2015年3月22日

海外医薬ニュース2015年3月22日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗アミロイドベータ抗体が早期試験で効果の兆し
  • ACC:抗PCSK9抗体の心血管安全性データが発表
  • ACC:BrilintaのDAT試験が成功
  • Imbruvicaの併用試験が成功
  • サノフィ、リキスミアの心血管アウトカム試験が成功
  • GSK、諮問委員会がレルベアを成人向けに承認することを支持
  • コール酸補充療法が米国で承認


【新薬開発】


抗アミロイドベータ抗体が早期試験で効果の兆し

(2015年3月20日発表)

バイオジェン・アイデックは、2015 AD/PD(アルツハイマー病パーキンソン病及び関連神経学的障害国際会議)で、BIIB037(aducanumab)の後期第一相試験のデータを発表した。アミロイドプラクが投与量依存的に減少しただけでなく、高用量は臨床的評価項目でも良さそうな結果を出した。抗アミロイドベータ薬では久々の朗報だが、一群30~40例の小規模な試験なので過信はできないだろう。バイオジェンは第三相試験を開始する予定。

BIIB037はスイスのNeurimmune社が長寿で認知機能が正常な健常者から発見・創製した抗体で、アルツハイマー病患者でしばしば見られるアミロイド凝集体に結合して、脳内の免疫細胞であるミクログリアに攻撃・除去させる。バイオジェンは07年に世界開発商業化権を取得した。

エーザイもスウェーデンのニューロサイエンス社から抗アミロイド・ベータ抗体BAN2401の開発販売権を取得、後期第二相試験を実施している。バイオジェンとエーザイは昨年、BAN2401など二剤の共同開発商業化で合意し、同時に、エーザイがBIIB037のライセンス・オプションを取得した。この結果、アミロイドベータ凝集体を標的とする抗体医薬の中で最も開発が進んでいる二品を両社が独占できるようになった。

今回の後期第一相試験は、前駆・軽度アルツハイマー病でアミロイドベータ検査で陽性だった患者を組入れて、偽薬又は試験薬を54週間、反復投与したもの。試験用量は体重1kg当り1、3、6、10mgで、4週間に一回、1時間点滴静注した。マウスの試験では3mg/kg以上でアミロイドベータ除去効果が見られた。6mg群は途中で追加されたため、まだ54週のデータはない。

学会では中間解析結果が発表された。まず、アミロイドプラクを削減する効果(26週時点、偽薬群との差)は、1mg/3mg/6mg/10mgの各群が0.030/0.087/0.143/0.205となり、1mg以外は統計的に有意だった。54週時点では1mg/3mg/10mgの各群が0.056/0.139/0.266でここでも1mg以外は有意だった。54週時点の方が減少が大きく、効果が累積的であることを示唆している。

臨床的評価は探索的解析で、CDR-SBとMMSEの二種類の病状診断スコアを用いた。CDR-SBは身体機能と認知機能の評価スコアで、前駆・軽度アルツハイマー病治療薬の有効な評価方法として欧米の承認審査機関に支持されている。MMSEはアルツハイマー病の診断に広く用いられているが、病状変化を定量的に測定する手法としてはあまり鋭敏ではないと考えられている。

54週時点の解析なので6mg群のデータはない。CDR-SBは偽薬/1mg/3mg/10mgの各群で2.01/1.70/1.33/0.59悪化した。10mg群は偽薬比でp<0.05だった(多重性補正が行われていないので厳密には統計学的に有意とは言えない)。MMSEは各群、3.14/2.21/0.75/0.58悪化となり、3mgと10mgはp値が0.05を下回った。

過去の抗アミロイドベータ抗体医薬の試験では、血管浮腫の副作用が特にApoE4という加齢性アルツハイマー病関連遺伝子多型を持つ患者で、多く発生した。免疫細胞が凝集体を攻撃する時に血管が流れ弾に当たるのだろう。ApoE4型は元々、血管浮腫のリスクが高いと言われており、副作用が出やすいのかもしれない。造影検査で発見できるため、今日ではARIA(アミロイド関連映像異常)と総称されている。

BIIB037は血管のアミロイドベータ凝集体には結合し難いため、損傷を与えるリスクは小さいと考えられてきたが、そうでもなさそうだ。1/3/6/10mg群のARIA関連浮腫発生率はキャリアでは5/5/43/55%、これを理由とする投与中止の発生率は5/0/10/35%だった、一方、ノンキャリでは0/9/11/17%と0/0/11/8%だった。全般的に症状を伴わない、あっても軽度で一時的に終わることが多く、過半の症例は用量を減らして投与を続行できたとのことだが、今後も要注意だろう。

