2012年11月25日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月25日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • プレガバリン徐放製剤の第三相試験が今度は成功
  • 米国で細胞培養型季節性インフルエンザ・ワクチンが初承認
  • C型慢性肝炎治療の手助けにレボレードを使うことが米国で承認
  • EUがEliquisを心原性脳卒中の予防に適応拡大
  • EUがイグザレルトを静脈血栓塞栓治療に適応拡大
  • BASFがPronovaと買収で合意
  • ランバキシーがLipitorのGE品をリコール
  • 欧州の治療ガイドライン:淋病の治療は抗生剤の併用が必要
  • サウジアラビアの新コロナウイルス感染症は6例に増加



【新薬開発】


プレガバリン徐放製剤の第三相試験が今度は成功

(2012年11月19日発表)

ファイザーはpregabalin(JAN:プレガバリン)徐放製剤の第三相試験結果を発表した。一本目の部分癲癇試験は偽薬比有意な治療効果が見られなかったが、線維筋痛試験は成功、『臨床的反応喪失までの期間(time to loss of therapeutic response)』が偽薬比有意に優れていた。

この試験は精神科でいう継続療法の有効性を検討したもの。6週間の治療で症状が改善し治験を離脱しなかった患者(全患者の28%)を継続投与する群と偽薬にスイッチする群に無作為化割付し、二重盲検で症状悪化・治験離脱リスクを13週間に亘って比較した。継続投与群は54%しか悪化・離脱せず、偽薬群の71%を下回った。メジアン悪化・離脱期間は58日対22日だった。通算すると、19週間に亘って治療が奏功する確率は13%ということになる。

ファイザーは坑癲癇薬gabapentin(JAN:ガバペンチン)をヘルペス感染後神経痛など様々な用途に開発、やがて癲癇以外の用途が需要の大半を占めるようになった。Lyrica(pregabalin)はその後継薬で、当初は一日の服用回数を減らせると考えられていたが、実際はgapapentinと大差なく、線維筋痛の場合二回服用しなければならない。今回の新製剤は一日一回なので簡便だ。

米国の線維筋痛患者は約500万人と多く、競合薬は癲癇より少ない。このため、もし癲癇向けが承認されず線維筋痛だけでもある程度の市場はある。

リンク:ファイザーのプレスリリース

【承認】


米国で細胞培養型季節性インフルエンザ・ワクチンが初承認

(2012年11月20日発表)

ノバルティスはFDAが細胞培養型ワクチン、Flucelvaxを18歳以上の季節性インフルエンザ予防に承認したと発表した。EUでは2007年に承認されているが米国で細胞培養型ワクチンが季節性インフルエンザに承認されたのは初めて。米国保健社会福祉省(HHS)の助成を受けてノース・カロライナ州で建設している工場で生産する予定。

通常のインフルエンザ・ワクチンは卵でウイルスの株を培養するが、数ヶ月掛かり効率が悪い。北半球では初秋に出荷を開始するが、生産に時間が掛かるので冬に流行しそうな株を春に予測しなければならず、自ずから、的中率が下がる。新型高病原性インフルエンザが流行した場合はワクチンを速やかに供給する必要があるので余計都合が悪い。新型ウイルスはヒトより先にトリで流行すると考えられているので、培養用の鶏卵の調達にも支障が生じるかもしれない。

このため、リードタイムが短い細胞培養型のワクチンを季節性インフルエンザ向けに実用化して、広範な人口における安全性を検証しておくことは重要だ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

C型慢性肝炎治療の手助けにレボレードを使うことが米国で承認

(2012年月日発表)

グラクソ・スミスクラインは、経口トロンボポエチン受容体作動薬Promacta(eltrombopag olamine、和名レボレード)をC型慢性肝炎治療の補助薬として用いることが米国で承認されたと発表した。

C型肝炎は血小板減少症を合併することがあり、一定水準以下の場合は標準療法が禁忌になる。副作用で更に減少するリスクがあるからだ。2008年に突発性血小板減少症(ITP)治療薬として承認されたPromactaを投与して血小板数を増やしておけば、C型肝炎の治療が可能になる。治療中に同時使用することも可能だ。

Promactaは肝臓で生産される巨核球のトロンボポエチン受容体を作動し、血小板への分化を促進する。血小板数が増えすぎてしまうことがあるので血小板数をモニターして用量を匙加減する。肝機能検査値異常等のリスクがある。

更に、薬物代謝酵素やOATP1B1トランスポーターに係る薬物相互作用リスクに注意が必要。日本人を含む東アジア人種は暴露が大きくなりがちなので低量で開始する(ITPの治療時は米国は一日50mgで開始、最大75mgだが日本は12.5mgで開始、最大50mg)。しかし、FDAのレーベルによると、C型肝炎の治療に用いる時は減量不要とのことだ。

リンク:GSKのプレスリリース

EUがEliquisの適応拡大を承認

(2012年11月20日発表)

BMSとファイザーは、EUがXa阻害剤Eliquis(apixaban)を非弁膜性心房細動で高リスクの患者の脳卒中予防に用いることを承認したと発表した。EUでは2011年に整形術後の静脈血栓塞栓予防用途で既に承認されているが、今回の適応は患者数が多く、長期服用し、治療の便益が大きいため、市場性がはるかに大きい。臨床試験でワーファリンより脳卒中、大出血事故、全死亡例が少なかったことが販売の追い風になりそうだ。

Eliquisは米国では未承認。整形術後静脈血栓塞栓予防は米国で実施された第三相試験がフェールした。脳卒中予防はFDAが心血管アウトカム試験の実施方法の厳格性に疑問を持っていることなどが理由と推測されるが、前例を見ると、承認審査に時間が掛かっても最後は承認されている。Eliquisの場合、第二巡の審査に入ったので、来年3月17日の審査期限に承認される可能性は十分ありそうだ。

リンク:BMS/ファイザーのプレスリリース

EUがイグザレルトを静脈血栓塞栓治療に適応拡大

(2012年11月20日発表)

バイエルはEUがXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を深静脈血栓・肺塞栓の治療と再発予防に用いることを承認したと発表した。

EUにおけるXareltoの適応症と用法は、整形術後の静脈血栓塞栓予防(10mg一日一回、2~5週間)、非弁膜性心房細動で高リスク患者の脳卒中予防(20mg(日本は15mg)、但し腎機能低下は15mg(同10mg)、一日一回、投与期間制限無し)、そして今回の、急性深静脈血栓症治療・再発予防(最初の三週間は15mgを一日二回、その後は20mgを一日一回、治験では12ヶ月投与)と三種類に増えた。

リンク:バイエルのプレスリリース

【製薬会社の動き】


BASFがPronovaと買収で合意

(2012年11月21日発表)

ドイツの化学会社BASFは、ノルウェーの製薬会社Pronova BioPharmaと買収で合意した。一株当り12.5ノルウェークローネ、企業価値総額では48億4500万ノルウェークローネ(約700億円)で買収する。2013年1月に完了する計画。

Pronovaはノルウェーの石油会社ノルスクヒドロからスピンアウト、高純度オメガ3脂肪酸製剤を開発し、高トリグリセライド血症治療薬として欧州ではソルベイ、米国ではGSKが販売している。日本でも今年9月に武田薬品がロトリガ粒状カプセル名で高脂血症向けに承認を取得した。

BASFは医薬品事業から撤退したと思っていたが、APIと同じと考えているのかもしれない。

リンク:BASFのプレスリリース

ランバキシーがLipitorのGE品をリコール

(2012年11月23日発表)

