2012年6月24日

海外医薬品ニュース週末版 2012年6月24日号




今週はCHMP月例会議の結果発表と副作用関連の話題があった為、長文になってしまいました。台風と同じで、こんな日もあると大目に見て頂けると幸いでする。

【ニュース・ヘッドライン】


  • ノボ ノルディスクも週一回投与型GLP-1作用剤で第三相試験へ
  • ファイザーのザーコリは薬効確認試験が成功
  • ロシュのPerjetaは全生存の解析も成功
  • FDA諮問委員会が多発骨髄腫の新薬を支持、超低分子量ヘパリンは支持せず
  • CHMPが複数の新薬に肯定的評価
  • ファイザーの超希少疾患用薬はFDAに承認されず
  • イグザレルトの急性冠症候群再発予防もFDAに承認されず
  • セルジーンが欧州でレブラミドの一次治療承認申請を撤回
  • フィニバックスで院内感染肺炎を治療する時は用量用法に注意
  • オルメテックに又々副作用疑惑

【新薬開発】



ノボ ノルディスクも週一回投与型GLP-1作用剤で第三相試験へ

ノボ ノルディスクは週一回投与型GLP-1作用剤NN9535(semaglutide)の二型糖尿病第三相試験を2013年に開始することを6月21日に発表した。複数の試験に計8000人以上を組入れる予定。第二相試験は数年前に完了していたのだが、同社のVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ、一日一回皮注)の長期徐放製剤と比較検討していたため、遅れた。薬効自体はliraglutideと同程度である模様なので、作用の安定性などが優れているのだろう。

GLP-1作用剤は他のインスリン分泌促進剤と異なり低血糖が起こり難く、穏やかな体重抑制作用を持つことが特徴。アミリン(Nasdaq: AMLN)が2005年に第一号のByetta(exenatide、和名バイエッタ、一日二回皮注)を米国で発売した。しかし、注射薬であることなどが原因で売上高が期待されたほど伸びていない。

このため、週一回型の開発が活発化しており、アミリンが2011~2012年に欧米でexenatideの長期徐放製剤Bydureonを発売したのに続き、2013年にはグラクソ・スミスクラインがGSK716155(albiglutide)を、イーライリリー/ベーリンガー・インゲルハイムはLY2189265(dulaglutide)を、夫々承認申請する予定だ。

夫々に異なった技術を用いているので、血糖降下作用や体重減少作用、あるいは副作用のプロファイルがどの程度異なるのか注目される。Bydureonは製剤技術上の制約から注射針が太目で注射箇所反応が比較的発生しやすいので、新薬はこの点における優位性も注目される。

尚、Byettaは米国以外の市場ではイーライリリーが販売しているが、ベーリンガー・インゲルハイムと血糖治療薬分野で包括的な提携を結んだため、アミリンに販売権を返上する予定。

リンク:ノボ ノルディスクのプレスリリース(pdfファイル)

ファイザーのザーコリは薬効確認試験が成功

ファイザーはALK阻害剤Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)の第三相試験が成功したと6月19日に発表した。治験の対象であるALK融合遺伝子陽性非小細胞性肺癌は既に承認されているが、第二相試験の反応率(奏効率)データに基づく承認だったので、きちんとした試験で延命効果を確認する必要があった。

今回の試験の主評価項目は無増悪生存期間であり、厳密に言えば延命効果が確認されたとはいえないし、現時点ではどの程度延びたのかも明らかではない。しかし、対照群(イーライリリーのAlimtaまたはサノフィのTaxotereを投与)より有意に優れていたのだから、効果が小さかったとしても意味はあるだろう。一次治療試験(化学療法薬と白金薬の併用療法と比較)も進行中。

ALK融合遺伝子は染色体転座によってEML4などの遺伝子とALK遺伝子の一部が結合したもので、独立行政法人科学技術振興機構の戦略的創造研究推進事業プロジェクトの一つで肺癌との関連が発見された。非小細胞性肺癌の患者の数%では、極めて活性が高いALK融合蛋白が産生されており、XalkokiのようなALK阻害剤に良く反応する。

ファイザーの製品なので日本が一番にはなれなかったのだが、そんなことは誰も気にしていない。日本人を含めて世界の人に貢献するほうが遥かに価値が高い。また、このプロジェクトの目的が肺癌の研究ではなかったこともインプリケーションがある。更に、地味で手間と時間と費用が掛かる研究の重要性を示した点では、C型肝炎ウイルスを同定したカイロン社(後にノバルティスが買収)やノーベル化学賞を受賞した下村脩の業績とも共通している。

リンク:ファイザーのプレスリリース

ロシュのPerjetaは全生存の解析も成功

米国の加速審査・承認、EUの条件付き承認、日本の迅速審査は、何れも、致死的疾患や難病に用いる薬の開発をスピードアップすることが狙いである。欧米の場合は、代理マーカー(例えば癌における反応率)に基づいて承認された薬は、市販後に臨床的な効用(癌の場合は延命効果や症状緩和効果)を確認する必要がある。確認できなかった場合は承認を取り消されることもあるが、されない場合もある。

ロシュのPerjeta(pertuzumab)は第三相試験で無増悪生存期間延長効果が確認され、米国で今月、承認されたが、今回、延命効果も確認されたことが6月22日に発表された。米国で転移性乳癌の適応が取り消されたAvastin(bevacizumab)の轍を踏まずに済んだ。

Perjetaは乳癌の二割程度で過剰発現しているher2をブロックする抗体医薬で、同社のHerceptin(trastuzumab、日本では中外のハーセプチン)に似ているが、結合部位が異なり、her2がher3などの二量体を形成して共役するのを妨げる。このためHerceptinとシナジーがあり、her2陽性転移性乳癌の一次治療にdocetaxel(サノフィのTaxotere)と三剤併用する。細胞培養過程にトラブルを抱えている模様であり、FDAは、承認したのはこのトラブルに影響されない製品だけという意味不明のプレスリリースを出している。

リンク:ロシュのプレスリリース

リンク:FDAの承認時プレスリリース(6月8日付)

【承認申請・承認】


FDA諮問委員会が多発骨髄腫の新薬を支持、超低分子量ヘパリンは支持せず

FDAは6月20日に腫瘍学薬諮問委員会を召集し、二種類の新薬について意見を求めた。米国の新興製薬会社であるオニクス(Nasdaq: ONXX)が難治性多発骨髄腫に承認申請したKyprolis(carfilzomib)は11人が承認を支持し、他は棄権が一人いただけだった。一方、サノフィが化学療法誘導性静脈血栓塞栓の予防薬として承認申請したAVE5026(semuloparin)は反対が14人、賛成は一人だけだった。

