2012年10月28日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月28日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • セルジーンの多発骨髄腫用薬の第三相試験成功
  • バイエルの画期的新薬の第三相肺高血圧症試験が成功
  • アクテリオンのOpsumitの第三相試験成績が発表
  • イーライリリーのGLP-1作用剤は効果が高そう
  • 欧州で大日本/武田の向精神薬とノバルティスのCOPD合剤が承認申請
  • FDAはトレシーバの心血管リスクを懸念?
  • オレキシジェンの紛争仲裁請求は奏功せず
  • エーザイの抗癲癇薬が米国でも承認
  • テバの慢性骨髄性白血病用薬が米国で承認



【新薬開発】


セルジーンの多発骨髄腫用薬の第三相試験成功

(2012年10月23日発表)

セルジーン(Nasdaq: CELG)は、CC-4047(pomalidomide)の第三相多発骨髄腫三次治療試験が成功したと発表した。代表的な薬剤である同社のRevlimid(lenatidomide、和名レブラミド)と武田/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib、和名ベルケード)による前治療経験を持つ再発性難治性患者を対象としたもの。

投与方法は28日サイクルでpomalidomide群は4mgを一日一回、21日連続経口投与とdexamethasone(以下、DEX)の40mg(75歳以上は20mg)を週一回、経口投与。対照群は同量のDEXを4日連続投与、4日休薬を三回繰り返し最後は4日休薬(28日サイクル)。両群とも癌が進行するまで施行した。その結果、主評価項目のPFS(無増悪生存期間)だけでなく、二次的評価項目である全生存期間でも統計学的に、そして臨床的にも有意な差があった。データは今後の学会で発表されるだろう。

pomalidomideは米国で今年4月に承認申請されたが、第二相試験のデータしかなかったせいか、優先審査指定されず審査期限は来年2月10日となった。第三相試験の成功は承認に追い風となりそうだ。EUでも今年5月に承認申請された。

セルジーンはThalomid(thalidomide)とRevlimidの二種類の多発骨髄腫用薬を持っている。どちらも売上高が既に天井圏に達したので、pomalidomideと乾癬治療用の新薬apremilastには大きな期待がかかっている。

リンク:セルジーンのプレスリリース

バイエルの画期的新薬の第三相肺高血圧症試験が成功

(2012年10月22日、23日発表)

バイエルのBAY63-2521(riociguat)の第三相肺高血圧症試験の結果がCHEST 2012(米国胸部専門医学会)で発表された。

一本はPAH(肺動脈高血圧症)患者を12週間治療したもので、6MWT(6分間歩行試験)の成績が偽薬比で平均36m改善した(統計的に有意)。既存の薬を服用している患者(36m改善)でも、服用していない患者(38m改善)でも、有意な効果があった。この治療効果はエンドセリン受容体拮抗剤と大差なく、臨床的にも意味があるだろう。WHO機能クラスの悪化でも有意な差があった。

もう一本は、承認されている薬がない難病である慢性血栓塞栓性肺高血圧症(CTEPH)を16週間治療した試験で、6MWTが偽薬比46m改善、WHO機能クラスの悪化でも有意な差があった。二本の試験で観察された有害事象は、頭痛、消化不良、末梢浮腫、悪心、眩暈、下痢など。バイエルは2013年上期に承認申請する予定だ。

riociguatは可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激剤のファースト・イン・クラス。酸化窒素が血管平滑筋を弛緩させるパスウェイに介入し、sGCの酸化窒素感受性を向上するとともに、酸化窒素に依存しない直接的なsGC刺激作用も持っているようだ。全身的な降圧作用は比較的小さい。PAH試験で確認されたように、PDE5阻害剤やエンドセリン受容体拮抗剤と補完的なので併用にも適している。用法は1mgを一日三回、経口投与で開始して、8週間かけて2.5mg一日三回まで漸増する。

リンク:バイエルのプレスリリース(PAH試験)

リンク:同(CTEPH試験)

アクテリオンのOpsumitの第三相試験成績が発表

(2012年10月22日発表)

CHEST 2012ではスイスのアクテリオン(SIX: ATLN)が開発したエンドセリンA/B受容体拮抗剤、ACT-064992(macitentan)の第三相症候性PAH試験のデータも発表された。この試験の特徴は主評価項目が6MWTではなく、病状悪化・死亡という臨床的転帰であることだ。肺高血圧症治療薬の試験では初で、成功が発表された時は大変驚いた(2012年5月6日号で報道)。

偽薬、3mg、10mgを夫々一日一回、経口投与する群に割付けて、メジアンで1-2年治療したところ、主評価項目である全死亡・PAH増悪のリスクが3mgで30%、10mgは45%、偽薬群より低かった。二次的評価項目では、PAHによる死亡・入院が各33%と50%、低かった。

更に、10mg群は6ヶ月時点の6MWTが偽薬比平均23m改善した。症状の軽い患者も組入れたため治療効果が小さくなっているが、WHO機能クラスIII、IVの患者だけの解析では37mと、他の薬と同様な数値が出た。10mgはPDE5阻害剤を服用している患者にも有意な効果があった。忍容性面では、類薬の副作用である肝機能検査値異常は増えなかったが、重い貧血のリスクが見られる。

6MWTの数字を見る限りでは特に効果が高いようには見えない。結局、6MWTを改善する薬はPAHの病状進行も抑制できるということなのだろう。とは言え、臨床的な転帰を改善できるというエビデンスを持つ薬は他にはない。同社のフラッグシップであるエンドセリンA/B受容体拮抗剤、Tracleer(bosentan、和名トラクリア)の特許切れを数年後に控えて、有望な後継が現れた。

アクテリオンは、米国で承認申請したことも発表した。商標名はOpsumitの予定。

リンク:アクテリオンのプレスリリース(学会発表について)

リンク:同(承認申請について)

イーライリリーのGLP-1作用剤は効果が高そう

(2012年10月22日発表)

アミリン社が他社に先駆けて開発、発売したGLP-1作用剤は二型糖尿病患者の血糖値を下げるだけでなく、血糖治療薬としては唯一、体重を減らす作用も持つ。難点の一つは注射薬であることだが、一日二回ではなく一回、あるいは、週一回投与型の開発が活発化している。企業買収や提携、提携解消も盛んで、アミリンは当初、イーライリリーと共同開発・販売していたが、イーライリリーがベーリンガー・インゲルハイムと糖尿病領域で提携したため解消。その後、BMSとアストラゼネカの連合に買収された。

一方、イーライリリーは、GLP-1融合蛋白LY2189265(dulaglutide)をベーリンガー提携とは別に単独で開発している。DPP-4に分解され難く改変したGLP-1にヒトのG4型免疫グロブリンの固定領域を共有結合することで作用を長期化、週一回注射で足りる。同じ週一回投与型であるBydureonと異なり太い針を使う必要がないので注射箇所の痛みが小さいはずである。

複数の第三相試験のうち、三本の成功が発表された。何れもHbA1c治療効果で主評価項目を達成したが、二次的評価項目の実薬対照優越性解析も成功したとのことだ。このうち、exenatide(アミリンのGLP-1作用剤)は半減期が短いせいか、他の週一回投与型と比べた試験でも効果が見劣りしたので、驚きではない。

Januvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)は、血糖降下作用が穏やかであるものの経口投与可能で、深刻な副作用のリスクが比較的小さく、体重が増えないという長所を持つので、効果の多寡だけでは結論を出せない。

