2012年12月23日

海外医薬品ニュース週末版 2012年12月23日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • Belinostatは今度こそ治験成功
  • メディビア・JNJの抗HCV薬の第三相試験が続々と成功
  • 非小細胞性肺癌治療用ワクチンの第三相試験がフェール
  • 経口ファブリー病治療薬の第三相試験がフェール
  • ノボが三種類の開発品に関してアップデート
  • 塩野義/GSKのインテグラーゼ阻害剤が承認申請
  • GSK/テラバンスがCOPD治療用FDCを米国で承認申請
  • Hemispherxの慢性疲労症候群治療薬はFDA諮問委員会に支持されず
  • 短腸症候群の治療薬が米国でも承認
  • GSKの四価インフルエンザワクチンも米国で承認
  • 水痘帯状疱疹ウイルスの治療薬が米国で承認
  • ナイアシン配合剤の心血管アウトカム試験が再びフェール
  • FDAがテラビックの皮膚毒性に注意喚起
  • ADAが二型糖尿病の血圧管理目標を緩和

【新薬開発】


Belinostatは今度こそ治験成功

(2012年12月21日発表)

HDAC阻害剤PXD101(belinostat)は、ライセンサーであるデンマークのTopotarget社(Nasdaq OMX: TOPO)が承認申請用試験の成功を発表した直後にライセンシーのスペクトラム・ファーマシューティカルズ(NasdaqGS: SPPI)が未了であることを発表するというチグハグな動きがあったが(2012年9月30日号参照)、遂に、スペクトラムも治験成功を発表した。データは未公表。来年央に承認申請される見込み。

この治験は、再発性難治性の末梢T細胞リンパ腫患者129人を組入れた単群試験で、21日サイクルで1000mg/m2を一日一回、5日間連続で30分点滴静注し、治験医以外の第三者が反応を評価した。FDAの特別プロトコル評価(SPA)を受けており、反応率が20%以上なら成功と判定される。

HDAC阻害剤は遺伝子の複製を阻害することによって細胞増殖を阻害し、アポトーシスを誘導する。血管新生阻害、分化誘導、抗癌剤に対する感受性の回復などの作用も持つようだ。米国では2006年にMSDのZolinza(vorinostat)が皮膚Tセルリンパ腫に、2009年にはGloucester社のIstodax(romidepsin)が末梢T細胞リンパ腫に、それぞれ承認されている。

リンク:スペクトラムのプレスリリース

メディビア・JNJの抗HCV薬の第三相試験が続々と成功

(2012年12月20日発表)

C型肝炎ウイルス(HCV)のゲノムに含まれる、ウイルスの組立に必要なプロテアーゼを阻害する薬は、バーテックスやMSDの二剤が発売された後も開発が活発だ。第三弾になりそうなのがスエーデンのメディビア(OMX: MVIR)がジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発しているTMC435(simeprevir)だ。数多くの第三相試験がロンチされたが、まず三本の試験の成功が発表された。

何れもI型ウイルス感染者を組み入れてPEG化インターフェロン・アルファ及びribavirinと三剤併用し、治療効果を二剤併用療法と比較したもの。初めて治療を受けるナイーブ患者を組入れた二本はSVR12(持続的ウイルス学的奏功率:治療完了後12週間経った段階でもHCVが検出されない患者の比率)が一本は81%、もう一本も80%となり、二剤併用(どちらも50%)を有意に上回った。二剤併用療法が一時的に奏功したもののその後に再燃した患者を組み入れた二次治療試験でも79%対37%と有意に上回った。

忍容性面ではビリルビンの穏やかな上昇が見られたが、可逆的で、大きな問題はなかったようだ。

I型HCVの治療は既に三剤併用が主流になっており、二剤併用に勝っても自慢にはならないが、今後、四剤併用やインターフェロン抜き、ribavirin抜きの併用療法の開発が進むにつれて、どのプロテアーゼ阻害剤と組み合わせるのが最適であるかが問題になるだろう。TMC435は力価が高いためコンビ薬の開発に適し、一日一回投与が可能で、今のところ深刻な副作用は表面化していないので、有力な候補になりうる。発売は2014年と先行品に3年ほど遅れを取りそうだが、まだビジネス・チャンスは残っているだろう。

リンク:メディビアのプレスリリース

非小細胞性肺癌治療用ワクチンの第三相試験がフェール

(2012年12月19日発表)