この試験は症例数が少ないので信頼性が低いが、後期第一相段階のデータとしては良好だ。3mg/kg以上が有効というマウス試験の所見が裏付けられ、アミロイドプラク除去効果も、臨床的効果も、用量相関しているように見える。

留意点は三点。臨床試験のデータを見る時は偽薬群の数値を過去の試験と照らし合わせて確認することが重要だが、偽薬群のCDR-SBの1年間の悪化はやや大きいように感じられ、この試験に参加した患者に何らかの特殊性があった可能性を感じさせる。証券アナリストの事前の想定と比べると、相対リスク削減率の点では想定をはるかに上回ったが絶対差はレンジの真ん中辺りであり、どちらを重視すべきか難しくなっている。これも、この試験の悪化が想定より大きかったことが原因と推測される。

第二は、治療効果の臨床的意義。CDR-SBも前駆アルツハイマー病も過去の臨床試験の実績が少なく、どの程度の効果があれば臨床的に意義があるのか良く分からない。尤も、FDAは統計学的に有意な差があれば治療効果の多寡は問わないスタンスのようであり、この問題は承認審査の段階では重要ではないだろう。

第三は、血管浮腫だ。BAN2401もアミロイドベータ・モノマーに対するプロフフィブリル選択性が1000倍以上高い模様であり、もしBAN2401のARIA浮腫リスクが小さいなら、こちらの方が有望になるだろう。

もう一つ指摘したいのは、この試験の隠れた意義だ。アミロイドベータに作用する薬はアミロイドベータ蓄積を持つ患者に特に有効である可能性があるが、これまで、軽視されていた。今回の試験は事前に検査・スクリーニングを行っており、これが成功の陰の立役者かもしれない。過去の失敗から学び同じことを繰り返さないことの重要性を示した。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

ACC:抗PCSK9抗体の心血管安全性データが発表

(2015年3月15日発表)

欧米で承認審査中である二種類の抗PCSK9抗体の長期試験データがACC米国心臓学会とNew England Journal of Medicine誌で発表された。どちらも明確なエビデンスとは言えないが、心血管疾患のリスクを削減する可能性を示唆する好ましい内容だ。

リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発しているPraluent(alirocumab)は、ODYSSEY LONG TERM試験の結果が発表された。LDL-Cが70mg/dL以上で心血管リスクの高い患者2341人を150mg(二週間に一回、皮注)群と偽薬群に2対1割付し、78週間に亘ってフォローした二重盲検試験。

被験者の7割が冠状心疾患、3割が二型糖尿病、ほぼ全員がスタチンを服用し、半分近くが高用量を用いていた。ezetimibeは14%が服用。LDL-Cはベースライン時点で平均120mg/dだったが、24週間で試験薬群は61%低下、偽薬群は0.8%上昇し、夫々平均48mg/dLと119mg/dLとなった。著高リスク患者を70mg/dL未満に引き下げる、アグレッシブ療法試験の一つと言えるだろう。

投与中止は各群28%と24%で、皮注薬であるせいかやや多いように感じられるが、有害事象による投与中止は7%と6%なので、全般的には忍容性は良好だった。

事前に設定された心血管有害事象の解析は、発生頻度が4.6%対5.1%で大差なかった。しかし、進行中の心血管アウトカム試験と同じ項目(冠状心疾患死、心筋梗塞、脳卒中、不安定狭心症による入院)だけをカウントする事後的解析では、1.7%対3.3%、ハザードレシオ0.52、名目p値は0.02だった。なぜ結果が食い違ったのが論文では検討されていないが、各項目のデータを見ると、前者の解析で一番発生数が多い『虚血による冠血行再建術』で大差なかったことと、数は少ないが鬱血性心不全による入院が多かったことが影響したのだろう。

好ましい結果だが、釈然としない点もある。PCIが普及した今日では、早めに施行して症候性心筋梗塞などを未然に防ごうとするのが一般的であるが、当然、費用が掛かる。アテローム硬化の転帰を改善できるなら冠血行再建術の必要性や医療費を減らせそうなものだが、異なった結果になった。

また、発生頻度が低いので偶然かもしれないが、鬱血性心不全による入院が増加したことは要注意だ。ソフトなエンドポイントで主観や医療施設の方針に左右される可能性があるが、心血管項目は第三者の検証を受けているので通常の試験よりは信頼性が高い。心血管疾患だけでなく、筋痛や神経認知イベント(無気力、記憶障害、混乱など)、眼科的事象も若干増加した。これらの事項はアウトカム試験でもう一度チェックすることになるだろう。

