2014年2月23日

海外医薬ニュース2014年2月23日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ISIS、脊髄筋委縮症治療薬の第三相ステージアップを決定
  • イーライリリー、抗VEGF受容体抗体の肺癌試験が成功
  • ノバルティスのSMO阻害剤も試験成功
  • オンコノヴァ、rigosertibはもう一つの第三相もフェール
  • FDAがoritavancinの承認申請を受理
  • CHMP、モルキオA症候群治療薬などに肯定的意見
  • 膿胞性線維症治療薬の対象人口が拡大


【新薬開発】


ISIS、脊髄筋委縮症治療薬の第三相ステージアップを決定

(2014年2月21日発表)

ISISファーマシューティカルズ(Nasdaq:ISIS)は、脊髄筋委縮症治療薬ISIS-SMNRxの第三相試験を年央に開始することを決めた。後期第一相/第二相試験などで良好な忍容性と薬効の兆しが見られたため。

脊髄筋委縮症は脊髄神経細胞の生存に必要なsurvival motor neuronという蛋白の遺伝子、SMN1の欠損が関与している。キャリアは50人に一人と多いが、両親から欠損遺伝子を引継ぐと発症し、SMNが殆ど作られないI型は平均余命2年以下、II型、III型でも生活機能に大きな障害が出る。罹患者数は日米欧で30000~35000人と推定されている。

ISISはアンチセンス薬という、遺伝子情報を元に蛋白が合成される過程を妨げる核酸医薬で独創的かつ圧倒的な実績を持ち、1998年にサイトメガロウイルスによる網膜炎の治療薬、Vitravene(fomivirsen)が、2013年にはホモ接合性家族性高脂血症治療薬、Kynamro(mipomersen sodium)が米国で承認された。

アンチセンスはRNA介入の一つで、標的RNA配列に類似した塩基配列を製剤化し、標的RNA配列と入れ替わらせる(相同組換)ことによって、機能しない蛋白を作らせる。Vitraveneはウイルスの発現を制御する蛋白を無意味化(アンチセンス)し、KynamroはLDL-C/VLDL-Cの一部であるApoB-100をアンチセンスする。ISIS-SMNRxは若干毛色が異なり、機能しない蛋白しか作れないSMN2にSMN1の代わりを務めさせる。

SMN2遺伝子は転写翻訳過程で一部のエクソンが無視されるため、SMNとは異なる蛋白しか作られない。ISIS-SMNRxはSMN2から転写されたRNAのスプライシングを変え、機能するSMNを作らせる。髄腔内投与だが、神経系組織における半減期が長いため、投与頻度は多くない。

II型、III型の小児患者を三群に割付けた後期第一相/第二相試験の中間解析では、Hammersmith Functional Motor Scale-Expandedという筋肉機能を評価するスケールが、3mgを3ヶ月間に3回投与した群では9ヶ月後にベースライン比で1.5ポイント上昇、6mgを同様に投与した群は2.3ポイント上昇、9mgを初日と85日目に投与した群は3.7ポイント上昇した。治験完了者は12mgを6ヶ月に一回投与する延長試験に進んだ。

I型の乳児を組入れた第二相試験では6mgまたは12mgを初日、15日目、85日目に投与するスケジュールを採用。6mg群の患者は治験開始から6ヶ月以上経った時点で全員が生存しているとのことだ。この二つの試験の詳細は4月のANN米国神経学学会で発表される予定。

ISIS-SMNRxはFDAから希少疾患用薬指定とファーストトラック指定を受けている。バイオジェン・アイデックがインライセンスするオプションを持っている、

3.7ポイントの上昇が臨床的にどの程度の意味があるのか私には知識が無い。他の遺伝子のスプライシングに影響しないかどうかも要注意点だろう。それでも、治療法を研究する上で重要な手がかりであり、また、アンチセンス技術の応用範囲が拡大し呼び名を変えなければならないかもしれない、大きなブレークスルーだ。

リンク:ISISのプレスリリース(小児試験)

リンク:ISISのプレスリリース(幼児試験)

イーライリリー、抗VEGF受容体抗体の肺癌試験が成功

(2014年2月19日発表)

イーライリリーは2008年にイムクローン社を65億ドルで買収、結腸直腸癌用薬Erbitux(cetuximab)に加えて、数多くの抗体医薬パイプラインを入手した。このうち、VEGFの受容体の一つであるVEGFR-2に結合する完全ヒト化抗体、IMC-1121B(ramucirumab)は胃癌の二次治療試験が成功、昨年欧米で承認申請され、その後、胃癌一次治療試験も成功。更に、今回、非小細胞性肺癌の第三相試験の成功が発表された。年内に承認申請に向かう予定。

二次治療を受ける患者をdocetaxelのみの群とramucirumabを併用する群に割付けた試験で、全生存期間に有意な差があったとのこと。データは未発表。類薬では受容体ではなくVEGFに結合するAvastin(bevacizumab)が一次治療薬として承認されているが、扁平上皮腫は適応外。ramucirumabの試験は扁平上皮腫も組入れたので、もし有効性が確認されるなら、そして一次治療試験も成功するならば、適応がAvastinより広い薬として標準療法に採用される楽しみが生まれる。

もう一つ注目されるのは一次治療でAvastinを使った患者に対する効果だ。もし効果が弱いようならば、Avastinを一次治療で用いるのと、用いずに二次治療でramucirumabを使う治療方針の二者択一になり、おそらく、前者が選択されることになるだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

ノバルティスのSMO阻害剤も試験成功

(2014年2月19日発表)

ノバルティスは、LDE225(sonidegib)の第二相局所進行性・転移性基底細胞腫試験が成功したと発表した。承認申請に向けて当局と相談する計画。

LDE225は選択的SMO(Smoothened)阻害剤で、ヘッジホッグ・シグナリング・パスウェイに介入する。類薬ではロシュのErivedge(vismodegib)が第二相試験で反応率43%と良績を上げ、2012年に米国で承認された。LDE225の試験は200mgまたは800mgを経口投与して反応率を調べたもの。

既にErivedgeが存在するのだから、第二相試験に基づいて承認されるとしたら、反応率がよほど良いか、Erivedge経験者に対しても高い反応率を示したのだろう。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