米国の場合、諮問委員会は決定権を持たず、FDAが承認の是非を決める。Kyprolisは審査官が深刻な副作用を警戒している模様だが、血液癌の薬は常に慎重な評価を受けるので、いつものことである。禁忌が増えそうだが、承認されるだろう。AVE5026は諮問委員が審査官の評価に同意した格好であり、承認されない可能性が高まった。

Kyprolisは武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と同じプロテアソーム阻害剤だが、阻害力が高く、作用が選択的であるため末梢神経症を誘発しにくい。第三相試験中だが、第二相単群試験の反応率データに基づいて、RevlimidまたはthalidomideとVelcadeによる治療を既に経験し最終治療に応答しなかった再発性・難治性の患者に限定して、承認申請された。

FDAが慎重なのは、この第二相試験で心臓や肝臓の重篤な有害事象が見られたことが一因だ。試験薬との関連性が疑われる症例もあったが、対照群が設定されていないので、発生頻度を比較して副作用かどうか推測する手法が使えない。

多発骨髄腫の試験では特定の蛋白などを代理マーカーに用いて反応の有無を判定するが、代理マーカーの変化が延命効果とどう相関するかは不透明である。抗癌剤は深刻な副作用が付き物なので便益と天秤に掛けなければならないが、検査値の変化だけでは同じ次元で比較できない。

一番良いのは、無作為化対照試験で延命効果を確認することが望まれる。寿命が延びる可能性があるなら重い副作用があっても容認されるかもしれないからだ。少なくとも、どのような副作用があるのか確認するのは患者に対する誠意である。しかし、一方で、新薬の開発や承認審査をスピードアップすることも患者に対する誠意なので、バランスが難しい。

Velcadeも第二相試験のデータに基づいて承認されたが、当時は多発骨髄腫に承認されている薬があまりなかった。今日では多くの薬が存在するので承認のハードルが上がるのは当然だが、多発骨髄腫は使える薬の数と余命が相関するので、新薬が待望されていることには変わりはない。

諮問委員会の圧倒的多数が支持したので、承認される可能性が高まった。審査期限は7月27日。

サノフィは低分子量ヘパリンのベストセラーであるLovenox(enoxaprin、和名クレキサン)を持っているが、米国ではGE薬が発売され、売上高が減少に転じた。AVE5026は効果や安全性でLovenoxを凌ぐと期待され、関節手術や腹部大手術後の静脈血栓塞栓予防で4本の第三相直接比較試験が行われたが、どの試験でも効果がLovenoxと大差なかった。

GE薬と大差ない新薬を発売しても売れないため、サノフィは方針を転換。Lovenoxが承認されておらず偽薬対照試験を行うことが可能な、冒頭の用途で第三相試験を実施した。遂に成功したが、この用途のリスクは、予防の価値を認めてもらえない可能性があることだ。今回の諮問委員会も、semuloparinの価値というよりは、静脈血栓塞栓を予防することで患者の寿命や生活品質を改善できるのか、もし出来ないならそのような薬物療法を施行する意義は何なのか、ということが論点になった。

具体的には、症候性静脈血栓塞栓の発生率が1.2%と偽薬群の3.4%より有意に低かったが、この数値は、100人中97人には効果がない(やらなくても起きない又はやっても起きる)ことを意味している。3割以上の患者が治療を完遂せず離脱したので、誤差範囲も大きいはずだ。延命効果はなかった。大出血事故は両群同程度だったが、通常よりも発生率が高く、外挿性(特定の患者、医療施設で観察された現象が他のもっと多くの患者、医療施設でも再現されるか否か)に疑問が呈された。

結局、サノフィの狙いが外れたことになる。もし治験で臨床的に重要な効能が見られたならば違う結果になっただろうから、挑戦する価値はあった。新薬開発に失敗は付き物であり、大局的に考えれば失敗も前進である。

尚、腫瘍学ではFragmin(dalteparin、米国ではエーザイが販売)が承認されているが、用途は症候性静脈血栓塞栓の治療であり、予防とは意味が違う。

リンク:オニクス社のプレスリリース

リンク:MedPageTodayのAVE5026に関する記事

CHMPが複数の新薬に肯定的評価

EUの医薬品審査組織であるCHMPは6月の会議を経て21日に以下の肯定的評価と否定的評価を出した。肯定的評価を受けたものは2~3月以内に承認されるだろう。

肯定的意見:

NPS社/武田薬品のRevestive(teduglutide)・・・GLP-2アナログ。摘出術などが原因で短腸症候群を発症し栄養物点滴を受けている患者の栄養物投与量を減らすことが出来る。米国でも承認審査中。米国外は武田薬品が販売する。

リンク:初の短腸症候群治療薬に関するCHMPのリリース
リンク:肯定的意見に関するCHMPのリリース(pdfファイル)
リンク:NPSと武田のプレスリリース

アストラゼネカのZinforo(ceftaroline fosamil)・・・点滴用広域セファロスポリンで第5世代とされる。複雑皮膚・軟組織感染症や地域感染性肺炎の治療に用いる。武田薬品が創製したTAK-599を導入したもので、米国ではフォレスト(NYSE: FRX)が2011年1月にTeflaro名で発売した。

リンク:肯定的意見に関するCHMPのリリース(pdfファイル)
リンク:アストラゼネカのプレスリリース

ノバルティスのSeebri(glycopyrronium)・・・長期作用性ムスカリン・ブロッカー。COPDの維持療法として用いる。そーせい社が買収したArakis社がVectura社と共同開発し、ノバルティスに導出したもの。

リンク:肯定的意見に関するCHMPのリリース(pdfファイル)
リンク:ノバルティスのプレスリリース

ノバルティスのAfinitor(everolimus)の適応拡大・・・mTOR阻害剤。既に膵原性神経分泌腫瘍や腎臓癌に承認されているが、ホルモン受容体陽性・her2陰性の末期乳癌に用いることが支持された。転移性乳癌の多くが該当するので、出番が大きく増えることになる。

リンク:肯定的意見に関するCHMPのリリース(pdfファイル)
リンク:ノバルティスのリリース

否定的意見:

