2014年11月23日

海外医薬ニュース2014年11月23日号



(!! 来週は都合により休刊とさせていただきます。 !!!

【ニュース・ヘッドライン】




  • 優先審査バウチャーの市場価格は100億円以上
  • 抗PD-1抗体の延命効果が明確に
  • AHA:ゼチーアが穏やかな心血管疾患予防効果
  • AHA:DATは1年でも3年でも同じ
  • AHA:アスピリンの初発予防試験は日本もフェール
  • CHMPが8新薬の承認を支持
  • HarvoniがEUでも承認


【今週の話題】


優先審査バウチャーの市場価格は100億円以上

(2014年11月19日発表)

米国は採算の取れにくい病気の新薬開発を促進するために様々な制度を導入しているが、その一つが優先審査バウチャーだ。顧みられない熱帯病や小児の希少疾患に用いる薬の承認を取得すると交付され、別の薬を承認申請する時に優先審査を求めることができる。通常の審査期間は承認申請受理から10ヶ月間だが6ヶ月に短縮できれば開発競争の激しい分野では価値がある。自分で使っても良いし、第三者に譲渡することもできる。

では、どれくらいの価値があるのか?最初に表面化したのはバイオマリンのディールだ。モルキオA症候群治療薬Vimizim(elosulfase alfa)で獲得した希少小児疾患優先審査バウチャーをリジェネロン(Nasdaq:REGN)とサノフィに6750万ドルで売却した。

両社は共同開発している抗PCSK9完全ヒト化抗体、alirocumabの承認申請に用いる予定だ。アムジェンが類薬を先に承認申請しており、差を縮めるための切り札にする。一方のバイオマリンは希少疾患治療薬の開発に特化しており、バウチャーが無くても優先審査されるだろうから、売却したのは自然の成り行きである。

今回、二つ目のディールが表面化した。ナイト・セラピュティクス(TSX:GUD)がリーシュマニア症治療薬Impavido(miltefosine)の承認で獲得した熱帯病優先審査バウチャーをギリアド(Nasdaq:GILD)に1.25億ドルで売却したのだ。ギリアドは使途を明らかにしていない。

新薬の開発コストは数億ドルとも十数億ドルとも言われるが、熱帯病や希少疾患領域は様々な公的・民間支援が得られるのでもっと少ないだろう。1億ドルは大きく、難病対策として有効な手法だ。

リンク:ナイト社のプレスリリース

【新薬開発】


抗PD-1抗体の延命効果が明確に

(2014年11月16日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発している抗PD-1ヒト化抗体、Opdivo(nivolumab)の治験論文がNew England Journal of Medicine誌のウェブサイトで先行公開されたと発表した。

BRAF変異型ではない末期黒色腫の一次治療薬としての延命効果をdacarbazineと比較した第三相試験で、今年6月に中間解析で主目的を達成したことが公表された。ハザードレシオ0.42、99.79%信頼区間0.25~0.73、p値は0.001を下回った。メジアン生存期間はOpdivoは未達、dacarbazine群は10.8ヶ月、1年生存率は各73%と42%だった。忍容性は対照薬より良好で、有害事象による治験離脱の発生率は6.8%対11.7%、G3/4有害事象は11.7%対17.6%だった。

米国ではBMSのYervoy(ipilimumab)が二次治療限定なしで承認されたため、別途、Yervoyと比較・併用する第三相試験が進行中。併用は忍容性が課題であるように感じられるので、単剤同士の比較が注目される。

抗PD-1療法は過去の免疫強化療法と異なり、反応率が比較的高く、多くの患者に延命効果をもたらす。今回のデータはこの期待を裏切らないものだった。応答性とPD-L1発現状況の関連性が注目されているが、今回の試験では陽性にも陰性にも有効であった模様だ。

電子刊行は学会発表に合わせたものだが、BMS/小野薬品と熾烈な開発競争を行っているMSDもKeytruda(pembrolizumab)の延命効果に関連する学会発表・プレスリリースを出した。Yervoyに反応しなかった患者を組入れた540人規模の大規模な第二相試験で、承認されている用量(2mg/kgを3週間に一回)と高用量(10mg/kg、3週間に一回)の延命効果とPFS(無進行生存期間)を医師の選んだ化学療法と比較したもの。

PFS(盲検による独立中央評価)のハザードレシオは承認用量が0.57、高用量0.50、何れもpは0.0001を下回り、用量間の差は有意ではなかった。もう一つの主評価項目である全生存期間のデータは未だのようだ。

抗PD-1療法は様々な癌に有効である可能性がある。化学療法を受けると免疫力が低下する可能性があるのでその前に一次治療で用いるほうが好ましいかもしれないが、そうなると、様々な一次治療薬との併用試験を行う必要があり、開発費が嵩む。先週もドイツのメルクとファイザーが抗PD-1/PD-L1療法領域で提携したが、このような提携戦略は活発に行われるだろう。、

リンク:
OpdivoのNEJM論文(オープンアクセス)


リンク:MSDのリリース(11/16付)

AHA:ゼチーアが穏やかな心血管疾患予防効果

(2014年11月17日発表)

MSDはezetimibeの心血管疾患予防効果を検討したIMPROVE-IT試験が成功したことを正式に発表した。AHA科学部会での発表に合わせたもの。LDL-C治療薬の心血管疾患抑制作用はLDL-C低下率と相関すると考えられているが、この試験でも概ね整合的な結果、即ち、穏やかなLDL-C低下作用に見合った穏やかな予防効果が示された。

この試験は急性冠症候群を発症して10日以内の患者を組入れて、同社のsimvastatin(40mg)とVytorin(simvastatinとezetimibeの合剤、前者は40mgを使用)の効果を比較した二重盲検試験。各群のLDL-C値は1年後に69.9mg/dLと53.2mg/dLに低下しており、70mg/dL以下に引き下げる強化治療の有効性を検討した試験の一つと考えることもできる。

当初の解析計画では1万人を2年間追跡してリスクを9.375%削減する効果を検出する予定だったが、途中で目標症例数と追跡期間が拡大され、結局、1.8万人をメジアン6年間追跡した。このため、開票が3~4年遅れることになった。ezetimibeと言えばENHANCE試験の結果が中々公表されずデータ隠しの疑いが浮上したことがあり、色々な意味で注目されていた。

結果は、ハザードレシオ0.936、p=0.016で高度ではないが有意な再発予防効果が示された。各群の発生率は7年時点のカプラン・マイヤー推定で34.7%と32.7%だった。死亡リスク削減効果は見られなかった。もう一つ重要な注目点であった癌の発生率は各群10%で大差なかった。

NNTは50となるが、年率だと350、つまり、350人に1年間投与すると一人を心筋梗塞・脳卒中・心血管死から救うことができる。Vytorinの価格を年2500ドルとすると一人を救うコストは87万ドル、約1億円。日本では承認されていないのでゼチーア(ezetimibe)の価格を使うと3000万円。医療予算は無限ではないので、この費用対効果を他の治療法や他の病気の治療コストと比べた上で適否を判断することになる。尤も、この試験では4割以上の患者が途中で服用を止めたので、実際の費用はもっと小さいかもしれないが。

ezetimibeは忍容性がスタチンより高く、スタチン不耐患者には重要な選択肢だ。しかし、この試験の対象であるスタチン耐用患者に関しては、simvastatinより効果の高いスタチンを使うという選択肢もありそうだ。尚、この試験は心筋梗塞リスクが高い既往患者が対象であり、未発患者にも強化療法が有益とは限らない。常識的に考えればNNTが更に低下するだろうから、否定的に考えた方が良さそうだ。

リンク:MSDのプレスリリース

AHA:DATは1年でも3年でも同じ

(2014年11月16日発表)