オンコノヴァ、rigosertibはもう一つの第三相もフェール

(2014年2月19日発表)

オンコノヴァ(Nasdaq:ONTX)はrigosertibで二本の第三相試験を行ったが、膵癌試験に続いて、骨髄異形成症候群試験もフェールしたことが発表された。全生存期間のメジアン値が8.2ヶ月、支持療法だけの群は5.8ヶ月、ハザードレシオは0.86、p=0.27だった。

中間解析で無益性が認定された膵癌試験と同様に、今回も事後的分析でデータの良いサブグループが発見された。低メチル化剤(セルジーンのVidazaやエーザイのDacogen)による治療中に進行した、またはフェールした患者ではハザードレシオ0.67、p=0.022だったのだ。オンコノヴァは当局と今後を相談する計画。

被験者184名の6割を占めるので一概に後講釈と決めつけるわけにはいかないが、p値は決して低くはなく、72時間連続点滴であるためか偽薬が用いられないオープンレーベル試験であることも考えると、もう一本試験を実施して今回の結果が偶然ではないことを確認する必要があるだろう。

rigosertibはPI-3アルファ/ベータやPLKを阻害するマルチキナーゼ阻害剤。欧州ではバクスターが商業化権を持ち、日本ではシンバイオ製薬が臨床試験を実施中。

リンク:オンコノヴァのプレスリリース

【承認申請】


FDAがoritavancinの承認申請を受理

(2014年2月19日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は、FDAがoritavancinの承認申請を受理し優先審査を行うと発表した。適応症はグラム陽性菌(MRSAを含む)による急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症。

この抗生物質の開発歴は長く、イーライリリーがvancomycinの次世代品として90年代に臨床試験を行った。細胞膜の二ヶ所に結合するため耐性が生まれ難いことが長所と考えられていた。しかし、イーライリリーは自社開発を断念、01年にインターミューン社にアウトライセンス。その後、05年にTarganta社が権利を取得し第三相試験を経て08年に欧米で承認申請したが、治験成績が今一つであったことや副作用懸念から承認されず、09年にMDCOがTargantaを買収して追加試験を実施したもの。

リンク:MDCOのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、モルキオA症候群治療薬などに肯定的意見

(2014年2月21日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、2月の会議で、バイオマリン(Nasdaq:BMRN)の希少疾患用薬やグラクソ・スミスクラインのCOPD治療薬などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域での販売承認を受けることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

バイオマリンのVimizim(elosulfase alfa)は酵素補充療法で、IVA型ムコ多糖症(モルキオA症候群)の治療に用いる。運動機能などを改善する。

米国では今月承認されたが、命に係るアナフィラキシーのリスクが枠付警告。米国で800人、先進国全体でも3000人の希少疾患なので値段が高く、体重22.5kgの患者の場合で年38万ドル。報道によると、高額薬ランキングで第3位とのこと。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:バイオマリンのプレスリリース

GSKがテラバンス(Nasdaq:THRX)と共同開発したAnoro(umeclidinium bromide、vilanterol)は長期作用性ムスカリン拮抗剤と長期作用性ベータ2作用剤の合剤でCOPDの維持療法として一日一回、吸入する。米国では昨年12月に承認された。GSKはAdvair(fluticasone、salmeterol、和名アドエア)の特許が切れ始めているので、ステロイドとベータ2作用剤の合剤であるBreo/Relvar(fluticasone furoate、vilanterol、和名レルベア)と共に、後継薬として大きく育てたいところだ。

この二剤はどちらもGSK由来だが、二社がパイプラインを持ち寄った共同開発プロジェクトの中から生まれたため、テラバンスが最大10%の売上ロイヤルティ権を持っている。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:GSKとテラバンスのプレスリリース

一方、GSKだけが権利を持つIncruse(umeclidinium bromide)も肯定的意見を受けた。COPD維持療法薬は多くの場合、ムスカリン拮抗剤で開始し、発作を十分に予防できない場合はベータ2作用剤を追加するので、重要な品揃えになる。米国でも承認審査中。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:GSKのプレスリリース

新規活性成分ではないが、ピエール・ファーブルのHemangiol(propranolol経口液)を小児血管腫用薬として小児用途販売承認(PUMA)とすることが勧告された。

PUMAは小児疾患に有効だが既に特許が失効し製薬会社が開発しても投資を回収できない場合に適用される制度で、市場を10年間独占できる。今回の場合、60年代から高血圧の治療などに用いられているベータ・ブロッカーを、生後5週間から5ヶ月までの幼児が重い小児血管腫を発症した場合に用いる。製薬会社がPUMAを利用することは稀である模様だ。

リンク:CHMPのプレスリリース

この他に、ギリアッドが開発した慢性C型肝炎治療用の合剤(sofosbuvir、ledipasvir)をコンパッショネイト・ユース・プログラム(CUP)に採用することも勧告した。

CUPは命に係る病気の患者に未承認の薬を逸早く届けるための制度で、今回の場合、非代償性肝疾患を合併するリスクが高い患者が対象。この合剤はNS5Bポリメラーゼ阻害剤とファースト・イン・クラスのNS5A複製複合体阻害剤を配合しており、遺伝子型I型のウイルスに感染している患者の場合、インターフェロンやribavirinを併用せずにこの合剤だけで完治する可能性が高い。米国では今月承認申請、欧州でも近いうちに承認申請が受理されるのではないだろうか。

リンク:CHMPのプレスリリース

新規活性成分を含まない合剤では、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発したSGLT2阻害剤、canagliflozinとmetforminの合剤が肯定的意見を受けた。欧州ではmetforminが二型糖尿病の第一選択、SU剤が第二選択で、それ以外の薬はインスリンを除いて不応不耐の患者だけにしか適応にならない。この障壁を超える上でmetformin合剤のラインアップは商業的に不可欠だ。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:JNJのプレスリリース

一方、米国のダイナヴァックス(Nasdaq:DVAX)がB型肝炎予防ワクチンとして承認申請したHEPLISAVは、CHMPの質問事項に回答が間に合わず、承認申請撤回となった。アジュバントとしてTLR9アゴニストを混合したもので既存のワクチンより接種回数が少ない長所を持つが、治験でウェゲナー肉芽腫が発生し治験中断命令を受けたことがある。今回は腎臓疾患の患者に限定して承認申請した模様だが、治験実施施設の査察で治験実施基準違反などの懸念が浮上。安全性の検討も不十分と判定された。

