2012年3月25日

海外医薬ニュース週末版 2012年3月25日号



ニュース・ヘッドライン



新薬開発



PAR-1拮抗剤は心筋梗塞を減らすが出血事故が増える
3月24日にACC(米国心臓学会)でPAR-1拮抗剤vorapaxarのフェーズIII試験、「TRA 2P--TIMI 50」試験の結果が発表された。治験論文もNEJM誌のウェブサイトで公開された。心筋梗塞再発などのリスクを13%削減することに成功したが、出血リスクも有意に高まり、両刃の剣であることが確認された。血栓や血小板に作用する薬にはありがちなことだが、PAR-1拮抗剤はリスクとベネフィットのバランスが良いはずだった。



PAR-1は血小板のトロンビン受容体だ。トロンビンは血栓形成に関与するプロテアーゼとして知られているが、PAR-1を通じて血小板を活性化する作用も持つ。この作用は血小板活性化・血栓形成プロセスがある程度進んだ段階で活発化し血小板だけに作用するのでトロンビンを直接阻害する薬ほどは出血リスクを高めないはずである。また、アスピリンやチエノピリジン(クロピドグレルなど)などの他の血小板凝集阻害剤とはメカニズムが異なるので、三剤併用によるシナジーも見込まれる。



PAR-1拮抗剤で開発が一番進んでいるのがvorapaxarだ。シェリング・プラウの開発品だったが、MSD(メルク)が同社を買収した。フェーズIIb試験で出血事故を増やさずに心筋梗塞を防ぐ効果が示唆されたため、フェーズIIIに進んだ。今回のTRA 2P試験の組入れ対象は心筋梗塞や脳卒中/TIA(何れも発症から2週間以上、12ヶ月以内の亜急性期・安定期患者)、そして末梢動脈疾患の患者。世界32ヶ国の1,032施設で26,449人(うち日本は580人)を組み入れ、メジアンで30ヵ月フォローした。もう一本、非ST上昇型心筋梗塞を組み入れたTRACER試験もロンチされた。



ところが、2011年1月に、データ安全性監視委員会がTRACER試験全体と、TRA 2P試験の被験者のうち脳卒中/TIA既往の投薬中止を勧告した。頭蓋内出血などの出血事故が偽薬群より多かったからだ。TRACER試験の結果は昨秋のAHA科学部会とNEJM誌で発表されたが、心筋梗塞再発などを防ぐ有意な効果はなく、出血事故が増えるだけだった。TRA 2P試験では心血管因による死亡、心筋梗塞、卒中の複合評価項目の発生率が3年間で9.3%と偽薬群の10.5%より有意に低かった(HR0.87、95%CI 0.80-0.94、p<0 .001="" br="">


脳卒中/TIA既往患者以外では出血リスクは小さく、また、心筋梗塞経験者で且つ体重60kg以上の患者だけのサブセグメント分析では出血事故を増やさずに再発を予防する効果が示唆された。しかし、サブセグメント分析なので説得力が高くなく、また、TRACER試験の結果と一致していないので再現性に疑問が残る。何れにせよ、患者を吟味して慎重に使うべき薬であることは明らかであり、当初の期待が外れたと言わざるを得ない。残念な結果になった。



ところで、今回の試験で驚かされるのは、脳卒中/TIA既往患者の24%が治験開始時点でアスピリンとチエノピリジンを併用するDAPT(デュアル・アンチ・プレイトレット・セラピー)を受けていたことだ。脳卒中には単剤で十分であり併用しても出血リスクが高まるだけであることが認知されていないのかもしれない。選ばれた医療施設の選ばれた医師が厳選された患者を対象として行う試験でもこうなのだから、日常医療ではもっと多くの患者がDAPTを受けているかもしれない。新規チエノピリジンやXa阻害剤、トロンビン阻害剤など抗血小板薬、抗血栓薬の新薬が続々と登場しているが、程度の差はあれ両刃の剣であることに違いは無いので、エビデンスをよく吟味して患者毎に適性を慎重に評価することが重要だろう。



リンク:NEJM誌TRA 2P試験論文(要登録)

リンク:PubMed TRACER試験論文抄訳(オリジナルはNEJM誌で刊行)