冠動脈介入術でDES(薬物溶出ステント)を留置した後のDual Antiplatelet Therapy(DAT:アスピリンとチエノピリジンの併用)は、12ヶ月間と30ヶ月間のどちらが至適か?FDAの問題提起に医学者とステントメーカー、製薬会社が呼応して実施したDAT試験の結果がAHAで発表され、New England Journal of Medicine誌に論文先行公開された。NEJMのウェブサイトによるとこの論文のアクセスは4万件以上、ランキング二位となっており、いかに注目されていたかが分かる。

結果は常識的なものであった。ステント血栓の発生率は30ヶ月群が0.4%、12ヶ月で止めた群が1.4%、ハザードレシオ0.29、pは0.001未満。もう一つの主評価項目である主要心血管脳血管有害イベントは各4.3%、5.9%、0.71、0.001未満。一方で、中重度出血の発生率は2.5%対1.6%、p=0.001。効果もあるがリスクもあることが確認された。心血管疾患死は各群大差なかった。

結局、心筋梗塞などのリスクが高くDATに耐容する患者はDATを長く続け、それほど高くない、あるいはDATに不耐/出血リスク因子を持つ患者は早めにアスピリンのみにする、と使い分けるのが至適ということになりそうだ。

この試験のデザイン上の制約は、第一に、12ヶ月間のDATを終えた患者を組入れたこと。DES留置後1年以内に血行再建術などを受けた患者は除外されたので、本当に高リスクな患者は対象外だったことになる。また、DESはCypherが47%、チエノピリジンはPlavix(clopidogrel)が65%、適応症は安定狭心症が37%を占めたが、他のDESやEfient(prasugrel)、心筋梗塞患者なども含まれているので、分かり難いところがある。

DAT試験は複数の試験を同一のデザインで実施し結果を統合したものだが、その一つであるTaxus LiberteとEfientの試験結果もAHAで発表された。効果はDAT試験全体と同様だったが出血リスクは高まらなかった。Efientなら効果も出血リスクも高まりそうなものだが、今後、他のサブスタディの結果が公表されれば、全体像が見えてくるだろう。

大規模アウトカム試験は重要なエビデンスだが、難しいのは、大規模長期試験を行っているうちに世の中が変わってしまうリスクがあることだ。NEJMのエディトリアルや医療メディア報道を読むと反応は結構冷淡。今日では3~6ヶ月で止めるのが一般的になりつつあるので、この手法と30ヶ月を比較すべきだったというのだ。また、DESも日進月歩なので、いつまで経ってもエビデンスが追い付けない状態になっている。

リンク:DAT試験論文(NEJM、オープンアクセス)

さて、この試験では大きな問題が浮上した。死亡率が2.0%対1.5%、ハザードレシオ1.36、p=0.05と高かったのだ。実数は98例対74例で24例の差。上記のように心血管疾患によるものは同程度だったが、癌による死亡が31例対14例、p=0.02、出血による死亡が11例対3例、p=0.06と増加し、この二つで差を説明できる。

癌死が多かったのは治験開始時点で既に癌だった患者の数に偏りがあったことが原因かもしれない。研究者らが行ったチエノピリジンの試験のメタアナリシスでは有意な差は無かった。しかし、Plavixの日本試験で癌の発生が、Efientの海外試験では癌の死亡が偽薬群より多かったことがあり、3年間追跡した大規模な試験は今回が初めてなので、軽々には結論を出せないだろう。FDAはこのデータを検討する旨、発表した。

リンク:FDAのリリース

AHA:アスピリンの初発予防試験は日本もフェール

(2014年11月17日発表)

JPPP試験の結果がAHAとJAMA誌で発表された。アスピリンの心筋梗塞初発予防効果を検討したもので、海外の試験と同様にフェールした。結果は残念だが、こういうキチンとした試験を行った経験は今後の臨床研究に役立つだろう。

JPPP試験は高血圧などのリスク因子を持つ60~85歳の患者14000人以上を組入れてアスピリン(100mg)の心血管疾患予防効果を検討したもの。急速に高齢化が進む日本にとって重要な試験だ。1007施設のプライマリーケア医が参加した。二重盲検ではないが、いわゆるソフトなエンドポイントは採用されず、担当医の評価を第三者が査読したので主観性・恣意性は高くない。この試験のもう一つの長所は、女性が過半を占めたこと。

結果は、中間解析で無益性が認定され、メジアン5年間の追跡で繰上完了した。心筋梗塞・卒中・心血管疾患死の発生率はアスピリン群が2.77%、対照群が2.96%、ハザードレシオは0.94で95%信頼区間は1を跨ぎ、p=0.54だった。非致死的な心筋梗塞のリスクは47%削減、有意だったが、輸血や入院を必要とする頭蓋外出血が1.8倍に増加、こちらも有意だった。結局、効果はあるがリスクも大きいことになる。

リンク:JAMA論文(オープンアクセス)

【承認審査・委員会】


CHMPが8新薬の承認を支持

(2014年11月21日発表)

EUの承認審査機関であるEMAの医薬品科学的評価委員会、CHMPは、11月の会議で以下の8新薬に関して肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域で承認されることになる。

リンク:EMAのプレスリリース

サノフィの子会社であるジェンザイムが開発したCerdelga(eliglustat tartrate)はI型ゴーシェ病の治療薬。グルコシルセラミド合成酵素阻害剤で、酵素補充療法とは異なり一日二回の経口投与で治療することができる。CYP2D6の機能が著しく高いultra-rapid metabolizersは適応外。EUのゴーシェ病患者は15000人と推測されている。米国では8月に承認された。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

アッヴィは二種類の慢性C型肝炎治療薬が支持された。一つはViekirax(paritaprevir、ritonavir、ombitasvir)で、NS5A複製複合体阻害剤と3A4阻害剤、そしてNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤の合剤。一日一回、経口投与する。ritonavir以外は新規活性成分。もう一つはNS5Bポリメラーゼ阻害剤Exviera(dasabuvir)で、一日二回経口投与。

遺伝子型1型と4型が適応になる模様だ。臨床試験はこの二剤だけあるいはribavirinと三剤併用で実施された。インターフェロンを必要としない経口剤だけの治療が可能。ギリアドのHarvoni(sofosbuvirとledipasvirの合剤)は一日一回一錠なので、利便性はやや見劣りする。

リンク:アッヴィのプレスリリース

ベーリンガー・インゲルハイムのOfev(nintedanib)は、9月に腺腫非小細胞性肺癌の二次治療薬として肯定的評価を受けたが、今度は特発性肺線維症用薬としての承認が支持された。VEGF受容体など、肺線維芽細胞の増殖に関わる受容体のキナーゼを阻害する。米国では10月に承認された。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

ノバルティスの抗IL-17A完全ヒト化抗体Cosentyx(secukinumab)は中重度乾癬の治療に用いる。既存薬不応だけでなく一次治療も可。300mg皮注。FDAの諮問委員会用資料によると、最初は週一回、5回目からは4週間に一回投与する用法のようだ。米国では10月の諮問委員会に上程され、全員の支持を得た。抗IL-17A抗体はTNF阻害剤と同様に様々な疾患に有効である模様で、Cosentyxは乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の第三相試験も成功した。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:同(乾癬性関節炎試験の結果、11/16付)

リンク:同(強直性脊椎炎試験の結果、11/15付)

セルジーン(Nasdaq:CELG)のPDE-4阻害剤、Otezla(apremilast)は中重度の乾癬や乾癬性関節炎で紫外線療法や標準的な経口剤に十分に反応しない患者の二次治療に用いる。一日二回、経口投与する。米国では今年3月に乾癬性関節炎で、9月に乾癬でも、承認。

リンク:セルジーンのプレスリリース

塩野義製薬のSenshio(ospemifene、米国名Osphena)は閉経後の膣萎縮症でエストロゲンの局所性製剤が不適な患者に用いる、選択的エストロゲン受容体調節剤。QuatRx Pharmaceuticalsから北欧以外の権利をライセンスしたもの。

