2014年3月30日

海外医薬ニュース2014年3月30日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • FDA諮問委員会はノバルティスの心不全治療薬を支持せず
  • GSK、黒色腫併用療法のEU申請を撤回
  • バイオジェンの長期作用性第IX因子が米国で承認
  • EUが大日本/武田の向精神薬を承認
  • EUがGSKのGLP-1作用剤を承認
  • エグゼリキシス、CometriqがEUでも承認
  • ロシュ、リツキサンの皮注用製剤もEUで承認


【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はノバルティスの心不全治療薬を支持せず

(2014年3月27日発表)

FDA心血管腎臓薬諮問委員会は、ノバルティスが急性非代償性心不全治療薬として承認申請したRLX030(serelaxin)を検討し、全員一致で承認に反対した。審査官の懐疑的意見に賛同した格好だ。

RLX030はノバルティスが2010年に買収したCorthera社の遺伝子組換え型relaxin-2。Relaxinは妊娠によって増加する天然のペプチドホルモンで血管の受容体に結合して血管拡張させる。第三相試験では低血圧症のリスクに配慮して収縮時血圧が125mmHg以上の患者だけを組入れて48時間連続点滴静注し、息切れ症状改善効果を偽薬と比較した。

結果は、二種類の主評価項目のうち、5日間のビジュアル・アナログ・スケール(VAS)の推移を曲線下面積で評価した解析では有意に優れていたが、もう一つの、中程度以上の奏効率(Likertスコアを用いて6、12、24時間の症状を評価)はフェールした。副次的評価項目では、60日時点の退院・生存率や心血管死・心腎不全による再入院リスクの解析はフェールしたが、180日死亡率は7.2%対11.3%で有意差があった。

評価方法によって結果が異なるとなると、夫々の評価方法の妥当性と臨床的な意義を検討しなければならない。今回のVAS評価は、インピュテーション(打切り例のデータの扱い方)に不適切な点があった模様だ。群間差は息切れの悪化ではなく心不全症状が悪化した症例数に差が、利尿剤の増量で容易に対処できる程度の小さな悪化でしかなかった可能性がある模様。症状悪化と判定した根拠が記録されていないため、臨床的に重要なイベントが起きたのかどうか、判然としない憾みもあった。。

臨床試験の成果が現実の医療でも再現されるためには、試験は別々に二本、夫々できるだけ多くの施設が参加して行う必要がある。RLX030は曖昧な結果になった試験一本のデータしかないのが弱点だ。また、ノバルティスは心不全症状の改善という効能を求めたようだが、FDA審査官は、臨床試験の主評価項目は息切れ症状改善だけなのだから効能が広すぎると判定した。

EUのCHMPも同様な理由で承認を見送った。急性心不全の臨床試験はフェールが多く、RLX030が片方だけでも成功したことは快挙であり、朗報の筈だったが、残念なことになった。今回の第三相試験はCorthera社がデザインしたものだが、きちっとした臨床試験を行っていれば遠回りしなくてよかったかもしれない、と思わざるを得ない。FDA審査官や諮問委員会が厳しい判定を行ったのはエビデンスが不十分だからであって、薬効を否定したわけではないのだ。

ClinicalTrials.govを見ると、RLX030の第三相試験は三本進行中で、一本は15年中にも結果が出そうだ。それを待って再承認申請することになりそうだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

GSK、黒色腫併用療法のEU申請を撤回

(2014年3月26日発表)

グラクソ・スミスクラインはMEK1/2阻害剤Mekinist(trametinib)を悪性黒色腫用薬としてEUで承認申請しているが、braf阻害剤Tafinlar(dabrafenib)との併用は撤回したことを明らかにした。第二相併用試験に基づいて申請したが、CHMPはエビデンス不足と判定した模様。第三相試験が成功したので、単剤投与が承認された段階で改めて用法追加申請を行うのではないか。

面白いのは、CHMPとFDAの対応や評価が分かれたこと。Mekinistは米国では12年8月に単剤投与で承認申請、13年5月に承認、同年7月にTafinlar併用法を申請、今年1月に承認という経過をたどった。一方、EUは米国に半年遅れで13年2月に、単剤投与だけでなく第一相/二相試験のデータに基づいてTafinlar併用法も申請、加速審査を受けたが、単剤はまだ結論が出ず、併用は標準審査に切り替わっただけでなく申請撤回になってしまった。

単剤・併用同時申請を認めたという点ではEUのほうが好意的だったのだが、結局、反応率と反応持続期間という代理マーカーに基づく承認にはFDAほど前向きではなかったということなのだろう。

リンク:
GSKのプレスリリース


【承認】


バイオジェンの長期作用性第IX因子が米国で承認

(2014年3月28日発表)

FDAは、バイオジェン・アイデックのAlprolixをB型血友病薬として承認した。出血事故の予防・治療や施術時の出血管理、そして重度患者のルーチンな出血エピソード予防に用いる。免疫グロブリンG1の固定領域と結合して半減期を長期化したもので、点滴静注頻度が一週間または10日間に一回と、既存の製剤の週2~3回より少ないことが長所。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

EUが大日本/武田の向精神薬を承認

(2014年月日発表)

大日本住友製薬と武田薬品は、異型向精神薬Latuda(lurasidone)がEUで承認されたことを発表した。英国は大日本が、それ以外の地域では武田が販売する。向精神薬は様々な受容体に対する作用の組み合わせが夫々に異なり、LatudaはH1やM1受容体に対する作用が小さいことが特徴。

リンク:両社のプレスリリース

EUがGSKのGLP-1作用剤を承認

(2014年3月26日発表)

GSKは、長期作用性GLP-1作用剤Eperzan(albiglutide)がEUで承認されたと発表した。二型糖尿病の治療に用いる。同社が買収したヒューマン・ジノム・サイエンシーズが昔、買収した企業のアルブミン結合技術を用いて半減期を長期化したもので、週一回の投与で足りる。この技術はインターフェロン・アルファなど様々なバイオ薬に応用されたが、実用化第一号となった。

リンク:GSKのプレスリリース

エグゼリキシス、CometriqがEUでも承認

(2014年3月25日発表)

米国のエグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)は、Cometriq(cabozantinib)がEUで切除不能進行性甲状腺髄様腫に承認されたと発表した。VEGFR2やmet、kitなどを阻害するマルチ・キナーゼ阻害剤で、米国でも昨年11月に承認された。

同社は、難治性去勢抵抗性前立腺癌の第三相試験についてもアップデートした。予定通り中間解析が行われ、データ監視委員会が続行を勧告したというもの。株式市場は成功を期待していた模様で、株価が大きく下落した。ジョンソン・エンド・ジョンソンのZytiga(abiraterone)やメディベーション/アステラスのXtandi(enzalutamide)が中間解析で主目的を達成したからだろう。

Cometriqの場合は用途探索試験の成績が中々よく、第三相試験の検出力もハザード・レシオ0.75を前提に90%と高いので、中間解析で成功判定されなかったことは物足りない印象だ。

リンク:エグゼリキシスのプレスリリース

リンク:同(前立腺癌試験中間解析について)

ロシュ、リツキサンの皮注用製剤もEUで承認

(2014年3月28日発表)

