2013年7月28日

海外医薬ニュース2013年7月28日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ヴィーヴァスの委任状合戦が決着
  • ロシュのフコース除去抗体が第三相試験でリツキサンを負かす
  • Sareptaのeteplirsenは2014年上期に承認申請へ
  • 武田のTAK-700の第三相試験がフェール
  • FDAがMSDのvorapaxarの承認申請を受理
  • BMS/アストラゼネカがSGLT2阻害剤の追加データをFDAに提出
  • CHMPがベーリンガーの抗癌剤等に肯定的意見
  • フォレスト/ファーブルのSNRIが米国で承認
  • グラセプターが米国でも承認
  • CHMPがインクレチンの膵癌懸念を否定
  • ケトコナゾールの規制強化


【今週の話題】


ヴィーヴァスの委任状合戦が決着

(2013年7月18日発表)

新薬を次々と発売した割には業績がパッとしないヴィーヴァス(Nasdaq:VVUS)を巡る委任状合戦は、結局、経営側が大幅譲歩に応じ株主側が勝利した。株主と言っても二社の合計保有比率は12%に過ぎず、他の株主にとっては今後の展開、つまり大手製薬会社との提携や身売りが実現するかどうかのほうが関心事だろう。

カリフォルニアに本拠を持つヴィーヴァスは、2012年に米国で体重管理薬Qsymia(phentermineとtopiramateの合剤)と田辺三菱製薬からインライセンスした性的不全治療薬Stendra(avanafil)の承認を取得したが、前者は2013年第1四半期の売上高が4000万ドルに留まり、EUでは承認されなかった。後者も既に類薬が三品もあるため大きな期待はできない。

今回、経営陣刷新に成功したファースト・マンハッタンは1964年に設立されたNYの投資顧問会社で、ヴィーヴァスの株式の10%弱を保有している。大手製薬会社の力を借りずに単独販売路線に固執する経営陣に業を煮やし、年次株主総会を機に取締役を送り込むべく委任状争奪戦を開始した。結局、ヴィーヴァス側が妥協。CEO以下4名が退任し、ファーストマンハッタンが選んだ6人の取締役の選任を株主に推奨することとなった。

22日にはファーストマンハッタンの要求に応じてアストラゼネカの営業部門でEVPを務めたZook氏を社長に、社会保障庁長官のAstrue氏を会長に、指名した。 Astrue氏はQsymiaの売上拡大と販売提携、及び欧州での承認、そして費用削減という四大目標に向けて迅速に行動する考えを表明している。

他の取締役候補の顔触れは、Colin氏はファーストマンハッタンのシニア・マネージング・ダイレクター、Denner氏はアクティビスト系ヘッジファンドのSarissa Capital Managementのチーフ・インベストメント・オフィサーで、過去の投資歴はバイオジェン・アイデック、ジェンザイム、メディミューン、イムクローンなど。バイオジェン以外は株主の圧力に押されて身売りした。Sarissaを設立する前は買収屋として高名なアイカーンと共に働いていた。Sarissaはヴィーヴァスの株式の約2%を保有。

Johannes J.P. Kasteleinは、おそらく、アムステルダム大学アカデミック・メディカル・センターに在籍し高脂血症治療薬の臨床研究で数々の実績を持つKastelein教授のことだろう。

ヴィーヴァスは8月中旬までに年次株主総会を開催して取締役改選の承認を得る予定。

二社合計で12%しか保有していない株主が経営陣入替に成功し取締役会の過半を握ることには驚かされる。ヴィーヴァスの経営成績が物言わぬ株主にとっても不満足であったからだろう。経営権という権利の上に眠る豚は、誰も守ってくれない。

リンク:和解に関するヴィーヴァスのリリース

リンク:
社長・会長指名に関する同社のリリース(7/22付)


【新薬開発】


ロシュのフコース除去抗体が第三相試験でリツキサンを負かす

(2013年7月24日発表)

ロシュは、慢性リンパ性白血病の第三相試験でGA101(obinutuzumab、開発コードはRG7159とかRO 5072759とか呼ばれることもある)がMabThera/Rituxan(rituximab、和名リツキサン)を有意に上回るPFS(無増悪生存期間)を示したと発表した。データは12月のASH米国血液学会で公表される予定。

GA101はロシュが2005年に買収したGlycArt社のGlycoMAb技術を用いたフコース除去抗体で、CHO細胞にグリコシルトランスフェラーゼを過剰発現させることによって、翻訳後装飾で糖鎖にフコースが付与されるのを防ぐ。異なった方法でフコース除去抗体を産生するポテリジェント抗体と同様に、NKセルやマクロファージのFcガンマ受容体IIIaとの結合力が高く、同じ抗CD20抗体であるRituxanより高いADCC活性を持つ。尚、GA101はヒト化抗体、Rituxanはキメラ抗体という点も異なっている。

このCLL11試験は、一次治療薬としての効能を検討したもので、第一ステージではchlorambucil単剤と二剤併用、及び、chlorambucil単剤とRituxan・chlorambucil併用をそれぞれ比較した。前者の比較はPFSがメジアン10.9ヶ月から23.0ヶ月に延長、ハザードレシオ0.14、pは0.001未満と大変良い結果が出た。後者の比較は各10.8ヶ月、15.7ヶ月、0.32でこれも有意に優れていたが、数値上はGA101併用の方が優れていた。

今回成功が発表されたのは第二ステージで、予想された通り、GA101の二剤併用がRituxanの二剤併用を上回った。Rituxanは非ホジキン型リンパ腫など様々な用途に承認されているのでキャッチアップするには時間が掛かるが、少なくとも今回の用途では販促の重要なツールになる。

ロシュは第一ステージの結果に基づいて4月に欧米で承認申請、米国では12月にも承認される見込み。Rituxanを開発したバイオジェン・アイデックと共同販売する予定。

リンク:ロシュのプレスリリース

Sareptaのeteplirsenは2014年上期に承認申請へ

(2013年7月24日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)は、デュシェンヌ型筋ジストロフィー治療薬として開発しているeteplirsenを2014年上期に米国で承認申請する予定であることを発表した。失望的な内容で、株価が19%下落した。

eteplirsenはエクソン・スキッピング・ドラッグという新しいタイプの薬。遺伝子の塩基配列を読み取りアミノ酸を繋げていく過程に介入、蛋白の合成を途中で終わらせたり、途中の塩基配列を無視させたりすることによって、遺伝子疾患を治療する。筋ジストロフィーの主因であるジストロフィンの場合、途中で終わらせて短いジストロフィンを作らせることができれば、ある程度は機能するので転帰を改善できる可能性がある。

eteplirsenはエクソン50変異型など、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの13%程度に有効な可能性がある。オランダのProsensa社もグラクソ・スミスクラインと提携してdrisapersenの第三相試験を実施しており、Sareptaがキャッチアップ/逆転するためには手持ちの第二相試験のデータに基づく承認申請が必須だが、問題は、FDAがジストロフィンの増加を臨床的な効用を期待するに足りる代理マーカーとして認めて、サブパートH承認してくれるかどうかだ。

FDAと相談したがあまり良い反応は得られなかった模様だ。第一に、FDAがジストロフィンの測定方法の内容や有効性を明らかにするよう求めたため、承認申請が半年後に遅れることとなった。第二に、FDAは、ジストロフィンを代理マーカーとして認めるかどうか態度を明らかにしなかった。承認申請すること自体は認めた模様だが、承認するかどうかは様々なデータを検討した上で判断するという、至極もっともな考え方だ。

同社は2014年第1四半期に第三相試験を開始する予定。もっと早く始めるべきだったのではないだろうか。

リンク:Sareptaのプレスリリース

武田のTAK-700の第三相試験がフェール

(2013年7月25日発表)

武田薬品はTAK-700(orteronel)の第三相前立腺癌試験がフェールしたと発表した。もう一本進行中だが、期待薄となった。

TAK-700は精巣や副腎に分布する17.20-リアーゼという酵素を阻害する小分子薬で、男性ホルモンの生成を抑制する。ジョンソン・エンド・ジョンソンが2011年に欧米で発売したZytiga(abiraterone)の類薬なのでフェールしたのは意外だ。

この試験はホルモン療法に反応しなくなり化学療法を受けたが不応・再発した転移性前立腺癌にpredonisoneと併用する効果をpredonisone単剤と比較したもの。事前に予定されていた中間解析で主評価項目である全生存期間のハザードレシオが0.894、p=0.226となったため、独立データ監視委員会が治験を続行しても成功する可能性が低いと判定、アンブラインドを勧告した。

二次的評価項目の一つである放射線学的PFS(無増悪生存期間)の解析ではハザードレシオ0.755、p=0.00029と大変良い数値が出たが、延命効果の方が重要だ。

この種の試験は中間解析で主目的を達成できるよう多数の患者を組入れるのが流行のようで、Zytigaの同様な試験も中間解析で成功となった。全生存のハザードレシオは0.74、二次的評価項目の放射線学的PFSは0.67で、何れもTAK-700より数値上、良い。効果、あるいは忍容性に差があるのだろう。