抗PCSK9抗体のPOC試験結果がACCで発表される
米国の新興製薬会社であるリジェネロン社(NASDAQ: REGN)がサノフィと共同開発しているREGN727/SAR236553のフェーズIIa試験の結果が、3月2日にACC米国心臓学会のlate-breakerとして発表される。LDL-Cを削減する効果はありそうなので、今回の発表、そして将来の臨床試験では安全性が最大の注目点になるだろう。



この薬はPCSK9に結合するフル・ヒト抗体で、皮注投与する。PCSK9はプロテアーゼの一種で、LDL-C受容体の零落を促す。従って、抗PCSK9抗体を投与することによって血液中のLDL-Cが肝臓に取り込まれるのを促進し、血清LDL-C値を下げることができるかもしれない。アフリカ系の中にはPCSK9機能喪失多型を持つ人がいて、心血管疾患が少ない由である。



両社は昨年11月にPOC試験三本中、一本のヘッドラインを発表している。ヘテロ接合型家族性高脂血症の患者に12週間投与したところ、LDL-C値が用量・用法に応じて30-65%低下し、偽薬群の10%を有意に上回った。肝機能検査値異常やCPK上昇は見られなかった。



リンク:学会発表に関する両社のプレスリリース
POC試験に関する2011年11月のプレスリリース


mGluR5阻害剤はパーキンソン病患者のレボドパ誘導性ジスキネジアを緩和できるかもしれない
スイスの新興医薬品開発企業であるAddex Therapeutics(SIX: ADXN)は、mGluR5阻害剤dipraglurantのフェーズIIa試験が成功したと発表した。レボドパを服用しているパーキンソン病患者のレボドパ誘導性ジスキネジア(LID)を治療する上での忍容性や効果を調べたもので、重大な有害事象は増加せず、症状を緩和する効果の兆しが見られた。小規模なプルーフ・オブ・コンセプト試験なので信憑性はそれほど高くないが、mGluR阻害剤の臨床研究は未だ始まったばかりと言ってもよい段階であり、また、この用途は比較的斬新だ。今後が注目される。



mGluRはグルタミン酸の受容体で、LIDのようなグルタミン酸が関与する疾患における役割が注目されている。イーライリリーがmGlu2/3受容体作動剤を統合失調症などに臨床開発しているほか、LIDではノバルティスがmGluR5阻害剤AFQ056でフェーズII試験を行っている。Addex社はmGluRの研究で実績があり、これまでに複数の大手製薬会社と共同研究、共同開発契約を結んでいる。



今回の28日間の試験のハイライトは、先ず、有害事象発生率はdipraglurant群が88.5%、偽薬群75%。mGluR5関連の有害事象(回転性めまい、視覚障害、酩酊感)が10%未満の患者で発生したが重度ではなく薬剤投与に影響は無かった。探索的な薬効解析では、抗ジスキネジア作用の指標であるmAIMSが投与初日も第14日も有意に減少した(p値は0.04前後)。効果は第28日も維持されていたが、偽薬群の数値が改善したため有意差に届かなかった。レボドパの効果は妨げられなかった。



この試験は、映画「バック・トゥー・ザ・フューチャー」の主演で有名なパーキンソン病患者、マイケル・フォックスが患者や研究を支援するために設立した、Michael J. Fox Foundationの補助金を受けて実施された。Addexは、開発成功を前提に10億ドル以上のピーク時年商を見込んでいる。



リンク:Addex社プレスリリース


承認申請・承認


グラクソがアドエアの次世代品を承認申請へ
グラクソ・スミスクラインがTheravance(Nasdaq:THRX)と共同開発しているRelovairのフェーズIII試験が完了した。年央に承認申請される見込み。喘息症やCOPDの維持療法薬として世界中で広く用いられえいるAdvair(和名アドエア)の次世代品で、Advairに配合されているステロイド、fluticasoneの新しい塩と新開発の長期作用性ベータ2作用剤vilanterolを配合した吸入用コンビ薬だ。Advairと比べた長所は、吸入頻度が一日二回ではなく一回で済むこと。効果の面では幾つかの試験ではAdvairより優れていたが、他の幾つかの試験では大差無かったので、判然としない。



欧州では年央に喘息症とCOPD用途で承認申請される予定。米国はCOPDだけで承認申請し、喘息症用途はFDAと相談を続ける。FDAはベータ2作用剤の常用と重篤な喘息発作の関連性を懸念していて、Advairを含む既存の薬品のメーカーに大規模安全性確認試験の実施を要請している。効果が高い薬はリスクも高い可能性があるので、Relovairの承認に慎重であったとしても不思議は無い。



