2013年4月28日

海外医薬ニュース2013年4月28日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • MSDの抗PD-1ヒト化抗体がブレークスルー・セラピー指定
  • ILC:抗HCV薬の治験データが続々と発表
  • サノフィの多発性硬化症用薬は発症を遅らせる効果もある
  • GSKがumeclidiniumのモノセラピーをEUで承認申請
  • simeprevirがEUでも承認申請
  • MPS IVA治療薬がEUでも承認申請
  • セルジーンがapremilastを米国で承認申請
  • CHMPが5種類の新薬に肯定的評価、JAK阻害剤に否定的評価
  • バイオジェン・アイデックの経口多発性硬化症薬とPML


【今週の話題】


MSDの抗PD-1ヒト化抗体がブレークスルー・セラピー指定

(2013年4月24日発表)

MSDは、MK-3475(lambrolizumab)がFDAから末期黒色腫でブレークスルー・セラピー指定されたと発表した。癌細胞はB7-H1(PD-L1)を発現してTセルの抑制的刺激受容体PD-1を刺激し、活性化したTセルを抑制する。MK-3475は抗PD-1ヒト化抗体で、Tセルを活性化したままにすることによって免疫を強化する。

昨年11月の学会で132人を組入れたフェーズIb試験の中間解析が発表されているが、解析対象85例の51%が客観的抗腫瘍反応を示し、このうち9%(8例)は完全反応だった。末期黒色腫というとBMSの免疫強化療法、Yervoy(ipilimumab)が標準療法だが、MK-3475は前治療でYervoyを用いた患者27人中11人(41%)が反応した。

興味深いのは、抗PD-1抗体で開発が最も進んでいるのはBMSが小野薬品からライセンスしたフルヒト抗体、BMS-936558であることだ。非小細胞性肺癌や腎細胞腫、末期黒色腫で5本の第三相試験が進行中で、順調なら2014年後半から開票になるだろう。固定領域はどちらもIgG4を用いており、前例を見る限りではヒト化抗体もフルヒト抗体も臨床的には大差ないので、同じような薬と考えられる。

同じような薬で片方は第三相の裏付けがありもう片方は第二相のデータしかないとしたら、前者の方が有利だろう。ブレークスルー・セラピー指定を獲得することでMSDの開発プログラムがどれ位スピードアップするか、そして市販後のシェア争いがどうなるか、注目される。

リンク:MSDのプレスリリース

【新薬開発】


ILC:抗HCV薬の治験データが続々と発表

(2013年4月23日発表)

国民医療を向上するために政府に何ができるか?一例が抗HCV薬の開発だろう。米国は逸早くウイルス性肝炎のリスクを発見し、血液製剤の規制を強化すると共に、将来、多くの感染者が肝炎を発症する事態に備えて新薬開発を支援した。1988年にカイロン(後にノバルティスが買収)がC型肝炎ウイルスのゲノムを同定してから20年、ウイルスゲノムに含まれる増殖に必要な酵素を標的とするDAA(直接作用的抗ウイルス剤)が続々と第三相入りした。

4月24~28日にアムステルダムで開催されたILC(国際肝臓学会)でも数多くのDAAの第二相、第三相試験の結果が発表された。NS3/4プロテアーゼ阻害剤は既に二製品が発売されたが、利便性や忍容性、そして恐らくは効果の面でも優れる新薬が続々と第三相試験を完了、承認申請された。NS5Bポリメラーゼ阻害剤でも複数の新薬が効果、忍容性の両面で有望な結果を出している。

画期的新薬ではNS5A複製複合体阻害剤が有望な成績を上げており、開発の進んでいるBMSのコンパウンドは様々な会社が併用第二相試験を行っている。

作用機序の異なる複数のDAAが登場したことによって、標準療法であったインターフェロンやribavirinを用いない多剤併用レジメンの開発も可能になり、期待に応えて、優れた治験成績を上げている。何れも経口剤なので利便性が高い。

最初に、BMSのDAA三剤併用第二相試験のデータを紹介しよう。BMS-790052(daclatasvir、NS5A複製複合体阻害剤)、BMS-650032(asunaprevir、NS3プロテアーゼ阻害剤)、BMS-791325(非核酸系NS5Bポリメラーゼ阻害剤)を遺伝子型一型(GT1)ウイルスに感染している初めて治療を受ける(『ナイーブ』)患者に経口投与したもの。

治療期間は12週間と24週間の二群が設けられたが、どちらも、SVR24(持続的ウイルス学的奏効率:治療終了後24週間経ってもウイルスが検出不能な患者の比率)が94%と高い治療効果を示した。BMS-791325を倍量に増やして行った試験では12週間コースのSVR12(24週間ではなく12週間後にウイルス検出不能だった患者の比率;SVR24より数値が数ポイント高く出るようだ)が89%だった。こちらのほうが数値が低いが、サンプル数が少ないので誤差範囲が大きいのだろう。

有害事象は頭痛、衰弱、下痢などが夫々2割前後の患者で見られた。G3以上の肝機能検査値異常は見られず、深刻な有害事象は腎結石と脳血管収縮が一例ずつ発生したが、前者は治験医が薬との関連性なしと判定、後者はウイルス量が増加したためインターフェロンとribavirinを追加した後に発生したので、薬との関連性は曖昧だ。

