2014年9月28日

海外医薬ニュース2014年9月28日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ESMO:ゼローダとアバスチンの適応拡大試験
  • 抗IL-17A抗体が乾癬性関節炎の試験も成功
  • ビリアード後継薬の第三相が成功
  • BMS、オプジーボを欧米で承認申請
  • アムジェン、急性リンパ芽球性白血病用薬を承認申請
  • CHMPが新薬5品などの承認を支持
  • セルジーン、Otezlaの適応拡大承認


【新薬開発】


ESMO:ゼローダとアバスチンの適応拡大試験

(2014年9月25日発表)

ロシュはESMO(欧州臨床腫瘍学会)でXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)とAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の適応拡大試験の結果を発表することを明らかにした。欧州時間本日28日に発表される。Xelodaのデータは大変良く、Avastinは統計的には有意だか効果自体は小さい。

XelodaのIMELDA試験は、her2陰性の転移性乳癌でdocetaxelとAvastinによる一次治療を受けて癌が進行しなかった患者に、AvastinとXelodaによる維持療法を施行して、Avastinだけの維持療法を受ける群とPFS(無進行生存期間)を比較したオープンレーベル試験。

結果は、メジアンPFSが各群11.9ヶ月と4.3ヶ月、ハザードレシオ(HR)は0.38、pは0.001未満となり成功した。転移性乳癌のPFSはあまりアテにならないが、二次的評価項目である全生存期間も夫々39.0ヶ月、23.7ヶ月、0.43、0.001未満と統計学的にも臨床的にも意味のある延命効果が見られた。

乳癌は効果の確立していない薬も含めて多数の選択肢があり、5次治療、6次治療を受ける患者も少なくないようだ。薬物療法のコースを終えて癌の進行をある程度制御できていたら、しばらく様子を見て、進行後に次の治療を開始するというのが一般的な方針で、抗癌剤の副作用から回復する時間的な余裕を与えるメリットもある。しかし、短期間で再燃する癌の場合は、そして、効果が大きい場合は、維持療法は有力な選択肢になる。

もう一本のTANIA試験は、転移性乳癌の一次治療でAvastinを併用した患者に二次治療を行う時に、もう一度Avastinを併用する便益を検討したオープンレーベル試験。主評価項目のPFSは6.3ヶ月と、化学療法だけの群の4.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.75、p=0.0068と統計学的には大変有意なデータが出たが、たった2ヶ月と言えないことも無い。2015年に全生存期間の解析結果が出るまでは何とも言えないだろう。

Avastinは乳癌ではPFSが延びるものの延命効果は確認されておらず、米国のように承認を取り消した国もある。

リンク:ロシュのプレスリリース

抗IL-17A抗体が乾癬性関節炎の試験も成功

(2014年9月25日発表)

ノバルティスは、AIN457(secukinumab)の第三相乾癬性関節炎試験が成功したと発表した。抗IL-17A抗体はプラク乾癬の試験で良績を上げているが、合併症である乾癬性関節炎の第三相が成功したのは初。AIN457は2013年に日米欧で承認申請されたが、2015年に乾癬性関節炎でも適応拡大申請される予定。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ビリアード後継薬の第三相が成功

(2014年9月24日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、GS-7340(tenofovir alafenamide fumarate:略称TAF)を配合した固定用量コンビ薬の第三相HIV/AIDS治療試験二本が成功したと発表した。

この合剤は、elvitegravir(インテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤)、cobicistat(3A4阻害剤)、emtricitabine(核酸系逆転写阻害剤)も配合しており一日一回服用で足りる。2012~13年に日米欧で承認されたStribild(和名スタリビルド配合錠)の成分のうち、tenofovir disoproxil fumarate(TDF)をTAFに置き換えた格好だ。

TAFとTDFはどちらもtenofovirのプロドラッグだが、TAFの臨床用量は10mgとTDFの300mgよりだいぶ小さく、コンビ薬を開発する上で都合が良い。また、腎副作用が比較的小さいため対象患者が広がる可能性がある。更に、TDFはテバが2017年に米国でGE薬を発売する見込みなので、Viread(TDF、和名ビリアード)やTDFを配合する数多くの医薬品の特許切れ対策にも有効だ。

新薬の販売促進活動は第三相試験のデザインを決める段階から始まっている。米国は製薬会社がレーベルに記載されていない用途や効能・特性を宣伝することを規制しているので、臨床試験でキチンと確認してレーベルに記載できるようにすることが重要なのだ。今回の試験も販促に役立つ内容となった。

具体的には、ウイルス消失奏効率が91~93%でStribild群の88~92%と比べて非劣性。過去の試験ではやや弱そうだったので、一安心。有害事象による治験離脱や安全性プロファイルは同程度。腎副作用はeGFR低下がStribuild群より有意に小さく、骨代謝に与える影響も腰椎や股関節の骨塩密度低下が有意に小さかった。但し、差は決して大きくなく臨床的にどの程度の意義があるのかは良く分からない。

ギリアッドは他の試験の結果を待って2014年末までに承認申請する予定。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

【承認申請】


BMS、オプジーボを欧米で承認申請

(2014年9月27日発表)

BMSは、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を欧米で末期黒色腫用薬として承認申請し受理されたと発表した。米国は優先審査指定とブレークスルーセラピー指定を受け、審査期限は15年3月30日。EUも優先審査指定。第三相CheckMate-037試験の中間解析結果に基づくもので、データはESMOで現地(スペイン)の29日朝のプレスブリーフィングで明らかにされる予定。

この試験は同社のYervoy(ipilimumab)及び、brafV600変異型の場合はbraf阻害剤による治療を受けて再発した患者を組入れて、Opdivo(3mg/kg)を二週間に一回点滴静注する群と、dacarbazine又はcalboplatin・paclitaxel併用を三週間に一回静注する群の客観的反応率と全生存期間を比較したもの。今年4月に中間解析成功が発表された、米国の施設が参加していないCheckMate-066試験とは違う試験だ。

対象患者は今月承認されたMSDのKeytruda(pembrolizumab)と重なるが、037試験で延命効果が確認されたのだとしたらエビデンス面で上回ることになる。客観的奏効率の解析結果しかないのだとしたらKeytrudaと対等で、全生存期間の解析結果が出るのが先か、Keytrudaの第三相一次・二次治療試験の結果が発表されるのが先かという競争になる。

