌2例を含む3例が死亡している。MK-3475の試験でもグレード3(重度)の肺浮腫が38例中1例で発生した。応答性がPD-L1発現状況に依存する可能性があることや、重度・重篤な有害事象が見られることを考えれば、事前にスクリーニングしてPD-L1陽性の患者だけに用いることも視野に入れるべきだろう。

リンク:BMSのプレスリリース(10/25付)

リンク:MSDのプレスリリース(10/29付)

ファーザーの抗PCSK9抗体も第三相入り

(2013年10月29日発表)

ファイザーは2013年第3四半期の決算発表に合わせてパイプライン・アップデートを行った。注目されるのはPF-04950615/RN316(bococizumab)が第三相入りしたこと。リジェネロン/サノフィのREGN727/SAR236553やアムジェンのAMG145と同様な抗PCSK9抗体で、LDL受容体の零落を誘導するproprotein convertase subtilisin/kexin type 9をブロックし、血清LDL-C値を引き下げる。

高脂血症・異脂血症で心血管疾患のリスクが高い患者やヘテロ接合型家族性高脂血症を対象に、LDL-C値引き下げ効果を検討する。心血管アウトカム試験も計画されている。開発コードから推測すると、2001年にジェネンテックの中枢神経系領域部門がスピンアウトし2006年にファイザーが買収されたRinat Neuroscienceのパイプラインなのだろう。

リンク:ファイザーの決算リリース

ポテリジェント抗体が第三相入り

(2013年10月30日発表)

アストラゼネカのメディミューン部門は、MEDI-563(benralizumab)の第三相試験開始を公表した。協和発酵キリングループのBioWaからBIW-8405をライセンスしたもので、抗IL-5受容体アルファ抗体の糖鎖をBioWaのポテリジェント技術で修飾し、抗体依存的細胞傷害活性を高めたもの。適応は管理不良の重度喘息症。第二相試験のデータはまだ発表されていない模様だが、好酸球の多い患者で有意な増悪抑制作用と肺機能改善作用を示したようだ。但し、第三相では好酸球数が増多していない患者も組入れる模様。

好酸球性気道炎症は世界で1000万人程度、重度喘息症患者の4~6割が該当するとのことなので、これだけでも市場性は大きい。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


JNJがibrutinibをEUでも承認申請

(2013年10月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはPCI-32765(ibrutinib)をEUで承認申請したと発表した。適応症は7月に行った米国と同様で、再発性/難治性のマントルセル・リンパ腫、慢性リンパ性白血病、糜爛性大B細胞リンパ腫の三疾患。第一/二相試験の反応率データに基づく申請と推測される。

リンク:JNJのプレスリリース

BMSが日本で経口剤だけのC型肝炎治療法を承認申請

(2013年11月1日発表)

BMSはBMS-790052(daclatasvir:NS5A複製複合体阻害剤)とBMS-650032(asunaprevir:NS3プロテアーゼ阻害剤)を日本で遺伝子型Ib型の慢性C型肝炎の治療薬として承認申請したと発表した。インターフェロンもribavirinも併用せずに、この二剤だけを併用する。

日本は高齢患者が比較的多く、インターフェロンだけでなくribavirinに不耐な患者が少なくないため、DAA(直接作用抗ウイルス薬)だけのレジメンが求められている。遺伝子型I型のうち、日本に多いIb型はプロテアーゼ阻害剤によく感受するため、二剤だけでも高い奏効率が期待できる。NS5A阻害剤は様々な遺伝子型に有効で、注目すべき新薬。BMS-790052が最も開発が進んでいる。

日本で行われた第三相試験では、Ib型のウイルスに感染しているインターフェロンまたはribavirinに不適/不耐(135人)、またはインターフェロン・ベースの治療に反応しなかった患者(87人)を組入れて、BMS-790052は60mgを一日一回、BMS-650032は100mgを一日二回、24週間に亘って経口投与したところ、SVR24(治療完了の24週間後になってもウイルスが検出されなかった患者の比率)が84.7%に達した。不適/不耐患者では87.4%、不応では80.5%だった。

治療成果は65歳以上の患者でも未満の患者でも大差なく、65歳以上の不適/不耐患者のSVR24は91.9%、同じく不応患者は85.2%だった。

発生頻度の高い有害事象は鼻咽頭炎(30%)、ALT上昇(16%)、AST上昇(13%)、頭痛(16%)など。深刻な有害事象の発生率は5.9%。有害事象による治験離脱の発生率は5%で、11例中10例はALT/AST上昇によるもの。これらの患者の8割は治療を早期に止めたにもかかわらずSVR24を達成し、ALT/ASTは正常値に戻った。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が武田のvedolizumabを検討へ

FDAは12月9日に胃腸薬諮問委員会(GIDAC)と薬品安全性リスク管理諮問委員会(DSRMAC)の共同会議を開催して、武田薬品が6月に承認申請したMLN0002(vedolizumab)について検討することを発表した。この抗アルファ4ベータ7インテグリン・ヒト化抗体は中重度潰瘍性大腸炎と中重度クローン病の二次、三次治療薬として申請され、前者は優先審査指定を受けている。クローン病試験は成績が満点ではなかったせいか、標準審査。

不思議なのはDSRMACと共催であることだ。考えられるのは、バイオジェン・アイデックのTysabri(natalizumab;主用途は多発性硬化症だがクローン病でも承認されている)と比べて進行性多病巣性白質脳症(PML)のリスクが小さいという長所を認めるかどうか検討すること。MLN0002はアルファ4ベータ1サブユニットには結合しないため、PMLが発生し難いと考えられており、実際に、第三相では一例も発生しなかった模様だ。

クローン病は様々なバイオ薬が発売されているが、それらの薬に反応しない患者はTysabriのような第三の作用機序の薬が必要になる。PMLリスクが小さいならMLN0002のほうが好ましいが、もし隠れたリスクがあった場合、安易に用いるのは危険だ。Tysabriの場合、長期間使えば使うほどリスクが高まるようなので、MLN0002も長期追跡データが必要だ。かといって、Tysabriのように厳重な規制の下でしか使えないようにすると、患者の治療を受ける権利が損なわれる。

医療現場の実態も踏まえた判断が必要なのでDSRMACも招集することを決めたのではないだろうか。

リンク:FDAの開催通知

FDAはEPAの心血管疾患予防効果に懐疑的

(2013年10月29日発表)

アマリン(Nasdaq:AMRN)は、SEC提出資料の中で、FDAがVascepa(icosapent ethyl)のANCHOR試験に関するSPA(特別プロトコル評価)を取り消したことを明らかにした。試験が終了し承認申請した後になって取り消されても困るが、それだけ、FDAの内部も揺れているのだろう。

Vascepaは2012年に高トリグリセライド血症(500mg/dL以上)の治療薬として承認された。ANCHORはトリグリセライド値が200~500mg/dLで心血管リスクの高いスタチン服用者を組入れた試験で、主評価項目はトリグリセライド値だった。当然のことながら成功、適応拡大申請されたが、10月の諮問委員会ではFDAも諮問委員も否定的だった。

