2016年5月22日

2016年5月22日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • CDC、ジカウイルスに感染した妊婦279例を追跡調査 
  • ノバルティス、CDK4/6阻害剤の第三相が早期成功 
  • 中外のALK阻害剤がザーコリに勝つ 
  • ジェンマブ、抗CD38抗体の適応拡大試験成功 
  • アストラゼネカ、benralizumabの第三相成功 
  • アストラゼネカ、PARP阻害剤の胃癌適応拡大試験はフェール 
  • ファイザー、MenBワクチンの承認申請をEMAが受理 
  • FDAがロシュの抗PD-L1抗体を承認 
  • BMS、オプジーボの適応拡大が承認
  • エーザイ、レンビマの適応拡大が承認
  • FDAもカナグリフロジンと下肢切断の関連性を公表


【今週の話題】


CDC、ジカウイルスに感染した妊婦279例を追跡調査
(2016年5月20日発表)

CDC(米国疾病予防管理センター)は、ジカウイルス感染妊婦の追跡調査状況を発表した。これまでの報告基準・項目では漏れがあるため新たに複数の報告調査体制を構築。5月12日時点で、ラボラトリー検査に基づきジカウイルス感染が疑われる妊婦279人を追跡調査している。このうち、米国の症例が157人、米国領が122人。

米国症例では49%に臨床症状が見られた。発疹(88%)、関節痛(49%)、発熱(51%)、結膜炎(23%)などである。米国領の症例では66%が症候性で、頻度は発疹(75%)、関節痛(36%)、発熱(34%)、結膜炎(19%)となっている。

判定基準は緩めに作られるものなので、本当はデングなど他のウイルス感染である可能性も否定できないが、もし殆どがジカウイルスだとしたら、残念なことであり、他の国も感染拡大抑止に一層努力すべきである。日本人がブラジルに行くのは飛行機を乗り換えて二日がかりなので妊婦が気軽に旅行することはないだろうが、オリンピック、パラリンピックもあるので、注意喚起が重要だ。日本で行われるブラジル関連のイベントも、内容によっては、妊婦は避けたほうが良いかもしれない。

リンク: CDCの報告(MMWR)

【新薬開発】


ノバルティス、CDK4/6阻害剤の第三相が早期成功
(2016年5月18日発表)

ノバルティスは、LEE011(ribociclib)の第三相試験であるMONALEESA-2の独立データ監視委員会が中間解析で主評価項目達成を認定し繰り上げ完了を勧告したと発表した。データは学会で発表される予定。年内に承認申請されることになりそうだ。

LEE011はCDK(サイクリン依存性キナーゼ)4とCDK6を阻害する小分子薬。05年にAstex Pharmaceuticalsと開始した細胞周期制御に係る共同研究の成果。尚、Astexは13年に大塚製薬の子会社となった。

この試験ではホルモン受容体陽性・her2陰性末期乳癌の閉経後女性の一次治療として、標準療法であるノバルティスのFemara(letrozole)に偽薬を併用する群とLEE011併用群のPFS(無進行生存期間)を比較した。

CDK4/6阻害剤では、ファイザーのIbrance(palbociclib)が同じ用途用法で昨年2月に米国で承認されている。承認のエビデンスとなった第二相試験ではPFSがメジアン20ヶ月とFemaraだけの群の10ヶ月を上回った。第三相試験も成功し6月のASCO米国臨床腫瘍学会でデータ発表されるが、先日公開されたアブストラクトによれば、PFSが24ヶ月対14ヶ月で第二相と同様な結果になった。

また、イーライリリーがノバルティスに3ヶ月遅れでLY2835219(abemaciclib)を第三相入りさせた。Ibraceはモノセラピーでは十分な効果が見られなかったが、abemaciclibは前治療歴メジアン7回の患者を組み入れた初期試験で部分反応率19%という成果を上げており、効果が高い可能性がある。

