2024年3月16日

第1146回

 

【ニュース・ヘッドライン】

  • アドセトリス、B細胞リンパ腫でも試験成功 
  • 抗IL-17A蛋白の乾癬性関節炎試験は結局、上手く行った? 
  • Nuplazid、最後の適応拡大試験もフェール 
  • トレムフィアを潰瘍性大腸炎にも申請 
  • FDA諮問委員会、BCMA標的CAR-Tの早期使用を支持 
  • FDA諮問委員会、テロメラーゼ阻害剤の承認を支持 
  • 初のNASH用薬が承認 
  • ブレヤンジがCLLに適応拡大 
  • 中華抗PD-1抗体が遂に米国で承認 
  • IBAT阻害剤が肝内胆汁鬱滞症に適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


【新薬開発】


アドセトリス、B細胞リンパ腫でも試験成功
(2024年3月12日発表)

ファイザーはAdcetris(brentuximab vedotin)の第3相ECHELON-3試験が良好な結果になったと発表した。成人の2次または3次治療歴を持ち幹細胞移植/CAR-T治療に適さないびまん性大細胞型B細胞リンパ腫をCD30発現の有無を問わずに組み入れて、lenalidomideとrituximabのレジメンに追加する便益を偽薬追加群と比較したところ、統計的に有意な、そして臨床的に意味のある延命効果が見られた。副次的評価項目であるPFS(無進行生存期間)やORR(客観的反応率)の解析も成功した。適応拡大を申請する考え。数値は未発表。

Adcetrisは武田薬品と共同開発販売している抗CD30抗体薬物複合体。古典的ホジキン型リンパ腫における様々な用法や、全身性未分化大細胞リンパ腫などCD30陽性T細胞系リンパ腫に承認されているが、遂にB細胞リンパ腫にも進出してきた。

リンク: ファイザーのプレスリリース


抗IL-17A蛋白の乾癬性関節炎試験は、結局、上手く行った?
(2024年3月11日発表)

米国ロサンジェルスの新興医薬品開発会社、ACELYRIN(Nasdaq:SLRN)は、ABY-035(izokibep)の後期第2相/第3相乾癬性関節炎試験で主目的を達成したと発表した。試験薬配布ミスをどうカバーしたのかは明らかではない。

izokibepはIL-17Aに結合する、抗体医薬の10分の1と小さいドメインとアルブミン結合ドメインを持つ蛋白。今回の試験は一剤以上に十分応答しない乾癬性関節炎患者を偽薬群、80mg4週毎投与群、160mg隔週投与群、160mg毎週投与群に無作為化割付けして第16週のACR50奏効率を比較したもの。今回の発表によると、ACR50奏効率は160mg隔週群が43%、毎週群が40%となり、偽薬群の15%を有意に上回った。副次的評価項目のPASI90奏効率も各58%、64%、12%と良好な結果になった。忍容性はおおむね良好だった。治療関連深刻有害事象に大きな偏りは見られなかった。

二重盲検試験なので4週毎群や隔週群は試験薬と偽薬を交互に投与することになるが、CRO等のプログラミング・ミスにより順番の間違いがランダムに発生してしまったことが昨年11月に公表されている。どのようにしてこの瑕疵に対応したのかは明らかではない。もう一本第3相試験を行うだろうから、結果が出てから考えれば十分だろう。

同社は化膿性汗腺炎でも後期第2相/第3相試験を実施したがフェールした。偽薬群の奏効率が治験の前半と後半で大きく異なるなど奇妙な点があったため乾癬性関節炎試験の実施状況をチェックしたところ上記のミスが発覚したという経緯だが、化膿性汗腺炎試験に関しては、延長試験のデータが好調に推移している旨のアップデートを発表している。新興企業によくある、チェリーピックしがちなところがあるのだろうか?

リンク: 同社のプレスリリース


Nuplazid、最後の適応拡大試験もフェール
(2024年3月11日発表)

Acadia Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)はNuplazid(pimavanserin)の三本目の統合失調症試験がフェールしたと発表した。オレンジ・ブック収載特許は既に失効しており、これ以上の開発は行わない考え。

2016年にパーキンソン病に伴う精神症状を治療する薬としてFDAに承認された選択的セロトニン・インバース・アゴニスト。アルツハイマー病などに伴う精神症状の治療にも開発・申請されたが承認されなかった。

統合失調症用途は19年に第3相ENHANCE試験で陽性症状改善効果が見られなかったが、PANSS陰性症状サブスケールは名目p値が0.0474と、効かないとは結論できないものだった。向精神薬治療で陽性症状は管理できているが陰性症状が改善しない患者403人を組入れた第2相ADVANCE試験では26週間の治療でNSA-16(陰性症状評価-16)の低下が10.4となり、偽薬群の8.5を上回った(p=0.043)。20mgで開始、最初の8週間中に34mgまたは10mgに滴定可能という用法だが、34mgでフィニッシュした患者(被験者の54%)では11.6対8.5とさらに大きな治療効果が示唆された。

今回の第3相ADVANCE-2も同様な患者454人を組入れて同様に26週間治療したが、NSA-16の低下は11.8対11.1で大差なかった。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認申請】


トレムフィアを潰瘍性大腸炎にも申請
(2024年3月11日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは米国でTremfya(guselkumab) を成人の中重度活性期潰瘍性大腸炎の治療に適応拡大申請した。第3相のQUASAR試験でバイオ薬やJAK阻害剤にも十分応答しない患者に投与したところ、第12週時点の臨床的治癒率が22.6%と偽薬群の7.9%を上回った。深刻有害事象の発生率は各群2.9%と7.1%だった。下記プレスリリースによると第44週の臨床的寛解率も良好な結果になった様子だ。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、BCMA標的CAR-Tの早期使用を支持
(2024年3月15日発表)

FDAはODAC(腫瘍学薬諮問委員会)を招集し、ジョンソン・エンド・ジョンソンとブリストル マイヤーズ スクイブ/bluebird bio社が夫々に承認申請したBCMA(B細胞成熟抗原)を標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体T細胞)の、現在承認されているより早い段階の多発骨髄腫における便益と危険について意見を聞いた。前者のCarvykti(ciltacabtagene autoleucel)は11人の委員全員が、後者のAbecma(idecabtagene vicleucel)は8人が、便益が危険を上回ると判定した。前者の審査期限は4月5日と近いので、FDA内の手続きが間に合わない可能性がありそうだ。後者は昨年12月16日で、既に期限超過状態。

CAR-Tは患者自身の免疫細胞に敵を教え込んで攻撃させる。理由は理解できていないが、反復投与の必要がないのが長所だ。新しい治療法にはありがちなことだが、市販後に様々なリスクが表面化してきた。例えば、23年12月にFDAが多くのCAR-T製品について二次性血液学的腫瘍のリスクを枠付き警告させた。

今回の主題は、両剤の実薬対照試験でPFS延長効果が見られたものの、全死亡のカプラン・マイヤー・カーブ分析で最初の9~10ヶ月間の死亡率が実薬群を数値上、上回ったこと。Carvyktiは10ヶ月死亡率が14%、対照群は12%、Abecmaは9ヶ月死亡率が18%対11%となっている。メジアン生存期間はCarvyktiが未達対26.7ヶ月でハザードレシオは0.78、Abecmaは未だ目標死亡数の34%しか到来していない段階の解析だが32.8ヶ月対未達でハザードレシオ1.093と、PFSほど大きな差は出ていない。後者は対照群の患者の過半が進行後にCAR-T治療を受けたことで治療効果が希薄化されてしまった面もあるようだ。

CAR-Tは投与前のプロセスに時間がかかり、製造が成功するとも限らないので、本試験でも薬が届けられる前に亡くなった患者がいたようだ。また、前措置に用いる化学療法薬も深刻な副作用を招くことがある。当初9~10ヶ月の死亡率上昇はこれらが原因と考えられているようだ。造血幹細胞移植と同様に、患者は、早死にする危険もあるが延命の便益のほうが超過する、という条件を受け入れざるを得ない。

今回の適応拡大申請は、両剤ともEUでCHMPが肯定的意見をまとめ、Abecmaは日本とスイスで既に承認されている。

リンク: JNJのプレスリリース
リンク: BMSのプレスリリース

FDA諮問委員会、テロメラーゼ阻害剤の承認を支持
(2024年3月14日発表)

米国カリフォルニア州のGeron(Nasdaq:GERN)は、多発骨髄腫に伴う貧血症の治療薬として承認申請したGRN163L(imetelstat)をFDA腫瘍学諮問委員会が検討し、14人の委員のうち12人が便益が危険を上回ると判定、2人が上回らないと判定したと発表した。FDAが用意したブリーフィング資料のトーンは警戒的だったが、承認に向けて一歩前進したのではないか。審査期限は6月16日。EUでも承認申請中。

GRN163Lはテロメラーゼの活性部位を標的とするオリゴヌクレオチドにリピッドを結合したもの。第3相試験ではIPSS(国際予後予測スコアリングシステム)でlowまたはintermediate-1と判定された多発骨髄腫の成人で、赤血球生成因子による貧血治療に不応/不適であるため輸血に依存している178人を組入れて、8週間輸血不要奏効率を偽薬群と比較したところ、39.8%対15.0%と有意に上回った。24週輸血不要奏効率も28.0%対3.3%と有意差があった。安全性面ではG3/4の血小板減少症が61.9%対8.5%、同好中球減少症が67.8%対3.4%と上回り、輸血しなかったせいか貧血症も19.5%対6.8%で上回った。FDAは骨髄抑制副作用を特に懸念しているように見えるが、諮問委員は、多発骨髄腫に血球減少は付き物であり対処可能であること、多くは一時的・可逆的であることから、QOL改善の便益のほうが大きいと判断した。

リンク: 同社のプレスリリース

【承認】


初のNASH用薬が承認
(2024年3月14日発表)

FDAはMadrigal Pharmaceuticals(Nasdaq:MDGL)のRezdiffra(resmetirom)をNASH(非アルコール性脂肪肝炎;欧米の関連学会はMASHに呼称変更している)の治療薬として承認した。NASHの病状の解消や線維症の組織学的評価に基づく加速承認で、54ヶ月の試験で臨床的便益を確認する必要がある。NASHの治療薬が承認されたのは初めて。本剤はロシュからライセンスした甲状腺ホルモン受容体ベータのアゴニストだが、類薬や様々な作用機序の新薬が第3相段階にあり、今後、ライバルが増えるだろう。

中重度の肝線維症を伴うが肝硬変には至っていない成人患者に、食事・運動療法と併用で、体重100kg以上は100mg、未満は80mgを一日一回、経口投与する。体重に関わらず80mg群と100mg群が設定された第3相試験では、52週間の治療後にNASH解消且つ線維症が悪化しなかった患者の比率が各群26~27%と24%~36%になり、偽薬群の9~13%を有意に上回った。幅があるのは二人の病理学者の評価を併記しているため。今回初めて見たが、10%強の違いを受け入れるべきだとしたら治療効果の10~20%をどう評価したらよいのか、悩むのは私だけだろうか。

線維症が改善しNASHが悪化しなかった患者の比率も各群23%と24~28%で偽薬群の13~15%を有意に上回った。

警告・注意事項は薬物誘導性肝毒性と胆嚢関連副作用。様々な代謝酵素やトランスポーターに関わる相互作用があり、また、LDL-C低下作用があるため一部のスタチンは用量を減らす必要がある。

NASH/MASHの診断でネックとなるのが生検だが、FDAは生検による診断を要求しておらず、非侵襲的な検査で足りそうだ。

同社は年47400ドルで発売する考え。米国の潜在患者数は600~800万人とも言われるが、同社は現在治療を受けている31万人を当初のターゲットとする考え。全員に普及すれば年商150億ドルの巨大市場になる。

リンク: FDAのプレスリリース


ブレヤンジがCLLに適応拡大
(2024年3月14日発表)

ブリストル マイヤーズ スクイブはFDAがBreyanzi(lisocabtagene maraleucel)を慢性リンパ性白血病(CLL)/小リンパ球性白血病(SLL)の治療に用いることを加速承認したと発表した。BTK阻害剤とBCL-2阻害剤を含む2次以上の治療歴を持つ成人の難治/再発CLL/SLLが適応になる。第2相試験で完全反応率が20%、反応持続期間はメジアン値未達(95%下限15ヶ月)だった。CAR-Tに付き物のG3サイトカイン放出症候群の発生率は9%でG4以上はなく、G3神経学的イベントは20%、G4は一人(1%未満)だった。

BreyanziはCD19標的型のCAR-T。米欧日で難治/再発大細胞型B細胞リンパ腫に承認されており、米国で難治/再発性の濾胞性リンパ腫やマントル細胞腫に効能追加申請中。

リンク: BMSのプレスリリース


中華抗PD-1抗体が遂に米国で承認
(2024年3月14日発表)

BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE)はFDAがTevimbra(tislelizumab-jsgr)を成人のPD-(L)1阻害剤以外の全身性化学療法歴のある局所進行切除不能/転移食道扁平上皮腫用薬として承認したと発表した。米国のPD-(L)1阻害剤としては10番目。

エビデンスは中国、米国、日本、欧州など11ヶ国で実施した第3相RATIONAL 302試験。200mgを3週毎点滴静注した群のメジアン生存期間が8.6ヶ月と、paclitaxelまたはdocetaxelなどを用いた対照群の6.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70だった。中国では22年に、EUでも23年に承認されたが、米国はCOVID-19関連の渡航制限により現地査察ができなかったため遅れていた。

FDAは中国だけで実施される臨床試験に疑義を抱いており、EUのCHMPが2月に肯定的意見をまとめた非小細胞性肺癌用途は米国では申請断念となった。一方、食道扁平上皮腫一次治療と胃・胃食道接合部腺腫一次治療化学療法併用はグローバル試験に基づき米国で申請中。

リンク: 同社のプレスリリース


IBAT阻害剤が肝内胆汁鬱滞症に適応拡大
(2024年3月13日発表)

Mirum Pharmaceuticals(Nasdaq:MIRM)はFDAがLivmarli(maralixibat)を5歳以上のPFIC(進行性家族性肝内胆汁鬱滞症)における胆汁鬱滞性掻痒の治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。9.5mg/mLの経口液で、285mcg/kg一日一回で開始し、570mcg/kg一日二回を目標に漸増する(上限は一日38mg)。第3相MARCH試験でPFIC2型の31人における重度掻痒が偽薬比有意に改善、他の型も含む全64人の解析も成功した。深刻な治療時発現有害事象が10.6%の患者で発生した(偽薬群は6.5%)。