リンク:CHMPのプレスリリース

また、英国のシャイアが行ったFirazyr(icatibant)の適応拡大申請も撤回となった。遺伝性血管浮腫の治療薬として承認されているブラディキニンB2受容体拮抗剤で、ACE阻害剤誘導性血管浮腫に申請されたが、治験実施施設の査察で誰に何を投与したか記録が残っていなかったり、盲検失敗が発覚したり、治験結果の収集方法がプロトコルから逸脱していたり、様々な欠陥が見つかったため、CHMPがエビデンスとしての有効性を認めなかった。

リンク:CHMPのプレスリリース

今回、治験の実施方法が原因で承認されない事例が重なったのは偶然だろうが、このようなケースは決して珍しくない。これらの試験に不正があったのか、それとも単純なミスだったのかは明らかではないが、医薬品ビジネスが巨大化し、不埒な輩が現れても不思議ではなくなったことは確かである。医学研究者に対する公的資金援助が減少し、外部から研究資金を獲得することが奨励される経済環境では尚更だ。

不適切なことをする医学者に悪意があるとは限らない。誰だって有効な新薬の登場を渇望しており、治験に参加する医師も治験成功を望んでいるだろう。薬効評価が甘くなっても不思議はない。その意味で、あらゆる臨床試験にはバイアスがある。

私はKYOTO HEART STUDYの治験論文を読んで違和感を覚えたが、眉に唾を付けた経験は他にもある。臨床試験の費用と成功した時に得る利益が巨大化した今日では、リターンの大きさと釣り合いを取るために、今回の治験施設の査察のような監視の厳格化とペナルティの強化が必要だ。少なくとも、性善説は捨てなければならない。

【承認】


膿胞性線維症治療薬の対象人口が拡大

(2014年2月21日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は、Kalydeco(ivacaftor)の適応拡大がFDAに承認されたと発表した。2012年に承認された時はCFTR遺伝子にG551D置換を持つ膿胞性線維症だけが対象だったが、新たにG178Rなど8種類の置換型も適応となった。米国の対象人口が1200人から1350人に増加することになる。

膿胞性線維症はCFTR蛋白の遺伝子に欠損があり、粘液が肺に蓄積、感染症を発症しやすくなる。KalydecoはCFTRをポテンシエートする作用を持ち、CFTRチャネルの開口時間を長期化する。G551D置換などの患者に有効だが、該当するのは患者の5%程度である。

患者の5割程度を占めるF508欠損型に関しては十分な効果は無いが、VX-809(lumacaftor)併用の第三相試験が進行しており年内に開票する見込み。VX-809はCFTRコレクターと呼ばれており、CFTR蛋白が細胞表面に移行するのを助ける。他にも幾つかの変異型に対するKalydecoの試験が進行中。

リンク:ヴァーテックスのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年2月16日

海外医薬ニュース2014年2月16日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ギリアッドがC型肝炎治療用合剤を承認申請
  • FDA諮問委員会はcangrelorの承認を支持せず
  • FDAはイグザレルトの適応拡大を認めず
  • 米国でモルキオA症候群治療薬が承認
  • FDAがImbruvicaをCLLにも承認
  • FDAがオングリザの心不全リスクを検討へ


【承認申請】


ギリアッドがC型肝炎治療用合剤を承認申請

(2014年2月10日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)はSovaldi(sofosbuvir)とGS-5885(ledipasvir)の合剤を米国で承認申請した。欧州などでも3月までに承認申請する予定。遺伝子型I型の慢性C型肝炎の治療薬で、一日一剤を最短で12週間服用するだけで済む。日米欧はI型感染者が多く、米国の場合75%を占める。

Sovaldiは米国で昨年12月に承認されたNS5Bポリメラーゼ阻害剤。GS-5885はNS5A複製複合体阻害剤で、どちらもI型C型肝炎ウイルスのゲノムに含まれる、宿主細胞内で複製・増殖するのに必要な酵素を阻害する。臨床試験ではribavirinを併用する群も設定されたが、一次治療でも二次治療でも奏効率は二剤併用と大差なかった。FDAからブレークスルーセラピー指定を受けており、優先審査を受けることになりそうだ。インターフェロンもribavirinも不要な、簡便な治療法が年内にも登場することになる。

アッヴィ(NYSE:ABBV)も3種類の新薬を併用するレジメンを6月までに承認申請する見込み。奏効率はこちらの方が若干高いように見えるが、どちらも90%以上なので大きな差がある訳ではない。アッヴィのレジメンは二種類の新薬とritonavirの合剤と一種類の新薬を併用するのでピル数が多く、また、おそらく、薬剤費も高くなるだろう。

アッヴィが3剤併用レジメンの開発を優先したのは将来的に3剤併用が主流になることを見越して先手を打つ狙いと推測されるが、ギリアッドの2剤併用の効果が予想以上に高かったために空振りに終わりそうだ。私自身、NS5A複製複合体阻害剤には注目していたが、ribavirin抜きでこんなに高い奏効率を達成できるとは思わなかった。

もう一つ、意外だったのは、NS5A複製複合体阻害剤の開発で先行していたBMSがギリアッドに抜かれてしまったことだ。BMSは抗PD-1モノクローナル抗体の承認申請でもMSDに追い抜かれてしまった。臨床開発に何か問題があるのだろうか?