第一三共系のインドのGE薬メーカー、ランバキシーは米国でatorvastatin(ファイザーのLipitorのGE品)をリコールした。1mm未満の小さなガラス粒子の混入が見つかったとのことだ。

米国では医薬品の信頼性を揺るがすような異物混入事件や製造基準(cGMP)違反事件が続発している。ランバキシーはFDAがcGMP違反を理由に輸入禁止処分を断行し、昨年12月に是正措置で和解したばかりである。cGMP違反も、今回のリコールも、予防的措置であり患者にとって深刻な懸念ではないとのことだが、十分な対策を採らないとトラブルが次第に深刻化していくことが分かる。

同社はファイザーとの特許裁判で和解に達し、米国、欧州などで他社に先駆けてLipitorのGE品を発売、大きな利益を得た。一方で、同社やヘパリンの異物混入事件などが契機となって、医薬品や原体の安全性や中国、インドの工場の監視状況に関する米国政府・議会の問題意識が高まっている。

リンク:ランバキシーの発表(米国法人のウェブサイトのトップページ)

【病気と治療法に関するニュース】


欧州の治療ガイドライン:淋病の治療は抗生剤の併用が必要

(2012年11月15日発表)

IUSTI(国際性感染症学会)は淋病の治療に関する2012年版ガイドラインを発表した。成人の非複雑性淋菌感染症で、抗菌剤感受性が明らかでない場合は、ceftriaxone(500mg)とazithromycin(2g)の併用が推奨されている。

WHOの推定によると2008年には1億例を超える成人が淋病感染症を発症、うち欧州は340万人を占めた。これは、性感染症の中ではクラミジアに次ぐ多さだ。これまでは広域セフェム系のcefiximeまたはceftriaxoneによる一次治療が推奨されてきたが、前者は耐性菌が増加し、後者も三種類のXDR(強薬物耐性)株が初めて発見されたため、今回のガイドライン改訂に至った。

リンク:Eurosurveillanceの記事

リンク:IUSTIの淋病治療2012年版ガイドライン(pdfファイル)

サウジアラビアの新コロナウイルス感染症は6例に増加

(2012年11月23日発表)

WHOは、サウジアラビアで発生した新型コロナウイルスの感染者が6人に増加したことを明らかにした。診断が確定していない2例も含めれば8人となる。今のところ流行とは呼べないが、WHOは全ての加盟国に監視を呼びかけている。

この新型ウイルスは2002年に中国などで流行したSARSと類似した症状を起こす模様で、重症急性呼吸器症候群や腎不全を合併する。最初に発見された症例は49歳の男性カタール人で、サウジから帰国後の9月3日に発症、ドーハでICUに入った。11日に英国へ移送され、ウイルスがサウジアラビアの死亡例と99.5%一致することが確認された。

その後、更に4人の感染が確認され、累計6例となった。うちサウジアラビアが4例(死亡2例)、カタールが2例。サウジの4例中2例は同居家族で、この家族からは別の2人も発症、一人が死亡したが、まだ診断は確定していない。

WHOは、情報が限られている現状では二ヶ国以外にもウイルスが広がっていると保守的に考え、狐発的な肺炎例でも検査を検討するよう呼び掛けている。あらゆるクラスターでの重症急性呼吸器感染症、医療従事者における重症急性呼吸器感染症を徹底的に調査すべきとしている。

リンク:WHOの発表

今週は以上です。

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2012年11月18日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月18日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • AASLD:アボット、ギリアッド、BMSの抗HCV薬併用試験
  • アバスチンの神経膠芽腫一次治療RCT試験は未だ延命効果を示せず
  • FDA諮問委員会がHeplisavに厳しい評価
  • CHMPがサノフィ等の新薬に肯定的評価
  • Forxiga(dapagliflozin)がEUで承認
  • バイエルがイグザレルトの冠動脈疾患・末梢動脈疾患試験を開始へ
  • EUがカルシトニンのリスクを再確認



【新薬開発】


AASLD:アボット、ギリアッド、BMSの抗HCV薬併用試験

(2012年11月11-13日発表)

AASLD(米国肝臓疾患学会)でC型肝炎のDAA(直接作用的抗ウイルス薬)併用試験の結果が数多く発表された。幾つかは既に第三相試験が始まっているが、アボットも第三相試験の着手を正式に発表した。ABT-450(プロテアーゼ阻害剤)とABT-267(NS5A阻害剤)、ritonavirの三剤合剤と、ABT-333(ポリメラーゼ阻害剤)、ribavirinの総計5剤を12週間または24週間、経口投与するもので、1型ウイルス感染者の一次治療試験、二次治療試験などが行われる。2013年から2014年にかけて結果が判明しそうだ。

第二相試験ではSVR12が一次治療で97.5%(79人中77人)、一次治療不応患者(ヌルレスポンダー)の二次治療試験で93.3%(45人中42人)だった。インターフェロンを使わずに、経口剤だけで、全12週間のコースでこれだけの成果が上がったのは驚きだ。一方で、前回書いたように、一次治療なら5剤も併用しなくてもある程度の成果が上がるのではないか、という印象を受ける(後述)。

尚、SVRは持続的ウイルス学的奏功率の略で、通常は24週間経過後に計測するが、12週経過後のSVR12で代用する動きが広がった模様で、アボット、BMSなどの第三相試験はSVR12を主評価項目にしている。

リンク:アボットのプレスリリース(第三相試験の概要)

BMSも様々な第二相併用試験を行っていて、AASLDでは新薬三剤の併用試験、一次治療不応患者に対する新薬二剤併用試験、同じく新薬二剤とインターフェロン、ribavirinの四剤併用試験のデータが発表された。同社はNS5A複製複合体阻害剤の開発で他社に先行しており、昨年、BMS-790052(dacltatasvir)が第三相入りした。

同社で次に開発が進んでいるのはNS3プロテアーゼ阻害剤BMS-650032(asunaprevir)で、日本でこの二剤だけを投与する第三相試験が始まった。二剤で足りるのか疑問を感じるが、着眼点は、まず、日本はインターフェロンやribavirinの不耐が少なくないこと。検査の普及が遅れたせいか高齢で治療を開始する患者が多いことが一因と言われている。

第二は遺伝子型Ib型感染者が多いこと。Ia型より反応が良く、今回AASLDで発表された海外の第二相試験でも、Ib型は二剤併用で38人中27人がSVR12を達成した。一方、Ia型はブレークスルー(ウイルス量の急増)が多く、二剤併用の開発は中止された。海外でも今年、第三相入りしたが、基本はこの二剤とインターフェロン、ribavirinの四剤併用で、二剤併用はインターフェロン、ribavirin不耐患者だけだ。

この二剤とNS5Bポリメラーゼ阻害剤のDAA三剤を投与する試験の結果も発表された。I型の一次治療12週間コースでSVR12が94%というもので、症例数が少ないとは言え中々良い。第三相入りは2014年の見込みとのことなので、まだ先だ。

リンク:BMSのプレスリリース(二次治療四剤併用)

リンク:BMSのプレスリリース(Ib型二次治療二剤併用)

リンク:BMSのプレスリリース(一次治療DAA三剤併用)

