2015年12月27日

2015年12月27日号



【ニュース・ヘッドライン】


  • エグゼリキシス、腎細胞腫用薬を承認申請 
  • サノフィ、リキスミアとランタスのプリミックスを承認申請 
  • アストラゼネカ、痛風薬が米国で承認 
  • アクテリオン、肺動脈高血圧症治療薬が承認 


*** 新年は1月10日スタートの予定です。今年は読んで頂きありがとうございました。来年も宜しくお願いします。 ***


【承認申請】


エグゼリキシス、腎細胞腫用薬を承認申請
(2015年12月23日発表)

エグゼリキシス(Nasdaq:EXEL)はCometriq(cabozantinib)の米国における適応拡大申請を完了したと発表した。末期腎細胞腫の二次治療に用いるもので、臨床試験ではPFS(無進行生存期間)がメジアン7.4ヶ月とノバルティスのAfinitor(everolimus)を投与した群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.58、統計的に有意だった。全生存のハザードレシオは0.67、p=0.005だったが中間解析(閾値は0.0019)なので未だ有意差は出ていない。

CometriqはVEGFR2やmet、ret、kitなどを阻害する小分子薬で、末期・転移性切除不能甲状腺髄用癌用薬として米国で12年、EUでも14年に承認された。対象患者は少ないが、VEGFR阻害剤は既に様々な薬が様々な用途に承認されているので、Cometriqも適応拡大の余地が大きい。前立腺癌の第三相はフェールしたが、今回の腎細胞腫はVEGFR阻害剤の典型的な用途なので成功しても驚きはない。

リンク: エグゼリキシスのプレスリリース

サノフィ、リキスミアとランタスのプリミックスを承認申請
(2015年12月23日発表)

サノフィはGLP-1作用剤Lyxumia(lixisenatide、和名リキスミア)と管理放出性インスリンLantus(insulin glargine、和名ランタス)の合剤を米国で承認申請した。

LyxumiaはデンマークのZealand Pharmaからライセンスした一日一回皮注型製品。Lantusは一日一回皮注型インスリンのベストセラーで、特許切れを前に高濃度製剤が商品化されたが今回のプリミックスはLantusと同じ100単位/mL。

同様な合剤では、ノボ ノルディスクがXultophy(liraglutide、insulin degludec)を欧州で今年発売、米国でも9月に承認申請した。3ヶ月ビハインドだが、サノフィはRetrophinから2.45億ドルで買収した優先審査バウチャーを利用する考え。

サノフィはリジェネロンと共同開発した抗PCSK9抗体のPraluent(alirocumab)を承認申請した時もバイオマリン社から0.67億ドルで買収した優先審査バウチャーを使用、承認申請はアムジェンのRepatha(evolocumab)のほうが早かったが承認は先んじた。

余談になるが、RetrophinやTuring Pharmaceuticalsの創立者でCEOだったMartin ShkreliがFBIに証券詐欺の疑いで逮捕された。ヘッジファンド・マネージャー出身の変わり種で、Retrophinでは新薬の販売ではなく優先審査バウチャーを取得・転売することで大きな利益を上げ、Turingでは特許が失効した後も一社しか販売していない薬の権利を取得し価格を56倍に引き上げることで荒稼ぎをするなど、色々な点で注目されていた人物だ。

嫌疑内容は値上げ事件とは無関係のようだが、危ない橋を何度も渡りすぎたのだろう。

リンク: サノフィのプレスリリース

【承認】


アストラゼネカ、痛風薬が米国で承認
(2015年12月22日発表)

FDAはアストラゼネカのZurampic(lesinurad)を高尿酸血症の治療薬として承認した。選択的URAT1阻害剤で、腎臓近位管トランスポータであるURAT1を阻害して尿酸の排泄を促進する。allopurinolやfebuxostatのようなキサンチン酸化酵素阻害剤だけでは尿酸値を十分に管理できない患者に追加投与する。

第三相試験では200mgと400mgの二用量を検討したが、後者の群では心血管疾患や急性腎不全が増加した。モノセラピー試験でもリスクが見られた。このため、200mgのアドオン用途しか承認されず、急性腎不全のリスクが枠付き警告された。

12年に12.6億ドルで買収したArdea Biosciencesの開発品。

リンク: FDAのリリース
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アクテリオン、肺動脈高血圧症治療薬が承認
(2015年12月22日発表)

FDAはスイスのアクテリオン社のUptravi(selexipag)を肺動脈高血圧症の治療薬として承認した。08年に日本新薬からライセンスしたプロスタサイクリン受容体作動剤。この作用機序は肺動脈高血圧症治療薬では一般的だが、経口剤(一日二回服用)であることが特徴。臨床試験では増悪による入院や疾病進行のリスクを抑制することができた。2016年発売予定。

リンク: FDAのリリース
リンク: アクテリオンのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年12月20日

2015年12月20日号

 

【ニュース・ヘッドライン】


  • Xa阻害剤の拮抗剤が承認申請 
  • FDA諮問委員会、エゼチミブの心血管リスク削減効果を認めず 
  • CHMP、アストラゼネカなどの新薬の承認を支持 
  • ブリディオン、遂に米国で承認 
  • Keytruda、末期黒色腫一次治療に承認 
  • ガーダシル9、対象年齢が拡大 
  • アムジェン、EUでウイルス療法が承認 
  • CHMPがジレニアの副作用リスクをアップデート 


