2012年12月29日

海外医薬品ニュース週末版 2012年12月29日号




今年はご愛読ありがとうございました。来年が皆様や医療、医薬品に携わる方々、そして病気に悩む人たちに少しでも良い年でありますように。

【ニュース・ヘッドライン】

  • Eliquisが米国でも遂に承認
  • 画期的なコレステロール治療薬が米国で承認


【承認】


Eliquisが米国でも遂に承認

(2012年12月28日発表)

BMSがファイザーと共同開発したXa阻害剤、Eliquis(apixaban、和名エリキュース)が日本に続いて米国でも非弁性心房細動患者の脳卒中予防薬として承認された。

同じXa阻害剤であるバイエル(米国ではジョンソン・エンド・ジョンソンが販売)のXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)やベーリンガー・インゲルハイムのトロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran、和名プレザキサ)とシェアを争うことになる。Eliquisは一日二回服用なのでXareltoよりやや不便であり3A4相互作用リスクも持つが、第三相試験で効果と出血リスクの両面でワーファリンより優れていたのはEliquisだけである。

経口抗凝固剤はPradaxaの出血リスクで味噌が付いたが、EliquisやXareltoは腎機能低下患者で出血リスクが上昇するようなことはない。

FDAが治験データの信頼性に疑問を呈した(この薬だけの問題ではなくFDAが心血管アウトカム試験の実施・症例報告方法に懸念を持っていることの表れ)ために承認が遅れたが、二巡目の審査は期限の3月より早く終了した。メーカー側にも意外だったのか、両社はNYの5時過ぎに簡単なプレスリリースを出しただけで、来週改めて詳しいリリースを出す予定。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:BMS/ファイザーのプレスリリース

画期的なコレステロール治療薬が米国で承認

(2012年12月24日発表)

Aegerion Pharmaceuticals(Nasdaq: AEGR)は、Juxtapid(lomitapide)がFDAに承認されたことを発表した。ホモ接合型家族性高脂血症(LDL-C血が極めて高い)の治療に、一日一回、夕食後2時間以上経った後に服用する。29人の患者を組入れた第三相試験では、26週間の治療でLDL-C値が平均330mg/dLから190mg/dLに40%低下した。正常値と比べればまだ高いが、スタチンを服用してもこんなに高い患者には貴重な治療手段である。

JuxtapidはMTP(ミクロソーム・トリグリセライド転移蛋白)を阻害して肝臓や小腸でトリグリセライドやコレステロール・エステルがVLDL-C生産箇所に移送されるのを妨げる。2007年にファイザーのSlentrol(dirlotapide)が肥満犬治療薬として承認されたが、人間の薬は初めて。副作用は胃腸系と肝臓系が多く、トリグリセライド等が余るため肝臓脂肪が蓄積するリスクがある。

更に、治験では3割以上の患者で肝機能検査値異常が観察され、枠付き警告となった。治療開始前と治療中定期的に肝機能検査を行う。3A4を中高度に阻害する薬の併用は禁忌、simvastatinのような専ら3A4で代謝される薬の併用は注意、ワーファリンの血中濃度にも影響する。一日5mgで開始、最大60mgまで漸増する。

ホモ接合という形容が示唆するように、家族性高脂血症は本来、LDL-C受容体等の遺伝子変異が原因で発生するが、遺伝子に問題はなくても機能が低下している患者もいるようだ。前者だけなら米国の対象患者数は300人程度だが、臨床的診断に基づく家族性高脂血症に使用することも認められたため、3000人と大きく増加した。それでもスタチン(数千万人)より少なく、その分、年間20~30万ドルという大変高い値段で発売される予定。

リンク:Aegerion社のプレスリリース

リンク:FDAの12月26日付プレスリリース

今週は以上です。

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2012年12月23日

海外医薬品ニュース週末版 2012年12月23日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • Belinostatは今度こそ治験成功
  • メディビア・JNJの抗HCV薬の第三相試験が続々と成功
  • 非小細胞性肺癌治療用ワクチンの第三相試験がフェール
  • 経口ファブリー病治療薬の第三相試験がフェール
  • ノボが三種類の開発品に関してアップデート
  • 塩野義/GSKのインテグラーゼ阻害剤が承認申請
  • GSK/テラバンスがCOPD治療用FDCを米国で承認申請
  • Hemispherxの慢性疲労症候群治療薬はFDA諮問委員会に支持されず
  • 短腸症候群の治療薬が米国でも承認
  • GSKの四価インフルエンザワクチンも米国で承認
  • 水痘帯状疱疹ウイルスの治療薬が米国で承認
  • ナイアシン配合剤の心血管アウトカム試験が再びフェール
  • FDAがテラビックの皮膚毒性に注意喚起
  • ADAが二型糖尿病の血圧管理目標を緩和

【新薬開発】


Belinostatは今度こそ治験成功

(2012年12月21日発表)

HDAC阻害剤PXD101(belinostat)は、ライセンサーであるデンマークのTopotarget社(Nasdaq OMX: TOPO)が承認申請用試験の成功を発表した直後にライセンシーのスペクトラム・ファーマシューティカルズ(NasdaqGS: SPPI)が未了であることを発表するというチグハグな動きがあったが(2012年9月30日号参照)、遂に、スペクトラムも治験成功を発表した。データは未公表。来年央に承認申請される見込み。

この治験は、再発性難治性の末梢T細胞リンパ腫患者129人を組入れた単群試験で、21日サイクルで1000mg/m2を一日一回、5日間連続で30分点滴静注し、治験医以外の第三者が反応を評価した。FDAの特別プロトコル評価(SPA)を受けており、反応率が20%以上なら成功と判定される。

HDAC阻害剤は遺伝子の複製を阻害することによって細胞増殖を阻害し、アポトーシスを誘導する。血管新生阻害、分化誘導、抗癌剤に対する感受性の回復などの作用も持つようだ。米国では2006年にMSDのZolinza(vorinostat)が皮膚Tセルリンパ腫に、2009年にはGloucester社のIstodax(romidepsin)が末梢T細胞リンパ腫に、それぞれ承認されている。

リンク:スペクトラムのプレスリリース

メディビア・JNJの抗HCV薬の第三相試験が続々と成功

(2012年12月20日発表)

C型肝炎ウイルス(HCV)のゲノムに含まれる、ウイルスの組立に必要なプロテアーゼを阻害する薬は、バーテックスやMSDの二剤が発売された後も開発が活発だ。第三弾になりそうなのがスエーデンのメディビア(OMX: MVIR)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発しているTMC435(simeprevir)だ。数多くの第三相試験がロンチされたが、まず三本の試験の成功が発表された。

何れもI型ウイルス感染者を組み入れてPEG化インターフェロン・アルファ及びribavirinと三剤併用し、治療効果を二剤併用療法と比較したもの。初めて治療を受けるナイーブ患者を組入れた二本はSVR12(持続的ウイルス学的奏功率:治療完了後12週間経った段階でもHCVが検出されない患者の比率)が一本は81%、もう一本も80%となり、二剤併用(どちらも50%)を有意に上回った。二剤併用療法が一時的に奏功したもののその後に再燃した患者を組み入れた二次治療試験でも79%対37%と有意に上回った。

忍容性面ではビリルビンの穏やかな上昇が見られたが、可逆的で、大きな問題はなかったようだ。

I型HCVの治療は既に三剤併用が主流になっており、二剤併用に勝っても自慢にはならないが、今後、四剤併用やインターフェロン抜き、ribavirin抜きの併用療法の開発が進むにつれて、どのプロテアーゼ阻害剤と組み合わせるのが最適であるかが問題になるだろう。TMC435は力価が高いためコンビ薬の開発に適し、一日一回投与が可能で、今のところ深刻な副作用は表面化していないので、有力な候補になりうる。発売は2014年と先行品に3年ほど遅れを取りそうだが、まだビジネス・チャンスは残っているだろう。

リンク:メディビアのプレスリリース

非小細胞性肺癌治療用ワクチンの第三相試験がフェール

(2012年12月19日発表)

ドイツのメルクは、非小細胞性肺癌の治療用ワクチン、L-BLP25の第三相試験がフェールしたと発表した。米国のOncothyren(Nasdaq: ONTY、旧社名Biomira)からライセンスした、MUC1のアミノ酸配列をリポソームに入れて抗原としMPLをアジュバントとして使うワクチンで、第三相では一次治療に部分的にしか反応しなかった、あるいは安定化しただけの患者を組入れて、延命効果を偽薬と比較したが、効果がなかった。

中国韓国などの施設で同様なデザインの第三相試験が進行中だが、成功は期待薄となった。日本では小野薬品と共同開発している。

リンク:メルクのプレスリリース

経口ファブリー病治療薬の第三相試験がフェール

(2012年12月19日発表)

グラクソ・スミスクラインとアミカス・セラピュティクス(Nasdaq: FOLD)は、migalastatの第三相ファブリー病治療試験がフェールしたと発表した。ファーマシューティカル・シャペロンという新しい作用機序を持ち、もし成功なら様々な遺伝子疾患の治療に夢が広がるので簡単には諦められないだろう。当面は、もう一本の第三相試験の結果を待つことになりそうだ。

ファブリー病は、細胞のライソゾームに存在するアルファ-ガラクトシダーゼAという酵素の遺伝子異常により、GL-3(グロボトリアオシルセラミド)が分解されず蓄積して様々な臓器に障害が発生する。この酵素を医薬品化したジェンザイム(サノフィの子会社)のFabrazyme(agalsidase beta、和名ファブラザイム)が有効だが、二週間に一回、点滴静注投与しなければならないことが難点だ。

アミカスの社長は、2010年に公開された映画、『小さな命が呼ぶとき』の主役のモデルとなったジョン・クラウリーだ。ポンペ病の娘を助けるためにBMSを辞めて新薬の開発に奔走、酵素補充療法のMyozyme(alglucosidase alfa、和名マイオザイム)を実用化した。アミカスはファーマシューティカルズ・シャペロンの開発に特化している。蛋白質の折畳み異常を是正し、ライソゾームへの移行を促し、そこで離れるという、結婚式で花嫁を新婦のところまでエスコートする父親のような薬だ。

酵素補充療法と異なり、経口投与できることが長所。但し、全ての患者に効く訳ではない模様で、miglastatの場合はファブリー病の5-7割がこの薬に適した遺伝子変異を持っているとのことだ。

残念ながら、同社の開発品は挫折が続いている。今回の第三相試験も、主評価項目の奏功率(6ヶ月の治療で腎臓間質性毛細血管におけるGL-3の蓄積量が半分以下になった患者の比率)が41%となり、偽薬群の28%を上回ったもののpは0.3に留まった。副次的評価項目のGL-3減少率(メジアン値)も41%対6%、p=0.093だった。効果はありそうだが、立証されたとは言えない。

この二つのデータから推測すると、何もしなくてもGL-3が減少する、それほど重くない患者が多く含まれていたために偽薬群の奏功率が高く出てしまったのかもしれない。他に有効な薬が存在する病気の偽薬対照試験でしばしば見られる現象だ。もう一本の試験では酵素補充療法と直接比較しているので、医師も比較的抵抗なく、重い患者を組入れることができるだろう。その点では実力を発揮しやすいはずだが、一方で、実薬対照試験はハードルが高い。この試験の結果は2014年に判明する見込み。

リンク:GSK・アミカスのプレスリリース

リンク:難病情報センター:ファブリー病の解説(和文)

ノボが三種類の開発品に関してアップデート

(2012年12月19日発表)

ノボ ノルディスクが三種類の開発品に関して開発状況をアップデートした。まず、管理放出性インスリン(insulin degludec)とGLP-1作用剤(liraglutide)の固定容量配合剤(FDC)であるIDegLiraは、前期第三相試験で良好な成績を上げた。Insulin degludec(和名トレシーバ)は未だ日本でしか承認されていないため、他の地域での承認を待って、FDCの承認申請を行う予定。

次に、insulin aspart(NovoRapid/NovoLog)の様々な新製剤をテストした第一相試験で速効性や安定性に優れるものが見つかったため、2013年末に3000人規模の第三相試験を開始することが発表された。インスリンはバイオシミラーの開発が比較的容易だろうから、次世代品の開発は重要な課題だ。

一方、NN8555(抗NKG2D抗体)のクローン病プルーフ・オブ・コンセプト試験は中間解析で無益性が認定され、開発中止となった。

リンク:ノボのプレスリリース(pdfファイル)

【承認申請】


塩野義/GSKのインテグラーゼ阻害剤が承認申請

(2012年12月17日発表)

ViiVヘルスケア(GSK、ファイザー、塩野義製薬の抗HIV薬合弁会社)はS/GSK1349572(dolutegravir)をEU、米国、カナダでHIV感染症治療薬として承認申請した。2007年に米国で承認されたMSDのIsentress(raltegravir、和名アイセントレス)、今年8月に米国で承認されたギリアッドの四剤配合剤Stribildの活性成分のひとつであるelvitegravirに次ぐ第3のインテグラーゼ阻害剤だ。創製したのは塩野義製薬。

2013年に承認されたとしてIsentressから6年遅れとなり、また、それまでにelvitegravir単剤も承認されるだろうから、競争環境は厳しい。

Dolutegravirはelvitegravirと異なり試験管試験でIsentress抵抗性ウイルスの多くが感受した。薬自体は優れているので、配合剤を開発して利便性を高めることが重要課題だ。Stribildに配合されている優れた核酸系逆転写阻害剤tenofovirの特許は米国でも5年後に失効するはずなので、lamivudineではなくtenofovir配合薬の投入も視野に入れるべきだろう。

リンク:ViiVヘルスケアのプレスリリース

GSK/テラバンスがCOPD治療用FDCを米国で承認申請

(2012年12月18日発表)

グラクソ・スミスクラインとテラバンス(Nasdaq: THRX)は、新開発の長期作用性ムスカリン拮抗剤umeclidinium bromideと長期作用性ベータ2作用剤vilanterolを新開発のEllipta吸入器に充填して用いるCOPD治療薬を米国で承認申請した。一日一回、吸入する。商標名はAnoroとなるようだ。欧州でも間もなく承認申請される見込み。

リンク:GSK/テラバンスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Hemispherxの慢性疲労症候群治療薬はFDA諮問委員会に支持されず

(2012年12月21日発表)

Hemispherx Biopharma(NYSE MKT: HEB)は2007年にrintatolimodを重度慢性疲労症候群の治療薬としてFDAに承認申請したが、受理されなかった。二度目の申請は受理されたが審査完了となった。2012年に追加データを提出し、やっと諮問委員会にたどり着いたが、ここでも過半の委員が支持しなかった。FDAは来年2月2日までに審査を完了する予定だが、再び追加試験を求められる可能性が高いだろう。

Rintatolimodはジョンズ・ホプキンズ大学からライセンスした二重連鎖RNA薬で、難病である慢性疲労症候群の治療薬として第三相試験が実施されたが、有意な治療効果は示されなかった。FDAが有害事象症例を精査する過程でデータの信頼性に関する疑問も浮上した模様だ。効果がない訳ではなさそうだが、一部の患者にしか効かない可能性があり、それがどのような患者なのかは明らかではない。慢性疲労症候群自体も発病原因には諸説あり、XMRVウイルスの関与が指摘されたこともあるが、その後の追試では確認されなかった。

諮問委員会の意見は分かれ、治療効果については14人中9人が十分に確立されたとは言えないと判定したが、4人は肯定、一人は退場した由だ。安全性についても9対4で否定的な評価が上回ったが肯定意見もあり、承認に値するか(正確には、便益がリスクを上回るか)という最終質問についても、8人が否定的、5人が肯定的だった。このようなケースではFDA自身の判断が重みを増す。過去の経緯から推測すると、承認されない可能性が高いだろう。

リンク:Hemispherxのプレスリリース

【承認】


短腸症候群の治療薬が米国でも承認

(2012年12月21日発表)

NPSファーマシューティカルズ(Nasdaq: NPSP)のGattex(teduglutide)が短腸症候群の治療薬としてFDAに承認された。この病気の治療薬はドイツのメルクのZorbtive(成長ホルモン)などに次ぐ三剤目。2013年第1四半期に発売される予定。

Gattexは小腸内膜の成長を促すGLP-2というホルモンの遺伝子組換え型アナログで、一日一回皮下注射する。短腸症候群は腸の切除術を受けた患者などの合併症で栄養物を吸収できず、点滴投与が必要になるが、Gattexを投与すれば量を減らすことができる。一方で、腫瘍やポリープの成長を促す可能性があり、胃腸閉塞や膵臓障害の懸念もあるため、治療前に内視鏡でポリープを全て切除するなどの措置や各種検査が必要だ。

米国の患者数は1~1.5万人と推測されており、同社はピーク年商3.5億ドルを期待している。EUでも今年9月に承認、権利を持つ武田薬品が販売する。

リンク:NPSのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

GSKの四価インフルエンザワクチンも米国で承認

(2012年12月17日発表)

グラクソ・スミスクラインはFluarix四価インフルエンザワクチンが米国で承認されたと発表した。

インフルエンザワクチンは春先に冬に流行しそうな株を予想し、A型インフルエンザ・ウイルスから二株、B型から一株を選んで培養・混合する。予測は難しく、そもそも、同じ年でも国や地域、時期によって変わることが多い。似たウイルスならある程度の効果が期待できるが、全く異なると期待できない。中でもB型はビクトリア株と山形株の両方が流行するパターンが続いている。このため、四価ワクチンの開発が進められており、米国では今年2月のアストラゼネカのFlumist(点鼻用生ワクチン)に続いて今回、Fluarixが承認された。

インフルエンザワクチンのもう一つの世界的大手であるサノフィも開発中。日本でも実用化されれば、折角ワクチンを打ったのに感染したという苦情が減るだろう。教科書的に言えば、インフルエンザワクチンは重大な合併症のリスクを削減するためのものであり感染を防ぐために打つわけではなく、また、リスクが減ると言ってもゼロになる訳ではない。苦情を言われても困るのだが、それはそれとして、年間に何千万人が接種するのだから効果や安全性の検証を怠るべきではなく、少しでも良い製品を開発する努力をしなければならない。

リンク:GSKのプレスリリース

水痘帯状疱疹ウイルスの治療薬が米国で承認

(2012年12月21日発表)

FDAはカナダのCangene社のVarizigを水痘帯状疱疹ウイルス感染症の治療薬として承認した。米国の場合、多くの国民が、子供の頃に感染したりワクチンによって免疫を持っているが、抗体を持たない人が感染すると重度感染症を発症し死に到るケースもある。抗ウイルス治療が無効であったり不適例もある。

Varizigは抗体を多く持つ健常者から採取した血漿分画製剤で、曝露から4日以内に投与すれば症状を緩和することができる。同様な薬が2006年に回収されたため、唯一の製品となる。

リンク:FDAのプレスリリース

【大規模試験】


ナイアシン配合剤の心血管アウトカム試験が再びフェール

(2012年12月20日発表)

ナイアシンはHDL-CやLDL-Cの治療薬として広く用いられているが、難点は、火照りなどの副作用が出やすいことだ。MSD(米国のメルク)はこの副作用を緩和するDP1阻害剤laropiprantを開発、徐放性ナイアシンと共に配合したTredaptiveを2007年に欧米で承認申請、欧州では承認された。火照りが不快で服用を止める患者が減れば、LDL-C減少・HDL-C増加というナイアシンの便益を長期間享受でき、その結果、心筋梗塞などの冠動脈疾患のリスクを削減できる---はずだった。

しかし、オックスフォード大学を中心に英国や中国などで実施された心血管アウトカム試験、HPS-2 THRIVEはフェールした。MSDの発表によると心血管疾患リスクを削減することはできず、致命的ではないが重篤な有害事象が増加した。Tredaptiveは約70ヶ国で承認され約40ヶ国で販売されているが、MSDは新たに治療を開始しないよう警告した。これを受けて、EUも1月に再審査を行うことを発表した。

Tredaptiveは米国では承認されず、MSDはHPS2試験の結果が出るのを待っていたが、申請断念となった。2012年1~9月の売上高は1300万ドルと期待外れに留まっているが、効果や安全性も期待外れなら仕方がない。試験結果は3月のACC(米国心臓学会)で発表されると予想されるが、内容次第では、アボットのナイアシン製剤Niaspanの需要にも影響が出るだろう。AIM-HIGH試験に次ぐ、二度目のフェールなのでナイアシンの効果に疑問を持たせるには十分以上だ。

