2012年11月25日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月25日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • プレガバリン徐放製剤の第三相試験が今度は成功
  • 米国で細胞培養型季節性インフルエンザ・ワクチンが初承認
  • C型慢性肝炎治療の手助けにレボレードを使うことが米国で承認
  • EUがEliquisを心原性脳卒中の予防に適応拡大
  • EUがイグザレルトを静脈血栓塞栓治療に適応拡大
  • BASFがPronovaと買収で合意
  • ランバキシーがLipitorのGE品をリコール
  • 欧州の治療ガイドライン:淋病の治療は抗生剤の併用が必要
  • サウジアラビアの新コロナウイルス感染症は6例に増加



【新薬開発】


プレガバリン徐放製剤の第三相試験が今度は成功

(2012年11月19日発表)

ファイザーはpregabalin(JAN:プレガバリン)徐放製剤の第三相試験結果を発表した。一本目の部分癲癇試験は偽薬比有意な治療効果が見られなかったが、線維筋痛試験は成功、『臨床的反応喪失までの期間(time to loss of therapeutic response)』が偽薬比有意に優れていた。

この試験は精神科でいう継続療法の有効性を検討したもの。6週間の治療で症状が改善し治験を離脱しなかった患者(全患者の28%)を継続投与する群と偽薬にスイッチする群に無作為化割付し、二重盲検で症状悪化・治験離脱リスクを13週間に亘って比較した。継続投与群は54%しか悪化・離脱せず、偽薬群の71%を下回った。メジアン悪化・離脱期間は58日対22日だった。通算すると、19週間に亘って治療が奏功する確率は13%ということになる。

ファイザーは坑癲癇薬gabapentin(JAN:ガバペンチン)をヘルペス感染後神経痛など様々な用途に開発、やがて癲癇以外の用途が需要の大半を占めるようになった。Lyrica(pregabalin)はその後継薬で、当初は一日の服用回数を減らせると考えられていたが、実際はgapapentinと大差なく、線維筋痛の場合二回服用しなければならない。今回の新製剤は一日一回なので簡便だ。

米国の線維筋痛患者は約500万人と多く、競合薬は癲癇より少ない。このため、もし癲癇向けが承認されず線維筋痛だけでもある程度の市場はある。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【承認】


米国で細胞培養型季節性インフルエンザ・ワクチンが初承認

(2012年11月20日発表)

ノバルティスはFDAが細胞培養型ワクチン、Flucelvaxを18歳以上の季節性インフルエンザ予防に承認したと発表した。EUでは2007年に承認されているが米国で細胞培養型ワクチンが季節性インフルエンザに承認されたのは初めて。米国保健社会福祉省(HHS)の助成を受けてノース・カロライナ州で建設している工場で生産する予定。

通常のインフルエンザ・ワクチンは卵でウイルスの株を培養するが、数ヶ月掛かり効率が悪い。北半球では初秋に出荷を開始するが、生産に時間が掛かるので冬に流行しそうな株を春に予測しなければならず、自ずから、的中率が下がる。新型高病原性インフルエンザが流行した場合はワクチンを速やかに供給する必要があるので余計都合が悪い。新型ウイルスはヒトより先にトリで流行すると考えられているので、培養用の鶏卵の調達にも支障が生じるかもしれない。

このため、リードタイムが短い細胞培養型のワクチンを季節性インフルエンザ向けに実用化して、広範な人口における安全性を検証しておくことは重要だ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

C型慢性肝炎治療の手助けにレボレードを使うことが米国で承認

(2012年月日発表)

グラクソ・スミスクラインは、経口トロンボポエチン受容体作動薬Promacta(eltrombopag olamine、和名レボレード)をC型慢性肝炎治療の補助薬として用いることが米国で承認されたと発表した。

C型肝炎は血小板減少症を合併することがあり、一定水準以下の場合は標準療法が禁忌になる。副作用で更に減少するリスクがあるからだ。2008年に突発性血小板減少症(ITP)治療薬として承認されたPromactaを投与して血小板数を増やしておけば、C型肝炎の治療が可能になる。治療中に同時使用することも可能だ。

Promactaは肝臓で生産される巨核球のトロンボポエチン受容体を作動し、血小板への分化を促進する。血小板数が増えすぎてしまうことがあるので血小板数をモニターして用量を匙加減する。肝機能検査値異常等のリスクがある。

更に、薬物代謝酵素やOATP1B1トランスポーターに係る薬物相互作用リスクに注意が必要。日本人を含む東アジア人種は暴露が大きくなりがちなので低量で開始する(ITPの治療時は米国は一日50mgで開始、最大75mgだが日本は12.5mgで開始、最大50mg)。しかし、FDAのレーベルによると、C型肝炎の治療に用いる時は減量不要とのことだ。

リンク:GSKのプレスリリース

EUがEliquisの適応拡大を承認

(2012年11月20日発表)

BMSとファイザーは、EUがXa阻害剤Eliquis(apixaban)を非弁膜性心房細動で高リスクの患者の脳卒中予防に用いることを承認したと発表した。EUでは2011年に整形術後の静脈血栓塞栓予防用途で既に承認されているが、今回の適応は患者数が多く、長期服用し、治療の便益が大きいため、市場性がはるかに大きい。臨床試験でワーファリンより脳卒中、大出血事故、全死亡例が少なかったことが販売の追い風になりそうだ。

