2013年8月25日

海外医薬ニュース2013年8月25日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • エーザイが麻薬指定の遅れを提訴
  • インサイトのJAK阻害剤が膵癌POCに成功
  • 武田薬品のvedolizumabの炎症性大腸炎第三相試験
  • GSKのCCR9阻害剤のクローン病試験はフェール
  • 選択的アルドステロン受容体調節剤の第三相試験がフェール
  • FDAはceftobiproleの承認申請を認めない


【今週の話題】


エーザイが麻薬指定の遅れを提訴

(2013年8月19日発表)

エーザイの抗癲癇薬Fycompa(perampanel)は昨年10月にFDAに承認されたが、DEA(麻薬取締局)がスケジュール指定を中々行わないために発売が遅れている。業を煮やしたのか、FDAに対して新薬排他権期間の開始を遅らせるよう市民請願したのに続いて、連邦コロンビア地区控訴裁判所に対して、速やかに指定するようDEAに指示することを求める請求を行った。

スケジュール指定は依存性のある薬物を度合いに応じて5種類に分類しその分類に応じて生産、販売、処方を制限するもの。例えば睡眠薬Ambien(zolpidem、和名マイスリー)はスケジュールIVで、規制がそれほど厳しくない。一方、モルヒネなどはスケジュールIで、特別に許可を受けた人以外が製造、販売、処方するのは違法である。

依存性が疑われる場合は薬物依存経験者を被験者とする試験で嗜好性を検討し、FDAがスケジュール分類を勧告、DEAが決定する。エーザイの米国のプレスリリースによると、DEAが決定するまでの平均期間は97~99年の49日から09~13年は237日と、著しく長期化している。エーザイがインライセンスしたアリーナ(Nasdaq:ARNA)の体重管理薬、Belviq(lorcaserin)も承認からスケジュール指定まで11ヶ月掛かった。

米国は一部の州でモルヒネが安易且つ大量に販売されており、若者が副作用で死亡する事件も少なくないため社会問題になっている。規制を他の州並みに強化すれば良いのではないかと思うが、そのような意見は聞かないので、実行が難しいのだろう。

規制が不十分なのは確かだが、だからと言って、難治性癲癇患者にとって重要な選択肢の一つになりうるFycompaの発売が遅れるのは好ましくない。DEAは、なぜ審査が遅れているのか理由を明確にすべきだろう。

リンク:エーザイのプレスリリース

【新薬開発】


インサイトのJAK阻害剤が膵癌POCに成功

(2013年8月21日発表)

インサイト(Nasdaq:INCY)は、JAK阻害剤ruxolitinibが膵癌のPOC(proof-of-concept)に成功したと発表した。欧米でJakavi/Jakafi名で慢性特発性骨髄線維症治療薬として承認されているが、新たな用途が浮上した。

JAKはインターロイキン受容体のダウンストリーム・シグナルに関与する酵素で、阻害するとIL-6、GM-CSF、インターフェロン・ガンマなど様々な物質の生産を調節することができる。ruxolitinibは造血・血管細胞に発現するJAK3に対する力価が低く、JAK1、JAK2、TYK2選択的。米国以外の権利はノバルティスが保有している。

今回のPOC試験は転移性膵癌の二次治療としてcapecitabine(『ゼローダ』)と併用する効果を検討したもの。136人の患者を併用群とcapecitabine・偽薬併用群に無作為化割付して全生存期間を比較したところ、ハザードレシオ0.79、p=0.12となった。中でも、事前に設定された、JAK阻害剤応答性が予測された患者のサブグループ分析では、ハザードレシオ0.47、p=0.005と有望なデータが出た。応答性は既存の検査で予測できる模様で、検査アッセイの開発は不要。被験者の半分が該当した由だ。

転移性膵癌の二次治療はcapecitabineとTarceva(erlotinib、和名タルシバ)の併用が承認されているが、Tarcevaを併用する上乗せ効果は、少なくとも第三相試験では、決して高くなかった。それでも、capecitabineしか投与しない群を設けるのは倫理上の問題があるように感じられるので、ruxolitinibの第三相試験では二つの併用療法を直接比較したほうが良いのではないだろうか。Tarcevaは5~7年後に特許が切れるので、販促の点でも雌雄を決しておいた方が有利だろう。

リンク:インサイトのプレスリリース

武田薬品のvedolizumabの炎症性大腸炎第三相試験

(2013年8月21日発表)

武田薬品が炎症性大腸炎治療薬として開発しているMLN0002(vedolizumab)の第三相試験論文がNEJM誌に掲載された。クローン病試験の成績は今一つだが、潰瘍性大腸炎試験は寛解導入も維持療法も良好。欧米で承認審査中で、承認されたら、特にTNF阻害剤不応患者に有力な選択肢の一つになりそうだ。

vedolizumabはバイオジェン・アイデックのTysabri(natalizumab)と同様な、リンパ球が血管壁に接着し組織に移行するのに必要なアルファ4ベータ7に結合、ブロックする。アルファ4ベータ1には結合しないため、PML(進行性多巣性白質脳症)のリスクが小さいことが期待されている。現実に、今回の二本の第三相試験ではPML症例は発生しなかったようだ。但し、安全と断定するには症例数が足りず、またTysabriのPMLリスクは投与期間と相関するので1年のデータでは不十分だ。

Tysabriは難治性中重度活性期クローン病に承認されているがvedolizumabは少なくとも潰瘍性大腸炎には承認されるだろうから、適応症も若干異なる。

vedolizumabは初日と第15日に300mgを静注投与して寛解導入を試み、ある程度以上の成果が上がったら、その後は4週間又は8週間に一回投与して更なる改善、寛解維持を目指す。潰瘍性大腸炎の試験では、6週間後の症状改善奏効率(メイヨー・クリニック・スコアで評価)が47.1%と偽薬群の24.5%を有意に上回り、副次的評価項目の寛解率も16.9%対5.4%で有意。

