2014年1月26日

海外医薬ニュース2014年1月26日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • ランバキシーはAPIも米国輸入禁止に
  • BMSのnivolumab開発計画に変調?
  • ロシュ、新しい作用機序の向精神薬の第三相試験がフェール
  • CHMPがバイエルの肺高血圧症用薬などに肯定的意見
  • FDAはAMAGの静注用鉄の適応拡大を認めず
  • EUがGSKのインテグラーゼ阻害剤を承認


【今週の話題】


ランバキシーはAPIも米国輸入禁止に

(2014年1月23日発表)

FDAは、第一三共の子会社であるインドのランバキシーがToansa工場で生産するAPI(医薬品の原体)に関して、米国での販売を禁止する処分を取った。他の国で製品化されたものも禁止。同工場は同社が米国で販売しているジェネリック薬の7割を担っており、大きな打撃だ。

同社はPaonta Sahibなど三工場で生産する医薬品についても米国輸入禁止処分を受けており、2012年にFDAと同意審決を結び、品質管理問題(cGMP問題)解消に向けて取り組んできた、筈だった。新たな問題が発覚したことは、事態が収拾に向かうどころか深刻化していることを示している。

FDAによれば、今月11日に完了した査察で、同工場の従業員が原料や中間体、そして完成したAPIが規格検査に合格しなかった場合に、許容可能な結果が出るように再試験を行ったり、不合格になったことを報告しなかったりしていた。ランバキシーは13日にFDAから第483書式(査察の所見や問題点を指摘する文書)を受領したことを発表したが、APIの対米輸出をストップしたことはFDAが23日に輸入禁止処分を発表した翌日まで、公表しなかった。

1月16日にはインドのビジネス・スタンダード紙が、他社のAPIを使って米国でDiovan(valsartan)のGE薬を発売する計画であることをスクープしたが、この動きもToansa工場産品の輸入禁止に備えたものだろう。

FDAの発表を受けてランバキシーや第一三共の株価が大きく下落した。両社はもっと早い段階で情報開示すべきだったし、株式市場も、cGMP問題は容易くは解決しないことを理解すべきだろう。

リンク:FDAのプレスリリース(1/23付)

リンク:ランバキシーのプレスリリース(1/24付)

リンク:同(1/13付)

リンク:ビジネス・スタンダード紙の関連記事(1/16付)

【新薬開発】


BMSのnivolumab開発計画に変調?

BMSは1月24日に開催した決算説明電話会議で、小野薬品と共同開発している抗PD-1抗体、BMS-936558(nivolumab)に関して、Yervoy(ipilimumab)併用肺癌試験は現在の第一相試験を継続し、直ぐには承認申請用試験には進まないことを明らかにした。非常に大きな期待を受けている薬であるため、株価が下落した。

アナリストからの質問は、殆どがnivolumabに関するものだった。両剤の併用試験に昨秋、低用量群が追加されたことや、最近治験登録されたnivolumabの第三相非小細胞性肺癌一次治療試験がPD-L1高発現例だけを対象にしていることについて多くの質問が出た。

何れも、奇異なことではないが、期待が大きいことや、ライバルのMSDが抗PD-1抗体MK-3475(lambrolizumab)のローリング承認申請を悪性黒色腫向けに開始したことなどが影響しているのだろう。BMSの強みは同社のYervoyを併用する方法の開発で先行していること、及び、肺癌や腎細胞腫でもいち早く第三相入りしていることだ。それだけに、少しの紆余曲折でもネガティブに受け止められてしまうのだろう。

BMSはASCO米国臨床腫瘍学会でnivolumabに関する様々な発表を行う予定であり、今回の電話会議では部分的な説明に留まった。肺癌は様々なタイプがあることから、BMSは患者背景に応じてYervoy併用時の用量を調整したり、併用と単剤療法を使い分ける可能性を視野に入れているような印象だ。対象患者や用量が変われば将来の年商も変わるので、株価の評価額も変わってくる。もしかしたら、アナリストは何らかの安全性懸念が発生した可能性を危惧したのかもしない。



同社がイムクローン(後にイーライリリーが買収)と共同開発したErbitux(cetuximab)は、結腸直腸癌に承認された後になって、ras主要関連遺伝子に変異のある患者には無効でむしろ有害である可能性が明らかになり、対象人口が4割程度減少した。抗癌剤の開発はスピードが重要だが、それだけに、重要なことを見落とすリスクもある。nivolumabに関しても、数々の試験の成績を総合的に評価して最適な患者、用法を探索する考えなのだろう。

尚、承認申請の時期に関しては、扁平上皮非小細胞肺癌の三次治療第二相試験が今年前半に成功したら加速承認を求める可能性があると語った。

ロシュ、新しい作用機序の向精神薬の第三相試験がフェール

(2014年1月21日発表)

ロシュは、RO4917838/RG1678(bitopertin)の第三相試験6本のうち、最初に開票した2本がフェールしたと発表した。陰性症状優勢型の統合失調症の治療は3本中2本がフェールしたことで承認申請が難しくなった。残りの三本は陰性症状、陽性症状を問わずに統合失調症治療効果を検討したものだが、事前の期待は陰性症状改善効果のほうが大きかったので、成功を期待するのは難しい。

bitopertinは一型グリシン輸送蛋白を阻害する小分子薬。統合失調症にはNMDA受容体の抑制が関連している可能性があり、この受容体の共アゴニストであるグリシンの再取込を阻害し増強することによって、症状を改善できる可能性があった。第二相試験で陰性症状改善作用が示唆されたが、統合失調症の開発は中々上手く行かないので、第三相試験成功の期待値は決して高くなかった。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがバイエルの肺高血圧症用薬などに肯定的意見