先週号で書いたようにギリアッド(Nasdaq: GILD)も第三相試験をロンチした。NS5B阻害剤GS-7977(sofosbuvir)とNS5A阻害剤GS-5885の合剤と、この合剤とribavirinの三剤併用の、各12週間コースと24週間コースを比較する。ギリアッドの合剤は一日一回服用なので簡便だ。I型一次治療の第二相試験では12週間コースで25人全員がSVR4を達成した。尤も、症例数が少なく治療完了後の追跡期間が短いので過大評価はできない。

ribavirinは多くの国でGE薬が発売されたが、インターフェロンは依然として高価で、DAAも高価だろう。DAAの併用となると尚更である。もしギリアッドの三剤併用レジメンの効果がアボットの5剤併用と大差ないならば、おそらく副作用は前者のほうが小さいだろうから、前者の方が好まれるだろう。一つ一つの薬の値段が大差ないとしたら尚更である。

C型肝炎の治療ではウイルス量を定期的に検査して治療成果を確認し、不十分なら治療期間を延ばしたり薬をスイッチしたりするresponse-guided-therapyが一般的になっている。作用機序が異なる複数の薬が実用化されれば、三剤で開始して不十分ならもう一剤追加するようなことも可能になるだろう。これらのことから、私としてはギリアッドの三剤併用レジメンを応援したい。但し、ギリアッドのほうが第二相試験の症例数が少ないように感じられるので、開発リスクはギリアッドのほうが高そうだ。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

アバスチンの神経膠芽腫一次治療RCT試験は未だ延命効果を示せず

(2012年11月17日発表)

ロシュはAVAglio試験の全生存中間解析が有意水準に到達しなかったと発表した。神経腫瘍学会で発表された由だ。この試験はAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の第三相試験で、神経膠芽腫の一次治療として、RCT(放射線療法とtemozolomideによる化学療法)に追加する効果を検討したもの。主評価項目のうち、治験医評価に基づくPFS(無増悪生存期間)はハザードレシオ0.64、p<0.0001と成功したが、今回公表された全生存期間の中間解析は各0.89、p=0.21となり、未達だった。

中間解析の検出力がどの程度なのか分からないが、ハザードレシオ0.89というのは案外だ。二次的評価項目である1年生存率も72%と偽薬群の66%を若干上回る程度で、p=0.052に留まった。2013年に予想される最終解析がフェールする可能性がありそうだ。同様な試験がもう一本進行しているが、もし同じ結果だとしたら、既に承認されている二次治療薬としての効能にも疑念が生じそうだ。

AvastinはVEGFに結合する抗体で、VEGFが血管新生を促すのを妨げる。血管新生が沈静化すると血管や癌細胞からの水分浸出が減少するため、造影剤の浸出・拡散が減少し、MRI画像上、癌が小さくなったように見えてしまう恐れがある。このため、MRI画像に基づく増悪・進行の評価だけでなく、寿命が延びることを確認する必要がある。乳癌では腫瘍がAvastin抵抗性を取得して治療前より早く成長するようになる疑いが浮上しており、血管新生阻害剤は延命効果を確認することが重要だ。

リンク:ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がHeplisavに厳しい評価

(2012年11月15日発表)

ダイナバックス(Dynavax)社はB型肝炎予防用ワクチンHeplisavを4月に承認申請したが、諮問委員会の評価は厳しかった。B型肝炎のワクチンは既に存在するので、安全性に少しでも懸念があるなら追加試験を実施して確認せよ、という考え方のようだ。承認されないリスクが高まったことから、同社の株価は半減した。

HeplisavはTLR9を作動する強力なアジュバントを用いており、既存のワクチンの3回より少ない2回接種で十分な抗体を誘導できる。小児用は既に混合ワクチンが普及しているため、ダイナバックスは18歳から70歳の人口をターゲットとして承認申請した。効果の点では治験で既存のワクチン並みであったため、諮問委員14人中13人が支持したが、安全性は支持5人、反対8人、棄権1人と否定的な委員が多数を占めた。ギラン・バレー症候群とウェゲナー肉芽腫が各一例、発生したことがネックになった模様だ。

HeplisavはMSD(米国メルク)が2007年にライセンスしたが、翌年、権利返還した。ダイナバックスは用途をアジアに旅行する人や医療従事者、軍事関係者などに絞り込むことを検討したことがあるが、結局、広範な人口に承認申請した。

リンク:ダイナバックスのプレスリリース

CHMPがサノフィ等の新薬に肯定的評価

(2012年11月16日発表)

CHMPは11月15日に以下の評価を決定した。肯定的評価を受けたものについては2~3ヶ月以内に承認されることになるだろう。

リンク:CHMPのプレスリリース

新薬の肯定的評価_____________

Lyxumia(lixisenatide)

サノフィがZealand Pharmaからライセンスした二型糖尿病用薬。exendin誘導体で、ByettaやBydureonと同様に、GLP-1受容体を作動してインスリンの分泌を刺激し、グルカゴンの分泌を抑制し、胃から腸への食物の移行を遅らせ、食欲を抑制する。投与頻度は一日一回。GLP-1作用剤はBydureonのような週一回投与型が実用化されているので、今の製剤では競争力が低い。

主な有害事象は悪心、嘔吐、SU剤やインスリン併用時の低血糖症などで、他のGLP-1作用剤と同様。CHMPのリリースによると、潜在的なリスクとしては、甲状腺髄様癌、膵炎、悪性新生物、一時的な心拍数増加があり、動物試験では催奇性があった。

リンク:Zealandのプレスリリース(サノフィのプレスリリースはpdfファイルなのでこちらを選択)

Zaltrap(aflibercept)

サノフィがリジェネロン(Nasdaq: REGN)からライセンスした抗VEGF抗体。大腸癌の二次治療薬としてirinotecanなどを用いるFOLFIRIレジメンと併用する。米国では8月に承認されたが、価格が高いため値下げを余儀なくされたようだ(11月11日号参照)。

リンク:リジェネロンのプレスリリース

Bexsero(B群髄膜炎菌ワクチン)

ノバルティスが買収したカイロン社の開発品。侵襲性髄膜炎菌性疾患を予防するワクチンはA群、C群、W135に有効なものが存在するが、B群は初めて。種類が多すぎてこれまではカバレッジの十分なワクチンを作れなかったようだ。欧州はワクチンの普及で発生数が減少したが、B群はむしろ増加している模様であり、年3000-5000人が発症して1割弱が死亡、1-2割が永続的な障害を被るとのこと。

Bexseroが売れるかどうかは、EU加盟国の政府がこの被害者数を多いと考えるか、少ないと考えるか次第で、接種が勧奨されれば年商20億ドルも可能だろう。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:EMAのプレスリリース

適応拡大肯定的評価_____

Zytiga(abiraterone)

ジョンソン・エンド・ジョンソンのテストステロン合成阻害剤。前立腺癌の化学療法二次治療薬として承認されているが、一次治療に用いることが支持された。転移性去勢抵抗性でアンドロゲン枯渇療法がフェールした、症状がない又は軽い、化学療法の適応にならない患者が対象。

Intelence(etravirine)

ジョンソン・エンド・ジョンソンの非核酸系逆転写阻害剤。小児(6歳以上)患者の二次治療に用いることが支持された。

Prevenar 13(侵襲性肺炎球菌性疾患予防用ワクチン)

ファイザーのベストセラー・ワクチンの適応年齢が6週児から17歳までと50歳以上に拡大することが支持された。

Exjade(deferasirox)

ノバルティスの経口キレート剤。輸血に依存していない(比較的軽症の)地中海貧血症の患者の鉄過剰症を治療する適応拡大が支持された。同社の点滴用Desferal(deferoxamine)が禁忌または不十分な10歳以上の患者が適応になる。Exjadeは毎日長時間点滴しなくて良い経口剤であることが長所だが、今回の適応範囲を見ても、deferoxamineの完全な代替品ではないようだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

