2016年5月29日

2016年5月29日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • ロシュ、Gazyvaが再びリツキサンに勝つ 
  • CHMP、武田のNinlaroに否定的意見 
  • FDA諮問委員会がインスリン・GLP-1作用剤コンビ薬を支持 
  • アストラゼネカの高カリウム血症用薬は審査完了通知に 
  • インターセプト、胆管炎治療薬が米国で承認 
  • バイオジェン、多発性硬化症用薬が米国で承認 
  • インプラント用オピオイドが米国で承認 
  • ADA-SCID治療薬がEUで承認 
  • JNJ、DarzalexがEUで承認


【新薬開発】


ロシュ、Gazyvaが再びリツキサンに勝つ
(2016年5月27日発表)

ロシュはGazyva(obinutuzumab、欧州名Gazyvaro)がGALLIUM試験の中間解析でRituxan(rituximab、欧州名MabThera、和名リツキサン)を上回るPFS(無進行生存期間)を達成したと発表した。データは学会等で発表される予定。適応拡大申請に向かうだろう。

GazyvaはRituxanと同様にCD20を標的とする抗体医薬で、違いは、マウス由来のアミノ酸が少ないヒト化抗体であることと、通常は翻訳後装飾で付加されるフコースを持っていないこと。

抗体医薬はマウス抗体からキメラ抗体、ヒト化抗体、完全ヒト化抗体と進歩してきた。ヒト化抗体はRituxanのようなキメラ抗体よりアナフィラキシーのような免疫原性副作用が小さい長所がある。一方、ヒト化抗体と完全ヒト化抗体の臨床効果の違いは明確ではなく、一つ一つ確認していく必要がある

フコース欠如抗体はNK細胞やマクロファージのFcガンマ受容体IIIa(CD16)との結合力が高く、ADCC(抗体依存性細胞傷害)活性が増強される。ロシュ/GlycArtや協和発酵/バイオワはそれぞれ異なった方法でフコース欠如抗体の開発に成功した。実用化第一号がロシュのGazyvaだ。13年に米国で慢性リンパ性白血病(CLL)の一次治療薬として、今年3月には濾胞性リンパ腫の二次治療薬として、承認された。

CLLの第三相試験ではchlorambucilと併用する効果をchlorambucilモノセラピーと比較するだけでなく、chlorambucilとRituxanの併用とも比較したところ、PFS(無進行生存期間)のハザードレシオがモノセラピー対比で0.14、Rituxan併用対比でも0.39と大変良い結果になった。

今回の試験は緩慢性非ホジキン型リンパ腫の一次治療試験で、化学療法(CHOP、CVP、またはbendamustine)とRituxanを併用する導入療法とその後にRituxanだけの地固め療法を施行する標準療法群と、Rituxanの代わりにGazyvaを用いる群を比較した。主評価項目は被験者の大多数を占める濾胞性リンパ腫の症例の、担当医判定に基づくPFS。二次的評価項目で第三者査読を経たPFSや全ユニバースの解析も行われる予定だ。

濾胞性リンパ腫では今のところRituxanに反応しなかった患者の二次治療しか承認されていないが、今回の成功で、第一選択薬に格上げされることになる。Rituxanのような初期の抗体医薬は特許が次第に切れ始めるためバイオシミラーにリプレースされるリスクが高まっている。サイトカイン系の一部ではPEG化技術で効果や利便性を高めることに成功、特許切れ対策となった。抗体医薬系ではフコース欠如抗体などの抗体改変技術に期待がかかる。

リンク: ロシュのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、武田のNinlaroに否定的意見
(2016年5月27日発表)

EUの薬品審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、5月の会議で、三種類のFDC(固定用量配合)製品の承認に肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認される見込み。一方、武田薬品Ninlaro(ixazomib cirate)は薬効のエビデンスが不十分とみなされ、否定的意見となった。

リンク: EMAのプレスリリース

コンビ薬三剤のうち二剤は、複数の薬を併用するのが一般的な慢性C型肝炎の治療薬で、どちらも新規活性成分を用いている。まず、ギリアド・サイエンス(Nasdaq:GILD)のEpclusa。NS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvirと新開発のNS5A複製複合体阻害剤velpatasvirを配合している。

前者は単剤でSovaldi(和名ソバルディ)として、及び、NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirとのFDCでHarvoni(和名ハーボニー)として、販売されている。NS5Bポリメラーゼ阻害剤は肝毒性で開発中止になったものが多く、貴重な選択肢だ。一方、後者のvelpatasvirはledipasvirと同じ作用機序なので使い分けることになる。

Harvoniは6種類の代表的なC型肝炎ウイルスのうち2型、3型、6型に関するエビデンスが不十分だが、Epclusaは6種類全てで90%以上の奏効率(SVR12)を上げており、専らこの3遺伝子型に用いられるのではないか。1型2型以外の感染者が少なくない国や遺伝子型検査が普及していない国でも有益だろう。

米国でも承認審査中で、審査期限は6月28日。

もう一つはMSDのZepatier。NS3/4Aプロテアーゼ阻害剤grazoprevirとNS5A複製複合体阻害剤elbasvirのコンビ薬で、どちらも新規活性成分。米国と同様に1型と4型だけしか肯定的意見を受けなかった(3型や6型も申請)。臨床試験では90%以上の奏効率(SVR12)を示した。予後の悪い重度慢性腎疾患患者にも有効。

生産委託先で支障が生じている模様で発売は今年後半以降になる見込み。米国では今年1月承認された。日本でも承認審査中。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: ギリアドのプレスリリース
リンク: MSDのプレスリリース

最後の一つはアストラゼネカのQternで、DPP4阻害剤saxagliptinとSGLT2阻害剤dapagliflozinを配合。二型糖尿病で、metforminやSU剤だけでは十分な血糖管理ができない患者に用いる。米国では承認が遅延している。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

武田が多発骨髄腫の二次治療薬として承認申請した経口プロテアソーム阻害剤、Ninlaro(ixazomib cirate)は、米国では昨年11月に審査期限よりだいぶ早く承認されたが、CHMPは否定的意見と評価が分かれた。

第三相試験では標準療法の一つであるRevlimid(lenalidomide)とdexamethasoneを併用するRdレジメンと更にNinlaroを用いる三剤併用のPFS(無進行生存期間)を比較、各群のメジアン値は14.7ヶ月と20.6ヶ月、ハザードレシオ0.74で、三剤併用群が有意に優れていた。 何が悪いのかよくわからない。武田は一次治療に難治性の患者の二次治療または三次治療以降に限定する代替案を提示したが、CHMPはエビデンス不足と判定した。

否定的評価を受けた場合、通知を受領してから15日以内なら再審査請求が可能。最近の例では、4月に否定的意見を受けたProveca社のよだれ治療薬、Sialanar(glycopyrronium bromide)の再審査請求が受理された。超希少疾患で治験症例数が少ないケースでは専門医の意見を聴取した上で意見を変えたことが何度かある。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 武田薬品のプレスリリース(英文)
リンク: 治験論文抄録(New England Journal of Medicine)