今回のSPA取消も理由は同じで、フィブレートをテストしたACCORD-Lipid試験やナイアシンをテストしたAIM-HIGH試験とHPS2-THRIVE試験が何れもフェール、心血管疾患を防ぐ効果が確認されなかったこと。FDAは、トリグリセリドを代理マーカーと見做してトリグリセリドを低下させる薬は心血管疾患も防ぐと考えることは最早できない、と判定した。

尤もな意見で、EPAを用いた心血管アウトカム試験の結果は区々だ。日本のJELIS試験(トリグリセライドが高くない患者も対象)が成功したが、90年代に実施されたせいか併用したスタチンの用量が少なく、今日の標準療法に対する上乗せ効果は明らかではない。

Vascepaは心血管アウトカム試験が進行中だが、アマリンの財務力は決して高くなく、Vascepaの売上も低調となると、無事完遂できるかどうか心配だ。高血圧症における血圧や高脂血症におけるLDL-Cのように、代理マーカーが確立している分野は短期小規模な試験で足りるので新薬の開発が容易だが、トリグリセライドは駄目、HDL-Cは前から駄目となると、これらの領域の新薬開発は大手の独壇場になりそうだ。

リンク:アマリンのフォーム8-K

【承認】


ロシュのフコース除去抗体が米国で承認

(2013年11月1日発表)

FDAは、抗CD20フコース除去ヒト化抗体Gazyva(obinutuzumab)を慢性リンパ性白血病用薬として承認したと発表した。初めて治療を受ける患者にchlorambucilと併用する。主な有害事象は点滴関連反応、骨髄抑制(好中球減少症、血小板減少症、貧血)や筋骨格痛、発熱など。Rituxan(rituximab)など既存の抗CD20抗体と同様に、B型肝炎ウイルスの再活性化と進行性多病巣性白質脳症のリスクが枠付警告された。審査期限は12月20日だったが、1ヶ月以上前倒しで承認。

フコース除去抗体は翻訳後装飾でフコースが付与されないように工夫したもので、抗体依存的細胞傷害活性が高い。Gazyvaも第三相試験でRituxanより高い進行・死亡抑制効果を示した。日本では2012年に協和発酵キリンのポテリジオが承認されたが、米国ではGazyvaが初めて。ポテリジェントではなくロシュが05年に買収したGlycArt社の技術を用いて、CHOセルにグリコシルトランスフェラーゼを過剰発現させることによってフコースをできなくする。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


アリアドが抗癌剤の販売を一時中止

(2013年10月31日発表)

アリアド・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ARIA)は、2012年12月に米国で慢性骨髄性白血病に承認されたIclusig(ponatinib)の販売を一時的に中止すると発表した。FDAの要請に基づくもので、投与期間相関的な血栓性疾患リスクが原因だ。現在治療を受けて良好に応答している患者は、その患者だけを対象とした治験申請や早期アクセスプログラムを通じて続行することができる。

既報のように、このbcr-abl阻害剤は臨床試験の延長試験で心筋梗塞などの血栓性疾患の懸念が浮上した。今回のFDAのリリースでは発生率が更に高まり、第二相試験の追跡データではメジアン1.3年の追跡で24%、第一相は2.7年で48%。2週間で発生した例もあり、また、用量との関連性も見られなかったようで、無害量も安全に使用できる期間も不明、とのこと。有害事象は心臓発作、卒中、血行不良による末梢組織壊死、末梢・心臓・脳血管の重度狭窄と多岐に亘り致死例を含む。目で発生して失明した症例もあるようだ。

副作用リスクの評価でしばしば問題になるのが、分類方法だ。今回のケースでも心筋梗塞だけなら発生率はもっと低いはずだが、患者にとって重要なのは全体像で、個々の有害事象ではない。当然の話なのだが、学会・論文発表や企業のプレスリリースでは小分類のデータしか記されないことが少なくなく、全体像を把握するのが困難になっている。今回もアリアドが発表した段階ではそれほど重大ではないと感じたが、後にFDAが発表した数値の大きさに驚かされた。

リンク:FDAの安全性情報

リンク:アリアドのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年10月27日

海外医薬ニュース2013年10月27日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • FDA:オサイリスの細胞性医薬品は治験申請/販売承認が必要
  • エーザイの抗癲癇薬はスケジュールIIIに
  • メディベーション/アステラスの適応拡大試験が成功
  • ガーダシルの後継ワクチンの開発が成功
  • MK-0859は何年もの間、体内に留まる
  • キュービストが皮膚感染症治療薬を米国で承認申請
  • GSKが喘息症用薬とHIV/AIDSコンビ薬を承認申請
  • FDA諮問委員会がギリアッドの新規作用機序抗HCV薬を支持
  • FDA諮問委員会がソブリアードも支持
  • EUの委員会がルンドベック/武田やアクテリオンの新薬を支持
  • EUで肝静脈閉塞症治療薬が承認
  • 米国でアクテムラの皮注用製剤が承認


【今週の話題】


FDA:オサイリスの細胞性医薬品は治験申請/販売承認が必要

(2013年10月22日公表)

米国のオサイリス・セラピュティクス(Nasdaq:OSIR)は細胞性医薬品事業をオーストラリアのメソブラスト(ASX:MSB)に売却することを決めたが、その直前に、FDAが重要な通知を行っていたことが判明した。同社が販売しているGrafixやOvationに関して、天然細胞製品とは認められないので治験申請または生物学的製剤申請を行うよう求めたもの。追加的な開発費負担が発生したことが事業売却の背景の一つだったのではないか。

このリスクは同社のSEC提出資料、フォーム10-Kにも記されていた。ヒトから採取した細胞や組織、そしてこれらを製品化したものは、一定の条件を満たす限り、医薬品としての規制が免除される。同社はヒト間葉系幹細胞性製品であるGrafixなど三製品を規制対象外として2010年以降、順次発売。2013年上半期の売上高は合計930万ドル、前年同期の3倍以上に増加した。2013年8月18日号で書いたように、Grafixは糖尿病性潰瘍治療試験が成功、市場拡大が期待されていた。

ところが、FDAが10月22日に公表したUntitled Letter(題名のない書簡)によると、5月から6月にかけて実施した立ち入り調査でこれらの製品が規制免除の要件を満たしていないことが判明。オサイリスに対して、治験許可申請を行って臨床試験を目的として製品供給する、または、生物学的製剤として販売許可を取得することを求めた。

今後の対応はメソブラストが選択することになるのだろう。書簡送付は9月で、事業売却が発表された10月7日より前なので、メソブラストは知っている筈だ。幸い、Grafixは臨床試験が成功したと報告されているので販売承認取得の目途が立っている筈だが、医薬品は薬効や安全性、品質のハードルが高いので、承認申請の準備に費用や時間が掛かりそうだ。

リンク:FDAのUntitled Letter

エーザイの抗癲癇薬はスケジュールIIIに

(2013年10月22日発表)

エーザイの抗癲癇薬Fycompa(perampanel)は米国で2012年10月に承認された。1年を経てやっと麻薬取締局(DEA)がスケジューリングを決定したので、意見公募期間を経て11月にも発売可能になりそうだ。