TAK-700のもう一本の第三相は、化学療法未施行の転移性無/軽度症候性ホルモン療法抵抗性前立腺癌を対象としている。この領域はZytiga以外にも様々な新薬が登場したので、もしTAK-700の効果が不十分なら打ち切っても良いのではないかと思われる。TAK-700の問題だけではなく、対照群の治療法は最早標準療法とは言えないので倫理的な問題もはらんでいるからだ。にも拘らず続行を決めたのは、既に組入れが完了していることや、おそらく、多くの被験者が既に進行し二次治療にシフトしているからだろう。

Zytigaの同様な試験は、主評価項目二つのうち全生存のハザードレシオは0.75、放射線学的PFSは0.53となった。このうち全生存はp=0.0097と、数値的には良いが事前に設定されたハードルである0.0008を上回ったためフェールした。その後に行われた解析でもハザードレシオ0.792、p=0.0151とハードルを上回った。主評価項目が二つあり、何度も中間解析を行うプロトコルなので多重性を回避するために個々の解析には小さなアルファしか与えられないのである。

武田の試験も主評価項目が二つあり、放射線学的PFSは年内に結果が出るのではないかと思われるが、一本目がフェールしただけに、全生存の解析を成功させることが極めて重要だ。最終解析は来年と推測されるが、もし放射線学的PFSの解析が成功しても全生存で有意差が出なかった場合、Zytigaと異なり、承認されない可能性も出てくるだろう。

リンク:ミレニアムと武田薬品のプレスリリース

【承認申請】


FDAがMSDのvorapaxarの承認申請を受理

(2013年7月24日発表)

MSDは、FDAがMK-5348/SCH 530348(vorapaxar)の承認申請を受理したと発表した。PAR-1阻害という新しい作用機序を持つ経口抗血小板薬で、心筋梗塞の再発予防に用いる。深刻な出血リスクを持つので脳卒中やTIA(一時的脳虚血発作)既往患者に用いることはできない。

第三相アウトカム試験の結果は2011年のAHAと2012年のACCで学会発表された。非ST上昇型急性冠症候群を組入れたTRACER試験は脳卒中既往者で頭蓋内出血など深刻な出血事故が増加したため途中で投薬中止、解析結果もフェールした。心筋梗塞亜急性期/安定期の患者や脳梗塞、末梢動脈疾患の患者を組入れたTIMI50試験は成功したが、やはり、脳梗塞患者の組み入れは深刻な出血リスクが見られたため途中で中止された。

後者の試験は脳卒中既往患者を除外した解析では比較的良い結果が出た。心血管死・心筋梗塞・脳卒中・緊急血行術の複合評価項目の解析はハザードレシオ0.84(95%信頼区間0.76、0.93)、Number Needed to Treatは77、GUSTO中重度出血は有意に増加、Number Needed to Harmは67(薬効評価項目とは観察期間が異なるので比較できない)、しかし頭蓋内出血は5割ほどの増加に留まり、致死的出血は44%増えるだけで有意差は無かった。

ただ、比較的良いというのは脳卒中既往患者のデータより遥かにマシというだけで、このデータを見ただけでは承認に値するようには感じられない。第一三共/イーライリリーのEfient(prasugrel)の時と同じように、適応条件に体重や年齢を加味すれば数値をもっと良くできるのかもしれないが、Efientの時と同様に、スンナリとは承認されないだろう。

リンク:MSDのプレスリリース

BMS/アストラゼネカがSGLT2阻害剤の追加データをFDAに提出

(2013年7月25日発表)

BMSとアストラゼネカは、FDAがForxiga(dapagliflozin)の追加データを完全回答として受理したと発表した。第二巡の承認審査が始まったことになる。2014年1月11日までに結果が出る予定。

ForxigaはSGLT2阻害剤で二型糖尿病の治療に用いる。ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発したInvokana(canagliflozin)より早く承認申請され、欧州で承認されたが、米国ではInvokanaに先を越された。臨床試験で癌の発生に偏りがあったことが理由のようだ。発癌物質でも何年も投与しなければ癌にはならないので、おそらく偶然なのだろうが、FDAは二型糖尿病薬については特に承認審査が慎重だ。

リンク:BMS/アストラゼネカのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがベーリンガーの抗癌剤等に肯定的意見

(2013年7月26日発表)

EUの医薬品審査委員会であるCHMPは7月の月例会議で多くの新薬・適応拡大に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月後に承認されるだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース

新薬では、ベーリンガー・インゲルハイムのEGFR阻害剤、Giotrif(afatinib)が、EGFR活性化変異を持つ局所進行性/転移性の非小細胞性肺癌にで支持された。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

武田薬品のDPP-4阻害剤Vipidia(alogliptin、和名ネシーナ)とそのコンビ薬であるIncresync(alogliptin、pioglitazone)とVipdomet(alogliptin、metformin)も二型糖尿病治療薬として支持された。

適応拡大では、以下が支持された。

・バイエルがリジェネロンからライセンスした抗VEGF薬Eylea(aflibercept、和名アイリーア)をCRVO(網膜中心静脈閉塞症)による黄斑浮腫の治療に用いること

リンク:バイエルのプレスリリース

・ノバルティスの抗IL-1ベータ抗体Ilaris(canakinumab、和名イラリス)を難治性の活性期全身性小児特発性関節炎の治療に用いること

・グラクソ・スミスクラインがライガンド(Nasdaq:LGND)からライセンスしたRevolade(eltrombopag、和名レボレード)を慢性C型肝炎で血小板が少ないために抗ウイルス治療を受けられない患者の血小板新生刺激剤として用いること。C型肝炎は血小板減少症を併発することがあるが、アルファ・インターフェロンとribavirinは血小板減少リスクがあるので、Revoladeで増やすことができれば今より多くの患者が治療を受けられるようになる。

リンク:GSKのプレスリリース

・ジョンソン・エンド・ジョンソンのPrezista(darunavir、和名プリジスタ)の400mg及び800mg錠を12歳以上で且つ体重40kg以上のHIV/AIDS患者の一次治療に用いること

・同社の抗TNF薬Simponi(golimumab)を難治性活性期潰瘍性大腸炎の治療に用いること

・同社の抗IL-12/23抗体Stelara(ustekinumab)を難治性活性期乾癬性関節炎の治療に用いること

新製品では、ノバルティスの二種類のCOPD治療薬を配合したUltibro/Xoterna Breezhaler(glycopyrronium bromide、indacaterol)が支持された。また、ギリアッドのHIV/AIDS治療用4剤合剤Stribild(和名スタリビルド)に配合されている3A4阻害剤cobicistatがTybost名の単剤として支持された。

一方、大塚製薬が多剤耐性結核の治療薬として承認申請したdelamanidは否定的意見となった。メインの臨床試験は2ヶ月で、その後延長試験やレジストリー方式による長期フォローアップも行われたが、CHMPは、最初の2ヶ月間の薬効解析データしかないため、6ヶ月以上投与する薬のエビデンスが不十分と判定した。至適用量が明確でないことも指摘した。至極ごもっともな意見であり、おそらく、この試験には何らかの誤算があったのだろう(2ヶ月の治療で足りるはずが足りなかったので延長した、等)。

尚、delamanidは日本でも承認審査中。日本は欧米ほど薬効や安全性のエビデンスに厳格でないので、CHMPとは異なった結果が出ても不思議ではない。

4月に否定的意見を受けた経口抗リウマチ薬Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)は、ファイザーの再審査請求に基づいて再び検討されたが、変わらなかった。安全性面では癌や胃腸穿孔、肝障害、脂質異常等の懸念があること、薬効面では構造障害進行を遅らせる効果が確立していないことがボトルネックとなった。これまでの抗リウマチ薬(バイオ薬を含む)は承認時点では構造障害進行遅延効果が確認されていなかったものが多いので、意外だ。

リンク:ファイザーのプレスリリース(7/25付)

一方、イタリアのGentium(Nasdaq:GENT)社が申請したDefitelio(defibrotide)に関しては、3月の意見を覆し、肯定的意見を出した。造血幹細胞移植の前に行われる化学療法の副作用である重度VOD(肝静脈閉塞症)の治療・予防薬として承認申請されたが、予防は便益が明確でないため申請取下げとなった。一方、治療に関しては、Gentiumが追加提出した米国の患者登録データにより移植後の生存率を向上する効果が示唆されたため、例外的条項に基づく承認を支持した。

リンク:Gentiumのプレスリリース(pdfファイル)

【承認】


フォレスト/ファーブルのSNRIが米国で承認

(2013年7月26日発表)

フォレスト(NYSE:FRX)とフランスのピエール・ファーブルは、FDAがFetzima(levomilnacipran)を成人の大鬱病の治療薬として承認したと発表した。Savella(milnacipran、和名トレドミン)の異性体でノルエピネフィリンとセレトニンの再取込を阻害する。尚、Savellaは米国では線維筋痛症候群の治療薬として承認されている。

リンク:両社のプレスリリース

グラセプターが米国でも承認

(2013年7月19日発表)

