2016年3月27日

2016年3月27日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗Sclerostin抗体の男性骨粗鬆症試験が成功
  • バイオマリン、フェニルケトン尿症治療薬の第三相が成功
  • Xa阻害剤の入院患者VTE予防試験がフェール
  • シムジアはヒュミラに勝てず
  • 統合失調症性認知障害治療試験がフェール
  • テバの抗IL-5も米国で承認
  • イーライリリーの抗IL-17Aも米国で承認
  • 肺炭疽の新薬が米国で承認


【新薬開発】


抗Sclerostin抗体の男性骨粗鬆症試験が成功
(2016年3月21日発表)

UCBと共同開発者のアムジェン、そして日本市場の共同開発者であるアステラス製薬は、抗Sclerostinヒト化抗体CDP7851/AMG785(romosozumab)の第三相男性骨粗鬆症試験が成功したと発表した。
閉経後女性の試験も既に二本成功しており、年内に承認申請されるのではないか。

この試験は、Tスコアが-2.50以下(骨粗鬆症)、あるいは-1.50以下で骨粗鬆症性骨折歴を持つ、55歳以上の男性245人をromosozumab群と偽薬群に2対1無作為化割付けして12ヶ月間治療し、腰椎の骨密度の低下を比較した。romosozumabは210mgを月一回、皮注した。数値は発表されていないが、有意な差があった。

忍容性面では、深刻な有害事象の発生率は両群、同程度。注射箇所反応は5.5%と偽薬群の3.7%を上回り、心血管深刻有害事象(第三者査読)は各4.9%と2.5%だった。

SclerostinはWntや骨形態形成蛋白のパスウェイを阻害して造骨細胞の活動を阻害する。アフリカ人の一部はSclerostinの遺伝子に機能喪失変異を持ち、骨密度が異常に高い。romosozumabはSclerostinを阻害して造骨を促進する。この点では遺伝子組換え型副甲状腺ホルモンForteo(teriparatide)と似ており、従って、発がん性をじっくりと調べる必要があるだろう。過去の試験では乳がんや良性腎オンコサイトーマを発症した患者がいた。

また、心血管安全性も重要なポイントだ。第三者による査読が行われたということは、リスクを疑う何らかの根拠があることを示している。

リンク: UCBのプレスリリース
リンク: アステラス製薬のプレスリリース

バイオマリン、フェニルケトン尿症治療薬の第三相が成功
(2016年3月21日発表)

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、BMN 165(pegvaliase、通称PEGPAL)の第三相フェニルケトン尿症試験の成功を発表した。離脱試験で、事前に全員に試験薬を投与し、フェニルアラニン値が一定以上低下したレスポンダーだけを継続投与する群と偽薬にスイッチする群に無作為化割付け、数値の変化を比較した。BMN 165は20mgまたは40mgを一日一回、皮注。

結果は、継続投与群のフェニルアラニン値がベースライン平均値503.9umol/L、8週間後527.2umol/Lと同程度で推移したのに対して、偽薬スイッチ群は536.0umol/Lが1385.7umol/Lにリバウンドした。

本試験では二次的評価項目として注意不足や気分の改善度合いを検討したが、有意差はなかった。主な有害事象の発生率は過敏反応が39%と偽薬群の14%を上回った。

フェニルケトン尿症はフェニルアラニン水酸化酵素(PAH)の欠乏で精神障害などを合併する。治療法はフェニルアラニン制限食。BMN 165は遺伝子組換え型PEG化フェニルアラニン・アンモニア・リアーゼで、PAHの代替品として機能する。フェニルアラニン食事制限を緩和できる可能性があり、この試験では、健常者に推奨される一日蛋白量の75%を摂取できたと推測されるとのことだ。

この試験の結果判明は14年の見込みだったが、途中でデザインを変更したため長期化した。免疫原性が原因で効かない患者や増量が必要な患者が予想以上に多かった模様で、上記のように、レスポンダーだけを組み入れることにした。このようなケースではランイン期間中のレスポンダー率やドロップアウト率のチェックが必須だが、まだ発表されていない。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

Xa阻害剤の入院患者VTE予防試験がフェール
(2016年3月24日発表)