リンク:ギリアッドのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はcangrelorの承認を支持せず

(2014年2月12日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は点滴静注用P2Y12阻害剤cangrelorをPCIを受ける冠動脈疾患患者や心臓手術などに備えて既存のP2Y12阻害剤の服用を中断した患者の心筋梗塞予防薬として承認申請したが、FDA心臓腎臓薬諮問委員会の支持を受けられなかった。前者の適応については9人の委員中7人が、後者は全員が、反対した。

後者の理由は簡単だ。臨床試験の主評価項目が血小板凝集抑制という代理マーカーに過ぎず、心筋梗塞防止効果が検討されていないからだ。それでも承認申請したのは、取れればラッキーと考えたのだろう。勿論、本命の適応症ではないだろう。

前者に関してネックになったのは主として3点。第一に、最初に実施された二本の第三相試験がフェールしたこと。三本目は心筋梗塞の定義(判定方法)を変えており、以前の二本とは異なる試験なのだが、小さな違いを無視すれば治験成績は一勝二敗となる。

思い出すのは京都府立医科大学や慈恵医大が主導したvalsartanのアウトカム試験だ。日本のvalsartanのアウトカム試験は二勝一敗だが、海外で実施された同様な試験や日本で実施されたcandesartanの二本の試験がフェールしたことを考えれば、成功した二本の方を疑うのが常識人の生活の知恵である。

第二のネックは、三本目の試験では本当の意味での標準療法が採用・実践されていなかったこと。cangrelor群は周術期に投与し終了後にPlavix(clopidogrel)を600mg投与、対照群は施術前にPlavixを600mgまたは300mg投与する用法を採用したが、Plavixの用量が異なることを調整した解析では有意な差は無かった。更に、Plavixの投与タイミングも米国の標準的な慣行より遅かった。また、PCIではGPIIb/IIIa阻害剤を併用することがしばしばあるが、この試験では禁止されていて、そのことが患者向け説明書に記されていなかった。

第三のネックは出血リスクと便益のバランス。cangrelor群の心血管イベントが有意に少なかったとは言え、減ったのは専ら周術期のCKMBの変化に基づいて判定された心筋梗塞なので、臨床的な意義はそれほど大きくない。出血という現実の脅威を覚悟してまで使うべきなのか、難しい問題だ。

FDAの審査担当者はPCIについては好意的に評価したが、心臓腎臓薬承認審査チームのリーダーであるThomas Marciniak医学博士が今回も臨床試験のデザインや実践内容に噛みついた。イーライリリー/第一三共のEfient(prasugrel)と言い、後述のバイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban)と言い、博士の言動には今後も要注目だ。

これら二剤のPCI試験も、cangrelorの第三の試験も、主導したのは米国の血栓学共同試験グループ、TIMIである。研究者主導試験は製薬会社の影響を受けないので信頼性が高く、大規模なアウトカム試験は良質のエビデンス、という常識は過去のものになったのだろうか?

おそらく、問題は別の箇所にあるのだろう。アウトカム試験が大規模になりすぎて、小さな差でも統計学的に有意になってしまう。しかし、小さな差を正しく検出するためには試験を慎重、確実に行う必要があり、そのためには、対照薬の用法や標準療法の内容、施行要領、被験者の追跡方法などを厳格にコントロールする必要がある。

アウトカム試験の鉄則は日常医療の慣行に即して実施することであり、だからこそ、様々な患者を治療する様々な医療施設に適用できるエビデンスを生み出すことができるのだが、科学研究の原点に回帰して、小さなノイズを排除するために慎重、細心、厳格な試験を行う必要があるだろう。

リンク:メディスンズ・カンパニーのプレスリリース

FDAはイグザレルトの適応拡大を認めず

(2014年2月14日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、バイエルから導入したXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を急性冠症候群の治療に用いる適応拡大承認申請を2011年に行い、EUでは一部の患者向けに承認されたが、米国は三度、審査完了通知を受領した。

2012年に開催された諮問委員会では、Marciniak医学博士が臨床試験の信頼性に疑問を提示。諮問委員の意見は分かれたが承認反対が賛成を上回り、FDAは審査完了通知を出した。JNJは追跡打切り例のその後を追跡調査して提出したが、再び審査完了となった。JNJは投与期間を90日間に限定して再承認申請したが、今年1月に開催された諮問委員会は、11人中一人も支持しなかった。90日間投与のデータは事後的分析に過ぎないので信頼性が低く、また、データ自体もそれほど良くなかったからだ。

費用の掛かる大規模試験をもう一回行うとは考え難く、おそらく、この用途は開発中止になるだろう。BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)の急性冠症候群試験は出血リスクが原因で途中で中止になった。Plavix、アスピリン、ワーファリンの三剤同時服用に関しても出血リスクが高まるだけで心筋梗塞再発効果は高まらないという研究結果が発表されており、結局、P2Y12阻害剤とアスピリンがあれば、抗血栓薬を追加する必要はないのだろう。

リンク:JNJのプレスリリース

【承認】


米国でモルキオA症候群治療薬が承認

(2014年2月14日発表)

FDAは、バイオマリン(Nasdaq:BMRN)のVimizim(elosulfase alfa)をムコ多糖症IV-A型(モルキオA症候群)の治療薬として承認した。この疾患の治療薬は初。また、希少小児疾患優先審査バウチャーを獲得したのも初。

モルキオA症候群は、GALNSという酵素の機能不全が原因でグリコサミノグルカンが分解されずに蓄積、骨の異形成、低身長、関節異常などの症状が表れる。患者数は世界で3000人、米国は800人だが、診断されていない患者も多いようだ。VimizimはGALNSを薬剤化した酵素補充療法。5~57歳の患者を24週間治療した試験では、週一回投与した群で、6分歩行検査の成績が偽薬比22.5メートル改善した。レーベルでは命に係るアナフィラキシーのリスクが警告されている。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バイオマリンのプレスリリース

FDAがImbruvicaをCLLにも承認

(2014年2月12日発表)

FDAは、Btk阻害剤Imbruvica(ibrutinib)を再発性慢性リンパ性白血病(CLL)用薬として承認した。昨年11月のマントルセル・リンパ腫に次ぐ、二番目の適応症で、市場規模が2倍以上に拡大した。

BtkはBセルの生存を助長する三種類のメカニズムに関与するチロシンキナーゼで、阻害するとアポトーシスを誘導できる。再発性CLLの第二相試験では客観的反応率(ORR)が58%、反応持続期間は5~24ヶ月だった。今回の承認はこのデータに基づく加速承認だが、先月、第三相のArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)対照試験が中間解析で成功したので、早晩、本承認に切り替わるだろう。

マントルセル・リンパ腫の治療は140mgカプセル4個を一日一回服用、薬剤費はWAC(問屋取得価格)ベースで月10900ドルだが、CLLは3個と少ないので多少安くなる。米国の年間発症数はCLLが3倍多い。

Imbruvicaはファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発したもの。米国の売上はファーマコサイクリクスが、海外の売上はJNJが計上し、開発費はJNJが6割負担、利益は両社で折半する。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがオングリザの心不全リスクを検討へ

(2014年2月11日発表)

FDAは、アストラゼネカの二型糖尿病用DPP-4阻害剤、Onglyza(saxagliptin、和名オングリザ)の心不全リスクを検討すべく、SAVOR-TIMI 53試験のデータの提出をメーカー側に要求したことを発表した。

この試験は承認時のフェーズIVコミットメントの一つで、主評価項目は様々な心血管疾患の複合評価項目だが、膵炎を始めとして様々な安全性監視項目が設けられている。2015年7月に完了し、2016年1月までに結果をFDAに提出するスケジュールだった。

昨年9月のEASD欧州糖尿病研究学会で結果が発表され、New England Journal of Medicine誌のホームページで論文も刊行された。主評価項目では群間差はなかったが、意外なことに、心不全による入院のリスクが対照群の1.27倍、p=0.007だった。発生率はOnglyza群が3.5%、対照群は2.8%なので、決して低くはない。心不全のリスクが元々高い患者や、BNP値上昇の見られる患者で特にリスクが高いようだ。

主評価項目の集計対象イベントの一つなので判定に過ちがあった可能性は低い。高リスク患者に偏りがあった可能性や、多重性による誤謬である可能性は残っているが、2013年9月8日号で書いたように、安全性に関わることなので無垢が証明されるまでは慎重に受け止めた方が良いだろう。

FDAは、Onglyzaを服用している患者は自己の判断で服用を中止すべきではない、もし懸念があるなら担当医に相談せよ、と述べている。その通りだ。通常なら、十分な情報も無いのに相談されても困るだろうと書くところだが、今回は4ヶ月前に治験論文が出ているし、メーカー側も学会発表時のプレスリリースで明記しているので、医師は知っている筈だ。

一つ残念なのは、NEJM論文は学会発表時にはオープンアクセスだったが、現在では抄録しか一般公開されていない。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:NEJM論文(抄録)

リンク:アストラゼネカらのEASD発表時のプレスリリース(13/9/2付)

今週は以上です。

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2014年2月9日

海外医薬ニュース2014年2月9日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • MSDが抗PD-1抗体でコラボ作戦
  • エーザイ、甲状腺癌用薬の第三相が成功
  • ファイザー、CDK4/6阻害剤の第二相乳癌試験が成功
  • 新作用機序のIBS-d治療薬の第三相が成功
  • バイオジェン・アイデック、TecfideraがEUで承認


【今週の話題】


MSDが抗PD-1抗体でコラボ作戦

(2014年2月5日発表)

MSDは抗PD-1抗体MK-3475(lambrolizumab)でBMS/小野薬品やレガンド側をブロックする抗体を開発しているロシュと激しい先陣争いを繰り広げているが、米国での承認申請は、先月、ローリング承認申請を開始し一歩先んじた。併用法の開発では抗CTLA4抗体Yervoy(ipilimumab)を商品化しているBMSの方が有利に見えるが、MSDが様々な企業とコラボ戦略を開始した。

昨年12月にGSKとVotrient(pazopanib、和名ヴォトリエント)など複数のコンパウンドの併用試験で提携したのに続いて、今回、三社とのコラボが発表された。まず、ファイザー。対象は腎細胞腫用薬Inlyta(axitinib、和名インライタ)やPF-05082566(抗ヒト4-1BB完全ヒト化アゴニスティック抗体)。

InlytaはVotrientと同じVEGF受容体阻害剤なので、どちらかと言えばついでなのだろう。ファイザーはSutent(sunitinib、和名スーテント)も持っているのでInlytaの位置付けは微妙であり、何か違った特徴を持たせる必要がある。MSDの狙いは4-1BB(別名CD137)だろう。活性化した免疫細胞が発現する共刺激受容体を、アゴニスティック抗体で刺激することよって、免疫を強化する。第一相段階のようだ。

次に、インサイト(Nasdaq:INCY)と、INCB24360(indoleamine 2,3-dioxygenase<IDO>阻害剤)併用で非小細胞性肺癌などの第1/2相試験を行う。IDOはトリプトファンの代謝酵素で、制御的免疫細胞が分泌して免疫活動を抑制する。様々な腫瘍で高度発現しており、腫瘍細胞が免疫監視を免れるのに貢献しているようだ。

更に、アムジェンとtalimogene laherparepvec併用で悪性黒色腫の第1/2相試験を行う。単純ヘルペスウイルスにGM-CSFの遺伝子を組込んだ遺伝子療法で、腫瘍細胞に注射するとウイルスが増殖して破壊、GM-CSFを分泌して免疫機構の注意を惹き、他の腫瘍細胞を攻撃させる。昨年11月にモノセラピーで悪性黒色腫の第三相試験成功が発表された。

コラボの目的は、第一に、スピードアップだろう。一つでも多くの作用機序の薬と試験して有望な組み合わせを発見する。第二は費用負担の緩和。第三は、言うまでもなく、MSDが臨床開発段階のコンパウンドを持っていない分野の補完。MSDと言えば昔は自前主義で、他社がユニークなコンパウンドや技術を発見しても、提携せずに自社で開発したがる傾向があった。スタチンの逸話は、少なくとも日本では有名だ。しかし、時代は変わった。

時代が変わった一因は、開発段階の薬同士の併用試験が広く認められるようになったことだ。慢性C型肝炎ではコラボが一般的になっている。但し、このコラボはあくまで特定の臨床試験に係るものだ。MSDも併用のプルーフ・オブ・コンセプトに成功したら、その後は自社の4-1BBアゴニスティック抗体やIDO阻害剤を開発することになるのではないだろうか。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:同、GSK提携(13年12月18日付)

【新薬開発】


エーザイ、甲状腺癌用薬の第三相が成功

(2014年2月3日発表)

エーザイはE7080(lenvatinib)の進行性放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺癌に対する第三相試験が成功したと発表した。3月までに承認申請に向かう見込み。承認されたら、小分子の分子標的薬では日本の製薬会社で初になる。尤も、用途はユニークだがVEGF受容体阻害剤は外資系製薬会社が数多く商品化しているので新味はない。今回の成功を第一歩に、世界に誇る新薬の開発に拍車を掛けてもらいたい。

