2013年6月30日

海外医薬ニュース2013年6月30日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ヴァイカル/アステラスがCMV予防ワクチンで第三相
  • サンドがエンブレルのシミラーで第三相試験を開始
  • 欧州でプラザキサの適応拡大申請
  • CHMPがレミケードのバイオシミラーなどに肯定的意見
  • バクスターの遺伝子組換え型IX因子が米国で承認
  • EUでメディベーション/アステラスの抗癌剤とアヴァニールの情動管理薬が承認


【新薬開発】


ヴァイカル/アステラスがCMV予防ワクチンで第三相

(2013年6月25日発表)

ヴァイカル(Nasdaq:VICL) とアステラス製薬は、ASP0113(TransVax)の第三相試験に着手した。同種(=他人の)造血細胞移植を受ける血清学的CMV(サイトメガロウイルス)陽性患者500人を組入れるadaptive designの試験で、第一部では100人を組入れて1年生存率を偽薬と比較。第二部は残りの400人を組入れ、主評価項目は、第一部の観察事項に基づいて全生存期間または全生存期間と臨床的イベントの複合評価項目を採用する。

CMVは成人の5割以上がキャリアで、通常は抑制されているが、臓器移植や造血細胞移植を受けた患者は免疫力が低下するためしばしば感染症を発症する。TransVaxはCMVのDNAのうちpp65と糖タンパクBを発現する遺伝子を組入れたプラスミド型ワクチンで、ワクチンとしては初めて、第二相試験でCMV血症を有意に抑制した。今回の第三相試験の第一部は野心的で、もし1年生存率を向上できるならば商業的に大いに有望だ。できなかった場合は、臨床的に重大なイベントをどの程度防ぐことができるかが問題になる。

Adaptive designは比較的新しい方法で、通常は探索的試験で至適用法や効能に目処を立てた上で次の仮説検証試験に進むが、今回のように一本の試験で両方を行う。患者組入れをシームレスに行い、また、探索的試験の症例を仮説検証に用いることができるので、開発期間を短縮することができる。

上記のように第一部の観察事項は第三者にとって重大な関心事だが、おそらく、第二部を含めて治験が全部完了するまで公表されないだろう。進行中の試験の途中経過を公表することは治験の客観性、尊厳を損なうからだ。第二部の主評価項目は公表される可能性があるので、その段階で推測することになるだろう。

治験登録によると主評価項目解析のためのデータ収集は2016年9月に終了する見込みなので、順調に進めば同年末までには成否が判明しそうだ。

アステラスは2011年にヴァイカルから世界開発販売権を取得した。ヴァイカルは米国市場で共同販促するオプションを保有している。アステラスは臓器移植後の拒絶反応防止薬、Prograf(tacrolimus)を持っており、ASP0113も臓器移植後のCMV血症予防で第二相試験に進む予定。

リンク:ヴァイカルとアステラスのプレスリリース

サンドがエンブレルのシミラーで第三相試験を開始

(2013年6月24日発表)

ノバルティスのGE薬部門であるサンドは、Enbrel(etanercept、和名エンブレル)のバイオシミラーの第三相試験を開始した。事前に欧米の承認審査機関と相談した由であり、結果が良好なら承認申請に向かうことになる。Enbrelはリウマチ性関節炎など様々な疾患に承認されているが、今回の試験はプラク乾癬が対象。後述のように、EUで初めて承認される見込みになったRemicade(infliximab、和名レミケード)のバイオシミラーは、二つの疾患の薬効確認試験を行っただけである模様だ。サンドも同様な方針なのだろう。

Enbrelを販売するアムジェンは、2011年に、米国でEnbrelに関する8,063,182特許が発行されたと発表した。元々は1990年にロシュが申請(出願)しその後にアムジェンが権利を取得したもので、21年間水面下に潜んでいたことになる。今日の米国の特許法では申請から20年後の2010年に失効するが、この特許は申請時の特許法に則り、発行から17年後の2028年まで有効だ。ノバルティスが米国でシミラーを発売するにはこのサブマリン特許も打ち破る必要がある。

リンク:サンドのプレスリリース

リンク:8,063,182特許(USPTOの特許データベース)

【承認申請】


欧州でプラザキサの適応拡大申請

(2013年6月24日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムはEUで経口直接的トロンビン阻害剤Rendix(dabigatran etexilate mesilate、和名プラザキサ、米名Pradaxa)を急性深静脈血栓の治療と再発予防に用いる適応拡大を申請した。この用途ではバイエルのXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)に3年遅れとなる。経口抗血栓薬の市場としては心房細動の脳卒中予防に次ぐ、2012年の売上高が11億ユーロに達する大型薬にとっても重要な用途。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがレミケードのバイオシミラーなどに肯定的意見

(2013年6月28日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAの医薬品審査委員会、CHMPが、6月の会議でRemicade(infliximab、和名レミケード)のバイオシミラー等の承認に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月後に承認されることになる。EUでは2006年以降12種類のバイオシミラーが承認されたが、抗体医薬のシミラーが承認されれば欧米で初。

リンク:EMAのプレスリリース

このバイオシミラーは韓国のセルトリオン(KOSDAQ:068270)の開発品で、同社がRemsima名で、米国のホスピーラ(NYSE:HSP)がInflectra名で、承認申請していたもの。両社のプレスリリースによると、リウマチ性関節炎の試験で主評価項目である奏効率がRemicadeと臨床的に同等だった(ACR20が各73.4%と69.7%)。治験登録を見ると、強直性脊椎炎でも第一相生物学的同等性試験が行われたようだ。

他の用途でも同等性試験が行われたかどうかは明らかではないが、CHMPは、Remicadeの全ての適応症についてシミラーであることを認めた。開発する側は開発期間や治験費用を節約できることになる。皮膚や腸の疾患も含まれているが、TNFアルファを標的とする薬なので、患部の違いに配慮する必要はないと判断したのかもしれない。

Remicadeの欧州での売上高は約20億ドル。シミラーはGE薬メーカーにとって高付加価値製品なので安売りはしないだろうし、少なくとも当初は医師に対する情報提供・サポートが必要だろうから、どの程度普及するか注目される。初物なので『After you(お先にどうぞ)』戦略を取る医師も多いだろう。他の医師から使用経験を聞いて問題が無いようなら採用するのだ。

GE薬メーカーの中で欧米の承認審査に耐えうるバイオシミラーを開発できる会社は限られているはずだ。欧米ではなく韓国の企業が抗体医薬の第一号を開発したことは意義が大きい。日本企業もチャレンジしてみたらどうだろうか。

ホスピーラは2009年にセルトリオンからバイオシミラー抗体医薬の欧米等の市場における販売権を取得した。エポエチンやG-CSFのシミラーも販売しており、最も積極的なGE薬メーカーの一つ。

リンク:初めてのバイオシミラー抗体医薬に関するCHMPのリリース

リンク:セルトリオンのプレスリリース

リンク:ホスピーラのプレスリリース

新薬で肯定的評価を受けたのは、まず、サノフィの再発寛解型多発硬化症用薬Lemtrada(alemtuzumab)。抗CD52ヒト化モノクローナル抗体で元々はB細胞慢性リンパ性白血病用薬として発売されたが、売上高は小さい。多発硬化症では少量の使用で済むため、サノフィは既存の製剤の販売を中止、安価に転用できなくした。深刻な副作用が発生することがあるので、需要は限定的だろう。

サノフィにはもう一つ朗報があった。CHMPは3月にAubagio(teriflunomide)の承認を支持した段階では『新薬』であることを認めなかったが、今回、覆したのである。抗リウマチ薬Arava(leflunomide)の代謝物ではあるが、安全性の面で異なる活性成分と判断した。新薬の場合はGE薬が10年間、承認されないので商業的な意義は大きい。尤も、再発寛解型多発硬化症の経口剤の中では効果がやや見劣りするので、大きな売上は見込みにくい。

尚、この報を受けてバイオジェン・アイデックの株価が急騰したが、AubagioとBG-12のケースは若干異なるので、CHMPがBG-12も新薬として認めるかどうかは予断を許さないだろう。

リンク:サノフィのプレスリリース

新薬ではデンドレオン(Nasdaq:DNDN)のProvenge(sipuleucel-T)も非症候性の去勢抵抗性前立腺癌に肯定的意見を獲得した。オフ・ザ・シェルフ型と呼ばれる、患者毎にテイラーメイドする細胞療法で、白血球アフェレーシスで患者から採取した抗原提示細胞を、前立腺癌抗原であるPAPとGM-CSFを細胞融合したものと共に培養し、二週間に一回のペースで三回、患者に点滴静注、癌に対する免疫を強化する。

臨床試験で延命効果が確認され米国では2010年に承認されたが、年商は3億ドル程度に留まっている。十分な量を培養できないことがあることや、前立腺癌は次々と新薬が登場したこと、薬効のエビデンスに不当面な点もあることなどが響いているのだろう。

リンク:デンドレオンのプレスリリース(pdfファイル)

バイエルのStivarga(regorafenib、和名スチバーガ)は末期結腸直腸癌のサルベージ療法として支持された。米国では12年に承認、重度・致死的な肝毒性が枠付警告されている。日本でも今年3月に承認された。同社のNexavar(sorafenib)の類縁体で、VEGF受容体などを阻害する。アムジェンが買収オファーを行ったと一部で報道され注目を浴びている、オニクス(Nasdaq:ONXX)との共同研究の成果であり、オニクスは売上高の10%をロイヤルティとして受け取る。

リンク:バイエルのプレスリリース

グラクソ・スミスクラインのbraf阻害剤、Tafinlar(dabrafenib)もbraf V600変異型の切除不能・転移性黒色腫用薬として支持された。ロシュのZelboraf(vemurafenib)に次ぐセカンド・イン・クラス。

同社はTyverb(lapatinib、和名タイケルブ、米名Tykerb)の用法追加も支持された。Herceptin(trastuzumab)と化学療法による前治療経験を持つher2陽性、ホルモン受容体陰性の転移性乳癌にHereptinと併用する。米国では申請が撤回されたので先行きが危ぶまれたが、CHMPはすんなり認めた。

リンク:GSKのプレスリリース

良く分からないのがアムジェンのVectibix(panitumumab、和名ベクティビックス)のレーベル変更だ。抗EGFR抗体はkras変異型の結腸直腸癌に用いると寿命を縮めてしまう懸念があり、検査で野生型と確認された癌だけに用いるが、今回、野生krasではなく野生rasに記述を変更することが決定された。他のタイプのrasでも変異型には有害、というデータが提出されたのだろう。

新製剤では、Raptor Pharmaceutical(Nasdaq:RPTP)のProcysbi(mercaptamine)が腎性シスチン蓄積症の治療薬として支持された。活性成分自体は昔から存在するが、服用頻度が6時間おきではなく12時間おきであることが長所。シスチン蓄積症は遺伝子疾患で、患者は世界で3000人とのこと。体や骨の成長が遅れ、腎不全のリスクが高まる。三種類の中で最も重いのが腎性シスチン蓄積症で、腎臓に重い障害を与える。

米国で4月に承認されたが、年25万ドルと既存製品の30倍高い価格が付けられた。医療費抑制に熱心な欧州で受け入れられるか注目される。

リンク:Raptorのプレスリリース

アボットのCholibも支持された。fenofibrateとsimvastatinの合剤で、混合異脂血症で心血管リスクが高くsimvastatinでLDL-Cが十分に管理されている患者のTG・HDL-C治療に用いる。