Portola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、PRT054021(betrixaban、別名MLN-1021)の第三相試験の結果を発表した。心不全など重い疾患で入院し、安静が必要であるために静脈血栓塞栓を発症するリスクが高い患者7513人を組入れて、betrixabanの長期コース(35~47日)と標準的な薬物療法(低分子量ヘパリンのenoxaparinを6~14日間、皮注)の予防効果を比較した。

American Heart Journal誌に刊行されたデザインペーパーには明記されていないが、主評価項目は三種類のユニバースにおける静脈血栓塞栓をシーケンシャルに解析する。最初の解析はベースライン時点のD-Dimerが高値の患者が対象で、母集団の62%が該当した。結果は、相対リスク0.806、p値は0.054で、有意な差はなかった(この試験は中間無益性解析が行われたが、最終解析のアルファは0.05とされた)。

二番目の解析であるD-Dimer高値または75歳以上(母集団の91%)のユニバースでは、相対リスク0.800、p=0.029だった。三番目である母集団全体の解析は0.760、0.006となった。どちらも0.05を下回っているが、第一の解析がフェールしたらその後の解析は全てフェールになる。

サイコロを6回振れば1が1回以上出る確率は100%だ。一度で止めて多重性を回避しないと、素人は騙せてもプロにはインチキがばれてしまう。前期第二相試験のような仮説検証的試験ならともかく、第三相の薬効確認試験は厳格にやらないといけない。もし結論が間違っていた場合、将来の患者も含めて極めて沢山の人たちに誤った治療を行うリスクがあるからだ。

大出血や致死的出血は両群大差なかった。Portolaは承認審査機関と相談する考え。標準療法より有意に優れていなくても同程度なら承認に値するが、この試験は非劣性検定ではないのでエビデンスとしては万全ではない。もし承認されても、enoxaparinより長期間投与しなければならないので使い難い。

そもそも、このような患者には薬物療法でなくても予防法は色々ある。薬物療法がマイノリティにとどまっているのは出血リスクがあるからであり、従って、新薬は予防効果か、出血リスクか、どちらかで優れていることが望まれる。

残念なことに、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban)のenoxaparin対照試験では予防効果が優れていたが出血事故が増加した。BMS/ファイザーのElquis(apixaban)は効果が同程度、出血は増加。今回の試験はD-Dimer値に基づいて高リスク患者をスクリーニングすることでリスクとベネフィットのバランスを向上しようとしたが、上手く行かなかった。

Portolaは武田薬品がミレニアムを買収した時にスピンアウトした会社で、Xa阻害剤の中和剤であるandexanet alfaが承認審査中。Xa阻害剤は既に類薬が沢山あり、大規模な試験が必要で開発コストが高い。先行品が挫折した入院患者が突破口になれば良かったが、フェールしたことで、難しい状況になった。

リンク: Portolaのプレスリリース
リンク: Cohenらのデザインペーパー(American Heart Journal誌、オープンアクセス)

シムジアはヒュミラに勝てず
(2016年3月24日発表)

UCBはCimzia(certolizumab pegol、和名シムジア)の抗リウマチ効果をアッヴィのHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)と直接比較した試験の結果を発表した。12週間後ACR20はそれぞれ69.2%と71.4%、2年後低疾病活動(LDA)達成率は35.5%と33.5%となり、有意な差はなくフェールした。深刻な有害事象や同じく感染症の発生率は大差なかった。

CimziaはTNFアルファに結合するモノクローナル抗体のフラグメント、HumiraもTNFアルファに結合するモノクローナル抗体で、メカニズム的には同工異曲であり、効果に大差なくても不思議はない。しかし、Humiraは二週間に一回の投与では反応率が低く不十分な患者は週一回にスイッチしたほうが良いと考えられており、Humiraの底力を思い知らされた。

リンク: UCBのプレスリリース

統合失調症性認知障害治療試験がフェール
(2016年3月24日発表)

米国のフォーラム・ファーマシューティカルズは、EVP-6124/MT-4666(encenicline hydrochloride)の第三相試験がフェールしたと発表した。リストラを行う予定。

バイエルから中枢神経系領域での権利を取得したアルファ7ニコチン性アセチルコリン受容体アゴニストで、今回の試験では統合失調症患者の認知障害を治療する効果を検討したが、駄目だった。

