2016年1月24日

2016年1月24日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • FAAH阻害剤の治験で犠牲者 
  • イーライリリーらがJAK阻害剤を承認申請 
  • エーザイ、レンビマの適応拡大申請 
  • FDA諮問委員会が雪で延期に 
  • アムジェン、Kyprolisの用法追加が承認 
  • EUがUCBの抗癲癇薬などを承認 

【今週の話題】


FAAH阻害剤の治験で犠牲者
(2016年1月19日発表)

ポルトガルのBial社は、第一相試験に参加した複数のボランティアが深刻な副作用を被ったことに深い後悔の意を表明した。ジョンソン・エンド・ジョンソンも同じ作用期序を持つコンパウンドの第二相試験を中断した模様。

Bialのコンパウンドは長期作用性脂肪酸アミド加水分解酵素(FAAH)阻害剤、BIA 10-2474。CROであるバイオトライアルがフランスのレンヌ大学で年初に反復投与を開始したところ、被験者の一人が脳死、4人が入院した。もう一人は無症状で退院した模様だが、6人中5人というのは大変な被害確率だ。

06年に英国で発生したTGN1412事件を髣髴させる。CD28を標的とするアゴニスティック抗体で、第一相試験でサイトカイン放出症候群が多発、被験者が次々と病院に運び込まれる事態になった。なぜ危険を予知できなかったのか?当時の報告書によると、抗体医薬の標的分子はヒトとマウス/ラットでは異なる為、前臨床試験で安全性や薬効を十分に確認することが難しい由である。

FAAH阻害剤は小分子薬のようなので、話が異なる。今回の事件の前の投与実績は84人で、中度以上の有害事象は発生しなかった由。急に毒性が高まった原因は、反復投与なのか、何らかの理由で不純物でも混入したのか?他社のFAAH阻害剤では同様な問題は発生していないのか?もしそうだとしたら、BIA 10-2474はどこが違うのか?

報道によると、ジョンソン・エンド・ジョンソンはJNJ-42165279の第二相鬱病・不安症試験を中断した。おそらく、当局がストップをかけたのだろう。臨床試験を行う組織や関係者は製薬会社と守秘契約を結ぶことが多い。知的所有権保護の観点から止むを得ないのかもしれないが、ヒヤリハット事例は人類共通の財産にしないと、同じ落とし穴に次々と転落する悲劇が起こりかねない。それだけに、情報の交通整理ができる唯一の存在である当局が果たすべき役割は大きい。

リンク: Bialのプレスリリース

【承認申請】


イーライリリーらがJAK阻害剤を承認申請
(2016年1月19日発表)

イーライリリーはLY3009104/INCB28050(baricitinib)を米国で承認申請した。インサイト(Nasdaq:INCY)からライセンスしたJAK1/2阻害剤で、一日一回経口投与して中重度活性期リウマチ性関節炎の治療に当てる。臨床試験では、奏効率がmethotrexateやHumiraより優れていた。

JAK阻害剤ではファイザーのXeljanz(tofacitinib、和名ゼルヤンツ)が12年に米国で、13年には日本でも中重度活性期リウマチに承認されたが、Xeljanzはin vitroでJAK3選択性が高かったのに対して、baricitinibは1と2に選択的であることが違い。何れにせよ、免疫抑制剤なので細菌やウイルス感染、腫瘍などに気をつける必要がある。

リンク: イーライリリーとインサイトのプレスリリース

エーザイ、レンビマの適応拡大申請
(2016年1月18日発表)

エーザイは、Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を進行転移性腎細胞腫に用いる適応拡大申請がFDAに受理されたと発表した。優先審査で、審査期限は5月16日。EUでも今月、申請した。

LenvatinibはVEGF受容体などを阻害する小分子薬で、15年に日米で進行性放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺癌に承認された。

リンク: エーザイのプレスリリース(和文)

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会が雪で延期に
(2016年1月20日発表)

18日の大雪は電車が遅延・混雑して酷い目にあった。今週末も関東は平穏だが西日本などでは大雪だ。米国連邦政府が立地するワシントンDCも先週は大雪だった模様。FDAは1月22日に末梢中枢神経系薬諮問委員会を招集しSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のAVI-4658(eteplirsen)を検討させる予定だったが、大雪を懸念して、延期した。

FDAは諮問委員会の1ヶ月前までにブリーフィング用資料を委員に送付し、数日に迫った段階で一般公開するのが通例である。先週号で書いたように、eteplirsenの評価は低かった。類薬であるdrisapersenと同様に、諮問委員会は支持しないだろうから、スケジュールが遅延しても大きな影響はないだろう。