ドイツのメルクは、非小細胞性肺癌の治療用ワクチン、L-BLP25の第三相試験がフェールしたと発表した。米国のOncothyren(Nasdaq: ONTY、旧社名Biomira)からライセンスした、MUC1のアミノ酸配列をリポソームに入れて抗原としMPLをアジュバントとして使うワクチンで、第三相では一次治療に部分的にしか反応しなかった、あるいは安定化しただけの患者を組入れて、延命効果を偽薬と比較したが、効果がなかった。

中国韓国などの施設で同様なデザインの第三相試験が進行中だが、成功は期待薄となった。日本では小野薬品と共同開発している。

リンク:メルクのプレスリリース

経口ファブリー病治療薬の第三相試験がフェール

(2012年12月19日発表)

グラクソ・スミスクラインとアミカス・セラピュティクス(Nasdaq: FOLD)は、migalastatの第三相ファブリー病治療試験がフェールしたと発表した。ファーマシューティカル・シャペロンという新しい作用機序を持ち、もし成功なら様々な遺伝子疾患の治療に夢が広がるので簡単には諦められないだろう。当面は、もう一本の第三相試験の結果を待つことになりそうだ。

ファブリー病は、細胞のライソゾームに存在するアルファ-ガラクトシダーゼAという酵素の遺伝子異常により、GL-3(グロボトリアオシルセラミド)が分解されず蓄積して様々な臓器に障害が発生する。この酵素を医薬品化したジェンザイム(サノフィの子会社)のFabrazyme(agalsidase beta、和名ファブラザイム)が有効だが、二週間に一回、点滴静注投与しなければならないことが難点だ。

アミカスの社長は、2010年に公開された映画、『小さな命が呼ぶとき』の主役のモデルとなったジョン・クラウリーだ。ポンペ病の娘を助けるためにBMSを辞めて新薬の開発に奔走、酵素補充療法のMyozyme(alglucosidase alfa、和名マイオザイム)を実用化した。アミカスはファーマシューティカルズ・シャペロンの開発に特化している。蛋白質の折畳み異常を是正し、ライソゾームへの移行を促し、そこで離れるという、結婚式で花嫁を新婦のところまでエスコートする父親のような薬だ。

酵素補充療法と異なり、経口投与できることが長所。但し、全ての患者に効く訳ではない模様で、miglastatの場合はファブリー病の5-7割がこの薬に適した遺伝子変異を持っているとのことだ。

残念ながら、同社の開発品は挫折が続いている。今回の第三相試験も、主評価項目の奏功率(6ヶ月の治療で腎臓間質性毛細血管におけるGL-3の蓄積量が半分以下になった患者の比率)が41%となり、偽薬群の28%を上回ったもののpは0.3に留まった。副次的評価項目のGL-3減少率(メジアン値)も41%対6%、p=0.093だった。効果はありそうだが、立証されたとは言えない。

この二つのデータから推測すると、何もしなくてもGL-3が減少する、それほど重くない患者が多く含まれていたために偽薬群の奏功率が高く出てしまったのかもしれない。他に有効な薬が存在する病気の偽薬対照試験でしばしば見られる現象だ。もう一本の試験では酵素補充療法と直接比較しているので、医師も比較的抵抗なく、重い患者を組入れることができるだろう。その点では実力を発揮しやすいはずだが、一方で、実薬対照試験はハードルが高い。この試験の結果は2014年に判明する見込み。

リンク:GSK・アミカスのプレスリリース

リンク:難病情報センター:ファブリー病の解説(和文)

ノボが三種類の開発品に関してアップデート

(2012年12月19日発表)

ノボ ノルディスクが三種類の開発品に関して開発状況をアップデートした。まず、管理放出性インスリン(insulin degludec)とGLP-1作用剤(liraglutide)の固定容量配合剤(FDC)であるIDegLiraは、前期第三相試験で良好な成績を上げた。Insulin degludec(和名トレシーバ)は未だ日本でしか承認されていないため、他の地域での承認を待って、FDCの承認申請を行う予定。

次に、insulin aspart(NovoRapid/NovoLog)の様々な新製剤をテストした第一相試験で速効性や安定性に優れるものが見つかったため、2013年末に3000人規模の第三相試験を開始することが発表された。インスリンはバイオシミラーの開発が比較的容易だろうから、次世代品の開発は重要な課題だ。