この寛解導入試験とは別のプロセスで投与を受けた患者を含めて、ある程度以上の成果が上がった患者を対象に行われた維持療法試験では、8週間に一回投与、4週間に一回投与、偽薬にスイッチした各群の52週寛解率が各41.8%、44.8%、23.8%となり偽薬比有意な効果を示した。

一方、クローン病の寛解導入試験は6週寛解率と6週CDAI100(CDAI症状スコアが100ポイント以上改善した患者の比率)の両方が主評価項目とされ、前者は14.5%対6.8%で統計的に有意だったが後者は31.4%対25.7%でフェールした。クローン病は大腸だけでなく様々な消化器官で炎症が見られ、表在性ではなく貫壁性なので、治療成果が表れるまで時間が掛かるのかもしれない。実際、維持療法試験では52週寛解率が各群39.0%、36.4%、21.6%となり、8週間に一回でも4週間に一回でも偽薬比有意な差があった。

二本の試験の主な有害事象は原疾患症状悪化と頭痛、鼻咽頭炎。免疫抑制療法に付き物な感染症の増加はあまり見られなかったようだが、クローン病試験では敗血症による死亡が2例あったので、注意が必要だ。承認審査の過程で試験薬との関連性が検討されることになるだろう。

今年3月にEUで、6月には米国でも二つの適応症で承認申請された。元々はミレニアムがミレニアム前の1999年に買収したリューコサイト社の開発品で、ジェネンテックがライセンスしたがPOC試験後に権利を返還した経緯がある。Tysabriも第三相クローン病試験がフェールした後に復活した経緯を持ち、この分野は、細心の注意を以て臨床試験を設計・実施する必要があるのだろう。

リンク:Feaganらの潰瘍性大腸炎試験論文アブストラクト(NEJM誌)

リンク:Sandbornらのクローン病試験論文アブストラクト(NEJM誌)

リンク:武田薬品の米国子会社のプレスリリース

GSKのCCR9阻害剤のクローン病試験はフェール

(2013年8月23日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK1605786(vercimon)の最初の第三相試験がフェールしたと発表した。有害事象が用量依存的に増加する傾向が見られたため、分析・検討を行う間、他の試験の組入れ、投与を中断する。キモカインの研究で高名なChemoCentryx社からライセンスしたCCR9阻害剤で、TセルのCCR9を阻害して腸に移行するのを妨げる作用機序。他の試験を中断するということは、おそらく、深刻な有害事象が発生したのだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

選択的アルドステロン受容体調節剤の第三相試験がフェール

(2013年8月19日発表)

GTx(Nasdaq:GTXI)はOstarine(enobosarm)の第三相試験がフェールしたと発表した。欧米の承認審査機関と今後の方策を相談するとのことだが、おそらく、少なくともこの用途での開発は中止になるだろう。

enobosarmは選択的アルドステロン受容体調節剤(SARM)で、癌性筋肉減弱症を治療する後期第二相試験が成功、対象を非小細胞性肺癌で一次治療を受ける患者だけに絞って二本の筋肉減弱症予防・治療試験を実施した。二つの主評価項目のうち、84日時点のLBM(除脂肪体重)は一本で偽薬比有意な効果が見られたがもう一本はフェール。階段昇降試験は二本ともフェールした。

リンク:GTxのプレスリリース

FDAはceftobiproleの承認申請を認めない

(2013年8月21日発表)

スイスの抗菌剤開発企業であるバジレア・ファーマスーティカ(SWX:BSLN)が開発したMRSA作用性セファロスポリン、ceftobiproleは、依然として茨の道を歩んでいる。導出先であるジョンソン・エンド・ジョンソンが複雑皮膚皮膚構造感染症向けに承認申請しスイスやカナダで承認されたが、第三相試験実施施設の一部で臨床試験基準違反の疑いが浮上、米国でもEUでも承認されず、スイスとカナダは販売中止、ライセンス返還となった。

バジレアは、もう一つの適応症である市中感染肺炎による入院患者と院内感染肺炎患者の第三相試験を実施、EUの非中央手続を用いて承認申請し、受理された。年末までに結果が出る見込みだ。一方、FDAは、開発ガイドラインに従って、この二つの適応症の夫々について第三相試験を二本実施するよう求めている模様で、承認申請が遅れている。同社の上期の決算発表資料の中で、進展がないことが公表されたため、株価が暴落した。

抗生剤ではアベンティス(後にサノフィと合併)のKetek(telithromycin、和名ケテック)でも安全性確認試験で治験医の不正報告が発覚、大きな問題になったことがある。新薬を待望する医師の、そして大型薬を待望する製薬会社の切実な願いはバイアスや不正の動機になりうるので、客観性を保ち第三者が検証する厳密なプロトコルが必要だ。

わが国でもアウトカム試験のデータ操作疑惑が取り沙汰されている。真相解明に留まらず、再発防止策も実施する必要があり、例えば、今後行われる全てのアウトカム試験について不正の余地を減らすために必要な手順を盛り込むべきである。治験実施者には不本意かもしれないが、襟を正す良い機会なのだ。やるべきことをやらないと、有望な薬や治療法の実用化を却って遅らせることになりかねない。

リンク:バジレアのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年8月18日

海外医薬ニュース2013年8月18日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • オニクスの株価が乱高下
  • イーライリリーの抗EGFR抗体、二本目の第三相は成功
  • 間葉系幹細胞の糖尿病性足潰瘍試験が成功
  • Vicalの6年間の忍耐は報われなかった
  • フォレスト/アルミラルのCOPDコンビ薬は承認申請が遅延
  • GSK合弁の抗HIV薬が米国で承認
  • タイケルブとハーセプチンの併用が欧州で承認
  • FDAがフルオロキノロンの末梢神経症警告を強化


【今週の話題】


オニクスの株価が乱高下

(2013年8月15日発表)