日本では田辺三菱製薬が独占開発販売権を持っていて日本の施設もこの試験に参加していた。

リンク: フォーラムのプレスリリース

【承認】


テバの抗IL-5も米国で承認
(2016年3月23日発表)

FDAは、テバ(NYSE:TEVA)の抗IL-5ヒト化抗体、Cinqair(reslizumab)を重度好酸球性喘息症の維持療法用薬として承認した。16歳以上の患者の喘息発作を防ぐために4週間に一回、点滴静注する。深刻な有害事象は命に係る過敏反応。副作用で多いのはアナフィラキシー、腫瘍、筋痛。

腫瘍はビックリするが、治験での発生率は0.6%と偽薬群の0.3%より高いものの、部位は様々なので薬との因果関係は曖昧。多くは半年以内の発現と早いので、癌を発生させる効果を疑う理由は少なく、あるとしたら癌の成長を促進する効果だろう。

類薬ではグラクソ・スミスクラインの抗IL-5抗体、Nucala(mepolizumab)が、昨年11月に、適応症は同じだが12歳以上の患者に承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: テバのプレスリリース

イーライリリーの抗IL-17Aも米国で承認
(2016年3月22日発表)

FDAはイーライリリーの抗IL-17Aヒト化抗体、Taltz(ixekizumab)を中重度プラク乾癬の治療薬として承認した。角化細胞の増殖活性化に関与するIL-17Aを中和する。臨床試験では、バイオ薬の代表的な治療薬であったアムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)より効果が高かった(プール分析でPASI75が各87%と41%)。

抗IL-17Aではノバルティスの(secukinumab)も昨年、承認されている。

リンク: FDAのリリース
リンク: イーライリリーのリリース(PR Newswireのサイト)

肺炭疽の新薬が米国で承認
(2016年3月21日発表)

FDAは肺炭疽の治療や暴露後予防、予防に用いる薬を承認した。ニュージャージーの未上場企業、Elusys社のAnthim(obiltoxaximab)で、炭疽菌の毒素に結合するモノクローナル抗体。静注だけでなく筋注も可能なので医療資源が限定的な地域や環境でも使える。抗菌作用はないので抗生剤と併用する。

米国は生物兵器対策として肺炭疽用薬の開発を後押ししており、グラクソ・スミスクラインが買収したヒューマン・ジノム・サイエンシーズのABthraxも12年に承認されている。Anthimの開発も2億ドル以上の補助金を受けており、需要も戦略的国家備蓄に限定されるだろう。

肺炭疽は症例数がごく少数で、致死率が高いため偽薬対照試験を実施するのは困難である。このため、臨床試験では忍容性だけを確認し、薬効は軍の研究施設でサルに薬と炭疽菌を投与する試験を行う。

リンク: FDAのリリース
リンク: Elusysのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年3月20日

2016年3月20日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • イーライリリー、アルツハイマー病試験でまた主評価項目変更
  • ロシュ、抗PD-L1の承認申請をFDAが受理
  • バイエル、コバールトリイが米国で承認
  • EMAがZydeligに関する注意事項を発表


【新薬開発】


イーライリリー、アルツハイマー病試験でまた主評価項目変更
(2016年3月15日発表)

イーライリリーはアルツハイマー病の抗体医薬で第三相試験を実施しているが、主評価項目を変更することを決めた。解析開始前なので問題はないのだろうが、感じが悪い。

この抗可溶性アミロイドベータヒト化抗体、LY2062430(solanezumab)は既に二本の第三相試験が実施され、一本目はフェールした。事後的分析で軽度患者の認知機能に関しては効果が兆しが見られたため二本目の解析計画を途中で変更し、主評価項目の解析対象から中度患者を除外し軽度に限定、薬効評価は認知機能と生活機能の二種類だったが認知機能だけに限定した。しかし、二本目はこの解析でもフェールした。