驚かされるのは、metformin対照試験で勝ったことだ。主評価項目の非劣性解析が成功したため二次的評価項目の優越性解析が実施され、有意に優れていた。この試験は早期二型糖尿病患者が対象なので、metforminの用量が小さかった可能性があり、また、病歴の長い患者でも勝てるのか、26週時点だけでなく52週時点の解析でも勝てるか、という疑問が残るものの、近年の新薬は勝てなかったものが多いので価値がある。

尤も、近年の試験は組入れ数が多いので、小さな差でも有意差が出てしまう。学会発表時に、臨床的に意味があるかチェックする必要があるだろう。

残りの二本は何れもLantus(insulin glargine、和名ランタス)対照試験でまだ結果が出ていない。非劣性解析が成功したら優越性解析に進むプロトコルだ。インスリン対照非劣性試験は対照群の用法の妥当性がしばしば議論になる。低血糖リスクに配慮して用量を抑え、血糖値を治療目標まで下げないことが多いからだ。治験の価値としては今回概要が発表された3本のほうが重要だろう。

GLP-1作用剤やDPP-4阻害剤は膵臓に作用するせいか市販後有害事象報告で膵炎発症例がやや多いように感じられる。dulaglutideは動物の毒性試験でも第二相試験でも膵炎リスクが見られたので、GLP-1作用剤の中でもリスクが高い可能性があるが、リスクを探知すべく密接に観察したことによるオブザベーション・バイアスかもしれない。5本の試験が完了した段階でメタアナリシスが行われるのではないだろうか。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


欧州で大日本/武田の向精神薬とノバルティスのCOPD合剤が承認申請

(2012年10月25日発表)

大日本住友製薬と武田薬品は、EUでlurasidoneを統合失調症の治療薬として承認申請し、受理されたことを発表した。米国ではLatuda名で2010年に承認されている。他の非定型的向精神薬と比べて体重増などの代謝性副作用が小さいことが特徴。大日本が開発、英国以外の欧州では武田薬品が販売する。

同日、ノバルティスが決算発表資料の中でQVA149をEUで承認申請したことを公表した。ベータ2作用剤Onbrez(indacaterol、和名オンブレズ)とムスカリン拮抗剤Seebri(glycopyrronium bromide)の活性成分を配合した合剤で、COPDの維持療法として用いる。日本でも年内に承認申請される予定。米国はベータ2作用剤に対するハードルが高く、2014年に承認申請の見込み。

リンク:大日本/武田のプレスリリース(和文、pdfファイル)

【承認審査・委員会】


FDAはトレシーバの心血管リスクを懸念?

(2012年10月26日発表)

ノボ ノルディスクの持効性インスリンTresiba(insulin degludec)は9月に日本でトレシーバ名で承認、欧州でも10月にCHMPが肯定的意見を出したが、米国は承認審査が長引いていて、審査期限が10月29日に延期されただけでなく、11月8日に諮問委員会が招集されることになった。おそらく、審査期限までに結論が出ないという意味だろう。

GLP-1作用剤Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)やLevemir(insulin detemir、和名レベミル)の時もそうだったが、ノボの糖尿病薬は米国ではすんなりと承認されないことが多い。何故だろうか?

そんな時、ノボは、FDAが諮問委員会に備えて公表した利益相反表明に関するプレスリリースを発出した。意外な内容で、第一のサプライズは、利益相反のある諮問委員を召集した理由を表明する資料の中に、開催の目的が記されていたことだ。第二に、FDAが懸念しているのはTresibaの心血管疾患リスクであることが明らかになった。

TresibaはサノフィのLantusが最大のライバルなので、直接比較試験が実施された。作用が24時間安定的に推移するためか、夜間の低血糖が有意に少なかった。FDAはこの長所と心血管リスクがLantusより高いことを天秤にかけるよう諮問する考えだ。

ノボは10月19日に医薬品医療機器総合機構が公表したトレシーバの審査文書の概要について英文プレスリリースを出した。機構の評価が海外で言及されることは稀なので驚いたが、悪い内容ではなく、EUの承認審査も順調に進んでいる模様なので、私は米国で何か悪い話が出ていてそれに反論する意図なのだろうと推測した。結局、批判者はFDAの審査官だった訳だ。

それにしても不思議なのは、機構の審査文書を読んでも心血管リスクがあるようには見えないことだ。総計8941例のメタアナリシスで、MACE(主要な有害心血管イベント)の発生率は100人年当り1.48件、対照群は1.44件で、ハザードレシオ1.10、95%信頼区間は0.68から1.77となっている。FDAのガイドラインによれば、95%上限が1.8を超える場合は追加試験を行うなり、心血管アウトカム試験を実施して懸念を払拭しない限り承認を得ることはできないが、Tresibaはぎりぎりセーフなはずだ。

考えられるのは、第一に、その後に完了した試験で多くのMACEが発生し、最新の解析では1.8を超えている可能性だ。第二は、市販後心血管アウトカム試験がまだ開始されていない模様であることを懸念している可能性。95%上限が1.3-1.8の薬は、市販後に十分な検出力を持つ試験を行ってリスクが1.3未満であることを証明しなければならない。中央値は1を超えているのだから懸念があるのは確かであり、ノボにはFDAだけでなく患者に対しても挙証義務がある。

現地時間で11月6日にも一般公開される、諮問委員会用ブリーフィング資料の内容が注目される。

リンク:ノボのプレスリリース

リンク:同(機構の審査文書に関する10月19日のリリース)

オレキシジェンの紛争仲裁請求は奏功せず

(2012年10月22日発表)

オレキシジェン(Nasdaq: OREX)は体重管理薬Contrave(bupropionとnaltrexoneの徐放性合剤)を2010年に米国で承認申請し、諮問委員会の支持も得たが、承認されなかった。同社は心血管アウトカム試験を開始すると共にFDAに紛争仲裁請求を行ったが、結果が出る前に承認することは認められなかった。

次の手段として、中間解析結果が出る前に再申請することをFDAに提案する考え。認められれば発売が数ヶ月早くなる。この中間解析結果はMACE(主要有害心臓イベント)が87件に達した段階で行われるが、到達は2013年第2四半期の見込みであることも発表された。前倒し再申請が認められなくても、2014年第1四半期には承認されることになりそうだ。勿論、中間解析で悪い結果が出ないことが前提だ。

広く予想されていたとおり、数日後に増資が発表された。新興企業は財務基盤が弱く最低限必要な資金しか持っていないために、定期的に好材料を発表して株価を刺激した上で資金調達を行う必要がある。これがもし大手製薬会社なら、紛争仲裁請求に労力や資金を費やさずにさっさと心血管アウトカム試験を開始しただろう。

Contraveは中枢神経系で食欲抑制的・エネルギー消費促進的に作用するアルファMSHの放出を二つの活性成分が促進し、naltrexoneは代償機構を抑制する作用もあると考えられている。体重抑制作用は既存の薬と大差ないので、副作用の多寡が問題になる。米国承認後は武田薬品が販売する予定。

リンク:オレキシジェンのプレスリリース

【承認】


エーザイの抗癲癇薬が米国でも承認

(2012年10月22日発表)

エーザイが開発した経口AMPA拮抗剤、Fycompa(perampanel)が7月のEUに続いて米国でも承認された。部分癲癇の発作予防に用いる。麻薬取締局によるスケジュール審査を経て発売される予定。スケジュールはIからVまであり、Iが最も厳しい流通・処方規制を受け、IV、Vは軽い。Fycompaは専門医が使う薬なのでIに指定されない限り普及の妨げにはならないだろう。

