2017年6月11日

2017年6月11日号


【訂正】


6月4日号のZytigaの臨床試験に関する記述に間違いがありました。対照群の治療法をADTとprednisoneを併用する標準療法と書きましたが、ADTだけでした。以下、訂正再掲致します。

【ニュース・ヘッドライン】

  • (訂正再掲)ASCO:ザイティガはホルモン・ナイーブにも有効 
  • ICML:CTL019もリンパ腫に有効 
  • ASCO:パージェタのアジュバントはケースバイケースに 
  • ASCO:アレセンサは海外でもザーコリに勝つ 
  • ASCO:肝臓癌試験が久々に成功 
  • ASCO:PARP阻害剤の乳癌試験が成功 
  • ASCO:オプジーボとヤーボイは悪性胸膜中皮腫に有効 
  • ASCO:ヤーボイの用量は多すぎる? 


(訂正再掲)ASCO:ザイティガはホルモン・ナイーブにも有効
(2017年6月3日発表)

ASCOではジョンソン・エンド・ジョンソンのZytiga(abiraterone acetate、和名ザイティガ)の適応拡大試験成績も発表された。転移性前立腺癌用薬で、2011年の初承認時の適応はホルモン療法に反応しなくなり癌の症状が悪化して化学療法を受けたが再発/無効だった患者、翌年の適応拡大はその一歩前の段階であるホルモン療法抵抗性無/軽度症候性患者だったが、今回は更に手前の試験が成功、日本も含めて、適応拡大申請した。対象患者数が再び大きく増加することになる。

このLATITUDE試験は、転移性前立腺癌で初めてホルモン療法を受ける(ナイーブ)患者のうち、Gleason scoreや骨転移、内臓転移の状況などから高リスクと判定された患者を組入れて、ADT(アンドロゲン除去療法薬)群とZytigaとprednisoneを併用する三剤併用群の全生存期間を比較した。結果は、ハザードレシオが0.62、p値は0.0001未満、メジアン値は標準療法群が34.7ヶ月、三剤併用群は未到達と大変良い結果になった。主なG3以上の有害事象は高血圧や低カリウム血症。

前立腺癌は進行の遅いものが少なくないため副作用のきつい化学療法は癌が進行して骨転移痛などの症状が強くなるまで待つことが多い。今回のデータは便益と危険のバランスが取れているように見えるので、再考の契機になるのではないか。適応拡大なので今週(6月4日号)のトピックスの3番目に置いたが、臨床的な重要性は一番かもしれない。

リンク: ジョンソン・エンド・ジョンソンのプレスリリース

【新薬開発】


ICML:CTL019もリンパ腫に有効
(2017年6月7日発表)

ノバルティスは、CTL019(tisagenlecleucel)の第二相リンパ腫試験の中間解析結果をICML(国際悪性リンパ腫会議)で発表した。単純比較はできないが、Kite Pharma(Nasdaq:KITE)の競合品と見比べても良い成績だ。急性リンパ性白血病用薬として米国で承認申請済みだが、年内に適応拡大申請する予定。

CTL019はペンシルバニア大学からライセンスしたキメラ抗原受容体T細胞(CAR-T)療法。B細胞特異的に発現する表面分子であるCD19に結合する抗体の細胞外単鎖可変領域を、TCRの共刺激伝達領域であるCD137(4-1BB)およびCD3ゼータ鎖とスペーサーで繋げた組換え遺伝子を、患者から採取したT細胞にレンチウイルスをベクターとして導入したもの。患者に戻すと抗原提示なしでB細胞を攻撃する。

ペンシルバニア大学/ノバルティス、Kite、そしてJuno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)/セルジーンの三グループがCAR-Tの早期発売に向けて激しい先陣争いを繰り広げている。CTL019は今年3月に3~25歳の再発性難治性B細胞急性リンパ性白血病用途で米国で承認申請、7月12日の諮問委員会を経て10月までに審査結果が判明する予定。

Kiteも3月に自家造血幹細胞移植不適の再発性難治性アグレッシブ非ホジキン型リンパ腫(びまん性大細胞型B細胞リンパ腫、転換濾胞性リンパ腫、原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫)用途で米国承認申請、審査期限は11月29日となっている。

一方、JunoはJCAR015の臨床試験で脳浮腫が複数発生、開発中止となり一歩後退した。三社の開発品は構成やプリトリートメントに用いる化学療法の内容が若干異なるので単純ではないが、脳浮腫が、サイトカイン放出症候群と同様に、CRA-Tのクラスイフェクトである可能性も考えられるので、重要なチェックポイントになる。

