2017年3月26日

2017年3月26日号


【ニュース・ヘッドライン】



  • ジャズ、DNRIの第三相OSA試験が成功 
  • イーライリリーのCDK4/6阻害剤も第三相成功 
  • ノバルティス、serelaxinの薬効確認再試験はフェール 
  • 抗IL-23p19抗体がEUで承認申請 
  • CHMPが希少疾患用薬などの承認に肯定的意見 
  • Array社、MEK阻害剤の承認申請を撤回、併用で申請へ 
  • メルクの抗PD-L1抗体が米国で承認 
  • ニューロンのパーキンソン病薬が米国でも承認 
  • EMAが一部のジェネリック薬の承認停止を勧告 

  • 【新薬開発】


    ジャズ、DNRIの第三相OSA試験が成功
    (2017年3月20日発表)

    ジャズ・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:JAZZ)は、JZP-110の第三相OSA(閉塞性睡眠時無呼吸)試験の成功を発表した。ナルコレプシー試験の結果を待って年内に承認申請する予定。

    JZP-110は選択的ドパミン・ノルエピネフィリン再取込阻害剤(DNRI)で、14年にAerial BioPharmaから世界開発生産販売権を取得したもの。第三相試験でOSA患者の眠気や覚醒度を改善する効果を検討したところ、37.5~300mgの用量域で偽薬比有意な改善が見られた由。詳細は6月のAPSSで発表される予定。

    リンク: ジャズのプレスリリース

    イーライリリーのCDK4/6阻害剤も第三相成功
    (2017年3月20日発表)

    イーライリリーはLY2835219(abemaciclib)の第三相乳癌ホルモン療法併用試験が成功したと発表した。第2四半期(4~6月)に第二相試験に基づき承認申請する予定だが、今回の成功を受けて第3四半期に併用を追加申請する考えだ。

    abemaciclibは細胞周期進行に係るCDK4とCDK6を阻害する経口剤で、ファイザーが15年に発売したIbrance(palbociclib)、ノバルティスが今月、米国で承認を取得したKisqali(ribociclib)に次ぐサード・イン・クラス。先行品は三週間連続服用して一週間休むスケジュールだが、abemaciclibは好中球減少症がDLT(投与制限的毒性)にならず、連続服用可能なことが特徴。効果が高い可能性があり、データ発表が待望される。

    リンク: イーライリリーのプレスリリース

    ノバルティス、serelaxinの薬効確認再試験はフェール
    (2017年3月22日発表)

    ノバルティスは、Reasanz(serelaxin)の第三相急性心不全試験がフェールしたと発表した。死亡リスクを削減する効果も、心不全の悪化を抑制する効果も、確認されなかった。最初の第三相と同様であり、治験登録によればもう一本進行中だが、好結果は期待できなくなった。

    serelaxinは、relaxinという血管拡張作用を持つぺプチドホルモンの遺伝子組換え品。第三相試験で呼吸困難を改善したが、効果は小さく、もう一つの主評価項目である中程度以上症状改善成功率はフェールした。死亡リスク削減効果も見られなかった。開発した会社を買収したノバルティスが欧米で承認申請に踏み切ったが、臨床的転帰を改善する効果が小さいことや、解析にインピュテーション(欠落値を推定値で補完)が多用されたこと、同時に施行された標準療法に群間の偏りがあることなどから、承認されなかった。

    学会で大々的に発表され好評を得た臨床試験がこのような結果になったのは残念だが、学会発表や論文に記されていることはごく一部なので第三者が細部に潜む悪魔を発見することは困難である。一本目の試験はノバルティスが子会社化する前に開始されており、ベンチャー企業が陥りがちな頑強性を軽視した治験デザインになってしまった。

    リンク: ノバルティスのプレスリリース

    【承認申請】


    抗IL-23p19抗体がEUで承認申請
    (2017年3月24日発表)

    スペインのAlmirallとインドのSun Pharmaは、tildrakizumabをEUで承認申請し受理されたと発表した。Sunが14年にMSDから世界開発販売権を取得した抗IL-23p19抗体で、中重度プラク乾癬の治療に用いる。第三相試験では12週間でPASI75奏効率が61~64%となり偽薬やetanercept(Enbrel)を有意に上回った。

    乾癬では様々なインターロイキンを標的とする抗体医薬が輩出している。ジョンソン・エンド・ジョンソンの抗IL-12/23p40抗体Stelara(ustekinumab)、ノバルティスの抗IL-17A抗体Cosentyx(secukinumab)などである。

    Stelaraはp40サブユニットに結合するためIL-23だけでなくIL-12もブロックしてしまうが、p19ユニットならIL-23だけなのでIL-12阻害による副作用を回避できる可能性があり、開発が活発化している。ジョンソン・エンド・ジョンソンが一足先にCNTO 1959(guselkumab)を昨年、欧米で承認申請した。ベーリンガー・インゲルハイムもアッヴィと提携してBI 655066(risankizumab)の第三相試験を実施中。

    リンク: 両社のプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    CHMPが希少疾患用薬などの承認に肯定的意見
    (2017年3月24日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、3月の会議で以下の新薬と適応拡大の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

    リンク: EMAのプレスリリース

    今月は希少疾患用薬が多い。まず、ウイーンのアペイロン・バイオロジクス社が承認申請したdinutuximab beta。例外的環境条項に基づいて、高リスク神経芽腫の12歳以上の患者に用いることが支持された。神経芽腫細胞などで発現するGD2抗原を標的とするキメラ抗体。日本では14年に第一相が開始された模様だ。

    次に、ミューニッヒの製薬会社であるbene-Arzneimittelが申請したElmiron(pentosan polysulfate sodium)。glomerulation(五月雨様出血)やHunner潰瘍を伴う膀胱痛症候群の治療に用いる。

    ポリ硫酸ペントサンナトリウムは同社の創業者であるBenend博士が1947年に合成した物質で、日本では旭化成ファーマが変形性関節症試験を行うなど、様々な用途がある模様。膀胱痛症候群(間質性膀胱炎)における作用機序は損傷した膀胱粘膜のグリコサミノグリカン層に結合し修復をもたらすとのこと。