両剤とも他の薬との併用や他の癌の開発が活発に行われており、当面は、他社の開発品を含めて、デッドヒートが繰り広げられることになりそうだ。Opdivoは肺癌でも米国でローリング承認申請を開始、年内に完了する見込み。Keytrudaは三週間に一回の投与であることが他の薬と併用する上で有利。肺癌などではPD-L1の発現状況が応答性に関連している可能性があり、閾値をどこに置くかということも含めて開発者の腕の見せ所だ。

リンク:BMSのプレスリリース

アムジェン、急性リンパ芽球性白血病用薬を承認申請

(2014年9月22日発表)

アムジェンは、AMG 103(blinatumomab)を米国で承認申請した。フィラデルフィア染色体陰性の前駆B急性リンパ性白血病の成人に用いる。承認申請の根拠となった第二相単群試験では再発・難治性患者の34%が完全寛解、メジアン生存期間は6ヶ月だった。主な有害事象は熱性好中球減少症など骨髄抑制と、脳症も見られたようだ。6週サイクルで4週間、連続点滴静注する。

2012年に11.6億ドルで買収したドイツのマイクロメット社の開発品で、Bispecific T cell Engager(BiTE)抗体技術を用いて、二種類の抗体の短鎖可変領域をポリペプチドで結合した。片方はBセルが発現するCD19に結合し、もう片方は細胞傷害性TセルのCD3エプシロンに結合。Fcガンマ受容体を持たないため通常の抗体が結合できない細胞傷害性Tセルを活性化し、腫瘍を攻撃させる。

急性リンパ芽球性白血病は米国で年6000人、EUでも7000人が診断される癌で、再発・難治性患者のメジアン生存期間は3~5ヶ月とされる。blinatumomabの6ヶ月というのは決して効果が高い訳ではなく、化学療法によるサルベージセラピーと大差ない模様だが、選択肢の一つにはなるだろう。慢性骨髄性白血病やフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病におけるabl阻害剤のように、病気の根幹に介入する治療法を発見するための一里塚になるかもしれない。

リンク:アムジェンのプレスリリース

リンク:ASCO Daily News(14/6/23)

【承認審査・委員会】


CHMPが新薬5品などの承認を支持

(2014年9月26日発表)

EUの医薬品審査機関EMAの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、9月の月例会議で、新薬5品を含む15品の承認と3品の適応拡大・対象人口拡大に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

新薬では、まず、アストラゼネカのMoventig(naloxegol oxalate、米国名Movantik)。オピオイド系鎮痛剤の副作用で慢性便秘になり、緩下剤に十分反応しない患者に用いる。ネクター社が創製したPEG化naloxoneで、naloxoneより浸透性が低くP輸送蛋白の基質となるため脳血管関門通過性が低く、末梢選択的にミュー・オピオイド受容体を阻害、オピオイドの鎮痛効果は妨げずに便秘副作用だけを中和する。一日一回服用。米国では今月、承認された。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

ギリアッドのHarvoniは、NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirとNS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvirの合剤で、慢性C型肝炎の治療に用いる。I型ウイルス感染者の初治療試験では合剤を一日一回8週間服用するだけで99%の患者が奏功した。ribavirin不耐患者にとっては貴重な治療手段になる。日本でも第三相が成功、今月、承認申請された。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:ギリアッドのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのnintedanib(製品名は未決定の模様)は肺癌用薬で、局所進行性、転移性、または局所再発性の腺腫の二次治療にdocetaxelと併用する。腺腫以外も組入れた第三相試験では全患者で主評価項目のPFS解析が成功、解析計画に基づいて全生存の解析も行われ、腺腫ではHR0.83、p=0.0359と統計学的にも臨床的にもマージナルな差が見られたが、全患者の解析はフェールした。

扁平上皮以外の患者にAlimta(pemetrexed)と併用した第三相は無益性で打ち切られており、その意味でも、効果は限定的。

nintedanibはVEGFR、PDGFR、FGFR1を阻害する小分子薬。難病である特発性肺線維症の第三相が成功しており、商業的にはこちらの方が有望なのではないか。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

イーライリリーのCyramza(ramucirumab)は抗VEGFR-2完全ヒト化抗体。末期癌で白金薬と5-FUによる前治療を既に受けた患者に用いる。paclitaxelと併用するが、不耐ならモノセラピーも可。米国では4月に承認された。併用試験ではメジアン生存期間がpaclitaxel群の7.4ヶ月から9.6ヶ月に延長、ハザードレシオ0.807、モノセラピー試験では支持療法だけの群の3.8ヶ月から5.2ヶ月に延長、HR0.776だった。

同じくリリーのTrulicity(dulaglutide)は週一回投与型のGLP-1作用剤。食後の血糖値上昇時にインスリンの分泌を促進し、グルカゴンの分泌を抑制する作用も持つ。二型糖尿病の治療に、metforminなどに併用するが、metformin不耐不適はモノセラピー可。米国では今月承認された。

適応拡大的な新製品では、ノバルティスのSignifor(pasireotide)の月一回筋注用製剤を先端巨大に用いることが支持された。切除やSandostatin(octreotide)など既存のソマトスタチンに不適・不応の場合に用いる。即放性製剤は2012年にクッシング症候群の治療薬として承認された。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

GE化した活性成分の適応拡大という珍しいパターンが、HRA社のKetoconazole HRA。クッシング症候群に用いることが加速審査を経て支持された。ketoconazokeは抗真菌剤として長い市販歴を持つが、肝毒性を持つためCHMPは2013年に経口剤の承認停止を勧告した。その結果、30年以上に亘ってオフレーベルのまま使っていたクッシング症候群の患者が使えなくなってしまったため、今回、公知申請された。

リンク:CHMPのプレスリリース

新コンビ薬では、スペインのAlmirall社が開発しアストラゼネカが関連事業を取得した吸入用長期作用性ムスカリンaclidiniumとベータ2作用剤formoterolの合剤、Brimica/DuaklirがCOPDの維持療法として支持された。

