2014年6月29日

海外医薬ニュース2014年6月29日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • ヴァーテックス、膿胞性線維症で第二の新薬
  • BMS、nivolumabの第三相黒色腫試験が成功
  • アーゼラの市販後薬効確認試験がフェール
  • ルンドベック、急性脳梗塞の第三相がフェール
  • CHMPがBMSの抗HCV薬などの承認に肯定的意見
  • FDA諮問委員会はアストラゼネカのPARP阻害剤を支持せず
  • 吸入インスリンが米国で承認
  • FDAはオルメテックの心血管リスクに結論を出せず


【新薬開発】


ヴァーテックス、膿胞性線維症で第二の新薬

(2014年6月24日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は、F508欠損ホモ接合型の膿胞性線維症患者を組入れた第三相試験二本が成功したと発表した。呼吸能力の悪化を遅らせ、肺増悪リスクを削減することに成功した。年内に欧米で承認申請に向かう予定。

膿胞性線維症はCFTRという輸送蛋白の遺伝子変異が関与している。ヴァーテックスは膿胞性線維症財団(CFFT)と協力してCFTRの能力を強化したり正常化したりする小分子薬の研究を進め、2012年にKalydeco(ivacaftor)の承認を取得した。G551D変異と呼ばれるタイプ等に有効で、世界の患者7万人のうち1割弱が適応になる。F508欠損ホモ接合型は4割程度を占めるので、対象患者が拡大する。

この第三相試験は12歳以上の患者を約500人ずつ組入れて、KalydecoとVX-809(lumacaftor)の併用療法を偽薬だけの群と比較した。KalydecoはCFTRポテンシエイターと呼ばれており、細胞のCFTRチャネルの開口時間を長期化する。VX-809はCFTRコレクターと呼ばれ、CFTRの細胞表面移行を促す。Kalydecoは承認されている150mg一日二回より多い250mgを一日二回経口投与。VX-809は600mg一日一回経口投与と400mg一日二回をテストした。

結果は、24週間治療後のパーセント一秒量(ppFEV1;ベースライン値は61%)が600mg群は偽薬比で一本は4.0パーセンテージポイント、もう一本は2.6パーセンテージポイント改善。400mg一日二回群は2.6パーセンテージポイントと3.0パーセンテージポイント改善した。相対変化率は、各、6.7%、4.4%、4.3%、5.3%となった。事前に設定されたプール分析で600mgは肺増悪リスクを30%、400mg一日二回群は39%削減した。何れも統計的に有意。

安全性面では、有害事象による治験離脱が600mg群は3.8%、400mg一日二回群が4.6%、偽薬群は1.6%だった。深刻有害事象の発生率は各23%、17%、29%で試験薬の方が小さかった(病状悪化によるものが少なかったのだろう)。やや気になるのは、呼吸困難と呼吸異常が増加したこと。薬効面でも副作用面でも至適用量が明確ではないが、600mg一日一回を採用することになるのではないか。

今回は12歳未満は対象外だが、6~11歳を組入れた安全性確認試験も行われている。FDAはこの年齢層に対する薬効確認試験は要求していないようなので、6歳以上を対象に承認される可能性がある。

リンク:ヴァーテックスのプレスリリース

BMS、nivolumabの第三相黒色腫試験が成功

(2014年6月24日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発している抗PD-1抗体BMS-936558(nivolumab)の第三相試験の一つが中間解析で成功したと発表した。承認申請に向かうのではないか。扁平上皮非小細胞性肺癌でも第二相試験に基づいて年内にローリング承認申請を完了する見込み。MSDがローリング承認申請したMK-3475(pembrolizumab)と合わせて、Avastin(bevacizumab)以来の超大型新薬候補の承認・発売がラストスパートに入ってきた。

尚、日本では一足先に治癒を目的とした切除が不能な悪性黒色腫用薬オプジーボとして第二部会を通過、世界初承認に向けてカウントダウン体制だ。

今回のCheckMate-066試験は、切除不能な第III/IV期黒色腫で初めて治療を受ける、BRAF阻害剤が適応にならない患者を組入れた試験で、nivolumab(3mg/kg)を二週間に一回点滴静注する群とdacarbazine3週間毎群の全生存期間を比較したもの。独立データ監視委員会が中間解析でnivolumab群の優越性を認定した。盲検を解除してdacarbazine群の患者がnivolumabにクロスオーバーできるようにする予定。

dacarbazineは臨床的な転帰を改善する効果が十分に立証されていない模様であり、この試験は、それでも第一選択薬として広く用いられている欧州やカナダなどの施設で実施された。米国の施設は参加していない。BMSのYervoy(ipilimumab)との兼合いだろう。2011年に欧米で承認されたが、欧州がエビデンスに基づいて当初は二次治療に限定したのに対して、米国は限定しなかった。このため、米国の施設は一次治療試験ならYervoyと比較すべきと考えたのかもしれない。

このため、欧州やカナダでは承認申請できるだろうが、米国は不透明な点もある。しかし、私は承認申請が認められるのではないかと思う。もしdacarbazineの延命効果が偽薬並みであったとしてもそれより有意に優れていたのだから、少なくとも何らかの効果はある。Yervoyとの比較は第一相、第二相のデータからある程度の見当をつけることができるので、加速承認され、米国施設を組入れた第三相が成功した段階で本承認される道筋だ。

この米国施設を組入れた第三相はCheckMate-037試験で、Yervoyとbraf阻害剤が適応になる患者はbraf阻害剤による治療も受けた患者を対象に、dacarbazine又はcarboplatin・paclitaxel併用と延命効果や客観的反応率を比較する。15年に結果が出る見込み。一次治療はYervoy併用第三相試験の結果が16年に判明する見込みだ。

さて、MK-3475はYervoyによる治療を受けた悪性黒色腫患者の二次治療で承認審査中で、今年10月28日にFDAが結論を出す見込み。一次治療でも第三相Yervoy対照試験の結果が年末頃に判明と、1年弱リードしている。この二剤はどちらもPD-1に結合する可変領域とIgG4固定領域を組み合わせた抗体医薬で、違いはnivolumabはトランスジェニック・マウスにヒト抗体を発現させたもの、MK-3475はマウス抗体のアミノ酸配列の一部を置換してヒト化したものという点。

これまでの抗体医薬を見る限りではトランスジェニック・マウス抗体もヒト化抗体も効果や安全性に大きな違いはない。免疫強化療法なので同列に論じることはできないが、直接比較試験は行われていないのでどちらかに軍配を上げることはできない。そうなると、臨床的に重要な違いは、nivolumabの投与頻度が二週間に一回、MK-3475はYervoyやdacarbazineと同じ三週間に一回ということだ。医療費の点でも、患者の通院の手間という意味でも、MK-3475のほうが良いことになる。

BMSの第三相Yervoy併用一次治療試験はnivolumabを3週間に一回投与する用法も検討している。2週間に一回だと患者は今週はnivolumab、来週はYervoyと毎週のように医療施設・点滴施設に行かなければならないので、将来、Yervoy併用が主流になった時にnivolumabが生き残りために重要な用法だ。