一方、NN8555(抗NKG2D抗体)のクローン病プルーフ・オブ・コンセプト試験は中間解析で無益性が認定され、開発中止となった。

リンク:ノボのプレスリリース(pdfファイル)

【承認申請】


塩野義/GSKのインテグラーゼ阻害剤が承認申請

(2012年12月17日発表)

ViiVヘルスケア(GSK、ファイザー、塩野義製薬の抗HIV薬合弁会社)はS/GSK1349572(dolutegravir)をEU、米国、カナダでHIV感染症治療薬として承認申請した。2007年に米国で承認されたMSDのIsentress(raltegravir、和名アイセントレス)、今年8月に米国で承認されたギリアッドの四剤配合剤Stribildの活性成分のひとつであるelvitegravirに次ぐ第3のインテグラーゼ阻害剤だ。創製したのは塩野義製薬。

2013年に承認されたとしてIsentressから6年遅れとなり、また、それまでにelvitegravir単剤も承認されるだろうから、競争環境は厳しい。

Dolutegravirはelvitegravirと異なり試験管試験でIsentress抵抗性ウイルスの多くが感受した。薬自体は優れているので、配合剤を開発して利便性を高めることが重要課題だ。Stribildに配合されている優れた核酸系逆転写阻害剤tenofovirの特許は米国でも5年後に失効するはずなので、lamivudineではなくtenofovir配合薬の投入も視野に入れるべきだろう。

リンク:ViiVヘルスケアのプレスリリース

GSK/テラバンスがCOPD治療用FDCを米国で承認申請

(2012年12月18日発表)

グラクソ・スミスクラインとテラバンス(Nasdaq: THRX)は、新開発の長期作用性ムスカリン拮抗剤umeclidinium bromideと長期作用性ベータ2作用剤vilanterolを新開発のEllipta吸入器に充填して用いるCOPD治療薬を米国で承認申請した。一日一回、吸入する。商標名はAnoroとなるようだ。欧州でも間もなく承認申請される見込み。

リンク:GSK/テラバンスのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Hemispherxの慢性疲労症候群治療薬はFDA諮問委員会に支持されず

(2012年12月21日発表)

Hemispherx Biopharma(NYSE MKT: HEB)は2007年にrintatolimodを重度慢性疲労症候群の治療薬としてFDAに承認申請したが、受理されなかった。二度目の申請は受理されたが審査完了となった。2012年に追加データを提出し、やっと諮問委員会にたどり着いたが、ここでも過半の委員が支持しなかった。FDAは来年2月2日までに審査を完了する予定だが、再び追加試験を求められる可能性が高いだろう。

Rintatolimodはジョンズ・ホプキンズ大学からライセンスした二重連鎖RNA薬で、難病である慢性疲労症候群の治療薬として第三相試験が実施されたが、有意な治療効果は示されなかった。FDAが有害事象症例を精査する過程でデータの信頼性に関する疑問も浮上した模様だ。効果がない訳ではなさそうだが、一部の患者にしか効かない可能性があり、それがどのような患者なのかは明らかではない。慢性疲労症候群自体も発病原因には諸説あり、XMRVウイルスの関与が指摘されたこともあるが、その後の追試では確認されなかった。

諮問委員会の意見は分かれ、治療効果については14人中9人が十分に確立されたとは言えないと判定したが、4人は肯定、一人は退場した由だ。安全性についても9対4で否定的な評価が上回ったが肯定意見もあり、承認に値するか(正確には、便益がリスクを上回るか)という最終質問についても、8人が否定的、5人が肯定的だった。このようなケースではFDA自身の判断が重みを増す。過去の経緯から推測すると、承認されない可能性が高いだろう。

リンク:Hemispherxのプレスリリース

【承認】


短腸症候群の治療薬が米国でも承認

(2012年12月21日発表)

NPSファーマシューティカルズ(Nasdaq: NPSP)のGattex(teduglutide)が短腸症候群の治療薬としてFDAに承認された。この病気の治療薬はドイツのメルクのZorbtive(成長ホルモン)などに次ぐ三剤目。2013年第1四半期に発売される予定。

Gattexは小腸内膜の成長を促すGLP-2というホルモンの遺伝子組換え型アナログで、一日一回皮下注射する。短腸症候群は腸の切除術を受けた患者などの合併症で栄養物を吸収できず、点滴投与が必要になるが、Gattexを投与すれば量を減らすことができる。一方で、腫瘍やポリープの成長を促す可能性があり、胃腸閉塞や膵臓障害の懸念もあるため、治療前に内視鏡でポリープを全て切除するなどの措置や各種検査が必要だ。

