2016年4月24日

2016年4月24日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA、ナイアシンやフェノフィブリン酸の一部用法を取り消し
  • オプジーボ、頭頸部癌のデータ発表


【今週の話題】


FDA、ナイアシンやフェノフィブリン酸の一部用法を取り消し
(2016年4月18日発表)

FDAは、Niaspan(niacin)と Trilipix (fenofibric acid)の用法のうち、スタチン服用患者に追加投与する用法の承認を撤回した。同時に、ナイアシン・スタチン合剤であるAdvicor(lovastatin配合剤)、Simcor(simvastatin配合剤)、及びGE薬について、アッヴィ(NYSE:ABBV)とGE薬メーカーに承認撤回請求させた上で、承認を取り消した。

複数のアウトカム試験がフェールしたことが原因で、遅すぎると言っても良い位だが、行政の適正手続きを担保するために時間が必要だったのだろう。

高トリグリセライド値や低HDL-C値をナイアシンやフィブレート単剤で矯正することまで否定された訳ではないが、スタチンの成功に便乗して次はトリグリセライド、次はHDL-Cと先走る動きにはブレーキを掛けざるをを得ない。医療の目的は検査値を矯正することではなく、臨床的な転帰を改善することであることを忘れてはいけない。

Niaspanは米国で97年に承認され、09年には原発性高脂血症や混合異脂血症にsimvastatinあるいはlovastatinと併用する適応拡大が認められた。Advicorはスタチン第一号であるMSDのMevacor(lovastatin)の特許が切れた後の02年に、Simcorは同じくMSDのZocor(simvastatin)の特許失効後の08年に発売された。アッヴィはアボットからスピンアウトする前の06年にKOS Pharmaceuticalsを36億ドルで買収してこれらの製品を入手した。

順風満帆だったが、王様は裸であることが露呈した。NiaspanのAIM-HIGH試験が、フェールし、更に、MSDが開発したナイアシンの副作用を緩和する効果を持つlaropiprantとナイアシンの合剤、Cordaptive/Tredaptiveの心血管アウトカム試験、HPS2-THRIVEがフェールしたのである。

心筋梗塞歴またはリスク因子を持つ25000人を組み入れてsimvastatinだけの群とCordaptive併用群の心血管アウトカムを比較したところ、約4年間の累計リスク(カプラン・メイヤー推定)は14.5%で偽薬群の15.0%と大差なく、リスク・レシオ0.96、95%信頼区間0.90-1.03、ログランク・テストのp値0.29だった。一方、稀だが深刻な副作用は増加した。

Cordaptiveは08年にEUで承認されたが、HPS2試験がフェールしたため13年に販売中止となった。大型化が期待されていただけに残念な結果になった。アッヴィは道連れにされた格好だが、GE化した後なので財務的な打撃は限定的だっただろう。実力以上に売れていた訳だから、ラッキーだったとも言えるだろう。

リンク: AIM-HIGH試験の論文(N Engl J Med 2011、オープンアクセス)
リンク: HPS2-THRIVE試験の論文(N Engl J Med 2014、オープンアクセス)
リンク: 海外医薬ニュース2013年3月10日号

TriLipixはアボットがgroupe Fournier(後にソルベイが買収)から米国の権利をライセンスし93年に発売したTriCorの新製剤だ。米国は処方箋に商標名が記載されていてもGE品を患者に渡せる自動代替が普及しているため、GE薬メーカーは医師に販促する必要はなく、先発品をどんどん処方してもらうほうが都合がよい。このコバンザメ戦略を断ち切る対抗策を開発したのが当時のアボットで、特許が切れる頃に規格の異なる新製剤を投入し、それまでの商品の販売を止めることを繰り返した。

規格が違うと自動代替の対象にはならない。先発品の販売が中止されてもそれが効果や安全性の理由によるものでない限りGE薬の販売は可能だが、医師が処方しなくなったら自動代替できない。TriCorシリーズはロングヒットとなり、08年に承認されたTriLipixも成功した。だが、ここでも誤算はアウトカム試験のフェールだった。二型糖尿病のACCORD-Lipid試験がフェールしたのである。

リンク: ACCORD-Lipid試験の論文(N Eng J Med 2010、オープンアクセス)

この試験の被験者は承認されている用途の一部だけなので、他の患者に無効とは言えないと強弁できなくもない。実際、フィブレート系コレステロール治療薬自体の承認が取り消されたわけではない。だが、ネガティブなエビデンスがないことはポジティブなエビデンスとは違う。特有の副作用もあるので、細心の注意が必要だろう。

リンク: Federal Registar(適応一部撤回について)
リンク: Federal Registar(承認撤回について)

【新薬開発】


オプジーボ、頭頸部癌のデータ発表
(2016年4月19日発表)

BMSは1月にOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第三相頭頸部癌試験が中間解析で成功したことを発表したが、具体的なデータがAACRで公表された。