アステラス製薬はAstagraf XL(tacrolimus徐放性剤、和名グラセプター)が米国で腎移植後の拒絶反応予防薬として承認されたと発表した。オリジナルの製剤であるPrografは一日二回服用だが、Astagraf XLは一回で済むのでやや便利。但し、当初は血中濃度が不足する可能性があるので頻繁にチェックするなどの注意が必要。また、当然のことながら用量が異なるので、処方箋を明確に書き、取り違えが起きないよう注意する必要がある(欧州で注意喚起が出たことがある)。

米国の承認が遅れたのは、治験における男性と女性の成績に偏りがあったことや、この機会にtacrolimusの安全性や至適用量を改めて検討したことが主因と推測される。肝移植は承認されなかったが、元々オフレーベル使用が多い領域なので大きな問題はないだろう。

リンク:アステラスの米国法人のプレスリリース

【医薬品の安全性】


CHMPがインクレチンの膵癌懸念を否定

(2013年7月26日発表)

CHMPは二型糖尿病のインクレチン療法(GLP-1作用剤やDPP-4阻害剤)に関する再検討結果を発表した。一部の研究者が膵癌の懸念を指摘したが、エビデンスが不十分として却下した。尤も、ベータ細胞の機能を刺激しアルファ細胞の機能を抑制する作用機序を考えれば長期的な影響について不透明な点もあるため、引き続き調査を行う考えを示した。

FDAの問題提起が契機となり、糖尿病治療薬を発売したメーカーは臨床的な転帰を調べる大規模アウトカム試験を実施しており、その中で膵癌や膵炎の発生状況も監視する予定である。更に、メーカーとは独立したグループによって二種類の大規模研究が開始されており、2014年春から結果が出始める予定。

尚、インクレチンについては膵炎の懸念も表明されているが、既にレーベルで言及されており、医師なら誰でも知っていることだ。

リンク:CHMPのプレスリリース

ケトコナゾールの規制強化

(2013年7月26日発表)

EUのCHMPとFDAは、それぞれ別個に、アゾール系抗真菌薬Nizoral(ketoconazole、日本の一般名はケトコナゾール)の経口剤に関する規制を強化した。EUは厳しく、承認停止。米国も難治性の患者の二次治療に限定した。

発端はフランスが2011年6月に承認停止したこと。肝障害のリスクが類薬より高いことが理由だ。フランスはEMA(欧州薬品庁)に検討を要請、CHMPが今回、同じ結論に達した。CHMPによると、肝障害は推奨開始用量(200mg/日)で治療を開始した後早い段階で発生しており、リスクを回避する適当な方法は見つかっていない。そもそも、ketoconazoleの薬効に関するデータは限定的で、今日のスタンダード(開発ガイドライン)に適合していない。

CHMPは用途制限なども検討したが、何れも不十分と判断した。

FDAは警告強化と用途をブラストミセス症、コクシジオイデス症、ヒストプラスマ症、クロモ真菌症、パラコクシジオイデス症で他剤不適例だけに限定することを決めた。カンジダや白癬菌感染症に用いることは禁止。

尚、今回の制限は局所性のクリームや軟膏製剤には当てはまらない。体内に吸収される量が少ないため。

リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年7月21日

海外医薬ニュース2013年7月21日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 米検事局がノバルティスのジレニアのマーケティング方法を捜索
  • AAIC:様々な作用機序のアルツハイマー病薬パイプライン
  • レブラミドの第三相慢性リンパ性白血病試験が死亡リスクで中断
  • ブリディオンのFDA諮問委員会はキャンセルに
  • ロシュのErivedgeがEUで承認


【今週の話題】


米検事局がノバルティスのジレニアのマーケティング方法を捜索

(2013年7月17日発表)

米国の検事局が今月、ノバルティスに対して多発性硬化症用薬Gilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)のマーケティングに関する資料を提出するよう民事捜索要求を行ったことが判明した。ノバルティスが2013年第2四半期決算報告資料の中で明らかにしたもの。

Gilenyaは田辺三菱製薬が発見したS1P受容体調節剤で、2013年上半期の売上高が8億ドルを超える大型薬。今回の要求は医療従事者に対する報酬等に関するもので、おそらく、製薬会社が自社の医薬品を処方した医師に支払うキックバックの妥当性を調べるのだろう。

この種のキックバックには、(1)医薬品の特徴に関する録音を電話で聞くと家族全員でディナーをタダで食べることができる、(2)臨床研究の名目で簡単なアンケートに答えると数百ドルの報酬を得ることができる、(3)医療従事者向け勉強会で未承認用途での使用経験などをレクチャーした医師に講師料を払う、などがあり、シェアを拡大する手段として、あるいは、未承認用途での普及に拍車を掛ける方法として、人気がある。

しかし、米国では近年、取り締まりが厳しくなっており、(3)についてはファイザーなどの製薬会社が、多額の報酬を払った医師の名前を公表した。また、多くの製薬会社が司法省に多額の罰金・和解金を払っている。

ノバルティス自身も4億ドル以上の罰金・和解金を払うと共に、『高潔』を旨とすることに同意した。もし今回の疑惑が『企業高潔同意』に抵触すると判定された場合、更に巨額の罰金・和解金を課せられる可能性が生じる。

多発性硬化症用薬では今年3月にバイオジェン・アイデックのTecfidera(dimethyl fumarate)が米国で承認された。どちらも経口剤であり、忍容性はTecfideraのほうが良好であるように見えるので、Gilenyaには脅威になる。先発の利を生かして今のうちに何とか売上を伸ばしておきたいところだが、検事局の介入で見通しが不透明になってきた。

デトロイト市がチャプター9に基づく財政再建手続きの申請を行ったが、原因の一つは高齢者・低所得者向け医療保障制度である模様だ。ミシガン州は医療費抑制にアグレッシブだが、その中心であるデトロイトの財政が破綻したことは問題の深刻さ、解決の困難さを示している。合理的な解決策は効果の疑わしい医療を止めることや、医療費増大に繋がる違法行為を取り締まること等だ。デトロイト事件を機に、改めて医療費抑制・キックバック規制がステップアップするのではないだろうか?

リンク:ノバルティスの決算発表資料(pdfファイル。上記の記載は39頁目)

リンク:PharmaLiveの関連記事

【新薬開発】


AAIC:様々な作用機序のアルツハイマー病薬パイプライン

(2013年7月14日発表)

AAIC(アルツハイマー協会国際会議)でMSDのBACE1阻害剤、ルンドベック/大塚製薬の5-HT6拮抗剤、Chiesi社の小膠細胞モジュレータの臨床初期・中期試験のデータが発表された。MSDは第2/3相試験を開始、ルンドベック/大塚も年内に第3相を開始予定。更に、イーライリリーが抗アミロイド・ベータ抗体で再び第三相試験を開始することを改めて表明。武田薬品のアクトスを用いた第三相MCI(軽度認知障害)予防試験の計画も発表された。

何れも有望と判を押すことはできず、もし第三相試験がフェールしたとしてもアルツハイマー病研究の重要な一里塚になるだろう、位に書いておいた方が良さそうだが、少なくとも、研究意欲と予算は餓えていないようだ。

MSDのBACE1阻害剤、MK-8931(SCH 900931)は中重度アルツハイマー病(AD)患者に7日間反復投与した後期第1相試験の結果が発表された。脳脊髄液中のアミロイド・ベータ40(投与後24時間の時間加重平均値)が用量依存的に減少した(12mgを一日一回投与した群はベースライン比57%、40mg群は79%、60mg群は84%)。アミロイド・ベータ42も各群53%、71%、81%減少した。

同社は昨年12月に第2/3相試験を開始。第二相部分では200名、第三相部分は1700名の軽中度アルツハイマー病患者を組入れて、この三用量または偽薬を78週間投与し、認知機能(ADAS-Cog)と生活機能(ADCS-ADL)の変化を偽薬と比較する。結果が判明するのは2017年後半になりそうだ。

アミロイド仮説によると、アルツハイマー病はアミロイド・ベータの蓄積が炎症反応を誘発し、周辺の神経細胞に損傷を与える。BACE1はアミロイド前駆細胞からアミロイド・ベータを切り出す酵素の一つで、今回、BACE1を阻害すればアミロイド・ベータが産生され脳脊髄液中に分布するのを抑制できることが明らかになった。但し、小規模な試験なので症状改善作用は検討できない。アミロイド・ベータを切り出すもう一つの酵素であるガンマ・セクレターゼ阻害剤の第三相試験はフェールした。

安全性面では、BACE1ノックアウトマウスには神経細胞の導電障害が見られるようだが、BACE1阻害剤のサルやヒトの試験では見られない模様であり、発達期を終えた高齢者では問題ないのかもしれない。イーライリリーのLY2811376で見られた網膜色素上皮異常はノックアウトマウスでは見られないのでオフターゲット毒性と考えられている。何れにせよ、第2/3相試験が完了すれば答えが出るだろう。MSDの第2/3相試験はBACE1阻害剤を開発しているイーライリリーやエーザイ、ロシュなど多くの製薬会社にとっても注目だ。