今回の三本目は、軽度アルツハイマー病でアミロイドベータの蓄積が認められる患者2100人を組入れて偽薬または400mgを4週間に一回、静注し、18ヶ月間の病状変化をモニターする。当初の計画では主評価項目は二種類あり、認知機能の指標としてADAS-cog14、生活機能指標はADCS-iADLが採用された。前者のアルファは0.001、後者は0.045の計画だった。今回、ADCS-iADLを二次的評価項目に格下げしたのでADAS-cog14のアルファが増加し検出力がかなり高まったはずだ。

この試験の成否は本年末から来年にかけて判明するだろう。アミロイド仮説に基づく薬は直接的、間接的にブロックするワクチン、抗体、小分子薬の何れも第三相がフェールしており、検出力の多寡に関わらず、楽観はできないだろう。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


ロシュ、抗PD-L1の承認申請をFDAが受理
(2016年3月15日発表)

ロシュは、抗PD-L1ヒト化抗体のRG7446/MPDL3280A(atezolizumab)を米国で承認申請し、受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は9月12日。局所進行性・転移性の尿路上皮癌で白金薬の前治療歴を持つ患者の二次治療に用いる。ロシュのプレスリリースを読む限りではPD-L1陽性癌に限定してはいないようだ。エビデンスとなる第二相試験ではORR(客観的反応率)が15%で、PD-L1陽性癌では18%、強陽性(2以上)は26%、陰性は10%だった。

PD-L1の受容体であるPD-1をブロックする抗体医薬は既に小野薬品/BMSのOpdivo(nivolumab)やMSDのKeytruda(pembrolizumab)が黒色腫や肺癌などに承認されている。ロシュが膀胱癌をリードインディケーションに選んだのは、先行二品が未承認なので、優先審査を受けたり承認後も先に販促したりできるからだろう。スペクトラム自体は大差ないのではないか。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認】


バイエル、コバールトリイが米国で承認
(2016年3月17日発表)

バイエルはFDAがKovaltry(和名コバールトリイ)をA型血友病薬として承認したと発表した。遺伝子組換え型の全長ヒト血液凝固第VIII因子で、製造過程でヒトや動物由来の蛋白を用いていない点がコージネイトなど既存薬との違い。EUでは2月に承認。日本でも2月に第二部会を通過した。出血リスクの高い患者のルーチン予防に用いる時は週2~3回投与する。

リンク: バイエルのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EMAがZydeligの副作用対策を発表
(2016年3月18日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)の抗癌剤、Zydelig(idelalisib)は欧米で慢性リンパ性白血病や濾胞性リンパ腫の二次治療に用いられているが、適応や併用法を拡大するための臨床試験で死亡者の増加が見られた。深刻な感染症が増えた模様だ。承認審査機関ではEMAが3月11日に、FDAも14日に、この事実を公表し注意喚起した。FDAによると、ギリアドは進行中の試験6本を全て中止した。

18日には、EMAの市販後監視委員会であるPRACが、暫定的対策を発表した。ニューモシスチス・イロヴェチ肺炎(旧称カリニ肺炎)のリスクがあるため全患者に抗生剤を投与せよ、感染症や白血球数をモニターせよ、全身性感染症の患者には用いない、の三点だ。

ZydeliqはPI3Kデルタという、造血細胞特異的に分布する、B細胞の活性化や増殖、生存に不可欠な酵素を阻害する経口剤。慢性リンパ性白血病のうち17p-del型やTP53変異型は既存の薬に反応しないためZydeliqを一次治療に用いることが認められていたが、今回、EMAは、二次治療に限定した。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: FDAのアラート(3/14付)



今週は以上です。

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2016年3月13日

2016年3月13日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • LIGHT試験の教訓 
  • ザーコリ、ROS1陽性非小細胞性肺癌に承認 
  • EUがZydeligの安全性を再検討へ 


【今週の話題】


LIGHT試験の教訓
(2016年3月8日発表)

オレキシジェン(Nasdaq:OREX)が武田薬品と共同販売している体重管理薬、ContraveのLIGHT試験の論文がJournal of American Medical Association誌上に刊行された。米国の266施設が8910人の肥満症・高リスクオーバーウェート患者を組み入れて実施した心血管アウトカム試験で、多くの医療関係者の情熱とボランティアの好意そして推定100~200億円が注ぎ込まれたが、臨床試験の厳格性を理解しない人々によって無駄にされた。教訓とすべき試験である。