ジョンソン・エンド・ジョンソンのRezolstaはHIV/AIDS治療用の合剤で、非ペプチド系プロテアーゼ阻害剤darunavirとギリアッドの3A4阻害剤cobicistatを配合、後者が前者の代謝を妨げるため服用量・頻度を削減することができる。アッヴィのritonavirは抗HIV薬としてよりも他の抗HIV薬のピルバーデンを改善する用途の方が主流になったが合剤は同社のKaletraしかない。ギリアッドがcobicistatを開発したおかげで他社も3A4阻害剤合剤をラインアップできるようになった。

テバのEgranli(balugrastim)が化学療法誘導性好中球減少症の治療薬として支持された。アムジェンのNeulasta(pegfilgrastim、和名ジーラスタ)と同様な長期作用性G-CSF。米国でも承認申請されたが撤回された。

CHMPのプレスリリースには記されていないが、アストラゼネカのIressa(gefitinib、和名イレッサ)の適応を判定する検査法を追加することも支持された由だ。即時発効。EGFRチロシンキナーゼ阻害剤はEGFRに活性化変異を持つ腫瘍が適応になる。従来は切除術などで採取した腫瘍を遺伝子検査して判定していたが、標本がない場合はctDNA(血中循環腫瘍のDNA)を代用できることになった。アストラゼネカはQiagen社とコンパニオン・ダイアグノスティックの開発で提携したばかり。

ct細胞/DNAは癌を発見する代理マーカーとして注目されているが、薬物応答性検査に用いるのは目新しい。her2など他の検査・薬にも使えるのか興味がわく。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

一方、ロシュのAvastinの神経膠腫適応拡大は再び否定的意見となった。臨床試験では画像診断に基づいて効果を判定したが、VEGF阻害剤を用いると血管の浸透性が低下し造影剤が染み出しにくくなるため、実態以上に腫瘍が小さくなったように見える可能性がある。PFSが延びたのに全生存期間が延びなかったことはこの仮説と符合する。EUは二次治療(モノセラピー)も一次治療化学療法併用も認めなかった。米国は二次治療モノセラピーだけ承認した。

日本は両方承認した。欧米の加速審査は、後に本承認に切り替える手続きが導入されていて、もし薬効確認試験がフェールした場合は承認取消になる。日本はこの辺がいい加減なので、医師や患者は本当に効くのか疑いながら使わなければならない。

【承認】


セルジーン、Otezlaの適応拡大承認

(2014年9月23日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、PDE4阻害剤Otezla(apremilast)を中重度乾癬の治療に用いることが米国で承認されたと発表した。今年3月に乾癬性関節炎の治療薬として承認されている。経口投与できることが長所だが効果は穏やか。副作用は下痢、悪心、頭痛など。体重が減少する可能性があるのでモニターする。鬱病のリスクがあり鬱病患者は禁忌。催奇性を持つ可能性がある。

リンク:セルジーンのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年9月21日

海外医薬ニュース2014年9月21日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • FDA諮問委員会がリクシアナを討議へ
  • シャイア、Vyvanceをむちゃ食い障害に適応拡大申請
  • アストラゼネカ、末梢作用性オピオイド受容体アンタゴニストが米国で承認
  • イーライリリーの長期作用性GLP-1作用剤が米国で承認
  • ZydeligがEUでも承認
  • ノボの二型糖尿病用合剤がEUで承認


【今週の話題】


FDA諮問委員会がリクシアナを討議へ

(2014年9月17日発表)

FDAは、10月30日に心血管腎臓薬諮問委員会を招集して第一三共のXa阻害剤、Savaysa(edoxaban、和名リクシアナ)を討議することをFederal Register(米国の官報)で公表した。今年1月に非弁膜性心房細動の卒中予防、深静脈血栓・肺塞栓の治療、症候性静脈血栓塞栓の再発予防の三用途で承認申請されたもの。第三相試験の結果は既に学会・論文発表されているが、特に問題があるようには見えない。おそらく、二種類の用量の使い分けについて意見を求める意図ではないか。

第一三共の一般名の付け方は面白く、xabanはXa阻害剤の共通語幹だが、接頭辞のedoは江戸、つまり日本発のXa阻害剤という意味だろう。エフィエントの一般名であるプラスグレルは、プラビックス(一般名クロピドグレル)より優れた薬に育って欲しいという思いが日本人には伝わってくる。

三適応症のうち商業的に一番重要なのは心房細動だ。第三相のENGAGE-AF TIMI-48試験は米国の血栓学における共同治験グループであるTIMIが主導した2万人規模の試験で、30mgまたは60mgを一日一回投与する群とワーファリンを使う群の卒中・全身性塞栓イベントを比較した。

他のXa阻害剤や経口直接的トロンビン阻害剤の試験は夫々にデザイン上の短所を持っていたが、この試験は二重盲検で、二種類の用量をテストして至適用量をキチンと確かめると共に、体重60kg以下の患者や腎機能低下などの患者には投与量を半減する手法を採用した、過去の試験の集大成ともいうべき模範的なデザインだ。

結果は、脳卒中・全身性塞栓の年率発生率は30mg、60mg、ワーファリンが夫々1.61%、1.18%、1.50%で、両用量ともにワーファリン比非劣性だった。

主評価項目の解析が成功したためシーケンシャルに優越性解析に進み、有意差は無かったが、高用量はワーファリンより優れるトレンド、低用量は劣るトレンドが見られた。非劣性解析と優越性解析は母集団を変えるのが一般的でこの試験も違うが、非劣性解析の母集団(修正intent-to-treatベース)を対象にした優越性解析では高用量はp=0.02と良い数値が出た。

抗凝固薬は出血リスクが高まるが、edoxabanは低用量の重大出血発生率(年率)が1.61%、高用量が2.75%と、ワーファリン群の3.43%より有意に低かった。

素直に受け止めると30mg、60mgどちらも良好で承認に値するが、FDAは、抗血栓薬、抗血小板薬共に、至適な一つの用量しか承認しない傾向がある。前例はベーリンガーの経口直接的トロンビン阻害剤、Pradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)で、欧州や日本では110mgと150mg(一日二回投与)の両方が心房細動向けに承認されているが、FDAは110mgしか承認しなかった。

理由は、150mgは事後的解析で効果がワーファリンより有意に高く、複合主評価項目の中で最も重要な疾患である脳卒中も数値上、少なかったのに対して、110mgはワーファリンと非劣性だけだったこと。出血リスクは110mgのほうが良好に見えるのだが、脳卒中予防効果の高さの方を重視した。承認後にオピニオンリーダー達が脳卒中や出血リスクに応じて使い分けることができないことを嘆く結果になった。

今回のデータはPradaxaより難しく、効果の点では60mgが至適に見えるが、出血リスクでは30mgだろう。両方を承認する方法もあるだろうが、今度は医師が悩むことになり、問題解決にはならない。

もう一つの難点は、服用中の用量調整だ。この試験では例えば投与期間中に体重が60kgを下回ったら用量を半減する手法が採用されたが、現実の医療でも同じことが可能かどうか。体重は計測するだろうが、腎機能や、同時使用薬のチェックはキチンと行われるか?そもそも、60kgという閾値は適切なのか?