尤も、フェールの原因としては様々なものが考えられる。FDAが承認を見送った時の私の想像は、simvastatinとの相互作用による副作用の増加、アスピリンとの相互作用による抗血小板作用の減少、ナイアシンやlaropiprantの副作用だった。順番に検討しよう。

HPS-2THRIVEは、MSDが開発したsimvastatinやezetimibeを服用している患者に更にTredaptiveを投与する効果を比較するデザインなので、simvastatinとTredaptiveの相互作用が治験成績に影響する。実際、1万人以上を組入れた中国では、Tredaptive群のマイオパシー発生率は1.1%で偽薬群の6倍だった(今年のESCで発表された中間解析のデータ)。

マイオパシーはスタチンの典型的な副作用であり、simvastatinは薬物相互作用が比較的大きいので、単なる相加作用ではなく相乗作用が起きたとしても不思議はない。ナイアシンとlaropiprantのどちらがリスクをブーストしたのかは判然としないが、他のスタチンなら違った結果になったかもしれない。

DP1拮抗剤がアスピリンの抗血小板作用を妨げるという疑いは以前からある。MSDの試験では特に問題がなかった模様だが、HPS-2試験がフェールしたことで疑惑が再燃するだろう。

ナイアシンは肝腎毒性を持ち、laropiprantの著高用量併用試験ではリスクが増加した。投与を続けるうちにリスクが高まり、服用中止する患者が増えて、効果の群間差が希薄化されたことも考えられる。

CETP阻害剤やフィブレートの心血管アウトカム試験がフェールした後だけにHDL-C治療薬の効用に疑問を呈する意見が増加しそうだが、ナイアシンはLDL-C削減効果も持つのだから、早計だろう。但し、HDL-C値が正常な患者も組入れてHDL-C治療薬の試験を行うことには私も疑問を持つ。大型薬の特許切れを迎えている薬品業界が次の大型薬を熱望するのは無理もないが、階段は一歩ずつ上がるのが正しい行動で、HDL-C治療薬ならHDL-C値が低い患者を最初のターゲットにするのが王道だろう。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:EMA(EUの薬品審査機関)のプレスリリース

リンク:2012年ESCで発表された中間安全性解析のスライド(PowerPointファイル)

【医薬品の安全性】


FDAがテラビックの皮膚毒性に注意喚起

(2012年12月19日発表)

FDAは、ヴァーテックス(Nasdaq: VRTX)の抗HCV薬Incivek(telaprevir、和名テラビック)の深刻な皮膚有害反応に関する安全性警告を発出した。2011年5月の発売から2012年6月までの13ヶ月間に、DRESS症候群が92例、SJS症候群が20例の発生が報告されたため。TEN(中毒性皮膚壊死融解症)も日本で二例報告され、うち一例は致死的だった。皮膚毒性は既知の副作用だが、症状が悪化した後も投与を続けて死に到った症例もあるようなので、ヒューマン・エラーの側面もありそうだ。

FDAは、深刻な皮膚反応が起きたら、三剤併用療法の全ての薬剤を中止し、即座に治療を行うよう勧告した。もし他に同様なリスクを持つ薬を服用している場合はそれも中止する。日本は臨床試験でも重篤な皮膚毒性が発生しており、人種的な問題があるのかもしれない。

マスメディアには特効薬という言葉が飛び交うが、薬と毒薬は紙一重であり、また、誰かにとっては特効薬でも他の人には悪魔の薬かもしれない。正しく理解し正しく使うことが重要であり、そのためには、特効薬などという一面的な形容は排除すべきである。

リンク:FDAのプレスリリース

ADAが二型糖尿病の血圧管理目標を緩和

ADA(米国糖尿病学会)は毎年、糖尿病診断治療ガイドラインを見直しDiabetes Care誌に刊行しているが、2013年1月改定では、二型糖尿病の収縮期血圧管理目標を従来の130 mm Hg未満から140 mm Hg未満に緩和するらしい。一部で報道されている。これまでは観察的試験に基づいていたが、ACCORD試験など複数の無作為化割付試験の結果を踏まえて、緩和に踏み切った。130 mm Hg未満を目標に治療しても、脳卒中が若干減るだけで死亡・心筋梗塞リスクは減らず、低血圧性副作用が増加するからだ。

高血圧の治療でもJカーブ効果を懸念する意見があり、二型糖尿病の血糖治療目標もlower is betterではないことが判明した。世の中には意外な出来事が多く、だからこそ、アウトカム試験を行うことが重要だ。日本人や中国人は白人より脳卒中のリスクが高く、従って、ADAのガイドラインを鵜呑みにせず日本独自のアウトカム試験で答えを出す必要があるだろう。

今週は以上です。

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2012年12月16日

海外医薬品ニュース週末版 2012年12月16日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:アンビット/アステラスの開発品はAMLに有効
  • ASH:セルジーンの第三の免疫調停薬の第三相試験が成功
  • イーライリリーはsolanezumabの追加試験を実施へ
  • イーライリリーのリウマチ性関節炎第三相試験にブレーキ
  • SYK阻害剤の坑リウマチ作用はTNF阻害剤に劣る?
  • バイエルがラジウム223を前立腺がん治療薬としてEUで承認申請
  • ファイザーがエストロゲン・SERMコンビ薬を米国で承認申請
  • CHMPが三種類の新薬に肯定的評価、二剤に否定的評価
  • 難治性CML用薬が米国で承認
  • Zytigaを化学療法に先駆けて使うことが承認
  • 米国で肺炭疽治療薬が承認
  • クッシング病の治療薬が米国で承認



【新薬開発】


ASH:アンビット/アステラスの開発品はAMLに有効

(2012年12月10日発表)

先週末にASH(米国血液学会)で様々な開発品の第二相、第三相試験の結果が発表された。先ず、米国のアンビット・バイオサイエンス社がアステラス製薬と提携して開発しているFLT3チロシンキナーゼ阻害剤、AC220(quizartinib)の第二相AML(急性骨髄性白血病)試験。AMLの3割を占める、FLT3遺伝子にインターナル・タンデム・デュプリケーション(ITD:遺伝子の中で同じ塩基配列が何度も繰り返されるもので悪性度が高く治療に反応しにくい)を持つタイプに効果が高そうだ。男は135mg、女は90mgを一日一回経口投与する。

60歳以上の一次治療不応患者を組入れた第一コフォートのうちFLT3-ITD型(90人)では、複合完全寛解率が53%だった。赤血球・白血球が正常化しない完全寛解が50%で殆どを占めた。メジアン反応持続期間は10週間、メジアン全生存期間は19週間。FLT3-ITD以外では複合完全寛解率36%だった。

18歳以上の再発性・難治性患者を組入れた第二コフォートでもFLT3-ITD型(100人)は複合完全寛解率46%(赤血球・白血球が正常化しない完全寛解が40%)、それ以外は32%と第一コフォートと同様だった。

今後の開発方針は明記されていないが、AMLの治験の割には規模が大きいので、加速承認申請に向けて当局と相談する可能性がありそうだ。

リンク:ASHの様々な新薬治験発表に関するプレスリリース(12月9日付)

リンク:アンビットのプレスリリース

リンク:アステラス製薬のプレスリリース(和文、pdfファイル)

ASH:セルジーンの第三の免疫調停薬の第三相試験が成功

(2012年12月9日発表)

セルジーン(Nasdaq: CELG)はThalomid(thalidomide)とRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)の二種類の免疫調停薬を多発骨髄腫の治療薬として商品化しているが、第三のCC-4047(pomalidomide)も第三相試験が成功した。Revlimidとbortezomib(和名ベルケイド)による前治療経験を持つ多発骨髄腫患者455人を2対1の割合で組入れた三次治療試験で、dexamethasoneだけの群と二剤併用群の無増悪生存期間(PFS)を比較した。

中間解析で主目的を達成、対照群の患者が併用療法にスイッチすることを認めた。ハザードレシオは0.45、全生存のハザードレシオも0.53で共にpが0.001を下回った。尤も、PFSのメジアン値は3.6ヶ月対1.8ヶ月で差はそれほど大きくない。有害事象はこれまでと同様に熱性好中球減少症が増加した。

CC-4047は第二相試験の結果に基づいて今春、欧米で承認申請された。第三相試験の成功で承認に一歩近づいたと言えるだろう。

リンク:セルジーンのプレスリリース

イーライリリーはsolanezumabの追加試験を実施へ

(2012年12月12日発表)

イーライリリーの坑アミロイドベータ(11-20)抗体、LY2062430(solanezumab)は、アルツハイマー病の第三相試験が二本実施されたがどちらもフェールした。一本では軽度患者に効果の兆しが見られたため同社は承認申請に向けて欧米等の当局と相談したが、支持してもらえなかったようだ。2013年に追加試験を開始することを決めた。

アルツハイマー病は難病なので治療効果が小さくても承認される可能性はあるが、偽薬比で統計的に有意な差があることが前提だ。二本のうち一本しか有意ではなかったのだから、承認申請が認められなかったのは当然だろう。坑うつ剤を見ても分かるように、もう一本成功すれば治験が二勝一敗でも承認される可能性があるが、成功するだろうか?

リンク:イーライリリーのプレスリリース

イーライリリーのリウマチ性関節炎第三相試験にブレーキ

(2012年12月13日発表)

イーライリリーは、坑BAFF完全ヒト化抗体LY2127399(tabalumab)のリウマチ性関節炎第三相試験の一つが無益性で中止されたと発表した。他の二本は投与を継続しているが、新規組入れは中断となった。坑BLyS完全ヒト化抗体Benlysta(belimumab)もリウマチは第二相試験がフェールしたので、この作用機序は効果が限定的なのだろう(BAFFはBLySの別名)。

Benlystaの承認用途と同じ全身性エリトマトーデスの第三相試験は続行されている。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

SYK阻害剤の坑リウマチ作用はTNF阻害剤に劣る?

(2012年12月13日発表)

アストラゼネカはライジェル社(Nasdaq: RIGL)からSYK阻害剤R788(fostamatinib disodium)をライセンスして坑リウマチ薬として第三相試験を実施中だ。結果は来年上期に明らかになる見込み。販促面で残念なことに、後期第二相単剤投与試験でHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)に負けたことが明らかにされた。偽薬には勝ったので効果はあるのだろうが、発売後の競争相手は少なくないので直接比較試験で勝てなかったことはハンデになる。

尤も、R788は経口剤なので利便性が高い。11月に米国で承認されたファイザーのJAK阻害剤、Xeljanz(tofacitinib)も経口剤だが、免疫抑制作用が強いために日和見感染症や癌が増える懸念がある。この二剤は標的が異なるものの、IL-6の低下など作用が類似しているので、もし忍容性が優れているなら出番はあるだろう。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


バイエルがラジウム223を前立腺がん治療薬としてEUで承認申請

(2012年12月14日発表)

バイエルは二塩化ラジウム223を去勢抵抗性前立腺癌で骨転移がりdocetaxelによる治療に不耐・不適・不応な患者向けにEUで承認申請した。第三相試験では全生存期間のハザードレシオが偽薬比0.695で統計的に有意、メジアン生存期間は13.6ヶ月対8.4ヶ月だった。

二塩化ラジウム223はカルシウムに似ているため骨の分布が良く、局所的にアルファ線を放射する。ノルウェーのAlgeta社から世界開発販売権を取得したもの。

リンク:バイエルのプレスリリース

ファイザーがエストロゲン・SERMコンビ薬を米国で承認申請

(2012年12月13日発表)

ファイザーが2009年に買収したワイスはエストロゲン製剤の大手で、ライガンド社(Nasdaq: LGND)からライセンスした選択的エストロゲン受容体調節剤bazedoxifeneとエストロゲンのコンビ薬も開発している。FDAがbazedoxifeneを承認しなかったため開発が遅れていたが、EUに続いて米国でも、承認申請が受理された。適応症は閉経期の血管運動性症状や外陰部・膣萎縮の治療と閉経後骨粗鬆症の予防。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが三種類の新薬に肯定的評価、二剤に否定的評価

(2012年12月14日発表)

EUの医薬品科学的審査委員会であるCHMPは12月の委員会で三種類の新薬に肯定的評価、二剤に否定的評価を下した。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的評価を受けたのは、先ず、ロシュの坑2C4ヒト化抗体Perjeta(pertuzumab)。同社のHerceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)やdocetaxelと併用で、her2陽性の転移性・局所再発性切除不能乳癌の一次治療に用いる。Herceptinはher2に結合して本来のレガンドの結合を阻害するが、Perjetaはher2の異なったエピトープに結合してEGFR、her3、her4と共役するのをブロックする。

臨床試験ではHerceptin・docetaxel群と比べて三剤併用群の無増悪生存期間はメジアン18.5ヶ月と6ヶ月延長、ハザードレシオは0.62だった。全生存のハザードレシオも0.66で有意だった。米国では6月に承認され、5900ドル/月の価格で発売された。三剤併用は薬だけで月1万ドルを超えるので、医療保険や患者の負担が大きい。

リンク:ロシュのプレスリリース

次に、ルンドベックのSelincro(nalmefene HCI)がアルコール依存の治療薬として肯定的評価を受けた。オピオイドのミュー、デルタ、カッパ受容体を選択的に調節する薬で、臨床試験では大酒(男はアルコールを60g以上、女は40g以上)飲酒日数が6ヵ月後に6割以上減少、偽薬群も半減したが統計的に有意な差があった。二本目も6割以上減ったが偽薬群も同程度減少した。これらの試験では禁酒指導は行わなかった模様だが、CHMPは心理社会的な支援が必要と判定した。

フィンランドのBio Tie Therapiesから欧州などの権利を取得したもの。EUのアルコール依存有病率は男が5-6%、女は1-2%とのこと。別の会社が病的賭博で第二・三相試験を行ったことがあるが、フェールした。

リンク:ルンドベックのプレスリリース

リンク:EUのプレスリリース

Alexza(Nasdaq: ALXA)のAdasuve(loxapine)も肯定的評価を受けた。統合失調症や双極障害の興奮(アジテーション)症状を迅速に治療する、吸入用薬。治験では10分後から有意な治療効果が見られた。

リンク:Alexzaのプレスリリース

一方、否定的評価を受けたのはISIS(Nasdaq: ISIS)がサノフィ傘下のジェンザイムと共同開発したKynamro(mipomersen)。ApoB-100の遺伝子の翻訳を妨げるアンチセンス薬で、家族性高脂血症患者に週一回皮注した治験ではLDL-Cが偽薬比20%減少した。支持されなかった理由は有害事象に関する懸念で、インフルエンザ様症状や注射箇所反応、肝臓副作用による離脱が比較的多かったため、慢性病薬としての適性が疑われた。肝臓脂肪の蓄積や深刻な心血管疾患のリスクも見られた。

先週号で新薬絡みのインサイダー取引を取り上げた。立件はされていないが、mipomersenもフロントポイント・パートナーズのヘッジファンド・マネージャーが第二相試験で肝毒性が発生したことを素破抜き、ISIS側がそれほど深刻ではないと否定したことがある。

リンク:ISISのプレスリリース

ヴァンダ(Nasdaq: VNDA)が統合失調症治療薬として承認申請したFanaptum(iloperidone)も否定的評価を受けた。効果が小さくオンセットが遅い上にQT延長の懸念もあるため、便益がリスクを上回るとは言えない、と評されている。ヴァンダは異議申立・再審手続きを要請する考えだ。

リンク:ヴァンダのプレスリリース

【承認】


難治性CML用薬が米国で承認

(2012年12月14日発表)

アリアド社(Nasdaq: ARIA)が承認申請していたCML(慢性骨髄性白血病)用薬Iclusig(ponatinib)が予定より早くFDAに承認された。アリアドは年内に9580ドル/月の価格で発売する予定。

CMLはノバルティスのGleevec(imatinib)が有効だが、T315I変異が生じると効果が減じる。この変異はTasignaなど他のbcr-abl阻害剤にも抵抗性を持つが、Iclusigは第二相試験でT315I変異型慢性期患者における主要細胞遺伝学的反応率が70%だった。一次治療試験でどれだけの効果を挙げるか、注目される。

リンク:アリアドのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

Zytigaを化学療法に先駆けて使うことが承認

(2012年12月10日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのCYP17A1阻害剤Zytiga(abiraterone)の適応拡大が米国で承認された。2011年に去勢抵抗性前立腺癌で化学療法の前治療歴を持つ患者向けに初承認されたが、まだ化学療法を受けていない患者に対象が広がった。前立腺癌は手術や放射線療法、ホルモン療法が有効だが、再発した場合は化学療法を施行するのが一般的だった。しかし、作用が若干異なるもののテストステロンの分泌を抑制する薬であるZytigaが有効であることが分かったので今後は化学療法の出番が減少するだろう。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

米国で肺炭疽治療薬が承認

(2012年12月14日発表)

GSKは坑炭疽菌保護抗原完全ヒト抗体raxibacumabが肺炭疽治療薬として米国で承認されたと発表した。肺炭疽は炭疽菌を吸い込むことによって発症する。ごく稀だが死亡率は著しく高い。発生率が低いため薬効は動物試験で確認した。サルでは生存率64%、ウサギでは44%、偽薬群は何れもゼロだった。抗生剤併用ウサギ試験では生存率82%と抗生剤だけの65%より高かった。

貿易センタービル事件の後、TVニュース・キャスターに炭疽菌が郵送され生物兵器テロかと騒がれた。それ以前に、米国政府のアドバイザーがソビエトの生物兵器研究所勤務時代に感染性を高める遺伝子操作を加えた炭疽菌を見たと報告したこともあった。米国など多くの国がキノロン系合成抗菌剤を備蓄したが、米国はraxibacumabも数万回分を備蓄した。民需は小さいので、今後は、政府の期限切れによる追加発注が需要の中心になりそうだ。

リンク:GSKのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

クッシング病の治療薬が米国で承認

(2012年12月14日発表)

ノバルティスはSignifor(pasireotide)がクッシング病治療薬として承認されたと発表した。手術不適・不応の患者に用いる。クッシング病は癌などが原因で副腎皮質刺激ホルモンが過剰分泌され、様々な症状が起きる。患者数は日米欧で1万人。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年12月9日

海外医薬品ニュース週末版 2012年12月9日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • ASH:BTK阻害剤がCLLに著効
  • SABCS:ファイザーの画期的新薬が第二相試験で有望な成績
  • SABCS:ハラヴェンの効果はゼローダを大きく上回ってはいない
  • アルツハイマー病新薬:MSDは第三相にゴー、BMSはストップ
  • EUがPTC124の承認申請を受理
  • バイエルがEUでアイリーアをCRVO性黄斑浮腫に適応拡大申請
  • 製薬会社や医学研究者の皆さん、インサイダー取引にご注意!