MSDのZontivity(vorapaxar)は心筋梗塞の再発予防に用いる。アスピリンと、適応になる場合はPlavixも併用する。米国では5月に承認された。PAR-1阻害剤で、トロンビンが血小板のPAR受容体に結合して活性を高めるのを阻害する。尚、Zontivityと前述のezetimibe、Keytrudaの三剤は何れもシェリング・プラウを買収して入手したものだ。

この他に、09年に承認されたLaboratoire HRA Pharmaの緊急避妊薬、ellaOne(ulipristal acetate)を処方箋の要らない店頭薬として販売することも支持された。レイプの被害者などが容易に入手できるようにする。既にlevonorgestrel配合剤が店頭薬として販売されているが、72時間以内の服用が必要。ellaOneは120時間以内。

リンク:EMAのプレスリリース

多くの新薬が承認された一方で、テバはEgranli(balugrastim)の承認申請を商業上の理由で撤回した。アムジェンのNeulasta(pegfilgrastim、和名ジーラスタ)とシミラーな持続性G-CSF製剤。CHMPは9月に承認を支持したが、米国は昨年、申請撤回された。テバはratiopharm買収で入手したLonquex(lipegfilgrastim)を13年にドイツなどで発売しており、拘る必要がなかったのだろう。

リンク:EMAのEgranilに関する質疑集

【承認】


HarvoniがEUでも承認

(2014年11月18日発表)

ギリアド(Nasdaq:GILD)は、HarvoniがEUで遺伝子型1型と4型の慢性C型肝炎の治療薬として承認されたと発表した。NS5A複製複合体阻害剤ledipasvirとNS5Bポリメラーゼ阻害剤sofosbuvirの合剤で、後者は1月にSovaldi名で承認されている。一日一回、一錠を服用するだけで治療できるので簡便。治療期間は遺伝子型や治療歴や肝硬変の合併状況などに応じて8週コース、12週コース、24週コースの中から選択する。

リンク:ギリアドのプレスリリース

Harvoniは米国で12週間分の価格が9.5万ドルと大変高価な薬だが、案の定、欧州ではもう少し安くなるようだ。報道によるとフランスはSovaldiを26%引きの4.1万ユーロ、5.1万ドルで調達することでギリアドと合意した。米国でも大口割引はあるのだろうが、フランスの患者は20万人なので超大口割引を獲得。患者負担ゼロで提供する由だ。Harvoniも4.8万ユーロ、6万ドルで調達することで暫定合意した模様。

今週は以上です。

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2014年11月16日

海外医薬ニュース2014年11月16日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • AHA2014の見どころ
  • エボラの臨床試験が12月に開始
  • デンドレオンが民事再生手続きを申請
  • アムジェンの抗IL-17A受容体抗体も第三相が成功
  • サノフィのLemtradaが米国でも承認
  • アバスチン、米でも卵巣癌承認


【今週の話題】



AHA2014の見どころ

本日11月16日からAHA米国心臓協会のサイエンティフィック・セッションが始まる。今年の注目は抗血小板薬とエゼチミブのアウトカム試験、そして新規のLDL-C治療薬である抗PCSK9抗体の第三相試験データだ。

日曜日のLate-Breaking Clinical Trialsでは、PCI(経皮的冠介入術)後のADP受容体拮抗剤の至適投与期間を検討した複数の試験の結果が発表される予定。

DES(薬物溶出ステント)は薬物を溶出しないステントよりも血栓リスクに長く晒されることが判明したため、Plavix(clopidogrel、和名プラビックス)のようなADP受容体拮抗剤をアスピリンと併用するDual Anti-Platelet Therapy(DAT)を1年以上続けて予防するのが一般的になった。しかし、費用や出血リスクも伴うので、大規模なアウトカム試験で便益と危険を定量化することが求められている。

AHAで発表されるDAPT試験はFDAと学会、メーカーが協力してデザインした大規模アウトカム試験なので、重要なエビデンスになるだろう。同様なテーマを追求したISAR-SAFEなどの結果も発表される予定。

月曜日は待ちに待ったIMPROVE-ITの結果が判明する。Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)のアウトカム試験で、急性冠症候群で再発リスクの高い患者1.8万人をsimvastatinだけの群とZetiaを併用する群に無作為化割付して、死亡・心筋梗塞・急性冠症候群による再入院・冠動脈再開通術のリスクを比較したもの。別途、投与期間中だけの解析結果も発表される模様(通常は投与中止後数日・数週間のイベントも含めて解析する)。

ZetiaのLDL-C低下作用は1割と小さいため、リスク削減率も小さいだろう。それでも、他のアウトカム試験やアテローム治療試験(ENHANCE試験)がフェールしたZetiaにとっては貴重なエビデンスになりそうだ。

結果は未公表だが、最悪の事態は回避したようである。Zetiaとsimvastatin配合剤VytorinはMSDがシェリング・プラウを買収して入手した製品で、無形資産がバランスシートに計上されているが、SECに提出された財務報告書によると、MSDはIMPROVE-ITの結果を評価した結果、この無形資産の減損を計上する必要はないと判断した由。つまり、IMPROVE-ITの結果が発表されても両剤の売上高が急減する可能性は無い。十分なエビデンスを持たない薬を12年間に亘り使い続けた医師には朗報だろう。

月曜日は、日本のJPPP試験の結果も発表される。アスピリンの一次予防アウトカム試験で、動脈硬化性疾患の危険因子を持つ60~85歳の患者1.5万人を組入れて、腸溶性アスピリン100mgの脳卒中・心筋梗塞予防効果を検討したもの。オープンレーベル試験であることが難点だが、客観性の高いハードなエンドポイントだけをカウントした模様なので、日本の他のアウトカム試験より優れている。

日本は高齢者医療のエビデンス作りで先陣を走るべきであり、JPPPはこの期待にも応えている。症例の過半が女性である点も好ましい。

更に、リジェネロン(Nasdaq:REGN)がサノフィと共同開発している抗PCSK9抗体、REGN727/SAR236553(alirocumab)の数々の第三相試験の結果が発表される予定。

抗PCSK9抗体はLDL-Cを5割近く削減する効果を持つが、皮注であることのほかに、そもそもスタチンと同じような心血管疾患予防効果があるのかという疑問がある。ナイアシンやフィブラートの心血管アウトカム試験がフェールしたことから、LDL-Cが下がればそれで良いとは言えなくなった。alirocumabは第三相試験のポストホック分析で第三者査読によるMACE(主要有害心血管イベント)が対照群の半分で有意に少なかった。イベント数が少ないため未だ何とも言えない模様だが、各試験のデータが揃えばイメージが湧くだろう。

エボラの臨床試験が12月に開始

(2014年11月13日発表)

国境なき医師団(MSF)はエボラウイルス性疾患で初の臨床試験を12月に開始することを明らかにした。ワクチンを含めれば様々な臨床試験が進行中だが、MSFが治験に参加するのは珍しい。

一つはフランスの国立保健医療研究所の主導で、ギニアで200人の被験者に富山化学/富士フィルムのアビガン(ファビピラビル)を投与する。もう一つはオックスフォード大学主導で140人にChimerix(Nasdaq:CMRX)のbrincidofovirを投与する。治験実施施設は未定。更に、アントワープ熱帯病研究所の主導でエボラから回復した患者の回復期血漿をギニアの患者に投与する。何れも偽薬群は設定せず、14日生存率を主評価項目とする。

この二剤が選ばれたのは、どちらも別の適応症で開発が進められ、纏まった数の入手が可能だからだろう。偽薬対照試験ではないので本当の効果や安全性は確認できないが、サルの試験の結果が公表されれば、このようなケースで望むことができる最良のエビデンスを得ることができるだろう。

MSFは、治験薬を提供するメーカーに対して、試験の結果が判明する前に量産を開始して成功なら直ぐに配布できる体制を整えるよう要請した。治験のデザインを考えればもし効果が無くても悪い結果になる可能性は低いので、リーズナブルは意見だ。MSFは手の届く価格で提供することも求めた。11月2日号で書いたように、流行三ヶ国の一人当たりGDPは700~1400ドルで日本の26~53分の1である。タミフル並みなら一人1600円程度だが、数百円が求められるかもしれない。

