2015年8月2日

2015年8月2日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • FDA、点滴システムのサイバーセキュリティーを警告
  • ファイザー、リピトールのOTCスイッチを断念
  • MSDのエボラワクチンが高い予防効果を示した
  • EUが抗SLAMF7抗体の承認申請を受理
  • エーザイ、ハラヴェンの適応拡大を申請
  • パージェタの術前補助療法がEUでも承認

【今週の話題】


サイバーセキュリティー上の脆弱性をFDAが警告
(2015年7月31日発表)

FDAはホスピーラの点滴システムであるSymbiqのサイバーセキュリティー警告を発出した。ハッカーが院内システムに潜入して薬剤の点滴量を遠隔操作することが可能だという。この分野のエキスパートであるBilly Riosが発見し、国土安全保障省のICS-CERT(産業用制御システム・サイバー緊急対応チーム)に報告。同チームやホスピーラによって確認されたもの。

Symbiqは別の理由で既に販売が中止されているが、アメリカやカナダでは未だ使用されている。実際にハッキングされた事例はない模様。ホスピーラの製品ではPCAという患者が必要な時に操作すると麻酔が投与されるシステムでも脆弱性が指摘されたことがあるが、これもRiosの発見だ。

ネットワークに無線や有線で接続して制御する機器が増え、サイバーセキュリティー面の懸念が指摘されるようになった。先週はフィアット・クライスラーが脆弱性を理由に140万台に及ぶジープ・チェロキーのリコールを発表しているが、とうとう医療機器にも波及し始めた。Symbiqは医療ミスを防ぐ有益なシステムであるはずだが、ネットワークと外したら手作業で情報を入力しなければならないので却って面倒になる。

このような時代になると、ユーザーは導入した後もメーカーや規制当局の情報をフォローし、必要に応じてソフトのアップデートや機器の入れ替えを行わなければならない。多くの場合、導入時には準備して予算を取るがメンテナンスは臨時支出なので手間がかかる。メーカー側も、ソフトやシステムの課金方法を売り切りではなくウイルスバスターのように年間幾らという保守料金制に変えていく必要があるのではないか。

リンク: FDAの安全性通知
リンク: 同(LifeCare PCA3/PCA5の安全性通知、5/13付)
リンク: ICS-CERTのリリース(6/23付)

ファイザー、リピトールのOTCスイッチを断念
(2015年7月28日発表)

ファイザーは2015年第2四半期の決算発表リリースの中で、Lipitor(atorvastatin)のOTCスイッチを断念したことを明らかにした。

Lipitorは年商が史上初めて100億ドルを超えたコレステロール治療薬のベストセラー。ジェネリック化を機に10mgのOTCスイッチを図ったが、ここでネックになったのが、高脂血症は特別な症状が無く患者が自分で診断して自分で服用の是非を判断できるか明らかではないことだ。

FDAの要請を受けActual Use Studyを行ったが、フェールした由。血液検査でLDL-Cが高かったのに服用しなかったり、必要ないのに服用したりする人が多かったのだろう。スタチンは妊婦や活性期肝臓疾患は禁忌で筋障害や腎障害の副作用リスクも伴うので適正使用が重要だ。

処方薬のOTCスイッチは多くの国で医療費抑制手段として位置づけられている。OTC薬は保険還元の対象外であることが多いからだ。Lipitorを服用していた患者全てがOTC版に切り替えるのが理想であり、その意味では、医師の指示でOTC薬を服用するケースも想定されている筈だが、建前はあくまでセルフ・メディケーションなので自己診断・自己処方を前提にせざるを得ない。

スタチンではMSDもsimvasatinのOTCスイッチを試み、英国では承認・発売されたが米国では承認されなかった。OTC判Lipitorも夫々の国の規制や考え方次第、ということになりそうだが、今のところは慎重な国が多いようだ。

リンク: ファイザーの15年第2四半期決算発表リリース(8-9頁目に記載、pdfファイル)

【新薬開発】


MSDのエボラワクチンが高い予防効果を示した
(2015年7月31日発表)

MSDは、WHOなどが主導して実施した同社のエボラワクチンの第三相試験が中間解析で高い予防効果を示したことを発表した。治験論文はLancet誌のホームページに掲載されている。治験デザインや統計解析面で疑問が残るものの、効果を疑う根拠は小さいように感じられる。シオラ・レオネでも第三相が進行中なので、結果発表が待望される。