【新薬開発】


ASH:BTK阻害剤がCLLに著効

(2012年12月8日発表)

ファーマサイクリクス社(Nasdaq: PCYC)は、ジョンソン・エンド・ジョンソンと共同で第三相試験を実施しているBTK阻害剤、PCI-32765(ibrutinib)の第二相慢性リンパ性白血病(CLL)試験の結果概要を発表した。ASH(米国血液学会)で発表される予定だが、学会側の記者発表会で8日に取り上げられたためエンバーゴ(報道・発表禁止)が解除されたようだ。

後期第一相/第二相試験では116人の高齢患者に一日一回、経口投与したところ、初めて治療を受ける患者では反応率68%、26ヶ月無増悪生存率は96%、再発・難治性のCLLと小リンパ性白血病の患者では各71%と75%だった。高リスク患者にrituxanと併用した第二相試験でも反応率83%と著効を示した。主なG3/4(重度/深刻な)有害事象は骨髄抑制だった。真菌感染に肺炎を合併した致死例も一例あったようだ。

BTKはBセルのサバイバルに関わるチロシン・キナーゼで、阻害するとアポトーシスが誘導される。両社は2011年12月に開発販売提携を結び、2012年に第三相のofatumumab対照再発性・難治性CLL試験と、bendamustine・rituximab併用試験を開始した。来年1月にはchlorambucil対照高齢者一次治療試験も始まる予定。マントルセル・リンパ腫のtemsirolimus対照二次治療試験も進行しており、期待のほどが窺われる。

リンク:ファーマサイクリクス社のプレスリリース

リンク:MedPageの記事

SABCS:ファイザーの画期的新薬が第二相試験で有望な成績

(2012年12月5日発表)

CTRC-AACRサンアントニオ乳癌会議(SABCS)でファイザーのCDK4/6阻害剤の乳癌第二相試験結果が発表された。中々良い成績で、同社は2013年に第二/三相試験を開始する計画だ。

この試験は閉経後局所進行性・転移性乳癌でエストロゲン受容体陽性、her2陰性の患者165人を、アロマターゼ阻害剤letrozole(Femara、和名フェマーラ)とPD-0332991(PD-991)を併用する群と、Feramaだけを投与する群に無作為化割付した、オープンレーベル一次治療試験。letrozoleは2.5mgを一日一回経口投与、PD-991は125mgを一日一回、21日間連続経口投与し7日間休むサイクルを繰り返した。

主評価項目のPFS(無増悪進行期間)はメジアンで各26.1ヶ月と7.5ヶ月となり、ハザードレシオ0.37、pは0.001未満となった。反応率は各45%と31%で有意に上回ったが、PFSほど大きな差はなかった。主なG3/4(重度・深刻な)治療関連有害事象は好中球減少症などの骨髄抑制と疲労。

乳癌のうちエストロゲン受容体陽性・her2陰性は6割を占めるので、PD-991の用途は広い。この第二相試験は第一部と第二部に分かれ第二部では前臨床の知見に基づき特定のタイプだけを組み入れたが、効果は大差なかったようだ。

CDK4とCDK6は細胞分裂・増殖過程に関与するキナーゼで、阻害すると、細胞周期がG1期からS期(遺伝子複製期)に進めなくなる。PD-991はファイザーが買収したワーナー・ランバートがオニクス(Nasdaq: ONXX)と共同開発したアッセイを用いてスクリーニングしたもので、オニクスは最大で1700万ドルの達成報奨金と一ケタ台の売上ロイヤルティを受取る権利を持っている。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リンク:CTRC-AACR SABCSのプレスリリース

リンク:第二/三相試験の治験登録

SABCS:ハラヴェンの効果はゼローダを大きく上回ってはいない

(2012年12月7日発表)

SABCSではエーザイのHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)の局所進行性・転移性乳癌第三相試験の結果も発表された。摘出術後や転移後の標準的な薬であるアントラサイクリン系とタキサン系の抗癌剤を既に使ってしまった患者1102人を組み入れて全生存期間とPFSをcapecitabine(Xeloda、和名ゼローダ)と比較したが、どちらも有意差はなかった。副作用の出方や投与方法が異なるので、患者に応じて使い分けることになりそうだ。

全生存期間はp=0.056と惜しかったが、主評価項目が二つあるので通常より厳しく評価する必要があり、また、メジアン値の差は1.4ヶ月、ハザードレシオは0.879なのでそれほど大きな差ではない。サブポピュレーション分析ではher2陰性患者とトリプル・ネガティブ(her2、エストロゲン受容体、プロゲスチン受容体の何れも陰性)患者で比較的良い数値がでた。後者はポストホック分析だが、ハザードレシオが0.702と良くく、トリプル・ネガティブに有効な薬は少ないことを考えれば、更に探索する価値がありそうだ。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

リンク:CTRC-AACR SABCSのプレスリリース

アルツハイマー病新薬:MSDは第三相にゴー、BMSはストップ

(2012年12月3日と11月30日発表)

アルツハイマー病の坑アミロイド療法は二種類の抗体医薬とガンマ・セクレターゼ阻害剤の第三相試験が相次いでフェールし行き詰まった感があるが、まだ希望が残っているようだ。BMSが11月30日にガンマ・セクレターゼ阻害剤BMS-708163(avagacestat)の開発中止を発表した一方で、MSD(米国メルク)は12月3日にBACE1阻害剤MK-8931の第二/三相試験開始を発表した。BACE1阻害剤はイーライリリーやエーザイ等も臨床開発を進めており、次の開発激戦区になりそうだ。

アルツハイマー病患者の脳で蓄積が見られるアミロイド斑は、アミロイド前駆蛋白(APP)がアルファ、ベータ、ガンマの三種類の酵素で切断されてできる。このうち、ベータ・セクレターゼは若年性アルツハイマー病の一部にも関係しており創薬ターゲットとして有望なのだが、ガンマ・セクレターゼ阻害剤と比べて開発が遅れていた。

ところが、ガンマ・セクレターゼ阻害剤はLY450139(semagacestat)の二本の第三相試験で症状がむしろ悪化する懸念が浮上、第二相では見られなかった皮膚腫瘍も増加した。BMS-708163も高用量を投与した群で同様な現象が見られたことがあるので、開発中止は止むを得ないところだろう。

MK-8931は第一相単回投与試験で脳脊髄液中のアミロイド・ベータ(1-40)と同(1-42)が9割以上減少、10分の一の量を反復投与した試験でも50~80%減少した。アミロイド・ベータをノックアウトしたマウスでは神経細胞の機能に異常が見られるようだが、MK-8931はマウス、ラット、サルの何れでも問題なかった。もしMK-8931が駄目ならベータ・セクレターゼ阻害剤による治療は無効と結論できるような、キチンとした試験薬を用意するところは流石、MSDだ。

今回の第二/三相試験では、先ずフェーズIIポーションで200人の軽中度アルツハイマー病を組み入れて、偽薬、12mg、40mg、60mgの何れかを一日一回投与し、安全性を検討する。良好ならフェーズIIIポーションで1700人を組み入れ、78週間後の認知機能、生活機能をADAS-CogとADCS-ADLというオーソドックスな病状評価スコアを用いて比較する。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:MK-8931の第二/三相試験の治験登録

リンク:
BMSのプレスリリース


【承認申請】


EUがPTC124の承認申請を受理

(2012年12月6日発表)

PTCセラピュティクスは、EUの薬品審査機関であるEMAがPTC124(ataluren)の承認申請を受理したと発表した。適応は、デュシェンヌ型筋ジストロフィーのうち、ジストロフィン機能喪失変異(ナンセンス・ミューテーション)を持つ患者。難病なのでキチンとした第三相試験で薬効を確認することを条件に承認される可能性もあるが、薬効の裏付けが惜しくもフェールした第二相試験なので、不透明だ。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーは筋力が低下し歩行能力やバイタルな機能が次第に低下する難病。米国の患者数は約1万人で、このうち約13%では、ジストロフィンの遺伝子の途中にpremature termination codon(PTC)と呼ばれる塩基配列があり、mRNAの翻訳が途中で終わってしまうためちゃんとしたジストロフィンを作れない。イスラエルでは5割と特にこのタイプが多い。PTC124はこのPTCを探知する機能を阻害する模様。

第二相試験では二種類の用量をテストしたが、6MWT(6分間歩行試験)の改善幅は偽薬比有意ではなかった。しかし、低用量群では、事前の解析計画に基づく調整を行なう前の素の数値が29.7m改善し、治験の仮説であった30mを若干下回っただけだった。解析方法の違いに関する詳細は不明であり、また高用量群は偽薬並みだったので、本当に効果があるのかどうかは分からない。

PTC124は嚢胞性線維症の第三相試験でも呼吸機能を若干改善したが有意ではなかった。何らかの作用を持つのだろうが、薬としては効果不足なのかもしれない。それでも、他社も同様な薬を開発しているので、やがてはもっと優れた薬が登場するかもしれない。

リンク:PTCセラピュティクスのプレスリリース

バイエルがEUでアイリーアをCRVO性黄斑浮腫に適応拡大申請

(2012年12月6日発表)

バイエルはEylea(aflibercept、和名アイリーア)をCRVO(網膜中心静脈閉塞症)患者の黄斑浮腫の治療薬としてEUで適応拡大申請した。滲出型加齢性黄斑変性の治療薬として承認されている坑VEGF薬で、同じ作用機序を持つLucentis(ranibizumab、和名ルセンティス)と適応症で肩を並べるために重要な用途のひとつ。

Eyleaはリジェネロン(Nasdaq: REGN)がトラップ技術を用いて開発した抗体医薬。VEGFの二種類の受容体の可変領域と免疫グロブリンの固定領域を細胞融合したもの。通常の抗体と異なった方法で作るため、既存の抗体医薬の特許を侵害せずに類似した薬を開発できる可能性を持つ、有望な手法だ。バイエルは米国外の権利を持っている。日本でも9月に承認された(参天製薬が販売、バイエルと共同販促)。

リンク:バイエルのプレスリリース

【今週の話題】


製薬会社や医学研究者の皆さん、インサイダー取引にご注意!

日本で今年、大手証券会社が絡むインサイダー取引事件が二件、表面化した。米国でもSEC(証券取引委員会)が強力な捜査陣をフルに活用して多くの犯罪を摘発している。気になるのは、高名な医学者や製薬会社職員が逮捕されたり、辞職したりする事件が増えていることだ。インサイダー取引というと証券売買を行わない人には無縁のように思われがちだが、場合によっては、新薬に関わる重大な未公開情報を気軽に漏らすだけでも犯罪になりうる。情報を求めてあの手この手で近寄ってくる人もいるので、注意が必要だ。

新興医薬品会社の開発品を巡るインサイダー取引で有名なのは、2011年に逮捕されたフロントポイント・パートナーズ社のDr. Joseph Skowronだ。同社はヘルスケア関連株式の投資で有名なヘッジファンド。Skowronはエール大で学位を取りハーバード大でレジデントとなったが金融界に転身した。逮捕の理由となったのは、ヒューマン・ジノム・サイエンシーズ(HGS)社が開発していたアルファ・インターフェロン新製剤の臨床試験で深刻な副作用が発生したことを知り、保有していた同社株を売却して空売りまでしたことだ。

この情報を漏らしたのは欧州最大の病院であるHopitaux de Paris-Pitie-SalpetrierのBenhamou博士で、先にSECに逮捕された。博士はこのアルファ・インターフェロンの治験実施委員会のメンバーで、同時に、フロントポイントのコンサルタントでもあった。報道によると、Skowronはこの新薬を高く評価し同僚が心配するほど多額の運用資産をHGS社株に投資していたが、Benhamou博士のおかげで副作用懸念が表面化する前に売却できたため、推定30億円の損失を回避できた。

Skowronがハーバードを辞めて転職したSAC Capitalという運用資産でトップクラスのヘッジファンドとその系列会社でも多くのインサイダー取引が発覚している。今年11月にはMathew Martomaが、エランが開発していたアルツハイマー病薬のインサイダー情報に基づいて保有株式を売却し200億円以上の損失を回避したとして、SECに告発された。売却したのは2008年で、彼は同年末に7億円以上のボーナスを貰ったとのことだ。

2011年にはFDAの新薬承認審査官がインサイダー取引で逮捕された。同僚から承認審査の情報を聞き出し、予め売買した上で、審査結果が発表され株価が動いた段階で反対売買を行うことを繰り返した。

最近、サノフィ、セルジーンなどの製薬会社職員がチームを組んで行ったインサイダー取引も摘発された。勤務先の会社が買収しようとしている会社の株式を他のメンバーに買わせて利益を山分けするという、違法行為がばれにくい工夫をしたが、最後は見つかった。報道を読むと一人当りの利益は数千万円に過ぎず、職を失うダメージのほうがはるかに大きかっただろう。

それと比べると、ヘッジファンドが絡む事件は巨額の資金が動く。Scrip誌によると、アメリカには機関投資家や証券会社にオピニオン・リーダー的な医学者を紹介するビジネスも存在するようだ。新薬開発の成否によって株価が大きく動く新興企業に投資する者にとって、治験を主導する医師は重要な標的であり、投資の損得や成果報酬の額が大きいだけに、情報を引き出すための予算やモティベーションも大きい。

思い出すのは2007年にASCO(米国臨床腫瘍学会)の学会誌に掲載された注意喚起だ。ヘッジファンドはあの手この手でアプローチし、巧みに情報を引き出すが、治験医はその新薬を開発している製薬会社に対して守秘義務を負うのが一般的であり、場合によってはインサイダー取引で摘発されることもあるので気をつけろ、という内容だ。ASCOを始め、多くの学会が学会発表の抄録を一般公開するようになったが、これも、インサイダー取引を回避するための配慮である。

研究者のスキャンダルというと収賄とか、不正論文が代表的だが、新興企業株式に絡むインサイダー取引はプロが潤沢な予算で行うのでトラップに嵌らないように、くれぐれも注意してください。

リンク:Journal of Clinical Oncologyの注意喚起

リンク:SECのMartoma告発に関するプレスリリース

今週は以上です。

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2012年12月2日

海外医薬品ニュース週末版 2012年12月2日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • ギリアッドの坑HCV薬の第三相試験が成功
  • パーキンソン病性精神疾患用薬の第三相試験が今度は成功
  • EUがMSD/エンドサイトの卵巣がん用薬の承認申請を受理
  • FDA諮問委員会が多剤耐性結核菌の治療薬を支持
  • 他に方法がなければtelavancinを院内感染肺炎に用いてもよい
  • 甲状腺髄様癌用薬が米国で承認
  • EUでEyeleaとConstellaが承認



【新薬開発】


ギリアッドの坑HCV薬の第三相経口剤併用試験が成功

(2012年11月27日発表)

ギリアッド(Nasdaq: GILD)はNS5Bポリメラーゼ阻害剤GS-7977(sofosbuvir)のC型慢性肝炎第三相試験が成功したと発表した。遺伝子型II型とIII型のHCVに感染しているインターフェロン不適患者を、GS7977(400mgを一日一回)とribavirin(体重に応じた量を一日二回)の経口剤二剤を12週間投与する群と偽薬だけの群に3対1の比率で無作為化割付けし、SVR12(治療完了の12週間後にウイルス検出不能になった患者の比率)を比較したもの。

結果は、併用群は78%がSVR12を達成、うちII型は93%、III型は61%だった。偽薬併用群は一人も達成しなかった。

GS-7977の第三相試験はII型・III型感染者の初回治療やI型等に感染している患者のインターフェロン・ribavirin試験も進行中。ギリアッドは2013年央に承認申請する予定。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

パーキンソン病性精神疾患用薬の第三相試験が今度は成功

(2012年11月27日発表)

ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)のセカンド・チャレンジが成功した。ACP-103(pimavanserin tartrate)のパーキンソン病性精神症状改善効果を調べた第三相試験で、主評価項目(第43日におけるSAPS-PD改善)に有意な治療効果が見られた。

偽薬効果が高く出てフェールした一本目の試験の経験を生かし、二本目は標準療法が励行されている国の医療施設だけで実施して、最初に二週間のランイン期間を設け、症状改善度合いは第三者が評価するプロトコルを導入した。精神疾患の治験は患者を厳選して自然に治る患者を除外することが肝要だ。

ACP-013は同社が発見した物質で5-HT2A受容体のアンタゴニスト/インバース・アゴニスト。バイオベイル(現ヴァレアント・ファーマスーティカルズ)が2010年に提携を解消したため、単独開発している。同社はもう一本、第三相試験を行う予定。

リンク:ACADIAのプレスリリース

【承認申請】


EUがMSD/エンドサイトの卵巣がん用薬の承認申請を受理

(2012年11月27日発表)

MSD(米国のメルク)と米国のエンドサイト(Nasdaq: ECYT)はMK-8109/EC145(vintafolide)の承認申請がEUに受理されたと発表した。アルカロイド系抗癌剤を葉酸(ビタミンB9)と結合した薬で、一次治療で白金薬に反応しなかった白金薬抵抗性卵巣癌の患者を、EC20(etarfolatide)という新開発のSPECT造影剤を用いて検査し、全ての標的病変で葉酸受容体陽性であった場合に、Doxil(doxorubicinのリポソーム製剤)併用で治療する。

MSDらは後期第二相試験等に基づいて条件付承認を求めた。この試験ではPFS(無増悪生存期間)がメジアン5.5ヶ月とDoxilだけの群の1.5ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.38、p=0.018だった。全生存期間の解析は何故かフェールしたが、患者背景に偏りがあったとのことだ。

卵巣癌はEUで年4万人、米国でも年2万人が新たに診断される。白金薬に感受することが多く、その場合は二次治療も白金薬が有効だが、抵抗性患者の二次治療オプションは限られている。MSDは今年4月に世界共同開発販売権を取得した。

リンク:両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が多剤耐性結核菌の治療薬を支持

(2012年11月28日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンが承認申請した多剤耐性肺結核治療薬がFDA諮問委員会の支持を受けた。承認審査期限は12月29日。承認なら40年振りの新薬となる。

このTMC207(bedaquiline)は結核菌のATP合成を阻害する。第二相併用試験で優れた効果を示したため、諮問委員18人全員が薬効を認めた。死亡者数が10人と対照群の2人より多かったせいか安全性を認めたのは11人に留まった。同社は2013年に第三相試験を開始して、7剤併用9ヶ月コースと標準療法18~24ヶ月コースの治療効果を検討する予定。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

他に方法がなければtelavancinを院内感染肺炎に用いてもよい

(2012年11月29日発表)

FDA坑感染症薬諮問委員会はTMC207を討議した翌日に、テラバンス(Nasdaq: THRX)のVibativ(telavancin)の適応拡大申請を検討した。15人中9人が否定的な評価を下したが、他の治療薬に適さない患者に限定して用いることは13人が支持した。

Vibativは2009年に米国でグラム陽性菌による複雑皮膚皮膚構造感染症の治療薬として承認。今回の適応は院内感染肺炎で、EUでは2011年に承認されている。MRSAに有効なのは長所だが、腎毒性が見られることが弱点。院内感染肺炎第三相試験は二本実施され、何れも奏功率がバンコマイシンと比べて非劣性だったが、一本では死亡率が高かった。アステラス製薬が世界共同開発販売権を持っていたが、2012年1月に提携解消となった。

リンク:テラバンスのプレスリリース

【承認】


甲状腺髄様癌用薬が米国で承認

(2012年11月29日発表)

米国のエグゼリキシス(Nasdaq: EXEL)は、Cometriq(cabozantinib)が進行性転移性甲状腺髄様癌向けにFDAに承認されたと発表した。新薬開発企業から医薬品会社にステージアップすることになる。この癌は米国の患者数が年500~700人の希少疾患で、月9900ドルで発売される模様だ。臨床試験では無増悪進行期間がメジアン11.2ヶ月と偽薬群の4.0ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.28、p<0.0001だった。

2011年に同じ適応症で承認されたアストラゼネカのCaprelsa(vandetanib)と同じVEGF受容体拮抗剤で、他のVEGF受容体拮抗剤と同様に腸の穿孔や出血が枠付警告されている。

CometriqはGSKがライセンスする権利を持っていたが行使せず、BMSが共同開発販売提携したが解消、エグゼリキシスの単独開発販売となった。今のところ市場規模は極めて小さいが、前立腺癌試験が成功すれば広がるだろう。

リンク:エグゼリキシスのプレスリリース

リンク:FDAのリリース

EUでEyeleaとConstellaが承認

(各2012年11月27日と28日発表)

バイエルは11月27日、Eyelea(afilbercept)が滲出型加齢黄斑変性治療薬としてEUで承認されたことを発表した。米国のリジェネロン(Nasdaq: REGN)から米国外の権利をライセンスしたもので、米国では2011年に承認、日本でも今年9月に承認され11月に参天製薬が発売した。AvastinやLucentisとの三つ巴のシェア争いがEUでも勃発することになる。

EyeleaはVEGFR1とVEGFR2のサブユニットを免疫グロブリンGの固定領域と細胞融合したもので、全てのVEGF-AとPIGFに結合する。効果はLucentisなどの坑VEGF抗体医薬と大差ないように感じられるが、治療を3ヶ月行ったら投与頻度を4週間おきから8週間おきに減らせることがキチンとした臨床試験で確認されていることが長所。

リンク:バイエルのプレスリリース

一方、スペインのアルミラル(ALM: MC)と米国のアイアンウッド(Nasdaq: IRWD)は28日に、Constella(linaclotide)が中重度便秘主導型過敏性腸症候群の治療薬としてEUで承認されたと発表した。アイアンウッドが開発し、今年8月に承認された米国ではフォレスト(NYSE: FRX)が、欧州ではアルミラルが、販売権を持っている。米国では慢性便秘の治療向けにも承認されている。

リンク:アルミラルのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年11月25日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月25日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • プレガバリン徐放製剤の第三相試験が今度は成功
  • 米国で細胞培養型季節性インフルエンザ・ワクチンが初承認
  • C型慢性肝炎治療の手助けにレボレードを使うことが米国で承認
  • EUがEliquisを心原性脳卒中の予防に適応拡大
  • EUがイグザレルトを静脈血栓塞栓治療に適応拡大
  • BASFがPronovaと買収で合意
  • ランバキシーがLipitorのGE品をリコール
  • 欧州の治療ガイドライン:淋病の治療は抗生剤の併用が必要
  • サウジアラビアの新コロナウイルス感染症は6例に増加