    Axumin(fluciclovine (18F))はMRI造影剤。膀胱癌でアップレギュレートされているアミノ酸トランスポータによって細胞内に取り込まれる性質を持っており、治癒的切除術を受けた患者のPSA値が上昇した時の、再発の画像診断に用いる。

    GEヘルスケアから英国のBlue Earth Diagnostics社がライセンスしたもの。14年にウェルカム・トラスト系のファンドなどが出資して設立した会社で、社名はウェルカム社(後にグラクソが買収)の創立者が少年時代を過ごした米国ミネソタ州の地区名に因んでいる由だ。

    リンク: Blue Earth Diagnosticsのプレスリリース

    ノボ ノルディスクのRefixia(nonacog beta pegol)はB型血友病の出血治療・予防薬。第IX因子に糖ポリエチレングリコールを結合して半減期を5倍に伸ばしたもので、出血リスクが高い患者のルーチン予防に用いる場合、週一回投与で足りる。

    リンク: ノボ ノルディスクのプレスリリース

    ファイザーのTrumenbaはB群髄膜炎菌ワクチン。B群は様々な株があるが、TrumenbaはサブファミリーAとBのfHbp(H因子結合蛋白)を抗原としている。B群髄膜炎菌による侵襲性髄膜炎を予防する目的で10歳以上に接種する。米国では14年に承認。

    リンク: ファイザーのプレスリリース

    適応拡大では、MSDとBMSの抗PD-1抗体が夫々、異なった用途で支持された。まず、MSDのKeytruda(pembrolizumab)は、再発難治性古典的ホジキンリンパ腫の適応拡大。ASCT(自家幹細胞移植)とbrentuximab vedotin(Adcetris)が無効になった患者に、200mgを3週間に一回、投与する。

    リンク: MSDのプレスリリース

    BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)は頭頸部扁平上皮腫で白金ベースのレジメンによる治療中・治療後に進行した患者に適応拡大。3mg/kgを2週間に一回投与する。第三相試験では延命効果が医師が選んだErbitux(cetuximab)などの薬を投与した群を有意に上回った。

    リンク: BMSのプレスリリース

    この二剤は用途開発が活発なので、今回の肯定的意見も含めてEUでの承認用途を整理すると、悪性黒色腫はモノセラピーに関してはどちらも承認、Yervoy(ipilimumab)併用はOpdivoだけだがOpdivo単剤と比べて上乗せ効果が期待できるのはPD-L1発現度が低い癌のみ。非小細胞性肺癌はKeytrudaはPD-L1陽性癌の二次治療と強陽性癌なら一次治療も可、Opdivoは陽性陰性を問わないが二次治療のみで、どちらも、EGFR活性化変異型はEGFR阻害剤、ALK変異型はALK阻害剤を先に使う。

    古典的非ホジキン型リンパ腫の適応内容は同じ、再発腎細胞腫はOpdivoのみ。頭頸部扁平上皮腫はOpdivoが先行したがKeytrudaも米国では承認されているので時間の問題だろう。

    最後に、Bial-Portela社の抗癲癇薬、Zebinix(eslicarbazepine acetate)は新患に単剤投与する用法追加が支持された。

    抗癲癇薬は有効な薬が既に数多く存在するため、偽薬だけを投与する群が設定されるモノセラピー試験を新患を組入れることは、かっては、忌避されていた。製薬会社が難治性の患者に追加投与するアジャンクト試験を行って承認を取れば、専門医はオフレーベルのままでも新患モノセラピー投与するというのが暗黙の合意であった。しかし、近年はキチンと承認を取るようになった。

    製薬会社がCHMPの薬効や安全性、生産体制などに対する懸念を解消できず申請撤回に至ったのは、まず、CTI BioPharma(Nasdaq:CTIC)のEnpaxiq(pacritinib)。臨床試験で骨髄線維症の脾臓肥大症状を改善する効果などが示されたが、CHMPは、他のJAK阻害剤と比べて効果が小さく、血小板減少リスクを持ち、臨床試験で出血や心臓疾患による死亡が対照群(医師が最善と考える治療を施行)より多かったため、承認に否定的だった。

    PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)はTranslarna(ataluren)をナンセンス型嚢胞性線維症に用いる適応拡大申請を行っていたが、撤回した。薬効確認試験がフェールしたため。EUによると、Translarnaはアミノグリコシド系抗生剤やバンコマイシンの腎臓における効果を減弱させるため、嚢胞性線維症のように感染症を合併しやすい疾患に用いると腎臓有害事象が増加する懸念がある。

    Array社、MEK阻害剤の承認申請を撤回、併用で申請へ
    (2017年3月19日発表)

    Array BioPharma(Nasdaq: ARRY)はMEK阻害剤のMEK162(binimetinib)をNRAS変異陽性悪性黒色腫用薬として米国で承認申請していたが、撤回した。FDAが効果不十分と判定したため。第三相試験ではPFS(無進行生存期間)のdacarbazine対比ハザードレシオが0.62となり成功したが、メジアン値は2.8ヶ月対1.5ヶ月で差が小さく、全生存期間では有意差がなかった。

    MEK阻害剤はノバルティスやロシュがBRAF阻害剤併用試験を成功させている。ArrayもBRAF-V600変異型悪性黒色腫の第三相LGX818(encorafenib)併用試験を実施中で、LGX818の二種類の用量のうち450mg(一日一回投与)を併用した群は主評価項目のPFSがメジアン14.9ヶ月とvemurafenib(ロシュのBRAF阻害剤、Zelboraf)単剤投与群の7.3ヶ月を上回りハザードレシオ0.54であったことが既に発表されている。

    但し、LGX818単剤投与群との比較は有意差がなかった模様。ArrayはLGX818のもう一つの用量を投与した群の結果を待って承認申請する考え。

    第三相試験で一つの群だけ開票が遅れるのは盲検が毀損しかねない奇妙な話だ。安全性懸念が生じて低用量群を追加したのではないか。だとしたら、治験の全体像が明らかになるまで結論を留保したほうがよさそうだ。

    この二剤は当初のアウトライセンス先であるノバルティスがGSKの腫瘍学事業を買収してMEK阻害剤やBRAF阻害剤を入手したため、反トラスト規制をクリアするために、ライセンス返還となった。その後、欧州や南米、アジアの権利をPierre Fabreに供与している。