Contraveは鬱病や薬物依存の治療薬として承認されているbupropionと、アルコールやオピオイド依存の治療薬naltrexoneの夫々の徐放性製剤を合剤にしたもの。どちらもエネルギー消費を促したり空腹感を抑制したりする作用を持ち、また、naltrexoneはbupropionの作用に対する代償機構を抑制するのでシナジーが期待される。2014年に米国で、2015年にはEUでも、肥満症や心血管リスク因子を持つオーバーウェート患者の体重管理支援薬として承認された。

LIGHT試験はFDAの要請で実施されたもので、目的は心血管リスクが偽薬比有意に劣っていないことを確認すること。主評価項目は心血管疾患死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の複合評価項目。発症者が378人に達した段階で解析を行い、ハザードレシオの信頼区間上限が1.4未満なら目的達成とみなす。

最終解析が出るまで承認されないのでは新薬発売が遅くなってしまうため、予定イベント数の25%に到達した段階で中間解析を行いハザードレシオ信頼区間上限が2.0未満なら、大きなリスクはないとみなし、他に問題がなければ承認する。糖尿病薬にも適用されているやり方だ。Contraveは中間解析で2.0を下回ったため、最終解析を待たずに米国で承認された。

歯車が狂ったのはオレキシジェンがこの中間解析の詳細を記述した特許を取得し、その概要をSEC提出資料に記載したことが原因だ。Contrave群の発生率は0.7%、偽薬群は1.3%、ハザードレシオ0.59、95%信頼区間0.39~0.90という大変良いもので、同社の株価は大きく上昇したが、情報リークに対する批判も高まっていった。

なぜなら、進行中の試験の途中データをリークするのは参加者に先入観を与えるので禁じ手である。また、中間解析は検出力が低く例え統計的に有意であっても信頼性が十分でないので必要以上に喧伝すべきではない。新薬開発に携わる者には常識と呼ぶべきルールを踏みにじったため、宣伝目的のリークと疑われてしまったのである。

公平のため記しておくと、特許明細書に発明の裏付けとして治験の内容を詳述するのは珍しくない。成立した特許は公開されるので、その事実を公表することで投資家に周知徹底するのも上場企業として妥当な行動である。オレキシジェンは上記SEC提出資料の中で、心血管リスク削減効果が確立していないことを明記しており、患者を誤認させる意図は感じられない。また、武田に関しては、各種報道によると、情報公開に反対した由である。

私自身はオレキシジェンが販売促進のために疑わしいデータを喧伝したとは思っていないのだが、何れにせよ、結果は悲惨なことになった。第一に、治験を離脱してContraveを服用する被験者が増加、最終解析前に打ち切らざるをえなくなった。もう一度やり直すことになり、真実解明が5年遅れる見込みになった。

第二に、予定イベント数の50%に到達した段階の解析ではハザードレシオ0.88、修正99.7%信頼区間0.57~1.34となり、予防効果が見られなかった。信頼区間はオーバーラップしているので真の値は0.57と0.90の間のどこかなのかもしれないが、最初はContrave群の方が少なかったのにやがて大きく増加したのだとしたら、楽観的に考えることは許されない。どの期間のデータを取り出すかによって答えが変わるのだとしたら、多重解析のデメリットを強く意識する必要がある。

なぜこのようなことが起きるのか、私には理解できない。しかし、現実に起きた以上、将来、同じことが発生すると肝に銘じなければならない。特殊なケース、皆が悪人ではないと言い張るだけでは過去の失敗から学ぶことはできない。

リンク: S. Nissenらの治験論文(JAMA誌)
海外医薬ニュースの過去の報道:
2013年12月1日号~オレキシジェン、体重管理薬の心血管アウトカム試験中間データをFDAに提出へ
2015年3月8日号~科学か、知的財産か、投資家保護か、それが問題だ
2015年5月17日号~治験は厳格にやらないと数百億円をドブに捨てることに

【承認】


ザーコリ、ROS1陽性非小細胞性肺癌に承認
(2016年3月1日発表)