FDAは薬物動態など判断に必要なデータを多数、持っているだろう。その分析結果も注目だ。

リンク:諮問委員会開催通知(Federal Register、9/17)

【承認申請】


シャイア、Vyvanceをむちゃ食い障害に適応拡大申請

(2014年9月15日発表)

英国のシャイアは、米国でVyvance(lisdexamfetamine)をBED(むちゃ食い障害)に適応拡大申請し、FDAが受理、優先審査指定したことを発表した。順調なら来年2月に審査結果が出ることになる。

Vyvanceはアンフェタミンのプロドラッグで07年にADHD治療薬として承認された。適応拡大は鬱病の第三相が行われたがフェール、BEDは成功した。

BEDは通常の人より沢山食べる現象が週一回以上の頻度で3ヶ月以上続き、神経性の過食症や無食欲症とは異なり食べ過ぎた反動が出ない状態と規定されている。ADHDにも言えることだが、昔は病気とは考えられていなかったものが診断基準が作られ治療法が開発されていく。

シャイアは米国のアッヴィと合併で合意している。

リンク:シャイアのプレスリリース

【承認】


アストラゼネカ、末梢作用性オピオイド受容体アンタゴニストが米国で承認

(2014年9月16日発表)

アストラゼネカは、Movantik(naloxegol oxalate)が癌性以外の慢性オピオイド誘導性便秘の治療薬として米国で承認されたと発表した。錠剤で、一日一回服用する。第三相試験の一本では12.5mg群と25mg群の腸運動改善奏効率が各41%と44%で偽薬群の29%を有意に上回った。

この種の薬は腸閉塞のリスクが見られるため胃腸閉塞のある患者、リスクの高い患者は禁忌。3A4を強力に阻害する薬の同時使用も禁忌。胃腸穿孔やオピオイド離脱症状が警告されている。3A4相互作用があるためグレープフルーツやグレープフルーツジュースの摂取は避けるべき。(日本にはグループフルーツは大丈夫という意見もあるが、このレーベルを見ても、09年にブログで書いたように、気を付けなければならない)。

Movantikはネクター社が小分子ポリマーコンジュゲート技術を用いて創製した末梢作用性ミュー・オピオイド受容体アンタゴニスト。同じ作用機序を持つ薬の試験で心血管リスクが増加したためFDAが一年間の安全性試験を求めたが、特に問題は無かった。それでも、FDAは市販後に心血管アウトカム試験を行うよう要求した。

活性成分の構造がnoroxymorphoneと類似しているためDEA(米国麻薬取締局)がスケジュールIIに指定した。五つの規制分類の中で二番目に厳しい、コカインや上記のVyvanceなどと同じ処方流通規制を受けることになる。しかし、承認されたレーベルには薬物依存のリスクも乱用のリスクも無いと記されている。アストラゼネカはDEAに指定解除を請願、受理されたので、改定される可能性がありそうだ。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

リンク:FDAのリリース

リンク:Medicine-Blog『グレープフルーツの薬物相互作用』

イーライリリーの長期作用性GLP-1作用剤が米国で承認

(2014年9月18日発表)

FDAは、Trulicity(dulaglutide)を二型糖尿病薬として承認したと発表した。イーライリリーのGLP-1作用剤で、週一回皮注で足りることが特徴。アストラゼネカのBudureon(exenatide)も週一回だが、分子が大きいせいか針が太く注射箇所の痛みを訴える患者がやや多い。

DPP-4に分解され難く改変したヒトGLP-1と免疫グロブリンG4の固定領域重鎖をペプチドリンカーで繋げて半減期を延ばしたもの。GLP-1作用剤はVictoza(liraglutide)が成功しているが、一日一回なので、強力なライバルが現れたことになる。

他のGLP-1作用剤と同様に、ラットの試験で甲状腺Cセル腫瘍が用量・投与期間依存的に増加したこと、甲状腺髄様腫歴・家族歴や多発性内分泌腫瘍症2型(MEN 2)を持つ患者は禁忌であることが枠付警告された。膵炎の病歴を持つ患者は他の薬を検討すべきとされた。GLP-1作用剤なので悪心嘔吐、下痢などの副作用を持つ。日本でも承認審査中。

リンク:FDAのリリース

リンク:イーライリリーのプレスリリース

ZydeligがEUでも承認

(2014年9月19日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、Zydelig(idelalisib)がEUでCLL(慢性リンパ性白血病)とFL(濾胞性リンパ腫)に承認されたと発表した。7月の米国承認に次ぐもの。Bセルの増殖や活性化に係るPI3Kデルタ酵素を選択的に阻害する経口剤で、CLLは二次治療としてRituxan(rituximab)による治療が適切な患者(化学療法不耐など)に併用する。化学療法応答性が低い17番染色体短腕欠損やTP53変異の場合は一次治療も可。FLは三次治療薬として単剤投与する。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

ノボの二型糖尿病用合剤がEUで承認

(2014年9月18日発表)

ノボ ノルディスクは、XultophyがEUで承認されたと発表した。持効性インスリンであるTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)とGLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)の活性成分を配合した固定用量合剤。インスリンは体重が増加し、GLP-1作用剤は減少するので、合剤は体重に中立的。来年上期に発売する予定。