乳癌はエストロゲンなどを利用して成長するホルモン受容体陽性型が多いので、Herceptin(trastuzumab)のようなher2陽性乳癌の薬より市場性が大きい。CDK4/6阻害剤は経口剤なので乳癌における大市場である切除術後補助療法にも使いやすいだろう(但し、効果や忍容性の面で優れていることを立証するには未だ何年もかかる)。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

中外のALK阻害剤がザーコリに勝つ
(2016年5月19日発表)

ロシュはALK阻害剤Alecensa(alectinib、和名アレセンサ)が日本の直接比較試験でファイザーのALK阻害剤、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)より優れた進行遅延効果を示したと発表した。詳細は6月のASCOで発表される予定。

ALK阻害剤の誕生は非小細胞性肺がんの一部にALK遺伝子の染色体転座が関与していることを発見した日本の研究が契機だが、第一号はファイザーのXalkoriで、11年に米国で、12年には日本でも、変異ALK陽性非小細胞性肺癌用薬として承認された。crizotinibはc-MET阻害剤として臨床開発されていたので、他社より早く臨床試験を開始できたのだろう。

Alecensaは中外製薬の開発品で、crizotinibを追いかけて日本は2年遅れ、米国は3年遅れで発売された。適応はXalkoriに反応しない、あるいは不適な患者の二次治療薬としての位置付けだ。今回の試験はALK阻害剤使用歴を持たないALK陽性非小細胞性肺癌を対象にPFSを直接比較したもので、一次治療薬としての真価を問うた。ハザードレシオ0.34、統計的に有意、メジアンはAlecensa群は未達、Xalkori群は10.2ヶ月だった。G3~4の有害事象の発生率は27%とXalkori群の51%より低かった。

リンク: ロシュのプレスリリース

ジェンマブ、抗CD38抗体の適応拡大試験成功
(2016年5月18日発表)

ジェンマブ(Nasdaq Copenhagen:GEN)は、Darzalex(daratumumab)の第三相多発骨髄腫試験、POLLUX試験が中間解析で成功認定されたと発表した。適応拡大申請に向かう予定。骨髄腫細胞の表面に過剰発現するCD38を標的とするヒト化抗体で、昨年11月に米国で、第二相試験の反応率データに基づいて、四次治療薬として加速承認された。今回の成功で、二次治療薬に格上げされるとともに本承認を得ることになりそうだ。

POLLUX試験は再発性難治性多発骨髄腫の患者を対象に、セルジーンのRevlimid(lenalidomide)とdexamethasoneを併用する標準療法と、更にDarzalexを併用する方法のPFSを比較した。結果は、事前に予定されていた中間解析でハザードレシオ0.37、p値が0.0001未満となり、成功と認定された。メジアンPFSは標準療法群が18.4ヶ月、三剤併用群は未達だった。

リンク: ジェンマブのプレスリリース

アストラゼネカ、benralizumabの第三相成功
(2016年5月17日発表)

アストラゼネカはbenralizumabの第三相試験が二本とも成功したと発表した。データは未公表。年内に承認申請に向かう予定。

benralizumabはアストラゼネカのメディミューン部門が協和発酵/BioWaのKHK4563/BIW-8405の欧米などでの権利をライセンスしたもの。IL-5受容体のアルファチェーンに結合するヒト化抗体で、BioWaのポテリジェント技術によりADCC活性などが増強されている。

類薬ではグラクソ・スミスクラインの抗IL-5ヒト化抗体Nucala(mepolizumab)が昨年欧米で、日本も今年3月に、承認された。

第三相試験の対象は、重度喘息症で高量吸入ステロイドや長期作用性ベータ作用剤を併用しても発作を十分に予防できない患者。主評価項目の解析対象は好酸球数が300セル/mcL以上のサブグループで、Nucalaの試験(150セル/mcL以上または過去12ヶ月間に300セル/mcL以上だったことのある患者)と類似している。