米国では、薬物依存のリスクを持つ医物質は麻薬取締局(DEA)が依存性の高さに応じてIからVまでのカテゴリーに分類し、夫々のカテゴリーに応じた生産、処方、流通規制を課す。Iが最も厳しい規制を受ける。新薬の場合、FDAが必要に応じて開発者に依存性試験の実施を求め、その結果などに基づいてカテゴリー分けして、販売承認後にDEAに連絡、DEAが最終決定する。ところが、近年はDEAのカテゴリー分け(『スケジューリング』)手続きが長期化しており、有効な新薬を逸早く医療現場に届けることができなくなった。

新薬は承認から5年間、市場を独占する排他権が与えられ、その間はGE品が承認されないが、スケジューリングが遅れると排他権を享受できる期間が減少し、投資採算が悪化してしまう。対策として、エーザイはコロンビア特別区巡回控訴裁判所に職務執行令状を出してDEAに早く結論を出すよう命ずることを請願した。同時に、FDAに対して、独占権の発効時期を承認時ではなく、DEAがスケジューリングを決定し医薬品添付文書の内容が確定した時期に変更するよう請願した。

前者は控訴裁判所が10月22日付で却下した。職務執行令状という例外的な救済手段が必要であることが十分に立証されていない、と判断した。エーザイ、そして他の医薬品開発企業にとって残念な判決だが、Fycompaだけに関していえば、影響は小さい。同じ10月22日付の官報(Federal Register)で、スケジュールIIIに分類する予定であることをDEAが公表したからである。11月21日まで意見を受け付け、その後、最終決定する。

抗癲癇薬では、ファイザーのLyrica(pregabalin)、UCBのVimpat(lacosamide)がスケジュールV、ヴァレアントのPotiga(ezogabine/USAN)はIV。IIIはモルヒネ系の一部や、ジャズ・ファーマシューティカルズのナルコレプシー治療薬、Xyrem(sodium oxybate)と同じ。意外に厳しい評価で販売面では不利だが、主として難治性の癲癇患者に使われるだろうから、大きなハンデにはならないだろう。

新薬排他権起算日問題は未決定。レーベルは頻繁に見直され、メーカーの都合による改定もあるのでレーベル確定を起算日とすることにはテクニカルな問題がありそうだ。しかし、エーザイの主張にも一理あるので、FDAが再考する可能性は十分にあるだろう。何れにせよ、結論が出るまで時間が掛かりそうだ。

リンク:Federal Register(2013年10月22日付)の当該箇所(pdfファイル)

【新薬開発】


メディベーション/アステラスの適応拡大試験が成功

(2013年10月22日発表)

Xtandi(enzalutamide)をアステラス製薬と共同開発しているメディベーション(Nasdaq:MDVN)は、化学療法未経験の去勢抵抗性転移性前立腺癌患者を対象とした適応拡大試験が中間解析で成功したと発表した。全生存のハザードレシオは0.7、pは0.0001未満、メジアン生存期間は32.4ヶ月で偽薬群の30.2ヶ月を上回った。

共同主評価項目であるCT画像などに基づくPFS(無進行生存期間)もハザードレシオ0.19、pは0.0001未満となり成功。独立データ安全性評価委員会は、治験を完了して偽薬群の患者がXtandiによる治療を受けられるようにすることを勧告した。

前立腺癌の治療法は、切除、放射線療法、ホルモン療法など。ホルモン療法(薬物去勢療法とも呼ばれる)によってアンドロゲンをブロックすれば進行を抑制することができるが、やがて、PSA値が再上昇し始めると去勢抵抗性前立腺癌と分類される。

前立腺癌は緩徐なのでその後の治療方針は国や医療施設、あるいは患者の年齢などによって異なるが、転移したり、癌の進行に伴う症状が出始めると、化学療法の可否を検討することになる。今回の治験はこの段階の患者を対象に日本を含む世界の医療施設で行われた。

Xtandiは経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤で、2012年に米国で、翌年には欧州でも承認され、日本でも承認審査中。現在の用途は化学療法を受けて再発した/不応だった患者だが、今回の用途が承認されれば、もっと早い段階で使えるようになる。

作用機序的にはホルモン療法の一つなので、将来はbicalutamideなどの代わりに、更に早い段階で用いられる可能性もある。bicalutamideはアンタゴニストではなくアゴニストとして作用してしまう可能性が指摘されており、直接比較試験をやれば勝てるかもしれない。市場性はこの用途が一番大きいので、挑戦する価値がある。

この活性成分は、Michael JungとCharles SawyersがUCLA時代に発見したもの。第二世代品がARN-509で、ジョンソン・エンド・ジョンソンが今年6月に関連資産を6.5億ドル+達成報奨金3.5億ドルで買収、今月、第三相試験を開始した。

抗癌剤の偽薬対照単剤投与試験は倫理的な問題を孕んでおり、例えば今回の試験は、Zytiga(abiraterone acetate)が承認された後だったら不可能だっただろう。偽薬群の患者がenalutamideまたはZytigaで治療できるようになったことは、その意味で、好ましい結果だ。ARN-509の試験は転移前の患者を対象にすることでこの問題をクリアした。

リンク:両社のプレスリリース

ガーダシルの後継ワクチンの開発が成功

(2013年10月24日発表)

MSDは、V503の第三相試験が成功し年内に承認申請する計画であることを明らかにした。米国のワクチン・プログラムを検討する委員会、ACIPで報告するとともに、プレスリリースを出した。

V509は同社の子宮頸癌予防用ワクチン、Gardasil(和名ガーダシル)の後継品で、6型、11型、16型、18型に加えて、新たに31型、33型、45型、52型、58型のウイルス抗原を加えた9価HPVワクチン。子宮頸癌の原因になりうるウイルスの87%をカバーしている。データは今後、発表されるが、カバレッジが広い分、子宮頸癌予防効果も高いだろう。

尤も添付文書に記載されている子宮頸癌予防効果(『ワクチン効率』)は配合されている型のウイルスによる子宮頸癌/前癌性病変だけを評価したものなので、カバレッジが広くもっと多くの子宮頸癌を予防できるとしても、添付文書上の予防効果は大して変わらないかもしれない。奇妙な話だが、専門家の真実と私たち一般人の真実は必ずしも同じではないのだ。

GardasilやGSKのワクチンの弱点は、既に感染している人に対する子宮頸癌予防効果が弱いこと。このため、性的感染していない可能性が高い、9~10歳の接種が望ましい。それ以外の年齢でも適応にはなるが、保険還元の対象になる年齢層は国によって区々だ。

リンク:MSDのプレスリリース

MK-0859は何年もの間、体内に留まる

(2013年10月4日発表)

MSDが第三相試験を実施しているCETP阻害剤、MK-0859(anacetrapib)は、服用を止めても消失するまで何年も掛かることが判明した。流石に活性は低下するようだが、副作用リスクも低下するのか、長期的な暴露による弊害が発生しないかどうか、進行中のアウトカム試験が完了したらデータを十分に検討する必要がありそうだ。