ファイザーがイスラエルのProtalix社からライセンスして承認申請したELELYSO(taliglucerase alfa)・・・ガウシェ病の酵素補充療法。ヒト・グルコセレブロシダーゼを人参細胞に組入れて培養したもの。効果や忍容性の点では合格だったが、英国のシャイア社が類似した薬で希少疾患用薬排他権を持っているため、承認見送りとなった。

リンク:否定的意見に関するCHMPのリリース(pdfファイル)
リンク:二社のプレスリリース

ファイザーの超希少疾患用薬はFDAに承認されず

ファイザーはtafamidis meglumineをTTR-FAP(トランスサイレチン家族性アミロイド多発性ニューロパシー)という超希少疾患の治療薬として欧米で承認申請し、EUでは昨年11月に承認されたが、米国は審査完了通知を受領したことを6月18日に発表した。FDAは追加試験を要求しているとのことだ。5月に開催された諮問委員会で支持を受けなかったことを考えれば、意外感は小さい。

TTR-FAPは遺伝子変異が原因でアミロイド繊維が蓄積し、神経変性を誘発する。患者数は世界で8000人、うち米国は3000人と推測されている。

リンク:ファイザーのプレスリリース

イグザレルトの急性冠症候群再発予防もFDAに承認されず

ジョンソン・エンド・ジョンソンは米国でXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban)を急性冠症候群の再発予防薬とて適応拡大申請していたが、審査完了通知を受領した(6月21日発表)。これも、諮問委員会で反対が賛成を上回ったので意外感は小さい。

第三相試験が成功したが、効果は大きいとも小さいともいえる。これは他の新薬にも言える事だが、複数の薬を服用している患者に効果を上乗せするのは容易ではなく、統計学的に有意であっても副作用や費用と釣り合うかどうか、議論の的になる。臨床的な効用を調べるには大規模な試験が必要であり、小さな効果を検出するためには厳格な試験が必要だが、この二つを両立するのは難しい。

Xareltoの場合も、追跡打切り例が多く、これらの患者の転帰次第では結論がひっくり返る可能性があることがボトルネックになった。更に、大出血のリスクも有意に高かった。

大規模な試験は費用と時間が掛かるので、再試験が実施される可能性は低いだろう。この用途ではBMS/ファイザーのXa阻害剤apixabanの第三相試験がフェールした。ベーリンガー・インゲルハイムのPradaxaや第一三共のedoxabanは第三相試験は行われていない。開発が暗礁に乗り上げた。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

セルジーンが欧州でレブラミドの一次治療承認申請を撤回

セルジーン(Nasdaq: CELG)は2010年12月にEUでRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)を多発骨髄腫の一次治療薬として適応拡大申請したが、6月21日に撤回を発表した。臨床試験のデータの成熟を待って再申請する構え。

撤回の理由は明らかではないが、Revlimidの試験では二次性腫瘍の増加が見られる。EUの承認用途である二次治療では審査機関(CHMP)が便益のほうが大きいと判定したが、一次治療は維持療法も含めて長期間投与することになるので、長く追跡して二次性腫瘍が更に増えるかどうか確認するようセルジーンに求めたのではないだろうか。

リンク:EUのプレスリリース
リンク:セルジーンのプレスリリース

【医薬品の安全性】


フィニバックスで院内感染肺炎を治療する時は用量用法に注意

EUの承認審査機関であるEMAは、ペネム系抗生物質であるDoribax(doripenem、和名フィニバックス)に関する勧告を6月22日に発出した。複数の用途で承認されているが、人工呼吸器関連などの院内感染肺炎を治療する時には、承認されている用量・治療日数では足りない可能性があるので注意せよ、というもの。

具体的には、腎クリアランスが増大している患者、且つ又、非発酵グラム陰性菌感染者には、500mgではなく1gに増量し、8時間おきに通常より長い10~14日に亘って投与することを推奨した。後者のうち緑膿菌やアシネトバクターが原因と疑われるケースでは、必要に応じてアミノグリコシド系抗生剤の併用を検討する。

今回の勧告は人工呼吸器関連肺炎(VAP)の臨床試験で死亡率が標準治療薬より高かったことを受けたもの。塩野義製薬からライセンスして日本国外で販売しているジョンソン・エンド・ジョンソンは、治験中断の翌年にドクターレターを発出し、FDAは治験データを公表した。FDAは先に実施された院内感染肺炎試験の一つで肺炎関連死亡例が多かったため効果不足を疑い、この用途では承認しなかった。一方、EUは承認していたので、FDAとは異なる対応となった。。

リンク:EUのリリース

リンク:米国で1月3日付で発出されたVAP試験中止に関するドクターレター

オルメテックに又々副作用疑惑

メイヨー・クリニックの胃腸学者が、第一三共の降圧剤Benicar(olmesartan、和名オルメテック)とセリアック病類似疾患の関連性を指摘する論文を刊行した。3年間に22人が来院し、セリアック病の抗体検査を受けたが陰性で、20人はグルテンを避ける食事療法を施行したが成功せず、Benicarの服用を止めたら軽快したというもの。著者は、リスクは小さく効用のほうが上回るものの、発症すると深刻なので、下痢や体重減少が見られる時は注意するよう呼びかけた。

今後、様々な研究が行われるだろう。現段階で考えるべき要素は二つあるだろう。一つは、Cardiobriefがエキスパートの意見として指摘したように、薬を止めたら軽快したというだけでは証拠不十分であることだ。軽快後に再び投与して症状が再発するようならば容疑が濃厚になる。残念ながら、今回の研究ではそこまで調べていない。

第二は、FDAが過去にこの問題を検討したことがあるらしいことだ。著者から2009年に報告を受けたFDAは過去の試験のメタアナリシスを行ったが、特別な問題は浮上しなかった(MedPageTodayの報道による)。

リンク:Mayo Clinic Proceedingsの論文(pdfファイル、オープン・アクセス)
リンク:Cardiobriefの記事
リンク:MedPageTodayの記事

今週は以上です。

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2012年6月17日

海外医薬品ニュース週末版 2012年6月17日号



ニュース・ヘッドライン

  • ADA:イーライリリーの長期作用性インスリンが初お目見え
  • MSDの不眠症治療薬の第三相試験が成功
  • サノフィが抗CD52抗体を多発性硬化症に承認申請
  • ADA:ランタスと高濃度オメガ3ポリ不飽和脂肪酸の心血管アウトカム試験がフェール
  • コンサルティング会社のレポート紹介