尚、MK-8931は旧シェリング・プラウがライガンド社(Nasdaq:LGND)と行った共同研究に関連している模様であり、ライガンドは売上高ロイヤルティを得ることができる。

リンク:MSDのプレスリリース

アミロイド仮説はエラン/ジョンソン・エンド・ジョンソン/ファイザーやイーライリリーが第三相試験を実施したが、何れもフェールした。一番惜しかったのがLY2062430(solanezumab)の試験で、イーライリリーは当局に承認申請を打診したが断念、改めて第三相試験の実施を決めたが、7月12日の投資家向けウェブキャストで、具体的な内容を公表した。

最初の二本の試験のプール分析では、軽度AD患者のADAS-Cog14で治療効果34%(p=0.001)、ADCS-iADLで同18%(p=0.045)と良い結果が出た。このため、追加試験では軽度患者だけを2100人組入れて検出力を大幅に増強し、この二項目を主評価項目とする。新しい工夫はアミロイド・ベータの関与が疑われる症例だけをPETや脳脊髄液検査でスクリーニングすること。前二本では組入れ患者の75%が該当したが、今回の試験では50%と保守的な前提を置いている。

当然のことながら組入れに時間が掛かり、同社は22ヵ月を想定。治験期間は18ヶ月なので、結果が出るのは16年末から17年前半になりそうだ。組入れを迅速に完了すべく努力するだろうし、データ安全性監視委員会の裁量で中間薬効解析を行うことも可能なので、前倒しになる可能性もありそうだ。

LY2062430などの試験で注意しなければならないのは、目先の症状改善作用ではなく、長期的な悪化を穏やかにする効果を検討していることだ。アセチルコリン還元酵素阻害剤(AChE阻害剤)の試験では、ADAS-Cogなどが改善した。LY2062430の最初の二本の第三相では、悪化が偽薬より小さかった。AChE阻害剤でもやがて悪化し始めるので結局は同じなのだが、統計学的に有意な治療効果があったとしても、患者にとっての意味は違うかもしれない。

尚、この二本の治験論文は既に医学誌に提出されたとのことなので、査読で問題が生じない限り、間もなく刊行されるのではないだろうか。

リンク:イーライリリーのウェブキャストの一覧

ルンドベックは、昨年、5-HT6アンタゴニストLu AE58054のPOC試験成功を発表した。今回、開発販売パートナーである大塚製薬と連名で学会発表プレスリリースを出したが、データは記されていない。治験登録や報道によると以下のような内容であり、特に効果が高いようには見えない。

この試験は2009年末に欧州、豪州、カナダの医療施設で開始された。中度ADでdonepezil(エーザイのアリセプト)を服用している患者278人を偽薬群とLu AE58054群に無作為化割付して24週間治療し、ADAS-Cogの変化を比較した。結果は、偽薬群がベースライン比1.5ポイント悪化したのに対して、Lu AE58054群は1ポイント改善した(p=0.004)。二次的評価項目のグローバル評価や生活機能でも改善のトレンドが見られた(この場合の『トレンド』は、有意ではないという意味)。

安全性面では5-HT6アンタゴニストもdonepezilもアセチルコリンを増強するのでコリン性副作用である下痢、悪心、嘔吐が懸念されたが、発生数は各群14例と17例で若干増える程度だった。有害事象による治験離脱は各10例と23例で倍増。肝機能検査値異常によるものが11例と多かったことが響いたが、服用を止めても、続けても、正常に戻るとのことなので、判断は難しい。

臨床検査値異常に基づく治験離脱は、症状が無くても強制的に離脱するようプロトコルで定めている場合があるからだ。もし一時的で深刻ではないと判断されれば、今後の試験ではプロトコルが見直され、ドロップアウトが減ることになるだろう。

5-HT6は主として脳の学習や記憶に係る部位に発現する受容体で、活性化するとGABAやアセチルコリンの分泌を抑制するとのことだ。アセチルコリン還元酵素阻害剤はアセチルコリンを長持ちさせるので、この二剤の併用は異なった方法でアセチルコリンを増強することになる。新しい作用機序だが、標的が既存薬と類似している点で安心感がある。

とはいえ、治療効果の2.5ポイントは決して高くない。一般的にAD治療薬の効果は5ポイント程度欲しいと言われている。実際にはこんなに効果が高い薬はないが、それでも、2.5ポイントというのは既存薬の治験データの下限である。また、ADAS-Cogのp値がこんなに良い、つまり、検出力の高い試験であったにもかかわらず他の評価項目で有意差が出なかったのは奇異だ。

両社は年内に軽中度ADの第三相donepezilアドオン試験を開始する予定。第二相試験の再現を狙うためには、中東欧やアジアの施設をできるだけ除外して、米国を含む英語圏を中心に実施する方が良いだろう。軽度患者に対する有効性は確認されていないので、中度患者だけのサブグループ解析ができるようにデザインしたほうが成功確率が高まるだろう。

5-HT6アンタゴニストはワイス(現ファイザー)がSAM-531で第二相試験を行ったが開発中止、現在はSAM-760/PF-05212377にシフトしたようだ。GSKも742457で後期第二相試験を実施、ある程度の効果が見られたが、その後、開発を中断している様子だ。両社とも、Lu AE58054の第三相試験の成否を注目しているだろう。

リンク:MedPageのLu AE58054に関する記事(要登録)

変わり種では、イタリアのChiesi PharmaceuticalsのCHF5074の第二相延長試験の結果も発表された。脳細胞でマクロファージ様の機能を果たす、小膠細胞をモジュレートする薬とのことだが、良く分からない。今回の第二相データも良く分からない。

元々は、MCI(軽度認知障害)を持つ患者74人を偽薬、一日200mg、400mg、600mgの4群に割付けて12週間治療した偽薬対照二重盲検試験なのだが、何も報じられていないので、おそらくフェールしたのだろう。偽薬群以外はオープンレーベル延長試験、そして更に、長期延長試験に進んだ。

今回発表されたのは64週時点の中間解析で、聞いたことのない複数のテストで認知機能がベースライン比で有意に改善した。ApoE-4陽性患者のほうが陰性より良い結果が出た。有害事象は用量依存的な下痢で、200mgの発生率は1.4%だったが600mgでは16%に達した。

この種のデータで気を付けなければならないのは、第一に、サバイバル・バイアスがあることだ。解析対象は約30例とintent-to-treatの半分である。残りの半分には効果がない、または、有害で治療を止めざるを得ないと保守的に評価すると、治療効果が半減してしまう。

そもそも、今回の解析は治験の主目的ではないだろう。フェールした試験でも様々な評価項目を比較すれば偶然に有意差が出ることもある。この薬の開発を断念するのは早計で、もう少し研究を続けた方が良い、程度に受け止めておいた方が良さそうだ。

リンク:MedPageの関連記事(要登録)

リンク:アルツハイマー協会のMK-8931、CHF5074、pioglitazoneの試験に関するリリース

最後に、上記のアルツハイマー協会のリリースによると、二型糖尿病薬pioglitazone(武田薬品のActos)を用いた第三相MCI予防試験が計画されているようだ。武田薬品は、ApoE4とTOMM40の多型、そして年齢を用いてアルツハイマー病のリスクを予測する手法をAAICで発表したとのプレスリリースを出したが、第三相試験はこの手法を用いて高リスク健常者をスクリーニングし、pioglitazoneのMCI発症予防効果を検討する模様だ。

PPAR作動剤ではGSKがAvandia(rosiglitazone)を用いて第三相AD治療試験を行ったが、効果がなかった。pioglitazoneも2000年代に第二相試験が行われたが、その後、音沙汰がなかった。安全性疑惑が生じたことが影響したのかもしれないし、そもそも、大きな効果がなかったのかもしれない(もし効果の兆しでもあったのなら、もっと早く、AD治療で第三相を始めただろう)。

今回の話で感心するのは、武田が、特許失効期に入ったActosの臨床試験をまだ行う模様であることだ。研究者主導試験なのだろうが、通常は、特許が切れた薬の試験のスポンサーになることはあり得ない。今回の試験が成功したら新しい治療薬のヒントが生まれるので意味がない訳ではないが、情報は広く一般に公開されるだろうから、武田が特に有利になるわけではないだろう。おそらくは、純粋に、ADの医学の進歩を後押しする意図なのではないか。

リンク:武田のプレスリリース

レブラミドの第三相慢性リンパ性白血病試験が死亡リスクで中断

(2013年7月18日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、ORIGIN第三相試験でRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)群の投与を中止したと発表した。死亡率に群間の偏りが発生し、FDAが治験中断を命じた。残念な出来事だが、この試験に組入れられた強化化学療法不耐患者は、Revlimidにも耐えられないのだろう。

ORIGIN試験は、B細胞性慢性リンパ性白血病の治療を初めて受ける、fludarabineやbendamustineに不適な疾患(糖尿、慢性心不全など)を持つ高齢者450人を、Revlimid群とchlorambucil群に無作為化割付してPFS(無増悪進行期間)を比較したもの。中間解析でRevlimid群の死亡例が210人中34人と、対照群の211人中18人を大きく上回ったため、Revlimid群の投与を止めることになった。

Revlimidは多発骨髄腫の薬として数多くの試験が行われている。抗癌剤なので副作用が多いが、広く用いられており、その意味で、許容されている。他の慢性リンパ性白血病試験は続行する模様であり、おそらく、Revlimidの未知の危険性が浮上したということではなく、脆弱な患者に使える程忍容性が高い訳ではないことを示したと受け止めるべきなのだろう。

ところで、セルジーンのプレスリリースによるとORIGINという名称は商標登録されているようだが、そうすると、サノフィが持効性インスリンのLantusで行ったORIGIN試験はどうなるのだろうか?