適応拡大では、シアトルジェネティクス(Nasdaq: SGEN)が武田と共同開発販売しているAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)を地固め療法に用いることが肯定的意見を得た。ホジキン型リンパ腫で自家造血幹細胞移植を受けた、再発リスクの高い患者に、3週間に一回投与、1年間のコースを施行する。臨床試験ではPFSが43ヶ月と偽薬群の24ヶ月を大きく上回った。

CD30に結合する抗体とMMAEと略称される細胞毒をリンカーで結合したADC(抗体薬物結合体)で、現在は、ホジキン型リンパ腫が再発した後に使う薬として承認されている。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: 武田薬品のプレスリリース(英文)

アッヴィのHumira(adalimumab、和名ヒュミラ)を非感染性中間部・後部全ブドウ膜炎の治療に用いることも肯定的意見を得た。ステロイドに十分に反応しない患者等に用いる。TNF阻害剤は適応の多さに圧倒される。

リンク: EMAのプレスリリース

参天製薬が非感染性ブドウ膜炎の治療薬として承認申請した注射用薬、Opsiria(sirolimus)は申請撤回となった。EMAは承認に否定的であった模様。単群試験で示された薬効が不明確であること(特に欧州の施設)、生産工程における減菌方法に疑問が生じたこと、などを指摘している。

リンク: EMAのプレスリリース

FDA諮問委員会、インスリン・GLP-1作用剤コンビ薬を支持
(2016年5月24日発表)

糖尿病治療薬の大手であるノボ ノルディスクとサノフィは、持効性インスリンやGLP-1作用剤の開発販売で鎬を削っているが、この二つのFDC(固定用量合剤)の開発もデットヒート状態だ。欧州ではノボが14年に承認を取得、先行したが米国は大きく遅延、昨年9月に承認申請したところ。サノフィは米国で昨年12月申請と3ヶ月遅れたが、レトロフィン社から2.45億ドルで取得した優先審査バウチャーを使ったので、先に承認される可能性もある。

意外なことに、FDAは内分泌代謝薬諮問委員会を招集し、24日はノボのIDegLira、25日はサノフィのLixiLanについて意見を聞いた。前者は16人の委員全員が、後者も票決に参加した14人中12人が承認を支持したので、おそらく順当に承認されるだろう。しかし、数年前に浮上した素朴な疑問がFDAにとっても疑問であることが確認されたので、釈然としない気持ちが強まった。

疑問の第一は、インスリン対照試験でインスリンが負けるという不思議な現象。インスリンの血糖降下作用は青天井のはずで、もし他の薬に劣後したとしたら、用量用法が不適切だったか、あるいは、低血糖が原因で用量を抑えざるを得なかったからだろう。GLP-1作用剤は低血糖が発生しにくいが、インスリンやSU剤と併用する場合はこれらの薬の低血糖リスクを増強するので、「低血糖リスクを高めずに血糖値を下げることが可能」とは考え難い。

第二は、用量の組み合わせがIDegLiraは一種類、LixiLanは二種類しかないこと。インスリンは血糖値をモニターして増減量するが、これらの製品はインスリンを増減するとGLP-1作用剤の用量も増減し、大きく増減するとGLP-1作用剤の量が承認範囲を逸脱してしまう。

LixiLanに配合されているinsulin glargineの場合、米国患者の多くが一日10~60単位を用いており、LixiLanを使う場合のGLP-1作用剤lixisenatideの用量は5~30mcgとなるので、lixisenatide単剤の承認用量である10~20mcgから大きく逸脱する訳ではない。しかし、5mcgでも本当に効くのか、30mcgでも本当に安全なのかは、個々の患者が自分でやってみるしかないだろう。

リンク: ノボのプレスリリース
リンク: サノフィのプレスリリース

アストラゼネカの高カリウム血症用薬は審査完了通知に
(2016年5月27日発表)

アストラゼネカはZS-9(sodium zirconium cyclosilicate)に関してFDAから審査完了通知を受領したと発表した。昨年11月に27億ドルで買収したZS Pharmaの開発品。承認前の工場検査で指摘事項があった模様。既に回答済みである模様なので年内に承認される可能性もあるだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認】


インターセプト、胆管炎治療薬が米国で承認
(2016年5月27日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)は、Ocaliva(obeticholic acid)が原発性胆汁性胆管炎(PBC)の治療薬としてFDAに承認されたと発表した。これまでは唯一の治療薬であったウルソデオキシコール酸に十分に反応しない患者に追加、又は不耐患者に単剤投与する。ALP(アルカリフォスフォターゼ)低下作用に基づく加速承認なので、臨床症状改善作用や延命効果を別途、確認する必要がある。

PBCは主として40歳以上の女性が罹患する免疫性疾患で、合併症は命に係る。OcalivaはFXR(ファルネソイドX受容体)アゴニスト。ウルソデオキシコール酸の類縁体で力価を高めた。臨床試験ではALP正常化成功率が46%と偽薬群の10%を有意に上回った。主な有害事象は掻痒。非アルコール性脂肪性肝炎にも開発されている。

日本では大日本住友製薬がDSP-1747として非アルコール性脂肪性肝炎向けに開発している。

リンク: インターセプトのプレスリリース

バイオジェン、多発性硬化症用薬が米国で承認
(2016年5月27日発表)

バイオジェンは、アッヴィと共同開発したZinbryta(daclizumab)が米国で再発性多発性硬化症の維持療法薬として承認されたことを発表した。

PDLバイオファーマがヒト化技術を応用して創製した抗CD25ヒト化抗体で、ロシュが97年に臓器移植後拒絶反応予防薬Zenapaxとして発売したが商業上の理由で販売中止。その後、PDLが独自に皮注用製剤を開発し、Avonex(ベータインターフェロン1a)などの多発性硬化症用薬を持つバイオジェンと提携。PDLはその後、アッヴィに買収された。

Avonexと直接比較した第三相試験で再発リスクを45%削減しており、効果はここ数年の新薬に匹敵しそうだ。忍容性では深刻な肝毒性が枠付き警告された。毎月検査し、治療を終えた時も半年後に検査する必要がある。過敏反応なども見られたため、FDAは、2~3種類の薬を試しても上手く行かない難治性の患者に用いることを推奨している。

リンク: FDAのリリース
リンク: 両社のプレスリリース

インプラント用オピオイドが米国で承認
(2016年5月26日発表)

タイタン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:TTNP)は、FDAがProbuphine(buprenorphine)をオピオイド依存症治療薬として承認したと発表した。既存製品は舌下錠だが、患者が飲まなかったり子供が誤飲したりするリスクがある。Probuphineは初のインプラントで15分程度の施術で上腕皮下に留置すると効果が6ヶ月間持続する。Braeburn Pharmaceuticalsが販売する。

リンク: FDAのリリース
リンク: タイタンのプレスリリース

ADA-SCID治療薬がEUで承認
(2016年5月27日発表)

グラクソ・スミスクラインはStrimvelisがEUで承認されたと発表した。ADA-SCID(アデノシンデアミナーゼ欠損症による重症複合免疫不全症)の遺伝子療法で、HLA型適合の近親者ドナーがいない患者に用いる。

ADA-SCIDは免疫力が著しく弱く、日和見感染でも深刻な状態になるので、生涯を無菌室で過ごすことになる。遺伝子療法の代表的な用途と見なされてきたが、中々実現しなかった。Strimvelisは、患者から採取したCD34陽性細胞にレトロウイルス・ベクターを使ってヒトADAのcDNAを導入、6時間以内に患者に戻すと、正常な免疫細胞が作られるようになる。臨床試験では12人を治療したところ3年生存率100%、メジアン7年追跡した現在でも全員が生存している。