アストラゼネカのNexium(esomeprazole、和名ネキシウム)のOTCスイッチも支持された。20mgを配合し、胸焼けなどの逆流症の短期治療に用いる。

一方、Laboratoires SMBのLabazenit(budesonideとsalmeterolの合剤)は否定的意見を受けた。このステロイドとベータ2作用剤の合剤は喘息症の維持療法薬として承認申請されたが、budesonide対照試験で効果が劣り、別の試験で肺における分布が不十分であることが判明した。吸入用薬は製剤や生産管理が困難でGE品の開発が容易ではないことを示すエピソードだ(この薬の組み合わせ自体はGE薬ではないが)。

また、武田薬品がアフィマックス(Nasdaq:AFFY)からライセンスした赤血球生成刺激剤、Omontys(peginesatide)の承認申請が撤回されたことが正式に公表された。先に発売された米国で深刻な過敏反応例が報告され、2月に全ロット自主回収となったことを考えれば驚きではないが、CHMPはそれ以前から承認に後ろ向きだった模様だ。初回投与時の死亡・循環器系疾患のリスクや、立ち入り調査で臨床試験の信頼性に疑問が生じたことが理由。

同じような話をよく聞くようになったが、大規模な試験のデータが信用できないとなると、何をエビデンスにすればよいのか分からなくなってしまう。当局が監視を強化するか、CROや大学、医療施設が自主規制するか、どちらかが必要だ。不正の処罰も厳格に行うべきで、同僚の名誉に配慮して辞任さえすればそれ以上追及しない、という姿勢では根絶できない。

【承認】


バクスターの遺伝子組換え型IX因子が米国で承認

(2013年6月27日発表)

バクスター(NYSE:BAX)は、FDAがRixubis(遺伝子組換え型血液凝固第IX因子)を承認したと発表した。B型血友病患者の恒常的出血予防、出血時の治療、あるいは周術期に用いる。恒常的出血予防では週二回、投与する。

B型は世界の血友病患者42万人の2割弱を占める。体内では頻繁に出血しているが、第IX因子や第VIII因子が欠乏している人は自然に治らずに合併症が起き、大きな出血事故にも繋がりやすい。治療は高額で、日本でも、医療費補助高額受給者には血友病患者が多くランクインしている。血液凝固因子製剤は高額だが、事故が起きてから治療するよりも常用して予防する方が患者にとっても医療保険にとっても有益だ。

このためバクスター以外にもバイオジェン・アイデックが二週間に一回の投与で済むAlprolixを開発、今年1月に米国で承認申請している。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:バクスターのプレスリリース

EUでメディベーション/アステラスの抗癌剤とアヴァニールの情動管理薬が承認

メディベーション(Nasdaq:MDVN)とアステラス製薬は、Xtandi(enzalutamide)がEUで去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認されたと発表した。経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤で、docetaxelによる化学療法の後の二次治療薬として用いる。一次治療試験も進行中で、また、やや異なるが類似した作用を持つアンドロゲン受容体拮抗剤はもっと早い段階で広く用いられているので、将来は取り替わる可能性があるだろう。

アステラスは米国でプロフィット・シェアリング方式で共同販売、欧州等では単独販売する。

リンク:メディベーション/アステラスのプレスリリース

Avanir Pharmaceuticals(Nasdaq:AVNR)もNuedexta が偽性情動(PBA)治療薬として承認されたことを明らかにした。PBAは再発寛解型多発硬化症等の神経疾患の患者でしばしば見られ、不随意に笑ったり泣いたりする。NeudextaはNMDA受容体拮抗作用とシグマ-1作動作用を持つdextromethorphanとその代謝を阻害する2D6阻害剤quinidineの合剤で、臨床試験ではPBA発作頻度が偽薬比半減した。

2010年承認の米国では各成分20mgと10mgだが、EUでは30mg/10mgの製剤・用法も承認された。

リンク:アヴァニールのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年6月23日

海外医薬ニュース2013年6月23日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ESCの注目演題
  • ジョンソン・エンド・ジョンソンがARN-509を買収
  • 最高裁がリバース・ペイメントの違法性判断基準を提示
  • イエダニ免疫寛容療法用舌下錠の第三相試験が成功
  • ADA:イーライリリーのGLP-1作用剤の第三相試験データ
  • MLN02が10年の時を経て遂に承認申請
  • 米国でリーシュマニア症治療薬が承認申請
  • FDA諮問委員会がサムスカの適応拡大を検討へ
  • Vibativが院内感染肺炎の治療にも承認


【今週の話題】


ESCの注目演題

(2013年6月18日発表)

9月に開催されるESC欧州心臓学会のレートブレーカー(『ホットライン』)が発表された。注目されるのは先ず、9月1日の11時に発表されるHokusai VTE試験。第一三共が開発した第三の経口Xa阻害剤、edoxabanの静脈血栓塞栓予防効果を検討した大規模アウトカム試験だ。8250人の症候性深静脈血栓・肺塞栓の患者を組入れて、edoxabanと低分子量ヘパリンの再発予防効果を比較した。

心房細動患者の脳卒中予防効果をワーファリンと比較したEngage AF-TIMI48試験の結果も年内に発表されるだろう。成功なら承認申請に進むことになるが、第二のXa阻害剤であるBMS/ファイザーのEliquis(apixaban)の売り上げが伸び悩んでいることから考えると、市場のパイは当初考えられたほど大きくはないようだ。

続いて発表されるのはサノフィ・アベンティスの点滴用Xa阻害剤、otamixabanの非ST上昇型急性冠症候群再発予防試験。フェールし開発中止になったことが先に公表されている。

9月2日には、DPP-4阻害剤二剤の心血管アウトカム試験の結果が発表される。武田薬品のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)のEXAMINE試験と、BMS/アストラゼネカのOnglyza(saxagliptin、和名は大塚製薬のオングリザ)のSAVOR-TIMI 53で、何れも血糖値目標に到達していない二型糖尿病で心筋梗塞などのリスクが高い患者を組入れて、主要有害心血管イベントを防ぐ効果を偽薬と比較した。

後者は非劣性解析が成功したものの優越性解析はフェールした旨、メーカー側が公表している。やはり、血糖治療だけでは心筋梗塞を防ぐことはできないのだろう。この二本の試験はFDAの要請に基づき様々な有害事象の群間比較が行われる。リンパ球減少症、感染症、過敏反応、肝臓障害、骨損壊、膵炎、皮膚反応(スティーブンス・ジョンソン症候群や血管浮腫など;血管浮腫症例ではACE阻害剤との関連性も検討)、腎障害、中度・高度腎障害の患者における安全性、などだ。

膵炎はインクレチン療法のクラス・イフェクトと考えられる。ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーもTradjenta(linagliptin)の米国のレーベルを改定し、市販後に致死例を含む膵炎の発生が報告されていることや、膵炎歴を持つ患者における安全性が確立していないことを追記した。各剤の市販後の報告数は決して少なくないので、心血管アウトカム試験でも発生しただろうから、十分に検討できるだろう。

膵島細胞腫は稀なので統計学的な検出力が足りないだろうが、全てのインクレチンのデータが出揃えばメタアナリシスが可能になるかもしれない。

尚、MSDのJanuvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)のTECOS試験の結果は来年になる見込み。EXAMINE試験はNesinaの第三相試験で浮上した心血管毒性・肝毒性懸念を払拭するために必要な試験、SAVORはFDAの新しい規制に対応するための試験であるのに対して、Januviaは規制強化前に承認されたので、急いで行うモティベーションがなかったのだろう。

規制強化は新薬の開発・発売を遅らせる好ましくない面もあるが、規制すればメーカー側は真摯に対応する。日本のように、日本の糖尿病患者は癌で死亡することのほうが多いから心血管アウトカム試験は不要と考える国では、その重要な癌のリスクを評価する手掛かりすら掴むことができず、結局、他の国が規制したから追随するという医学先進国とは思えない対応しかできなくなる。

リンク:ESCのホットライン演題

リンク:BMS/アストラゼネカの6月19日付プレスリリース

リンク:ベーリンガー・インゲルハイム/イーライリリーの6月20日付プレスリリース

ジョンソン・エンド・ジョンソンがARN-509を買収

(2013年6月17日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)はAragon PharmaceuticalsのARN-509を取得することで合意した。この第二世代アンドロゲン・シグナル阻害剤は、メディベーション/アステラス製薬の前立腺癌用薬Xtandi(enzalutamide)を発見した研究者が創製したフォローオン・コンパウンドで、Xtandiより力価が高いとされる。小規模な第二相試験で良好な成績を上げた。

AragonがARN-509以外の事業をスピンアウトし、残った企業をJNJが6.5億ドルで買収する。開発目標を達成した場合は達成報奨金を最大3.5億ドル払う。JNJが前立腺癌用薬Zytiga(abiraterone acetate)を入手するためにCougar Biotechnologyを買収した時の9.7億ドルと同程度だが、既にXtandiが販売されていることを考えると割高な印象がある。

XtandiはAragonの創立者であるCharles SawyersとMichael JungがUCLAで行った研究の成果で、メディベーションはUCLAからライセンスした。ARN-509はAragonがUCLAからライセンスしたのだが、構造的に類似した化合物であることから、メディベーションは自分が権利を持っていると主張。昨年12月に第一審が主張を却下したが、控訴を検討しているようだ。

リンク:JNJのプレスリリース

リンク:ARN-509の前臨床論文(Cancer Research、オープンアクセス)

最高裁がリバース・ペイメントの違法性判断基準を提示

(2013年6月17日発表)

米国は、特許性新薬の特許に挑戦しGE薬を発売することに成功した会社がGE薬市場を半年間独占できる特許挑戦排他権制度があるため、GE薬メーカーが特許挑戦し、特許権者が特許侵害で提訴するのが日常茶飯事だ。GE薬メーカーは挑戦しなければ損、特許権者は提訴すれば30ヶ月間、GE薬の承認をストップすることができるので提訴しなければ損なのだが、迷惑するのが裁判所だ。薬学、生物学、そして特許法のプロとプロの対決なので容易に結論が出ない。

流れが変わったのはサノフィ・アベンティスのPlavixやアルタナ/ワイス(何れも当時)のProtonixのGE薬戦争だ。GE薬メーカーが判決確定前に発売したが、結局敗訴し、巨額の損害賠償金を払うことになった。特許性新薬メーカーはこのat-risk launchの脅威に怯え、GE薬メーカーは裁判所が以前ほど好意的ではないことを痛感、和解ディールを結ぶのが一般的になった。多くの場合、特許が切れる数ヶ月前に発売できる条項と、特許権者が何らかの形でGE薬メーカーに利益を供与する条項が付される。

民事訴訟では和解はごく一般的な、ある意味では最も望ましい解決方法なので、裁判所も和解ディールに前向きだ。FTC連邦取引委員会はこのリバース・ペイメントをカルテルと見做し告訴したが、複数の控訴裁判所が、特許失効前に発売可能である以上カルテルとは言えないと判定した。特許法で規定されている権利には反トラスト法が適用されない、という考え方もしばしば採用された。ところが、昨年、連邦第三巡回裁判所がリバース・ペイメントは原則違法と判定。控訴裁判所の意見対立が見られることから最高裁がFTCの上告を取り上げ、今回、判断を下した。