リンク:セルジーンのプレスリリース

リンク:ORIGIN試験の治験登録

【承認審査・委員会】


ブリディオンのFDA諮問委員会はキャンセルに

(2013年7月16日発表)

MSDはBridion(sugammadex、和名ブリディオン)に関するFDA麻酔鎮痛薬品諮問委員会がキャンセルされたと発表した。安全性確認試験を実施した機関にFDAが立入り調査を行った時に、何か懸念が生じたようだ。

この選択的筋弛緩剤結合剤は、全身麻酔薬rocuroniumやvecuroniumに結合して効果を速やかにオフセットする。2008年に欧州などで承認され、2010年承認の日本で特に普及しているようだ。米国では2007年に承認申請され優先審査指定を受けたが、過敏反応リスクに関する懸念から承認されず、健常者を対象にアレルギー感受性試験を行うことになった。過敏反応が起きる閾値を下げてしまう可能性があるようだ。但し、治験では深刻な症例は発生していない模様。

アレルギー感受性試験は4施設で行われたが、FDAがこのうち一つの施設を立入り調査した時に観察事項があった模様。どのようなものかは分からないが、諮問委員会をキャンセルするほどなのだから、その施設のデータの信ぴょう性に係るものなのだろう。もし解析から除外することになったら、症例不足で安全性を検討できなくなるかもしれない。

Bridionは上記の麻酔薬を開発したオルガノンの開発品で、同社を買収したシェリング・プラウをMSDが買収した。シェリング・プラウ時代は大型新薬と期待されたものだが、米国の発売はまたお預けになった。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


ロシュのErivedgeがEUで承認

(2013年7月15日発表)

ロシュは、Erivedge(vismodegib)がEUで末期基底細胞腫向けに承認されたと発表した。Curis(Nasdaq:CRIS)からライセンスしたヘッジホッグ・アンタゴニストで、膜貫通型蛋白Smoothenedに結合・阻害して、末期基底細胞腫でしばしば見られるヘッジホッグ・パスウェイの異常亢進を緩和、癌細胞の成長とアポトーシス回避メカニズムを抑制する。基底細胞腫は米国で年100万人が診断される、珍しくない疾患だが切除術が有効で末期に進むのは1%未満と推測されている。

リンク:ロシュのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年7月14日

海外医薬ニュース2013年7月14日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 米国でも子宮頸癌予防用ワクチンの普及は遅い
  • KYOTO HEART STUDYについて
  • 免疫寛容療法錠は喘息症の増悪も予防する
  • ノバルティスの抗IL-17A抗体の第三相試験が成功
  • ロシュがPPAR作動剤の開発を遂に断念
  • 米国でibrutinibが承認申請
  • 米国で新しいEPA/DHA製剤が承認申請
  • ランタスのバイオシミラーがEUで承認申請
  • ベーリンガーのEGFR阻害剤が米国で承認


【今週の話題】


米国でも子宮頸癌予防用ワクチンの普及は遅い

(2013年7月9日発表)

MSDの子宮頸癌予防用ワクチンGardasil(和名ガーダシル)は2006年の承認後急速に普及し翌年の売上高が14億ドル、欧州におけるサノフィとの合弁の売上高を含めれば18億ドルに達したが、当初需要が一巡した後は伸び悩んだ。米国では9歳以上が対象になるが、実際に接種したのは13~18歳の女性が中心で、他の年代や男性には中々普及しなかった。グラクソ・スミスクラインがCervarix(和名サーバリックス)を発売した後も状況は変わらなかった。

むしろ、様々な国で深刻な副作用症例が報告され、需要に水を差す結果になってしまった。日本も同じで、メディアは当初、夢のワクチンのように報道していたが、海外と同様な失神・死亡例が報告されるや、掌を返した。自分で判断せずに専門家の意見を鵜呑みにして報道する悪い癖はイレッサ事件の時から変わっていない。

さて、American Journal of Preventive Medicine(AJPM)誌に、米国産婦人科学会の会員を対象としたアンケートの結果が掲載された。ボストン大のPerkins医学博士らによる論文で、これらのHPVワクチンとPap検査の実施状況を尋ねたもの。1000人中366人から有効回答があった。

結果は、92%の産婦人科医がガイドラインに則って患者にワクチン接種を推奨。しかし、推奨に従って殆どの患者が接種したと答えた医師は27%に過ぎなかった。最も大きな障害は親や患者本人の拒否。著者は、啓蒙活動強化の必要性を訴えている。

この論文はAJPM誌のホームページで先行刊行され、オープンアクセスになっている。内容的には特に意外ではないので、おそらく、今回の調査は啓蒙の必要性を訴えるためのエビデンス作りとして行われたのだろう。何れにせよ、普及が期待外れに終わったことに対して専門医が危機感を持っていることが分かる。

HPVワクチンで残念なのは、癌原性を持つHPV16型・18型のウイルスに既に長期間感染している患者には癌予防効果が見られないことだ。私は、米国で承認される前は、事前に検査をして陰性だったら接種する用法を想定していたが、実現しなかった。ワクチン領域にはテイラーメイド・メディスンの発想はないのだろう。沢山の人が接種対象になるので検査の費用は馬鹿にならず、また、感染者と分かった後の相談・ケアも大変だからだろう。

代わりに導入されたのは、まだ感染していないであろう10歳前後の少女に接種する方法だった。早く接種すると肝心の時に免疫が弱体化してしまわないか心配になるが、長期追跡調査のエビデンスは数年分しかなかった。専門家は、もし減弱するようならもう一度打てばよいと論じていたが、ブースター・ワクチンが必要になるかもしれないことを知っている患者はどれほどいるのだろうか?

ワクチン全般について残念なのは、推進する人たちが兎角、良いことばかりを言って一般人が不安になるようなことは言いたがらないことだ。深刻な疾患を防ぎたいという善意に基づくものだけに軽々には批判できないが、今回の失神問題にしても、先行導入された国でも大きな問題になり普及の妨げになったのだから、普及を推進するためにも、事前にリスクを周知徹底しておくべきだったろう。

それ以上に、持続的感染患者には効かないことや、ワクチンに配合されていない型のウイルスには十分な効果がない場合があることをきちんと説明すべきだろう。ワクチン効率とか、副反応とか、学問的には正確でも一般人には分かりにくい言葉・定義に頼るのを止めるべきだ。私はMedicine Blogで科学者の真実と一般人の真実は異なると主張したが、考えてみれば、ワクチン効率の計算方法はintent-to-treatではないので、今日の医療の考え方にも反するのである。

(子宮頸癌予防用ワクチンの効果に関する私の検討に興味のある人は、下記のブログ記事を読んでください。)

リンク:American Journal of Preventive Medicineのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:Perkinsらの論文(American Journal of Preventive Medicine、pdfファイル)

リンク:サーバリックスにできる事とできない事(Medicine Blog)

KYOTO HEART STUDYについて

(2013年7月11日発表)

京都府立医科大は、KYOTO HEART STUDYについて、結論に誤りがあった可能性が高いと発表した。一方、ノバルティスは、この報告からは恣意的なデータ操作があったことは確認できないと発表した。

不祥事が起きた時はどうしても犯人探しを最優先にしてしまうが、本当に重要なのは再発防止策だ。データ入力にミスがあったならばダブルチェックを行うべきだし、データの解析を製薬会社に丸投げしているならば抜き出し調査だけでもできるよう研究者側が体制を整えるべきである。今回の発表も重要なインプリケーションを含んでいる。

多くの研究者が指摘しているように、PROBE法には様々な欠陥がある。しかし、二重盲検は医療行為に様々な制約を課すので、長期間実施するアウトカム試験でPROBE法を採用するのは已むを得ない面がある。そもそも、二重盲検偽薬対照試験だって、定期的に血圧を検査するのだから実薬なのか偽薬なのか高い確率で当てることが可能だろう。

少しでも盲検に近付けるため、PROBE法では医師が心血管疾患発生と判定した場合に第三者が検証する仕組みが導入されている。しかし、『発生していない』という判定は査読対象外なので、担当医の恣意を完全に排除することはできない。心血管アウトカム試験はtime-to-event分析を行うので、例えば試験薬を服用している患者で狭心症が発生した時に、判定・報告を遅らせれば試験薬に有利な結果を出すことができる。