    リンク: Array社のプレスリリース

    【承認】


    メルクの抗PD-L1抗体が米国で承認
    (2017年3月23日発表)

    FDAは、Bavencio(avelumab)を転移性メルケル細胞腫用薬として承認した。メルケル細胞腫は進行の早い皮膚癌で、米国では年2500人が発症する。Bavencioはドイツのメルクがファイザーと共同開発した抗PD-L1完全ヒト化抗体で、第二相試験では全般的反応率が33%(完全反応率11%)、反応例の86%は6ヶ月以上持続した。加速承認なので別途、臨床試験を行って臨床的効用を確認する必要がある。

    PD-1/PD-L1をブロックする抗体医薬は特許の壁が低いようで応用分野が多いため開発競争が活発だ。PD-L1を標的とするものではロシュのTecentriq(atezolizumab)が昨年、尿路上皮細胞腫と非小細胞性肺癌の二次治療薬として承認されたのに次ぐセカンド・イン・クラスで、アストラゼネカのMEDI4736(durvalumab)も順調なら今年6月までに尿路上皮細胞腫で承認されるだろうから、1年の間に3剤が相次いで承認されることになりそうだ。

    メルケル細胞腫は用途としてはニッチだが、既存薬が承認されていない疾患なら迅速に承認を得ることが可能だ。適応拡大試験が成功し学会発表すれば、販売されている薬なら未承認でも普及が始まる。後発であることに変わりはないが、ビハインドは少しでも小さいほうが良い。

    リンク: FDAのリリース
    リンク: メルクとファイザーのプレスリリース

    ニューロンのパーキンソン病薬が米国でも承認
    (2017年3月21日発表)

    FDAは、イタリアのニューロン・ファーマスーティカルズ(SIX:NWRN)のXadago(safinamide)をパーキンソン病用薬として承認した。MAO-B阻害剤で、レボドパなどに十分反応しない患者のオフタイムを減らすために追加投与する。副作用はジスキネジア、傾眠、眩暈、起立性低血圧など。

    EUでは15年に承認されたが米国は申請手続きが書類目次や添付文書、利益相反情報などに関する不備という余り聞かない理由で何度も遅れ、結局、承認が2年遅れとなった。レーベルで特徴的なのは禁忌。重度肝障害に加えて、併用禁忌となるのが他のMAO阻害剤やオピオイド、SNRIなどの抗鬱剤、そしてOTC薬の成分でもあるデキストロメトルファン、ハーブの成分であるセイヨウオトギリソウと多彩。血圧上昇やセロトニン症候群のリスクがある模様だ。

    日本では15年にMeiji Seikaファルマが第2/3相試験を開始した。

    リンク: FDAのリリース
    リンク: ニューロンのプレスリリース(BusinessWire)

    【医薬品の安全性】


    EMAが一部のジェネリック薬の承認停止を勧告
    (2017年3月24日発表)

    EMAは、加盟国で承認されたジェネリック薬の一部について、承認停止を勧告した。インドのCRO会社であるMicro Therapeutic Research Labsが行った生物学的同等性試験の信頼性に疑問が生じたため。対象品目は、国毎にリストアップされているので重複があるかもしれないが、22頁、数百品目に及んでおり、製薬会社名も大手が数多く含まれていることが目を引く。

    きっかけは、オーストリアとオランダの当局が同社の二拠点を査察した時にGCP(臨床試験基準)違反が発覚したこと。データの不実表示や資料作成やデータ取り扱いの欠陥が判明した。これらの施設で12年6月から16年6月までに実施された試験のデータは受け入れられないと判断した。尚、効果不足や毒性を疑う根拠があるわけではないことをEMAは明記している。

    リンク: EMAのリリース
    リンク: EMAが販売停止勧告した薬のリスト(pdfファイル)
    リンク: EMAが販売継続可能と判定した薬のリスト(pdfファイル)




    今週は以上です。

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    2017年3月19日

    2017年3月19日号


    【ニュース・ヘッドライン】

    • ACC:抗PCSK9抗体の心血管アウトカム試験が成功 
    • アストラゼネカ、PARP阻害剤の適応拡大試験が成功 
    • Catalyst社、筋無力症の第三相へ 
    • アストラゼネカ、ZS-9は再び審査完了 
    • ノバルティスのCDK阻害剤が米国で承認 
    • キイトルーダもホジキン型リンパ腫に承認 
    • FDA、Viberziの禁忌を追加 


    【新薬開発】


    ACC:抗PCSK9抗体の心血管アウトカム試験が成功
    (2017年3月17日発表)

    アムジェンの抗PCSK9完全ヒト化抗体、Repatha(和名レパーサ)の心血管リスク削減効果を検討したアウトカム試験の結果がACC米国心臓学会とNew England Journal of Medicine誌で発表された。ハザードレシオは0.85と、リスクが偽薬比有意に低下したが、NNT(number needed to treat)は約120人年で費用対効果の点では物足りないものだった。

    抗PCSK9抗体はproprotein convertase subtilisin/kexin type 9が肝細胞のLDL受容体に結合して零落・リソソームで分解させるのを阻害する。効果は強力でLDL-Cを50~60%下げることができる。二週間に一回、皮注する(Repathaは四週間に一回皮注用の製剤もある)。

    Repathaと、リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発販売しているPraluent(alirocumab、和名プラルエント)が15年に欧米で、16年には日本でも、承認された。ファイザーもPF-04950615/RN316(bococizumab)で第三相試験を行ったが、開発中止になった(後述)。

    また、RNA介入技術を用いてPCSK9の合成を阻害するALN-PCSsc(inclisiran)もアルナイラム・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ALNY)がメディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)と共同開発している。これも皮注用薬だが、RNA介入の一般的なイメージとは異なり作用が長期間持続するため、2~6ヶ月毎の投与で足りる可能性がある。

    今回のFOURIER試験は、心筋梗塞などの心血管疾患歴を持ち中度以上の力価のスタチンを服用しているLDL-Cが70mg/dL以上の患者約27000人を偽薬群とRepatha群に無作為化割付けして、メジアン2.2年間フォローした。主評価項目は心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中、不安定狭心症入院、冠血行再建術の複合評価項目。一般的な指標であるMACE(心血管死、非致死的心筋梗塞、非致死的脳卒中)は主要副次的評価項目とされた。

