2012年9月16日

海外医薬品ニュース週末版 2012年9月16日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • 日本の試験が引き金で治験中断
  • 大塚/ルンドベックがFDAに回答
  • FDA諮問委員会はlixivaptanを支持せず
  • サノフィの多発性硬化症用薬が米国で承認



【新薬開発】


日本の試験が引き金で治験中断

(2012年9月13日)

ジョンソン・エンド・ジョンソンはJNJ-39758979の第二相試験を中断した。日本で実施されたアトピー性皮膚炎の第二相試験で二例の無顆粒球症が発生したため。Wall Street Journal紙が9月13日に報じたものだが、この日本の試験の治験登録を見ると、今年5月に報告されている。情報が多すぎて誰も気付かない、今日的な現象だ。

日本でも臨床試験が活発に行われるようになったが、数が増えると、今回のように日本発の情報が世界の新薬開発に影響する事例も増えてくる。有名なのはAvastin(bevacizumab、和名アバスチン)の末期胃がん試験だ。第三相グローバル試験がフェールしたが、地域別に見ると、日本と韓国を除けば有意な治療効果があった。日韓でも全然効果が無かった訳ではなく、対照群の生存期間が他の地域より長かったため、薬の効果が十分に発揮されなかったのではないかと私は思っている。

日本は胃癌摘出術後の生存期間が欧米より長いことが知られている。日本の医師の技術、治療法が優れているのかもしれないし、早期に発見し早期に手術するからかもしれないが、何れにせよ、医療風土の違いが治験成績に大きな影響を及ぼすことが分かる。薬の効果は病気が重いほど発揮されやすいので、予後が比較的良い患者に対する効果が小さくても不思議ではない。

Avastinと同様にロシュ・グループが開発している抗CD20ヒト化抗体、ocrelizumabも、日本のデータが原因で、多発性硬化症以外の適応症での開発が中止された。リウマチ性関節炎の第三相試験で日本の複数の患者が日和見感染症を発症したのである。ocrelizumabは抗CD20キメラ抗体Rituxan(rituximab、和名リツキサン)と同様にBセルを強力かつ長期間抑制するので感染症などのリスクが高まっても不思議は無いのだが、日本の施設以外ではあまり発生しなかったのだから、奇妙な話である。

外国の大量の治験データと国内の少数の治験データに基づいて承認される薬が増えているだけに、日本で変わった所見があった場合は、徹底的に調査、分析してそれが他の薬にもあてはまるかどうか、検証する必要があるだろう。

リンク:Wall Street Journalの記事(要登録かもしれない)

リンク:Lloyd's(保険会社)のサイトに掲載された同じ記事(登録不要)

リンク:日本のアトピー性皮膚炎第二相試験(ClinicalTrials.gov)

リンク:Avastinの胃癌試験の結果概要(『消化器癌治療の広場』)

リンク:ocrelizumabの第三相試験の深刻な感染症発生状況(2010年ACR抄録)

リンク:上記第三相試験の一つの治験論文(Annals of the Rheumatic Diseases、オープンアクセス)

【承認申請・承認】


大塚/ルンドベックがFDAに回答

(2012年9月12日)

大塚製薬は向精神薬Abilify(aripiprazole、和名エビリファイ)の月一回注射用新製剤を米国で2011年に承認申請したが、今年7月に審査完了通知を受領した。指摘事項は溶解用注射用水の製造委託先の不備だけとのことだ。同社は指摘事項に対する回答を提出、この度、FDAに受理されたと発表した。審査期限は2013年2月28日。

BMSと共同開発販売しているAbilify錠は2015年に米国で特許が切れる。長期持効性製剤は一定の需要があり、物質特許が切れた後も製剤特許で保護されるので、ライフサイクル・マネジメント手法として有効だ。しかし、aripiprazole新製剤はBMSではなくルンドベックと開発販売提携した。両社の他の開発品も対象とする包括的な内容であることや、条件も有利だったのだろう。

リンク:大塚/ルンドベックのプレスリリース(和文、pdfファイル)

リンク:大塚/ルンドベックのプレスリリース(英文)

FDA諮問委員会はlixivaptanを支持せず

(2012年9月13日)

FDAの心臓腎臓薬諮問委員会は、コーナーストーン社(Nasdaq: CRTX)が承認申請したバソプレシン2受容体拮抗剤、lixivaptanを支持しなかった。慢性心不全治療用途は全員が承認に反対、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)に伴う低ナトリウム血症の治療用途でも反対5人、賛成3人と反対が上回った。

原因は、第三相慢性心不全試験の中間解析で死亡率に偏りが見つかり、中止されたことである模様だ。心筋梗塞が多かった。薬との因果関係は明確ではない模様だが、もし副作用だとしたら、低ナトリウム血症の患者にも影響があるかもしれない。既にアステラス製薬のVaprisol(conivaptan)や大塚製薬のSamsca(tolvaptan)が承認されているので、懸念が払拭されるまで承認を遅らせても大きな問題はないだろう。

lixivaptanはCardiokine社が2004年にワイス(後にファイザーが買収)からライセンスし、バイオジェン・アイデックと共同で第三相試験を開始したが、2010年に提携解消となった。当時は明らかにされなかったが、慢性心不全試験が不首尾に終わったことが原因なのだろう。Cardiokineは2011年12月に承認申請した後、コーナーストーン社に買収された。

今回の話を聞いて、なぜこんな薬を承認申請したのか訝る読者もいるだろうが、大手製薬会社が忌避するようなリスクを敢て取る新興企業も少なくない。

リンク:コーナーストーンのプレスリリース

サノフィの多発性硬化症用薬が米国で承認

(2012年9月12日)

FDAはサノフィのAubagio(teriflunomide)を承認した。再発寛解型多発性硬化症の維持療法に用いる。第三相試験では再発頻度が偽薬比3割、少なかったが、Rebif(独メルクのベータ・インターフェロン製剤)群とは大差なかった。

ノバルティス(田辺三菱製薬)のGilenya(fingolimod、和名ジレニア/イムセラ)と同様に経口剤だが、再発抑制効果はやや小さく、深刻な肝障害のリスクや催奇性が枠付警告され、脱毛も見られる。一方で、日和見感染症や心毒性のリスクは比較的小さいように感じられるので、代替的な治療オプションとして用いられることになりそうだ。米国では注射薬であるAvonexやRebifより数%、Gilenyaより3割近く低い価格で発売される模様。

Aubagioは抗リウマチ薬Arava(leflunomide、和名アラバ)の代謝物で、ピリミジンの合成を阻害する。活性化したリンパ球は新生ピリミジンを必要とするので、合成を阻害することで自己免疫を抑制することが出来る。AubagioはAravaより肝毒性が小さいことが期待されたが、そうでもないようだ。

開発後期の多発性硬化症用薬で最も注目されているのは、バイオジェン・アイデックのBG-12(dimethyl fumarate)だ。経口剤で、効果はGilenya同様に高く、胃腸副作用や肝機能検査値異常が見られるものの深刻な副作用のリスクは小さい。本年末に承認されたら、GilenyaやAubagioの強力なライバルになりそうだ。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

今週は以上です。

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