【ニュース・ヘッドライン】
- 肝障害懸念のある体重管理・筋肉増強サプリメントに注意
- サビエントが会社更生手続きを申請
- 抗PCSK9抗体の最初の第三相試験が成功
- ベーリンガーがnintedanibを欧州で承認申請
- JNJがPrezistaのコンビ薬を欧州で承認申請
- FDA諮問委員会はEPAの心血管疾患予防効果を認めず
- アクテリオンのETA/B受容体拮抗剤が米国で承認
- ノボの第8因子が米国で承認
- ベーリンガーの長期作用性ベータ2作用剤が英国などで承認
- Iclusigの適応拡大試験が中止に
【今週の話題】
肝障害懸念のある体重管理・筋肉増強サプリメントに注意
(2013年10月8日、11日発表)
テキサスのUSP Labs LLCがOxyElite ProあるいはVERSA-1名で販売していたサプリメントで、多くの急性肝障害が発生していることが判明した。FDAは、CDC(疾病管理予防センター)やハワイ健康省と共同で原因を探求すると共に、これらの製品にaegelineという安全性が確立していない物質が配合されているためメーカーに警告状を送付、USPは販売を中止した。
FDAによると、ハワイで29例の原因不明な急性非ウイルス性肝炎が発生、うち11例は激性肝炎入院例で、2例は肝移植を受け1例は死亡した。29例中24例は過去60日間にOxyElite Proを服用していた。同製品はネットや小売店を通じて全国販売されているため、FDAが他州のデータを調査したところ、同製品や他の体重管理または筋肉増強サプリメントを服用した後に原因不明激性肝炎を発症した4例が見つかった。
aegelineはベルノキというミカン科の植物から抽出された物質で、USPがスポーツ・フォーミュラとして製品化した。同社は以前にもDMAA配合サプリメントでFDAから製品廃棄命令を受けている。日本でも中国で購入されたダイエット用サプリメントで急性肝障害が発生したことがある。
医薬品やハーブが原因で肝障害が発生しうることは広く知られているが、メカニズムは明確ではない。因果関係を立証するのも容易ではなく、今回も、aegelineが原因と断定されたわけではなさそうだ。だからと言って、安閑とする訳にもいかない。美白化粧品の事件にも言えることだが、不確かなものには手を出さないのが生きる知恵だ。
aegelineは N-[2-hydroxy-2(4-methoxyphenyl) ethyl]-3-phenyl-2-propenamideと呼ばれることもあるようだ。ベルノキ(Aegle marmelos)は、Wikipediaによると、Bael、Bengal quince、golden apple、stone apple、wood apple、biliなどと呼ばれることもある。海外から輸入されたサプリメントを服用している人は、aegelineが含有されていないかチェックした方が良いだろう。
リンク:FDAの安全性注意喚起
リンク:同 続報
リンク:DMAAに対するFDAの対処(2013年7月16日付)
リンク:Aegelineの紹介(SYNMR BIOTECHNOLOGYのウェブサイト)
リンク:ベルノキの紹介(日本新薬のウェブサイト・・・本事件とは全く関係ありません)
サビエントが会社更生手続きを申請
(2013年10月14日発表)
カナダのサビエント・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:SVNT)は、米国デラウェア州の破産裁判所にチャプター11の適用を申請した。同社は2010年に遺伝子組換え型ブタ尿酸酸化酵素、Krystexxa(pegloticase)が重度難治性痛風の治療薬として米国で承認され、翌年に発売したが、売れなかったようだ。チャプター11が適用され会社更生手続きが認められたら、資産と負債の一部をUS WorldMeds社とその子会社に5500万ドルで売却することで合意している。
US WorldMedsはケンタッキー州の特化型医薬品メーカーで、主力製品はB型ボツリヌス毒素、Myobloc/Neurobloc。アイルランドのエランが開発、2004年に権利をUS WorldMedsの子会社であるSolstice Neurosciencesに売却したもの。日本でもエーザイが今年3月に痙性斜頸治療薬ナーブロックとして発売した。
リンク:サビエントのSEC提出資料
【新薬開発】
抗PCSK9抗体の最初の第三相試験が成功
(2013年10月16日発表)
リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーであるサノフィは、REGN727/SAR236553(alirocumab)の最初の第三相高脂血症治療試験が成功したと発表した。LDL-C治療薬のように効果を簡単に測定できる薬は後期第二相試験を見れば効くかどうか見当が付く。従って、第三相試験の注目点は効果の持続性と安全性だ。大きな問題はなかったようだが、100例程度の小規模な試験なので、まだ油断はできないだろう。
alirocumabは、肝臓のLDL受容体の零落を誘導するPCSK9に結合しブロックするフルヒト化抗体。アムジェンなど、開発競争が激化している分野で、第三相試験の結果が出たのは今回が初めて。高脂血症患者に二週間に一回の頻度で自己皮注させ、24週間後のLDL-C値をezetimibe(和名ゼチーア)を一日一回経口服用した群と比較した。用量は75mgで開始し、70mg/dL未満に下がらない患者は150mgに増量した。結果は、47%減少しezetimibe群の15%より有意に大きかった。過半の患者は増量の必要が無かった。
この試験のデザインは違和感がある。70mg/dL未満に下げる必要があるのは心血管疾患のリスクが高い患者だ。もし高リスク患者なら、倫理面の理由で、対照群はezetimibeではなく効果が高いatorvastatinやrosuvastatinによる治療を受けるべきだっただろう。もし高リスクでないならこんなに下げる必要はなかっただろう。尤も、今回の試験は様々な第三相試験の一つに過ぎない。この薬の本命の用途である、高用量スタチンを服用しても尚、LDL-C目標値に到達しない高リスク患者に追加投与して、心血管疾患の発生を予防する試験も行われる筈である。
安全性面では感染症が若干増えた程度で大きな問題はなかったようだ。ezetimebe群も偽薬を自己皮注したが、注射箇所反応の発生率は両群大差なかった。ezetimibeはスタチンと比べても安全性が高いので、互角だったことはポジティブだ。尤も、過去の試験では肝機能検査値異常やラッシュ、白血球破砕性血管炎が発生したこともあるので、高用量スタチン併用時の安全性をもっと大規模、長期の試験で確認することが肝要だろう。
リンク:両社のプレスリリース
【承認申請】
ベーリンガーがnintedanibを欧州で承認申請
(2013年10月14日発表)
ベーリンガー・インゲルハイムは、BIBF 1120(nintedanib)を腺腫非小細胞性肺癌に二次治療薬としてEUに承認申請したと発表した。トリプル・アンギオキナーゼ・インヒビターで、Sutent(sunitinib、和名スーテント)などのVEGF受容体阻害剤と同様に、VEGFやPDGF、FGFなどの受容体を阻害する。
第三相試験ではdocetaxelによる治療を受ける扁平上皮腫以外の非小細胞性肺癌患者に200mgを一日二回、経口投与し、PFS(無増悪生存期間)を偽薬群と比較した。結果は、メジアン3.4ヶ月対2.7ヶ月、ハザードレシオ0.79で有意な差があったが、二次的評価項目である全生存の解析はフェールした。
比較的成績が良かったのは被験者の約半数を占めた腺腫で、PFSが4.0ヶ月対2.8ヶ月、ハザードレシオ0.77、p=0.0193、全生存期間が12.6ヶ月対10.3ヶ月、ハザードレシオ0.83、p=0.0359だった。主な有害事象は悪心嘔吐、下痢、肝機能検査値異常。
扁平上皮非小細胞性肺癌だけを組入れたAlimta(pemetrexed、和名アリムタ・・・扁平上皮非小細胞性肺癌に承認されている)併用第三相試験は中間解析で無益性が認定され打ち切られた。このタイプの癌は他のVEGF受容体阻害剤もAvastinも無効または深刻な有害事象が増加し危険だったので意外感はないが、成功した試験が一本だけでp値があまり低くなく、延命効果のエビデンスがサブグループ分析だけであることは残念だ。FDAと異なりEUはサブグループ分析を受け入れる傾向があるので、それが頼りだろう。
リンク:ベーリンガーのプレスリリース
リンク:ASCO2013の抄録
JNJがPrezistaのコンビ薬を欧州で承認申請
(2013年10月15日発表)
ジョンソン・エンド・ジョンソンは、HIV/AIDS治療用プロテアーゼ阻害剤のPrezista(darunavir)とギリアッドが開発した3A4阻害剤cobicistatの合剤をEUに承認申請したと発表した。
プロテアーゼ阻害剤は生物学的利用率が低く、服用頻度が多くなりがちだが、3A4肝臓酵素で代謝される薬は3A4阻害作用を持つプロテアーゼ阻害剤ritonavirを少量併用すると一日一回服用で足りるようになることが判明、ritonavir-boosted regimenとして広く用いられるようになった。ritonavirを開発したアボット(現アッヴィ)が自社のプロテアーゼ阻害剤lopinavirと合剤にして発売したKaletra(和名カレトラ)は成功した。JNJの合剤は、第二のKaletraを目指すことになる。