E7080がもう一つユニークなのは、SFJファーマシューティカルズとスポンサー契約を結んでいることだ。SFJは今回の第三相試験の費用をすべて負担し、もし成功して販売承認を取得したら成功報酬を得る。ミーツードラッグの方が成功確率が高いのでSFJには良かっただろう。エーザイの側も、腫瘍学は適応症や併用法が数多いので、前項のMSDのように開発リスクをシェアしてくれるスポンサーがいれば有用だ。エーザイはクインタイルズともリスクシェアリング契約を結んでいる。

E7080は肝細胞腫でもNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)対照第三相試験を実施中で、2015年頃に結果が出そうだ。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

ファイザー、CDK4/6阻害剤の第二相乳癌試験が成功

(2014年2月3日発表)

ファイザーは、PD-0332991(palbociclib)の第二相試験が成功したと発表した。中間解析は中々良さそうなデータだったので、第三相試験の結果が15年頃に出るのを待たずに承認申請する可能性がありそうだ。この中間解析データに基づいてFDAからブレークスルーセラピー指定を受けている。

PD-0332991はCDK4/6阻害剤。サイクリン4と6を阻害して、細胞周期がG1期からS期に進むのを妨げる。癌細胞は細胞分裂が完了せず、アポトーシスすることになる。今回の第二相試験の対象は、エストロゲン受容体陽性、her2陰性の局所進行性/転移性乳癌に罹患する閉経後女性。

アロマターゼ阻害剤Femara(letrozole、和名フェマーラ、ノバルティス)とPD-0332991(125mg、一日一回、経口投与)または偽薬を併用したところ、PFS(無進行生存期間)が統計学的に有意な、そして、臨床的にも意味のある改善が見られた由。中間解析ではメジアンが26.1ヶ月対7.5ヶ月、ハザードレシオ0.37だった。

PD-0332991は同様なデザインの第三相試験の他に、ホルモン療法不応患者を対象としたFaslodex(fulvestrant、和名フェソロデックス、アストラゼネカ)併用試験と、ネオアジュバント(術前化学療法)と摘出術を受けた再発リスクの高い患者を対象としたアジュバント試験も進行中。乳癌の過半がエストロゲン受容体陽性、her2陰性なので、将来性は高そうだ。

リンク:ファイザーのプレスリリース

新作用機序のIBS-d治療薬の第三相が成功

(2014年2月4日発表)

Furiex Pharmaceuticals(Nasdaq:FURX)は、MuDelta(eluxadoline)の第三相IBS-d(下痢主導型過敏性腸症候群)試験が成功したと発表した。6月までに承認申請する予定。MeDeltaはミュー・オピオイド受容体にはアゴニストとして、デルタ・オピオイド受容体にはアンタゴニストとして作用する経口剤。ミューを作動して下痢を治療し、デルタを拮抗して便秘副作用を抑えるアイディアだ。全身的な暴露は小さく、腸のオピオイド受容体に局所的に作用する。

第三相試験では75mgまたは100mgを一日二回投与する用法をテスト。下痢と腹痛の複合評価項目を用いて奏効率を評価した。IBS-dはFDAとEUの評価基準が若干異なるが、FDA基準(12週間)では偽薬、75mg、100mgの各群が一本は16.2%、28.9%、29.5%。もう一本は17.1%、23.9%、25.1%となった。EU基準(26週間)では各20.2%、30.4%、32.6%と、19.0%、23.4%、29.3%となった。

治療効果は二本目の試験のほうが小さく、75mg群のp値はFDA基準が0.014、EU基準は0.11だった(それ以外は全て0.004以下)。用量が二種類、主評価項目が二つあるのでp値の閾値は低く設定されている筈であり、75mgは一本成功、一本フェールと受け止めた方が良さそうだ。

主な有害事象の発生率は便秘が約8%(偽薬2%)、悪心7%(4%)と若干多かった。膵炎は0.3%、何れも軽度で、大酒のみなどリスク因子を持つ人が多かったようだが、治験医の報告を第三者が査読するプロトコルが導入されたようなので、おそらく重点監視項目だったのだろう。これまでのIBS-d治療薬は虚血性大腸炎リスクが原因で承認されなかったり、用途限定を受けたりしたものが多い。作用機序が異なるものの、直ぐに命に係る病気ではないので、承認審査で稀だが深刻な有害事象が発生していないか、精査されることになるだろう。

Furiexは武田薬品のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)などの開発などに携わったPPDの治験受託・開発部門が2010年にスピンアウトしてできた会社。MuDeltaは2011年にヤンセンから権利を取得した。コールバック・オプションは行使されなかったようなので、自社で販売するのか、ライセンスアウトするのかも注目される。

リンク:Furiexのプレスリリース

【承認】


バイオジェン・アイデック、TecfideraがEUで承認

(2014年2月3日発表)

バイオジェン・アイデックは、再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬Tecfidera(dimethyl fumarate)がEUで承認されたと発表した。先に発売された米国では経口剤のトップブランドになっており、欧州でも成功しそうだ。

EUは既に承認されている薬の代謝物や異性体を新規活性成分と認めることに否定的で、臨床的に重要な違いがある場合に限定している。fumarateはドイツで乾癬治療薬として20年の市販歴を持つため、当初は新規活性成分と認めなかったが、その後、意見を変えた。このため、承認後10年間はGE薬は販売されない。

リンク:バイオジェン・アイデックのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年2月2日

海外医薬ニュース2014年2月2日号

 


【ニュース・ヘッドライン】




  • メディベーション/アステラスの抗癌剤の適応拡大試験が大成功
  • 大塚とルンドベックの非定型向精神薬の第三相が成功
  • ファイザー、抗癌剤の第三相が二本フェール
  • アヴェオ/アステラスの開発品の前途が更に暗くなった
  • ノバルティスが第二のALK阻害剤を承認申請
  • FDA諮問委員会がMSDの第二の経口減感作療法も支持
  • 米国で非24時間障害用薬が初承認


【新薬開発】


メディベーション/アステラスの抗癌剤の適応拡大試験が大成功

(2014年1月28日発表)