米国の新興製薬会社オニクス(Nasdaq:ONXX)はアムジェンから買収提案を受けていると報じられているが、15日に新たなボトルネックが判明、株価が急落した。交渉の余地は乏しくアムジェンが妥協せざるをえないだろうが、要求の背景が気になるところだ。

Bloombergが事情通の話として15日に報じた記事によれば、オニクスは一株当たり130ドル、総額95億ドルなら買収オファーを受け入れる方向だったが、Kyprolis(carfilzomib)を欧州で承認申請するために行っている試験に関するデータを提供するようアムジェンが要求したため、膠着状態になった。進行中の試験のデータを覗き見すると承認審査に影響する可能性があるからだ。

ロイターも、どの臨床試験のデータなのか特定していないものの、概ね同様な内容を報じている。おそらく、インサイダーが世論を味方につけるべくリークしたのだろう。

Kyprolisは武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と同様なプロテアソーム阻害剤で2012年に米国で再発性難治性多発骨髄腫の三次治療薬として承認された。薬効・忍容性のエビデンスとなったのは第二相単群試験の反応率データで、欧州は第三相対照試験の結果が2014年に纏まってから承認申請の見込み。

Velcadeと比べて力価や選択性が高く有望な新薬だが、気になるのは、第二相試験で深刻な副作用の懸念が浮上したことだ。7%の患者が心臓疾患や臓器不全、感染症など癌の進行以外の理由で死亡、45%の患者で深刻な有害事象が発生した。266人と比較的大きな試験なので、偶然とは考え難い。第三相試験の結果が出れば、リスクがもっと明確になるだろう。

進行中の試験のデータを覗き見すべきでないという意見は当然で、おそらくアムジェンも分かっているだろう。おそらく、データ監視委員会が把握しているであろう治験全体の有害事象発生率や群間の偏りに関する中間解析について情報を求めたのではないだろうか。この場合でも第三者であるアムジェンに提供できる情報は限られているだろう。どの程度具体的な情報を求めているのか明らかではないが、最終的には、アムジェンが譲歩することになるのではないか。

オニクス買収に巨額を払うためには、Kyprolisの安全性に深刻な懸念が生じて売れなくなるという代替シナリオの発生確率を従来の推定値より引き下げなければならない。そのためには根拠が必要で、もし入手できないなら推定値引き下げもできず、結局、買収価格を120ドルから130ドルに引き上げることにも応じられないことになる。それでも引き上げて買収に踏み切るかどうか、アムジェンの対応が注目される。

リンク:Bloombergの報道

リンク:ロイターの報道

【新薬開発】


イーライリリーの抗EGFR抗体、二本目の第三相は成功

(2013年8月13日発表)

イーライリリーはIMC-11F8(necitumumab)の二本目の第三相試験が成功したと発表した。一本目が安全性懸念で中止され、開発パートナーであったBMSが権利を返還した経緯を考えると意外だ。対象疾患が若干異なることや、既存の抗EGFR抗体でも効果の兆しは見られたので効く、効かないと言っても程度の問題に過ぎないことが影響しているのだろう。

necitumumabはイーライリリーが買収したイムクローンの開発品で、イムクローンが開発し米国ではBMSが、欧州などではドイツのメルクが販売しているErbitux(cetuximab)はキメラ抗体、こちらは完全ヒト化抗体という関係。Erbituxは結腸直腸癌や頭頸部癌で承認されているが、非小細胞性肺癌(NSCLC)は第三相試験が一本が成功したものの他はフェールしたため、承認されなかった。このため、necitumumabはNSCLCがリード・インディケーションとなった。

一本目の、扁平上皮以外の末期NSCLCを組入れた一次治療Alimta(pemetrexed)・cisplatin併用試験は血栓塞栓症の懸念から2011年に途中で打ち切られた。今回の試験は末期扁平上皮NSCLCの一次治療にGemzar(gemcitabine)・cisplatinと併用する効果を検討したもので、有意な延命効果が見られたとのこと。この試験でも深刻な血栓塞栓症が増加した。データは後日、発表される予定。尚、併用薬が異なるのはAlimtaは扁平上皮には承認されていないことが理由だろう。

対象疾患が若干異なるので一概には言えないが、治験の検出力は二本目の方が高いと推測される。組入れ数は1097人対634人、全生存解析をトリガーする死亡者数は844人対474人と、二本目の方が多いからだ。可能性としては、一本目の延命効果も数値上は同程度だったが検出力が低いために無益性判定基準を満たしてしまった、というシナリオも考えられる。何れにせよ、深刻な副作用を持つことは確かなのだろうから、統計的に有意であるだけでなく臨床的にも十分に意味のある延命効果が必要だろう。

不思議なのは、Erbituxの試験の事後的サブグループ分析で主としてEGFR高度発現癌に延命効果が認められたにも関わらず、necitumumabの試験は不問となっていることだ。今回はプロトコルで事前に設定した上でサブグループ分析が行われるだろうから、Erbituxのデータよりも信頼性が高く、もしEGFR高度発現癌だけに十分な効果があった場合はこのタイプに限定して承認されることになるだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

間葉系幹細胞の糖尿病性足潰瘍試験が成功

(2013年8月13日発表)

間葉系幹細胞製品を開発・販売しているオサイリス(Nasdaq:OSIR)は、Grafixの糖尿病性足潰瘍試験が成功したと発表した。2010年に米国で発売され重症火傷の治療などに用いられているが、慢性疾患の外来治療は市場性が高いので重要な用途拡大になる。

Grafixは健康なドナーの骨髄から抽出した間葉系幹細胞(MSC)などを膜に固定化した製品。MSCは様々な結合組織細胞に分化できるので創傷治癒に役立つが、オサイリスによると、糖尿病患者はMSCの活性が低く自然治癒し難い。MSCは免疫刺激しないので、他人のMSCを培養して治療に用いることが可能。