ロシュは、MabThera(rituximab、和名リツキサン)の皮注用製剤がEUで濾胞性リンパ腫やびまん性大Bセルリンパ腫に承認されたと発表した。昨年はHerceptin(trastuzumab)の皮注用製剤も承認されており、また、ハロザイム社の技術ではないがRoActemra(tocilizumab、和名アクテムラ)の皮注用製剤もEUで承認審査中(日本は昨年承認)と、皮注用製剤の開発に積極的に取り組んでいる。一々病院に行かなくても良いので患者は便利、医療費の節約にもなり、また、既存製剤の特許切れ対策にもなるだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年3月23日

海外医薬ニュース2014年3月23日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCOが抗癌剤試験のハードル引き上げを提言
  • INT-747の明と暗
  • 日本人ベンチャーの第三相が成功
  • ノボ、PEG化第VIII因子の最初の第三相が成功
  • インヴェガの三ヶ月製剤の第三相が成功
  • GSKの癌治療用ワクチンは肺癌もフェール
  • トラクリアのアウトカム試験がフェール
  • Xtandiをプリキモに適応拡大申請
  • CHMPが5種類の新薬の承認を支持
  • セルジーンの乾癬性関節炎治療薬が米国で承認
  • 米国でもリーシュマニア治療薬が承認
  • ゾレアが米国でも特発性慢性蕁麻疹に承認


【今週の話題】


ASCOが抗癌剤試験のハードル引き上げを提言

(2014年3月17日発表)

米国臨床腫瘍学会(ASCO)が新薬の臨床試験のハードルを引き上げるよう提言した。遂にやったか、という印象だ。背景を私なりにまとめると、このようになる。

90年代の抗癌剤の試験は寿命を倍にすることを目指し、そこまで届かずにフェールするものが多かった。目標が高すぎて1.5倍に延びても統計的に有意にならなかったのである。2000年代に入り、大規模な試験を行って小さくても統計学的には有意な効果を確認する手法が普及、分子標的薬の進歩と相まって多くの新薬が続々と承認される黄金時代に入った。

しかし、選択肢が増えるにつれて、どのレジメンが最も優れているのか分からなくなってきた。薬物療法は単剤、二剤併用、三剤併用と強度を増してきたが、限界効用逓減法則に従い、一剤を追加することによる上乗せは次第に縮小。PFS(無増悪生存期間)が延びても寿命はあまり延びないケースも見られるようになった。現実路線が行き過ぎて、価格に釣り合わない小さな効果しか生まない薬が大量に発売される事態になったのである。

その一方で、発売から何年も経ってから、適切な患者に使えば大きな効果を生めることが判明するケースが現れた。例えばEGFR阻害剤。当初は効果も副作用も穏やかな薬と見られていたが、チロシンキナーゼ阻害剤はEGFR活性化変異のある腫瘍、モノクローナル抗体はrasに変異のない腫瘍だけに有効であることが判明。他の作用機序でも応答予測の研究が進み、ヘッジホッグパスウェイ阻害剤やALK阻害剤のように、初めから特定のタイプだけに発売される薬も登場した。

薬はどんな癌にも使えるのが理想で、特定の腫瘍に絞り込むことは該当しない患者を切り捨てることを意味する。だから、全ての肺癌、全ての乳癌を対象にして開発を進めるのは止むを得ない面もあるが、治験がフェールしたり小さな効果しか生めないのでは意味がない。全ての癌に大きな効果を持つ夢の新薬以外は第三の道を探索すべきなのではないか。

このような背景から、ASCOは、新薬のハードルを上げて臨床的に重要な治療効果を生むことを要求するとともに、その手段として、応答予測因子の研究の重要性も指摘した。4種類の癌について、具体的なハードルも提示した。

まず、膵癌を対象にFOLFIRINOXと呼ばれる多剤併用療法にもう一剤追加する場合は、メジアン生存期間をFOLFIRINOXの10~11ヶ月から更に4~5ヶ月延ばすこと、ハザードレシオ(HR)で言えば0.67~0.69、を求めた。また、膵癌にgemcitabine(nab-paclitaxel併用も含む)に追加する場合はメジアン生存期間を8~9ヶ月から更に3~4ヶ月延長、HR0.6~0.75を求めた。

肺癌は扁平上皮腫とそれ以外に分け、前者は標準療法のメジアン生存期間10ヶ月を2.5~3ヶ月延長、HR0.77~0.8、後者は13ヶ月を3.25~4ヶ月延長、HR0.76~0.8を目標とした。乳癌は転移性トリプルネガティブ型で転移後の治療を初めて受ける患者を対象に、標準療法のメジアン生存期間18ヶ月を4.5~6ヶ月延長、HR0.75~0.8。結腸癌で全ての前治療に進行した患者は4~6ヶ月を3~5ヶ月延長、HR0.67とした。

私たちの社会は一方向に動き出すと止まらなくなる傾向があり、だからこそ、適切なタイミングで介入し、行き過ぎを是正する必要がある。ASCOの提言には反発も多いだろうが、新薬開発が遅れるという反論は無視してよい。患者が望むのは効果の高い薬であり、新薬なら何でも良い訳ではないのだ。

リンク:ASCOの提言(Journal of Clinical Oncology、オープンアクセス、pdfファイル)

【新薬開発】


INT-747の明と暗

(2014年3月16日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)は、先週末、INT-747(obeticholic acid、大日本住友製薬の開発コードDSP-1747)に関して二つの発表を行った。一つは胆汁性肝硬変(PBC)の第三相試験の成功。もう一つは、非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)の第二相試験で独立データ監視委員会が心毒性の懸念を連絡してきたことで、SECに提出した年次報告書(フォーム10-K)の中で明らかにされた。

心毒性は以前から疑いがあり、今後の解析や治験で十分な検討が必要だ。PBCは肝硬変と呼ばれているが今日の患者の多くは肝硬変ではない。NASHも薬が登場すれば症状の軽い患者も治療を受ける可能性がある。もし心毒性があるなら、病気の進行した患者だけに用いられることになるだろうから、市場性が低下する。

INT-747は胆汁酸誘導物でFXRアゴニストとされる。PPAR作動剤の標的であるPPARはFXRと複合体を形成して転写因子として機能するので、この二つの薬剤は似たところがある。

胆汁性肝硬変は自己免疫疾患と考えられ、胆管の炎症により胆汁が詰まり、肝臓に障害を与えると共にビリルビンが他の組織に悪影響を及ぼす。標準療法はursodiolで5割程度の患者が応答する。フィブレートが有効という報告もあるが、フィブレートはPPARアルファ作動剤である。NASHに関してはrosiglitazoneやpioglitazoneがバイオマーカー試験で良績を上げたが、この二剤はPPARガンマ作動剤だ。

このように、FXRアゴニストは画期的だが若干異なった薬が効果の兆しを示したことを考えればINT-747がこれらの疾患に有効でも不思議はない。問題は、単に臨床検査値を改善するだけでなく、病気の進行や症状を改善することができるかどうかだ。当然、命に係る副作用も問題になる。この意味では、NASHよりもPBCの用途の方が有望だろう。

PBC試験の主評価項目は奏効率だが、奏効の定義は、6ヶ月時点または12ヶ月時点でアルカリフォスフォターゼ(ALP)値が通常の上限(ULN)の1.67倍未満、且つ、ベースライン比15%以上低下、且つ、総ビリルビン値が正常であること。インターセプトがスポンサーとなって行った別の研究で、1年間の治療後にこの基準を満たせなかった患者は肝移植・死亡リスクが2.8倍高かった由である。私は詳細を把握しているわけではないが、裏付けがあるならば、臨床的に意味がある奏効判定基準と考えて良いだろう。