    結果は、主評価項目のハザードレシオが0.85、95%信頼区間0.79~0.92、p<0.001。カプランメイヤー推定による2年間の発生率は偽薬群10.7%、Repatha群9.1%だった。MACEは各0.80(0.73~0.88)、p<0.001、6.8%対5.5%となった。心筋梗塞、冠血行再建術、脳卒中がそれぞれ偽薬群より2割少なく、心血管死や不安定狭心症入院は各群大差なかった。

    Repatha群のLDL-C値はベースライン時点の92mg/dLから30mg/dLに67%低下した。事前の予想以上だが、心血管リスク削減率は予想以下だった。

    安全性面では深刻な有害事象、スタチンで見られる糖尿病や筋障害、白内障のリスク、毒性試験で浮上した懸念材料である神経認知有害事象、高分子薬のチェックポイントであるアレルギー反応の何れも、両群大差なかった。注射箇所反応は2.1%で発生、偽薬群の1.6%を少し上回った。良好な内容だが、スタチンのアウトカム試験の5年間追跡と異なり本試験は2年強なので、今後さらに追跡する必要があるだろう。

    この試験は三つの点で意義がある。第一に、抗PCSK9抗体の心血管リスク削減効果を立証した。フィブレートのように期待外れな薬剤もあったので、確認することは重要だ。第二に、30~90mg/dLという超低域でもLDL-Cを引き下げれば心血管リスクを削減でき、副作用面では大きな問題はないことを明確にした。

    第三に、但し、NNTは決して小さくはなく、Repathaがコレステロール治療薬としては著しく高価であることを考えると、費用対効果面で疑問が残った。日本の薬価ベースで計算すると、MACEを一例減らすために必要な薬剤費は1億円だ。

    さて、上記のようにファイザーは昨年11月にbococizumabの開発中止を発表したが、ACCとNEJMで理由が明らかにされた。中和抗体リスクである。薬剤に対する抗体が48%の患者で発生、中和抗体発生率は29%で、発生した患者ではLDL-C低下作用が減衰した。第三相の心血管アウトカム試験二本のうち一本しか成功しなかったのは、中和抗体によるLDL-C治療の失敗が原因である可能性がある。

    Repathaは抗体発生率0.3%、中和抗体はゼロだった。NEJMに掲載されたRothらのCorrespondenceによるとPraluentは各5%と1.3%だった。検査方法が違う模様なので比較は難しいが、bococizumabはヒト化抗体でマウス由来の塩基配列が少し残っていること、PraluentはIgG2ではなくIgG1型抗体であることを考えれば、リスクが違っていても不思議はない。

    bococizumabの開発中止は、この薬剤に特有のリスクなのか、クラスイフェクトの可能性があるのかが重要な関心事だった。今回、三剤の開発に携わる製薬会社と研究者が夫々の知見を持ち寄って同じ学会、医学誌で発表したことは賞賛すべきである。医学は人類共通の財産だ。

    リンク: アムジェンのプレスリリース
    リンク: Sabatineらの治験論文(NEJM誌)
    リンク: Ridkerらのbococizumabに関する治験論文(NEJM誌)

    アストラゼネカ、PARP阻害剤の適応拡大試験が成功
    (2017年3月14日発表)

    アストラゼネカは昨年10月にLynparza(olaparib)の適応拡大試験成功を発表したが、具体的な内容がSGO(婦人科腫瘍学会)年次総会で明らかにされた。他社の開発品と見比べても良い結果だ。

    LynparzaはDNA修復に係るポリ(ADP-リボース)合成酵素(PARP)を阻害する経口剤で、14年にBRCA変異型卵巣癌向けに承認されたが、EUがメーカーの申請通り、白金薬に反応した患者の維持療法として承認したのに対して、米国は、臨床試験のエビデンスが明確でないせいか、それとも血液癌による死亡例が散見されたせいか、サルベージ用途しか認めなかった。

    今回のSOLO2試験は、生殖細胞性BRCA変異を持つ卵巣癌で白金ベースの二次治療に反応した患者の維持療法としての効果を偽薬と比較した。結果は、担当医評価PFS(無進行生存期間)がメジアン19.1ヶ月と偽薬群の5.5ヶ月を大きく上回り、ハザードレシオ0.30、p<0.0001だった。第三者が盲検で査読したPFSも各30.2ヶ月、5.5ヶ月、0.25、p<0.0001。G3以上の有害事象の発生率は36.9%対18.2%で、悪心嘔吐や疲労、骨髄抑制が増加した。

    PARP阻害剤の開発はヒートアップしており、Clovis Oncologyはファイザーからrucaparibを導入、昨年12月にBRCA変異陽性卵巣癌の三次治療薬としてFDAの承認を取得した。Tesaro(Nasdaq:TSRO)はMSDからniraparibを導入して難治性白金感受性卵巣癌用薬としてFDAに承認申請した。Lynparzaのデータは、異なった試験のデータなので直接比較することはできないが、niraparibよりかなりよく見える。

    リンク: アストラゼネカのプレスリリース

    【承認申請】


    Catalyst社、筋無力症の第三相へ
    (2017年3月15日発表)

    Catalyst Pharmaceuticals(Nasdaq:CPRX)は、amifampridine phosphateの第二相重症筋無力症研究者主導試験の結果を発表した。ヘッドラインは良さそうだが小規模な試験なので何とも言えない。詳細は学会発表の予定。第三相ステージアップを決めたので、その結果を待ってから判断しても遅くないだろう。

    amifampridine phosphateはカリウムチャネルブロッカーで、09年にEUでランバート・イートン筋無力症候群用薬として承認されたが、文献データに基づく、例外的環境規定による承認なので、エビデンスは明確ではない。米国はバイオマリンから権利を取得したCatalystが15年に承認申請したが受理されなかった。