AMPAはグルタミン酸受容体のサブタイプ。Fycompaはシナプス後AMPAがグルタミン酸によって活性化され神経が過剰に興奮するのを抑制する。パーキンソン病や偏頭痛予防など様々な用途が探索されたが、遂に実用化にたどり着いた。中枢神経系の薬の開発はネバー・ギブアップの精神が必要だ。

癲癇は薬によく反応するが、複数を併用しても発作を十分に抑制できない患者に追加する新薬に対するニーズは高い。服薬を怠った患者の交通事故がしばしば報道されるが、怠る理由は副作用なのだろうから、忍容性に優れる薬を開発することも重要だろう。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:エーザイの和文プレスリリース

テバの慢性骨髄性白血病用薬が米国で承認

(2012年10月26日発表)

テバ・ファーマシューティカル(NYSE: TEVA)のSynribo(omacetaxine mepesuccinate)が慢性骨髄性白血病(CML)の三次治療薬として米国で承認された。二種類以上のチロシン・キナーゼ阻害剤(ノバルティスのグリベック等)による治療を既に受けてしまった患者に用いる。

サルベージ療法なので反応率はそれほど高くなく、第二相試験では慢性期の患者の主要細胞遺伝学的反応率(MCyR)が18%、メジアン反応持続期間は12ヶ月、加速期の患者は主要血液学的反応率(MaHR)が14%、メジアン持続期間は4.7ヶ月だった。CMLの反応評価方法は似たような名前のものが色々あるが、ここでは寛解という言葉は出てこない。

omacetaxineはMDアンダーソンがCML治療薬として90年代から開発を続けてきた。オーストラリアのChemGenexがライセンスして治験を実施、承認申請後の2011年にセファロンが企業買収し、更にセファロンをテバが買収した。アポトーシス誘導作用や血管新生阻害作用を持つと考えられている。

テバは世界最大のGE薬メーカーだが、GE薬業界を取り巻く環境は次第に厳しくなってきた。米国、ドイツ、英国などのGE薬先進国では、民間保険会社や政府が普及促進を後押しする段階を終え、GE薬メーカー同士の価格競争を促す段階に進んでいるからだ。業界再編が活発に行われているが、再編が進めば今度は大手同士の体力勝負になるので、20世紀の二度の大戦と同様に、中々決着が付かずお互いに消耗する結果になりかねない。

テバは将来を予測して買収によって企業構造を変えていく能力に長けており、他のGE薬メーカーに先駆けて新薬シフトを進めている。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:テバのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年10月21日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月21日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • C型肝炎の四剤併用試験でSVR12奏功率が9割以上
  • 抗VEGF受容体2抗体の胃がん第三相試験が成功
  • リアタがbardoxoloneの第三相試験を中止
  • インライタの直接比較試験が今度はフェール
  • リツキサンのバイオシミラーの試験がまた中断
  • ノボがA型血友病用薬を承認申請
  • FDA諮問委員会が三種類の新薬を支持(NPS、Aegerion、ISIS/サノフィ)
  • CHMPが5種類の新薬に肯定的意見(ノボ、アステラス製薬、サビエント、イーライリリー、ヴィーヴァス等)
  • 硝子体黄斑癒着硝子治療薬が承認



【新薬開発】


C型肝炎の四剤併用試験でSVR12奏功率が9割以上

(2012年10月16日)

AASLD(米国肝疾患研究学会、11月9-13日)の抄録が公開され、C型肝炎治療薬を開発している企業が続々とプレスリリースを出した。中でも注目されるのはアボットの後期第二相試験だ。遺伝子型I型の患者448人を14の群に割付けて、四種類の経口剤の最適な組み合わせや投与期間を検討したところ、四剤全てを用いて12週間治療した群のSVR12(治療完了後12週経過した時点でもウイルスが探知不能であった患者の比率)が、初めて治療を受ける患者で99%、一次治療で無反応だった患者(ヌル・レスポンダー)でも93%に達した。

最終解析ではないので今後、奏功率が低下する可能性があるが、それでも凄い数字だ。現時点では忍容性が明らかではないが、少なくとも、副作用が原因で治験離脱した患者は少なかったはず。インターフェロン不応不耐には有力なオプションになりそうだ。ribavirinを除く三剤併用の成績は不明だが、第三相試験でもテストされるようなので、ribavirin不耐患者にも代替的な治療法が浮上するかもしれない。

この四剤は、プロテアーゼ阻害剤ABT-450、NS5A阻害剤ABT-267、ポリメラーゼ阻害剤ABT-333、そしてribavirinだ。このほかに、ABT-450の服用量・頻度を減らすためにCYP阻害剤ritonavirも用いる。C型肝炎ウイルスのゲノムに含まれる、増殖に必要な様々な蛋白を同時に攻撃することで効果を高め、耐性ウイルス出現リスクを抑制する。一次治療なら四剤も服用する必要はないのではないかと思われるが、ヌル・レスポンダーの奏功率の高さは驚かされる。

第三相試験では、現在の標準療法である三剤併用に反応しなかった患者に対する成績が注目される。

アボットの三剤は何れも未承認だが、この分野では、開発品同士の併用法が活発に探索されている。BMSやロシュなどの多剤併用試験の結果も注目される。

リンク:アボットのプレスリリース

抗VEGF受容体2抗体の胃がん第三相試験が成功

(2012年10月15日)

イーライリリーは、IMC-1121B(ramucirumab)の第三相試験の成功を発表した。転移性胃がんの二次治療薬としての効果を支持療法と比較したところ、全生存期間で有意な差が確認された。ramucirumabはpaclitaxel併用二次治療試験も進行中。

同じようなセッティングでありながら対照群の治療方針が片方は積極的な延命治療は行わず、もう片方はpaclitaxelを投与と食い違っていることに奇異を感じる。もしpaclitaxelが有効なら、支持療法に勝っただけでは喜べないだろう。

ramucirumabはリリーが2008年に買収したイムクローンのパイプラインで、VEGF受容体2をブロックする抗体医薬。VEGFをブロックするAvastinの胃がん試験がフェールしたのは医療風土の異なる日本や韓国で多くの患者を組入れたことが敗因と私は想像しているが、ClinicalTrials.govの治験登録を見るとramucirumabの試験は日本の施設は参加しなかった模様。これが成功の理由ではないだろうか。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

リアタがbardoxoloneの第三相試験を中止

(2012年10月18日)

テキサスの新興医薬品開発会社であるリアタ・ファーマシューティカルズは、Nrf2増強剤bardoxoloneの第三相試験を中止した。末期腎疾患を患う糖尿病患者の臨床的転帰を改善する効果を検討したが、深刻な有害事象や死亡リスクが見られたことから、独立データ安全性監視委員会が中止を勧告した。

有害事象の内容は不明だが、後期第二相試験では、40-60%の患者で筋痙攣、20-30%で低マグネシウム血症が発生した。また、体重減少・食欲低下や関節炎、失神もやや増加した。低用量ならリスクは小さく、第三相では低用量だけを採用したのだが、サンプルサイズが大きいのでこれまで表面化しなかったリスクが顕在化したのかもしれない。

第三相試験中止を受けて、日本や中国などの権利を持つ協和発酵キリンも治験を中断した。欧州などの権利はアボットが保有している。

リンク:リアタ社のプレスリリース

インライタの直接比較試験が今度はフェール

(2012年10月17日)

ファイザーのInlyta(axitinib、和名インライタ)は末期腎細胞腫の二次治療試験でPFS(無増悪生存期間)がNexavar(sorafenib、バイエル)を有意に上回り、日米欧で今年、承認されたばかりだ。ファイザーは一次治療でもNexavar直接比較第三相試験を行ったが、こちらはフェールした。