【新薬開発】


プレガバリン徐放製剤の第三相試験が今度は成功

(2012年11月19日発表)

ファイザーはpregabalin(JAN:プレガバリン)徐放製剤の第三相試験結果を発表した。一本目の部分癲癇試験は偽薬比有意な治療効果が見られなかったが、線維筋痛試験は成功、『臨床的反応喪失までの期間(time to loss of therapeutic response)』が偽薬比有意に優れていた。

この試験は精神科でいう継続療法の有効性を検討したもの。6週間の治療で症状が改善し治験を離脱しなかった患者(全患者の28%)を継続投与する群と偽薬にスイッチする群に無作為化割付し、二重盲検で症状悪化・治験離脱リスクを13週間に亘って比較した。継続投与群は54%しか悪化・離脱せず、偽薬群の71%を下回った。メジアン悪化・離脱期間は58日対22日だった。通算すると、19週間に亘って治療が奏功する確率は13%ということになる。

ファイザーは坑癲癇薬gabapentin(JAN:ガバペンチン)をヘルペス感染後神経痛など様々な用途に開発、やがて癲癇以外の用途が需要の大半を占めるようになった。Lyrica(pregabalin)はその後継薬で、当初は一日の服用回数を減らせると考えられていたが、実際はgapapentinと大差なく、線維筋痛の場合二回服用しなければならない。今回の新製剤は一日一回なので簡便だ。

米国の線維筋痛患者は約500万人と多く、競合薬は癲癇より少ない。このため、もし癲癇向けが承認されず線維筋痛だけでもある程度の市場はある。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【承認】


米国で細胞培養型季節性インフルエンザ・ワクチンが初承認

(2012年11月20日発表)

ノバルティスはFDAが細胞培養型ワクチン、Flucelvaxを18歳以上の季節性インフルエンザ予防に承認したと発表した。EUでは2007年に承認されているが米国で細胞培養型ワクチンが季節性インフルエンザに承認されたのは初めて。米国保健社会福祉省(HHS)の助成を受けてノース・カロライナ州で建設している工場で生産する予定。

通常のインフルエンザ・ワクチンは卵でウイルスの株を培養するが、数ヶ月掛かり効率が悪い。北半球では初秋に出荷を開始するが、生産に時間が掛かるので冬に流行しそうな株を春に予測しなければならず、自ずから、的中率が下がる。新型高病原性インフルエンザが流行した場合はワクチンを速やかに供給する必要があるので余計都合が悪い。新型ウイルスはヒトより先にトリで流行すると考えられているので、培養用の鶏卵の調達にも支障が生じるかもしれない。

このため、リードタイムが短い細胞培養型のワクチンを季節性インフルエンザ向けに実用化して、広範な人口における安全性を検証しておくことは重要だ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

C型慢性肝炎治療の手助けにレボレードを使うことが米国で承認

(2012年月日発表)

グラクソ・スミスクラインは、経口トロンボポエチン受容体作動薬Promacta(eltrombopag olamine、和名レボレード)をC型慢性肝炎治療の補助薬として用いることが米国で承認されたと発表した。

C型肝炎は血小板減少症を合併することがあり、一定水準以下の場合は標準療法が禁忌になる。副作用で更に減少するリスクがあるからだ。2008年に突発性血小板減少症(ITP)治療薬として承認されたPromactaを投与して血小板数を増やしておけば、C型肝炎の治療が可能になる。治療中に同時使用することも可能だ。

Promactaは肝臓で生産される巨核球のトロンボポエチン受容体を作動し、血小板への分化を促進する。血小板数が増えすぎてしまうことがあるので血小板数をモニターして用量を匙加減する。肝機能検査値異常等のリスクがある。

更に、薬物代謝酵素やOATP1B1トランスポーターに係る薬物相互作用リスクに注意が必要。日本人を含む東アジア人種は暴露が大きくなりがちなので低量で開始する(ITPの治療時は米国は一日50mgで開始、最大75mgだが日本は12.5mgで開始、最大50mg)。しかし、FDAのレーベルによると、C型肝炎の治療に用いる時は減量不要とのことだ。

リンク:GSKのプレスリリース

EUがEliquisの適応拡大を承認

(2012年11月20日発表)

BMSとファイザーは、EUがXa阻害剤Eliquis(apixaban)を非弁膜性心房細動で高リスクの患者の脳卒中予防に用いることを承認したと発表した。EUでは2011年に整形術後の静脈血栓塞栓予防用途で既に承認されているが、今回の適応は患者数が多く、長期服用し、治療の便益が大きいため、市場性がはるかに大きい。臨床試験でワーファリンより脳卒中、大出血事故、全死亡例が少なかったことが販売の追い風になりそうだ。

Eliquisは米国では未承認。整形術後静脈血栓塞栓予防は米国で実施された第三相試験がフェールした。脳卒中予防はFDAが心血管アウトカム試験の実施方法の厳格性に疑問を持っていることなどが理由と推測されるが、前例を見ると、承認審査に時間が掛かっても最後は承認されている。Eliquisの場合、第二巡の審査に入ったので、来年3月17日の審査期限に承認される可能性は十分ありそうだ。

リンク:BMS/ファイザーのプレスリリース

EUがイグザレルトを静脈血栓塞栓治療に適応拡大

(2012年11月20日発表)

バイエルはEUがXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を深静脈血栓・肺塞栓の治療と再発予防に用いることを承認したと発表した。

EUにおけるXareltoの適応症と用法は、整形術後の静脈血栓塞栓予防(10mg一日一回、2~5週間)、非弁膜性心房細動で高リスク患者の脳卒中予防(20mg(日本は15mg)、但し腎機能低下は15mg(同10mg)、一日一回、投与期間制限無し)、そして今回の、急性深静脈血栓症治療・再発予防(最初の三週間は15mgを一日二回、その後は20mgを一日一回、治験では12ヶ月投与)と三種類に増えた。

リンク:バイエルのプレスリリース

【製薬会社の動き】


BASFがPronovaと買収で合意

(2012年11月21日発表)

ドイツの化学会社BASFは、ノルウェーの製薬会社Pronova BioPharmaと買収で合意した。一株当り12.5ノルウェークローネ、企業価値総額では48億4500万ノルウェークローネ(約700億円)で買収する。2013年1月に完了する計画。

Pronovaはノルウェーの石油会社ノルスクヒドロからスピンアウト、高純度オメガ3脂肪酸製剤を開発し、高トリグリセライド血症治療薬として欧州ではソルベイ、米国ではGSKが販売している。日本でも今年9月に武田薬品がロトリガ粒状カプセル名で高脂血症向けに承認を取得した。

BASFは医薬品事業から撤退したと思っていたが、APIと同じと考えているのかもしれない。

リンク:BASFのプレスリリース

ランバキシーがLipitorのGE品をリコール

(2012年11月23日発表)

第一三共系のインドのGE薬メーカー、ランバキシーは米国でatorvastatin(ファイザーのLipitorのGE品)をリコールした。1mm未満の小さなガラス粒子の混入が見つかったとのことだ。

米国では医薬品の信頼性を揺るがすような異物混入事件や製造基準(cGMP)違反事件が続発している。ランバキシーはFDAがcGMP違反を理由に輸入禁止処分を断行し、昨年12月に是正措置で和解したばかりである。cGMP違反も、今回のリコールも、予防的措置であり患者にとって深刻な懸念ではないとのことだが、十分な対策を採らないとトラブルが次第に深刻化していくことが分かる。

同社はファイザーとの特許裁判で和解に達し、米国、欧州などで他社に先駆けてLipitorのGE品を発売、大きな利益を得た。一方で、同社やヘパリンの異物混入事件などが契機となって、医薬品や原体の安全性や中国、インドの工場の監視状況に関する米国政府・議会の問題意識が高まっている。

リンク:ランバキシーの発表(米国法人のウェブサイトのトップページ)

【病気と治療法に関するニュース】


欧州の治療ガイドライン:淋病の治療は抗生剤の併用が必要

(2012年11月15日発表)

IUSTI(国際性感染症学会)は淋病の治療に関する2012年版ガイドラインを発表した。成人の非複雑性淋菌感染症で、抗菌剤感受性が明らかでない場合は、ceftriaxone(500mg)とazithromycin(2g)の併用が推奨されている。

WHOの推定によると2008年には1億例を超える成人が淋病感染症を発症、うち欧州は340万人を占めた。これは、性感染症の中ではクラミジアに次ぐ多さだ。これまでは広域セフェム系のcefiximeまたはceftriaxoneによる一次治療が推奨されてきたが、前者は耐性菌が増加し、後者も三種類のXDR(強薬物耐性)株が初めて発見されたため、今回のガイドライン改訂に至った。

リンク:Eurosurveillanceの記事

リンク:IUSTIの淋病治療2012年版ガイドライン(pdfファイル)

サウジアラビアの新コロナウイルス感染症は6例に増加

(2012年11月23日発表)

WHOは、サウジアラビアで発生した新型コロナウイルスの感染者が6人に増加したことを明らかにした。診断が確定していない2例も含めれば8人となる。今のところ流行とは呼べないが、WHOは全ての加盟国に監視を呼びかけている。

この新型ウイルスは2002年に中国などで流行したSARSと類似した症状を起こす模様で、重症急性呼吸器症候群や腎不全を合併する。最初に発見された症例は49歳の男性カタール人で、サウジから帰国後の9月3日に発症、ドーハでICUに入った。11日に英国へ移送され、ウイルスがサウジアラビアの死亡例と99.5%一致することが確認された。

その後、更に4人の感染が確認され、累計6例となった。うちサウジアラビアが4例(死亡2例)、カタールが2例。サウジの4例中2例は同居家族で、この家族からは別の2人も発症、一人が死亡したが、まだ診断は確定していない。

WHOは、情報が限られている現状では二ヶ国以外にもウイルスが広がっていると保守的に考え、狐発的な肺炎例でも検査を検討するよう呼び掛けている。あらゆるクラスターでの重症急性呼吸器感染症、医療従事者における重症急性呼吸器感染症を徹底的に調査すべきとしている。

リンク:WHOの発表

今週は以上です。

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2012年11月18日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月18日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • AASLD:アボット、ギリアッド、BMSの抗HCV薬併用試験
  • アバスチンの神経膠芽腫一次治療RCT試験は未だ延命効果を示せず
  • FDA諮問委員会がHeplisavに厳しい評価
  • CHMPがサノフィ等の新薬に肯定的評価
  • Forxiga(dapagliflozin)がEUで承認
  • バイエルがイグザレルトの冠動脈疾患・末梢動脈疾患試験を開始へ
  • EUがカルシトニンのリスクを再確認



【新薬開発】


AASLD:アボット、ギリアッド、BMSの抗HCV薬併用試験

(2012年11月11-13日発表)

AASLD(米国肝臓疾患学会)でC型肝炎のDAA(直接作用的抗ウイルス薬)併用試験の結果が数多く発表された。幾つかは既に第三相試験が始まっているが、アボットも第三相試験の着手を正式に発表した。ABT-450(プロテアーゼ阻害剤)とABT-267(NS5A阻害剤)、ritonavirの三剤合剤と、ABT-333(ポリメラーゼ阻害剤)、ribavirinの総計5剤を12週間または24週間、経口投与するもので、1型ウイルス感染者の一次治療試験、二次治療試験などが行われる。2013年から2014年にかけて結果が判明しそうだ。

第二相試験ではSVR12が一次治療で97.5%(79人中77人)、一次治療不応患者(ヌルレスポンダー)の二次治療試験で93.3%(45人中42人)だった。インターフェロンを使わずに、経口剤だけで、全12週間のコースでこれだけの成果が上がったのは驚きだ。一方で、前回書いたように、一次治療なら5剤も併用しなくてもある程度の成果が上がるのではないか、という印象を受ける(後述)。

尚、SVRは持続的ウイルス学的奏功率の略で、通常は24週間経過後に計測するが、12週経過後のSVR12で代用する動きが広がった模様で、アボット、BMSなどの第三相試験はSVR12を主評価項目にしている。

リンク:アボットのプレスリリース(第三相試験の概要)

BMSも様々な第二相併用試験を行っていて、AASLDでは新薬三剤の併用試験、一次治療不応患者に対する新薬二剤併用試験、同じく新薬二剤とインターフェロン、ribavirinの四剤併用試験のデータが発表された。同社はNS5A複製複合体阻害剤の開発で他社に先行しており、昨年、BMS-790052(dacltatasvir)が第三相入りした。

同社で次に開発が進んでいるのはNS3プロテアーゼ阻害剤BMS-650032(asunaprevir)で、日本でこの二剤だけを投与する第三相試験が始まった。二剤で足りるのか疑問を感じるが、着眼点は、まず、日本はインターフェロンやribavirinの不耐が少なくないこと。検査の普及が遅れたせいか高齢で治療を開始する患者が多いことが一因と言われている。

第二は遺伝子型Ib型感染者が多いこと。Ia型より反応が良く、今回AASLDで発表された海外の第二相試験でも、Ib型は二剤併用で38人中27人がSVR12を達成した。一方、Ia型はブレークスルー(ウイルス量の急増)が多く、二剤併用の開発は中止された。海外でも今年、第三相入りしたが、基本はこの二剤とインターフェロン、ribavirinの四剤併用で、二剤併用はインターフェロン、ribavirin不耐患者だけだ。

この二剤とNS5Bポリメラーゼ阻害剤のDAA三剤を投与する試験の結果も発表された。I型の一次治療12週間コースでSVR12が94%というもので、症例数が少ないとは言え中々良い。第三相入りは2014年の見込みとのことなので、まだ先だ。

リンク:BMSのプレスリリース(二次治療四剤併用)

リンク:BMSのプレスリリース(Ib型二次治療二剤併用)

リンク:BMSのプレスリリース(一次治療DAA三剤併用)

先週号で書いたようにギリアッド(Nasdaq: GILD)も第三相試験をロンチした。NS5B阻害剤GS-7977(sofosbuvir)とNS5A阻害剤GS-5885の合剤と、この合剤とribavirinの三剤併用の、各12週間コースと24週間コースを比較する。ギリアッドの合剤は一日一回服用なので簡便だ。I型一次治療の第二相試験では12週間コースで25人全員がSVR4を達成した。尤も、症例数が少なく治療完了後の追跡期間が短いので過大評価はできない。

ribavirinは多くの国でGE薬が発売されたが、インターフェロンは依然として高価で、DAAも高価だろう。DAAの併用となると尚更である。もしギリアッドの三剤併用レジメンの効果がアボットの5剤併用と大差ないならば、おそらく副作用は前者のほうが小さいだろうから、前者の方が好まれるだろう。一つ一つの薬の値段が大差ないとしたら尚更である。

C型肝炎の治療ではウイルス量を定期的に検査して治療成果を確認し、不十分なら治療期間を延ばしたり薬をスイッチしたりするresponse-guided-therapyが一般的になっている。作用機序が異なる複数の薬が実用化されれば、三剤で開始して不十分ならもう一剤追加するようなことも可能になるだろう。これらのことから、私としてはギリアッドの三剤併用レジメンを応援したい。但し、ギリアッドのほうが第二相試験の症例数が少ないように感じられるので、開発リスクはギリアッドのほうが高そうだ。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

アバスチンの神経膠芽腫一次治療RCT試験は未だ延命効果を示せず

(2012年11月17日発表)

ロシュはAVAglio試験の全生存中間解析が有意水準に到達しなかったと発表した。神経腫瘍学会で発表された由だ。この試験はAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の第三相試験で、神経膠芽腫の一次治療として、RCT(放射線療法とtemozolomideによる化学療法)に追加する効果を検討したもの。主評価項目のうち、治験医評価に基づくPFS(無増悪生存期間)はハザードレシオ0.64、p<0.0001と成功したが、今回公表された全生存期間の中間解析は各0.89、p=0.21となり、未達だった。

中間解析の検出力がどの程度なのか分からないが、ハザードレシオ0.89というのは案外だ。二次的評価項目である1年生存率も72%と偽薬群の66%を若干上回る程度で、p=0.052に留まった。2013年に予想される最終解析がフェールする可能性がありそうだ。同様な試験がもう一本進行しているが、もし同じ結果だとしたら、既に承認されている二次治療薬としての効能にも疑念が生じそうだ。

AvastinはVEGFに結合する抗体で、VEGFが血管新生を促すのを妨げる。血管新生が沈静化すると血管や癌細胞からの水分浸出が減少するため、造影剤の浸出・拡散が減少し、MRI画像上、癌が小さくなったように見えてしまう恐れがある。このため、MRI画像に基づく増悪・進行の評価だけでなく、寿命が延びることを確認する必要がある。乳癌では腫瘍がAvastin抵抗性を取得して治療前より早く成長するようになる疑いが浮上しており、血管新生阻害剤は延命効果を確認することが重要だ。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がHeplisavに厳しい評価

(2012年11月15日発表)

ダイナバックス(Dynavax)社はB型肝炎予防用ワクチンHeplisavを4月に承認申請したが、諮問委員会の評価は厳しかった。B型肝炎のワクチンは既に存在するので、安全性に少しでも懸念があるなら追加試験を実施して確認せよ、という考え方のようだ。承認されないリスクが高まったことから、同社の株価は半減した。

HeplisavはTLR9を作動する強力なアジュバントを用いており、既存のワクチンの3回より少ない2回接種で十分な抗体を誘導できる。小児用は既に混合ワクチンが普及しているため、ダイナバックスは18歳から70歳の人口をターゲットとして承認申請した。効果の点では治験で既存のワクチン並みであったため、諮問委員14人中13人が支持したが、安全性は支持5人、反対8人、棄権1人と否定的な委員が多数を占めた。ギラン・バレー症候群とウェゲナー肉芽腫が各一例、発生したことがネックになった模様だ。

HeplisavはMSD(米国メルク)が2007年にライセンスしたが、翌年、権利返還した。ダイナバックスは用途をアジアに旅行する人や医療従事者、軍事関係者などに絞り込むことを検討したことがあるが、結局、広範な人口に承認申請した。

リンク:ダイナバックスのプレスリリース

CHMPがサノフィ等の新薬に肯定的評価

(2012年11月16日発表)

CHMPは11月15日に以下の評価を決定した。肯定的評価を受けたものについては2~3ヶ月以内に承認されることになるだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース

新薬の肯定的評価_____________

Lyxumia(lixisenatide)

サノフィがZealand Pharmaからライセンスした二型糖尿病用薬。exendin誘導体で、ByettaやBydureonと同様に、GLP-1受容体を作動してインスリンの分泌を刺激し、グルカゴンの分泌を抑制し、胃から腸への食物の移行を遅らせ、食欲を抑制する。投与頻度は一日一回。GLP-1作用剤はBydureonのような週一回投与型が実用化されているので、今の製剤では競争力が低い。

主な有害事象は悪心、嘔吐、SU剤やインスリン併用時の低血糖症などで、他のGLP-1作用剤と同様。CHMPのリリースによると、潜在的なリスクとしては、甲状腺髄様癌、膵炎、悪性新生物、一時的な心拍数増加があり、動物試験では催奇性があった。

リンク:Zealandのプレスリリース(サノフィのプレスリリースはpdfファイルなのでこちらを選択)

Zaltrap(aflibercept)

サノフィがリジェネロン(Nasdaq: REGN)からライセンスした抗VEGF抗体。大腸癌の二次治療薬としてirinotecanなどを用いるFOLFIRIレジメンと併用する。米国では8月に承認されたが、価格が高いため値下げを余儀なくされたようだ(11月11日号参照)。

リンク:リジェネロンのプレスリリース

Bexsero(B群髄膜炎菌ワクチン)

ノバルティスが買収したカイロン社の開発品。侵襲性髄膜炎菌性疾患を予防するワクチンはA群、C群、W135に有効なものが存在するが、B群は初めて。種類が多すぎてこれまではカバレッジの十分なワクチンを作れなかったようだ。欧州はワクチンの普及で発生数が減少したが、B群はむしろ増加している模様であり、年3000-5000人が発症して1割弱が死亡、1-2割が永続的な障害を被るとのこと。

Bexseroが売れるかどうかは、EU加盟国の政府がこの被害者数を多いと考えるか、少ないと考えるか次第で、接種が勧奨されれば年商20億ドルも可能だろう。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:EMAのプレスリリース