イタリアのFondazione TelethonやFondazione San Raffaele、Ospedale San Raffaeleなどが共同で開発に成功、GSKが権利を取得して承認取得手続きを行ったもの。当初はOspedale San Raffaeleで治療する。

リンク: GSKのプレスリリース

JNJ、DarzalexがEUで承認
(2016年5月23日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、Darzalex(daratumumab)がEUで再発性難治性多発骨髄腫用薬として承認されたと発表した。代表的な治療薬であるプロテアソーム治療薬と免疫調停薬による治療を既に受けて最終治療に反応しなかった患者に用いる。加速評価による条件付き承認で、今後の試験で臨床的効用が確認されなかった場合は承認取り消しとなる。。

デンマークのジェンマブが創製した抗CD38完全ヒト化抗体。米国では昨年11月に承認された。今回はモノセラピーだが、VelcadeやRevlimidと併用した第三相試験も成功したので、早晩適応拡大されるだろう。

リンク: JNJのプレスリリース




今週は以上です。

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2016年5月22日

2016年5月22日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • CDC、ジカウイルスに感染した妊婦279例を追跡調査 
  • ノバルティス、CDK4/6阻害剤の第三相が早期成功 
  • 中外のALK阻害剤がザーコリに勝つ 
  • ジェンマブ、抗CD38抗体の適応拡大試験成功 
  • アストラゼネカ、benralizumabの第三相成功 
  • アストラゼネカ、PARP阻害剤の胃癌適応拡大試験はフェール 
  • ファイザー、MenBワクチンの承認申請をEMAが受理 
  • FDAがロシュの抗PD-L1抗体を承認 
  • BMS、オプジーボの適応拡大が承認
  • エーザイ、レンビマの適応拡大が承認
  • FDAもカナグリフロジンと下肢切断の関連性を公表


【今週の話題】


CDC、ジカウイルスに感染した妊婦279例を追跡調査
(2016年5月20日発表)

CDC(米国疾病予防管理センター)は、ジカウイルス感染妊婦の追跡調査状況を発表した。これまでの報告基準・項目では漏れがあるため新たに複数の報告調査体制を構築。5月12日時点で、ラボラトリー検査に基づきジカウイルス感染が疑われる妊婦279人を追跡調査している。このうち、米国の症例が157人、米国領が122人。

米国症例では49%に臨床症状が見られた。発疹(88%)、関節痛(49%)、発熱(51%)、結膜炎(23%)などである。米国領の症例では66%が症候性で、頻度は発疹(75%)、関節痛(36%)、発熱(34%)、結膜炎(19%)となっている。

判定基準は緩めに作られるものなので、本当はデングなど他のウイルス感染である可能性も否定できないが、もし殆どがジカウイルスだとしたら、残念なことであり、他の国も感染拡大抑止に一層努力すべきである。日本人がブラジルに行くのは飛行機を乗り換えて二日がかりなので妊婦が気軽に旅行することはないだろうが、オリンピック、パラリンピックもあるので、注意喚起が重要だ。日本で行われるブラジル関連のイベントも、内容によっては、妊婦は避けたほうが良いかもしれない。

リンク: CDCの報告(MMWR)

【新薬開発】


ノバルティス、CDK4/6阻害剤の第三相が早期成功
(2016年5月18日発表)

ノバルティスは、LEE011(ribociclib)の第三相試験であるMONALEESA-2の独立データ監視委員会が中間解析で主評価項目達成を認定し繰り上げ完了を勧告したと発表した。データは学会で発表される予定。年内に承認申請されることになりそうだ。

LEE011はCDK(サイクリン依存性キナーゼ)4とCDK6を阻害する小分子薬。05年にAstex Pharmaceuticalsと開始した細胞周期制御に係る共同研究の成果。尚、Astexは13年に大塚製薬の子会社となった。

この試験ではホルモン受容体陽性・her2陰性末期乳癌の閉経後女性の一次治療として、標準療法であるノバルティスのFemara(letrozole)に偽薬を併用する群とLEE011併用群のPFS(無進行生存期間)を比較した。

CDK4/6阻害剤では、ファイザーのIbrance(palbociclib)が同じ用途用法で昨年2月に米国で承認されている。承認のエビデンスとなった第二相試験ではPFSがメジアン20ヶ月とFemaraだけの群の10ヶ月を上回った。第三相試験も成功し6月のASCO米国臨床腫瘍学会でデータ発表されるが、先日公開されたアブストラクトによれば、PFSが24ヶ月対14ヶ月で第二相と同様な結果になった。

また、イーライリリーがノバルティスに3ヶ月遅れでLY2835219(abemaciclib)を第三相入りさせた。Ibraceはモノセラピーでは十分な効果が見られなかったが、abemaciclibは前治療歴メジアン7回の患者を組み入れた初期試験で部分反応率19%という成果を上げており、効果が高い可能性がある。

乳癌はエストロゲンなどを利用して成長するホルモン受容体陽性型が多いので、Herceptin(trastuzumab)のようなher2陽性乳癌の薬より市場性が大きい。CDK4/6阻害剤は経口剤なので乳癌における大市場である切除術後補助療法にも使いやすいだろう(但し、効果や忍容性の面で優れていることを立証するには未だ何年もかかる)。

リンク: ノバルティスのプレスリリース

中外のALK阻害剤がザーコリに勝つ
(2016年5月19日発表)

ロシュはALK阻害剤Alecensa(alectinib、和名アレセンサ)が日本の直接比較試験でファイザーのALK阻害剤、Xalkori(crizotinib、和名ザーコリ)より優れた進行遅延効果を示したと発表した。詳細は6月のASCOで発表される予定。

ALK阻害剤の誕生は非小細胞性肺がんの一部にALK遺伝子の染色体転座が関与していることを発見した日本の研究が契機だが、第一号はファイザーのXalkoriで、11年に米国で、12年には日本でも、変異ALK陽性非小細胞性肺癌用薬として承認された。crizotinibはc-MET阻害剤として臨床開発されていたので、他社より早く臨床試験を開始できたのだろう。

Alecensaは中外製薬の開発品で、crizotinibを追いかけて日本は2年遅れ、米国は3年遅れで発売された。適応はXalkoriに反応しない、あるいは不適な患者の二次治療薬としての位置付けだ。今回の試験はALK阻害剤使用歴を持たないALK陽性非小細胞性肺癌を対象にPFSを直接比較したもので、一次治療薬としての真価を問うた。ハザードレシオ0.34、統計的に有意、メジアンはAlecensa群は未達、Xalkori群は10.2ヶ月だった。G3~4の有害事象の発生率は27%とXalkori群の51%より低かった。

リンク: ロシュのプレスリリース

ジェンマブ、抗CD38抗体の適応拡大試験成功
(2016年5月18日発表)