このrVSV-ZEBOVワクチンはカナダのPublic Health Agencyが開発しアイオワ州のNewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)にライセンス、昨年11月にMSDが世界独占開発販売権を取得したもの。水疱性口内炎ウイルス(VSV)の遺伝子の一部をザイール種のエボラウイルスの遺伝子の一部と置換することで弱毒化とエボラウイルスに対する免疫誘導能を与えた。

ギニアで実施された今回の第三相試験は、感染者の家族など高リスク接触者7651人を対象に、直ぐに筋注する群と21日後に接種する群の発症状況を比較したもの。接種前に感染している可能性もあるため、潜伏期を10日と考えて、接種後10日以上経ってからの発症をカウントした。結果は、即時接種群の発症は2014人中ゼロ、遅延接種群は2380人中16人、予防効果は100%で95%信頼区間は74.7~100.0%、p値は0.0036だった。

論文を読むと、幾つかの疑問点・不透明な点が見つかる。デザイン面では、第一に、盲検が完全ではないのでバイアスが影響する余地がある。第二は、無作為化が不十分な可能性。同じ患者にコンタクトした被験者は全員が即時接種群または遅延接種群に割付けられた模様だが、同じエボラウイルスでも感染力が違うかもしれないので、本来ならコフォート内でも無作為化割付を行うべきだろう。まあ、命に係る疾患なので、発症者の長男には即時接種、次男は遅延接種というやり方は非現実的なのかもしれないが。

第三に、最初の10日間の発症を無視して良いのかという点。逆に、10日以上経った発症は全然別の人から感染したのかもしれず、そうなると、10日間にあちこち出掛けたかどうかに影響される可能性がある。

解析結果の解釈に関しても不透明な点がある。中間解析を行う場合は最終解析との多重性を調整するために成功認定のハードルを高くする必要がある。この中間解析に割り当てられたアルファは0.0027なので、成功認定の基準を満たしていない。本来なら治験を続行して最終解析に向かうべきだろう。

幸いなことにエボラの流行は鎮静化してきたが、新薬やワクチンを開発する側からすると、被験者の組入れが進まず場合によっては治験打切りを懸念しなければならない。そうでなくても、命に係る急性疾患で直ぐにワクチンを投与しない群を設定することは現場の医師にとってジレンマだろう。このような焦りや倫理上のジレンマがあったであろうことを考えれば、上記の欠陥は容認できないものではないだろう。

説得力の点で弱みを持っていることは確かなので、このワクチンが有効であることを認めるためには、もう一本の試験の成功が必要だ。

リンク: Lancetの治験論文(オープンアクセス、pdfファイル)
リンク: MSDのプレスリリース

【承認申請】


EUが抗SLAMF7抗体の承認申請を受理
(2015年7月27日発表)

BMSはEmpliciti(elotuzumab)を再発性難治性多発骨髄腫用薬としてEUに承認申請し受理されたと発表した。開発コードはBMS-901608、HuLuc63、PDL-063など。骨髄腫細胞やNKセルに発現する表面分子であるSLAMF7(CS1糖蛋白)を標的とする免疫刺激的ヒト化抗体で、PDL(後に新薬開発事業をアッヴィが買収)が創製しBMSに開発販売権を供与したもの。

Revlimid(lenalidomide、和名レブラミド)及びdexamethasoneと併用した第三相試験ではメジアンPFS(無進行生存期間)が19.4ヶ月とこの二剤だけの群の14.9ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.70で統計的に有意だった。Velcade(bortezomib)及びdexamethasoneと併用した第二相でもPFSハザードレシオが0.72だった。

米国ではブレークスルー・セラピー指定を受けている。

リンク: BMSのプレスリリース
リンク: Lonialらの第三相治験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

エーザイ、ハラヴェンの適応拡大を申請
(2015年7月30日発表)

エーザイは、転移性乳癌用薬Halaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)を軟部肉腫に用いる適応拡大申請を日米欧で行ったと発表した。アンスラサイクリンを含む二種類のレジメンによる前治療歴を持ち直前の治療に反応しなかった患者に用いる。第三相試験ではメジアン生存期間が13.5ヶ月と、dacarbazineを投与した群の11.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.768、統計的に有意だった。

リンク: エーザイのプレスリリース(和文)

【承認】


パージェタの術前補助療法がEUでも承認
(2015年7月31日発表)

ロシュは、Perjeta(pertuzumab、和名パージェタ)を早期乳癌の摘出術前補助療法に用いることがEUで承認されたと発表した。米国では2013年に承認されている。承認の根拠となった、Herceptin(trastuzumab)及び化学療法薬と併用した第二相試験では、pCR(病理学的完全反応率)が40%とこの二剤だけを投与した患者の21.5%を上回った。

リンク: ロシュのプレスリリース


今週は以上です。

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