リンク:ノボのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年9月14日

海外医薬ニュース2014年9月14日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • リリー、抗癌剤の適応拡大試験成功
  • TesaroがOPKOの制吐剤を米国で承認申請
  • FDA諮問委員会がノボの体重管理薬を支持
  • FDA、第三の体重管理薬を承認
  • バクスターの原発性免疫不全症治療薬が米国で承認
  • イクスタンジの早期使用が承認
  • ランタスのバイオシミラーがEUでも承認


【新薬開発】


リリー、抗癌剤の適応拡大試験成功

(2014年9月12日発表)

イーライリリーの抗VEGFR-2完全ヒト化抗体Cyramza(ramucirumab)は今年4月に胃癌の二次治療薬として米国で承認されたが、同時進行していた様々な第三相のうち、非小細胞性肺癌の二次治療試験に続いて結腸直腸癌の二次治療試験も成功したことが発表された。

5-FUとoxaliplatin、Avastin(bevacizumab)ベースの治療に再発・不応の患者を組入れて5-FUとirinotecanベースのFOLFILIレジメンと併用したところ、FOLFILIだけの群と比べて生存期間が有意に延長した。米国では1万人程度が対象になる模様だ。

Cyramzaの治療効果は決して大きくなく、胃癌も肺癌も全生存期間がメジアンで1.4ヶ月延びただけだった。今回の試験は1000人以上を組入れたので小さな差でも統計的に有意になる可能性があり、実際の数値が公表されるまでは何とも評価しようがないだろう。3月23日号で書いたように、ASCOは抗癌剤試験のハードルを引き上げることを提言している。近年の抗癌剤は高価で、命に係る副作用もあるので、承認されたとしても使われるとは限らない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


TesaroがOPKOの制吐剤を米国で承認申請

(2014年9月8日発表)

Tesaro(Nasdaq:TSRO)はNK-1受容体拮抗剤rolapitantを化学療法誘導性嘔吐の予防・治療薬として米国で承認申請した。同種の薬ではMSDのEmend(apripitant)が03年に承認されている。半減期が長く薬物相互作用が小さいことが長所だが、Emendの特許切れが近付いていることを考えれば、商業的には楽観できないだろう。

rolapitantはOPKO Health(AMEX:OPX)が09年にシェリング・プラウから資産を取得、翌年にTesaroに独占開発販売権を供与したもの。TesaroはMGIで制吐剤Aloxiを開発・商業化したメンバーがエーザイによる買収後に独立して設立した会社。

リンク:Tesaroのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がノボの体重管理薬を支持

(2014年9月11日発表)

FDAの心臓腎臓薬諮問委員会は、ノボが体重管理薬として承認申請したSaxenda(liraglutide)を検討し、14対1の多数で承認を支持した。活性成分は二型糖尿病薬Victoza(和名ビクトーザ)と同じだが用量が3mg(一日一回皮注)とVictozaの1.2/1.8mgより多い。長期作用性GLP-1作用剤で、食欲を抑制し、食物が胃から腸に移行するのを遅らせる。悪心嘔吐の副作用を持つ。

第三相試験では5割前後の患者が体重を5%以上減らすことに成功した。偽薬群は1~2割に留まった。マーケティング面で重要な二型糖尿病肥満患者の試験でも体重と血糖値を引き下げた。深刻な有害事象の発生率は6.3%と偽薬の4.6%を若干上回っただけで、内容は胆嚢障害(1.2%、偽薬は0.3%)、関節障害(0.4%対0.1%)、乳癌(0.2%対0.1%未満)など。GLP-1作用剤は膵炎のリスクがあり、Saxendaの試験では急性膵炎の発生率が0.21%対0.05%だった。

リンク:ノボ ノルディスクのプレスリリース

【承認】


FDA、第三の体重管理薬を承認

(2014年9月10日発表)

FDAは、オレキシジェン(Nasdaq:OREX)が武田薬品にライセンスした体重管理用薬、Contrave(徐放性bupropionと徐放性naltrexoneを配合)を承認した。2012年に承認されたアリーナ/エーザイのBelviq(lorcaserin)やヴィーヴァスのQsymia(phentermineと徐放性topiramateの合剤)に次ぐ第三の新薬だ。先行二品は夫々の理由で売れ行きがゆっくりだが、Contraveはどうか。

適応は、前二剤と同様に、BMIが30kg/m2以上の肥満症患者と、27kg/m2以上で糖尿病や高血圧などの疾病因子を一つ以上持つ患者。臨床試験では40~60%の患者が臨床的に意味のある減量(5%以上)を達成した。偽薬群は10~40%だった。12週間服用して5%以上痩せなかったら治療を止める。副作用懸念があるからだ。

bupropionは鬱病や禁煙支援で既に承認されている活性成分で、これらの用途と同様に、青少年で自殺思慮のリスクが高まることや神経精神性有害事象が増えることが枠付警告された。医師は患者同意書を取る必要があるだろう。また、用量依存的な癲癇発作のリスクが見られる。心血管有害事象では、血圧や心拍数が上昇する。

体重管理は医学的には心血管疾患を予防するために行うのだが、Contraveで心血管イベントを抑制できるかどうかは確認されていない。臨床試験の中間解析で心血管リスクが倍増しないことは確認済みだが、解析結果を公表したために治験の厳格性が失われ、最終解析を使って結論を出すことがFDAに認められず、新たな試験を実施することになった。

上記の三剤は全て中枢神経系の薬剤であり、このため、精神性副作用を持つ。Belviqは効果がやや見劣りし、Qsymiaは効果が一番高いが徐放性ではないGE薬を二剤併用する安価な方法が脅威になる。ContraveもGE薬があるのでQsymiaと同じ懸念がある。一方で、三剤の中で唯一、麻薬取締法の規制を受けない。

Contraveが承認されたためオレキシジェンは武田から3000万ドルの達成報奨金を得る。発売時は7000万ドル。ロイヤルティは売上高に応じて20~35%。心血管アウトカム試験の費用は前回と同じ1万人規模なら1.5~2億ドルで二社が負担することになる。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:武田のプレスリリース(和文、pdfファイル)

バクスターの原発性免疫不全症治療薬が米国で承認

(2014年9月12日発表)

バクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)とハロザイム(Nasdaq:HALO)は、Hyqviaが米国で原発性免疫不全症の治療薬として承認されたと発表した。既存製品は点滴用なら3~4週間に一回の投与で足りるが、簡便な皮注用は1~2週に一回。Hyqviaは皮注用でありながら4週間に一回で足りるので利便性が高い。