(2014年1月24日発表)

EUの医薬品科学的評価機関であるCHMPは、1月の会合で、バイエルの肺高血圧症用薬など三種類の新薬に肯定的意見を纏めた。一方、テバの多発性硬化症薬やノバルティスの急性心不全治療薬など四剤には否定的意見を出した。肯定的意見を受けたものは、2~3ヶ月内に承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的意見を受けた新薬は、まず、バイエルのAdempas(riociguat)。WHO機能クラスがIIまたはIIIのCTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)や肺動脈高血圧症の治療に用いる。どちらも100万人に数十人の希少疾患。CTEPHは切除術が第一選択なので、Adempasは切除不能あるいは切除しても症状が十分に改善しない患者に用いる。深刻な副作用としては喀血、肺出血、腎障害のリスクが高まる可能性がある。

Adempasは可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激剤。肺高血圧症に関与する三種類のパスウェイのうち、酸化窒素が血管平滑筋を弛緩するパスウェイを増強する。酸化窒素に依存しない直接的な可溶性グアニル酸シクラーゼ刺激作用も持っているようだ。この作用機序の薬は初。CTEPHの治療薬も初となる。米国では昨年10月に、日本でも今月、CTEPHに、承認された。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:バイエルのプレスリリース

次に、グラクソ・スミスクラインのEperzan(albiglutide)。二型糖尿病の治療に用いる。遺伝子組換え型GLP-1をアルブミンと細胞融合して半減期を延ばしたもので、Victoza(liraglutide)は一日一回皮注だが、Eperzanは週一回皮注で済む。効果やこの種の薬に共通する副作用である悪心嘔吐の発生率はVictozaやByetta/Bydureon(exenatide)と大差ない。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:GSKのプレスリリース

最後に、大日本住友製薬が開発し英国以外の欧州では武田が開発販売するLatuda(lurasidone)。統合失調症の治療に用いる。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

CHMPのリリースには出ていないが、ロシュのMabThera(rituximab、和名リツキサン、米名Rituxan)の皮注用新製剤も肯定的意見を受けた。現行の製剤は2時間半掛けて点滴静注するが、新製剤は5分間で投与が終了する。ハロザイム(Nasdaq:HALO)の遺伝子組換え型ヒアルロニダーゼ技術を応用したもので、皮下のヒアルロナンを一時的に零落させることによって抗体医薬のような高分子薬が通過できるようにした。ロシュは他の抗体医薬にも応用・開発中。

リンク:ロシュのプレスリリース

リンク:ハロザイムのプレスリリース

適応拡大では、ノバルティスのXolair(omalizumab、和名ゾレア)を慢性特発性蕁麻疹の治療に用いることが支持された。12歳以上で、抗ヒスタミンに十分反応しない患者が対象になる。現在は難治性喘息症に承認されている。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:ノバルティスのプレスリリース

今月は否定的意見が多かった。まず、テバがスエーデンのアクティブ・バイオテック(OMX:ACTI)からライセンスして開発したNerventra(laquinimod)。再発寛解型多発性硬化症の維持療法として承認申請されたが、第三相試験の一本がフェールしたため、すんなり承認される可能性は元々低かった。初耳だったのは、前臨床の癌原性試験や催奇性試験で懸念が生じていたこと。後者は死産が増加したり、生後時間が経ってから副作用が表面化したりするので、通常よりも厳格な注意・監視が必要である模様。

再発寛解型多発性硬化症はQOL(生活品質)を損ね10年、20年後には寝たきりになる可能性もあるが、今すぐ命に係る訳ではない。10年後のリスクを回避する治療が例え稀であっても癌を誘導するのでは、割に合わない。実際には病気が進行し既に歩行に支障が生じている患者にも使われているのだろうが、これらの薬の臨床試験は自立歩行できない患者を除外しているので、このような患者に効果があるのかどうか、分からない。

両社は、CHMPに再審査を請求する考えだ。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:両社のプレスリリース

次に、ノバルティスがCorthera社を買収して入手した遺伝子組換え型ヒトrelaxin-2、Reasanz(serelaxin)。急性心不全で入院した患者を治療した第三相試験が成功、医学会やLancetで大々的に発表されたが、CHMPの評価は厳しかった。

二種類の主評価項目のうち、5日間通算の呼吸困難症状は偽薬より有意に良かったが、CHMPによると、臨床的な意義は明確ではない。もう一つの、最初の6時間、12時間、24時間の呼吸困難症状改善奏効率は偽薬と大差なかった。そもそも、解析方法に問題がある由で、死亡・治療追加例に関しては実際の数値ではなく推定値を用いているとのこと。また、標準療法の内容に群間の偏りがある由。このため、もう一本実施して効能を確認する必要があると断じた。