    今回の試験は、MuSK-MG(K筋特異的受容体型チロシンキナーゼに対する抗体を保有する重症筋無力症)の患者7名を組入れたクロスオーバー試験で、4週間のランイン期間に滴定し、1週間ずつ3回のクロスオーバーを行って、QMGスコアとMG-ADL総合スコアの変化を偽薬投与期間と比較した。何れもp値が0.001を下回っており、短期間で大きな効果が出たことになる。

    Catalystは米国で多施設ピボタル試験を行う予定。

    重症筋無力症はアセチルコリン受容体に対する抗体を保有している患者が多く、抗MuSK抗体保有は全体の数パーセント、米国では4500人と推測されている。

    リンク: Catalystのプレスリリース

    【承認審査・委員会】


    アストラゼネカ、ZS-9は再び審査完了
    (2017年3月17日発表)

    アストラゼネカはZS-9(sodium zirconium cyclosilicate)を高カリウム血症治療薬として承認申請中で、EUでは2月にCHMPの肯定的意見を得たが、米国は難航している。昨年5月に審査完了通知を受領、その後、問題点に回答したが、再び審査完了通知を受領した。ZS Pharmaを27億ドルで買収して入手したコンパウンドだけに遅延は痛い。

    リンク: アストラゼネカのプレスリリース

    【承認】


    ノバルティスのCDK阻害剤が米国で承認
    (2017年3月13日発表)

    ノバルティスはFDAがKisqali(ribociclib)をホルモン受容体陽性her2陰性閉経後乳癌の一次治療薬として承認したと発表した。アロマターゼ阻害剤と併用で、一日一回、21日連続で経口投与し7日間休むスケジュール。

    第三相試験で同社のFemara(letrozole)と併用したところ、PFS(無進行生存期間)がFemaraだけの群より有意に改善した(ハザードレシオ0.556、p=0.000003、メジアンは未達でFemara群は14.7ヶ月)。WACは21日分が10950ドルである模様。

    05年にAstex Pharmaceuticals(13年に大塚製薬が子会社化)と開始した細胞周期制御に関する共同研究の成果で、細胞周期進行に関わるCDK4/6を高度選択的に阻害する。ファイザーのIbrance(palbociclib)に次ぐセカンドインクラス。

    リンク: ノバルティスのプレスリリース

    キイトルーダもホジキン型リンパ腫に承認
    (2017年3月14日発表)

    MSDはFDAがKeytruda(pembrolizumab、和名キイトルーダ)を難治性古典的ホジキン型リンパ腫の四次治療に用いる適応拡大を承認したと発表した。ホジキン型リンパ腫のうち古典的は9割超を占める。200mgを3週間毎に投与したKEYNOTE-087試験では、ORR(総合反応率)が69%、完全寛解率は22%、反応患者のメジアン反応期間は11ヶ月だった。

    BMS/小野薬品のOpdivo(nivolumab)も日米欧で承認されており、先にOpdivoを使った患者が四次治療でKeytrudaを使う可能性は低いのではないか。

    Keytrudaは高マイクロサテライト不安定性腫瘍の適応拡大も審査中だが、追加データ提出に伴い審査期限が6月9日に3ヶ月延期されたことも発表された。

    リンク: MSDのプレスリリース(古典的ホジキン型リンパ腫承認)
    リンク: MSDのプレスリリース(高マイクロサテライト不安定性腫瘍の審査期間延長)

    【医薬品の安全性】


    FDA、Viberziの禁忌を追加
    (2017年3月15日発表)

    FDAは、アラガン(NYSE:AGN)の下痢型過敏性腸症候群治療薬、Viberzi(eluxadoline)について、膵炎のリスクを改めて警告するとともに胆嚢を持たない患者は禁忌とすることを発表した。致死的あるいは入院に至る深刻な膵炎のリスクが高いため。既知のリスクだが、投与量を減らすだけでは足りないことが判明した。

    15年5月の米国承認から17年2月までの期間に、FDAの有害事象報告システム(FAERS)に120例の深刻な膵炎・死亡例が報告された。76人が入院し、二人が死亡した。120例のうち6例はオディ括約筋の痙攣も、16例は腹痛も、併発していた。

    胆嚢の状況が報告されている68例のうち、56例は胆嚢を持たない患者だった。うち44例は現在承認されている用量(75mg一日二回、標準用量は100mg一日二回)を用いていた。アルコールもリスク要因だが、胆嚢のない症例ではアルコール乱用ではないことが確認された症例も多い。一回目の服用で死亡した患者もいるようだ。

    15年5月から16年7月までに米国で処方された患者は34000人。

    Viberziはミューとカッパ型のオピオイド受容体にアゴニストとして、デルタ型にはアンタゴニストとして作用する。胃腸運動性を調節し、デルタ受容体を阻害することでミュー受容体作動による便秘副作用を中和する。麻薬取締局が管理物質指定(スケジュールIV)。ジョンソン・エンド・ジョンソンからライセンスして開発したFuriexをForestが買収、そのForestをActavisが買収、そのActavisがアラガンと合併という経緯。

    リンク: FDAの安全性情報





    今週は以上です。

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    2017年3月12日

    2017年3月12日号


    【ニュース・ヘッドライン】

    • 高リスクCLL用薬の第三相が成功 
    • PTCが『抗議による承認申請』 
    • ファイザー、SGLT2阻害剤を承認申請 
    • アレクシオン、ソリーアリスを筋無力症に適応拡大申請 
    • リオナを米国でも保存期に適応拡大申請 
    • PRACがガドリニウム造影剤の承認見直しを勧告 



    【新薬開発】


    高リスクCLL用薬の第三相が成功
    (2017年3月6日発表)

    TG Therapeutics(Nasdaq:TGTX)はTG-1101(ublituximab)の第三相試験成功を発表した。慢性リンパ性白血病(CLL)の二次治療を受ける高リスク患者(17p欠損、11p欠損、またはp53変異)を、Imbruvica(ibrutinib)単剤投与群とTG-1101併用群に割付けて総合反応率(第三者査読)を比較したところ、各群47%と80%となり、併用群が有意に上回った。17年下期に加速承認を申請する方向でFDAと相談する考え。

    TG-1101はCD20を標的とするモノクローナル抗体で、糖鎖加工技術を用いてADCC(抗体依存性細胞毒性)活性を向上したもの。ロシュのGazyva(obinutuzumab)との違いは、IgG1型のキメラ抗体であること(GazyvaはIgG2型ヒト化抗体)と、結合するエピトープ。