このCheckMate-141試験は再発性・転移性の頭頸部扁平上皮細胞腫で白金薬による前治療歴を持つ患者を組み入れて、Opdivo群と、医師が選んだ薬(methotrexate、docetaxelまたはcetuximab)を使う群の全生存期間を比較したオープンレーベル試験。結果は、メジアン生存期間が各7.5ヶ月と5.1ヶ月、ハザードレシオ0.70、97.73%信頼区間0.51~0.96、p=0.0101となり、実薬を有意に上回った。1年生存率は各36%と16.6%だった。

頭頸部癌はヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)感染との関連が探索課題になっている。この試験では、HPV陽性と陰性のサブグループ分析が行われたが、BMSのプレスリリースによると、陽性陰性に係らず有効だった。具体的には、陽性患者ではメジアン生存期間が9.1ヶ月対4.4ヶ月、ハザードレシオ0.56、95%信頼区間0.32~0.99。陰性では各7.5ヶ月、5.8ヶ月、0.73、0.42~1.25だった。陰性の信頼区間は1を跨いでいるが、検出力不足なのかもしれない。

PD-L1発現度によるサブグループ分析も行われ、プレスリリースによると、発現度に係らず有効だった。1%超であった患者ではメジアン8.7ヶ月対4.6ヶ月、ハザードレシオ0.55、95%信頼区間0.36~0.83。1%未満では5.7ヶ月対5.8ヶ月、0.89、0.54~1.45。

低発現では大差ない。実薬と大差ないなら合格と言えるかもしれないが、上記の三薬がPD-L1低発現癌に有効であることを確認したエビデンスはあるのだろうか?

忍容性面では、グレード3-4の治療関連有害事象の発生率は13.1%、対照群は35.1%だった。薬物関連死亡はOpdivo群で2例(肺炎と高カルシウム血症)、対照群は1例(肺感染症)だった。

ところで、本題とは全く関係ないが、最近HPV絡みのニュースを読んで思ったのは、効能については相対リスク削減率を用いて大きく見せ、副作用については発生率を用いて小さく見せるやり方は、私はしたくない。

リンク: BMSのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年4月17日

2016年4月17日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • MSD、マリゼブの欧米開発を断念
  • MSD、ダニアレルギー舌下錠を承認申請
  • MSD、Keytrudaの適応拡大申請
  • BMS、オプジーボの適応拡大申請
  • ロシュ、抗PD-L1で第二の承認申請
  • bcl-2阻害剤が遂に承認
  • EU、カナグルや抗C型肝炎ウイルス薬の安全性を検討へ



【新薬開発】


MSD、マリゼブの欧米開発を断念
(2016年4月8日発表)

MSDはマリゼブ(オマリグリプチン)の欧米での開発を断念すると発表した。安全性問題ではなくビジネス上の理由とのことだが、ついこの前まで承認申請の意向を示していただけに、不透明感が残る。

マリゼブは二型糖尿病の治療に用いるDPP-4阻害剤。日本で昨年9月に承認、米国でも15~16年に承認申請される見込みだった。同社のベストセラーDPP-4阻害剤、Januvia(sitagliptin、和名ジュニュビア/グラクティブ)との違いは、一日一回ではなく週一回の服用で足りることで、ほかには日本で昨年3月に承認された武田薬品のザファテック(トレラグリプチンコハク酸塩)だけである。経口剤なので決定的なアドバンテージではないが、重要な差別化要因になりうるはずだ。

日本でしか販売されないガラパゴス型医薬品の難点は、慢性疾患用薬に求められる長期大規模試験のエビデンスが望めないことだ。グローバル開発品と異なり大きな売上高が見込めないため、数百億円の費用を正当化できないからだ。日本は糖尿病薬の安全性に関心が薄く、欧米で心血管リスクが議論になった時は日本の患者の死因で一番多いのは心血管リスクではなく癌という理由で多寡を括り、癌のリスクが議論になるやシカトに一転した。このため、日本限定品は安全性監視も疎かになる懸念がある。

他に無いなら兎も角、DPP-4阻害剤もそれ以外の血糖治療薬もたくさんあるので、あえてガラヤクを使う必然性はないだろう。

リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


MSD、ダニアレルギー舌下錠を承認申請
(2016年4月12日発表)

MSDは、Mitizaxを米国で承認申請し受理されたと発表した。ダニ由来の抗原を含有する舌下錠で、家ダニアレルギーの減感作療法。低量の抗原に毎日曝露することで免疫寛容を目指す。

減感作療法も、注射ではなく経口液や舌下錠の開発も、フランスなど欧州大陸が先行している。MitizaxはデンマークのAlk AbelloのAcarizaxをライセンスしたもので、日本では鳥居薬品がミティキュアとして昨年9月に製造販売承認を取得した。

Alk AbelloとMSDは芝やブタクサのアレルギーの減感作療法も商品化している。スギ花粉は欧米の患者が少ないので、日本が開発を主導している。

リンク: MSDのプレスリリース

MSD、Keytrudaの適応拡大申請
(2016年4月13日発表)