リンク:BMSのプレスリリース

アーゼラの市販後薬効確認試験がフェール

(2014年6月27日発表)

グラクソ・スミスクラインはジェンマブ(OMX:GEN)からライセンスしたArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の適応拡大試験がフェールしたと発表した。この試験は欧州で条件付き承認された時に課せられた薬効確認試験で、もし成功なら本承認を獲得できるはずだった。活性薬対照試験なので優越性を立証できなくても効果がない訳ではないが、こんなものなのかと失望的な印象を受ける。

Arzerraは抗CD20トランスジェニック・マウス抗体で、ロシュのRituxan(rituximab)に似ている。Bセルの慢性リンパ性白血病でfludarabineやalemtuzumabに不応・不耐・不適の患者向けに09年に米国で、10年に欧州で、13年には日本でも承認された。その後、fludarabine不適患者を対象とした一次治療化学療法併用試験も成功、欧米で適応拡大が認められた。

今回の試験はfludarabineに反応しなかった難治性患者の二次治療試験で、主評価項目のPFS(無増悪生存期間)がメジアン5.36ヶ月と医師の選んだ治療法を採用した群の3.61ヶ月を上回ったものの、ハザードレシオは0.78、p=0.267だった。

この用途は最初の用途と若干異なるが、alemtuzumabはサノフィが商業上の理由で販売を中止したため治療経験者は現在は存在せず、結局、違いはfludarabineに不耐不適の患者が含まれているかどうかだけである。

もし欧州でモノセラピーの承認が取り消されても一次治療併用が認められているので生き残ることはできるが、Rituxanと比べて用途が限定的なので、医療施設にしてみれば、敢えてArzerraをストックする理由が見つからないのではないだろうか。

リンク:GSKのプレスリリース

ルンドベック、急性脳梗塞の第三相がフェール

(2014年6月27日発表)

ルンドベックはドイツのPAION社からdesmoteplaseをライセンスし急性虚血性脳卒中の第三相試験二本を実施したが、一本目はフェールしたことが発表された。後期第二相・第三相試験の事後的画像分析に基づいて、発症後3~9時間経ったが血栓や血流の状況から今からでも間に合うと判定された患者を組入れて90日後の予後改善効果を偽薬と比較したが、修正ランキンスケール(mRS)が0~2点だった患者の比率が51.3%と偽薬群の49.8%と大差なかった。二本目の結果はまだ出ていない。

元々の期待値が低く、やっぱりという印象だ。desmoteplaseは吸血コウモリが吸血時に血が詰まるのを防ぐために用いるプラスミノーゲン・アクティベータを遺伝子組換えで量産したもので、tPAと異なりNMDA受容体を刺激しないので脳細胞に与える影響が小さい可能性がある。シエーリングが開発しPAIONにライセンス、POC試験が成功し04年にフォレストが北米の権利を、05年にルンドベックがそれ以外の地域での権利をライセンスしたが、前後して上記の後期第二相・第三相試験がフェール、前途に期待できなくなった。

リンク:ルンドベックのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがBMSの抗HCV薬などの承認に肯定的意見

(2014年6月27日発表)

EUの薬品審査庁(EMA)の医薬品科学的評価委員会であるCHMPは6月の会議で、BMSのNS5A阻害剤やランタスのバイオシミラーなどの新薬と、ヴァーテックスの膿胞性線維症治療薬などの適応拡大に関して、肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内に承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

BMSのDaklinza(daclatasvir)は、NS5A複製複合体阻害剤の第一号。慢性C型肝炎の治療に他の薬と併用で用いる。プロテアーゼ阻害剤は主としてI型ウイルスの治療に用いるが、Daklinzaは様々な血清型に有効で、場合によってはインターフェロンを用いない経口剤だけの治療も可能。主要国では日本で最初に承認申請され、先日、同社のNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤asunaprevirと二剤併用でI型を治療する用途用法で、第二部会を通過した。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:BMSのプレスリリース

イーライリリーとベーリンガー・インゲルハイムは糖尿病領域で広範な開発販売提携を行っているが、その一つであるAbasria(insulin glargine、開発コードLY2963016)が、サノフィのベストセラー持効性インスリンであるLantusのバイオシミラーとして、承認支持された。欧州は費用対効果に辛いせいか、Lantusの同地域での売上高は11億ドルとあまり大きくない。米国では承認申請後にサノフィが特許侵害で提訴したので、30ヶ月経つまで、あるいは判決が出るまで、FDAは承認することができない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

新製剤ではGSKのHIV/AIDS治療用トリプルコンビ薬、Triumeqの承認が支持された。12歳以上、体重40kg以上の患者が適応になる。JTからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤、dolutegravirと核酸系逆転写阻害剤のabacavirとlamivudineを配合、一日一回、一錠服用するだけで足りるようにした。ヒト白血球型抗原(HLA)にB*570アレルを持つ患者はabacavirの過敏反応リスクが高いため、事前検査が必要。

リンク:GSKのプレスリリース

ヴァーテックスのKalydeco(ivacaftor)はCFTR遺伝子に特定の変異を持つ膿胞性繊維症に有効で、最初にG551D置換型向けに承認されたが、それ以外に8種類の多型にも有効であることが明らかになり、今回、6歳以上の該当患者に使うことが支持された。欧州の対象患者が250人増加することになる。

リンク:ヴァーテックスのプレスリリース

適応拡大ではロシュのAvastin(bevacizumab)を白金薬抵抗性卵巣癌の二次治療、三次治療として化学療法薬と併用することが支持された。この用途の開発は難航し、AURELIA試験ではPFS(無増悪生存期間)は有意に延長したが全生存期間はメジアン16.6ヶ月と化学療法だけの群の13.3ヶ月を若干上回っただけ、ハザードレシオは0.87でpは0.27だった。このため、米国で承認される可能性は低そうだ。

卵巣癌は白金薬が有効で一次治療に反応したら二次治療も白金薬を用いるが、1/4の患者は白金抵抗性で違う薬による治療を必要とする。

リンク:ロシュのプレスリリース

バイエルは二種類の薬の適応拡大が支持された。一つはVEGF受容体阻害剤で結腸直腸癌のサルベージ療法(他の薬を全て使い終わった後に用いる)として承認されているStivarga(regorafenib、和名スチバーガ)を、消化管間質腫瘍のサルベージ療法として用いること。アムジェンが買収したオニクスと共同開発販売している。VEGF受容体阻害剤は同社のNexavar(sorafenib)を始め競合薬が多いので、競争の少ない用途を探すのが大変だ。

リンク:バイエルのプレスリリース

もう一つはリジェネロン(Nasdaq:REGN)から米国外の権利をライセンスしたVEGF受容体融合蛋白、Eylea(aflibercept、和名アイリーア)を糖尿病性黄斑浮腫による視力障害の治療に用いること。類似した薬であるロシュ/ノバルティスのLucentis(ranibizumab)の適応拡大を、ぴったり後ろで追いかけている。