メディベーション(Nasdaq:MDVN)と開発販売パートナーのアステラス製薬が2012年に発売したXtandi(enzalutamide)の適応拡大試験の結果が、米国臨床腫瘍学会泌尿生殖器癌シンポジウム(GU ASCO)で発表された。昨年10月の発表通りの良いデータで、開発が一歩先行しているジョンソン・エンド・ジョンソンのZytiga(abiraterone acetate)と比べて優っているように見える。

時間はかかるだろうが、将来的には黄体形成ホルモン放出ホルモンに代わって早期前立腺癌に用いられる可能性もありそうだ。

Xtandiはアンドロゲン受容体のシグナル伝達を阻害する経口剤で、ホルモン療法の一つ。前立腺癌は緩徐であることが多く、高齢者はLupron(leuprolide acetate、和名リュープリン)のような黄体形成ホルモン放出ホルモンで男性ホルモンの分泌を抑制することによって癌の進行を抑え、天寿を全うできる可能性がある。

しかし、ホルモン療法に反応しなくなる患者もいて、CRPC(去勢抵抗性前立腺癌)と呼ばれる(ホルモン療法は薬物去勢療法とも呼ばれるのでこのような言い方になる)。PSA値が著しく上昇すると要注意で、具体的なタイミングについてはコンセンサスは無いようだが、早い段階で次の治療に進む方向に段々向かっている。他のホルモン療法薬も無効になり転移した場合、これまでは、症状が悪化した段階で化学療法を施行するパターンが多かった。多くの副作用を持つのでギリギリまで待機するのである。

XtandiやZytigaの最初の適応症は化学療法に反応しない患者を対象としていた。化学療法は英語でキモセラピー(chemotherapy)なので、ポスト・キモと呼ばれる。今回の適応拡大試験は症状がない、または軽微で、化学療法の対象にはならない転移性CRPCを対象としており、プリ・キモと呼ばれている。CYP17A1阻害剤Zytigaは、2012年に適応拡大が承認され、対象患者数が倍増した。

この二剤のプリ・キモのデータを比較すると、Xtandiは全生存期間のハザードレシオが0.71、Zytigaは0.79なのでXtandiのほうが若干良い。違いは効果発現の速さで、カプラン・マイヤー・カーブ(生存曲線)を見るとXtandiの曲線は偽薬の曲線と早い段階で乖離しはじめている。2年生存率はどちらも70%程度で、偽薬群の60%程度を10ポイント程度上回っているが、Zytigaの1年生存率は偽薬と大差ない。

昨年10月にヘッドライン・データが公表された時はメジアン生存期間が32.4ヶ月対30.2ヶ月と群間差が小さいことがやや失望的だった(Zytigaの試験は35.3ヶ月対30.1ヶ月)。今回分かったのは、メジアン値周辺の解析対象症例数が各群数十人と、著しく少ないことだ(治験全体では1717人を組入れた)。サンプル数が少ないため推定誤差が大きいのである。

この試験は中間解析で主目的を達成したため、観察期間が短くなりメジアン生存期間を適切に推定する検出力が損なわれてしまったのだろう。事情はZytigaの試験も同じで、アルファの配分が小さいことも響き、全生存の解析に有意差が出なかった。

異なった試験のデータを比較するのは難しく、Xtandiの試験の方が余命の短い患者が多かった可能性がある。偽薬群の当初の死亡率がZytigaの試験より高いからである。それでも、ハザードレシオで0.1近い差があることは無視できないだろう。

もう一つの主評価項目である放射線学的無進行生存期間(rPFS)でも大変良い結果が出た。尤も、この評価方法はCT/MRI検査を行うタイミングによって左右されるので、私は好きではない。Zytigaの試験と同様に、進行の兆候が無くても2ヶ月に一回検査するプロトコルであったことが容易に推定できるほど、検査時に進行認定される患者が多いのである。偽薬に割付けられた患者はPSA値が上昇し続けるだろうから医師が心配して早めに検査を行う可能性があり、バイアスが生じる余地がある。

メジアン投与期間が16.6ヶ月(偽薬群は4.6ヶ月)と長かったことは売上面でポジティブ。グレード3以上の有害事象の発生率は43%で偽薬群の37%より高かったが、投与期間が長いので多少割り引いて考えてもよいだろう。グレード3以上の心血管有害事象は2.8%対2.1%で、あまり増えなかったのはポジティブ。

両社は適応拡大申請に向かう予定。米国では承認を待たず、権威のあるコンペンディア(医薬品や治療法の解説書)に収載され保険還付が認められた段階で、使われるようになりそうだ。今後の適応拡大は、転移前のCRPCを対象とする第三相試験が進行中で2015年頃に結果が出る見込み。また、Zytigaなどとの併用法も開発されるだろう。

リンク:両社のプレスリリース(1/29付け、和文)

大塚とルンドベックの非定型向精神薬の第三相が成功

(2014年1月24日発表)

大塚製薬と開発パートナーであるルンドベックは、OPC-34712(brexpiprazole)の最初の第三相試験が成功したと発表した。データは3月に欧州精神科学会議で発表される予定。

OPC-34712は、D2受容体と5HT1A受容体を部分作動、5HT2受容体を阻害する作用を持ち、作用の点でも構造の点でも大塚のAbilify(aripiprazole、和名エビリファイ)と似ている。ClinicalTrials.govには第3相試験が15本登録されており、統合失調症だけでなく様々な用途が開発されている。Abilifyは特許期間が残り少ないので今後の夢を類縁体に託したのだろう。

今回成功したのは難治性鬱病に追加投与するアジャンクト用法で、既存の非定型向精神薬でもポピュラーな用途。症状診断スコアが偽薬比有意に改善したとのことだ。ClinicalTrials.govによれば二本が完了したはずだが、どちらが成功したのか、もう一本はどうだったのかは明らかではない。

リンク:大塚製薬のプレスリリース(和文、pdf)

ファイザー、抗癌剤の第三相が二本フェール

(2014年1月27日発表)

ファイザーは、PF-00299804(dacomitinib)の第三相試験が二本フェールしたと発表した。もう一本進行中で、こちらは患者を厳選しているので成功する可能性がゼロとは言えないだろう。