CHMPは急性心不全治療薬の薬効を全死亡で評価することを好むと言われている。Reasanzの試験では、60日間の退院・生存率や心血管死・心腎不全再入院の解析はフェールしたが、180日間の心血管死や全死亡では有意な差があった。CHMPが重視しなかったのは、p値が0.02~0.03と有意性があまり高くなかったからだろう。最近のアウトカム試験は心筋梗塞や不整脈、心不全を十分改善することができなくても何故か全死亡で有意差が出ることがあり、違和感を持つことが少なくない。

ノバルティスはデータを見直して再提出し、再審査を促す考えだが、難しそうだ。二本目の第三相試験が進行中なので、結果を待つことになりそうだ。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:
ノバルティスのプレスリリース


フランスのABサイエンスが承認申請したMasiviera(masitinib)は、消化管間質腫瘍に続き、膵癌でも否定的意見を受けた。gemcitabine併用で実施した第三相試験がフェールしたこと、サブグループ分析で一部の患者に効果が示唆されたが事後的分析であること、副作用懸念、不純物に関する懸念、治験で用いられた製剤と量産バッチとの同等性、などが理由だ。ABサイエンスは異議申立を行う考え。masitinibはC-KIT阻害剤で、犬の肥満細胞腫瘍薬として販売されている。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:ABサイエンスのプレスリリース(pdf)

PTCセラピュティクス(Nasdaq:PTCT)がデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として承認申請したTranslarna(ataluren)も否定的意見。

この病気の患者の一部はジストロフィンの遺伝子にストップコドンと呼ばれる翻訳を終了させる塩基配列がある。atalurenはこのストップコドンの読み取りを阻害する薬で、通常より短いがある程度の機能を持つジストロフィンが産生されるようになる。残念ながら、後期第二相試験はフェールし、低量群は6分歩行検査が偽薬比で30メートル弱の差が見られたが有意水準には達しなかった。高量群は偽薬並みだった。

CHMPは治療効果の小ささ、用量反応関係の検討が不十分であること、作用機序の探索も不十分であることを理由に、条件付き承認を認めなかった。

PTCは再審査を請求する考え。PTCによると、CHMPは条件付き承認すると進行中の第三相試験の組入れが進まなくなり薬効確認できなくなることを心配している。再審査請求の結論が出るころには組入れがかなり進んでいる筈なので、懸念が後退するはず、という読みだ。

私はいつも思うのだが、患者が望んでいるのは新薬ではなく、自分に効く薬である。有効性の検討を十分に行わずに迅速承認し効かないかもしれない薬を使い続けることは、患者の期待をむしろ裏切ることになるのではないだろうか。

リンク:CHMPのサマリーオピニオン(pdf)

リンク:PTCのプレスリリース

CHMPの否定的意見を受け承認申請が撤回されたのが、東レのWinfuran(nalfurafine、和名レミッチ)だ。2009年1月に日本で血液透析患者のそう痒症の治療薬として承認され、鳥居薬品が販売している選択的なオピオイドカッパ受容体作動薬だが、海外の試験はフェールした模様。重度患者には穏やかな効果があったが臨床的な意味は不十分、と評価した。

日本はドラッグラグ解消のため新薬をどんどん承認しているが、海外の試験がフェールしたものも偶にある。なぜ海外試験がフェールしたのか、という疑問は、なぜ日本の試験は成功したのか、という疑問と裏腹だ。

リンク:CHMPのQ&A集




FDAはAMAGの静注用鉄の適応拡大を認めず

(2014年1月22日発表)

AMAGファーマシューティカルズ(Nasdaq:AMAG)は、Feraheme(ferumoxytol)の適応拡大申請に関してFDAから審査完了通知を受領したと発表した。安全性懸念があるようだ。

現在は、鉄欠乏性貧血で経口鉄に不耐不応の慢性腎疾患患者向けに承認されている。AMAGは慢性腎疾患以外に対象人口拡大を図ったが、FDAは、臨床試験で深刻な過敏反応/アナフィラキシー、心血管安全性、死亡リスクを評価するよう求めた。用法変更も提案した模様だ。欧州でも武田薬品が適応拡大申請中だが、見通しが暗くなった。

リンク:AMAGのプレスリリース

【承認】


EUがGSKのインテグラーゼ阻害剤を承認

(2014年1月21日発表)

GSKの抗HIV薬合弁会社であるViiVヘルスケアは、EUがTivicay(dolutegravir)を承認したと発表した。HIVの遺伝子が宿主細胞のゲノムに組入れられる時に必要なインテグラーゼ・トランスフェラーゼを阻害する薬で、先行品に耐性を持つウイルスの多くに有効。通常は多剤併用療法の一つとして50mgを一日一回服用するが、インテグラーゼ・トランスフェラーゼ阻害剤耐性ウイルスに感染している患者や、ある種の薬物相互作用のある薬を服用している患者は、50mgを一日二回服用。

Tivicayは日本たばこが創製し、ViiVヘルスケアにライセンスしたもの。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2014年1月19日

海外医薬ニュース2014年1月19日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • tivantinib、減量して治験続行
  • MSDが抗PD-1抗体を他社に先駆けて承認申請に着手
  • FDA諮問委員会はイグザレルトの適応拡大を認めず
  • FDA諮問委員会はMSDのPAR-1阻害剤を支持!
  • ギリアッドのHCVポリメラーゼ阻害剤がEUで承認


【新薬開発】


tivantinib、減量して治験続行

(2014年1月16日発表)