天然の細胞をほぼそのまま製品化した製品は医薬品や医療機器に関する薬効・安全性審査の対象外である模様で、同社はGrafixとOvationを商品化、2011年の売上高は二剤で780万ドル。メディケア等が、重度火傷や糖尿病性足潰瘍の入院患者などについて薬価還元対象としている。

今回の試験はスクリーニング期間中の改善が小さかった131人を組入れて、12週間後の創傷完全閉鎖成功率を標準療法と比較したもの。97人の中間解析でGrafix群は62.0%、対照群は21.3%、pは0.0001を下回り、データ監視委員会が事前のプロトコルに則って治験成功を認定した。現在までに結果が出た二次的評価項目の解析も全て成功した。尚、この試験は盲検ではないが、担当医の評価を第三者が盲検で確認するPROBE法を採用している。

興味深いのは有害事象の発生率が各38%と66%でGrafix群の方が低いことだ。もし感染症が少なかったのならば、治療の価値が高まる。有害事象のデータは薬効データほど厳格に評価・報告されないので信頼性は十分ではないが、FDAの承認審査を受ける必要がないならば、この程度のデータでも十分な販促材料になるだろう。

リンク:オサイリスのプレスリリース(pdfファイル)

Vicalの6年間の忍耐は報われなかった

(2013年8月12日発表)

米国の新興企業Vical(Nasdaq:VICL)は、Allovectin-7(velimogene aliplasmid)の第三相悪性黒色腫一次治療試験がフェールしたと発表した。投資家向けに行われたテレカンファレンスによると、反応率も全生存期間も対照群(dacarbazine又はtemozolomideで治療)と同程度に留まった模様。同社は開発中止を決定。後は、アンジェスの出方次第となった。

既存薬と同程度なら効かない訳ではないが、対照群の二剤は、広く用いられているものの、延命効果が確立していない。シェリング・プラウ(後にMSDが買収)がtemozolomideとdacarbazineの直接比較試験を行いFDAに承認申請した時も、後者の薬効のエビデンスは曖昧でありそれと同じであるだけでは不十分、と判定された。更に、優越性検定がフェールすることと非劣性検定が成功することは意味が全く違う。従って、今回のデータに基づいて承認申請しても無駄だろう。

6年掛けて治験を実施している間に複数の悪性黒色腫用薬が発売された。BMSのYervoy(ipilimumab)はdacarbazine併用で、特定のタイプだけだがロシュのZelboraf(vemurafenib)やGSKのTafinlar(dabrafenib)やMekinist(trametinib)は単剤で、dacarbazineを上回る効果を発揮する。もし再試験を行ってAllovectin-7の効果が偽薬より高いことを確認しても、売上高は伸びないだろう。開発中止は順当なところだ。

アンジェスは、元々、頭頸部癌に対する効果に期待してアジアの権利をライセンスした模様。Vicalより資金的な余裕があるだろうから、治験報告書の完成を待って内容を十分に検討してから権利返還の当否を決めるのではないだろうか。

リンク:Vicalのプレスリリース

フォレスト/アルミラルのCOPDコンビ薬は承認申請が遅延

(2013年8月14日発表)

米国のフォレスト・ラボラトリーズ(NYSE:FRX)とスペインのアルミラル(ALM:MC)は、長期作用性ムスカリン拮抗剤aclidinium bromideと長期作用性ベータ2作用剤formoterol fumarateのコンビ薬のCOPD維持療法薬としての承認申請が、当初予定の今年10~12月から遅延する見込みになったことを明らかにした。

承認申請前会議でFDAがCMC(化学、製造、管理)に関するデータに疑問を呈した模様だ。aclidiniumは単剤でTudorza/Ekliraとして欧米で承認されており、formoterol fumarateも他社製品が承認されている。従って、同社のformoterol fumarate製剤またはこのコンビ薬に特有の問題が浮上したのだろう。これらの製品は乾燥粉末製剤なので、容器の中で固まったりしないよう、製造段階から厳格な管理を行う必要がある。工場の温度、湿気など様々な配慮が必要なので、ハードルは高い。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


GSK合弁の抗HIV薬が米国で承認

(2013年8月12日発表)

塩野義製薬が創製しグラクソ・スミスクラインやファイザーとの合弁会社、ViiVヘルスケアで開発されたインテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤(ISTI)、Tivacay(dolutegravir)が米国でHIV/AIDS治療薬として承認された。初めて抗ウイルス治療を受ける、あるいは多剤に反応しなくなった、成人と12歳以上且つ体重40kg以上の患者に用いる。成人の場合はMSDのIsentress(raltegravir)など他のISTIに抵抗性を持つウイルスに用いることも可能。

ISTIは2007年に承認されたIsentressが第一号で、昨年、ギリアッドが日本たばこからライセンスしたelvitegravirを配合して発売した四剤合剤Stribildが第二号。HIVの遺伝子が宿主細胞のゲノムに組入れられるのを妨げる。抗HIV薬の中では比較的忍容性が高く、また、使用歴が短い分、抵抗性ウイルスが広がっていないことが長所だ。核酸系逆転写阻害剤などと併用する。

第三相試験では、一次治療Isentress対照試験は奏効率が非劣性。同じくefavirenz(Sustiva、ギリアッドの三剤合剤Atriplaも配合)対照試験では88%対81%で有意に上回った。StribildのAtripla対照試験は非劣性だったのでTivacayのほうが効果が高い可能性があるが、Tivacayの試験は両群の併用薬が異なり、また、直接比較試験は行われていないので本当にTivacayのほうが優れているのかどうかは曖昧だ。