二次治療試験のハザードレシオが0.67であったのに対して、一次治療試験で検証した仮説は0.56であった模様なので、強気すぎたのかもしれない(

プレスリリースによるとPFSが78%改善する前提だったので、ハザードレシオの前提は1÷1.78で0.56となる)。

何れにせよ、一次治療薬として胸を張るためには二次治療薬として用いられることが多いNexavarを負かしても駄目である。同社のSutent(sunitinib、和名スーテント)を負かさなければならない。SutentとInlytaは副作用プロファイルが異なるので、効果が同程度でも意味があるだろう。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リツキサンのバイオシミラーの試験がまた中断

(2012年10月19日)

ロシュの抗体医薬Rituxan(rituximab、和名リツキサン)は超大型薬なので複数のGE薬メーカーがバイオシミラーを開発している。特許保護が弱いインドでは既に発売されている模様だが、欧米でも2013年から2016年にかけて特許が失効するからだ。ところが、最近、二社がシミラーの治験を中断した。

テバ・ファーマシューティカルのTL011は欧州などで実施されているリウマチ性関節炎第三相試験が中断された。更に、サムソンのSAIT101もリウマチ性関節炎第三相グローバル試験が中断された。理由は明らかではないが、Generics and Biosimilars Initiativesのニュースによると、EUやFDAが安全性基準を強化したことが影響している模様だ。サムソンの場合は最初からやり直す可能性もあるようだ。

因みに、Rituxanはバイオジェン・アイデックがロシュのジェネンテック部門と共同開発販売しているが、バイオジェン・アイデックはサムソンとバイオシミラーの開発で提携している。

リンク:Generics and Biosimilars Initiativeのニュース報道(テバ)

リンク:WHO治験登録(TL011第三相試験)

リンク:Generics and Biosimilars Initiativesのニュース報道(サムソン)

リンク:WHO治験登録(SAIT101第三相試験)

【承認申請】


ノボがA型血友病用薬を承認申請

(2012年10月16日)

ノボ ノルディスクはNN7008(turoctocog alfa)をA型血友病用薬として欧米で承認申請した。第三世代の遺伝子組換型血液凝固第VIII因子で、第三相予防的投与試験では、3日に一回投与する方法と、週三回投与する用法を採用した。他社も開発しているので差別化が重要になるが、現時点では明らかではない。

リンク:ノボのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が三種類の新薬を支持

(2012年10月16日、17日、18日)

先週はFDAの胃腸薬諮問委員会と内分泌・代謝学薬諮問委員会が招集され、合計で三種類の画期的新薬を討議、何れも過半の委員が承認を支持した。米国の諮問委員会は参考意見を出すだけで承認の是非を決めるのはFDAだが、ポジティブな結果である。

NPSファーマシューティカルズが短腸症候群の治療薬として承認申請した遺伝子組換型GLP-2、Gattex(teduglutide)は、12人全員が治療の便益がリスクを上回ると判定した。短腸症候群は腸の部分切除を受けた患者が栄養物を吸収できずに点滴栄養に依存せざるを得なくなる。臨床試験では、点滴栄養投与量を減らせる効果が示された。

胃腸閉塞、ポリープの成長、すい臓障害の懸念が見られたため、REMS(適正使用を担保するための様々な施策)が必要になるが、10人の委員が会社側計画は十分と評価した。

承認審査期限は12月30日。REMSの見直し・再提出を要求されない限り、この日までに承認されるだろう。武田薬品が販売するEUでは今年9月に承認された。ピーク年商は2-4億ドルが見込まれている。

リンク:NPSのプレスリリース

内分泌代謝学薬諮問委員会は17日、18日の二日に亘って開催され、初日はAegerion Pharmaceuticals(Nasdaq:AEGR)がホモ接合型家族性高脂血症(HoFH)の治療薬として承認申請したAEGR-733(lomitapide)を検討、15人中13人が便益がリスクを上回ると判定した。審査期限は12月29日。

lomitapideの作用機序は、肝臓や小腸でトリグリセライド(TG)やコレステロール・エステル(CE)をVLDL-C生産箇所に移送するミクロソーム・トリグリセライド転移蛋白(MTP)を阻害する。米国では2007年にファイザーのSlentrol(dirlotapide)が肥満犬治療薬として承認されているが、人間向けのMTP阻害剤は初めて。

血液中のVLDL-CやLDL-C、カイロミクロンが減少するが、使われなかったTGやCEが肝臓内に留まるため、肝臓に脂肪が蓄積されるリスクがある。かって、BMSがBMS-201038として開発したことがあるが、脂肪肝のリスクが確認されたため、AegerionがHoFHという希少疾患の薬として開発することになった。

臨床試験では、スタチンなどを服用している患者のLDL-Cが40%程度減少した。脂肪肝は見られるものの、深刻な合併症には繋がっていない様子だ。市販後に長期追跡調査が行われることになるだろう。

HoFHは、LDL-C受容体などの遺伝子に欠損を持ち、血液中のLDL-Cが組織に取り込まれにくい。血清LDL-C値が数千ミリグラム/dLと著しく高くなり、スタチンを服用しても正常値には下がらない。人間が持つ二組のゲノムのうち片方に欠損があるのがヘテロ接合型、両方がホモ接合型で、後者は患者数が欧州主要5ヶ国と米国の合計で600人程度と少ないが、LDL-C値は著しく高く、若くして心臓疾患を発症するリスクがある。

リンク:Aegerionのプレスリリース

18日はISISファーマシューティカルズがサノフィのジェンザイム部門と共同開発してHoFH治療薬として承認申請したKynamro(mipomersen sodium)を検討、便益がリスクを上回る判定した委員が9人、反対が6人と票が分かれた。lomitapideと比べて効果が小さいことや、肝臓障害の懸念があることが影響した模様だ。審査期限は来年1月29日。三剤の中では、承認されないリスクが一番高そうだ。

mipomersenは肝臓でVLDL-Cが生産される時に必要なApoB-100の発現を阻害するアンチセンス薬で、週一回注射する。臨床試験ではLDL-C値が20%程度低下したが、患者によってムラがあり、2%上昇した人も82%低下した人もいたようだ。高用量ならもっと低下するが、肝障害のリスクが高まる。

因みに、この肝障害懸念を真っ先に掴んで証券市場にリークしたのが、2010年にSECにインサイダー取引の疑いで逮捕されたファンド・マネージャーだ。フロントポイント・パートナーズという当時はモルガン・スタンレー傘下だった会社でヘッジファンドを運用していたが、逮捕の原因となったヒューマン・ジノム・サイエンス社の開発品だけでなく、多くの新薬の重要情報を入手した凄腕だった。違法行為さえしなければボトム・アップ型ヘッジファンドの代表選手になっていただろう。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

CHMPが5種類の新薬に肯定的意見

(2012年10月19日)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、10月の例会で5種類の新薬に肯定的意見を出した。順調なら2-3ヶ月内に承認されることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース(夫々の薬に関するプレスリリースのリンクもあり)

肯定的評価を受けたのは、まず、ノボ ノルディスクの管理放出性インスリン、Tresiba(insulin Degludec、和名トレシーバ)。同社のアシル化技術を用いて長期間安定的な作用を実現した。サノフィの超大型薬、Lantusより低血糖の発生リスクが小さい模様だ。また、EUで承認されているインスリンは一回の注射で最大80単位までしか投与できないが、Tresibaは160単位用の規格も用意されているので、EUに20-70万人いると推測されている80単位では足りない患者には便利だ。