217人の患者を偽薬群、5mg錠を6ヶ月服用した後に10mgまで滴定する群、最初から10mg群を服用する三群に無作為化割付して12ヶ月治療したところ、12ヶ月時点の奏効率が各群10%、46%、47%となり両用量ともに偽薬比有意に高かった(p<0.0001)。ALP値低下率は各群5%、33%、39%でこれもp<0.0001。主な有害事象は掻痒で、各群0%、1%、10%の患者がこの有害事象により治験を離脱した。

掻痒はPBCの代表的な症状でもあるので増加は好ましくないが、滴定で抑制できそうだ。効果も大差なさそうなので、至適用法のように見える。気になるのは深刻な有害事象が増加したこと。具体的な内容は明らかではなく、また、治療医は薬物関連と判定してはいないようなので、判然としない。延長試験では必要に応じて25mgまで増量するプロトコルを採用しているので、安全性の解明が進むだろう。

NASHはNIH(米国立医療研究所)主導の第二相試験が中間解析で成功と判定されたが、7人、10件の心血管深刻有害事象が発生したことが明らかになった。治験は進行中なので、独立データ監視委員会は偽薬群と25mg群の群別内訳を会社側に報告していないが、INT-747群の薬物関連疑い例2例については概要を伝えたようだ。

インターセプトはどちらも薬物関連とは考え難いと結論しているが、LDL-C値が上昇する副作用を持っていることや、同じようにLDL-C値が上昇するrosiglitazoneに心毒性の疑いが掛かっていることを考えれば、慎重な分析が必要だろう。

INT-747はQT試験や薬物相互作用試験などの基本的な試験が未実施で、また、治験で用いられた製剤と市販用の製剤の同等性試験もこれからである模様だ。これらが完了し延長試験の長期安全性データが蓄積された段階で承認申請に向かう予定。

リンク:インターセプトのプレスリリース

リンク:インターセプトの10-K

日本人ベンチャーの第三相が成功

(2014年3月19日発表)

カリフォルニアのエマウス・ライフ・サイエンシーズ社は、Levoglutamide(L-グルタミン)の鎌状赤血球病第三相試験の成功を発表した。2014年央に米国で承認申請する予定。同社のCEOは新原豊医学博士。日本人が米国で設立したバイオベンチャーの開発品が承認されれば、Amitiza(lubiprostone、和名アミティーザ)を開発したSucampo Pharmaceuticals以来の快挙だ。

この試験は、鎌状細胞貧血症や鎌状ベータ-0地中海性貧血症の患者230人を組入れて米国の31の医療施設で実施された無作為化割付二重盲検偽薬対照試験。経口用粉末製剤を一日二回、48週間投与し、クリーゼ(危機<発作>)頻度を観察したところ、偽薬比25%小さかった(p=0.008)。二次的評価項目の入院頻度も33%低下した(p=0.018)。

鎌状赤血球病は遺伝性の血液疾患で、赤血球の形が鎌(三日月)状で酸化して小血管に詰まり、痛みや臓器障害をもたらす。米国の罹患数は10万人、EUは8万人とのことだ。アミノ酸の一つであるグルタミンになぜ効果があるのか不思議だが、赤血球の酸化を防ぐことなどが指摘されている。

治験が一本で足りるのかどうかも良く分からない。短腸症候群に承認されている模様だし、アミノ酸なので副作用リスクは問題ないのだろう。

リンク:エマウスのプレスリリース

ノボ、PEG化第VIII因子の最初の第三相が成功

(2014年3月19日発表)

ノボ ノルディスクは、NN7088(turoctocog alfa pegol)のA型血友病第三相試験の成功を発表した。NovoEightの活性成分をPEG化したもので、投与頻度が4日に一回と少なく、出血予防用途に適している。

この第三相試験では、第VIII因子による治療を受けたことのある患者を、4日に一回予防的投与する群(n=175)と出血時に治療する群(n=11)に割付けたところ、予防群の出血頻度が年率1.3回と良好に管理できた。一方、都度治療群は30.9回だった。予防群の一人に第VIII因子インヒビターが見られたが、この程度の頻度なら既存の製剤と大差ないようだ。第三相は他に3本が進行中で、結果を待って来年、承認申請に向かうのではないか。長期作用性第VIII因子の開発販売競争が一層激化しそうだ。

リンク:ノボのプレスリリース

インヴェガの三ヶ月製剤の第三相が成功

(2014年3月20日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはInvega Sustenna(paliperidone palmitate)の新製剤の第三相統合失調症再発予防試験が成功したことを発表した。エラン社のナノクリスタル技術を用いた筋注用の長期作用性製剤で、09年に米国で承認された製剤は月一回投与だが、新製剤は3ヶ月間持続する。臨床試験では1ヶ月製剤で症状を安定化した上で新製剤と偽薬群に割付けて再発頻度を比較した。事前に予定されていた中間解析で主目的を達成、完了することとなった。

統合失調症の治療では、急性期の薬物療法が奏効し安定化したとしても、再発リスクが高い患者は、服用を続けることになる。有効な薬は数多く存在するし今回の試験ではオリジナルの製剤が承認されているので、継続療法が必要な患者に偽薬しか投与しないのは医療倫理に反する虞がある。このため、この種の試験は中間解析を成功させ早めに手仕舞いすることが多い。要するに、繰上完了したのは効果が予想以上に高かったからではなく、シナリオ通りと推定される。

リンク:JNJのプレスリリース

GSKの癌治療用ワクチンは肺癌もフェール

(2014年3月20日発表)

グラクソ・スミスクラインは、MAGE-A3の第三相非小細胞性肺癌アジュバント試験がフェールしたと発表した。悪性黒色腫に次ぐ、二回目のフェールだ。どちらも、特定の遺伝子シグナチュアを持つ患者に限定した解析が主評価項目の一つとして予定されており、ラストチャンスになる。

MAGE-A3はこれらの癌でしばしば過剰発現している表面抗原で、上記二試験はMAGE-A3陽性癌だけを組入れた。免疫刺激力の高いアジュバントと共にワクチンとして投与して、免疫機構に当該癌を攻撃させる。肺癌試験では、1AからIIIB期で完全切除に成功した患者に27ヶ月間に13回、筋注した。しかし、全ユニバースの無病生存期間も、化学療法未施行サブグループ(化学療法は免疫力を低下させるのでこのサブグループの方が応答が良い可能性があった)のそれも、偽薬と大差なかった。

リンク:GSKのプレスリリース

トラクリアのアウトカム試験がフェール

(2014年3月17日発表)

アクテリオン(SIX:ATLN)は、肺動脈高血圧症治療薬Tracleer(bosentan、和名トラクリア)の第4相アウトカム試験がフェールしたと発表した。sildenafilを服用している症候性肺動脈高血圧症患者に追加投与して病状の悪化や死亡リスクを偽薬と比較したが、相対リスク削減率は17%、p=0.25に留まった。探索的解析で16週6分歩行試験が21.8メートル改善し、p=0.01となったが、治療効果はあまり高くない。意外な結果である。

同じエンドテリンA/B受容体拮抗剤である同社の新薬、Opsumit(macitentan)は、同様な試験で相対リスク削減率が低用量で30%、後に承認された高用量は45%だった。Tracleerの数値は見劣りするが、理由は明らかではない。検出力が足りなかったのかもしれないし、既にsildenafilで治療を受けている患者に追加投与しても限界効用は小さいのかもしれない。もしそうならば、PDE-5阻害剤併用は注目されている用法だけに、重要な知見だ。