リンク: Sareptaのプレスリリース

【承認】


アムジェン、Kyprolisの用法追加が承認
(2016年1月21日)

アムジェンはKyprolis(carfilzomib)の用法追加・レーベル変更申請が米国で承認されたと発表した。米国では製薬会社はレーベルに即した営業しかできないので、武田/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)を治験で負かしたことをレーベルに記載できたことはポジティブ。但し、今回は未だ全面勝利ではない。

Kyprolisは多発骨髄腫の二次治療薬。Velcadeと同じプロテアソーム阻害剤だが、結合箇所が異なり不可逆的に阻害する。末梢神経症のリスクが小さいが心血管リスクは上回る。

開発社であったProteolixをOnyxが09年に8.1億ドルで買収し、そのOnyxをアムジェンが13年に104億ドルで買収した。米国では2012年に多発骨髄腫の二次治療薬としてモノセラピーで初承認。昨年7月にはセルジーンのRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)及びdexamethasoneと三剤併用する用法が承認された。

9年先に承認されたVelcadeとの直接比較試験も多数開始され、今回の用法追加の根拠となったdexamethasone併用試験もVelcadeが対照薬だった。また、過去に承認された用法の2倍の量を投与するのも特徴的だ。

Kyprolis群のPFS(無進行生存期間)はメジアン18.7ヶ月でVelcadeとdexamethasoneを併用した群の9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.53と有意に優れていた。忍容性面では、G3以上の高血圧や心不全、急性腎不全が増加したがG2以上の神経症は少なく、有害事象による治験離脱や治療中の死亡数は両群同程度だった。

この試験のユニバースに関してはKyprolisのほうが良さそうだが、注意すべきは、第一に、被験者の54%がVelcade前治療歴を持っていたこと。不応患者は組入れず、前治療歴の有無で解析を階層化したとはいえ、Kyprolisに有利なバイアスがあったと言っても良いだろう。第二は、このようなことになった原因、即ち、Velcadeは一次治療でも広く用いられていることだ。Kyprolisの一次治療試験はまだ開票していないので、競争できるのは再発治療だけである。

武田陣営では、昨年11月に米国で、経口プロテアソーム阻害剤Ninlaro(ixazomib)がlenalidomide・dexamethasoneと三剤併用で多発骨髄腫の二次治療に用いる用法で承認された。Kyprolisは、二次治療でVelcadeのシェアを奪う一方で、Ninlaroに奪われる部分もあり、単純にはいかない。

リンク: アムジェンのプレスリリース

EUがUCBの抗癲癇薬などを承認
(2016年1月19日発表)

11月のCHMPで肯定的意見を得た新薬が続々とEUで承認された。

UCBのBriviact(brivaracetam、米国の製品名はRikelta)は部分癲癇の治療薬。癲癇は様々な薬が存在し過半の患者は発作をなくすことができるが、3割程度は十分に管理できない。Briviactはこのような難治性の患者に追加投与するアジャンクト用薬。

同社のKeppra(levetiracetam、和名イーケプラ)と同じシナプス小胞2A作動剤で、三種類の用量をテストした第三相試験では、発作半減成功率が35~39%で偽薬群の20%を有意に上回った。

リンク: UCBのプレスリリース(1/19付け)

バクスアルタ(NYSE:BXLT)のOncaspar (pegaspargase) は急性リンパ芽球性白血病の多剤併用療法に用いる。小児に多い病気なので、18歳以下の幼小児に用いることも承認されている。アスパラギン分解酵素をPEG化して作用の長期化と免疫原性の改善を企図した。ドイツで20年の市販歴を持つ。バクスアルタは7月にSigma-Tauから権利を取得。

リンク: バクスアルタのプレスリリース(1/19付け)

ドイツのBirken AGのEpisalvanは、皮膚の中間層損傷の治療に用いる。カバノキ樹皮抽出物で、炎症を調停したり、ケラチノサイトを補助したりして、損傷治癒を早める。

リンク: Birkenのプレスリリース(1/22付け)

Samsung BioepisのBenepaliはEnbrel(etanercept)のEUで初めてのバイオシミラー。リウマチ性関節炎、乾癬性関節炎、軸性脊椎関節炎、プラク乾癬の治療に用いる。関節リウマチの試験ではACR20が80.8%とEnbrelの81.5%と同程度だった。

同社は韓国のサムソン・バイオロジックスとバイオジェンの合弁会社で、他にも様々なバイオシミラーを開発・承認申請している。MSDが一部の地域での販売権を保有しているが、BenepaliのEUでの販売は対象外のようだ。

リンク: バイオジェンのプレスリリース(1/16付け)



今週は以上です。

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