5対3の多数意見として下された判断によると、特許失効前の発売が可能というだけでは足りず、その薬の市場規模や和解ディール全体の内容を踏まえて結論を出さなければならない。今回の判決はソルベイ(当時)とワトソン(当時)がテストステロン補充療法Androgelの特許裁判を巡って行った和解に関するものだが、適法性を認めた控訴審判決を最高裁が廃棄・差し戻した。

FTCにとっては一歩前進だが、最高裁はちゃんと審理せよと言っているだけで、リバース・ペイメントは違法と言っているわけではないだろう。第一審・控訴裁判所は今までより手間を掛けて結論を出さなければならなくなった。特許性新薬メーカーの場合も、明らかな利益供与ではなく、企業として合理的な範囲内でGE薬メーカーに儲けさせるスキームを用意する必要があるだろう。

大型薬の特許失効が近付くと自社営業員による販促を止めてCSOに委ねるのが一般的だが、GE薬メーカーに販促を委託し手数料を払ったり、その薬や他の薬の原体を購入したり、あるいは、GE薬メーカーが保有している何かの特許をライセンスしたり、新興市場でGE薬を代わりに販売してもよいだろう。

リンク:FTCのプレスリリース

リンク:FDA Law Blogの解説

【新薬開発】


イエダニ免疫寛容療法用舌下錠の第三相試験が成功

(2013年6月19日発表)

デンマークの免疫寛容療法用薬メーカーであるALK Abelloは、イエダニ・アレルギー用舌下錠の最初の第三相試験が成功したと発表した。同社はチモシーやブタクサ・アレルギー用舌下錠を販売しており、米国でもMSDが承認申請中。家ダニ用は米国ではMSD、日本でも鳥居薬品が開発している。草なら兎も角イエダニの錠剤は抵抗があるかもしれない。

免疫寛解療法は少量のアレルゲンを継続的に投与することで体を慣らし、アレルギー性の鼻炎や喘息発作を予防するもの。フランスを始め欧州では人気があるようだ。ALKはトップメーカーで世界シェア33%、2012年の売上高は注射用が約170億円、経口ドロップが124億円、急崩壊舌下錠のGrazaxは34億円で前期比10%増となっている。

イエダニ・アレルギーの患者は欧州主要5ヵ国で3100万人、うち、免疫寛容療法の対象になる既存療法不応不適な中重度患者は125万人と推測されている。治療を受けているのは34万人、市場規模2億ユーロ程度なので、簡便な錠剤で治療ができるようになれば拡大の余地がある。

今回の試験はアレルギー性鼻炎が対象だが、もう一本の試験と鳥居の試験はアレルギー性喘息患者を組入れており、免疫寛容療法の用途が拡大するか、注目される。ALKはアレルギー性喘息増悪予防試験の結果が2013年第3四半期に出るのを待って2014年に欧州で承認申請する考え。

リンク:ALKのプレスリリース

ADA:イーライリリーのGLP-1作用剤の第三相試験データ

(2013年6月22日発表)

イーライリリーのLY2189265(dulaglutide)の第三相試験結果がADAで発表された。週一回皮注型ではBMS/アストラゼネカのBydureon(exenatide持効製剤)、ノボ ノルディスクのVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ)、GSKのEperzan(albiglutide)に次ぐ第4のGLP-1作用剤で、年内に承認申請される予定。

プレスリリースや抄録を読む限りでは先行品と比べて特に優れているようにも見えないが、低量なら悪心嘔吐の発生率が低いので、取っ付き易いかもしれない。第三相試験全体で膵安全性がどうだったのかも注目される。

dulaglutideはDPP-4に分解され難く改変したヒトGLP-1とヒト免疫グロブリンG4の固定領域重鎖をペプチド・リンカーで繋げて半減期を最長95時間と長期化したもの。第三相試験では様々な実薬と効果を比較したが、Byetta(exenatide)やJanuvia(sitagliptin)だけでなく、意外にも、metforminと比べてもHbA1c低下が有意に大きかった。

ベースライン比低下幅を見ると、低用量(0.75mg週一回)が0.71%、高用量(1.5mg週一回)は0.78%、metforminは0.56%。差は決して大きくないが、一次治療における効果がmetforminと同程度なら大したものだ。既存の週一回皮注型GLP-1作用剤も同程度の効果を持っており、やはり、GLP-1作用剤の最大の長所はDPP-4阻害剤より効果が高いことと言えるだろう。もう一つの特徴である体重抑制作用も確認されたが、意外にも、metforminとは大差なかった。

3mgまでテストした後期第二相試験では、HbA1cは1.5mgと大差なかったが体重低下は3mgのほうが大きかった。Victozaと同様に血糖治療作用と体重低下作用ではプラトー量が異なるのだろう。尤も、3mgは心拍数が若干増加し、悪心嘔吐も増える。二型糖尿病の治療に用いるならば1.5mgで十分だろう。0.75mgとの比較では、一部の試験で効果がやや高かったが、悪心嘔吐下痢が増加するのでどちらが良いか微妙なところだ。

GLP-1作用剤は膵炎のリスクが要チェックだ。dulaglutideは第一相試験で著高量投与群でアミラーゼ上昇が4例発生。1~2mgを投与した第二相試験でも膵炎が一例発生。今回の第三相では膵癌が2例発生したが、薬との関連性はhighly unlikelyと判定されたようだ。

GLP-1作用剤第一号であるByettaと比べて週一回投与型はGLP-1の血中濃度の山谷が小さく、これが効果の高さに繋がっているのだろうが、一方で、メカニズムに基づく副作用のリスクも高まる可能性があり、第三相試験全てのプール分析データが注目される。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


MLN02が10年の時を経て遂に承認申請

(2013年6月21日発表)

武田薬品はMLN02(MLN0002と呼ばれることもある。一般名vedolizumab)を米国でクローン病と潰瘍性大腸炎の治療薬として承認申請した。免疫細胞が発現する接着分子であるアルファ4/ベータ7インテグリンに結合するヒト化抗体で、 小腸血管内皮細胞のMAdCAM-1にトラップされて細胞毒性的Tセル等が腸に移行し炎症を亢進するのを妨げる。

アルファ4だけをブロックするTysabri(natalizumab)もクローン病に承認されているが、PML(進行性白質脳症)のリスクが高まるため余り用いられていない。武田はベータ7もブロックすることでPMLリスクを緩和できると想定していたが、臨床試験のデータで裏付けられたかどうかが注目点だ。

MLN02は武田の子会社であるミレニアム・ファーマシューティカルズがミレニアム前の99年に買収したリューコサイトの開発品。97年にジェネンテックにライセンス、第二相試験が成功したが、治療効果が決して高くなく一部の評価項目では有意差がなかったため返還。ミレニアムは量産法を確立して2007年に再び第二相に挑戦、武田グループ入りと前後して第三相入りした。

リンク:武田のプレスリリース

米国でリーシュマニア症治療薬が承認申請

(2013年6月19日発表)

カナダの製薬会社であるPaladin Labs(TSX:PLB)はFDAがImpavido(miltefosine)の承認申請を受理し、優先審査指定したと発表した。PDUFAは12月19日。適応症はリーシュマニア症で、承認された場合、熱帯病薬開発奨励制度に基づき優先審査券を獲得し、他の薬の承認申請を行う時に優先審査を求めたり、権利を第三者に売却して換金することも可能になる。

ImpavidoはAeterna Zentarisからライセンスした経口剤で欧州などで承認されており、また、WHOの必須薬リストにも採用されている。リーシュマニア症はサシチョウバエが媒介する感染症で、世界で年150~200万人が感染し、7万人が死亡すると推測されている。米国の感染者は少ないと推測され大きな売り上げは期待できないので、優先審査券を有効活用することが肝要だ。

リンク:Paladinのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がサムスカの適応拡大を検討へ

(2013年6月19日発表)

FDAは8月5日に心臓腎臓薬諮問委員会を招集して大塚製薬のSamsca(tolvaptan、和名サムスカ)の適応拡大申請を検討すると発表した。このバソプレシン2受容体拮抗剤はSIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)による低ナトリウム血症の治療薬として2009年に米国で承認された。新用途はADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)。米国の患者数は45万人と結構いるが、新薬の適応症としてはあまり聞かない病気であり、薬効評価方法も確立していないだろうから、これが諮問委員会召集の理由かもしれない。

もう一つ考えられるのは肝毒性だ。ADPKD試験ではSIADH治療に用いる量の倍を投与したが、1000例中3例でALT著増と総ビリルビン著増を併発した。FDAのガイドラインによると、慢性病の治療薬の場合、Hyの法則に該当する症例の発生頻度は1000例中1例未満であることが望まれる。もし上記3例のうち一例でも、肝炎や既知の肝毒性を持つ薬を同時使用していなかった症例があった場合、このガイドラインに抵触することになる。

FDAと大塚は上記の事象を安全性通知やドクターレターで医療従事者に連絡、SIADHでも肝臓疾患を持つ患者や30日以上の連続投与を禁止した。ADPKDでは30日以上投与するので違う方法を考えなければならない。この遺伝性疾患は5割の患者がやがて透析を受けるようになる深刻な疾患なので、治療するリスクと治療しないリスクを慎重に比較することになる。おそらく、リスク回避策(REMS)が議題に上がるのではないか。

この場合、問題になるのは日程だ。審査期限は9月1日なので、もしREMSが不十分と見做され再提出になった場合、審査期限が延期される可能性があるだろう。

FDAは新薬の承認審査に際して諮問委員会の意見を求める必要がある。だから、諮問委員会召集はニュースでも何でもないのだが、優先審査の場合は日程がタイトなので、諮問委員会用の資料を1ヶ月前に作成・配布する手間を惜しんでスキップすることが珍しくない。

リンク:FDAのリリース

【承認】


Vibativが院内感染肺炎の治療にも承認

(2013年6月21日発表)

FDAはテラバンスのVibativ(telavancin)をグラム陽性菌による院内感染肺炎(ベンチレータ関連肺炎を含む)の治療に用いる適応拡大を承認した。他の薬が不適切な場合の第二選択薬。2009年に複雑皮膚皮膚構造感染症治療薬として承認されている。テラバンスは第3四半期に発売する予定。

VibativはMRSAにも活性を持つグリコペプチド系抗生物質で、2005年にアステラスがライセンスしたが、腎毒性やQT延長リスクが見られることからライセンス返還となった。テラバンスはライセンスアウトするのではないだろうか。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:テラバンスのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年6月16日

海外医薬ニュース2013年6月16日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • Ambry Geneticsが米国でBRCA遺伝子検査を発売
  • ESCが高血圧治療目標値を一本化
  • 血管新生阻害剤の卵巣癌試験が成功
  • FDAはアヴェオの抗癌剤を承認せず
  • ランマークが米国で希少疾患に適応拡大
  • インクレチン療法の膵安全性を産学官が協力して再検討へ
  • ジクロフェナクの心血管リスクはCox-II阻害剤並み


【今週の話題】


Ambry GeneticsがBRCA遺伝子検査を発売

(2013年6月13日発表)