否定的評価_____________

Istodax(romidepsin)

セルジーン(Nasdaq: CELG)がGloucester Pharmaceuticalsを買収して入手したHDAC阻害剤で、元々は旧藤沢薬品が発酵天然物からスクリーニングしたもの。米国では再発性皮膚Tセルリンパ腫と再発性末梢Tセルリンパ腫の二つの適応症で承認されているが、EUは後者だけ承認申請され、7月に否定的評価を受けた。セルジーンは再審請求したが、結論は変わらなかった。延命効果が不明なことやcGMP(生産基準)違反が解消されていないことが理由。

EUも米国も迅速承認制度を設けているが、一部の疾患では評価が食い違うことがあり、予測可能性に難がある。

【承認】


Forxiga(dapagliflozin)がEUで承認

(2012年11月14日発表)

BMSがアストラゼネカと共同開発しているSGLT2阻害剤、Forxigaが二型糖尿病治療薬として承認された。他の二型糖尿病新薬と同様に、metforminが不適な患者だけが対象。一日一回、経口投与する。インスリン服用患者に追加することも可能。

血液中のグルコースは腎臓で一旦濾過された後、SGLTによって尿から血液に戻される。Forxigaは専ら腎臓に分布するSGLT2を選択的に阻害して、SGLT1阻害に伴う胃腸副作用を回避しながら、糖の排泄を促す。腎臓では一日に180gのグルコースが濾過されるが、Forxigaを服用するとこのうち35-68gが排泄され、これは160カロリー、20分間の中程度エクササイズに相当する。このため、穏やかな体重抑制作用を持つ。

泌尿器の糖が栄養となって泌尿器・性器感染症を発症するリスクがある。治験で乳癌や膀胱癌が増加したため、疫学研究を行う。

リンク:BMSのプレスリリース

【大規模試験】


バイエルがイグザレルトの冠動脈疾患・末梢動脈疾患試験を開始へ

(2012年11月13日発表)

バイエルはXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)のアウトカム試験、COMPASSを開始すると発表した。数々の心血管アウトカム試験を手掛けたPopulation Health Research Instituteと共に、約2万人の冠動脈疾患、末梢動脈疾患の患者を組入れて、Xarelto単剤やアスピリン併用の効果をアスピリンと比較する。

この用途ではPlavix(clopidogrel)のモノセラピーが承認されているが、もしXarelto・アスピリン併用が成功すれば快挙である。Xa阻害剤は出血リスクが問題だが、この試験では、Xarelto単剤群は5mgを一日二回、併用群は2.5mg一日二回と用量を加減している。尤も、2.5mg一日二回は亜急性期冠状疾患試験と同じなので、出血事故が増加するリスクが無い訳ではないだろう。尚、アスピリンは一日100mgなので、治験参加者は欧州やアジア中心になるのではないか。

リンク:バイエルのプレスリリース

【医薬品の安全性】


EUがカルシトニンのリスクを再確認

(2012年11月16日発表)

EMAはカルシトニン含有薬の便益とリスクを再検討し、長期使用すると癌のリスクが若干増加するため、骨粗鬆症の治療に用いるべきではないと7月に結論した。再審査請求があった模様だが、結論は変わらなかった。パジェット病の治療などに短期的に用いることだけが認められる。経口剤ではリスクが0.7%増加するのに対して、骨粗鬆症治療に用いられる点鼻用製剤は2.4%と高かった。

リンク:EMAのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年11月11日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月11日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • AASLD:インターフェロン無しでもC型肝炎を治療できる!(アボット、ベーリンガー、ギリアッド)
  • AHA:serelaxinは急性心不全の呼吸困難を改善
  • AHA:アムジェンの抗PCSK9抗体の第二相試験データ
  • アブラキサンは転移性膵癌にも有効
  • ムコ多糖症IV-A治療薬が第三相試験で歩行能力を改善
  • MSDの睡眠薬が承認申請
  • FDAの諮問委員会がノバルティスとノボの新薬を支持
  • ファイザーの経口抗リウマチ薬が承認
  • VotubiaがEUでも承認
  • サノフィが大腸癌用薬の価格を半値に引き下げ
  • 胎盤幹細胞療法の死亡報道



【新薬開発】



AASLD:インターフェロン無しでもC型肝炎を治療できる!

(2012年11月10日発表)

AASLD(米国肝臓疾患学会)で、経口剤だけを使った慢性C型肝炎の治験結果が続々と発表される。複数の会社の開発品が第三相試験入りする見込みであり、順調なら2014年にも実用化されそうだ。

まず、アボットの後期第二相試験中間解析。I型ウイルス感染者約450人を組入れて、3~4種類のメカニズムの異なる薬を様々に組み合わせて8週間または12週間治療したところ、投与完了後12週間経った時点の持続的ウイルス学的奏功率が初回治療患者で85~89%、ヌル・レスポンダー(初回治療に反応しなかった二次治療患者)でも89~93%と極めて高い成果を上げた。Ib型は96~100%、Ia型でも79%~96%。数値が一番よいのは4剤併用12週間だが、3剤併用でも、あるいは4剤併用8週間コースでも、それほど見劣りしない。

試験薬はribavirin以外は未承認で、ABT-450(プロテアーゼ阻害剤。ritonavirでブーストする)、ABT-267(NS5A阻害剤)、ABT-333(ポリメラーゼ阻害剤)。ribavirin以外の三剤を併用した群も87%と中々良かったので、ribavirin不耐患者には有力な治療オプションになりそうだ。尚、C型肝炎やHIV/AIDSなどの領域では、開発品同士の併用試験を行うことが認められている。

アボットは第三相試験に進む考え。どの治療プロトコルを選ぶか悩ましいが、三剤8週コースを想定して開始し、反応が不十分ならもう一剤追加するなり12週間に延長するなりするResponse-Guided Treatmentが好ましいだろう。不必要な多剤併用は忍容性を悪化させ医療経済的にも不適切だからだ。

リンク:アボットのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムの後期第二相SOUND-C2試験の中間・最終解析も発表される。初回治療を受けるI型患者362人を組入れて、プロテアーゼ阻害剤BI 201335(faldaprevir)とポリメラーゼ阻害剤BI 207127そしてribavirinの三剤で28週間治療したもの。肝硬変合併など難治性患者も組入れたり四剤併用ではないことが影響したのかアボットの試験ほど奏功率が高くないが、治療オプションの一つにはなりそうだ。同社も間もなく第三相試験を開始する予定。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

抗HIV薬で大きなシェアを持つギリアッド(Nasdaq: GILD)もC型肝炎に力を入れており、経口剤だけの第三相試験を一足早く開始した。ポリメラーゼ阻害剤GS-7977(sofosbuvir)とNS5A阻害剤GS-5885の合剤と更にribavirinを服用する三剤併用で12週間コースと24週間コースをテストする。

AASLDでは第二相ELECTRON試験の中間解析結果が発表される。プレスリリースによると、初回治療患者25人では三剤併用治療完了後4週間経った時点で25人全てがウイルス探知不能だった。小規模な試験なので過大評価はできないが、アボットの試験とは異なりプロテアーゼ阻害剤を使わずに成果を上げたことに驚かされる。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

AHA:serelaxinは急性心不全の呼吸困難を改善

(2012年11月7日発表)

