【ニュース・ヘッドライン】
- QVA149の第三相試験が成功(?)
- MSDはvorapaxarを承認申請する(!)
- LY2140023の第三相開発は中止に
- バイエルがregorafenibをGISTにも承認申請
- FDAがサノフィの多発性硬化症用薬の承認申請を受理せず
- T-DM1の全生存の解析が予想より早く成功
- 米国で新薬が続々と承認
- EUでアストラゼネカのMRSA作用性セファロスポリンとノバルティスの骨髄線維症用薬が承認
- Efientの薬物療法付随試験はフェール
【新薬開発】
QVA149の第三相試験が成功(?)
(2012年8月30日)
ノバルティスはQVA149の第三相COPD増悪予防試験が成功したと発表した。これで5本の試験すべてが成功したことになる。同社は2012年末までに欧州と日本で承認申請する予定。
QVA149は欧州や日本で承認審査中の速効性持効性ムスカリン拮抗剤glycopyrronium bromideと、欧米日でCOPD向けに承認されている長期作用性ベータ2作用剤Onbrez(和名オンブレス)の活性成分であるindacaterolを配合した吸入用コンビ薬。今回のSPARK試験は、重度以上のCOPD患者の中重度増悪を防ぐ効果をglycopyrronium bromide単剤と64週間に亘って比べたもの。実数は未公表だが、pは0.038だった。
この試験では、オープンレーベル(盲検ではない)でSpiriva(tiotropium 、和名スピリーバ、持効性ムスカリン拮抗剤のベストセラー)を投与する群も設定されたが、この群とは有意差が無かった(p=0.096)。但し、軽度増悪も含めれば有意差があった(0.002)。有害事象プロファイルは他の二群と類似していた。
悩ましいのは、中重度増悪の差が有意とはいえp値はそれほど低くないことだ。予防効果が前提より小さかったのかもしれない。もし単剤と比べて少し良いくらいなら、失望的だ。
類似したコンビ薬はSpirivaを開発したベーリンガー・インゲルハイムや、GSKも開発している。どれが一番効果が高いのか、忍容性はどうか、今後明らかになっていくだろう。
リンク:ノバルティスのプレスリリース
MSDはvorapaxarを承認申請する(!)
(2012年8月26日)
MSD(NYSE: MRK)は、PAR-1阻害剤vorapaxarを2013年に欧米で承認申請する考え。欧州心臓学会(ESC)会議でTRA 2P-TIMI 50試験の心筋梗塞サブセグメント分析の結果が発表されたことに合わせて、公表された。
vorapaxarは血小板上のトロンビン受容体であるPAR-1を阻害する。トロンビンは血栓カスケードがある程度活性化した段階で増加するので、平時の作用が小さく、異なったメカニズムを持つアスピリンやPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)と併用しても出血リスクが高まらないと考えられていた。
しかし、安定期虚血性心血管疾患(心筋梗塞、脳卒中、末梢動脈疾患)を治療したTRA 2P-TIMI 50試験でも、亜急性期冠症候群を治療したTRA-ACS試験でも、脳卒中/頭蓋内出血など深刻な出血事故が偽薬群より多かった。中でも、脳卒中/TIA既往患者のリスクが高く、中間解析でリスクが確認された後、TRA 2P試験では該当者の組入れを中止、TRA-ACS試験は投薬を中止する事態になった。
一方、心筋梗塞歴しかない患者ではリスクがそれほど高まらず、ある程度の再発防止効果も見られた。ESCでは改めてこのサブセグメントだけのデータが発表された。同時に、Lancet誌が治験論文をオンラインで刊行した。
このサブセグメント分析の解釈は、学者によって意見が分かれているようだ。心血管死/心筋梗塞/脳卒中の発生率は8.1%対偽薬9.7%、HR0.80、pは0.0001未満なので効果はすごく高くはないもののリーズナブルである。しかし、出血リスクが中重度出血(GUSTO基準)で3.4%対2.1%、致死的出血や頭蓋内出血は有意ではないとはいえ1.5倍と多く、後者はp=0.07なので有意水準の二歩手前に過ぎない。
再発リスクが高い患者なら便益とリスクのバランスがもっと改善するかもしれないが、高リスクである急性冠症候群を治療したTRA-ACS試験では今回と同じ評価項目のHRが0.87と、それほど高くなかった。
vorapaxarの出血リスクは作用が長期間持続することが響いているのかもしれない。オフセットの早い薬なら違う結果になるかもしれないが、巨額の治験費用を考えると、猫の首に鈴を付けに行く会社が現れるだろうか?