同社は2ヶ月児以上を対象に申請したが5歳以上に限定された。高濃度製剤を追加申請し年内の承認取得を目指す。

Livmarliは頂端側ナトリウム依存性回腸胆汁酸トランスポータ阻害剤。胆汁の排泄を促し、この薬自体も殆ど吸収されず排泄される。18年にシャイアからライセンス、21年に米国で1歳以上のアラジール症候群における胆汁鬱滞性掻痒の治療薬として承認され、22年にはEUでも承認された。日本はシャイアの親会社である武田薬品が21年にライセンスした。

リンク: Mirum社のプレスリリース

【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


PDUFA
24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
24/3/26MSDのMK-7962(sotatercept、肺動脈高血圧症)
24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
24年4月 Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole(細菌感染症)
24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
24年4月推JNJのBSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
24/4/3Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole medocaril(黄色ブドウ球菌性菌血症など)
24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)



今週は以上です。

2024年3月9日

第1145回

【ニュース・ヘッドライン】


  • ALS治療薬の薬効確認試験がフェール 
  • リリーの抗Abeta抗体は、急遽、諮問委員会上程へ 
  • GSKのADC、復活に向けて二の矢も構え 
  • テトラサイクリン系抗菌剤を肺炭疽に適応拡大申請へ 
  • セマグルチド、糖尿病性腎症の悪化を24%抑制 
  • ウコービの心血管リスク抑制作用が承認 
  • オプジーボが膀胱癌一次治療に適応拡大 
  • BTK阻害剤が適応拡大 
  • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 

  • 【今週の話題】


    ALS治療薬の薬効確認試験がフェール
    (2024年3月8日発表)

    Amylyx(Nasdaq:AMLX)は22年に米国とカナダで筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療薬として承認されたRelyvrio(sodium phenylbutyrateとtaurursodiolの合剤、カナダでの製品名Albrioza)の第3相試験がフェールしたと発表した。発症24ヶ月以内のALS患者664人を組入れて48週間投与し、ALSFRS-R(機能評価尺度)の悪化を偽薬群と比較したが、p=0.667と酷い結果になった。副次的評価項目も全て有意な差がなかった。同社は承認審査機関や患者コミュニティに対して治験結果や今後の方針(販売中止を含む)を説明する考え。

    配合成分のうちフェニル酪酸ナトリウムは尿素サイクル異常症の治療に、タウロウルソデオキコール酸は原発性胆汁性肝硬変の治療に、用いられているが、ALSにおいては前者は小胞体、後者はミトコンドリアから始まる神経変性経路を阻害し、神経細胞死を抑制すると考えられている。第2相のCENTAUR試験ではALSFRS-Rがベースラインの36から24週後に29に低下したが偽薬群の26.7低下より少なかった(治療効果2.32、p=0.03)。審査担当者はプロトコルや追跡状況、edaravoneなどの承認薬の使用状況の偏りなどに疑問を呈し、22年に召集された諮問委員会では10人の委員中6人が薬効が確立したとは言えないと判定した。

    しかし、当時の神経科学部門のヘッドだったBilly Dunn氏が難病用薬の承認審査にはフレキシビリティが重要と主張、半年後に再び諮問委員会を招集する異例の事態になり、AmylyxのCEOが第3相フェールなら承認返上も含めて患者にとって最善な対応を行うと明言したことや患者支援団体等の後押しもあり、9人中7人が承認に賛成という「十二人の怒れる男」並みの逆転劇が具現、承認に至った。カナダでは第3相試験の成功を条件とする条件付き承認だったが、FDAは本承認という大盤振る舞いだった。

    Billy Dunn氏が去った後のFDAが変わるか、変わらないか、注目されるところだが、FDAがどう判断したとしても、効果のない薬に年17万ドルも払う患者はいないだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    リリーの抗Abeta抗体は、急遽、諮問委員会上程へ
    (2024年3月8日発表)

    イーライリリーはアミロイド・ベータ(3-42)を標的とするIgG1型抗体医薬LY3002813(donanemab)を早期アルツハイマー病の治療薬として米国や日本で承認申請している。米国は今四半期中に審査結果が出るはずだったが、今になってFDAから諮問委員会召集を計画している旨の連絡を受けた。日程調整に1ヶ月以上、諮問委員会後の手続きに1ヶ月以上かかるだろうから、承認されるとしても5月以降に遅れるのではないか。

    同社は21年10月にローリング承認申請を開始、完了は22年第1四半期の予定だったが、一旦、年末に予定変更された後、同年8月に承認申請が受理された。優先審査指定されたが、12ヶ月曝露症例数の不足などから23年1月に審査完了通知を受領したため、同年第2四半期に第3相TRAILBLAZETR-ALZ2試験の継続追跡データを提出した。このような場合の審査期間は提出から半年だが3ヶ月延長され、今回、更に遅れることになった。

    イーライリリーのプレスリリースによると、FDAは、安全性や、上記試験のユニークなプロトコルと薬効の関係に関して理解を高めることを目的としている。前者は先に承認されたエーザイ/バイオジェンのLeqembi(lecanemab-irmb)と比べてARIA(アミロイド関連造影異常)という抗アミロイド・ベータ抗体に特徴的な副作用の発現率が高いことに配慮しているのではないかと思われるが、異なった試験のデータを比較する時は真の差との誤差範囲を大きめに考える必要があり、承認を拒否するほど明確な差とは言えないように思われる。便益が不確かでも安全性が高ければ承認する余地があるので、リスクが偽薬並みではないことを併記しておく必要があっただけのことではないだろうか。

    上記試験のユニークな試みは、第一に、アミロイド・プラクが消失したら投与を中止すること。アミロイド・プラクを除去する薬なのだからリーズナブルな治療方針であり、これまでアルツハイマー病薬製薬会社が目を瞑っていた、いつ止めたらいいのかというunmet medical needに応え得る。一方で、何年かしたらまたプラクが蓄積するだろうから、離脱試験(プラクが消失した患者を継続投与群と偽薬スイッチ群に無作為化割付けして転帰を比較する)を行って止めても大丈夫であることを確認すべきではないか、とも思われる。

    第二は、タウの凝集体蓄積量と薬効の関連性を意識していること。今回初めて気づいたが、治験論文の付表によると、スクリーニング対象8240人のうち1631人が基準より少ないという理由で除外されている。これは、アミロイド・プラクが基準以下で除外された患者数と大差ない。主評価項目は蓄積が軽中度である約1100人における症状評価尺度と、高度の患者も含む約1600人の同尺度。どちらも偽薬比有意な差があったが高度の患者だけ見ると大差なかったようだ。となると、医療現場でも、アミロイド・プラクだけでなくタウも事前に検査して軽中度の患者だけに使うほうが良いのかもしれない。一方で、もしそうなら、他の抗アミロイド・ベータ抗体は微小/高度タウ患者にも効くのか、という疑問がわく。

    FDAの側に注目すると、LeqembiやAduhelm(aducanumab-avwa)、そして上記Relyvrioの承認/加速承認を強力に後押ししたBilly Dunn氏がFDAを去ったのはネガティブな材料だ。

    リンク: イーライリリーのプレスリリース

    【新薬開発】


    GSKのADC、復活に向けて二の矢も構え
    (2024年3月7日発表)

    GSKはBlenrep(belantamab mafodotin-blmf)の多発骨髄腫二次治療試験、DREAMM-8が中間解析で主目的のPFS(無進行生存期間)を達成し、独立データ監視委員会の勧告に即して盲検解除したと発表した。データは未公表。再発売に向けて二つ目の良いニュースだ。

    多発骨髄腫の表面分子BCMAを標的とする抗体と細胞毒をリンカーで結合した抗体薬物複合体(ADC)。20年に米欧で主要4剤による治療歴を持つ再発/難治多発骨髄腫用薬として加速承認/条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験として位置付けられていたDREAMM-3試験がフェールしPFSがPdレジメン(pomalidomideと低量dexamethasoneの併用)に勝てなかったため、米国では23年2月に承認取消、EUでも承認が更新されない見込みだ。

    意外なことに、その後は朗報が続いた。昨年11月、二次治療のDREAMM-7試験が成功、Vdレジメン(bortezomibと低量dexamethasoneの併用)に追加する効果をdaratumumab追加と比較したところ、メジアンPFSが36.6ヶ月と対照群の13.4ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.41。全生存の中間解析はハザードレシオ0.57、p=0.00049と数値上は大変良い成績が出ているが、割り当てられたアルファが小さいため有意ではなく、継続追跡する。

    今回の試験も二次治療試験で、Pdレジメン(pomalidomideと低量dexamethasone)に追加する効果をbortezomibと比較した。比較するならBlenrep・bortezomib・低量dexamethasone vs. pomalidomide・bortezomib・低量dexamethasoneのほうが関心を呼ぶのではないかとも感じられるが、いずれにせよ、エビデンスは一本より二本のほうが良い。

    リンク: 同社のプレスリリース


    テトラサイクリン系抗菌剤を肺炭疽に適応拡大申請へ
    (2024年3月5日発表)

    米国ボストンのParatek PharmaceuticalsはNuzyra(omadacycline)の炭疽試験が良好な結果になり適応拡大申請に向けてFDAと相談する考えであることを発表した。肺炭疽は極めて稀だが致死性が高いためテロに用いられるリスクがある。治療はキノロン系抗菌剤のciprofloxacinや抗体医薬などが米国で承認されているが、バイオテロリストがこれらの薬に耐性を持つ細菌を開発するかもしれないので、複数の選択肢が必要だ。

    Nuzyraはテトラサイクリン系のaminomethylcyclineという新しいクラスに属し、テトラサイクリン抵抗菌にも活性を維持、グラム陽性、陰性、嫌気性菌など広いスペクトラムを持ち、経口剤と静注用がある。2018年に米国で本剤に感受する成人の地域感染細菌性肺炎と急性細菌性皮膚皮膚構造感染症の治療薬として承認された。

    今回の試験は炭疽菌に曝露させた非ヒト霊長類に投与する、曝露後予防試験。偽薬群は全頭が10時間以内に死亡したが、試験薬群は全頭が30日以上生存し、60日生存率も90%超だった。

    肺炭疽は十分な症例数の臨床試験を行うのが困難で、且つ、偽薬対照試験は非倫理的であるため、動物試験に基づく承認申請が認められている(『アニマル・ルール』)。欧州のように動物愛護の観点から非ヒト霊長類の試験を禁じている地域もあり、実薬が存在するのだから、今後は実薬対照試験にシフトして犠牲を減らすことを検討しても良いのではないか。

    リンク: 同社のプレスリリース


    セマグルチド、糖尿病性腎症の悪化を24%抑制
    (2024年3月5日発表)

    ノボ ノルディスクは、昨年10月、GLP-1作用剤semaglutideの後期第3相FLOW試験の独立データ監視委員会が目標達成を認定し繰上げ完了を推奨したことを公表したが、半年経って、ヘッドラインが判明した。

    この試験は慢性腎疾患を合併する二型糖尿病患者3533人を組入れて、標準療法にsemaglutide(1mgを週一回皮下注)を追加する便益を偽薬追加群と比較した。主評価項目は腎不全、eGFR半減、透析または腎移植、腎疾患死、心血管死の5項目の何れかが発生するリスク。同社のプレスリリースによると、リスクが24%小さかった。腎疾患関連の評価項目も心血管疾患関連もリスク抑制に貢献した。詳細は学会で発表する予定。

    報道によると、透析サービス大手のDaVitaは、昨年10月時点では、本試験の組み入れ条件に該当する患者は糖尿病性慢性腎疾患の1割足らずに過ぎず、上記5項目のうち一つだけでも事前に設定された条件を満たせば繰上げ中止するプロトコルであるため、詳細が判明するまで過大評価すべきではないとコメントしていた模様だ。他の糖尿病薬と同様にeGFRの悪化を抑制する効果が中心ならSGLT2阻害剤との比較も必要とのことだった。

    そこで、Farxiga(dapagliflozin)のDAPA-CKD試験のデータを見ると、主評価項目(eGFR半減、腎不全、心血管疾患死、または腎臓疾患死)のハザードレシオは0.61、eGFRだけでなく心血管疾患死でも0.81、腎臓疾患死は数が少なく解析不可能だが実数は2人対6人で1/3だった。こちらの試験は二型糖尿病以外の慢性腎疾患も組入れており、直接比較はできないが、結果が発表された当時、こんなに効くのかと驚いた覚えがある。

    リンク: ノボのプレスリリース

    【承認】


    ウコービの心血管リスク抑制作用が承認
    (2024年3月8日発表)

    FDAはノボ ノルディスクのWegovy(semaglutide)の適応拡大を承認した。心血管疾患で肥満またはオーバーウェイトの成人の心血管死や心筋梗塞、脳卒中を抑制する。心血管アウトカム試験SELECTでは、2.4mgを週一回、皮下注した群が心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中の何れかを罹患する偽薬比ハザードレシオは0.80だった。平均40ヶ月の追跡期間中における発生率は6.5%、偽薬群は8.0%なので、1000人に3年超投与すると15人程度を救う計算になる。標準的な治療を受けている患者が対象であるためか、偽薬群の発生率も治療効果もそんなに高くない印象だ。

    ノボ ノルディスクのプレスリリースには心血管死のハザードレシオは0.85、全死亡のハザードレシオは0.81だったと記されているが、その後の長い記述をスクロールして末尾の脚注を見ると、前者の信頼区間は0.71-1.01で優越性は確認されていないこと、全死亡は0.71-0.93だが事前に設定された先行解析である心血管死が有意でなかったのでこちらも有意とは言えないことが明らかにされている。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: ノボのプレスリリース


    オプジーボが膀胱癌一次治療に適応拡大
    (2024年3月7日発表)

    FDAはブリストル マイヤーズ スクイブのOpdivo(nivolumab)を切除不能/転移尿路上皮腫の一次治療に用いることを承認した。cisplatin及びgemcitabineと併用で、60mgを3週毎に最大6サイクル投与し、その後はOpdivoだけを240mg隔週または480mg4週毎のスケジュールで投与する。エビデンスとなるCheckMate-901試験のサブスタディでメジアン生存期間が21.7ヶ月とOpdivoを併用しなかった群の18.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.78だった。共同主評価項目であるPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)も各7.9ヶ月、7.6ヶ月、0.72と有意に改善した。