アーキュール(Nasdaq:ARQL)は、ARQ 197(tivantinib)のライセンス先である第一三共と協和発酵キリンの第三相試験についてアップデートを行った。第一三共が欧米などで実施している肝細胞腫試験は投与量の減量により好中球減少症の発生率が低下することが確認されたため、データ監視委員会が治験続行を勧告。取り敢えず息が繋がった。協和の試験は安全性問題で中止されたが、組入れ済みの症例の解析結果が明らかにされた。

ARQ 197は小分子のc-MET阻害剤。EGFR阻害剤とのシナジーが期待されTarceva(erlotinib)併用で非扁平細胞性非小細胞性肺癌の第三相二次治療試験が実施されたが、中間解析で延命効果がTarceva単剤を上回る可能性は著しく低いと判定され、中止となった。

一方、協和が日本などアジア地域で実施した同様な試験は、間質性肺疾患が増加、目標症例数460名だったが組入れ中止となった。307名の解析が行われたが、メジアン生存期間12.9ヶ月とTarceva単剤群の11.2ヶ月と大差なかった。尚、欧米試験ではアジアほど多発しておらず、今回の試験でも、アジア人はEGFR誘導性間質性肺疾患の感受性が高いことが示唆された。いつまでも放置しないで、原因を探索すべきだろう。

第一三共が欧米などで実施中の第三相MET過剰発現型肝細胞腫試験は、データ監視委員会が好中球減少症の増加を懸念し、昨年9月に投与量を240mg一日二回から120mg一日二回に半減するプロトコル変更を行った。その後、所定の症例数に達するまでモニターしたところ、好中球減少症の発生率が低下したため、今回の続行勧告に至った。

第三相で用いられた錠剤と第二相試験のカプセル製剤の薬物動態の違いが影響したようだ。錠剤なら120mg一日二回でカプセルの240mg一日二回と同じ血漿濃度を達成できる由である。結局、今回のトラブルは生物学的同等性の検討が不十分だったために起きたことになる。

リンク:アーキュールのプレスリリース

【承認申請】


MSDが抗PD-1抗体を他社に先駆けて承認申請に着手

(2014年1月13日発表)

MSDは、米国でMK-3475(lambrolizumab)のローリング承認申請を開始したと発表した。悪性黒色腫でBMSのYervoy(ipilimumab)による治療を既に受けた患者が対象になる。抗PD-1抗体や抗PD-L1抗体は初期臨床試験で有望な成績を上げ、第三相入り。同社とBMS、ロシュが激しい開発競争を行っているが、少なくとも現時点ではBMSを抜いて一番手に躍り出た。

今回の承認申請は後期第一相試験のデータに基づくものと推測されるが、100例以上の症例があるため、内容的には第二相に匹敵する。MSDは第一相、第二相とは思えないほど多くの症例を組入れてキチンとしたデザインの試験を行うことがあるが、今回はこの戦略が開発期間短縮に寄与したと言えるだろう。

BMSの試験も症例数の点では大差ないはずなので、MSDが承認申請できるならBMSもできないことはないはずだが、治験のデザイン(反応評価の厳格さなど)が承認審査に耐えうるものなのか、CMC(化学的評価、生産方法、生産管理)が確立しているか、なども問題になる。特に、抗体医薬は量産方法の確立が重要な課題になるので、この進み具合がポイントだろう。

癌細胞はPD-1を利用して免疫機構の機能を妨げるとされる。MK-3475やBMSが小野薬品と共同開発しているBMS-936558/ONO-4538(nivolumab)は、活性化したTセルなどが発現するPD-1に結合して、癌細胞などが発現するPD-L1やPD-L2が結合・作動するのを妨げ、間接的に免疫を強化する。一方、ロシュのRG7446/MPDL3280AはPD-L1に結合する。これまでの試験では、反応評価方法は区々だが、反応率は2~4割だった。非小細胞性肺癌にも有望そうだ。

尚、日本では小野薬品が昨年12月に承認申請、一番乗りしている。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はイグザレルトの適応拡大を認めず

(2014年1月16日発表)

FDA心臓腎臓薬諮問委員会は、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)の急性冠症候群適応拡大に関して11人の委員中10人が反対、1人が棄権、賛成はゼロという厳しい評価を下した。EUでは昨年5月に承認されており、対照的な結果になった。

Xareltoは整形術後の深静脈血栓の予防や心房細動患者の脳卒中予防に承認されている。急性冠症候群(心筋梗塞など)では亜急性期の患者を組入れた大規模なアウトカム試験が実施され、再発リスクを16%削減する効果が確認されたが、頭蓋内出血などの臨床的に重要な出血事故も有意に増加した。

比較的安全な低用量(2.5mg一日二回)が承認申請されたが、この群でも頭蓋内出血が有意に増加しているためか、FDA側が改めて薬効のエビデンスを検討。追跡打切り例が多く解析が盤石とはいえないと判定した。12年2月に開催された諮問委員会でも11人中6人が承認に反対し、審査完了となった。

米国での開発販売権を持つジョンソン・エンド・ジョンソンは打切り例の追跡調査を行いデータを提出したが、再び審査完了。FDA側の示唆を踏まえて、フォローアップがキチンとしている当初の90日間だけ投与する用法、データで申請、今回の諮問委員会に至った。しかし、90日間のデータが特に良い訳ではなく、また、事後的解析に過ぎないせいか、好意的な評価は受けられなかった。

XareltoのようなXa阻害剤はワーファリンの代替として開発されたが、このワーファリンは、アスピリン及びPlavix(clopidogrel)と併用すると重大な出血事故のリスクが高まることが判明した。BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)の第三相急性冠症候群試験も重大出血リスクから途中で打ち切られた。抗血栓薬と三剤併用するのは過剰介入なのだろう。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

FDA諮問委員会はMSDのPAR-1阻害剤を支持!