リンク:MSFのプレスリリース

デンドレオンが民事再生手続きを申請

(2014年11月10日発表)

前立腺癌の細胞療法を実用化したことで有名なデンドレオン(Nasdaq:DNDN)が米国破産法の民事再生手続き、チャプター11の適用を申請した。Provenge(sipuleucel-T)の承認から4年、あまりにも早い転落だ。

Provengeは非症候性転移性去勢抵抗性前立腺癌の患者からアフェレーシスで採取した抗原提示細胞をPA2024腫瘍抗原とGM-CSFで感作し、体内に戻すもの。臨床試験では全生存期間のハザードレシオが0.775、p=0.032と統計学的にまあまあ有意な延命効果を示した。事業面では三種類の異なった課題に直面した。第一は、治療に必要な量を培養できるとは限らないこと。第二は患者一人当たり9.3万ドルと高価であること。第三は、その後に多くの新薬が承認され競争が激化したこと。

承認当時は年商10億ドル超の見方もあったが、3億ドル前後に留まった。最初の第三相試験を開始したのが2000年、フェールしたが二本目の試験のデータで承認申請したのが06年、承認が10年と、第三相からでも10年を掛けて開発した薬が行き詰ってしまったのは印象的だ。承認・発売はゴールではなく出発点に過ぎないことを改めて痛感する。

リンク:ウォール・ストリート・ジャーナルの記事

【新薬開発】


アムジェンの抗IL-17A受容体抗体も第三相が成功

(2014年11月11日発表)

アムジェンとアストラゼネカはAMG827(brodalumab)の二本目の第三相中重度乾癬試験が成功したと発表した。ジョンソン・エンド・ジョンソンのStelara(ustekinumab)を投与した群と比べても奏効率が高かった。AMG827はIL-17受容体のAユニットに結合する完全ヒト化抗体。IL-17Aを標的とする抗体医薬はノバルティスのCosentyx(secukinumab)が日米欧で承認審査中だが、こちらもアムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)より高い奏効率を示した。

主評価項目のPASI75奏効率は、偽薬、140mg、210mg、Stelaraの各群が6.0/69.2/85.1/69.3%となり、二用量とも偽薬を有意に上回った。Stelaraとの比較は奏功のハードルが高いPASI100で行われ、各群0.3/27.0/36.7/18.5%となりAMG827の勝ち。重篤な有害事象の発生率は1.0/1.6/1.4/0.6%で大差なかった。

AMG827はStelaraやCosentyxと同じ皮注用薬だが、投与頻度がAMG827は2週間に一回でStelaraの4週間に一回より多い。Cosentyxは最初は週一回で4回投与し、その後は4週間に一回。効果や忍容性だけでなく、この違いも重要なポイントになるだろう。

アムジェンは炎症領域の抗体医薬5品目に関してアストラゼネカと共同開発提携を結んでおり、AMG827はその一つ。日本や中国などでは協和発酵キリンが独占開発販売権を取得している。

Cosentyxは乾癬性関節炎や強直性脊椎炎の第三相も成功しており、IL-17RA/IL-17A介入薬の用途は多そうだ。イーライリリーも抗IL-17Aヒト化抗体LY2439821(ixekizumab)を15年に中重度乾癬治療薬として承認申請する予定。

リンク:両社のプレスリリース

【承認】


サノフィのLemtradaが米国でも承認

(2014年11月14日発表)

サノフィの子会社であるジェンザイムは、FDAがLemtrada(alemtuzumab)を再発寛解型多発性硬化症の維持療法として承認したと発表した。CD52を標的とするヒト化抗体で、点滴静注薬だが、5日連続投与すれば次は1年後に3日連続投与するだけで済む。

深刻な有害事象が枠付警告された。命に係る可能性もある自己免疫疾患や点滴箇所反応、甲状腺癌や黒色腫、リンパ増殖性疾患などだ。投与を完了した後も4年間、定期的に検査してこれらの副作用が発生していないかチェックする必要がある。

白血病ではCampath/MabCampath名で販売されていたが、需要が小さく、価格がLemtradaより割安であるため、サノフィは多くの国で販売を中止した。米国ではLemtradaの価格が2年分で15.8万ドルとなる模様だが、Campathを流用出来たら半額で済むはずだった。尚、マブキャンパスは9月に薬事・食品審議会医薬品第二部会を通過した。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

アバスチン、米でも卵巣癌承認

(2014年11月14日発表)

ロシュの米国子会社であるジェネンテックは、Avastin(bevacizumab)が白金薬抵抗性卵巣癌の三次治療薬としてFDAに承認されたと発表した。paclitaxel、topotecan、PEG化リポソマルdoxorubicinの何れかと併用する。この抗VEGFヒト化抗体の適応症は結腸直腸癌、非小細胞性肺癌、腎細胞腫、神経膠腫、子宮頸癌と合わせて6種類となった。

卵巣癌は他の国では一次治療なども承認されているが、米国では今回が初承認となった。これらの試験ではPFS(無進行生存期間)が有意に延びたが、延命効果は確認されず、今回の承認の裏付けとなったAURELIA試験もハザードレシオ0.89でAvastinを併用しない群と有意な差が無かった。FDAは一次治療薬には延命効果を求めるが、三次治療なら進行が遅れるだけでも十分と判定したのだろう。

リンク:ジェネンテックのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年11月9日

海外医薬ニュース2014年11月9日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • インターセプト、NASH試験の論文刊行
  • アムジェン/武田、trebananibの第三相の一本目はフェール
  • GSK、抗IL-5抗体を承認申請
  • ヴァーテックス、第二の膿胞性線維症用薬を承認申請
  • ギリアド、TAF配合剤を承認申請
  • ベーリンガー、スピリーバを喘息症に適応拡大申請
  • ノバルティス、FDA諮問委員会が再び承認に反対
  • JNJ、ソブリアードとSovaldiの併用が正式承認
  • イーライリリー、Cyramzaの併用療法が米国で承認


【新薬開発】


インターセプト、NASH試験の論文刊行

(2014年11月6日発表)

インターセプト・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ICPT)は、INT-747(obeticholic acid)の第二相NASH(非アルコール性脂肪性肝炎)試験の論文がLancet誌に刊行されたと発表した。効果や忍容性に関する懸念が表面化したことから株価が大きく下落した。

INT-747は胆汁酸誘導体で、核内受容体farnesoid x receptor(FXR)を作動する。原発性胆汁性肝硬変の第三相試験が成功、年内にも欧米で承認申請される見込み。日本と中国の権利は大日本住友製薬が取得、DSP-1747という開発コードでこれらの二用途で開発中。

今回のNASH試験は283人の患者を偽薬群と試験薬群(25mgを一日一回、経口投与)に無作為化割付して72週間治療し、病理学的評価と症状スコアの変化を二重盲検方式で比較した。米国国立医療研究所(NIH)が主導。プロトコルに従って実施された中間解析で成功認定された。

主評価項目である奏効率は偽薬群21%、試験薬群45%、p=0.0002で有意な差があった。治療効果は症状の進行した患者のほうが大きかった。脂肪症や小葉炎症、ALTやAST、総ビリルビン値などの代理マーカーも有意に改善した。尤も、これらの代理マーカーの変化が患者のQOLにどのように、どの程度影響するかは判然としない。症状スコアの解析は有意な差が無かった。

忍容性面での懸念も表面化した。LDL-C値が上昇するため必要に応じて治療するプロトコルだったが、それでも10mg/dL上昇した。インスリン抵抗性も悪化する可能性が示唆された。また、体重が偽薬群比2.3kg減少した。症候性副作用では、23%で掻痒が発生(偽薬群は6%)、多くは中程度で、一人が治験離脱した。更に、薬物関連とは見做されなかったが、試験薬群の二名が死亡した。