カリフォルニアの遺伝子検査企業、Ambry GeneticsはBRCA1・BRCA2検査を上市した。他の企業も参入を狙っており、長らくミリアド・ジェネティックス(Nasdaq:MYGN)が独占していた市場で価格・サービス競争が始まることになる。

BRCA1・BRCA2は、遺伝子複製の過程で不可避的に発生する複製ミスを修復する二つのメカニズムの一つに関与する蛋白で、特定の多型を持つ女性は乳癌や卵巣癌のリスクが高い。生涯リスクは乳癌で40~80%、卵巣癌は20~40%と推定されている。今回初めて知ったが、BRCA変異を持つ男性は前立腺癌生涯リスクが30~39%、乳癌は5~10%とのことだ。

保有率は欧米女性の0.2%と推測されるが、アシュケナージ系ユダヤ系アメリカ人は2%とやや高い。最近、米国の著名女優が予防的切除を受けたことが日本でも波紋を起こした。尚、乳癌や卵巣癌の患者のうちBRCA変異を持っているのは5~10%に過ぎず、乳癌や卵巣癌の多い家系でも、BRCA変異保有率は2割程度なので、BRCA検査が陰性なら乳癌・卵巣癌にならない、という訳ではない。

BRCA特許を持ち遺伝子検査を独占供給しているのがミリアドだ。年商4億ドル前後と推測されるドル箱商品だが、6月13日に米国の最高裁が特許の一部を否定したため、先行きが一挙に不透明になった。自然界に存在する物質は特許保護の対象にならないが、商標・特許庁はこれまで、遺伝子の特許を認めていた。判例も区々だったが、今回、単離されたDNA自体の特許は否定されたのである。商標・特許庁は即日発効でこれまでの審査方針を転換した。

尤も、話はこれでは終わらない。自然界と同様に人間が作り出す物質や社会も複雑怪奇だからだ。最高裁は相補的DNAに関しては特許性を認めた。遺伝子の翻訳は、DNA配列を元にRNA配列を作成、そのRNA配列の一部を除去してmRNAを作成、そのmRNAに基づいてアミノ酸結合体を作成というプロセスを経るが、mRNAの塩基配列の夫々に対応するDNA塩基を繋げたものが相補的DNAだ。

最高裁によると、遺伝子そのものとの違いは、天然には存在しないこと。塩基配列を組み替えることで改良する余地もあるかもしれない。但し、塩基配列が短い相補的DNAは、同じものが自然界に存在する可能性があり、また改良の余地も小さいと想像されることから、特許保護の対象から除外される可能性がある。

最高裁判決は単純な遺伝子特許を否定した点で大きな方向転換だが、相補的DNA特許を肯定したことで話が却って複雑になった面もある。境界線が曖昧だからだ。おそらくケースバイケースで判断されることになるだろう。ライフサイエンス系の製品は複数の特許に守られていることが多いので、その一つが無効認定されるだけでは足りない。BRCA検査も今後、他の特許の有効性を巡る裁判が続くだろう。

また、今後は新しい遺伝子を発見しても直ぐには公表しないケースが増えるだろう。特許制度の社会的意義は、発明を公開させることによって、他の人がその発明を更に発展させられるようにし、技術進歩を加速することだ。従って、特許保護が与えられない分野が生じたことはイノベーションの妨げになりうる。

話をBRCA検査に戻すと、ミリアドの製品は3000~4000ドルとのことだが、Ambry GeneticsやGene by Gene社はもっと割安な価格で発売する考えなので、検査を受ける人や医療保険機関の負担は小さくなる。また、既存の検査サービスにBRCA検査を組み込んで、癌に係る様々な遺伝子を一度に検査することも可能になるだろう。

また、私はミリアドの製品の精度について知識はないが一般論で言えば検査には偽陽性が付き物なので、ミリアドの製品で陽性と診断された女性が念のため他社製品で再検査するニーズにも応えられるようになるだろう。

価格下落で普及が加速したら、新たな問題が生じる。第一は遺伝子コンサルタントの増員だ。インターネットで気軽に遺伝子検査を依頼できる時代なので、疾病関連多型保有者と知って慌てて相談する人の数を制御することはできない。需要の急増に今から備える必要があるだろう。第二は、検査の信頼性だ。侵襲的な予防法が普及すればするほど偽陽性を排除し、アッセイの品質管理を強化することが重要な課題になる。米国の場合、学術研究の名目なら認可を取る必要はない模様だが、本当にそれでよいのか再検討する必要がありそうだ。

リンク:Ambry Geneticsのプレスリリース

リンク:Patent Docsブログ(ライフサイエンス特許や特許裁判に関する有益なブログ)

ESCが高血圧治療目標値を一本化

(2013年6月14日発表)

ESH(欧州高血圧学会)とESC(欧州心臓学会)が動脈高血圧症管理ガイドラインを改定した。特徴的なのは、降圧目標値を一本化したこと。これまでは心血管疾患リスクに応じて最大血圧や最小血圧の上限を低く設定していたが、殆どの患者について140/90 mm Hgとした。例外としては、糖尿病などを併発する患者は最小血圧85 mm Hg以下を目指し、高齢者は最大血圧140~150 mm Hgを目指すが健康な状態なら140 mm Hg以下でも良い。

方針変更の理由は、幾つかの大規模無作為化割付対照試験でJカーブ効果が示唆されたこと。降圧には限度があり、それを超えて下げると却って心血管リスクが高まる可能性がある。

このガイドラインはJカーブ効果に関するエビデンスも積極的な降圧の便益に関するエビデンスも十分ではないと述べている。どちらも曖昧である以上、敢えて積極的な降圧を行うべきではない、という判断なのだろう。血糖治療も、高血圧治療も、正常値に近づける積極的治療の見直しが進んでいる。限界を知るのも重要であり、その意味で、医学の進歩と言えるだろう。

リンク:ESH・ESCのプレスリリース

リンク:高血圧ガイドライン(pdfファイル、治療目標はp24)

【新薬開発】


血管新生阻害剤の卵巣癌試験が成功

(2013年6月12日発表)

アムジェンは、AMG386(trebananib)の一本目の第三相試験が成功したと発表した。白金薬に部分感受・反応しなかった卵巣癌の二次治療試験で、paclitaxelとtrebananib(15mg/kg週一回静注)または偽薬を投与したところ、主評価項目のPFS(無増悪生存期間)がメジアンで各7.2ヶ月と5.4ヶ月となり、ハザードレシオは0.66、ログランクp値は0.001を下回った。二次的評価項目である全生存の解析は2014年に行われる予定。

trebananibは、アンジオポイエチン1、2に結合する『ペプチバディ』。VEGF受容体ではなく、Tie 2受容体を通じた血管新生を阻害する。前臨床では抗VEGF抗体Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)とシナジーが見られた。ペプチバディは抗体(アンチバディ)に似ているが、抗体可変領域ではなくペプチドを抗体固定領域と結合したもので、同社の血小板生成刺激剤Nplate(romiplostim、和名ロミプレート)が第一号と目される。

現時点では情報が限られるため、今回の治験成果の評価は難しい。おそらく、全生存期間の解析で有意差が出るまで、米国では承認されないだろう。FDAは卵巣癌の薬をPFSに基づいて承認することに否定的だからだ。Avastinは卵巣癌試験が成功し欧州で承認されたが、米国では適応拡大申請すらされていない。延命効果が確認されなかったことが原因のようだ。卵巣不全や顎骨壊死症(ONJ)、深静脈血栓のような深刻な有害事象が発生することがあるので、便益に関する明確なエビデンスが必要と判定したのである。

PFSは癌の増悪または死亡までの期間を意味するが、ここでいう増悪は症状の悪化ではなく、多くの場合、単に標的腫瘍のサイズが一定以上増大したことを意味する。画像診断で評価するほうが客観的であり、また、後で第三者が検証できる長所がある。症状緩和効果も重要な効能だが、末期癌の試験では回答を拒否する患者が少なくなく、回答例だけの解析では有意差が出ても、intent-to-treat解析はフェールしてしまう。

腫瘍が抗癌剤に適応して以前よりも速いスピードで成長することもある。Avastinが乳癌試験で延命効果を発揮できないのは、癌が凶暴になり再び成長し始めた時点で投与を止めてしまうことが原因かもしれないのだ(Avastinは癌が進行または副作用不耐になったら投与を止める用法)。このリスクは増悪から死亡までのリードタイムが長い癌ほど高いと考えるのが自然であり、これが延命効果が確認されている結腸直腸癌や肺癌との違いと考えることができる。

このように、PFSという評価項目だけでは便益を十分に判定できない可能性があるのだ。

trebananibの試験では、有害事象が原因で治験を離脱した患者が20%と、偽薬群の7%を上回った。頻発したのは局所性浮腫や悪心、脱毛とのことだが、治験離脱するほど深刻とも思えないので、他の深刻な有害事象が発生したのだろう。全生存の予備的解析では治験開始当初は偽薬群の方が良いが時間が経つにつれてtrebananib群が上回るトレンドがあったとのことだが、これも、深刻な有害事象リスクを想起させる。それだけに、Avastinと同様に便益に関する明確なエビデンス、つまり、延命効果が必要とされる公算がある。

trebananibの他の第三相卵巣癌試験は、ドキソルビシン塩酸塩リポソーム製剤併用二次治療試験と、paclitaxel・carboplatin併用一次治療試験が進行していて、前者は2014年に主評価項目であるPFSの解析が見込まれる。来年になればPFSのエビデンスが二本に増え、全生存のデータも出始めるので、trebananibのPFS延長効果がフェイクなのか、リアルなのかが明らかになるだろう。

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDAはアヴェオの抗癌剤を承認せず

(2013年6月10日発表)

アヴェオ・オンコロジー(Nasdaq:AVEO)はAV-951(tivozanib)を末期腎細胞腫の一次治療薬として承認申請していたが、FDAから審査完了通知を受領した。第三相試験は成功したが延命効果を確認できなかったので、已むを得ないだろう。開発パートナーであるアステラス製薬は諦めた様子であり追加試験を実施するのは資金的に難しい。他の用途を探索するか、他のプログラムにシフトすることになりそうだ。

AV-951は2007年にキリンからアジア以外の権利を取得したもの。2011年にアステラスにアジアと中東以外の地域の開発販売権を供与、2012年に第三相試験が成功とここまでは順風満帆だったが、延命効果の解析がフェールしたのを契機に流れが変わった。

この試験はPFSがNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)より優れるという仮説を検討したもので、メジアン値が11.9ヶ月対9.1ヶ月と有意に上回ったため成功は成功だが、p値は0.04なので偶然に発生する確率は25回に一回と、低いと言えば低いがボーダーライン上と言えないこともない。全生存期間の解析はメジアン28.8ヶ月対29.3ヶ月で大差なく、ハザードレシオは1.245、p=0.105なので有意ではないがNexavarより悪い可能性が否定できていない。

日本なら『活性薬対照試験でこの成績は立派、承認されている薬と大差ないなら承認しても差し支えない』と評価されるかもしれないが、米国は承認審査技術が発達しているので、優越性試験のフェールと非劣性試験の成功は異なることを理解している。