リンク:バイエルのプレスリリース

BMSがファーザーと共同開発販売しているEluiqis(apixaban、和名エリキュース錠)は深静脈血栓・肺塞栓の予防や心房細動患者の脳卒中予防で承認されているが、深静脈血栓・肺塞栓の治療と再発予防でも承認が支持された。経口抗血栓薬の市場は心原性脳卒中予防が一番大きいが、今回の用途も治療しないリスクが大きく、服用期間が数ヶ月と長いため、二番目に大きい。

リンク:
BMSのプレスリリース


FDA諮問委員会はアストラゼネカのPARP阻害剤を支持せず

(2014年6月25日発表)

FDAの腫瘍学薬諮問委員会は、アストラゼネカが加速承認を求めて申請したPARP阻害剤、AZD2281(olaparib)を検討し、13人の委員中11人がエビデンス不足と判定した。15年末に第三相試験の結果が出るまでお預けになりそうだ。

承認申請された用途は、生殖細胞BRCA変異を持つ再発性白金薬感受性の卵巣癌で、白金薬による治療を受け完全反応・部分反応したが再発のリスクが高い患者に対する維持療法。BRCAは遺伝子の複製ミスなどを修復する蛋白で、ある種の変異を生殖細胞に持つ(後天的な変異ではない)患者は卵巣癌や乳癌のリスクが高い。卵巣癌の患者のうち該当するのは10~15%、米国の場合、年2000人程度と推定されている。

承認申請の根拠となった第二相試験ではPFSを有意に延ばす効果が見られたが、延命効果が見られなかったため、アストラゼネカは一旦、開発を中止した。その後、生殖細胞BRCA高リスク変異を持つ症例の事後的サブグループ解析でPFSがメジアン11.2ヶ月と偽薬群の4.1ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.81、pは0.00001未満、全生存の解析も34.9ヶ月対31.9ヶ月、ハザードレシオは0.74と、統計的に有意ではなかったが良さそうな結果が出た。

同社の新しいCEOがこのデータに注目、欧米で承認申請するとともに、一次治療と二次治療維持療法で第三相入りさせた。作用機序はリーズナブルだ。BRCAが機能しない患者は癌に繋がる遺伝子変異を修復できないが、癌細胞は活発に分裂するため、複製ミスを修復するもう一つのメカニズムに関与するPARPを阻害してやれば、分裂時に発生する複製ミスを全く修復できなくなりアポトーシスする可能性がある。

FDAは事後的サブグループ分析の信頼性に否定的で今回は症例数も少ないため、私は承認されないだろうと思っていた。意外なのは、骨髄異形成症候群や急性骨髄性白血病のリスクが表面化したことだ。この第二相では2%の患者で診断・疑い例が発生した。他の試験でも0.8%で発生した由。諮問委員が注目したのはこちらのデータで、維持療法は再発予防なので治療よりも高い安全性が必要と判定した。QOL改善効果があればまだしも、解析はフェールした。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


吸入インスリンが米国で承認

(2014年6月27日発表)

FDAは、マンカインド(Nasdaq:MNKD)のAfrezzaを一型、二型糖尿病薬として承認した。吸入用の短期作用性インスリンで、06年に承認され翌年販売中止になったファイザーのExuberaに次ぐ第二号となる。注射用の短期作用性インスリンより血糖管理効果が弱いようだ。Exuberaは肺癌リスクが浮上したことがあり、マンカインドは市販後に疫学試験を行う必要がある。

Exuberaが売れなかったのは、吸入器が大きくメンテナンスも手間だったことと、高価格が原因だ。Afrezzaは掌に収まりメンテも簡便なので、あとは、価格と肺癌懸念の克服がポイントになる。同社は開発販売パートナーを探していたが、Exuberaの販売が低調であったせいか、自力開発に切り替えた。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:マンカインドのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAはオルメテックの心血管リスクに結論を出せず

(2014年6月24日発表)

FDAは第一三共の降圧剤であるBenicar(olmesartan、和名オルメテック)の心血管安全性を検討していたが、結論がでなかったと発表した。レーベルを変更して関連データを記載するようメーカーを促す。Benicarは2013年に米国で180万人が服用した。

Benicarは糖尿病性微量アルブミン血症予防試験ROADMAPで心血管死が15例と偽薬群の3例より有意に多く、治験論文の抄録には、冠状心疾患の患者で致死的な心血管事故が多かったことは憂慮される、と記されている。日本と香港の患者を組入れたORIENT試験では、心血管疾患を予防する効果が偽薬と同程度だったが、心血管死は10例と3例で偏りがあった。

症例数が少ないため偶然の可能性もあるが気持ち悪い。FDAは疫学研究や第一三共が行った治験のメタアナリシスを検討。ROADMAP試験で用いられた承認最高用量である40mgを服用する糖尿病患者のデータを分析したところ、リスクを明確に示すものは見つからなかった。例えばメディケアの疫学試験では、40mgを6ヶ月以上服用した糖尿病患者の死亡リスクは他のARBを服用した患者の2.0倍、統計的に有意だったが、糖尿病ではない患者では0.46倍でこれも統計的に有意ではなかった。

論文の筆頭著者であるFDAのグラハム博士は、後者の解析は患者背景の偏りが原因かもしれないと判定したが、FDAはリスクがあるなら糖尿病以外の患者でもデータが悪いはずと考えたようだ。

英国の疫学試験では、40mgを服用した患者の他の高用量ARB服用者に対する死亡リスクは多変数調整後で2.03倍だったが95%信頼区間は0.74~5.61。急性心筋梗塞も3.09倍だが0.94~10.13で、信頼区間が著しく広いものの、統計学的には有意ではなかった。第一三共のメタアナリシスや医療保険会社のデータベースを用いた疫学試験でもリスクは見られなかった。但し、40mgや糖尿病患者だけの解析は症例不足で不可能・不確かだった。

FDAが判定を断念したことで、判断は医師や患者に委ねられることになる。第一三共のデータ以外は論文刊行されている。下記のサイトに引用されているので、読者自身が判定してほしい。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年6月22日

海外医薬ニュース2014年6月22日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 拒絶反応治療薬が17年を経て多発性硬化症用薬として復活
  • アクテリオン、日本新薬から導入した肺動脈高血圧症用薬の第三相が成功
  • B株髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンを二社が承認申請
  • サノフィ、ランタスの高濃度製剤を承認申請
  • ベーリンガーとリリー、SGLT2阻害剤を再申請
  • Cubistの抗生剤が米国で承認


【新薬開発】


拒絶反応治療薬が17年を経て多発性硬化症用薬として復活

(2014年6月16日発表)

バイオジェン・アイデック(Nasdaq:BIIB)とアッヴィ(NYSE:ABBV)は、daclizumabの第三相再発寛解型多発性硬化症維持療法試験の成功を発表した。再発予防効果が既存薬と比べて有意に高かった。両社は承認申請に向けて当局と相談する考え。

daclizumabは活性化したリンパ球のIL-2受容体のアルファチェーン、CD25を標的とするヒト化抗体で、ロシュが腎移植後の拒絶反応予防薬Zenapaxとして97年に米国で承認を取得したが、09年に商業上の理由で販売中止した。