もう一つ、アムジェンのRepatha(evolocumab)は、第二相と第三相の延長試験のプール分析が発表された。本試験の割付とは関係なしに4465人を試験薬と標準療法だけの群に2対1無作為化割付してメジアン11ヶ月追跡したもの。デザイン面での留意点は、盲検ではないこと、本試験を無事に終了した患者だけが対象というスクリーニングバイアスがあること、第二相の延長試験では420mgを4週間に一回皮注したが第三相延長試験では患者が望めば140mgを2週間に一回でも可とされたため用量用法が一定していないこと。

心血管疾患は心血管死、心筋梗塞、不安定狭心症による入院、冠血行再建術、卒中、TIA、心不全による入院をカウントした。結果は、1年時点のカプランマイヤー推定で発生率0.95%対2.18%、ハザードレシオ0.47、95%信頼区間0.28~0.78となった。評価項目はalirocumabの事前に設定された解析と類似しているが、結果は事後的解析と同様なものになった。

深刻な有害事象は各群大差なかった。有害事象全体では当然のことながら注射箇所反応が増加。筋痛、神経認知イベント、頭痛、肢痛、疲労も若干増加しているが、このうち幾つかは注射箇所反応と関連しているのかもしれない。

スタチンは米国で数千万人が服用しているので、数万人に一人の副作用リスクでも1000人が発症する計算になる。抗PCSK9抗体を必要とする患者は一部に過ぎないが、著高リスク患者に70mg/dL未満を目指すアグレッシブ療法の有効性が明らかになってきたこともあり、広く使われる可能性が残っている。それだけに、両剤の心血管アウトカム試験で稀だが深刻なリスクを明確にする必要がある。

リンク:ODYSSEY LONG TERM試験論文(NEJM、オープンアクセス)

リンク:OSLER試験論文(NEJM、オープンアクセス)

リンク:N. Stoneのエディトリアル(NEJM、オープンアクセス)

リンク:リジェネロンとサノフィのプレスリリース

ACC:BrilintaのDAT試験が成功

(2015年3月14日発表)

ACCとNEJM誌では、アストラゼネカの抗血小板薬、Brilinta(ticagrelor)の適応拡大試験の結果も発表された。心筋梗塞発症後1~3年経った患者にアスピリン(75~150mg)と偽薬、60mg、90mgの何れかを一日二回投与して心血管イベントを追跡したもの。8割超がPCI経験者。高リスク患者に長期的に二種類の抗血小板薬を投与するDAT(Dual Anti-platelet Therapy)の有効性を検討した試験の一つと言えるだろう。日本の施設も参加した。

主評価項目は心血管死、心筋梗塞、脳卒中というハードなものだけ。結果は、3年時点のカプランマイヤー推定による発生率が各群9.04%、7.77%、7.85%となり、偽薬比ハザードレシオは60mgが0.84、90mgは0.85。低量、高量、共に偽薬比有意。用量間の差は小さそうだ。尚、Brilintaは急性冠症候群に承認されているが、承認されている維持療法は90mg一日二回。

DATは出血リスクが高まるので便益とのバランスが問題になる。この試験はTIMI(米国の血栓学共同研究グループ)が主導したが、このTIMIの定義に基づく大出血の発生率は各群1.06%、2.30%、2.60%となり、偽薬比有意に増加した。NEJMのエディトリアルが指摘するように、1万人に1年間投与すると42人を心血管イベントから救うことができるが31人が大出血を被るため、良し悪しである。結局、昨年のAHAで発表されたDAPT試験と同じような結果になった。

有害事象による治験離脱は各群8.9%、16.4%、19.0%で、理由としては出血や消化不良が多かった。消化不良はBrilintaの特徴的な有害事象で、clopidogrelやEffient(prasugurel)のようなP2Y12受容体拮抗剤なら回避できるだろう。

アストラゼネカは欧米で適応拡大申請を行った。高リスク患者には有益だろうが、問題は、スクリーニング基準だ。医師の判断に委ねることになるが、医師は何に基づいて判断すべきなのか?今回の試験のような、年3%の確率で発症すると予想される患者は、出血リスクを覚悟してもDATを受けるべきなのか?個々の判断に任せるなら、そもそも何のためのEBMなのか?難しい問題を投げかけている。

リンク:PEGASUS-TIMI 54試験論文(NEJM、オープンアクセス)

リンク:J. Keaneyのエディトリアル(NEJM、オープンアクセス)

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

Imbruvicaの併用試験が成功

(2015年3月16日発表)

ファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)は、Btk阻害剤Imbruvica(ibrutinib)の適応拡大試験が成功したと発表した。慢性リンパ性白血病(CLL)と小リンパ球性リンパ腫(SLL)、マントルセルリンパ腫(MCL)の三種類の血液癌にモノセラピーで使うことが承認されている。

今回の試験は、CLL/SLLの二次治療薬としてRituxan(rituximab)及びTreanda(bendamustine、和名トレアキシン)と併用する効果をこの二剤だけの併用と比較したもので、中間解析でPFS(無進行生存期間)を有意に延ばす効果が認められた。データはASCO米国臨床腫瘍学会で発表される予定。適応拡大に向かうことになりそうだ。

Imbruvicaはジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発販売。ファーマサイクリクスはアッヴィに210億ドルで買収されることで合意している。

リンク:ファーマサイクリクスのプレスリリース

サノフィ、リキスミアの心血管アウトカム試験が成功

(2015年3月19日発表)

サノフィは、二型糖尿病の治療に用いるGLP-1作用剤、Lyxumia(lixisenatide、和名リキスミア)の心血管アウトカム試験が成功したと発表した。二型糖尿病の高リスク患者を組入れてLyxumiaと偽薬を比較したもので、心血管リスクが偽薬比非劣性だった由。データは未発表。

Lyxumiaは欧州や日本では13年に承認されたが、米国は申請撤回となった。FDAは糖尿病薬の承認審査に際して心血管安全性に関わる臨床試験のメタアナリシスを要求、一定のハードルを満たしていない場合は心血管アウトカム試験の結果(中間解析でも可)が出て懸念が払拭されるまで承認しない方針を採用している。

EUの審査文書によるとLyxumiaのMACE(主要有害心血管イベント)のハザードレシオは1.25(95%信頼区間0.67~2.35)であった模様で、ハードルをクリアできていない。脳卒中が多かった模様であり、脳卒中のリスクが高い国では懸念すべき材料だろう。

しかし、きちんとした試験で懸念を排除できたならば、今回は承認される可能性がありそうだ。

リンク:サノフィのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がGSKのレルベアを成人向けに支持

(2015年3月19日発表)

グラクソ・スミスクラインは吸入ステロイドのfluticasone furoateと長期作用性ベータ2作用剤vilanterolの合剤であるBreo(欧州ではRelvar、日本ではレルベア)を開発、米国ではCOPDの維持療法として、日本では喘息症維持療法として、EUではその両方の用途で販売している。

承認用途が区々だが、日本でCOPDで承認されなかったのは日本の試験でfluticasoneの単剤投与群がフェールしたことが原因である模様。米国で喘息症が承認されなかったのはFDAが長期作用性ベータ2作用剤の喘息増悪リスクを懸念していることが原因。GSKは14年に12歳以上の喘息症患者を対象に適応拡大を申請、FDAは肺・アレルギー薬諮問委員会と薬品安全性・リスク管理諮問委員会の共催会議を開き、意見を聞いた。

結果は、18歳以上の成人患者に関しては20人の委員中16人が承認を支持したが、12~18歳の青少年は18人が反対、残りの二人のうち一人も正式採決後に実際は反対であることを表明したようだ。青少年に対する効果は16人が、安全性については19人が立証不十分と判定した。FDAは長期作用性ベータ2作用剤のメーカーに市販後安全性試験を求めているが、Breoに関しても、成人については13人、青少年は17人が実施すべきと回答した。

適応拡大の審査期限は4月30日。FDAのこれまでのスタンスを考えると、成人向けに諮問委員会の支持を受けたとは言え、承認に青信号が点ったとは言えないだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認】


コール酸補充療法が米国で承認

(2015年3月15日発表)

FDAは、Cholbamカプセル(cholic acid)を単一の酵素の欠乏による胆汁酸合成障害とペルオキシソーム障害の成人及び小児の治療薬として承認した。これらの遺伝性希少疾患は、コール酸合成酵素を産生できず、成長障害や命に係る肝疾患のリスクが高まる。Cholbamの単群試験では肝機能検査値と体重を尺度に奏効率を検討。被験者の3年生存率は胆汁酸合成障害試験が66%、ペルオキシソーム障害試験は42%だった。

承認申請したAsklepion社は希少小児疾患優先審査バウチャーを取得した。Retrophin(Nasdaq:RTRX)がオプト・イン・オプションを保有しており、無事承認されたため行使してCholbam関連資産を取得する予定。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Retrophinのプレスリリース

今週は以上です。

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