話を複雑にしたのは、この試験が米国とは異なる医療風土の中で専ら実施されたことだ。米国では末期腎細胞腫の一次治療薬はSutent(sunitinib、和名スーテント)であり、Nexavarは効果が劣るとみなされているため二次治療薬の一つと位置付けられている。効果の劣る薬より延命効果が劣っている可能性があるとしたら、敢えて承認する必然性はない。他に優れた薬があるのだから、延命効果が確立してから承認しても遅くはない。

また、米国なら二次治療でmTOR阻害剤など様々な薬を使うだろうから、tivozanibの試験(偽薬群は専らtivozanibを用い、tivozanib群の多くは何も使わなかった)のデータが再現される可能性は低い。サンプル調査に過ぎない臨床試験のデータが薬効のエビデンスになりうるためには、現実の医療で再現されるという再現性、外延性が担保されていなければならない。その意味では、医療風土・環境が異なる国の医療施設を中心に実施したことがそもそもの間違いだったのである。

それでは、なぜこのような試験を実施したのか?ここからは私の推測だが、一番の理由は、スピードだろう。様々な薬が承認・開発されている国では患者は選択肢を持っているが、治療オプションの限られている国では偶々実施されている試験に参加するしかない患者が多く、組入れがすばやく進む可能性が高い。tivozanibの類薬は多数存在するので、開発期間を短縮して早く発売することは極めて重要な課題だ。

第二の理由はコストだろう。何百億円という開発費用を少しでも抑制するために、中東欧やアジアの患者を多数組み入れる企業は少なくなく、むしろ、最近のトレンドと言っても良い。私は以前から危惧していたのだが、アヴェオのように、コストダウンの代償を払うケースが散見される。

リンク:アヴェオのプレスリリース(pdfファイル)

【承認】


ランマークが米国で希少疾患に適応拡大

(2013年6月13日発表)

アムジェンは、FDAがXgeva(denosumab、和名ランマーク)を骨巨細胞腫に用いることを承認したと発表した。年300~800人が発症する希少疾患で、悪性ではなく、8割の患者は切除で対応可能。Xgevaは残りの2割を占める切除不能例、あるいは切除すると生活機能に大きな支障が出る症例、または再発例に用いるので対象患者は少ない。

臨床試験では、25%の患者で癌の縮小が見られた。反応例の6%は20ヶ月以内に再び進行を始めた。主な有害事象は関節痛・腰痛・四肢痛のような骨の痛みと、頭痛、悪心、疲労など。深刻な有害事象は顎骨壊死症や骨髄炎。

Xgevaは破骨細胞や前駆体のRANK受容体のレガンドであるRANKLをブロックする抗体医薬で、固形癌の骨関連合併症を予防する用途で承認されているほか、Prolia名で骨粗鬆症の治療にも用いられている。血液癌の進行を助長する懸念があるため日本以外の国では骨髄腫には承認されていない。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:
アムジェンのプレスリリース


【医薬品の安全性】


インクレチン療法の膵安全性を産学官が協力して再検討へ

(2013年6月10日発表)

インクレチン療法(二型糖尿病の血糖治療に用いるGLP-1作用剤とDPP-4阻害剤)は膵炎など膵毒性の懸念が表面化、FDAやEUが検討しているが、医学誌や学会も本格的な調査研究を呼び掛け始めた。製薬会社側も協力の姿勢を表明しており、今後、解明に向けた動きが本格化するだろう。

BMJ誌やADA米国糖尿病学会は、製薬会社が開発の過程で収集したデータが完全公開されていないことに懸念を表明した。BMJ紙は情報公開制度を利用してFDAやEUのEMAから承認審査資料を入手、前臨床試験や市販後有害事象報告などで懸念材料が浮上したのに、承認審査機関が十分な検討を行わなかったと断じた。

私は霊長類の試験のデータを見る機会が少なく、経験不足で何とも言えないが、貴重なデータであることだけは分かる。以前、インクレチン療法やPPAR作動剤について書いたように、様々な研究が同じ方向を指し示していることは重要なシグナルであり、時間が掛かっても真相を解明すべきである。

呼応したのか、それとも独立した動きなのか、ADAも、独立した第三者による解析を行うべく、製薬会社に患者レベルのデータを提供するよう呼び掛け、MSDやBMS、アストラゼネカなどが応じる旨を表明した。

BMJ誌で論じられたように、インクレチン療法と膵癌の関連性は依然として明確ではない。pioglitazoneの膀胱癌疫学試験ではリスクが累積服用量と相関していたが、このように、長期間観察しないとリスクを発見できないのが一般的である。膵癌は稀な癌だが、それでも、大規模な調査を行えばリスクを確定することができるかもしれない。

注意しなければならないのは、膵毒性が疑われるのはインクレチン療法だけではないこと、そして、他の二型糖尿病薬にも特有のリスクがあることだ。Byetta(exenatide)の急性膵炎リスクが疑われ始めた頃、FDAの自発的有害事象報告データベースを用いて調べたところ、Byettaやglipizideと比べてpioglitazoneの急性膵炎報告は全然少なかった。このため、私は膵臓に作用する薬は多かれ少なかれ膵炎リスクを持つと考えている。

その中でインクレチン療法がやり玉に挙がっているのは、新薬だからだ。今更SU剤やインスリンのリスクを蒸し返しても医療が混乱するだけなので、せめて新薬だけは、十分に安全性を確認すべきという発想なのだろう。新薬なら巨大な研究開発予算を持つ製薬会社が研究スポンサーになってくれるが、特許の切れた薬の研究に補助金を出す製薬会社はない。

このことを忘れると、『新しいインスリンは昔からあるインスリンと比べてリスクが高くない』というデータを過大評価してしまう。膵癌のように稀な疾患のリスクを評価するためには前向き観察的試験が妥当だが、一番良いのは、ついでにSU剤やインスリンなど既存の薬のリスクも調べることだ。患者にとっては、新しくても古くても薬に変わりはないのだから。

リンク:ADAの呼び掛け

リンク:BMJ誌の特集の概要(Editor's Choice)

ジクロフェナクの心血管リスクはCox-II阻害剤並み

(2013年6月14日発表)

EMAの医薬品監視リスク評価委員会(PRAC)は、diclofenacの心血管リスクはCox-II阻害剤並みと判定した。Cox-II阻害剤は通常の非ステロイド抗炎症薬より心血管リスクが高いと考えられているが、diclofenacも注意が必要で、深刻な心臓疾患の患者は服用すべきではない。高血圧などの心血管リスク因子を持つ患者も服用前に十分な検討・熟慮が必要だ。服用を続ける場合は定期的に是非を再検討すべき。今後、CHMPの討議を経て結論を出す予定。

リスクは用量や服用期間と相関する模様であり、一日150mgの高用量と長期服用時のリスクが高い模様だ。尚、日本では一日100mgまでしか承認されていない。

鎮痛剤は患者によって向き、不向きがあり、副作用の出方も異なるので、万人向けの第一選択薬を特定するのは難しく、学会によって意見が違う。胃潰瘍リスクや肝臓疾患リスク、心血管リスクなどの違いを十分に理解して使い分けるしかなさそうだ。

リンク:EMAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年6月9日

海外医薬ニュース2013年6月9日号

 



【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCO:ベーリンガーのVEGFR阻害剤の第三相が成功?
  • ASCO:MSDの抗PD-1ヒト化抗体はnivolumabより効果が高い?
  • ASCO:第二のALK阻害剤はザーコリ耐性癌にも有効
  • ASCO:アフィニトールはher2陽性乳癌にも有効
  • ASCO:ネクサバールも分化甲状腺癌に有効
  • タイケルブの胃癌試験はフェール
  • アイリーアも病的近視による血管新生に有効
  • サノフィがPARP阻害剤とXa阻害剤の開発を中止
  • アストラゼネカがSyk阻害剤の承認申請を断念


【新薬開発】


ASCO:ベーリンガーのVEGFR阻害剤の第三相が成功?

(2013年6月3日発表)

ASCO米国臨床腫瘍学会で様々な新薬の第三相試験成績が発表された。ベーリンガー・インゲルハイムは株式を公開していないせいか開発状況に関する情報が少なく、学会発表が重要な情報源になる。同社がトリプル・アンジオキナーゼ阻害剤と呼ぶBIBF 1120(nintedanib)の第三相非小細胞性肺癌二次治療試験の結果が発表されたが、成功したともフェールしたとも言える内容だった。

この、欧州、南アフリカ、アジアの施設で実施された二重盲検試験は1314人の患者をdocetaxelとnintedanibを併用する群とdocetaxelと偽薬の群に無作為化割付し、PFS(無増悪生存期間)を比較したもの。

結果はメジアン3.4ヶ月対2.7ヶ月、HR0.79、p=0.0019となり統計学的に有意に上回った。尤も、メジアン値の差は1ヶ月足らずで、悪心嘔吐や下痢、肝機能検査値異常などの副作用の増加を正当化できるかどうか微妙だ。更に、全生存期間はメジアン10.1ヶ月対9.1ヶ月、HR0.94で大差なかった。

サブグループ分析では線種の患者に好成績だった。メジアンPFSは12.6ヶ月対10.3ヶ月、全生存期間は12.6ヶ月対10.3ヶ月でp値が0.05を下回った。とはいえ、所詮サブグループ分析に過ぎず、また、全生存期間のログランクp値は0.0359なので多重性の補正を行えば統計学的に有意とは言えないだろう。

VEGFを阻害する薬の非小細胞性肺癌における代表格はロシュのAvastin(bevacizumab)だが、4割を占める扁平上皮腫には効果が弱く、吐血リスクが高まる可能性もあるのでむしろ有害かもしれない。線種などには有効なので、今日の標準的一次治療薬になっている。ところが、本試験はAvastin経験者を除外したので、エビデンスとしての価値が低い。nintedanibも扁平上皮腫に効果が弱いとなると、出番は殆どないことになる。

nintedanibの第三相非扁平上皮非小細胞性肺癌試験(Alimta併用)は中間解析で無益性が判定され、打ち切りになったようだ。肺癌には有効ではないのだろう。この他に、卵巣癌や特発性肺線維症で第三相試験が行われており、年内にも結果が発表されるのではないか。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

ASCO:MSDの抗PD-1ヒト化抗体はnivolumabより効果が高い?