一方で、中間解析成功が発表された時点で懸念が報じられた心血管リスクに関しては、結局、結局、重度有害事象も、うち心血管に関するものも、群間の偏りは無かったようだ。

これらのことから、Lancet論文は、長期的な便益と安全性をもっと明確にする必要があると結論した。インターセプトは第三相に進む考えだ。NASH試験では25mgを一日一回、経口投与したが、原発性胆汁性肝硬変の試験のように最初の半年は5mgを使ってその後、忍容性を確認しながら10mgに増量する用法なら忍容性が向上するかもしれない。

リンク:インターセプト社のプレスリリース

リンク:Lancet論文の抄録

アムジェン/武田、trebananibの第三相の一本目はフェール

(2014年11月4日発表)

アムジェンは、AMG386(trebananib)の第三相難治性卵巣癌試験の二次的評価項目である全生存期間の解析がフェールしたと発表した。主評価項目であるPFS(無進行生存期間)の解析は成功したが、治療効果は決して高くなかった。延命効果もないとなると、この試験で承認申請するのは困難だろう。他の二本の試験の結果を待つことになる。尚、アムジェンと腫瘍学分野で広範な提携関係にある武田薬品も類似した内容のプレスリリースを出している。

AMG386はVEGF受容体ではなくTie 2受容体のレガンドであるアンジオポイエチン1と2を中和するペプチバディ(Fc・ペプチド融合蛋白)。卵巣癌の第三相は再発治療試験が二本、一次治療試験が一本で、前者は白金薬治療に部分感受または抵抗性の患者を組入れて、今回の試験はpaclitaxelと併用する効果をpaclitaxelだけの群と、もう一本はDoxil(doxorubicinリポソーム製剤)との併用と単剤を比較、一次治療試験はpaclitaxel・carboplatinと三剤併用する効果を検討した。

一本目は昨年6月にPFS解析成功が発表された。メジアン値が5.4ヶ月から7.2ヶ月に1ヶ月強延長し、ハザードレシオ0.66、pは0.001を下回った。しかし、一番重要な全生存期間はメジアン18.3ヶ月から19.3ヶ月に1ヶ月しか延びず、フェールした。有害事象による治験離脱の発生率が7%対20%と高いことが影響したのかもしれない。

類似した作用機序を持つAvastin(bevacizumab)の初期の第三相卵巣癌試験でもPFSは延びたが全生存期間は大差なく、FDAは承認しなかった。アムジェンも延命効果が確認されたら承認申請、駄目なら開発中止というスタンスである模様だ。

米国の新薬承認が早いのは代理マーカーを活用しているからだが、その裏では、代理マーカーの有効性を厳しくチェックしている。PFSは無増悪生存期間と訳されることが多く、増悪が遅れるなら良いような印象を与えるが、実際には腫瘍の大きさなど症状とは必ずしも連動しない基準に基づく評価である。腫瘍の成長が21%であっても19%でもそれほど大きな差は無いが、PFSの判定では進行と未進行で線引きされてしまう。

判定の客観性を担保するためにはやむを得ないのだが、一方で、副作用という有害症状は必ず発生するので、QOLが改善するのか、それとも悪化するのかを十分に吟味する必要がある。

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認申請】


GSK、抗IL-5抗体を承認申請

(2014年11月5日発表)

グラクソ・スミスクラインは、SB240563(mepolizumab)を欧米で承認申請したと発表した。好酸球増多型重度喘息症の維持療法として100mgを4週間に一回、皮注する。抗IL-5完全ヒト化抗体で、08年に欧州で承認申請したが承認されず、好酸球増多型だけを組入れた第三相試験を実施して増悪リスク削減効果を確認した上で再申請となった。

リンク:GSKのプレスリリース

ヴァーテックス、第二の膿胞性線維症用薬を承認申請

(2014年11月5日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は、VX-809(lumacaftor)とKalydeco(ivacaftor)を12歳以上のホモF508欠損型膿胞性線維症の併用療法として欧米で承認申請したと発表した。

膿胞性線維症はCFTR遺伝子の機能不全が関与している。KalydecoはCFTRのポテンシエイターで、G551D型などの変異を持つ患者に承認されている。VX-809はCFTR矯正剤と呼ばれる新薬で、CFTRが細胞の表面に移行して機能を果たすのを支援する。ホモF508欠損型は両親から受け継いだ遺伝子がどちらもF508欠損型で、12歳以上の患者数は米国で8500人、欧州で12000人と推定されている。

患者が多く、また用量も大きいので、Kalydecoの売上高にも大きく寄与するだろう。

リンク:ヴァーテックスのプレスリリース

ギリアド、TAF配合剤を承認申請

(2014年11月6日発表)

ギリアド・サイエンシズ(Nasdaq:GILD)は、tenofovirの新しい塩であるTAF(tenofovir alafenamide fumarate)を配合した4剤合剤を米国で承認申請したと発表した。従来の塩であるTDF(tenofovir disoproxil fumarate)と同様にプロドラッグだが、用量が1/30なので合剤を開発しやすく、また、TDFより腎機能や骨塩密度に与える悪影響が小さい長所を持つ。

この合剤は、分かりやすく言えば、Stribild(和名スタリビルド配合錠)のTDFをTAFに替えたもの。日本たばこからライセンスしたインテグラーゼ阻害剤elvitegravir、3A4阻害剤cobicistat、逆転写阻害剤emtricitabineとTAFを配合している。欧州でも年内に承認申請する予定。

TDFは数年後に特許切れするので、同社がラインアップする数多くのTDF配合剤の需要をTAF合剤に切り替えさせることができれば業績面でポジティブだ。

リンク:ギリアドのプレスリリース(HPにアクセスできなかったためBusiness Wireのサイト)

ベーリンガー、スピリーバを喘息症に適応拡大申請

(2014年11月4日発表)

ベーリンガー・インゲルハイムは、Spiriva Respimat(tiotropium、和名スピリーバ レスピマット)を難治性喘息症の成人の維持療法薬として米国で承認申請し、受理されたと発表した。EUでは今年9月に、吸入ステロイドとベータ2作用剤を併用しても増悪を十分に管理できない成人患者向けに承認されている。

COPDと喘息症は病理や発症年齢など多くの点で異なる疾患と考えられていたが、COPDの研究が進むにつれて案外に共通点があったり、併発症例も報告されるようになった。薬に関しても吸入ステロイドとベータ2作用剤はどちらの治療にも用いられているが、Spirivaのようなムスカリンブロッカーも承認されれば、また一つ共通点が増えることになる。上記の抗IL-5抗体もCOPD試験が進行中だ。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ノバルティス、FDA諮問委員会が再び承認に反対

(2014年11月6日発表)

ノバルティスは多くの有望開発品を持っていて、その幾つかは承認審査中だが、急性心不全治療薬として承認申請されたReasanz(serelaxin)に続いて、多発骨髄腫用薬Farydak(panobinostat)もFDA諮問委員会から厳しい評価を受けた。腫瘍学薬諮問委員会で7人の委員のうち5人が便益がリスクを上回るとは言えないと判定したのだ。今回も、第三相試験の結果が学会発表された時には明かされなかった問題点が表面化した。

panobinostatは汎ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤で、ヒストンやチューブリン、p53などの転写を妨げる酵素を阻害する。第三相試験では、再発性難治性の多発骨髄腫768人を組入れて、Velcade(bortezomib)及びdexamethasoneと三剤併用する効果をこの二剤だけを投与する群と比較した。PFSは二剤併用群がメジアン8.1ヶ月、三剤併用群は12.0ヶ月となり、ハザードレシオ0.63、p値は0.0001未満と大変良い結果となった。一方、深刻な有害事象は増加した。