新薬開発


イーライリリーの長期作用性インスリンが初お目見え

イーライリリーがベーリンガー・インゲルハイムと共同開発している長期作用性インスリン、LY2605541の第二相試験結果がADA米国糖尿病学会科学部会で発表された。全体としてみれば効果や安全性はサノフィのLantus(insulin glargine、和名ランタス)と大差なさそうだが、体重が低下したことと、肝毒性の兆しが見られたことが注目される。

LY2605541のプロファイルはベールに包まれていたが、同社の短期作用性インスリンHumalog(insulin lispro、和名ヒューマログ)にポリエチレン・グリコールを結合してPEG化したもののようだ。「ファンクショナル・サイズ」が7~10万ダルトンと大きいため、注射後の末梢作用が通常のインスリン製剤より小さく、膵臓から分泌される内在性インスリンと同様に肝臓で代謝された後に作用する。このため、脂肪が増加しにくく、血中のトリグリセライドは増加する。

第二相試験ではLantus群と同程度にHbA1cを管理できた。一型糖尿病患者を組入れた試験では低血糖症が有意に多かったが、夜間低血糖は少なかった。体重は8週間の治療でLantus群が平均1kg程度増加したのに対して、LY2605541群は1kg減少した。一方で、肝機能検査値の上昇が見られた。上記の薬物動態上の特性を考えれば、薬との関連性を疑う余地があり、投与を続けるうちに上げ止まる、あるいは元に戻るかどうか、そして、症候性肝障害が発生するかどうかを確認する必要がありそうだ。

リンク:両社のプレスリリース

MSDの不眠症治療薬の第三相試験が成功

MSD(米国のメルク)は、慢性不眠症の治療薬MK-4305(suvorexant)の第三相試験結果を学会発表すると共に、プレスリリースで概要を公表した。多くの評価項目の解析が成功し、長期的に連続投与しても効果が維持されることと、忍容性面で大きな問題はないことを確認した。年内に承認申請予定。

MK-4305はオレキシン・アンタゴニストという新しいタイプの睡眠薬だ。オレキシンはナルコレプシーという突然眠ってしまう病気に関連しており、この試験ではナルコレプシーや脱力発作のある患者を除外した。治験では脱力発作は発生せず、全体的な安全性も良好だったが、ごく一部(1%未満)の患者で自殺思慮・行動、入眠時・覚醒時幻覚が見られたので、リスク要因の精査が必要だろう。

オレキシン受容体をブロックする薬は、GABA作用剤よりも自然に近い睡眠を誘導するようだ。入眠潜時や総睡眠時間のデータは既存の薬と大きくは違わないので、睡眠の質がどうなのか、気になるところである。睡眠薬は朝目覚めた後も眠気が残ることがあり、MK-4305も例外ではなさそうだ(発生率10%、偽薬群は3%)。

メカニズムの違いが臨床的な違いに結びつくかどうか明らかではないが、慢性不眠症の患者は多いので、新しいメカニズムの薬の登場は歓迎されるだろう。

リンク:MSDのプレスリリース

承認申請・承認


サノフィが抗CD52抗体を多発性硬化症に承認申請

サノフィは、B細胞性慢性リンパ性白血病に承認されているCampath(alemtuzumab)を、再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬Lemtradaとして欧米で承認申請した。一日一回、3~5日間連続で点滴するコースを年一回受けるだけで再発を強力に防ぐことができる。忍容性面では自己免疫性甲状腺疾患や免疫性血小板減少症が発生することがあるので、休薬期も密接に監視する必要がある。

既存の薬で効果が最も高そうなのはエラン/バイオジェン・アイデックのTysabri(natalizumab)だが、Lemtradaも遜色なく、こちらが一番かもしれない。将来は、難治性の患者はLemtrada、経口剤を好む患者はバイオジェン・アイデックのBG-12、普通の患者はベータ・インターフェロンかBG-12、と使い分けられるようになりそうだ。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

大規模試験


ランタスと高濃度オメガ3ポリ不飽和脂肪酸の心血管アウトカム試験がフェール

ADAとNew England Journal of Medicine誌でORIGIN試験の結果が発表された。糖尿病と診断されてから未だ数年の初期患者またはIGT(耐糖能異常)、IFG(空腹時血糖異常)の患者のうち、心血管疾患リスクを持つ患者12536人を組入れて、サノフィの長期作用性インスリンLantus(insulin glargine )と高濃度オメガ3ポリ不飽和脂肪酸の心血管疾患予防効果を2x2方式でテストしたが、殆ど効果がなかった。

残念な結果だが、この試験は用途、対象患者、市場シェアの拡大を企図したものであり、現在承認されている用途に影響するものではないだろう。具体的には、先ずLantusの試験の場合は、ACCORD試験やADVANCE試験、UKPDS試験のような積極的・集中的血糖治療の効果を検討したものではなく、病歴の短いうちにインスリンに切り替える効能を調べた。対照群の患者もmetforminなどによる治療を受けたので、HbA1cの群間差が小さく、心血管疾患リスクだけでなく小血管性合併症の発生も差がなかった。

費用や注射の手間を考えると、経口剤で足りる患者に敢てインスリンを用いる理由はない、ということになりそうだ。IGT・IFGの患者に関してはLantus群の方が治験期間中に糖尿病と診断された患者が少なかったが、これも、糖尿病発症を遅らせることに成功したのか、血糖値を引き下げて検査・診断をごまかすことに成功したのか、明確ではない。

さて、Lantusと言えば2009年に癌との関連性を示唆するドイツの疫学研究論文が刊行され、世界中で話題を呼んだ。医学者やサノフィは他の国でも疫学研究を行うと共に、ORIGIN試験のプロトコルを変更して癌の発生状況を密接に監視した。結果は良好なもので、癌全体でも、個々の癌についても、群間差は無かった。尤も、発症症例数が十分ではなかったのかハザードレシオの95%信頼区間上限は乳癌が1.7、肺癌1.6、結腸直腸癌1.5、前立腺癌1.2、黒色腫1.7となっている。太鼓判を押せるほどではないだろう。

但し、疑惑に否定的な研究はほかにもある。ADAで発表された北欧での疫学研究でもリスクは見られず、こちらは信頼区間が狭いので評価できる。比較対象がインスリンなので、metforminと比較したらどうなのか気になるところだが、それはそれとして、懸念材料が出なかったのは良かった。