二次治療Isentress対照試験では79%対70%で有意に優れていたが、一次治療では差が無かったのだから再現性がなく、意義は明確ではない。

主な有害事象は不眠や頭痛、深刻な副作用は過敏反応やB型C型肝炎合併時の肝機能検査値異常。

特性をギリアッドの製品と比較すると、Tivacayは代表的なISTI抵抗性ウイルスの多くにある程度の活性を持ち、また、薬物相互作用が比較的小さい(一部の薬と併用する場合は50mgを一日一回ではなく二回服用する必要があるが)。一方で、現時点ではコンビ薬がラインアップされていないので、Stribildのように一日一回一錠を服用するだけで多剤併用療法を完結できる簡便さはない。尚、Isentressは一日二回服用なので、市販歴の長さ以外は両剤に見劣りする。

一次治療で服用の簡便さを求めるならStribildが有力な選択肢になるが、二次治療は様々な薬を組み合わせることになるので、薬物相互作用に起因する制約が比較的少なくIsentressやStribildに反応しなくなった患者に使える可能性が高いTivacayのほうが有力だろう。欧米は新患より治療を受けている患者の方が多いので、二次治療、三次治療のマーケットの方が大きい。

ViiVは一ヶ月分の問屋取得価格(WAC)を1175ドルとする模様。Isentressの2012年の売上高は15億ドルと大きいが、今後はStribildやTivacayが主流になりそうだ。

リンク:FDAのリリース

リンク:ViiVのプレスリリース

タイケルブとハーセプチンの併用が欧州で承認

(2013年8月14日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Tyverb(lapatinib、和名タイケルブ)をHerceptin(trastuzumab)治療中に進行したher2陽性、ホルモン受容体陰性の転移性乳癌にHerceptinと併用する用法が欧州で承認されたと発表した。適応拡大の根拠となった試験では、併用群のメジアン生存期間は12.9ヶ月、Tyverbだけを投与した群は8.9ヶ月、ハザードレシオは0.62だった。

数字は良いが試験のデザインは奇妙だ。Tyverbのモノセラピーは承認されていないので効果は偽薬並みと考えると、この試験は偽薬にHerceptinを追加する効果を検討したことになる(実際には、対照群ではなく過去に行われたHerceptinモノセラピー試験のデータと比較したのだろうが)。しかも、ホルモン受容体陰性患者はこの試験の事後的サブグループ分析に過ぎない。CHMPは困難な課題を乗り越えて承認したことになるが、FDAはエビデンスが不十分と判定したのだろう、この適応拡大申請は米国では撤回された。

リンク:GSKのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがフルオロキノロンの末梢神経症警告を強化

(2013年8月15日発表)

FDAは安全性情報を発出し、経口/注射用フルオロキノロンが持つ深刻な末梢神経症のリスクに注意するよう呼び掛けた。レーベルやメディケーション・ガイドで警告されているが、機能不全の有害事象報告が続いているため、記述を改善した。耳や目の感染を治療する局所製剤では報告されていない模様。

フルオロキノロンの経口剤と注射剤は2011年の米国のデータで2700万人と多くの患者に用いられている。有害事象報告は氷山の一角なので発生頻度は不明だが、投与をやめた後も何ヶ月も改善しなかったり、永続的な障害が残ることもあるようだ。

投与後の早い段階で発生し、中止しても治らない可能性があるのならば、このような警告を行っても副作用症例は減らないだろう。難しい問題だ。

リンク:FDAの安全性情報

今週は以上です。

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2013年8月11日

海外医薬ニュース2013年8月11日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • Vicalの6年間の忍耐が報われるか
  • ケリックスが高リン血症治療薬を米国で承認申請
  • GSKがサーバリックスの新投与スケジュールとヴォトリエントの適応拡大を欧州で申請
  • ロシュのパージェタのネオアジュバント療法をFDA諮問委員会が討議へ
  • FDA諮問委員会がバイエルの肺高血圧症治療薬を支持
  • FDA諮問委員会はサムスカの適応拡大を支持せず
  • ノボの第XIII因子は再び審査完了通知
  • セルジーンの新薬がEUで承認
  • テバの長期作用性G-CSFがEUで承認


【今週の話題】


Vicalの6年間の忍耐が報われるか

(2013年8月1日発表)

米国の新興企業、Vical(Nasdaq:VICL)は、Allovectin-7(velimogene aliplasmid)の第三相悪性黒色腫試験のトップライン・データが今月中に纏まる見込みであることを明らかにした。2013年第2四半期決算発表に合わせてアップデートしたもので、重要情報の漏出を避けるために、自主的な沈黙期間(アナリストなどとコンタクトしない)に入った。

Allovectin-7はMHCクラスIを構成する蛋白であるHLA-B7とベータ2マイクログロブリンの遺伝子をプラスミッドに組入れた、脂質リポソームをベクターとする遺伝子治療。腫瘍細胞に直接注射すると、これらの蛋白が発現、白人の保有率が低いタイプのHLAを用いているため免疫刺激性が高く、他の腫瘍細胞に対する免疫も強化されるようだ。

遺伝子療法もワクチン型免疫強化療法も希望と挫折を繰り返しており、Allovectin-7も2000年前後に実施された第三相試験がフェール。投与量を200倍に増やした第二相試験でORR(客観的奏効率)12%、127人中4人が完全反応とサイトカイン療法と同程度の成績を上げ、05年にFDAの特別プロトコル評価を得て第三相試験の準備を整えたが、スポンサー(開発販売提携先)が中々見つからず、結局、アンジェスMGがアジアでの開発販売権取得の見返りに2300万ドルの研究開発費提供・出資を行っただけだった。

07年に第三相試験を開始、当初は11年に完了するはずだったが、被験者の生存期間が予想以上に長かったせいか、大幅に遅延。今回、6年を経てやっと結果が判明する運びとなった。

この第三相試験は、ステージIII/IVの悪性黒色腫で化学療法未施行の患者375人をAllovectin-7群と化学療法群に二対一の割合で無作為化割付したもの。Allovectin-7は8週サイクルで2mgを週一回、6週連続で標的腫瘍に直接注射。化学療法群は治験医の判断でdacarbazineまたはtemozolomideを用いた。主評価項目は24週以上経過した段階での持続的ORRで、優越性解析。2010年に組入れ完了したので、結果は既に判明しているはずだが公表されていない。