Tresibaとミールタイム・インスリンのコンビ薬であるRyzodeg(insulin degludec、insulin aspart)も肯定的評価を受けた。一日1-2回注射する。ノボはTresiba発売の一年後に上市する予定。

リンク:ノボのプレスリリース

リンク:CHMPのプレスリリース

次に、アステラス製薬のBetmiga(mirabegron)。過活動膀胱の治療薬で失禁頻度を削減する。ベータ3受容体作動剤は日米欧の企業が開発に鎬を削ったが、ただ一社、ゴールに到達した。日本で2011年に、米国でも今年6月に、承認された。薬物療法の効果は決して高くないので、併用療法の探求が期待される。同社はまだプレスリリースを出していないようだ。

サビエント・ファーマシューティカルズ(Nasdaq: SVNT)の遺伝子組換型PEG化ブタ尿酸酸化酵素、Krystexxa(pegloticase)も肯定的意見を獲得した。既存薬に不応不耐の重度痛風に用いる。

リンク:サビエントのプレスリリース

治療薬ではないが、イーライリリーのPET造影剤、Amyvid(florbetapir F 18)も肯定的意見を得た。アルツハイマー病の診断に用いる放射性核種で、脳のベータ・アミロイド蓄積状況を検査する時に用いる。米国では今年4月に承認された。大学病院など一部の施設でしか用いられないだろうから承認を取らなくても販売できるだろうが、広く用いられるようになるためには必要な一歩である。アミロイド蓄積と症状の悪化に相関性が見出されれば、新薬の開発にも資するだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

適応拡大では、バイエルのXa阻害剤Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)を肺塞栓の治療や肺塞栓・難治性深静脈血栓の再発予防に用いること、アボットのHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)を6-17歳の重度活性期クローン病で伝統的な治療法に不応・不耐な患者に用いること、そして、MSDのIsentress(raltegravir、和名アイセントレス)を2歳以上の青少年HIV患者に用いることが支持された。

リンク:バイエルのプレスリリース

リンク:アボットのプレスリリース

CHMPはGE薬の審査も担当している。10月はノバルティスの慢性骨髄性白血病治療薬、Gleevec(imatinib、和名グリベック)のGE品が初めて肯定的意見を得た。テバの製品だ。日本の特許は2014年に失効する模様だが、欧州は2016年まで有効なので、発売は遅れそうだ。2000年代に承認された多くの薬の中でもずばぬけて優れた薬だが、値段も高いので、GE薬を待望する保険機関や患者が多いだろう。

一方、肯定的意見を獲得できなかったのがヴィーヴァス(Nasdaq: VVUS)の体重管理用コンビ薬、Qsiva(phentermine、topiramate ER)だ。肥満症の短期治療薬として米国などで承認されているphentermineは心拍影響があるため、欧州では承認が取り消された国もある。topiramateは癲癇の治療や偏頭痛予防に承認されているが、中枢神経作用剤なので当然、中枢神経系副作用を持ち、催奇性もありそうだ。

Qsivaは配合量を抑えているが、CHMPはこれらの副作用を懸念した模様。ヴィーヴァスは9月に肯定的意見を受けられそうにないことを発表している。ヴィーヴァスは異議申立を行って、違う国の委員による再審査を請求する考え。

リンク:ヴィーヴァスのプレスリリース

また、ドイツのMerz Pharmaceuticalsがデンマークのルンドベックと開発したmemantineとdonepezilの合剤も支持されなかった。中高度アルツハイマー病で両方の薬を併用している患者向けに承認申請したが、複数の併用試験のうち一部しか成功しなかったことや、memantineを服用している患者に追加投与する効用が明らかでないことなどがボトルネックとなった。

両社は既に併用している患者がスイッチする薬として申請することで裏口承認を取ろうとしたのかもしれないが、CHMPは正面から併用療法の有効性を問い、両社は、十分なエビデンスを提示することができなかった。併用療法を喧伝している学者はこのニュースを直視できないだろう。

【承認】


硝子体黄斑癒着硝子治療薬が承認

(2012年10月18日)

ベルギーのThromboGenics(Euronext Brussels: THR)が開発したJetrea(ocriplasmin)が米国で症候性硝子体黄斑癒着の治療薬として承認された。硝子体に一回、注射する。臨床試験では2-3割の患者で症状が消散した(シャム群は10%前後)。

硝子体黄斑癒着は硝子体のゲルが黄斑と癒着、穴が開くこともある。患者数は50万人と推測されている。Jetreaはヒト・プラスミンの一部を除去して短縮したもの。米国外の権利はノバルティスのアルコン部門が保有している。

リンク:ThromboGenicsのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年10月14日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月14日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • 抗アミロイド・ベータ抗体はアルツハイマー病に効くのか、効かないのか
  • クレメジンの保存期慢性腎不全試験が又々フェール
  • バイエルの新用法低用量ピルがEUで承認
  • アブラキサンが米国で非小細胞性肺癌に適応拡大



【新薬開発】


抗アミロイド・ベータ抗体はアルツハイマー病に効くのか、効かないのか

(2012年10月8日)

イーライリリーは、抗ヒト可溶性アミロイド・ベータ・ヒト化モノクローナル抗体LY2062430(solanezumab)の第三相試験のハイライトを発表した。ANA(米国神経学会議)でも研究者がデータ発表したのだが、解析方法がメーカー側と研究者側で異なる模様であり分かり難い。それはそれとして、どちらの解析でも抗アミロイド療法は無効ではないことが示唆された。今後は、正しい使い方やもっと効果の高い薬の探索が課題になりそうだ。

学会発表の詳細は把握していないので、ここではイーライリリーの発表に即して説明する。第三相試験は一本は米国中心に、もう一本は欧州・豪州中心に、軽中度アルツハイマー病患者を約1000人ずつを組入れ、18ヶ月実施した。日本の医療施設は両方に参加した模様だ。偽薬またはsolanezumab 400mgを4週間に一回静注点滴して、認知機能や生活機能の改善効果を検討した。

一本目はどちらの解析もフェールしたが、軽度(ベースライン時点でMMSEスコアが20-26)の患者には有意(p=0.008)な認知機能改善作用が見られた。18ヶ月経過時点におけるADAS-cog(認知機能に係わる11項目の病状診断スコア)の悪化が42%少なかったのである。そこで、まだデータベースをロックしていなかった二本目の試験の主評価項目を変更し、軽度患者のADAS-cog14(同じく14項目の病状診断スコア)だけとした。

二本目の結果は、悪化が20%少なかったものの有意ではなかった(p=0.120)。生活改善機能の指標であるADCS-ADLは悪化が19%少なかったが、これも有意ではなかった(p=0.076)。一方、今回のリリースで初めて公表された、事前に計画されていた軽度患者のプール分析の結果は、ADAS-Cog14の悪化が34%少なく(p=0.001)、ADCS-ADLも17%少ない傾向があった(p=0.057)。

有害事象については、発生率が1%以上で偽薬比有意に多かったのは狭心症だけだった(1.1%対0.2%)。同じ抗アミロイド・ベータ抗体であるbapineuzumabの試験では血管原性浮腫(ARIA-E)のリスクが見られたが、solanezumabは11人(発生率1%)対5人で有意な差は無かった。

イーライリリーは医薬品承認審査機関と相談する考えだが、承認申請が認められる可能性は低いだろう。第三相試験を二本以上実施するのは、一本だけだと、その結果が治験に参加した特定の医療施設、患者以外にも当てはまるかどうか、分からないからである。solanezumabは一本目の試験で浮上した仮説が、二本目の試験で再現されなかったのだから、外挿性が疑わしい。