問題点は、第一に、プロトコルと異なる基準に基づいて進行判定された症例が散見されたこと。基準を統一するために第三者による中央評価を行ったところ、メジアン7.7ヶ月対9.9ヶ月と、有意だが小さな差しか見られなかった。こういう場合は全生存期間の解析に頼るしかないが、まだ解析に必要なイベント数に到達しておらず、中間解析値もメジアン30.4ヶ月と33.6ヶ月で3ヶ月しか違わなかった。

忍容性では、有害事象による治験離脱が20%対36%と試験薬群の方が多く、深刻な有害事象の発生率も42%対60%と多かった。更に、治療中に癌の進行以外の理由で死亡した患者の比率も3.5%対7%で多かった。

治療の便益は十分に確立しておらず、副作用で死亡するリスクも決して小さくないとなると、承認反対が上回ったのも無理はないだろう。この第三相試験は日本の施設も参加しており、9月に日本でも承認申請されたが、機構はどのような判定を下すだろうか。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

【承認】


JNJ、ソブリアードとSovaldiの併用が正式承認

(2014年11月5日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンは、慢性C型肝炎治療薬Olysio(simeprevir、和名ソブリアード)をギリアドのSovaldi(sofosbuvir)と二剤併用する用法が米国で承認されたと発表した。

インターフェロンやribavirinを併用する必要がないため米国では既にオフレーベルで広く用いられている。正式に承認されれば能動的な販促が可能になるが、この二剤を併用すると12週間コースで15万ドルかかる。10月に米国で承認されたギリアドの合剤、Harvoni(sofosbuvirとledipasvir)の9.4万ドルと比べて効果は大差ないのにあまりにも割高。

JNJが対抗するためにはOlysioの価格を6.6万ドルから1万ドルに下げる必要があり、断行するか、Harvoniが承認されていない国に重点を置くか、難しい判断を迫られることになる。

リンク:JNJのプレスリリース

イーライリリー、Cyramzaの併用療法が米国で承認

(2014年11月5日発表)

イーライリリーは、FDAがCyramza(ramucirumab)を末期・転移性胃癌の二次治療にpaclitaxelと併用することを認めたと発表した。この抗VEGFR-2完全ヒト化抗体は今年4月に二次治療として単剤投与する用法で初承認された。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

今週は以上です。

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2014年11月2日

海外医薬ニュース2014年11月2日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • 米国のエボラ症例の概要
  • エボラ流行三ヶ国の概要
  • BMS、オプジーボの肺癌データを公表
  • FDA諮問委員会、リクシアナの承認を支持したが...
  • B群髄膜炎菌ワクチンが米国で承認


【今週の話題】


米国のエボラ症例の概要

米国のエボラ感染者に関する報道を読んでいて印象的なのは、転帰がそれほど悪くないことと、実名報道の多さだ。断片的ではあるものの、個々の患者の治療法も報じられている。そこで、新聞報道を元に、症例概要を纏めてみた。

その過程で感じた重要な教訓は、エボラウイルス疾患は治療することができるということだ。米国では5名が現地で医療従事中に感染、うち10月に感染したばかりの患者2名以外は既に治癒して退院した。感染後に米国で発症したリベリア人は診断・治療が遅かったせいか死亡したが、この患者のケアを行った2名の看護師は無事退院できた。現地取材中に感染したフリーランスカメラマンも退院した。入院中の2名を除くと、死亡は7人中1人、1割だけである。

三ヶ国での死亡率と比べて低いのは何故か?異なった国の医療を比較するのは困難であり、専門家にとっても難問のようだが、治癒例と死亡したリベリア人には幾つかの大きな違いがある。第一は、生存患者は深刻な伝染病の治療に習熟した医療施設で治療を受けたこと。第二は、患者自身が医師や看護師で感染症に対処する知識を持っていた、または、現地取材に際して十分なブリーフィングを受けていたと考えられること。だから、多少の紆余曲折はあったにせよ、早い段階で自己申告して治療を受けることができた。

治療法としては、下痢や嘔吐による脱水が激しい模様なので、水分補給や不足した電解質を補給する支持療法が有効である模様だ。効果のほどはまだはっきりしないが、多くの患者が回復期血漿や開発中の抗ウイルス剤を用いており、アベイラビリティの問題はあるものの、現時点での標準療法になりつつあるように感じられる。

次項で紹介するように、流行三ヶ国は貧しく、医師や医療施設が足りず、一方、患者数ははるかに多い。米国とは話が全く違うのだが、日本にとっては流行防御策も含めて米国のほうが参考になるのではないだろうか。私が提案したいのは、エボラは治療できることを広く知らしめることだ。

日本がエボラの拡散を防ぐ上で重要なのは、流行三ヶ国から来た人が発熱した場合に、速やかに自己申告することだ。ところが、最近は自己申告を妨げるような出来事が増えている。例えば、NY州は三ヶ国から来た人を強制隔離する措置を打ち出した。オーストラリアやカナダのように、三ヶ国からの渡航を拒否する国も出てきた。これだけ忌み嫌われたら、米国人でも流行国に滞在したことを隠そうとするかもしれないし、最初に嘘をつくと、発熱しても直ぐには病院に行き難くなるだろう。

エボラ患者として治療を受けるとマスコミが殺到して患者の状況をスクープしようとする。病気に関する情報は機微情報だがジャーナリストは気にしない。プライバシーをズタズタにされるリスクも自己申告を躊躇する理由になりうる。ここで明記したいのは、米国でも匿名のままの患者がいることだ。日本のジャーナリストは、エボラならプライバシーを破っても許されると誤解してはならない。新型インフルエンザの初症例のように、未成年者を追い掛け回すのは人間として最低、ジャーナリストとしても標的を間違えている。

一般的な認識は、エボラは死亡率が高く治療法はない。それなら隔離されて寂しく死ぬよりも残された時間を有効に使う方を選ぶかもしれない。だが、治る可能性が高いなら話が違う。早期治療が重要であることを知っていれば直ぐに自己申告するだろう。エボラは治療できる。早期治療が重要。今日ではSNSのような民間主導の情報伝達手段もあるのだから、この二つのメッセージを広く伝えることが重要だ。

米国のエボラ症例

Kent Brantly:リベリアでSamaritan's Purseの一員としてエボラ治療に携わり7月に感染、ZMappを使用、8月に帰国してアトランタのEmory University Hospital(以下、エモリー病院)で治療、発症から4週間後に退院。回復期血漿(感染から回復した患者の血清:ウイルスに対する抗体が含まれている可能性が高い)による治療を受け、自身も回復後に血漿を血液型の合う患者に提供。

Nancy Writebol:リベリアでServing in Missionの一員としてエボラ患者のケアに携わり7月に感染、ZMappを使用、8月に帰国してエモリー病院で治療、その後退院。回復期血漿を他の患者に提供。

Rick Sacra:リベリアでServing in Missionの一員として産婦人科医療に従事中に感染、9月に帰国してオマハのNebraska Medical Center(以下、ネブラスカMC)で治療、帰国の21日後に退院。Brantlyの回復期血漿とTekmira(Nasdaq:TKMR)のTKM-Ebolaを使用。

匿名患者:シエラレオネでWHOの下で勤務中の10月に感染、帰国してネブラスカMCで治療。英国人Will Pooleyの回復後血漿を使用した模様。

Craig Spencer:Doctors Without Borders(国境なき医師団)の一員としてギニアでエボラ治療に携わり、帰国の7日後に発症、ニューヨークのBellevue Hospital Centerに入院。Writebolの回復期血漿とChimerix(Nasdaq:CMRX)のCMX001(brincidofovir)を使用。発症前にあちこち出掛けたため、NY州が規制強化する契機となった。

Thomas Duncan:リベリア人。訪米の4日後に発症、翌日にTexas Health Presbyterian Hospital(以下、THP病院)の救急科に行ったが抗生剤を貰って帰宅、その3日後に救急車で搬送され、入院。激しい嘔吐や下痢が見られた。発症の2週間後に当たる10月8日に死亡。brincidofovirを使用したが発症の10日後で既に呼吸不全、臓器不全の状態だった模様。