リンク:

GSKのプレスリリース
FDAの長期作用性ベータ2作用剤に関する情報サイト


FDA諮問委員会はpazopanibを軟組織肉腫に支持、ridaforolimusは支持せず

3月20日に開催されたFDA腫瘍学薬諮問委員会は、軟組織肉腫用薬として承認申請された二種類の薬剤を検討した。何れも評価が分かれたが、pazopanibが賛成11人、反対2人と承認を支持する委員が太宗を占めたのに対して、ridaforolimusは賛成1人、反対13人で厳しい結果になった。

pazopanibはグラクソ・スミスクラインが開発したVEGF受容体拮抗剤で、Votrientという商標で腎細胞腫向けに承認・販売されている。ridaforolimusはARIAD社(NASDAQ:ARIA)がMSD(メルク)に導出したmTOR阻害剤で今回が初めての承認申請。何れも、末期軟組織肉腫の化学療法を受けた患者の維持療法用薬として承認申請された。尚、pazopanibの試験ではGIST(消化管間葉系腫瘍)や脂肪細胞肉腫は除外された。

明暗が分かれたのは治験成績が原因のようだ。pazopanibの試験ではメジアンPFS(無増悪生存期間)が4.6ヶ月と偽薬群の1.6ヶ月を有意に上回り、全生存期間も12.6ヶ月対10.7ヶ月で延命効果の兆しが見られた(有意ではない)。一方、ridaforolimusの試験では、PFSが16週対14週で有意であるものの差は2週間に過ぎなかった。全生存期間は20.8ヶ月対19.6ヶ月で有意差は無かった。肉腫は新薬が少ないunmet medical needだが、ridaforolimusは治療効果が小さく、また、副作用リスクについても維持療法用薬に求められる忍容性を満たしていない、と判断された。
リンク:GSKのプレスリリース
MSDとARIAD社のプレスリリース


医薬品の安全性



カナダも5アルファ還元酵素阻害剤の前立腺癌リスクを警告

カナダの厚生省であるHealth Canadaが、5α還元酵素阻害剤とハイグレード(高悪性度)前立腺癌の関連性について警告した。良性前立腺肥大の治療薬として承認されているフィナステリド(男性脱毛症にも承認)とデュタステリドの長期試験でリスクが見られたため。発生率やリスクは小さい。

この試験は前立腺癌予防効果を調べたもので、最初に実施されたフィナステリドのPCPT試験は期待通りだったが、何故か、ハイグレードの前立腺癌に関しては試験薬群の方が多かった。その段階では特殊な理由によるものと考えられたが、デュタステリドのREDUCE試験でも同じ現象が見られたため、真偽は依然として明らかではないものの、関連性を疑わざるを得なくなった。

フィナステリドは脱毛症の治療に使う時は5分の1の量を用いる。この用量・用途での大規模長期試験は実施されていないので、同様なリスクがあるのかないのか分からない。Health Canadaは否定できない以上、疑うべきと判断した。

尚、米国では既に同様な警告が発出済みである。一方、日本の添付文書には記されていない。

リンク:Health Canadaの発表
この問題に関するFDAの発表


サクサグリプチンのドクターレター

二型糖尿病治療薬Onglyza(saxagliptin)を欧米で共同販売しているBMSとアストラゼネカが欧州でドクターレターを発出した。市販後監視で重篤な過敏反応や急性膵炎の懸念が浮上したことから、過敏反応を経験した患者は禁忌とすること、膵炎の徴候(持続的、重度の腹痛)を患者に教えること、もし膵炎が疑われる時は投与を中止すること、を呼びかけている。

saxagliptinはDPP-IV阻害剤と呼ばれる新しいタイプの血糖降下剤で、血糖値が上昇するとインスリン分泌を刺激する。SU剤と異なり膵臓が疲弊しにくいため、長期投与しても効果が減衰しにくい。また、経口剤としては唯一の体重が増えない薬である。日本では大塚製薬がフェーズIII試験中。

膵炎のリスクはMSDのDPP-IV阻害剤ジャヌビア(シタグリプチン)の海外の市販後有害事象報告でも見られ、また、同じパスウェイに作用するGLP-1阻害剤、イーライリリーのバイエッタ(エキセナチド)でも見られる。おそらく、ノボ ノルディスクのビクトーザ(リラグルチド)にもあるだろう。FDAはこれらの会社に大規模安全性確認試験を求めているので、数年後には、心筋梗塞を防ぐ効果や膵炎などのリスクに関するデータが出揃うだろう。