ジェンマブ(Nasdaq Copenhagen:GEN)は、Darzalex(daratumumab)の第三相多発骨髄腫試験、POLLUX試験が中間解析で成功認定されたと発表した。適応拡大申請に向かう予定。骨髄腫細胞の表面に過剰発現するCD38を標的とするヒト化抗体で、昨年11月に米国で、第二相試験の反応率データに基づいて、四次治療薬として加速承認された。今回の成功で、二次治療薬に格上げされるとともに本承認を得ることになりそうだ。

POLLUX試験は再発性難治性多発骨髄腫の患者を対象に、セルジーンのRevlimid(lenalidomide)とdexamethasoneを併用する標準療法と、更にDarzalexを併用する方法のPFSを比較した。結果は、事前に予定されていた中間解析でハザードレシオ0.37、p値が0.0001未満となり、成功と認定された。メジアンPFSは標準療法群が18.4ヶ月、三剤併用群は未達だった。

リンク: ジェンマブのプレスリリース

アストラゼネカ、benralizumabの第三相成功
(2016年5月17日発表)

アストラゼネカはbenralizumabの第三相試験が二本とも成功したと発表した。データは未公表。年内に承認申請に向かう予定。

benralizumabはアストラゼネカのメディミューン部門が協和発酵/BioWaのKHK4563/BIW-8405の欧米などでの権利をライセンスしたもの。IL-5受容体のアルファチェーンに結合するヒト化抗体で、BioWaのポテリジェント技術によりADCC活性などが増強されている。

類薬ではグラクソ・スミスクラインの抗IL-5ヒト化抗体Nucala(mepolizumab)が昨年欧米で、日本も今年3月に、承認された。

第三相試験の対象は、重度喘息症で高量吸入ステロイドや長期作用性ベータ作用剤を併用しても発作を十分に予防できない患者。主評価項目の解析対象は好酸球数が300セル/mcL以上のサブグループで、Nucalaの試験(150セル/mcL以上または過去12ヶ月間に300セル/mcL以上だったことのある患者)と類似している。

標的が若干違うこと、片方はポテリジェント抗体であることを考えれば、効果や忍容性に差があっても不思議はないが、喘息症管理薬の薬効評価は喘息発作回数という大雑把な指標を使うので、差が分かりにくい。HbA1cなら有効桁数3桁で0.2%の差でも有意にできるが、発作はあるかないか二つに一つなので、活性薬同士の小さな差を有意にするには沢山の症例を集めて多くの発作を観察する必要がある。このため、結果が発表された後で考えればよいだろう。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカ、PARP阻害剤の胃癌適応拡大試験はフェール
(2016年5月18日発表)

アストラゼネカは、Lynparza(olaparib)の胃癌適応拡大試験がフェールしたと発表した。このPARP阻害剤は、生殖細胞性BRCA変異を持つ卵巣癌患者の四次治療薬として14年に米国で承認された。欧州での適応範囲は若干異なっており、臨床成績の解釈に相違が窺われる。

今回の第三相試験は、中国、日本、韓国、台湾の医療施設で、her2陰性末期胃癌で一次治療に反応しなかった患者をpaclitaxelと偽薬を併用する群と偽薬ではなくolaparibを併用する群に組み入れて、全生存期間を比較した。olaparibの用量は100mg一日二回で、承認されているモノセラピーの用量の1/3。

IHC法でATM(Ataxia-Telangectasia Mutated)蛋白が陰性だったサブグループ(全体の18%)の解析も行われたが、有意差は出なかった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

【承認申請】


ファイザー、MenBワクチンの承認申請をEMAが受理
(2016年5月20日発表)

ファイザーは、EUの薬品審査機関であるEMAがTrumenbaの承認申請を受理したと発表した。侵襲性B群髄膜炎菌性疾患を予防するワクチンで、10歳以上の接種を想定している。

髄膜炎菌性髄膜炎の既存のワクチンはA、C、W、Yの4群をカバーしているが、B群は変異の種類が多く、カバレッジの広いワクチンがなかった。ファイザーのほかにノバルティス(後にワクチン事業をグラクソ・スミスクラインに売却)も開発に成功したが、残念ながら、米国では任意接種となった。

さて、ワクチンは健康な人が深刻だが罹患確率は決して高くない病気を防ぐために用いるので、高い安全性が求められる。100万人が使う薬の1%で発生する副作用よりも4000万人が使うワクチンの0.1%で発生する副作用のほうが被害者は多いのだ。だから、大規模な試験を行って本当に予防できることを確認するとともに、稀だが深刻な副作用副反応を探知する必要がある。Trumenbaの場合は2万人を超える症例がある。

リスク管理の王道は、発生した問題に都度対処するのではなく、どのような問題が発生しうるのか、発生した場合のダメージはどの程度かを事前に検討して優先課題を特定、予防手段を尽くすとともに、発生した時の対応法を決めておく。ワクチンも、実用化した後に起こりうる事態を想定して対応策を臨床開発に取り込んでいくことが重要だ。

リンク: ファイザーのプレスリリース

【承認】


FDAがロシュの抗PD-L1抗体を承認
(2016年5月18日発表)

FDAはロシュの米国子会社であるジェネンテックのTecentriq(atezolizumab、開発コードRG7446/MPDL3280A)を承認した。PD-L1を標的とするヒト化抗体で、尿路上皮癌(膀胱癌の9割が該当)の二次治療薬として、白金薬による一次治療を既に受けた患者に用いる。審査期限は9月なので4ヶ月前倒しの承認となった。

癌細胞はPD-L1を発現して細胞傷害性T細胞のPD-1などに結合、抑制的刺激を送り込む。このPD-1を標的とする抗体医薬は既に二剤が承認されているが、PD-L1標的薬は初めて。膀胱癌の承認もPD-1/PD-L1標的薬で初。

TecentriqはPD-L1陽性非小細胞性肺癌にも米国で承認申請されている。白金薬や(適応なら)EGFR阻害剤、ALK阻害剤を既に使い終えてしまった患者が対象で、こちらは抗PD-1抗体二剤の承認用内容と同じだ。

さて、承認の根拠となった310人の第二相単群試験では、第三者査読によるORR(客観的反応率)が14.8%だった。ロシュの特徴は腫瘍浸透免疫細胞のPD-L1発現状況も検査していること。Ventana社のPD-L1(SP142)アッセイで陽性(≧5%)と判定された100例ではORR26.0%、陰性の210例は9.5%だった。

FDAはこのアッセイも承認。但し、検査は義務付けでなく陰性でも使用できる。膀胱癌用薬の承認は30年振りで他の選択肢が限られていることに配慮したのだろう。

抗PD-1抗体と同様に、重篤な免疫調停性副作用や感染症のリスクを持つ。上記の試験では、有害事象による治療離脱が3.2%で発生。敗血症、肺炎、間質閉塞による死亡が各1例見られた。

リンク: FDAのリリース
リンク: ロシュのプレスリリース

BMS、オプジーボの適応拡大が承認
(2016年5月17日発表)

BMSは、FDAがOpdivo(nivolumab、和名オプジーボ)を古典的ホジキンリンパ腫(cHL)に用いる適応拡大を承認したと発表した。自家造血幹細胞移植とシアトル・ジェネティクス/武田薬品のAdcetris(brentuximab vedotin、和名アドセトリス)による地固め療法に反応しなかった、あるいは再発した患者が適応になる。