リベリア出国時には発熱もエボラ患者接触歴もないと回答したため、リベリア大統領が帰国したら処罰すると非難。THP病院は当初、最初の来院時にリベリア渡航者であることを見落としたのは電子カルテシステムのせいと発表したが、後に訂正。

Nina Pham:THP病院でDuncanのケアを行った後、Duncan死亡の2日後に発症、翌日に陽性判定、その翌日の検査でも陽性となり診断確定、その4日後にNIHクリニカルセンターに転院、発症の2週間後、転院の8日後に当たる10月24日に退院。Brantlyの回復期血漿を使用。二次感染が発生したためプロトコルや器具、CDC(疾病管理予防センター)の対応に関する議論を呼んだ。

Amber Vision:THP病院でDuncanのケアを行った後、Duncan死亡の6日後に発症、翌日に陽性判定、エモリー病院に入院、発症の2週間後に退院。当初、彼女が発熱にもかかわらずクリーブランド発ダラス行きの飛行機に乗ったのは無分別という批判があったが、実際には搭乗前にCDCに相談、熱が基準より低かったため容認された経緯が判明、一転してCDCが批判を受けることになった。日本でエボラを疑われた患者が37度台に過ぎなかったのに一時隔離されたのは、この前例を参考にしたのではないか。

Ashoka Mukpo:フリーランスカメラマン。NBCの取材チームの一員としてリベリアで取材中に感染、帰国してネブラスカMCで治療、発症の19日後に退院。Brantlyの回復期血漿とbrincidofovirを使用。

それ以外の欧米等の症例

Patrick Sawyer:リベリアから米国に帰化。リベリアからナイジェリアに出張した7月20日に発症、5日後に死亡。治療に当たった医療従事者数人が二次感染で死亡。ナイジェリア政府がエボラを持ち込んだと非難。

Manuel Viejo:聖職者。シエラレオネでボランティア活動中に感染、スペイン帰国の4日後に当たる9月25日に死亡。69歳。

Miguel Pajares:聖職者。リベリアでボランティア活動中に感染、スペイン帰国の6日後に当たる8月12日に死亡。ZMappを使用。75歳。

Teresa Romero:アフリカ以外での最初の感染者。マドリッドのCarlos III HospitalでViejoとPajaresの看護を行なう。10月6日に陽性判定が出て隔離、10月19日にウイルス消失。カトリック尼僧の回復期血漿と抗ウイルス剤(病院側は公表していないが富山化学のfavipiravir(和名アビガン)と報じられている)を使用。ZMappの類似品であるZMabの提供をオファーされたが、医師が副作用を懸念して使わなかったと報じられている。

Will Pooley:英国人で初の感染者となった男性看護師。シエラレオネで看護従事中の8月24日に発症。死亡した感染者の子供(後に発症して死亡)と遊んでいて感染した可能性。8月25日に英国に搬送されRoyal Free Hospitalに入院、直ぐにZMappを長時間連続投与したところ軽快、入院の9日後に退院。嘔吐や出血症状は無かった模様。

匿名フランス人患者:国境なき医師団の一員としてリベリアで医療に従事中に感染、9月18日に帰国し軍の病院で治療、16日後に退院。favipiravirを使用。

ドイツ症例:ドイツは自国民以外の受け入れを表明した唯一の国である由。セネガル、ウルグアイ、スーダンの疫学者、医師、国連職員の3名が搬送され、一人は退院、一人死亡。

エボラ流行三ヶ国の概要

米国は一日に27.5万人が飛行機で来訪するが、そのうちギニア、リベリア、シエラレオネの三ヶ国は150人以下とのことだ。旅行者経由で持ち込まれる可能性は低く、一番気を付けなければならないのは現地で医療に携わる人たちの帰国後と考えていたが、上記のように、懸念された通りの結果になっている。

私たちにはあまり縁のない国だが、HIV/AIDSのような、アフリカの貧しい国で育ったウイルスが世界に拡散する事態を防ぐためには、これらの国の医療や経済を支援することが重要だ。情けは人の為ならず、向こうの国が援助頼みになり自立心を失わせる結果になるかもしれないが、私たち自身にとって必要なのである。

そういう私自身、最初はリベリアとリビアを混同していたくらいで知識がない。そこで、以下、外務省やCIAの資料を纏めてみた。

三ヶ国とも元植民地で、ギニアは1958年にフランスから独立。リベリアは1947年に米国から、シエラレオネは1961年に英国から独立したが、元々は解放された奴隷の移住地として開発された地域とのことだ。人種差別を止めて奴隷を故郷に帰すのは極めて人道的な行為だが、50~170年経っても国は貧しいままである。民族間宗教間の対立による内乱、戦争、政治不信、伝染病。エボラは国民の不幸の一つにしか過ぎない。

表にするとレイアウトが崩れる可能性があるため、以下、ギニア、リベリア、シエラレオネの順にデータを列挙する。カッコ内は日本。

人口:1170万人、430万人、610万人 (12710万人)

メジアン年齢:18歳、18歳、19歳 (46歳)

一人当たりGDP(PPP):1100ドル、700ドル、1400ドル (37100ドル)

医師数(人口千人当たり):0.1人、0.01人、0.02人 (2.14人)

病床数(同):0.3、0.8、0.4、13.7

HIV/AIDS罹患率(成人):1.7%、0.9%、1.5%、0.1%未満

進出日本企業数:なし、1社、なし

在留邦人:30人、7人、19人

在日当該国人:314人、34人、50人

サハラアフリカでは珍しくないことだが、メジアン年齢の低さには愕然とする。壮年・高齢者はどこに行ったのか?伝染病か、戦乱か、貧困か?ギニアはボーキサイト、リベリアやシエラレオネはダイアモンドが主要産品となっている。国民を豊かにする方法はあるのではないかと思われるが、何とかならないのだろうか。

【新薬開発】


BMS、オプジーボの肺癌データを公表

(2014年10月30日発表)

BMSは、小野薬品と共同開発している抗PD-1抗体、Opdivo(nivolumab、和名オプジーボ)の第二相肺癌試験のトップラインデータを、学会(Chicago Multidisciplinary Symposium in Thoracic Oncology)とプレスリリースで公表した。良好な内容であり、細部に悪魔が潜んでいなければ、来年にも米国で承認されるだろう。

Tセルは活性化刺激や抑制的刺激を受け止める表面分子を持っている。PD-1は活性化したTセルが発現する抑制的刺激受容体。癌細胞はレガンド(PD-L1)を発現してTセルを鎮静化させてしまうので、抗体医薬を結合させてブロックしてしまうアイディアが抗PD-1抗体だ。9月にMSDのKeytruda(pembrolizumab)が米国で末期黒色腫のサルベージ療法として承認された。Opdivoも同じ用途で欧米で承認申請され、米国は3月までに審査結果が出る見込み。

今回の肺癌は、3月にローリング承認申請を開始。おそらく今回のデータを提出して承認申請完了、間に合えば第三相試験のデータを追加提出ということになりそうだ。MSDも肺癌でブレークスルーセラピー指定を取得したばかりだが、肺癌に関してはBMSの方が先行しているので重要な適応症になる。

このCheckMate-063試験は、扁平上皮非小細胞性肺癌で白金薬を含む二次治療以上の治療歴を持つ患者117人を組入れた単群試験。用量は悪性黒色腫と同じで、3mg/kgを二週間に一回、静注点滴した。単群試験なので主評価項目はORR(客観的反応率)。RECIST 1.1版を用いて評価し、独立放射線学的委員会が担当医の評価を検証した。