リンク:英国のNHSの医療従事者向けブログ
アイリッシュ・メディスン・ボード(ドクター・レターのリンクあり)


製薬会社の動き



アボットの創薬型製薬会社の名前はAbbVieに決定
アボットは2012年末に企業分割を行って、創薬型製薬事業と医療機器・GE薬事業の独立した二社を設立する予定だが、前者の社名がAbbVieに決定した。後者はAbbottの名前を受け継ぐ。

AbbVieのVieは、ラテン語でライフを意味するviに因んだもの。世界中の人々の生活を向上するべく、vital(重要な、力強い、などの意味がある)な仕事を継続するという意志が籠められている。AbbVieの年商は180億ドル規模で、抗リウマチ薬ヒュミラ、前立腺癌治療薬リュープリン(米国などの販売権を持つ)、抗HIV薬カレトラなどを取り扱う。

リンク:アボットのプレスリリース


今週は以上です。

2012年3月18日

海外医薬ニュース週末版 2012年3月18日号



ニュース・ヘッドライン

  • FDA諮問委員会が抗NGF抗体の開発続行を支持
  • アルコンがThromboGenicsの硝子体黄斑癒着治療薬をライセンス
  • FDAがCornerstoneの低ナトリウム血治療薬承認申請を受理
  • テバが米国でレクサプロのGE品を発売
  • クレストールのGE品がカナダで承認
  • NATCOがインドでネクサバールのGE品を発売へ


新薬開発



FDA諮問委員会が抗NGF抗体の開発続行を支持
3月12日に開催されたFDA関節炎諮問委員会が、抗NGF抗体の治験再開を全員一致で支持した。抗NGF抗体はファイザーなど複数の企業が骨関節炎や癌骨転移の対症療法として開発してきたが、今後は、難治性の患者に限定して、骨安全性を密接にモニターしながら、非ステロイド消炎鎮痛剤を併用せずに、臨床試験を行うことになりそうだ。



NGF(神経成長因子)はジェネンテック(ロシュ・グループ)が発見し、筋萎縮性側索硬化症などの治療薬として臨床試験を行ったが、失敗した。その後、ジェネンテックからスピンアウトしたRinat Neuroscience社が治験で疼痛の副作用が見られたことに着目、NGFが疼痛感受性を高めること、そして抗NGF抗体に鎮痛作用があることを発見した。2006年にファイザーが同社を買収し、2008年に抗NGFヒト化抗体tanezumabで骨関節炎のフェーズIII試験を開始した。ところが、2010年に入って、骨関節炎が急激に進行し関節置換術を受けた症例が多いことが判明。他社の開発品でも同様なリスクが見られたことから、FDAがクリニカル・ホールド(臨床試験差止)を命じた。尚、ジョンソン・エンド・ジョンソンのfulranumabの癌性疼痛試験だけは後に差止解除となった。


ファイザーはこれまでにtanezumabを6400人に投与した。骨関節炎の急激増悪や無腐性骨壊死、関節置換術施行は355例であった模様なので、リスクは高い。それでも諮問委員会が治験再開を支持したのは、鎮痛剤に反応しない患者のニーズが充足されていないことや、非ステロイド消炎鎮痛剤を併用しなかった患者ではリスクが比較的低かったことが理由のようだ。


上記の二社のほかに、リジェネロン・ファーマシューティカルズ社がサノフィと共同開発しているREGN472/SAR 164877もクリニカル・ホールドになっている。



リンク:Medpage Todayの報道(要登録)



リンク:tanezumabの治験論文抄録(PubMed)



アルコンがThromboGenicsの硝子体黄斑癒着治療薬をライセンス
アルコン(ノバルティスの眼科部門)はベルギーのThromboGenics社が開発した硝子体黄斑癒着(VMA)治療薬、ocriplasminを米国以外で販売する権利を取得した。アルコンは一時金として7500万ユーロ、今後の目標達成に応じて最大3億ユーロを支払う。


ocriplasminは遺伝子組換え型短縮ヒト・プラスミンで、症候性硝子体黄斑癒着を治療するフェーズIII試験が二本とも成功し、2011年10月にEUで販売承認申請された。米国でも同年12月に承認申請されたが、承認前検査の受け容れ準備が整っていない模様であり、一旦撤回して今年4月に再申請する見込みとなった。