(2014年1月15日発表)

FDAの心臓腎臓薬諮問委員会は、MSDが承認申請したZontivity(vorapaxar)を検討、11人の委員中10人が賛成、1人が反対と圧倒的多数が支持した。FDA審査官も肯定的であるようなので、安定期冠動脈疾患の再発予防薬として承認される可能性が高まった。意外だ。

ZontivityはMSDが09年に411億ドルで買収したシェリング・プラウの開発品。血小板のPAR-1受容体に結合し、トロンビンが活性化した血小板の活性を更に高めるのを防ぐ。動脈で血栓が形成される初期の過程には作用しないため、PlavixのようなP2Y12阻害剤やアスピリンと補完的と考えられている。

私も期待していたが、第三相試験で大きな波乱があった。急性冠症候群を組入れた試験で重大な出血のリスクが高まることが判明、投薬中止となったのである。薬効面でもハザードレシオ0.89、p=0.07と、大きな効果を示せなかった。

リスクは脳卒中や一過性脳虚血発作(TIA;脳梗塞に進むリスクが高い)の既往患者で特に高かったため、同時進行していた安定期冠動脈疾患、脳卒中、末梢動脈疾患の患者を組入れた第三相試験は、該当患者を除外して続行、成功した。MSDはデータを精査した上で昨年、安定期冠動脈疾患で脳卒中・TIA歴のない患者に限定して承認申請した。このユニバースに限定した事後的解析によると、心筋梗塞・脳卒中・心血管疾患死のリスクを偽薬比18%削減、NNTは62人。

安全性面では、GUSTO基準に基づく中重度出血の発生率が約3年間で3.0%と偽薬群の2.0%より有意に高まった。NNHは100人という計算になる。頭蓋内出血の発生率は0.6%対0.4%で、発生率自体は低く統計的に有意ではないものの1.4倍に高まった。

私は承認されないと予想していたが、FDAも諮問委員も好意的だった。治験の規模が大きくサブセグメント分析の信頼性が許容可能なものであったことが寄与したようだが、Xareltoに対する評価と食い違うようにも感じる。

この二つの諮問委員会は登場人物が異なり、Xareltoの諮問委員会の方が煩方(うるさがた)が多かった。心血管薬審査チームのリーダーで現行のアウトカム試験実施方法を厳しく批判しているMarcinak氏も、MSDのZetia(ezetimib、和名ゼチーア)のエビデンスに関して鋭く批判したNissen博士も、薬害監視団体の代表者であるWolf氏もvorapaxarの諮問委員会には参加しなかった。諮問委員会の直前に反対派委員の招致がキャンセルされた、Efiient(prasugrel)の事例を連想してしまう。

何れにせよ、vorapaxarに重大な出血リスクがあることは確かなので、発売後は、再発リスクが特に高い患者だけに限定して、慎重に用いられることになるのではないか。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


ギリアッドのHCVポリメラーゼ阻害剤がEUで承認

(2014年1月17日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、Sovaldi(sofosbuvir)がEUで慢性C型肝炎の治療薬として承認されたと発表した。C型肝炎ウイルスのゲノムが産生するNS5Bポリメラーゼを阻害する核酸誘導体で、I型だけでなく様々なジェノタイプに有効。

ジェノタイプにより薬剤感受性が異なるため、併用レジメンや治療期間が異なる。I型、IV型、V型、VI型ウイルス感染者はribavirinやPEG化インターフェロンと三剤併用で12週間治療。但し、PEG化インターフェロンに不適・不耐な患者はribavirin併用24週間コースも可。III型は不適・不耐でない場合も含めて、この二種類のコースから選択可。

一方、II型はribavirin併用12週間コースで十分。このほかに、慢性C型肝炎で肝移植を待っている患者にribavirin併用で肝移植の時まで治療することも認められた。尚、日米欧はI型感染者が多い。

Sovaldiは米国でも昨年12月に承認、問屋取得価格が12週間分で84000ドルという大変高い価格で発売された。12週間の治療で済めばPEG化インターフェロンの費用が大幅に下がるので、もう一つの高価な新薬であるプロテアーゼ阻害剤を併用しない今回の用法なら、それほど負担は増えないだろう。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2014年1月12日

海外医薬ニュース2014年1月12日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • Btk阻害剤Imbruvicaが抗CD20抗体に勝つ
  • FXRアゴニストのNASH治療試験が成功
  • BMSがNS5A阻害剤をEUでも承認申請
  • 第一三共がリクシアナを欧米で承認申請
  • FDAがアストラゼネカのSGLT2阻害剤を遂に承認
  • FDAが悪性黒色腫の新薬併用を承認
  • EUがアブラキサンを膵癌に承認


