2012年9月9日

海外医薬品ニュース週末版 2012年9月9日号




【ニュース・ヘッドライン】

  • PFSは延びなかったがOSは延びた!
  • アリムタの三剤併用試験はフェール
  • apremilastの乾癬性関節炎第三相試験がすべて成功
  • 第4のabl阻害剤が米国で承認
  • NPSと武田の短腸症候群用薬がEUで承認
  • インライタがEUでも承認



【新薬開発】


PFSは延びなかったがOSは延びた!

(2012年9月7日)

抗PS抗体の後期第二相試験でPFS(無増悪生存期間)の解析はフェールしたがOS(全生存期間)が『統計的に有意に』改善した・・・CMSTO(シカゴ集学的胸部腫瘍学シンポジウム)での発表が議論を呼んでいる。開発社であるPeregrine Pharmaceuticals(Nasdaq: PPHM)の株価は9月7日に4.5ドル、前日比46%高と急騰した。実力なのか、フェイクなのか?治験論文刊行が待望される。

PS(ホスファチジルセリン)は細胞がウイルスに感染したり癌化したりすると細胞膜の表面側に移行し、免疫抑制的に作用すると考えられている。PeregrineのbavituximabはこのPSを標的とするG1型キメラ抗体で、これまでに慢性C型肝炎や肺癌、乳癌などに臨床試験が実施された。

今回の後期第二相試験は、非扁平上皮性非小細胞性肺癌の二次治療を受ける患者121人を三群に無作為化割付した二重盲検試験で、標準療法であるdocetaxel(サノフィのタキソテール)にbavituximab(週一回点滴)を追加する効果を偽薬と比較した。ORR(反応率、主評価項目)とPFSは先に公表済みで、ORRは偽薬、1mg/kg群、3mg/kg群が各8%、15%、18%、PFSは3ヶ月、4.2ヶ月、4.5ヶ月となり何れも統計的に有意ではなかった。

ところが、今回発表されたOSの解析では、各群5.6ヶ月、11.1ヶ月、13.1ヶ月となり、ハザードレシオは1mg/kg群が0.512、p=0.0286、3mg/kg群は各0.539、0.0714、二群プール分析で統計的に有意という結果が出た。

通常なら、何かの偶然、あるいは、患者背景の偏りや治験離脱後の治療の違いが疑われるところだ。このような事象は過去にも見られたが、第三相試験で再現されなかったことが多いからである。

それでも楽観論を一蹴できないのは、化学療法と比べて効果が現れるまで時間が掛かる免疫療法ではありえないことではないからだ。 BMSの悪性黒色腫用薬Yervoy(ipilimumab)などの登場で、OSを見なければ効果を判定できない薬が存在することを否定できなくなった。

第三相試験の結果が出るまで真偽不明、としか言いようが無いが、現時点では実力と見做すには材料不足だ。被験者が少ないので当然とはいえ、p値はそれほど低くないので、偶然に統計的に有意な差が出た可能性も十分に考えられる。また、一口に非小細胞性肺癌と言ってもタイプによって平均余命が異なり、EGFRやALKに変異を持つタイプには有効な薬も存在する。更に、この試験はインドの施設で実施されたので、他の国、人種にも当てはまるのか不確かである。懐手で続報を待つ、くらいで良いのではないか?

リンク:Peregrineのプレスリリース

リンク:American Society for Radiation Oncologyのプレスリリースと学会発表抄録

アリムタの三剤併用試験はフェール

(2012年9月6日)

このCMSTOでは、Alimta(pemetrexed、和名アリムタ)の第三相適応拡大試験がフェールしたことも発表された。

切除不能非扁平上皮性非小細胞性肺癌で一次治療を受ける患者を組入れて、carboplatin、Avastin(bavacizumab)との三剤併用+コース終了時に奏効した患者はAvastinと二剤併用で維持療法を行う効果を、carboplatin、Avastin、paclitaxelによる導入療法+奏効者にAvastinの維持療法、というレジメンと比較したもの。メジアン生存期間は12.6ヶ月対13.4ヶ月、ハザードレシオ1.00で有意差が無かった。

無増悪生存期間のハザードレシオは0.83と有意だったが、メジアン値の差は1ヶ月足らずなので、あまり意味が無い。Alimtaは扁平上皮細胞以外の非小細胞性肺癌に効果があるので、該当する患者だけを組入れればよい結果が出るのではないかと思われたが、案外だった。非小細胞性肺癌の三剤併用試験は殆どがフェールしており、この壁は現在も厳然と立ちはだかっている。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