結果は、ORR15%、95%信頼区間8.7~22.2、反応持続期間のメジアンは未達(全患者を11ヶ月以上追跡)。肺癌の試験としては良好な結果である。IL-2やインターフェロンのような免疫強化療法薬は反応率が低くても反応した患者は効果が持続する傾向がある。今回の試験でも、1年生存率が41%と、扁平上皮非小細胞性肺癌三次治療の文献データである5~18%と比べて良好だった。但し、生存期間は患者背景に左右されるので、無作為化割付対照試験のデータほどは信頼できない。

抗PD-1抗体はPD-L1発現状況が反応予測因子になりうるが、この試験では相関性が見られなかった模様だ。陽性/陰性の閾値を変えても相関しないのかどうかは不明。

抗PD-1抗体は免疫刺激による副反応など多くの副作用を持つ。この試験ではG3/4の薬物関連有害事象が17%の患者で発生した。内容は疲労、肺炎、下痢など。薬物関連死亡は2例。元々色々な症状があるOpdivoに反応しなかった患者である由だが、精査が必要だろう。免疫刺激による副作用は奏功例ほど多いかもしれないが、もし反応率が低く副作用の多いサブグループが発見出来たら患者にはメリットがある。上記のPD-L1も含めて、承認後も検討が必要だろう。

非小細胞性肺癌の第三相試験は、扁平上皮腫とそれ以外を夫々に対象とした二次治療docetaxel対照試験が進行中。どちらも主評価項目は全生存期間で、二次的評価項目としてPD-L1発現とORR、PFS(無進行生存期間)、全生存期間との関連性も検討する。扁平上皮腫の方は米国承認前に成否が判明するだろうから、承認内容にも影響しそうだ。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会、リクシアナの承認を支持したが...

(2014年10月31日発表)

FDAは10月30日に心血管腎臓薬諮問委員会を招集し、第一三共が承認申請したSavaysa(edoxaban、和名リクシアナ)の適応症の一つである非弁性心房細動(NVAF)のデータについて検討させた。10人中9人の委員が承認に賛成したが、対象が腎機能低下患者に限定される可能性がありそうだ。

Savaysaは過去6年間に続々と登場した経口抗凝固薬の一つ。これまでにベーリンガー・インゲルハイムのPradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)、BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)が承認されている。ファースト・イン・クラスの薬は承認のハードルが低いが、2番目、3番目と進むにつれて上がっていく。症例が積み重なるにつれ欠点も表面化するからだ。

Savaysaは日本では11年に下肢整形外科手術時の静脈血栓塞栓(VTE)予防で初承認、14年にNVAFの脳卒中予防と症候性VTE治療に適応拡大したが、欧米では今年1月にNVAF、症候性VTE治療、VTE再発予防(長期治療)の三用途で承認申請された。今回の諮問はNVAFだけで、委員会を招集したのは、承認審査に関わる部署の間の意見対立が背景であった模様。

事の発端は、第三相ENGAGE AF-TIMI 48試験のサブグループ分析で、腎機能が正常な患者に関する効能が明確でなかったこと。試験全体では60mg群の脳卒中リスクがワーファリン群と比べて非劣性、二次的評価項目の優越性解析では有意水準には届かなかったが優れるトレンドが見られた。しかし、腎機能が正常な患者(全体の1/3を占める)だけの解析ではハザードレシオ1.41と点推定値上はリスクが高く、95%信頼区間は0.97~2.05とリスクが倍以上である可能性が否定されなかった。

ワーファリンは脳卒中のリスクを6割削減する。Savaysaのリスクがもしワーファリンの2倍だとしたら、殆ど効果がないことになる。この種のサブグループ分析は慎重に考える必要があり、また、症例数が少ないので信頼区間は広くなる。しかし、こういう場合の鉄則は、薬にとって都合の良いことは懐疑的に受け止め、薬効不足や副作用のような不都合な事実は真剣に受け止めることだ。既に三種類の薬が存在し、独自の長所を持っているわけでもないので尚更である。

このデータは偶然かもしれないが、薬物動態的に説明できないでもない。edoxabanは半分が尿から、半分は糞便から排泄されるので、腎機能低下患者では血中濃度が上昇する。このため、CrCLが15~50mL/分の中度腎障害患者は量を半減する用法が採用された(体重60kg以下や薬物相互作用のある薬を服用する患者も半減する)。50~80mL/分の軽度腎障害患者は用量調整不要だが、薬物動態試験では、80mL/分以上の腎機能正常患者よりも暴露が1.4倍大きかった。

このことは、60mgは軽度腎障害患者には適切だが、正常腎患者には足りないことを示唆している。FDAの統計学的評価を行う部門がモデル分析に基づき正常腎には75~90mgを承認すべきと主張、意見対立が発生した。第三相試験でテストされた用量より多い量を承認するのは珍しいが、プラザクサの市販製剤は第三相試験で用いられた製剤より最大10%暴露が大きい由で、前例がない訳ではない。しかし、プラザクサはこの程度なら差が無いという判断、Savaysaは臨床的な差があることを前提とした議論なので、同一視すべきではないだろう。

FDAは承認すること自体には異論はないようだ。諮問委員も10人中9人が賛成した。問題は、第一に、対象を軽中度腎機能障害を持つ患者に限定すべきかどうか。第二に、正常腎も適応にする場合は用量を60mgより増やすべきかだ。

正常腎には薬効不足というサブグループ分析を偶然と判定したのは5人、リアル(現実)と考えたのは5人と、意見が分かれた。軽中度患者限定を支持したのは2人。正常腎に用量を増やすことに賛成したのは二人だけで、そのうち一人は、増やさないのだったら正常腎を適応とすることに反対と表明した。

FDA諮問委員会は、EUのCHMPと異なり、承認の是非を決める権限は持たない。諮問されたことについてだけ検討し意見を述べるだけだ。採決結果はあくまで参考に過ぎず、FDAは、採決結果に従うことも、その後のメーカー側との検討などに基づいて異なった判定を行うこともある。賛成率90%は良い数値だが、元々の重点議題である正常腎への対応に関しては反対意見も多かったので、最終的に、腎機能低下だけに承認される可能性が残っているだろう。

対象患者数が3~4割減少することになるが、おそらく、それ以上の影響があるだろう。医師にしてみれば様々な薬が存在する中で一部の患者にしか使えない薬をわざわざ選択する理由がない。そもそも、治療中に腎障害が中度に進行したり体重が60kg以下になったら用量を半減するというSavaysaの用法は面倒だ。患者にベストな医療を提供する上では重要な用法であり、もしかしたら他の薬も同じ用法を採用すべきなのかもしれないが、一般のパーセプションは、薬物動態が特殊だから格別の手間が必要と受け止めるのではないか。

FDAは、腎機能低下だけに承認する場合の選択肢として、誤って正常腎に用いないよう処方流通管理策を導入することを示唆している。実現した場合、医師の面倒がまた一つ増えることになる。

正常腎にも承認されたとしても4番目の薬なので市場性は大きくないが、軽中度腎機能低下だけに承認された場合は競争条件が大きく悪化するだろう。

リンク:第一三共のプレスリリース(和文)

【承認】


B群髄膜炎菌ワクチンが米国で承認

(2014年10月29日発表)

FDAは、初のB群髄膜炎菌ワクチンであるTrumenbaを承認したと発表した。ファイザーの開発品で、審査期限より3ヶ月早いスピード承認だ。髄膜炎菌は肺炎球菌と同様に髄膜炎を起こす。A、C、W、Y群のワクチンが普及し感染者が減少したが、近年はB群感染症例が増加、米国でも2012年は4割を占めるようになった。欧州では13年にノバルティスのBexseroが承認されたが、米国は遅れ、結局ファイザーの開発品が先に承認された。

B群は種類が多く、BexseroもTrumenbaも万能ではないが、後者の場合、米国に多い4種類の株に対する抗体が82%の患者で誘導できた。10~25歳の人が半年間に三回接種する。将来的には他の髄膜炎菌ワクチンなどとの複合ワクチンが開発されるのではないか。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:ファイザーのプレスリリース

今週は以上です。

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