    ライバルのKeytruda(pembrolizumab)は化学療法併用では承認されていないが、ファイザー/アステラス製薬のPadcev(enfortumab vedotin-ejfv)との併用が23年12月に米国で承認、日欧で申請中。メジアン生存期間は31.5ヶ月とcisplatinまたはcarboplatinをgemcitabineと併用した群の16.1ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.47、PFSのハザードレシオも0.45で、こちらのレジメンのほうが目を惹く。但し、深刻有害反応の発生率が50%、致死的有害反応は4%となっている。テレビドラマとは異なり、治験薬で3人が死亡したとしても30人が延命するなら許容される。

    リンク: FDAのプレスリリース


    BTK阻害剤が適応拡大
    (2024年3月7日発表)

    FDAはBeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)のBrukinsa(zanubrutinib)を成人の二次以上の治療歴を持つ難治/再発濾胞性リンパ腫にobinutuzumabと併用することを加速承認した。ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症、マントル細胞腫、辺縁帯リンパ腫、慢性リンパ性白血病/小リンパ球性リンパ腫に次ぐ五つ目の適応になる。第2相ROSEWOOD試験でORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が69%、18ヶ月反応持続率は69%だった。obinutuzumabだけを投与した群のORRは45.8%だった。深刻有害事象発生率は35%。欧州でも1月に適応拡大が認められている。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: BeiGeneのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24/3/4Vanda PharmaceuticalsのHetlioz(tasimelteon、入眠障害追加)
    24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
    24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
    24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
    24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
    24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    24/3/26MSDのMK-7962(sotatercept、肺動脈高血圧症)
    24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
    24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
    24年4月 Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole(細菌感染症)
    24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
    24年4月推JNJのBSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
    24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
    24/4/3Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole medocaril(黄色ブドウ球菌性菌血症など)
    24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
    24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
    24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
    24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
    24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
    諮問委員会
    24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
    24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
    24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



    今週は以上です。

    2024年3月2日

    第1144回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • ACIP、RSVワクチンの有害事象報告を検討 
    • エボラ・ワクチンで濃厚接触者の死亡が半減 
    • Ironwood社、週一回投与型短腸症候群用薬の第3相が成功 
    • GSK、ナイセリア淋病治療試験が成功 
    • Palatinのドライアイ試験、今回も部分的には良績 
    • UCB、米国でもビンゼレックスを乾癬性関節炎などに適応拡大申請 
    • Minerva社のroluperidoneは案の定、承認されず 
    • 抗EGFRxMET抗体を一次治療に承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【今週の話題】


    ACIP、RSVワクチンの有害事象報告を検討
    (2024年月日発表)

    CDC(米国疾病管理予防センター)のACIP(予防接種の実施に関する諮問委員会)で、23年に初承認されたRSVワクチン2製品の有害事象に関する市販後アップデートがあった。承認時の懸案事項であったギランバレー症候群(GBS)などの深刻有害事象が報告されているものの、RSV感染による入院や死亡を抑制する便益のほうが大きいと結論された。

    VAERS(ワクチン有害事象報告システム)に届出された60歳以上における深刻有害事象はGSKのArexvyが169件(100万回接種当り25.6)、ファイザーのAbrysvoは91件(同29.7)だった。内容は呼吸困難、無力症、疲労、歩行障害など。GBSは30件あり、このうちCDCが確認した症例の100万回当り発生率は各製品1.2と4.6だった。バックグラウンド発生率は文献によると5.2で、ワクチン接種により大きく増加するようには見えなかった(何れも42日間の発生率)。

    一方、メディケアのデータを用いた65歳以上の分析ではArexvyが10、Abrysvoが25で、95%信頼区間はバックグラウンド・データとオーバーラップしているものの、数値上はワクチン接種後が上回った。

    便益は、RSV感染による入院が2年間にArexvyで2400件、Abrysvoも2700件減少すると推定された。入院後の死亡も各120人と140人、減少する見込み。感染後のリスクは年齢と共に上昇するので、便益もArexyの場合で60~64歳はRSV入院の減少が100万回当り1100件だが、65~69歳は1500件、70~74歳は1900人、75~79歳は3200人、80歳以上は6000人と増加していく。年齢以外にも慢性肺疾患や心不全、免疫低下、長期療養施設入居などに該当する人は便益が大きいと予想される。

    60歳以上におけるRSVワクチンの接種率は22%に留まっている。ACIPは接種勧奨を合併症リスクの高い人に限定しているが、懸案であった炎症性神経学的事象に関する市販後監視データが集積され大きな問題が浮上しなければ、限定を緩和するかもしれない。

    リンク: ACIP2月28-29日会議のプレゼン・スライドのリンク頁


    エボラ・ワクチンで濃厚接触者の死亡が半減
    (2024年2月7日発表)

    MSDが開発した弱毒化ザイール種エボラ・ウイルス・ワクチン、Ervebo(rVSV∆G-ZEBOV-GP)の後顧的疫学研究論文がLancet Infectious Diseases誌に刊行された。コンゴ民主共和国(旧ザイール)で流行した18年7月から20年4月に治療を受けた2279人の転帰を調べたところ、未接種者は1015人中570人、56%が死亡したのに対して、接種者は423人中106人、25%に留まった。接種から発症までの期間が長いほどハザードレシオが低かったが、2日以内のケースでも0.56と良好な成績が出た。年齢や性別による偏りは見られなかった。

    コンゴ民主共和国では、18年の再流行時にMSF(国境なき医師団)が上記ワクチンの接種を提案し、政府も反対しなかったことから、MSDが30万回分を備蓄する計画を立てた。しかし、その時点では未承認であったことから東部地域などで反対意見が広がり、政府が接種を終了した。これほど効果が高いのに上記のワクチン接種者数が驚くほど少ないのは、偏見や無理解だけが原因ではないにしても、残念なことだ。エボラの致死率の高さは周知であったのだから、そして、全国民ではなくリスクが特に高い、感染者の濃厚接触者に限定して接種する計画だったのだから、もう少し何とかならなかったのだろうか。

    今回の研究により、発症予防効果だけでなく大きな救命効果もあることが明らかになったので、次回の流行時には広く普及することが期待される。

    リンク: Luqueroらの疫学論文抄録(Lancet Infectious Diseases)

    【新薬開発】


    Ironwood社、週一回投与型短腸症候群用薬の第3相が成功
    (2024年2月29日発表)

    Ironwood Pharmaceuticals(Nasdaq:IRWD)はapraglutideの第3相短腸症候群試験で主目的を達成したと発表した。しかし、結腸の機能が比較的悪化していないサブグループにおける便益が明確でなかったため、株価は下落した。

    武田薬品のGattex(和名レベスティブ、teduglutide)と類似した皮下注用GLP-2類縁体。Gattexは投与頻度が一日一回、Zealand Pharma(Nasdaq:ZEAL)が昨年12月に米国で承認申請したZP 1848(glepaglutide)は週二回であるのに対して週一回で足りる点が長所。

    第3相のSTARS試験は腸管不全を伴う短腸症候群の成人164人を組入れて経静脈栄養依存の改善を図った。週間経静脈栄養量が24週間で25.5%減少、偽薬群の12.5%減比で有意な差があった。主要な副次的評価項目のうち、経静脈栄養サポートが必要な日数が1日以上減少した患者の比率は43.0%対27.5%、ストーマを有するサブグループにおける経静脈栄養量の減少率は25.6%対7.8%で有意差があったが、colon-in-continuityサブグループにおいて経静脈栄養サポートが必要な日数が1日以上減少した患者の比率は51.8%対44.4%、48週時点で腸自立を達成した患者の比率は12.5%(56人中7人)対7.4%(27人中2人)でどちらもトレンドに留まった。

    評価項目が若干異なるので他の薬の成績と比較するのは難しいが、特に優れているようには見えない。

    23年に買収したスイスのVectivBioの開発品で、元々は実質的な前身企業であるTherachonが18年にカナダのGLyPharma Therapeuticsを買収して入手したもの。日本は旭化成ファーマが開発販売権を取得した。

    リンク: 同社のプレスリリース


    GSK、ナイセリア淋病治療試験が成功
    (2024年2月26日発表)

    GSKは新規作用機序の抗菌剤、GSK2140944(gepotidacin)の第3相非複雑性泌尿生殖器ナイセリア淋病試験で目的を達成した。600人の男女を組入れたEAGLE-1試験で750mg錠4錠を医療施設で一回、10~12時間後に自宅で一回、服用した群の微生物学的奏効率が標準療法群(ceftriaxone筋注とazithromycin経口投与)比で非劣性だった。

    nitrofurantoinに感受しそうな単純性尿路感染症の女性を組入れた第3相二本も750mg錠2錠を一日二回、5日間投与した群の臨床的・微生物学的奏効率がnitrofurantoin群(一日二回、5日コース)と非劣性で、一本では優越性解析も成功したことが昨年、学会発表されている。同社は今年下期に米国で承認申請する考え。

    リンク: 同社のプレスリリース


    Palatinのドライアイ試験、今回も部分的には良績
    (2024年2月28日発表)

    Palatin Technologies(NYSE American:PTN)は、メラノコルチン受容体汎アゴニストPL9643の第3相MELODY-1試験のトップラインを発表した。第2相試験の時と同様に好成績であったかのような書きぶりだが、第2相試験の時と同様に共同主評価項目はどちらもフェールした。何れにせよ承認申請前にもう一本実施するだろうから、有効なのか一歩届かないのか、結論は持ち越しだ。

    この試験は米国の施設でドライアイの患者575人を組入れて、一日3回点眼する効果を偽薬と比較した。主評価項目は12週間治療後の疼痛とリサミングリーン結膜染色。疼痛はp=0.03となったが閾値はクリアできなかった。年齢と性別の調整後では0.025を下回ったと記されているので、おそらく各主評価項目にアルファを0.025ずつ配分したのだろう。目の治療関連有害事象発生率は5.6%(偽薬群は6.3%)、治験中止率は7.0%(同11.1%)だった。

    データを精査してFDAと次の第3相試験について相談する考え。パートナー探しも続ける予定。

    リンク: 同社のプレスリリース(PR Newswire)

    【承認申請】


    UCB、米国でもビンゼレックスを乾癬性関節炎などに適応拡大申請
    (2024年2月28日発表)

    UCBはBimzelx(bimekizumab-bkzx)を以下の4疾患に用いる適応拡大をFDAに申請した。この抗IL-17A・抗IL-17-F二重特異性抗体はEUでは21年に、日本でも22年にプラク乾癬など治療薬として承認されたが、米国はCOVID-19流行に伴う連邦政府の渡航制限の影響で工場査察などができなかったことなどから、23年10月に遅れた。そのせいか、適応拡大申請もEUと比べて遅れ気味だ。

    ・乾癬性関節炎、強直性脊椎炎、X線基準を満たさない体軸性脊椎関節炎・・・EUでは23年6月、日本でも同年12月に承認
    ・化膿性汗腺炎・・・EUでは23年7月に、日本でも同年11月に適応追加申請受理

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    Minerva社のroluperidoneは案の定、承認されず
    (2024年2月27日発表)

    Minerva Neurosciences(Nasdaq:NERV)はroluperidoneを統合失調症の陰性症状治療薬としてFDAに承認申請していたが、審査完了通知を受領した。承認申請前のタイプCミーティングでエビデンス不足を指摘され、承認申請を強行したが受理されず、タイプAミーティングで説得したが受け入れられず、不服申立てしたところ、審査担当者の疑義は承認審査で検討すべきもので受理を拒否する理由にはならないと認められ、やっと受理された。このような経緯なので、門前払いは避けられたが玄関で追い返される結末になった。もしこの薬が本当に価値があるなら、再試験を実施せず3年間を徒に費やした罪は重い。

    roluperidoneは田辺三菱製薬からライセンスしたアルファ-1a、5-HT2A、そしてシグマ-2のアンタゴニスト。米国外で実施された後期第2相試験でPositive and Negative Syndrome Scaleの陰性症状に関わる二つのドメインが偽薬比有意に改善したが、米国の第3相はフェールした。専ら前者の試験に基づき申請したが、FDAはこの薬の治療効果の臨床的な重要性に疑問を呈し、また、モノセラピーとしての申請だがオフレーベルで使用される可能性があるため併用試験で安全性等を確認するよう求めた。更に、申請用量である64mgを12ヶ月以上投与した安全性症例数の不足も指摘した。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認】


    抗EGFRxMET抗体を一次治療に承認
    (2024年3月1日発表)

    FDAはJNJグループのJanssen BiotechのEGFRとMETを標的とする二重特異性抗体、Rybrevant(amivantamab-vmjw)の適応拡大を承認した。EGFR遺伝子にエクソン20欠損変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌の一次治療にcarboplatinおよびpemetrexedと併用するもの。第3相PAPILLON試験でPFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)がメジアン11.4ヶ月とcarboplatin・pemetrexed群の6.7ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオは0.395だった。全生存期間の解析は未成熟だがESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によるとハザードレシオ0.67、p=0.106と、好ましい方向を指している。

    21年にEGFR遺伝子にエクソン20欠損変異を持ち白金薬レジメンによる治療歴を持つ転移非小細胞性肺癌に単剤投与する薬として加速承認されたが、市販後薬効確認試験を兼ねるPAPILLON試験が成功したため、本承認に切替えられた。

    ところで、carboplatinとpemetrexedの併用法は扁平上皮以外の非小細胞性肺癌に限定されているが、上記試験もRybrevantの適応も限定されていない。上記試験のデータは把握していないが、再発治療試験の患者背景を見ると95%が腺腫とのことなので、扁平上皮腫にはエクソン20欠損がほとんどなく改めて除外する必要がないのだろう。

    エクソン20欠損は非小細胞性肺癌の2~3%を占める希少変異で、初期のEGFR阻害剤に抵抗性を持つ。PAPILLON試験の被験者の約半分は喫煙歴がなく、また、約半分はアジア人種と、かなり偏りがある。

    リンク: FDAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
    24年3月推BeiGeneのBrukinsa(zanubrutinib、FL obinutuzumab併用)
    24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
    24年3月推アストラゼネカのFluMist(インフルエンザワクチン、自己噴霧解禁)
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24/3/4Vanda PharmaceuticalsのHetlioz(tasimelteon、入眠障害追加)
    24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
    24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
    24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
    24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
    24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    24/3/26MSDのMK-7962(sotatercept、肺動脈高血圧症)
    24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
    24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
    24年4月 Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole(細菌感染症)
    24年4-6月ファイザーのPF-06838435(fidanacogene elaparvovec、B型血友病)
    24年4月推JNJのBSkyrizi(risankizumab-rzaa、潰瘍性大腸炎)
    24年4月推JNJのBalversa(erdafitinib、FGFR陽性尿路上皮腫本承認切替)
    24/4/3Basilea Pharmaceuticaのceftobiprole medocaril(黄色ブドウ球菌性菌血症など)
    24/4/5 JNJのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel、多発骨髄腫2~4次治療)
    24/4/5 Supernus PharmaceuticalsのSPN-830(apomorphine、パーキンソン病)
    24/4/5BMSのOpdivo(nivolumab、尿路上皮腫化学療法併用一次治療)
    24/4/23ImmunityBioのN-803(BCG不応筋層非浸潤性膀胱癌)
    24/4/30X4 PharmaceuticalsのX4P-001(mavorixafor、WHIM症候群)
    24/4/30Day One BiopharmaceuticalsのDAY101(tovorafenib、小児神経膠芽腫)
    諮問委員会
    24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
    24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
    24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