米国の患者数は1~1.5万人と推測されており、同社はピーク年商3.5億ドルを期待している。EUでも今年9月に承認、権利を持つ武田薬品が販売する。

リンク:NPSのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

GSKの四価インフルエンザワクチンも米国で承認

(2012年12月17日発表)

グラクソ・スミスクラインはFluarix四価インフルエンザワクチンが米国で承認されたと発表した。

インフルエンザワクチンは春先に冬に流行しそうな株を予想し、A型インフルエンザ・ウイルスから二株、B型から一株を選んで培養・混合する。予測は難しく、そもそも、同じ年でも国や地域、時期によって変わることが多い。似たウイルスならある程度の効果が期待できるが、全く異なると期待できない。中でもB型はビクトリア株と山形株の両方が流行するパターンが続いている。このため、四価ワクチンの開発が進められており、米国では今年2月のアストラゼネカのFlumist(点鼻用生ワクチン)に続いて今回、Fluarixが承認された。

インフルエンザワクチンのもう一つの世界的大手であるサノフィも開発中。日本でも実用化されれば、折角ワクチンを打ったのに感染したという苦情が減るだろう。教科書的に言えば、インフルエンザワクチンは重大な合併症のリスクを削減するためのものであり感染を防ぐために打つわけではなく、また、リスクが減ると言ってもゼロになる訳ではない。苦情を言われても困るのだが、それはそれとして、年間に何千万人が接種するのだから効果や安全性の検証を怠るべきではなく、少しでも良い製品を開発する努力をしなければならない。

リンク:GSKのプレスリリース

水痘帯状疱疹ウイルスの治療薬が米国で承認

(2012年12月21日発表)

FDAはカナダのCangene社のVarizigを水痘帯状疱疹ウイルス感染症の治療薬として承認した。米国の場合、多くの国民が、子供の頃に感染したりワクチンによって免疫を持っているが、抗体を持たない人が感染すると重度感染症を発症し死に到るケースもある。抗ウイルス治療が無効であったり不適例もある。

Varizigは抗体を多く持つ健常者から採取した血漿分画製剤で、曝露から4日以内に投与すれば症状を緩和することができる。同様な薬が2006年に回収されたため、唯一の製品となる。

リンク:FDAのプレスリリース

【大規模試験】


ナイアシン配合剤の心血管アウトカム試験が再びフェール

(2012年12月20日発表)

ナイアシンはHDL-CやLDL-Cの治療薬として広く用いられているが、難点は、火照りなどの副作用が出やすいことだ。MSD(米国のメルク)はこの副作用を緩和するDP1阻害剤laropiprantを開発、徐放性ナイアシンと共に配合したTredaptiveを2007年に欧米で承認申請、欧州では承認された。火照りが不快で服用を止める患者が減れば、LDL-C減少・HDL-C増加というナイアシンの便益を長期間享受でき、その結果、心筋梗塞などの冠動脈疾患のリスクを削減できる---はずだった。

しかし、オックスフォード大学を中心に英国や中国などで実施された心血管アウトカム試験、HPS-2 THRIVEはフェールした。MSDの発表によると心血管疾患リスクを削減することはできず、致命的ではないが重篤な有害事象が増加した。Tredaptiveは約70ヶ国で承認され約40ヶ国で販売されているが、MSDは新たに治療を開始しないよう警告した。これを受けて、EUも1月に再審査を行うことを発表した。

Tredaptiveは米国では承認されず、MSDはHPS2試験の結果が出るのを待っていたが、申請断念となった。2012年1~9月の売上高は1300万ドルと期待外れに留まっているが、効果や安全性も期待外れなら仕方がない。試験結果は3月のACC(米国心臓学会)で発表されると予想されるが、内容次第では、アボットのナイアシン製剤Niaspanの需要にも影響が出るだろう。AIM-HIGH試験に次ぐ、二度目のフェールなのでナイアシンの効果に疑問を持たせるには十分以上だ。

尤も、フェールの原因としては様々なものが考えられる。FDAが承認を見送った時の私の想像は、simvastatinとの相互作用による副作用の増加、アスピリンとの相互作用による抗血小板作用の減少、ナイアシンやlaropiprantの副作用だった。順番に検討しよう。