抗PD-L抗体が血液癌に承認されたのは初めて。適応拡大申請が受理されたのは4月なので、Tecentriqに負けず劣らぬスピード承認だ。それだけ、PD-1/PD-L1阻害剤の臨床的な意義を高く評価しているのだろう。

エビデンスとなった第一相試験と第二相試験では、合計で約260例に投与し、ORRは65%(完全反応率7%)、メジアン反応持続期間は8.7ヶ月。深刻な有害事象の発生率は21%だった。第二相の詳細は6月のASCOで発表される予定。

リンク: BMSのプレスリリース

エーザイ、レンビマの適応拡大が承認
(2016年5月16日発表)

エーザイは、VEGF受容体阻害剤Lenvima(lenvatinib、和名レンビマ)を腎細胞腫の二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたことを発表した。ノバルティスのmTOR阻害剤Afinitor(everolimus、和名アフィニトール)と併用する。第二相試験でPFSがメジアン14.6ヶ月と、everolimusだけの群の5.5ヶ月より長かった(ハザードレシオ0.40、統計学に有意)。

尚、Lenvima単剤投与群とeverolimus群の比較も行われ、前者のメジアン値7.4ヶ月、ハザードレシオ0.61で統計的に有意だったが、モノセラピーは承認されなかった。レーベルを見てもデータが出ていない。

昨年2月に放射性ヨウ素抵抗性進行性分化甲状腺癌で初承認され、今回は二つ目の適応症。分化甲状腺癌の用量は24mgを一日一回服用。腎細胞腫試験もモノセラピー群は同じだったが、併用は18mgでeverolimusもモノセラピーで承認されている一日10mgではなく5mgを使う。

リンク: エーザイのプレスリリース(和文)

【医薬品の安全性】


FDAもカナグリフロジンと下肢切断の関連性を公表
(2016年5月18日発表)

4月17日号で報告したEMAに続いて、FDAもジョンソン・エンド・ジョンソン/田辺三菱製薬のSGLT2阻害剤、Invokana(canagliflozin、和名カナグル)の長期アウトカム試験で下肢切断症例の増加が見られたことを公表した。FDAはcanagliflozinがリスクを高めるかどうか結論を出しておらず、検討中。服用中の患者に対しては、医療従事者に相談せずに勝手に服用を止めないよう警告している。

当然ながらデータはEMAと同じ。CANVAS心血管アウトカム試験の中間解析で、1000人年当りの下肢切断発生率が偽薬群3例に対して100mg群は7例、300mg群は5例だった。平均追跡期間は4.5年。独立データ監視委員会は治験続行を勧告している。類似した試験であるCANVAS-R試験ではリスクは見られなかったが、平均追跡期間は9ヶ月なので、長期的な影響はまだこれからであろう。

リンク: FDAのリリース




今週は以上です。

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2016年5月15日

2016年5月15日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • BMS、EUが新規抗癌剤とオプジーボの適応拡大を承認 
  • SOBIとバイオジェン、EUがオルプロリクスを承認 
  • FDA、フルオロキノロンの用途を制限 
  • FDA、オランザピンの重篤皮膚副作用を警告 



【承認】


BMS、EUが新規抗癌剤とオプジーボの適応拡大を承認
(2016年5月11日発表)

BMSはEUが新規抗がん剤のEmpliciti(elotuzumab)と、Opdivo(nivolumab)・Yervoy(ipilimumab)の併用を承認したと発表した。

Emplicitiは骨髄腫細胞やNK細胞に発現する表面分子、SLAM7を標的とする抗体医薬。08年にPDL(後にアッヴィが買収)からライセンスした。多発骨髄腫の二次治療にRevlimid(lenalidomide)及びdexamethasoneと併用する。第三相試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン19.4ヶ月とRevlimid・dexamethasoneだけを投与した群の14.9ヶ月を上回った。主な重篤有害事象は骨髄抑制、肺炎、疲労、下痢、血栓、点滴反応など。

米国では昨年11月に承認、日本でも承認審査中。

Yervoyはマウスにヒトの抗体を発現させる技術を持つメダレックスが創製した抗CTLA-4完全ヒト化抗体。CTLA-4は活性化した細胞傷害性T細胞が発現する表面分子で、抗原提示細胞のCD80/CD86が結合して副刺激を送り込むと、T細胞の活性を抑制する。このCLTA-4を雛形にしてBMSが開発した免疫抑制剤がNulojix(belatacept)やOrencia(abatacept)で、BMSは、09年にメダレックスを24億ドルで買収することによって、免疫副刺激に介入する医薬品におけるアドバンテージを確立した。

Opdivoもメダレックスが小野薬品と共同で開発した抗PD-1完全ヒト化抗体。抗原提示細胞や癌細胞が発現するPD-L1(B7-H1)がイフェクターT細胞に結合して活性を抑制するのをブロックする。

適応は多発骨髄腫。一次治療試験ではPFSがメジアン11.5ヶ月と、Opdivoだけを投与した群の6.9ヶ月、Yervoyだけの群の2.9ヶ月を上回った。米国では今年1月に承認。臨床試験のデータに基づいて試算すると、患者一人当たり薬代は30万ドル超。日本の薬価でも大差ない水準になるだろう。

リンク: BMSとアッヴィのプレスリリース(Empliciti承認)
リンク: BMSのプレスリリース(Opdivo・Yervoy併用承認)

SOBIとバイオジェン、EUがオルプロリクスを承認
(2016年5月13日発表)

Swedish Orphan Biovitrum(STO:SOBI)とバイオジェン(Nasdaq:BIIB)は、EUがAlprolix(eftrenonacog alfa、和名オルプロリクス)を承認したと発表した。B型血友病患者の出血事故の治療とルーチン予防に用いる。

遺伝子組換え型第IX因子と免疫グロブリンの固定領域を細胞融合したもの。通常の第IX因子より半減期が長いので予防用途に適している。最初は7~10日に一回の投与で開始して、出血管理状況を見ながら調整する。

ファルマシアのスピンオフであるBiovitrumがSyntonix社と共同開発、前者をSOBIが買収し、後者はバイオジェンが買収した。米国や日本では14年に承認されたが、EUは小児用も同時に申請するよう求めているため、遅くなった。

リンク: 両社のプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDA、フルオロキノロンの用途を制限
(2016年5月12日発表)

FDAはフルオロキノロン系合成抗菌剤に関する安全性情報を発出し、副鼻腔炎や気管支炎、非複雑性尿路感染症には用いないよう勧告した。深刻な副作用のリスクがあるため治療便益が小さい或いは明確ではない疾患に用いるべきではないという判断だ。重篤・難治性疾患や、この三疾患でも他に適切な治療法がない場合は使用可。FDAは製薬会社にレーベル変更を要請した。

FDAの分析によると、フルオロキノロンの全身的投与(錠剤、カプセル、注射)は、腱、筋、関節、神経、中枢神経に係る行動制約的で潜在的に永続的な深刻有害事象と関連している。昨年12月に召集された抗微生物薬諮問委員会・医薬品安全性リスク管理諮問委員会合同会議では、急性細菌性副鼻腔炎、COPD患者の慢性気管支炎の急性細菌性増悪、非複雑性尿路感染症に用いるべきではないと殆どの委員が判定した。