秘訣は、ハロザイムの遺伝子組換え型PH20。皮注すると細胞外基質のグリコサミノグリカン・ヒアルロンが一時的に零落、ヒト血漿由来の免疫グロブリンを皮注する時の生物学的利用率が高まる。

ハロザイムの技術は応用が利き、昨年欧州で承認されたロシュのHerceptin(trastuzumab)の皮注用製剤も採用している。FDAは抗PH20抗体ができて再生産組織や神経組織に損傷を与えるリスクを懸念している模様。ヒトC1エステラーゼ・インヒビターと一緒に用いた試験が自発的に中止されたことがある。ロシュも米国では開発していないのではないか。それだけに、今回の承認はハロザイムにとって一歩前進だ。

リンク:バクスターのプレスリリース

イクスタンジの早期使用が承認

(2014年9月10日発表)

アステラス製薬とメディベーション(Nasdaq:MDVN)は、FDAがXtandi(enzalutamide、和名イクスタンジ)の対象人口拡大を承認したと発表した。2012年の最初の承認は、ホルモン療法などの去勢療法に反応しなくなった転移性前立腺癌で化学療法による治療を受けた患者が対象。今回は、化学療法の前に使うことが承認された。

抗癌剤は早い段階の患者の方が効果が高くまた、長く続く。遅い段階の患者は治療の副作用でこれ以上の治療ができないことも多い。このため、早期使用が承認されると対象患者数も平均投与期間も拡大する。

前立腺癌の薬物療法は、ホルモン療法→PSA値再上昇→転移・症状悪化→化学療法というステージを踏むのが一般的だ。転移・症状悪化前に治療を開始する場合もあり、Xtandiや前立腺癌の新薬であるZytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)の適応拡大試験が進行中。

両剤ともにホルモン療法の一種であることを考えれば、将来的に、leuprolideのようなLH-RH類縁体に取り替わる可能性もあるだろう。前立腺癌の多くは進行が遅く、ホルモン療法や放射線療法だけでも天寿を全うできる可能性があるため、市場性が大きく拡大する。

リンク:アステラスのプレスリリース(和文)

ランタスのバイオシミラーがEUでも承認

(2014年9月10日発表)

イーライリリーとベーリンガー・インゲルハイムは、Abasria(insulin glargine、米国名Basaglar)がEUで承認されたと発表した。持効性インスリンのベストセラーであるサノフィのLantus(和名ランタス)のバイオシミラーで、米国でも8月に仮承認されている。Lantusのバイオシミラーは初。

リンク:両社のプレスリリース

今週は以上です。

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2014年9月6日

海外医薬ニュース2014年9月7日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • エボラウイルス疾患治療薬・ワクチンの開発・準備状況
  • デング熱ワクチンの第三相試験が成功
  • テバの抗IL-5抗体も第三相成功
  • Cometriqの前立腺がん適応拡大試験はフェール
  • アクタビス、IBS-D治療薬と抗菌剤を米国で承認申請
  • アムジェン、高脂血症治療薬と悪性黒色腫用薬をEUに承認申請
  • 抗PD-1抗体が米国でも承認
  • リオナが米国でも承認
  • TriumeqがEUでも承認


【今週の話題】


エボラウイルス疾患治療薬・ワクチンの開発・準備状況

(2014年9月3日発表)

WHOは9月4~5日にエボラウイルス疾患の治療薬やワクチンの開発・臨床応用に関する会議を開催した。ウェブサイトにブリーフィング資料が公開されたので、纏めておこう。

一番残念だったのは、富山化学/富士フィルムのアピガン(ファビピラビル)がサル試験で良好な成績を残せなかったことが判明したことだ。生存できたのは6頭中1頭だけだった。用量を増やして追加試験中とのこと。

改めて日本の審査文書を読んでみると、なぜインフルエンザ治療薬として承認されたのか、良く分からない。日本韓国台湾で実施された第三相試験ではタミフルに対する薬効の非劣性は確立しなかった。承認された用量はこの試験の用量より多い。承認の条件としてこの用量で日本人の薬物動態試験と薬効確認試験の実施を求めており、極言すれば、承認しないのと大差ない扱いである。鳥インフルエンザが大流行した時に備えて取り敢えず承認したということなのだろうが、乱暴な話だ。

他の開発品は当面は数十~数百人分しか用意できないようなので、結局、頼りにできそうなのはエボラ感染から回復した患者の血漿だけのようだ。ウイルスを克服できたのだから十分な量の抗体があるはず、という考え方だが、この資料にはエビデンス不十分と記されている。将来性の点では、抗体カクテル療法に加えて、TekmiraのTKM-Eboraも良さそうだ。常温保存できることも好ましい。

治療に当たる医療従事者や患者の家族を守るためにワクチンも重要だ。GSKのチンパンジー感染型アデノウイルスを用いるワクチンが今月、第三相試験に向かう予定。NewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)の子会社であるBioProtection Systemsが開発している弱毒化水疱性口内炎ウイルスを用いるワクチンも臨床入りする予定。

1万人規模の治療薬・ワクチンを年内に予防することは難しそうだが、支持療法だけでも生存率を向上できる可能性があるなら、キチンと宣伝しておくことが重要だろう。エボラに感染した医師が医療行為を続けて多くの病人や家族、友人に感染させた事件が報じられているが、罹患を隠す理由の一つは、自己申告しても忌み嫌われるだけ、どうせ治療法はないのだから何のメリットもない、と考えるからだろう。希望が残っていることを広く知らしめなければならない。

以下は、BACKGROUND DOCUMENT:POTENTIAL EBOLA THERAPIES AND VACCINESより治療薬候補に関する記述を抜粋した。

回復期血漿:感染から回復した患者の血漿が有効という研究もあるが解釈が困難。他のウイルスが感染するリスクがある。エボラ感染が却って酷くなる可能性も。回復期血漿の最初のバッチは14年末までに利用可能になりそう。

