2015年9月6日

2015年9月6日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 米国初のバイオシミラーが発売
  • バイエル、心不全・腎不全治療の第三相へ
  • 抗Sclerostin抗体が骨粗鬆症試験でフォルテオに勝つ
  • 抗SLAMF7抗体の承認申請が米国でも受理
  • オプジーボ、非扁平上皮肺癌の承認申請受理
  • パーキンソン病の精神症状を治療する薬が承認申請
  • アムジェン、カルシウム感受受容体作動剤を欧州でも承認申請
  • アストラゼネカ、複合セファロスポリンをEUで承認申請
  • 遺伝性オロト酸尿症治療薬が米国で承認
  • NK-1受容体拮抗剤が米国で承認
  • アストラゼネカ、Brilintaの適応拡大が米国で承認
  • ノバルティス、新規抗癌剤などがEUで承認
  • アレクシオン、EUで二剤が承認

【今週の話題】


米国初のバイオシミラーが発売
(2015年9月3日発表)

ノバルティスのジェネリック薬部門であるサンドは、米国でZarxio(filgrastim-sndz)を発売した。アムジェンのrhG-CSF、Neupogen(filgrastim、和名グラン)のバイオシミラーで、米国でバイオシミラーが発売されるのは初。同等性確認試験が実施されていない適応症も含めて、Neupogenの五つの適応症全てで承認された。

バイオ薬は組成が複雑で評価方法も十分に確立していないため、化学合成薬のように活性成分が同じなら薬効・副作用も同じとは言えない。rhG-CSFはテバが12年に米国でGranix(tbo-filgrastim)の承認を獲得したが、法体系上はバイオシミラーではない。Zarxioはバイオシミラーだが、互換性は認められていないので、自動代替の対象にはならない(化学合成薬なら処方箋に先発品が記されていても薬剤師が後発品を出すことが可能)。

報道によると、価格は先発品より15%安いだけである模様。アムジェンが値引きで対抗する可能性もあり、Zarxioの普及スピードはrhG-CSFが先に発売された欧州や日本より穏やかなものになりそうだ。Neupogenの米国年商は8億ドルと長期作用性のNeulasta(pegfilgrastim、和名ジーラスタ)より小さく、主戦場はNeulastaのシミラーだろう。

バイオシミラーは先発品と似ているが同じではない。副作用報告などを分析する際に区別する必要があるため、FDAはバイオ薬の一般名の表記を「活性成分名-xxxx」とする考えだ。Zarxioの一般名の末尾にはサンドを示すsndzが付加された。先発品の表記も変更される模様。

一般名といえば米国ではUSANだが、FDAは違う名称を付与することがこれまでにもあった。ジェネンテックのKadcyla(和名カドサイラ)の一般名はUSANではtrastuzumab emtansineだが、FDAは、Herceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)との取り違え事故を防ぐために、ado-trastuzumab emtansineという呼称を使うよう医療従事者に推奨している。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

【新薬開発】


バイエル、心不全・腎不全治療の第三相へ
(2015年8月31日発表)

バイエルは、BAY 94-8862(finerenone)の第三相試験を年内に開始すると発表した。ミネラルコルチコイド受容体拮抗剤(MRA)で、既存のspironolactoneやInspra(eplerenone)より選択性が高く腎臓分布が心臓と比べ高くないため、臓器保護作用が高く副作用が小さい可能性がある。

第三相試験は糖尿病性腎症が高アルブミン尿と顕性アルブミン尿で各一本。駆出率低下を伴う心不全悪化で入院した二型糖尿病や慢性腎疾患患者を対象とするものが一本。欧米日中などの施設が参加する予定。

心不全用途は後期第二相試験の結果がESC(欧州心臓学会)で発表された。対象疾患は上記の第三相と同じで、被験者の平均年齢は71歳。開始用量2.5~15mg(カリウム値が一定以上に上昇した患者以外は30日後に倍に増量)の5群とeplerenone群に割付けて90日間治療し、バイオマーカー(NT-proBNP)改善効果を比較したところ、eplerenoneと大差なかった。