リンク:MSDのプレスリリース
LY2140023の第三相開発は中止に
(2012年8月29日)
イーライリリーはLY2140023(pomaglumetad methionil)の統合失調症治療薬としての第三相試験を中止することを決めた。承認申請用の第二相試験のフェールに続いて、第三相試験も中間解析で無益性(継続しても成功する可能性は著しく低い)が認定され、更に、第二相アジャンクト試験も主評価項目がフェールした。このため、進行中の他の第三相試験も打ち切ることにした。
LY2140023はmGlu2/3受容体作動剤LY404039のプロドラッグ。探索的試験で効果の兆しが見られ、注目されたが、用量探索試験は薬効解析がフェールした。尤も、実薬を投与した群も有意差が出なかったため、試験薬がフェールしたのではなく治験がフェールした可能性も考えられた。
残念なニュースだが、mGlu受容体作動剤やモジュレータは他社も含めて活発な研究が行われており、統合失調症以外に有望な用途が見つかるかもしれない。
リンク:イーライリリーのプレスリリース
【承認申請・承認】
バイエルがregorafenibをGISTにも承認申請
(2012年8月30日)
バイエルはVEGF受容体阻害剤BAY 73-4506(regorafenib)を4月に結腸直腸癌のサルベージ療法として欧米で承認申請したのに続いて、GIST(消化管間質腫瘍)のサルベージ療法としても米国で承認申請した。
結腸直腸癌の試験では全生存期間のハザードレシオが0.77、p=0.0052と良い数字が出たが、メジアン生存期間は6.4ヶ月で偽薬群の5.0ヶ月と比べてそれほど長くなかった。薬の副作用によるものと考えることもできる(poentially drug-related)死亡が4例あり、内容は心停止・喀血・肺塞栓というVEGFを阻害する薬にありがちなものだったことも懸念材料になりうる。
GISTでは無増悪生存期間のハザードレシオが0.27、pは0.0001未満と大変良い数字が出てメジアン値も4.8ヶ月と偽薬群の0.9ヶ月を大きく上回った。一方で二次的評価項目の全生存期間のハザードレシオは0.77、p=0.20とまだ有意水準に到達していなかった。エビデンスの充実度の点では物足りない。
尤も、全生存の解析は何度かアップデートされるので、もっと新しい(観察期間と該当数が多い)データがあるだろう。それが良ければ順調に承認されるだろう。
リンク:バイエルのプレスリリース
FDAがサノフィの多発性硬化症用薬の承認申請を受理せず
(2012年8月27日)
サノフィの子会社であるジェンザイムは6月にLemtrada(alemtuzumab)を再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として欧米で承認申請したが、FDAは受理しなかった(refuse-to-file)。詳細は明らかではないが、資料作成上の問題であるようだ。
承認審査機関にとって電子申請はデータの入力ミスなどを発見しやすく、また、承認申請者と異なった方法で分析するにも便利である。そのせいか、電子申請が導入された後、データやフォーマットの不備を理由に受理されないケースが散見されるようになった。
alemtuzumabは免疫細胞に発現するCD52を標的とする抗体医薬で、慢性リンパ性白血病向けにMabCampathまたはCampath名で販売されている。この製剤が多発性硬化症に転用されるとLemtradaを他の多発性硬化症用薬と同様な価格で販売することが困難になるため、サノフィは販売を中止した。医師が要望すれば供給を受けることが可能な模様だが、釈然としない。
リンク:ジェンザイムのプレスリリース
T-DM1の全生存の解析が予想より早く成功
(2012年8月27日)
ロシュはT-DM1(trastuzumab emtansine)を6月に米国で承認申請したが、薬効のエビデンスは無増悪生存期間だった。第三相試験のもう一つの主評価項目である延命効果は宿題になっていたが、成功したことが発表された。ロシュは間もなく欧州でも承認申請する予定。
この第三相試験は、Herceptinとタクサン系抗癌剤による治療を既に受けたher2陽性転移性乳癌の患者を組入れたEMILIA試験で、対照群はlapatinib(GSKのher2/EGFR阻害剤、和名タイケルブ)とXeloda(capecitabine、和名ゼローダ)を併用した。無増悪生存期間は治験担当医の主観が影響する可能性があるが、この試験は実薬対照試験なので懸念が小さい。だが、それはそれとして、きちんと延命効果が確認されたことは意義がある。承認に追い風になるだろう。