(2013年6月2日発表)

今回のASCOの目玉の一つはPD-1のパスウェイに介入する抗体医薬だ。BMSが小野薬品からライセンスしたBMS-936558(nivolumab)やロシュの抗

PD-L1抗体RG7446/MPDL3280A、そしてMSDのMK-3475(lambrolizumab)が悪性黒色腫に良績を出した。

BMS-936558は第三相入りが最も早く非小細胞性肺癌や腎細胞腫でも第三相と開発が最も進んでいる。RG7446はPD-L1発現状況を手掛かりにして有効性を予測できる可能性があり、もし実現すれば、PD-1/PD-L1に介入する薬の中で第一選択になるだろう。一方、lambrolizumabは今年、第三相入りしたばかりだが、順調なら2015年にも成否判明と、BMSとの差を急速に詰めている。

このlambrolizumabは、ASCOで百人を超える大規模な後期第一相試験の途中経過(中間解析)が発表された。用量漸増試験の目標用量である10mg/kgを2週間に一回投与した群は第三者評価によるORR(客観的反応率)が52%。昨年11月の学会発表時点の51%と大差なく、症例が増えても数値が安定的であることは好ましい。3週間に一回、あるいは2mg/kgを3週間に一回投与した群のORRは25~27%と見劣りするので、10mg/kg2週間に一回が至適なのだろう。

nivolumabの試験のORRは40%だったので、lambrolizumabの方が効果が高そうだ。尤も、異なった試験、しかも第一相や第二相のデータを比較するのは見込み外れの元であり、また、免疫強化療法はORRと延命効果が必ずしも相関しない。更に、標的を同じくする抗体医薬はヒト化抗体でも完全ヒト抗体でも効果は大差ないというのがこれまでの薬の教訓である。第三相試験の結果が出るまでは、nivolumabが逆転・キャッチアップする可能性もあると考えた方が良いだろう。

リンク:MSDのプレスリリース

ASCO:第二のALK阻害剤はザーコリ耐性癌にも有効

(2013年6月3日発表)

FDAからブレークスルー・セラピー指定を受けたノバルティスのALK阻害剤、LDK378の治験データが発表された。第一相試験で変異ALK陽性非小細胞性肺癌78人に一日750mgを投与したところ、ORR60%と高い成果を上げた。

ファースト・イン・クラスのALK阻害剤、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)による治療を受けた患者では59%、未経験者は62%とのことなので大差ない。in vitroでもXalkori耐性変異型に有効だったとのことなので、Xalkoriの次に使う薬、あるいはXalkoriに代わる薬として有望だ。中枢神経系転移を防ぐ可能性も指摘されているようだ。

現在、変異ALK陽性非小細胞性肺癌の第二相試験が進行中で、うち一本は化学療法やXalkori経験者を対象としているので、早ければ2014年にも発売される可能性がある。

変異ALK型は非小細胞性肺癌の数パーセントを占める稀なタイプで、独立行政法人科学技術振興機構の補助金を受けて間野博行らが行った研究で発見された。標的が決まれば今日のコンパウンド・ライブラリー・スクリーニング技術を用いることで有望なコンパウンドを迅速に発見することができる。激烈な開発競争のスタートだ。

Xalkoriが最初にゴールできたのは、おそらく、MET阻害剤として既に臨床入りしていたアドバンテージがあったからだろう。水面下ではALK選択性が高い、あるいは、Xalkori耐性型に活性を持つコンパウンドが数多く開発されているはずと推測していたが、遂に姿を現した。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ASCO:アフィニトールはher2陽性乳癌にも有効

(2013年6月2日発表)

ノバルティスのmTOR阻害剤、Afinitor(everolimus、和名アフィニトール)はホルモン療法再発性her2陰性転移性乳癌に用いることが承認されているが、her2陽性乳癌にも有効であることが第三相試験で確認された。

タクサン系の抗癌剤とHerceptin(trastuzumab、ロシュ)による一次治療を受け、Herceptinに抵抗性を示した患者を組入れて、vinorelbine、Herceptin、Afinitorの三剤併用とvinorelbine、Herceptin、偽薬の二剤併用を比較したところ、メジアンPFSが7.0ヶ月対5.8ヶ月、HR0.78、pは0.01未満と有意に延長した。全生存の解析は未だ機が熟していない(イベント数が目標に到達していない)。ノバルティスは適応拡大申請する予定。

Herceptin抵抗癌に使う薬としてはKadcyla(ado-trastuzumab emtansine)が今年2月に米国で承認された。併用薬が異なるものの、治療効果(メジアンPFSの対照群との差)は3ヶ月、HRも0.65なので、Afinitorの数値は見劣りする。それでも、どちらも特有の副作用を持つし、vinorelbineを好む医師もいるので、選択肢が増えることはポジティブだ。

素朴な疑問は、併用療法なのにHerceptinに抵抗性を持つかどうか、どうやって見分けるのだろう?

リンク:ノバルティスのプレスリリース

ASCO:ネクサバールも分化甲状腺癌に有効

(2013年月6日2発表)

バイエルは、VEGFR阻害剤Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)の第三相甲状腺癌試験の成功を発表した。末期・転移性分化甲状腺癌で放射性ヨウ素による治療がフェールした患者に、400mgを一日二回投与したところ、メジアンPFSが10.8ヶ月と偽薬群の5.8ヶ月を上回り、HR0.587で統計学的に有意だった。バイエルは適応拡大の予定で、承認されれば腎細胞腫、肝細胞腫に次ぐ第三の用途となる。

甲状腺癌は世界で年16万人が診断されるが、死亡は年2.5万人で、他の癌ほど予後が悪くはない。放射性ヨウ素による治療が有効だからだ。不応・転移例でも直ぐに死亡するわけではないので、単にPFSを延ばすだけでなく、全生存期間を延ばす効果も期待される。ところが、今回の試験では全生存期間に群間差がなかった。偽薬群の71%が増悪後にNexavarによる治療を受けたせいかもしれないが、延命効果を持たない可能性も残っている。承認審査で議論になるだろう。

甲状腺癌にはVEGFR阻害剤が有効である模様で、2011年にはアストラゼネカのCaprelsa(vandetanib)が甲状腺髄様腫に承認された。エーザイのE7080(lenvatinib)もNexavarと同様な試験の結果が来年3月までに判明する見込み。CaprelsaはRET陰性型には効果が弱かったので、実際にはVEGF受容体ではなくRET阻害が作用機序なのかもしれない。様々な薬のデータが出揃えば、明らかになるだろう。

リンク:バイエルのプレスリリース

タイケルブの胃癌試験はフェール

(2013年6月3日発表)

グラクソ・スミスクラインは、her2/EGFR阻害剤Tykerb(lapatinib、和名タイケルブ)の第三相her2陽性末期胃癌一次治療試験がフェールしたと発表した。抗her2ヒト化モノクローナル抗体Herceptinが承認されている用途であることを考えれば意外な結果だ。詳細は把握していないが、her2陽性の定義が異なるのかもしれない。また、併用薬がcapecitabineは同じだがもう一剤がcisplatinではなくoxaliplatinであることも影響したのかもしれない。

リンク:GSKのプレスリリース

アイリーアも病的近視による血管新生に有効

(2013年6月6日発表)

バイエルは、Eylea(aflibercept、和名アイリーア)の近視性脈絡膜血管新生(mCNV)第三相試験が成功したと発表した。ノバルティス/ロシュのLucentis(ranibizumab)の試験も成功しており、この種の疾患には抗VEGF抗体が有効なのだろう。バイエルはアジア地区から適応拡大申請する計画。

mCNVはアジアに多いとされ、Eyleaの試験もシンガポールや日本などの施設で実施された。2mgを硝子体内注射し、その後、必要に応じて追加投与する医療の実態に準拠した用法を採用した。対照群は『シャム』と記されているので、注射器で目に空気を吹き掛けて恰も注射したように見せかけたのだろう。眼科の臨床試験の慣例で、二重盲検ではなくダブルマスク試験という用語を使っている。

視力を評価する試験では特殊な視力検査表を用いるので分かりにくいが、24週間の治療でEylea群は14字改善、シャム群は2字の改善に留まった。Lucentisの試験でも1年で14字改善しており、効果は大差ないように見える。

リンク:バイエルのプレスリリース

サノフィがPARP阻害剤とXa阻害剤の開発を中止

(2013年6月3日発表)

サノフィはPARP阻害剤iniparibと点滴用Xa阻害剤otamixabanの開発中止を明らかにした。前者はトリプル・ネガティブ乳癌に続いて、扁平上皮非小細胞性肺癌の第三相試験がフェールし、また、卵巣癌の第二相試験も良い結果ではなかった模様だ。otamixabanは非ST上昇型急性冠症候群の第三相試験で、効果が非分画ヘパリンを上回らなかった。

PARP阻害剤は最近話題のBRCA変異型乳癌/卵巣癌に有効な可能性があり、だからこそサノフィもBiPar社を買収してiniparibを入手したのだが、残念な結果になった。アストラゼネカが2006年にKuDOS社を買収して入手したolaparibでBRCA変異型卵巣癌に第三相試験を開始する見込みなので、こちらに期待することになる。

otamixabanは他社のXa阻害剤とは異なり点滴用であるため用途が急性期に限られる。安価な非分画ヘパリンと効果が同じでは売れないので優越性試験を行ったのだろうが、第二相試験の成績は特に有望とは見えなかったので、フェールしてもやむを得ないのだろう。大型薬の特許切れが近付くとステージアップのハードルが下がるのか、有望とは思えない薬の第三相入りや第三相試験のフェールが増加する。この点では今回も、2000年前後に見られた現象も、共通している。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

アストラゼネカがSyk阻害剤の承認申請を断念

(2013年6月4日発表)

アストラゼネカはライジェル・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:RIGL)からfostamatinib disodiumをライセンスして経口抗リウマチ薬として第三相試験を実施、三本とも成功したのだが、承認申請はせず権利を返還すると発表した。ライジェルは開発続行を表明しており、おそらく、承認申請した上で販売パートナーを探すことになるのではないか。

Syk阻害剤はマストセルやマクロファージ、BセルのIgG受容体の細胞内シグナル伝達を阻害する。第三相試験では100mgを一日二回投与する用法と、5週目からは150mgを一日一回に切り替える用法を検討したが、後者は効果が弱い。前者は三本とも成功、ACR20奏効率が偽薬群を15ポイント程度上回ったが、承認されている薬と比べて特に良くはない。

とはいえ、後期第二相試験でも同程度だったので、初めから分かっていたことである。ここにきて開発中止・ライセンス返還を決めたのは意外な感じがする。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

リンク:ライジェルのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年6月2日

海外医薬ニュース2013年6月2日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • コエンザイムQ10は慢性心不全の臨床的転帰を改善する?
  • ARBと癌の関連性についてFDA内部で意見が対立
  • ASCO:悪性黒色腫の免疫療法が花盛り
  • ASCO:ヴォトリエントは上皮卵巣癌の維持療法として有効
  • アーゼラの一次治療試験が成功
  • 第二のメラトニン受容体作動剤が米国で承認申請
  • ノボがトレシーバとビクトーザのプリミックスをEUで承認申請
  • CHMPがPEG化G-CSF等の承認を支持
  • エフィナコナゾールの発売にFDAとAnacor社が「待った」
  • Tecfideraは新規活性成分か?
  • GSKの二種類の悪性黒色腫用薬が米国で同時承認
  • ギリアッドの4薬合剤がEUでも承認


【今週の話題】


コエンザイムQ10は慢性心不全の臨床的転帰を改善する?