興味深いのは、探索的複合評価項目である全死亡・心血管入院・心不全悪化が少なかったこと。特に、10mg群は、ハザードレシオ0.56、名目p値0.0157と、心臓保護効果の兆候が見られた。治療時発現有害事象はeplerenoneと大差なかった。カリウム値上昇発生率も大差ないので、不整脈などが起きないか、第三相でよく確認する必要がありそうだ。

慢性腎疾患の後期第二相は3月に学会発表され、今回、Journal of American Medical Association誌に論文刊行された。7.5mg以上の群でアルブミン・クレアチニン比が偽薬比有意に改善した。カリウム値や腎機能に悪影響はなかったとのことだが、カリウム値上昇で治験を離脱した患者の比率が用量により0~3.2%と、偽薬群のゼロより増加している。

第三相は規模が大きいので結果が出るのは数年後になりそうだ。

リンク: バイエルのプレスリリース

抗Sclerostin抗体が骨粗鬆症試験でフォルテオに勝つ
(2015年9月1日発表)

アムジェンは、AMG785(romosozumab)が第三相骨粗鬆症治療試験でForteo(teriparatide、和名フォルテオ)より有意に高い効果を示したと発表した。データは今後の学会で発表される予定。

AMG785は造骨細胞抑制・破骨細胞活性化に関わるsclerostinを標的とするヒト化抗体で、UCBが買収した英国のセルテックが創製したもの。日本はアムジェンとアステラス製薬の共同開発提携の対象の一つとなっている。月一回、皮注する。Forteoは遺伝子組換え型ヒト副甲状腺ホルモンで、骨粗鬆症治療薬としては珍しく造骨増強作用を持つ。一日一回、皮注する。

投与方法が大きく異なることやForteoを長期間投与すると癌のリスクが高まる懸念があることから、1年間のオープンレーベル試験として実施された。被験者はビスフォスフォン酸による治療を受けながら骨損壊を経験した患者で、謂わば、二次治療試験だ。主評価項目は大腿骨のDXA-BMD。このサロゲート・マーカーは臨床的に重要な転帰である股関節骨折のリスクとリンクしているように感じられるので重要だ。

このほかに、Fosamax(alendronate、和名フォサマック)対照試験や偽薬対照試験も進行中。主評価項目は何れも骨損壊。AMG765の投与は最初の1年だけで2年目は既存薬にスイッチする用法になっており、長期的曝露に懸念があるのかもしれない。過去の臨床試験では深刻な有害事象として乳癌やCOPD、非心因性胸痛、手首骨損壊、良性腎オンコサイトーマなどが報告されている。

この二本の試験の結果は16年第1四半期以降に判明する見込み。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【承認申請】


抗SLAMF7抗体の承認申請が米国でも受理
(2015年9月1日発表)

BMSは、Empliciti(elotuzumab)を米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査を受ける。EUでも7月に受理されている。骨髄腫やNKセルに発現する表面分子であるSLAMF7を標的とする免疫刺激的ヒト化抗体で、PDL(後に新薬開発事業をアッヴィが買収)が創製しBMSに開発販売権を供与したもの。

多発骨髄腫の二次治療薬として、代表的なレジメンであるdexamethasoneとRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)またはVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)と三剤併用する。Revlimid併用第三相試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が19.4ヶ月と既存二剤だけの群の14.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70で統計的に有意だった。Velcade併用第二相でもPFSハザードレシオが0.72だった。

多発骨髄腫は三剤併用試験が活発に行われるようになり、四剤併用試験も良さそうな結果を出している。もうそろそろ、どの三剤併用が最も優れるのか、直接比較試験を行っても良いころだろう。

リンク: BMSのプレスリリース

オプジーボ、非扁平上皮肺癌の承認申請受理
(2015年9月2日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発した抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab)を非扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は16年1月2日。3月に承認された扁平上皮非小細胞性肺癌と合わせて全ての非小細胞性肺癌で使えるようになる可能性が出てきたが、効果がPD-L1発現状況によって左右されるように見えるので、高発現癌に限定される可能性もありそうだ。