リンク:アクテリオンのプレスリリース

【承認申請】


Xtandiをプリキモに適応拡大申請

(2014年3月18日発表)

メディベーション(AMEX:MDV、Nasdaq:MDVN)と開発販売パートナーであるアステラス製薬は、Xtandi(enzalutamide)の適応拡大申請を米国で行った。EUでも申請予定。去勢療法に反応しなくなった前立腺癌に用いる経口剤で、現在は化学療法を受けた患者の二次治療薬として承認されているが、化学療法施行前の患者に用いることを申請。

前立腺癌は高齢者が多く、副作用の多い化学療法は症状が悪化するまで施行しないのが一般的だ。化学療法施行前(キモセラピーの前なので略してプリキモ)の患者は無症候性も含まれるので、対象患者が大きく増加する。Xtandiの作用機序は去勢療法薬と似ているので、将来は薬物療法の第一選択の一つになって、遥かに多い患者に用いられる可能性もあるだろう。

リンク:両社のプレスリリース(和文)

【承認審査・委員会】


CHMPが5種類の新薬の承認を支持

(2014年3月21日発表)

EUの薬品規制機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、3月の会議で5種類の新薬とTamifluのGE薬などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内に承認されることになるだろう。

まず、米国のエンドサイト(Nasdaq:ECYT)がMSDと提携して開発したVynfinit(vintafolide)を、ある種の卵巣癌に条件付き承認することが肯定された。アルカロイド系抗癌剤をビタミンB9と結合した薬で、ビタミンB9が腫瘍の葉酸受容体に結合し、細胞内に取り込まれて分離した抗癌剤が腫瘍を攻撃する。適応になるのは白金薬抵抗性卵巣癌のうち、全標的病変で葉酸受容体が発現している場合。白金抵抗性卵巣癌の40%が該当する模様だ。

Doxil(doxorubicin)と併用した後期第二相試験では、PFSがメジアン5.5ヶ月とDoxilだけの群の1.5ヶ月より長く、ハザードレシオ0.38、p=0.018だった。p値はそれほど良くなく、また、Doxilの実績投与量に偏りがあった模様なので、エビデンスとしての磐石性は今一つだ。また、全生存のハザードレシオは1.1で悪く、但し、予後因子の偏りを調整すると0.48と大変良くなる。

これらのデータは無作為化割付が上手く行っていないような印象を与える。Vynfinitが承認されるかどうかは議論の的だったが、私にはサプライズとなった。第三相試験が進行中なので、やがて結論が出るだろう。

葉酸受容体の発現検査はCT/MRIとSPECTを用いる模様。まずビタミンB9を投与して様々な細胞の葉酸受容体に結合させたうえで、Folcepri(etarfolatide)を99mTcで標識して投与して、標的病変に分布するかを調べる。

エンドサイトは、非小細胞性肺癌のdocetaxel併用二次治療後期第二相試験が成功したことも発表した。単剤投与群は中間解析で無益性認定となったが、併用群のPFSはdocetaxel群と比べてHR0.75、p=0.0696だった。この試験はp<0.10なら成功と判定するプロトコルであった由だが、何れにせよ第二相試験なので、あまり細かいことを言ってもしょうがないだろう。この試験も全標的病原で葉酸受容体陽性の癌に対象を絞り込んでいる。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:両社のプレスリリース

リンク:肺癌試験に関するプレスリリース

次に、ジョンソン・エンド・ジョンソンのSylvant(CNTO 328、siltuximab)が多中心性キャッスルマン病の治療薬として支持された。IL-6を標的とするキメラ抗体で、IL-6受容体を標的とするヒト化抗体である中外/ロシュのActemra(tocilizumab)と似ている。キャッスルマン病の治療薬はEUでは初めて。多中心性は特に症状が重い。HIVやHHV-8(ヘルペスウイルスの一種)が陰性の患者が適応になる。陽性の患者に用いると免疫が抑制され増悪する可能性があるからだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

第三は武田薬品のEntyvio(vedolizumab)で、中重度活性期クローン病や中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いる。免疫細胞が発現するアルファ4ベータ7に結合するヒト化抗体で、血管壁に接着し内部を通り抜けて組織に移行するのを妨げる。

バイオジェン・アイデックのTysabri(natalizumab)に似た薬だが、VCAM-1を阻害しないので進行性多病巣性白質脳症という深刻な有害事象の発生リスクが低いという説がある。尤も、Rituxan(rituximab)など他の免疫抑制剤でも報告されているので、真相はもっと多くの患者がもっと長期間、治療を受けるようになるまで明らかにはならないだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース

第四は、EUでは三番目のSGLT2阻害剤になりそうな、ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーのJardiance(BI 10773、empagliflozin)。二型糖尿病の治療に用いる。FDAは生産管理基準違反を理由に承認を見送った。FDAはこの種の情報をEMAと共有している筈だが、評価が分かれた。

リンク:ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

最後に、メディビアがジョンソン・エンド・ジョンソンと提携して開発したHCVプロテアーゼ阻害剤、Sovriad(simeprevir、和名ソブリアード、米名Olysio)。遺伝子型I型の慢性C型肝炎の治療に用いる。一日一回服用であることが長所だが、C型肝炎は様々な画期的新薬が登場しているので目立たなくなってしまった。

リンク:メディビアのプレスリリース

適応拡大では、ノボ ノルディスクの長期作用性インスリン、Tresiba(insulin degludec)と、GLP-1作用剤Victoza(liraglutide)について、前者をGLP-1作用剤と、後者を基礎インスリンと、併用することが支持された。GLP-1作用剤は低血糖症のリスクが小さいが、SU剤やインスリンと併用するとリスクが高まる。そのせいか、Tresibaを用いている患者にGLP-1作用剤を追加する時はTresibaの用量を20%減らすことを推奨した。

リンク:ノボのプレスリリース

このレポートではGE薬は初承認だけを取り上げることにしている。今回はアクタビス(NYSE:ACT)が承認申請したロシュのインフルエンザ治療薬Tamiflu(oseltamivir)のGE品(Ebilfumin)が肯定的評価を受けた。EUで承認を取れば域外の多くの国でも承認を取ることができ、国家備蓄向けに定期的な需要がある薬なので、商業的なインプリケーションは大きい。

リンク:CHMPのプレスリリース

一方、否定的評価が再確認されたのがABサイエンス社が消化管間質腫瘍用薬として承認申請したMasican(masitinib)だ。昨年11月に否定的評価を受けメーカーが再審査請求を行ったが、覆らなかった。

【承認】


セルジーンの乾癬性関節炎治療薬が米国で承認

(2014年3月21日発表)

FDAは、セルジーン(Nasdaq:CELG)のOtezla(apremilast)を乾癬性関節炎の治療薬として承認した。PDE-4阻害剤で、この疾患の経口剤は初めて。乾癬でも承認審査中で結果は9月に判明する見込み。臨床試験では3.3%の患者で5~10%の体重低下が見られたため、注意が必要。僅かだが鬱症状発生例が多かったことも、乾癬や関節炎を治療する専門医には専門外なので、留意すべき。妊娠登録も行われる見込み。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:セルジーンのプレスリリース

米国でもリーシュマニア治療薬が承認

(2014年3月19日発表)

FDAは、Knight Therapeutics(TSX-V: GUD)のImpavido(miltefosine)を、内臓、粘膜、皮膚のリーシュマニアの治療薬として承認した。リーシュマニアは原虫感染による熱帯病で、内臓や粘膜に浸潤すると致死的。皮膚や粘膜のリーシュマニア治療薬は初めて。ドイツでは09年に承認。11年にWHOが必須医薬品リストに収載している。