この問題は、Gotto等の論文原稿がAmerican Journal of Cardiology誌に受理され、ホームページに掲載されたことによって表面化した。臨床開発の早い段階で半減期の長さが明らかになったため、18ヶ月間投与するDEFINE試験に参加した患者を対象に、投薬完了後のHDL-C値やLDL-C値の推移と薬剤の残存状況を追跡調査した。その結果、完了後12週間経っても血漿濃度が投与中の定常状態のトラフ(谷)値の4割程度にしか下がらず、LDL-C値やHDL-C値も治療開始前の水準に戻らなかった。

それどころか、2~4年経っても少量が残り、効果も消えないことが判明した。

慢性疾患の薬物療法は薬を飲み続けないといけないのが難だが、悪いことばかりではない。遺伝子療法やiPS療法は、副作用など不都合な事態が生じた時でもスイッチをオフにすることができないが、薬は投与を止めればオフにできる。しかし、MK-0859のように薬物や作用が何年も続く薬は、副作用を止めることができないかもしれない。

MK-0859はHDL-Cを倍以上に増やし、LDL-Cを4割程度減らす効果を持つため、心筋梗塞予防効果を検討する大規模アウトカム試験が進行中で、2017年頃に結果が出る見込み。メジアン4年追跡するので、累積投与量相関的な副作用が発生しないかどうか、ある程度の結論を出すことができるだろう。

リンク:Gotto等(The American Journal of Cardiology誌)

【承認申請】


キュービストが皮膚感染症治療薬を米国で承認申請

(2013年10月22日発表)

マサチューセッツ州の新興製薬会社であるキュービスト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:CBST)は、TR-701(tedizolid phosphate)を急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症の治療薬として米国で承認申請したと発表した。MRSAを含むグラム陽性菌に有効な、第二世代oxazolidinoneで、静注用と経口剤が用意されている。同社が今年9月にTrius Therapeuticsを買収して入手したもので、北米や欧州以外ではバイエルが開発販売する。

リンク:キュービストのプレスリリース

GSKが喘息症用薬とHIV/AIDSコンビ薬を承認申請

(2013年10月22~25日発表)

GSKは、fluticasone furoateの吸入用製剤を喘息症維持療法薬として米国で承認申請した。Breo(fluticasone furoateとvilanterolの合剤)の活性成分の一つだが、FDAは長期作用性ベータ2作用剤を喘息症に用いることに懐疑的でCOPD向けにしか承認されていないので、単剤だけでも承認を取っておくことが重要だ。ベストセラー製品であるAdvairやFluventに配合されているfluticasone propionateの新しい塩で、一日一回の吸入で足りることが特徴。

GSKは、HIV/AIDS治療用のトリプルコンビ薬を欧米で承認申請したことも発表した。塩野義製薬が創製しファイザーを含む三社の合弁会社であるViiVヘルスケアが販売しているインテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤、Tivacay(dolutegravir)の活性成分と、GSKが開発した核酸系逆転写阻害剤、abacavirとlamivudineを配合しており、一日一回の服用で足りるためピル・バーデンが緩和する。

ギリアッドが販売しているStribild(和名スタリビルド)と比べると、インテグラーゼ阻害剤はdolutegravirの方がIsentress(和名アイセントレス)抵抗性ウイルスの多くに活性を維持している点で優れ、プロテアーゼ阻害剤でブーストしていない点も同時服用薬との相互作用に悩まなくてよいので好ましい。しかし、abacavirはある種の遺伝子多型を持つ患者は副作用が発生しやすく、Stribildのtenofovir disoproxil fumarateの方が第一選択薬に適している。このため、総合的にはStribildに見劣りする。

リンク:fluticasone furoateのプレスリリース(10/23付)

リンク:トリプルコンビ薬米国申請のリリース(10/22付)

リンク:同、欧州申請のリリース(10/25付)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がギリアッドの新規作用機序抗HCV薬を支持

(2013年10月25日発表)

FDAの抗ウイルス薬諮問委員会が、ギリアッド(Nasdaq:GILD)のGS-7977(sofosbuvir)を慢性C型肝炎の治療薬として承認することを全員一致で支持した。ウイルスの遺伝子に組み込まれている、NS5Bポリメラーゼという増殖に必要な酵素を阻害する経口剤で、承認されればクラス初。プロテアーゼ阻害剤と異なり、遺伝子型I型に加えてII型、III型、IV型などにも有効で、II型やIII型を治療する場合は、ribavirinと二剤併用で足りるのでインターフェロン不耐患者にも適している。

I型やIV型は、少なくとも現時点ではインターフェロンやribavirinと三剤併用する必要があるが、全体の治療期間は12週間で足りるので、副作用に苦しむ期間を短縮し、インターフェロンやribavirinの薬剤費を減らすこともできる。将来的にはプロテアーゼ阻害剤やNS5A複製複合体阻害剤と組み合わせて、I型でもインターフェロン抜きで治療することが可能になるだろう。

2011年にファーマセットを110億ドルで買収して入手したパイプライン。高い買い物だったが、競合他社のセットバックによって、投資回収の道筋が開けてきた。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

FDA諮問委員会がソブリアードも支持

(2013年10月24日発表)

FDA抗ウイルス薬諮問委員会は、Sovriad(simeprevir、和名ソブリアード)の承認も全員一致で支持した。慢性C型肝炎の治療に用いるNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤で、ジョンソン・エンド・ジョンソンがメディビアから共同開発独占販売権を得て開発、承認申請したもの。日本では先月、承認された。

Incivek(telaprevir、和名テラビック)などとの違いは、一日一回服用で足りること。臨床試験データ上では効果も高そうだが、直接比較試験ではないので明確ではない。慢性C型肝炎の奏効率はウイルス量や人種、合併症の進行度合いなどによって異なるので、患者背景が異なると奏効率も変わる可能性がある。

NS3プロテアーゼにQ80K置換のあるウイルスには効果が弱い。米国の場合、Ia型ウイルスの半分近くがこの遺伝子多型を持っているため、事前に検査を行って、もし該当する場合は他の薬を選ぶことになりそうだ。一部の諮問委員は禁忌にすべきと主張した模様。また、アフリカ系や東アジア系の患者における奏効率が見劣りした模様。有害事象はラッシュや光過敏などで、忍容性はそれほど悪くなさそうだ。

リンク:JNJのプレスリリース

EUの委員会がルンドベック/武田やアクテリオンの新薬を支持

(2013年10月25日発表)

EMA(欧州薬品庁)の医薬品科学的評価委員会であるCHMPが10月の会議でルンドベック/武田の新規抗鬱剤とアクテリオンの新規肺高血圧症治療薬の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内に承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

ルンドベック/武田薬品のBrintellix(vortioxetine)は、成人大鬱病の治療薬として承認申請された。セロトニンなどの神経伝達物質の作用を阻害/増強する経口剤。鬱病はSSRIなど既存の薬が有効で、第二選択薬が奏功するケースも含めて過半の患者が改善するが、難治性の患者には有望な選択肢になるだろう。主な有害事象は悪心。米国では9月に承認された。

リンク:両社のプレスリリース

スイスのアクテリオンが承認申請したOpsumit(macitentan)は経口エンドテリンA/B受容体拮抗剤で、II型とIII型の肺高血圧症の治療に用いる。希少疾患としては大規模なアウトカム試験が行われ、6分歩行距離を3%程度改善する効果等が認められた。主な有害事象は貧血や鼻咽頭炎など。