なぜ公表されなかったのか?考えられるのは、第一に、FDAが全生存期間の解析も行うよう強く要請した可能性。ORRの解析結果を公表すると治験医や患者にバイアスを与えてしまい、延命効果の解析の厳格性を損ねてしまう可能性がある。第二相試験のメジアン生存期間は18ヶ月に過ぎなかったので、1年後に全生存の解析結果が出るまでの辛抱、の筈だった。

もう一つ、ORRの解析がフェールした可能性も考えられる。主評価項目がフェールした場合、副次的評価項目で有意差が出ても信憑性が低くなるが、それでも、調べないよりマシだ。免疫強化療法は化学療法より副作用が少ないので、ORRが数値上、大差ないなら、治験を続行しても被験者に不当な不利益を与えることにはならないだろう。IL-2もそうだが、免疫強化療法は一部の患者に長期間持続的な効果を発揮する傾向があるので、初めから全生存期間を主評価項目にすべきだったと私は思う。

次に、なぜ結果判明が2年も遅れたのか?おそらく、組入れ/除外条件を見直したからだろう。第二相試験のサブポピュレーション分析結果を元に、免疫力が低下している患者や脳/肝転移のある患者は除外した。また、薬効を発揮するためには少なくとも2サイクルの投与が必要と判定されたため、健康状態の著しく悪い患者も除外した。その結果、余命が比較的長い患者だけが集まったのだろう。

最後に、そして最大の謎は、第三相試験の成否だ。悪性黒色腫は免疫強化療法に比較的よく反応する。現実に、第二相試験のORRは悪くなかった。従って、通常ならば、成功を期待できるだろう。ただ、気になるのはこの試験の経緯だ。不透明な点が多いのである。このため、自信を持って成功を期待するのは難しい。

治験が成功し全生存期間が化学療法を有意に上回った場合、次のハードルは、BMSのYervoy(ipilimumab)との競争だ。数年後にはBMS-936558(nivolumab)などの抗PD-1抗体の第三相試験結果も開票する。BMSは両薬の併用も試験しており、将来は、高価な新薬の併用が主流になるかもしれない。Vicalも他社と提携、あるいは身売りをすることによって、開発販売競争を勝ち抜く必要がありそうだ。

リンク:Vicalのプレスリリース

【承認申請】


ケリックスが高リン血症治療薬を米国で承認申請

(2013年8月8日発表)

ケリックス・バイオファーマシューティカルズ(Nasdaq:KERX)はZerenex(ferric citrate)を慢性腎疾患透析期の患者の高リン血症治療薬としてFDAに承認申請した。台湾のPanion社からライセンスしたもので、日本ではケリックスからサブライセンスした鳥居薬品がJTT-751として開発、今年1月に承認申請している。

リンク:ケリックスのプレスリリース

GSKがサーバリックスの新投与スケジュールとヴォトリエントの適応拡大を欧州で申請

(2013年8月7日発表)

グラクソ・スミスクラインは欧州で子宮頸癌予防用ワクチンCervarix(和名サーバリックス)の新投与スケジュールを承認申請した。半年間に3回接種ではなく、2回接種とのことだ。おそらく、コスタリカで行われた観察的研究を踏まえて改めて検証したのだろう。GSKのリリースによると3回接種に取り替わるものではなく、代替的手段との位置付けのようだが、コストが下がるのでもし本当に効果が大差ないなら二回接種の方が普及するだろう。

このコスタリカの調査は2011年にJournal of National Cancer Institute誌に論文発表された。メジアン4.2年間追跡したところ、HPV16/18型の持続的感染を予防するワクチン効果は3回接種患者(n=2957)で80.9%、何らかの理由で2回しか接種しなかった患者(n=422)は84.1%、1回だけの患者(n=196)は、何と、100%だった。

無作為化割付試験ではないし、HPV16/18型に感染するかどうかはパートナーや性活動にもよるのでサンプル数が少ないと誤差が大きくなる。一回も接種しなかった人のデータも見てみたいものである。それはそれとして、2回接種でも十分な量の抗体を獲得できるならば、何らかの理由で2回目をスキップせざるを得なかった人には朗報だし、1回目で副反応(副作用)が出た患者は2回目を見送り、十分に検討した上でもし必要なら6ヶ月目に接種するようなことも可能になるだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

リンク:Kleimerらの論文(JNCI誌、オープンアクセス)


GSKは、Votrient(pazopanib、和名ヴォトリエント)を卵巣癌の維持療法薬として欧州で適応拡大申請したことも発表した。VEGFR2チロシンキナーゼ阻害剤で、現在は腎細胞腫に承認されている。

臨床試験では、卵巣癌の一次治療(治癒目的ではない切除術と化学療法)を受けて部分反応・疾病安定化した患者に一日800mgを投与したところ、PFS(無増悪生存期間)がメジアン17.9ヶ月、偽薬群は12.3ヶ月、HR0.77でp=0.0021となった。全生存期間は未だ成熟しておらず差が無いようだ。深刻な有害事象の発生率は各26%と11%で、肝機能検査値異常や発熱、高血圧など既知の副作用が増加した。

リンク:

GSKのプレスリリース


【承認審査・委員会】


ロシュのパージェタのネオアジュバント療法をFDA諮問委員会が討議へ

(2013年8月9日発表)

FDAは9月12日に腫瘍学薬諮問委員会を招集して、ロシュのPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)を用いるネオアジュバント療法について検討すると発表した。her2陽性早期乳癌の第二相試験でHerceptinやdocetaxelと併用したところ、病理組織学的完全反応率が45.8%とHerceptin・docetaxelの二剤だけの29.0%を有意に上回った。優先審査指定を受け、審査期限は10月31日。