【承認申請】


Xa阻害剤の拮抗剤が承認申請
(2015年12月18日発表)

サウス・サンフランシスコの新興製薬会社であるPortola Pharmaceuticals(Nasdaq:PTLA)は、PRT4445(andexanet alfa)を米国で承認申請したと発表した。遺伝子組換え型血液凝固第Xa因子で、Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)などのXa阻害剤を服用している患者が出血事故に会ったり緊急手術を受ける時に抗凝固作用をオフセットする目的で用いる。

PortolaはCor Therapeuticsで抗血小板薬Integrilin(eptifibatide)を開発したメンバーが02年にミレニアム・ファーマシューティカルズに企業買収された時に創設した会社。自社でも経口Xa阻害剤PRT054021(betrixaban)やP2Y12阻害剤PRT060128(elinogrel)を開発しているが、何れも類薬が存在するので、andexanet alfaが最大の出世作になりそうだ。

リンク: Portolaのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、エゼチミブの心血管リスク削減効果を認めず
(2015年12月14日発表)

FDAは内分泌代謝学薬諮問委員会を招集し、MSDのコレステロール治療薬、Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)やVytorin(simvastatinとezetimibeの合剤)の心血管リスク削減効果について検討した。IMPROVE-ITという長期大規模試験のエビデンスが存在するにも係わらず、効能追加に反対する委員が10名と賛成の5名を上回った。そこまで酷評しなくても、という意外な結果だが、何れにせよ小さな効果しかないので、大勢には影響ないかもしれない。

IMPROVE-IT試験は、急性冠症候群を発症して10日以内の患者を組入れて、同社のsimvastatinとVytorinの心血管疾患予防効果を比較した二重盲検試験。ezetimibeはLDL-C値を穏やかに引き下げる効果を持つが、心血管疾患を防ぐ効果は未だ確認されていない。各群の平均LDL-C値はベースライン時点の100mg/dLが1年後に69.9mg/dLと53.2mg/dLに低下しており、70mg/dLより更に引き下げる超強化治療に関する初のエビデンスという意義もある。

当初の解析計画では1万人を2年間追跡してリスクを9.375%削減する効果を検出する予定だったが、途中で目標症例数と追跡期間が拡大され、結局、1.8万人をメジアン6年間追跡した。このため、開票が3~4年遅れることになった。ezetimibeと言えばENHANCE試験の結果が中々公表されずデータ隠しの疑いが浮上したり、SHARP試験で癌の疑いが生じたりしたため、色々な意味で注目されていた。

結果は昨年のAHA米国心臓協会科学会議で発表された。ハザードレシオ0.936、95%信頼区間は0.89~0.99、p=0.016で高度ではないが有意な再発予防効果が示された。各群の発生率は7年時点のカプラン・マイヤー推定で34.7%と32.7%だった。非致死的心筋梗塞と非致死的虚血性脳卒中が有意に減少した一方で、死亡リスク削減効果は見られなかった。癌の発生率は各群10%で大差なかった。

諮問委員会に際して、FDAはエビデンスの頑強性に係わる弱点を三点、指摘した。第一は、6%というリスク削減率が臨床的に十分な意義を持つかどうか。通常は20%以上、欲しい所である。そもそも、95%上限は0.99なので、真の上乗せ効果は殆ど無い可能性が残っている。他に適当な選択肢がないのなら止むを得ないが、atorvastatinの80mgとかrosuvastatinの40mgが使えるかもしれない。

第二は、サブグループ分析。75歳以上(全症例の15%を占めた)には効果があったがそれ以外は有意差がなかった。また、糖尿病(27%)には効果があったがそれ以外には無かった。この二つは交互作用p値が0.05を下回っており、軽視できない。

第三は、フォローアップ率が不十分な可能性があること。全症例の11%が追跡不能となり打切り例として扱われた。7年時点の主評価項目発生率の差は2%に過ぎず、もし打ち切り例に大きな群間差が発生していたとしたら、結論がひっくり返ってしまうかもしれない。

上記の脆弱性の根源は、効果が小さいことだ。コレステロール治療薬の心血管疾患予防効果はLDL-C低下と相関するので、ezetimibeの効果が小さいであろうことは予見できた。そこで、アウトカム試験の検出力を決めるイベント発生数を増やすために組入れ数と観察期間を大きく取ったのだが、この方法にはリスクがある。

上記の第一番と第二番は、感度が高まりすぎた結果、仮説に置いた小さな効果より更に小さくても有意差が出てしまったり、ノイズを拾ってしまうリスクが顕在化したもの。第三番は、0.1mmの精度しかない機器であることを忘れて0.001mmの差を議論するのに似ている。

IMPROVE-IT試験は、小さな差を検出するために大規模な試験を行なう時の注意点を教えてくれた。

リンク: MSDのプレスリリース

CHMP、アストラゼネカなどの新薬の承認を支持
(2015年12月18日発表)

EUの薬品承認機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、12月の会議でアストラゼネカの抗癌剤などの承認に肯定的意見をまとめた。順調なら2~3ヶ月のうちにEU全域で承認されることになるだろう。