リンク:アクテリオンのプレスリリース

適応拡大では、TNF阻害剤のCimzia(certolizumab pegol、和名シムジア)を乾癬性関節炎に用いることが支持された。一方、アムジェンのXgeva(denosumab、和名ランマーク)を非転移性去勢抵抗性前立腺癌の骨転移予防に用いることは支持されなかった。2年超の期間に骨に転移する患者が52%から47%に、5ポイント程度減る程度の効果しかなく、副作用リスクを正当化できないと判断した。この用途はFDAも同様な理由で承認しなかった。

Xgevaは画期的な作用機序を持つため顎骨壊死症のリスクが小さいことが期待されたが、この用途では高量を投与するせいか15人に一人の割合で発生した。

リンク:CHMPのXgeva適応拡大に関するコメント(pdfファイル)

【承認】


EUで肝静脈閉塞症治療薬が承認

(2013年10月22日発表)

イタリアのGentium(Nasdaq:GENT)は、Defitelio(defibrotide)がEUで承認されたと発表した。造血幹細胞移植の前段階として化学療法を施行すると重度VOD(肝静脈閉塞症)が発生するリスクがあるが、この治療に用いる。Defitelioはブタ粘膜DNA由来の一本鎖オリゴデオキシリボヌクレオチド。あまりキチンとした試験は行われていないが、米国の患者登録データにより移植後の生存率を向上する効果が示唆されたため、例外的条項に基づいて承認された。

リンク:Gentiumのプレスリリース(pdfファイル)

米国でアクテムラの皮注用製剤が承認

(2013年10月22日発表)

ロシュは、Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)の皮注用製剤が米国で承認されたと発表した。既存の静注用製剤は患者の体重1kg当り8mgを4週間に一回投与するが、皮注用は体重に係らず162mgを週一回、自己注する。日本では今年3月に承認。

リンク:ロシュのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年10月20日

海外医薬ニュース2013年10月20日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 肝障害懸念のある体重管理・筋肉増強サプリメントに注意
  • サビエントが会社更生手続きを申請
  • 抗PCSK9抗体の最初の第三相試験が成功
  • ベーリンガーがnintedanibを欧州で承認申請
  • JNJがPrezistaのコンビ薬を欧州で承認申請
  • FDA諮問委員会はEPAの心血管疾患予防効果を認めず
  • アクテリオンのETA/B受容体拮抗剤が米国で承認
  • ノボの第8因子が米国で承認
  • ベーリンガーの長期作用性ベータ2作用剤が英国などで承認
  • Iclusigの適応拡大試験が中止に



【今週の話題】


肝障害懸念のある体重管理・筋肉増強サプリメントに注意

(2013年10月8日、11日発表)

テキサスのUSP Labs LLCがOxyElite ProあるいはVERSA-1名で販売していたサプリメントで、多くの急性肝障害が発生していることが判明した。FDAは、CDC(疾病管理予防センター)やハワイ健康省と共同で原因を探求すると共に、これらの製品にaegelineという安全性が確立していない物質が配合されているためメーカーに警告状を送付、USPは販売を中止した。

FDAによると、ハワイで29例の原因不明な急性非ウイルス性肝炎が発生、うち11例は激性肝炎入院例で、2例は肝移植を受け1例は死亡した。29例中24例は過去60日間にOxyElite Proを服用していた。同製品はネットや小売店を通じて全国販売されているため、FDAが他州のデータを調査したところ、同製品や他の体重管理または筋肉増強サプリメントを服用した後に原因不明激性肝炎を発症した4例が見つかった。

aegelineはベルノキというミカン科の植物から抽出された物質で、USPがスポーツ・フォーミュラとして製品化した。同社は以前にもDMAA配合サプリメントでFDAから製品廃棄命令を受けている。日本でも中国で購入されたダイエット用サプリメントで急性肝障害が発生したことがある。

医薬品やハーブが原因で肝障害が発生しうることは広く知られているが、メカニズムは明確ではない。因果関係を立証するのも容易ではなく、今回も、aegelineが原因と断定されたわけではなさそうだ。だからと言って、安閑とする訳にもいかない。美白化粧品の事件にも言えることだが、不確かなものには手を出さないのが生きる知恵だ。

aegelineは N-[2-hydroxy-2(4-methoxyphenyl) ethyl]-3-phenyl-2-propenamideと呼ばれることもあるようだ。ベルノキ(Aegle marmelos)は、Wikipediaによると、Bael、Bengal quince、golden apple、stone apple、wood apple、biliなどと呼ばれることもある。海外から輸入されたサプリメントを服用している人は、aegelineが含有されていないかチェックした方が良いだろう。

リンク:FDAの安全性注意喚起

リンク:同 続報

リンク:DMAAに対するFDAの対処(2013年7月16日付)

リンク:Aegelineの紹介(SYNMR BIOTECHNOLOGYのウェブサイト)

リンク:ベルノキの紹介(日本新薬のウェブサイト・・・本事件とは全く関係ありません)

サビエントが会社更生手続きを申請

(2013年10月14日発表)

カナダのサビエント・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:SVNT)は、米国デラウェア州の破産裁判所にチャプター11の適用を申請した。同社は2010年に遺伝子組換え型ブタ尿酸酸化酵素、Krystexxa(pegloticase)が重度難治性痛風の治療薬として米国で承認され、翌年に発売したが、売れなかったようだ。チャプター11が適用され会社更生手続きが認められたら、資産と負債の一部をUS WorldMeds社とその子会社に5500万ドルで売却することで合意している。

US WorldMedsはケンタッキー州の特化型医薬品メーカーで、主力製品はB型ボツリヌス毒素、Myobloc/Neurobloc。アイルランドのエランが開発、2004年に権利をUS WorldMedsの子会社であるSolstice Neurosciencesに売却したもの。日本でもエーザイが今年3月に痙性斜頸治療薬ナーブロックとして発売した。

リンク:サビエントのSEC提出資料

【新薬開発】


抗PCSK9抗体の最初の第三相試験が成功

(2013年10月16日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーであるサノフィは、REGN727/SAR236553(alirocumab)の最初の第三相高脂血症治療試験が成功したと発表した。LDL-C治療薬のように効果を簡単に測定できる薬は後期第二相試験を見れば効くかどうか見当が付く。従って、第三相試験の注目点は効果の持続性と安全性だ。大きな問題はなかったようだが、100例程度の小規模な試験なので、まだ油断はできないだろう。

alirocumabは、肝臓のLDL受容体の零落を誘導するPCSK9に結合しブロックするフルヒト化抗体。アムジェンなど、開発競争が激化している分野で、第三相試験の結果が出たのは今回が初めて。高脂血症患者に二週間に一回の頻度で自己皮注させ、24週間後のLDL-C値をezetimibe(和名ゼチーア)を一日一回経口服用した群と比較した。用量は75mgで開始し、70mg/dL未満に下がらない患者は150mgに増量した。結果は、47%減少しezetimibe群の15%より有意に大きかった。過半の患者は増量の必要が無かった。