早期乳癌の摘出術の前に化学療法を施行して腫瘍を小さくするネオアジュバント療法は広く採用されているが、正式に承認されている薬はないとのことだ。何か特別な理由があるのか、FDAの分析が注目される。

リンク:ロシュのプレスリリース

FDA諮問委員会がバイエルの肺高血圧症治療薬を支持

(2013年8月6日発表)

FDAの心血管腎臓薬諮問委員会は、バイエルが承認申請したsGC(可溶性グアニル酸シクラーゼ)刺激剤、Adempas(riociguat)の承認を全員一致で支持した。5種類の肺高血圧症のうち、肺動脈高血圧症と血管内膜切除不適の慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)の治療に用いる。優先審査指定を受けているので、審査期限は不明だが、10月には承認されるのではないか。日本でも5月にCTEPH向けに承認申請された。

sGC刺激剤は酸化窒素合成酵素が血管平滑筋を弛緩するパスウェイに介入、sGCの一酸化窒素感受性を改善する。一日三回、経口投与する。治験では6分歩行テストの成績を30~50メートル改善し、WHO機能クラスの悪化を抑制した。他の作用機序の薬と併用することも可能な模様だ。

リンク:バイエルのプレスリリース

FDA諮問委員会はサムスカの適応拡大を支持せず

(2013年8月5日発表)

FDA心血管腎臓薬諮問委員会は、Samsca(tolvaptan)の適応拡大申請を検討したが、便益がリスクを上回ると判定した委員は少数だった。予想された結果であり、承認されない可能性が高まった。

大塚製薬は体液貯留型/中立型の低ナトリウム血症治療薬Samscaを常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)の治療に充てる適応拡大試験を成功させ、承認申請したが、ネックとなったのは肝毒性だ。Hyの法則該当例が300人に一人と多く、肝不全・肝移植のリスクが3000人に一人と高い、と推定された。

ADPKDは緩徐だが深刻な合併症をもたらすので、便益が明確なら承認される可能性があったが、腎濾過率改善作用は小さく、病気があまり進行していない患者を対象としたため腎不全予防効果は確認できなかった。更に、ドロップアウトが23%と多かったため、薬効解析データを慎重に評価する必要があった。

このため、便益がリスクを上回ると判定したのは15人の委員のうち6人だけで、9人は反対した。審査期限は9月1日だが、大塚は審査完了通知を受領することになりそうだ。

ノボの第XIII因子は再び審査完了通知

(2013年8月8日発表)

ノボ ノルディスクは、2013年第2四半期決算発表に際して、FDAからNovoThirteen(catridecacog)の審査完了通知を受領したことを明らかにした。先天性第XIII因子欠乏症(患者は世界で900人)の出血事故予防用途で承認申請し、欧州では昨年9月に承認されたが、米国は昨年2月に続き今年6月も審査完了通知しかもらえなかった。今回はcGMP問題が絡んでいる模様なので、時間が掛かるかもしれない。

NovoThirteenはZymoGenetics(後にBMSが買収)からライセンスした遺伝子組換え型第XIII因子Aサブユニットで、Bサブユニットと結合し、活性化するとフィブリンとクロスリンクして網状に変え、構造を強化すると共に溶解されにくくする。

様々な用途探索試験が実施されているが、潰瘍性大腸炎は第二相試験がフェールし開発中止となったことも公表された。

リンク:ノボの決算発表資料(pdfファイル、第17頁に関連情報有り)

【承認】


セルジーンの新薬がEUで承認

(2013年8月9日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)はEUがpomalidomideを多発骨髄腫の三次治療薬として承認したと発表した。最終治療に反応しなかった難治性患者にdexamethasoneと併用する。28日サイクルで21日間、経口投与する。治験ではPFS(無増悪生存期間)がメジアン3.6ヶ月とdexamethasoneだけの群の1.8ヶ月を上回り、全生存のハザードレシオも0.53で有意な差があった。セルジーンにとっては、Thalomid(thalidomide)、Revlimid(lenalidomide、和名レブナミド)に次ぐ第三のIMiDSとなる。

米国ではPomalystのブランド名で2月に承認、月1万500ドルの価格で発売された。欧州ではImnovid名に決まったようで、EUに製品名変更通知を行う予定。

リンク:セルジーンのプレスリリース

テバの長期作用性G-CSFがEUで承認

(2013年8月8日発表)

テバ(NYSE:TEVA)は、Lonquex(lipegfilgrastim)が化学療法誘導性好中球減少症の治療薬としてEUで承認されたと発表した。アムジェンのNeulasta(pegfilgrastim)と同じ遺伝子組換え型長期作用性G-CSFだが、バイオシミラーとしての承認ではなく、新薬として申請・承認された模様だ。

Lonquexはテバが2010年に買収したドイツのGE薬メーカー、ratiopharmaの開発品で、テバはnovel glycoPEGylated filgrastim moleculeと呼んでいる。

リンク:テバのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年8月4日

海外医薬ニュース2013年8月4日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • FDAは大塚製薬のサムスカの適応拡大に否定的
  • ノバルティスの髄膜炎菌ワクチンを2ヶ月児以上に用いることが米国で承認
  • EUでもAegerinのMTP阻害剤が承認
  • FDAがアセトアミノフェンの稀な皮膚毒性について注意喚起


【承認審査・委員会】


FDAは大塚製薬のサムスカの適応拡大に否定的

(2013年8月2日発表)

大塚製薬のSamsca(tolvaptan、和名サムスカ)はADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)の適応拡大試験が成功、承認申請され優先審査指定を受けたが、8月5日の諮問委員会を前に公表されたブリーフィング資料によると、FDAの審査担当者は肝毒性を懸念、承認しない考えだ。この副作用についてはFDAが4月に安全性情報を出しているので、十分に予想できた内容である。症状の重い患者に限定して、未承認のまま使われることになりそうだ。