RLX030(serelaxin)の第三相急性非代償性心不全試験の詳細がAHA科学部会とLancet誌で発表された。二種類の主評価項目のうち呼吸困難症状をVAS(ビジュアル・アナログ・スケール)で計測しAUC(曲線下面積)を群間比較した解析ではp=0.007と有意に優れていたが、もっと分かりやすい、中程度以上改善した患者の比率(奏功率)はserelaxin群27%、偽薬群26%、p=0.7で殆ど効果がなかった。

前者は5日間、後者は24時間のデータなので、serelaxinの効果は24時間以上経ってから発揮されると考えることもできるが、ある程度の効果はあるが大きな効果はないと考えることもできる。症状改善効果は他の評価項目でも見られるので、結局、この「ある程度の効果」が臨床的にあるいは薬物経済学的にどの程度意味があるのかが論点になりそうだ。各種医療報道を読むと、エキスパート評価は区々のようである。

主評価項目の解析計画は、アルファを0.025ずつ配分し、片方だけが下回った場合でもその評価項目に関しては仮説が立証されたとみなす。二次的評価項目は、退院且つ生存期間が両群ともメジアン48日でフェール、60日心血管死・心不全腎不全再入院率も13.2%対偽薬群13.0%でフェールした。一方で、180日心血管死は36例(6.1%)対55例(9.6%)でp=0.028、安全性評価項目の180日死亡は42例(7.3%)対65人(11.3%)でp=0.02と、死亡リスクに関しては良さそうな数値が出た。

尤も、上位の解析がフェールしたことや、イベント数が少なくp値がそれほど低くないことを考えれば、退院を早めることができず再入院も防げないのに救命作用を発揮するという不可思議な現象を深く考える必要はないだろう。死亡例に関する詳細解析結果が明らかになるまでは、serelaxinは穏やかな呼吸困難改善作用を持ち副作用で早死にするリスクは小さい、位に受け止めておけばよいだろう。

serelaxinは天然のペプチドホルモンを遺伝子組替えで製造したもので、第三相試験では30mcg/kg/日を48時間点滴静注した。ノバルティスが2010年に買収したCorthera社のパイプライン。同社は承認申請に向けて審査機関と相談する考えだ。症状改善作用だけに基づいて承認される可能性はあるが、この作用が不十分と評価されるようなら承認されないリスクがあり、大きくないと評価されるようなら承認されても使われないリスクがありそうだ。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:Lancet論文の抄録

AHA:アムジェンの抗PCSK9抗体の第二相試験データ

(2012年11月5-6日発表)

異脂血症治療薬はCETP阻害剤の開発が行き詰る一方で、ISIS/サノフィがApoB-100アンチセンス薬mipomersenを欧米で承認申請し、ACCで抗PCSK9抗体の治験データが発表されるなど、新しいメカニズムの注射用薬の開発が活発化している。AHAではアムジェンの抗PCSK9抗体MG145の様々な第二相高脂血症治療試験の結果が発表されると共に、著名医学誌三誌に論文が刊行された。

スタチン服用者に追加投与した二本の試験では、6種類の用量・投与頻度でLDL-C値が偽薬比42~66%低下した。不耐患者を対象とした試験では、ezetimibe併用時の有効性も窺われた。AMG145は皮注で二週間に一回と四週間に一回の投与法をテスト、前者のほうが効果が高そうだが、後者でもかなりの効果がありそうだ。忍容性はそれほど悪くなさそうだ。

PCSK9(proprotein convertase subtilisin/kexin type 9)はLDL-C受容体に結合して零落を誘導する。ミスセンス多型を持つ人は心血管疾患のリスクが低いと言われている。抗PCSK9抗体がPCSK9に結合するとLDL-C受容体が長持ちするため、血液中のLDL-Cが肝臓など組織の中に取り込まれるのを促進することができる。リジェネロン(Nasdaq: REGN)がサノフィと提携して、今年7月にREGN727/SAR236553の第三相試験を開始した。

AMG145も早晩、第三相入りするだろう。大規模なアウトカム試験で心血管疾患抑制効果を確認する必要があるだろうから、実用化までは時間が掛かりそうだ。

リンク:アムジェンのニュースページ

リンク:Lancet誌治験論文

リンク:Circulation誌治験論文(オープンアクセス)

リンク:JAMA誌治験論文(オープンアクセス)

アブラキサンは転移性膵癌にも有効

(2012年11月9日発表)

セルジーン(Nasdaq: CELG)は、Abraxane(paclitaxelナノパーティクル、和名アブラキサン)の第三相転移性膵臓線腫一次治療試験が成功したと発表した。gemcitabineと併用した群の全生存期間がgemcitabine単剤群を有意に上回った。データは来年1月のGI ASCO(米国臨床腫瘍学会の胃腸癌シンポジウム)で発表される予定。

膵癌の試験は中々成功せず、Tarceva(erlotinib、和名タルシバ)は治験で寿命をほんの少し延ばしただけだったが承認され広く用いられるようになった。Abraxaneの試験はgemcitabine・Tarceva併用とは比較していないが、患者にとってはこの比較が最も重要なので、どんなデータが発表されるか注目される。

リンク:セルジーンのプレスリリース

ムコ多糖症IV-A治療薬が第三相試験で歩行能力を改善

(2012年11月5日発表)

カリフォルニアの希少疾患用薬開発企業であるバイオマリン(Nasdaq: BMRN)がBMN-110の第三相試験の結果を発表した。ムコ多糖症IV-A型の176人を偽薬、2mg/kgを2週間に一回、同じ量を週一回投与する3群に無作為化割付して24週間治療したところ、6分間歩行テストの成績が各14m、15m、37m改善し、週一回投与群は偽薬比有意に改善した。一方、二次的評価項目は3分間階段テストも努力肺活量(FVC)もフェールした。バイオマリンは2013年から承認申請を開始する予定。

ムコ多糖症IV-A型はN-acetylgalactosamine 6-sulfatase(GALNS)の欠乏でケラタン硫酸が蓄積し、骨に異常が出る。世界で400人の患者が診断されている。I型、II型は酵素補充療法が日本を含む多くの国で実用化されたが、IV-A型の酵素補充療法はBMN-110が初めて。バイオマリンはムコ多糖症I型治療薬AldurazymeやVI型治療薬Naglazymeを開発した実績を持つ。

リンク:バイオマリンのプレスリリース

【承認申請】


MSDの睡眠薬が承認申請

(2012年11月8日発表)

MSD(米国メルク)はFDAがMK-4305(suvorexant)の承認申請を受理したと発表した。オレキシン受容体拮抗剤という新しい作用機序を持つ不眠症治療薬で、MSDは薬効確認試験二本、長期投与・離脱試験一本、翌日運転試験二本を実施、総睡眠時間を延ばし入眠潜時を短縮する作用と安全性を確認した。

オレキシンは外側視床下部で分泌される神経ペプチドで、ナルコレプシーという昼間話している時でも急に眠ってしまう疾患では、オレキシンが不足していることが多い。副作用でナルコレプシーになったら困るが、これまでのところ情動性脱力発作は発生していないようだ。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDAの諮問委員会がノバルティスとノボの新薬を支持

(2012年11月17-18日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、17日はノバルティスのクッシング症候群治療薬Signifor(pasireotide)、18日はノボ ノルディスクのinsulin degludecについて、意見を聞いた。