リンク: BMSのプレスリリース

パーキンソン病の精神症状を治療する薬が承認申請
(2015年9月3日発表)

ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)は、Nuplazid(pimavanserin tartrate)を米国で承認申請したと発表した。5-HT2Aのインバース・アゴニストで、パーキンソン病の急性精神症状(幻覚や妄想)を治療する。最初の第三相試験がフェールし二本目も中断、バイオベイルとの提携も解消されたが、偽薬効果を抑制するために標準療法が充実している国だけに仕切り直した三本目が成功。FDAとの相談を踏まえて承認申請を決定した。

当初は14年末までに申請する予定だったが、15年第1四半期に遅延、そして更に半年遅延と、あまり順調ではない。薬効のエビデンスも万全ではないので、無事承認されるかどうか、不確かな面がある。

リンク: ACADIAのプレスリリース

アムジェン、カルシウム感受受容体作動剤を欧州でも承認申請
(2015年9月2日発表)

アムジェンは、AMG 416(etelcalcetide)をEUに承認申請したと発表した。米国でも8月に申請。カルシウム類縁体でカルシウム感受受容体を作動し、副甲状腺ホルモンの分泌を抑制する。透析期慢性腎疾患の二次性副甲状腺機能亢進症の治療に用いる。

12年に3億ドルで買収したKAI社のパイプラインで、日本は小野薬品がONO-5163として第三相試験中。

リンク: アムジェンのプレスリリース

アストラゼネカ、複合セファロスポリンをEUで承認申請
(2015年9月2日発表)

アストラゼネカは、第三世代セフェム系抗生物質のceftazidime(和名モダシン)と新開発のベータラクタマーゼ阻害剤avibactamの合剤をテストした第三相複雑尿道感染症治療実薬対照試験が二本とも成功したと発表した。Dorivax(doripenem、和名フェニバックス)と比べて効果が非劣性、優越性の解析も成功した由。

米国ではAllergan(NYSE:AGN)がAvycaz名で2月に承認を得ている。EUはceftazidimeの文献データによる申請を認めなかった模様で、北米や日本以外の権利を持つアストラゼネカは第三相試験を実施してEUに承認申請、5月に受理されたことを今回、明らかにした。適応症は明記されていないので、米国で承認された複雑腹腔内感染症も含まれているのか不明だ。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


遺伝性オロト酸尿症治療薬が米国で承認
(2015年9月4日発表)

FDAは、Xuriden(uridine triacetate)を遺伝性オロト酸尿症の治療薬として承認したと発表した。世界の患者数20人という超希少疾患で、ウリジン1リン酸合成酵素の機能低下によりウリジンが欠乏し、貧血や尿結石、腎障害などを合併する。正式に承認された薬は初。ウリジンのプロドラッグで、生物学的利用率がウリジンの数倍高い。顆粒状なので食物や飲料に混ぜることも可能。

承認申請したのはメリーランドの未上場企業、Wellstat Therapeuticsで、希少小児疾患優先審査バウチャーを取得する。uridine triacetateは抗癌剤の5-FUの解毒剤として欧米で特例的に使用することが認められている。

リンク: FDAのリリース

NK-1受容体拮抗剤が米国で承認
(2015年9月2日発表)

FDAは、Varubi(rolapitant)を抗癌剤による悪心嘔吐の予防薬として承認したと発表した。NK-1受容体拮抗剤で、抗癌剤の投与から24~120時間後に発生する遅発性悪心嘔吐を抑制する。類薬ではMSDがEmend(aprepitant、和名イメンド)を03年に発売しているが、肝臓酵素相互作用が異なり、Emendは3A4や2C9、Varubiは2D6を阻害するので、同時使用薬に応じて用量を調整したり薬を替えたりすることになる。

元々はMSDが買収したシェリング・プラウの開発品で、Opko Health(AMEX:OPX)が資産を取得、Tesaro(Nasdaq:TSRO)に独占開発販売権を供与したもの。Tesaroはエーザイが買収したMGIファーマで制吐剤Aloxi(palonosetron)を商業化したメンバーがマサチューセッツ州で設立した会社。