    LFB Biotechnologiesからライセンスしたもの。フランスとベルギーの権利はLFBが保留、韓国など東南アジアの権利は韓国の日東製薬が保有している。

    リンク: TG社のプレスリリース

    【承認申請】


    PTCが『抗議による承認申請』
    (2017年3月6日発表)

    PTC Therapeutics(Nasdaq:PTCT)は、PTC124(ataluren)の『抗議による新薬承認申請(NDA over protest)』を行いFDAに受理されたと発表した。審査期限は10月24日。

    PTC124はデュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)の治療に用いる経口剤。DMDの多くはジストロフィンの遺伝子に変異があり正常に機能しない。様々な変異のうち、塩基配列の途中に翻訳中止を意味するPremature Termination Codons(PTC)が出来てしまったナンセンス変異型が適応になる。米国の対象患者数は2000人、世界で7000人と推定されている。

    第三相試験は6分歩行テストを主評価項目としたが48週で偽薬比15メートルしか改善せず、後期第二相試験に続いてフェールした。16年にローリング承認申請を完了したが、FDAに受理されず、不服申し立てしたが却下された。

    EUはCHMPが一旦は否定的意見を出したが再審査後に条件付き承認となった。その後、第三相試験がフェールしたため承認の更新が危ぶまれたが、18ヶ月間の偽薬対照試験を行う条件で更新に成功した。

    米国では昨年、Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)のExondys 51(eteplirsen)が特定の遺伝子変異を持つDMDの治療薬として承認された。治験では6分歩行テストが改善しなかったため審査担当者と部門長は承認に否定的だったが、上層部の鶴の一声で承認された。PTCも勇気付けられたことだろう。

    リンク: PTCのプレスリリース

    ファイザー、SGLT2阻害剤を承認申請
    (2017年3月6日発表)

    ファイザーは、SGLT2阻害剤のPF-04971729(ertugliflozin)及びmetformin配合剤、sitagliptin配合剤の三剤を二型糖尿病治療薬として欧米で承認申請し、受理されたと発表した。米国の審査期限は12月。二型糖尿病薬は開発販売競争が激しいため製薬会社は撤退したり他社と協業したリして費用負担を緩和している。ファイザーはPF-04971729の開発販売でMSDと提携し、費用や利益を折半する。但し日本は提携対象外。

    リンク: ファイザーのプレスリリース

    アレクシオン、ソリーアリスを筋無力症に適応拡大申請
    (2017年3月8日発表)

    アレクシオン・ファーマスーティカルズ(Nasdaq:ALXN)は、Soliris(eculizumab、和名ソリーアリス)を全身性重症筋無力症の治療に用いる適応拡大申請を米国で行い受理されたと発表した。審査期限は10月23日。アセチルコリン受容体(AChR)に対する抗体を持つ患者に用いる。

    Solirisは補体系のC5を標的とするヒト化抗体で、発作性夜間血色素尿症や非定型的溶血性尿毒症症候群の治療薬として承認されている。全身性重症筋無力症はしばしば抗AChR抗体を持っており、神経筋接合部のAChRに結合して補体系を活性化、破壊させる。このため、補体系を阻害するSolirisが有効な可能性がある。難治性患者を組入れた第三相試験はフェールしたが、難病なので承認のハードルが下がる可能性がある。

    リンク: アレクシオンのプレスリリース

    リオナを米国でも保存期に適応拡大申請
    (2017年3月8日発表)

    Keryx Biopharmaceuticals(Nasdaq:KERX)は、Auryxia(ferric citrate、和名リオナ)を非透析期慢性腎疾患の鉄欠乏性貧血に用いる適応拡大申請をFDAに行い受理されたと発表した。審査期限は11月6日。承認されれば経口剤では初。

    Auryxiaは経口鉄で透析期の慢性腎疾患鉄欠乏性貧血の治療薬として承認されている。台湾のPanion社からライセンスしたもので、日本はKeryxからサブライセンスした鳥居薬品/日本たばこが一足先に透析期・保存期ともに承認を取得し、14年に発売した。

    リンク: Keryxのプレスリリース

    【医薬品の安全性】


    PRACがガドリニウム造影剤の承認見直しを勧告
    (2017年3月10日発表)

    EUの薬品審査機関であるEMAで市販後監視を担うPRAC(ファーマコビジランス・リスク・アセスメント委員会)は、線形ガドリニウム造影剤に関して、販売承認停止を含む規制見直しを勧告した。次のステップは、医薬品科学的評価委員会であるCHMPが検討し最終判断することになる。一部の製品・用途については販売を容認する見込みだ。

    ガドリニウム造影剤は稀に腎臓に蓄積して腎性全身性線維症を誘発するリスクが知られているが、脳にも蓄積するリスクがあることが判明。FDAも15年に注意喚起を行っているが、悪影響は確認されていないことから、承認見直しまでは打ち出していない。一方、PRACは、長期的な影響が十分に解明されていないことや他の組織に蓄積すると腎性全身性線維症や皮膚プラクの副作用が発生することから、予防的措置として勧告した。

    マクロ環錯体より線形錯体のほうがガドリニウムが遊離・蓄積しやすいと考えられており、PRACの見直し勧告も静注用線形ガドリニウム薬品であるgadobenic acid、gadodiamide(Omniscan)、gadopentetic acid(Primovist/Eovist)、そしてgadoversetamide(OptiMARK)が対象になっている。

    バイエルのPrimovist/Eovistを肝臓検査に用いる用途は、代替的な選択肢が限られていることから、承認継続される見込み。関節注射用ガドベンテト酸も、用量が少ないことから、今回の規制強化の対象外。このほかにも、製薬会社が十分なエビデンスや論拠を提示すれば、再検討の余地が残っている様子だ。

    リンク: EMAのリリース
    リンク: ガドリニウム造影剤の蓄積リスクに関するFDAのリリース(15年7月27日付)