このようなことを少しでも防ぐためには、評価対象とする事象を厳選することが肝要だ。第一に、定義を明確にすること。『心筋梗塞』一つを取っても治験によって定義が異なる。担当医の判定も人によって異なる可能性があるので、できるだけ明確で紛れのない定義を採用すべきである。第二に、事後的な検証が可能なものだけを含めること。担当医の判断を第三者委員会が覆すと色々と厄介な問題が生じるので、治験を成功させるためにも重要だ。第三に、早い発見ではなく早い発症を検出するよう工夫すべきだ。

ノバルティスの言うように、ある専門家の判定が別の専門家によって覆されるというのは決して珍しくない。だが、評価者によって結論まで変わってしまうとしたら、そのような事象/定義を選択したことがそもそも間違いだったのだろう。この試験で大きな群間差があったのは、狭心症と脳卒中だった。どのような定義を採用したのか知らないが、一般論で言えば、前者は医師の主観が入りやすい。後者も、もしCTやMRIの結果だけで判定することが許されていたならば、対照群の患者に積極的に検査を行うことで早く発見することができる。

FDAの心臓腎臓薬チームは主評価項目事象の報告漏れや追跡打切り例が多いことを度々警告している。今回の事件は日本だけの問題ではないのである。偽薬対照試験でも完璧ではないのだから、PROBE法で臨床研究を行う場合は、従来以上に厳格なプロトコルを採用して、李下に冠を正すことのないようにしなければならない。

ディオバンのアウトカム試験疑惑はキーパーソンの協力が得られない模様で依然として事実関係が藪の中だ。研究の証跡をロクに保存せず、密室で行ったのだろう。慈恵医大も調査を行っているようなので、進展のあることを期待したい。もう一つの注目は、未だに撤回されていないAmerican Journal of Cardiologyの論文だ。同誌も再検討して見解を表明すべきだろう。

リンク:Kyoto Heart StudyのAJCC論文(PubMed)

【新薬開発】


免疫寛容療法錠は喘息症の増悪も予防する

(2013年7月11日発表)

デンマークの免疫寛容療法剤メーカーであるALK(OMX:ALK.B)は、イエダニ抗原を含有する免疫寛容療法用錠剤(AIT)の二本目の第三相試験が成功したと発表した。アレルギー性鼻炎患者の症状軽快効果を検討した一本目に続いて、アレルギー性喘息の増悪予防効果を検討した試験が成功したことは大きな意義がある。2014年に欧州で承認申請される予定。

この試験は欧州13ヶ国のイエダニ・アレルギー性喘息症患者834人を組入れて、二種類の用量のAIT(一日一回経口投与)を偽薬と比較したもの。全群とも吸入ステロイドを同時使用した。但し、具体的なデータはp値が0.05未満だったことしか記されていないので、治療効果の多寡は不明。8月14日の上期決算発表時に追加的な開示が行われる予定。

免疫寛容療法はアレルゲンを少量ずつ長期間投与することで体を慣れさせる。注射薬が主流だが、AITは患者の負担が小さいことが長所。欧州では既に幾つかの製品が実用化されているが、米国でも同社の技術を導入したMSDがブタクサ・アレルギー用とチモシー・アレルギー用の第三相試験を成功させ、今年、承認申請した。日本でも鳥居薬品がライセンスしてアレルギー性鼻炎とアレルギー性喘息の第二/三相試験を実施中。

欧米のアレルギー性鼻炎はブタクサとチモシーのような芝、そしてイエダニによるものが多い。スギ花粉アレルギーは少ないようで開発が遅れているが、鳥居を始め日本の複数の製薬会社が開始したので、何年か後には登場するかもしれない。

リンク:ALKのプレスリリース

ノバルティスの抗IL-17A抗体の第三相試験が成功

(2013年7月8日発表)

ノバルティスは、AIN457(secukinumab)の第三相プラク乾癬試験が成功したと発表した。奏効率が偽薬を上回っただけでなく、二次的評価項目であるEnbrel(etanercept、和名エンブレル)との比較でも有意に上回った。乾癬性関節炎などの試験の結果を待って承認申請に向かうことになりそうだ。

抗IL-17A薬はTNFアルファ阻害剤と同様に様々な自己免疫疾患に効果がある様子で、リウマチ性関節炎や強直性脊椎炎でも第三相段階、2014年以降に結果が出る見込み。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:今回の試験の治験登録(AIN457で検索してもヒットしない)

ロシュがPPAR作動剤の開発を遂に断念

(2013年7月10日発表)

ロシュはRG1439(aleglitazar)の開発を中止した。これで、PPARアルファ/ガンマ作動剤の開発は私の知る限り全て失敗したことになる。専らPPARガンマを作動する薬も、おそらく、販売中止になったtroglitazoneを含めて三剤で打ち止めだろう。二型糖尿病の原因となる異常を根源的に治療するとか、血糖値だけでなく脂質異常も治療するとか、かっては大きな期待が寄せられたものだが、一体何だったのだろう?そういえば、ARBも発売当初は降圧を超えた臓器保護作用を持つと謳われたものだが、幻だった。

開発中止の引き金は、心血管アウトカム試験で骨損壊、心不全、胃腸出血などの有害事象に群間の偏りがあったため。薬効に関する無益性分析も行われ、治験を続行しても心血管疾患予防効果を立証できる可能性は極めて低いと判定された。

ロシュはActos(pioglitazone)と差別化できるか否かを検討するために、心機能や腎機能を示す代理マーカー(臨床検査値)の変化を直接比較する第二相試験を実施、安全性が良好であることを確認した。それなのに副作用が切っ掛けで開発中止になったのは意外だが、投与期間と相関するのかもしれない。様々なPPAR作動剤の動物毒性試験で、心臓有害事象は用量だけでなく投与期間とも関連性が見られた。aleglitazarもアウトカム試験の用量(150mcg)より高量を投与した試験で心不全が少数だが発生した。

ActosのPROACTIVE試験では心血管疾患の発生状況を示すActos群と偽薬群のカプラン・マイヤー・カーブが早い段階で分かれており、もしPPAR作動剤共通の効能なら、aleglitazarの試験でも比較的早く発現したはずだ。大規模アウトカム試験は一本しか実施されないのが通例だが、こうなると、PROACTIVE試験のエビデンスしかないのが残念だ。

(日本でもJ-DOIT3試験が実施されているが、血糖値だけでなく多面的な強化療法を従来療法と比較しているので、もし成功したとしても、どの薬や生活習慣改善法が寄与したのか、全ての介入方法が有益なのかどうかは分からない。)

aleglitazarにせよ、ARBにせよ、特別な効能はないことが判明したのは大規模アウトカム試験が行われたからである。思い込みや信念に基づいた医療ではなく、一つ一つ地味に確認していくことの重要性を示唆している。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認申請】


米国でibrutinibが承認申請

(2013年7月10日発表)

Pharmacyclics(Nasdaq:PCYC)は、Btk阻害剤PCI-32765(ibrutinib)を米国で承認申請したと発表した。適応は再発性・難治性のマントルセル・リンパ腫と慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫。FDAにブレークスルー・セラピー指定されている。第三相試験の結果はまだ出ていないはずなので、申請が受理されるか一抹の不安を感じる。

Bruton's tyrosine kinaseはBセルの生存機構を様々な経路で調停しており、阻害するとアポトーシスを誘導できるとのことだ。第二相試験ではORR(客観的反応率)が6割以上と大変良い成績を上げた。米国は血液癌の薬を反応率のデータに基づいて承認した前例があり、EUとは考えを異にしている。それだけに、第二相試験のデータに基づいて仮承認して進行中の第三相試験の結果が出た段階で本承認に切り替えるシナリオは十分に考えられる。

このシナリオが実現するかどうかは、安全性次第だろう。深刻な副作用が少なければ、副作用で死亡するリスクと薬効で長生きする可能性を天秤にかける必要がなくなり、ORRが高いので寿命が延びるはずと推測することが可能になる。そうでない場合は、エビデンス不足と判定される可能性がある。

Pharmacyclicsはジョンソン・エンド・ジョンソンと提携しており、承認後は共同販売する予定。

リンク:Pharmacyclicsのプレスリリース

米国で新しいEPA/DHA製剤が承認申請

(2013年7月9日発表)

Omthera Pharmaceuticals(Nasdaq:OMTH)は、Epanovaを米国で承認申請したと発表した。魚由来の高純度EPA/DHA製剤で、重度高トリグリセライド血症の治療に用いる。同種の薬ではLovaza(欧州名Omacor、和名ロトリガ)が米国では2005年に発売されているが、Epanovaはエチルエステルではなく遊離脂肪酸なので、代謝を受けなくても腸壁を通過でき、吸収・生物学的利用率の面で優れているとのことだ。

EPA/DHAは心臓疾患を防ぐ効果が曖昧で、日本で行われたJELIS試験が成功し注目されたが、他の国で行われたLovazaなどの試験は多くがフェールした。JELISはEPAだけの製剤を用いたのでDHAは却って邪魔なのかもしれないが、PROBE法の試験なのでエビデンスとしてはやや弱い。そもそも、JELISは重度高トリグリセライド症の患者を対象とした試験ではない。