この試験のデザインは違和感がある。70mg/dL未満に下げる必要があるのは心血管疾患のリスクが高い患者だ。もし高リスク患者なら、倫理面の理由で、対照群はezetimibeではなく効果が高いatorvastatinやrosuvastatinによる治療を受けるべきだっただろう。もし高リスクでないならこんなに下げる必要はなかっただろう。尤も、今回の試験は様々な第三相試験の一つに過ぎない。この薬の本命の用途である、高用量スタチンを服用しても尚、LDL-C目標値に到達しない高リスク患者に追加投与して、心血管疾患の発生を予防する試験も行われる筈である。

安全性面では感染症が若干増えた程度で大きな問題はなかったようだ。ezetimebe群も偽薬を自己皮注したが、注射箇所反応の発生率は両群大差なかった。ezetimibeはスタチンと比べても安全性が高いので、互角だったことはポジティブだ。尤も、過去の試験では肝機能検査値異常やラッシュ、白血球破砕性血管炎が発生したこともあるので、高用量スタチン併用時の安全性をもっと大規模、長期の試験で確認することが肝要だろう。

リンク:両社のプレスリリース

【承認申請】


ベーリンガーがnintedanibを欧州で承認申請

(2013年10月14日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、BIBF 1120(nintedanib)を腺腫非小細胞性肺癌に二次治療薬としてEUに承認申請したと発表した。トリプル・アンギオキナーゼ・インヒビターで、Sutent(sunitinib、和名スーテント)などのVEGF受容体阻害剤と同様に、VEGFやPDGF、FGFなどの受容体を阻害する。

第三相試験ではdocetaxelによる治療を受ける扁平上皮腫以外の非小細胞性肺癌患者に200mgを一日二回、経口投与し、PFS(無増悪生存期間)を偽薬群と比較した。結果は、メジアン3.4ヶ月対2.7ヶ月、ハザードレシオ0.79で有意な差があったが、二次的評価項目である全生存の解析はフェールした。

比較的成績が良かったのは被験者の約半数を占めた腺腫で、PFSが4.0ヶ月対2.8ヶ月、ハザードレシオ0.77、p=0.0193、全生存期間が12.6ヶ月対10.3ヶ月、ハザードレシオ0.83、p=0.0359だった。主な有害事象は悪心嘔吐、下痢、肝機能検査値異常。

扁平上皮非小細胞性肺癌だけを組入れたAlimta(pemetrexed、和名アリムタ・・・扁平上皮非小細胞性肺癌に承認されている)併用第三相試験は中間解析で無益性が認定され打ち切られた。このタイプの癌は他のVEGF受容体阻害剤もAvastinも無効または深刻な有害事象が増加し危険だったので意外感はないが、成功した試験が一本だけでp値があまり低くなく、延命効果のエビデンスがサブグループ分析だけであることは残念だ。FDAと異なりEUはサブグループ分析を受け入れる傾向があるので、それが頼りだろう。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

リンク:ASCO2013の抄録

JNJがPrezistaのコンビ薬を欧州で承認申請

(2013年10月15日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、HIV/AIDS治療用プロテアーゼ阻害剤のPrezista(darunavir)とギリアッドが開発した3A4阻害剤cobicistatの合剤をEUに承認申請したと発表した。

プロテアーゼ阻害剤は生物学的利用率が低く、服用頻度が多くなりがちだが、3A4肝臓酵素で代謝される薬は3A4阻害作用を持つプロテアーゼ阻害剤ritonavirを少量併用すると一日一回服用で足りるようになることが判明、ritonavir-boosted regimenとして広く用いられるようになった。ritonavirを開発したアボット(現アッヴィ)が自社のプロテアーゼ阻害剤lopinavirと合剤にして発売したKaletra(和名カレトラ)は成功した。JNJの合剤は、第二のKaletraを目指すことになる。

リンク:JNJのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はEPAの心血管疾患予防効果を認めず

(2013年10月16日発表)

FDAの内分泌学代謝学薬諮問委員会は、アマリン(Nasdaq:AMRN)が申請したVascepa(icosapent)の適応拡大に関して11人中9人が反対、賛成は2人だけだった。

このEPA製剤は重度トリグリセライド血症(500mg/dL以上)の治療薬として2012年に承認された。今回の適応拡大はTG値が200~500mg/dLで心血管疾患のリスクが高くスタチンを服用している患者に併用して予防するというもの。日本で行われたJELIS試験を連想させる。しかし、FDAも諮問委員会も、EPAでトリグリセライドを減らす治療が心血管疾患を予防するというエビデンスは明確ではない、と判定した。

TG値が500mg/dL以上の患者は米国に400万人、今回の適応拡大が認められれば対象患者数が10倍に増えるはずだったが、REDUCE-ITという名称のアウトカム試験の結果が2016年に出るまで、お預けとなった。競合品であるGSKのEPA/DHA製剤であるLovaza(和名ロトリガ)のGE品発売時期が迫っており、アマリンには大変残念な結果になった。

リンク:アマリンのプレスリリース

【承認】


アクテリオンのETA/B受容体拮抗剤が米国で承認

(2013年10月18日発表)

スイスのアクテリオン(SIX:ATLN)は、FDAがエンドテリンA/B受容体拮抗剤Opsumit(macitentan)を肺動脈高血圧症の治療薬として承認したと発表した。同社のTracleer(bosentan)との違いは、一日二回ではなく一回の服用で足りること、肝毒性が若干低いこと、そして、大規模な試験で運動機能や症状悪化を遅らせる効果が確認されていること。

最初の二点はギリアッドのLetairis(ambrisentan)にも当て嵌まるが、Tracleerの先発の利を覆すことはできなかった。多少問題があっても、長年用いた薬をスイッチすることには抵抗があるからだ。また、TracleerもLetairisも運動機能改善効果自体は確認されている。Tracleerは希少疾患用薬排他権の失効を控えているのでアクテリオンはOpsumitの販促に力を入れるだろうが、Letairisと同じ障壁に直面しそうだ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:アクテリオンのプレスリリース

ノボの第8因子が米国で承認

(2013年10月16日発表)

ノボ ノルディスクは、NovoEight(turoctocog alfa)がA型血友病用薬として米国で承認されたと発表した。他社の特許を侵害する模様であり、発売は失効後の2015年4月になる。第VIII因子はバクスターやバイエル、ファイザーなどが販売、バイオジェン・アイデックも開発中。バイオ・ミー・ツー(me, too)と呼ぶことも、バイオシミラーと呼ぶこともできそうだ。バイオシミラーは参入障壁が高く価格も一般のGE薬より遥かに高いだろうから、特許性新薬会社にとって、付加価値は小さくとも開発リスクの小さい有力な事業領域になるだろう。

リンク:ノボのプレスリリース

ベーリンガーの長期作用性ベータ2作用剤が英国などで承認

(2013年10月18日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、Striverdi Respimat(olodaterol、ソフト・ミスト吸入器用)が英国、デンマーク、アイスランドでCOPD維持療法薬として承認されたと発表した。速効、長期作用性のベータ2作用剤で、一日一回、二度吸入する。なぜEMAの中央化手続き(実質的に、加盟国全てで承認を取れる)ではなく非中央化手続きを取ったのか、なぜ報告国(承認審査を分担)であるオランダでは未承認なのかは、不明。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