ZMapp(Mapp Biopharmaceutical):三種類のマウス・ヒト・キメラ抗体のカクテル。ウイルスのエンベロープのそれぞれ異なった箇所に結合またはコーティングしてウイルスをブロックまたは中和する。サルの試験で感染の最大5日後に治療開始して強度の生存を示した。ヒトに対する有効性や安全性は正式には評価されていない。10コース足らずの薬剤しか現地に供給されていない。生産をスケールアップして年末までに数百回分を供給する努力が行われている。

TKM-100802(TekmiraのTKM-Ebora):ウイルスの二つの本源的な遺伝子を標的にして複製できなくする。サルの試験で感染48時間後に投与して83%が生存、72時間後投与は67%。健常者の単回投与試験で高用量は心拍数増加や頭痛などの副作用が見られたが治療に用いる低用量では忍容性が比較的良好。限られた量しか利用可能でない。15年初めまでに900コース分を生産できる可能性。点滴静注。常温保存可。

AVI7537(Sarepta):感染時から14~40mg/kgを14日間投与したサルの試験で60~80%が生存。ヒトでも早期試験で忍容性が示された。10月中旬までに20~25コース分のAPI(バルク)が利用可能に。15年初めまでに約100コース分を生産できる可能性。

favipiravir(富山化学のアビガン):マウスでは有効性を示したがサルの試験では6頭中1頭のみ生存。用法を変えて試験中。インフルエンザ治療薬として日本で承認。治験症例1000人以上で重大な有害事象は報告されていない。しかし、エボラの治療に提案されている用量はインフルエンザの2~5倍多く、治療期間も長くなる可能性。催奇性を持つので妊婦に投与すべきではなく、妊娠検査や避妊薬服用が必要になる可能性。暴露後の予防に用いることを検討中。用量次第だが1万コース以上を利用できる可能性。最大で一日18錠服用しなければならない可能性があり悪心の患者には適さない可能性。

BCX4430(バイオクリスト):げっ歯類の試験で生存率83~100%。サルの試験が進行中。ヒトの安全性試験を開始する予定。薬効が示唆されるまで使用を検討できない。薬剤も現時点では利用できない。

リンク:WHOエボラウイルス会議サイト

【新薬開発】


デング熱ワクチンの第三相試験が成功

(2014年9月3日発表)

日本人には何ともいえないタイミングで、サノフィがデング熱ワクチンの第三相試験成功を発表した。08年にアカンビス社を買収して入手した弱毒化黄熱病ウイルスを用いる4価ワクチンで、一本目の試験(タイなどアジアの2~14歳の子供1万人を組入れた)ではワクチン効率が56.5%だったが、今回のラテンアメリカの9~16歳2万人を組入れた試験でも60.8%と、同じような結果になった。

通常の感染症予防ワクチンと比べると低いが、デング熱ワクチンの開発に成功したのは今回が初めてなので、意義が大きい。6ヶ月毎に三回、皮注する用法で、価格は一人分が10~100ドル程度と推測されているようだ。4種類の代表的な株のうち1型と2型に対する効果はやや弱いが、それでも感染症を30~40%予防することができる。

デング熱は世界で年0.5~1億人が感染し、うち50万人が重症化して入院する。WHOは2020年までに死亡者を5割、感染者を25%削減することを目標としており、ワクチン効率50~60%なら合格だろう。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

テバの抗IL-5抗体も第三相成功

(2014年9月2日発表)

世界最大のGE薬メーカーであるテバは特許性新薬の開発にも取り組んでいる。今回は、抗IL-5ヒト化抗体reslizumabの第三相試験が二本とも成功と発表した。中重度喘息症で薬物維持療法を行っても増悪を十分に防げないでいる、好酸球増加が見られる患者を組入れて、reslizumab(3mg/kgを4週間に一回静注)を投与したところ、12ヶ月間の増悪頻度が偽薬群より一本は50%、もう一本は60%、少なかった。欧米などで承認申請する予定。

喘息症の患者の一部は好酸球値が高く、病理に関与している可能性がある。好酸球の成熟、成長、走化性(移行)などに関与するのがIL-5で、グラクソ・スミスクラインなどが抗IL-5抗体の喘息症増悪予防試験を行い、好酸球増加型の患者に有効である可能性を見つけた。同社の完全ヒト化抗体、mepolizumabは第三相試験が成功、年内に承認申請に向かうだろう。好酸球増加型のCOPDでも第三相が始まった。

アストラゼネカも協和発酵キリンからポテリジェント抗体benralizumabを導入して第三相試験中。好酸球が増加していない患者も組入れて階層化し、本当に好酸球増加型にしか効かないのか確認する構えだ。

reslizumabの開発歴は長く、シェリング・プラウ(後にMSDが買収)がセルテック(後にUCBが買収)と共同開発したが02年に中止、07年にCeption社にアウトライセンス、09年にセファロンがCeptionを買収、そのセファロンを11年にテバが買収した。

リンク:テバのプレスリリース

Cometriqの前立腺がん適応拡大試験はフェール

(2014年9月1日発表)

エグエリキシス(Nasdaq:EXEL)は、Cometriq(cabozantinib)の去勢抵抗性前立腺癌試験がフェールしたと発表した。既存の薬が全てフェールした患者を組入れてステロイド(prednisone)と全生存期間を比較したが、メジアン11.0ヶ月と9.8ヶ月、ハザードレシオ0.90で有意な差が無かった。探索的な解析でPFS(無増悪生存期間)が5.5ヶ月対2.8ヶ月、ハザードレシオ0.5と良さそうな結果が出たが、私見では、これだからPFSを信用してはいけないのである。

CometriqはVEGFR2などを阻害する、数多の血管新生阻害剤の一つで切除不能甲状腺髄様腫に承認されている。腎細胞腫と肝細胞腫でも第三相試験中。腎細胞腫は多くのVEGFR2阻害剤の試験が成功しているが、それだけに、成績がよほど良くなければ出番は少ないだろう。肝細胞腫は前例の多くがフェールしている。結果が出るのは各15年と17年でしばらくかかるため、エグゼリキシスは人員削減を行って寿命を延ばす考え。

リンク:エグゼリキシスのプレスリリース

【承認申請】


アクタビス、IBS-D治療薬と抗菌剤を米国で承認申請

(2014年9月2日、5日発表)