(2013年5月25日発表)

ESC欧州心臓学会の心不全2003学会で発表されたコエンザイムQ10(CoQ10)の慢性心不全試験が話題を呼んでいる。100mgを一日三回、2年間投与したところ、偽薬群と比べてNYHAクラスが改善し臨床的転帰も有意に改善したというのだ。p値自体は決して低くなく、また、発表されるまで時間が掛かったことや組入れ数が予定より少ないことなど不透明な点も多いので、治験論文の刊行や別の試験で再現されるまで慎重に受け止めた方がよさそうだ。

このQ-SYMBIO試験は、NYHAクラスIII/IVの心不全患者をCoQ10群と偽薬群に無作為化割付して二重盲検で臨床的転帰を比較したもの。評価項目は短期と長期の二種類あり、3ヶ月経過時点で症状、機能、バイオマーカー(NT-proBNP)の変化を調べ、2年間追跡して複合評価項目(心不全悪化による入院や死亡、intent-to-treatベース)を検討した。デザインペーパーによると組入れ目標は550人だが420人しか組入れられなかったようだ。2003年から2008年にかけて多施設で実施された。

学会抄録の筆頭著者はデンマークのコペンハーゲン大学病院のMortensen氏で、共同著者はインド、北欧東欧、イタリア、オーストラリアなどの施設に勤務。スポンサーは国際コエンザイムQ10協会と、CoQ10製品を販売している日本のカネカとPharma Nord社。

抄録のデータを見ると、まず、短期的評価項目は3ヶ月後のNT-proBNPが低下するトレンドが見られた。他の評価項目は記されていない。複合評価項目はCoQ10群の発生率が14%、偽薬群は25%、ハザードレシオ2.0、95%信頼区間1.3-3.2、p=0.003。心血管死、心不全入院、全死亡で有意に優れ(p=0.01~0.05)、有害事象は少なかった(p=0.073)。

コエンザイムQ10は1973年に日本で世界に先駆けて心不全治療薬として承認されており、その意味ではサプライズではないが、近年の大規模な試験はフェールしたものが多いため学会の治療ガイドラインでは推奨されていないようだ。そのせいか、米国のメディアには慎重なエキスパート・オピニオンも引用されている。

例えば、Heart.Orgによると、アウトカム試験に一家言を持つSanjay Kaul博士(Cedars-Sinai Medical Center)は査読プロセスを終え論文が刊行されるまで判断を控えたいとコメントした。検出力の低い小さな試験で大きな治療効果が観察されたが、その後の大規模な試験で再現されなかった例は少なくないからだ。

また、Forbes誌の医学コラムによるとJohn Osborneという心臓学者は、被験者が受けた標準療法が今日とは異なる可能性があること、年率9%という死亡率はクラスIII/IVの患者としては低いこと、参加国が多いので一施設当たりの組入れ数が少ないと推測されること(無作為化割付がちゃんとできていない可能性を示唆する)を指摘している。MedPage Todayも、今回の学会発表だけでは医療現場にCoQ10を導入することは推奨できないという意見を紹介している。

ところで、CoQ10はサプリメントとして人気があり、日本で心不全治療薬として承認されていたことがしばしば引き合いに出されるが、承認用量が一日30mgであったのに一部のサプリメントは含有量がもっと多い。このため、厚生労働省がメーカーに購入者の副作用発生状況を調べさせたはずだが、いつまで経っても結果が発表されないのはどうしたことだろう。

リンク:ESC心不全2003の抄録

リンク:ESCのプレスリリース

リンク:Q-SYMBIO試験のデザインペーパー(抄録)

リンク:Q-SYMBIO試験の治験登録

リンク:MedPage Todayの記事

リンク:Heart.Orgの記事

リンク:Forbesの記事

ARBと癌の関連性についてFDA内部で意見が対立

(2013年5月31日発表)

Wall Street Journalによると、ARBと癌の関連性についてFDA内部で意見が対立している。FDAは2011年に関連なしと結論し対外発表したが、肺癌のデータは検討しなかった模様。心血管腎臓薬審査チームのリーダーであるThomas Marciniak博士が分析続行を訴えたところ、上司のUnger博士から他の業務を優先するよう指示されたというのである。

米国では意見の対立が珍しくなくFDA内部でもしばしば発生する。しかし、メールのやり取りの内容まで新聞社にリークされるのは珍しく、販売中止になった二型糖尿病薬ノスカールの事件を彷彿させる。

Marciniak博士は、これまで、様々な新薬の承認にブレーキを掛けてきた。臨床試験の実態に鋭くメスを入れ、疑問点を放置せずに徹底的に解明しようとする傾向がある。今回初めて知ったが、博士は米国立癌研究所で10年の勤務歴があるとのことだ。

ARBと癌の関連性は2010年にLancet Oncologyにメタアナリシス論文が刊行されたことで表面化した。FDAは自らもメタアナリシスを行い無垢と結論したが、博士は試験レベルではなく患者レベルのデータを用いてメタアナリシスを行い、今年3月、ARB群の患者は肺癌のリスクが24%高いという結論に達した(統計学的に有意)。11本の試験のうち10本でARB群の方が肺癌が多かった。

博士は上役に警告強化を訴えたが、Unger博士は同意しなかった。本当は癌ではない症例が含まれている可能性があるからだ。Actosと膀胱癌の関連性が発売後何年も見過ごされてきたように、薬と癌の関連性を発見するのは容易ではない。また、24%という数値も多いのか少ないのか、微妙なところだ。このため、Unger博士は他の業務を優先し、調べるなら終業後に行うよう求めた。

WSJ紙の記事は、おそらくMarciniak博士がリークしたのだろう。ARBと癌の関連性は既に決着したと思っていたが、水面下では未だ続いていることを、私を含む多くの人々に伝えることに成功した。

リンク:Wall Street Journalの記事

リンク:ARBと癌の関連性に関するFDA安全性情報

リンク:ARBと癌の関連性に関するメタアナリシス論文(Lancet Oncology)

リンク:ARB/ACE阻害剤と癌の関連性に関する英国の疫学研究

リンク:ARBと癌(Medicine-Blog)

リンク:ARBと癌:識者の意見(Medicine-Blog)

【新薬開発】


ASCO:悪性黒色腫の免疫療法が花盛り

(2013年6月1日発表)

ASCO米国臨床腫瘍学学会が始まった。プレビューで書いたように、様々な免疫療法が悪性黒色腫に好成績を上げている。今回は、まず、ウイルス療法でもあるアムジェンのOncoVEX(GM-CSF)を取り上げよう。GM-CSFの遺伝子を組入れた遺伝子組換え型一型単純ヘルペスウイルスを腫瘍細胞に直接注射するとウイルスが細胞を破壊し、外に出た後もウイルスが分泌するGM-CSFが免疫を刺激、他の腫瘍細胞を攻撃させるというもの。

第三相試験で持続的反応率(部分反応が半年以上持続した患者の比率)をGM-CSFと比較したところ、16%対2%で有意に優れていた。全生存期間は中間解析でハザードレシオ0.79、95%信頼区間0.61~1.02となっており、最終解析では有意水準に達しそうだ。

アムジェンがウイルス療法とは珍しいが、2011年にBioVex社を達成報奨金含め10億ドルで買収して入手したもの。

リンク:アムジェンのプレスリリース

二本目は、BMSの抗CTLA-4抗体Yervoy(ipilimumab)の効果をGM-CSFでブーストする手法を検討したE1608試験。Dana-Farber Cancer InstituteのHodi医学博士が発表したもので、ステージIIIの転移性黒色腫245人を組入れて、YervoyとLeukine(sargramostim、250mg皮注)を併用する群とYervoyだけの群の全生存期間を比較した。

1年生存率が53%から69%へ、メジアン生存期間は12.7ヶ月から17.5ヶ月へ向上、ハザードレシオは0.64、p=0.014。反応率は同程度だった。

Yervoyの承認用量は3mg/kgだが、この試験は10mg/kgを採用した。Yervoyは同時進行的に様々な試験が行われ、10mg/kgをテストしたものも少なくない。現在、二種類の用量を直接比較する試験が進行中。経緯はともあれ、標準療法の用法が異なる以上、今回の試験はGM-CSF併用のエビデンスというには不十分だろう。

それはそれとして、免疫療法は様々なアプローチがあるので、この試験のように様々な併用を検討する余地がありそうだ。

ASCO:ヴォトリエントは上皮卵巣癌の維持療法として有効

(2013年6月1日発表)

ASCOが6月1日に開催したプレス・ブリーフィングでは、Votrient(pazopanib、和名ヴォトリエント)の上皮卵巣癌一次治療維持療法試験も取り上げられた。なかなか良い内容で、グラクソ・スミスクラインは適応拡大申請する予定。全生存の解析がフェールしない限り、腎細胞腫、軟組織肉腫に次ぐ第三の適応として承認されそうだ。卵巣癌はこれまでに様々なVEGF阻害剤がテストされたが、遂に成果が出た。

卵巣癌の7割は発見された時点で既に末期段階にある。切除と化学療法に反応するが、7割の患者は再発する。今回の試験は、切除と化学療法が奏功し癌が進行しなくなった患者940人を組入れて、Votrient群(800mg一日一回)と偽薬群のPFS(無増悪生存期間)を比較した。結果は、ハザードレシオ0.766、p=0.0021、メジアン値17.9ヶ月対12.3ヶ月と有意に優れていた。

全生存期間は大差ないが、解析に必要な551イベントの2割しか到達していないので何とも言えない。深刻な有害事象の発生率は26%と偽薬群の11%より高く、内容は肝機能検査値異常や発熱、高血圧など既知のものだ。

リンク:GSKのプレスリリース

アーゼラの一次治療試験が成功

(2013年5月29日発表)

今週はグラクソ・スミスクラインの話が多い。第二話は、Arzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)の適応拡大試験が成功した。米国では2009年にB細胞性慢性リンパ性白血病の三次治療薬として承認されたが、今回、chlorambucil併用で一次治療試験が成功。PFSは22.4ヶ月対13.1ヶ月、ハザードレシオ0.57、pは0.001未満だった。GSKは欧米で適応拡大申請する予定。

Arzerraはジェンマブが開発した抗CD20完全ヒト化抗体で、ロシュのRituxan(rituximab、抗CD20キメラ抗体)の類薬。ロシュはASCOで第三世代抗CD20抗体であるobinutuzumabの、ほぼ同じ内容の第三相試験データを発表するが、PFSが23.0ヶ月対10.9で大差ないのにハザードレシオは0.14とかなり異なる。今後、どちらが優れるのか議論になりそうだ。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認申請】


第二のメラトニン受容体作動剤が米国で承認申請

(2013年5月31日発表)

Vanda Pharmaceuticals(Nasdaq:VNDA)はVEC-162(tasimelteon)を全盲患者の非24時間障害の治療薬として米国で承認申請した。武田のロゼレム(ramelteon)と同じメラトニン受容体作動剤で、2004年にBMS-214778をライセンスしたもの。概日リズムのずれを調節する。臨床的奏効率24%とのことだが、奏効の定義が分からないので、臨床的に意味があるのかどうか、私には分からない。

リンク:Vandaのプレスリリース

ノボがトレシーバとビクトーザのプリミックスをEUで承認申請

(2013年5月31日発表)

ノボ ノルディスクは、IDegLira(通称)をEUで承認申請した。持効性インスリンのTresiba(insulin degludec、和名トレシーバ)とGLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)の固定用量合剤で、臨床試験ではベースライン比でHbA1cが1.9%低下、体重は2.5kg低下した。短期作用性インスリンの合剤と異なり、滴定期以外は用量を調節する必要がないので、固定用量合剤でも問題ないだろう。

ところで、GLP-1作用剤やDPP-4阻害剤の膵安全性はDiabetes Care誌が取り上げるなど、波紋が広がっている。需要には影響していないように見えるが、今後の成り行きが注目される。

リンク:ノボのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがPEG化G-CSF等の承認を支持

(2013年5月31日発表)

EUの医薬品審査機関であるEMAの医薬品承認審査委員会、CHMPが5月の会議でセルジーンの多発骨髄腫用薬、Aegerion Pharmaceuticalsのコレステロール治療薬、CSLベーリングの血漿分画製剤、Bavarian Nordicの天然痘ワクチン、テバのPEG化G-CSF、バイオパートナーズ社の成長ホルモン等の承認に肯定的意見をまとめた。2~3ヶ月以内に承認されるだろう。

一方、バイオジェン・アイデックのTysabriは、対象患者拡大申請の一部しか支持されなかった。また、アリーナ社が体重管理薬Belviq(lorcaserin)の承認申請を撤回したことも正式に公表された。

また、サノフィの持効性インスリンLantus(insulin glardine)について、癌のリスクは見られないと結論した。

リンク:EMAのプレスリリース

セルジーンのPomalidomide Celgene(pomalidomide)はthalidomideやRevlimid(lenalidomide)と同じ免疫調停薬で、RevlimidやVelcade(bortezomib)による治療を既に受け、最終治療に反応しなかった難治性多発骨髄腫の三次治療薬としてdexamethasone併用で用いる。催奇性があるので注意が必要。

EMAのリリースで気になるのは製品名がGE薬のようであることだ。米国では2月にPomalyst名で承認されている。EUは既承認薬の光学異性体や代謝物を新薬と認めない傾向があるが、pomalidomideも何か問題があるのだろうか、それとも製品名の決定が遅れているのだろうか?