    今週は以上です。

    2024年2月25日

    第1143回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • HIV治療薬を飲みたがらない患者には持効性注射薬 
    • タグリッソ、肺癌CRT後維持療法試験が成功 
    • デュピクセントを好酸球性COPDにも申請 
    • セルヴィエ、IDH阻害剤を欧米申請 
    • BMS、KRAS阻害剤を大腸癌に適応拡大申請 
    • 第一三共、第3の抗体医薬を承認申請 
    • 遅報:ネモリズマブが欧米でも承認申請 
    • 遅報:デニロイキンを米国で再申請 
    • 複雑性尿路感染症の複合セフェム、承認がお預けに 
    • FDA、Pepaxtoの承認取消しを遂に決定 
    • CHMP、ALS用薬などの承認に肯定的意見 
    • ESBL産生菌にも強い複合セフェムが承認 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    HIV治療薬を飲みたがらない患者には持効性注射薬
    (2024年2月21日発表)

    NIAID(米国立アレルギー・感染症研究所)は、第3相LATITUDE試験の盲検を解除し、経口標準療法群の患者にViiVヘルスケアの持効性注射用薬、Cabenuva(cabotegravir、rilpivirine)にスイッチするよう提案することを決定した。中間解析で全ての評価項目における優越性が見られたため。アドヒアランス(指示通り服薬)に難のあるHIV/AIDS患者にはCabenuvaのほうが良いことが示唆された。但し、データは未公表なので不透明な点が多々ある。

    この試験は、共同治験グループのACTGが米国の施設でアドヒアランスに難のあるHIV/AIDS患者を組入れて実施した。ロンチは2019年で、Cabenuvaの承認の2年前。最初にSOC(経口剤3剤による標準療法)を24週間施行してウイルスを抑制してから、継続投与する群とCabenuvaにスイッチする群に無作為化割付けして48週間投与し、治療フェール率(HIV-1 RNAが200c/mL以上に増加、または試験薬の永続的中止)を比較した。

    良く分からないのは、アドヒアランスに難がある人がなぜ当初の24週間の治療でウイルス抑制できたのか?おそらく、200c/mLまたは50c/mLの閾値を下回った患者だけを無作為化割付けしたのだろうが、何れにせよ、アドヒアランスに難のある人の中で比較的悪くない人だけをスクリーニングすることにならなかっただろうか?治験登録によると、当初治療段階では目標を達成した被験者に経済的インセンティブを与えたとのことなので、無作為化割付け期間に入った途端、アドヒアランスが本来の姿に戻って急悪化したということなのだろうか?

    もう一つの疑問は、前後して実施された承認申請用第3相試験で優越性が見られなかったこととの整合性。初めて治療を受ける患者と、治療歴のある患者の二本の試験とも、48週フェール率(HIV-1 RNAが5c/mL超に増加)が2%となり、SOC継続投与群の各2%と1%と比べて劣っていなかった。
    投与中止・追跡不能率はCabenuva群は4%と6%、SOC群は二本とも4%だった。おそらく、LATITUDE試験はこの指標の群間差が大きかったのだろう。

    リンク: NIAIDのプレスリリース
    リンク: 治験登録(ClinicalTrials.gov)
    リンク: ViiVのプレスリリース


    タグリッソ、肺癌CRT後維持療法試験が成功
    (2024年2月19日発表)

    アストラゼネカは、EGFR阻害剤Tagrisso(osimertinib)の第3相LAURA試験で主目的を達成したと発表した。データは学会発表する考え。適応拡大申請も計画している。

    切除不能なステージIII非小細胞性肺癌でEGFRに変異を持つ患者216人を組入れて、治癒的化学放射線療法後の維持療法として80mgを一日一回投与したところ、PFS(無進行生存期間)が偽薬比統計的有意な、かつ臨床的に意味のある、改善を見た。副次的評価項目の全生存期間は未成熟で今後も継続するが、改善のトレンドが示された。

    Tagrissoはある種のEGFR変異を持つ成人の非小細胞性肺癌のうち、以下のセッティングで使用することが米国などで承認されている:切除可能癌では摘出術後付随療法として単剤投与、局所進行癌では化学療法併用、転移癌では化学療法併用または単剤投与、そしてEGFRチロシン・キナーゼ阻害による治療歴を持つ癌に単剤投与だ。パズルの残ったマス目がまた一つ埋まりそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース

    【承認申請】


    デュピクセントを好酸球性COPDにも申請
    (2024年2月23日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)と開発販売パートナーのサノフィは、Dupixent(dupilumab)を成人の二型炎症を伴うCOPD(慢性閉塞性肺疾患)に用いる適応拡大を米国で承認申請し受理された。既存薬で治療しても増悪を十分に防げない、管理不良患者に追加投与する。第3相試験では中重度急性増悪頻度が偽薬群より一本では30%、もう一本では34%、少なかった。優先審査を受け、審査期限は24年6月27日。承認されたら米国で30万人程度が適応になると推定されている。

    リンク: 両社のプレスリリース


    セルヴィエ、IDH阻害剤を欧米申請
    (2024年2月20日発表)

    セルヴィエは欧米でvorasidenibをIDH変異のあるびまん性グリオーマ用薬として承認申請し受理された。米国は優先審査を受け審査期限は8月20日。EUでも加速審査を受け、年後半に結果が出る見込み。

    成人型びまん性グリオーマの2割、ステージ2や3では100%で見られるIDH1/2変異を標的とする経口剤。20年にAgios Pharmaceuticalsから腫瘍学事業を買収して入手した。IDH変異陽性グレード2グリオーマで切除術後に病変が残存または再発し初めて薬物治療を受ける患者を組入れた第3相試験で、PFS(無進行生存期間、盲検独立評価委員会による放射線学的評価)の偽薬比ハザードレシオが0.39、メジアン値は27.7ヶ月と11.1ヶ月だった。G3以上の有害事象発生率は22.8%(偽薬群は13.5%)、G3以上のALT上昇が9.6%(同0%)で発生した。

    リンク: セルヴィエのプレスリリース


    BMS、KRAS阻害剤を大腸癌に適応拡大申請
    (2024年2月20日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブはKrazati(adagrasib)をKRASにG12C変異を持つ局所進行/転移結腸直腸癌に適応拡大申請し受理された。cetuximabと併用する。優先審査を受け、審査期限は6月21日。

    エビデンスは、様々な腫瘍に様々な薬と併用または単剤投与する便益を検討しているKRYSTAL-1試験におけるORR(客観的反応率)とのこと。

    1月に48億ドルで買収したMirati TherapeuticsのKRAS-G12C阻害剤で、22年に米国でKRAS-G12C変異陽性の局所進行/転移非小細胞性肺癌の2次治療薬として加速承認、先月にはEUでも条件付き承認された。

    リンク: BMSのプレスリリース


    第一三共、第3のADCを承認申請
    (2024年2月19日発表)

    第一三共は、アストラゼネカと共同開発している抗体薬物複合体(ADC)、DS-1062(datopotamab deruxtecan、通称Dato-DXd)を米国で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は12月20日。

    非小細胞性肺癌などで発現するTROP2(別名EGP-1)を標的とする抗体とトポイソメラーゼ阻害剤を1対4の比率で結合したもの。非扁平上皮非小細胞性肺癌の2/3次治療に用いることを想定している。

    第3相TROPION-Lung01試験で、白金薬、及び、分子標的薬が適応になる場合は当該薬、それ以外は抗PD-1/L1抗体による治療歴を持つ進行/転移非小細胞性肺癌約600人を組入れて6mgを3週毎点滴静注する効果を実薬であるdocetaxelと比較したところ、PFS(無進行生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.75と統計的に有意な改善を見た。メジアン値は4.4ヶ月対3.7ヶ月とあまり大きな差がない一方で、12ヶ月無進行生存率は30%対18%と比較的大きな差が出ている。共同主評価項目である全生存期間は未だ成熟していないが、昨年のESMO(欧州臨床腫瘍学会)での発表によると、ハザードレシオ0.90、メジアン値は12.4ヶ月対11.0ヶ月と、あまり大きな差は出ていない。有害事象面ではG3以上の間質性肺疾患(査読後)の発生率が3.4%対1.4%と上回り、過半は死亡した。その過半は病気の進行が原因と見なされているが、気になるところではある。実薬対照試験なので満足すべき、副作用で一人死んでも50人の寿命が1ヶ月延びるなら受け入れるべき、と考えることもできるが、shouldではないだろうから、難しい所だ。

    会社側も悩んだのだろう、数値が良好な非扁平上皮サブグループに限定して申請した。PFSのハザードレシオは0.63、メジアン5.6ヶ月対3.7ヶ月、全生存でもハザードレシオ0.77と、臨床的に意味のある差が示唆されている。一方で、扁平上皮肺癌サブグループの全生存期間はdocetaxelより数値上短いことになり、その原因分析も並行して行う必要があるだろう。

    悩ましさを一層高めるのは、ギリアド・サイエンシズの抗EGP-1抗体Trodelvy(sacituzumab govitecan-hziy)の類似した内容・規模の第3相、EVOKE-01試験がフェールしたことだ。全生存期間がdocetaxelを有意に上回らず、扁平上皮腫でも、それ以外でも、数値上上回るだけだった。完全に同じ薬の完全に同じ試験ではないので比較検討できない可能性もあるし、この種の食い違いは特に珍しくもないが、検討課題にはなりうる。

    非扁平上皮腫限定でも優先審査指定されなかったところを見ると、FDA側も念入りな検討が必要と考えているのではないか。

    リンク: 同社ののプレスリリース(和文、pdfファイル)


    遅報:ネモリズマブが欧米でも承認申請
    (2024年2月14日発表)

    スイスのガルデルマは欧米でnemolizumabを結節性掻痒と青年成人の中度アトピー性皮膚炎の治療薬として承認申請し受理されたと発表した。米国は優先審査を受ける。

    中外製薬から日本と台湾以外の市場でライセンスした皮下注用抗IL-31受容体A抗体。日本はマルホが皮膚科領域における開発販売権を取得、22年にアトピー性皮膚炎用薬ミチーガとして承認取得した。

    ガルデルマが実施した第3相では、奏効率(IGAが0または1に改善)が結節性掻痒試験では一本が26%(偽薬群は7%)、もう一本は36%(同11%)、アトピー試験では36%(同25%)と38%(同26%)だった。

    リンク: ガルデルマのプレスリリース


    遅報:デニロイキンを米国で再申請
    (2024年2月13日発表)

    米国ニュージャージー州のCitius Pharmaceuticals(Nasdaq:CTXR)は、Lymphir(denileukin diftitox)を米国で再承認申請したと発表した。全身性治療歴を持つ成人の難治/再発皮膚T細胞リンパ腫用薬として承認申請したが、23年に審査完了通知を受領したため、製造過程における検査や管理に関する指摘事項に対応・回答したもの。

    99年に米国で承認されたONTAK(denileukin diftitox)の高純度新製剤。16年にエーザイから日亜以外での開発販売権を取得したDr. Reddy'sから21年に権利を取得したもの。臨床試験ではステージI~IIIサブグループにおけるORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が36.2%で、95%信頼区間の下限は成否判定閾値である25%と同じだった。メジアン反応持続期間は6.5ヶ月。

    Citiusは承認取得後に事業をスピンアウトする考えである模様。

    リンク: Citiusのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    複雑性尿路感染症の複合セフェム、承認がお預けに
    (2024年2月23日発表)

    米国ペンシルバニア州の未上場新興製薬会社、Venatorx Pharmaceuticalsは、cefepimeと新開発のベータ・ラクタマーゼ阻害剤taniborbactamを感受する微生物による複雑性尿路感染症の治療薬として承認申請していたが、審査完了通知を受領した。CMC(化学、製造、管理)に関わる指摘事項があった模様。薬効や安全性に関する問題は指摘されていない由。

    第3相試験では、meropenemを投与した群と比べて奏効率の非劣性検定が成功し、シーケンシャルに実施された優越性検定も成功した。米国ニュージャージー州の未上場製薬会社、Melinta Therapeuticsが米国の開発商業化権を保有している。

    リンク: Venatorxのプレスリリース


    FDA、Pepaxtoの承認取消しを遂に決定
    (2024年2月23日発表)

    FDAは3年前に多発骨髄腫のサルベージ療法として加速承認したOncopeptides(Nasdaq Stockholm:ONCO)のPepaxto(melphalan flufenamide)に関して、承認取消しを決定した。市販後薬効確認pomalidomide対照試験がフェールし、PFS(無進行生存期間、治験医評価)が有意に伸びなかっただけでなく、全生存期間のハザードレシオが1.10、メジアン値は19.7ヶ月対25ヶ月と、死亡リスクが高まる可能性が浮上。2023年の法改正を生かして、迅速承認取消に動いた。

    欧州では昨年12月に3次治療薬として承認された。同社は承認撤回を示唆したことがあるが、決定ではないようだ。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: Oncopeptidesのプレスリリース


    CHMP、ALS用薬などの承認に肯定的意見
    (2024年2月23日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、以下の新薬などの承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月以内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: EMAのプレスリリース

    バイオジェンのQalsody(tofersen)は成人のSOD1(スーパーオキシドディスムターゼ1) 変異型ALS(筋委縮性側索硬化症)のアンチセンス薬。ALSの2%程度、家族性ALSの10%程度が該当する。米国で昨年4月に加速承認、CHMPは例外的環境条項に基づく承認を是認した。臨床試験で脳脊髄液中のSOD1や血漿中のニューロフィラメント軽鎖(神経損傷のマーカー)が減少した。ALSFRS-R機能評価尺度の改善は有意ではなかったが好ましい影響があった。ALSの平均生存期間は2~5年とされるので延命効果が望まれるが、確認されてはいない。