硝子体黄斑癒着は硝子体ゲルと黄斑が強く癒着する疾患で、失明に至ることもある。米国の患者数は50万人と推定されている



リンク:ノバルティスのプレスリリース



リンク:ThromboGenics社ホームページ



承認申請・承認



FDAがCornerstone社の低ナトリウム血治療薬承認申請を受理
米国ノース・カロライナ州のCornerstone Therapeutics社(Nasdaq: CRTX)はCRTX 080(lixivaptan)の承認申請がFDAに受理されたと発表した。同社は病院用のGE薬や新薬に特化した製薬会社。CRTX 080はバスプレシン2受容体拮抗剤で、2004年にCardiokine社がワイス(後にファイザーが買収)からライセンス、バイオジェン・アイデックと共同開発していたが2010年に提携解消となった。2011年12月に米国で承認申請されたところでCornerstone社がCardiokineを買収した。


バソプレシン受容体拮抗剤は日本勢が先行していて、米国では2006年にアステラス製薬の点滴用バソプレシン1a/2受容体拮抗剤Vaprisol(conivaptan)が、2009年には大塚製薬の経口バソプレシン2受容体拮抗剤Samsca(和名サムスカ、tolvaptan)がほぼ同じ用途で承認された。



リンク:Cornerstone社プレスリリース



テバが米国でレクサプロのGE品を発売
イスラエルと米国の二本社制を取る世界最大のGE薬メーカー、テバ・ファーマシューテイカル(Nasdaq: TEVA)は米国でLexapro(和名レクサプロ;escitalopram)のGE品を発売した。Lexaproを開発したルンドベックの特許に挑戦して失効より早く発売できたため、ハッチ・ワックスマン法に基づく排他権を獲得。FDAは向こう180日間、他のGE品を承認することが禁じられる。テバのリリースによると、Lexaproの米国年商は29億ドル。



リンク:テバのプレスリリース



クレストールのGE品がカナダで承認
マイラン社(NYSE: MYL)はカナダでCrestor(和名クレストール、rosuvastatin)のGE品の販売承認を得た。Crestorはアストラゼネカが塩野義製薬から導入して開発した高脂血症治療薬で、マイランのリリースによるとカナダでの年商は7億ドル強(2011年)。アストラゼネカはマイランなどのGE薬メーカーを特許侵害で提訴したが後に和解、カナダではマイランとランバキシーが今年4月2日以降にGE品を発売することができる。



リンク:マイラン社プレスリリース



NATCOがインドでネクサバールのGE品を発売へ

インドのGE薬メーカーのNATCO社は、Nexavar(和名ネクサバール;sorafenib)のGE品を同国で発売する許可を得た。Nexavarはバイエルがオニキス・ファーマシューティカル(Nasdaq: ONXX)と共同で開発した抗癌剤。特許が2021年まで有効だが、インド特許法に基づいて、強制的にNATCOにライセンスされた。


NATCOは1ヶ月分(120錠)を8,880ルピー(約15,000円)と、バイエルの製品より97%安く販売し、更に、年間600人以上に無償で提供する。また、正味売上高の6%をロイヤルティとして払う(誰に支払うのかプレスリリースには記されていないが、バイエルだろう)。
リンク:NATCO社プレスリリース



今週は以上です。


2012年3月11日

海外医薬ニュース発刊!

2012年3月から、Medicine Blogを衣替えして海外医薬品ニュースをお送りします。現在は週末だけのパイロット・プロジェクトですが、将来的に毎朝発信する計画もあります。ご愛読ください。

海外医薬ニュース2012年3月11日号



ニュース・ヘッドライン

  • J&JのZytigaの前立腺癌一次化学療法適応拡大試験が成功
  • 米国でもアレルギー免疫療法剤が承認申請される
  • ミルナシプラン異性体のフェーズⅢ試験が成功
  • 学会発表:ルンドベックのアルコール依存治療薬SelincroのフェーズIII試験結果
  • sPLA2阻害剤のフェーズⅢ試験が中止に
  • Aegerin社がMTP阻害剤を欧米で承認申請
  • FDAがエーザイのペランパネルの承認申請を受理
  • 四価インフルエンザ・ワクチンが米国で承認
  • ドンペリドンと深刻な脈拍異常・突然死の関連性