Iclusigの適応拡大試験が中止に

(2013年10月18日発表)

先週報告したように、アリアド(Nasdaq:ARIA)の慢性骨髄性白血病用薬Iclusig(ponatinib)は服用期間相関的な血栓性疾患リスクが発覚、FDAが臨床試験を部分停止したが、その後、一次治療試験EPICが新規組入れだけでなく既組入れ患者に対する投与も中止されることになった。

今まで発生しなかったから続けても大丈夫、とは言えないことを考えればやむを得ないが、こうなると心配なのが需要に与える影響だ。深刻な疾患なので治療を止める可能性は小さいが、新規に治療を開始する患者は減るのではないだろうか。用量を再検討するなり、アスピリン併用の効果を検討するなりした方が良いだろう。

リンク:アリアドのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年10月13日

海外医薬ニュース2013年10月13日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • オサイリスが間葉系幹細胞事業を売却
  • PERK阻害剤はアルツハイマー病などの神経変性疾患に有効?
  • FDAの承認審査はユーザー・フィー制度の無い分野ではストップ
  • ルンドベック/大塚がアルツハイマー病の第三相試験を開始
  • ギリアッドのPI3Kデルタ阻害剤の第三相試験が成功
  • バイエルの新薬がまた一つ、承認
  • アリアドのIclusigの深刻な副作用リスクは投与期間と相関する?


【今週の話題】


オサイリスが間葉系幹細胞事業を売却

(2013年10月7日発表)

米国のオサイリス・セラピュティクス(Nasdaq:OSIR)といえば、これまで、ヒト間葉系幹細胞性医薬品であるProchymal(remestemcel-L)の将来性に自信満々で、リード・インディケーションである移植片対宿主病(GvHD)だけでなく急性放射線症候群やクローン病など様々な疾患で臨床試験を行い、成功してもイマイチでもポジティブ・シンキングを貫いてきた。しかし、サノフィが開発販売権を返還してから一年経ち流石に秋バテが出たようで、間葉系幹細胞性医薬品事業の売却を決定した。

取得したのはオーストラリアの幹細胞性医薬品開発企業、メソブラスト(ASX:MSB)。代価は5000万ドルと開発承認達成報奨金5000万ドル、そして10%以下の売上ロイヤルティ。頭金・達成報奨金はメソブラスト株式で払うこともできる。因みにジェンザイム(後にサノフィが買収)がインライセンスした時は、頭金だけで1.3億ドル、達成報奨金は売上目標達成金も含めて12.5億ドルだった。評価が暴落したことを示している。

Prochymalはカナダやニュージーランドで限定的に販売承認を受けている。メソブラストは重篤な成人性GvHDを組入れた第三相試験の結果を待って米国で承認申請する予定。

Prochymalは成人健常者の骨髄から採取した間葉系幹細胞を培養したもの。炎症抑制作用や組織修復支援作用が期待されている。GvHDは血液癌の優れた治療法である同種造血幹細胞移植を施行した後に発生しがちな副作用で、移植された造血幹細胞由来の免疫細胞が患者の体を攻撃する。ステロイドによる治療が奏功しなかった場合、命に係る。

尚、Prochymalは日本では日本ケミカルリサーチが持田製薬と提携して急性GvHD治療薬として第三相試験中。

リンク:オサイリスのプレスリリース(pdfファイル)

PERK阻害剤はアルツハイマー病などの神経変性疾患に有効?

(2013年10月9日発表)

アルツハイマー病など様々な神経変性疾患の治療にPERK阻害剤が有効である可能性が浮上した。動物試験論文がScience Translational Medicine誌に刊行され、英国のBBCや新聞が大きく取り上げだ。動物の、しかも人為的に発生させた疾患の治療に成功しただけの話であり、深刻な副作用も見られた模様。そもそも、中枢神経系の動物試験はあまりアテにならない。それでも、新しい研究分野として大いに注目されるのではないだろうか。

論文によると、PERK(プロテイン・キナーゼRNA様小胞体キナーゼ)は転写因子であるeIF2アルファをリン酸化し、殆どの遺伝子の翻訳・蛋白生成をストップさせる。ウイルスが侵入・増殖した細胞や癌化した細胞が異常な蛋白を生成するのを防ぎ、変性を誘導する役割を担っているようだ。ある種の中枢神経系疾患では蛋白の折り畳み異常(三次元構造が崩れて適切に機能できなくなるだけでなく、異物と認識される可能性もある)が原因でPERKが作動し神経変性を誘導している可能性がある。

プリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病など)やアルツハイマー病ではリン酸化eIF2アルファが増加している。そこで、論文著者は、プリオン病を導入したマウスに過去に抗癌剤として開発されたことのあるPERK阻害剤、GSK2606414を投与したところ、発症を抑制し寿命を延ばすことに成功した。

PERKは膵臓酵素の一つでもあり。そのせいか、体重が20%も減少したため、動物試験に関する規制に従い試験中止となった(欧州は動物愛護に関する規制が厳しい)。PERK欠乏者は糖尿病になりやすく、筋骨格や肝臓、腎臓の疾患を合併しやすいと言われている。今回の試験でも血糖値の穏やかな上昇が見られた。

今後の研究課題は、まず再現性を確かめ、UPR(非折畳蛋白反応)パスウェイを詳細に分析し、PERK阻害剤以外の介入方法を検討することだろう。同時に、中枢神経に選択的に作用するPERK阻害剤の探索も行われるだろう。

リンク:Morenoらの論文抄録(Science Translational Medicine誌)

FDAの承認審査はユーザー・フィー制度の無い分野ではストップ

(2013年10月8日発表)

新年度予算が成立せず連邦政府の機能の多くがストップする中、FDAの新薬、新GE薬、医療機器の承認審査は続行しているが、ユーザー・フィー制度の存在しない分野は例外であるようだ。11月5~6日に予定されていたアレルゲン減感作療法用経口剤二剤に関する諮問委員会がキャンセルされた。なぜ減感作療法が例外になったのか、経緯は知らないが、米国は医療用薬品に関する法律が二種類あり、境界線上の薬に関して法制上の位置付けと一般的な認識が食い違うことがしばしばある。

この諮問委員会は、MSDがデンマークのALK Abello(CSE:ALK-B)から北米メキシコにおける権利をライセンスして開発したGrazax(欧州名)と、フランスのStallergenesが開発した製品を検討するはずだった。前者はオオアワガエリ(チモシー芝)とブタクサの抗原を夫々配合した二製品、後者は5種類の抗原を配合した製品で、草アレルギーによる結膜炎の予防に用いる。特効薬という印象はないが、効く人には穏やかな効果がありそうだ。

減感作療法は抗原を少量ずつ反復投与することによって体を慣れさせる。フランスではアレルギー性結膜炎患者の過半が減感作療法を受けるらしい。注射が一般的だが、経口液、そして今回のような錠剤が開発され、先行する欧州ではある程度のシェアを獲得した。治療のハードルが下がるので将来性は高い。日本でも鳥居薬品がライセンスしてアレルギー性結膜炎や喘息症で第二/三相試験中。