プール分析は仮説を立証する上では意味がない。単純にいえば、二本の試験の平均値を計算しているだけなのだから、一本が成功すればそれなりに良い数値が出る。データ数が増加すれば検出力が高まり小さな差でも有意差が出やすくなる。今回のプール分析でも、一本目の試験だけの解析と比べて差が小さいのにp値は低くなっている。軽度の患者には効果がある、という仮説を構築する上では有益だが、仮説が証明されたとは言えない。従って、改めて軽度患者だけを組入れた試験を改めて行う必要があるだろう。

もう一つ、今回の試験で考えなければならないのは、統計的に有意であることと治療する価値があるということは同じではない、ということだ。Alzheimer Research Forumの記事によると、ANAでデータ発表を行ったバイエル医科大学のR. Doody自身が治療効果は小さいことを指摘した。18ヶ月間にADAS-Cog14が約8ポイント低下する中で、solanezumab群と偽薬群の差は1.41ポイントに過ぎなかった由である。

因みに、代表的なアルツハイマー病薬であるAriceptの試験では、24週間でADAS-Cog(11項目)に3ポイントの差があった。solanezumabの試験では多くの患者がAriceptなどの既存薬を服用していたので、両剤の効果を比較することはできないが、3倍の期間治療して効果は半分なのだから、効果が高いとは言えないだろう。バイオ薬なのでもし発売されたら極めて高い価格が付けられるだろうから、コストパフォーマンスも考えなければならない。

効果をブーストするにはどうしたら良いのか?アミロイド・ベータが蓄積し神経細胞に障害を与えた後に治療しても手遅れなのだとしたら、発症前に予防に用いることが考えられる。この点で注目されるのが、2013年にも開始される遺伝性・若年性アルツハイマー病予防試験、DIAN TU試験だ。solanezumabやロシュの抗アミロイド・ベータ抗体gantenerumab、そしてベータ・セクレターゼ阻害剤をテストする模様。尤も、治験の規模は小さいようだ。

もう一つは、新たな抗アミロイド・ベータ抗体やベータ/ガンマ・セクレターゼ阻害剤の探索だ。solanezumabはアミロイド・ベータの結合部位がbapineuzumabと異なり、蓄積したアミロイド・ベータには結合しないので血管原性浮腫のリスクが小さいが、アミロイド・ベータを減らす効果については良く分からないところがある。第三の箇所に結合する抗体や、結合力の高い抗体なら違った結果になるかもしれない。尤も、三剤の第三相試験全てがフェールしたことを考えれば巨額の費用を投じて挑戦する製薬会社が現れるかどうか心許ない。

子供の頃、「希望という名の あなたをたずねて遠い国へと また汽車に乗る」という歌を聞いたことがある。物悲しいメロディーを聞きながら、希望が残っていることが如何に残酷であるか、考えさせられた。アミロイド仮説はまだ希望が残っている。だが、ここからの旅は容易ではないだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

リンク:Alzheimer Research Forumの関連記事

クレメジンの保存期慢性腎不全試験が又々フェール

(2012年10月10日)

田辺三菱製薬とクレハは、海外で実施されたAST-120/MP-146(和名クレメジン)の第三相試験がフェールしたことを公表した。日本で実施された同様なアウトカム試験もフェールしており、結局、臨床的な転帰を改善するほどのパワーはそれ程大きくないのだろう。

これらの試験は用途が日本で承認されているものと若干異なるが、すごく異なる訳ではない。また、日本で承認されている用途で臨床的転帰改善作用が確認されている訳でもない。日本では21年の市販歴を持つ薬だが、このような経験を繰り返すうちに、きちんとした試験を行って効能を明確にすることの重要性が日本でも認知されるようになるのだろう。

両社のプレスリリースには明記されていないが、このEPPIC試験は1と2の二本が実施された。保存期慢性腎不全の患者を約1000人ずつ組入れて、透析導入、腎移植、血清クレアチニン値倍化の何れかが発生するリスクを偽薬と比較した。日本では6gを一日三回服用する用法だが、EPPIC試験は9g一日三回が採用された。結果は、統計学的な有意差は認められなかった。

階層別解析で進行性患者には有意差があったとのことだが、このような解析は効果の証明とは言えない。詳細はASN(米国腎臓学会)で11月3日に発表される予定。

海外試験に先立って、日本でも保存期慢性腎不全のアウトカム試験、CAP-KDが実施されたが、主評価項目(EPPIC試験と同じ)の解析はフェールした。イベント発生数が予想より少なかった模様だが、ハザードレシオを見ても、カプラン・マイヤー・カーブを見ても、私には効果が全く感じられなかった。eGFRの悪化を抑制する効果はあったようだが、海外試験ではどうだったのだろうか?

クレメジンは第三相試験の後顧的解析で24週間の透析導入・血清クレアチニン倍化発生率が38%と、偽薬群の49%より32%少なかったため、透析導入を遅らせる効能があると考えられている。CAP-KD試験の発生率ははるかに低いので、透析が必要になるリスクが高い進行性の患者でないと効果が表面化しない、と考えることもできる。一方で、後顧的解析はエビデンス・レベルが低いのだから、三本の大規模前向き試験が全てフェールしたことの方を重視して、進行性患者に対する効能にも疑問が生じたと考える余地もありそうだ。

リンク:田辺三菱製薬のプレスリリース(和文)

リンク:ClinicalTrials.govの治験登録(EPPIC-1)

リンク:ClinicalTrials.govの治験登録(EPPIC-2)

【承認】


バイエルの新用法低用量ピルがEUで承認

(2012年10月9日)

バイエルは、低用量ピルFlexyess(drospirenone、ethinylestradiol)がEUで承認されたと発表した。2013年下期からロールアウトする予定。同社のYasminなどと同じ配合だが、特徴的なのは用法だ。24日から120日の服用期間中の任意の時期に4日間の休薬日を設けることによって生理のタイミングや頻度を調整できる。120日毎ならば年3回に減らすことができる。

リンク:バイエルのプレスリリース

アブラキサンが米国で非小細胞性肺癌に適応拡大

(2012年10月12日)

セルジーン(NASDAQ: CELG)は、Abraxane(paclitaxelアルブミン結合ナノ粒子製剤、和名アブラキサン)を非小細胞性肺癌の一次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。治癒を目的とした摘出術や放射線療法の候補にはならない患者に、carboplatin併用で用いる。Abraxaneは2005年に転移性乳癌の二次治療薬として初承認された。

非小細胞性肺癌の臨床試験では、ORR(奏功率)が33%と通常のpaclitaxel製剤を用いた群の25%を有意に上回った。扁平上皮腫や大細胞カルシノーマで上回ったが、カルシノーマ/腺腫には大差なかった。同社は日本(大鵬薬品が開発販売)やオーストラリアなどでも適応拡大申請中で、2013年の承認を見込んでいる。

paclitaxelはBMSが開発した抗癌剤のベストセラー。疎水性なので溶剤を用いているが、この溶剤(cremophore)がアレルギー反応を誘発するリスクを持つため、予めステロイドなどを投与してプリトリートしたり、時間をかけて少しずつ点滴したりする必要がある。Abraxaneはヒトのアルブミンの中に入れて更にナノ粒子化した新製剤で、大きさが赤血球の100分の1と小さい。点滴時間は30分と6分の1以下に短縮されている。

副作用がやや小さいため高量投与が可能。上記の試験では、Abraxaneは100mg/m2を週一回、通常のpaclitaxel製剤は200mg/m2を3週間に1回投与したので、実質的に1.5倍の量を投与した計算になり、これがORRの向上につながったと考えられる。