2015年一年間に肯定的意見を出した新薬は、ジェネリック品を含めて、93製品となった。

リンク: CHMPのプレスリリース

アストラゼネカのTagrisso(osimertinib)は、非小細胞性肺癌のうち、Tarceva(erlotinib)などのEGFR阻害剤による治療を既に受けた、EGFRにT790M変異を持つ患者に用いる。第二相試験の反応率データに基づく条件付き承認で、今後の試験で延命効果を確認する必要がある。

T790M変異は第一世代のEGFR阻害剤に反応しなくなった患者でしばしば見られる抵抗性変異。TagrissoはEGFR阻害剤だがこのタイプにも有効で、第二相単群試験二本の合計で反応率が66%だった。主な有害事象は下痢や皮膚毒性、深刻なものは肺の炎症が心臓障害、胎児毒性など。

米国では今年11月に承認。日本でも今年8月に承認申請された。

リンク: CHMPのプレスリリース
リンク:
リンク: アストラゼネカのプレスリリース

アストラゼネカのZurampic(lesinurad)は高尿酸血症の治療薬。キサンチン酸化酵素阻害剤だけでは十分に管理できない患者に追加投与する。URAT1阻害剤で、腎臓近位管のトランスポータを阻害して尿酸の再吸収を妨げる。第三相試験で、承認申請された用量の倍を投与した群では腎臓や心血管有害事象が増加した。

米国でも承認審査中。諮問委員会は安全性に疑義を持つ委員が7名、問題ないとする委員が6名、棄権1名と意見が分かれたが、承認については賛成10人、反対4人と賛成が上回った。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

イーライリリーのPortrazza(necitumumab)はEGFRを標的とする完全ヒト化抗体で、局所進行性・転移性でEGFR陽性の扁平上皮非小細胞性肺癌の一次治療に三剤併用する。第三相試験では、gemcitabineとcisplatinの二剤を投与した群のメジアン生存期間が9.9ヶ月であったのに対して、Portrazzaと三剤併用した群は11.5ヶ月と1ヶ月超の延命効果があった。

抗EGFRキメラ抗体のErbitux(cetuximab)を開発したイムクローン社がDyax社のファージディスプレイ技術を用いて創製したもの。イーライリリーは08年にイムクローンを65億ドルで買収した。

バイエルのKovaltry/Iblias(octocog alfa)は遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子。A型血友病の出血治療や予防に用いる。培養生産過程でヒトや動物由来のタンパクを使用していないこと、第VIII因子の全長を用いていることが特徴。

リンク: バイエルのプレスリリース

適応拡大・効能追加では、アストラゼネカの抗血小板薬Brilique(ticagrelor)の長期投与が支持された。現在は急性冠症候群の患者にアスピリン併用で90mgを一日二回投与することが承認されているが、一年経過後も高リスク患者については60mgを一日二回、継続投与する。PEGASUS TIMI-54試験では、3年間の心筋梗塞・脳卒中・心血管死発生率が7.77%と偽薬群の9.04%より低かった。

リンク: アストラゼネカのプレスリリース

イーライリリーのCyramza(ramucirumab、和名サイラムザ)を非小細胞性肺癌や結腸直腸癌の二次治療に用いることも支持された。前者はdocetaxelと併用。後者はFOLFIRI(irinotecan、5-FU、folinic acidの併用レジメン)と併用する。現在は胃癌の二次治療に承認されている。

VEGFR-2を標的とする完全ヒト化抗体で、上記のPortrazzaと同様に、イムクローンがファージディスプレイ技術で創製したもの。

さて、最近の話題はヘッジファンド出身の新興製薬会社社長の逮捕と、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXa阻害剤の試験に纏わる懸念である。CHMPが言及したので記しておこう。

Xarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)はROCKET-AF試験で心房細動患者の脳卒中を予防する効果がワーファリンと非劣性であることが確認され、欧米は11年に、日本でも12年に、この用途で承認された。ところが、この試験でワーファリン群の用量調整に用いられたPT-INR検査に欠陥が判明、米国でリコールされる事態になったのである。

ワーファリンはセラプティック・ウインドウが狭く、効きすぎると出血リスクが高まり、効かなさすぎると脳梗塞予防効果が低下する。同じ量を服用していても効果が変動するため、定期的に検査を行って用量を調整する必要がある。この検査が不適切であったならば、ワーファリンの効果がフルに発揮されなかった可能性があり、それと非劣性ならば、Xareltoの効果がワーファリンと非劣性ということは出来ないことになる。

この試験を主導したDuke Clinical Research Instituteがバイエルなどと連携して検証している模様。CHMPは16年の第1四半期に結論を出す考え。

リンク: バイエルのプレスリリース(ドイツ誌の報道に対するもの、12/9付け)

【承認】


ブリディオン、遂に米国で承認
(2015年12月17日発表)

MSDはBridion(sugammadex、和名ブリディオン)がFDAに承認されたと発表した。rocuroniumやneostigmineなどの筋弛緩剤に結合、患者が全身麻酔から覚めるのを早める。07年に日米欧で承認申請、EUは08年、日本は10年に承認されたが、米国は過敏反応の懸念や治験実施施設の立入り調査などで遅延、専ら日本で使われていた。

リンク: MSDのプレスリリース

Keytruda、末期黒色腫一次治療に承認
(2015年12月18日発表)