適応拡大肯定的評価_____

Zytiga(abiraterone)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのテストステロン合成阻害剤。前立腺癌の化学療法二次治療薬として承認されているが、一次治療に用いることが支持された。転移性去勢抵抗性でアンドロゲン枯渇療法がフェールした、症状がない又は軽い、化学療法の適応にならない患者が対象。

Intelence(etravirine)

ジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤。小児(6歳以上)患者の二次治療に用いることが支持された。

Prevenar 13(侵襲性肺炎球菌性疾患予防用ワクチン)

ファイザーのベストセラー・ワクチンの適応年齢が6週児から17歳までと50歳以上に拡大することが支持された。

Exjade(deferasirox)

ノバルティスの経口キレート剤。輸血に依存していない(比較的軽症の)地中海貧血症の患者の鉄過剰症を治療する適応拡大が支持された。同社の点滴用Desferal(deferoxamine)が禁忌または不十分な10歳以上の患者が適応になる。Exjadeは毎日長時間点滴しなくて良い経口剤であることが長所だが、今回の適応範囲を見ても、deferoxamineの完全な代替品ではないようだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

否定的評価_____________

Istodax(romidepsin)

セルジーン(Nasdaq: CELG)がGloucester Pharmaceuticalsを買収して入手したHDAC阻害剤で、元々は旧藤沢薬品が発酵天然物からスクリーニングしたもの。米国では再発性皮膚Tセルリンパ腫と再発性末梢Tセルリンパ腫の二つの適応症で承認されているが、EUは後者だけ承認申請され、7月に否定的評価を受けた。セルジーンは再審請求したが、結論は変わらなかった。延命効果が不明なことやcGMP(生産基準)違反が解消されていないことが理由。

EUも米国も迅速承認制度を設けているが、一部の疾患では評価が食い違うことがあり、予測可能性に難がある。

【承認】


Forxiga(dapagliflozin)がEUで承認

(2012年11月14日発表)

BMSがアストラゼネカと共同開発しているSGLT2阻害剤、Forxigaが二型糖尿病治療薬として承認された。他の二型糖尿病新薬と同様に、metforminが不適な患者だけが対象。一日一回、経口投与する。インスリン服用患者に追加することも可能。

血液中のグルコースは腎臓で一旦濾過された後、SGLTによって尿から血液に戻される。Forxigaは専ら腎臓に分布するSGLT2を選択的に阻害して、SGLT1阻害に伴う胃腸副作用を回避しながら、糖の排泄を促す。腎臓では一日に180gのグルコースが濾過されるが、Forxigaを服用するとこのうち35-68gが排泄され、これは160カロリー、20分間の中程度エクササイズに相当する。このため、穏やかな体重抑制作用を持つ。

泌尿器の糖が栄養となって泌尿器・性器感染症を発症するリスクがある。治験で乳癌や膀胱癌が増加したため、疫学研究を行う。

リンク:BMSのプレスリリース

【大規模試験】


バイエルがイグザレルトの冠動脈疾患・末梢動脈疾患試験を開始へ

(2012年11月13日発表)

バイエルはXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)のアウトカム試験、COMPASSを開始すると発表した。数々の心血管アウトカム試験を手掛けたPopulation Health Research Instituteと共に、約2万人の冠動脈疾患、末梢動脈疾患の患者を組入れて、Xarelto単剤やアスピリン併用の効果をアスピリンと比較する。

この用途ではPlavix(clopidogrel)のモノセラピーが承認されているが、もしXarelto・アスピリン併用が成功すれば快挙である。Xa阻害剤は出血リスクが問題だが、この試験では、Xarelto単剤群は5mgを一日二回、併用群は2.5mg一日二回と用量を加減している。尤も、2.5mg一日二回は亜急性期冠状疾患試験と同じなので、出血事故が増加するリスクが無い訳ではないだろう。尚、アスピリンは一日100mgなので、治験参加者は欧州やアジア中心になるのではないか。

リンク:バイエルのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EUがカルシトニンのリスクを再確認

(2012年11月16日発表)

EMAはカルシトニン含有薬の便益とリスクを再検討し、長期使用すると癌のリスクが若干増加するため、骨粗鬆症の治療に用いるべきではないと7月に結論した。再審査請求があった模様だが、結論は変わらなかった。パジェット病の治療などに短期的に用いることだけが認められる。経口剤ではリスクが0.7%増加するのに対して、骨粗鬆症治療に用いられる点鼻用製剤は2.4%と高かった。

リンク:EMAのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年11月11日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月11日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • AASLD:インターフェロン無しでもC型肝炎を治療できる!(アボット、ベーリンガー、ギリアッド)
  • AHA:serelaxinは急性心不全の呼吸困難を改善
  • AHA:アムジェンの抗PCSK9抗体の第二相試験データ
  • アブラキサンは転移性膵癌にも有効
  • ムコ多糖症IV-A治療薬が第三相試験で歩行能力を改善
  • MSDの睡眠薬が承認申請
  • FDAの諮問委員会がノバルティスとノボの新薬を支持
  • ファイザーの経口抗リウマチ薬が承認
  • VotubiaがEUでも承認
  • サノフィが大腸癌用薬の価格を半値に引き下げ
  • 胎盤幹細胞療法の死亡報道



【新薬開発】



AASLD:インターフェロン無しでもC型肝炎を治療できる!

(2012年11月10日発表)

AASLD(米国肝臓疾患学会)で、経口剤だけを使った慢性C型肝炎の治験結果が続々と発表される。複数の会社の開発品が第三相試験入りする見込みであり、順調なら2014年にも実用化されそうだ。

まず、アボットの後期第二相試験中間解析。I型ウイルス感染者約450人を組入れて、3~4種類のメカニズムの異なる薬を様々に組み合わせて8週間または12週間治療したところ、投与完了後12週間経った時点の持続的ウイルス学的奏功率が初回治療患者で85~89%、ヌル・レスポンダー(初回治療に反応しなかった二次治療患者)でも89~93%と極めて高い成果を上げた。Ib型は96~100%、Ia型でも79%~96%。数値が一番よいのは4剤併用12週間だが、3剤併用でも、あるいは4剤併用8週間コースでも、それほど見劣りしない。

試験薬はribavirin以外は未承認で、ABT-450(プロテアーゼ阻害剤。ritonavirでブーストする)、ABT-267(NS5A阻害剤)、ABT-333(ポリメラーゼ阻害剤)。ribavirin以外の三剤を併用した群も87%と中々良かったので、ribavirin不耐患者には有力な治療オプションになりそうだ。尚、C型肝炎やHIV/AIDSなどの領域では、開発品同士の併用試験を行うことが認められている。

アボットは第三相試験に進む考え。どの治療プロトコルを選ぶか悩ましいが、三剤8週コースを想定して開始し、反応が不十分ならもう一剤追加するなり12週間に延長するなりするResponse-Guided Treatmentが好ましいだろう。不必要な多剤併用は忍容性を悪化させ医療経済的にも不適切だからだ。

リンク:アボットのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムの後期第二相SOUND-C2試験の中間・最終解析も発表される。初回治療を受けるI型患者362人を組入れて、プロテアーゼ阻害剤BI 201335(faldaprevir)とポリメラーゼ阻害剤BI 207127そしてribavirinの三剤で28週間治療したもの。肝硬変合併など難治性患者も組入れたり四剤併用ではないことが影響したのかアボットの試験ほど奏功率が高くないが、治療オプションの一つにはなりそうだ。同社も間もなく第三相試験を開始する予定。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

抗HIV薬で大きなシェアを持つギリアッド(Nasdaq: GILD)もC型肝炎に力を入れており、経口剤だけの第三相試験を一足早く開始した。ポリメラーゼ阻害剤GS-7977(sofosbuvir)とNS5A阻害剤GS-5885の合剤と更にribavirinを服用する三剤併用で12週間コースと24週間コースをテストする。

AASLDでは第二相ELECTRON試験の中間解析結果が発表される。プレスリリースによると、初回治療患者25人では三剤併用治療完了後4週間経った時点で25人全てがウイルス探知不能だった。小規模な試験なので過大評価はできないが、アボットの試験とは異なりプロテアーゼ阻害剤を使わずに成果を上げたことに驚かされる。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

AHA:serelaxinは急性心不全の呼吸困難を改善

(2012年11月7日発表)

RLX030(serelaxin)の第三相急性非代償性心不全試験の詳細がAHA科学部会とLancet誌で発表された。二種類の主評価項目のうち呼吸困難症状をVAS(ビジュアル・アナログ・スケール)で計測しAUC(曲線下面積)を群間比較した解析ではp=0.007と有意に優れていたが、もっと分かりやすい、中程度以上改善した患者の比率(奏功率)はserelaxin群27%、偽薬群26%、p=0.7で殆ど効果がなかった。

前者は5日間、後者は24時間のデータなので、serelaxinの効果は24時間以上経ってから発揮されると考えることもできるが、ある程度の効果はあるが大きな効果はないと考えることもできる。症状改善効果は他の評価項目でも見られるので、結局、この「ある程度の効果」が臨床的にあるいは薬物経済学的にどの程度意味があるのかが論点になりそうだ。各種医療報道を読むと、エキスパート評価は区々のようである。

主評価項目の解析計画は、アルファを0.025ずつ配分し、片方だけが下回った場合でもその評価項目に関しては仮説が立証されたとみなす。二次的評価項目は、退院且つ生存期間が両群ともメジアン48日でフェール、60日心血管死・心不全腎不全再入院率も13.2%対偽薬群13.0%でフェールした。一方で、180日心血管死は36例(6.1%)対55例(9.6%)でp=0.028、安全性評価項目の180日死亡は42例(7.3%)対65人(11.3%)でp=0.02と、死亡リスクに関しては良さそうな数値が出た。

尤も、上位の解析がフェールしたことや、イベント数が少なくp値がそれほど低くないことを考えれば、退院を早めることができず再入院も防げないのに救命作用を発揮するという不可思議な現象を深く考える必要はないだろう。死亡例に関する詳細解析結果が明らかになるまでは、serelaxinは穏やかな呼吸困難改善作用を持ち副作用で早死にするリスクは小さい、位に受け止めておけばよいだろう。

serelaxinは天然のペプチドホルモンを遺伝子組替えで製造したもので、第三相試験では30mcg/kg/日を48時間点滴静注した。ノバルティスが2010年に買収したCorthera社のパイプライン。同社は承認申請に向けて審査機関と相談する考えだ。症状改善作用だけに基づいて承認される可能性はあるが、この作用が不十分と評価されるようなら承認されないリスクがあり、大きくないと評価されるようなら承認されても使われないリスクがありそうだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:Lancet論文の抄録

AHA:アムジェンの抗PCSK9抗体の第二相試験データ

(2012年11月5-6日発表)

異脂血症治療薬はCETP阻害剤の開発が行き詰る一方で、ISIS/サノフィがApoB-100アンチセンス薬mipomersenを欧米で承認申請し、ACCで抗PCSK9抗体の治験データが発表されるなど、新しいメカニズムの注射用薬の開発が活発化している。AHAではアムジェンの抗PCSK9抗体MG145の様々な第二相高脂血症治療試験の結果が発表されると共に、著名医学誌三誌に論文が刊行された。

スタチン服用者に追加投与した二本の試験では、6種類の用量・投与頻度でLDL-C値が偽薬比42~66%低下した。不耐患者を対象とした試験では、ezetimibe併用時の有効性も窺われた。AMG145は皮注で二週間に一回と四週間に一回の投与法をテスト、前者のほうが効果が高そうだが、後者でもかなりの効果がありそうだ。忍容性はそれほど悪くなさそうだ。

PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)はLDL-C受容体に結合して零落を誘導する。ミスセンス多型を持つ人は心血管疾患のリスクが低いと言われている。抗PCSK9抗体がPCSK9に結合するとLDL-C受容体が長持ちするため、血液中のLDL-Cが肝臓など組織の中に取り込まれるのを促進することができる。リジェネロン(Nasdaq: REGN)がサノフィと提携して、今年7月にREGN727/SAR236553の第三相試験を開始した。

AMG145も早晩、第三相入りするだろう。大規模なアウトカム試験で心血管疾患抑制効果を確認する必要があるだろうから、実用化までは時間が掛かりそうだ。

リンク:アムジェンのニュースページ

リンク:Lancet誌治験論文

リンク:Circulation誌治験論文(オープンアクセス)

リンク:JAMA誌治験論文(オープンアクセス)

アブラキサンは転移性膵癌にも有効

(2012年11月9日発表)

セルジーン(Nasdaq: CELG)は、Abraxane(paclitaxelナノパーティクル、和名アブラキサン)の第三相転移性膵臓線腫一次治療試験が成功したと発表した。gemcitabineと併用した群の全生存期間がgemcitabine単剤群を有意に上回った。データは来年1月のGI ASCO(米国臨床腫瘍学会の胃腸癌シンポジウム)で発表される予定。

膵癌の試験は中々成功せず、Tarceva(erlotinib、和名タルシバ)は治験で寿命をほんの少し延ばしただけだったが承認され広く用いられるようになった。Abraxaneの試験はgemcitabine・Tarceva併用とは比較していないが、患者にとってはこの比較が最も重要なので、どんなデータが発表されるか注目される。

リンク:セルジーンのプレスリリース

ムコ多糖症IV-A治療薬が第三相試験で歩行能力を改善

(2012年11月5日発表)

カリフォルニアの希少疾患用薬開発企業であるバイオマリン(Nasdaq: BMRN)がBMN-110の第三相試験の結果を発表した。ムコ多糖症IV-A型の176人を偽薬、2mg/kgを2週間に一回、同じ量を週一回投与する3群に無作為化割付して24週間治療したところ、6分間歩行テストの成績が各14m、15m、37m改善し、週一回投与群は偽薬比有意に改善した。一方、二次的評価項目は3分間階段テストも努力肺活量(FVC)もフェールした。バイオマリンは2013年から承認申請を開始する予定。

ムコ多糖症IV-A型はN-acetylgalactosamine 6-sulfatase(GALNS)の欠乏でケラタン硫酸が蓄積し、骨に異常が出る。世界で400人の患者が診断されている。I型、II型は酵素補充療法が日本を含む多くの国で実用化されたが、IV-A型の酵素補充療法はBMN-110が初めて。バイオマリンはムコ多糖症I型治療薬AldurazymeやVI型治療薬Naglazymeを開発した実績を持つ。

リンク:バイオマリンのプレスリリース

【承認申請】


MSDの睡眠薬が承認申請

(2012年11月8日発表)

MSD(米国メルク)はFDAがMK-4305(suvorexant)の承認申請を受理したと発表した。オレキシン受容体拮抗剤という新しい作用機序を持つ不眠症治療薬で、MSDは薬効確認試験二本、長期投与・離脱試験一本、翌日運転試験二本を実施、総睡眠時間を延ばし入眠潜時を短縮する作用と安全性を確認した。

オレキシンは外側視床下部で分泌される神経ペプチドで、ナルコレプシーという昼間話している時でも急に眠ってしまう疾患では、オレキシンが不足していることが多い。副作用でナルコレプシーになったら困るが、これまでのところ情動性脱力発作は発生していないようだ。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDAの諮問委員会がノバルティスとノボの新薬を支持

(2012年11月17-18日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、17日はノバルティスのクッシング症候群治療薬Signifor(pasireotide)、18日はノボ ノルディスクのinsulin degludecについて、意見を聞いた。

Signiforは10人の委員全員が便益がリスクを上回ると判定した。クッシング病は副腎皮質刺激ホルモンの過剰分泌により様々な症状が発生する。治療には同社のSandostatinが用いられるが、Signiforはより多くの種類のソマトスタチン受容体を作動することができる。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

degludecは事前にFDAのブリーフィング資料が公表され、心血管疾患リスクが論点になっていることが判明、ノボの株価が急落した。私は10月28日号で、治験成績が悪い可能性だけでなく、心血管アウトカム試験が実施されないリスクをFDAが懸念している可能性もあると指摘したが、後者が正解のようだ。データの上では心血管疾患リスクが対照群(偽薬、活性薬)より高かったが有意ではなく、程度も少し高いだけだ。誤差である可能性も否定できず、真実であったとしても深刻な懸念ではないだろう。

一方で、経口剤と異なりインスリンの心血管アウトカム試験は活発ではない。偽薬を長期間毎日注射させるのは不適当なので活性薬対照試験を行うことになるが、実薬同士の比較は差が生じ難いので、大規模、長期になってしまう。

私はノボがアウトカム試験にコミットすれば諮問委員会の支持を得られると予想していたので、支持8人、反対4人と票が分かれたのが意外だった。アウトカム試験については12人全員が承認後に実施すべきと答えた。

株価は好感したが、FDAの諮問委員会は決定機関ではなく文字通りの諮問機関なので、支持が反対を上回ってもあまり意味がなく、票が分かれたことのほうが重要だ。今後、ノボとFDAがアウトカム試験のデザインや完了時期について協議し、話がまとまればdegludecが承認されるだろう。但し、今回の諮問委員会の騒動はイメージダウンになる公算があり、サノフィのLantusから大きなシェアを奪うのは難しくなった。Lantusは2015~16年にバイオシミラーが発売される可能性もあり、ノボは早く発売する必要がある。

degludecは同社のアシル化技術を応用して開発した長期作用性インスリンで、超速効性インスリンを配合したプリミックスも同時に承認申請された。

リンク:ノボのプレスリリース

【承認】


ファイザーの経口抗リウマチ薬が承認

(2012年11月6日発表)

FDAは、ファイザーの経口抗リウマチ薬Xeljanz(tofacitinib)を承認した。この用途のJAK阻害剤は初めて。強力な免疫抑制作用を持つので、バイオ薬や他の強力免疫抑制剤との併用は禁忌。第三相試験では5mgと10mg(何れも一日二回服用)がテストされたが、5mgしか承認されなかった。臨床試験では、強力免疫抑制剤には付き物の、日和見感染や癌、リンパ腫などの増加が見られた。

JAKはIL受容体が発する細胞内シグナル伝達に関与するキナーゼ。そのせいか、Xeljanzの臨床的効用・副作用はアクテムラ(抗IL-6受容体抗体)とよく似ており、アクテムラの経口版と考えれば覚えやすい。

報道によるとファイザーは月2000ドル強の価格で発売する模様で、バイオ薬よりやや低いが高価な薬であることに変わりはない。尤も、バイオシミラーとは異なりxeljanzのような小分子薬のGE薬は安価なので、十数年後には豊かでない人でも治療を受けられるようになるだろう。また、他社も競合品を開発するだろうから、治験に参加する方法もあるだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ファイザーのプレスリリース

VotubiaがEUでも承認

(2012年11月5日発表)

ノバルティスのVotubia(everolimus)が結節硬化症候群(TSC)患者の手術不要な腎血管筋脂肪腫(非癌性腎臓腫瘍)の治療薬として承認された。薬物療法は初めて。TSCはmTORが関与する希少疾患で、VotubiaのようなmTOR阻害剤に反応する。治験では、反応率が42%で偽薬群の0%を大きく上回った。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【製薬会社の動き】


サノフィが大腸癌用薬の価格を半値に引き下げ

(2012年11月8日)

Cancer Letterによると、サノフィはZaltrap(ziv-aflibercept)の米国での価格を5割引き下げることを決めた。8月に大腸癌の二次治療薬として承認されたばかりだが、月11000ドル程度と高価であるために、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKCC)が使用しないことを決定しNY Times紙上で公表するなど話題になっていた。

ZaltrapはAvastinと同じ作用機序で治験成績も大差ない。サノフィはAvastinの価格を参考にした模様だが、厄介なことに、Avastinの用量は併用薬によって異なる。調査によると、二次治療では一回用量5mg/kgと10mg/kgが半々である模様だ。サノフィは10mg/kgを念頭にZaltrapの価格を決めたが、5mg/kgを使っている医療施設ではAvastinの倍の費用になってしまう。

米国は自由薬価なので上げることも下げることも可能だが、大幅な引き下げは難しい問題を孕む。高齢者向け医療制度のメディケアの場合、実勢価格が低下してから保険還元価格が下がるまでタイムラグがあるので、医療施設が5500ドルで仕入れて使った場合、メディケアから8000ドル弱、患者から3000ドル支払いを受けて大きな薬価差益が生じてしまう。尤も、アメリカのことだから、政府・州政府が迅速に対応するだろう。

リンク:Cancer Letter 2012年11月8日号(今号はオープンアクセス)