BMSは今年後半に第三相試験を開始する予定。

リンク:BMSのプレスリリース

さて、『NS5A複製複合体阻害剤の開発で最も進んでいるのはBMS』と書いたが、正確に言うとアルファ・インターフェロンとribavirinを併用する療法で第三相段階と最も進んでいるのがBMSで、2014~15年に承認申請される見込みだ。一方、NS5A複合体阻害剤などDAA三剤とribavirinの併用レジメンで最も先行しているのがAbbVie(旧アボット)だ。昨年、第三相に進んだ。薬が多い分、効果も高そうだ。

このレジメンは、ABT-450(NS3/4A阻害剤)、低量ritonavir(ABT-450の代謝酵素である3A4を阻害して半減期を長期化する)、ABT-267(NS5A複製複合体阻害剤)、ABT-333(非核酸系ポリメラーゼ阻害剤)、ribavirinの5剤を併用する。低量ritonavirには抗ウイルス活性がないので、以下では4剤併用と記す。ABT-450、ritonavir、ABT-267は一日一回服用なのでコンビ薬が用意される模様だ。

ILCではGT1感染者約450人を14群に割付けた後期第二相試験の結果が発表された。第三相で採用された4剤併用群のデータを見ると、ナイーブ患者のSVR24は8週間コースが88%、12週間コースが96%、24週間コースは90%となった。3剤併用群は12週間コースで83~89%だったので、大きくは変わらない。

一方、インターフェロンとribavirinの二剤併用に十分に反応しなかったヌル・レスポンダーを組入れた二次治療群では、3剤(ABT-333以外)併用12週間投与群が89%、4剤12週間群が93%、同24週間群が95%だった。

有害事象は全群合計のデータしか発表されなかった模様。主な有害事象は頭痛や疲労、深刻な有害事象は4例で、うち関節痛は薬物関連疑い例。有害事象による治験離脱は6例で、うち4例は治療関連と判定された(肝炎性胆汁鬱滞、神経過敏、自殺思慮、クレアチニン・クレアランスの低下)。

私の素朴な疑問は、全ての患者に4剤併用する必要があるのだろうか?3剤でも十分な効果があり、データ上は、4剤を必要とする患者は全体の10%程度である。ribavirin以外の抗HCV薬は高価なので副作用リスクだけでなく費用面のバランスも考えなければならない。第一選択はインターフェロンやribavirinに対する適性を検討した上で3剤併用レジメンを選択し、成功しなかったらウイルスを調べて有効な第二選択レジメンを選択する、HIV/AIDS治療と同様なプロトコルの方が良いのではないだろうか?

リンク:AbbVieのプレスリリース

NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤では、ベーリンガー・インゲルハイムのBI 201335(faldaprevir)の第三相試験結果が発表された。GT1のナイーブ患者をインターフェロンとribavirinの二剤に加えて偽薬、120mg、または240mgを一日一回服用する三群に無作為化割付し、ウイルス学的反応に応じて治療期間を変える手法で試験したところ、SVR12が各群52%、79%、80%となった。尚、この試験は被験者の2割を日本の施設が組入れた。

第二相試験では非抱合ビリルビンの上昇が見られた。第三相でも発生したが肝臓酵素の上昇は見られなかったので一安心だ。先行品にみられる貧血、ラッシュ、胃腸有害事象はリスクが若干高まる程度だった。

米国で2011年に発売されたバーテックス社のIncivek(telaprevir)やMSDのVictrelis(boceprevir)と比べて服用頻度が少ないだけでなく忍容性も優れるように見える。

リンク:ベーリンガー・インゲルハイムのプレスリリース

ギリアッド(Nasdaq:GILD)の核酸系NS5B阻害剤GS-7977(sofosbuvir)は、New England Journal of Medicine誌に第三相試験の論文が掲載された。GT2とGT3のナイーブ患者にはribavirin併用12週間でSVR12が78%。同、二次治療は12週間コースが50%、16週間コースは73%。どちらもGT3に対する奏効率はGT2より低かった。

GT1、4、5、6を組入れたアルファ・インターフェロンとribavirin併用のナイーブ患者12週間コース試験は90%。

作用機序は異なるが、プロテアーゼ阻害剤の代替的選択肢として有効だ。4月にこれらの用途・用法で米国で承認申請された。ギリアッドは自社のプロテアーゼ阻害剤やNS5A複製複合体阻害剤との併用試験も行っている。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

リンク:New England Journal of Medicine(NEJM)の治験論文(Jacobson等、オープンアクセス)

リンク:NEJM治験論文(Lawitz等、オープンアクセス)

サノフィの多発性硬化症用薬は発症を遅らせる効果もある

(2013年4月25日発表)

サノフィのジェンザイム部門は、Aubagio(teriflunomide)の多発性硬化症発症抑制試験が成功したと発表した。

再発寛解型多発性硬化症の診断を確定するには二回目の発作を待たなければならないが、不可逆的な神経障害疾患であることを考えれば、症状やMRI画像を元に早い段階で判定し治療を開始することが望ましい。この効果を実証したのが今回の試験で、経口剤では初のエビデンスとなる。

