2013年10月13日

海外医薬ニュース2013年10月13日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • オサイリスが間葉系幹細胞事業を売却
  • PERK阻害剤はアルツハイマー病などの神経変性疾患に有効?
  • FDAの承認審査はユーザー・フィー制度の無い分野ではストップ
  • ルンドベック/大塚がアルツハイマー病の第三相試験を開始
  • ギリアッドのPI3Kデルタ阻害剤の第三相試験が成功
  • バイエルの新薬がまた一つ、承認
  • アリアドのIclusigの深刻な副作用リスクは投与期間と相関する?


【今週の話題】


オサイリスが間葉系幹細胞事業を売却

(2013年10月7日発表)

米国のオサイリス・セラピュティクス(Nasdaq:OSIR)といえば、これまで、ヒト間葉系幹細胞性医薬品であるProchymal(remestemcel-L)の将来性に自信満々で、リード・インディケーションである移植片対宿主病(GvHD)だけでなく急性放射線症候群やクローン病など様々な疾患で臨床試験を行い、成功してもイマイチでもポジティブ・シンキングを貫いてきた。しかし、サノフィが開発販売権を返還してから一年経ち流石に秋バテが出たようで、間葉系幹細胞性医薬品事業の売却を決定した。

取得したのはオーストラリアの幹細胞性医薬品開発企業、メソブラスト(ASX:MSB)。代価は5000万ドルと開発承認達成報奨金5000万ドル、そして10%以下の売上ロイヤルティ。頭金・達成報奨金はメソブラスト株式で払うこともできる。因みにジェンザイム(後にサノフィが買収)がインライセンスした時は、頭金だけで1.3億ドル、達成報奨金は売上目標達成金も含めて12.5億ドルだった。評価が暴落したことを示している。

Prochymalはカナダやニュージーランドで限定的に販売承認を受けている。メソブラストは重篤な成人性GvHDを組入れた第三相試験の結果を待って米国で承認申請する予定。

Prochymalは成人健常者の骨髄から採取した間葉系幹細胞を培養したもの。炎症抑制作用や組織修復支援作用が期待されている。GvHDは血液癌の優れた治療法である同種造血幹細胞移植を施行した後に発生しがちな副作用で、移植された造血幹細胞由来の免疫細胞が患者の体を攻撃する。ステロイドによる治療が奏功しなかった場合、命に係る。

尚、Prochymalは日本では日本ケミカルリサーチが持田製薬と提携して急性GvHD治療薬として第三相試験中。

リンク:オサイリスのプレスリリース(pdfファイル)

PERK阻害剤はアルツハイマー病などの神経変性疾患に有効?

(2013年10月9日発表)

アルツハイマー病など様々な神経変性疾患の治療にPERK阻害剤が有効である可能性が浮上した。動物試験論文がScience Translational Medicine誌に刊行され、英国のBBCや新聞が大きく取り上げだ。動物の、しかも人為的に発生させた疾患の治療に成功しただけの話であり、深刻な副作用も見られた模様。そもそも、中枢神経系の動物試験はあまりアテにならない。それでも、新しい研究分野として大いに注目されるのではないだろうか。

論文によると、PERK(プロテイン・キナーゼRNA様小胞体キナーゼ)は転写因子であるeIF2アルファをリン酸化し、殆どの遺伝子の翻訳・蛋白生成をストップさせる。ウイルスが侵入・増殖した細胞や癌化した細胞が異常な蛋白を生成するのを防ぎ、変性を誘導する役割を担っているようだ。ある種の中枢神経系疾患では蛋白の折り畳み異常(三次元構造が崩れて適切に機能できなくなるだけでなく、異物と認識される可能性もある)が原因でPERKが作動し神経変性を誘導している可能性がある。

プリオン病(クロイツフェルト・ヤコブ病など)やアルツハイマー病ではリン酸化eIF2アルファが増加している。そこで、論文著者は、プリオン病を導入したマウスに過去に抗癌剤として開発されたことのあるPERK阻害剤、GSK2606414を投与したところ、発症を抑制し寿命を延ばすことに成功した。

PERKは膵臓酵素の一つでもあり。そのせいか、体重が20%も減少したため、動物試験に関する規制に従い試験中止となった(欧州は動物愛護に関する規制が厳しい)。PERK欠乏者は糖尿病になりやすく、筋骨格や肝臓、腎臓の疾患を合併しやすいと言われている。今回の試験でも血糖値の穏やかな上昇が見られた。