    リンク: EMAのプレスリリース

    Filspari(sparsentan)はアンジオテンシンIIタイプ1受容体とエンドテリンA受容体のアンタゴニスト。成人の原発性IgA腎症の治療に用いる。昨年2月に米国で加速承認、CHMPも条件付き承認に肯定的意見をまとめた。蛋白尿減少や、腎疾患の進行遅延の便益を持つ。深刻副作用は急性腎障害など。催奇性がある。CSLグループのVifor PharmaがTravere Therapeutics(Nasdaq:TVTX)から欧州などにおける権利を取得したもの。オリジンはブリストル マイヤーズ スクイブのようだ(BMS-346567)。

    腎症治療薬の開発は第3相の中間解析で尿蛋白クレアチニン比の改善作用を確認して加速/条件付き承認を申請し、最終解析でeGFR改善作用を確認して本承認に切替えるのが一般的な手順のようだが、Filspariは最終解析でFDAが推奨する解析方法による主評価項目がフェールした。EU推奨方法による副次的評価は高度ではないものの有意だったので、両機関の評価が注目されたが、CHMPは腎疾患の進行遅延と明記しており、試験成功と受け止めたのだろう。

    リンク: EMAのプレスリリース

    アストラゼネカ・グループのAlexionのVoydeya(danicopan)は補体D因子を阻害する経口剤。成人のPNH(発作性夜間ヘモグロビン尿症)で、同社の補体C5因子阻害剤Soliris(eculizumab)やUltomiris(ravulizumab)による治療を受けても残余溶血性貧血症のある患者に追加投与する。肝機能検査値異常やブレークスリー溶血が生じることがある。他の補体阻害剤と同様に、癌や血液異常の潜在的リスクを否定することができないため監視が必要。1月に日本で承認された。

    リンク: EMAのプレスリリース

    BeiGene(百済神州、Nasdaq:BGNE、HKEX:6160)のTizveni(tislelizumab)は抗PD-1抗体。成人の局所進行切除不能/転移NSCLC(非小細胞性肺癌)に関する3適応・用法が支持された(腫瘍細胞の50%以上でPD-L1陽性かつEGFR/ALK変異の無い非扁平上皮NSCLCの一次治療にpemetrexed及び白金薬と併用、扁平上皮NSCLCの一次治療にcarboplatin及び(nab-)paclitaxelと併用、そして、白金薬と、もし適応になるならEGFRやALKの分子標的薬による治療歴のあるNSCLCにモノセラピー)。

    この活性成分は食道扁平上皮腫の二次治療薬Tevimbraとして昨年9月にEUで承認されているが、NSCLC用途は別製品という扱いのようだ。

    21年にノバルティスが欧米日本などの権利をライセンスしたが、FDAが中国だけで実施された試験に疑問を呈したためか、23年9月に返還した。今回の適応のうち、一次治療は中国試験に基づくものと推測される。

    リンク: EMAのプレスリリース

    インサイトのZynyz(retifanlimab)も抗PD-1抗体。成人の治癒的手術や放射線療法の対象にならない転移/難治局所進行メルケル細胞腫に単剤投与する。条件付き承認ではない。米国では昨年3月に加速承認された。

    リンク: EMAのプレスリリース

    CSL SeqirusのA(H5N1)インフルエンザ・ワクチン二品も肯定的意見を得た。一つはzoonotic(人獣共通感染症)ワクチンCelldemic。動物由来の感染症が流行した時に用いる。もう一つはパンデミック・ワクチンIncellipan。条件付き承認で、A(H5N1)型インフルエンザの流行時にパンデミック・ワクチンとして最終承認を申請する。どちらも弱毒化A/turkey/Turkey/1/2005 (H5N1)株 (NIBRG 23)から精製したヘマグルチニンとノイラミニダーゼ表面抗原を配合、MDCK細胞で培養、M59C.1アジュバントを添加、7.5mcg/0.5mL懸濁液。中身は同じようなもので薬事法上の取り扱いが異なるだけなのではないかと感じられる。米国でも20年に同社のAudenzaというパンデミック・ワクチンが承認されている。

    リンク: EMAのプレスリリース(Celldemic)
    リンク: EMAのプレスリリース(Incellipan)

    以下の適応拡大も肯定的意見を得た。

  • JNJグループのJanssen-Cilag InternationalのCarvykti(ciltacabtagene autoleucel):成人の難治/再発多発骨髄腫における適応範囲が拡大(各種限定のうち、抗CD38抗体歴が削除、lenalidomide抵抗性が追加、前治療歴が3レジメンから1レジメンに緩和)。米国は3月に諮問委員会上程予定。

  • MSDのKeytruda(pembrolizumab):切除可能非小細胞性肺癌で再発リスクが高い患者の術前、術後アジュバント。米国は昨年10月に承認。

  • ブリストル マイヤーズ スクイブのReblozyl(luspatercept):骨髄異形成症候群における赤血球生成刺激剤不応という限定を解除。

  • 【承認】


    ESBL産生菌にも強い複合セフェムが承認
    (2024年2月22日発表)

    FDAはフランスのAllecra Therapeuticsが承認申請したExblifep(cefepime、enmetazobactam)を成人の感受する微生物による複雑尿路感染症(腎盂腎炎を含む)の治療薬として承認した。前者は第4世代セファロスポリン、後者は新開発のベータ・ラクタマーゼ阻害剤。第3相試験では総合的奏効率が79.1%とpiperacillin及びtazobactam(Zosynの配合成分)を投与した群の58.9%を上回り、非劣性解析だけでなく優越性解析も成功した。ESBL(基質特異性拡張型ベータ・ラクタマーゼ)産生菌サブグループにも73.7%対51.5%と良好な成果を上げた。治療時発現深刻有害事象の発生率は各群4.3%と3.7%だった。

    EUでは1月に成人の複雑尿路感染症、院内感染肺炎、これらの感染に伴う菌血症の治療薬としてCHMPの肯定的意見を受けている。

    Allecraは未上場のベンチャー系企業であるためか、承認に関するプレスリリースは発出していない(2月25日時点)。

    リンク: FDAのAllecra社宛て承認通知(pdfファイル)
    リンク: Exblifepの処方情報(FDAサイト、pdfファイル)

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
    24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)
    24年3月推BeiGeneのBrukinsa(zanubrutinib、FL obinutuzumab併用)
    24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24/3/4Vanda PharmaceuticalsのHetlioz(tasimelteon、入眠障害追加)
    24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
    24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
    24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
    24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
    24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    24/3/26MSDのMK-7962(sotatercept、肺動脈高血圧症)
    24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
    24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
    諮問委員会
    24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
    24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
    24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



    今週は以上です。

    2024年2月17日

    第1142回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • ソルビトール脱水素酵素欠乏症の第3相中間解析が成功 
    • 経口遺伝性血管浮腫発作治療薬の第3相が成功 
    • 大塚、アルツハイマー性アジテーションの第3相がフェール 
    • CSLもapoA-Iの心筋梗塞再発予防試験がフェール 
    • サレプタ、DMD用薬の対象年齢拡大を申請 
    • タピナロフをアトピーに適応追加申請 
    • BMS、AugtyroをNTRK融合型固形癌に適応拡大申請 
    • PPARデルタ・アゴニストを原発性胆管炎に承認申請 
    • BridgeBio、ATTR-CM用薬を承認申請 
    • タグリッソを一次治療にも承認 
    • ゾレアを突発的食物アレルギー抑制に適応拡大 
    • T細胞療法を悪性黒色腫に加速承認 
    • メルクのc-MET阻害剤、米国で本承認に切替 
    • 初の凍傷治療薬が承認 
    • FDA、オニバイドを一次治療にも承認 
    • 武田、budesonideの粘性懸濁液が好酸球性食道炎に承認
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    ソルビトール脱水素酵素欠乏症の第3相中間解析が成功
    (2024年2月15日発表)

    Applied Therapeutics(Nasdaq:APLT)はアルドース還元酵素阻害剤AT-007(govorestat)をガラクトース血症やSORD(ソルビトール脱酸素酵素)欠乏症などに開発し、前者は昨年12月に欧米で承認申請したばかりだが、後者も第2/3相の中間解析で主評価項目を達成した。FDAと承認申請に向けて相談する考え。複雑な試験で良く分からないところが多々あるが、酵素欠乏による希少疾患用なので容認されるかもしれない。

    この第2/3相試験は複数回の中間解析で様々な便益を評価していることが印象的。昨年2月には、50人の中間解析で血漿sorbitol水準が90日間の治療により平均52%低下したことが発表された。今回は56人の12ヶ月解析で、共同主評価項目のうち、ソルビトール水準の低下はp<0.001、ソルビトール水準と複合臨床的評価項目(10メートル歩行走行テスト、4段昇段テスト、座位起立テスト、6分歩行テスト、背屈テストに基づく)の相関性はp=0.05となった。

    この試験の最終的な主評価項目は24ヶ月時点の10メートル歩行走行テストとなっており、同社は引き続き追跡する予定。

    SORD欠乏症は遺伝性疾患でCharcot-Marie-Tooth病の一形態。米国の罹患者数は3300人、欧州は4000人と推定されている。

    古典的ガラクトース血症の第3相は主評価項目はフェールしたが複合評価指標における幾つかの症状は改善が見られたため承認申請した。EMAは承認申請を受理、FDAが受理するかどうかはもうそろそろ明らかになるだろう。SORD欠乏症も酵素欠乏による希少遺伝性疾患なので、有害代謝物であるガラクチトールが減少し、臨床的な便益を支持するある程度のエビデンスを収集できれば、承認される可能性がありそうだ。

    リンク: 同社のプレスリリース


    経口遺伝性血管浮腫発作治療薬の第3相が成功
    (2024年2月13日発表)

    KalVista Pharmaceuticals(Nasdaq:KALV)は、KVD900(sebetralstat)の第3相遺伝性血管浮腫(HAE)発作治療試験が良好な結果になったと発表した。24年上期に米国で、下期までに欧日でも、承認申請する考え。初めての経口剤なので、発作後に注射用薬より早い段階で服用される可能性があり、更に早く症状緩和できるようになるかもしれない。

    血漿カリクレイン阻害剤。第2相試験で服用後12時間以内にレスキュー治療が必要になった患者が15%と偽薬群の半分に留まり、副次的評価項目である症状改善までの時間も1.6時間と偽薬群の9時間より大きく短縮された。第3相のKONFIDENT試験では12歳以上の小児成人患者136人を偽薬群、新たに設定された300mg群、そして600mg群に無作為化割付けした。110人で264回発作が起き、症状改善が始まるまでのメジアン時間は各群6.72時間、1.61時間、1.79時間で、両用量とも偽薬比有意な違いがあった。シーケンシャルに実施された副次的評価項目の解析は、重症度緩和奏効率も、完解までの時間も、両用量とも有意な差があった。24時間完解率は各群28%、44%、52%。

    この試験は発作予防薬を用いている患者も組み入れており、両群合わせて24人で58回の発作が起きたが、このような患者にも効果が見られた。

    治療関連有害事象の発生率は各群4.8%、2.3%、2.2%と大差なく、深刻例はなかった。有害事象による治験離脱もなかった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    大塚、アルツハイマー性アジテーションの第3相がフェール
    (2024年2月13日発表)

    大塚製薬は、AVP-786(deudextromethorphan hydrobromide, quinidine sulfate)の第3相試験がフェ-ルしたと発表した。アルツハイマー型認知症における攻撃的言動などのアジテーション症状を改善する効果を検討したが、2用量群共に偽薬比有意な差がなかった。有害事象は転倒が増加した。

    15年に買収したAvanir Pharmaceuticalsが12年にConcert Pharmaceuticalsからライセンスしたもの。10年に米国で情動調節障害治療薬として承認されたNuedexta(dextromethorphan、quinidine sulfate)の類似品で、NMDA受容体拮抗・シグマ-1作動剤dextromethorphanの水素を重水素に置換することでCYP2D6による代謝を抑制、2D6を阻害するために併用するquinidineの用量を減らすことを可能にした。

    Nuedextaはアルツハイマー病患者などのアジテーションに流用されることがあり、19年には介護施設の認知症患者に投与した医師にAvanirがキックバックを払っていたとされる件で米国司法省と1.16億ドルの司法和解を結んでいる。Nuedextaが果たせなかった治験成功をAVP-786が達成できれば良かったが、実現しなかった。

    リンク: 大塚のプレスリリース(和文、pdfファイル)


    CSLもapoA-Iの心筋梗塞再発予防試験がフェール
    (2024年2月11日発表)

    CSL(ASX:CSL)はヒト由来アポリポプロテインA-Iの第3相AEGIS-II試験がフェールしたと発表した。急性心筋梗塞の診断から5日以内で、PCI/薬物治療後の再発リスクが高い18200人を、試験薬と偽薬に2対1割付けして週一回、4回静注し、90日間のMACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)を追跡したもの。データは4月6日にACC(米国心臓学会)で発表する考え。

    後期第2相試験でも30日MACEを改善する作用は見られなかったが、検出力不足だったので結論が出せなかった。

    HDLの主構成物質であるアポA-Iは、Medicine CompanyもA-Iミラノという心血管疾患リスクの低さと関連する多型の遺伝子組換え版を用いてIVUS(血管内超音波)試験を行ったが、16年にフェールした。

    リンク: CSLのプレスリリース

    【承認申請】


    サレプタ、DMD用薬の対象年齢拡大を申請
    (2024年2月16日発表)

    サレプタ・セラピューティックスはElevidys(delandistrogene moxeparvovec-rokl)の加速承認を本承認に切替えるとともに、歩行可能な4~5才児という限定を解除すべく、FDAに追加申請し受理された。審査期限は6月21日。

    第3相EMBARK試験に基づく。主評価項目の52週North Star Ambulatory Assessment総合スコアは偽薬比有意に改善しなかったものの、副次的評価項目のうつ伏せから起立までの時間(ベースラインの3.5秒から偽薬調整後0.67秒低下)や10メートル歩行走行テスト(4.8秒から同0.42秒低下)が有意に改善した。治療関連深刻有害事象の発生率は11%(偽薬群は0%)だった。

    Elevidysはデュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子療法。ある程度機能するマイクロジストロフィンの遺伝子をアデノ随伴ウイルスベクターで導入する。

    リンク: 同社のプレスリリース


    タピナロフをアトピーに適応追加申請
    (2024年2月14日発表)

    Roivant Sciences(Nasdaq:ROIV)の皮膚病領域における子会社であるDermavant Sciencesは、Vtama(tapinarof 1%クリーム)を2歳以上のアトピー性皮膚炎の治療薬としてFDAに適応追加申請した。2歳以上の中重度アトピー性皮膚炎を組入れた二本の試験で、奏効率(Validated Investigator Global Assessment for Atopic Dermatitisで評価)が一本は46%(偽薬群は18%)、もう一本は45%(同14%)だった。有害事象は、乾癬試験と同様に、毛包炎などの発生率が偽薬群を上回った。