具体的には、初めての発作を起こして再発寛解型多発性硬化症が疑われる患者を組入れて、偽薬、7mg、14mgを一日一回、平均16ヶ月投与したところ、二回目の発作が起きるなどして診断が確定するリスクが7mg群は偽薬比37%、14mg群は43%、小さかった。

Aubagioは米国で2012年に再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として承認されたが、再発リスク削減効果は他の経口剤と比べてやや見劣りする。おそらく、発症遅延効果も他の薬の方が高いだろう。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

【承認申請】


GSKがumeclidiniumのモノセラピーをEUで承認申請

(2013年4月26日発表)

GSKはテラバンス社と共同開発した長期作用性ムスカリン受容体拮抗剤umeclidiniumと長期作用性ベータ2作用剤vilanterolの合剤を昨年12月に米国で、今年1月にはEUでも、COPD維持療法薬として承認申請したが、今回、前者のモノセラピーもEUで申請した。

ベーリンガー・インゲルハイム/ファイザーのSpiriva(tiotropium)は2012年の売上高が36億ユーロに達するベストセラーに育った。umeclidiniumはSpirivaの競合品。どちらも吸入用薬。

リンク:GSKのプレスリリース

simeprevirがEUでも承認申請

(2013年4月24日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、TMC435(simeprevir)をEUでも承認申請したと発表した。米国で3月に承認申請されたが、EUではGT1だけでなくGT4の慢性C型肝炎も適応とするよう求めた。

TMC435はNS3/NS4Aプロテアーゼ阻害剤。一日一回経口投与で忍容性も先行二品より良さそうだ。最大の特徴は世界に先駆けて日本で今年2月に承認申請されたこと。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

MPS IVA治療薬がEUでも承認申請

(2013年4月24日発表)

米国の希少疾患用薬開発企業、バイオマリン(Nasdaq:BMRN)はEUでVimizim(elosulface alfa、通称GALNS)を承認申請したと発表した。3月に米国でも申請。

適応症であるMPS IVAは、GALNSの機能欠乏が原因でグリコサミノグルカンが蓄積、骨の異形成、低身長、関節異常などを合併する。やがて車椅子が必要になり、また、頻繁に手術が必要になる。罹患率は20-30万人に一人(世界で2500~3000人、うち日米欧1000~1500人)で、世界で400人が診断済み。

リンク:バイオマリンのプレスリリース

セルジーンがapremilastを米国で承認申請

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、CC-10004(apremilast)を予定通り3月に乾癬性関節炎の治療薬として承認申請したことを決算発表時に明らかにした。経口PDE-4阻害剤で、乾癬治療薬としても承認申請される予定。

リンク:セルジーンの決算発表リリース

【承認審査・委員会】


CHMPが5種類の新薬に肯定的評価、JAK阻害剤に否定的評価

(2013年4月26日発表)

EUの薬品承認審査機関であるEMAの医薬品評価委員会、CHMPが、4月の会議で5種類の新薬に肯定的評価を纏めた。一方、ファイザーのJAK阻害剤は否定的評価となり、米国と明暗が分かれた。

リンク:CHMPのプレスリリース

肯定的評価を受けたのは、まず、サノフィのジェンザイム部門のMACI。第三世代の自家軟骨細胞移植療法で、患者の軟骨細胞を培養し、豚コラーゲン膜に移植して、ひざ関節の損傷部位にフィブリンで固定することによって、新軟骨の成長を刺激する。臨床試験では、反応率が87.5%とマイクロフラクチャー群(軟骨に微小な穴を開ける)の68.1%を有意に上回った。3~20平方センチメートルという比較的大きな欠損に用いる。

リンク:CHMPのプレスリリース

次に、ロシュがCuris(Nasdaq:CRIS)からライセンスして開発したヘッジホッグ阻害剤、Erivedge(vismodegib)。局所進行性で切除・放射線療法不適、または、症候性転移性の基底細胞腫に用いる。該当するのは基底細胞腫の1%程度なので、米国の場合で年1万人程度と推測される。第三相試験で薬効と安全性を確認することを条件とする、条件付き承認。

リンク:ロシュのプレスリリース

更に、Avanir(NASDAQ:AVNR)がJenson Pharmaceutical Servicesを通じて承認申請したNuedexta。dextromethorphan hydrobromideとquinidine sulfateの合剤で、抗不整脈薬として用いられている前者の極低量を後者の薬物相互作用を利用してブーストする。

適応症は多発性硬化症や筋萎縮性側索硬化症(ALS)の1割程度で発生する、不適切感情症状(pseudobulbar affect;突然泣いたり笑ったりする)の治療。臨床試験では偽薬群の不適切感情発現が週平均30回から10回程度に減ったのに対して、Nuedexta群は5回程度に減った。

米国ではZenvia名で2010年に承認された。



リンク:CHMPのプレスリリース

リンク:
Avanirのプレスリリース

第4はヴィーヴァス(Nasdaq:VVUS)が田辺三菱製薬からライセンスして開発したDPP-5阻害剤、Spedra(avanafil)。ファイザーのViagraと同様な、性的不全治療薬。