PD-1/PD-L1を標的とする抗体療法は、BMS/小野薬品とMSDの先陣争いにロシュなど第二グループが加わり、毎週のようにニュースが出ている。今週も勢ぞろいで、まず、MSDが米国で行ったKeytruda(pembrolizumab)の適応拡大申請が受理された。再発性転移性の頭頸部扁平上皮腫に、白金薬の次の二次治療薬として用いる。用量は黒色腫や非小細胞性肺癌の2mg/kgではなく200mgに固定。三週間に一回点滴静注は同じ。優先審査を受け、審査期限は8月9日。

リンク: MSDのプレスリリース

BMS、オプジーボの適応拡大申請
(2016年4月14日発表)

次に、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)は、再発性古典的ホジキンリンパ腫の適応拡大申請が3月のEUに続いて米国でも受理された。優先審査を受ける。審査期限は、まだ連絡が来ていないのか、プレスリリースに記されていない。

リンク: BMSのプレスリリース

ロシュ、抗PD-L1で第二の承認申請
(2016年4月11日発表)

最後に、ロシュは抗PD-L1抗体のRG7446/MPDL3280A(atezolizumab)の承認申請が米国で受理されたと発表した。用途はPD-L1陽性の局所進行性・転移性非小細胞性肺癌で、白金薬による一次治療後の二次治療。EGFR変異型ならEGFR阻害剤、ALK融合蛋白陽性ならALK阻害剤も既に使用済みであることが条件になる。大規模な第I/II相試験に基づく承認申請で、反応率は20%前後。

ロシュは3月にも尿路上皮癌の承認申請が受理されたことを発表しており、二つの適応症で並行して審査されることになる。どちらも優先審査で、審査期限はそれぞれ9月12日と10月19日。

尿路上皮癌の開発は三社の中でロシュが最も先行しているが、非小細胞性肺癌の二次治療はKeytrudaもOpdivoも承認済み。違いが出るとしたらPD-L1検査の有効性に関する医師の評価次第だろう。KeytrudaはPD-L1陽性だけが適応、Opdivoは限定されていないが、現状では、検査を割愛できるためOpdivoの方が好まれている模様だ。

ロシュは腫瘍だけでなく腫瘍に入り込んだ免疫細胞のPD-L1も検査することによって応答予測性を向上する手法を取っており、ヘッドライン数値を見る限りでは、強陽性に絞り込んだほうが良さそうだ。費用や副作用を考えれば絞り込むのがベストであり、医療従事者や患者にデータをアピールすることができれば優先使用薬の座を獲得できるだろう。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認】


bcl-2阻害剤が遂に承認
(2016年4月11日発表)

FDAは、Venclexta(venetoclax)を17p欠損型慢性リンパ性白血病(CLL)の二次治療薬として承認した。bcl-2阻害剤の承認は初。アッヴィ(NYSE:ABBV)とジェネンテックが07年に開始したbcl-2阻害剤の共同研究開発の成果で、米国は両社が共同販売、海外はアッヴィが販売する。17p欠損の判定もアボットのVysis CLL FISH Probe Kitを用いており、ロシュ色が薄い。

17p欠損は、癌の抑制に係る遺伝子がある17番染色体単腕が欠落しており、予後が悪い。初治療を受けるCLL患者では1割程度だが、再発患者は2~5割で見られる。bcl-2は白血球などのアポトーシス抵抗性に係る蛋白で、CLLではしばしば過剰発現が見られる。

VenclextaのORR(客観的反応率)は80%と高い。深刻な副作用は、熱性好中球減少症、溶血性貧血、肺炎、腫瘍壊死症候群。リスクを抑制するために20mg(一日一回、経口)で開始して400mgまで漸増する。また、抗尿酸薬でプリメディケーションする。効果は高いが副作用も強いので注意が必要。

bcl-2阻害剤というと思い出すのはジェンタがアベンティスと共同開発したGenasense(oblimersen)だ。臨床試験であと一歩のところまで進んだのだが、成就しなかった。薬が今一つだったのか、併用薬として開発したせいか、17p欠損という切り口がまだ無かったせいか?今となっては分からないが、何れにせよ、アッヴィとジェネンテックは、画期的新薬の開発に失敗し12年に破産したジェンタの轍を踏まないですんだ。

リンク: FDAのリリース
リンク: アッヴィのプレスリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EU、カナグルや抗C型肝炎ウイルス薬の安全性を検討へ
(2016年4月15日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAは、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発した二型糖尿病のSGLT2阻害剤、Invokana(canagliflozin、和名カナグル)の安全性検討を開始した。長期大規模試験で下肢切断が増加する懸念が浮上したため。市販後医薬品安全性監視とリスク評価を担う委員会、PRACが他のSGLT2阻害剤メーカーも含めてデータ提出を求めている。

欧米の承認審査機関は高血糖治療薬を開発する企業に長期大規模試験の実施を求めている。心筋梗塞や心不全、骨疾患、癌、肝腎疾患などが増えないか、長期的な安全性を確認することが目的だ。糖尿病や高血圧、高脂血症の治療目的は深刻な合併症を回避することであり、多くの患者は症状がないため治療効果を体感できない。リスクの低い患者も治療を受けるので、それだけ、高い安全性が求められる。癌のような命に係る病気の治療薬との違いである。