今後の研究課題は、まず再現性を確かめ、UPR(非折畳蛋白反応)パスウェイを詳細に分析し、PERK阻害剤以外の介入方法を検討することだろう。同時に、中枢神経に選択的に作用するPERK阻害剤の探索も行われるだろう。

リンク:Morenoらの論文抄録(Science Translational Medicine誌)

FDAの承認審査はユーザー・フィー制度の無い分野ではストップ

(2013年10月8日発表)

新年度予算が成立せず連邦政府の機能の多くがストップする中、FDAの新薬、新GE薬、医療機器の承認審査は続行しているが、ユーザー・フィー制度の存在しない分野は例外であるようだ。11月5~6日に予定されていたアレルゲン減感作療法用経口剤二剤に関する諮問委員会がキャンセルされた。なぜ減感作療法が例外になったのか、経緯は知らないが、米国は医療用薬品に関する法律が二種類あり、境界線上の薬に関して法制上の位置付けと一般的な認識が食い違うことがしばしばある。

この諮問委員会は、MSDがデンマークのALK Abello(CSE:ALK-B)から北米メキシコにおける権利をライセンスして開発したGrazax(欧州名)と、フランスのStallergenesが開発した製品を検討するはずだった。前者はオオアワガエリ(チモシー芝)とブタクサの抗原を夫々配合した二製品、後者は5種類の抗原を配合した製品で、草アレルギーによる結膜炎の予防に用いる。特効薬という印象はないが、効く人には穏やかな効果がありそうだ。

減感作療法は抗原を少量ずつ反復投与することによって体を慣れさせる。フランスではアレルギー性結膜炎患者の過半が減感作療法を受けるらしい。注射が一般的だが、経口液、そして今回のような錠剤が開発され、先行する欧州ではある程度のシェアを獲得した。治療のハードルが下がるので将来性は高い。日本でも鳥居薬品がライセンスしてアレルギー性結膜炎や喘息症で第二/三相試験中。

ユーザー・フィー制度は、受益者負担の考えに基づき、医薬品等の承認審査に必要な予算の半分を業界が負担するというもの。承認申請時の費用だけでなく、米国に一定の施設を持つ企業は毎年、ユーザー・フィーを払わなければならない。見返りに、FDAは承認審査を期限内に完了する努力義務を負い、臨床開発に関する相談などのサービスも強化された。利益相反の問題を内包しているため、予算の半分は国が負担する。PDUFAと呼ばれる法律で新薬に関して最初に導入され、その後、GE薬や医療機器にも広がった。

医薬品に関する法律は二種類あり、元々の承認審査組織であるCBER(生物学的製剤評価研究センター)は主として古い法律、CDER(医薬品評価研究センター)は主として新しい法律に基づいて規制している。インターフェロンや抗体医薬は以前はCBERが担当していたが、CDERに移管された。このエピソードを見ても分かるように、両者の境界線は曖昧だ。

CBERが分掌する製品のうち、血液由来の製品やアレルゲン抽出製品はPDUFAの対象外になっている。このため、政府の予算がないと承認審査できない。勿論、人命に係る重要な安全性問題が浮上した場合は別である。諮問委員会キャンセルについて、MSDはプレスリリースを出していないようだ。ALKやStallergenesの出したリリースは簡素なもので、米国の予算不成立問題は、外国人にとっては呆れた以外の言葉が無いのだろう。

リンク:
ALKのプレスリリース


リンク:Stallergenes のプレスリリース

【新薬開発】


ルンドベック/大塚がアルツハイマー病の第三相試験を開始

(2013年10月10日発表)

ルンドベックと開発パートナーの大塚製薬は、Lu AE58054のアルツハイマー病第三相試験を開始した。軽中度アルツハイマー病でdonepezil(Aricept)を服用している北米の医療施設の患者930人を、偽薬群と30mg群、60mg群に無作為化割付して24週間治療、ADAS-cogの変化を比較する。他に三本実施する予定。

Lu AE58054は5-HT6受容体アンタゴニストで、脳の学習・記憶に係る部位に多く発現する受容体を阻害してアセチルコリンなどの分泌を増強する。POC試験ではADAS-cogが偽薬比有意に改善したが、治療効果は2.16ポイントに過ぎず臨床的に意味があるかどうかは議論の余地がありそうだ。また、全般症状や生活機能に関するスコアには有意差は無かった。

POC試験は中度患者に90mgを一日一回投与した点が第三相と異なっている。一般的に、軽度患者の方が症状の進行が緩徐で治療効果を検出し難い。POC試験で見られたコリン性有害事象や肝機能検査値を懸念したのだろうが、用量を減らした点もマイナスだ。元々限界的な効果しか確認されていない上に、条件が厳しくなったことを考えれば、大きな期待はできないだろう。