同社は、熱帯病用薬の開発を奨励する制度に基づき、優先審査バウチャーを受領した。自社が開発した薬を承認申請する時に、優先審査を求めることができる。転売することも可能。同社によると、これまでに3社が取得したが売却例はないとのこと。

Knight社は、Paladin LabsがEndo Health Solutionsと合併した時にスピンアウトした会社で、Impavidoなどの資産を持っている。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Knight社のプレスリリース

ゾレアが米国でも特発性慢性蕁麻疹に承認

(2014年3月21日発表)

ノバルティスは、Xolair(omalizumab、和名ゾレア)が、EUに続いて米国でも特発性慢性蕁麻疹の治療薬として承認されたと発表した。抗ヒスタミンだけでは十分に管理できない時に用いる。ノバルティスによると患者の5割程度が該当する由だが、高価な皮注用薬なので、特に重い患者に用いられることになりそうだ。この抗IgEヒト化抗体は難治性中重度喘息症の治療薬として承認されている。0.1%程度の患者でアナフィラキシーが発生するので注意する。また、心血管・脳血管疾患のリスクが高まる可能性があり、FDAが検討中。

リンク:
ノバルティスのプレスリリース


今週は以上です。

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2014年3月16日

海外医薬ニュース2014年3月16日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • Walk, don't run
  • PCRが子宮頸癌スクリーニングの第一選択に
  • GSK、抗IL-5抗体の難治性喘息症試験が成功
  • GSK、Anoroの直接比較試験が成功
  • 神経栄養薬の脊髄性筋萎縮症試験が成功
  • ネクサバールの肝細胞腫アジュバント試験はフェール
  • BI/リリーのSGLT2阻害剤は承認遅延
  • エリキュースが米国でも関節置換術後の血栓症予防に承認


【今週の話題】


Walk, don't run

STAP細胞の話は残念ですが、TVのバラエティ番組まで取り上げているのは、不祥事発覚後だけではなく、STAP細胞の発見が発表された当初から、異常でした。大きな発見が後に否定される、あるいは結論が出ないままあやふやになってしまうことは珍しくなく、例えば、慢性疲労症候群の患者からXMRVというウイルスを発見したという論文や、ポリフェノールの一種であるレスベラトロール類縁体がマウスの寿命を延ばしたという論文は、否定的な論文も多い。

ワクチンと自閉症の関連性を指摘した論文は、その後、撤回されました。日本絡みでもvalsartanの複数の試験論文や、ACE阻害剤とARBの併用で腎疾患の進行を防いだという論文が撤回されました。理研という権威ある研究機関の発表なのでマスコミも信用してしまったのでしょうが、結論を急いではいけない、真実を発見する道のりはゆっくり歩くのが王道であることを示しています。私も他人事ではありません。

PCRが子宮頸癌スクリーニングの第一選択に

(2014年3月13日発表)

子宮頸癌のスクリーニングはパパニコロー検査よりもPCR検査を優先すべき、とFDAの医療機器諮問委員会が判定した。順調ならば、ロシュのcobas HPV検査が25歳以上の女性の子宮頸癌スクリーニングにおける第一選択として史上初めて、承認されることになる。ロシュが提案したプロトコルによると、検査で16型または18型(癌原性が高い)陽性であった場合は、パパニコロー検査は行わずに膣鏡診に進む。それ以外の高リスク型が陽性ならばパパニコロー検査を行う。陰性の場合は医師の判断に委ねる。

ロシュが実施したATHENA試験では、パパニコロー検査では正常、HPV検査では16型陽性と判定された女性の7人に1人の割合で、ハイグレードの子宮頸疾患が発見された。CIN3以上の疾患に関する感度はHPV検査が58%、パパニコロー検査は42%だった。

定説を覆すには地味な努力と大規模な試験が必要である。HIVや肝炎ウイルスについても日本の抗体検査で陰性だった献血血液から200例以上のHIV/HCV/HBV陽性血液が発見され、日本赤十字が核酸増幅検査を全面採用した。

今回の諮問委員会の結論は全員一致だが、細かいところでは、25~30歳の症例が少ないとか、パパニコロー検査は他の病変を発見できるメリットもあるとか傾聴すべき意見もあった。それでも、方向としては、子宮頸癌のスクリーニングはPCRベースの検査が主流になっていくのだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース

【新薬開発】


GSK、抗IL-5抗体の難治性喘息症試験が成功

(2014年3月12日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Bosatria(mepolizumab)の第三相難治性重度喘息症試験二本が成功したと発表した。後期第二相試験の結果と合わせて、承認申請に向かうのではないだろうか。

Bosatriaは抗IL-5完全ヒト化抗体。喘息症患者の一部では好酸球の増加が見られることから、好酸球の活性化や生存、肺移行に関与するIL-5をブロックする治療法が探索された。第二相喘息治療試験で好酸球増多型の重度喘息症に効果が見られたことから、第三相試験では好酸球数が一定値以上で、高量吸入ステロイドを含む二剤を併用しても増悪を管理できない重度患者だけを組入れた。

一本は、静注用製剤(75mg)と皮注用製剤(100mg)を4週間に一回、32週間投与したところ、臨床的に重要な増悪が偽薬比で各47%と53%減少した(p<0.001)。もう一本は経口ステロイドも服用している患者に皮注用製剤をテストしたところ、第20~24週の経口ステロイド服用量が有意に減少した。深刻な有害事象の発生率はどちらの試験とも偽薬群の方が高かったが、喘息発作もカウントしているようなので、薬効と引き換えに何を失うのか明らかではない。学会発表時の注目点になるだろう。

重度喘息の抗体医薬としてはXolair(omalizumab、和名ゾレア)以来、5~6年ぶりの新薬になりそうだ。抗IL-5抗体はテバもreslizumabで好中球増多型喘息症の第三相試験を実施中。また、アストラゼネカも協和発酵キリンの子会社から導入した抗IL-5受容体アルファ・チェーンPOTELLIGENT抗体で同様な第三相試験を実施中で、2016年頃に結果が出そうだ。

リンク:GSKのプレスリリース

GSK、Anoroの直接比較試験が成功

(2014年3月14日発表)

GSKは、軽中度COPDを対象としたAnoroの直接比較試験が成功したと発表した。差は小さく、安全性の差も案外小さかったが、大差ないなら一日一回服用の長所が映える。尤も、本当に大差ないかどうかは今回の試験だけでは何とも言えないだろう。

Anoroは昨年末に米国で承認された吸入用合剤で、長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤umeclidiniumと長期作用性ベータ2作用剤vilanterolを配合。対照薬はGSKのベストセラーであるAdvair(和名アドエア)で、長期作用性ステロイドfluticasoneと長期作用性ベータ2作用剤salmeterolを配合。AdvairはEUでは高用量も承認されているため、低用量(各250mcgと50mcg)と比較した試験が二本、高用量(500mcgと50mcg)との比較が一本、実施された。

治験対象は、過去1年間に増悪を経験しなかった軽中度のCOPD患者。主評価項目は84日目の24時間加重平均FEV1。結果は、低用量と比較した試験では一本は74mL、もう一本は101mLの差があり、何れも統計的に有意だった。高用量比較試験でも80mLの差で統計的に有意だった。

AdvairよりAnoroの方が優れるということになるが、臨床的な違いは明確ではない。また、合剤を必要とするのは単剤では増悪を十分に管理できない重度の患者であり、そのような患者が必要とするのは増悪を防ぐことだが、今回の試験では答えは出ていない。