    アリル炭化水素受容体調節剤で、表皮細胞の新陳代謝やバリア形成にかかわる遺伝子の発現を促す。22年に米国で乾癬治療薬として承認され、日本でもJTが乾癬に承認申請中。

    リンク: 同社のプレスリリース


    BMS、AugtyroをNTRK融合型固形癌に適応拡大申請
    (2024年2月14日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブは、Augtyro(repotrectinib)を12歳以上のNTRK(Neurotrophic tropomyosin kinase receptors)遺伝子融合のある局所進行/転移/切除不適な固形癌に米国で適応拡大申請し受理されたと発表した。優先審査を受け、審査期限は6月15日。

    ROS1やTRK、ALKを阻害する経口剤で、昨年11月に米国で成人のROS1再編成のある局所進行/転移非小細胞性肺癌に承認された。日欧でも承認審査中だが、EUでは今回の適応も申請している。22年に74億ドルで買収したTurning Point Therapeuticsの開発品。

    リンク: BMSのプレスリリース


    PPARデルタ・アゴニストを原発性胆管炎に承認申請
    (2024年2月12日発表)

    CymaBay Therapeutics(Nasdaq:CBAY)はseladelparを原発性胆管炎の管理薬としてFDAに承認申請し、受理された。優先審査を受け、審査期限は8月14日。EUでも上期中に承認申請する考え。日本は昨年、科研製薬が開発商業化権を取得した。

    18年前にJohnson and JohnsonからライセンスしたPPARデルタ・アゴニスト。類薬はイプセンがGenfit(Nasdaq:GNFT)からライセンスしたelafibranorを一足先に欧米で承認申請し、米国の審査期限は6月10日となっている。どちらも成人の、UDCA(ursodeoxycholic acid)に十分応答しないまたは不耐の患者が対象。第3相は主評価項目の定義が異なるのか偽薬群の奏効率がかなり異なっており、効果を比較するのは現時点では難しそうだ。

    同日、ギリアド・サイエンシズによる企業買収で合意したことも発表した。一株当たり32.5ドル、先週末の株価比27%のプレミアム、総額はエクイティ・バリュー・ベースで43億ドル。

    リンク: CymaBay のプレスリリース(NDA)
    リンク: ギリアドとCymaBayのプレスリリース(買収合意)


    BridgeBio、ATTR-CM用薬を承認申請
    (2024年2月5日発表)

    BridgeBio Pharma(Nasdaq:BBIO)はacoramidisをATTR心筋症(トランスサイレチン型心アミロイドーシス)用薬として欧米で承認申請し受理されたと発表した。審査期限は11月29日。

    スタンフォード大学発のコンパウンドで、トランスサイレチンの4量体構造に結合し安定化させ、アミロイドーシスに至るプロセスを妨げる。第3相ATTRibute-CM試験でNYHAクラスIとIIの患者632人を800mgを一日二回経口投与する群と偽薬群に2対1割付けして転帰を比較したところ、パートAの主評価項目である12ヶ月後の6分歩行テストはフェールしたが、パートBの30ヶ月複合評価項目のWin Ratioが1.8、p<0.0001となり、成功した。構成項目のうち全死亡だけの副次的評価はp=0.057と有意ではなかったが、心血管入院が50%少なかったことなどが寄与した模様だ。

    Win Ratio法は、各群1例ずつをランダムに選択して優先順位に即して勝ち負けを決める。例えば、投与開始の半年後に各群1人ずつ心筋梗塞を発症し、偽薬群は即死、試験薬群はその半年後に死亡したようなケースでは、一般的な解析法であるtime-to-event法では優劣無しと評価されるが、Win Ratio法では最優先となる全死亡時期に半年の違いがあるため試験薬の勝ちとなる。Win Ratio法を採用したのは、主評価項目の構成が全死亡、心血管関連入院、NT-proBNPの変化、6分歩行距離となっており重要性がかなり異なるためだ。

    日本の権利はアクテリオンが取得、先日、ブリッジング・スタディの30ヶ月生存率が対照群より高かった旨を発表している。

    リンク: BridgeBioのプレスリリース

    【承認】


    タグリッソを一次治療にも承認
    (2024年2月16日発表)

    FDAはアストラゼネカのTagrisso(osimertinib)を一次治療に使うことを認めた。EGFRの遺伝子にエクソン19欠損又はエクソン21のL878R変異を持つ局所進行/転移非小細胞性肺癌における、再発治療限定を解除するもの。白金薬ベースの化学療法と併用する。FLAURA2試験でPFS(無進行生存期間)のメジアン値が25.5ヶ月とTagrissoだけを投与した群の16.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.62だった。副次的評価項目の全生存期間については、目標進捗率が45%と未成熟だが損なわれるようなトレンドは観察されていない、という文言がレーベルに記載された。G3以上の有害事象の発生率は64%とTagresso単剤群の27%を上回った。骨髄抑制などにより被験者の半数近くが何れかの薬を中止した。

    FDAは今回の申請を、優先審査、ファースト・トラック、再生医療先端治療、そして希少疾患として指定し審査した。

    リンク: FDAのプレスリリース


    ゾレアを突発的食物アレルギー抑制に適応拡大
    (2024年2月16日発表)

    FDAはジェネンテックのXolair(omalizumab)を1歳以上の免疫グロブリンE(IgE)調停性食物アレルギーを抑制する目的で使用することを認めた。突発的な曝露に備える趣旨であり、少数だが応答しない患者もいるため、アレルゲンを回避する努力は続ける必要がある。

    抗IgE抗体で、米国では03年に管理不良喘息症用薬として承認され、その後、ある種の慢性副鼻腔炎や蕁麻疹に適応拡大した。今回のエビデンスとなったのはNIH(米国立医療研究所)が主導したアレルゲン・チャレンジ試験。ピーナツに加えてもう一つの食品にアレルギーを持つ1~17歳の168人を組入れて16~20週間治療したところ、68%の患者が600mg以上のピーナツ蛋白(約2.5個分)を摂取しても中等度以上のアレルギー症状を起こさなかった(偽薬群は6%)。一方で、17%の患者は耐容量が増えなかった。

    カシューナッツでは42%、牛乳は66%、卵は67%が中等度以上のアレルギー症状を起こさなかった。

    Xolairはアナフィラキシーのリスクが枠付き警告されている。

    リンク: FDAのプレスリリース


    T細胞療法を悪性黒色腫に加速承認
    (2024年2月16日発表)

    FDAはIovance Biotherapeutics(Nasdaq:IOVA)のAmtagvi(lifileucel)を成人の切除不能/転移黒色腫用薬として加速承認した。PD-1標的抗体医薬(BRAFにV600変異を持つ場合はBRAF阻害剤も)による治療歴を持つ患者が適応になる。臨床試験におけるORR(客観的反応率、解析対象73人)は31.5%、反応持続期間のメジアン値は未達、反応者の43.5%は12ヶ月以上持続した。枠付き警告は、治療関連死(160人中12人)、重度の血球減少(G3以上の熱性好中球減少症発生率47%)、感染症、心肺症、腎障害。

    切除した腫瘍細胞から採取し培養した腫瘍浸潤リンパ球(主としてCD4/CD8陽性T細胞)の細胞療法。リンパ枯渇療法を7日間施行した後に投与し、その後2~4日間、遺伝子組換えIL-2製剤を12時間おきに投与して増殖を促す。

    当初は20年に承認申請の予定だったが、腫瘍抗原を認識するT細胞がどの程度あるのか測定することが難しいため、FDAが力価アッセイに関して様々な追加データを要求、承認申請が23年3月に遅れ、審査期間も延長された。

    リンク: FDAのプレスリリース


    メルクのc-MET阻害剤、米国で本承認に切替
    (2024年2月15日発表)

    FDAはメルクの米国子会社であるEMDセラノのTepmetko(tepotinib)をMET遺伝子にエクソン14スキップのある転移非小細胞性肺癌に承認した。この適応は21年に加速承認した時と同じ。薬効評価方法もORR(客観的反応率、盲検独立中央評価)と反応持続期間で同じ。臨床試験が進捗し、症例数が約310人とほぼ倍増、反応持続期間の追跡期間も増加したため、本承認に切り替えた。通常は無作為化割付け対照試験で延命またはそれに準じる効果を確認する必要があるが、希少疾患用の分子標的薬ではFDAがフレキシブルな対応を行うことがある。

    リンク: FDAのプレスリリース


    初の凍傷治療薬が承認
    (2024年2月14日発表)

    FDAは、Eicos SciencesのAurlumyn(iloprost)を成人の重度凍傷の治療薬として承認した。指切除のリスクを抑制する。有害事象は頭痛、紅潮、動悸、悪心嘔吐などで、症候性低血圧のリスクが警告注意されている。

    プロスタグランディンI2の類縁体で、他社の吸入用製剤が肺高血圧症治療薬として欧米日で承認されている。Aurlumynは静注点滴用製剤で、臨床試験では一日6時間、最大8日間投与した。パッケージ・インサートが未公開なのでエビデンスは明らかではないが、FDAのリリースで参照されている、フランスで行われた治験研究と推測される。スキー・リゾートとして有名なシャモニーの医師が2011年にNew England Journal of Medicine誌に寄稿した治験報告によると、96年から08年に山岳救助隊に運ばれてきた重度凍傷患者47人に、復温に加えてアスピリンと血管拡張剤buflomedilの静注を施行した上で3群に割付けて最大8日間治療し、骨スキャンで指切断が必要と判定されるリスクを比較した。アスピリン・buflomedil継続投与群は60%が指切断判定されたのに対して、アスピリン・iloprost併用群は0%、アスピリン・iloprostに加えて初日だけrTPAを投与した群は19%だった。

    尚、buflomedilは欧州の一部国で末梢動脈閉塞性疾患(PAOD)の治療に長年用いられていたが、安全域が狭く、PAOD患者がしばしば合併する腎障害で曝露が増加することなどが響き、痙攣や癲癇重積症の副作用が報告され、2011年にフランスが承認停止、翌年、欧州委員会も承認停止を勧告した。

    EicosはCiVi Biopharmaの子会社で、どちらも未上場。設立は上記論文の刊行より後なので、既存の活性成分と既存の治験記録を活用して承認を取得する企業戦略なのかもしれない。

    リンク: FDAのプレスリリース
    リンク: Cauchyらの治験報告書簡(N Engl J Med 2011; 364:189-190)
    リンク: Wilderness Medical Societyの凍傷予防治療ガイドライン


    FDA、オニバイドを一次治療にも承認
    (2024年月日発表)

    FDAはイプセンのOnivyde(irinotecanリポソーム製剤)を転移膵臓腺腫の一次治療に用いる適応拡大を承認した。50mg/m2を90分点滴静注、oxaliplatinを120分点滴静注、leucovorin30分点滴静注、fluorouracil46時間点滴静注という順番のコースを2週毎に施行する。

    未治療の転移膵管腺腫を組入れた第3相NAPOLI 3試験で、メジアン生存期間が11.1ヶ月と、nab-paclitaxelとgemcitabineを併用した群の9.2ヶ月を僅かに上回り、ハザードレシオは0.83、p=0.04だった。副次的評価項目のPFS(無進行生存期間)はメジアン7.4ヶ月対5.6ヶ月、ハザードレシオは0.69。G3/4の治療時発現有害事象は下痢や悪心、疲労が低カリウム血症の発生率が上回った一方、骨髄抑制は下回った。

    Onivydeは15~16年に米欧で、20年には日本でも、二次治療に承認された。17年にMerrimack Pharmaceuticalsから関連資産を取得したもの。今回の承認に伴い225百万ドルの目標達成金を貰えるMerrimackは、5月に特別株主総会を招集し、会社清算の承認を得る考え。

    リンク: FDAのプレスリリース


    武田、budesonideの粘性懸濁液が好酸球性食道炎に承認
    (2024年2月12日発表)

    武田薬品は、FDAがEohilia(budesonide)を11歳以上の小児・成人の好酸球性食道炎の治療薬として承認したと発表した。一巡目の審査は期限超過の末に審査完了となり、追加試験を推奨されたことから一時は開発中止となったが、何とかゴールにたどり着いた。

    budesonideの粘着付着性局所性経口剤。2mg/10mLを一日二回、経口投与する。ゲル・ボールペンのインクはフリクション・ボールが紙の上で転がると液状化し、紙の上で再び固形化する。Eohiliaも同様なメカニズムを利用しており、10秒以上シェイクして粘度を落としてから服用する。

    当方が把握している範囲では、08年にVerus PharmaceuticalsがMeritage Pharmaに権利を譲渡、11年にViroPharmaがMeritage買収オプションを取得、13年にViroPharmaを買収したShireが15年にオプション行使、19年に武田がShireを買収という経緯。

    好酸球性食道炎では22~23年にRegeneron PharmaceuticalsのDupixent(dupilumab)が米欧で適応拡大した。皮下注用で、従来治療法に不応不適な患者に限定されている。年齢下限は昨年、米国で、1歳に引き下げられた。もう一つの違いは、Eohiliaは12週を超える投与の有効性や安全性が確認されていない。最初にEohiliaの12週コースを施行し、不十分/不耐ならDupixentにスイッチするイメージだろう。

    リンク: 武田薬品のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
    24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
    24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)
    24年3月推BeiGeneのBrukinsa(zanubrutinib、FL obinutuzumab併用)
    24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
    24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
    24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
    24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
    24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    24/3/26MSDのMK-7962( sotatercept、肺動脈高血圧症)
    24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
    24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
    諮問委員会
    24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
    24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
    24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



    今週は以上です。

    2024年2月10日

    第1141回

     

    【ニュース・ヘッドライン】

    • ハンター症候群の遺伝子療法試験が成功 
    • リリー、デュラグルチドの第2相脂肪性肝炎試験が成功 
    • Vertex、膿疱性線維症新薬の第3相がポジティブな結果に 
    • JNJの抗FcR抗体も筋無力症試験が成功 
    • Blenrep shall return 
    • ギリアド、二剤の第3相がフェール 
    • BMS、オプジーボを肺癌術前術後補助療法として承認申請 
    • PRAC、パキロビッドと一部の免疫抑制剤の併用注意喚起 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    ハンター症候群の遺伝子療法試験が成功
    (2024年2月7日発表)

    米国のRegenxbio(Nasdaq:RGNX)は、RGX-121のハンター症候群(別名ムコ多糖症II型)におけるpivotal試験で主目的を達成したと発表した。24年下期にFDAに加速承認を申請する考え。