MSDは、抗PD-1抗体Keytruda(pembrolizumab)を悪性黒色腫の一次治療に用いることがFDAに承認されたと発表した。braf阻害剤が適応になるbraf-V600変異型にも承認された点でライバルのOpdivo(nivolumab)を半歩リードしたが、向こうも早晩、承認されるだろう。

BMSのYervoy(ipilimumab)と直接比較した第三相試験では、10mg/kgを二週間に一回投与した群の全生存ハザードレシオ(対Yervoy)が0.63、三週間に一回投与した群は0.69だった。尚、この試験で採用された用法は承認されず、2mg/kgを三週間に一回投与と従来と同じになった。抗PD-1抗体は用量反応相関があまり見られず、一方、免疫刺激による副作用は用量相関するため、OpdivoもKeytrudaも第三相試験の用法が至適でないことがある。

リンク: MSDのプレスリリース

ガーダシル9、対象年齢が拡大
(2015年12月15日発表)

MSDは、子宮頸がん予防ワクチンのGardasil 9の対象年齢拡大申請がFDAに承認されたと発表した。これまでは9~26歳の女性と9~15歳の男性に承認されていたが、新たに16~26歳の男性も適応となった。

子宮頸がんなどの原因であるヒトパピローマウイルスは性的感染するので、感染を根絶するには女性だけでなく男性も接種するのが理想的だ。米国ではワクチン委員会のACIPが、11~12歳の男女と、未接種なら20代の男女にも、接種を推奨している。

リンク: MSDのプレスリリース

アムジェン、EUでウイルス療法が承認
(2015年12月17日発表)

アムジェンは、Imlygic(talimogene laherparepvec)がEUで承認されたと発表した。ステージIIIB、IIIC、IVM1aの悪性黒色腫で内臓などに転移していない患者に用いる。

GM-CSFを組入れた遺伝子組換え型単純ヘルペスウイルスで、腫瘍細胞内で増殖するよう改変してある。腫瘍細胞に直接注射するとウイルスが増殖して腫瘍を破壊。暴露したウイルスとGM-CSFが刺激になって腫瘍抗原に対する免疫を誘導、他の腫瘍細胞を攻撃させる。第三相試験では、持続的反応率25%、総合反応率40%だった。延命効果は確認されていない。

リンク: アムジェンのプレスリリース

【医薬品の安全性】


CHMPがジレニアの副作用リスクをアップデート
(2015年12月18日発表)

CHMPはノバルティス/田辺三菱製薬のGilenya(fingolimod、和名ジレニア又はイムセラ)の副作用についてアップデートした。まず、進行性多病巣性白質脳症(PML)のリスク。同じ多発性硬化症の治療薬であるバイオジェンのTysabri(natalizumab)で有名になった免疫抑制剤の副作用で、Gilenya服用者のPML症例のうちTysabri経験者の疑い例が17例あるが、未経験者の確認例も3例あった。こうなると、Gilenya自体にリスクがあると考えざるを得ないだろう。

もう一つは基底細胞腫で151例が報告されている。Gilenyaのこれまでの服用状況は21.9万人年とのことなので、一年間服用すると1450人に一人が、10年だと145人に一人が発症する計算になる。癌の中では予後が比較的良い、治療できる癌だが、患者は注意が必要だろう。

リンク: CHMPのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年12月13日

2015年12月13日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • 早期乳癌の手術は早いほうが良い 
  • ASH:イムブルビカのマントル細胞腫試験成功 
  • ASH:ノバルティス、FLT阻害剤の第三相が成功 
  • アッヴィ、bcl阻害剤を承認申請 
  • ノボ、食後インスリンを承認申請 
  • ファイザー、Ibranceを用法追加申請 
  • ファイザー、ザーコリの適応拡大を申請 
  • FDA諮問委員会、テバの抗IL-5抗体を支持 
  • アレセンサ、米国でも承認 
  • アレクシオン、Kanumaが承認 
  • バクスアルタの遺伝子組換え型vWFも承認 
  • サノフィ、デング熱ワクチンがメキシコで初承認 


【今週の話題】



早期乳癌の手術は早いほうが良い
(2015年12月10日発表)

医師にも生活があるし人気の施設ほど込み合うので時には処置が遅れることもある。一例は休診時の急性心筋梗塞だろう。医師を呼び出すのがベストなのだろうが、薬物療法だけで月曜まで待つことも広く行われているようだ。勿論、患者の利益を無視しているわけではない。米国ではキチンと臨床研究を行って、直ぐに手術しても月曜まで待っても予後は大差ないことを確認している。

早期乳癌の切除手術は何ヶ月も順番待ちすることで有名だ。医療施設や医師の数に比べて患者が多いのでやむをえないのだろうが、患者に害はないのか?検証した米国の疫学研究がJAMA Oncology誌に刊行された。

Fox Chase Cancer CenterのBleicherらがSEER-Medicare Data BaseとNational Cancer Data Base(NCDB)を用いて分析したもので、前者は早期乳癌と診断された65歳以上の94544人、後者は18歳以上の新患115790人を対象に、30日以内に手術を受けた患者とそれ以降の患者の死亡リスクを比較した。