Signiforは10人の委員全員が便益がリスクを上回ると判定した。クッシング病は副腎皮質刺激ホルモンの過剰分泌により様々な症状が発生する。治療には同社のSandostatinが用いられるが、Signiforはより多くの種類のソマトスタチン受容体を作動することができる。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

degludecは事前にFDAのブリーフィング資料が公表され、心血管疾患リスクが論点になっていることが判明、ノボの株価が急落した。私は10月28日号で、治験成績が悪い可能性だけでなく、心血管アウトカム試験が実施されないリスクをFDAが懸念している可能性もあると指摘したが、後者が正解のようだ。データの上では心血管疾患リスクが対照群(偽薬、活性薬)より高かったが有意ではなく、程度も少し高いだけだ。誤差である可能性も否定できず、真実であったとしても深刻な懸念ではないだろう。

一方で、経口剤と異なりインスリンの心血管アウトカム試験は活発ではない。偽薬を長期間毎日注射させるのは不適当なので活性薬対照試験を行うことになるが、実薬同士の比較は差が生じ難いので、大規模、長期になってしまう。

私はノボがアウトカム試験にコミットすれば諮問委員会の支持を得られると予想していたので、支持8人、反対4人と票が分かれたのが意外だった。アウトカム試験については12人全員が承認後に実施すべきと答えた。

株価は好感したが、FDAの諮問委員会は決定機関ではなく文字通りの諮問機関なので、支持が反対を上回ってもあまり意味がなく、票が分かれたことのほうが重要だ。今後、ノボとFDAがアウトカム試験のデザインや完了時期について協議し、話がまとまればdegludecが承認されるだろう。但し、今回の諮問委員会の騒動はイメージダウンになる公算があり、サノフィのLantusから大きなシェアを奪うのは難しくなった。Lantusは2015~16年にバイオシミラーが発売される可能性もあり、ノボは早く発売する必要がある。

degludecは同社のアシル化技術を応用して開発した長期作用性インスリンで、超速効性インスリンを配合したプリミックスも同時に承認申請された。

リンク:ノボのプレスリリース

【承認】


ファイザーの経口抗リウマチ薬が承認

(2012年11月6日発表)

FDAは、ファイザーの経口抗リウマチ薬Xeljanz(tofacitinib)を承認した。この用途のJAK阻害剤は初めて。強力な免疫抑制作用を持つので、バイオ薬や他の強力免疫抑制剤との併用は禁忌。第三相試験では5mgと10mg(何れも一日二回服用)がテストされたが、5mgしか承認されなかった。臨床試験では、強力免疫抑制剤には付き物の、日和見感染や癌、リンパ腫などの増加が見られた。

JAKはIL受容体が発する細胞内シグナル伝達に関与するキナーゼ。そのせいか、Xeljanzの臨床的効用・副作用はアクテムラ(抗IL-6受容体抗体)とよく似ており、アクテムラの経口版と考えれば覚えやすい。

報道によるとファイザーは月2000ドル強の価格で発売する模様で、バイオ薬よりやや低いが高価な薬であることに変わりはない。尤も、バイオシミラーとは異なりxeljanzのような小分子薬のGE薬は安価なので、十数年後には豊かでない人でも治療を受けられるようになるだろう。また、他社も競合品を開発するだろうから、治験に参加する方法もあるだろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ファイザーのプレスリリース

VotubiaがEUでも承認

(2012年11月5日発表)

ノバルティスのVotubia(everolimus)が結節硬化症候群(TSC)患者の手術不要な腎血管筋脂肪腫(非癌性腎臓腫瘍)の治療薬として承認された。薬物療法は初めて。TSCはmTORが関与する希少疾患で、VotubiaのようなmTOR阻害剤に反応する。治験では、反応率が42%で偽薬群の0%を大きく上回った。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【製薬会社の動き】


サノフィが大腸癌用薬の価格を半値に引き下げ

(2012年11月8日)

Cancer Letterによると、サノフィはZaltrap(ziv-aflibercept)の米国での価格を5割引き下げることを決めた。8月に大腸癌の二次治療薬として承認されたばかりだが、月11000ドル程度と高価であるために、メモリアル・スローン・ケタリングがんセンター(MSKCC)が使用しないことを決定しNY Times紙上で公表するなど話題になっていた。

ZaltrapはAvastinと同じ作用機序で治験成績も大差ない。サノフィはAvastinの価格を参考にした模様だが、厄介なことに、Avastinの用量は併用薬によって異なる。調査によると、二次治療では一回用量5mg/kgと10mg/kgが半々である模様だ。サノフィは10mg/kgを念頭にZaltrapの価格を決めたが、5mg/kgを使っている医療施設ではAvastinの倍の費用になってしまう。

米国は自由薬価なので上げることも下げることも可能だが、大幅な引き下げは難しい問題を孕む。高齢者向け医療制度のメディケアの場合、実勢価格が低下してから保険還元価格が下がるまでタイムラグがあるので、医療施設が5500ドルで仕入れて使った場合、メディケアから8000ドル弱、患者から3000ドル支払いを受けて大きな薬価差益が生じてしまう。尤も、アメリカのことだから、政府・州政府が迅速に対応するだろう。

リンク:Cancer Letter 2012年11月8日号(今号はオープンアクセス)

【医薬品の安全性】


胎盤幹細胞療法の死亡報道

(2012年11月8日)

胎盤由来の幹細胞の試験に関するスキャンダルめいた話をBloombergが報じた。幹細胞療法は山中教授らのノーベル賞受賞で注目されているだけに、ドキッとする。Bloombergは幹細胞治療自体ではなく開発企業の情報開示姿勢を問題にしているのだが、注目されている企業、研究者は襟を正し李下に冠を正さず、マスコミに過剰な期待も過剰な批判もさせないように注意すべき、という教訓になりうる。

この胎盤幹細胞はイスラエルのPluristem Therapeutics(TASE PLTR)の開発品で、幹細胞療法らしく、様々な大きく異なる疾患を対象として臨床試験が行われている。イスラエルではcompassionate useも認められている模様で、治療法としては未承認だが、命に係る疾患で他に治療法がない場合に用いることはできる。今年5月に骨髄異形成の少女に、8月にリンパ腫で骨髄機能不全を合併した中年女性に、9月には急性骨髄性白血病の中年男性に投与し血球細胞の回復に成功したことが発表された。

ところが、Bloobergによると、成功時は大々的にプレスリリースを出したのに最初に治療を受けた少女が退院後に死亡した時は直ぐに公表しなかった。同社は三例の治療成功を発表した後に増資で資金調達を行ったが、その真っ最中だったので秘匿したというのだ。Pluristem社はこの報道に反発、通常の治験ではないので退院後は追跡調査を行わず、遺族が自発的に連絡するまで知らなかったと反論した。

Pluristem社の主張はリーズナブルだが、治療成功時だけ喧伝し退院後は知らないのではバランスに欠ける。少女は赤血球が増えたのだから治療が成功したことは確かだが、その後の転帰を追跡しなければ治療成功とは言えず、もし追跡するつもりがないならば、その程度の研究の成果を喧伝すべきではなかっただろう。Bloombergが主張するように、他の患者に実力以上の期待を抱かせるのは酷だ。研究者にとっては臨床検査値が改善し症状が改善すれば成功かもしれないが、患者にとっては、それでも死亡した事実のほうが重いだろう。