元々はプロテイン・デザイン・ラボ(Nasdaq:PDLI)が開発したもので、他の用途は紆余曲折を経て05年にバイオジェン・アイデックが取得。その後、PDLIは08年にバイオ薬部門をファセットという名前でスピンアウト。ファセットはバイオジェン・アイデックの買収提案を拒否、10年にアボットに買収された。このアボットが2013年にスピンアウトしたのがアッヴィだ。企業合併だけでなく事業領域を選択・集中するための企業分割も盛んなので、開発歴の長い薬は説明者にとって大変だ。

開発者にとって大変なのは知財対策だ。PDLIはZenapaxとは異なる高収量プロセス(HYP)と皮注用製剤の開発に遂に成功、承認申請用の後期第二相偽薬対照試験と今回の第三相試験を行った。150mgを四週間に一回投与した群の年率再発率は、前者の試験では偽薬比54%少なく、今回の試験ではAvonex(interferon beta-1a、和名アボネックス)を週一回筋注した群と比べて45%少なかった。尚、後期第二相では300mgもテストしたが、効果は150mgと大差なかった。

EDSS(症状診断スコア)の進行を遅らせる効果に関しては、偽薬対照試験(1年)では150mgで有意な差があったが300mgは有意差なし。Avonex対照試験(2~3年)では16%の差があったが有意ではなかった。

免疫抑制剤なのでインターフェロン・ベータより深刻な感染症のリスクがやや高まり、発生率は4%対2%だった。深刻な皮膚反応や肝機能検査値異常の発生率もやや高かった。

インターフェロン・ベータはかっては標準療法だったが、バイオジェン・アイデックのTecfidera(dimethyl fumarate)などの経口剤が登場し急速に普及している。daclizumabは効果の面ではTecfideraと遜色ないが、皮注であることや感染症などのリスクがあることから、代替的な治療法に留まるだろう。

リンク:両社のプレスリリース

アクテリオン、日本新薬から導入した肺動脈高血圧症用薬の第三相が成功

(2014年6月16日発表)

スイスのアクテリオン(SIX:ATLN)は、selexipagの第三相肺動脈高血圧症試験の成功を発表した。疾病進行あるいは死亡のリスクを削減する効果を検討するために1100人以上の患者を最長で4.3年間治療した試験で、アクテリオンにとってはOpsumit(macitentan)に次ぐ長期大規模試験成功となった。Opsumitの場合は死亡リスク削減効果は見られず通常の6分歩行試験と大差ない結果になったが、長期大規模試験は効果の持続性や忍容性を確認する上でも重要なエビデンスだ。

selexipag群の疾病進行・死亡リスクは偽薬比39%小さく、p値は0.0001を下回った。主要サブグループの分析でもコンスタントな効果が見られ由た。有害事象による治験離脱は14%と偽薬群の7%より高かった。この試験では80%の患者が他の経口剤を服用していたので、追加投与の有効性も確認されたことになる。Opsumitのリスク削減率は45%なので数字は見劣りするが、併用薬など試験の内容が異なり、そもそも、アウトカム試験では10ポイント程度の差は誤差の範囲内である。

selexipagは日本新薬が創製したプロスタサイクリンのIP受容体を作動する小分子薬。アクテリオンは08年に日本国外の開発販売権と日本の共同開発販売権を取得、開発を進めてきた。肺動脈高血圧は三種類のパスウェイが関与していると考えられていて、これまでにエンドテリン受容体拮抗剤やPDE-5阻害剤が実用化されているが、プロスタサイクリン作用剤は注射用薬や吸入用薬しかなかった。

しかし、昨年、ユナイテッド・セラピュティクスのOrenitram(treprostinil)錠が米国で承認されたのに続いて、selepaxigの第三相が成功。どちらも一日二回の経口投与で足りるので、複数の薬を併用している患者でも服薬負担が緩和される。

Orenitramのエビデンスはそれほど明確ではなく、主評価項目である6分歩行距離は三本の試験中一本では偽薬比23メートルの統計的に有意な差があったが、他の二本では11メートル前後の差しかなくフェールした。selepaxigのPOC試験でも24メートルの差しかなかった。第三相試験の詳細が学会発表されたら、複合評価項目のどの項目で効果があったのか、確認する必要があるだろう。

リンク:アクテリオンのプレスリリース

【承認申請】


B株髄膜炎菌性髄膜炎ワクチンを二社が承認申請

(2014年6月17日発表)

ファイザーとノバルティスは、夫々、B群髄膜炎菌ワクチンを米国で承認申請したと同日に発表した。対象は10~25歳。どちらもFDAからブレークスルーセラピー指定を受けており、開発競争の段階から承認取得競争に進んだ。

髄膜炎は肺炎球菌によるものと髄膜炎菌によるものがあり、前者はファイザーのPrevnar(和名プレベナー)が世界的な大型製品になっている。髄膜炎菌ワクチンも普及しているが、カバーしているのはA、C、W-135、Yの四種類の株だけだ。B株ワクチンの開発が遅れたのは、様々なタイプを網羅することができなかったことと、感染者数が比較的少なかったことが理由だ。

しかし、細菌対策はイタチごっこで、髄膜炎菌ワクチンが普及し上記4株による感染症が減少するにつれて、B株の跋扈が目立つようになった。豪州、スペイン、英国などで主流になったことや、米国でもプリンストン大学などが13年に欧州で承認されたノバルティスのワクチンを治験申請し、学生が接種できるようにしたことは知っていたが、2012年に米国で報告された髄膜炎菌感染症の4割がB型とのことであり、全世界的になってきた。

このノバルティスのワクチン、Bexseroは様々なB株が持つ4種類の抗原をワクチン化したもので、07~08年に欧州で採取されたB株分離菌の8割をカバーしている。米国の承認申請は、FDAが幼児に用いる時の安全性のハードルを引き上げたことや、カバーされていないB株に関する調査を行うよう求めたことなどが原因で遅延。今回発表されたのはローリング承認申請の着手なので、ファイザーに先を越されたことになる。

ファイザーのrLP2086は、B株のうち1800種類以上で発現する表面蛋白であるLP2086(ファクターH結合蛋白)を抗原とする二価ワクチン。FDAが60日以内に受理するかどうかを決定する。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リンク:ノバルティスのプレスリリース

サノフィ、ランタスの新製剤を承認申請

(2014年6月14日発表)

サノフィは、Toujeo(insulin glargine)の承認申請がEUに受理されたと発表した。米国でも受理待ち状態である模様だ。持効性インスリンのベストセラー製品であるLantus(和名ランラス)の新製剤で、薬物動態や薬力学的特性が向上、血中濃度が長期間安定的に維持されるとのこと。第三相試験では低血糖リスクがLantusより小さかった。ミリリットル当り300単位とLantusの3倍の量を含有している。

Lantusは特許切れが近付いており、イーライリリーがバイオシミラーを承認申請した。上手く需要を誘導して特許切れを克服できるかどうか、注目される。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