SEER-Medicareの分析では、手術が30日遅れる度に死亡リスクが高まった(ハザードレシオ1.09、95%信頼区間1.06~1.13)。診断時にステージIであった患者(ハザードレシオ1.13)も、ステージII(1.06)も、有意に高まった。乳癌関連死は、60日遅れる毎に増加した(ハザードレシオ1.26倍)。NCDBの分析でも、手術が30日遅れる度に死亡リスクが高まった(ハザードレシオ1.10、95%信頼区間1.07~1.13)。

不都合な真実だが、どちらのデータベースでも7割前後の患者は30日以内に手術を受けているので、手術が遅れたせいで早死にした患者は一部だけのはずだ。ハザードレシオは1.1なので遅れても被害はそれほど大きくない。更に、遅れた原因も医療施設の都合だけとは限らない。患者がセカンド・オピニオンを求めたり、仕事で忙しく後回しにしたのかもしれない。

それでも、医療が進むべき方向を指し示した研究であることに間違いは無い。手術待ちの行列を短くするために医療施設や行政に何ができるのか、検討すべきである。

リンク: Bleicherらの研究論文(JAMA Oncology、オープンアクセス)


【新薬開発】



ASH:イムブルビカのマントル細胞腫試験成功
(2015年12月7日発表)

迅速承認制度は有望な新薬を一刻も早く患者に届ける上で大きな貢献をしているが、薬効や安全性のエビデンスを十分に蓄積する前に市販することになるので、市販後も検証し続けることが重要だ。

アッヴィ(NYSE:ABBV)のBtk阻害剤Imbruvica(ibrutinib、和名イムブルビカ)は第二相試験のデータに基づいて米国で13年にマントル細胞腫に、14年には慢性リンパ性白血病にも、承認されたが、並行して第三相試験も実施された。ASH(米国血液学会)で多くの治験データが発表されたが、今回はマントル細胞腫の第三相試験に注目したい。直接比較試験で優れた効果を示した。

このRAY試験は、再発性難治性の患者に560mgを経口投与する群と、ファイザーのmTOR阻害剤であるTorisel(temsirolimus、和名トーリセル)を投与する群のPFS(無進行生存期間)を比較した。結果は、ハザードレシオ0.43、メジアン値は14.6ヶ月対6.2ヶ月と有意に優れていた。完全反応率は各26%と1%。有害事象による治験離脱は7%と26%だった。

承認審査機関に本承認・用法追加申請することになるだろう。慢性リンパ性白血病の第三相も成功し、承認審査中。

Imbruvicaはアッヴィが買収したファーマサイクリクスの開発品。買収前にジョンソン・エンド・ジョンソンが共同開発販売権を取得、米国外では主導権を持っている。

リンク: アッヴィのプレスリリース

ASH:ノバルティス、FLT阻害剤の第三相が成功
(2015年12月6日発表)

ノバルティスはPKC412(midostaurin)の第三相試験の結果をASHで発表した。変異型FLTを持つ急性骨髄性白血病(AML)がFLT阻害剤に応答することは以前から知られていたが、臨床試験は中々成功しなかったので、快挙と言えるだろう。

この試験は、60歳以下の初めて治療を受けるAML患者のうち、FLT3にTKD(チロシンキナーゼドメイン)変異あるいはITD(インターナルタンデムデュプリケーション)変異を持つ患者を組入れて、cytarabineとdaunorubicinを用いる導入・地固め療法と、更にPKC412を用いる療法を比較したもの。

結果は、全生存のハザードレシオが0.77となり死亡リスクが有意に減少した。メジアン生存期間は25ヶ月から74ヶ月に延長、5年生存率は43%から50%に上昇した。治療関連有害事象による死亡は2.5%で二剤だけの群の3.1%と大差なかった。

白血病は6種類に分類されるが、今後、研究が進めば更に細分化され、夫々に適した治療法が登場してくるだろう。FLT3変異はAMLの35%に見られるので、大きな小分類になりうる。ノバルティスは2016年に承認申請する予定。

リンク: ノバルティスのプレスリリース


【承認申請】



アッヴィ、bcl阻害剤を承認申請
(2015年12月6日発表)

アッヴィ(NYSE:ABBV)は、ASHの学会発表に合わせて、ABT-199(venetoclax)を欧米で承認申請したことを明らかにした。ジェネンテック/ロシュと共同開発したbcl-2阻害剤で、今回の承認申請は17番染色体短腕(17p)欠損型の再発性難治性慢性リンパ性白血病(CLL)の治療に当てるもの。

申請の根拠となった第二相単群試験では、107人中85人が反応した(ORR79%)。死亡例のうち、7例は病気の進行、4例は有害事象によるもので内容は脳卒中、敗血症、心肺不全、肝障害となっている。

bcl-2はリンパ球などのアポトーシス抵抗性に係わる蛋白で、CLLでは過剰発現が見られる。ジェンタ社がサノフィと提携してbcl-2阻害剤の第三相試験を実施したことがあるが、惜しくも有意水準に届かなかった。FLT阻害剤と同様に、今回の成功は快挙と言えるだろう。

注意点は、ABT-199は腫瘍壊死症候群(TLS)のリスクがあり、注意深く少しずつ増量する必要があること。具体的には、一日20mgで開始して週一回増量、5週後に維持用量の400mgまで持っていく。経口剤だが、一定期間、入院が必要かもしれない。

17p欠損は、診断されたばかりの患者には少ないが再発性難治性の患者では30~50%を占めると言われている。高リスクだが有効な薬は少なく、ABT-199は重要な選択肢になるだろう。