【医薬品の安全性】


胎盤幹細胞療法の死亡報道

(2012年11月8日)

胎盤由来の幹細胞の試験に関するスキャンダルめいた話をBloombergが報じた。幹細胞療法は山中教授らのノーベル賞受賞で注目されているだけに、ドキッとする。Bloombergは幹細胞治療自体ではなく開発企業の情報開示姿勢を問題にしているのだが、注目されている企業、研究者は襟を正し李下に冠を正さず、マスコミに過剰な期待も過剰な批判もさせないように注意すべき、という教訓になりうる。

この胎盤幹細胞はイスラエルのPluristem Therapeutics(TASE PLTR)の開発品で、幹細胞療法らしく、様々な大きく異なる疾患を対象として臨床試験が行われている。イスラエルではcompassionate useも認められている模様で、治療法としては未承認だが、命に係る疾患で他に治療法がない場合に用いることはできる。今年5月に骨髄異形成の少女に、8月にリンパ腫で骨髄機能不全を合併した中年女性に、9月には急性骨髄性白血病の中年男性に投与し血球細胞の回復に成功したことが発表された。

ところが、Bloobergによると、成功時は大々的にプレスリリースを出したのに最初に治療を受けた少女が退院後に死亡した時は直ぐに公表しなかった。同社は三例の治療成功を発表した後に増資で資金調達を行ったが、その真っ最中だったので秘匿したというのだ。Pluristem社はこの報道に反発、通常の治験ではないので退院後は追跡調査を行わず、遺族が自発的に連絡するまで知らなかったと反論した。

Pluristem社の主張はリーズナブルだが、治療成功時だけ喧伝し退院後は知らないのではバランスに欠ける。少女は赤血球が増えたのだから治療が成功したことは確かだが、その後の転帰を追跡しなければ治療成功とは言えず、もし追跡するつもりがないならば、その程度の研究の成果を喧伝すべきではなかっただろう。Bloombergが主張するように、他の患者に実力以上の期待を抱かせるのは酷だ。研究者にとっては臨床検査値が改善し症状が改善すれば成功かもしれないが、患者にとっては、それでも死亡した事実のほうが重いだろう。

リンク:Pluristemのプレスリリース

リンク:Bloombergの報道1

リンク:Bloombergの報道2

今週は以上です。

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2012年11月4日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月4日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • 持効性第VIII因子の臨床試験が成功
  • FDA諮問委員会がGSKの肺炭疽治療薬を支持
  • 第5のバソプレシン受容体拮抗剤は承認されず
  • ファイザーのゴーシェ病治療薬はEUでは2020年まで発売できない
  • EU:西欧初の遺伝子療法が承認
  • EU:Adcetrisが承認
  • EU:Cialisとアバスチンが適応拡大
  • 米国:イグザレルトがDVT・PE治療に適応拡大
  • プラザキサの出血リスクはワーファリン並み



【新薬開発】


持効性第VIII因子の臨床試験が成功

(2012年10月31日発表)

バイオジェン・アイデック(NASDAQ: BIIB)とスエーディッシュ・オーファン・バイオヴィトラム(STO: SOBI)は、遺伝子組換え型長期作用性第VIII因子の第三相試験が成功したと発表した。出血リスクが高いA型血友病患者を組入れた予防試験で、出血エピソードの頻度が9~21分の1に減少した。米国では来年上期に、欧州では開発ガイドラインに従い小児試験を終えてから、承認申請する予定。

このrFVIIIFcは第VIII因子と免疫グロブリンG1の固定領域を細胞融合して体内で分解されにくくしたもの。今回の第三相試験では、週一回投与する用法と、患者に合わせて投与頻度を調整する方法を、出血時に治療する(予防は行わない)方法と比較したところ、各群の出血エピソードが年率3.6回、1.6回、33.6回となり、予防に成功した。

ここまでの文章は9月30日号のrFIXFcに関する記事と酷似している。両社はB型血友病とA型血友病の両方に有効な持効性製品の実用化に目処を立てたことになる。血友病は血液凝固因子の欠損により出血を止めることができない。頻繁に出血エピソードを経験する患者は今回の試験のような予防的投与を受けることになるが、既存の製剤は半減期が短いため、頻回投与が必要になる。両社の製品は、個々の患者に合わせて投与頻度を調整する用法の群でも、第IX因子製剤はメジアンで14日おき、第VIII因子でも3.5日おき投与だったので、患者の負担を軽減することができる。

血友病用薬は市場が大きく、現在はバクスター、バイエル、ファイザーなどが高いシェアを持っているが、ノボ ノルディスクが10月に欧米でturoctocog alfaをA型血友病の出血エピソード予防に承認申請するなど、持効性製剤で新規参入を図る企業の動きが活発化している。

リンク:両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がGSKの肺炭疽治療薬を支持

(2012年11月2日発表)

GSKは今年8月に36億ドルで買収したヒューマン・ジノム・サイエンス社の肺炭疽治療薬、ABthrax(raxibacumab)が、11月2日に開催されたFDA諮問委員会で支持された。承認審査期限は12月15日。ごく稀な疾患なので、生物兵器対策のような国家備蓄向けが需要の中心になりそうだ。

肺炭疽はBacillus anthracis(炭疽菌)を吸入することによって発症する致死的な感染症で、2001年に米国で炭疽菌の入った郵便物が多数郵送され広く認知されるようになった。ABthraxはBacillus anthracis protective antigenに結合する抗体医薬で、動物試験で大きな効果を発揮したことから、2009年に米国で承認申請、平行して、戦略的国家備蓄プログラム向けの供給を開始した。ところが、FDA諮問委員会は支持せず、審査完了となった(追加試験が必要と判定された)。

ボトルネックとなったのは動物試験のプロトコルだ。肺炭疽は感染例が殆どなく、また、致死性が高いので臨床試験は殆ど不可能だ。動物試験でも倫理的な問題があるため、ABthraxの試験では感染症状が出たら直ぐに投与したのだが、このようなことは現実にはありえない。そこで、炭疽菌暴露の数日後に治療を開始する用法で薬効を再確認、今回の諮問委員会支持に繋がった。

リンク:GSKのプレスリリース

第5のバソプレシン受容体拮抗剤は承認されず

(2012年11月1日発表)

コーナーストーン・セラピュティクス(Nasdaq: CRTX)は、FDAからCRTX 080(lixivaptan)の審査完了通知を受領したと発表した。SIADH(抗利尿ホルモンの不適切な分泌によって発生する症候群)および慢性心不全による低ナトリウム血症の治療薬として承認申請されたが、後者の臨床試験はlixivaptan群の死亡者が偽薬群より多かったために独立データ安全性監視委員会が中止を勧告した経緯がある。9月の諮問委員会は慢性心不全について全員が反対、低ナトリウム血症も反対が上回った。

lixivaptanは米国で2006年に承認されたVaprisol(conivaptan)、大塚製薬の2009年承認のSamsca(tolvaptan)と日本で承認されているフィズリン(mozavaptan)、欧米で申請されたが承認されなかったサノフィのsatavaptanに次ぐ第5のバソプレシン受容体拮抗剤。

カーディオカイン社が2004年にワイス(当時)から導入、2007年にバイオジェン・アイデックと開発販売提携したが、慢性心不全完了後の2010年11月に解消。2011年12月に米国で承認申請し同月にコーナーストーンに身売りという経緯を持つ。

慢性心不全試験で深刻な懸念が浮上したことを考えれば承認申請したこと自体が不思議だが、この用途ではVaprisolやSamscaの試験でも死亡者数に偏りがあったので、クラス・イフェクトなのだろう。低ナトリウム血症は深刻な障害をもたらす可能性があるが、薬でナトリウム値を急速に上げるのもリスクがある。

今になってみると、バイオジェン・アイデックとの提携が解消されたのは慢性心不全試験で安全性懸念が浮上したからだろう。残念なのは、当時、この懸念が公表されなかったことだ。承認されている薬にもインプリケーションがあり、また、もし類薬を開発している会社があるとしたら慢性心不全試験を行って不必要な犠牲者を出す可能性もあるのだから、両社はもっと早く懸念を公表すべきだったのではないだろうか。

リンク:コーナーストーンのプレスリリース

ファイザーのゴーシェ病治療薬はEUでは2020年まで発売できない

(2012年11月1日発表)

ファイザーとイスラエルのバイオ企業であるProtalix BioTherapeutics(TSE: PLX)は、EUがElelyso(taliglucerase alf)を承認しなかったと発表した。CHMPが6月に否定的意見を出しているので意外感はない。薬の効果や安全性の問題ではなく、英国のシャイアが類薬を2010年に発売し10年間の独占権を獲得していることが原因。希少疾患用薬の開発奨励制度が裏目に出た格好だ。

シャイアのVpriv(velaglucerase alfa)はヒト由来の細胞にグルコセレブロシダーゼを分泌させて作るが、ElelysoはProtalixの技術を用いてニンジン由来の細胞に発現させる。ファイザーは2009年に世界開発販売権を取得した。ゴーシェ病の患者は中東や北欧のAshkenazi系ユダヤ人に多いと言われており、両社にとって残念な結果だ。尚、米国では今年5月に承認されている。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


EU:西欧初の遺伝子療法が承認

(2012年11月2日発表)

オランダの未上場企業であるuniQure biopharma B.V.は、EUがGlybera(alipogene tiparvovec)を家族性リポ蛋白リパーゼ欠乏症の治療薬として承認したと発表した。重度あるいは頻繁な膵炎発作を起こす患者に、遺伝子の欠損とLDL蛋白の存在を検査で確認した上で、治療に習熟した医師が施行することが条件。

例外的状況条項に基づく条件付承認なので、追加的な研究や、患者登録を行って長期的な安全性を検討する必要がある。同社は2013年下期に、ロイター報道によると25万ユーロ程度の価格で発売する予定のようだ。

この疾患は100万人に1~2人の超希少疾患で、食物由来の脂肪を輸送するカイロミクロンを分解するのに必要なリポ蛋白リパーゼが欠損している。Glyberaはアデノ随伴ウイルス(AAV)由来のベクターにリポ蛋白リパーゼの遺伝子を組入れたもので、筋注して筋細胞にこの酵素を作らせるもの。治験では多くの患者が副反応を防ぐために免疫抑制剤を同時使用した。3分の1の患者が四肢痛を経験した。

遺伝子療法は遺伝子欠損が原因で発生する命に係わる疾患の治療薬として大きな期待を受けたが、1999年に米国で投与直後の死亡例が発生し、楽観論が後退した。AAVをベクターとして使えば免疫性急性副反応を緩和できると考えられたが、2007年にTargeted Genetics社の治験で死亡例が発生し、FDAが全AAV治験の再検討を行う事態になった。中国で承認されたものがあるようだが、西洋で遺伝子療法が承認されたのは今回が初めて。

Glyberaの承認も紆余曲折があり、CHMPが2011年から12年にかけて3回、否定的意見を出している。覆ったのはCAT(先端医療委員会)が重度・頻回膵炎患者に限って便益がリスクを上回るとの見解をまとめたことが転機となった。臨床試験は27人と小規模なもので効果の持続性や膵炎リスク削減効果が十分に立証されていないが、頻発患者には膵炎発作を減らす効果が見られたとのことだ。

uniQureはアムステルダム大学のアカデミック・メディカル・センターに拠点を持つ企業で、CHMPが否定的意見を出したために清算法人となったAmsterdam Molecular Therapeuticsから研究資産を承継した。正に、粘りと執念の勝利といえるだろう。どの程度の効果があるのか知りたいものだ。

リンク:uniQureのプレスリリース

リンク:ロイター報道

EU:Adcetrisが承認

(2012年10月31日発表)

武田薬品グループのミレニアム・ファーマシューティカルズとシアトル・ジェネティクス(Nasdaq: SGEN)は、薬物搭載型抗CD30抗体Adcetris(brentuximab vedotin)がEUで二つの適応症に承認されたと発表した。一つは再発性難治性のCD30陽性ホジキン型リンパ腫で、前治療で自家幹細胞移植(ASCT)を受けた、または、ASCTや強化化学療法に適さない患者で既に二次治療まで受けた患者。もう一つは、再発性難治性の全身性未分化大細胞リンパ腫。

米国では2011年に承認された。ミレニアムは北米以外の開発販売権を持っている。

リンク:ミレニアムのプレスリリース

リンク:武田薬品の和文プレスリリース

EU:Cialisとアバスチンが適応拡大

(2012年10月30-31日発表)

イーライリリーは、10月30日に、EUがCialis(tadalafil)を良性前立腺肥大の治療薬として承認したと発表した。

10年前にED治療薬として承認されたPDE5阻害剤でED患者は必要時に通常は20mgを服用するが、Cialisは半減期が長いため毎日2.5mgを服用することも可能。良性前立腺肥大では一日5mgを服用する。ED治療薬は多くの国で自由診療(保険還付されない)であることや必要な時だけ服用する用法が一般的であることから価格が高いが、良性前立腺肥大なら保険がカバーするだろうから、患者負担は緩和されるだろう。米国では2011年に適応拡大された。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

翌31日には、ロシュが、Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)がEUで卵巣癌二次治療に適応拡大されたと発表した。一次治療で白金薬に反応したプラチナ感受性癌に、carboplatin及びgemcitabineと三剤併用する。一次治療でも承認されている。

リンク:ロシュのプレスリリース

米国:イグザレルトがDVT・PE治療に適応拡大

(2012年11月2日発表)

バイエルが開発し米国ではジョンソン・エンド・ジョンソンが販売しているXa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)をDVT(心静脈血栓)やPE(肺塞栓)の治療・再発予防に用いることがFDAに承認された。当初の三週間は再発リスクが高いため15mgを一日二回経口投与し、その後は20mg一日一回に減量する。6ヶ月の治療コースを終えた後に継続投与することも可。

Xareltoの最初の適応症である間接置換術後のDVT・PE予防は、そもそものDVT/PE発生リスクが小さく、薬物以外の予防方法も存在し、服用期間が数週間と短いため、市場性が小さい。一方、2011年に承認された心房細動患者の脳卒中リスクを削減する用途は該当患者が多く長期間服用するため最も市場性が大きい。今回のDVT・PE治療は対象患者数が心房細動の5分の1程度、服用期間は3-9ヶ月なので心房細動ほどではないものの、二番目に大きな用途だ。

リンク:バイエルのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


プラザキサの出血リスクはワーファリン並み

(2012年11月2日発表)

FDAは直接的トロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran etexilate mesilate、和名プラザキサ)の安全性を再検証した結果を発表した。2010年10月の承認後の疫学研究でも深刻な出血事故のリスクはワーファリンと大差なく、第三相試験と同様な結果だった。

FDAは稀にしか発生しない深刻な有害事象のリスクを評価することを目的に、医療保険組織と契約して治療記録データベースを分析するパイロット・プロジェクトを進めている。今回の分析もこのプロジェクトの成果で、新規にPradaxaまたはワーファリンによる治療を開始した患者の胃腸出血・頭蓋内出血症例を検索したところ、胃腸出血はワーファリンがPradaxaの1.6~2.2倍、頭蓋内出血は2.1~3.0倍となり、Pradaxaのほうがリスクが高いとは言えなかった。

Pradaxaの最大の用途である心房細動患者の脳卒中予防は2010年10月に米国で、2011年1月に日本で、同年8月にはEUでも承認された。日本を中心に致死的な出血事故が多数報告されたことから、FDAやEUのCHMPが再検証を開始したが、欧米共に、ワーファリンと比べて特にリスクが高い訳ではないという結論になった。

何故、日本などで多くの出血事故が報告されたのだろうか?日本でも海外でも、腎機能が一定以下の患者には減量すべきであることを当局が念押ししているので、出血事故症例ではこの配慮が不十分だったのかもしれない。MedPageでも不適切な処方が原因という見方を紹介している。

一方で、ワーファリンの出血リスクに対する認識が違うのかもしれない。日本のワーファリンの用量は海外より少ないので、新薬が海外治験でワーファリンと同じだったとしても、日本のワーファリン服用患者と同じとは限らない。

Pradaxaの場合は第三相試験に日本の施設も300例ほど組入れ、日本流のワーファリン用量と比較した。XareltoはXarelto自体も用量を減らして1000人規模の治験を日本だけで実施した。何れも出血リスクはワーファリン並みだったが、海外の組入れ数より少ないので深刻な出血のような発生確率の低い事象を比較するには不十分だ。

医療はアートなので発生率だけを比較しても意味がない。医療従事者が薬の正しい使い方をどのように学び、どのように使っているのか?深刻な出血事故を起こした患者はどのような患者背景を持ちどのような薬を同時使用していたのか?薬物代謝酵素や輸送蛋白の人種的な違いはどう影響するか?副作用被害に遭った人たちに報いるためにも、原因を網羅的に究明して失敗から学ぶことが重要だ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:MedPageの関連記事(要登録)

今週は以上です。

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2012年10月28日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月28日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • セルジーンの多発骨髄腫用薬の第三相試験成功
  • バイエルの画期的新薬の第三相肺高血圧症試験が成功
  • アクテリオンのOpsumitの第三相試験成績が発表
  • イーライリリーのGLP-1作用剤は効果が高そう
  • 欧州で大日本/武田の向精神薬とノバルティスのCOPD合剤が承認申請
  • FDAはトレシーバの心血管リスクを懸念?
  • オレキシジェンの紛争仲裁請求は奏功せず
  • エーザイの抗癲癇薬が米国でも承認
  • テバの慢性骨髄性白血病用薬が米国で承認



【新薬開発】


セルジーンの多発骨髄腫用薬の第三相試験成功

(2012年10月23日発表)

セルジーン(Nasdaq: CELG)は、CC-4047(pomalidomide)の第三相多発骨髄腫三次治療試験が成功したと発表した。代表的な薬剤である同社のRevlimid(lenatidomide、和名レブラミド)と武田/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib、和名ベルケード)による前治療経験を持つ再発性難治性患者を対象としたもの。

投与方法は28日サイクルでpomalidomide群は4mgを一日一回、21日連続経口投与とdexamethasone(以下、DEX)の40mg(75歳以上は20mg)を週一回、経口投与。対照群は同量のDEXを4日連続投与、4日休薬を三回繰り返し最後は4日休薬(28日サイクル)。両群とも癌が進行するまで施行した。その結果、主評価項目のPFS(無増悪生存期間)だけでなく、二次的評価項目である全生存期間でも統計学的に、そして臨床的にも有意な差があった。データは今後の学会で発表されるだろう。

pomalidomideは米国で今年4月に承認申請されたが、第二相試験のデータしかなかったせいか、優先審査指定されず審査期限は来年2月10日となった。第三相試験の成功は承認に追い風となりそうだ。EUでも今年5月に承認申請された。

セルジーンはThalomid(thalidomide)とRevlimidの二種類の多発骨髄腫用薬を持っている。どちらも売上高が既に天井圏に達したので、pomalidomideと乾癬治療用の新薬apremilastには大きな期待がかかっている。

リンク:セルジーンのプレスリリース

バイエルの画期的新薬の第三相肺高血圧症試験が成功

(2012年10月22日、23日発表)

バイエルのBAY63-2521(riociguat)の第三相肺高血圧症試験の結果がCHEST 2012(米国胸部専門医学会)で発表された。

一本はPAH(肺動脈高血圧症)患者を12週間治療したもので、6MWT(6分間歩行試験)の成績が偽薬比で平均36m改善した(統計的に有意)。既存の薬を服用している患者(36m改善)でも、服用していない患者(38m改善)でも、有意な効果があった。この治療効果はエンドセリン受容体拮抗剤と大差なく、臨床的にも意味があるだろう。WHO機能クラスの悪化でも有意な差があった。

もう一本は、承認されている薬がない難病である慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)を16週間治療した試験で、6MWTが偽薬比46m改善、WHO機能クラスの悪化でも有意な差があった。二本の試験で観察された有害事象は、頭痛、消化不良、末梢浮腫、悪心、眩暈、下痢など。バイエルは2013年上期に承認申請する予定だ。

riociguatは可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤のファースト・イン・クラス。酸化窒素が血管平滑筋を弛緩させるパスウェイに介入し、sGCの酸化窒素感受性を向上するとともに、酸化窒素に依存しない直接的なsGC刺激作用も持っているようだ。全身的な降圧作用は比較的小さい。PAH試験で確認されたように、PDE5阻害剤やエンドセリン受容体拮抗剤と補完的なので併用にも適している。用法は1mgを一日三回、経口投与で開始して、8週間かけて2.5mg一日三回まで漸増する。