    今週は以上です。

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    2017年3月5日

    2017年3月5日号


    【ニュース・ヘッドライン】

    • アムジェン、カイプロリスが全生存でもベルケイドに勝つ 
    • Kite PharmaのCAR-Tは反応率41% 
    • Juno、CAR-Tの一つを開発中止 
    • La Jolla、合成ヒトAT2の第三相が成功 
    • セルジーン、IDH2阻害剤をFDAに承認申請 
    • テバ、遅発性ジスキネジア治療薬を米国で承認申請 
    • 米国で夜間多尿用薬が承認 
    • 米国でカルチノイド症候群の下痢治療薬が承認 
    • ミティキュアダニ舌下錠が米国でも承認 



    【新薬開発】


    アムジェン、カイプロリスが全生存でもベルケイドに勝つ
    (2017年3月3日発表)

    アムジェンは、多発骨髄腫の二次治療における直接比較試験、ENDEAVORの全生存期間の解析結果をIMW(国際骨髄腫ワークショップ)で発表した。Kyprolis(carfilzomib、和名カイプロリス)は武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib、和名ベルケイド)を有意に上回った。この二剤のシェア動向に与える影響は明確ではないが、プラスにはなるだろう。最近の新薬に対抗する上でも役立つだろう。

    ENDEAVORは、Kyprolisとdexamethasoneを併用するKdレジメンとVelcade・dexamethasoneのVdレジメンを比較した第三相試験。主評価項目であるPFS(無進行生存期間)は15年に中間解析で成功した。Kd群のメジアンは18.7ヶ月、Vd群は9.4ヶ月、ハザードレシオ0.53、95%信頼区間0.44~0.65だった。

    G3以上の有害事象でKd群の発生率が高かったのは、高血圧が各群9%と3%、心不全4.7%と1.8%、急性腎不全4.0%と2.6%。G2以上の神経症は6%と32%で過去の試験と同様にVelcadeより低かった。

    IMWで発表された全生存データは、メジアン値が47.6ヶ月と40.0ヶ月、ハザードレシオは0.79、95%信頼区間0.65~0.96、p=0.01。被験者の半分は一次治療でVelcadeを用いていたが、このサブグループのハザードレシオは0.84、未経験者では0.75だった。

    一次治療で用いた薬をもう一度使うよりは違う薬、できれば異なった作用機序の薬を使うほうが有効だろう。ENDEAVOR試験のVelcade経験者のデータは、多発骨髄腫用薬の選択肢が増えた今日では、あまりインプリケーションがないのではないか。同じ作用機序のKyprolisを使うのと新作用機序の薬のどちらが適当か、エビデンスが欲しいところだ。

    未経験者のデータは二次治療におけるKyprolisの優位性を示唆したが、一次治療での雌雄は決していない。melphalan及びprednisoneと併用する効用を比較したCLARION試験では有意差は出なかった。最近流行りのRevlimid・dexamethasoneとプロテアソーム阻害剤を三剤併用するレジメンではどちらが良いか、忍容性はボトルネックにならないか、も検討課題だ。

    リンク: アムジェンのプレスリリース

    Kite PharmaのCAR-Tは反応率41%
    (2017年2月28日発表)

    Kite Pharma(Nasdaq:KITE)は、KTE-C19(axicabtagene ciloleucel)のZUMA-1試験の解析結果を発表した。化学療法難治性びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(DLBCL、n=77)のコフォートではORR(客観的反応率)が82%、完全反応率は49%、転換濾胞性リンパ腫(TFL)と原発性縦隔大細胞型B細胞性リンパ腫(PMBCL)のコフォート(n=24)では各83%と71%で、合計では各82%と54%となった。

    これらのデータは反応の持続性は考慮していないのだろう。6ヶ月時点のORRと完全反応率はDLBCLでは36%と31%、TFL/PMBCLでは54%と50%、合計で41%と36%となっている。DLBCLはずいぶん低下するがそれでも良い数値であることに変わりはない。

    G3以上の有害事象では、CAR-Tの特徴的な副作用であるサイトカイン放出症候群の発生率が13%、神経学的イベントが28%。治療時発現有害事象による死亡は3例で、血球貪食性リンパ組織球増多症とサイトカイン放出症候群発症患者の心停止、肺塞栓。

    既にFDAにローリング承認申請を開始しており、今月中に今回のデータを提出して完了する予定。

    KTE-C19はB細胞表面抗原であるCD19に結合する抗体の短鎖フラグメントと膜貫通ドメイン、そしてT細胞に活性化刺激を送るCD3ゼータとCD28で構成される。患者の血液細胞を採取してから加工・培養された薬剤が医療施設に届くまでの平均リードタイムは17日間、生産成功率は99%とされる。

    日本での製造開発販売権は第一三共が取得した。

    リンク: Kiteのプレスリリース

    Juno、CAR-Tの一つを開発中止
    (2017年3月1日発表)

    Juno Therapeutics(Nasdaq:JUNO)は、2016年12月期の決算発表と合わせてパイプライン・アップデートを行い、JCAR015の開発中止決定を明らかにした。

    JCAR015は、上記のKite Pharma(Nasdaq:KITE)のKTE-C19や、ノバルティスがペンシルバニア大学からインライセンスし年内にB細胞性非ホジキン型リンパ腫及びB細胞性急性リンパ性白血病で承認申請予定のCTL019と同じ、B細胞の表面分子であるCD19を標的とするCAR-T療法。ファースト・イン・クラスの名誉と富を目指して開発競争は激烈だ。

    Junoはセルジーン(Nasdaq:CELG)と開発販売提携を結んで2017年中の承認取得を目指してきたが、急性リンパ性白血病の第二相で脳浮腫による死亡が5例発生、FDAがクリニカルホールド(治験許可の停止)を命じたため、出遅れてしまった。

    なぜ発生したのか?CAR-Tの組成、プリコンディショニングで用いた薬の種類や用量、など色々考えられるようだ。Junoはプロトコルを見直しプロセスを改善すれば対処可能と信じながらも、JCAR017などの次世代品にシフトすることを決めた。

    JCAR017がJCAR015と異なる点は、副刺激ドメイン(CD28ではなく4-1BB、細胞の増殖が当初は穏やかだが長期持続的になる由)、細胞(CD4陽性のT細胞とCD8陽性のそれが1対1の割合)、製法(ナイーブ細胞や静止細胞が多い)、ベクター(ガンマ・レトロウイルスではなくレンチウイルスを使用)とのこと。