リンク: アッヴィのプレスリリース

ノボ、食後インスリンを承認申請
(2015年12月9日発表)

ノボ ノルディスクは、より速効性のインスリンを米国で承認申請した。同社のNovoRapid(insulin aspart)はミールタイム・インスリンと呼ばれ、従来のインスリンより遅いタイミングで注射しても間に合うが、今回のインスリンは食後でも間に合うというもの。ビタミンやアミノ酸を用いてinsulin aspartの初期の吸収を向上し作用のオンセットを早めたとのことだ。

リンク: ノボのプレスリリース

ファイザー、Ibranceを用法追加申請
(2015年12月10日発表)

ファイザーはIbrance(palbociclib)の用法追加申請を米国で行い、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は来年4月。

IbranceはCKD4/6阻害剤で細胞分裂時の細胞周期進行を阻害、アポトーシスを誘導する。米国では今年2月に承認された。適応は、閉経後転移性乳癌のうちエストロゲン受容体陽性、her2陰性(全体の6割程度)の患者の一次治療。ノバルティスのアロマターゼ阻害剤、Femara(letrozole)と併用する。

今回の用法はプロゲスチン受容体陽性、her2陰性の患者にエストロゲン受容体零落剤fulvestrantと併用するもの。閉経前後を問わず、また、一次治療/二次治療の両方をカバーする。申請の根拠となったPALOMA-3試験では、PFS(無進行生存期間)がメジアン9.2ヶ月とfulvestrant単剤投与群の3.8ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.42、統計的に有意だった。EUでも5月に承認申請が受理されている。

リンク: ファイザーのプレスリリース

ファイザー、ザーコリの適応拡大を申請
(2015年12月8日発表)

ファイザーはXalkori(crizotinib、和名ザーコリ)をROS1陽性非小細胞性肺癌に用いる適応拡大申請を米国で行い、受理されたと発表した。優先審査を受ける。審査期限は来年4月。

Xalkoriは11年に米国でALK変異陽性非小細胞性肺癌に承認された。日本の研究者がALK変異型肺癌の発見をNatureで発表したのは07年のことであり、ベンチとベッドを4年という超速で結びつけた快挙だった。

その後、ノバルティスや中外製薬/ロシュがXalkoriに反応しなくなった癌にも有効なALK阻害剤を発売。今後は一次治療でも競合が激化するだろう。ALK変異陽性は非小細胞性肺癌の5%程度と小さいのでパイの取り合いになる。ROS1陽性は非小細胞性肺癌の1%程度。ALK変異と重複しない模様なので承認されれば対象患者数が2割程度増えることになり、売上面では重要な適応拡大だろう。

臨床試験では、50人中3人が完全反応、33人が部分反応で、総合反応率は72%。メジアン反応持続期間は17.6ヶ月だった。

リンク: ファイザーのプレスリリース


【承認審査・委員会】



FDA諮問委員会、テバの抗IL-5抗体を支持
(2015年12月10日発表)

FDAの肺アレルギー薬諮問委員会は、テバ(NYSE:TEVA)が好酸球性喘息症用薬として承認申請した抗IL-5ヒト化抗体、reslizumabを討議し、18歳以上の患者に関しては14人の委員中11人が承認を支持したが、12~17歳については(症例数がごく少ないため)全員一致で反対した。審査期限は来年3月。

承認が支持されたのはポジティブだが、11月に承認されたグラクソ・スミスクラインの抗IL-5ヒト化抗体、Nucala(mepolizumab)は12~17歳も使うことが可能で、また、reslizumabのような命に係わるアナフィラキシーやクレアチンホスホキナーゼ上昇が見られないので、競争力に疑問が残る。

reslizumabは11年に買収したセファロンの開発品。

リンク: テバのプレスリリース


【承認】



アレセンサ、米国でも承認
(2015年12月11日発表)

FDAはジェネンテックのAlecensa(alectinib、和名アレセンサ)をALK陽性の局所進行性・転移性非小細胞性肺癌でファイザーのXalkori(crizotinib)を既に使った患者の二次治療薬として承認した。二本の第二相試験の反応率データに基づく承認で、一本は客観的反応率38%、メジアン反応持続期間7.5ヶ月、もう一本では44%と11.2ヶ月だった。

Alecensaは米国では第三のALK阻害剤。中外製薬が創製し、ジェネンテックやロシュにライセンスした。特徴は中枢神経移行性が高く排出されにくいこと。上記の治験では脳転移のある患者の61%が縮小・消失した。FDAはプレスリリースの中で、医師が理解すべき重要な作用と特筆している。

リンク: FDAのリリース
リンク: ジェネンテックのプレスリリース

アレクシオン、Kanumaが承認
(2015年12月8日発表)

FDAは、アレクシオン・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALXN)のKanuma(sebelipase alfa)をリソソーム酸リパーゼ(LAL)欠乏症の初めての治療薬として承認した。

LAL欠乏症は脂肪が肝臓や血管壁に蓄積する。生後直ぐに発症するWolman疾患と比較的遅いコレステロールエステル蓄積疾患の二種類あり、前者は6ヶ月以内に死亡することが多い。有病率は前者が100万出生に2人、後者は25人でどちらも希少疾患。