    ハンター症候群はX染色体劣性遺伝性疾患。ライソソームのI2S(iduronate-2-sulfatase)遺伝子が欠乏し、ヘパラン硫酸などが分解されずに蓄積、発達障害をもたらす。米国では年30~40人の新生児が診断される。治療は週一回、まる一日をかけて酵素補充療法(ERT)を受ける。RGX-121はヒトI2Sの遺伝子をAAV9ベクターを用いて中枢神経系に導入する。第1/2/3相CAMPSIITE試験では5歳までの神経障害性ハンター症候群患者に脳の大槽(一部の患者は脳室内)に一回投与し、その後の48週間、免疫抑制療法を施行した。薬効は、疾病活動性のサロゲート・マーカーとされるヘパラン硫酸のD2S6コンポーネントの脳脊髄液における水準の変化で評価した

    用量変動パートでは15人の第16週D2S6が用量に応じて30~78%低下した。追跡期間が長い、最低用量を投与した3人は4年後も低水準を維持した。最大用量の2.9x10^11gc/gを投与した5人中4人はERTが不要になった。最大用量をpivotalパートで10人に投与したところ、第16週D2S6が86%低下し、8人は正常水準に達した。

    有害事象はウイルスや細菌の感染症が見られるが、薬物や免疫抑制との関連性は否定されたようだ。pivotalパートでは肝機能検査値異常の深刻有害事象が1例発生したが、ステロイド治療で解消した。

    ヘパラン硫酸削減効果に基づく承認は、日本ではJCRファーマの遺伝子組換え酵素補充療法イズカーゴ(パビナフスプアルファ)が21年に承認されているが、米国では本剤が初となる見込み。

    リンク: 同社のプレスリリース


    リリー、デュラグルチドの第2相脂肪性肝炎試験が成功
    (2024年2月6日発表)

    イーライリリーは2023年決算発表に合わせてパイプライン・アップデートを行った。GLP-1/GIP受容体アゴニストtirzepatideの第2相MASH(代謝障害関連脂肪性肝炎、旧NASH)試験が主目的を達成し、CDK4/6阻害剤Verzenio(abemaciclib)の第3相前立腺癌試験はフェールした。

    tirzepatideは二型糖尿病薬Mounjaroや体重管理薬Zepboundの活性成分で、MASH領域でも期待の新薬だ。第2相SYNERGY-NASH試験ではステージ2と3の患者を偽薬、5mg、10mg、15mgに無作為化割付けして52週間治療し、奏効率を比較した。奏功の定義は、主評価項目ではMASHが解消し線維症が悪化しないこと。副次的評価項目では線維症が1段階以上改善しMASHが悪化しないこと。前者は各群12.6%、51.8%、63.1%、73.9%となり、3用量とも偽薬比統計的に有意だった。MASH領域の他の開発品の数値と見比べても良さそうだ(比較可能性があるとは限らないが)。後者は全用量とも臨床的に意味のある数値が出たとのことだが、統計的に有意とは記されていない(第2相なので検出力がないのかもしれないが)。

    同社とノボ ノルディスクのGLP-1作用剤はスタチンや抗PD-1抗体に続く超大型製品に育っている。リリーのTrulicityとMounjaro、Zepboundの合計売上高は22年の79億ドルが23年には124億ドルに増加、同年第4四半期だけ見ると年率160億ドルに膨れ上がり、それでも、(二社とも)供給が需要に追い付かない状態だ。

    リンク: 同社の23Q4決算プレゼン用スライド(P.17に関連図表)

    一方、Verzenioは第3相CYCLONE-2試験で転移去勢抵抗性前立腺癌にabirateroneと併用する便益を検討したが、PFS(無進行生存期間、放射線学的評価)がabiraterone・偽薬併用群を有意に上回らなかった。

    リンク: 同社の23Q4決算リリース


    Vertex、膿疱性線維症新薬の第3相がポジティブな結果に
    (2024年2月5日発表)

    Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)は膿疱性線維症薬として開発しているトリプル・コンビ・レジメンの第3相試験がポジティブな結果になったと発表した。24年央までにグローバルな承認申請を行う予定。米国では優先審査バウチャを用いて審査期間短縮を図る。

    vanza tripleと通称される開発品は、CFTRコレクターのVX-121(vanzacaftor)とVX-661(tezacaftor)及びCFTRポテンシエーターVX-561(deutivacaftor)の配合剤。第3相は、二本の試験に12歳以上のこれらの薬剤に感受する変異型を持つ膿疱性線維症患者を組入れて、一日一回経口投与する便益を、同社の既存製品であるTrikafta(elexacaftor、tezacaftor、ivacaftorの配合剤)を朝に、Kalydeco(ivacaftor)を夕に、経口投与する群と比較した。ラン・イン期間に全員にTrikaftaレジメンによる治療を施行した後の数値との比較なので、新製品にスイッチする当否を検討したわけだ。三剤の用量は、新製品が各20mg、100mg、250mg、Trikaftaレジメンは朝は各100mg、50mg、75mg、夕はivacaftorだけ75mgとなっており、共通成分であるtezacaftorの用量も異なっている。

    主目的である第24週のppFEV1(一秒量の予測値比パーセント)は二本とも非劣性解析が成功した。ベースライン値比増減の群間差は二本とも0.2%だった。副次的評価項目である汗中塩化物奏効率(汗中塩化物検査値が膿疱性線維症の診断基準である60mmol/Lを下回った患者の比率)はスイッチ群ではベースライン値の76%から86%に10%改善したのに対して、継続群では74%から76%に微増に留まり、有意な差があった。安全性は大きな群間差はなかった。

    もう一本のRIDGELINE 105試験は6~11歳の感受変異型を持つ膿疱性線維症を組入れた単群試験。主目的は安全性だが、副次的評価項目の第24週汗中塩化物はTrikaftaラン・イン後のベースライン値と比べて8.6mmol/L改善。汗中塩化物奏効率はベースラインの84%から95%に改善した。

    Trikaftaからスイッチさせるには患者や医師、保健機関などにメリットをアピールする必要がある。塩化物の汗中浸出が減少する意義をどれだけアピールできるか、且つ又、価格でどれだけアピールできるかが課題になりそうだ。同社にとっては、第3者に支払うべき売上ロイヤルティ率が既存製品より低いことに加えて、おそらく知的所有権の有効期間も長いのだろう。

    リンク: 同社のプレスリリース


    JNJの抗FcR抗体も筋無力症試験が成功
    (2024年2月5日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンはJNJ-80202135(nipocalimab)の第3相重症筋無力症(gMG)試験が成功したと発表した。当局と相談する考え。シェーグレン症候群の第2相用量変動試験が良好な結果になったことも明らかにした。

    20年にMomenta Pharmaceuticalsを買収して入手した、胎児性Fc受容体(FcRn)に結合するアグリコシル化抗体。抗FcRn抗体は21~22年にargenx(Nasdaq:ARGX)の抗体フラグメント、Vyvgart(efgartigimod alfa-fcab)が、23~24年にはUCBのIgG4型抗体、Rystiggo(rozanolixizumab-noli)も、米日欧で抗アセチルコリン受容体抗体陽性のgMGなどに承認されている。JNJの開発の特徴は様々な用途にテストしていることで、23年に早発性重度胎児新生児溶血性疾患(EOS-HDFN)の第2相が成功、CIDP(慢性炎症性脱髄性多発神経炎)の第2/3相試験も進行中だ。

    第3相gMG試験、VIVACITYは標準療法の効果が不十分な成人の中重度gMG患者を組入れて2週毎静注し、第22~24週のMG-ADLを偽薬群と比較した。データは未発表。第2相では4用量・用法群ともMG-ADL2ポイント低下奏効率が52%と偽薬群の15%を有意に上回った。

    リンク: JNJのプレスリリース


    Blenrep shall return
    (2024年2月5日発表)

    GSKは、昨年11月、Blenrep(belantamab mafodotin-blmf)の第3相多発骨髄腫試験、DREAMM-7で主目的を達成したと発表したが、2月のASCO(米国臨床腫瘍学会)Plenary Seriesでデータが発表された。全生存期間のデータが成熟するのを待って承認申請に向かうのでないか。

    Blenrepは、協和キリン・グループのBioWaが創製した、骨髄腫細胞のサバイバルを促すBCMAをブロックする抗体と細胞毒を結合した抗体薬物複合体。主要4剤を使い果たした再発/難治多発骨髄腫を組入れた第2相で良績を上げス20年に米欧で加速承認/条件付き承認されたが、市販後薬効確認試験である第3相DREAMM-3が22年にフェールし、3次治療におけるPFS(無進行生存期間)がpomalidomide・dexamethasoneを有意に上回るといいう仮説を立証できなかった。全生存期間の解析は未成熟だったがハザードレシオ1.14と数値上、見劣りした。このため、米国では23年2月に加速承認が取り消された。EUでもCHMPが昨年12月に条件付き承認を更新すべきでないという勧告を再確認したため、早晩、取り消されるだろう。

    このような経緯があるため今回の試験成功はサプライズだ。難治/再発骨髄腫の二次治療試験で、Velcade(bortezomib)、低量dexamethasone、そしてDarzalex(daratumumab)を併用する標準療法の、daratumumabに代えてBlenrepを併用する効用を検討したところ、中間解析で主評価項目のPFSを達成した。ハザードレシオ0.41、p<0.00001、メジアン期間は36.6ヶ月対13.4ヶ月と、かなり良い。副次的評価項目である全生存期間もハザードレシオ0.57、p=0.00049と大変良い数値が出ているが、中間解析の成功認定基準はp<0.00037と厳しく設定されていたため、統計的に有意とは言えず、引き続き追跡する。

    有害事象は血小板減少症や好中球減少症、肺炎などの発生率が対照群を上回った。G3以上の視覚有害事象(霞目やドライアイ、視力低下など)が34%の患者で発生したが、多くは回復した。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ギリアド、二剤の第3相がフェール
    (2024年2月6日発表)

    ギリアド・サイエンシズは23年第4四半期の決算発表に際して、GS-5245(obeldesivir)の第3相COVID-19試験とGS-4721(magrolimab)の第3相急性骨髄性白血病(AML)試験がフェールしたことを明らかにした。どちらも他の第3相がパッとしない結果だったのでサプライズ感は小さい。

    obeldesivirはCOVID-19治療薬Veklury(remdesivir)の類縁体で、肝臓以外にも分布する酵素によって活性化されることから、経口剤として開発されている。第3相OAKTREE試験は米国と日本の施設で陽性判定から3日以内の、重症化リスクが高くなく入院もしていないCOVID-19感染者に350mgを一日2回、5日間投与し、症状改善までの期間を偽薬と比較したが、有意な改善が見られなかった。ウイルスや免疫の変化により流行のピーク時には最大2週間あった罹患期間が1週間足らずになったことも一因と見なされている。

    昨年9月には、米国以外の施設で陽性判定から5日以内の重症化リスクが高い非入院COVID-19感染者を対象とする第3相BIRCH試験が組入れ中止になった。感染者数が減少、重症化や死亡例も減少し、組入れが順調に進まなかったことが原因のようだ。

    Vekluryも23年の売上高が前年比でほぼ半減、前々年比では6割減の21億ドルに留まっており、経口剤の試験フェールは効果というよりは治療の必要性の問題なのだろう。

    GS-4271は抗CD47抗体。マクロファージのSIRPアルファ受容体に結合して免疫抑制するのを妨げる。複数の第3相がロンチされたが、23年に高リスクMDS(骨髄異形成症候群)の一次治療azacitidine併用試験とTP53変異AMLのazacitidine併用試験が無益中止となったのに続いて、今回、集中的治療不適なAMLのvenetoclax・azacitidine併用一次治療試験、ENHANCE-3が、中間解析で死亡リスクが見られたことから、中止となった。FDAは治験の完全停止命令を発出、過去にも部分停止命令を出したことがあり、同社は、血液癌における開発を中止する考えだ。

    20年にForty Seven社を49億ドルで買収して入手したコンパウンド。その前年に小野薬品が日本などの開発商業化権を取得し、日本で第1相、韓国台湾でAMLの第3相試験中。

    リンク: ギリアドの23Q4決算プレゼン用資料(pdfファイル)

    【承認申請】


    BMS、オプジーボを肺癌術前術後補助療法として承認申請
    (2024年2月7日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブはOpdivo(nivolumab)をステージIIAからIIIBの非小細胞性肺癌の切除術前と後のアジュバント療法に米国で適応拡大申請し受理されたと発表した。審査期限は10月8日。EUでは1月に受理されていたことも明らかにした。

    CheckMate-77T試験に基づくもの。術前に化学療法と共に360mgを3週毎に4サイクル投与し、術後は480mgを4週毎に1年間投与したところ、Opdivoの代わりに偽薬を投与した群と比べて、EFS(無イベント生存期間、盲検独立中央評価)のハザードレシオが0.58と、有意な改善が見られた。副次的評価項目の全生存期間は未成熟。G3/4治療関連有害事象の発生率は試験薬群が32%、偽薬群は25%だった。

    昨年10月に米国で適応拡大が承認されたMSDのKeytruda(pembrolizumab)のKeyNote-671試験の成績と見比べると、EFSのハザードレシオは0.58で、こちらは治験医評価なので単純には比較できないものの、まあ似たようなもの。違いはKeytrudaは共同主評価項目である全生存期間のハザードレシオが0.72、p=0.0103と、この中間解析に割当てられたアルファの0.0109と比べると高度に有意とは言い難いものの、効果が確認されていること。

    リンク: BMSのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    PRAC、パキロビッドと一部の免疫抑制剤の併用注意喚起
    (2024年2月9日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAのファーマコビジランス・リスク評価委員会、PRACは、ファイザーのCOVID-19治療薬Paxlovid(nirmatrelvir、ritonavir)と狭安全域の免疫抑制剤に関する併用注意/禁忌を再喚起した。致死例を含む深刻な有害事象が報告されているため。医療従事者向けの直接通知(DHCP)を発出する予定。

    PaxlovidはnirmatrelvirのCYP3A4による代謝を遅らせる目的でritonavirを配合しているため、この酵素に影響される薬を同時服用すると、安全性や効果が変わってしまう可能性がある。曝露が少し増えるだけでも深刻有害事象のリスクが高まる、安全域の狭い薬は特に注意が必要だ。PRACは、プレスリリースの中で、併用する場合は血中濃度を密接且つ定期的に監視すべき薬としてカルシニューリン阻害剤(tacrolimusやciclosporin)やmTOR阻害剤(everolimusやsirolimus)を挙げている。監視できない場合は併用してはいけない。更に、voclosporinが併用禁忌であることも再喚起した。