リンク:バイエルのプレスリリース(PAH試験)

リンク:同(CTEPH試験)

アクテリオンのOpsumitの第三相試験成績が発表

(2012年10月22日発表)

CHEST 2012ではスイスのアクテリオン(SIX: ATLN)が開発したエンドセリンA/B受容体拮抗剤、ACT-064992(macitentan)の第三相症候性PAH試験のデータも発表された。この試験の特徴は主評価項目が6MWTではなく、病状悪化・死亡という臨床的転帰であることだ。肺高血圧症治療薬の試験では初で、成功が発表された時は大変驚いた(2012年5月6日号で報道)。

偽薬、3mg、10mgを夫々一日一回、経口投与する群に割付けて、メジアンで1-2年治療したところ、主評価項目である全死亡・PAH増悪のリスクが3mgで30%、10mgは45%、偽薬群より低かった。二次的評価項目では、PAHによる死亡・入院が各33%と50%、低かった。

更に、10mg群は6ヶ月時点の6MWTが偽薬比平均23m改善した。症状の軽い患者も組入れたため治療効果が小さくなっているが、WHO機能クラスIII、IVの患者だけの解析では37mと、他の薬と同様な数値が出た。10mgはPDE5阻害剤を服用している患者にも有意な効果があった。忍容性面では、類薬の副作用である肝機能検査値異常は増えなかったが、重い貧血のリスクが見られる。

6MWTの数字を見る限りでは特に効果が高いようには見えない。結局、6MWTを改善する薬はPAHの病状進行も抑制できるということなのだろう。とは言え、臨床的な転帰を改善できるというエビデンスを持つ薬は他にはない。同社のフラッグシップであるエンドセリンA/B受容体拮抗剤、Tracleer(bosentan、和名トラクリア)の特許切れを数年後に控えて、有望な後継が現れた。

アクテリオンは、米国で承認申請したことも発表した。商標名はOpsumitの予定。

リンク:アクテリオンのプレスリリース(学会発表について)

リンク:同(承認申請について)

イーライリリーのGLP-1作用剤は効果が高そう

(2012年10月22日発表)

アミリン社が他社に先駆けて開発、発売したGLP-1作用剤は二型糖尿病患者の血糖値を下げるだけでなく、血糖治療薬としては唯一、体重を減らす作用も持つ。難点の一つは注射薬であることだが、一日二回ではなく一回、あるいは、週一回投与型の開発が活発化している。企業買収や提携、提携解消も盛んで、アミリンは当初、イーライリリーと共同開発・販売していたが、イーライリリーがベーリンガー・インゲルハイムと糖尿病領域で提携したため解消。その後、BMSとアストラゼネカの連合に買収された。

一方、イーライリリーは、GLP-1融合蛋白LY2189265(dulaglutide)をベーリンガー提携とは別に単独で開発している。DPP-4に分解され難く改変したGLP-1にヒトのG4型免疫グロブリンの固定領域を共有結合することで作用を長期化、週一回注射で足りる。同じ週一回投与型であるBydureonと異なり太い針を使う必要がないので注射箇所の痛みが小さいはずである。

複数の第三相試験のうち、三本の成功が発表された。何れもHbA1c治療効果で主評価項目を達成したが、二次的評価項目の実薬対照優越性解析も成功したとのことだ。このうち、exenatide(アミリンのGLP-1作用剤)は半減期が短いせいか、他の週一回投与型と比べた試験でも効果が見劣りしたので、驚きではない。

Januvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)は、血糖降下作用が穏やかであるものの経口投与可能で、深刻な副作用のリスクが比較的小さく、体重が増えないという長所を持つので、効果の多寡だけでは結論を出せない。

驚かされるのは、metformin対照試験で勝ったことだ。主評価項目の非劣性解析が成功したため二次的評価項目の優越性解析が実施され、有意に優れていた。この試験は早期二型糖尿病患者が対象なので、metforminの用量が小さかった可能性があり、また、病歴の長い患者でも勝てるのか、26週時点だけでなく52週時点の解析でも勝てるか、という疑問が残るものの、近年の新薬は勝てなかったものが多いので価値がある。

尤も、近年の試験は組入れ数が多いので、小さな差でも有意差が出てしまう。学会発表時に、臨床的に意味があるかチェックする必要があるだろう。

残りの二本は何れもLantus(insulin glargine、和名ランタス)対照試験でまだ結果が出ていない。非劣性解析が成功したら優越性解析に進むプロトコルだ。インスリン対照非劣性試験は対照群の用法の妥当性がしばしば議論になる。低血糖リスクに配慮して用量を抑え、血糖値を治療目標まで下げないことが多いからだ。治験の価値としては今回概要が発表された3本のほうが重要だろう。

GLP-1作用剤やDPP-4阻害剤は膵臓に作用するせいか市販後有害事象報告で膵炎発症例がやや多いように感じられる。dulaglutideは動物の毒性試験でも第二相試験でも膵炎リスクが見られたので、GLP-1作用剤の中でもリスクが高い可能性があるが、リスクを探知すべく密接に観察したことによるオブザベーション・バイアスかもしれない。5本の試験が完了した段階でメタアナリシスが行われるのではないだろうか。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


欧州で大日本/武田の向精神薬とノバルティスのCOPD合剤が承認申請

(2012年10月25日発表)

大日本住友製薬と武田薬品は、EUでlurasidoneを統合失調症の治療薬として承認申請し、受理されたことを発表した。米国ではLatuda名で2010年に承認されている。他の非定型的向精神薬と比べて体重増などの代謝性副作用が小さいことが特徴。大日本が開発、英国以外の欧州では武田薬品が販売する。

同日、ノバルティスが決算発表資料の中でQVA149をEUで承認申請したことを公表した。ベータ2作用剤Onbrez(indacaterol、和名オンブレズ)とムスカリン拮抗剤Seebri(glycopyrronium bromide)の活性成分を配合した合剤で、COPDの維持療法として用いる。日本でも年内に承認申請される予定。米国はベータ2作用剤に対するハードルが高く、2014年に承認申請の見込み。

リンク:大日本/武田のプレスリリース(和文、pdfファイル)

【承認審査・委員会】


FDAはトレシーバの心血管リスクを懸念?

(2012年10月26日発表)

ノボ ノルディスクの持効性インスリンTresiba(insulin degludec)は9月に日本でトレシーバ名で承認、欧州でも10月にCHMPが肯定的意見を出したが、米国は承認審査が長引いていて、審査期限が10月29日に延期されただけでなく、11月8日に諮問委員会が招集されることになった。おそらく、審査期限までに結論が出ないという意味だろう。

GLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)やLevemir(insulin detemir、和名レベミル)の時もそうだったが、ノボの糖尿病薬は米国ではすんなりと承認されないことが多い。何故だろうか?

そんな時、ノボは、FDAが諮問委員会に備えて公表した利益相反表明に関するプレスリリースを発出した。意外な内容で、第一のサプライズは、利益相反のある諮問委員を召集した理由を表明する資料の中に、開催の目的が記されていたことだ。第二に、FDAが懸念しているのはTresibaの心血管疾患リスクであることが明らかになった。

TresibaはサノフィのLantusが最大のライバルなので、直接比較試験が実施された。作用が24時間安定的に推移するためか、夜間の低血糖が有意に少なかった。FDAはこの長所と心血管リスクがLantusより高いことを天秤にかけるよう諮問する考えだ。

ノボは10月19日に医薬品医療機器総合機構が公表したトレシーバの審査文書の概要について英文プレスリリースを出した。機構の評価が海外で言及されることは稀なので驚いたが、悪い内容ではなく、EUの承認審査も順調に進んでいる模様なので、私は米国で何か悪い話が出ていてそれに反論する意図なのだろうと推測した。結局、批判者はFDAの審査官だった訳だ。

それにしても不思議なのは、機構の審査文書を読んでも心血管リスクがあるようには見えないことだ。総計8941例のメタアナリシスで、MACE(主要な有害心血管イベント)の発生率は100人年当り1.48件、対照群は1.44件で、ハザードレシオ1.10、95%信頼区間は0.68から1.77となっている。FDAのガイドラインによれば、95%上限が1.8を超える場合は追加試験を行うなり、心血管アウトカム試験を実施して懸念を払拭しない限り承認を得ることはできないが、Tresibaはぎりぎりセーフなはずだ。

考えられるのは、第一に、その後に完了した試験で多くのMACEが発生し、最新の解析では1.8を超えている可能性だ。第二は、市販後心血管アウトカム試験がまだ開始されていない模様であることを懸念している可能性。95%上限が1.3-1.8の薬は、市販後に十分な検出力を持つ試験を行ってリスクが1.3未満であることを証明しなければならない。中央値は1を超えているのだから懸念があるのは確かであり、ノボにはFDAだけでなく患者に対しても挙証義務がある。

現地時間で11月6日にも一般公開される、諮問委員会用ブリーフィング資料の内容が注目される。

リンク:ノボのプレスリリース

リンク:同(機構の審査文書に関する10月19日のリリース)

オレキシジェンの紛争仲裁請求は奏功せず

(2012年10月22日発表)

オレキシジェン(Nasdaq: OREX)は体重管理薬Contrave(bupropionとnaltrexoneの徐放性合剤)を2010年に米国で承認申請し、諮問委員会の支持も得たが、承認されなかった。同社は心血管アウトカム試験を開始すると共にFDAに紛争仲裁請求を行ったが、結果が出る前に承認することは認められなかった。

次の手段として、中間解析結果が出る前に再申請することをFDAに提案する考え。認められれば発売が数ヶ月早くなる。この中間解析結果はMACE(主要有害心臓イベント)が87件に達した段階で行われるが、到達は2013年第2四半期の見込みであることも発表された。前倒し再申請が認められなくても、2014年第1四半期には承認されることになりそうだ。勿論、中間解析で悪い結果が出ないことが前提だ。

広く予想されていたとおり、数日後に増資が発表された。新興企業は財務基盤が弱く最低限必要な資金しか持っていないために、定期的に好材料を発表して株価を刺激した上で資金調達を行う必要がある。これがもし大手製薬会社なら、紛争仲裁請求に労力や資金を費やさずにさっさと心血管アウトカム試験を開始しただろう。

Contraveは中枢神経系で食欲抑制的・エネルギー消費促進的に作用するアルファMSHの放出を二つの活性成分が促進し、naltrexoneは代償機構を抑制する作用もあると考えられている。体重抑制作用は既存の薬と大差ないので、副作用の多寡が問題になる。米国承認後は武田薬品が販売する予定。

リンク:オレキシジェンのプレスリリース

【承認】


エーザイの抗癲癇薬が米国でも承認

(2012年10月22日発表)

エーザイが開発した経口AMPA拮抗剤、Fycompa(perampanel)が7月のEUに続いて米国でも承認された。部分癲癇の発作予防に用いる。麻薬取締局によるスケジュール審査を経て発売される予定。スケジュールはIからVまであり、Iが最も厳しい流通・処方規制を受け、IV、Vは軽い。Fycompaは専門医が使う薬なのでIに指定されない限り普及の妨げにはならないだろう。

AMPAはグルタミン酸受容体のサブタイプ。Fycompaはシナプス後AMPAがグルタミン酸によって活性化され神経が過剰に興奮するのを抑制する。パーキンソン病や偏頭痛予防など様々な用途が探索されたが、遂に実用化にたどり着いた。中枢神経系の薬の開発はネバー・ギブアップの精神が必要だ。

癲癇は薬によく反応するが、複数を併用しても発作を十分に抑制できない患者に追加する新薬に対するニーズは高い。服薬を怠った患者の交通事故がしばしば報道されるが、怠る理由は副作用なのだろうから、忍容性に優れる薬を開発することも重要だろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:エーザイの和文プレスリリース

テバの慢性骨髄性白血病用薬が米国で承認

(2012年10月26日発表)

テバ・ファーマシューティカル(NYSE: TEVA)のSynribo(omacetaxine mepesuccinate)が慢性骨髄性白血病(CML)の三次治療薬として米国で承認された。二種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤(ノバルティスのグリベック等)による治療を既に受けてしまった患者に用いる。

サルベージ療法なので反応率はそれほど高くなく、第二相試験では慢性期の患者の主要細胞遺伝学的反応率(MCyR)が18%、メジアン反応持続期間は12ヶ月、加速期の患者は主要血液学的反応率(MaHR)が14%、メジアン持続期間は4.7ヶ月だった。CMLの反応評価方法は似たような名前のものが色々あるが、ここでは寛解という言葉は出てこない。

omacetaxineはMDアンダーソンがCML治療薬として90年代から開発を続けてきた。オーストラリアのChemGenexがライセンスして治験を実施、承認申請後の2011年にセファロンが企業買収し、更にセファロンをテバが買収した。アポトーシス誘導作用や血管新生阻害作用を持つと考えられている。

テバは世界最大のGE薬メーカーだが、GE薬業界を取り巻く環境は次第に厳しくなってきた。米国、ドイツ、英国などのGE薬先進国では、民間保険会社や政府が普及促進を後押しする段階を終え、GE薬メーカー同士の価格競争を促す段階に進んでいるからだ。業界再編が活発に行われているが、再編が進めば今度は大手同士の体力勝負になるので、20世紀の二度の大戦と同様に、中々決着が付かずお互いに消耗する結果になりかねない。

テバは将来を予測して買収によって企業構造を変えていく能力に長けており、他のGE薬メーカーに先駆けて新薬シフトを進めている。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:テバのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年10月21日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月21日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • C型肝炎の四剤併用試験でSVR12奏功率が9割以上
  • 抗VEGF受容体2抗体の胃がん第三相試験が成功
  • リアタがbardoxoloneの第三相試験を中止
  • インライタの直接比較試験が今度はフェール
  • リツキサンのバイオシミラーの試験がまた中断
  • ノボがA型血友病用薬を承認申請
  • FDA諮問委員会が三種類の新薬を支持(NPS、Aegerion、ISIS/サノフィ)
  • CHMPが5種類の新薬に肯定的意見(ノボ、アステラス製薬、サビエント、イーライリリー、ヴィーヴァス等)
  • 硝子体黄斑癒着硝子治療薬が承認



【新薬開発】


C型肝炎の四剤併用試験でSVR12奏功率が9割以上

(2012年10月16日)

AASLD(米国肝疾患研究学会、11月9-13日)の抄録が公開され、C型肝炎治療薬を開発している企業が続々とプレスリリースを出した。中でも注目されるのはアボットの後期第二相試験だ。遺伝子型I型の患者448人を14の群に割付けて、四種類の経口剤の最適な組み合わせや投与期間を検討したところ、四剤全てを用いて12週間治療した群のSVR12(治療完了後12週経過した時点でもウイルスが探知不能であった患者の比率)が、初めて治療を受ける患者で99%、一次治療で無反応だった患者(ヌル・レスポンダー)でも93%に達した。

最終解析ではないので今後、奏功率が低下する可能性があるが、それでも凄い数字だ。現時点では忍容性が明らかではないが、少なくとも、副作用が原因で治験離脱した患者は少なかったはず。インターフェロン不応不耐には有力なオプションになりそうだ。ribavirinを除く三剤併用の成績は不明だが、第三相試験でもテストされるようなので、ribavirin不耐患者にも代替的な治療法が浮上するかもしれない。

この四剤は、プロテアーゼ阻害剤ABT-450、NS5A阻害剤ABT-267、ポリメラーゼ阻害剤ABT-333、そしてribavirinだ。このほかに、ABT-450の服用量・頻度を減らすためにCYP阻害剤ritonavirも用いる。C型肝炎ウイルスのゲノムに含まれる、増殖に必要な様々な蛋白を同時に攻撃することで効果を高め、耐性ウイルス出現リスクを抑制する。一次治療なら四剤も服用する必要はないのではないかと思われるが、ヌル・レスポンダーの奏功率の高さは驚かされる。

第三相試験では、現在の標準療法である三剤併用に反応しなかった患者に対する成績が注目される。

アボットの三剤は何れも未承認だが、この分野では、開発品同士の併用法が活発に探索されている。BMSやロシュなどの多剤併用試験の結果も注目される。

リンク:アボットのプレスリリース

抗VEGF受容体2抗体の胃がん第三相試験が成功

(2012年10月15日)

イーライリリーは、IMC-1121B(ramucirumab)の第三相試験の成功を発表した。転移性胃がんの二次治療薬としての効果を支持療法と比較したところ、全生存期間で有意な差が確認された。ramucirumabはpaclitaxel併用二次治療試験も進行中。

同じようなセッティングでありながら対照群の治療方針が片方は積極的な延命治療は行わず、もう片方はpaclitaxelを投与と食い違っていることに奇異を感じる。もしpaclitaxelが有効なら、支持療法に勝っただけでは喜べないだろう。

ramucirumabはリリーが2008年に買収したイムクローンのパイプラインで、VEGF受容体2をブロックする抗体医薬。VEGFをブロックするAvastinの胃がん試験がフェールしたのは医療風土の異なる日本や韓国で多くの患者を組入れたことが敗因と私は想像しているが、ClinicalTrials.govの治験登録を見るとramucirumabの試験は日本の施設は参加しなかった模様。これが成功の理由ではないだろうか。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

リアタがbardoxoloneの第三相試験を中止

(2012年10月18日)

テキサスの新興医薬品開発会社であるリアタ・ファーマシューティカルズは、Nrf2増強剤bardoxoloneの第三相試験を中止した。末期腎疾患を患う糖尿病患者の臨床的転帰を改善する効果を検討したが、深刻な有害事象や死亡リスクが見られたことから、独立データ安全性監視委員会が中止を勧告した。

有害事象の内容は不明だが、後期第二相試験では、40-60%の患者で筋痙攣、20-30%で低マグネシウム血症が発生した。また、体重減少・食欲低下や関節炎、失神もやや増加した。低用量ならリスクは小さく、第三相では低用量だけを採用したのだが、サンプルサイズが大きいのでこれまで表面化しなかったリスクが顕在化したのかもしれない。

第三相試験中止を受けて、日本や中国などの権利を持つ協和発酵キリンも治験を中断した。欧州などの権利はアボットが保有している。

リンク:リアタ社のプレスリリース

インライタの直接比較試験が今度はフェール

(2012年10月17日)

ファイザーのInlyta(axitinib、和名インライタ)は末期腎細胞腫の二次治療試験でPFS(無増悪生存期間)がNexavar(sorafenib、バイエル)を有意に上回り、日米欧で今年、承認されたばかりだ。ファイザーは一次治療でもNexavar直接比較第三相試験を行ったが、こちらはフェールした。

二次治療試験のハザードレシオが0.67であったのに対して、一次治療試験で検証した仮説は0.56であった模様なので、強気すぎたのかもしれない(

プレスリリースによるとPFSが78%改善する前提だったので、ハザードレシオの前提は1÷1.78で0.56となる)。

何れにせよ、一次治療薬として胸を張るためには二次治療薬として用いられることが多いNexavarを負かしても駄目である。同社のSutent(sunitinib、和名スーテント)を負かさなければならない。SutentとInlytaは副作用プロファイルが異なるので、効果が同程度でも意味があるだろう。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リツキサンのバイオシミラーの試験がまた中断

(2012年10月19日)

ロシュの抗体医薬Rituxan(rituximab、和名リツキサン)は超大型薬なので複数のGE薬メーカーがバイオシミラーを開発している。特許保護が弱いインドでは既に発売されている模様だが、欧米でも2013年から2016年にかけて特許が失効するからだ。ところが、最近、二社がシミラーの治験を中断した。

テバ・ファーマシューティカルのTL011は欧州などで実施されているリウマチ性関節炎第三相試験が中断された。更に、サムソンのSAIT101もリウマチ性関節炎第三相グローバル試験が中断された。理由は明らかではないが、Generics and Biosimilars Initiativesのニュースによると、EUやFDAが安全性基準を強化したことが影響している模様だ。サムソンの場合は最初からやり直す可能性もあるようだ。

因みに、Rituxanはバイオジェン・アイデックがロシュのジェネンテック部門と共同開発販売しているが、バイオジェン・アイデックはサムソンとバイオシミラーの開発で提携している。

リンク:Generics and Biosimilars Initiativeのニュース報道(テバ)

リンク:WHO治験登録(TL011第三相試験)

リンク:Generics and Biosimilars Initiativesのニュース報道(サムソン)

リンク:WHO治験登録(SAIT101第三相試験)