フォレストと合併してダブリン籍の企業となったアクタビス(NYSE:ACT)は、eluxadolineをIBS-D(下痢主導型炎症性腸疾患)の治療薬としてFDAに承認申請した。ミュー・オピオイド受容体にはアゴニストとして作用し、デルタ・オピオイド受容体にはアンタゴニストとして作用する薬で、血液中に吸収されず局所的に作用する。75mgまたは100mgを一日二回、経口投与した第三相試験では、奏効率が23~29%と偽薬群の16~17%を有意に上回った。ジョンソン・エンド・ジョンソンからライセンスしたもの。

リンク:アクタビスのプレスリリース(eluxadoline、9/2付)

アクタビスは、CAZ-AVI(ceftazidimeとavibactamの合剤)をグラム陰性菌による複雑腹腔内感染症と複雑尿道感染症の治療薬としてFDAに申請し受理されたことも発表した。第三世代セフェム系抗生物質とベータラクタムと異なった構造を持つベータラクタマーゼ阻害剤の合剤で、先日、共同開発パートナーであるアストラゼネカが第三相試験の成功を発表している(8月24日号参照)。アクタビスはいつ承認申請するか明確にしていなかったが、既に申請していた訳だ。

ceftazidimeは単剤で承認されているので、この文献情報と合剤の第二相試験データを利用して505(b)(2)条項に基づく申請を行ったとのこと。典型的には既存の薬の異なった塩や剤型を申請する時に用いられる方法だ。第三相試験のデータは追加提出という形を取る。15年第1四半期の承認を見込んでいる。アストラゼネカはEUで15年第1四半期に承認申請する予定なので、半年から1年早く承認を取れることになる。

リンク:アクタビスのプレスリリース(CAZ-AVI、9/5付)

アムジェン、高脂血症治療薬と悪性黒色腫用薬をEUに承認申請

(2014年9月2日発表)

アムジェンは、AMG145(evolocumab)とtalimogene laherparepvecをEUで承認申請したと発表した。前者は抗PCSK9完全ヒト化抗体で、高脂血症の治療に月一回、皮注する。LDL-Cを50~60%削減することができる。心血管疾患予防効果は確立していないが、第三相試験のプール分析では、少なくとも悪い結果は出ていないようだ。

同じ作用機序を持つリジェネロン/サノフィのalirocumabは1年時点のプール分析で主要有害心血管イベントが偽薬群の半分だったことがESC欧州心臓学会で発表された。しかし、ポストホック分析でイベント数が50例足らず、全心血管疾患の発生率は偽薬群と大差なかったことを考えれば、まだ何とも言えないだろう。

米国では8月に承認申請。リジェネロン等も欧米で承認申請に向かう構え。

リンク:アムジェンのプレスリリース(AMG145)

talimogene laherparepvecは単純ヘルペスウイルスにGM-CSFの遺伝子を組入れたもので、切除不能黒色腫に直接注射すると、ウイルスが増殖して腫瘍を破壊し、免疫細胞がGM-CSFの刺激の下、腫瘍抗原に対する監視を強化する。第三相試験では持続的反応率が16%とGM-CSFだけを投与した群の2%を上回り、全生存期間でも好ましいトレンドが見られた。但し、遠隔転移や二次治療のポストホック・サブグループ分析では好ましい数値が出なかった。米国は7月に承認申請済み。

リンク:同(talimogene laherparepvec)

【承認】


抗PD-1抗体が米国でも承認

(2014年9月5日発表)

FDAは、MSDのKeytruda(MK-3475、pembrolizumab)を切除不能・転移性黒色腫用薬として承認したと発表した。審査期限より1ヶ月早かったが、ローリング承認申請された薬は期限前承認が珍しくない。腫瘍細胞がPD-L1/L2を免疫細胞のPD-1に結合させて抑制刺激を送り込むのをブロックする、抗PD-1ヒト化抗体。開発競争の第一幕は、日本では小野薬品・BMS連合のオプジーボが勝ち、米国はMSDが勝った。

第二幕はBMSのYervoyなど近年続々と登場している新薬との併用法の開発で、スピードアップと資金節約を目的に積極的な提携戦術が採用されている。

直接試験は実施されていないので効果や安全性の優劣は不明だが、Keytrudaの長所は投与が三週間に一回であること。Yervoyを含めて既存の薬も三週間毎が多いので、オプジーボのように併用するために何度も診療所に行く必要がない。尤も、オプジーボも二週間毎だけでなく三週間毎に投与する併用試験が進行中で、同じような薬なのだから不可能ではないのだろう。

良く分からないのはPD-L1発現状況と応答性の相関関係。肺癌では有益な応答性予測因子になりそうなので、閾値をどこに置くかなど、研究の余地が大きそうだ。開発競争で先んじても用法の至適化で出遅れたら後から来たのに追い越されるリスクがある。報道によるとKeytrudaの価格は年15万ドル相当、日本のオプジーボよりは安いが十分に高い。深刻な有害事象の発生率が36%、有害事象による治験離脱が6~9%と、免疫性疾患のリスクも高いので尚更、無駄打ちは避けたい。

もう一つのバトルフィールドが特許裁判だ。報道によるとBMSと小野が連邦デラウェア地裁に特許侵害でMSDを提訴した模様。命に係る病気の薬なので、まさか販売差止命令を請求することはないだろう。

リンク:FDAのリリース

リンク:MSDのリリース

リオナが米国でも承認

(2014年9月5日発表)

Keryx Biopharmaceuticals(Nasdaq:KERX)は、FDAがferric citrateを慢性腎疾患透析期の高リン血症治療薬として承認したと発表した。経口鉄剤で、台湾のPanion社から権利を取得したもの。日本では今年5月、Keryxの導出先である鳥居薬品がリオナとして発売した。

リンク:Keryxのプレスリリース

TriumeqがEUでも承認

(2014年9月3日発表)

GSKと塩野義製薬、ファイザーとのHIV/AIDS合弁会社は、TriumeqがEUで承認されたと発表した。塩野義が創製したインテグラーゼ・トランスフェラーゼ阻害剤dolutegravirと、GSKの核酸系逆転写阻害剤abacavir及びlamivudineを配合した錠剤で、一日一回服用で足りる。但し、ウイルス型によっては用量が足りず、また、abacavirを配合しているので深刻な過敏反応のリスクを調べるために事前にHLA-B*5701検査が必要。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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