ファイザーは、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリカプセル)をROS1陽性非小細胞性肺癌に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。XalkoriはALKやc-METを阻害する経口剤で、ALKとEML4などの遺伝子が融合した変異ALK陽性非小細胞性肺癌に承認されている。非小細胞性肺がんのうち、変異ALK陽性は1~7%、今回のROS1陽性は1%程度と推定されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EUがZydeligの安全性を再検討へ
(2016年3月11日発表)

EUの薬品承認機関であるEMAは、ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)のZydelig(idelalisib)の安全性について再検討することを明らかにした。用法・適応拡大試験三本で死亡者が対照群より多かったため。感染症によるものが多い模様だ。まずPRAC(医薬品監視リスク評価委員会)が検討し、その結果をもとにCHMP(医薬品委員会)が結論を出す予定。

ZydeligはPI3Kデルタという、造血細胞特異的に分布する、B細胞の活性化や増殖、生存に不可欠な酵素を阻害する経口剤。EUでは慢性リンパ性白血病(二次治療だが17p欠損など一部のタイプには一次使用可、rituximab併用、ofatumumab併用もCHMPが肯定的評価)と濾胞性リンパ腫(二次治療、モノ)に承認されている。

死亡率に偏りがあったのがどの試験なのか不明だが、比較的大規模な試験としては、慢性リンパ性白血病ではrituximab及びbendamusutineと三剤併用、濾胞性リンパ腫/非ホジキン型リンパ腫ではこの二剤の夫々と二剤併用試験が行われている。

リンク: EMAのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年3月6日

2016年3月6日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ビクトーザも心血管リスクを削減した
  • バイオマリン、CLN2病治療薬を承認申請へ
  • ロシュ、抗IL-13抗体の第三相は一勝一敗
  • アディノベイトをEUでも承認申請
  • ロシュ、Gazyvaがリンパ腫に適応拡大
  • ギリアド、TAFの三剤合剤をFDAが承認
  • FDAが長期作用性B型血友病用薬を承認
  • イムブルビカ、CLL一次治療が承認

【今週の話題】


ビクトーザも心血管リスクを削減した
(2016年3月4日発表)

二型糖尿病の血糖治療薬は心血管疾患を防ぐのか、それとも、リスクを高めるのか?薬物療法の普及に大きな貢献をしたランドマーク的試験、UKPDSでは、インスリンに対する懸念が後退し、metforminがリスクを削減するかもしれないという希望が浮上した。

ところが、血糖値を正常値近くに矯正する強化療法を検討したACCORD試験ではリスクが高まった。PPAR作動剤の試験では、心筋梗塞が減少したが心不全が増加した。FDAは血糖治療薬を開発する企業に心血管アウトカム試験の実施を要請。承認申請用の試験でハザードレシオの95%上限が一定の範囲内だったら承認後に、超過の場合は承認前に、実施しなければならない。

これまでの成績は区々で、殆どの新薬は良くも悪くもなかったが、ベーリンガー・インゲルハイムがイーライリリーと共同販売しているJardiance(empagliflozin、和名ジャディアンス)のEMPA-REG試験が大成功、主目的である非劣性解析だけでなく優越性の解析も成功した。標準治療に加えて偽薬を追加した群と比べて、Jardianceを追加した群は心血管死・心筋梗塞・脳卒中リスクが14%小さかった。

そして今回、ノボ ノルディスクがGLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)のLEADER試験の成功を発表した。二型糖尿病で心血管疾患歴・高リスクの9340人をVictoza群と偽薬群に割り付けて心血管死・心筋梗塞・脳卒中の発生状況を追跡したもので、主評価項目は何れか一つが発生するリスク(複合評価項目)だが、個々のイベントも低下傾向にあった模様だ。データは6月のADA米国糖尿病学会で発表される予定。投資家向け電話会議が開催されたが、具体的な内容は開示されなかった。

Jardianceは、少なくとも現時点では、SGLT2阻害剤の中で心血管リスク削減効果が実証された唯一の製品。同様に、Victozaも、GLP-1作用剤の中で唯一。同種の薬の中でシェアを更に増やす可能性が高まった。liraglutideは肥満症治療薬Saxendaとしても販売されており、こちらの普及にも追い風になるだろう。