フルオロキノロンを使う時は、刺すような痛みやヒリヒリ感、混乱、幻覚などが起きないか注意するよう患者に伝える必要がある。

リンク: FDAのリリース

FDA、オランザピンの重篤皮膚副作用を警告
(2016年5月10日発表)

FDAは、非定型向精神薬olanzapine(Zyprexa、和名ジプレキサ、の活性成分)の重篤皮膚副作用リスクを警告した。イーライリリーやGE薬会社がレーベル変更を行う予定。DRESS(好中球増多症及び全身性症状随伴薬物反応)と呼ばれる疾患・症状で、1996年の初承認以来、23例がFDA有害事象報告システムに報告されている。うち一名は死亡、23名は入院した。外来薬局で処方を受ける患者は米国だけで年85万人(2015年)いるので、頻度は稀。

発生メカニズムは不詳。薬物代謝能の遺伝子的欠陥や、免疫学的要素が複合的に関与している可能性があり、免疫応答はヘルペスウイルスやエプスタインバーウイルスの再活性化が関与している可能性がある由だ。

服用中にラッシュやリンパ節腫脹、顔面腫脹が発生したら直ぐに医療従事者に相談すべき。

リンク: FDAのリリース




今週は以上です。

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2016年5月8日

2016年5月8日号


【ニュース・ヘッドライン】

  • リジェネロン、抗NGF抗体の後期第二相・第三相結果を発表 
  • サン、抗IL-23抗体の第三相プラク乾癬試験が成功 
  • バイエル、スチバーガの肝癌適応拡大試験成功 
  • solithromycinが米国で承認申請 
  • Clovis、rociletinibの開発を断念 
  • ハラヴェン、EUで脂肪肉腫に承認 
  • FDAがエビリファイの安全性通知 


【新薬開発】


リジェネロン、抗NGF抗体の後期第二相・第三相結果を発表
(2016年5月2日発表)

リジェネロン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:REGN)は、抗NGF完全ヒト化抗体REGN475(fasinumab)の後期第二相・第三相難治性変形性関節炎試験の結果を発表した。薬効は4種類の試験用量すべてでp値が偽薬比0.05を下回った。一方で、忍容性は、今回もまた骨疾患の懸念が消えなかった。

NGFはジェネンテックが発見。ALS(筋萎縮性側索硬化症)治療試験で疼痛感受性が高まる副作用が見られたため、NGFをブロックするヒト化抗体を創製し鎮痛剤としての用途を探索した。中枢神経系事業は01年にスピンアウトされたが06年にファイザーが買収、tanezumabの変形性関節炎試験を推進した。

その後の歩みは紆余曲折した。後期第二相試験で疼痛緩和作用が確認されたが、RPOA(急進行性変形性関節炎)、無血管性骨壊死、関節置換術施行などの増加がみられたため、2010年にFDAが他社の開発品も含めてクリニカル・ホールド(治験許可停止)を命じた。その後、諮問委員会が治験再開を支持したが、前臨床で末梢神経系副作用が見られたため癌患者向け以外は再びホールドに。追加前臨床試験を経て、15年になってやっと、4ヶ月未満の連続投与試験が許可されたところだ。

ファイザーは治験再開を前にイーライリリーと開発提携することでリスクシェアを行った。ジョンソン・エンド・ジョンソンはアムジェンからインライセンスしたfulranumabの第三相試験を今年3月に中止、権利を返還した。安全性懸念が理由ではないとのことだが、このようなケースで安全性を理由にすることはあまりない。

さて、リジェネロンの試験は既存の鎮痛剤に十分に反応しない股関節・膝関節炎の患者約400人を対象に、1mgから9mgまでの4種類の用量を偽薬と比較した。4週間に一回のペースで3回皮注し、第16週にWOMACを用いて痛みを評価した。結果は、4群とも偽薬より大きく改善した。用量相関しているようには見えないので、もっと減らす余地がないのか、気になるところだ。

この試験では、当然のことながら、神経筋骨格系の有害事象が重点観察事項とされた。結果は、4群合計で発生率17%と偽薬群の6%を上回った。数は少ないがRPOA、軟骨下脆弱性骨折、骨壊死も増加した。

米国は麻酔麻薬系鎮痛剤が多く用いられている。遊びでオキシコドンを使って死亡する若者が多いため社会問題になっているが、医療目的と推測される事例でも、マイケル・ジャクソンに続いてプリンスの早逝も鎮痛剤に疑いが向けられているようだ。日本でも、日系企業のアメリカ人重役が不法にオキシコドンを入手して問題になったことがある。色々な制約やリスクがあっても使わざるを得ない人がいるのだから、代替的な選択肢が必要だ。

とは言え、関節痛治療薬の副作用が関節の悪化では適わない。発生頻度やリスク因子、発見・予防・治療法方法などを十分に探索する必要がありそうだ。

fasinumabは、日本では田辺三菱製薬が昨年10月に権利を取得した。

リンク: リジェネロンのプレスリリース(pdfファイル)

サン、抗IL-23抗体の第三相プラク乾癬試験が成功
(2016年5月4日発表)

インドのサン・ファーマは、tildrakizumabの第三相中重度プラク乾癬治療試験が成功したと発表した。100mgと200mgをテストしたが、後者の効果はetanercept(アムジェン/ファイザーのEnbrel)を投与した群を上回ったとのことだ。サンは承認申請に向かう予定。

IL-23のp19サブユニットに結合する抗体医薬で、14年9月にMSDからライセンスしたもの。抗IL-23抗体はベーリンガー・インゲルハイムやジョンソン・エンド・ジョンソン、アッヴィなども後期開発品を持っており、競争が激化している。

リンク: サンのプレスリリース(pdfファイル)

バイエル、スチバーガの肝癌適応拡大試験成功
(2016年5月4日発表)

バイエルは、VEGFR阻害剤Stivarga(regorafenib、和名スチバーガ)の第三相肝細胞腫試験の成功を発表した。数値は未発表。適応拡大申請に向かう予定。

バイエルのVEGFR阻害剤と言えばNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)が第一号。Stivargaは類縁体で、今はアムジェンの子会社となったオニクスと90年代に行った共同研究の成果だ。VEGFR阻害剤は社外競合も多いので予定適応症の選択に工夫が必要だが、肝細胞種はNexavarだけであるせいか、Nexavarによる前治療歴を持つ患者を対象に、最適支持療法だけの群と全生存期間を比較する試験を行った。用量用法は、既承認の結腸直腸癌やGIST(消化管間質腫瘍)と同じ。

リンク: バイエルのプレスリリース

【承認申請】


イーライリリー、抗PDGF受容体アルファ抗体を承認申請
(2016年5月4日発表)

イーライリリーは、第1四半期(1~3月)にLY3012207(olaratumab)を末期軟部組織肉腫用薬として欧米で承認申請し、どちらも優先審査されることを公表した。08年に65億ドルで買収したイムクローン社の開発品で、PDGF受容体アルファを標的とする完全ヒト化抗体。

薬効のエビデンスは第二相試験で、治癒目的の放射線療法・摘出術が望めない進行性患者にdoxorubicinと併用したところ、PFS(無進行生存期間)がメジアン6.6ヶ月とdoxorubicinだけの群の4.1ヶ月を上回った。階層化ハザードレシオ0.672、p値は0.0615なのであまり良くないように見えるが、100例程度の試験なのでやむを得ないのかもしれない。メジアン生存期間は未成熟だが中間解析で25.0ヶ月対14.7ヶ月と良さそうな数字が出ている。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

solithromycinが米国で承認申請
(2016年5月1日発表)