T-DM1は乳癌向けに承認されているHerceptin(和名ハーセプチン)の活性成分である抗her2モノクローナル抗体に細胞毒を搭載した新しいタイプの抗癌剤。抗体が細胞毒を腫瘍細胞選択的に運ぶため、全身性副作用が比較的小さい長所がある。
リンク:ロシュのプレスリリース
米国で新薬が続々と承認
今週は新薬承認が多かった。ギリアッド、アイアンウッド/フォレスト、メディベーション/アステラス製薬の新薬が承認され、テバのG-CSFがバイオ後続品ではなく新薬として承認された。
ギリアッド(Nasdaq: GILD)のStribildが8月27日にHIVの一次治療薬として承認された。新開発のインテグラーゼ阻害剤elvitegravirとその体内における代謝を遅らせる新開発の3A4阻害剤cobicistat、そして同社が販売している核酸系逆転写阻害剤emtricitabineと tenofovir disoproxil fumarateの四種類の成分を配合し、一日一回、一錠を服用するだけで多剤併用療法を可能にした。
インテグラーゼ阻害剤はMSDのIsentressに次ぐ第二号であり、他の薬より使用歴が短い分、耐性ウイルスを持つ患者は少ないと考えられる。但し、Isentress抵抗性ウイルスの多くはelvitegravirにも抵抗性を持つと考えられる。フォレストは、年28500ドルの価格を予定している模様(問屋取得価格ベース)。elvitegravirは日本タバコからライセンスして開発したもの。
リンク:FDAのプレスリリース
リンク:ギリアッドのプレスリリース
米国のアイアンウッド社(Nasdaq: IRWD)とフォレスト社(NYSE: FRX)は、Linzess(linaclotide)が米国で承認されたと8月30日に発表した。適応症は便秘主導型過敏性腸症候群(IBS-C)と慢性特発性便秘。子マウスの試験で死亡例が発生したため、6歳未満は禁忌、6-17歳に使うのは避けるべき、という注意書が付けられた。大人にしか承認されていないのだが、オフレーベル使用を考慮して念を押したのだろう。
Linzessはファースト・イン・クラスの経口GC-C(Guanylate Cyclase C)作動剤で、小腸で局所的にcGMPを増加させ、疼痛感受神経の活性を低下させる、とのこと。第4四半期に発売される予定。
リンク:FDAのプレスリリース
リンク:アイアンウッドとフォレストのプレスリリース
米国のメディベーション(Nasdaq: MDVN)がアステラス製薬と共同開発したXtandi(enzalutamide)が8月31日に承認された。適応症は、転移性の去勢抵抗性前立腺癌でdocetaxelによる治療を既に受けた患者。典型的な例で言えば、ホルモン療法薬に反応しなくなり疼痛などの症状が悪化して化学療法を受けたが反応しなかった、あるいは再進行したケースになる。治験では全生存のハザードレシオが偽薬群比0.63と大変良い成績を上げた。
enzalutamideはアンドロゲン受容体の細胞内シグナル伝達を阻害する経口剤。一昔前なら、ホルモン療法薬に反応しなくなった患者に有効とは想像できなかったかもしれないが、今日では、ホルモン療法抵抗性の原因はアンドロゲン受容体の過剰発現であり男性ホルモンが癌の成長を促進していることに変わりはないという考え方が主流になった。アンドロゲン独立性前立腺癌ではなく去勢抵抗性前立腺癌と呼ぶようになったのはこれが原因のようだ。
メディベーションはインライセンスした化合物の臨床開発に特化した会社で、enzalutamideはUCLAのMichael JungとMSKCCのCharles Sawyersが創製した。両氏は力価が更に高いARN-509を創製し、Aragon Pharmaceuticalsを社を設立して第二相試験を実施中。
Xtandiの価格はWAC(問屋取得価格)で1ヶ月分が7450ドルとなる模様。審査期限より3ヶ月早く承認されたせいか、発売は9月の予定。化学療法を受ける前の、まだ症状が出ていない、あるいは軽い患者を対象とした第三相試験も進行中で、おそらく成功するだろう。
リンク:FDAのプレスリリース
リンク:メディベーションのプレスリリース