上述のドイツの論文の第一著者が勤務しているIQWiGは、薬の効果や安全性、そして費用対効果を他の薬や他の病気の治療法と比較して、保険還付の当否を判定する公的機関だ。過去には、いわゆる超速効性インスリンの速効性に疑問を呈して通常の短期作用性インスリンで十分と主張したことがあるのだが、他国と比べて割高だった超速効性インスリンの価格をメーカーが引き下げたのと機を一にするかのように、議論が沈静化した。

Lantusの論文も悪いデータを見つけるまで様々な解析を行った形跡があり、読んでいて気分の良いものではなかった。疑惑は隠蔽すきではないが、疫学研究の制約を考えれば論文一本だけで大騒ぎをするのは患者を困らせるだけである。今回、様々な国の研究者が真偽を確かめるために、協力してあるいは夫々の国で独自に、様々な研究を行なって再現性が無いことを確認したことは大きな意義がある。

次は、高濃度オメガ3ポリ不飽和脂肪酸の試験を検討しよう。用いられた薬はノルウェーの石油会社ノルスクヒドロからスピンアウトしたPronova BioPharmaが開発したもの。EPA・DHA製剤はサプリメントとしても販売されているが、同社の製品は濃度が90%と倍近く高い。欧州ではソルベイ等がOmacor名で、米国ではグラクソ・スミスクラインがLovaza名で販売、日本では武田薬品がTAK-085として開発し昨年承認申請したところである。米国では高トリグリセライド血症の治療薬として承認されている。

この試験に参加した患者の平均トリグリセライド血は高くはなく、適応外の患者に効果がなかったとしても慌てる必要は無い。むしろ、高トリグリセライド血症患者を対象とした大規模アウトカム試験が行われておらず臨床的な効能が確認されていないことのほうを議論すべきなのだろう。

リンク:NEJM論文(どちらもオープン・アクセス)
Lantus試験
高濃度オメガ3ポリ不飽和脂肪酸試験

製薬会社の動き


コンサルティング会社のレポート紹介

今回は、コンサルティング会社のレポートを二本、紹介する。どちらも無料で購読できる。一本目はEvaluatePharmaの2018年予測で、主要な製薬会社や医薬品の売上高、そして特許切れの影響などを予測している。登録が必要で、ダウンロード・アドレスが記されたメールを受領した後にダウンロードと、やや手間がかかる。IMS HealthやDecision Resourcesほど有名な会社ではないが、無料なのが良い。

リンク:EvaluatePharma社のレポート・ダウンロード・サイト

もう一本はOliver Wymanのレポートで、製薬会社に医療保険組織攻略法を伝授するもの。米国、英国、ドイツなどでは公的/民間保険機関が新薬の費用対効果を厳しく査定するようになり、ジェネリック薬と比べて少し良いだけでは認めてもらえない時代になりつつある。製薬会社は積極的に効能をアピールしているが、必ずしも上手く行っていないようだ。同社は、薬物療法を行うことでその病気の総治療費をどの程度節約できるか調べてアピールせよとアドバイスしている。

Oliver Wymanは今回初めて知った。米国の業界団体であるPhRMAも薬の医療費抑制効果や総医療費に占める薬剤費の小ささ(米国は特に比率が低い)をアピールしている。他の国でも製薬会社が医療経済学的研究を活発化していくだろう。

リンク:Oliver Wymanのレポート・ダウンロード・サイト

今週は以上です。

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2012年6月10日

海外医薬品ニュース週末版 2012年6月10日号

(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)

ニュース・ヘッドライン

  • ASCO:GSKの二剤の転移性黒色腫第三相試験が成功
  • ASCO:ベーリンガーのafatinibの肺癌試験が遂に成功
  • ASCO:バイエルのregorafenibはGIST試験も成功
  • MSD/アリアドのmTOR阻害剤は承認されず
  • ノボの新型インスリンの承認が遅延
  • ロシュの新規抗癌剤が米国で承認
  • レグパラの心血管アウトカム試験がフェール

新薬開発


GSKの二剤の転移性黒色腫第三相試験が成功

グラクソ・スミスクラインの二種類の化合物をテストした末期・転移性黒色腫第三相試験が何れも成功した。ASCO(米国臨床腫瘍学学会)で発表され、日本たばこから導入したMEK1/2阻害剤、trametinibの試験はNew England Journal of Medicineのホームページで論文も同時刊行された。

trametinibのMETRIC試験はbrafという腫瘍関連遺伝子にV600E又はV600Kというアミノ酸置換変異を持つ患者(3分の2は治療未経験)を対象にPFS(無増悪生存期間)を化学療法(dacarbazine又はpaclitaxel)と比較したところ、メジアン4.8ヶ月と化学療法群の1.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ(HR)は0.45、pは0.001未満だった。オーブンレーベル試験なので第三者評価に基づく解析も行われたが、HRは0.42と大差なかった。

この試験は全生存期間の解析は行われていない。治験開始後にロシュやBMSの新薬が承認され増悪後の治療に偏りが生じる懸念が発生したことが原因である模様だ。クロスオーバー(化学療法群に割当てられていた患者が増悪・治験離脱後にtrametinibを使う)を認めた。尤も、延命効果を示唆するデータもある。6ヶ月生存率が81%と化学療法群の67%を上回ったことだ。

重度以上の有害事象はラッシュ、疲労、高血圧など。braf阻害剤と異なり扁平上皮腫は増えなかった。GSKは承認申請する予定。

もう一つはbraf阻害剤dabrafenibのBREAK3試験で、brafのV600E変異を持つ転移性黒色腫の一次治療薬としての効果をdacarbazineと比較した。メジアンPFSは5.1ヶ月と対照群の2.7ヶ月を上回り、HRは0.30、pは0.0001を下回った。全生存期間の解析は今後、行われる予定。GSKは承認申請する予定。

主な有害事象は頭痛、発熱、関節痛などに加えて、角質増殖、皮膚パピローマ、扁平上皮腫、手足症候群、光過敏など。皮膚有害事象はロシュのZelboraf(vemurafenib)でも見られる。クラス・イフェクトなのだろう。

リンク:GSKのプレスリリース
trametinibのNEJM論文 (オープン・アクセス)

ベーリンガーのafatinibの肺癌試験が遂に成功

ASCOではベーリンガー・インゲルハイムのEGFR/her2阻害剤BIBW 2992(afatinib)の肺癌試験の成功も発表された。EGFR変異型線種非小細胞性肺癌で一次治療を受ける患者をafatinib群とAlimta(イーライリリー、和名アリムタ)・cisplatin併用群に割付けてPFSを比較したところ、各11.1ヶ月と6.9ヶ月となり、HRは0.58、pは0.0004未満と中々良い数値が出た。