リンク:American Society for Radiation OncologyのCMSTO Late-breaker抄録(オープンアクセス)

apremilastの乾癬性関節炎第三相試験がすべて成功

(2012年9月6日)

アメリカのセルジーン(Nasdaq: CELG)は、経口PDE-4阻害剤CC-10004(apremilast)の乾癬性関節炎第三相試験が三本とも成功したと発表した。更に、ベーチェット病の第二相試験で口腔内潰瘍数を有意に抑制したことも明らかにした。

apremilastはTNFアルファやIL-6、インターフェロン・ガンマなどを抑制する作用を持ち、リウマチ性関節炎の第二相試験はフェールしたが、乾癬と乾癬に合併した関節炎の治療薬とした第三相へ進んだ。米国では2013年初めに後者の適応症で承認申請、乾癬は第三相試験の結果を待って2013年下期に承認申請、欧州は両方の適応症で2013年下期に申請する予定だ。

ベーチェット病は自己炎症性の希少疾患で、患者は地中海周辺国や日本などのアジアが中心。有効な薬が少なく、経口剤なので、ポジティブな発見だ。セルジーンは様々な国で承認申請の可能性について相談する考え。今回の試験で口腔内潰瘍を主評価項目としたのは多くの患者が発症するからだが、目や血管など患者によって様々な部位に症状が出るので、これらも抑制できるのか注目される。

リンク:セルジーンのプレスリリース

【承認申請・承認】


第4のabl阻害剤が米国で承認

(2012年9月4日)

ファイザーは、Bosulif(bosutinib)がフィラデルフィア染色体陽性慢性骨髄性白血病の二次、三次治療薬として承認されたと発表した。ノバルティスのGleevec(imatinib、和名グリベック)とTasigna(nilotinib、和名タシグナ)、BMSのSprycel(dasatinib、和名スプリセル)に次ぐ第4のabl阻害剤となる。

承認の根拠となったのは単群試験の反応率(主要細胞遺伝学的反応率や血液学的完全反応率)なので、現時点では、効果が先行品とどう違うのか明らかではない。今後、直接比較試験が行われるだろう。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リンク:FDAのプレスリリース

NPSと武田の短腸症候群用薬がEUで承認

(2012年9月4日)

NPSファーマシューティカルズ(Nasdaq: NPSP)と開発販売パートナーの武田薬品は、Revestive(teduglutide)がEUで短腸症候群用薬として承認されたと発表された。臨床試験では非経口栄養投与量を有意に減らした。

短腸症候群は腸の切除後などに発症する希少疾患で、食事を摂取できず栄養点滴が必要になる。Revestiveは小腸内膜の成長を促すGLP-2の類似物でアミノ酸を一つ置換して力価や半減期を改善した。米国でも承認審査中で10月に諮問委員会、審査期限は12月30日というスケジュール。武田が買収したナイコメッドが買収前の2007年にアメリカ、カナダ、メキシコ、イスラエル以外の開発販売権を取得した。

リンク:NPSと武田薬品のプレスリリース

インライタがEUでも承認

(2012年9月4日)

ファイザーは、VEGF受容体阻害剤Inlyta(axitinib、和名インライタ)がEUで腎細胞腫二次治療薬として承認されたと発表した。同社のSutent(sunitinib、和名スーテント)あるいはインターフェロンなど生物学的製剤による治療を既に受けた患者を組入れた第三相試験で無増悪生存期間がバイエルのNaxavar(sorafenib、ネクサバール)を有意に上回った。尤も、Sutent未経験の患者だけの解析では大差なかった。

ファイザーはこれまでに多くの製薬会社を買収、合併してきたが、つい数年前までは研究所や新薬開発プロジェクトの整理統合は行わなかった。InlytaはとSutentは作用期序が類似しているので今ならどちらかに絞り込むかもしれないが、後者が第二相試験で好成績を挙げ承認申請された後も、前者の臨床開発は続けられた。

忍容性はInlytaのほうが良さそうなので併用向きに思えたが、gemcitabine併用膵癌第三相試験はフェールし、結局、Sutentと同じ腎細胞腫単剤療法として発売されることになった。米国では今年1月、日本でも6月に承認されている。

VEGF受容体拮抗剤はSutent、Nexavarなど新薬が続々発売されているので、今後は、どのような患者にどの薬が最適なのか、それとも副作用の出方以外は同じなのか、検討することが望まれる。

リンク:ファイザーのプレスリリース

今週は以上です。

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