【承認申請】


ノボがA型血友病用薬を承認申請

(2012年10月16日)

ノボ ノルディスクはNN7008(turoctocog alfa)をA型血友病用薬として欧米で承認申請した。第三世代の遺伝子組換型血液凝固第VIII因子で、第三相予防的投与試験では、3日に一回投与する方法と、週三回投与する用法を採用した。他社も開発しているので差別化が重要になるが、現時点では明らかではない。

リンク:ノボのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が三種類の新薬を支持

(2012年10月16日、17日、18日)

先週はFDAの胃腸薬諮問委員会と内分泌・代謝学薬諮問委員会が招集され、合計で三種類の画期的新薬を討議、何れも過半の委員が承認を支持した。米国の諮問委員会は参考意見を出すだけで承認の是非を決めるのはFDAだが、ポジティブな結果である。

NPSファーマシューティカルズが短腸症候群の治療薬として承認申請した遺伝子組換型GLP-2、Gattex(teduglutide)は、12人全員が治療の便益がリスクを上回ると判定した。短腸症候群は腸の部分切除を受けた患者が栄養物を吸収できずに点滴栄養に依存せざるを得なくなる。臨床試験では、点滴栄養投与量を減らせる効果が示された。

胃腸閉塞、ポリープの成長、すい臓障害の懸念が見られたため、REMS(適正使用を担保するための様々な施策)が必要になるが、10人の委員が会社側計画は十分と評価した。

承認審査期限は12月30日。REMSの見直し・再提出を要求されない限り、この日までに承認されるだろう。武田薬品が販売するEUでは今年9月に承認された。ピーク年商は2-4億ドルが見込まれている。

リンク:NPSのプレスリリース

内分泌代謝学薬諮問委員会は17日、18日の二日に亘って開催され、初日はAegerion Pharmaceuticals(Nasdaq:AEGR)がホモ接合型家族性高脂血症(HoFH)の治療薬として承認申請したAEGR-733(lomitapide)を検討、15人中13人が便益がリスクを上回ると判定した。審査期限は12月29日。

lomitapideの作用機序は、肝臓や小腸でトリグリセライド(TG)やコレステロール・エステル(CE)をVLDL-C生産箇所に移送するミクロソーム・トリグリセライド転移蛋白(MTP)を阻害する。米国では2007年にファイザーのSlentrol(dirlotapide)が肥満犬治療薬として承認されているが、人間向けのMTP阻害剤は初めて。

血液中のVLDL-CやLDL-C、カイロミクロンが減少するが、使われなかったTGやCEが肝臓内に留まるため、肝臓に脂肪が蓄積されるリスクがある。かって、BMSがBMS-201038として開発したことがあるが、脂肪肝のリスクが確認されたため、AegerionがHoFHという希少疾患の薬として開発することになった。

臨床試験では、スタチンなどを服用している患者のLDL-Cが40%程度減少した。脂肪肝は見られるものの、深刻な合併症には繋がっていない様子だ。市販後に長期追跡調査が行われることになるだろう。

HoFHは、LDL-C受容体などの遺伝子に欠損を持ち、血液中のLDL-Cが組織に取り込まれにくい。血清LDL-C値が数千ミリグラム/dLと著しく高くなり、スタチンを服用しても正常値には下がらない。人間が持つ二組のゲノムのうち片方に欠損があるのがヘテロ接合型、両方がホモ接合型で、後者は患者数が欧州主要5ヶ国と米国の合計で600人程度と少ないが、LDL-C値は著しく高く、若くして心臓疾患を発症するリスクがある。

リンク:Aegerionのプレスリリース

18日はISISファーマシューティカルズがサノフィのジェンザイム部門と共同開発してHoFH治療薬として承認申請したKynamro(mipomersen sodium)を検討、便益がリスクを上回る判定した委員が9人、反対が6人と票が分かれた。lomitapideと比べて効果が小さいことや、肝臓障害の懸念があることが影響した模様だ。審査期限は来年1月29日。三剤の中では、承認されないリスクが一番高そうだ。

mipomersenは肝臓でVLDL-Cが生産される時に必要なApoB-100の発現を阻害するアンチセンス薬で、週一回注射する。臨床試験ではLDL-C値が20%程度低下したが、患者によってムラがあり、2%上昇した人も82%低下した人もいたようだ。高用量ならもっと低下するが、肝障害のリスクが高まる。

因みに、この肝障害懸念を真っ先に掴んで証券市場にリークしたのが、2010年にSECにインサイダー取引の疑いで逮捕されたファンド・マネージャーだ。フロントポイント・パートナーズという当時はモルガン・スタンレー傘下だった会社でヘッジファンドを運用していたが、逮捕の原因となったヒューマン・ジノム・サイエンス社の開発品だけでなく、多くの新薬の重要情報を入手した凄腕だった。違法行為さえしなければボトム・アップ型ヘッジファンドの代表選手になっていただろう。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

CHMPが5種類の新薬に肯定的意見

(2012年10月19日)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の例会で5種類の新薬に肯定的意見を出した。順調なら2-3ヶ月内に承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース(夫々の薬に関するプレスリリースのリンクもあり)

肯定的評価を受けたのは、まず、ノボ ノルディスクの管理放出性インスリン、Tresiba(insulin Degludec、和名トレシーバ)。同社のアシル化技術を用いて長期間安定的な作用を実現した。サノフィの超大型薬、Lantusより低血糖の発生リスクが小さい模様だ。また、EUで承認されているインスリンは一回の注射で最大80単位までしか投与できないが、Tresibaは160単位用の規格も用意されているので、EUに20-70万人いると推測されている80単位では足りない患者には便利だ。

Tresibaとミールタイム・インスリンのコンビ薬であるRyzodeg(insulin degludec、insulin aspart)も肯定的評価を受けた。一日1-2回注射する。ノボはTresiba発売の一年後に上市する予定。

リンク:ノボのプレスリリース

リンク:CHMPのプレスリリース

次に、アステラス製薬のBetmiga(mirabegron)。過活動膀胱の治療薬で失禁頻度を削減する。ベータ3受容体作動剤は日米欧の企業が開発に鎬を削ったが、ただ一社、ゴールに到達した。日本で2011年に、米国でも今年6月に、承認された。薬物療法の効果は決して高くないので、併用療法の探求が期待される。同社はまだプレスリリースを出していないようだ。

サビエント・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: SVNT)の遺伝子組換型PEG化ブタ尿酸酸化酵素、Krystexxa(pegloticase)も肯定的意見を獲得した。既存薬に不応不耐の重度痛風に用いる。

リンク:サビエントのプレスリリース

治療薬ではないが、イーライリリーのPET造影剤、Amyvid(florbetapir F 18)も肯定的意見を得た。アルツハイマー病の診断に用いる放射性核種で、脳のベータ・アミロイド蓄積状況を検査する時に用いる。米国では今年4月に承認された。大学病院など一部の施設でしか用いられないだろうから承認を取らなくても販売できるだろうが、広く用いられるようになるためには必要な一歩である。アミロイド蓄積と症状の悪化に相関性が見出されれば、新薬の開発にも資するだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

適応拡大では、バイエルのXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を肺塞栓の治療や肺塞栓・難治性深静脈血栓の再発予防に用いること、アボットのHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)を6-17歳の重度活性期クローン病で伝統的な治療法に不応・不耐な患者に用いること、そして、MSDのIsentress(raltegravir、和名アイセントレス)を2歳以上の青少年HIV患者に用いることが支持された。

リンク:バイエルのプレスリリース

リンク:アボットのプレスリリース

CHMPはGE薬の審査も担当している。10月はノバルティスの慢性骨髄性白血病治療薬、Gleevec(imatinib、和名グリベック)のGE品が初めて肯定的意見を得た。テバの製品だ。日本の特許は2014年に失効する模様だが、欧州は2016年まで有効なので、発売は遅れそうだ。2000年代に承認された多くの薬の中でもずばぬけて優れた薬だが、値段も高いので、GE薬を待望する保険機関や患者が多いだろう。

一方、肯定的意見を獲得できなかったのがヴィーヴァス(Nasdaq: VVUS)の体重管理用コンビ薬、Qsiva(phentermine、topiramate ER)だ。肥満症の短期治療薬として米国などで承認されているphentermineは心拍影響があるため、欧州では承認が取り消された国もある。topiramateは癲癇の治療や偏頭痛予防に承認されているが、中枢神経作用剤なので当然、中枢神経系副作用を持ち、催奇性もありそうだ。

Qsivaは配合量を抑えているが、CHMPはこれらの副作用を懸念した模様。ヴィーヴァスは9月に肯定的意見を受けられそうにないことを発表している。ヴィーヴァスは異議申立を行って、違う国の委員による再審査を請求する考え。

リンク:ヴィーヴァスのプレスリリース

また、ドイツのMerz Pharmaceuticalsがデンマークのルンドベックと開発したmemantineとdonepezilの合剤も支持されなかった。中高度アルツハイマー病で両方の薬を併用している患者向けに承認申請したが、複数の併用試験のうち一部しか成功しなかったことや、memantineを服用している患者に追加投与する効用が明らかでないことなどがボトルネックとなった。

両社は既に併用している患者がスイッチする薬として申請することで裏口承認を取ろうとしたのかもしれないが、CHMPは正面から併用療法の有効性を問い、両社は、十分なエビデンスを提示することができなかった。併用療法を喧伝している学者はこのニュースを直視できないだろう。

【承認】


硝子体黄斑癒着硝子治療薬が承認

(2012年10月18日)

ベルギーのThromboGenics(Euronext Brussels: THR)が開発したJetrea(ocriplasmin)が米国で症候性硝子体黄斑癒着の治療薬として承認された。硝子体に一回、注射する。臨床試験では2-3割の患者で症状が消散した(シャム群は10%前後)。

硝子体黄斑癒着は硝子体のゲルが黄斑と癒着、穴が開くこともある。患者数は50万人と推測されている。Jetreaはヒト・プラスミンの一部を除去して短縮したもの。米国外の権利はノバルティスのアルコン部門が保有している。

リンク:ThromboGenicsのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年10月14日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月14日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗アミロイド・ベータ抗体はアルツハイマー病に効くのか、効かないのか
  • クレメジンの保存期慢性腎不全試験が又々フェール
  • バイエルの新用法低用量ピルがEUで承認
  • アブラキサンが米国で非小細胞性肺癌に適応拡大



【新薬開発】


抗アミロイド・ベータ抗体はアルツハイマー病に効くのか、効かないのか

(2012年10月8日)

イーライリリーは、抗ヒト可溶性アミロイド・ベータ・ヒト化モノクローナル抗体LY2062430(solanezumab)の第三相試験のハイライトを発表した。ANA(米国神経学会議)でも研究者がデータ発表したのだが、解析方法がメーカー側と研究者側で異なる模様であり分かり難い。それはそれとして、どちらの解析でも抗アミロイド療法は無効ではないことが示唆された。今後は、正しい使い方やもっと効果の高い薬の探索が課題になりそうだ。

学会発表の詳細は把握していないので、ここではイーライリリーの発表に即して説明する。第三相試験は一本は米国中心に、もう一本は欧州・豪州中心に、軽中度アルツハイマー病患者を約1000人ずつを組入れ、18ヶ月実施した。日本の医療施設は両方に参加した模様だ。偽薬またはsolanezumab 400mgを4週間に一回静注点滴して、認知機能や生活機能の改善効果を検討した。

一本目はどちらの解析もフェールしたが、軽度(ベースライン時点でMMSEスコアが20-26)の患者には有意(p=0.008)な認知機能改善作用が見られた。18ヶ月経過時点におけるADAS-cog(認知機能に係わる11項目の病状診断スコア)の悪化が42%少なかったのである。そこで、まだデータベースをロックしていなかった二本目の試験の主評価項目を変更し、軽度患者のADAS-cog14(同じく14項目の病状診断スコア)だけとした。

二本目の結果は、悪化が20%少なかったものの有意ではなかった(p=0.120)。生活改善機能の指標であるADCS-ADLは悪化が19%少なかったが、これも有意ではなかった(p=0.076)。一方、今回のリリースで初めて公表された、事前に計画されていた軽度患者のプール分析の結果は、ADAS-Cog14の悪化が34%少なく(p=0.001)、ADCS-ADLも17%少ない傾向があった(p=0.057)。

有害事象については、発生率が1%以上で偽薬比有意に多かったのは狭心症だけだった(1.1%対0.2%)。同じ抗アミロイド・ベータ抗体であるbapineuzumabの試験では血管原性浮腫(ARIA-E)のリスクが見られたが、solanezumabは11人(発生率1%)対5人で有意な差は無かった。

イーライリリーは医薬品承認審査機関と相談する考えだが、承認申請が認められる可能性は低いだろう。第三相試験を二本以上実施するのは、一本だけだと、その結果が治験に参加した特定の医療施設、患者以外にも当てはまるかどうか、分からないからである。solanezumabは一本目の試験で浮上した仮説が、二本目の試験で再現されなかったのだから、外挿性が疑わしい。

プール分析は仮説を立証する上では意味がない。単純にいえば、二本の試験の平均値を計算しているだけなのだから、一本が成功すればそれなりに良い数値が出る。データ数が増加すれば検出力が高まり小さな差でも有意差が出やすくなる。今回のプール分析でも、一本目の試験だけの解析と比べて差が小さいのにp値は低くなっている。軽度の患者には効果がある、という仮説を構築する上では有益だが、仮説が証明されたとは言えない。従って、改めて軽度患者だけを組入れた試験を改めて行う必要があるだろう。

もう一つ、今回の試験で考えなければならないのは、統計的に有意であることと治療する価値があるということは同じではない、ということだ。Alzheimer Research Forumの記事によると、ANAでデータ発表を行ったバイエル医科大学のR. Doody自身が治療効果は小さいことを指摘した。18ヶ月間にADAS-Cog14が約8ポイント低下する中で、solanezumab群と偽薬群の差は1.41ポイントに過ぎなかった由である。

因みに、代表的なアルツハイマー病薬であるAriceptの試験では、24週間でADAS-Cog(11項目)に3ポイントの差があった。solanezumabの試験では多くの患者がAriceptなどの既存薬を服用していたので、両剤の効果を比較することはできないが、3倍の期間治療して効果は半分なのだから、効果が高いとは言えないだろう。バイオ薬なのでもし発売されたら極めて高い価格が付けられるだろうから、コストパフォーマンスも考えなければならない。

効果をブーストするにはどうしたら良いのか?アミロイド・ベータが蓄積し神経細胞に障害を与えた後に治療しても手遅れなのだとしたら、発症前に予防に用いることが考えられる。この点で注目されるのが、2013年にも開始される遺伝性・若年性アルツハイマー病予防試験、DIAN TU試験だ。solanezumabやロシュの抗アミロイド・ベータ抗体gantenerumab、そしてベータ・セクレターゼ阻害剤をテストする模様。尤も、治験の規模は小さいようだ。

もう一つは、新たな抗アミロイド・ベータ抗体やベータ/ガンマ・セクレターゼ阻害剤の探索だ。solanezumabはアミロイド・ベータの結合部位がbapineuzumabと異なり、蓄積したアミロイド・ベータには結合しないので血管原性浮腫のリスクが小さいが、アミロイド・ベータを減らす効果については良く分からないところがある。第三の箇所に結合する抗体や、結合力の高い抗体なら違った結果になるかもしれない。尤も、三剤の第三相試験全てがフェールしたことを考えれば巨額の費用を投じて挑戦する製薬会社が現れるかどうか心許ない。

子供の頃、「希望という名の あなたをたずねて遠い国へと また汽車に乗る」という歌を聞いたことがある。物悲しいメロディーを聞きながら、希望が残っていることが如何に残酷であるか、考えさせられた。アミロイド仮説はまだ希望が残っている。だが、ここからの旅は容易ではないだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

リンク:Alzheimer Research Forumの関連記事

クレメジンの保存期慢性腎不全試験が又々フェール

(2012年10月10日)

田辺三菱製薬とクレハは、海外で実施されたAST-120/MP-146(和名クレメジン)の第三相試験がフェールしたことを公表した。日本で実施された同様なアウトカム試験もフェールしており、結局、臨床的な転帰を改善するほどのパワーはそれ程大きくないのだろう。

これらの試験は用途が日本で承認されているものと若干異なるが、すごく異なる訳ではない。また、日本で承認されている用途で臨床的転帰改善作用が確認されている訳でもない。日本では21年の市販歴を持つ薬だが、このような経験を繰り返すうちに、きちんとした試験を行って効能を明確にすることの重要性が日本でも認知されるようになるのだろう。

両社のプレスリリースには明記されていないが、このEPPIC試験は1と2の二本が実施された。保存期慢性腎不全の患者を約1000人ずつ組入れて、透析導入、腎移植、血清クレアチニン値倍化の何れかが発生するリスクを偽薬と比較した。日本では6gを一日三回服用する用法だが、EPPIC試験は9g一日三回が採用された。結果は、統計学的な有意差は認められなかった。

階層別解析で進行性患者には有意差があったとのことだが、このような解析は効果の証明とは言えない。詳細はASN(米国腎臓学会)で11月3日に発表される予定。

海外試験に先立って、日本でも保存期慢性腎不全のアウトカム試験、CAP-KDが実施されたが、主評価項目(EPPIC試験と同じ)の解析はフェールした。イベント発生数が予想より少なかった模様だが、ハザードレシオを見ても、カプラン・マイヤー・カーブを見ても、私には効果が全く感じられなかった。eGFRの悪化を抑制する効果はあったようだが、海外試験ではどうだったのだろうか?

クレメジンは第三相試験の後顧的解析で24週間の透析導入・血清クレアチニン倍化発生率が38%と、偽薬群の49%より32%少なかったため、透析導入を遅らせる効能があると考えられている。CAP-KD試験の発生率ははるかに低いので、透析が必要になるリスクが高い進行性の患者でないと効果が表面化しない、と考えることもできる。一方で、後顧的解析はエビデンス・レベルが低いのだから、三本の大規模前向き試験が全てフェールしたことの方を重視して、進行性患者に対する効能にも疑問が生じたと考える余地もありそうだ。

リンク:田辺三菱製薬のプレスリリース(和文)

リンク:ClinicalTrials.govの治験登録(EPPIC-1)

リンク:ClinicalTrials.govの治験登録(EPPIC-2)

【承認】


バイエルの新用法低用量ピルがEUで承認

(2012年10月9日)

バイエルは、低用量ピルFlexyess(drospirenone、ethinylestradiol)がEUで承認されたと発表した。2013年下期からロールアウトする予定。同社のYasminなどと同じ配合だが、特徴的なのは用法だ。24日から120日の服用期間中の任意の時期に4日間の休薬日を設けることによって生理のタイミングや頻度を調整できる。120日毎ならば年3回に減らすことができる。

リンク:バイエルのプレスリリース

アブラキサンが米国で非小細胞性肺癌に適応拡大

(2012年10月12日)

セルジーン(NASDAQ: CELG)は、Abraxane(paclitaxelアルブミン結合ナノ粒子製剤、和名アブラキサン)を非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。治癒を目的とした摘出術や放射線療法の候補にはならない患者に、carboplatin併用で用いる。Abraxaneは2005年に転移性乳癌の二次治療薬として初承認された。

非小細胞性肺癌の臨床試験では、ORR(奏功率)が33%と通常のpaclitaxel製剤を用いた群の25%を有意に上回った。扁平上皮腫や大細胞カルシノーマで上回ったが、カルシノーマ/腺腫には大差なかった。同社は日本(大鵬薬品が開発販売)やオーストラリアなどでも適応拡大申請中で、2013年の承認を見込んでいる。

paclitaxelはBMSが開発した抗癌剤のベストセラー。疎水性なので溶剤を用いているが、この溶剤(cremophore)がアレルギー反応を誘発するリスクを持つため、予めステロイドなどを投与してプリトリートしたり、時間をかけて少しずつ点滴したりする必要がある。Abraxaneはヒトのアルブミンの中に入れて更にナノ粒子化した新製剤で、大きさが赤血球の100分の1と小さい。点滴時間は30分と6分の1以下に短縮されている。

副作用がやや小さいため高量投与が可能。上記の試験では、Abraxaneは100mg/m2を週一回、通常のpaclitaxel製剤は200mg/m2を3週間に1回投与したので、実質的に1.5倍の量を投与した計算になり、これがORRの向上につながったと考えられる。

リンク:セルジーンのプレスリリース

今週は以上です。

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