リンク:ヴィーヴァスのプレスリリース

最後に、アステラス製薬がメディベーション(Nasdaq:MDVN)からライセンスしたXtandi(enzalutamide)。転移性去勢抵抗性前立腺癌でdocetaxelによる治療を既に受けた患者に用いる。これまでのアンドロゲン受容体拮抗剤と比べて力価が高く、受容体を刺激するリスクが小さいので、将来は、もっと早い段階でホルモン療法薬として用いられる可能性が高い。

リンク:メディベーションのプレスリリース

ファイザーのJAL阻害剤Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)は日米欧で同時承認申請され、米国で2012年11月に、日本では2013年3月に抗リウマチ薬として承認されたが、CHMPは否定的意見を出した。

薬効のエビデンス面では、構造的損傷の進行抑制作用が曖昧で、特に、二種類の用量のうち低量の5mgを投与した症例や、この薬が用いられるであろう2種類以上のDMARD(疾病修飾的抗リウマチ薬)に十分に反応しなかった症例に対する効果が確立していないと判定した。

副作用の点では、深刻な感染症や、癌、GI穿孔、肝障害などのリスクを懸念した。ファイザーは不服申立てを行う予定。

リンク:ファイザーのプレスリリース(4/25付)

このほかに、適応拡大では、セルジーンのRevlimid(lenalidomide)を5q欠失型の低度・中度1リスクの骨髄異形成症候群で貧血治療のために定期的な輸血が必要な患者に用いることが支持された。既存の適応症は多発骨髄腫。

リンク:セルジーンのプレスリリース

また、ロシュの抗リウマチ薬RoActemra(tocilizumab)を2歳以上の小児の特発性多発性関節炎の治療に用いることが支持された。methotrexateと併用だが、不応・不適患者に単剤投与することもできる。

リンク:ロシュのプレスリリース

【医薬品の安全性】


バイオジェン・アイデックの経口多発性硬化症薬とPML

(2013年4月25日発表)

バイオジェン・アイデックはドイツで20年近い販売歴を持つ経口乾癬治療薬、Fumadermの異なった塩・製剤を再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として開発し、今年3月に米国でTecfidera(dimethyl fumarate)として発売した。経口剤でありながら、ベータ・インターフェロンと比べて再発予防効果が高く、紅潮の発生率が3割と高いものの治験で感染症や癌のリスクが高まらず、安全性も高いと考えられる。

ところが、Fumadermや類似品でPML(進行性多病巣性白質脳症)が4例発生したことが明らかになった。同社がエランからライセンスして共同販売している多発性硬化症用薬Tysabri(natalizumab)で多発して一時は販売中止を余儀なくされた、深刻な疾患だ。

2例は医師がNew England Journal of Medicine誌にケースレポートを投稿したもの。片方はバイオジェン製品、もう片方は調剤薬局の製品(異なった成分を含んでいるようだ)を乾癬の治療に用いたところ、PML症状が発生し、MRIやウイルス検査を経て診断が確定した。Fumadermはリンパ球が大きく減少した場合、投与を中止する必要があるが、二例とも中止しなかった。

PML発症後に投与中止したところ、IRIS(免疫再建炎症症候群)を発症したため、Fumadermによる免疫力低下が関与している可能性が高い。

バイオジェン・アイデックはNEJM誌の要請を受けてこの件について回答し、他にも2例報告されていることを明らかにした。尤も、4例ともPMLのリスク因子を持っていた模様なので、Fumadermが原因かどうかは明らかではない。処方実績は18万人年とのことなので、4例ならリスクはTysabriより低そうだ。また、米国で承認された製剤の臨床試験では一例も発生していないとのこと。

Tecfideraの作用機序は、Nrf2転写パスウェイを活性化し、NFカッパB経由で炎症促進的サイトカインが分泌されるのを抑制することと、抗酸化ストレス作用とされる。多発性硬化症における作用は後者の寄与と考えられているが、3%程度の患者で重度のリンパ球減少症が発生するのは前者の作用だろう。治験で感染症や癌のリスクが見られなかったのはポジティブ・サプライズだったが、確率が低いだけでリスクがない訳ではないのだろう。

リンク:ドイツの症例報告(NEJM、オープンアクセス)

リンク:オランダの症例報告(NEJM、オープンアクセス)

リンク:バイオジェン・アイデックの回答(NEJM、オープンアクセス)

今週は以上です。

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2013年4月21日

海外医薬ニュース2013年4月21日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • バーテックスの第三の嚢胞性線維症治療薬も有望
  • イーライリリーの週一回投与型GLP-1作用剤は効果が高い
  • カッパ・オピオイド受容体拮抗コンビ薬の鬱病POC試験が成功
  • ウサギが作る血管浮腫治療薬を承認申請
  • FDA諮問委員会がアドエア後継薬を支持
  • ISMPもGLP-1作用剤/DPP-4阻害剤は膵毒性のシグナルありと報告


【新薬開発】


バーテックスの第三の嚢胞性線維症治療薬も有望

(2013年4月18日発表)

バーテックス(Nasdaq:VRTX)はVX-661の第二相嚢胞性線維症試験が成功したと発表した。F508欠損型CFTRを両親から引き継いだ(ホモ接合型)患者を対象とした試験で、モノセラピーでは効果不足だが、Kalydeco(ivacaftor)併用群は高用量で呼吸能力が偽薬比有意に改善した。有害事象は偽薬群と大差なかった。