Cempra(Nasdaq:CEMP)は、CEM-101(solithromycin)のローリング承認申請が完了したと発表した。地域感染細菌性肺炎の治療に用いる。欧州でも6月までに承認申請される見込み。

fluoroketolide系の第一号で、リボソームの三つの部位に作用できるためマクロライド耐性菌にも活性を持つ模様。経口剤と静注用製剤の二種類用意されている。経口剤の試験では72時間後と治療終了の5~10日後の奏効率が何れもmoxifloxacin群と非劣性だった。静注試験でも72時間奏効率がmoxifloxacin比非劣性。有害事象は、マクロライド派生なので注射箇所の疼痛が増加。深刻有害事象発生率は6.9%でmoxifloxacinの5.4%より若干多かった。

solithromycinはOptimer Pharmaceuticalsからライセンスしたもの。Optimerは13年にCubistに買収され、Cubistは14年にMSDに買収された。日本の権利は13年に富山化学が取得。

リンク: Cempraのプレスリリース

【承認審査・委員会】


Clovis、rociletinibの開発を断念
(2016年5月5日発表)

Clovis Oncology(Nasdaq:CLVS)はEGFR阻害剤CO-1686(rociletinib)をEGFR活性化変異とEGFR阻害剤による前治療歴、そしてT790M変異を持つ非小細胞性肺癌の薬として欧米で承認申請中だが、開発中止を発表した。

学会で良さそうな第二相試験結果が発表され注目されていたが、その後の分析では反応率が低下、眉唾度が高まっていた。4月の諮問委員会ではFDAが様々な欠陥・疑問点を指摘、13人の諮問委員のうち12人が加速承認に反対し、第三相試験の結果を待つべしと判定した。FDAから6月28日の審査期限より前に審査完了通知を出す旨の連絡があった模様。EUでも加速審査中だが、申請撤回する予定。

薬に自信があれば既に組み入れを開始した第三相試験を中止するはずがない。結局、Clovisの承認申請は初めからダメ元だったのだろう。今後は、ローリング承認申請に着手したばかりのPARP阻害剤、CO-338(rucaparib)に経営資源を集中する由だが、素直に聞ける人は少ないだろう。

リンク: Clovisのプレスリリース

【承認】


ハラヴェン、EUで脂肪肉腫に承認
(2016年5月6日発表)

エーザイはEUがHalaven(eribulin mesylate、和名ハラヴェン)の適応拡大を承認したと発表した。アントラサイクリン系抗癌剤を含む化学療法前治療歴を持つ手術不能/転移性進行性脂肪肉腫に用いる。三次治療試験ではメジアン生存期間が13.5ヶ月とdacarbazine群の11.5ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.76、統計的に有意な差があった。米国では今年1月、日本は2月に承認。

リンク: エーザイのプレスリリース(pdfファイル)

【医薬品の安全性】


FDAがエビリファイの安全性通知
(2016年5月3日発表)

FDAは、BMSが大塚薬品と共同開発した非定型向精神薬、Abilify(aripiprazole、和名エビリファイ)の副作用として強迫衝動障害を追加した。パーキンソン病に用いるドパミン作用剤と同様に、病的賭博行為が稀に見られることは前から分かっていたが、有害事象報告を分析した結果、大食や買い物依存、性衝動など様々な衝動制御障害が発生していることが判明した。

02年の発売以降の13年間余に、184例が報告された(米国が167例と殆どを占める)。病的賭博が164例と最も多く、性行動が9例、ショッピング4例、大食3例、複数症状が4例あった。何れも、衝動制御障害の病歴はなく、Abilify服用後に発症、服用中止・減量で軽快した。Abilifyは米国だけで年160万人が処方を受けているので、発生頻度は低い。

FDAは、高リスク患者を密接にモニターするよう推奨している。リスク因子は、強迫衝動障害の病歴または家族歴、衝動制御障害、双極障害、強迫性性格、アルコール依存、薬物乱用、その他の依存性障害。症状が見られたら減量・中止を検討する。

リンク: FDAのリリース




今週は以上です。

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2016年5月1日

2016年5月1日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • CHMPが新薬6品を支持 
  • DMD用薬の諮問委員会は意見が分かれた 
  • パーキンソン性精神症状の治療薬が承認 
  • アストラゼネカ、COPD薬が承認 
  • VEGFR阻害剤が甲状腺癌に適応拡大 


【承認審査・委員会】


CHMPが新薬6品を支持
(2016年4月29日発表)

EUの薬品審査機関EMAの医薬品専門家委員会、CHMPは、4月の会合で、6種類の新薬について肯定的意見をまとめた。

リンク: EMAのプレスリリース

肯定的意見を獲得した薬は順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになるが、例外もある。まず、深刻な副作用や承認申請内容の欠陥、あるいは承認取得手続き上の問題が発覚した場合、承認が遅れたり見送られたりすることがある。また、どうしても承認したくない国が離脱することもある。逆に、EU以外の国が参加して歩調を合わせて承認することもある。

波及効果もある。承認審査機関を持たない多くの国は、EUや米国、日本、スイスなどの何れかで承認されている薬なら、あとは当該国固有の条件を満たすことで販売認可を取得できるのだ。EUにはこのシステムを一歩進めた58条申請という制度がある。WHOと連携してCHMPが低所得国の代わりに、EUでは使わないことを前提に、審査する。

前置きが長くなったが、今回58条申請に基づく肯定的意見を得たのがグラクソ・スミスクラインの新生児臍帯感染症予防薬、Umbipro(chlorhexidine digluconate)だ。WHOが2012年に認定した、普及させることによって最貧国の母親・新生児600万人以上の命を救うことができる13のコモディティー化した薬の一つで、ネパールやパキスタン、バングラディッシュのコミュニティ/プライマリーケア施設で実施された臨床試験では新生児の死亡を20~38%削減することができた。

この試験で用いられたのはマウスウォッシュ製剤だが、熱や湿度に強いゲル製剤として開発されたのが今回のUmbiproだ。CHMPの支持を受けたため、GSKはこの薬を必要とする国での承認申請に進む予定。同社はnot-for-profit priceで提供する。

リンク: GSKのプレスリリース

アストラゼネカのZaviceftaは第3世代セフェム系抗生薬ceftazidimeと新開発のベータラクタマーゼ阻害剤avibactamの合剤。複雑性腹腔内感染症、複雑性尿路感染症、院内感染肺炎、そして、適切な薬が限られている場合に限り、好気性グラム陰性菌感染症の治療に用いる。多剤耐性緑膿菌やカルバペネム抵抗性グラム陰性菌にも活性を持つ。

avibactamはアベンティスからスピンアウトした会社の開発品で、アストラゼネカが09年に企業ごと買収した。米国では、ライセンシーであるアラガンがAvycaz名で昨年2月に承認を取得している。