リンク:Pluristemのプレスリリース

リンク:Bloombergの報道1

リンク:Bloombergの報道2

今週は以上です。

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2012年11月4日

海外医薬品ニュース週末版 2012年11月4日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • 持効性第VIII因子の臨床試験が成功
  • FDA諮問委員会がGSKの肺炭疽治療薬を支持
  • 第5のバソプレシン受容体拮抗剤は承認されず
  • ファイザーのゴーシェ病治療薬はEUでは2020年まで発売できない
  • EU:西欧初の遺伝子療法が承認
  • EU:Adcetrisが承認
  • EU:Cialisとアバスチンが適応拡大
  • 米国:イグザレルトがDVT・PE治療に適応拡大
  • プラザキサの出血リスクはワーファリン並み



【新薬開発】


持効性第VIII因子の臨床試験が成功

(2012年10月31日発表)

バイオジェン・アイデック(NASDAQ: BIIB)とスエーディッシュ・オーファン・バイオヴィトラム(STO: SOBI)は、遺伝子組換え型長期作用性第VIII因子の第三相試験が成功したと発表した。出血リスクが高いA型血友病患者を組入れた予防試験で、出血エピソードの頻度が9~21分の1に減少した。米国では来年上期に、欧州では開発ガイドラインに従い小児試験を終えてから、承認申請する予定。

このrFVIIIFcは第VIII因子と免疫グロブリンG1の固定領域を細胞融合して体内で分解されにくくしたもの。今回の第三相試験では、週一回投与する用法と、患者に合わせて投与頻度を調整する方法を、出血時に治療する(予防は行わない)方法と比較したところ、各群の出血エピソードが年率3.6回、1.6回、33.6回となり、予防に成功した。

ここまでの文章は9月30日号のrFIXFcに関する記事と酷似している。両社はB型血友病とA型血友病の両方に有効な持効性製品の実用化に目処を立てたことになる。血友病は血液凝固因子の欠損により出血を止めることができない。頻繁に出血エピソードを経験する患者は今回の試験のような予防的投与を受けることになるが、既存の製剤は半減期が短いため、頻回投与が必要になる。両社の製品は、個々の患者に合わせて投与頻度を調整する用法の群でも、第IX因子製剤はメジアンで14日おき、第VIII因子でも3.5日おき投与だったので、患者の負担を軽減することができる。

血友病用薬は市場が大きく、現在はバクスター、バイエル、ファイザーなどが高いシェアを持っているが、ノボ ノルディスクが10月に欧米でturoctocog alfaをA型血友病の出血エピソード予防に承認申請するなど、持効性製剤で新規参入を図る企業の動きが活発化している。

リンク:両社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会がGSKの肺炭疽治療薬を支持

(2012年11月2日発表)

GSKは今年8月に36億ドルで買収したヒューマン・ジノム・サイエンス社の肺炭疽治療薬、ABthrax(raxibacumab)が、11月2日に開催されたFDA諮問委員会で支持された。承認審査期限は12月15日。ごく稀な疾患なので、生物兵器対策のような国家備蓄向けが需要の中心になりそうだ。

肺炭疽はBacillus anthracis(炭疽菌)を吸入することによって発症する致死的な感染症で、2001年に米国で炭疽菌の入った郵便物が多数郵送され広く認知されるようになった。ABthraxはBacillus anthracis protective antigenに結合する抗体医薬で、動物試験で大きな効果を発揮したことから、2009年に米国で承認申請、平行して、戦略的国家備蓄プログラム向けの供給を開始した。ところが、FDA諮問委員会は支持せず、審査完了となった(追加試験が必要と判定された)。

ボトルネックとなったのは動物試験のプロトコルだ。肺炭疽は感染例が殆どなく、また、致死性が高いので臨床試験は殆ど不可能だ。動物試験でも倫理的な問題があるため、ABthraxの試験では感染症状が出たら直ぐに投与したのだが、このようなことは現実にはありえない。そこで、炭疽菌暴露の数日後に治療を開始する用法で薬効を再確認、今回の諮問委員会支持に繋がった。

リンク:GSKのプレスリリース

第5のバソプレシン受容体拮抗剤は承認されず

(2012年11月1日発表)

コーナーストーン・セラピュティクス(Nasdaq: CRTX)は、FDAからCRTX 080(lixivaptan)の審査完了通知を受領したと発表した。SIADH(抗利尿ホルモンの不適切な分泌によって発生する症候群)および慢性心不全による低ナトリウム血症の治療薬として承認申請されたが、後者の臨床試験はlixivaptan群の死亡者が偽薬群より多かったために独立データ安全性監視委員会が中止を勧告した経緯がある。9月の諮問委員会は慢性心不全について全員が反対、低ナトリウム血症も反対が上回った。

lixivaptanは米国で2006年に承認されたVaprisol(conivaptan)、大塚製薬の2009年承認のSamsca(tolvaptan)と日本で承認されているフィズリン(mozavaptan)、欧米で申請されたが承認されなかったサノフィのsatavaptanに次ぐ第5のバソプレシン受容体拮抗剤。

カーディオカイン社が2004年にワイス(当時)から導入、2007年にバイオジェン・アイデックと開発販売提携したが、慢性心不全完了後の2010年11月に解消。2011年12月に米国で承認申請し同月にコーナーストーンに身売りという経緯を持つ。

慢性心不全試験で深刻な懸念が浮上したことを考えれば承認申請したこと自体が不思議だが、この用途ではVaprisolやSamscaの試験でも死亡者数に偏りがあったので、クラス・イフェクトなのだろう。低ナトリウム血症は深刻な障害をもたらす可能性があるが、薬でナトリウム値を急速に上げるのもリスクがある。

今になってみると、バイオジェン・アイデックとの提携が解消されたのは慢性心不全試験で安全性懸念が浮上したからだろう。残念なのは、当時、この懸念が公表されなかったことだ。承認されている薬にもインプリケーションがあり、また、もし類薬を開発している会社があるとしたら慢性心不全試験を行って不必要な犠牲者を出す可能性もあるのだから、両社はもっと早く懸念を公表すべきだったのではないだろうか。

リンク:コーナーストーンのプレスリリース

ファイザーのゴーシェ病治療薬はEUでは2020年まで発売できない

(2012年11月1日発表)

ファイザーとイスラエルのバイオ企業であるProtalix BioTherapeutics(TSE: PLX)は、EUがElelyso(taliglucerase alf)を承認しなかったと発表した。CHMPが6月に否定的意見を出しているので意外感はない。薬の効果や安全性の問題ではなく、英国のシャイアが類薬を2010年に発売し10年間の独占権を獲得していることが原因。希少疾患用薬の開発奨励制度が裏目に出た格好だ。

シャイアのVpriv(velaglucerase alfa)はヒト由来の細胞にグルコセレブロシダーゼを分泌させて作るが、ElelysoはProtalixの技術を用いてニンジン由来の細胞に発現させる。ファイザーは2009年に世界開発販売権を取得した。ゴーシェ病の患者は中東や北欧のAshkenazi系ユダヤ人に多いと言われており、両社にとって残念な結果だ。尚、米国では今年5月に承認されている。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


EU:西欧初の遺伝子療法が承認

(2012年11月2日発表)

オランダの未上場企業であるuniQure biopharma B.V.は、EUがGlybera(alipogene tiparvovec)を家族性リポ蛋白リパーゼ欠乏症の治療薬として承認したと発表した。重度あるいは頻繁な膵炎発作を起こす患者に、遺伝子の欠損とLDL蛋白の存在を検査で確認した上で、治療に習熟した医師が施行することが条件。

例外的状況条項に基づく条件付承認なので、追加的な研究や、患者登録を行って長期的な安全性を検討する必要がある。同社は2013年下期に、ロイター報道によると25万ユーロ程度の価格で発売する予定のようだ。