さて、今回の第二相試験は、再発性難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫で、二次以上の治療歴を持つ、18歳以上の自家造血幹細胞移植不適の患者を組入れた単群試験。中間解析の対象となった51人の3ヶ月ORR(客観的反応率)は45%で、完全反応37%、部分反応8%だった。ベストORRは59%だった。

KiteのKTE-C19(axicabtagene ciloleucel)は3ヶ月ORRが39%、うち完全反応33%だった。別々に実施された小規模な試験なので数値の比較は困難だが、数値上はCTL019のほうが良い。

忍容性は、G3/4の有害事象はサイトカイン放出症候群、神経学的有害事象、骨髄抑制など。サイトカイン放出症候群の致死例はなし。脳浮腫は発生せず。ex vivo細胞療法は得率が重要だが、CTL019の生産成功率は試験の最後の30例では97%まで上昇した由。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

ASCO:パージェタのアジュバントはケースバイケースに
(2017年6月5日発表)

ロシュは、Perjeta(pertuzumab、和名パージェタ)のAPHINITY試験の結果をASCO米国臨床腫瘍学会議で発表した。成功したこと自体は3月に公表済みなので治療効果の多寡が注目されたが、悪くはないものの格別に良くもなかった。適応拡大申請すれば承認されるのだろうが、使用の当否は夫々の医師が患者毎に判断することになるのではないか。

PerjetaはHerceptinのターゲットであるher2の異なったエピトープに結合する抗2C4ヒト化抗体で、her2がher1やher3とヘテロダイマーを形成するのをブロックする。Herceptinの効果を増強・補完するイメージだ。12年に米国で、翌年には日本でも、her2陽性転移性乳癌の一次治療にdocetaxel及びHerceptinと併用する用途で承認され、13年には早期乳癌切除術前のネオアジュバント用途米国で承認された。

今回のAPHINITY試験は、her2陽性の早期乳癌の切除を受け、再発防止目的で化学療法とHerceptin(trastuzumab)によるアジュバント治療を行う患者約4800人を組入れて、Perjetaを併用する効果を偽薬と比較した。用量用法は、初回は840mg、その後は3週間毎に420mgを点滴静注。投与期間はHerceptinと同じ1年コース。

結果は、主評価項目であるiDFS(浸潤性乳癌無再発生存率)のハザードレシオが0.81(95%信頼区間0.66~1.00)、p=0.045、3年iDFS率は94.1%(偽薬群は93.2%)となった。成功は成功だが、95%上限やp値はボーダーラインぎりぎりであり、もしこれがPerjetaの唯一の薬効確認試験だったら薬効のエビデンスが不十分と言わざるを得ないところだろう。

サブグループ分析を見ると、リンパ節転移のある3005例ではハザードレシオ0.77(95%信頼区間0.62~0.96)、3年iDFS率92.0%(偽薬群90.2%)、未転移の1799例では各1.13(0.68~1.86)、97.5%(98.4%)となっている。前者の方が再発リスクが高いので治療効果が高くても不思議はないが、交絡p値は0.17なので、保守的に考えて、リンパ節転移に有効というよりは未転移には使わない方がよいという重み付けをすべきなのだろう。

G3以上の有害事象発生率は64%と偽薬群の57%を上回るのでnumber needed to treatだけでなくharmも考慮する必要がある。発生率は低いが、アンスラサイクリンやHerceptinと同様に、心臓イベントが増加している。また、次元の異なる話だが、Perjetaの1年コースは日本の薬価ベースで約450万円かかるので、体だけでなく財布も痛む。Herceptinだけでも高いのに患者は泣きっ面に蜂だ。

延命効果の解析は未成熟で、ハザードレシオ0.89(95%信頼区間0.66~1.21)となっている。次の解析は2.5年毎のことなので、当面はエビデンスレス。

今後、もっと長期間追跡すればデータが改善すると期待する声もあるようだが、New England Journal of Medicineの電子版に刊行された治験論文の論評者は、Herceptinのアジュバント試験の経験から、期待薄と予想している。her2標的薬以外でも、過去の乳癌アジュバント試験では、3年生存率は改善したのに5年生存率は改善しなかったとか、5年間服用するのは有効だがそれ以上続けても無効、とか、一筋縄で行かなかったケースが散見される。

Herceptinはher2陽性乳癌用薬だが、初承認時と比べるとher2の定義が狭くなっている。今回のAPHINITY試験も検査結果3+だけが対象だ。高い薬をできるだけたくさんの患者に使ってもらうことが製薬会社の利益だが、患者の利益は自分に有効で副作用や費用が許容範囲内であることだ。高額薬剤費の太宗を担う社会保障制度とその原資を担う国民・企業の利益も費用次第だ。製薬会社は患者や社会を敵に回すべきではない。誰に有効で誰に不適なのか、承認を取るだけで満足せずに最後まで探求すべきである。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: Minckwitzらの治験論文(NEJM)