Omtheraはアストラゼネカが買収で合意しており、将来は、Crestor(rosuvastatin)の合剤もラインアップされる見込み。

リンク:Omtheraのプレスリリース

ランタスのバイオシミラーがEUで承認申請

(2013年7月8日発表)

イーライリリーは、LY2963016をEUで承認申請し受理されたことを明らかにした。Lantus(insulin glargine、和名ランタス)のバイオシミラーで、一型と二型の糖尿病患者を組入れて直接比較試験を実施したとのことだ。

バイオシミラーは小分子薬のジェネリックと異なり価格がそれほど割安ではなく、また、同じ薬とはいえない(だからシミラーと呼ばれる)ので、欧米市場では2~3割程度のシェアしか取れていない。逆に言えば、安売りしなくてもよく、また、メーカーが情報提供活動も十分に行わなければならないので、リリーのような特許性新薬メーカーにとっても、有望な製品。将来のバイオシミラー市場は一部の大手GE薬メーカーと特許性新薬メーカーが牛耳るというのが私の標準シナリオだ。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認】


ベーリンガーのEGFR阻害剤が米国で承認

(2013年7月12日発表)

FDAは、Gilotrif(afatinib)を非小細胞性肺癌用薬として承認した。ベーリンガー・インゲルハイムが承認申請していた不可逆的EGFR/her2阻害剤で、Tarceva(erlotinib、和名タルシバ)等と同様に、事前にEGFR検査を行ってエクソン19欠損型、またはエクソン21のL858R置換型(858番目のアミノ酸がロイシンでなくアルギニン)であった場合に適応になる。優先審査の対象だった。

米国では非小細胞性肺癌の1割程度でEGFR遺伝子変異が見られ、その大半がエクソン19欠損/エクソン21 L858R置換型。アジア人種はもっと多く、ベーリンガーも中国などアジアの医療施設を中心に臨床試験を実施した。EGFR活性化変異のない患者も組入れた試験はフェールしたが、限定した試験ではPFS(無増悪生存期間)がプラチナ薬など二剤を併用した群より高かった。但し、延命効果は確認されなかった。

有害事象による治験離脱は対照群より少なかった。EGFR阻害剤なので下痢や皮膚有害事象などのリスクがあり、深刻な場合は下痢が腎不全や重篤な脱水に繋がったり、重度発疹、肺の炎症、肝毒性などが発生することがある。



リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年7月7日

海外医薬ニュース2013年7月7日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • WHOがHIV感染者の早期治療を勧告
  • エリキュースはVTE治療にも有効
  • ネクサバールを甲状腺癌に適応拡大申請
  • パージェタを乳癌ネオアジュバント療法用薬として適応拡大申請
  • FDAがMSDのオレキシン受容体アンタゴニストの審査を完了
  • EUでアリアドのIclusigが承認
  • オニクスは誰のものに?
  • FDAがオルメテックの安全性情報


【今週の話題】


WHOがHIV感染者の早期治療を勧告

(2013年6月30日発表)

WHOはHIV陽性患者の抗ウイルス治療の開始時期を見直し、CD4カウントが500セル/mm3以下に下がった時点で開始するよう勧告した。2010年勧告では350セル/mm3を閾値としていた。早期治療・対象患者拡大によって2025年までに死亡者を300万人、新規感染者を350万人減らすことができるとのこと。CD4カウント500セル/mm3の患者はまだ免疫力を維持しているので、早期治療によって合併症のリスクを削減できるだろう。

抗ウイルス治療を受けている患者は2012年に160万人増加、970万人に達したが、今回の勧告で更に増加することになりそうだ。2012年の増加の8割はサブサハラ地域とのことなので、一番恩恵を受けるのはギリアッド等の高価な製品ではなく特別に許可された低所得国向けのGE薬になりそうだが、500セル基準がすでに導入されている欧米でも一段と普及するだろうから、市場が大きく膨らむことになる。

また、HIV陽性の5歳以上の子供と全ての妊婦・授乳婦、及びHIV陰性患者のパートナーである陽性患者に関しては、CD4カウントに関わらず、治療するよう勧告した。活性期結核とB型肝炎を合併するHIV感染者も、これまでと同様に、即治療する。

HIVの抗ウイルス療法は核酸系逆転写阻害剤二剤とそれ以外を一剤、合計三剤を併用するのが標準的で様々な薬が承認されているが、WHOは、初回治療薬としてtenofovir、lamivudineまたは emtricitabine、そしてefavirenzの合剤を勧告した。一日一回一錠服用するだけなのでピルバーデンが緩和され飲み忘れのリスクも小さいからだろう。

tenofovir、emtricitabine、efavirenzの合剤はギリアッドがAtripla名で販売しているほか、インドメーカーの製品が米国で仮承認を受けている。emtricitabineの代わりにlamivudineを配合した製品もインドメーカーが仮承認を受けた。ギリアッドの特許に触れるため仮承認に留まったのだが、米国が低所得国向けに行っている抗HIV薬支援プログラムの購買対象になり、また、米国で承認されている薬は改めて承認審査を行わずに承認する国が多いので、価値がある。

抗ウイルス治療を直ぐに始めないのは二つの理由がある。副作用と耐性ウイルス問題だ。Atriplaも様々な副作用があるが、tenofovir、lamivudine、efavirenzは比較的忍容性が良い(emtricitabineはlamivudineと殆ど同じ薬)。efavirenzよりインテグラーぜ阻害剤のほうが良好だが、トリプルコンビ薬が用意されていないことや特許がまだしばらく失効しない難点がある。

耐性ウイルス問題についても、efavirenz耐性ウイルスに活性を持つ非核酸系逆転写阻害剤や、プロテアーゼ阻害剤やインテグラーぜ阻害剤のような作用機序の異なる薬が複数実用化されたことによって、二の矢、三の矢を用意することが可能になった。今回の勧告で最もメリットを受けるのはギリアッドとGE薬メーカーだが、早期治療が可能になったのはHIV/AIDS治療薬の開発に積極的に取り組んだ製薬会社全体の功績だ。

リンク:WHOのプレスリリース

【新薬開発】


エリキュースはVTE治療にも有効

(2013年6月30日発表)

BMSがファイザーと共同開発・販売しているXa阻害剤、Eliquis(apixaban、和名エリキュース)の急性静脈血栓塞栓治療・再発予防試験の結果がNew England Journal of Medicineに刊行された。当初はenoxaparin、その後はワーファリンを用いる標準療法と再発予防効果を比較した第三相試験で、Eliquisは最初の7日間は10mgを一日二回、その後は5mgを一日二回服用した。

結果は、再発性症候性深静脈血栓の発生率が2.3%対2.7%となり、非劣性であることが確認された。深静脈血栓の患者でも、肺塞栓の患者でも、効果は大差なかった。一方、抗血栓薬のリスクである大出血の発生率は0.6%対1.8%で、有意に少なかった。

非劣性試験は活性対象薬の使用方法が適切であったかが問題になるが、もし問題ないようならば、大いに有望な結果だ。プレスリリースには適応拡大申請のスケジュールが記載されていないが、現在承認されている心房細動患者の脳梗塞予防に次ぐ大きな市場なので、早晩申請されるだろう。

リンク:BMS/ファイザーのプレスリリース

【承認申請】


ネクサバールを甲状腺癌に適応拡大申請

(2013年6月30日発表)

バイエルとオニクス(Nasdaq:ONXX)は、Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を末期・転移性の放射性ヨード抵抗性分化甲状腺癌用薬として米国で適応拡大申請した。現在は腎細胞腫と肝細胞腫に承認されている。

薬効のエビデンスとなるDECISION試験では、PFS(無増悪進行期間)が10.8ヶ月と偽薬群の5.8ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.587、pは0.0001未満だった。偽薬群の患者の7割が進行後にNexavarを使ったせいか、延命効果は確認できなかったが、Nexavar群の患者がスイッチできる適当な薬は存在しないので、已むを得ないだろう。延命効果が確認されずFDAに承認されなかったアヴェオのtivozanibとは事情が異なる。

リンク:バイエル/オニクスのプレスリリース

パージェタを乳癌ネオアジュバント療法用薬として適応拡大申請

(2013年7月2日発表)

ロシュはPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)の適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。早期乳癌のネオアジュバント療法に使う。

ネオアジュバントは切除術の前に抗癌剤を使って腫瘍を小さくするもので、乳房温存術を施行する場合や切除術を容易にする目的で行う。広く行われているが正式に承認されている薬はないとのことだ。薬の開発プログラムでは、アジュバント(早期癌の切除後に取り切れなかった癌の治療や再発防止のために行う)の第三相試験を行う前のリハーサルとしてネオアジュバント試験を行うことが多く、今回のPerjetaの承認申請も薬効のエビデンスは第二相試験二本だ。

その一つであるNEOSPHERE試験では、Perjeta、Herceptin、docetaxelの三剤の様々な組み合わせを比較したが、一番よかったのは三剤併用で、pCR奏効率(切除術時に癌細胞が見つからなかった患者の比率)が46%、次がPerjeta以外の二剤を併用した群の29%、三番目がPerjetaとdocetaxel併用群の24%、一番悪いのはPerjetaとHerceptinだけの17%だった。