COPDにステロイドを使う時の留意点は肺炎や骨塩密度低下だが、今回の試験は症例数が少なく期間も短いため、大きな群間差は出ていない。ムスカリン受容体拮抗剤は心血管有害事象を増やすと指摘する研究者もいて、今回の試験でも数値上は発生率が高かったようだが、リスクがリアルなのか、ノイズなのかは分からない。もっと大規模な試験で解明が望まれる。

リンク:GSKのプレスリリース

神経栄養薬の脊髄性筋萎縮症試験が成功

(2014年3月10日発表)

フランスのTrophos社は、TRO19622(olesoxime)の第二相脊髄性筋萎縮症試験が成功したと発表した。承認申請を考えている様子だ。データは今後、学会で発表される予定。

TRO19622はコレステロール様の物質で、ストレスに晒された細胞がミトコンドリアの完全性や機能を維持する上で有用とのことだ。欧州7ヶ国で実施された第二相試験では、II型またはIII型で歩行不能な3歳から25歳の患者165人を偽薬と試験薬に1:2割付して2年間、治療したところ、MFM機能スケールの悪化を防ぐ効果が見られた由。

脊髄性筋萎縮症はSMNという遺伝子の欠損が係る深刻な疾患で、両親から欠損遺伝子を引継ぐと発症する。Trophosによると患者は世界で2万人。2月23日号で書いたように、米国のISISもISIS-SMNRxで第三相試験を開始する予定。

リンク:Trophosのプレスリリース

ネクサバールの肝細胞腫アジュバント試験はフェール

(2014年3月11日発表)

バイエルは、VEGFR阻害剤Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)の肝細胞腫アジュバント試験がフェールしたと発表した。データは学会で発表される予定。

このSTORM試験は、治癒を目的とする切除術などを受けた肝細胞腫患者を組入れて、Nexavarの再発予防効果を偽薬と比較したもの。分子標的薬は副作用リスクが比較的小さく、Nexavarは経口剤なので服用負担も点滴用薬より小さい。切除不能な末期肝細胞腫の一次治療試験が成功、承認されたため、アジュバント試験も期待を集めたが、成就しなかった。

Nexavarは、アムジェンが買収したオニクス社との共同研究の成果。切除不能腎細胞腫でも承認されており、主として二次治療薬として用いられている。他社のVEGFR阻害剤の末期肝細胞腫試験はフェールしており、結局、効果は限定的なのだろう。

リンク:バイエルのプレスリリース

【承認審査・委員会】


BI/リリーのSGLT2阻害剤は承認遅延

(2014年3月5日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムと開発パートナーであるイーライリリーは、SGLT2阻害剤BI 10773(empagliflozin)を二型糖尿病薬として承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領した。生産管理に係る不備が原因のようだ。

FDAはルーチンに工場を査察して生産管理基準(cGMP)順守状況をチェック、重大な不備を発見したら是正を要求する。メーカー側が是正に応じなかったり時間稼ぎをすることもあるため、伝家の宝刀をチラリと見せて、是正されるまで新薬を承認しないかもしれないと通知することもある。BI 10773はcGMP違反が見つかった工場で生産されるようなので、承認されなかったのは当然と言えば当然だろう。ベーリンガーも問題解決に真剣に取り組んでいる筈だが、cGMP問題は長引くことが多いので要注意だ。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


エリキュースが米国でも関節置換術後の血栓症予防に承認

(2014年3月14日発表)

BMSと開発販売パートナーであるファイザーは、FDAがXa阻害剤Eliquis(apixaban、和名エリキュース)を膝・股関節置換術後の深静脈血栓予防に用いる適応拡大を承認したと発表した。

Xa阻害剤の新薬はこの用途で最初の第三相試験が行われることが多く、Eliquisもそうだったが、欧州と米国で行われた三本の試験のうち米国試験はフェール、予防効果が低分子量ヘパリンと比べて非劣性であることが確認できなかった。このため、EUでは2011年に承認されたが、米国は膝ではなく股関節置換で追加試験を実施、3年遅れで承認となった。

Xa阻害剤の市場としては12年に承認された心房細動患者の脳卒中予防が一番大きく、また、関節置換術用途は他社のXa阻害剤が承認されていて薬以外の予防法も存在するため、開発が遅延しても大勢には影響ないだろう。

リンク:両社のプレスリリース

今週は以上です。

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2014年3月9日

海外医薬ニュース2014年3月9日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • AAAAI:抗IL-13抗体はある種の喘息症に有効
  • Jakafiは真性赤血球増加症にも有効
  • ロシュのMET阻害剤も第三相がフェール
  • FDAが抗PCSK9抗体の認知神経学的有害事象に関心
  • JNJの多剤耐性肺結核治療薬がEUで承認
  • ゾレアがEUで蕁麻疹に承認
  • FDAがフィニバックスのオフレーベル用途に警告強化


【新薬開発】


AAAAI:抗IL-13抗体はある種の喘息症に有効

(2014年3月5日発表)

AAAAI(米国アレルギー・喘息・免疫学会議)でロシュの抗IL-13ヒト化抗体、RG3637(lebrikizumab)の難治性喘息症後期第二相試験二本の結果が発表された。POC試験と同様に、血中periostin値が高い患者の喘息発作や呼吸能力を改善した。昨年夏に第三相試験入りしたが、治験登録によれば、結果が判明するのは2017年のようだ。

この二本の試験は、高量吸入ステロイドを含む二剤併用療法を施行しても発作を十分に抑制できない重度喘息症を対象にした。periostinは気管支上皮細胞が分泌する蛋白で、気管支の過感受性や炎症に関与しているようだ。IL-13によって分泌が増加するので、IL-13が関与するタイプの喘息症を判別するバイオマーカーにもなる。

RG3637のPOC試験でperiostin値に基づく二分位解析を行ったところ、高値群でFEV1の有意な改善が見られた。このため、今回は初めからperiostin値に基づく二グループを分別して、偽薬、37.5mg、125mg、250mgを4週間に一回、皮注したところ、高periostin群の喘息発作が偽薬比で各81、77、22%減少した。FEV1も各6.8%、10.7%、10.1%改善した。有害事象の発生率は三群合計で70%と偽薬群の63%を若干上回ったが、深刻なものは2.0%対1.7%で大差なかった。

喘息発作抑制効果に関しては用量依存していない。250mgを用いたPOC試験でも喘息発作抑制作用は確認されなかったので、低量で足りるのかもしれない。ロシュは第三相試験でも三種類の用量をテストしているので、至適用量が明確になるだろう。

この試験は元々は第三相試験として開始されたが、不純物が見つかり生産プロセスを改善する必要が生じたため、後期第二相に変更された。バイオ薬の場合、生産プロセスを変えると力価などに変化が生じる可能性があるため、治験データを承認申請に使えなくなることがある。ロシュ(ジェネンテック)は、抗CD11aヒト化抗体Raptiva(efalizumab)の開発でこの問題に直面したことがあるので、その経験を生かしたのだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース

リンク:POC試験論文(Correnら、NEJM、オープンアクセス)

Jakafiは真性赤血球増加症にも有効

(2014年3月7日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)と開発販売パートナーであるノバルティスは、Jakafi(ruxolitinib)の難治性真性赤血球増多症試験が成功したと発表した。上期中に世界で承認申請される見込み。