長期大規模試験のメリットは、発生頻度の低い副作用についてもある程度信用できるデータが集まることだ。canagliflozinの場合は、進行中の大規模アウトカム試験、CANVASで、足指などの下肢切断の増加が見られた。具体的には、開始用量である100mgを投与した群では1000人年当り発生数が7例、最大用量の300mg群では5例と、偽薬群の3例を上回った。

もう一本、CANVAS-R試験でも1000人年当り7例と、偽薬群の5例よりやや多かった。有意ではなかったが、追跡期間がCANVAS試験の4.5年に対して0.75年と短いため、説得力は十分ではない。他の試験ではリスクが見られなかった由だが、これも、期間が短いせいかもしれない。

数値を見る限りではリスクはそれほど高くなく、この程度なら、何かの過ちである可能性も否定できないだろう。大規模試験は検出力が高いので、多くの項目で群間比較を行うと偶然に有意差が出てしまうリスクがある。それでも、効能に関する解析なら否定的に考えるべきだが、安全性に関しては警戒的に受け止めるべきだ。下肢切断を防ぐことは糖尿病治療の目的の一つなのだから、もし増えるとしたら話が違う。

リンク: EMAのリリース(canaglifozin)

EMAは3月にC型肝炎の治療に用いられるDAA(直接作用抗ウイルス薬)の安全性検討を開始したが、今回、範囲を広げることを発表した。B型肝炎の再活性化に加えて、肝臓腫瘍の再発リスクも調査する。ReigらがJournal of Hepatology誌で発表した調査が切っ掛け。

DAAはウイルスの複製増殖を直接的に阻害する一連の新薬のこと。登場する前の代表的な治療薬であるアルファ・インターフェロンは免疫賦活、ribavirinは作用機序が不明瞭で、米国では、単剤では無効と考えられているようだ。一方、DAAはC型肝炎ウイルスのゲノム研究で発見されたプロテアーゼ、ポリメラーゼ、複製複合体の構成蛋白などに結合阻害する。

この調査はDAA治療を受けている肝細胞腫歴を持つ患者58人を対象とした分析。メジアン追跡期間5.7ヶ月の間に、3人が死亡、16人が放射線学的再発となり、再発率27%と高かった。通常はどの程度なのか、抄録には記されていない。

DAAは標的が明確だが免疫賦活などの効果は期待できない。従って、副作用である可能性も、単に効能がないだけの可能性もありそうだ。対照試験ではなさそうなので、解釈も難しい。

SGLT2阻害剤の話も、DAAの話も、今の段階ではリスクがあるともないとも言えそうにない。検討結果を待ちたい。

リンク: Reigらの論文(Journal of Hepatology)
リンク: EMAのリリース(DAA)




今週は以上です。

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2016年4月10日

2016年4月10日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC:スタチン不耐患者の選択肢 
  • FDA諮問委員会が胆汁性肝硬変治療薬を支持 
  • ギリアド、Descovyが米で承認 
  • EUがGiotrifの適応を拡大 
  • EUがオプジーボの二適応症を承認 
  • FDA、オングリザとネシーナの心不全リスクを通知 

【今週の話題】


ACC:スタチン不耐患者の選択肢
(2016年4月3日発表)

EBMの本旨は、当たり前なことを当たり前で済まさないことだ。スタチン不耐にはスタチン以外のコレステロール治療薬が有効?そりゃそうでしょう。小学生でも分かること、大学入試の問題にもならない。だが、本当にそうなのだろうか?

スタチンは、2001年にセリバスタチンが横紋筋溶解症の懸念からリコールになったため、今でも悪いイメージを持っている人がいる。これまでに数多くの長期アウトカム試験が敢行され、症例数と服用者の比率は数千人に一人と、プライマリーケア用薬でも群を抜いているにも関わらず。

スタチン不耐患者は本当に不耐なのか?単なる食わず嫌いなのではないか?同じコレステロール低下薬でもスタチン以外なら忍容するのか?心臓疾患予防効果は劣後しないか?

この三つの疑問のうち二つに答える臨床試験、GAUSS-3の結果がACC米国心臓学会とJournal of American Medical Associationで発表された。

第一の問いに答えるため、LDL-C高値だがスタチン不耐歴のある491人を組み入れて偽薬とatorvastatinの20mgのクロスオーバー試験を行ったところ、42.6%の患者は筋症状がatorvastatinだけで発生し偽薬では発生しなかった。

臨床試験にはスクリーニングバイアスが付き物だ。過去に重い副作用を経験した人は参加しないだろうし、治験の意義を考えれば、患者が不耐と言ったというだけでは組み入れないだろう。だから42%という数字を全患者の平均値とみなすことはできない。それでも、結構いたという印象だ。