【承認審査・委員会】


ベーリンガーとリリー、SGLT2阻害剤を再申請

(2014年6月17日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムとイーライリリーは、SGLT2阻害剤Jardiance(empagliflozin)をFDAに再承認申請したと発表した。欧州では5月に承認されたが、米国はベーリンガーの工場の品質管理問題がボトルネックとなり、審査完了通知を受領した。この種の問題は解決に何年もかかることが多いが、今回は軽微であったのか、今月にFDA警告状が解除され、今回の再申請に至った。クラスIに分類される模様であり、順調なら2ヶ月以内に承認されるのではないか。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


Cubistの抗生剤が米国で承認

(2014年6月20日発表)

FDAは、Sivextro(tedizolid phosphate)を急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症(ABSSSI)の治療薬として承認したと発表した。黄色ブドウ球菌(MRSAを含む)、連鎖球菌、エンテロコッカス・フェカリスなどによる感染に用いる。Zyvox(linezolid、和名ザイボックス)と同じオキサゾリジノン系の合成抗菌剤で、第三相試験では効果が非劣性だった。静注用と経口剤の二種類ある。

韓国の東亜製薬(KSE:000640)から韓国北朝鮮以外の権利を取得し開発したTrius Therapeutics社を、昨年、承認申請の直前にCubist(Nasdaq:CBST)が買収した。QIDP(感染症用製品認定)を受けているため、排他権期間が5年間延長される。欧州でも承認審査中だが、欧州での適応症は伝統的な呼び方である複雑皮膚軟組織感染症となっている。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Cubistのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年6月15日

海外医薬ニュース2014年6月15日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ADA:イーライリリーのGLP-1作用剤
  • イーライリリー、Cyramzaの適応拡大試験がフェール
  • 末梢作用性オピオイド拮抗剤、承認前の心血管安全性試験は不要


【新薬開発】


ADA:イーライリリーのGLP-1作用剤

(2014年6月15日発表)

ADA(米国糖尿病学会)でイーライリリーの新規GLP-1作用剤、LY2189265(dulaglutide)の第三相試験の結果が発表された。ヘッドラインは以前の発表通り。週一回皮注でノボ ノルディスクの同種の薬であるVictoza(liraglutide)と比べて血糖値引下げ作用が非劣性、DPP-4阻害剤などの経口剤より高かった。metforminと比べても有意に高かったが差は小さい。

長期持効性インスリンLantus(insulin glargine)と比べても有意に高かったが、原因は良く分からない。インスリンは下げようと思えばいくらでも下がるのだから、低血糖などの理由で用量を手加減したのか、あるいは、血糖値はlower is betterではないので、それ以上下げる必要がなかったから下げなかったのだろう。

Victoza対照試験(1.5mg週一回皮注をVictozaの1.8mg一日一回皮注と比較)では、体重減少が2.90kgとVictozaの3.61kgより小さかったことも明らかにされた。これも、統計的に有意だが差は小さい。

新薬をアピールするには既存薬と比べた長所を明確にする必要があるが、差は小さいので組入れ患者数を増やして検出力を高める必要がある。dulaglutideの第三相は非劣性試験であり優越性検定は二次的評価項目なので尚更だ。ところが、検出力を高めると二次的評価項目や副作用の発生率でも有意な差が出やすくなる。一番になることはアスリートや科学者には重要だが、一般人には京などという一生触れることのない単位で行われる戦いで誰が一番でも二番でも、優れた人であることに変わりはなく、一喜一憂する必要はない。

dulaglutideはヒトGLP-1を改変してDPP-4に分解され難くした上で免疫グロブリンの固定領域重鎖をペプチド・リンカーで共有結合して半減期を長期化したもの。

リンク:ADA抄録(110LB)

イーライリリー、Cyramzaの適応拡大試験がフェール

(2014年6月11日発表)

イーライリリーは、Cyramza(ramucirumab)の第三相肝細胞腫試験がフェールしたと発表した。Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)による治療歴を持つ患者を組入れた二次治療試験で、メジアン生存期間が偽薬群の8ヶ月から10.67ヶ月に延びるという仮説を立てたが、有意な差はなくトレンドに留まった。

CyramzaはVEGFR-2に結合するファージディスプレイ抗体で、4月に胃癌の二次治療薬として米国で承認された。日本も参加した二次治療paclitaxel併用試験や非小細胞性肺癌の二次治療docetaxel併用試験も成功した。但し、胃癌二次治療はメジアン生存期間が3.8ヶ月から5.2ヶ月に1ヶ月半延びるだけ、他の二用途も全生存のハザードレシオは0.8を超えており、効果はそれほど高くない。

VEGF受容体を標的とする薬は小分子薬が数多く存在し、「低い枝に生っている実は全て取られてしまった」。活性薬対照試験で勝つ自信がなければ、倫理的な問題を生ぜずに偽薬対照試験ができる、先輩が果たせなかった難しい課題に挑戦するしか方法はない。当然のことながら、失敗は増えるし成功しても大きな成果は上げられない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認審査・委員会】


末梢作用性オピオイド拮抗剤、承認前の心血管安全性試験は不要

(2014年6月12日発表)

FDA麻酔鎮痛用薬諮問委員会は、アストラゼネカが承認申請したMovantik(naloxegol oxalate)などの末梢作用性ミュー・オピオイド受容体アンタゴニストの心血管安全性について検討し、24人の委員のうち17人が、承認前に心血管アウトカム試験を行って安全性を確認する必要はないと判定した。最終的に決めるのはFDAだが、関連企業にとっては開発費用や期間を節約できるので朗報だ。

ミュー・オピオイド受容体アンタゴニストは、オピオイド鎮痛剤を常用する患者の多くで発生するオピオイド誘導性便秘などの治療に用いる。Entereg(alvimopan)が腸切除術などを受けた患者に限定して、そしてRelistor(methylnaltrexone bromide)が末期がんで緩和ケアを受けている患者などに限定して、08年に承認されたが、治験で心血管疾患が増加する兆候が見られたことから、長期的に服用することは認められていない。

Movantikはネクターから導入したPEG化naloxol。米国のオピオイド処方箋数は2億3500万枚、うち2割は常用目的とのことであり、潜在市場は大きく複数の会社が臨床開発を行っている。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年6月8日

海外医薬ニュース2014年6月8日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCO:抗PD-1抗体の期待と不安
  • ASCO:その他の主要な発表
  • ベーリンガー、特発性肺線維症用薬を欧州で承認申請
  • 長期作用性第VIII因子が米国で承認
  • EUも抗IL-6抗体をキャッスルマン病に承認
  • プラザキサの適応拡大


【新薬開発】


ASCO:抗PD-1抗体の期待と不安

(2014年6月2日発表)

ASCO米国臨床腫瘍学会が閉幕した。今週は、先週号で取り上げられなかった話題をフォローする。まず、BMS/小野薬品とMSDの抗PD-1抗体。黒色腫や非小細胞性肺癌に関する新しい知見や、腎細胞腫や頭頸部癌にも有望であることが報告された。