新薬開発



J&JのZytigaの前立腺癌一次化学療法適応拡大試験が成功

ジョンソン・エンド・ジョンソンのCYP17阻害剤Zytiga(abiraterone acetate)は昨年、末期・転移性去勢抵抗性前立腺癌の二次化学療法薬として承認されたばかりだが、一次化学療法としての効能を調べる適応拡大試験が成功した。


この試験の対象は、去勢・ホルモン療法に反応しなくなったが未だ症状は無い又は軽い患者。ステロイド(prednisone)だけを一日二回経口投与する群と、Zytigaを一日一回経口併用する群の放射線学的無増悪生存期間を比較した。中間解析の結果が良かったため、独立データ監視委員会が盲検を解除してプラセボ群の患者にZytigaの併用を可能にするよう勧告したもの。詳細は後日、学会で発表される見込み。


前立腺癌の治療には切除や放射線療法、ホルモン療法など様々な選択肢がある。反応が失われた後の選択肢は限られていたが、ステロイドやdocetaxelに加えて、Zytigaなどの新薬が続々と登場している。


リンク:ジョンソン・エンド・ジョンソン社プレスリリース



米国でもアレルギー免疫療法剤が承認申請される

米国のメルク(日本ではMSD)は、アレルギー性鼻結膜炎の経口減感作療法剤のフェーズⅢ試験が成功したと発表した。ブタクサ・アレルギーの患者を対象に、シーズンが始まる16週間前から一日一回投与したところ、ピークであった2週間の症状・服薬治療複合評価項目がプラセボ比有意に改善した。主な有害事象は口、耳、喉の痒みや刺激感。同社は2013年に米国でブタクサと芝アレルギーの薬として承認申請する計画。


フランスなどでは経口剤による減感作療法が普及している模様であり、MSDはデンマークのAlk Abello社が欧州でGrazax名で販売しているものをライセンスした。Alk Abelloの試験では症状スコアがプラセボ比1-2割しか改善しなかったので、特効薬には程遠いが、代替的な治療法の一つになりそうだ。


リンク:MSDのプレスリリース



ミルナシプラン異性体のフェーズⅢ試験が成功

米国のフォレスト・ラボラトリーズ(NYSE: FRX)とフランスのピエール・ファーブルは、levomilnacipranの二本目の鬱病治療試験も成功したと発表した。日本でも承認されているmilnacipranの異性体で、北米の権利を取得したフォレストが共同開発しているもの。抗鬱剤の試験はプラセボ効果が高くなりがちで成功率が低いため、フェーズⅢ試験は三本実施されている。最後の一本(この試験だけ用量調節しない)の結果は今春、明らかになる予定。


大型薬の特許切れ対策としてラセミ体を開発する事例は珍しくないが、欧州と米国では環境が異なる。EUでは規制が強化され、ラセミ体が既に承認されている場合、異性体を新薬として承認申請するハードルが高くなったが、米国にはこのような規制は無く、また、特許も取り易い。levomilnacipranの場合、米国では2023年まで有効な用法特許が存在する。このため、商業化は米国など一部の地域に限定されるのではないだろうか。


リンク:フォレスト社のプレスリリース



学会発表:ルンドベックのアルコール依存治療薬SelincroのフェーズIII試験結果

ルンドベックは、フィンランドのBioTie Therapiesからライセンスしたアルコール依存治療薬、Selincro(nalmefene HCI)のフェーズⅢ試験結果が第20回EPA(European Congress of Psychiatry)で発表されたことを明らかにした。ルンドベックのプレスリリースによると、主評価項目は「大酒を飲んだ日数」と「平均飲酒量」。投与方法は、被験者が必要に応じて、できれば飲みたくなる1-2時間前に、18mg錠を一日一回、経口服用する。フェーズⅢは二本実施され、一本は成功したが、もう一本は「平均飲酒量」がプラセボ比トレンドに留まった。主な有害事象は一時的なめまいや不眠、悪心。


SelincroはEUで2011年12月に販売承認申請が受理されたが、この内容ではスムーズに承認されない可能性がありそうだ。尚、米国の承認申請は計画していない模様。


リンク:ルンドベック社プレスリリース



sPLA2阻害剤のフェーズⅢ試験が中止に

Anthera Pharmaceuticals(Nasdaq: ANTH)は、varespladibのフェーズⅢ急性心筋梗塞を中止すると発表した。中間解析で無益性が判定され、完遂しても成功の見込みがないため。塩野義製薬が創製したsPLA2(分泌型ホスホリパーゼA2)阻害剤でイーライリリーと共同開発していたが断念、Anthera社に導出したもの。