次に、第二の問いに答えるため、不耐患者199人と新たにクレアチニンキナーゼ高値の19人を組み入れて、evolocumab (アムジェンの抗PCSK9抗体、420 mgを月一回皮注)群とezetimibe(10 mgを一日一回経口投与)に2対1割付して24週間治療したところ、LDL-Cが各54.5%と16.7%低下した。

心臓疾患予防効果を調べたわけではないが、取り敢えずLDL-Cは下がることが判明した。

筋症状はezetimibe群の28.8%とevolocumab群の20.7%で発生。それにより投与をやめたのは各6.8%と0.7%だった。油断はできないが、多くの患者が忍容することが判明した

リンク: Nissenらの治験論文(JAMA、オープンアクセス)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が胆汁性肝硬変治療薬を支持
(2016年4月7日発表)

FDAの胃腸薬諮問委員会はインターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)が原発性胆汁性肝硬変(PBC)の治療薬として承認申請したOcaliva(obeticholic acid)を検討し、17人の諮問委員全員が承認を支持した。審査期限は5月29日。

OcalivaはPBCの代表的な治療薬であるウルソデオキシコール酸のアナログで、ファルネソイドX受容体に対する力価が著しく高い。非アルコール性脂肪肝炎(NASH)と二つの適応症に開発されている。PBCではウルソデオキシコール酸に十分に反応しない、あるいは不耐の患者を適応としている。

第三相試験ではアルカリフォスファターゼ及び総ビリルビン正常化率を検討したところ、5mg群も10mg群も46~47%で偽薬群の10%を有意に上回った。尚、総ビリルビンについては元々異常上昇していない患者が多かったため治療効果が明確ではなかった。

忍容性面では重度の掻痒が増加、10mgでは10%が掻痒で治験離脱したが、5mgは1%だった。偽薬群はゼロ。LDL-C値の上昇とHDL-C値の低下も見られた。

Ocalivaは日本では大日本住友製薬がDSP-1747として開発中。

リンク: インターセプトのプレスリリース

【承認】


ギリアド、Descovyが米で承認
(2016年4月4日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、FDAがDescovyを12歳以上のHIV-1感染者の治療薬として承認したことを発表した。核酸系逆転写阻害剤emtricitabineとtenofovir alafenamide fumarate(TAF)のコンビ薬。

TAFはtenofovir disoproxil fumarateと同じtenofovirのプロドラッグだが薬物動態が良く少量で副作用を抑えながら治療することができる。HIV/AIDS薬は3A4阻害剤を併用してブーストする薬が少なくないが、そのような薬と併用する場合はTAFの量を減らす。

EUでは2月にCHMPの肯定的意見を得た。日本は日本たばこが今年、、承認申請する計画。

リンク: ギリアドのプレスリリース

EUがGiotrifの適応を拡大
(2016年4月7日発表)

2月のCHMPで肯定的意見を得た適応拡大のうち、今週は、ベーリンガー・インゲルハイムのEGFR・her2阻害剤Giotrif(afatinib)を扁平上皮非小細胞性肺癌の二次治療に単剤投与することが承認された。EGFR活性化変異を持つ非小細胞性肺癌の一次治療単剤療法として先に承認されている。

今回の適応拡大のエビデンスとなったTarceva対照試験では延命効果が有意に上回った。このタイプの患者にTarcevaを使うことが適切なのかどうか、議論の余地がありそうだが、もし偽薬並みの効果がなかったとしてもGiotrifは有意に上回ったのだから、承認されてしかるべきである。とはいえ、もし使えるなら、次のOpdivo(nivolumab)の方が効果が高いだろう。

リンク: ベーリンガーのプレスリリース

EUがオプジーボの二適応症を承認
(2016年4月6日発表)

2月のCHMP肯定的意見では、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を扁平上皮以外の非小細胞性肺癌や腎細胞腫の二次治療に用いる適応拡大も承認された。前者は臨床試験でメジアン生存期間が12.2ヶ月と、代表的な二次治療薬であるdocetaxelを投与した群の9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.73だった。これまでは扁平上皮の非小細胞性肺癌限定だったが、対象人口が倍以上に増えることになる。

2%以上の患者で発生した深刻な有害事象は肺炎、肺塞栓、呼吸困難、胸水、呼吸不全。

腎細胞腫試験ではメジアン生存期間が25ヶ月とeverolimus(ノバルティスのmTOR阻害剤Afinitor)を投与した群の19.6ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.73だった。

リンク: BMSのプレスリリース(腎細胞腫)
リンク: BMSのプレスリリース(肺癌)

【医薬品の安全性】


FDA、オングリザとネシーナの心不全リスクを通知
(2016年4月5日発表)

FDAは二種類のDPP-IV阻害剤の心不全リスクに関する安全性通知を発出した。アストラゼネカのOnglyza(saxagliptin、和名オングリザ)は大規模アウトカム試験SAVORで心不全による入院が有意に増えた(Onglyza群の発生率3.5%、偽薬群2.8%、p=0.007)。