ユーザー・フィー制度は、受益者負担の考えに基づき、医薬品等の承認審査に必要な予算の半分を業界が負担するというもの。承認申請時の費用だけでなく、米国に一定の施設を持つ企業は毎年、ユーザー・フィーを払わなければならない。見返りに、FDAは承認審査を期限内に完了する努力義務を負い、臨床開発に関する相談などのサービスも強化された。利益相反の問題を内包しているため、予算の半分は国が負担する。PDUFAと呼ばれる法律で新薬に関して最初に導入され、その後、GE薬や医療機器にも広がった。

医薬品に関する法律は二種類あり、元々の承認審査組織であるCBER(生物学的製剤評価研究センター)は主として古い法律、CDER(医薬品評価研究センター)は主として新しい法律に基づいて規制している。インターフェロンや抗体医薬は以前はCBERが担当していたが、CDERに移管された。このエピソードを見ても分かるように、両者の境界線は曖昧だ。

CBERが分掌する製品のうち、血液由来の製品やアレルゲン抽出製品はPDUFAの対象外になっている。このため、政府の予算がないと承認審査できない。勿論、人命に係る重要な安全性問題が浮上した場合は別である。諮問委員会キャンセルについて、MSDはプレスリリースを出していないようだ。ALKやStallergenesの出したリリースは簡素なもので、米国の予算不成立問題は、外国人にとっては呆れた以外の言葉が無いのだろう。

リンク:
ALKのプレスリリース


リンク:Stallergenes のプレスリリース

【新薬開発】


ルンドベック/大塚がアルツハイマー病の第三相試験を開始

(2013年10月10日発表)

ルンドベックと開発パートナーの大塚製薬は、Lu AE58054のアルツハイマー病第三相試験を開始した。軽中度アルツハイマー病でdonepezil(Aricept)を服用している北米の医療施設の患者930人を、偽薬群と30mg群、60mg群に無作為化割付して24週間治療、ADAS-cogの変化を比較する。他に三本実施する予定。

Lu AE58054は5-HT6受容体アンタゴニストで、脳の学習・記憶に係る部位に多く発現する受容体を阻害してアセチルコリンなどの分泌を増強する。POC試験ではADAS-cogが偽薬比有意に改善したが、治療効果は2.16ポイントに過ぎず臨床的に意味があるかどうかは議論の余地がありそうだ。また、全般症状や生活機能に関するスコアには有意差は無かった。

POC試験は中度患者に90mgを一日一回投与した点が第三相と異なっている。一般的に、軽度患者の方が症状の進行が緩徐で治療効果を検出し難い。POC試験で見られたコリン性有害事象や肝機能検査値を懸念したのだろうが、用量を減らした点もマイナスだ。元々限界的な効果しか確認されていない上に、条件が厳しくなったことを考えれば、大きな期待はできないだろう。

リンク:ルンドベック/大塚製薬のプレスリリース

ギリアッドのPI3Kデルタ阻害剤の第三相試験が成功

(2013年10月9日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、GS-1101(idelalisib)の第三相慢性リンパ性白血病(CLL)試験が中間解析で成功したと発表した。再発性/難治性のCLLで化学療法に適さない、リンパ節腫脹のある患者を対象としたrituximab併用試験で、150mgを一日二回、経口投与した。主評価項目は無増悪生存期間。ギリアッドは承認申請について当局と相談する考え。

idelalisibはPI3K(phosphoinositide-3 kinase)デルタ阻害剤で、Bセルの活性化、増殖、生存に不可欠な酵素を阻害する。9月に難治性の緩慢性非ホジキン型リンパ腫のサルベージ療法として第二相試験の反応率データに基づいて承認申請された。rituxan、bendamustineと三剤併用試験も進行中。2011年にCalistoga社を一時金3.75億ドル及び達成報奨金2.25億ドルで買収して入手したもの。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

【承認】


バイエルの新薬がまた一つ、承認

(2013年10月8日発表)

FDAは、Adempas(riociguat)を二種類の肺高血圧症の治療薬として承認した。CTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)とPAH(肺動脈高血圧症)で、前者の適応は史上初。CTEPHは血管内膜切除によく反応するが、不応/再発患者や手術に適さない場合はAdempasが適用になる。PAHは既に複数の薬が承認されているが、作用メカニズムが異なるため不応患者がスイッチしたり、既存薬に追加する用途が期待される。

AdempasはsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)の酸化窒素感受性を高める作用を持ち、酸化窒素合成酵素による血管平滑筋弛緩パスウェイを増強する。第三相試験では6分歩行テストの成績を偽薬比40m前後、改善した。8月の諮問委員会では低血圧リスクを回避するために最大用量を抑えるべきという意見もあったが、結局、1mg一日三回で開始して最大2.5mgまで滴定という用法が認められた。催奇性があるので女性に用いる場合はREMS(リスク評価緩和戦略・・・副作用事故を削減するための特別なプログラム)の対象になる。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バイエルのプレスリリース

【医薬品の安全性】


アリアドのIclusigの深刻な副作用リスクは投与期間と相関する?

(2013年10月9日発表)

アリアド(Nasdaq:ARIA)は、昨年12月に米国で承認されたbcr-abl阻害剤、Iclusig(ponatinib)の効能追加・適応拡大試験に関してFDAが治験の部分的中断(新規組入れ中断)を求めたことを明らかにした。第二相試験に基づき加速承認されたが、延長試験で重篤な動脈血栓の発生率が上昇したため。

第二相試験でも8%の患者で発生したためレーベルで枠付警告されているが、メジアン24ヶ月間の追跡試験では11.8%に上昇した。年率発生率は上昇していないので、通常の副作用と異なり、服用を続ける限りリスクも続くのだろう。同社は用量を承認されている45mgから30mg(場合によっては15mg)に減らす対応策をFDAと相談する考え。

Iclusigが適応となるのはGleevec(和名グリベック)やSprycel(和名スプリセル)に反応しなくなった慢性骨髄性白血病またはフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病なので、治療しないリスクが大きく、深刻な副作用があっても使わざるを得ない面がある。GleevecやSprycelにも程度の差はあれ深刻な副作用があり、また、用途は異なるが多発骨髄腫治療薬のRevlimid(和名レブラミド)にも深刻な血栓性疾患リスクがある。

このため、8%が12%に高まる程度なら需要に大きな影響はなくアスピリンを服用することで対処できる可能性もあると考えていたが、意外だったのは、二日後にFDAが出した安全性情報だ。血栓性疾患という大括りで見ると発生率は少なくとも20%、というのである。致死的心筋梗塞例もあったとのこと。

Iclusigは一次治療の第三相Gleevec対照試験が進行中なので、結果が出れば副作用リスクを比較することができるが、この試験の患者組入れも中断されただろう。はっきりしない状態が続くことになり、Iclusigの販売にはアゲンストだ。この問題がはっきりするまではアリアドが大手製薬会社の買収ターゲットになる可能性は低いだろう。

リンク:アリアドのプレスリリース

リンク:FDAの安全性情報(10月11日付)

今週は以上です。

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