リンク:ルンドベック/大塚製薬のプレスリリース

ギリアッドのPI3Kデルタ阻害剤の第三相試験が成功

(2013年10月9日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)は、GS-1101(idelalisib)の第三相慢性リンパ性白血病(CLL)試験が中間解析で成功したと発表した。再発性/難治性のCLLで化学療法に適さない、リンパ節腫脹のある患者を対象としたrituximab併用試験で、150mgを一日二回、経口投与した。主評価項目は無増悪生存期間。ギリアッドは承認申請について当局と相談する考え。

idelalisibはPI3K(phosphoinositide-3 kinase)デルタ阻害剤で、Bセルの活性化、増殖、生存に不可欠な酵素を阻害する。9月に難治性の緩慢性非ホジキン型リンパ腫のサルベージ療法として第二相試験の反応率データに基づいて承認申請された。rituxan、bendamustineと三剤併用試験も進行中。2011年にCalistoga社を一時金3.75億ドル及び達成報奨金2.25億ドルで買収して入手したもの。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

【承認】


バイエルの新薬がまた一つ、承認

(2013年10月8日発表)

FDAは、Adempas(riociguat)を二種類の肺高血圧症の治療薬として承認した。CTEPH(慢性血栓塞栓性肺高血圧症)とPAH(肺動脈高血圧症)で、前者の適応は史上初。CTEPHは血管内膜切除によく反応するが、不応/再発患者や手術に適さない場合はAdempasが適用になる。PAHは既に複数の薬が承認されているが、作用メカニズムが異なるため不応患者がスイッチしたり、既存薬に追加する用途が期待される。

AdempasはsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)の酸化窒素感受性を高める作用を持ち、酸化窒素合成酵素による血管平滑筋弛緩パスウェイを増強する。第三相試験では6分歩行テストの成績を偽薬比40m前後、改善した。8月の諮問委員会では低血圧リスクを回避するために最大用量を抑えるべきという意見もあったが、結局、1mg一日三回で開始して最大2.5mgまで滴定という用法が認められた。催奇性があるので女性に用いる場合はREMS(リスク評価緩和戦略・・・副作用事故を削減するための特別なプログラム)の対象になる。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バイエルのプレスリリース

【医薬品の安全性】


アリアドのIclusigの深刻な副作用リスクは投与期間と相関する?

(2013年10月9日発表)

アリアド(Nasdaq:ARIA)は、昨年12月に米国で承認されたbcr-abl阻害剤、Iclusig(ponatinib)の効能追加・適応拡大試験に関してFDAが治験の部分的中断(新規組入れ中断)を求めたことを明らかにした。第二相試験に基づき加速承認されたが、延長試験で重篤な動脈血栓の発生率が上昇したため。

第二相試験でも8%の患者で発生したためレーベルで枠付警告されているが、メジアン24ヶ月間の追跡試験では11.8%に上昇した。年率発生率は上昇していないので、通常の副作用と異なり、服用を続ける限りリスクも続くのだろう。同社は用量を承認されている45mgから30mg(場合によっては15mg)に減らす対応策をFDAと相談する考え。

Iclusigが適応となるのはGleevec(和名グリベック)やSprycel(和名スプリセル)に反応しなくなった慢性骨髄性白血病またはフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病なので、治療しないリスクが大きく、深刻な副作用があっても使わざるを得ない面がある。GleevecやSprycelにも程度の差はあれ深刻な副作用があり、また、用途は異なるが多発骨髄腫治療薬のRevlimid(和名レブラミド)にも深刻な血栓性疾患リスクがある。

このため、8%が12%に高まる程度なら需要に大きな影響はなくアスピリンを服用することで対処できる可能性もあると考えていたが、意外だったのは、二日後にFDAが出した安全性情報だ。血栓性疾患という大括りで見ると発生率は少なくとも20%、というのである。致死的心筋梗塞例もあったとのこと。

Iclusigは一次治療の第三相Gleevec対照試験が進行中なので、結果が出れば副作用リスクを比較することができるが、この試験の患者組入れも中断されただろう。はっきりしない状態が続くことになり、Iclusigの販売にはアゲンストだ。この問題がはっきりするまではアリアドが大手製薬会社の買収ターゲットになる可能性は低いだろう。

リンク:アリアドのプレスリリース

リンク:FDAの安全性情報(10月11日付)

今週は以上です。

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