一方、武田薬品のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)の大規模アウトカム試験EXAMINE試験では有意な差がなく、一安心したのだが、FDAや諮問委員会は無垢とはみなさなかった。今回のFDA発表によると、心不全入院の発生率は3.9%で偽薬群の3.3%より高かった。統計的に有意ではないが差は0.6ポイントでOnglyzaの0.7ポイントと大差ない。

Nesinaの第三相試験で心不全がしばしば見られたのは、営業戦略上、Actos(pioglitazone)服用患者を多く組入れた影響もあるのではないかと感じていたが、EXAMINE試験に関してはActos服用比率は3%だけなので、関係なさそうだ。

それにしても、この2剤、2アウトカム試験について諮問委員会が検討してから既に1年経つ。FDAが結論を出すのがずいぶん遅かったが、無理もない。心不全の患者は他の薬にスイッチする可能性があるが、もし他のDPP-IV阻害剤にもリスクがあるなら意味がないかもしれないからだ。慎重に検討したはずなので、その結論は重視せざるを得ない。

リンク: FDAの安全性通知



今週は以上です。

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2016年4月3日

2016年4月3日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ACC:HOPE-3試験成功
  • 抗IL-4受容体抗体のアトピー試験が成功
  • カルチノイド症候群の画期的新薬が承認申請
  • CHMPが遺伝子療法などに肯定的意見
  • FDA諮問委員会がパーキンソン性精神症状治療薬を支持
  • safinamideは審査完了通知
  • 肝中心静脈閉塞症の治療薬が米国でも承認

【今週の話題】


ACC:HOPE-3試験成功
(2016年4月2日発表)

スタチンと降圧剤を用いた心血管アウトカム試験、HOPE-3の結果がACC米国心臓学会とNew England Journal of Medicine誌で発表された。血圧やLDL-C値を問わずに、心血管疾患リスクが中程度の患者12705人を組入れてメジアン5.6年間治療したところ、スタチンは心筋梗塞などのリスクを有意に削減したが降圧剤は有意ではなかった。色々な解釈が可能だが、私は、これまでと同様に、スタチンはLDL-C値が高くなくても有効、降圧剤は高血圧症だけに有効、と考えたい。

HOPE-3は2x2ファクトリアル・デザインで、スタチンと偽薬、降圧剤と偽薬、スタチンと降圧剤の併用と偽薬併用、の三種類の試験を一編に行った。組入れ条件は、男は55歳以上でリスク因子一つ以上、女は65歳で二つ以上。リスク因子は高ウエスト・ヒップ・レシオ、低HDL-C値、喫煙経験、異脂血症、冠疾患早発の家族歴、中度腎疾患で、心筋梗塞初発予防試験らしい内容。

実際に組み入れられた患者のベースライン値を見ると、平均年齢65歳、女が全体の38%。リスク因子は高ウエスト・ヒップ・レシオに該当が87%(平均値0.94、因みにBMIは27)、低HDL-Cは36%。高血圧の患者は38%のみで全体の平均血圧は138/82 mm Hg。LDL-C値の平均は128mg/dL。hsCRPのメジアン値は2.0。アスピリン服用者は全体の11%となっている。

主評価項目は複合評価項目が二つ。一つは典型的なもので心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の何れか。もう一つは、更に、心停止蘇生や心不全、血管再建術施行を加えたもの。どちらも類似した結果なので以下では前者だけを記す。

介入法は、スタチンがCrestor(rosuvastatin)の10mg/日または偽薬。降圧剤は日本でいえば武田のエカード配合錠HD二錠と同じで、Atacand(candesartan)の16mg/日とhydrochlorothiazideの12.5mg/日の併用または偽薬併用。初発予防試験であるせいか、用量控えめ。

結果は、スタチン試験はハザードレシオ0.76、p=0.002で臨床的にも統計的にも良い数値が出た。LDL-C値の群間差は40mg/dL。スタチンの過去の試験と同様に、LDL-C値が高い人も高くない人も下げれば下げただけ心血管疾患リスクが低下することを示した。

尤も、初発予防試験なので発生率は4.8%が3.7%に、1.1ポイント下がっただけ。1000人に一年間投与すると2人を心筋梗塞などから救うことができるが、残りの998人は飲んでも飲まなくても同じだ。Crestorの初発予防試験、JUPITORはhsCRP値の高い患者はリスクも応答性も高いという仮説に基づいて実施されたが、HOPE-3試験のサブグループ分析では、高くても低くても結果は大差なかった。

スタチン群は筋痛や白内障手術が若干多かった。Number needed to harmはNumber needed to treatと同程度なので、結局、筋痛や白内障より心筋梗塞の方が深刻なのでどちらを選ぶかと聞かれれば前者を選ぶ、という程度の話になる。

降圧剤試験はハザードレシオ0.93、p=0.40で有意な差はなかった。candesartanの用量は過去のアウトカム試験と比べて少なく、hydrochlorothiazideは心血管アウトカム試験の裏付けはないので、薬の選択が適切でなかった可能性もあるが、血圧の群間差は6/3 mm Hgと必要最小限は超えている。高血圧症サブグループの解析では良い数字が出ているので、やはり、高血圧でない人の血圧を下げても意味はないのだろう(腎症などの高血圧以外の承認用途は除く)。