リンク: FDAのリリース
リンク: Tesaroのプレスリリース

アストラゼネカ、Brilintaの適応拡大が米国で承認
(2015年9月3日発表)

アストラゼネカは、P2Y12拮抗剤Brilinta(ticagrelor)の適応拡大をFDAが承認したと発表した。ST上昇型心筋梗塞や非ST上昇型急性冠症候群の治療薬として11年に発売された抗血小板薬だが、今回、心筋梗塞から1年以上経った患者に用いることも認められた。

最初の承認はPLATO実薬対照試験、適応拡大はPEGASUS TIMI 54偽薬対照試験のデータに基づくもので、被験者は同じ人たちではない筈だが、レーベル上は一体になっている。即ち、急性冠症候群または心筋梗塞歴を持つ患者が対象で、前者の負荷用量は180mg、維持用量は最初の一年が90mgを一日二回。一年経過後は60mg一日二回。60mg一日二回は心筋梗塞から1年以上経った患者を組入れたPEGASUS試験で90mg一日二回群と大差なかったことを急性冠症候群直後からずっと服用する患者にも当て嵌めたのだろう。

アストラゼネカは60mg錠を9月中に発売する予定。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

ノバルティス、新規抗癌剤などがEUで承認
(2015年9月1日、4日発表)

ノバルティスは悪性黒色腫用薬二剤の併用と、新規多発骨髄腫治療薬がEUで承認されたと発表した。

前者はグラクソ・スミスクラインとのアセットスワップにより取得した二種類の抗がん剤、Tafinlar(dabrafenib)とMekinist(trametinib)の併用療法。braf阻害剤とMEK1/2阻害剤を併用することで効果を増強し、皮膚有害事象を緩和する。臨床試験ではtafinlar単剤やロシュのbraf阻害剤よりも進行抑制効果や延命効果が大きかった。

リンク: ノバルティスのプレスリリース(併用療法、9/1付)

新薬は、Farydak(panobinostat、和名ファリーダック)。欧州では初のヒストン脱アセチル化酵素阻害剤で、多発骨髄腫の三次治療(Velcadeと免疫調停薬の後)に用いる。偽薬対照試験のサブグループ分析で、このサブグループのメジアン生存期間が12.5ヶ月と偽薬群の4.7ヶ月より長かった。

催不整脈性を持ち、臨床試験でも心房細動などの心臓有害事象が17%の患者で、失神が6%で発生。治療中に多発骨髄腫以外の理由で死亡した患者の比率は6.8%と偽薬群の3.2%を上回った。そのせいか、このサブグループにしか承認されなかった。2月に承認された米国も同じ。7月承認の日本も再発・難治性患者が対象になっている。

リンク: 同(Farydak、9/4付)

アレクシオン、EUで二剤が承認
(2015年9月1日発表)

カナダの希少疾患用薬開発販売会社、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、二種類の新薬がEUで承認されたと発表した。

一つは遺伝子組換え型ヒトリソソーム酸リパーゼ、Kanuma(sebelipase alfa)。ヒトリソソーム酸リパーゼ欠乏症の初の治療薬。雌鶏の卵管細胞に生産させ卵白から回収する薬も初。米国でも間もなく承認されるはずだったが、FDAの要請に基づきCMC(化学、生産、管理)に関するデータを追加提出したため、審査期限が12月に延期された。日本でも承認審査中。

6月にSynageva BioPharmaを84億ドル(純額)で買収して入手したパイプライン。

リンク: アレクシオンのプレスリリース(Kanuma)
リンク: 同(米国審査期限延期について、9/4付)

もう一つは、遺伝子組換え型アスホターゼアルファ、Strensiq(asfotase alfa、和名ストレンジック)。小児発症型の低ホスファターゼ血症で骨合併症を持つ患者向けに例外的環境条項に基づいて承認された。これも初の治療薬。米国でも優先審査中でもうそろそろ承認されるのではないか。日本は7月に承認された。

12年にEnobia Pharmaを達成報奨金を含めて10.8億ドルで買収して入手したパイプライン。

リンク: 同(Strensiq)


今週は以上です。

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