Jakafiは2011年に米国で、翌年にはJakavi名でEUでも、中高度リスク骨髄線維症の治療薬として承認されたJAK1/2阻害剤。真性赤血球増多症はエリスロポイエチン受容体のJAK2変異が関与している可能性がある。この試験は真性赤血球増多症でヒドロキシウリアによる治療に十分に反応しない患者を対象に試験を実施。瀉血を受けずに赤血球量を管理できて、脾臓が肥大しなかったら奏効と見做した。データは学会で発表される予定。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ロシュのMET阻害剤も第三相がフェール

(2014年3月3日発表)

ロシュは、MetMab(onartuzumab)のMETLung試験の独立データ監視委員会が治験中止を勧告したことを発表した。続行しても成功する可能性が低いため。他の肺癌試験についても打ち切りになる可能性がありそうだ。

MetMabはHGFの受容体であるMETを標的とするヒト化モノクローナル抗体。通常の抗体は二組の重鎖・軽鎖を持つが標的がMETの場合はアゴニストとして作用してしまうため、片側だけの一価抗体に改変した。第二相試験でMET陽性非小細胞性肺癌に効果の兆しが見られたため、2011年に開始された第三相試験では、Tarceva(erlotinib)併用で、MET陽性且つTarcevaの適応であるEGFR活性化変異型の非小細胞性肺癌で二次、三次治療を受ける患者を組入れて、Tarcevaだけの群と全生存期間を比較した。

昨年12月に同様な内容の二次・三次治療試験と一次治療試験も開始されたが、一本目が無益性で打ち切りとなると、続行は難しいのではないだろうか。胃食道癌でも第三相試験中だが、こちらは癌も併用薬も異なるので、一概には言えないだろう。

MET阻害剤ではアーキュール(Nasdaq:ARQL)も小分子薬のtivantinibで非扁平上皮非小細胞性肺癌のTarceva併用二次・三次治療試験を行ったが、2012年に無益性で中止した。MET陽性肝臓癌で第三相試験中。両剤とも第二相試験のサブグループ分析で有望なデータが出て注目されるようになったが、少なくとも肺癌では期待に応えることができなかった。

リンク:ロシュのプレスリリース

FDAが抗PCSK9抗体の認知神経学的有害事象に関心

(2014年3月8日発覚)

新作用機序に基づく高脂血症治療薬として抗PCSK9モノクローナル抗体が注目されているが、第三相試験を行っている三グループのうちリジェネロン/サノフィとアムジェンに対して、FDAが認知神経学的安全性を調べるよう要請していたことが発覚した。リジェネロンが2月にSECに提出した年次報告書(Form 10-K)に記されていたのだが、サノフィの年次報告書にも記されていたことで一躍注目されるようになった模様だ。

記載によると、FDAはPCSK9阻害剤の認知神経学的有害事象に気付き、両社のREGN727/SAR236553(alirocumab)の第三相プログラムでリスクを評価するよう要請した。長期心血管アウトカム試験などで認知神経学的検査を行うことも提案した。

メディア報道によると、AMG145(evolocumab)を開発しているアムジェンも同様な要請を受けた模様。一方、PF-04950615(bococizumab)を開発しているファイザーは、少なくとも報道の時点では要請を受けていない模様。三グループとも、自社の臨床試験では記憶障害や認知障害などの認知神経学的有害事象のシグナルは見られなかったと言っている。

代表的な高脂血症治療薬であるスタチンは、認知障害に関連するという研究結果も発表されている。もし正しいとしたら、PCSK9阻害という作用機序ではなくコレステロールを減らすこと自体に(大きな問題ではないのだろうが)リスクがあることになる。このような場合に、FDAは、既に承認した薬のメーカーではなくこれから承認審査を受ける会社に真相解明を求めることがあり、今回もこのパターンなのかもしれない。

一方で、FDAは世界で開発されている様々な会社の様々な試験データを見ることができる。ある会社の開発品で安全性懸念が生じた場合は、他社の開発品についても、被験者の安全性を確保するために、あるいは、承認審査で問題になりそうな事項について十分な情報を得るために、注意や評価を求める必要があるが、守秘義務があるため理由を明確にすることはできない。もしこのパターンだとしたら、抗体医薬なので霊長類試験で懸念が生じたことは考えにくく、他社の臨床試験で懸念が生じたのだろう。

リンク:リジェネロンの2013年年次報告書(2/13付)

【承認】


JNJの多剤耐性肺結核治療薬がEUで承認

(2014年3月6日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、EUがSirturo(bedaquiline)を多剤耐性肺結核の治療薬として承認したと発表した。第二相試験の24週奏効率に基づく条件付き承認で、昨年開始された7剤併用試験で長期的な奏効率の上昇が見られるようならば本承認されるだろう。細菌のATP合成酵素を阻害するジアリールピリミジン系抗生剤、肺結核の新薬は久しぶり。

リンク:JNJのプレスリリース

ゾレアがEUで蕁麻疹に承認

(2014年3月6日発表)

ノバルティスは、Xolair(omalizumab、和名ゾレア)がEUで慢性特発性蕁麻疹の治療薬として適応拡大されたと発表した。抗ヒスタミン治療に十分反応しない患者に用いる。治験では4割前後の患者で痒みや蕁麻疹を防ぐことができた。2003年に難治性喘息症治療薬として承認された抗IgEヒト化モノクローナル抗体で、米国でも承認審査中。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがフィニバックスのオフレーベル用途に警告強化

(2014年3月6日発表)

FDAは、塩野義製薬が創製し海外ではジョンソン・エンド・ジョンソンが販売しているDoribax(doripenem、和名フィニバックス)のレーベル変更を承認したと発表した。

このカルバペネム系抗生物質は米国では複雑性尿道感染症と複雑性腹腔内感染症に承認されているが、人工呼吸器関連肺炎試験の中間解析でimipenemとcilastatinを併用した群より死亡率が高いことが判明、治験中止となった。FDAによると死亡率は23%で、対照群の16.7%より高かった。このため、未承認用途ではあるが、レーベルに記載することを認めた。一方で、承認されている用途に関する評価は従来通り変化が無いことも明記した。

EUでは院内感染肺炎にも承認されているが、人工呼吸器関連肺炎試験の中止を受けて、高量を十分な期間投与し、患者背景に応じて用量を調節することを勧告した。一方、FDAは院内感染肺炎は承認していない。欧米の当局の評価が食い違うことになる。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年3月2日

海外医薬ニュース2014年3月2日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • イーライリリー、週一回投与で効果はビクトーザ並み
  • ピレスパの再試験が成功
  • GSKがレボレードを希少疾患に適応拡大申請
  • 全身性脂肪萎縮症の治療薬が米国でも承認
  • FDAとEMAの科学者がインクレチンの膵安全性にコメント


【新薬開発】


イーライリリー、週一回投与で効果はビクトーザ並み

(2014年2月25日発表)

イーライリリーは、LY2189265(dulaglutide)の第三相Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)非劣性試験が成功したと発表した。有害事象も同程度であった由。皮注頻度は週一回とVictozaの7分の1なのでGLP-1作用剤の中では有力な選択肢になりそうだ。

LY2189265はDPP-IVに分解されにくいGLP-1アナログと免疫グロブリン固定領域を結合した遺伝子組換え薬で、半減期が最長95時間と長い。これまでにGLP-1作用剤の第一号であるByetta(exenatide)や、Januvia(sitagliptin)、Lantus(insulin glargine)など様々な二型糖尿病薬と直接比較試験が行われ、HbA1c治療効果が非劣性であっただけでなく、優越性検定も成功した(有意に優れていた)。