この試験の患者背景は、女性が65%、アジア72%、喫煙経験なしが68%だった。既に実用化された二剤と同様であり、やはり、EGFR阻害剤はこの三条件を満たす線種肺癌に強い。

afatinibは二次・三次治療試験も行われ、無増悪生存期間は有意に延びたものの、主評価項目の全生存期間は偽薬と大差なく、メジアン値はむしろ悪かった。偽薬群は治験離脱後にEGFR阻害剤による治療を受けた患者が多かった由であり、これが原因かもしれない。何れにせよ、無増悪生存期間が全生存期間と連動しなかったのだから、今回の試験でも追跡を続けて延命効果を確認すべきだろう。

リンク:ASCOの抄録
ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

バイエルのregorafenibはGIST試験も成功

ASCOではバイエルとオニクス(Nasdaq: ONXX)のVEGF受容体・raf阻害剤、regorafenibのGIST(消化管間質腫瘍)サルベージ試験のデータも発表された。

切除不能でGleevec(和名グリベック)やSutent(和名スーテント)による治療をすでに受けた患者に160mgを一日一回、21日服用、7日休薬のスケジュールで投与したところ、PFSが4.8ヶ月と偽薬群の0.9ヶ月を上回り、HRは0.27、pは0.0001を下回った。全生存期間は未だイベント数不足でHR0.77、p=0.20と有意水準に達しなかった。バイエルのプレスリリースによると、増悪後のクロスオーバーが認められたことが原因かもしれない。

regorafenibは先に結腸直腸がんのサルベージ試験が成功、5月に欧米で承認申請された。GISTは今年下期に承認申請の予定。

リンク:バイエルのプレスリリース

承認申請・承認


MSD/アリアドのmTOR阻害剤は承認されず

MSD(メルク)はアリアド(Nasdaq: ARIA)からライセンスしたmTOR阻害剤、ridaforolimusを軟組織肉腫・骨肉腫の維持療法として欧米で承認申請したが、FDAは承認を見送り、審査完了通知を出した。追加試験を求めた模様だ。

第三相試験では死亡リスクが偽薬群比で有意に低下したが、メジアン生存期間は16週間と偽薬群の14週間と大差なく、俗に言う、統計的には有意だが臨床的には無意味な結果となった。有害事象による治験離脱が14%と偽薬群の2%より高く、治療の便益とリスクが釣り合うかどうか明確ではない。このため、3月の諮問委員会では承認賛成一人、反対13人と否定的な委員が圧倒的に多かった。

リンク:MSDのプレスリリース

ノボの新型インスリンの承認が遅延

ノボ ノルディスクは持続作用性基礎インスリンdegludecを昨年9月に糖尿病治療薬として欧米で承認申請、米国は8月にも審査結果が出るはずだったが、3ヶ月延期となった。追加データ提出に伴い、FDAが審査期間延長規定を適用したもの。

一日一回投与型基礎インスリンはサノフィのLantusがベストセラーとなった。insulin degludecは同社のアシル化技術を用いて開発したもので、一日一回だけではなく数日間に一回投与する試験も実施された。

同社の超速効性インスリンaspartを配合したコンビ薬も承認申請されたが、用量の組み合わせが限られているので、誰でもが使える薬ではなさそうだ。

リンク:ノボ ノルディスクのプレスリリース

ロシュの新規抗癌剤が米国で承認

ロシュのジェネンテック部門が開発した抗her2ヒト化モノクローナル抗体、Perjeta(pertuzumab)がher2陽性転移性乳癌の一次治療薬として米国で承認された。標準治療レジメンの一つであるdocetaxel及びHerceptin(trastuzumab )と併用する。Herceptinも抗her2ヒト化抗体だが、Perjetaはher2がher3などherファミリーの他の受容体と共益するのを阻害する。

臨床試験では無増悪生存期間がメジアン18.5ヶ月と偽薬併用群の12.4ヶ月を上回り、HR(第三者評価)は0.62で統計的に有意だった。全生存期間もHR0.64、p=0.005と良いトレンドが見られたが、今回は中間解析であり成功認定の基準がp=0.0012と厳しいため、未だ延命効果を確認したとは言えない。

FDAはプレスリリースで生産問題を指摘している。もし解決しなかった場合は欠品が生じる可能性があるようだ。発売が2週間後と遅いのも生産問題が影響しているのかもしれない。

FierceBiotechの報道によると、Perjetaのメーカー出荷価格は月5900ドルであり、Herceptinも月4500ドルと高価なので、患者一人当たりのメジアン薬剤費は18万ドルを超えると推測されている。厚生大臣が国会で貧乏人は偽薬を使えと発言する日が近づいているのだろうか?

リンク:ジェネンテックのプレスリリース
FDAのプレスリリース
FierceBiotechの報道

アウトカム試験


レグパラの心血管アウトカム試験がフェール

アムジェンは、二次性副甲状腺ホルモン過剰症治療薬Sensipar(cinacalcet、和名レグパラ)の心血管アウトカム試験がフェールしたことを発表した。慢性腎疾患透析期で副甲状腺ホルモン過剰を合併した患者を組入れて心血管疾患発生状況を観察したところ、偽薬群より少なかったが有意水準には達しなかった。

この試験は偽薬群の患者も他の薬で治療を受けた模様なので、結果的に、Sensiparと他の種類の副甲状腺ホルモン抑制剤を比較する格好になり、治療効果が表面化しにくくなってしまったのかもしれない。

リンク:アムジェンのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年6月3日

海外医薬品ニュース週末版 2012年6月3日号

(リンク先は殆どが英文です。改行で切れてしまう場合があります)

ニュース・ヘッドライン

  • ASCO:BMS/小野のPD-1標的薬が複数の癌に有望な成果
  • ASCO:Zytigaの一次治療試験が成功
  • ASCO:ロシュのT-DM1は転移性乳癌の二次治療として有望
  • ASCO:アバスチンは何度でも使える?
  • SGLT2阻害剤が米国で承認申請
  • エグゼリキシスが甲状腺髄様腫用薬を米国で承認申請
  • 血小板が少なくC型肝炎治療を受けられない患者の為に
  • アクトスの膀胱癌リスク