ASCO:アレセンサは海外でもザーコリに勝つ
(2017年6月5日発表)

ロシュは、Alecensa(alectinib、和名アレセンサ)の直接比較試験の結果をASCOで発表した。4月に成功発表済みなので治療効果のマグニチュードが注目点。日本で実施された試験ほどではなかったが良い数字だった。

Alecensaは中外製薬発のALK阻害剤で、14年に日本でALK融合遺伝子陽性(該当率1~5%)の切除不能進行再発非小細胞性肺癌用薬として承認。海外でもXalkori(crizotonib、和名ザーコリ)不耐不応患者の二次治療薬として米国で15年に、EUでも17年に、承認された。

一次治療薬としての便益や危険をXalkoriと直接比較した試験は、まず日本で実施、中間解析で成功。PFS(独立効果判定委員会が評価)のハザードレシオは0.34(99.6826%信頼区間0.17~0.70)、メジアンは未達でXalkori群は10.2ヶ月だった。G3/4の有害事象発生率は27%対51%で少なかった。

ASCOで発表された海外試験の結果は、PFS(同)のハザードレシオが0.50(95%信頼区間0.36~0.70)、メジアンは25.7ヶ月でXalkoriの10.4ヶ月を上回った。日本試験の点推定値は海外試験の信頼区間からはみ出ているが、信頼区間自体は重なっている。中間解析で成功認定される試験はデータが真の値と比べて良すぎることがあり、日本試験はこのパターンなのかもしれない。

AlecensaやノバルティスのZykadia(ceritinib、和名ジカディア)はXalkoriより脳血管移行性に優れる。この試験でも、中枢神経系腫瘍進行のハザードレシオが0.16と、大変良い結果が出た。

G3-5の有害事象の発生率は41%対50%で、日本試験ほどではないが、少なかった。致死的な有害事象の発生率は3%(5人)対5%(7人)で大差なかった。

リンク: ロシュのプレスリリース
リンク: Petersらの治験論文(NEJM)

ASCO:肝臓癌試験が久々に成功
(2017年6月5日発表)

VEGFを標的とする薬は多数ある。抗体医薬ならロシュのAvastin(bevacizumab)、Lucentis(ranibizumab)、リジェネロンのEylea(aflibercept)など。VEGF受容体チロシンキナーゼを標的とする小分子薬はファイザーのSutent(sunitinib)、バイエルのNexavar(soratinib)等々、特に数が多く、逆に言えば、差別化が難しいので、後発組は工夫が必要だ。

比較的無風だった肝細胞腫用途でも、Nexavarの対抗馬が現れた。エーザイのLenvima(lenvatinib)だ。Nexavar対照非劣性試験の成功がASCOで発表された。

この304試験は、切除不能肝細胞腫で全身的治療を初めて受けるChild-Pugh分類Aの患者954人を、Lenvima群(12mgを一日一回経口投与、但し体重60kg未満は8mgに減量、どちらも既承認用途より少量)とNexavar群(400mg一日二回)に無作為化割付して、全生存期間を比較した。結果は、ハザードレシオ0.92(95%信頼区間0.79~1.06)、メジアン値は13.6ヶ月と12.3ヶ月となり、95%上限が非劣性マージンの1.08を下回ったため非劣性と認定された。

治療時発現有害事象の発生率は両群大差なかった模様。

リンク: エーザイのプレスリリース(和文)
リンク: ASCOの抄録

ASCO:PARP阻害剤の乳癌試験が成功
(2017年6月4日発表)

PARP阻害剤の第三相BRCA1/2生殖細胞系変異型乳癌試験が成功したと聞いても、10年前なら、さもありなんと首肯するだけで驚きはしなかっただろう。しかし、過去10年間に実施された数々の試験がフェールし、卵巣癌に転戦してやっと花咲いた後だけに、アストラゼネカのLynparza(olaparib)の第三相乳癌試験成功は新鮮な驚きだ。

Lynparzaは14年に欧米でBRCA1/2変異型卵巣癌に承認されたPARP阻害剤。PARPは遺伝子の複製ミスを修復する二つの代表的なメカニズムの一つに係る酵素。もう一つに関わる遺伝子がBRCA1/2で、機能喪失変異を持つ家系は乳癌や卵巣癌のリスクが高い。このような癌にPARP阻害剤を投与すると、癌細胞の増殖時に生じる複製ミスが修正されず、アポトーシスを誘導できる可能性がある。メカニズムを考えれば、今まで乳癌試験が成功しなかったことの方が不思議だ。