リンク:JNJのプレスリリース
【承認審査・委員会】
FDA諮問委員会はEPAの心血管疾患予防効果を認めず
(2013年10月16日発表)
FDAの内分泌学代謝学薬諮問委員会は、アマリン(Nasdaq:AMRN)が申請したVascepa(icosapent)の適応拡大に関して11人中9人が反対、賛成は2人だけだった。
このEPA製剤は重度トリグリセライド血症(500mg/dL以上)の治療薬として2012年に承認された。今回の適応拡大はTG値が200~500mg/dLで心血管疾患のリスクが高くスタチンを服用している患者に併用して予防するというもの。日本で行われたJELIS試験を連想させる。しかし、FDAも諮問委員会も、EPAでトリグリセライドを減らす治療が心血管疾患を予防するというエビデンスは明確ではない、と判定した。
TG値が500mg/dL以上の患者は米国に400万人、今回の適応拡大が認められれば対象患者数が10倍に増えるはずだったが、REDUCE-ITという名称のアウトカム試験の結果が2016年に出るまで、お預けとなった。競合品であるGSKのEPA/DHA製剤であるLovaza(和名ロトリガ)のGE品発売時期が迫っており、アマリンには大変残念な結果になった。
リンク:アマリンのプレスリリース
【承認】
アクテリオンのETA/B受容体拮抗剤が米国で承認
(2013年10月18日発表)
スイスのアクテリオン(SIX:ATLN)は、FDAがエンドテリンA/B受容体拮抗剤Opsumit(macitentan)を肺動脈高血圧症の治療薬として承認したと発表した。同社のTracleer(bosentan)との違いは、一日二回ではなく一回の服用で足りること、肝毒性が若干低いこと、そして、大規模な試験で運動機能や症状悪化を遅らせる効果が確認されていること。
最初の二点はギリアッドのLetairis(ambrisentan)にも当て嵌まるが、Tracleerの先発の利を覆すことはできなかった。多少問題があっても、長年用いた薬をスイッチすることには抵抗があるからだ。また、TracleerもLetairisも運動機能改善効果自体は確認されている。Tracleerは希少疾患用薬排他権の失効を控えているのでアクテリオンはOpsumitの販促に力を入れるだろうが、Letairisと同じ障壁に直面しそうだ。
リンク:FDAのプレスリリース
リンク:アクテリオンのプレスリリース
ノボの第8因子が米国で承認
(2013年10月16日発表)
ノボ ノルディスクは、NovoEight(turoctocog alfa)がA型血友病用薬として米国で承認されたと発表した。他社の特許を侵害する模様であり、発売は失効後の2015年4月になる。第VIII因子はバクスターやバイエル、ファイザーなどが販売、バイオジェン・アイデックも開発中。バイオ・ミー・ツー(me, too)と呼ぶことも、バイオシミラーと呼ぶこともできそうだ。バイオシミラーは参入障壁が高く価格も一般のGE薬より遥かに高いだろうから、特許性新薬会社にとって、付加価値は小さくとも開発リスクの小さい有力な事業領域になるだろう。
リンク:ノボのプレスリリース
ベーリンガーの長期作用性ベータ2作用剤が英国などで承認
(2013年10月18日発表)
ベーリンガー・インゲルハイムは、Striverdi Respimat(olodaterol、ソフト・ミスト吸入器用)が英国、デンマーク、アイスランドでCOPD維持療法薬として承認されたと発表した。速効、長期作用性のベータ2作用剤で、一日一回、二度吸入する。なぜEMAの中央化手続き(実質的に、加盟国全てで承認を取れる)ではなく非中央化手続きを取ったのか、なぜ報告国(承認審査を分担)であるオランダでは未承認なのかは、不明。
リンク:ベーリンガーのプレスリリース
【医薬品の安全性】
Iclusigの適応拡大試験が中止に
(2013年10月18日発表)
先週報告したように、アリアド(Nasdaq:ARIA)の慢性骨髄性白血病用薬Iclusig(ponatinib)は服用期間相関的な血栓性疾患リスクが発覚、FDAが臨床試験を部分停止したが、その後、一次治療試験EPICが新規組入れだけでなく既組入れ患者に対する投与も中止されることになった。
今まで発生しなかったから続けても大丈夫、とは言えないことを考えればやむを得ないが、こうなると心配なのが需要に与える影響だ。深刻な疾患なので治療を止める可能性は小さいが、新規に治療を開始する患者は減るのではないだろうか。用量を再検討するなり、アスピリン併用の効果を検討するなりした方が良いだろう。
リンク:アリアドのプレスリリース
今週は以上です。
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