嚢胞性線維症は両親から引き継いだCFTR(cystic fibrosis transmembrane conductance regulator)遺伝子の両方に変異があり、塩や水が細胞を出入りする時に必要なCFTRチャネルが十分に開かなかったり、CFTRが細胞表面に移行できなかったりして、痰などの粘性が高まり肺炎を起こしやすくなる。

同社は1998年に米国の嚢胞性線維症財団と提携し治療法を研究してきたが、その成果が実を結んだのが2012年にG551D変異CFTRを持つ嚢胞性線維症患者向けに承認されたKalydecoだ。CFTRチャネルを開いた状態に保つ、CFTRポテンシエイターと呼ばれている。今年3月には、ホモ接合型F508欠損CFTRを持つ患者向けにVX-809(lumacaftor)の第三相Kalydeco併用試験を開始した。CFTRが細胞表面に移行するのを補助する、CFTRコレクター(矯正剤)と呼ばれている。

VX-661の作用機序はVX-809と同じなので自社競合になるが、同社はもう一つバックアップを臨床入りさせており、希少疾患用薬とは思えないほどの力の入れようだ。何としても患者にベスト・セラピーを届けるという熱意が感じられる。

今回の無作為化割付二重盲検偽薬対照試験は、VX-809の試験と同様に、ホモ接合型F506欠損CFTRを持つ患者128人を二つのグループ(モノセラピーとKalydeco併用)に分けて実施した。VX-661は10、30、100、150mgを一日一回、28日間投与する用法を検討。VX-809の試験ではKalydecoの用量が250mg一日二回と大きいが、VX-661の試験は承認用量と同じ150mg一日二回を採用した。

結果は、併用グループで各用量群の一秒量対予測値(FEV1 % predicted)が偽薬比相対変化で4.1%、5.4%、9.0%、7.5%となり、100mgと150mgの群は統計的に有意だった(p値は各0.01と0.02)。絶対差は各群偽薬比2.3%、3.4%、4.8%、4.5%だった。尚、偽薬群はKalydecoも服用していないので、治療効果は二剤合計のものである。28日の治療期間終了後に更に28日間観察したところ、一秒量対予測値は治験開始時点の数値に近づいた。このことも治療効果の裏付けになりうる。

VX-809の第二相では56週間のKalydeco併用投与で一秒量対予測値が絶対値で8.5%改善した。今回のデータはやや見劣りするが、どちらも群毎の解析対象は数十人であり、また、治験のデザインも異なるので、単純には比較できないだろう。

嚢胞性線維症の患者は世界で7万人。米国は3万人で、うちホモ接合型F506欠損は49%を占める。Kalydecoの承認用途であるG551D変異型は4%なので、開発に成功すれば遥かに多くの患者を治療することが可能になる。VX-809の第三相試験は2014年に開票の見込み。

リンク:バーテックスのプレスリリース

イーライリリーの週一回投与型GLP-1作用剤は効果が高い

(2013年4月16日発表)

イーライリリーはGLP-1作用剤LY2189265(dulaglutide)の第三相試験五本を実施、これまでにByetta(exenatide、和名バイエッタ)やJanuvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)、metformintとの直接比較試験で勝利したが、今回、Lantus(insulin glargine、和名ランタス)対照試験二本でも血糖治療効果が有意に上回ったことが発表された。年内に承認申請される予定だが、販促に有利な材料が揃ったことになる。

LY2189265はDPP-4によって代謝されにくいように改変したGLP-1と免疫グロブリンG4の固定領域をペプチド・リンカーで繋げて、GLP-1の半減期を長期化したもので、150mgを週一回皮注する。BMSの週一回型exenatide、Bydureonのように注射針が太くない。

GLP-1作用剤やJanuviaのようなDPP-4阻害剤は膵炎のリスクを持ち、最近では、膵癌の懸念も浮上している。長期作用性GLP-1作用剤は血糖降下作用が高い分、副作用のリスクも高い可能性があり、この点が承認審査での注目点になる。イーライリリーは膵炎リスクについて前臨床試験で検討すると共に臨床試験でも密接に監視しただろうから、第三相試験のデータが学会やFDA諮問委員会で公表されれば、リスクの多寡が明らかになるだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

カッパ・オピオイド受容体拮抗コンビ薬の鬱病POC試験が成功

(2013年4月17日発表)

アイルランドのAlkermes(Nasdaq:ALKS)は、ALKS 33(samidorphan)とbuprenorphineのコンビ薬であるALKS 5461が第二相鬱病試験で有望な結果を出したと発表した。前者はミュー・オピオイド受容体アンタゴニスト、後者はミュー・オピオイド受容体アゴニスト且つカッパ・オピオイド受容体アンタゴニストで、併用することによってカッパ・オピオイド受容体アンタゴニズムだけを発揮させるアイディアだ。

この第二相試験はSSRIやSNRIに反応しない鬱病患者142人を組入れて二種類の用量を検討したもの。薬効に関する主評価項目であるHAM-D17スコアが偽薬比有意(p=0.026)に改善し、MADRSやCGI-Sでも有意な差が見られた。同社は第三相試験に向けてFDAと相談する考え。