【新薬開発】


Btk阻害剤Imbruvicaが抗CD20抗体に勝つ

(2014年1月7日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、Btk阻害剤のImbruvica(ibrutinib)がCLL(慢性リンパ性白血病)/SLL(小リンパ球性リンパ腫)の第三相二次治療試験でジェンマブ/GSKのArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)より高い効果を示したと発表した。独立データ監視委員会が中間解析でPFS(無増悪生存期間)が有意に長いと認定、Arzerra群の患者がImbruvica群にスイッチすることを認めるよう勧告したもの。データは未公表。

Imbruvicaは2013年6月に再発性難治性のマントルセルリンパ腫、CLL、SLLの三適応症で米国で承認申請され、優先審査指定を経て、4ヶ月後の11月に先ずマントルセルリンパ腫で承認された。2月にはCLL、SLLでも承認されるだろう。今回の試験でPFSだけでなく全生存期間でも有意に優れていたことは承認後の普及に追い風になる。

CLLは米国で年1.6万人が診断される。マントルセルリンパ腫は5000人なので市場が4倍に増加することになる。JNJはファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)から開発販売権を取得するに当たって頭金1.5億ドル、開発承認達成報奨金8.2億ドル、利益折半という気前のよい条件を受け入れたが、今のところそれに相応しい結果が出ている。

ArzerraはロシュのRituxan(rituximab、和名リツキサン)と同じ抗CD20抗体なので、おそらく、ImbruvicaはRituxanと比べても優れているのだろう。但し、ロシュの第二世代品で昨年11月にCLLの一次治療薬として承認されたGazyva(obinutuzumab)とどちらが効果が高いのかは未だ分からない。

リンク:JNJのプレスリリース

FXRアゴニストのNASH治療試験が成功

(2014年1月9日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)は、米国立医療研究所(NIH)が実施したINT-747(obeticholic acid)の第二相非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)試験が成功したと発表した。胆汁性肝硬変でも第三相試験中で、年内に結果が出る見込み。

脂肪性肝炎は飲酒が原因と考えられていたが飲酒しない人でも発症することがあり、NASHと呼ばれる。米国では成人の12%が罹患すると推測されているが、診断を確定するためには生検が必要なので実態は良く分からない。

INT-747は胆汁酸の誘導物で、胆汁酸の核内受容体・転写調節物質であるfarnesoid X受容体を作動する。今回の第二相は主評価項目が肝臓酵素の変化ではなく生検による組織学的な評価であることが特徴。具体的には、線維症が悪化せず、且つ、NASH疾病活動スコア(最高値は8)が2ポイント以上改善した患者を奏効と判定した。283名を偽薬群と25mgを一日一回経口投与する群に割付けて72週間治療した。

中間解析はプロトコルに基づくもので、0.00305のアルファが割り当てられていたが結果はp=0.0024となり、偽薬に対する有意性が認められた。尚、一つの試験で主評価項目に関する複数回の解析を行う場合は多重性の補正を行う必要があり、今回のように中間解析を行う場合は通常の0.05より著しく厳しくして、最終解析のアルファも厳しくするのが正しい方法。但し、第二相でこのような厳格な解析方法を採用するのは珍しく、もしかしたら、承認申請を企図した試験なのかもしれない。

奏効率は未公表。また、NASH疾病活動スコアの2ポイント以上の改善が臨床的にどの程度の意味があるのか、私には知識が無い。改善するに越したことはないが、患者の生活品質や余命、肝硬変合併リスクを改善することが期待できるのでなければ効果があるとは言えないだろう。

INT-747は大日本住友製薬が日本と中国の権利を取得、日本でNASHの第二相試験中で15年中に結果が出る見込み。

リンク:インターセプトのプレスリリース

【承認申請】


BMSがNS5A阻害剤をEUでも承認申請

(2014年1月8日発表)

BMSは、EUがBMS-790052(daclatasvir)の承認申請を受理したと発表した。NS5A複製複合体阻害剤で、代償性C型慢性肝炎の治療に用いる。日米欧に多いI型ウイルスだけでなく、II、III、IV型ウイルス感染者にも有効で、インターフェロンを使わない全経口剤併用レジメンも申請された。日本でも昨年11月にIb型向けに承認申請されている。

NS5AはC型肝炎ウイルスのゲノムに含まれる蛋白で、複合体を形成して、ウイルスが宿主細胞で複製される過程に寄与する。上記のように様々な遺伝子型に有効で、NS3/4プロテアーゼ阻害剤など他のウイルスゲノム蛋白を阻害する薬とシナジーがある。

BMSは第二相でギリアッド(Nasdaq:GILD)と手を結び先方のNS5Bポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(sofosbuvir)と併用試験を実施したが、ギリアッドはその後自社のNS5A阻害剤であるGS 5885(ledipasvir)との併用にシフト、Sovaldiとの合剤を今四半期中に承認申請する予定であり、二社の開発競争がホットになっている。

リンク:BMSのプレスリリース

第一三共がリクシアナを欧米で承認申請

(2014年1月8日、9日発表)