Kanumaは遺伝子組換え型LAL。急速進行型の乳幼児9人を組入れた試験では、6人が12ヶ月以上生存した。

ユニークなのは生産方法で、鶏の卵管細胞にLALの遺伝子を導入し卵白に分泌させる。導入される遺伝子は、米国の法体系では動物薬として扱われるため、FDAの動物薬担当部署が別途、鶏に悪影響を与えないことを確認した。また、環境に大きな影響を与えないことも確認した。

アレクシオンは超希少疾患用薬の開発販売会社。Kanumaは11年にSynageva BioPharmaを84億ドルで買収して入手した。

リンク: FDAのリリース

バクスアルタの遺伝子組換え型vWFも承認
(2015年12月8日発表)

FDAはバクスアルタ(NYSE:BXLT)のVonvendi(開発コードBAX111)をフォン・ヴィレブランド病の出血治療・管理薬として承認した。常染色体性遺伝子疾患で、罹患率は1~2%と思ったより高いが、病状は区々である模様だ。Vonvendiは遺伝子組換え型フォン・ヴィレブランド因子。第8因子を殆ど含んでいないため、不必要な量を同時供給しなくて済む。

リンク: バクスアルタのプレスリリース

サノフィ、デング熱ワクチンがメキシコで初承認
(2015年12月9日発表)

サノフィは、デング熱ワクチンのDengvaxiaがメキシコで承認されたと発表した。WHOの重点分野の一つでありながらワクチンの開発は難航、今回が嬉しい初承認となった。

残念なのは対象年齢で、9~45歳に限定された。アジアで実施された第三相試験は2~14歳を組入れたがラテンアメリカの試験は9~16歳だったので、当然といえば当然なのかもしれないが、9歳未満の犠牲者も多いはずである。

Dengvaxiaは弱毒化黄熱病ウイルスにデングウイルスの抗原遺伝子を導入したもので、4種類のセロタイプに対応している。08年にAcambisを5億ドルで買収して入手したもの。

リンク: サノフィのプレスリリース



今週は以上です。

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2015年12月6日

2015年12月6日号


【ニュース・ヘッドライン】


  • イーライリリー、PEGリスプロの開発を中止
  • JNJ、ステラーラをクローン病に適応拡大申請
  • アムジェン、KyprolisをEUでも適応拡大申請
  • ギリアド、SOF/VEL配合剤を欧州でも承認申請
  • gepironeは粘り勝ちできそうにない
  • FDA、BMSの多発骨髄腫用薬を承認


【新薬開発】


イーライリリー、PEGリスプロの開発を中止
(2015年12月4日発表)

イーライリリーはLY2605541(peglispro)の開発中止を発表した。短期作用性インスリンHumalog(insulin lispro、和名ヒューマログ)をPEG化して作用を長期化するとともに、肝臓指向性を高めて末梢作用に付随する体重増加の抑制を図ったもので、サノフィのランタスやノボのトレシーバと競う基礎インスリンとなるはずだった。しかし、第三相試験で肝機能検査値異常や肝脂肪蓄積が見られ、安全性確認に時間や費用が掛かることから、ドロップした。

イーライリリーはランタスのバイオシミラーを開発しており、基礎インスリンのラインアップは維持することができる。糖尿病領域で提携しているベーリンガー・インゲルハイムは2年前にLY2605541に関する権利を返還したがランタス・シミラーの協業は継続している。

リンク: イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


JNJ、ステラーラをクローン病に適応拡大申請
(2015年11月30日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは抗IL-12/23完全ヒト化抗体Stelara(ustekinumab、和名ステラーラ)を中重度活性期クローン病の治療に用いる適応拡大申請を米国とEUで行った。第三相治療試験二本のうち一本では、伝統的な治療に反応しない患者を偽薬、130mg、体重に応じて260~520mgの三群に無作為化割付して一回点滴静注したところ、6週時点のCDAI100反応率が各群29%、52%、56%となり、試験薬二群とも偽薬群を有意に上回った。

リンク: JNJのプレスリリース

アムジェン、KyprolisをEUでも適応拡大申請
(2015年12月5日発表)

アムジェンはEUでプロテアソーム阻害剤Kyprolis(carfilzomib)の適応拡大申請を行った。欧州では多発骨髄腫の二次治療にRevlimid及びdexamethasoneと三剤併用することが11月に承認されたばかり。今回は、同じく二次治療にdexamethasoneと二剤併用するもので、米国では7月に承認申請済み。

申請の根拠となったENDEAVOR試験では、同じ作用機序を持つ大先輩である、武田薬品/ジョンソン・エンド・ジョンソンのVelcade(bortezomib)と直接比較した。結果は、メジアンPFS(無進行生存期間)が18.7ヶ月とVelcadeの9.4ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.53、95%信頼区間0.44~0.65だった。

過半の患者がVelcadeによる前治療歴を持っていてVelcadeには不利な試験なのだが、それでも良い成績だ。但し、承認用法より投与量が多いせいか、心不全や急性腎不全の発生率がVelcade群よりやや高かった。一方、神経障害の発生率はVelcadeより低かった。

リンク: アムジェンのプレスリリース

ギリアド、SOF/VEL配合剤を欧州でも承認申請
(2015年12月4日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、GS-7977(sofosbuvir、略称SOF)とGS-5816(velpatasvir、略称VEL)の合剤をEUで承認申請し受理された。米国でも10月に承認申請済み。遺伝子型1~6型の慢性C型肝炎の治療に用いる。