BMS/小野のBMS-936558(nivolumab)は日本で13年12月に悪性黒色腫用薬として承認申請された。BMSは今年中に扁平上皮性非小細胞性肺癌(SCNSCLC)の第二相試験に基づいて米国で承認申請する予定だが、厄介なのは、この用途ではPD-L1陽性腫瘍にしか効かない可能性が浮上したことだ。第一相試験の中間解析で、PD-L1陽性の非小細胞性肺癌(NSCLC)にはORR(客観的反応率)が9人中6人だったが、陰性では6人中ゼロだったのである。

リンク:ASCO抄録(No. 8024) 

第二相では事前スクリーニングを行わなかった模様だが、データが良好であったとしても全てのSCNSCLCに承認するのは拙速かもしれない。12年に開始された第三相試験では、サブスタディでPD-L1発現状況と薬効の関連性を調べている。Dako社のIHCアッセイを用いて、閾値は1%以上と5%以上の二種類を検討する。本当に陰性患者には効果がないのか?閾値は何パーセントが至適なのか?2016年頃に第三相が完了し答えが出るまで承認を待つのが合理的な対応であるように感じられる。

上記の試験は小規模だが、MSDのMK-3475(pembrolizumab、旧称lambrolizumab)の試験でも同様な現象が観察されている。今年のASCOではPD-L1陽性NSCLCの後期第一相一次治療試験の結果が発表されたが、ORRは42人中11人、26%だった。数値はBMSの方が高いが、スクリーニング方法やORRの定義が異なる可能性がある(BMSの試験ではPD-L1陽性は15人中9人、60%だがMSDの試験では78%となっており、BMSの方が奏功しそうな患者を厳選できていた可能性がある)。

リンク:MK-3475のASCO抄録(No. 8007)

リンク:MSDのプレスリリース

BMSの強みはYervoy(ipilimumab)の適応拡大試験とnivolumabとの併用試験を一遍に行うことができることだが、Yervoyは結腸炎、nivolumabは肺炎という重篤な副作用に気を付けなければならず、免疫刺激による副作用も多いので、併用する場合は特に至適な用量用法を慎重に探索する必要があるだろう。

このことを痛感させられたのがNSCLCの後期第一相一次治療併用試験だ。ORRは46例中22%(反応持続が確認された症例だけだと13%・・・残りは観察期間が足りないため、今後、反応例から除外される可能性もある)、PD-L1発現との相関性なしというもので、効果の点では概ね良好だった。しかし、忍容性は良好ではなく、G3以上の治療関連有害事象が48%の患者で発生、このうち72%は治験を離脱、治療関連死亡が3例で内容は呼吸不全、気管支肺出血、TEN(中毒性表皮剥離症)が各1例だった。

忍容性を改善すべく、両剤とも1mg/kgを投与する群を追加し、治験続行中だ。

リンク:Yervoy併用NSCLC試験のASCO抄録(No. 8023)

新しい用途では、nivolumabの第二相腎細胞腫二次治療試験の結果が発表された。168人を組入れて三種類の用量をテストしたところ、ORRは何れも20~22%となり、用量依存性は見られなかった。ORRは大したことないが、注目されるのは2mg/kg以上を投与した2群のメジアン生存期間が25ヶ月前後と、承認されている他の薬と見比べて良好であること。一方で、この二用量は副作用も多く、治療関連の深刻な有害事象が1割前後の患者で発生、治験を離脱することとなった。2012年に第三相試験入り、結果は2016年頃か。

リンク:腎細胞腫のASCO抄録(No. 5009)

腎細胞腫にYervoyを併用した後期第一相試験では、ORRは40~50%に上昇したが、ここでも深刻副作用発生率が上昇した。併用療法は年内に一次治療で第三相入りする見込み。

リンク:Yervoy併用のASCO抄録(No. 4504)

MK-3475はPD-L1陽性頭頸部癌の後期第一相試験の結果が発表された。スクリーニングでは78%の患者がPD-L1陽性と判定された。ORRは56例中11例、20%というもので、これも探索の余地がありそうだ。

リンク:MSDのプレスリリース

BMSはnivolumabで17種類の癌の臨床試験を進めている由。黒色腫や腎細胞腫はIL-2やインターフェロンが承認されている、免疫強化療法が効きそうな癌だが、肺癌は意外だ。ロシュの抗PD-L1抗体が膀胱癌に効果の兆しを示したように、今後も新しい有望分野が浮上しそうだ。

ASCO:その他の主要な発表

(2014年6月2日発表)

以下はポイントだけを記す。

Yervoyは末期悪性黒色腫向けに承認されているが、アジュバント療法に関する第三相試験の結果が発表された。10mg/kgを3週間に一回という承認されている用量(3mg/kg)より多量を使ったせいか、便益とリスクのバランスがあまりよくない。全生存の解析がどのような結果になるか、そもそも3mg/kgでは駄目なのか、という疑問を持つ。

この試験はステージ3の黒色腫で完全切除を受けたが再発リスクの高い患者を偽薬とYervoy群に割付けて再発予防効果を検討したもの。偽薬群の無再発生存期間はメジアン17.1ヶ月、Yervoy群は26.1ヶ月、ハザードレシオ0.75で統計的に有意という、良好だがインターフェロンと見比べて大差ない結果になった。

忍容性は、薬物関連有害事象による治験離脱が各群2%と49%、同じく致死例が0%と1.1%(結腸炎3例、心筋症1例、ギラン・バレー症候群1例)だった。

全生存の解析が出て、十分な延命効果が確認されるまでは、普及しないのではないだろうか。

リンク:
ASCO抄録(LBA9008)


アムジェンのウイルス療法であるtalimogene laherparepvecは、第三相末期黒色腫試験の詳細が発表された。主評価項目の持続的反応率はGM-CSFを皮注した群が2%、GM-CSFの遺伝子を組入れた1型単純ヘルペスウイルスを腫瘍内注射した群は16%と有意な差があったが、問題は、全生存期間の解析が僅かにフェールしたこと(ハザードレシオ0.79、p=0.051)。

学会発表で注目されたのは、遠隔転移していない患者や一次治療の患者には十分な効果がありそうだが、それ以外の患者には数値上はむしろ有害に見えることだ。非遠隔転移はハザードレシオが0.57、一次治療は0.50となっており、数値上は十分以上の効果が示唆されている。探索的サブセグメント分析なので信頼性は高くないが、承認されたとしてもこれらのタイプにしか使われない可能性がありそうだ。

リンク:ASCO抄録(No. 9008a)

同じくアムジェンのAMG 103(blinatumomab)は、第二相前駆B急性リンパ芽球性白血病試験の結果が発表された。完全寛解率34%、血液学的回復が部分的に留まる症例も含めると43%、メジアン生存期間6ヶ月というもので、承認申請に向けて当局と相談する考え。

BiTE抗体という新しいタイプの抗体医薬で、抗CD3抗体と抗CD19抗体の可変領域を持ち、TセルがBセルを攻撃するよう強力に刺激する。4週間連続点滴が必要であることと、熱性好中球減少症が25%の患者で発生したことが難。

リンク:ASCO抄録(No. 7005)