今回の治験デザインは、P(患者)はBRCA1/2生殖細胞系変異陽性でher2陰性の転移性乳癌で、切除後アジュバント療法または転移後治療としてアントラサイクリン系とタクサン系(ホルモン受容体陽性癌はホルモン療法も)による前治療例を持つ、一次治療から三次治療までの患者、約300人。

I(介入方法)は300mg錠を一日二回、経口投与。C(対照群)はcapecitabine、vinorelbine、eribulin(エーザイのハラヴェン)の中から担当医が選んだ薬を用いた。O(主目的)はPFSで、経口剤と点滴用薬が混在するオープンレーベル試験であるため、独立評価委員会が盲検で評価した。

結果は、ハザードレシオが0.58(95%信頼区間0.43~0.80)、メジアンは7.0ヶ月で化学療法群の4.2ヶ月を上回った。全生存期間の解析は元々から検出力不足で、ハザードレシオ0.90(95%信頼区間0.63~1.29)と有意差はなかったが点推定値はいるべき側にいる。G3以上の有害事象は36.6%で化学療法群の50.5%を下回った。貧血などは増加した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース
リンク: Robsonらの治験論文(NEJM)

ASCO:オプジーボとヤーボイは悪性胸膜中皮腫に有効
(2017年6月5日発表)

BMSのOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)とYervoy(ipilimumab、和名ヤーボイ)を悪性胸膜中皮腫に用いた第二相試験の結果がASCOで発表された。有効な薬が少ないので、今後の試験データが注目される。

このIFCT-1501試験はフランスの共同治験グループが実施したもので、二次までの治療歴を持つ患者125人をOpdivo単剤投与群(3mg/kgを二週間毎)とYervoy(1mg/kgを6週間毎)併用群に無作為化割付して、夫々の群の12週疾病管理を独立委員会が盲検評価した、非対照試験。

最初に評価された108人における12週疾病管理率は単剤投与群が42.6%、併用群が51.9%だった。もっと一般的指標であるORR(客観的反応率)は各16.7%と25.9%だった。Scherpereelらの抄録によると過去に実施された二次治療試験の疾病管理率は30%未満とのことなので、今回はなかなか良い結果だ。

G3/4有害事象発生率は単剤投与群が9.5%、併用群は16.4%。併用群では治療関連死が3例報告された(代謝性脳症、劇性肝炎、急性腎障害が各1例)。

リンク: BMSのプレスリリース

ASCO:ヤーボイの用量は多すぎる?
(2017年6月4日発表)

BMSは、NCI(米国立癌研究所)主導の黒色腫切除後アジュバント試験における、Yervoy(ipilimumab)の二用量群の中間解析結果がASCOで発表されたことを公表した。計画外の解析と言明しているので不本意なのかもしれないが、高価で深刻な副作用ももたらす割には至適用量が明確でない薬なので、研究者側が重要な情報と判断したのだろう。

Let it beはポール、Let it goはエルサ、Let this goはドナルドと、発言者は異なるが教訓は同じ。人の口に戸は立てられず、むしろ、堂々と真実に喋らせるのが一番だ。

時事放談はともかく、このE1609試験は、ステージIII/IVの黒色腫の切除術を受けた高再発リスクの患者のアジュバント療法としてのYervoyの効果を高量インターフェロン・アルファ-2bと比較したもの。主評価項目は全生存期間と無再発生存期間で、治験登録によると、2018年に主評価項目解析のためのデータ収集が完了する予定。

ASCOで公表されたのは3年無再発生存率で、Yervoyの標準的な用量である10mg/kgを投与した群の406人は54%、3mg/kg群の367人は56%だった。G3/4の有害事象発生率は各群66%と53%。治療関連有害事象の疑い例における死亡は各8人と2人だった。

Yervoyは活性化T細胞を鎮静化させるCTLA-4をブロックする免疫療法的抗体医薬で、11年に切除不能転移性黒色腫用薬として欧米で承認された。アジュバントはステージIIIだけを対象に10mg/kgと偽薬を比較した試験が成功、15年に米国で承認された。この試験の3年無再発生存率は10mg/kg群が46.5%、偽薬群は34.8%なので、E1609試験より数字が悪く、高リスクの患者をスクリーニングしたことになる。

異なった試験なので直接比較はできないが、E1609試験はYervoyの至適用量を再考する契機になりうるのではないか。

リンク: BMSのプレスリリース






今週は以上です。

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