PF-00299804は成長因子受容体のうちEGFR(erbB1)、her2(erbB2)、erbB4を不可逆的に阻害するチロシンキナーゼ阻害剤。09年に末期非小細胞性肺癌で化学療法とTarceva(和名タルセバ)による前治療歴を持つ患者の三次治療薬として第三相入りしたが、今回、フェールしていたことが明らかにされた。11年には二次、三次治療薬としてのTarceva対照試験も開始されたが、これもフェールだった。

残っているのはIressa(和名イレッサ)対照一次治療試験。二本フェールしたのだから成功を期待するのは難しいが、僅かな希望は、対象をEGFR活性化変異を持つ癌に限定していることだ。TarcevaもIressaも当初は全ての非小細胞性肺癌に承認されたが、その後、EGFR活性化変異を持つ症例に限定された。ファイザーの最初の二本は限定していないので、EGFR阻害剤が効く患者のデータが効かない患者のデータで希薄化され、差が検出できなかった可能性がある。要するに、実験方法が適切でなかった。

三本目は正しい患者を対象にしているので正しい結果が出るだろう。これまでに開発された薬を見ると、EGFRとher2の両方を阻害しても肺癌に対する効果はEGFRだけ阻害するTarcevaやIressaと大差ないようだ。一方、EGFRを不可逆的に(持続的に)阻害する薬は若干効果が高そうだ。erbB4も含めて不可逆的に阻害することで効果を増強できるかどうか、今度は答えが出るだろう。

リンク:ファイザーのプレスリリース

アヴェオ/アステラスの開発品の前途が更に暗くなった

(2014年1月30日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq:AVEO)は、Tivopath(tivozanib)のトリプルネガティブ乳癌第二相試験を中止したと発表した。組入れが順調に進まないことを理由にしているが、おそらく、開発プログラム全体の前途に自信を無くし戦線を縮小し始めたのだろう。

tivozanibはキリンからインライセンスしたマルチキナーゼ阻害剤でVEGFR-1、2、3やc-KIT、PDGFRなどを阻害する。12年に腎細胞腫の第三相試験が成功し米国で承認申請されたが、延命効果が全く見られなかったことから承認されず、アステラス製薬は欧州での承認申請を断念、腎細胞腫における追加試験の費用も負担しないことを決めた。VEGFR阻害剤は参入企業が多く、今から開発してもビジネス・チャンスは残っていないかもしれない。

今回の試験の費用は両社折半で、二社協議の上で中止を決定した模様だが、プレスリリースはアヴェオ単独で発表しており、その意味でもアステラスの熱は冷めたのだろう。

リンク:アヴェオのプレスリリース

【承認申請】


ノバルティスが第二のALK阻害剤と抗IL-17抗体を承認申請

(2014年1月29日発表)

ノバルティスは、2013年決算の発表に合わせてパイプライン・アップデートを行い、LDK378を米国でALK変異型非小細胞性肺癌用薬として承認申請したことを明らかにした。ファイザーのXalkori(crizotinib、和名ザイコーリ)に次ぐ第二のALK阻害剤で、白金薬ベースの併用療法とXalkoriによる前治療歴を持つ患者を対象とした第二相試験に基づく加速承認申請。第一相試験では750mgを一日一回経口投与して反応率が60%、Xalkori経験者でも59%だった。

ALKはanaplastic lymphoma kinaseの略で当初はリンパ腫に関与する酵素と考えられたが、日本の基礎研究で一部の肺癌に関与していることが判明した。染色体転座でALKが他の遺伝子と結合し著しく活性の高いALKを作るようになる。非小細胞性肺癌の5%程度が該当する模様だ。日本の研究成果である割にはALK阻害剤の第一号も第二号も外資企業なのは残念で内資系にも頑張ってもらいたいが、両社とも海外と並行して日本でも臨床開発を進めているので、患者にとっては最早、外資も内資も関係ないのかもしれない。

AIN457(secukinumab)を欧米でプラク乾癬に承認申請したことも明らかにされた。第三相試験では、TNF阻害剤であるアムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)より効果が有意に優れていた。用法は、当初は週一回、その後は4週間に一回の皮注である模様だ。IL-17に結合する抗体医薬で、イーライリリーやアムジェンも開発している。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がMSDの第二の経口減感作療法も支持

(2014年1月28日発表)

MSDは、FDAのアレルギー製品諮問委員会の多数がRagwitekの承認を支持したと発表した。賛成は9人の委員のうち6人、二人は反対、一人は棄権したが、この3人は、薬効確認試験の対象が50歳までに限定されていて50~65歳に関するエビデンスが不足していることが理由で、50歳までなら全員賛成だったようだ。

Ragwitekはブタクサ・アレルギーによる鼻結膜炎の予防薬。ブタクサのアレルゲンを含有する舌下錠で、シーズンの12週間前から毎日服用し、体をアレルゲンに慣れさせる減感作療法だ。これまでの注射用薬より使いやすい。稀に深刻な過敏反応が起きることがあるので、患者は自己注用エピネフィリンを常備することになりそうだ。

経口減感作療法は欧州が先行しており、MSDはデンマークのAlk Abelloからライセンス。チモシー・アレルギー用のGrastekは昨年11月に諮問委員会の支持を獲得。同月、フランスのStallergenes社が承認申請した5種類の草アレルゲンを配合したOralairも諮問委員会の支持を受けた。特許薬というほどではないが効く人には効くので、代替的な治療法として普及しそうだ。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


米国で非24時間障害用薬が初承認

(2014年1月31日発表)

FDAは、ヴァンダ・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:VNDA)のHetlioz(tasimelteon)を全盲者の非24時間睡眠覚醒障害の初の治療薬として承認したと発表した。この疾患は昼夜の変化を感じないことが理由で概日リズムが合わなくなり、睡眠、覚醒の時間が24時間サイクルとずれる。米国の罹患者は8万人。

HetliozはメラトニンのMT1/2受容体を作動する、武田の睡眠薬Rozerem(ramelteon、和名ロゼレム)に類似した作用を持つ薬。04年にBMSからBMS-214778をライセンスしたもの。主な有害事象は、頭痛、肝機能検査値異常、悪夢・異常夢など。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ヴァンダのプレスリリース

今週は以上です。

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