ノバルティスも様々な開発品の後期データを発表した。まず、LBH589(panobinostat)の第三相再発性/難治性黒色腫試験。Velcade(bortezomib)とdexamethasoneを併用する群と、LBH589も週3回経口投与する群を比較したもので、PFS(無進行生存期間)が各8.1ヶ月と12.0ヶ月、ハザードレシオ0.63、p<0.0001となった。延命効果はまだデータが成熟していない(死亡例が目標に到達していない)ため有意差が出ていない。メジアン30.4ヶ月と33.6ヶ月なので数値上も差が小さい。

LBH589は汎ジアセチラーゼ阻害剤。単剤での効果は弱いようで、今回の併用試験でも反応率の解析は一種類しか有意差がなかった。有害事象による治験離脱は20%対36%で多く、治療中の死亡も5%対8%で増加したので、因果関係をよく検討した上でリスクと便益のバランスを吟味する必要がありそうだ。5月に米国で承認申請が受理され、優先審査指定を受けた。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:ASCO抄録(No. 8510)

インサイト(Nasdaq:INCY)から米国外の開発販売権を取得した骨髄線維症治療薬、Jakafi(欧州名Jakavi、和名ジャカビ、ruxolitinib)の適応拡大試験の結果も発表された。真性赤血球増加症でヒドロキシウリアに不応不耐の患者を組入れた試験で、赤血球量の減少及び脾臓量の縮小に成功した患者の比率が21%と偽薬群の1%を上回った(p<0.0001)。症状改善効果も見られた。有害事象による治験離脱は3.6%、偽薬群は1.8%なのでそれほど変わらない。両社は日米欧で適応拡大申請する予定。

真性赤血球増加症は有病率が10万人に1~3人の超希少疾患で、このうちヒドロキシウリアに不応不耐なのは25%程度と推定されている。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:ASCO抄録(No. 7026)

【承認申請】


ベーリンガー、特発性肺線維症用薬を欧州で承認申請

(2014年6月5日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、nintedanibを特発性肺線維症治療薬としてEUで承認申請し受理されたことを発表した。昨年、非小細胞性肺癌の二次治療で欧州でも承認申請されている。VEGFやPDGF、FGFの受容体を阻害する血管新生阻害剤だが、特発性肺線維症に効果があったのは意外だ。第三相試験では肺機能の低下を有意に遅らせた。増悪予防効果は一本が統計的に有意、もう一本はフェールしたので明確ではない。

ベーリンガーは、加盟国政府の要請に応じてコンパッショネート・プログラムを開始する予定。患者は承認される前に服用することが可能になる。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【承認】


長期作用性第VIII因子が米国で承認

(2014年6月6日発表)

バイオジェン・アイデックは、長期作用性血液凝固第VIII因子、Eloctateが米国でA型血友病に承認されたと発表した。出血時の治療・予防、術中の出血管理などにも使えるが、一番有効なのはルーチン予防だろう。頻繁に出血を起こす患者に恒常的に点滴静注投与するもので、既存の製剤は二日に一回投与するが、Eloctateは3~5日に一回で足りる(治療開始時は4日に一回)。

Eloctateは第VIII因子と免疫グロブリンの固定領域を融合した蛋白。同様な技術を用いたB型血友病用の長期作用性第IX因子、Alprolixも3月に承認されている。

リンク:バイオジェンのプレスリリース

EUも抗IL-6抗体をキャッスルマン病に承認

(2014年6月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、EUがSylvant(siltuximab)を多中心性キャッスルマン病の治療薬として承認したと発表した。超希少疾患で、欧州の患者数は少なすぎて分からない由。Sylvantは抗IL-6キメラ抗体で、中外のアクテムラが日本でキャッスルマン症候群に承認されていることを考えれば、Sylvantが有効であっても不思議はない。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

プラザキサの適応拡大

(2014年6月日6発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、Pradaxa(dabigatran etexilate、和名プラザキサ)を深静脈血栓や肺塞栓の治療と再発予防に用いることがEUで承認されたと発表した。米国でも4月に承認されている。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年6月1日

海外医薬ニュース2014年6月1日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCO:E7080の第三相データが発表
  • ASCO:イーライリリーの肺癌用薬は効果が穏やか
  • ASCO:Imbruvicaはアーゼラより効果が高い
  • ニューロンがパーキンソン病薬を承認申請
  • ジェンザイム、Lemtradaの追加データをFDAに提出
  • ネクサバール、EUで分化甲状腺癌に適応拡大


【新薬開発】


ASCO:E7080の第三相データが発表

(2014年5月31日発表)

ASCO(米国臨床腫瘍学会)が始まり、エーザイのVEGFR受容体阻害剤、E7080(lenvatinib)の第三相試験データが5月31日のプレスブリーフィングで取り上げられた。類薬のデータと見比べても良好な内容だが、致死的有害事象がやや多いように感じられる。本当に薬物関連なのか?6ヶ月とか1年とかの時点の生存率はE7080のほうが高いのか?6月2日の学会発表で追加的な情報が提供されるかどうか、注目される。承認申請される予定だが、承認審査機関もこの点を精査するだろう。

この第三相試験は、進行性分化型甲状腺癌で放射性ヨウ素による治療が奏功しなかった難治性の患者392人をE7080群(24mgを一日一回、経口投与)と偽薬群に2対1割付して、PFS(無増悪生存期間・・・担当医の判定を独立放射線学委員会が査読)を比較したもの。偽薬群の患者は疾病進行後にE7080による治療を受けること(クロスオーバー)が可能。今年2月に成功した旨、発表されたが、データは今回初めて公表。

PFSのハザードレシオは0.21、95%信頼区間0.14~0.31、p値は0.0001未満、メジアンは偽薬群3.6ヶ月、E7080群18.3ヶ月。反応率は各群2%と65%、完全反応率は0%と1.5%だった。全生存期間のデータは未公表。おそらく、まだ死亡例が少なく解析できないのだろう。クロスオーバー可なので意味のある解析はできないかもしれない。私はPFSという指標を好きでないので残念だ。

メジアン投与期間は13.8ヶ月。グレード3以上の治療時発現有害事象のうち試験薬群で多かったのは高血圧、蛋白尿、体重減、下痢、食欲低下などで、VEGF受容体阻害剤では一般的なもの。有害事象による試験薬減量は患者の78.5%で発生、投与中止に至ったのは14.2%だった。

先に承認されているNexavar(和名ネクサバール)のデータは、PFSハザードレシオ0.59、メジアン値は10.8ヶ月で偽薬群は5.8ヶ月。この試験もクロスオーバーが可能で偽薬群の75%が進行後にNexavarによる治療を受けたせいか、全生存期間のハザードレシオは0.88とあまり良くなく有意差は出なかった。

偽薬群のメジアン生存期間は36.5ヶ月となっており、クロスオーバーがあったにしても、進行後の生存期間は長い。つまり、PFSを延長することは決定的に重要なことではないのである。従って、忍容性も重要なチェックポイントになる。Nexavarの有害事象による投与中止は14%でE7080と大差ない。となると、E7080のほうが効果が高そうなので良い、ということになる。