リンク:Anthera社プレスリリース



承認申請・承認



Aegerin社がMTP阻害剤を欧米で承認申請

米国マサチューセッツ州のAegerin Pharmaceuticals(Nasdaq: AEGR)は、lomitapideをホモ接合型家族性高脂血症の治療薬として欧米で承認申請した。ミクロソーム・トリグリセライド転移蛋白(MTP)を阻害する新しい作用機序を持ち、肝臓でVLDL-Cが合成される過程を阻害する。経口剤。治験で血清LDL-Cを大きく引き下げたが、肝臓にトリグリセライドが蓄積して脂肪肝になるリスクがあり、肝機能検査値異常も見られるので、深刻な合併症を招く可能性がないか十分に検討する必要がありそうだ。


ホモ接合型家族性高脂血症はLDL-C受容体などの遺伝子異常が。二組の遺伝子の何れも機能しないホモ接合型は、血清LDL-C値が著しく高く心血管疾患のリスクが高い。定期的にアフェレーシスを施行してコレステロールを除去しなければならない患者もいる。患者数は米国と欧州5ヶ国の合計で約500人と推測されている。


リンク:Aegerin社プレス・リリース



FDAがエーザイのペランパネルの承認申請を受理

エーザイは経口AMPA受容体拮抗剤ペランパネル(perampanel、E2007)を部分てんかんのアジュバント治療薬として新薬承認申請していたが、FDAに受理された。本格的な承認審査プロセスが始まることになる。


エーザイは2011年5月に欧米で承認申請し、欧州では受理されたが、米国はFDAがデータ・フォーマットや解析の修正を求めたため同年12月に改めて申請した。FDAが最初の申請を受理しなかった理由は不明だが、EUと米国ではてんかん治療薬の薬効評価基準が若干異なることが影響しているのかもしれない。フェーズⅢ試験の結果を見ると、EUが重視する奏効率は良い結果だったが、FDAが重視するてんかん発作減少は解析方法(発作頻度集計対象期間)によって区々だった。


部分てんかんは有効な治療薬が数多く存在するが、複数の薬を併用しても発作を十分に防げない患者に追加するアジュバント薬のニーズが満たされていない。ペランパネルは新規作用機序を持つのでこのようなニーズを充足できる可能性がある。


リンク:エーザイの和文プレスリリース


四価インフルエンザ・ワクチンが米国で承認

四種類のインフルエンザ抗原を配合したワクチン、FluMistが米国で承認された。インフルエンザ・ウイルスは種類が多いので、WHOや政府機関が次の冬に流行しそうな株を予測して、A型ウイルスから二種類、B型から一種類を選んでワクチンに入れる。近年はB型の流行予測が難しくなっているようで、来冬の株を決める米国の委員会では意見が分かれたようだ。四価ワクチンはB型を二種類配合できるので、的中率が上がる。インフルエンザ・ワクチンの世界的な大手の一社であるグラクソ・スミスクラインも欧米で承認申請した。


尚、FluMistはメディミューン(アストラゼネカの子会社)が開発した吸入用の生ワクチン。注射嫌いの人には向いているが、生ワクチンなのでウイルスが周りの人に移る可能性がある(肺の近くでは増殖できないので感染しても発症リスクは小さい)。価格が高いことも難点で、欧米で承認されているがそれほど普及していない。


リンク:FDAプレスリリース


リンク:GSKの承認申請プレスリリース



医薬品の安全性


ドンペリドンと深刻な脈拍異常・突然死の関連性

カナダの厚生省であるヘルス・カナダは、テバなどの製薬会社がdomperidone(胃腸薬)の安全性に関するドクターレターを発出したことを発表した。オランダやカナダの疫学的研究で深刻な不整脈や突然死の懸念が浮上したため。ヘルス・カナダは、可能な限り低量で治療を開始すること、服用量が30mg/日以上または60歳以上の服用者はリスクが高い可能性があること、QT延長または顕著な電解質異常のある患者や鬱血性心不全、QT延長リスクのある薬を同時服用している患者に投与する時は注意すべきことを、勧告した。


リンク:Association of domperidone maleate with serious abnormal heart rhythms and sudden death (cardiac arrest)
PubMed:カナダの疫学試験論文


PubMed:オランダの疫学試験論文


今週は以上です。