新薬開発


BMS/小野のPD-1標的薬が複数の癌に有望な成果

ASCO(米国臨床腫瘍学会)が始まった。今年の目玉第一弾は、BMSの抗PD-1完全ヒト化抗体、BMS-936558だ。200人以上を組入れた大規模な第一相試験で肺癌、黒色腫、腎細胞癌に有望な成果を挙げた。

PD-1は活性化したT細胞に発現する抑制刺激受容体で、京都大学の本庶佑教授が発見し1992年に論文発表した。癌細胞ではレガンドであるPD-L1やPD-L2が多く存在し、T細胞の殺細胞力を妨げている。PD-1やレガンドをブロックしてやれば、免疫力を強化できるかもしれない。BMS-936558はBMSが09年に買収したMedarex社と小野薬品の共同研究の産物で、かってはMDX-1106と呼ばれていた。小野の開発コードはONO-4538。

BMSはT細胞の副刺激受容体を標的とする抗体医薬の開発で実績があり、抗リウマチ薬Orencia(abatacept、和名オレンシア)、腎移植後拒絶反応抑制薬Nulojix(balatacept)、抗黒色腫薬Yervoy(ipilimumab)を商品化した。ASCOでは抗PD-1抗体の第一相試験結果も発表されるが、抄録を読む限りではBMS-936558のほうが良さそうだ。

今回の第一相試験は296人を組入れて、最初のコフォートは0.1mg/kgをテストし、段階的に10mg/kgまで引き上げていった。二週間に一回の点滴静注。有効性(RECIST基準の反応率)の中間解析は、非小細胞性肺癌が76人中18%、黒色腫は94人中28%、腎細胞癌は33人中27%だった。反応した30例中20例では奏効が12ヶ月以上持続。尚、結腸直腸癌と前立腺癌は反応率ゼロだった。重篤な有害事象の発生率は11%、有害事象治験離脱率は5%。薬物関連の間質性肺炎が9例(3%)発生、うち3例は死亡した。

多くの患者が複数の薬剤を経験済みであることを考えれば有望な結果だ。免疫療法は一部の患者には長く効くが誰に効くのか予測できないという難点がある。BMS-936558は反応率が比較的高いことに加えて、有望なバイオマーカーも見つかった。一部の患者のサブスタディで、PD-L1陽性癌は25例中36%が反応したが、陰性17例はゼロだったのである。治療の便益と副作用のバランスを更に改善する余地がありそうだ。BMSは上記三種類の癌で第三相試験を開始する予定。

リンク:BMSのプレスリリース
ASCOの患者向けニュースリリース
オンラインで同時刊行されたNew England Journal of Medicine誌の論文(三本ともオープン・アクセス):
  BMS-936558第一相試験
  BMS-936559(抗PD-L1抗体)の第一相試験
  エディトリアル

Zytigaの一次治療試験が成功

ジョンソン・エンド・ジョンソンのCYP17A1阻害剤、Zytiga(abiraterone acetate)は去勢抵抗性転移性前立腺癌の化学療法の二次治療として欧米で2011年に承認された。テストステロンの合成を阻害する作用を持つ、一日一回服用の経口剤で、広い意味ではホルモン療法と似ている。化学療法施行前の患者を組入れた一次治療試験も成功し、年内に承認申請される見込みだが、ASCOでデータが発表された。

最初にTPOを整理しておこう。前立腺癌は切除、放射線療法、ホルモン療法が有効だが、切除・ホルモン療法後に再びPSA値が上昇すると警戒が必要になる。化学療法薬は副作用がきついので、転移したり症状が悪化するまで待って施行することが多いようだ。今回の一次治療試験は、転移したが未だ疼痛などの症状が出ていないか軽度に留まっている患者を対象としたもの。prednisone(5mg)を一日二回とZytiga(1000mg)を一日一回、何れも経口投与する群と、prednisoneと偽薬を投与する群を比較した。

主評価項目は放射線学的無増悪生存期間。腫瘍の大きさの変化だけを進行評価項目としたのは元々の症状が軽いからだろう。中間解析が成功したため盲験解除し、偽薬群の患者もZytigaを服用できるようにした。メジアン値は偽薬群が8.3ヶ月であったのに対してZytiga群は未だ到達していない(増悪・死亡例が50%未満)。ハザードレシオ0.43、pは0.0001未満。

全生存期間は偽薬群27.2ヶ月、Zytiga群は未到達、ハザードレシオ0.75。pは0.0097だが、中間解析に割当てられたアルファは0.0008なので、有意とは言えない。(一本の試験で何度も解析を繰り返すと偶然に低いpが出るリスクが高まるため、一回一回の解析の有意性認定基準を通常より低く設定して多重性補正を行うのが統計学的に正しい方法。)

心毒性を持つこともホルモン療法と似ている。重度以上の心臓疾患の発生率は6%と偽薬群の3%より高かった。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

ロシュのT-DM1は転移性乳癌の二次治療として有望

ASCOではロシュのT-DM1の第三相試験の結果も発表される。2日にASCOのプレス・ブリーフィングで取り上げられ、エンバーゴ(報道規制)が解除されたため、ロシュがプレスリリースを出した。

T-DM1はロシュの抗her2ヒト化抗体Herceptin(和名ハーセプチン)の活性成分であるtrastuzumabとDM1(maytansine)という微小管重合阻害剤をリンカーで繋げたもの。乳癌細胞に選択的に分布するため、DM-1の全身性副作用が緩和される。米国のイミュノジェン(Nasdaq: IMGN)との開発提携の産物だ。

この試験では、転移性乳癌の一次治療としてタクサン系の抗癌剤とHerceptinを使った患者が二次治療を受ける時の効果を、ロシュのXeloda(capecitabine;和名ゼローダ)とグラクソ・スミスクラインのher2/EGFR阻害剤Tykerb(lapatinib;和名タイケルブ)の併用療法と比較した。結果は、主評価項目の一つである無増悪生存期間がメジアン9.6ヶ月と対照群の6.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.65、pは0.0001未満となり、成功した。

もう一つの主評価項目である全生存期間は中間解析なので該当例が少なく、有意性判定基準に到達していない。具体的には、メジアンは未到達、対照群は23.3ヶ月、ハザードレシオ0.62、p=0.0005だった。2014年の最終解析では有意になるだろう。

T-DM1のもう一つの長所はHerceptinやTykerbを化学療法と併用するよりも副作用が軽いことだ。この試験ではG3以上の重度有害事象の発生率が41%と対照群の57%を下回った。血小板減少例は多かったが、下痢や手足症候群、嘔吐は少なかった。将来的には一次治療でもタクサン系とHerceptinの併用療法を駆逐するだろう。ロシュは年内に欧米で承認申請する予定。

リンク:ロシュのプレスリリース

アバスチンは何度でも使える?