第一三共は日本でXa阻害剤リクシアナを2011年に発売、昨年12月に適応拡大申請したが、欧米でもSavaysa(edoxaban)という製品名で承認申請した。適応症は、非弁性心房細動で脳梗塞のリスクが高い患者の脳卒中予防と、症候性静脈血栓塞栓の治療と延長治療(再発予防)。経口抗血栓薬の新薬としては4剤目となる。既存3剤の効果や安全性は大差なく、Savaysaも同様なので、後発の不利を覆すのは容易ではないだろう。

リンク:第一三共のプレスリリース(欧州申請、和文、1月8日付)

リンク:同(米国申請、和文、1月9日付)

【承認】


FDAがアストラゼネカのSGLT2阻害剤を遂に承認

(2014年1月8日発表)

FDAは、BMSがアストラゼネカと提携して開発したSGLT2阻害剤、Farxiga(dapagliflozin、欧州名Forxiga)を二型糖尿病治療薬として承認した。腎臓で濾し取られてグルコースがSGLT2によって血液内に戻るのを阻害、排泄を促す。

承認まで2年掛かったのは臨床試験で膀胱癌が増加したため。武田のActos(pioglitazone)と同様に、膀胱癌の患者は使うべきではない。また、低血圧のリスクが見られ、高齢者や腎機能低下患者、利尿剤服用者は発生率が高まる。フェーズIVコミットメントとしては、心血管アウトカム試験のほかに、齧歯動物で膀胱癌を促進するリスクが見られたため尿の流量や内容物の変化との関連性を研究し、市販後監視試験で肝臓異常の発生や妊婦影響を調査する。

FarxigaはBMSが創製。糖尿病薬は開発・販売費負担が大きいためアストラゼネカと提携した。昨年12月、内分泌代謝領域の事業をアストラゼネカに完全譲渡することで合意している。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:両社のプレスリリース(短い!)

FDAが悪性黒色腫の新薬併用を承認

(2014年1月10日発表)

FDAは、昨年5月に承認したグラクソ・スミスクラインの悪性黒色腫用薬二剤を併用することを承認した。一つはbraf阻害剤Tafinlar(dabrafenib)、もう一つは日本たばこからライセンスしたMEK1/2阻害剤Mekinist(trametinib)。第1/2相試験の反応率データに基づく加速承認で、V600EまたはV600Kという変異を持つ癌が対象(悪性黒色腫の5割程度)。

転移性/切除不能黒色腫を組入れたこの試験では、併用群の反応率が76%、Tafinlarだけの群は54%、メジアン反応持続期間は各10.5ヶ月、5.6ヶ月だった。braf阻害剤はV600E/K変異のない黒色腫に用いると進行を早めてしまう可能性があり、陽性の患者でも皮膚の扁平上皮細胞良性腫瘍のリスクがあるが、後者はMEK1/2阻害剤を併用すると発生率が低下する可能性がある。一方、深刻な熱性反応の発生頻度や重さが大きくなるようだ。

braf阻害剤の開発ではロシュが先行したが、GSKはMEK1/2阻害剤併用を先に実用化することで逆転した。併用療法の開発をスピードアップするために他社と手を組む事例も少なくなく、上記の抗HCV薬と同様に、重要な戦略課題になっている。



リンク:FDAのプレスリリース

リンク:GSKのプレスリリース(1月9日付)

EUがアブラキサンを膵癌に承認

(2014年1月7日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、EUがAbraxaneをgemcitabineと併用で転移性膵癌の一次治療に用いることを承認したと発表した。臨床試験ではメジアン生存期間が8.5ヶ月とgemcitabineだけの群の6.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.72、pは0.0001未満だった。Abraxaneはナノパーティクル技術を用いてpaclitaxelをアルブミンの中に入れたもので、BMSが開発したオリジナルの製剤より忍容性に優れる。BMS品も乳癌と肺癌で承認されているが膀胱癌は初めて。

リンク:セルジーンのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


2014年1月5日

海外医薬ニュース2014年1月5日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 抗sclerostin抗体は高い骨密度改善作用を持つ
  • CF101の第三相試験がフェール
  • サノフィのLemtradaは審査完了


【新薬開発】


抗sclerostin抗体は高い骨密度改善作用を持つ

(2014年1月1日発表)

アムジェンはAMG785(別名CDP7851、romosozumab)の第二相試験論文がNew England Journal of Medicine誌に掲載されたと発表した。高用量を投与した群の骨塩密度はFosamax(alendronate、和名フォサマック)やForteo(teriparatide、和名フォルテオ)をオープンレーベルで投与した群と見比べても大きく改善しており、有望。深刻な有害事象も特に増加しなかった。現在、第三相試験中。大腿骨骨折のような重篤な骨折を予防できるか、長期投与時の安全性はどうか、が注目点になる。

AMG785はsclerostinという造骨細胞を抑制する蛋白を標的とするIg2型ヒト化抗体で、セルテック(後にUCBが買収)との共同研究の成果。作用機序の面ではビスフォスフォン酸のような骨代謝抑制剤よりも遺伝子組換え型上皮小体ホルモンForteoのような造骨促進剤に近い。

今回の第二相試験は419人の骨減少症患者を組入れて、偽薬、70mg、140mg、210mgの何れかを月一回、または偽薬、140mg、210mgを3ヶ月に一回皮注した。参考群としてFosamax(70mg週一回経口投与)やForteo(20mcg一日一回皮注)を投与する群も設定された。