HPS-2THRIVEは、MSDが開発したsimvastatinやezetimibeを服用している患者に更にTredaptiveを投与する効果を比較するデザインなので、simvastatinとTredaptiveの相互作用が治験成績に影響する。実際、1万人以上を組入れた中国では、Tredaptive群のマイオパシー発生率は1.1%で偽薬群の6倍だった(今年のESCで発表された中間解析のデータ)。

マイオパシーはスタチンの典型的な副作用であり、simvastatinは薬物相互作用が比較的大きいので、単なる相加作用ではなく相乗作用が起きたとしても不思議はない。ナイアシンとlaropiprantのどちらがリスクをブーストしたのかは判然としないが、他のスタチンなら違った結果になったかもしれない。

DP1拮抗剤がアスピリンの抗血小板作用を妨げるという疑いは以前からある。MSDの試験では特に問題がなかった模様だが、HPS-2試験がフェールしたことで疑惑が再燃するだろう。

ナイアシンは肝腎毒性を持ち、laropiprantの著高用量併用試験ではリスクが増加した。投与を続けるうちにリスクが高まり、服用中止する患者が増えて、効果の群間差が希薄化されたことも考えられる。

CETP阻害剤やフィブレートの心血管アウトカム試験がフェールした後だけにHDL-C治療薬の効用に疑問を呈する意見が増加しそうだが、ナイアシンはLDL-C削減効果も持つのだから、早計だろう。但し、HDL-C値が正常な患者も組入れてHDL-C治療薬の試験を行うことには私も疑問を持つ。大型薬の特許切れを迎えている薬品業界が次の大型薬を熱望するのは無理もないが、階段は一歩ずつ上がるのが正しい行動で、HDL-C治療薬ならHDL-C値が低い患者を最初のターゲットにするのが王道だろう。

リンク:MSDのプレスリリース

リンク:EMA(EUの薬品審査機関)のプレスリリース

リンク:2012年ESCで発表された中間安全性解析のスライド(PowerPointファイル)

【医薬品の安全性】


FDAがテラビックの皮膚毒性に注意喚起

(2012年12月19日発表)

FDAは、ヴァーテックス(Nasdaq: VRTX)の抗HCV薬Incivek(telaprevir、和名テラビック)の深刻な皮膚有害反応に関する安全性警告を発出した。2011年5月の発売から2012年6月までの13ヶ月間に、DRESS症候群が92例、SJS症候群が20例の発生が報告されたため。TEN(中毒性皮膚壊死融解症)も日本で二例報告され、うち一例は致死的だった。皮膚毒性は既知の副作用だが、症状が悪化した後も投与を続けて死に到った症例もあるようなので、ヒューマン・エラーの側面もありそうだ。

FDAは、深刻な皮膚反応が起きたら、三剤併用療法の全ての薬剤を中止し、即座に治療を行うよう勧告した。もし他に同様なリスクを持つ薬を服用している場合はそれも中止する。日本は臨床試験でも重篤な皮膚毒性が発生しており、人種的な問題があるのかもしれない。

マスメディアには特効薬という言葉が飛び交うが、薬と毒薬は紙一重であり、また、誰かにとっては特効薬でも他の人には悪魔の薬かもしれない。正しく理解し正しく使うことが重要であり、そのためには、特効薬などという一面的な形容は排除すべきである。

リンク:FDAのプレスリリース

ADAが二型糖尿病の血圧管理目標を緩和

ADA(米国糖尿病学会)は毎年、糖尿病診断治療ガイドラインを見直しDiabetes Care誌に刊行しているが、2013年1月改定では、二型糖尿病の収縮期血圧管理目標を従来の130 mm Hg未満から140 mm Hg未満に緩和するらしい。一部で報道されている。これまでは観察的試験に基づいていたが、ACCORD試験など複数の無作為化割付試験の結果を踏まえて、緩和に踏み切った。130 mm Hg未満を目標に治療しても、脳卒中が若干減るだけで死亡・心筋梗塞リスクは減らず、低血圧性副作用が増加するからだ。

高血圧の治療でもJカーブ効果を懸念する意見があり、二型糖尿病の血糖治療目標もlower is betterではないことが判明した。世の中には意外な出来事が多く、だからこそ、アウトカム試験を行うことが重要だ。日本人や中国人は白人より脳卒中のリスクが高く、従って、ADAのガイドラインを鵜呑みにせず日本独自のアウトカム試験で答えを出す必要があるだろう。

今週は以上です。

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