抗鬱剤の第三相試験は承認されている薬でも全てが成功したわけではなく、フェールするリスクが高い。第三相は二本行うのが通常だが、抗鬱剤は三本以上実施して一本がフェールしても承認を得られるようにするのが一般的である。第二相試験が一本成功しただけでは何とも言えないのだが、難しい病気だけに、新しい作用機序を持つ新薬候補の登場は歓迎だ。

Alkermesはドラッグ・デリバリー技術で有名な会社で、ジョンソン・エンド・ジョンソンの非定型向精神薬Risperdal(risperidone)の長期作用性製剤、Risperdal Constaは同社の技術を用いている。大塚製薬の非定型向精神薬Abilify(aripiprazole、和名エビリファイ)の活性成分を用いて独自に開発した長期作用性製剤も第三相段階にあり、年内に開票の予定だ。

リンク:Alkermesのプレスリリース

【承認申請】


ウサギが作る血管浮腫治療薬を承認申請

(2013年4月14日発表)

オランダのファーミング社(Euronext:PHARM)とパートナーである米国のSantarus社(Nasdaq:SNTS)は、Ruconestを遺伝性血管浮腫の急性発作の治療薬としてFDAに承認申請したと発表した。2011年に承認申請した時は症例不足などが理由で受理されなかったが、FDAと事前に相談した上で追加試験を実施したので、今回は受理されそうだ。

Ruconestは遺伝子組換え型ヒトC1エステラーゼ・インヒビターで、特徴的なのは、ファーミング社が持つトランスジェニック技術を用いてウサギの乳腺に分泌させ、ミルクから回収する方法を取っていること。通常の細胞培養より収率が高い有望な技術だが、何といっても画期的なので安全性や不純物の有無を十分に検討する必要がある。

EUでもCHMPが二回、否定的意見を出したが、三度目に肯定的意見に代わり、2010年に承認された。

リンク:両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がアドエア後継薬を支持

(2013年4月17日発表)

グラクソ・スミスクラインはFDAの肺アレルギー用薬諮問委員会がBreoをCOPD維持療法薬として承認することを支持したと発表した。吸入用ステロイドのfluticasone furoateと吸入用長期作用性ベータ2作用剤vilanterolのコンビ薬で、同社が1999年に発売してベストセラーに育てたAdvair(fluticasone propionateとsalmeterol xinafoateの合剤、和名アドエア)の後継薬に当たる。

同社は気道閉塞治療と増悪リスク削減の二つの効能を求めたが、どちらも過半の委員が支持した(賛成9人、反対4人)。吸入用ステロイドを高齢者の病気であるCOPDに用いると肺炎や骨損壊のリスクが高まるが、10人の委員が安全性を支持した。

後継薬として売り込むためにはAdvairと比べた長所をアピールすることが重要になるが、効果の点では大差ないようだ。一日二回ではなく一回の吸入で済むことや、吸入器の使いやすさ・外見の良さだけではAdvairに取り替わることは難しく、証券アナリストはピーク年商が十数億ドルに留まると予想しているようだ。

リンク:GSKのプレスリリース

【医薬品の安全性】


ISMPもGLP-1作用剤/DPP-4阻害剤は膵毒性のシグナルありと報告

(2013年4月18日発表)

米国のInstitute for Safe Medication Practices(ISMP)は、2013年4月18日付のISMP Quarter Watchで、GLP-1作用剤やDPP-4阻害剤の市販後有害事象報告を分析・検討したところ膵炎や膵癌のシグナルが見られたと報告した。

FDA有害事象報告(FAERS)の2011年7月から2012年6月までの一年間のデータを調べたところ、5種類のGLP-1作用剤・DPP-4阻害剤に関連して1723例の深刻な有害事象が報告されており、うち膵炎が831例、 膵癌105例、甲状腺癌32例、過敏反応101例だった。

膵炎リスクをmetforminなどの古い糖尿病薬と比較した修正オドレシオは、Byetta(exenatide)とVictoza(liraglutide)のGLP-1作用剤二剤が28.5倍、DPP-4阻害剤は20.8倍だった。GLP-1作用剤は甲状腺癌のリスクとも関連しており、Victozaは過敏反応のリスクが8倍近く、有意な差があった。

この種の疫学試験は様々な欠点を持っている。医師などが自発的に報告するので主観の入り込む余地が大きく、概していえば、新薬は古くからある薬と比べて報告数が多く、論文などで副作用懸念が報じられると更に増加する。また、治療を受けている患者の背景が異なるかどうか明確ではない。報告内容が不十分なことが多く、膵炎のリスク因子を持っているかどうかも分からないことが多い。ISMPも副作用と断定せずに、シグナルがあると指摘しているだけだ。

とは言え、様々な手法の研究が似たような方向を指し示していることは看過できない。管理医療組織の治療記録の分析や、メーカー各社が行っている長期大規模試験のデータが纏まるのを待望したい。

リンク:ISMP Quarter Watch(2013年4月18日付、pdfファイル)

リンク:Pharmalotの記事

今週は以上です。

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2013年4月14日

海外医薬ニュース 2013年4月14日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 中国がラピアクタを承認?
  • ファイザーのCDK4/6阻害剤などがブレークスルー・セラピー指定
  • ルンドベック/武田の抗鬱剤はagomelatineよりは効果が高い
  • 米国で30年ぶりの悪阻治療薬が承認


【今週の話題】


中国がラピアクタを承認?