Eliquisは米国では未承認。整形術後静脈血栓塞栓予防は米国で実施された第三相試験がフェールした。脳卒中予防はFDAが心血管アウトカム試験の実施方法の厳格性に疑問を持っていることなどが理由と推測されるが、前例を見ると、承認審査に時間が掛かっても最後は承認されている。Eliquisの場合、第二巡の審査に入ったので、来年3月17日の審査期限に承認される可能性は十分ありそうだ。

リンク:BMS/ファイザーのプレスリリース

EUがイグザレルトを静脈血栓塞栓治療に適応拡大

(2012年11月20日発表)

バイエルはEUがXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を深静脈血栓・肺塞栓の治療と再発予防に用いることを承認したと発表した。

EUにおけるXareltoの適応症と用法は、整形術後の静脈血栓塞栓予防(10mg一日一回、2~5週間)、非弁膜性心房細動で高リスク患者の脳卒中予防(20mg(日本は15mg)、但し腎機能低下は15mg(同10mg)、一日一回、投与期間制限無し)、そして今回の、急性深静脈血栓症治療・再発予防(最初の三週間は15mgを一日二回、その後は20mgを一日一回、治験では12ヶ月投与)と三種類に増えた。

リンク:バイエルのプレスリリース

【製薬会社の動き】


BASFがPronovaと買収で合意

(2012年11月21日発表)

ドイツの化学会社BASFは、ノルウェーの製薬会社Pronova BioPharmaと買収で合意した。一株当り12.5ノルウェークローネ、企業価値総額では48億4500万ノルウェークローネ(約700億円)で買収する。2013年1月に完了する計画。

Pronovaはノルウェーの石油会社ノルスクヒドロからスピンアウト、高純度オメガ3脂肪酸製剤を開発し、高トリグリセライド血症治療薬として欧州ではソルベイ、米国ではGSKが販売している。日本でも今年9月に武田薬品がロトリガ粒状カプセル名で高脂血症向けに承認を取得した。

BASFは医薬品事業から撤退したと思っていたが、APIと同じと考えているのかもしれない。

リンク:BASFのプレスリリース

ランバキシーがLipitorのGE品をリコール

(2012年11月23日発表)

第一三共系のインドのGE薬メーカー、ランバキシーは米国でatorvastatin(ファイザーのLipitorのGE品)をリコールした。1mm未満の小さなガラス粒子の混入が見つかったとのことだ。

米国では医薬品の信頼性を揺るがすような異物混入事件や製造基準(cGMP)違反事件が続発している。ランバキシーはFDAがcGMP違反を理由に輸入禁止処分を断行し、昨年12月に是正措置で和解したばかりである。cGMP違反も、今回のリコールも、予防的措置であり患者にとって深刻な懸念ではないとのことだが、十分な対策を採らないとトラブルが次第に深刻化していくことが分かる。

同社はファイザーとの特許裁判で和解に達し、米国、欧州などで他社に先駆けてLipitorのGE品を発売、大きな利益を得た。一方で、同社やヘパリンの異物混入事件などが契機となって、医薬品や原体の安全性や中国、インドの工場の監視状況に関する米国政府・議会の問題意識が高まっている。

リンク:ランバキシーの発表(米国法人のウェブサイトのトップページ)

【病気と治療法に関するニュース】


欧州の治療ガイドライン:淋病の治療は抗生剤の併用が必要

(2012年11月15日発表)

IUSTI(国際性感染症学会)は淋病の治療に関する2012年版ガイドラインを発表した。成人の非複雑性淋菌感染症で、抗菌剤感受性が明らかでない場合は、ceftriaxone(500mg)とazithromycin(2g)の併用が推奨されている。

WHOの推定によると2008年には1億例を超える成人が淋病感染症を発症、うち欧州は340万人を占めた。これは、性感染症の中ではクラミジアに次ぐ多さだ。これまでは広域セフェム系のcefiximeまたはceftriaxoneによる一次治療が推奨されてきたが、前者は耐性菌が増加し、後者も三種類のXDR(強薬物耐性)株が初めて発見されたため、今回のガイドライン改訂に至った。

リンク:Eurosurveillanceの記事

リンク:IUSTIの淋病治療2012年版ガイドライン(pdfファイル)

サウジアラビアの新コロナウイルス感染症は6例に増加

(2012年11月23日発表)

WHOは、サウジアラビアで発生した新型コロナウイルスの感染者が6人に増加したことを明らかにした。診断が確定していない2例も含めれば8人となる。今のところ流行とは呼べないが、WHOは全ての加盟国に監視を呼びかけている。

この新型ウイルスは2002年に中国などで流行したSARSと類似した症状を起こす模様で、重症急性呼吸器症候群や腎不全を合併する。最初に発見された症例は49歳の男性カタール人で、サウジから帰国後の9月3日に発症、ドーハでICUに入った。11日に英国へ移送され、ウイルスがサウジアラビアの死亡例と99.5%一致することが確認された。

その後、更に4人の感染が確認され、累計6例となった。うちサウジアラビアが4例(死亡2例)、カタールが2例。サウジの4例中2例は同居家族で、この家族からは別の2人も発症、一人が死亡したが、まだ診断は確定していない。

WHOは、情報が限られている現状では二ヶ国以外にもウイルスが広がっていると保守的に考え、狐発的な肺炎例でも検査を検討するよう呼び掛けている。あらゆるクラスターでの重症急性呼吸器感染症、医療従事者における重症急性呼吸器感染症を徹底的に調査すべきとしている。

リンク:WHOの発表

今週は以上です。

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