インスリンより優れるというのは理屈に合わないが、しばしば見られる現象だ。低血糖を気にして用量を抑える医師が多いのだろう。

今回の対照薬であるVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ)はノボ ノルディスクが開発したGLP-1作用剤のベストセラーで13年の売上高は約20億ドル。長期作用性の薬は悪心嘔吐や血圧心拍影響も高い可能性があるが、もしリスクが同程度ならば、一日一回皮注の薬よりも歓迎されるだろう。昨年、欧米で承認申請された模様なので、年内の承認が見込まれる。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

ピレスパの再試験が成功

(2014年2月25日発表)

インターミューン(Nasdaq:ITMN)は、Esbriet(pirfenidone、和名ピレスパ)の特発性肺線維症第三相試験が成功したと発表した。2000年代後半に行われた二本は判然としない結果になったが、今回は概ね良好な内容なので、承認が遅れた米国でも前途が開けた。

ピレスパは日本で行われた第二相試験の中間解析で効果の兆しが見られ承認申請されたが、サンプル数が少なすぎて承認されなかった。治験はキチンと最後までやらないと結局は患者のためにならないことを示すエピソードだ。

その後、日本は塩野義製薬が、海外はインターミューンが第三相を開始。日本は成功し08年に無事、承認されたが海外の二本は、一本では肺機能悪化を遅らせる効果が見られたが歩行能力に関しては偽薬並み、もう一本は逆だった。日本の結果と合わせれば二本のエビデンスが揃うためEUは11年に承認したが、FDAは、諮問委員会で多数が支持したものの、承認しなかった。

今回の再試験では努力肺活量対予測値(% predicted FVC)が52週間で10%以上低下した患者が試験薬群は16.5%、偽薬群は31.8%となり有意な差があった。6分歩行検査で50m以上悪化した患者も少なかったがp値は0.036なので判然としない。全死亡はハザードレシオが0.55となったがイベント数が少なく検出力不足で有意差は出なかった。過去の三本の試験のプール分析では有意差があったので、現時点では、延命効果もありそうだが十分なエビデンスは無い、と表現するのが適切だろう。

有害事象による治験離脱は14.4%対10.8%で上回った。NNTは1000人中153人、NNHは同じく36人ということになる(1000人に52週間投与すると153人が治療効果を享受し、36人は副作用を被るだけで治療に失敗する)。

リンク:インターミューンのプレスリリース

【承認申請】


GSKがレボレードを希少疾患に適応拡大申請

(2014年2月28日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Promacta(eltrombopag、和名レボレード)を免疫抑制剤では十分に管理できない重度再生不良性貧血の治療薬として米国で適応拡大申請したと発表した。

再生不良性貧血は何らかの理由で赤血球、好中球、血小板が作られなくなる難病で、米国では年600~900人が診断される。アジア系が多いようだ。日本では100万人当り6人が診断される。免疫が誤作動して造血幹細胞を破壊するケースがある模様で、治療には免疫抑制剤などが用いられる。

Promactaはトロンボポエチン受容体作動剤で、08年に特発性血小板減少症性紫斑症の治療薬として承認された。赤血球や好中球には関与しないのではないかと思われるが、New England Journal of Medicine誌の試験論文によると、一部の患者では血小板だけでなく赤血球や好中球の増加も見られた。

この種の薬は、骨髄の密集した環境で巨核球の分化を促進する過程で他の血球細胞の増殖・分化も誘発してしまうのではないか、その結果として骨髄異形成症候群や白血病を誘導してしまうのではないかという懸念が付きまとう。上記の治験論文に関しても同様な懸念が寄せられている。

米国医療研究所(NIH)が主導した第二相試験では、登録された患者の半分程度しか組入れられなかった。Promactaは肝毒性を持ち、これが理由で除外された患者が多かったようだ。同様な作用を持ち肝毒性の見られないNplate(romiplostim、和名ロミプレート)は効果があるのだろうか?

リンク:GSKのプレスリリース

リンク:治験論文(Olnesら、NEJM、オープンアクセス)

【承認】


全身性脂肪萎縮症の治療薬が米国でも承認

(2014年2月25日発表)

FDAは、アミリンのMyalept(metreleptin、和名メトレレプチン)を全身性脂肪萎縮症の治療薬として承認した。数百万人に一人の希少疾患で、脂肪組織が欠如・減少し、摂食やインスリンなどのホルモンを制御するレプチンという脂肪細胞由来のホルモンが分泌されないために、糖尿病や高トリグリセライド血症になりやすく、血糖降下薬を使っても血糖値を十分に管理できない。Myaleptは遺伝子組換え型レプチンによる補充療法。

レプチンは抗肥満ホルモンとも呼ばれ、動物試験で体重低下作用が見られたことから体重管理薬として臨床開発が行われたが、効果が持続しないことが判明した。アミリンは武田薬品と共に二種類のホルモンの併用療法も探索したが、駄目だった。同社は部分性脂肪萎縮症の承認も求めた模様だが、FDAは承認しなかった。薬効に関する十分なエビデンスが無いことに加えて、治験で中和抗体のリスクが見られたため。中和抗体ができると薬が破壊されて薬効を発揮できなくなるだけでなく、重度感染症のリスクも高まるようだ。

また、薬との関連性は明確ではないがTセルリンパ腫のリスクも見られた。これらのことから、FDAは厳格な処方・取扱い制限であるREMSを要求すると共に、肥満症やHIV関連脂肪萎縮症には承認されていないことを特記している。

承認の根拠となった試験は米国医療研究所(NIH)が主導したもの。日本の承認の根拠となった試験も医療特区で行われた医学者主導試験なので、開発の経緯はよく似ている。希少疾患の治療法を開発する上で、政府や医学者の役割が大きいことを示している。

アミリンは2012年にBMSに買収され、今年、BMSの他の代謝学領域事業と共にアストラゼネカに譲渡された。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAとEMAの科学者がインクレチンの膵安全性にコメント

(2014年2月27日発表)

FDAとEMA、そしてオランダの医薬品承認審査機関の科学者が連名でNew England Journal of Medicine誌にインクレチンの膵安全性に関するコメントを寄稿した。FDAのオフィサーが寄稿することはしばしばあるが、欧米連携は珍しい。日米欧の当局は承認審査や立入り調査の情報交換・共同検討を推進しているが、その成果の一例だろう。

内容的には、一部で言われているインクレチンの膵毒性に否定的な意見を述べる一方で、アウトカム試験の結果などが出揃うまではインクレチン療法は膵炎のリスクに関連すると見做されるとも述べており、玉虫色である。現時点での評価を伝える途中経過報告の意図なのだろう。

著者らは動物試験や臨床試験の分析結果について、ごく簡単に触れている。Januvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)の25本の試験のプール分析では、膵炎や膵癌のリスクが高まることを示す説得力のあるエビデンスは見つからなかった。Onglyza(saxagliptin、和名オングリザ)の16492名の二型糖尿病患者を組入れた心血管アウトカム試験、SAVORでは、急性膵炎がOnglyza群22例、偽薬群16例と両群大差なかった。

Nesina(alogliptin、和名ネシーナ)の5380名の二型糖尿病患者を組入れたEXAMINE試験ではも12例と8例で同程度だった。膵癌はSAVOR試験が5例対12例、EXAMINEは両群ゼロだった。

リンク:Eganらの論評(NEJM、オープンアクセス)

今週は以上です。

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