臨床試験にはノウハウがあり、積極的に取り組む企業や国は経験から多くを学ぶことができる。例えば、PPAR作動剤は発売当初、効果が弱いというイメージがあった。当時の典型的な治験手法であった3ヶ月の試験でHbA1cがSU剤やmetforminほど下がらなかったからである。ところが、その後、効果がフルに発揮されるまで4ヶ月程度かかることが判明。一方、SU剤の効果は1年経つと低下することが明らかになった。この結果、SU剤と直接比較試験を行う場合は1~2年追跡する、という必勝法が編み出された。

インスリン三社は糖尿病試験を知悉しているので他社の製品と違う結果が出ても直ぐには受け容れ難いところがある。LEADER試験の結果は今年後半に医薬品審査機関に提出される予定。FDAが心血管リスク削減効果を認めるかどうか、注目される。

リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース

【新薬開発】


バイオマリン、CLN2病治療薬を承認申請へ
(2016年3月2日発表)

バイオマリン(Nasdaq:BMRN)は、cerliponase alfaの第1/2相ピボタル試験が良好な結果になり、年央までに欧米でCLN2病治療薬として承認申請する考えであることを発表した。

CLN2病はライソゾーム疾患の一つで、遺伝子変異が原因でトリペプチジルペプチダーゼ1が機能しない。有病率は20万人に一人で、急速に進行する致死的神経変性疾患とされる。cerliponase alfaは遺伝子組換え型ヒト・トリペプチジルペプチダーゼ1で、脳室内に二週間に一回、点滴投与する。

今回の試験では24人の患者に一回300mgを48週間に亘って投与したところ、病状スケール(最良が6、最悪はゼロ)の悪化が0.43単位と、自然歴データの2.1単位と比べて小さかった。治験完了者23人中15人で病状が安定した。治療薬関連深刻有害事象は過敏反応と点滴反応。

同剤は欧米で希少病薬指定を受けており、米国ではブレークスルー・セラピー指定されている。深刻な疾患なので、症例数が少なく対照試験でないという難点はある程度は容認されるだろう。問題は過敏反応・点滴反応。ドロップアウトが1例と少ないので、深刻といってもなんとかできるものではないのかもしれないが、もし命にかかわるなら、承認の妨げになるかもしれない。

リンク: バイオマリンのプレスリリース

ロシュ、抗IL-13抗体の第三相は一勝一敗
(2016年2月29日発表)

ロシュは抗IL-13ヒト化抗体RG3637(lebrikizumab)の第三相重度喘息症試験が一勝一敗となったことを発表した。後期第二相試験のバイオマーカー分析結果に基づいてスクリーニングし、二種類の用量を52週間に亘りテストしたが、成功した方の試験でも後期第二相の成績より見劣りした由。

この試験は、二種類の管理薬を併用しても病状を十分に管理できず、血清中ペリオスチン濃度または血中好酸球数が高い喘息症患者を対象に、喘息増悪抑制効果やFEV1改善効果を検討したもの。一本はどちらも有意に優れていたが、もう一本は増悪が大差なかった。

抗IL-13抗体はアストラゼネカもCAT-354(tralokinumab)も喘息症の第三相が進行中で、来年に開票する見込み。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認申請】


アディノベイトをEUでも承認申請
(2016年3月2日発表)

バクスアルタ(NYSE:BXLT)はAdynoviをEUでも承認申請したと発表した。12歳以上のA型血友病患者の出血治療やルーチン予防に用いる。同社の全長血液凝固第VIII因子、Advateにポリエチレン・グリコールを結合して半減期を1.4~1.5倍に長期化したもので、ルーチン予防に用いる時の投与頻度を週3~4回から2回に減らすことができる。

米国ではAdynovate名で昨年11月に承認、日本でもアディノベイト名で先月、第二部会を通過した。EUは成人と青少年向けを同時に申請するよう求めているためスケジュールが遅くなっている。

リンク: バクスアルタのプレスリリース

【承認】


ロシュ、Gazyvaがリンパ腫に適応拡大
(2016年2月29日発表)

ロシュは、FDAがGazyva(obinutuzumab)の適応拡大を承認したと発表した。13年に慢性リンパ性白血病(CLL)の一次治療薬として承認されているが、新たに、濾胞性リンパ腫の二次治療が認められた。