リンク:EMAのプレスリリース

リンク:セルジーンのプレスリリース

AegerionのLojuxta(lomitapide)はミクロソーム・トリグリセライド転移蛋白阻害剤。肝臓でトリグリセライドやコレステロール・エステルがVLDL-C合成箇所に移送されるのを妨げる。メカニズム的に脂肪肝の懸念があるが、適応となるホモ接合性家族性高脂血症は両親の夫々から引き継いだLDL-C受容体遺伝子が機能せず血清LDL-C値が数百、数千mg/dLと極めて高い。スタチンや透析治療を行っても十分に下がらず心血管疾患リスクが高いので、便益がリスクを上回ると判定された。米国では昨年12月に承認。

デンマークのBavarian Nordic(OMX:BAVA)が承認申請した天然痘弱毒化生ワクチン、Imvanexは、米国政府がプロジェクト・バイオシールドに採用、テロに備える国家戦略備蓄として1600万回分を調達した(Imvamune名)。患者が少なく十分な臨床試験を行っていないため、CHMPは例外的環境条項に基づく承認を推奨した。

リンク:Bavarian Nordicのプレスリリース(pdfファイル)

CSLベーリングのVoncentoは血漿由来の第VIII因子とVW因子。von Willebrand病やA型血友病(先天性第VIII因子欠乏症)の止血や出血予防に用いる。VW病はdesmopressinで治療しても不十分な場合、または禁忌である場合に限定。

テバのLonquex(lipegfilgrastim)はアムジェンのNeulasta(pegfilgrastim)と同様なPEG化G-CSFで、化学療法誘導性熱性白血球減少症の治療・予防に用いる。バイオシミラーとは記されていないので、類薬という扱いなのだろう。米国でもEUに一年遅れて昨年12月に承認申請された。

リンク:EMAの肯定的意見要約(pdfファイル)

スイスのバイオパートナーズ社の成長ホルモン、Somatropin Biopartners(somatropin)も成長ホルモン欠乏症の補充療法として支持された。週一回皮注と、既存の一日一回皮注製剤より患者の負担が小さい。

リンク:バイオパートナーズのプレスリリース

適応拡大で幾つか挙げると、まず、ジェネンテックが開発し米国外ではノバルティスが販売するLucentis(ranibizumab)を病的近視の合併症である脈絡叢血管形成による視力障害の治療に用いることが支持された。

また、ファイザーの肺炎球菌ワクチンPrevnar 13を18歳以上の侵襲性肺炎球菌性感染症の予防に用いることも支持された。既に高齢者と生後6週間から17歳までの子供に用いることは承認されているので、ほぼ全ての人が利用できるようになる。

一方、バイオジェン・アイデックの再発寛解型多発性硬化症用薬Tysabri(natalizumab)は、ベータ・インターフェロン不応だけでなく、新たにCopaxone(glatiramer acetate)不応に使うことが支持されたが、JCウイルス抗体検査で陰性なら高疾病活動ではない患者にも使える、という対象患者拡大は支持されず、申請撤回となった。臨床試験を行って多病巣性白質脳症のリスクが小さいことを確認したのだが、検査結果が時を経て変わる可能性があることや、偽陰性も見られることから、高疾病活動患者だけという限定を解除するには不十分とCHMPは判定した。

アリーナ(Nasdaq:ARNA)の体重管理薬Belviq(lorcaserin)も承認申請撤回となった。CHMPは癌や鬱病などの精神疾患、弁変形症などのリスクを懸念し、便益がリスクを上回らないと判定した。米国では6月にもエーザイが発売する予定だが、この分だと期待できないだろう。そもそも、医薬品は広告規制が厳しいため医療機器やサプリメントのような派手な宣伝ができないから、効果がよほど高くない限り、売るのは困難だ。

最後に、サノフィの持効性インスリン、Lantus(insulin glargine)はドイツの疫学試験で癌の懸念が浮上したため、様々な地域で大規模疫学研究が実施されたが、無垢な結果だったようだ。CHMPは、北欧の17.5万人と米国の14万人を対象とした二つのコフォート・スタディと、乳癌を発症したカナダ、英国、フランスの糖尿病患者775人を発症しなかった患者と比較したケース・コントロール・スタディの結果に基づいて、癌との関連性は見られないと結論した。

三試験の刊行が期待される(ADAかEASD学会に合わせて発表されるのではないか)。この研究は他のインスリンとの比較なので、経口剤と比べてどうなのかは明らかではない。

リンク:EMAのプレスリリース(pdfファイル)

エフィナコナゾールの発売にFDAとAnacor社が「待った」

(2013年5月28日発表)

ヴァレアント・ファーマシューティカルズ(NYSE:VRX)はIDP-108(efinaconazole)を爪真菌症治療薬として米国で承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領した。爪真菌症治療薬としては珍しい外用薬だが、容器施栓器具に係る情報が不十分と判定された模様。efinaconazoleは同社が09年に買収したダウ・ファーマシューティカルズ・サイエンシーズ社が科研製薬から米州での権利をライセンスしたもので、日本でも科研が2012年に承認申請した。

ヴァレアントのプレスリリースには記されていないが、発売の障壁はもう一つある。Anacor Pharmaceuticals社が契約違反を主張して調停を申し立てていることだ。Anacorはtavaboroleという外用爪真菌症治療薬を開発、第三相試験が成功し承認申請に向かう予定だが、2004年にダウ社に抗真菌薬に関する何らかの業務を委託したことがある模様で、差止救済措置と2億ドル以上の違約金を求めている。今年上期に公聴会が開かれる予定だったが9月に延期された。

ヴァレアントは公聴会までefinaconazoleを発売しないと約束しており、FDAが承認しようがしまいが、9月までは発売できないのである。調停の公聴会はしばしばリスケされるので、更に遅れる可能性も残っている。Anacorの狙いは競合品の発売を遅らせることと目されるので、何とかして公聴会を延期しようとするだろう。

さて、efinaconazoleとtavaboroleはどちらが優れているのだろうか?大差ないように見える。前者の第三相試験二本では、完全治癒率が15~17%と、溶媒対照群の3~5%を上回った。後者の第三相試験二本では完全治癒率が6~9%と溶媒対照群の0.5%前後を上回った。前者の方が若干高いが、一部の患者にしか効かないことに変わりはない。真菌はしぶとい。

リンク:ヴァレアントのプレスリリース

リンク:Anacorのプレスリリース

Tecfideraは新規活性成分か?

(2013年5月30日発表)

バイオジェン・アイデックの経口多発性硬化症薬Tecfidera(dimethyl fumarate)は米国で発売後、凄いペースで処方箋を伸ばしているようだが、EUでは知的所有権面の課題があるようだ。同社のSEC提出資料によると、新薬排他権を獲得すべくEMAと話し合いを進めており、発売は今年下期に遅れる見込みになった。

Tecfideraの類薬はドイツでアトピー性皮膚炎などに長年、販売されている。知財対策として新しい製剤を開発し、更に、一日480mgが至適用量という特許を欧米で取得した。だが、EUは既承認薬の光学異性体や代謝物は原則として新薬として認めず新薬排他権(10年)を与えない。判定が下りるのは販売承認時である模様で、最後までリスク要因として残ることになる。

注射薬ではなく再発防止効果の高い薬がジェネリック薬として安価に使えるような事態になれば、患者は喜ぶだろうが、競合品を販売する企業にとって深刻な脅威になるだろう。

リンク:バイオジェンのフォーム8-K(SEC提出開示資料)

【承認】


GSKの二種類の悪性黒色腫用薬が米国で同時承認

(2013年5月29日発表)

FDAがグラクソ・スミスクラインの二種類の経口剤を切除不能/転移性のV600変異型悪性黒色腫に承認した。一つは2011年に承認されたロシュのZelboraf(vemurafenib)と同じbraf阻害剤、Tafinlar(dabrafenib)でZelborafによる治療を受けたことがない、V600E変異型の患者に用いる。もう一つはファースト・イン・クラスのMEK1/2阻害剤、Mekinist(trametinib)で、V600E変異型だけでなくV600K変異型にも使える。

悪性黒色腫は半分がV600変異型で、うちV600E型は85%、V600K型は10%を占める。両剤とも活性薬対照試験でPFSが有意に優れていた。併用の方が効果が高そうだが、第三相試験の結果が出ていないせいか、米国ではモノセラピーしか承認申請されなかった。Mekinistは2006年にJTからライセンスしたもの。

効果が高い一方で副作用も多彩だ。Tafinlarの深刻な有害事象は新たな原発性悪性黒色腫(治験で2%の患者に発生、活性対象薬群は0%)とbraf変異のない黒色腫の成長を促進する懸念(in vitroで阻害すべきMAPキナーゼ・パスウェイがむしろ活性化した)、そして深刻な熱性反応(発生率3.7%、活性対象薬群0%)。胚・胎児毒性も持つ。何れもZelborafと似ており、メカニズムに基づく現象だろう。

Mekinistの深刻な有害事象は心機能低下(治験の発生率7%、活性対象薬群0%)、間質性肺疾患/肺炎(発生率2.4%)などでやはり胚・胎児毒性がある。

報道によると、Tafinlarの問屋取得コストは一ヶ月分が7600ドル、Zelborafより2割安い。一方、Mekinistは8700ドルで、将来は併用が一般的になるだろうから、かなり高くなる。

ところで、Mekinistは5月初めに承認審査期限が9月3日に延期されたばかりだが、何だったのだろう?

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:GSKのプレスリリース

ギリアッドの4薬合剤がEUでも承認

(2013年5月28日発表)

ギリアッド(Nasdaq:GILD)のStribildが昨年の米国、今年3月の日本に続いてEUでも承認された。JTからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤elvitegravirとその半減期を延ばす3A4阻害剤cobicistat、そして核酸系逆転写阻害剤tenofovir DFとemtricitabineを一錠にまとめたもの。インテグラーぜ阻害剤は比較的新しいので耐性ウイルス感染者が少なく、また、他の抗HIV薬と比べて忍容性が比較的良い長所を持つ。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

今週は以上です。

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