(2013年4月5日発表)

H7N9型インフルエンザ感染が散発している中国で、注射用抗インフルエンザ薬peramivir(和名ラピアクタ)が承認されたと報じられている。加速審査が決定されただけという報道もあるので、中国版FDAのホームページで発表分を探したが、中国語なので良く分からない。Google Translateで日本語や英語に訳してみたが、何が何だか分からない。中国語が分かる人はリンクを開いてみてください。

米国で開発しているバイオクリスト社(Nasdaq:BCRX)にとっても寝耳に水であるようだ。ザ・ストリート・ドットコムによれば、バイオクリストは中国で特許を取得しておらず、開発も導出も行っていない(日本では塩野義、韓国はグリーンクロスが販売)。米国では第三相試験の中間解析で無益性(治験を続行しても成功する可能性は殆どない)が認定されるなどして、開発が遅れている。このため、米国から輸出することもできないようだ。

中国は新型インフルエンザウイルス発生の地と見做されていて、世界から熱い視線が寄せられている。今回は、政府が生きた食用鳥類の販売を禁止したり、感染情報を国内外に報告したり、迅速な対応を取っている。そのおかげで、2009年にメキシコで新型インフルエンザの流行が始まった時より早い段階でウイルス・ゲノムが解明されるなど、対策が順調に進んでいる。

それでも、今回の承認?のように、意味不明で事実かどうかも確認できないことが起こる。中国が必要としているなら日本や韓国から輸出することもできるだろうから、中国は事実関係を明確にした方が良い。

リンク:ザ・ストリート・ドットコムのプレスリリース

リンク:中国国家食品薬品監督管理局のプレスリリース(中国語)

ファイザーのCDK4/6阻害剤などがブレークスルー・セラピー指定

(2013年4月10日発表)

ファイザーは、FDAがPD-0332991(palbociclib)を乳癌向けにブレークスルー・セラピー指定したと発表した。CDK4やCDK6を阻害して細胞周期進行を阻害する斬新な経口剤で、ブレークスルーの名に相応しい新薬だ。

2012年12月9日号で書いたように、第二相試験で高い効果を示した。閉経後局所進行性・転移性乳癌でエストロゲン受容体陽性、her2陰性の患者165人を、アロマターゼ阻害剤letrozole(Femara、和名フェマーラ)とPD-0332991(PD-991)を併用する群と、Feramaだけを投与する群に無作為化割付したところ、主評価項目のPFS(無増悪進行期間)がメジアンで各26.1ヶ月と7.5ヶ月となり、ハザードレシオ0.37、pは0.001未満と有望な結果になった。

反応率は各45%と31%で有意に上回ったが、PFSほど大きな差はなかった。主なG3/4(重度/深刻)治療関連有害事象は好中球減少症などの骨髄抑制と疲労。

第二相なのでデータの誤差は大きいと考えるべきだが、症例数の点では決して小さな試験ではない。今年2月に450人を組入れる第二/三相試験が開始された。

リンク:ファイザーのプレスリリース(4月10日)

一方、ジョンソン・エンド・ジョンソンがPharmacyclics(Nasdaq:PCYC)からライセンスして共同開発しているBtk阻害剤、PCI-32765(ibrutinib)は、新たな用途でブレークスルー・セラピー指定された。第17染色体短鎖欠損型の慢性リンパ性白血病と小リンパ球性リンパ腫の二種類で、既に指定を受けているマントルセル・リンパ腫とワルデンシュトレーム型マクログロブリン血症と合わせて、四種類に増えた。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース(4月8日)

【新薬開発】


ルンドベック/武田の抗鬱剤はagomelatineよりは効果が高い

(2013年4月8日発表)

ルンドベックは、武田薬品と共同開発している抗鬱剤、Brintellix(vortioxetine、開発コードLu AA21004)が直接比較試験でセルビエのValdoxan(agomelatine)に勝ったことを発表した。鬱病の第一選択、第二選択であるSSRIやSNRIに十分に反応しない患者を対象とした試験であり、このような患者には選択肢の一つになることを確認した。

Brintellixは昨年9月に欧州で、12月には米国でも承認申請されたが、欧州は実薬対照試験の成績に基づいて薬価を決める国が多いので今回の成功は価値がある。尤も、Valdoxanは効果がそれほど高くなく、第三相試験6本のうち成功したのは3本だけだった。米国では未承認。このため、価値がどの程度かは曖昧だ。

Brintellixは5-HT3阻害、5-HT1A作動、セロトニンやノルエピネフィリン、ドーパミン、アセチルコリンの再取込阻害など様々な作用を持つ画期的新薬で、2007年に第三相入りしたが、米国試験が二本ともフェールしたため再試験が必要になった。当初の試験ではイーライリリーのCymbalta(duloxetine、和名サインバルタ)を投与する群も設定されたので、SNRIとの優劣もある程度分かるだろう(参考群として設定されたので厳密にいえば比較することはできないが)。

一方、Valdoxanは概日リズムを調停するメラトニンの受容体を作動する、武田の睡眠薬Rozerem(ramelteon、和名ロゼレム)に似た薬だ。5-HT2C受容体拮抗作用も持つようだが、親和性があまり高くないとされる。