標的が若干違うこと、片方はポテリジェント抗体であることを考えれば、効果や忍容性に差があっても不思議はないが、喘息症管理薬の薬効評価は喘息発作回数という大雑把な指標を使うので、差が分かりにくい。HbA1cなら有効桁数3桁で0.2%の差でも有意にできるが、発作はあるかないか二つに一つなので、活性薬同士の小さな差を有意にするには沢山の症例を集めて多くの発作を観察する必要がある。このため、結果が発表された後で考えればよいだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカ、PARP阻害剤の胃癌適応拡大試験はフェール
(2016年5月18日発表)

アストラゼネカは、Lynparza(olaparib)の胃癌適応拡大試験がフェールしたと発表した。このPARP阻害剤は、生殖細胞性BRCA変異を持つ卵巣癌患者の四次治療薬として14年に米国で承認された。欧州での適応範囲は若干異なっており、臨床成績の解釈に相違が窺われる。

今回の第三相試験は、中国、日本、韓国、台湾の医療施設で、her2陰性末期胃癌で一次治療に反応しなかった患者をpaclitaxelと偽薬を併用する群と偽薬ではなくolaparibを併用する群に組み入れて、全生存期間を比較した。olaparibの用量は100mg一日二回で、承認されているモノセラピーの用量の1/3。

IHC法でATM(Ataxia-Telangectasia Mutated)蛋白が陰性だったサブグループ(全体の18%)の解析も行われたが、有意差は出なかった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


ファイザー、MenBワクチンの承認申請をEMAが受理
(2016年5月20日発表)

ファイザーは、EUの薬品審査機関であるEMAがTrumenbaの承認申請を受理したと発表した。侵襲性B群髄膜炎菌性疾患を予防するワクチンで、10歳以上の接種を想定している。

髄膜炎菌性髄膜炎の既存のワクチンはA、C、W、Yの4群をカバーしているが、B群は変異の種類が多く、カバレッジの広いワクチンがなかった。ファイザーのほかにノバルティス(後にワクチン事業をグラクソ・スミスクラインに売却)も開発に成功したが、残念ながら、米国では任意接種となった。

さて、ワクチンは健康な人が深刻だが罹患確率は決して高くない病気を防ぐために用いるので、高い安全性が求められる。100万人が使う薬の1%で発生する副作用よりも4000万人が使うワクチンの0.1%で発生する副作用のほうが被害者は多いのだ。だから、大規模な試験を行って本当に予防できることを確認するとともに、稀だが深刻な副作用副反応を探知する必要がある。Trumenbaの場合は2万人を超える症例がある。

リスク管理の王道は、発生した問題に都度対処するのではなく、どのような問題が発生しうるのか、発生した場合のダメージはどの程度かを事前に検討して優先課題を特定、予防手段を尽くすとともに、発生した時の対応法を決めておく。ワクチンも、実用化した後に起こりうる事態を想定して対応策を臨床開発に取り込んでいくことが重要だ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認】


FDAがロシュの抗PD-L1抗体を承認
(2016年5月18日発表)

FDAはロシュの米国子会社であるジェネンテックのTecentriq(atezolizumab、開発コードRG7446/MPDL3280A)を承認した。PD-L1を標的とするヒト化抗体で、尿路上皮癌(膀胱癌の9割が該当)の二次治療薬として、白金薬による一次治療を既に受けた患者に用いる。審査期限は9月なので4ヶ月前倒しの承認となった。

癌細胞はPD-L1を発現して細胞傷害性T細胞のPD-1などに結合、抑制的刺激を送り込む。このPD-1を標的とする抗体医薬は既に二剤が承認されているが、PD-L1標的薬は初めて。膀胱癌の承認もPD-1/PD-L1標的薬で初。

TecentriqはPD-L1陽性非小細胞性肺癌にも米国で承認申請されている。白金薬や(適応なら)EGFR阻害剤、ALK阻害剤を既に使い終えてしまった患者が対象で、こちらは抗PD-1抗体二剤の承認用内容と同じだ。