テバ(NYSE: TEVA)のfilgrastim製品はEUではバイオシミラーとして承認されたが、米国では普通の新薬としてTbo-filgrastim名で8月29日に承認された。米国はバイオシミラー/バイオ後続品の開発ガイドラインの作成が遅れたため、テバは通常の臨床試験を行って、新薬として承認申請せざるを得なかったのである。
filgrastim製品は米国ではアムジェンの特許が未だ有効で、テバはアムジェンとの合意に基づき2013年11月に発売する予定。通常のGE薬とは異なり臨床試験に金が掛かっているので、値段はそれほど割安ではないだろう。
リンク:FDAのプレスリリース
リンク:テバのプレスリリース
EUでアストラゼネカのMRSA作用性セファロスポリンとノバルティスの骨髄線維症用薬が承認
(2012年8月28日)
アストラゼネカはZinforo(ceftaroline fosamil)がEUで承認されたと発表した。セフェム系の静注用抗生物質で、適応症は複雑皮膚軟組織感染症(cSSTI)と地域感染肺炎(CAP)。前者ではメチシリン耐性黄色ブドウ球菌感染に対する有効性が確認されており、これは欧州初とのこと。
元々は武田薬品がペニンシュラ社に導出したものだが、ペニンシュラがジョンソン・エンド・ジョンソンに買収された時にスピンアウトした会社を米国のフォレストが買収、アストラゼネカに北米や日本以外の権利を導出したもの。米国ではTeflaro名でフォレストが昨年、発売した。
リンク:アストラゼネカのプレスリリース
同日、ノバルティスもJakavi(ruxolitinib)のEU承認を発表した。JAK1とJAK2を阻害する経口剤で、三種類の骨髄線維症(慢性特発性、真性赤血球増多症に合併したもの、本態性血小板血症に合併したもの)を患う成人の脾臓腫大や症状を緩和する。米国のゲノム企業、インサイト(Nasdaq: INCY)から米国以外の開発販売権を取得したもの。米国では昨年、Jakafi名で承認されている。
リンク:ノバルティスのプレスリリース
【大規模試験】
Efientの薬物療法付随試験はフェール
(2012年8月26日)
第一三共がイーライリリーと共同開発・販売している抗血小板薬、Efient(prasugrel)の適応拡大試験、TRILOGYがフェールしたことがESCで26日に発表された。不安定狭心症または非ST上昇型急性冠症候群を発症して7日以内の、薬物療法だけを受ける患者に対する再発防止効果をPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)と比較したが、ハザードレシオは0.91、p=0.21と有意な差が無かった。
この試験は解釈が難しい。カプラン・マイヤー推定による30ヶ月時点の心血管イベント発生率は13.9%対16.0%でまあまあな差があったのだが、最初の一年間は殆ど差が無かったため、ハザードレシオやpが押し上げられてしまった。長期間投与するならEfientのほうが良いと言えない事もないが、二年目以降のデータのほうがフェイクである可能性もあるので、結局、どっちも大差ないと考えざるを得ない。
実薬と大差ないなら効果があると認めても良いかもしれないが、この試験は非劣性試験ではないので、実薬比有意に劣っている可能性が否定された訳ではない。対象患者は多いので、もし効果が劣っていたら大きな影響が出る。未承認のまま使用している医師が使うのを止めるほどではないが、このデータを見て新たにオフレーベル使用するほどでもないだろう。米国でこの用途に承認される可能性も低いだろう。
主解析の対象になったのは75歳未満の患者だけだった。本試験のもう一つの注目点である75歳以上あるいは体重60kg未満の患者に対する低用量の有効性、安全性に関しては、今後、詳細な分析結果が発表されるだろう。
EfientはPlavixより力価が高く、また、プロドラッグではないので2C19薬物代謝酵素の機能が低い患者にも使いやすいはずである。しかし、これらを立証するためには試験管内の血小板凝集試験だけではなく、今回の試験や承認時のエビデンスであるTRITON試験のような大規模、長期、巨大予算の臨床試験を実施して再発予防効果を確認しなければならない。
Efientのシェアは低迷しており、今回の適応拡大試験がフェールしたことで、新たな牽引役も失ってしまった。
リンク:第一三共/イーライリリーのプレスリリース
リンク:ESCのプレスコンファレンスのウェブキャスト、スライド
今週は以上です。
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