SSRIは全てがジェネリック化し、Cymbaltaも年内に米国でジェネリックが発売される見込み。今回Valdoxanと比較したのは、安価なSSRI/SNRIと比較してもし効果が同程度だったら困るからだろう。

リンク:ルンドベックのプレスリリース

【承認】


米国で30年ぶりの悪阻治療薬が承認

(2013年4月8日発表)

FDAはDiclegis(doxylamine succinateとpyridoxine hydrochlorideの合剤)を妊婦の悪心嘔吐の治療薬として承認した。悪阻(つわり)薬の承認は30年以上もの間、一つもなかったとのことだ。カナダのDuchesnay社が承認申請したもの。

活性成分のうちdoxylamineは抗ヒスタミンでOTC薬としても販売されている。pyridoxineはビタミンB6でサプリメントとして販売されている。Diclegis自体も画期的新薬ではなく、米国では1956年にメレル・ダウ社が同じ活性成分の合剤をBendectin名で発売したが、催奇性の疑いから数多くの損害賠償訴訟が起こされ、1983年に販売中止となった。

催奇性リスクはサリドマイド世代である筆者にとって他人事ではないが、FDAは当時から否定しており、DiclegisもカテゴリーA(臨床試験で催奇性は示されていない)に分類された。

ACOG(米国産婦人科学会)は、今回の承認の前から、Diclegisを薬物療法の第一選択としている。カナダでは30年以上の市販歴があるとのことなので、おそらく、並行輸入して使っていたのだろう。正式に承認されたことは普及にポジティブだが、ビジネスとしては大きな意義はなさそうだ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:Duchesnayのプレスリリース(pdfファイル)

今週は以上です。

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2013年4月7日

海外医薬ニュース2013年4月7日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • Syk阻害剤の抗リウマチ作用は穏やか
  • バイオマリンが米国でムコ多糖症IV-A型の治療薬を承認申請


【新薬開発】


Syk阻害剤の抗リウマチ作用は穏やか

(2013年4月5日発表)

アストラゼネカは米国のライジェル・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:RIGL)からR788(fostamatinib disodium)を導入して中重度リウマチ性関節炎の第三相試験を行っているが、一本目のトップライン・データが発表された。症候改善作用は予想された通り穏やかで、構造的損傷防止作用は予想された通り確認されなかった。市場の期待はもっと高かったのか、ライジェル社の株価は暴落した。

R788は、マストセルやマクロファージ、BセルなどのIgG受容体の細胞内シグナル伝達に係るサイトプラスマのsyk(spleen tyrosine kinase)を阻害する経口薬で、IL-6やMMP-3を減少させる。今回の第三相試験は中重度リウマチ性関節炎でmethotrexateに十分に反応しない患者923人を対象に、偽薬、100mgを一日二回、または150mgを一日一回(最初の4週間は100mg一日二回)、24週間に亘って追加投与する効果を比較した。

結果は、ACR20奏効率が各群34%、49%、44%となり、R788二群は何れも偽薬比有意に優れていた。尤も、上乗せは10~15%なので決して大きくはない。昨年米国で承認されたファイザーのJAK阻害剤Xeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)の25~37%と比べて見劣りする。

一方、構造的損傷の進行に係る放射線学的評価項目であるmTSSでは有意な群間差が見られなかった。もっと効果の高い薬でも半年では差が付かないので、已むを得ないだろう。

主な有害事象は高血圧、下痢、悪心など。過去の試験では数%の患者で大きな血圧上昇が見られ、平均昇圧は4~5mm Hgだった。

既存の疾病装飾的抗リウマチ薬はXeljanzにせよTNF阻害剤にせよ、強力に免疫抑制するため日和見感染のリスクが高まる。R788はそれほどでもない模様なので、これが差別化要素になる。それにしても効果は穏やかであり、承認されても出番は少なそうだ。

リンク:ライジェルのプレスリリース

【承認申請】


バイオマリンが米国でムコ多糖症IV-A型の治療薬を承認申請

(2013年4月1日発表)

希少疾患用薬の開発に特化した米国の新興医薬品企業、バイオマリン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:BMRN)が、Vimizim (elosulfase alfa、開発コードBMN-110)をムコ多糖症IV-A型(別名モルキオA症候群)の治療薬としてFDAに承認申請した。EUでも4月中に承認申請する予定。

ムコ多糖症IV-A型は、ライソゾーム酵素の先天的欠乏が原因でグリコサミノグリカンが蓄積、骨の異形成、低身長、間接異常などを発症する。罹患率は20~30万人に1人、患者数は日米欧で1000~1500人、世界では2500~3000人と推定されている。

Vimizimは欠乏している酵素を補充する。効果は限定的で、176人を組入れて偽薬、2mg/kgを二週間に一回点滴、同週一回点滴の三群を比較した第三相試験では24週時点の6分歩行テスト改善が各14m、15m、37mとなり週一回点滴群のみが有意な治療効果を示した。3分階段上昇テストや努力肺活量では差がなかった。

主な有害事象は嘔吐、悪心、発熱、頭痛など。深刻な薬物関連有害事象の発生率は各群0%、1.7%、3.4%だった。

リンク:バイオマリンのプレスリリース

今週は以上です。

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