リンク:セルジーンのプレスリリース

今週は以上です。

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2012年10月7日

海外医薬品ニュース週末版 2012年10月7日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • 筋ジストロフィー用薬のP2b試験が成功
  • 経口I型ゴーシェ病薬の第三相試験が成功
  • 塩野義・GSKのインテグラーゼ阻害剤の第三相試験が成功
  • MSDの週一回服用型DPP4阻害剤の後期第二相試験が成功
  • ESMO:T-DM1は延命効果も確認
  • ESMO:Herceptinのアジュバント治療は1年で十分
  • ESMO:Votrientの効果はスーテントと同程度
  • アーキュールと第一三共がc-MET阻害剤の第三相試験を打ち切り
  • ルンドベックと武田が抗うつ剤を米国でも承認申請
  • ジョンソン・エンド・ジョンソンがアステラスからJAK阻害剤をインライセンス
  • 武田薬品がノロウイルスワクチン開発会社を買収



【新薬開発】


筋ジストロフィー用薬のP2b試験が成功

(2012年10月3日)

Sarepta Therapeutics(NASDAQ: SRPT)は、AVI-4658(eteplirsen)のデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)後期第二相試験が成功したと発表した。Sareptaは承認申請に向けて当局と相談する構えだが、症例数が少ないので難しいだろう。GSKも類薬で第三相試験を実施しており、2014年頃には実用化されるのではないか。

デュシェンヌ型筋ジストロフィーはXp21染色体上のジストロフィン遺伝子が欠損・変異していて機能せず、細胞膜の構造を維持できずに筋細胞が壊死・変性、筋力が低下する。罹患率は男の新生児の3500人に一人とのことなので、少なくない。

eteplirsenはエクソン・スキッピングという現象を誘導するオリゴマー薬。欠損・変異部位の塩基配列の翻訳が妨げられ、通常よりも短いが、ある程度は機能するジストロフィンが作られるようになる。治癒する訳ではないが、進行を遅らせることができそうだ。スキップされるのはエクソン51だが、他のエクソンに変異を持つタイプを含めて、DMD患者の13%程度に有効である模様。

このP2b試験は7歳から13歳の患者12人を偽薬、30mg/kg、50mg/kgを週一回点滴静注する3群に割付けて12週間又は24週間治療した。今回発表されたデータは、偽薬群の患者を試験薬にクロスオーバー(以下、遅延開始群)、他の群は同じ用量で合計48週間投与した試験の結果だ。ジストロフィン陽性繊維が正常値の何%に改善したか、という指標が遅延開始群38%、低用量群52%、高用量群42%と何れもベースライン値比統計的に有意に改善した。24週時点では低用量群が22%に改善しただけだった。

6MWT(6分間歩行テスト、ベースライン値は400m弱)は夫々-60m、-31m、+27mの改善となり、高用量群だけが改善した。深刻な有害事象や治療関連有害事象は発生しなかった。

効果はありそうだが、ジストロフィン量改善作用が用量相関せず、6MWT改善作用と整合的ではない。結局、症例数が少なすぎるのだろう。GSKがオランダのProsensaから世界開発販売権を取得したエクソン51スキッピング薬、PRO051/GSK2402968(drisapersen)の小規模な試験でも有効性が示唆されており、第三相試験では効果の有無ではなく程度が注目点になりそうだ。GSKの第三相試験は2013年に結果が出る見込み。

尚、Sarepta社はAVI BioPharmaが社名変更した。

リンク:Sarepta社のプレスリリース

リンク:PRO051の治験論文(Goemansら、NEJM 2011年)

経口I型ゴーシェ病薬の第三相試験が成功

(2012年10月2日)

サノフィ・グループのジェンザイムは、GENZ-112638(eliglustat tartrate)の最初の第三相試験が成功したと発表した。I型ゴーシェ病で初めて治療を受ける患者を組入れた9ヶ月間の試験で、脾臓量が平均28%減少、偽薬群(2%増加)比有意に優れていた。二次的評価項目も全て達成。深刻な有害事象は偽薬群と大差なかった由。

I型ゴーシェは同社のCerezyme(imiglucerase、和名セレザイム)のような、欠乏しているグルコセレブロシダーゼを供給してグルコシルセラミドの分解促進・蓄積防止する酵素補充療法が普及しているが、2週間に一回点滴静注する必要がある。eliglustatはグルコシルセラミドの合成に関わる酵素を阻害する新しい作用機序を持つ薬で、一日二回経口投与なので便利だ。

Cerezymeといえば米国工場で品質管理問題が発生し、世界中で供給不足になったことが記憶に新しい。eliglustatは小分子薬なので作りやすいだろう。

もう一本、酵素補充療法を受けている患者がスイッチする時の有効性を調べる1年間の試験も2013年初めに結果が判明する見込み。その後に承認申請されることになるだろう。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

塩野義・GSKのインテグラーゼ阻害剤の第三相試験が成功

(2012年10月4日)

塩野義製薬が創製しGSKとファイザーのHIV/AIDS薬合弁であるViiVと共同開発しているインテグラーゼ阻害剤、S/GSK1349572(dolutegravir)の治療経験者を対象とした第三相試験が二本とも成功した。初めて治療を受ける患者の試験は既に成功しており、予定通り、年内に承認申請される見込み。

インテグラーゼ阻害剤はHIVのゲノムが宿主細胞のゲノムに取り込まれるのを防ぐ。歴史が浅いので抵抗性ウイルスが少なく、抗HIV薬の中では忍容性が良好なことが特徴だ。MSDが2007年に発売したIsentress(raltegravir、和名アイセントレス)が第一号で、ギリアッド(NASDAQ: GILD)も、日本たばこからライセンスしたelvitegravirを今年2月に米国で承認申請した。

dolutegravirは第三号になりそうだが、in vitroでIsentress抵抗性ウイルスの多くに活性を示したので、二次治療に適していそうだ。

リンク:塩野義・ViiVのプレスリリース

MSDの週一回服用型DPP4阻害剤の後期第二相試験が成功

(2012年10月3日)

MSD(米国メルク)は二型糖尿病用のDPP4阻害剤、Januvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)を他社に先駆けて発売した実績を持つ。一日二回服用なのが弱点だが、何と、週一回経口投与で済むMK-3102の後期第二相試験の成功が欧州で開催された糖尿病学会で発表された。同社のプレスリリースによると、0.25mg、1mg、3mg、10mg、25mgを週一回、12週間に亘って投与したところ、HbA1cが偽薬比平均で夫々0.28、0.50、0.49、0.67、0.71%低下、何れも統計的に有意だった。

血糖治療薬の効果は後期第二相試験でも十分確認することができるので、第三相試験の注目点は安全性だ。作用が長期間持続する薬は、服用直後の薬剤の血中濃度が高くなりがちなので、作用機序に基づく副作用がどの程度増強されるかがポイントになる。

リンク:MSDのプレスリリース

ESMO:T-DM1は延命効果も確認

(2012年10月1日)

先週はESMO(欧州の臨床腫瘍学学会)が開催され、抗癌剤絡みのニュースが多かった。新薬の白眉はロシュのT-DM1(trastuzumab emtansine)だろう。Herceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)治療経験を持つher2陽性転移性乳癌の患者を組入れて、PFS(無増悪生存期間)をXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)とTykerb(lapatinib、和名タイケルブ)の併用療法と比較した第三相試験のデータが発表された。