さて、承認の根拠となった310人の第二相単群試験では、第三者査読によるORR(客観的反応率)が14.8%だった。ロシュの特徴は腫瘍浸透免疫細胞のPD-L1発現状況も検査していること。Ventana社のPD-L1(SP142)アッセイで陽性(≧5%)と判定された100例ではORR26.0%、陰性の210例は9.5%だった。

FDAはこのアッセイも承認。但し、検査は義務付けでなく陰性でも使用できる。膀胱癌用薬の承認は30年振りで他の選択肢が限られていることに配慮したのだろう。

抗PD-1抗体と同様に、重篤な免疫調停性副作用や感染症のリスクを持つ。上記の試験では、有害事象による治療離脱が3.2%で発生。敗血症、肺炎、間質閉塞による死亡が各1例見られた。

リンク: FDAのリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

BMS、オプジーボの適応拡大が承認
(2016年5月17日発表)

BMSは、FDAがOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を古典的ホジキンリンパ腫(cHL)に用いる適応拡大を承認したと発表した。自家造血幹細胞移植とシアトル・ジェネティクス/武田薬品のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)による地固め療法に反応しなかった、あるいは再発した患者が適応になる。

抗PD-L抗体が血液癌に承認されたのは初めて。適応拡大申請が受理されたのは4月なので、Tecentriqに負けず劣らぬスピード承認だ。それだけ、PD-1/PD-L1阻害剤の臨床的な意義を高く評価しているのだろう。

エビデンスとなった第一相試験と第二相試験では、合計で約260例に投与し、ORRは65%(完全反応率7%)、メジアン反応持続期間は8.7ヶ月。深刻な有害事象の発生率は21%だった。第二相の詳細は6月のASCOで発表される予定。

リンク: BMSのプレスリリース

エーザイ、レンビマの適応拡大が承認
(2016年5月16日発表)

エーザイは、VEGF受容体阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を腎細胞腫の二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたことを発表した。ノバルティスのmTOR阻害剤Afinitor(everolimus、和名アフィニトール)と併用する。第二相試験でPFSがメジアン14.6ヶ月と、everolimusだけの群の5.5ヶ月より長かった(ハザードレシオ0.40、統計学に有意)。

尚、Lenvima単剤投与群とeverolimus群の比較も行われ、前者のメジアン値7.4ヶ月、ハザードレシオ0.61で統計的に有意だったが、モノセラピーは承認されなかった。レーベルを見てもデータが出ていない。

昨年2月に放射性ヨウ素抵抗性進行性分化甲状腺癌で初承認され、今回は二つ目の適応症。分化甲状腺癌の用量は24mgを一日一回服用。腎細胞腫試験もモノセラピー群は同じだったが、併用は18mgでeverolimusもモノセラピーで承認されている一日10mgではなく5mgを使う。

リンク: エーザイのプレスリリース(和文)

【医薬品の安全性】


FDAもカナグリフロジンと下肢切断の関連性を公表
(2016年5月18日発表)

4月17日号で報告したEMAに続いて、FDAもジョンソン・エンド・ジョンソン/田辺三菱製薬のSGLT2阻害剤、Invokana(canagliflozin、和名カナグル)の長期アウトカム試験で下肢切断症例の増加が見られたことを公表した。FDAはcanagliflozinがリスクを高めるかどうか結論を出しておらず、検討中。服用中の患者に対しては、医療従事者に相談せずに勝手に服用を止めないよう警告している。

当然ながらデータはEMAと同じ。CANVAS心血管アウトカム試験の中間解析で、1000人年当りの下肢切断発生率が偽薬群3例に対して100mg群は7例、300mg群は5例だった。平均追跡期間は4.5年。独立データ監視委員会は治験続行を勧告している。類似した試験であるCANVAS-R試験ではリスクは見られなかったが、平均追跡期間は9ヶ月なので、長期的な影響はまだこれからであろう。

リンク: FDAのリリース




今週は以上です。

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