副作用では低血圧や眩暈などが増加した。

併用試験はハザードレシオ0.71、p=0.005となった。スタチン、ARB、利尿薬の『ポリピル』の有効性を示したことになるが、降圧試験はフェールしたのだから、本当に三剤必要なのかは分からない。血圧や血糖値は高くても低くても病気なので下げ過ぎないように注意しなければならないが、低LDL-C症という病気は聞いたことがない。新生児のLDL-Cはもっと少ない由であり、大人は平均値でも高すぎるのかもしれない。だから、LDL-Cだけがlower is betterであったとしても、納得できないことではないのである。

リンク: Yusufらの治験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

【新薬開発】


抗IL-4受容体抗体のアトピー試験が成功
(2016年4月1日発表)

リジェネロンと開発パートナーであるサノフィは、REGN668/SAR231893(dupilumab)の第三相アトピー性皮膚炎試験が二本とも成功したと発表した。16年第3四半期に承認申請する予定。

dupilumabはTh2免疫に関わるIL-4/IL-13の受容体をブロックするトランスジェニックマウス抗体で、アトピーや好酸球性喘息症向けに開発されている。今回の第三相試験は、局所製剤だけでは管理不良の中重度患者を偽薬、300mg週一回皮注、同二週間に一回皮注の何れかに割り付けて奏効率を比較した。dupilumabは負荷用量600mgを採用。奏効率は、16週間の治療後のグローバル評価(0~4の5段階)がベースライン(3以上を組入れ)から0~1に改善した患者の比率。

結果は、二本の試験で偽薬群が8~10%であったのに対してdupilumab群は36~38%と有意に上回った。投与間隔はどちらでも効果に大差なさそうだ。有害事象は注射箇所反応や結膜炎が増加したが、感染症は増えなかった。

リンク: 両社のプレスリリース(PRNewswire)

【承認申請】


カルチノイド症候群の画期的新薬が承認申請
(2016年3月30日発表)

米国テキサス州のLexicon Pharmaceuticals(Nasdaq;LXRX)は、LX1032(telotristat etiprate)をカルチノイド症候群の腸活動改善薬として米国で承認申請した。TPH(トリプトファン水酸化酵素)阻害剤で、一日三回、経口投与する。カルチノイド症候群は神経内分泌細胞の腫瘍化が原因でセロトニンが過剰生産され、腸症状をもたらす。そこで、セロトニン生産の調律酵素であるTPHを阻害するもの。米国と日本以外の市場ではイプセンが開発販売する。

リンク: Lexiconのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPが遺伝子療法などに肯定的意見
(2016年4月1日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、4月1日に終了した3月の会議でADA-SCIDの遺伝子療法などに肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

リンク: EMAのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのStrimvelis(開発コードGSK2696273)は、アデノシンデアミナーゼ欠損症による重度複合型免疫不全症(ADA-SCID)の遺伝子療法。患者の骨髄からCD34陽性細胞を採取して、レトロウイルス・ベクターを使ってヒト・アデノシンデアミナーゼのcDNAを導入。患者に点滴すると体内で免疫細胞に成熟・増殖する。ADA-SCIDはHLA型適合の近親者の造血幹細胞を移植できれば一番良いが、できない場合にStrimvelisが適応になる。

ADA-SCIDの遺伝子治療は研究史が長いが、やっと実用化に漕ぎ着けた。イタリアのFondazione Telethon and Fondazione San Raffaeleが開発、2010年にGSKがライセンスしたもの。

EUの遺伝子療法は12年にUniQureの重度家族性リポプロテイン・リパーゼ欠乏症治療薬、Glyberaが承認されている。小児向けや、遺伝子をex vivoで導入する薬はStrimvelisが初めてになろう。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: GSKのプレスリリース

Amicus Therapeutics(Nasdaq:FOLD)のファブリー病治療薬、Galafold(migalastat hydrochloride)も肯定的意見を受けた。酵素補充療法ではなく、ファーマシューティカル・シャペロンと呼ばれる不思議なタイプの薬で、機能不全のアルファ・ガラクトシダーゼA酵素に結合して、本来いるべき場所に移動して機能できるように仕向ける。二日に一回、経口投与するだけなので点滴より負担が少ない。

但し、特定のタイプの患者にしか有効性が認められない。ファブリー病に係る800以上の遺伝子変異のうち269種類だけで、患者の35~50%が該当するとのことだ。

臨床成績は明確ではなく、米国での承認申請は遅れていて、年内実施の見込み。忍容性は比較的良い模様だ。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: Amicusのプレスリリース(GLOBE NEWSWIRE)