PFSはメジアン9.6ヶ月対6.4ヶ月、ハザードレシオ0.65となったことが既に発表されていた。今回発表された全生存期間の解析結果は、メジアン30.9ヶ月対25.1ヶ月、ハザードレシオ0.68。G3(重度)以上の有害事象発生率は41%対57%で、忍容性の面でも優れていた。米国で今年6月に承認申請されており、早ければ年内にも発売されそうだ。

T-DM1はHerceptinに用いられている抗体医薬にDM1という細胞毒を結合したもので、腫瘍細胞のher2に結合して細胞内に入り込むと、細胞毒が切り離されて毒性を発揮する。他の組織には作用し難いので、通常の化学療法より副作用が発生しにくい。

リンク:ロシュのプレスリリース

ESMO:Herceptinのアジュバント治療は1年で十分

(2012年10月1日)

そのHerceptinは、her2陽性早期乳癌切除後の再発予防(アジュバント)における効果が数年前に確認され、売上高が倍増した。乳癌は早期に発見・切除されるケースが増えたので転移性・再発性乳癌より患者数が多く、また、治療期間も長くなりがちだからだ。そこで問題になったのが最適な治療期間だ。高価な薬なので、医療保険機関は必要最低限に済ませたいのである。

ESMOでは、1年コースと2年コースと比較したHERA試験の結果と、半年コースと1年コースを比較した試験の結果が発表された。2年も1年も効果は同じ、半年では足りないという意外性の無い結果だった。

薬の開発は、いつ、どのような患者に、どのようにして投与するかの探索が中心で、いつ止めるかは発売後数十年経った薬でも不明なことが多い。今回の二本の試験は大変意義があり、今後も、同様な試験が活発に行われるのではないだろうか。

リンク:ロシュのプレスリリース

ESMO:Votrientの効果はスーテントと同程度

(2012年10月1日)

欧米では様々なVEGF受容体阻害剤が腎細胞腫向けに承認されているので、どれが一番よいのか気にかかる。有力なのはGSKのVorient(pazopanib、和名ヴォトリエント)とファイザーのSutent(sunitinib、和名スーテント)と目されていたが、ESMOで発表された直接比較試験の結果はそれを裏付ける内容だった。

PFSのハザードレシオは1.047で、95%上限が非劣性マージンの1.25を下回ったため非劣性と判定された。全生存期間のハザードレシオも0.908なので大差ない。意外だったのは有害事象で、深刻例発生率はVotrientが42%、Sutentは41%と大差なく、致死例も2%対3%で大きくは変わらなかった。Votrientの肝毒性が足を引っ張ったことに加えて、Sutentが発売後6年経ち副作用を監視して必要な措置を取ることが可能になったことも差を縮めたのだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

アーキュールと第一三共がc-MET阻害剤の第三相試験を打ち切り

(2012年10月2日)

第一三共はアーキュール(NASDAQ: ARQL)からc-MET阻害剤ARQ 197(tivatinib)の欧米における開発販売権を取得、非扁平上皮性非小細胞性肺癌の二次・三次治療第三相試験を実施していたが、主評価項目である全生存期間の中間解析で無益性が判定され、中止となった。PFS(無増悪生存期間)は有意に優れていたとのことなので、やはり、PFSはアテにならないのだろう。

この試験はTarceva(erlotinib、和名タルセバ)と併用する効果をTarcevaモノセラピーと比較したもの。日本や中国などの権利を持つ協和発酵キリンの第三相試験も中断されたが、これは間質性肺疾患の発生率が増加したことが理由なので、やや意味が異なる。

TarcevaやIressaはEGFR変異型の非小細胞性肺癌に有効だが、第一三共の試験は変異の有無は不問、協和発酵キリンの試験は変異の無いEGFR野生型を対象とした。つまり、Tarcevaだけを投与した対照群の治療は今日のスタンダードから見れば劣っており、もし併用群が優れていたとしても、意義はあいまいだっただろう。

ARQ 197は第二相Tarceva併用試験で効果の兆しが見られ、注目されたが、サブセグメント分析の内容がロシュのMetMAbの同様な試験と食い違っていた。小規模な試験のサブセグメント分析はアテにならないという好例だろう。

リンク:アーキュールのプレスリリース

リンク:第一三共の10月2日付和文リリース

【承認申請】


ルンドベックと武田が抗うつ剤を米国でも承認申請

(2012年10月1日)

ルンドベックと武田薬品は2007年に新規抗うつ剤の共同開発販売で合意、Lu AA21004(vortioxetine)の第三相試験を開始したが、用量が不足したのかフェールし、2010年に増量して改めて第三相試験を開始した。今度は良い結果になった模様で、欧州に続いて、米国で承認申請された。

vortioxetineは様々な作用を持っている様子で、in vitroでは5-HT3と5-HT7を拮抗、5-HT1Aを作動、5-HT1Bを部分作動し、セロトニン輸送体を阻害した。当初は1mgから10mgを一日一回経口投与する用法でフェーズIII入りしたが、5mgまでしか投与しなかった米国試験が二本ともフェールし、承認申請を断念した。

追加試験では主として10mgから20mgをテストして偽薬比有意な効果を確認、5mgから20mgの用量で承認申請に至った。忍容性が気になるが、有害事象による治験離脱率は6.5%と偽薬群の3.8%をやや上回る程度だった。

抗うつ剤に限らず中枢神経系の新薬開発は苦戦しており、投資を抑制する会社も出る中で、vortioxetineの成功は意義がある。

リンク:ルンドベックと武田のプレスリリース

【製薬会社の動き】


ジョンソン・エンド・ジョンソンがアステラスからJAK阻害剤をインライセンス

(2012年10月1日)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、アステラス製薬からASP015Kの日本以外での開発販売権を取得した。一日一回経口投与のJAK阻害剤で、プラク乾癬のプルーフ・オブ・コンセプト試験でPASIスコアが用量依存的に改善したとのこと。現在は中重度リウマチ性関節炎でP2b試験中。その後はジョンソン・エンド・ジョンソンが開発費を負担する。契約頭金6500万ドル、達成報奨金が売上達成報奨金も含めて8.8億ドルなので、おそらく、ピーク年商5-9億ドルを見込んでいるのだろう。

JAKはインターロイキン受容体の川下で機能する酵素で、阻害すると炎症・免疫を抑制することができる。ファイザーが昨年、tofacitinibを抗リウマチ薬として承認申請した。強力な免疫抑制作用を持つため、ファイザーは当初、臓器移植後の拒絶反応防止薬として開発していた。Prografを持つアステラスも同じだったかもしれない。

リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

武田薬品がノロウイルスワクチン開発会社を買収

(2012年10月4日)

武田薬品は、米国のLigoCyte Pharmaceuticalsと買収で合意した。ノロウイルスワクチンなどを開発しており、注目される。

ノロウイルスは様々な経路で感染し少量でも胃腸炎などを引き起こす。米国では年7万人が入院。発展途上国では5歳以下の子供が年20万人死亡するという。

LigoCyteが第1/2相試験を行っているワクチンは、ウイルス表面の感染性の無いパーティクル(VLP)を抗原として、GSKからライセンスしたMPLアジュバントを添加したもの。筋注用液と点鼻用ドライパウダーの二種類の製剤があるようだ。

2011年に77人の小規模なウイルス暴露試験の論文が刊行された。Norwalk型ウイルスのワクチンを3週間おいて二回、点鼻投与し、3週後に生ウイルスに暴露したところ、Norwalk型ウイルス誘導性胃腸炎の発症率が37%と、偽薬群の69%の半分に留まった。

リンク:LigoCyteのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:Atmarらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

今週は以上です。

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