しかし、気になるのは、致死的な治療時発現有害事象の発生率が8%(20例)と偽薬群の5%(6例)を上回り、うち6例については担当医が薬物関連と判定したことだ。肺塞栓と出血性脳卒中が各1例、全般的な健康状態悪化が4例となっており、最初の2例はVEGF受容体阻害剤の出血リスクを考えれば副作用であっても不思議はないが、それ以外は何故薬物関連と判定されたのか良く分からない。

もし本当に副作用ならば、メジアン生存期間3年の疾患に対して、2~3%の患者が副作用で死亡するが延命効果は確認されていない治療法は、便益がリスクを上回るとは言えないだろう。

リンク:ASCOの抄録(LBA6008)

ASCO:イーライリリーの肺癌用薬は効果が穏やか

(2014年5月31日発表)

土曜日のプレスブリーフィングでは、イーライリリーのCyramza(ramucirumab)の第三相非小細胞性肺癌二次治療試験も取り上げられた。この薬は今年4月に米国で胃癌の二次治療薬として承認された抗VEGFR-2ファージディスプレイ抗体。VEGF標的薬はAvastinが扁平上皮腫以外の非小細胞性肺癌の一次治療向けに承認されているが、Cyramzaの試験のように扁平上皮腫も組入れた試験は多くが薬効不足または喀血リスクが原因でフェールしている。それだけに快挙と言えるだろう。但し、効果は小さそうだ。

この試験は、二次治療を受ける患者をdocetaxelだけの群とCyramzaを併用する群に無作為化割付した偽薬対照二重盲検試験(近年はCyramzaのような注射薬でも偽薬を用意する)。主評価項目の全生存期間は各群メジアン9.1ヶ月と10.5ヶ月、ハザードレシオは0.857(95%信頼区間0.759、0.979)、p=0.0235となり、統計学的な有意性はそれほど高くはないが、取り敢えず有意な差があった。治療効果はメジアン値で見てもハザードレシオで見てもそれほど高くはない。

注目されるのは扁平上皮腫にも効果があったこと(但し、データは未公表)。肺出血(全グレード)の発生率は各1.6%と2.1%で若干増える程度、扁平上皮腫だけの解析だと2.4%と3.8%でリスクが高くなるものの、もし命に係る症例がないならば、許容できるかもしれない。忍容性面の問題が小さいなら扁平上皮腫にはCyramzaを使わざるを得ないだろう。

リンク:ASCOの抄録(LBA8006)

ASCO:Imbruvicaはアーゼラより効果が高い

(2014年5月31日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンがファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)から導入したImbruvica(ibrutinib)の第三相慢性リンパ性白血病試験も取り上げられた。PFSのハザードレシオが0.215と、対照薬であるArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)よりかなり良く、標準治療薬の座に一歩近付いた。米国で昨年、加速承認されたBtk阻害剤で、この試験のデータを提出して本承認を取得することになるだろう。

再発性・難治性の患者を組入れた二次治療のオープンレーベル試験で、Imbruvicaは140mgカプセル3個を一日一回投与。主評価項目はPFSで独立放射線学委員会が査読した。中間解析で主目的を達成、Arzerra群の患者のクロスオーバーが認められた。ハザードレシオ0.215(95%信頼区間0.146~0.317)、pは0.0001未満、全生存期間の解析もハザードレシオ0.434で統計的に有意な差があった。忍容性面では大出血の発生率は同程度、心房細動が5%と多かったが神経症は少なかった。

慢性リンパ性白血病や非ホジキンリンパ腫は今回のASCOでも画期的新薬のデータが続々発表される予定。併用法もアクティブに探索されることになるだろう。急性リンパ性白血病のように、様々なタイプがあるのに患者数が少ないため一緒くたにされている疾患についても、標的を見つけて有効な薬を探索してほしいものだ。

リンク:ASCOの抄録(LBA7008)

【承認申請】


ニューロンがパーキンソン病薬を承認申請

(2014年5月29日発表)

ニューロン・ファーマシューティカルズ(SIX:NWRN)は、safinamideをパーキンソン病のアドオン薬として米国で承認申請したことを明らかにした。MAO-Bを選択的可逆的に阻害すると共に、ドーパミンの再取込やグルタミン酸の放出も阻害する小分子薬。

セラノがライセンスして第三相試験を実施、成功したが効果が今一つだった模様でドイツのメルクに買収された後、権利返還となった。前臨床の懸念材料もあるようだ。ニューロンは改めて第三相を成功させ、イタリアのZambonと開発販売提携。欧州でも昨年12月に承認申請された。Zambonは米国の権利をサブライセンスする考え。

日本とアジアの一部地域での権利はMeiji Seikaファルマが持っている。

リンク:ニューロンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ジェンザイム、Lemtradaの追加データをFDAに提出

(2014年5月30日発表)

サノフィの子会社であるジェンザイムは、Lemtrada(alemtuzumab)の追加データをFDAに提出した。6ヶ月審査になる模様。再発寛解型多発性硬化症の維持療法として欧米で承認申請され、EUでは昨年9月に承認されたが、米国は審査完了通知を受領していた。

FDAは第二相試験で表面化した甲状腺副作用リスクを懸念、治験中断を求める共に、その後の第三相試験でも患者を十分に観察・対処するよう求めた。甲状腺疾患やGraves病、特発性血小板減少性紫斑症などのリスクが確認されたため、あとは、これらのリスクを上回る便益があるかどうかが問題になる。

2011年に開催された末梢中枢神経系薬諮問委員会では、過半の委員が再発予防効果や障害進行抑制効果を認めたが、同時に、過半が臨床試験は不十分と判定した。この薬の用法は5日間に亘り毎日静注点滴投与したら次の治療は1年後、対照薬は定期的に皮注と大きく異なるため、オープンレーベルで実施された。このため、対照群に割付けられた患者が、早く治験を離脱してLemtradaを使用できるようにするために再発したと虚偽報告するリスクがある。

深刻な副作用を持つ薬なので、もし承認されても広くは用いられないだろう。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

【承認】


ネクサバール、EUで分化甲状腺癌に適応拡大

(2014年5月30日発表)

バイエルとオニクス(アムジェンの子会社)は、EUがNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を進行性、局所進行、転移性の分化甲状腺癌用薬として承認したと発表した。放射性ヨウ素に反応しなくなった患者に用いる。NexavarはVEGF受容体やRETを阻害する小分子薬で、バイエルとオニクスの共同研究の成果。腎細胞腫、肝細胞腫に次ぐ第三の用途となる。米国では13年に適応拡大承認、日本でも第二部会を通過した。

甲状腺癌は世界で年30万人が診断され、多くは緩徐であり放射性ヨウ素による治療に反応するが、それでも年4万人が死亡する。分化型が9割以上を占める。VEGF受容体/RET阻害剤は甲状腺癌の進行を抑制する作用を持ち、アストラゼネカのCaprelsa(vandetanib)が欧米で遺伝性甲状腺髄様腫(RET変異が関与)に承認されている。更に、上記のように、エーザイのE7080(lenvatinib)もNexavarと同様な第三相が成功、承認申請される予定。

リンク:バイエルのプレスリリース

今週は以上です。

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