Gazyvaは同社のRituxan(rituximab)と同じCD20を標的とする抗体医薬で、違いは、可変領域の一部をヒト由来のアミノ酸に替えたヒト化抗体であること、そして、フコースが無くADCC活性が高いこと。翻訳後装飾でフコースが付与されるのを回避する技術としては協和発酵のポテリジェント技術が有名でロシュの子会社であるジェネンテックも導入したことがあるが、Gazyvaはロシュが05年に買収したGlycArt社のGlycoMAb技術を用いている。

抗体関連技術のうちマウスやバクテリオファージにヒトの抗体を発現させる完全ヒト化抗体技術は当初考えられたほど凄くはなく、臨床的な薬効や安全性はヒト化抗体と大差ないように感じられる。フコース欠如抗体はGazyvaが最初の試金石であったが、CLL一次治療試験でRituxanを有意に上回り、プルーフ・オブ・テクノロジーに成功した。

今回の承認はRituxan代替ではなく、一次治療でRituxanを用いて進行・再発した患者の二次治療。Treanda(bendamustine、和名トレアキシン)併用で6サイクル施行し、その後は単剤で2ヶ月毎に最長2年間、維持療法を行う。第三相試験ではTreandaだけの群と比べてPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが0.48だった。この試験は低悪性度非ホジキン型リンパ腫を対象としたが、被験者の8割が濾胞性リンパ腫であったためか、このタイプだけに承認された。

リンク: ロシュのプレスリリース

ギリアド、TAFの三剤合剤をFDAが承認
(2016年3月1日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)はFDAがOdefseyを承認したと発表した。核酸系逆転写阻害剤tenofovirの新しいプロドラッグであるtenofovir alafenamide fumarate(略称TAF)を配合した一連の新薬・合剤の一つで、同社のもう一つの核酸系逆転写阻害剤emtricitabineとジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤rilpivirine(単剤の製品名Edurant、和名エジュラント)を配合。

12歳以上のHIV/AIDSでウイルス量が10万コピー/mL以下の患者の一次治療や、治療成績が良好な患者のスイッチに使うことができる。一日一回一錠服用するだけでHAARTと呼ばれる多剤併用療法が可能。乳酸アシドーシスや肝脂肪を伴う重度肝腫大、B型肝炎の劇性増悪が枠付き警告されている。

Knight Therapeutics社から1.25億ドルで購入した優先審査バウチャーを用いて、申請の8ヶ月後に承認を取得した。

リンク: ギリアドのプレスリリース

FDAが長期作用性B型血友病用薬を承認
(2016年3月4日発表)

FDAは、CSLベーリングのIdelvionを成人と小児のB型血友病用薬として承認した。血液凝固第IX因子にアルブミンを結合して作用を長期化したもので、米国の長期作用性製剤としては第2号。出血治療、予防、術後出血管理、そしてルーチン予防に用いる。CSLによると、12歳以上のルーチン予防に用いる場合は14日に一回で足りる可能性がある。

リンク: FDAのリリース
リンク: CSLベーリングのプレスリリース

イムブルビカ、CLL一次治療が承認
(2016年3月4日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)はFDAがImbruvica(ibrutinib)を慢性リンパ性白血病(CLL)や小リンパ球性リンパ腫(SLL)の一次治療で承認したと発表した。これまでは17p欠損など一部の難治性を除いて二次治療だけだった。CLL/SLL以外ではマントル細胞リンパ腫の二次治療にも承認されている。

適応拡大のエビデンスとなった第三相試験では、65歳以上の初めて治療を受ける患者269名をchlorambucil群とImbruvica群に無作為化割付けしてPFS(無進行生存期間)を比較したところ、ハザードレシオ0.16という大変良い数値が出た(メジアン値は18.9ヶ月と未到達)。ORR(反応率)は各35.3%と82.4%でこれも統計的に有意だった。

ImbruvicaはBruton's tyrosine kinase(Btk)を阻害する経口剤。ファーマサイクリクスがジョンソン・エンド・ジョンソンと11年に提携し共同開発販売しているが、このファーマサイクリクスを15年にアッヴィが210億ドルで買収した。

リンク: アッヴィのプレスリリース



今週は以上です。

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