前者はNS5Bポリメラーゼ阻害剤で、Sovaldi(和名ソバルディ)という名称で発売され、効果の高さと早さ、そして値段の高さで名を馳せた。後者はNS5A複製複合体阻害剤で様々な遺伝子型のウイルスに活性を持つことが特徴。非代償性肝硬変を合併していない患者ならこの合剤を一日一回、12週間服用するだけで殆どの患者がウイルス検出不能になる(SVR12)。合併患者はribavirin併用12週間コースが最も奏効率が高い。

遺伝子型一型に対する効果はSOFとNS5A複製複合体阻害剤ledipasvirの合剤であるHarvoni(和名ハーボニー)と大差なさそうなので、出番はそれ以外になりそうだ。遺伝子型検査を割愛できる可能性があるので、医療リソースが不十分な国に適しているかもしれない。

リンク: ギリアドのプレスリリース

【承認審査・委員会】


gepironeは粘り勝ちできそうにない
(2015年12月1日発表)

FDAは精神学薬諮問委員会を招集し、ヒューストンのFabre-Kramer Pharmaceuticalsが抗鬱剤として承認申請したgepironeについて意見を聞いた。審査担当者は薬効に懐疑的、13人の委員のうち9人も同意したので、おそらく、承認されないだろう。

この5HT1A作用剤はBMSが20年以上前に開発を断念、Fabre社に導出した。オルガノン(当時はアクゾ・ノーベルの子会社)がインライセンスして99年に承認申請したが受理されず、01年に申請受理されたが結果は非承認可能通知を受領。03年に修正申請したが再び非承認可能通知を受領。オルガノンから権利返還を受けたFabreが今度はグラクソ・スミスクラインと開発販売提携して07年に修正申請したが、また、非承認可能通知を受領した。

審査難航の原因は、第一に、多くの臨床試験がフェールしたこと。第二に、抗鬱剤の臨床試験は承認されている薬でもしばしばフェールするため試験フェール=薬効不十分とは断定できないこと。効果があまり高くないという側面と、薬効評価スケールの感度が不十分という側面がありそうだが、そもそも、患者によって効く薬が違うのかもしれない。

偶々、効く患者が多く集まればよい数字が出て、少なければフェールするのかもしれないのだ。現実の医療では、一つの薬に反応しないなら別の種類の薬にスイッチすることで対応できるので、向き不向きは試行錯誤で克服できる。そして、試行錯誤するためには、例え一部の患者にしか効かなくても、異なった作用機序の薬が多種存在する方が好ましいかもしれないのである。

これらのことから、鬱病や統合失調症の薬の臨床試験のデザインはこの10年ほどで大きく変わった。例えば、承認されている薬を投与する群を設けて、もし試験薬がフェールした場合に、もし実薬群もフェールなら試験がフェール、そうでないなら試験薬がフェールと判定する。あるいは、偽薬効果を抑制するために被験者を入院患者のような特に病態が重く症状の変化を観察しやすい集団に絞り込む。最後の手段としては、被験者全てに試験薬を投与し反応した患者を偽薬群と継続投与群に無作為化割付する離脱試験方式で薬効を証明する、などだ。

第三相試験は通常、二本実施されるが、抗鬱剤では三本、四本行うことが珍しくない。一本や二本フェールすることは初めから覚悟しているのだ。承認審査機関も寛容で、二本成功すれば、他の二本がフェールでもおそらく承認されるだろう。

話をgepironeに戻すと、最大の難問は、12本の試験のうち成功したといえるのは2本だけであることだ。残りのうち3本は実薬投与群がないため何とも言えなず、3本は試験がフェールと判定できるが、4本は実薬群が偽薬比有意、またはトレンドが見られた。これでは諮問委員会の支持を得られなくても当然だろう。本来ならもう一度薬効確認試験を行うべきなのだが、粘ってFDAの評価を覆すことに注力しているのは、成功する自信が無いからと思われてもしょうがないだろう。

幸い、gepironeが4度目の非承認可能通知を受領する可能性は低い。FDAは承認可能通知と非承認可能通知の使い分けを止め、審査完了通知に統一したからである。

【承認】


FDA、BMSの多発骨髄腫用薬を承認
(2015年11月30日発表)

FDAはBMSのEmpliciti(elotuzumab)を承認した。多発骨髄腫の二次治療薬としてRevlimid(lenalidomide)及びdexamethasoneと三剤併用する。9月に承認申請が受理されたばかりなのでスピード承認だ。

Emplicitiは骨髄腫細胞やNK細胞の表面に特異的に発現するSLAMF7を標的とする抗体医薬。NK細胞を活性化するとともに、骨髄腫細胞に対する抗体依存的細胞毒性を誘導する。第三相試験では、メジアンPFS(無進行生存期間)が19.4ヶ月とRevlimid・dexamethasoneの二剤だけの群の14.9ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.70、統計的に有意だった。主な有害事象は疲労、下痢、発熱など。

08年にPDLからライセンスしたもの。PDLは後にアッヴィに買収されたため、プレスリリースは両社の連名となっている。

リンク: FDAのリリース
リンク: BMSのプレスリリース



今週は以上です。

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