(方程式が四つあるので三剤夫々のpCRを計算することが可能だが、答えを検算しても合わない。信頼区間があることや、シナジーと限界効用逓減則が複雑に絡み合うことが原因だろう。)

PerjetaはHer2のHerceptinと異なる部位に結合するモノクローナル抗体で、her2がそれ以外のerbファミリーの表面分子と二量体を形成し成長因子受容体として機能するのをブロックする。Herceptinやdocetaxelと併用で転移性乳癌の一次治療に用いることが日米欧で承認されている。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDAがMSDのオレキシン受容体アンタゴニストの審査を完了

(2013年7月1日発表)

MSDはMK-4305(suvorexant)を慢性不眠症治療薬として米国や日本で承認申請したが、米国に関してはFDAから審査完了通知を受領した。5月の諮問委員会で示されたように、FDAは30mg以上の安全性に懸念を持っており、10mgで開始してもし効果が不十分且つ忍容性に問題が無いようなら最大20mgまで増量可、という用法に変えるよう推奨した。また、3A4相互作用があるため5mgも用意するよう求めた。

MSDは高齢者15mg、それ以外は20mg以上で承認申請した模様であり、10mgや5mgの製剤のデータを用意する必要があるようだ。10mgに関しては製造試験を行う必要があると判断。5mgに関してはFDAと相談する考え。承認されるのは半年以上先になるのではないだろうか。日本の審査結果も注目される。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


EUでアリアドのIclusigが承認

(2013年7月2日発表)

アリアド(Nasdaq:ARIA)は、EUがIclusig(ponatinib)を承認したと発表した。米国では昨年12月に承認。第4のbcr-abl阻害剤だが、既存薬に抵抗性を持つT315I変異型にも効果があることが最大の特徴。

適応になるのは、慢性骨髄性白血病またはフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ芽球性白血病で、BMSのSprycel(dasatinib)やノバルティスのTasigna(nilotinib)に抵抗性、または、不耐で且つノバルティスのGleevec(imatinib)に不適な患者、あるいはT315I変異の患者。

リンク:アリアドのプレスリリース

【製薬会社の動き】


オニクスは誰のものに?

(2013年6月30日発表)

オニクス(Nasdaq:ONXX)は、アムジェンから一株当たり120ドル(総額では約100億ドル)で買収打診を受けたが断ったことをやっと発表した。SECがインサイダー取引で国内外のオプション・トレーダーを告発しており、このようなことを防ぐためにも、重要な事項は直ぐに公表するのが鉄則である。

このような提案があった場合、上場企業の経営者は自分の野心やメンツだけで断らず、株主にとって有利かどうかをちゃんと検討しなければならない(判例による)。オニクスはファイナンシャルアドバイザー(Centerview Partners)にアムジェンなど買収に関心を持つ企業とコンタクトするよう求めた。120ドルでも市場価格の3割増しなのだが、同社の株価は金曜日の終値で136ドルまで高騰した。アムジェンまたは他の製薬会社からもっと高い価格で買収オファーが来ると考えているのだろう。

オニクスの2012年営業収益は3.6億ドル、うちネクサバールに係るバイエルからの利益シェアとロイヤルティが2.8億ドル、昨年承認された抗癌剤Stivarga(rogorafenib)に関するバイエルからのロイヤルティが830万ドル、同じく昨年承認された自社販売の多発骨髄腫用薬、Kyprolis(carfilzomib)の売上高が6400万ドルとなっている。GAAPベースの純利益は1.1億ドルの赤字だが、後発債務や従業員株式オプションなどに係る費用を除外したnon-GAAP EPSは1.6億ドルの黒字。

同社はバイエルと抗癌剤の共同研究を行っていたことがあり、その成果がネクサバールと類似薬のStivargaだ。バイエルと利益をシェアしなければならないのが難点だが、最近は、このような難点があっても第三者が買収するケースが増えている。おそらくオニクスのケースも、バイエルが買収できないように契約で縛っているのだろう。

リンク:オニクスのプレスリリース

リンク:ファイナンシャル・ポストのスクープ記事

【医薬品の安全性】


FDAがオルメテックの安全性情報

(2013年7月3日発表)

FDAは第一三共のARB、Benicar(olmesartan medoxomil、和名オルメテック)に関する安全性情報を発出、スプルー様腸疾患に注意するよう呼びかけた。

個人的な話で恐縮だが、私は数年前から降圧剤を服用しており、最初はolmesartan配合剤、その後、valsartan配合剤にスイッチしたが、ノバルティス製品購入中断キャンペーンのせいか、医師がcandesartanにスイッチした。私はどの薬にも特別な思い入れはないのだが、今回は少し気になる。クラス・イフェクトではないようなので、大規模アウトカム試験のエビデンスが少なくROADMAP試験やORIENT試験で心血管死が偽薬群より数値上多かったolmesartanから他のARBにスイッチする医師が増えそうだ。

私の漠然とした疑問は、武田のEdarbi(azilsartan medoxomil、和名アジルバ)は大丈夫なのだろうか?Benicarが米国で承認されたころ、medoxomilという塩に関心を持ちグーグルったがBenicarしかヒットしなかった。今日ではEdarbiという仲間ができたが、Edarbiは2011年にEUで初承認された薬でBenicar以上にアウトカム試験のエビデンスを欠いている。

大規模アウトカム試験で心血管疾患予防効果が確認されていないのにこれらの薬が用いられているのは、ARBは皆同じと考えられているからだ。もし違うのなら、薬効や安全性のエビデンスに劣る薬を使う必要はない。

今回の問題の発端は、メイヨークリニックの研究者の症例報告だ。olmesartanを服用して1年以上経つ患者にセルリック病(スプルーと呼ばれることもある)を疑わせる重度慢性下痢症と体重減が見られた。米国のセルリック病患者ならグルテンを含む食品の摂取を止めれば軽快するはずだが、効果がなかった。一方、olmesartanを止めたら体重が増加し、投与を再開したところ多くが再発した。このことは、olmesartanが原因であることを示唆している。

FDAが行った疫学試験でもolmesartan服用者はリスクが高く、一方、他のARBではリスクは見られなかった。

症例数は明らかではないが、FDAの自発的有害事象報告システムには23の重篤例が報告されている。メイヨークリニックの論文には22例が記されているが、その後の調査で60例以上に増えたようだ。この種の有害事象報告は氷山の一角に過ぎず、実際にはもっとあるだろうが、米国では2012年に190万人が処方を受けたとのことなので、発生頻度はそれほど高くなさそうだ。

発生原因は明らかではないが、セルリック病と共通点があるようだ。セルリック病はグルチンに対する自己免疫反応で大腸絨毛が損傷を受け、栄養物の吸収が妨げられる。今回のスプルー様腸疾患でもリンパ性やコラーゲン性の大腸炎が見られ、また、セルリック病の遺伝子的背景であるHLA-DQ2型、-DQ8型との関連性が高いとのことだ。

長期間服用後に発生していることや他のARBには見られないことから、活性代謝物であるolmesartanではなく、プロドラッグであるmedoxomil塩が局所的な遅延性過敏反応、または、細胞調停的免疫反応を誘発している可能性をFDAは疑っている模様だ。

セリアック病は日本では少ないと考えられているが、2006年の調査によると、日本の罹患率は0.7%で欧米の1%より若干少ない程度。HAL-DQ2/8のハプロタイプ頻度は分からなかったが、セリアック病の罹患率が大差ないなら、対岸の火事と懐手で傍観するわけにもいかないだろう。

発生頻度が低く服用を止めれば軽快するので、対処のやりようはある。olmesartan服用患者で体重低下を伴う重い慢性下痢が発生したら、服用開始が何年前だろうと関係なく、olmesartanを他のARBにスイッチする(無グルチン食事療法のほうが先かもしれないが)。新患には別の薬を使うのも手だろう。

尚、冒頭に書いた心血管死問題は、二型糖尿病患者の腎症予防効果を検討した二本の試験で何れも心血管死が偽薬群より多かったことだ。ROADMAP(約4400人をメジアン3.2年追跡)では全死亡が26人対15人、発生率で1.2%対0.7%、HR1.70、95%CI0.90~3.22だった。このうち心血管疾患による死亡は15例対3例だった。ORIENT(日本などアジアの約500人をメジアン3.2年追跡)でも心血管死が10例対3例と数値上多く、一方、全死亡は19例対20例で大差なかった。

この問題はFDAが検討し、リスクを確認できなかったと公表している。だが、ARBは心血管疾患を防ぐべき薬であり、増えるという証拠がないだけではもの足りない。

BenicarやAzorのような遅れて発売された薬は、今更、他の薬と同様なデザインの偽薬対照アウトカム試験を行うのは倫理的に許されないので、臨床的転帰を改善するエビデンスの欠如はやむを得ない面がある。しかし、ROADMAP試験やORIENT試験のような好ましくないデータが出た場合に、困ることになる。

リンク:FDAの安全性情報

リンク:Medpageの2012年10月22日付報道

今週は以上です。

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