    開発競争が激しいとフライングによる失敗も増える。一部企業がドロップアウトしても残りは無事ゴールインすることもあれば、一部企業の開発品で表面化したボトルネックが後にクラスイフェクトであることが判明することもある。CAR-Tは注目に値する新技術だけに、他山の石とすべきだろう。

    リンク: Junoのプレスリリース

    La Jolla、合成ヒトAT2の第三相が成功
    (2017年2月27日発表)

    La Jolla Pharmaceuticals(Nasdaq:LJPC)は、LJPC-501(合成ヒト・アンジオテンシンII)の第三相試験成功を発表した。カテコラミン抵抗性低血圧の重症患者を組入れて、昇圧剤に加えてLJPC-501を点滴静注したところ、3時間後の昇圧成功率が70%と偽薬群の23%を大きく上回り、検出力不足のため有意には届いていないものの死亡リスクが数値上22%小さかった。17年下期に承認申請すべくFDAと相談する考え。事前に特別プロトコル評価(SPA)を受けているので、安心感がある。

    リンク: La Jollaのプレスリリース

    【承認申請】


    セルジーン、IDH2阻害剤をFDAに承認申請
    (2017年3月1日発表)

    セルジーン(Nasdaq:CELG)は、FDAがCC-90007/AG-221(enasidenib)の承認申請を受理し、優先審査指定したことを発表した。審査期限は8月30日。IDH2(イソクエン酸脱水素酵素2)を阻害する経口剤で、変異IDH2型再発性難治性急性骨髄性白血病(AML)の治療に用いる。IDH2変異はAMLの8~19%とされる。判定に必要なアボットのm2000リアルタイム・システムもPMA(販売前承認)申請された。

    同社がAgios Pharmaceuticalsと6年間に亘って行った癌代謝領域の戦略的協業の成果で、Agiosは達成報奨金と売上ロイヤルティを得る。

    リンク: セルジーンのプレスリリース

    テバ、遅発性ジスキネジア治療薬を米国で承認申請
    (2017年2月28日発表)

    テバ(NYSE:TEVA)は、deutetrabenazineを遅発性ジスキネジア治療薬として米国で承認申請し受理されたと発表した。優先審査指定され審査期限は8月30日。VMAT-2(小胞モノアミントランスポーター2型)阻害剤でドパミンを抑制する。

    ハンチントン舞踏病用薬として欧米で承認されているtetrabenazineの水素基を重水素基で置換し、不活化を遅らせることで半減期を伸ばすと共に、忍容性や代謝酵素に関わる個人差・薬物相互作用を改善した。15年に35億ドルで買収したAuspex Pharmaceuticalsの開発品。

    15年にはハンチントン舞踏病治療薬として承認申請したが、FDAから審査完了通知を受領した。代謝物に関する検討を要請された由であり、もし未回答であったならば、今回も同じ壁にぶつかるリスクがある。

    VMAT-2阻害剤はNeurocrine Biosciences(Nasdaq:NBIX)もIngrezza(valbenazine)を昨年8月に米国で遅発性ジスキネジア治療薬として承認申請しており、審査期限は来月11日。2月に諮問委員会の予定だったがキャンセルされた。

    リンク: テバのプレスリリース

    【承認】


    米国で夜間多尿用薬が承認
    (2017年3月3日発表)

    FDAは、米国ペンシルバニア州のSerenity Pharmaceuticalsが夜間多尿治療薬として申請したNoctiva(desmopressin acetate)点鼻スプレーを承認した。一日一回、就寝30分前に用いる。腎臓で再吸収される水分を増やす作用があり、臨床試験では夜間の排尿回数を減らす穏やかな効果が見られた。

    治療開始前に夜間頻尿の原因が多尿であることを確認する。低ナトリウム血症のリスクがあるため、治療開始前と開始後も定期的に検査し、高齢者など高リスク患者には低量で開始することが推奨されている。症候性鬱血性心不全や管理不良高血圧は病状が悪化するリスクがあるため禁忌。

    Serenity社はNoctivaの開発販売でアラガンと提携している。

    リンク: FDAのリリース

    米国でカルチノイド症候群の下痢治療薬が承認
    (2017年2月28日発表)

    FDAは、米国テキサス州のLexicon Pharmaceuticals(Nasdaq:LXRX)がカルチノイド症候群の下痢の治療薬として申請したXermelo(telotristat ethyl)を承認した。ソマトスタチン・アナログによる治療だけでは不十分な患者に一日三回、経口投与する。

    カルチノイド症候群は消化管などの神経内分泌腫瘍の1割程度で発症する疾患で、セロトニンが過剰に生産され重度の下痢や紅潮、長期的には栄養障害や心臓病を発症する。Xermeloはセレトニン生産の調律酵素であるTPH(トリプトファン水酸化酵素)を阻害する作用があり、第三相試験では腸の活動回数が29%減少した(偽薬群は17%)。

    主な有害事象は重度の便秘。第三相では500mgを一日三回投与する群も設定されたが承認されたのは250mgだけだった。臨床試験で承認量を超えて投与したところ一人が便秘で入院、二人が腸の穿孔・閉塞を発症した由。

    北米や日本以外の権利はイプセンが保有している。

    リンク: FDAのリリース
    リンク: Lexiconのプレスリリース

    ミティキュアダニ舌下錠が米国でも承認
    (2017年3月1日発表)

    FDAは、Odactraをイエダニによるアレルギー性鼻炎の治療薬として承認した。ダニから抽出調製したエキスを舌下錠にしたもので減感作療法に用いる。

    コペンハーゲン証券取引所上場のAlk Abelloが元々はシェリング・プラウに北米などの権利を導出したもので、同社を買収したMSDが承認申請したが、昨年7月に提携解消した。草アレルギー性鼻炎の減感作療法用舌下錠として承認されているGrazaxやRagwitekと同様に、宙に浮いた格好だ。

    Odactraは欧州では15年にAcarizax名で承認。日本では鳥居薬品が導入してミティキュアダニ舌下錠として販売している。

    リンク: FDAのリリース
    リンク: Alk Abelloのプレスリリース






    今週は以上です。

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