ASCOではロシュのAvastin(bevacizumab;日本では中外製薬のアバスチン)のML18147試験の結果も発表される。プレス・ブリーフィングで取り上げられ、ロシュがプレスリリースを出した。統計学的には成功したが、治療効果は案外である。

この試験は、転移性結腸癌の一次治療としてAvastinを使った患者に二次治療を行う時に、再びAvastinを使う効用を調べたもの。一次治療も二次治療も化学療法を併用した。結果は、化学療法だけの群の全生存期間がメジアン9.8ヶ月であったのに対して、Avastin群は11.2ヶ月となり、ハザードレシオ0.81、p=0.0062だった。全生存期間の場合、ハザードレシオが0.8なら立派なものだが、メジアン値の差は1-2ヶ月に過ぎない。そんなものか、という印象だ。

Avastinの用量は二種類あるが、この試験は二次治療の代表的な薬であるirinotecanと併用する時の用量である5mg/kg(二週間に一回投与)を採用したようだ。一次治療の代表的な薬であるoxaliplatinと併用する時は10mg/kgなので、一次治療時より量を減らすことになる。Avastinは続けるうちに抵抗性が生じる可能性があるので、減量しなければもっと良い結果が出たかもしれない(忍容性は悪化するだろうが)。

リンク:ロシュのプレスリリース

承認申請・承認


SGLT2阻害剤が米国で承認申請

ジョンソン・エンド・ジョンソンはSGLT2阻害剤JNJ-28431754(canagliflozin)を米国で二型糖尿病治療薬として承認申請した。田辺三菱製薬と共同開発したもので、田辺はTA-7284と呼んでいる。グルコースは腎臓で濾過された後にSGLTによって血液中に戻される。SGLT2阻害剤は近位尿細管に分布するSGLT2を阻害してグルコース排泄を促進する。腸に多く分布するSGLT1を阻害しないため胃腸副作用が起き難い。一日一回、経口投与する。

SGLT2阻害剤で最初に承認申請されたのはBMSのForxiga(dapagliflozin)で、欧州では4月にCHMPの肯定的評価を受けたが、米国は審査完了に留まった。メカニズム的に腎障害を持つ患者には適さないが、どこで線を引くか(eGFRの閾値)が必ずしも明確ではないことや、治験で膀胱癌や乳癌の発生に偏りがあったことが理由と推測される。後者は、canagliflozinのデータが公表されれば傍証になりそうだ。

SGLT2は大阪大学の金井教授が同定した。PD-1の発見も、ファイザーが開発したXalkori(crizotinib;和名ザーコリ)の標的である染色体転座型ALKがある種の肺癌に関与していることを発見したのも、日本の研究者である。日本の基礎研究が海を渡って新薬という果実を生むケースが増加している。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

エグゼリキシスが甲状腺髄様腫用薬を米国で承認申請

腫瘍学に特化した米国の新薬開発企業であるエグゼリキシス(Nasdaq: EXEL)は、XL184(cabozantinib)を進行性、切除不能、局所進行性、または転移性の甲状腺髄様腫に使うためのローリング承認申請を完了した。XL184はmetやret、VEGFR2、kitなど多くの腫瘍関連物質を阻害する小分子薬。グラクソ・スミスクラインがインライセンス・オプションを行使せず、BMSが共同開発販売権を返還するなど、事業開発面では苦労したが、取り敢えず最初の道標にたどり着いた。

臨床試験では無増悪生存期間がメジアン11.2ヶ月と偽薬群の4.0ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.28、pは0.0001未満だった。症状がどの程度改善するのかが注目される。

ローリング承認申請は承認審査をスピードアップする目的で導入された制度で、承認申請に必要なCMC(化学的評価、製造方法、管理)、前臨床、臨床の三種類の書類が揃うのを待たずに、出来たものから提出して承認審査を開始してもらう。通常の承認審査期間は10ヶ月、優先審査でも6ヶ月だが、ローリング承認申請された抗癌剤の中には申請完了から3ヶ月で承認されたものもある。

リンク:エグゼリキシスのプレスリリース

血小板が少なくC型肝炎治療を受けられない患者の為に

グラクソ・スミスクラインはスロンボポイエチン作用剤Promacta(eltrombopag olamine;和名レボレード)の適応拡大申請を欧米で行った。突発性血小板減少症治療薬として承認されているが、新たに、血小板数が少ないためにインターフェロン治療を受けられないC型肝炎患者に投与する用法の承認を求めた。

インターフェロン治療の前だけでなく開始後も服用を続けるが、同社のプレスリリースを読むと、後者は欧州と米国でニュアンスが若干異なるようである。EUのEMAに対しては「インターフェロン・ベースの治療を行う間」の治療法として、FDAに対しては「インターフェロン・ベースの治療を最適化するための」治療法として、申請した。この種の薬は血小板が増えすぎて血栓性疾患のリスクが高まることがあり、また、Promactaは肝毒性を持つので、医薬品審査機関によって慎重さが若干異なるのかもしれない。

リンク:グラクソ・スミスクラインのプレスリリース

医薬品の安全性


アクトスの膀胱癌リスク

武田薬品の二型糖尿病薬Actos(pioglitazone;和名アクトス)と膀胱癌の関連性に関する新たな疫学論文がBritish Medical Journal誌に掲載された。英国のGP(ホームドクター)のデータベースを用いたネステッド・ケース・コントロール試験である。

1988年から2009年までに二型糖尿病の経口剤治療を開始した11万人のうち、平均4.6年の観察期間中に470人が膀胱癌と診断された(10万人年当たり89.4)。pioglitazone服用者のリスク(レート・レシオ)は1.83、95%信頼区間は1.03-3.05だった。リスクは用量や累計服用期間と関連性が見られた。

膀胱癌の発生率は元々低く、pioglitazoneによるリスクの上乗せは10万人年当りで最大137とのことだ。尤も、pioglitazoneを服用している患者は多いので、もしこの推計が正しいとしたら、一年間に2万人以上が発症することになる。そのせいか、BMJ誌のエディトリアルはpioglitazoneに厳しい評価をしている。

リンク:BMJ誌:
Azoulayらの疫学試験論文
エディトリアル

今週は以上です。

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