リンク: EMAのプレスリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

Zinbryta(daclizumab)はバイオジェンとアッヴィ(NYSE:ABBV)が共同開発した抗CD25ヒト化抗体で、再発型多発硬化症の維持療法として月一回、皮注する。Avonex(インターフェロン・ベータ1a)対照試験で年率再発率が45%低かった。有害事象発生率は同程度で、Zinbryta群で多かったのは深刻感染症、深刻皮膚反応、肝機能検査値異常上昇、胃腸障害、うつ病。

daclizumabはPDLの開発品で、ロシュがライセンスして臓器移植に伴う拒絶反応予防薬Zenapaxとして開発・承認取得したが、普及せず、適応拡大を断念。PDLが皮注用新製剤を開発し新たにバイオジェンと提携して開発を進めた。PDLは後に新薬開発部門とヒト化抗体に係るIPの管理部門に事業分割され、前者を2010年にアッヴィが買収、という経緯。

バイオジェンも買収をオファーしたが成就しなかった。今日では、新興企業が大手とアウトライセンス契約を結ぶ時は敵対的買収禁止条項を設けることも珍しくなくなった。少しでも多くの会社と交渉したほうが高い値段で売れるからだ。

リンク: 両社のプレスリリース

ポルトガルのBial-Portela社のOngentys(opicapone)は、パーキンソン病治療に用いる末梢性選択的可逆的COMT阻害剤。レボドパなど二種類の薬を併用しても運動症状を十分に管理できない患者に用いる。主な有害事象はジスキネシア、便秘、不眠、ドライマウス、眩暈。

Aptalis(アラガンの子会社)のEnzepi(pancrelipase)はブタ由来の膵酵素。嚢胞性線維症などによる膵外分泌機能不全の治療に用いる。

リンク: アラガンのプレスリリース

ドイツのITG Isotope Technologies Garching社のEndolucinBeta(lutetium 177Lu chloride)は癌の治療に用いる放射性核種。キャリアと結合させて投与すると、ルテチウム177同位体がベータ線とガンマ線を放出する。

リンク: EMAのプレスリリース

ギリアド(Nasdaq:GILD)のOdefseyは、rilpivirine、emtricitabine、tenofovir alafenamide fumarateの三種類の逆転写阻害剤を配合。12歳以上かつ体重35kg以上のHIV感染者で非核酸系逆転写阻害剤やemtricitabine、tenofovir alafenamide fumarateに抵抗性を持たず、ウイルス量が10万コピー/mL以下の患者に用いる。rilpivirineの権利を持つジョンソン・エンド・ジョンソンと共同開発。

リンク: ギリアドのプレスリリース

以下のように、適応拡大も数多く肯定的意見を獲得した。

ロシュのGazyva(obinutuzumab)をbendamustine併用でrituximab難治性濾胞性リンパ腫に用いること。

ジョンソン・エンド・ジョンソン/ファーマサイクリクスのImbruvica(ibrutinib)を慢性リンパ性白血病の一次治療に使用。

ノバルティスのAfinitor(everolimus)を胃腸または肺を原発部位とする切除不能/転移性進行性分化神経内分泌腫瘍の治療に。

ロシュのAvastin(bevacizumab)を末期/抵抗性/難治性非扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療にerlotinibと併用。

Apotex社のFerriprox(deferiprone)をサラセミアメジャー(重度の溶血性貧血症)の治療に他のキレーターと併用。

DMD用薬の諮問委員会は意見が分かれた
(2016年4月25日発表)

FDAの末梢中枢神経系諮問委員会はSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)がデュシェンヌ型筋ジストロフィー用薬として承認申請したAVI-4658(eteplirsen)を検討したが、意見は分かれた。

薬効のエビデンスとしては代理マーカーであるジストロフィン量の変化を調べた試験と、6分歩行テストの変化を調べた小規模な試験のデータが提示されたが、FDAの分析・評価によると、前者は統計的に有意な差があったが小さいため臨床的な意義があいまい。後者は偽薬比有意ではなく、過去の観察的研究の自然病歴データと比べると良好だが、患者背景が異なる可能性がある。

FDAは、Sarepta社が医師や患者に十分な情報を提供せず、ミスリードしている可能性すら疑っているようだ。

票決は、ジストロフィン試験に基づく加速承認に賛成した委員は6名、反対は7名で票が分かれた。ヒストリカルコントロールに基づく承認に賛成は3名、反対7名、棄権3名で、否定的な意見が上回った。

FDA諮問委員会は委員以外の人が意見を述べる機会も用意されているが、eteplirsenは50人を超える患者や家族が治療薬の必要性を訴えたようだ。本人が望んだとしても効果のない薬が普及すると新薬開発の妨げになってしまう。そもそも、米国はプロフェッショナリズムの国なので、患者ではなく俳優が混じっている可能性も否定できない。色々と難しいところがあるため、常連の委員は彼らの主張を客観的に聞く。

一方、その委員会だけに招致された統計学者のような、普段は医療に係っていない委員は、動揺しやすい。今回も棄権した3人は患者に配慮して否と言えなかったようだ。数字以上に否定的な結果だったのである。

FDAは承認に否定的、諮問委員会も強く推奨しなかったのだから、承認される可能性は低そうだ。審査期限は5月26日。

リンク: Sareptaのプレスリリース

【承認】


パーキンソン性精神症状の治療薬が承認
(2016年4月29日発表)

FDAはACADIA Pharmaceuticals(Nasdaq:ACAD)のNuplazid(pimavanserin tartrate)をパーキンソン病患者の幻覚妄想症状の治療薬として承認した。6月に上市される予定。

パーキンソン病の患者の5割程度は病歴のどこかの段階で幻覚や妄想のような精神症状を発症するとのことだ。pimavanserinは5-HT2Aインバースアゴニストで、ドーパミン受容体をブロックしないのでパーキンソン病自体の治療を妨げない。

有害事象は末梢浮腫、悪心、混乱。他の非定型向精神薬と同様に、高齢者認知症の精神症状の治療に用いると死亡リスクが高まることが枠付き警告された。

リンク: FDAのリリース
リンク: ACADIAのプレスリリース

アストラゼネカ、COPD薬が承認
(2016年4月25日発表)

アストラゼネカは、BevespiがCOPD維持療法薬としてFDAに承認されたと発表した。長期作用性ベータ2作用剤formoterol fumarateと長期作用性ムスカリン拮抗剤glycopyrrolateの合剤で、一日二回、吸入する。類薬は既に存在するが、pMDI(加圧噴霧式定量吸入器)製品は初。アストラゼネカは13年にPearl Therapeuticsを買収して入手した。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

VEGFR阻害剤が甲状腺癌に適応拡大
(2016年4月25日発表)

エギゼリキシス(Nasdaq:EXEL)は、VEGFR阻害剤のCometriq(cabozantinib)を腎細胞腫二次治療に用いる適応拡大がFDAに承認されたと発表した。審査期限は6月なので2ヶ月強の前倒し。

臨床試験では、他のVEGFR阻害剤による一次治療を既に受けた患者に経口投与したところ、メジアンPFS(無進行生存期間)が7.4ヶ月とAfinitor(everolimus)群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.58となった。

腎細胞腫はVEGFR阻害剤の典型的な用途で既に数多くの製品が承認されており、ポテンシャルは小さそうだ。

リンク: エギゼリキシスのプレスリリース




今週は以上です。

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