    これらの薬は代表的な3A4阻害剤であり、順守されない症例があるのは意外だが、Paxlovidはチェックすべき薬が多すぎるので使い難いという日本の一部医師の声の裏返しなのだろう。

    リンク: EMAのプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
    24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
    24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
    24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
    24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)
    24年1QロシュのXolair(omalizumab、食物アレルギー適応拡大)
    24年1QアストラゼネカのTagrisso(osimertinib、未治療EGFRm+NSCLC)
    24年3月推BeiGeneのBrukinsa(zanubrutinib、FL obinutuzumab併用)
    24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
    24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
    24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
    24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
    24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    24/3/26MSDのMK-7962( sotatercept、肺動脈高血圧症)
    24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
    24/3/31Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
    24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
    諮問委員会
    24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
    24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
    24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



    今週は以上です。

    2024年2月3日

    第1140回

    【ニュース・ヘッドライン】

    • Vertex、画期的鎮痛剤の第3相が成功 
    • 抗PD-1抗体の腎細胞腫術後補助療法試験が遂に成功 
    • リジェネロン、抗BCMAxCD3抗体を承認申請 
    • MAGE標的T細胞療法を滑膜肉腫に承認申請 
    • ダラキューロ配合剤を新患に適応拡大申請 
    • BMS、プレヤンジを濾胞性リンパ腫などに効能追加申請 
    • エンハーツをher2陽性固形癌に適応拡大申請 
    • 当面の主なFDA審査期限、諮問委員会 


    【新薬開発】


    Vertex、画期的鎮痛剤の第3相が成功
    (2024年1月30日発表)

    Vertex Pharmaceuticals(Nasdaq:VRTX)はVX-548の第3相中重度疼痛治療試験が良好な結果になったと発表した。年央に承認申請する考え。作用機序は斬新だが効果はオピオイド系合剤と同程度またはそれ以下のようなので、オピオイド不適/嫌悪患者向きというイメージだ。

    末梢性疼痛のシグナル伝達に関わる電位依存性ナトリウム・チャネル、NaV1.8チャネルを選択的に阻害する経口剤。オピオイドと異なり中枢神経作用がない。第3相試験は、腹壁形成術後の患者1100人超を組入れた偽薬・実薬対照試験、バニオン切除後の1000人超を組入た偽薬・実薬対照試験、そして様々な術後疼痛患者と少数だが手術関連ではない疼痛患者も組入れた、様々な急性疼痛用途で承認を得るための単群試験の3本。試験薬は最初は100mg、その後は50mgを12時間おきに3回、経口投与した。対照試験二本の主評価項目はSPID48という、術後48時間に亘り一定の間隔でNumeric Pain Rating Scale (NPRS) を評価し、時間加重和を求め、偽薬群と比較したもの。最小二乗平均差は腹壁形成術試験が48.4、バニオン切除術試験が29.3となり、どちらも統計的に有意だった。

    一方、hydrocodone bitartrate(5mg)とacetaminophen(325mg)の両方を6時間おきに7回投与した群と試験薬のSPID48を比較した副次的評価は、最小二乗平均差が各6.6(95%信頼区間-5.4, 18.7)と-20.2(同-32.7, -7.7)となり、どちらもフェールしただけでなく、後者は有意に劣る可能性を示した。

    話が分かりやすいNPRS自体のベースライン比変化に注目すると、腹壁形成術試験では改善(低下幅)が偽薬群は2.3、試験薬群は3.4、実薬対照群は3.2、バニオン切除術試験では各2.6、3.4、3.6だった。

    第2相試験の学会発表時に指摘された、偽薬よりは有効だが実薬より優れているようには見えないという評価が裏打ちされた格好だ。

    リード・インディケーションは急性疼痛のようだが、非オピオイド系鎮痛剤ということなら慢性疼痛のほうが名実ともに需要が大きいかもしれない。糖尿病性末梢神経痛のPOC試験などが既に成功している。

    リンク: 同社のプレスリリース


    抗PD-1抗体の腎細胞腫術後補助療法試験が遂に成功
    (2024年1月27日発表)

    MSDはASCO GU(米国臨床腫瘍学会泌尿生殖器癌シンポジウム)でKeytruda(pembrolizumab)の第3相腎細胞腫術後アジュバント試験の全生存期間の解析結果を発表した。これまで多くの抗PD-1/PD-L1抗体がフェールした鬼門だったが、ついに改善に成功した。

    このKeyNote-564試験は、腎淡明細胞腫の摘出術を受けたが再発リスクが中程度高度または高度と推定される患者を組入れて、200mgを3週毎に最大17回、投与する効果を偽薬と比較した。主目的のDFS(無病生存期間)は中間解析でハザードレシオ(HR)0.68、p=0.001と成功した。この時点では全生存期間はHR0.54、p=0.0164と好ましい方向を指していたものの成功判定基準には達していなかったが、昨年11月の中間解析が成功、今回、HRが0.72であったことが公表された。48ヶ月生存率(推定値)は91.2%と偽薬群の86.0%を上回った。PD-L1陽性(CPS≧1)にも陰性にも好ましい数値が出た。

    この発表(LBA359)の直前にはBMSのOpdivo(nivolumab)のCheckMate-914試験がフェールしたことが発表された(LBA358)。腎細胞腫を完全/部分切除したが再発リスクが中程度以上と推定された患者を組入れてDFSを偽薬二剤を投与する群と比較したもので、Yervoy(ipilimumab)と併用する便益を検討したパートAは22年にフェールが公表されたが、今回、OpdivoとYervoy偽薬を投与したパートBも偽薬二剤群と大差なかったことが公表された。パートAのHRは0.92、パートBは0.87だった。

    この二つの試験は患者層も試験薬も類似しており、なぜKeytrudaはDFSも全生存期間も成功し、OpdivoはDFSすらダメだったのか、理解に苦しむ。Opdivoの用法は2週毎に最大12回投与と、投与回数や期間が短いことや、組み入れ条件が若干異なることなどが響いたのかもしれない。

    Opdivoは腎細胞腫摘出術の前に1回、後に4週毎に9回投与したPROSPER非盲検試験もフェールした。類薬の類似試験ではロシュの抗PD-L1抗体Tecentriq(atezolizumab)のIMmotion010試験(3週毎1年間投与)もDFSのHRが0.93、全生存期間は0.97となり、フェールした。こうして見ると、Keytrudaの成功のほうが例外的と言えそうだ。DFSだけでなく全生存期間の解析も成功したことで、採用が増加するかもしれない。

    リンク: 2024 ASCO GU抄録ダウンロード頁

    【承認申請】


    リジェネロン、抗BCMAxCD3抗体を承認申請
    (2024年2月2日発表)

    Regeneron Pharmaceuticals(Nasdaq:REGN)は、REGN5458(linvoseltamab)をEUに承認申請し受理されたと発表した。米国でも昨年12月に承認申請していた。BCMAとCD3を架橋する二重特異性抗体で、成人の3種類以上の治療歴を持つ難治/再発多発骨髄腫に用いる。3次以上の治療歴を持つ、または主要三剤に難治の難治/再発多発骨髄腫を組入れた第1/2相のLINKER-MM1試験で、ORR(客観的反応率、独立評価委員会方式)が71%、完全反応率は46%だった。G3以上の有害事象発現率は85%で、サイトカイン放出症候群や免疫エフェクター細胞関連神経毒性症候群は少なかったが、感染症などが多く、12%の患者が主として治療時発現感染症により死亡した。

    第3相は昨年9月にLINKER-MM3試験を開始、やや早期段階の患者におけるPFS(無進行生存期間、独立評価委員会方式)を EPdレジメン(elotuzumab、pomalidomide、dexamethasoneの3剤併用)と比較する。成否判明は32年と、かなり遅くなる予定。

    リンク: 同社のプレスリリース


    MAGE標的T細胞療法を滑膜肉腫に承認申請
    (2024年1月31日発表)

    Adaptimmune(Nasdaq:ADAP)は、FDAがADP-A2M4(afamitresgene autolecel、略称afami-cel)の承認申請を受理したと発表した。優先審査を受け、審査期限は8月4日。

    MAGE-A4を標的とする高親和性、特異的TCRを患者から採取したT細胞に導入した、T細胞療法。MAGE-A4を発現(腫瘍細胞の30%以上でIHC法2+以上)する進行滑膜肉腫で治療歴のあるHLA-A*02型患者に用いる。MRCL(粘液/円形細胞型脂肪肉腫)も組入れた第2相SPEARHEAD-1試験で一回投与したところ、47人中34%がORR(客観的反応率、独立評価)、太宗を占めた滑膜肉腫では36%だった。

    リンク: 同社のプレスリリース


    ダラキューロ配合剤を新患に適応拡大申請
    (2024年1月30日発表)

    ジョンソン・エンド・ジョンソンはDarzalex Faspro(daratumumab、hyaluronidase-fihj)を自家造血幹細胞移植(HSCT)が適応になる新患多発骨髄腫の薬物補助療法に用いる用法追加をFDAに承認申請した。第3相PERSEUS試験に基づくもので、VRdレジメン(Velcade、Revlimid、dexamethasoneの3剤併用)による導入療法の後にHSCTを行い、その後にRevlimidによる維持療法を施行する標準療法群と比べて、導入療法と維持療法にDarzalexを追加した群のPFS(無進行生存期間)のハザードレシオが中間解析で0.42となり、p値は中間解析に配賦されたアルファの0.0126を下回る、0.0001未満となった。48ヶ月無進行生存率は84.3%対67.7%と大きく上回った。維持療法期に入った試験薬群の患者の64%は、維持療法を24ヶ月以上施行し、完全反応を達成し、且つ12ヶ月以上MRD(微小残存疾患)が検出不能という条件を充足し、Darzalexによる治療を中止した。

    G3/4の有害事象は好中球減少症や肺臓炎、下痢などが増加した。

    Darzalexはジェンマブからライセンスした抗CD38抗体。様々なステージの多発骨髄腫に様々な薬と併用することが米欧日などで承認されている。オリジナルの製剤は点滴静注用だったが、皮下注できるようにしたのがFaspro。

    リンク: 同社のプレスリリース


    BMS、プレヤンジを濾胞性リンパ腫などに効能追加申請
    (2024年1月30日発表)

    ブリストル マイヤーズ スクイブは、Breyanzi(lisocabtagene maraleucel)の適応拡大を米国と日本で申請し受理されたと発表した。米国の予定適応症は第2相TRANSCEND FL試験に基づき成人の再発/難治濾胞性リンパ腫、そして、第1相TRANSCEND NHL 001試験に基づき成人のBTK阻害剤による治療歴を持つ再発/難治マントル細胞腫。どちらも優先審査指定を受け、審査期限は前者は24年5月23日、後者は同月31日。日本は前者の適応を申請した。

    CD19を標的とするCAR-T(キメラ抗原受容体-T細胞)療法。びまん性大細胞型B細胞リンパ腫に米日欧で承認されている。

    リンク: 同社のプレスリリース


    エンハーツをher2陽性固形癌に適応拡大申請
    (2024年1月29日発表)

    第一三共とアストラゼネカは、米国でEnhertu(fam-trastuzumab deruxtecan-nxki)を成人の切除不能/転移her2陽性固形癌に適応拡大申請し受理されたと発表した。前治療歴を持つ、あるいは他に妥当な治療オプションがない患者に用いることを予定している。優先審査を受け、審査期限は第一三共によると5月30日、アストラゼネカのホームページに掲載されている両社の英文プレスリリースによると24年第2四半期。

    エビデンスは第2相DESTINY-PanTumor02試験など。この試験はIHC(免疫組織化学染色)法で2+以上の患者を癌種毎に40人程度組入れてORR(客観的反応率、反応が一定期間持続した確認例のみ)を評価したが、承認申請は3+だけだった。2+以上と3+のみのデータを比較すると、子宮内膜腫では57.5%と84.6%、子宮頸癌は50%と75%、卵巣癌は45%と63%、膀胱癌では39%と56%となっており、2+だけのORRはそれほど良くなかったのかもしれない。

    リンク: 両社のプレスリリース

    【当面の主なFDA審査期限、諮問委員会】


    PDUFA
    24年1QイーライリリーのLY3002813(donanemab、MCI/軽度アルツハイマー病)
    24/1/31 Vylumaのatropine点眼(小児近視)
    24/2/13 イプセンのOnivyde(irinotecan liposome、転移膵管腺腫1L)
    24/2/22 Venatorx Pharmaceuticalsのcefepime・taniborbactam併用(複雑尿路感染症)
    24/2/24 Iovance Biotherapeuticsのlifileucel(悪性黒色腫)
    24/2/26 Minerva NeurosciencesのMIN-101(roluperidone、統合失調症の陰性症状)
    24年1QロシュのXolair(omalizumab、食物アレルギー適応拡大)
    24年1QアストラゼネカのTagrisso(osimertinib、未治療EGFRm+NSCLC)
    24年3月推BeiGeneのBrukinsa(zanubrutinib、FL obinutuzumab併用)
    24年3月推BeiGeneのtislelizumab(未治療食道扁平上皮腫)
    24年3-4月ロシュのRG6107(crovalimab、発作性夜間ヘモグロビン尿症)
    24/3/13Mirum社のLivmarli(maralixibat、進行性家族性管内胆汁鬱滞症に一変)
    24/3/14 Madrigal社のMGL-3196(resmetirom、NASH/MASH)
    24/3/14 BMSのBreyanzi(lisocabtagene maraleucel、CLL追加)
    24/3/18 Orchard TherapeuticsのOTL-200(atidarsagene autotemcel、異染性白質ジストロフィー)
    24/3/21ItalfarmacoのITF2357(givinostat、DMD)
    24/3/26MSDのMK-7962( sotatercept、肺動脈高血圧症)
    24/3/27 AkebiaのVafseo(vadadustat、透析期CKDの貧血症)
    24/3/31Rocket PharmaceuticalsのRP-L201(marnetegragene autotemcel、重度白血球接着不全症1型)
    24/3/31Regeneron社のREGN1979(odronextamab 、一部のリンパ腫)
    諮問委員会
    24/3/5MIDAC:Lumicellのpegulicianine(乳腺腫瘍摘出後の残存腫瘍造影)
    24/3/14ODAC:Geronのimetelstat sodium(骨髄異形成症候群)
    24/3/15ODAC:Legend/JNJのCarvyktiとBMSのAbecma(多発骨髄腫)



    今週は以上です。