ADPKDは遺伝性疾患で、腎臓に多くの嚢胞ができる。初期段階では無症状だが、腎臓が肥大していく。静かに少しずつ進行し、やがて機能障害に伴う症状が現れ、長期的には5割の患者が腎不全になる。米国の患者は45万人と推定されている。

Samscaはバソプレシン2受容体拮抗剤で、利尿剤の一種だが血液中のナトリウムなどを保持したまま水分だけの排出を促す。米国では体液貯留型または中立型の、日欧では抗利尿ホルモン不適合分泌症候群による、低ナトリウム血症の治療薬として承認されている。ADPKDでは約1500人を組入れたTEMPO3/4試験で総腎量の増加を有意に抑制し、二次的評価項目である複合評価項目(腎機能など)でも有意な効果を示した。

病気自体が緩徐であることや治験期間が長くドロップアウトが2割と多かったことから臨床的な効用は明確にならなかったが、FDAは、治験期間よりもっと長いタイムスパンで腎不全の発症を遅らせる可能性が示唆されたと肯定的に評価した。

問題は、Hyの法則に該当する症例が複数、発生したことだ。この法則は薬物誘導性肝障害の権威であるHyman Zimmermanの研究に基づいており、FDAのガイドラインによると、1)ALT/ASTが通常の上限値の3倍以上に増加、2)総ビリルビン値の通常上限値の2倍以上増加を伴う、3)肝炎などの病気や同時使用薬などで説明することができない、の三条件を満たす症例は十例に一例の割合で肝移植または肝不全に至る。慢性疾患の薬では臨床試験で一例発生するだけでも懸念材料になり、二例の場合は深刻な肝毒性を持つ可能性が高い。

Samscaの場合、上記の3条件に該当する症例の発生率は300人に一人なので、肝移植・肝不全の発生率は3000人に一人と予想される。過去には、治療開始前及び定期的に肝機能検査を行うことを条件に承認された薬もある(PPAR作動剤ノスカールなど)。しかし、深刻な肝障害を防ぐことはできず、ノスカールは日米ともに販売中止となった(欧州では初めから承認されなかった)。

このリスクは現在承認されている用途では容認されている。病気が深刻であること、長期治療の必要性が乏しく30日以内という制限が守られる可能性が高いこと、標準用量がADPKDの半分であることなどが理由と推測される(但し、薬物誘導性肝障害で無害量を判定することは極めて難しい)。

一方、ADPKDは、長期的な転帰を改善するための予防的投与であること、従って長期投与が必須であること、などがネックになる。息切れや疲労、食欲低下などの症状を改善することができれば副作用リスクを容認できるかもしれないが、TEMPO3/4試験の被験者は病気がそれほど進行していないので、効果が曖昧だった。

FDAの審査期限は9月1日。適応拡大が承認されなかった場合、もっと進行した患者を対象に再試験するオプションもあるが、実現は難しいだろう。長期延長試験が進行中なので、このデータが『治療開始後十数ヶ月投与して肝毒性が発生しない患者は長期間投与しても大丈夫』であることを示すならば、承認の可能性が出てくるだろう。

リンク:FDAのブリーフィング資料

【承認】


ノバルティスの髄膜炎菌ワクチンを2ヶ月児以上に用いることが米国で承認

(2013年8月1日発表)

ノバルティスは、FDAがMenveoを2ヶ月以上の幼少児に用いることを承認したと発表した。髄膜炎菌血清群A、C、W-135、Yのワクチンで、米国では既に2~55歳向けに承認されているが、リスクは1歳未満が高いので、重要な対象年齢拡大だ。

同様なワクチンは既に存在するが、同社は血清群Bのワクチンも実用化しており、将来的には5群ワクチンも投入されるだろう。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

EUでもAegerinのMTP阻害剤が承認

(2013年8月1日発表)

Aegerin Pharmaceuticals(Nasdaq:AEGR)は、Lojuxta(lomitapide)がEUでホモ接合型家族性高脂血症の治療薬として承認されたと発表した。米国でも昨年12月にJuxtapid名で承認されている。

この希少疾患はスタチンで治療しても血清LDL-C値が数百mg/dLと著しく高く、心臓疾患リスクが高い。Lojuxtaは、肝臓や小腸でトリグリセライドやコレステロール・エステルをVLDL-C合成箇所に移送するミクロソーム・トリグリセライド転移蛋白を阻害する経口剤で、4割程度の患者で血清VLDL-C/LDL-C値が大きく低下する。肝臓脂肪増加リスクがあり、米国では肝毒性が枠付警告されている。

BMSが開発したが脂肪肝リスクを懸念して開発中止、Aegerinが引き継いだもの。

リンク:Aegerinのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAがアセトアミノフェンの稀な皮膚毒性について注意喚起

(2013年8月1日発表)

FDAは消炎鎮痛剤acetaminophen(アセトアミノフェン)を服用した患者で稀だが深刻な皮膚毒性が報告されていることを注意喚起した。医学誌の症例報告を受けて再検討したもので、1969年から2012年の43年間にスティーブンス・ジョンソン症候群/中毒性表皮壊死症が91例、急性汎発性発疹性膿疱症が16例、報告されており、このうち67例が入院、12例が死亡したとのこと。服用を続けるうちに突然発症したケースもあるようだ。

同様な皮膚毒性はibuprofenやnaproxenのレーベルでも警告されている。発生頻度の比較はできない模様だ。半世紀近い使用歴のある薬で未知の副作用が発見されたことは驚きだが、昔から使われている薬は今日の新薬のような厳格な臨床試験・承認審査を受けていないので、止むを得ないのだろう。

薬の開発は承認を取得して終了ではない。薬を開発する科学と同様に、薬を評価する科学も日進月歩なので、発売後も継続的に監視する必要がある。逆に、新薬で『多彩な効用』が発見されたとしても過大評価すべきではなく、古い(GE化した安価な)薬には同様な効能がないのか、きちんと検証する必要がある。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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