結果は、偽薬群の腰椎の骨塩密度が12ヶ月で平均0.1%低下したのに対して、AMG785を投与した各群は5.4~11.3%改善し、何れも有意な差があった。Fosamax群は4.1%、Forteoは7.1%となり、AMG785を140mg、月一回投与した群(9.1%改善)はFosamax群に対して有意に上回り、210mg月一回の群(11.3%改善)はForteo群に対しても有意に上回った。

面白いのは骨代謝マーカーに与える影響で、造骨活動に関するマーカーは当初は上昇したがその後は元に戻った。一方、破骨活動に関するマーカーは安定的に低下しており、この薬が当初は造骨促進剤として、その後は破骨抑制剤として作用する可能性を示唆した。

AMG785を投与した5群合計の有害事象発生率は他の群と大差なかった。深刻な有害事象も同程度だった。最大用量である210mgを毎月投与した群では4例の深刻有害事象が発生し、その内容は乳癌、非心臓性胸痛、手首骨損壊、良性腎オンコサイトーマだった。

既存の骨粗鬆症治療薬では稀に顎骨壊死や大腿骨非定形骨折が報告されている。骨代謝抑制作用が抜歯後の顎骨のヒーリングを妨げたり、大腿骨の強度を損ねたりするのかもしれない。造骨促進剤なら回避できるかもしれないが、AMG785は骨代謝抑制作用もありそうなので、大規模長期の第三相で十分に確認する必要があるだろう。

骨粗鬆症の治療に関する考え方はこの二十年で大きく変わり、低骨塩密度イコール重大な骨折のリスクとは言えないことが判明した。多少低いだけなら薬物療法はマストではなく、また、正常でも重大な骨粗鬆症性骨折を起こす人がいるため、量だけでなく質も重要であることが分かった。新薬に求められるのは、第一に、予防用途なのだから長期的な安全性が高くなければならない。第二に、骨塩密度を向上するだけでなく臨床的に重要な骨折を防がなければならない。今回の試験で言えば、もし手首骨損壊が薬の副作用だとしたら、却って有害かもしれない。

新薬不用説を唱える人もいる。既に様々な薬が存在するのだから、薬品や医療の研究リソースを他の分野に振り分けた方が良いという意見だ。新薬の試験で偽薬群を設定することに反対する意見も同じである。有効な薬があるのに長期間に亘って偽薬を投与するのは倫理に反するというのだ。今回の試験が骨粗鬆症ではなく骨塩密度が多少低いだけの骨低下症を対象としたのも、偽薬を投じても重大な骨折のリスクが小さいからだろう。

ひとことで言えば、新薬開発にはアゲンストの風が吹いており、実用化のハードルは高い。

リンク:アムジェンのプレスリリース

リンク:治験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

リンク:Editorial(NEJM誌、オープンアクセス)

CF101の第三相試験がフェール

(2013年12月30日発表)

イスラエルのOphthaliX社は、CF101の第三相ドライアイ・シンドローム(乾性角結膜炎)試験がフェールしたと発表した。二種類の用量をテストしたが、主評価項目でも副次的評価項目でも効果が見られなかった。同社はアデノシンA3受容体発現状況と応答性に関する事後的分析を行う予定。

CF101はイスラエルのCan-Fite BioPharmaのアデノシンA3受容体作動剤。眼科における用途は子会社のOphthaliXが、関節リウマチや乾癬は親会社が、開発している。日本は06年に生化学工業が眼科以外の開発権を取得、SI-615として関節リウマチ向けに第一相試験中。Can-Fiteの関節リウマチ試験は後期第二相がフェールしたが、アデノシンA3受容体が高発現している患者だけを組入れたPOC試験が成功した。今回の事後的分析は二匹目のドジョウを狙うのだろう。

リンク:OphthaliXのプレスリリース

【承認審査・委員会】


サノフィのLemtradaは審査完了

(2013年12月30日発表)

サノフィのバイオ薬子会社であるジェンザイムはLemtrada(alemtuzumab)を再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として承認申請、EUでは9月に承認を獲得したが、米国は審査完了となった。FDA側は11月の諮問委員会で稀だが深刻な甲状腺関連有害事象や免疫性血小板減少性紫斑症に懸念を表明。効能に関するエビデンスはリスクを正当化できるほど強固ではなく、特に、二重盲検ではなくオープンレーベルで試験が行われたことを重大な欠点と指摘した。今回の審査完了通知も、薬効確認試験の再実施を求めている。

Lemtradaはリンパ球のCD52を標的とするヒト化モノクローナル抗体で、Campathとして慢性リンパ性白血病に承認されている。多発性硬化症では一日一回の点滴静注を5日間連続で施行し、その後は、年に一回、3日間施行する。第三相試験ではベータ・インターフェロン製剤のRebifを活性対照薬としたが、こちらは週三回皮注なので用法が全く異なり、偽薬を用いるのはlemtrada群の患者にとってもRebif群にとっても煩わしい。

オープンレーベルで行ったのは已むを得ない面もあったのだが、二本の試験のうち一本ではRebifを投与する前に治験を離脱した患者が比較的多く、オープンレーベル試験の悪い面が出てしまった。尤も、FDAの懸念は治験デザインよりも安全性のほうが大きいのだろう。中でも、自己免疫性甲状腺関連有害事象が多発したことは予想されたこととはいえ残念だ。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

今週は以上です。

_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/