ジョンソン・エンド・ジョンソンがデンマークのジェンマブ(Nasdaqコペンハーゲン:GEN)からライセンスして開発したDarzalex(daratumumab)も肯定的意見となった。抗CD38完全ヒト化抗体で、多発骨髄腫でプロテアソム阻害剤と免疫調停剤による治療を既に受けて、最終治療に反応しなかった患者に単剤投与する。第二相試験に基づく条件付き承認で、昨年11月に承認された米国と同様に、第三相試験で延命効果を確認する必要がある。

この第三相試験が成功したことも3月30日に発表された。再発性難治性の患者を対象に、Velcade(bortezomib)とdexamethasoneを併用する標準的療法と更にDarzalexも投与する三剤併用療法のPFS(無進行生存期間)を比較したところ、中間解析で有意差が確認された。早晩、欧米で適応拡大申請されることになるだろう。

Darzalexの主な有害事象は点滴関連反応で、治験では48%で発生。このほかに、貧血など骨髄抑制も起きる。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ジェンマブのプレスリリース(第三相試験成功、3/30付)

適応拡大は、まず、BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)とBMSのYervoy(ipilimumab)を悪性黒色腫に併用することが支持された。但し、Opdivoの単剤投与と比べてPFS延長効果が確立しているのはPD-1低発現腫瘍のみ、という注記が付された。治験のサブグループ分析結果のとおりで、おそらく、PD-1高発現腫瘍以外はOpdivoの効果が弱いためYervoyによる補完が有効なのだろう。

この二剤の併用の話を聞く度に、貧乏人は麦を食え、私も食っているという声が脳裏に鳴り響く。15年前、このような資料を作り始めた頃は、自分が病気になった時に日本で使えるのか一抹の不安があった。今日では解消したが、自分が病気になった時に薬代を払えない心配は年々高まっている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

話はそれるが、再発性クラシックホジキンリンパ腫の適応拡大申請がEMAに受理されたことが発表された。第二相試験に基づくもので、データは年内に発表される見込み。

リンク: BMSのプレスリリース(適応拡大申請、3/30付)

エーザイのHalaven(eribulin mesylate)は脂肪肉腫に用いることが支持された。アントラサイクリン系抗癌剤などによる治療歴を持つ手術不能/転移性患者に用いる。第三相試験ではメジアン生存期間が15.6ヶ月とdacarbazineの8.4ヶ月を上回った。日本では軟部腫瘍全般に承認されたが、EUは米国同様に脂肪肉腫に限定した。

リンク: EMAのプレスリリース

FDA諮問委員会がパーキンソン性精神症状治療薬を支持
(2016年3月29日発表)

FDAの精神薬理学薬諮問委員会は、ACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)がパーキンソン病の精神症状治療薬として承認申請した5-HT2Aインバース・アゴニスト、ACP-103(pimavanserin tartrate)を検討し、12対2で賛成が反対を上回った。薬効については12人、忍容性は11人の委員が支持した。

200人を組入れた臨床試験では、幻覚や妄想に係る症状判定スコアが偽薬比有意に改善した。パーキンソン病症状は悪化しなかった。深刻な有害事象の発生率が7.98%と偽薬群の3.5%を上回った。薬との関係は判然としないようだが、致死的な有害事象のリスクが枠付き警告される可能性がある。

リンク: ACADIAのプレスリリース

safinamideは審査完了通知
(2016年3月29日発表)

スイスのNewron Pharmaceuticals(SIX:NWRN)と開発販売パートナーであるイタリアのZambon、そして米国の販売提携先であるUS WorldMedsは、FDAからXadago(safinamide)の審査完了通知を受領したことを発表した。

14年5月に承認申請した時は書類の不備で受理されず、半年遅れた。今回、承認されなかった理由は薬物依存試験が実施されていないからとのことであり、全般的に、承認申請が稚拙な印象がある。私自身も、脳血管関門を通過する薬は薬物乱用・依存・離脱試験が必要という話を今回初めて知ったのだが、思い当たる節が数年前から起きている。

リンク: Newronのプレスリリース

【承認】


肝中心静脈閉塞症の治療薬が米国でも承認
(2016年3月30日発表)

FDAは、ジャズ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:JAZZ)のDefitelio(defibrotide sodium)を肝VOD(中心静脈閉塞症)治療薬として承認した。造血幹細胞移植後に肝臓の循環障害が発生し、腎臓や肺の障害を合併した成人・小児に用いる。この病気の治療薬は初。

肝VODの発生率は2%以下だが、重度だと100日生存率21~31%と極めて深刻な状態になる。Defitelioはブタ粘膜由来のオリゴデオキシリボヌクレオチドで血栓溶解作用を持つ。二本の単群臨床試験では100日生存率が38~45%だった。深刻な有害事象は出血やアレルギー反応。

EUでは13年10月に例外的環境条項に基づいて承認された。

元々はイタリアのGentiumが承認申請したが承認されなかった。同社をジャズが10億ドルで買収し、米国の権利をシグマ-タウから頭金7500万ドル、達成報奨金1億7500万ドルで買い戻した。元手がかかっているので値段も高くなる。

リンク: FDAのリリース
リンク: ジャズのプレスリリース




今週は以上です。

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