この疾患は100万人に1~2人の超希少疾患で、食物由来の脂肪を輸送するカイロミクロンを分解するのに必要なリポ蛋白リパーゼが欠損している。Glyberaはアデノ随伴ウイルス(AAV)由来のベクターにリポ蛋白リパーゼの遺伝子を組入れたもので、筋注して筋細胞にこの酵素を作らせるもの。治験では多くの患者が副反応を防ぐために免疫抑制剤を同時使用した。3分の1の患者が四肢痛を経験した。

遺伝子療法は遺伝子欠損が原因で発生する命に係わる疾患の治療薬として大きな期待を受けたが、1999年に米国で投与直後の死亡例が発生し、楽観論が後退した。AAVをベクターとして使えば免疫性急性副反応を緩和できると考えられたが、2007年にTargeted Genetics社の治験で死亡例が発生し、FDAが全AAV治験の再検討を行う事態になった。中国で承認されたものがあるようだが、西洋で遺伝子療法が承認されたのは今回が初めて。

Glyberaの承認も紆余曲折があり、CHMPが2011年から12年にかけて3回、否定的意見を出している。覆ったのはCAT(先端医療委員会)が重度・頻回膵炎患者に限って便益がリスクを上回るとの見解をまとめたことが転機となった。臨床試験は27人と小規模なもので効果の持続性や膵炎リスク削減効果が十分に立証されていないが、頻発患者には膵炎発作を減らす効果が見られたとのことだ。

uniQureはアムステルダム大学のアカデミック・メディカル・センターに拠点を持つ企業で、CHMPが否定的意見を出したために清算法人となったAmsterdam Molecular Therapeuticsから研究資産を承継した。正に、粘りと執念の勝利といえるだろう。どの程度の効果があるのか知りたいものだ。

リンク:uniQureのプレスリリース

リンク:ロイター報道

EU:Adcetrisが承認

(2012年10月31日発表)

武田薬品グループのミレニアム・ファーマシューティカルズとシアトル・ジェネティクス(Nasdaq: SGEN)は、薬物搭載型抗CD30抗体Adcetris(brentuximab vedotin)がEUで二つの適応症に承認されたと発表した。一つは再発性難治性のCD30陽性ホジキン型リンパ腫で、前治療で自家幹細胞移植(ASCT)を受けた、または、ASCTや強化化学療法に適さない患者で既に二次治療まで受けた患者。もう一つは、再発性難治性の全身性未分化大細胞リンパ腫。

米国では2011年に承認された。ミレニアムは北米以外の開発販売権を持っている。

リンク:ミレニアムのプレスリリース

リンク:武田薬品の和文プレスリリース

EU:Cialisとアバスチンが適応拡大

(2012年10月30-31日発表)

イーライリリーは、10月30日に、EUがCialis(tadalafil)を良性前立腺肥大の治療薬として承認したと発表した。

10年前にED治療薬として承認されたPDE5阻害剤でED患者は必要時に通常は20mgを服用するが、Cialisは半減期が長いため毎日2.5mgを服用することも可能。良性前立腺肥大では一日5mgを服用する。ED治療薬は多くの国で自由診療(保険還付されない)であることや必要な時だけ服用する用法が一般的であることから価格が高いが、良性前立腺肥大なら保険がカバーするだろうから、患者負担は緩和されるだろう。米国では2011年に適応拡大された。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

翌31日には、ロシュが、Avastin(bevacizumab、和名アバスチン)がEUで卵巣癌二次治療に適応拡大されたと発表した。一次治療で白金薬に反応したプラチナ感受性癌に、carboplatin及びgemcitabineと三剤併用する。一次治療でも承認されている。

リンク:ロシュのプレスリリース

米国:イグザレルトがDVT・PE治療に適応拡大

(2012年11月2日発表)

バイエルが開発し米国ではジョンソン・エンド・ジョンソンが販売しているXa阻害剤、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)をDVT(心静脈血栓)やPE(肺塞栓)の治療・再発予防に用いることがFDAに承認された。当初の三週間は再発リスクが高いため15mgを一日二回経口投与し、その後は20mg一日一回に減量する。6ヶ月の治療コースを終えた後に継続投与することも可。

Xareltoの最初の適応症である間接置換術後のDVT・PE予防は、そもそものDVT/PE発生リスクが小さく、薬物以外の予防方法も存在し、服用期間が数週間と短いため、市場性が小さい。一方、2011年に承認された心房細動患者の脳卒中リスクを削減する用途は該当患者が多く長期間服用するため最も市場性が大きい。今回のDVT・PE治療は対象患者数が心房細動の5分の1程度、服用期間は3-9ヶ月なので心房細動ほどではないものの、二番目に大きな用途だ。

リンク:バイエルのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

【医薬品の安全性】


プラザキサの出血リスクはワーファリン並み

(2012年11月2日発表)

FDAは直接的トロンビン阻害剤Pradaxa(dabigatran etexilate mesilate、和名プラザキサ)の安全性を再検証した結果を発表した。2010年10月の承認後の疫学研究でも深刻な出血事故のリスクはワーファリンと大差なく、第三相試験と同様な結果だった。

FDAは稀にしか発生しない深刻な有害事象のリスクを評価することを目的に、医療保険組織と契約して治療記録データベースを分析するパイロット・プロジェクトを進めている。今回の分析もこのプロジェクトの成果で、新規にPradaxaまたはワーファリンによる治療を開始した患者の胃腸出血・頭蓋内出血症例を検索したところ、胃腸出血はワーファリンがPradaxaの1.6~2.2倍、頭蓋内出血は2.1~3.0倍となり、Pradaxaのほうがリスクが高いとは言えなかった。

Pradaxaの最大の用途である心房細動患者の脳卒中予防は2010年10月に米国で、2011年1月に日本で、同年8月にはEUでも承認された。日本を中心に致死的な出血事故が多数報告されたことから、FDAやEUのCHMPが再検証を開始したが、欧米共に、ワーファリンと比べて特にリスクが高い訳ではないという結論になった。

何故、日本などで多くの出血事故が報告されたのだろうか?日本でも海外でも、腎機能が一定以下の患者には減量すべきであることを当局が念押ししているので、出血事故症例ではこの配慮が不十分だったのかもしれない。MedPageでも不適切な処方が原因という見方を紹介している。

一方で、ワーファリンの出血リスクに対する認識が違うのかもしれない。日本のワーファリンの用量は海外より少ないので、新薬が海外治験でワーファリンと同じだったとしても、日本のワーファリン服用患者と同じとは限らない。

Pradaxaの場合は第三相試験に日本の施設も300例ほど組入れ、日本流のワーファリン用量と比較した。XareltoはXarelto自体も用量を減らして1000人規模の治験を日本だけで実施した。何れも出血リスクはワーファリン並みだったが、海外の組入れ数より少ないので深刻な出血のような発生確率の低い事象を比較するには不十分だ。

医療はアートなので発生率だけを比較しても意味がない。医療従事者が薬の正しい使い方をどのように学び、どのように使っているのか?深刻な出血事故を起こした患者はどのような患者背景を持ちどのような薬を同時使用していたのか?薬物代謝酵素や輸送蛋白の人種的な違いはどう影響するか?副作用被害に遭った人たちに報いるためにも、原因を網羅的に究明して失敗から学ぶことが重要だ。

リンク:FDAのプレスリリース

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今週は以上です。

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