2014年9月6日

海外医薬ニュース2014年9月7日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • エボラウイルス疾患治療薬・ワクチンの開発・準備状況
  • デング熱ワクチンの第三相試験が成功
  • テバの抗IL-5抗体も第三相成功
  • Cometriqの前立腺がん適応拡大試験はフェール
  • アクタビス、IBS-D治療薬と抗菌剤を米国で承認申請
  • アムジェン、高脂血症治療薬と悪性黒色腫用薬をEUに承認申請
  • 抗PD-1抗体が米国でも承認
  • リオナが米国でも承認
  • TriumeqがEUでも承認


【今週の話題】


エボラウイルス疾患治療薬・ワクチンの開発・準備状況

(2014年9月3日発表)

WHOは9月4~5日にエボラウイルス疾患の治療薬やワクチンの開発・臨床応用に関する会議を開催した。ウェブサイトにブリーフィング資料が公開されたので、纏めておこう。

一番残念だったのは、富山化学/富士フィルムのアピガン(ファビピラビル)がサル試験で良好な成績を残せなかったことが判明したことだ。生存できたのは6頭中1頭だけだった。用量を増やして追加試験中とのこと。

改めて日本の審査文書を読んでみると、なぜインフルエンザ治療薬として承認されたのか、良く分からない。日本韓国台湾で実施された第三相試験ではタミフルに対する薬効の非劣性は確立しなかった。承認された用量はこの試験の用量より多い。承認の条件としてこの用量で日本人の薬物動態試験と薬効確認試験の実施を求めており、極言すれば、承認しないのと大差ない扱いである。鳥インフルエンザが大流行した時に備えて取り敢えず承認したということなのだろうが、乱暴な話だ。

他の開発品は当面は数十~数百人分しか用意できないようなので、結局、頼りにできそうなのはエボラ感染から回復した患者の血漿だけのようだ。ウイルスを克服できたのだから十分な量の抗体があるはず、という考え方だが、この資料にはエビデンス不十分と記されている。将来性の点では、抗体カクテル療法に加えて、TekmiraのTKM-Eboraも良さそうだ。常温保存できることも好ましい。

治療に当たる医療従事者や患者の家族を守るためにワクチンも重要だ。GSKのチンパンジー感染型アデノウイルスを用いるワクチンが今月、第三相試験に向かう予定。NewLink Genetics(Nasdaq:NLNK)の子会社であるBioProtection Systemsが開発している弱毒化水疱性口内炎ウイルスを用いるワクチンも臨床入りする予定。

1万人規模の治療薬・ワクチンを年内に予防することは難しそうだが、支持療法だけでも生存率を向上できる可能性があるなら、キチンと宣伝しておくことが重要だろう。エボラに感染した医師が医療行為を続けて多くの病人や家族、友人に感染させた事件が報じられているが、罹患を隠す理由の一つは、自己申告しても忌み嫌われるだけ、どうせ治療法はないのだから何のメリットもない、と考えるからだろう。希望が残っていることを広く知らしめなければならない。

以下は、BACKGROUND DOCUMENT:POTENTIAL EBOLA THERAPIES AND VACCINESより治療薬候補に関する記述を抜粋した。

回復期血漿:感染から回復した患者の血漿が有効という研究もあるが解釈が困難。他のウイルスが感染するリスクがある。エボラ感染が却って酷くなる可能性も。回復期血漿の最初のバッチは14年末までに利用可能になりそう。

ZMapp(Mapp Biopharmaceutical):三種類のマウス・ヒト・キメラ抗体のカクテル。ウイルスのエンベロープのそれぞれ異なった箇所に結合またはコーティングしてウイルスをブロックまたは中和する。サルの試験で感染の最大5日後に治療開始して強度の生存を示した。ヒトに対する有効性や安全性は正式には評価されていない。10コース足らずの薬剤しか現地に供給されていない。生産をスケールアップして年末までに数百回分を供給する努力が行われている。

TKM-100802(TekmiraのTKM-Ebora):ウイルスの二つの本源的な遺伝子を標的にして複製できなくする。サルの試験で感染48時間後に投与して83%が生存、72時間後投与は67%。健常者の単回投与試験で高用量は心拍数増加や頭痛などの副作用が見られたが治療に用いる低用量では忍容性が比較的良好。限られた量しか利用可能でない。15年初めまでに900コース分を生産できる可能性。点滴静注。常温保存可。

AVI7537(Sarepta):感染時から14~40mg/kgを14日間投与したサルの試験で60~80%が生存。ヒトでも早期試験で忍容性が示された。10月中旬までに20~25コース分のAPI(バルク)が利用可能に。15年初めまでに約100コース分を生産できる可能性。

favipiravir(富山化学のアビガン):マウスでは有効性を示したがサルの試験では6頭中1頭のみ生存。用法を変えて試験中。インフルエンザ治療薬として日本で承認。治験症例1000人以上で重大な有害事象は報告されていない。しかし、エボラの治療に提案されている用量はインフルエンザの2~5倍多く、治療期間も長くなる可能性。催奇性を持つので妊婦に投与すべきではなく、妊娠検査や避妊薬服用が必要になる可能性。暴露後の予防に用いることを検討中。用量次第だが1万コース以上を利用できる可能性。最大で一日18錠服用しなければならない可能性があり悪心の患者には適さない可能性。

BCX4430(バイオクリスト):げっ歯類の試験で生存率83~100%。サルの試験が進行中。ヒトの安全性試験を開始する予定。薬効が示唆されるまで使用を検討できない。薬剤も現時点では利用できない。

リンク:WHOエボラウイルス会議サイト

【新薬開発】


デング熱ワクチンの第三相試験が成功

(2014年9月3日発表)

日本人には何ともいえないタイミングで、サノフィがデング熱ワクチンの第三相試験成功を発表した。08年にアカンビス社を買収して入手した弱毒化黄熱病ウイルスを用いる4価ワクチンで、一本目の試験(タイなどアジアの2~14歳の子供1万人を組入れた)ではワクチン効率が56.5%だったが、今回のラテンアメリカの9~16歳2万人を組入れた試験でも60.8%と、同じような結果になった。

通常の感染症予防ワクチンと比べると低いが、デング熱ワクチンの開発に成功したのは今回が初めてなので、意義が大きい。6ヶ月毎に三回、皮注する用法で、価格は一人分が10~100ドル程度と推測されているようだ。4種類の代表的な株のうち1型と2型に対する効果はやや弱いが、それでも感染症を30~40%予防することができる。

デング熱は世界で年0.5~1億人が感染し、うち50万人が重症化して入院する。WHOは2020年までに死亡者を5割、感染者を25%削減することを目標としており、ワクチン効率50~60%なら合格だろう。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

テバの抗IL-5抗体も第三相成功

(2014年9月2日発表)

世界最大のGE薬メーカーであるテバは特許性新薬の開発にも取り組んでいる。今回は、抗IL-5ヒト化抗体reslizumabの第三相試験が二本とも成功と発表した。中重度喘息症で薬物維持療法を行っても増悪を十分に防げないでいる、好酸球増加が見られる患者を組入れて、reslizumab(3mg/kgを4週間に一回静注)を投与したところ、12ヶ月間の増悪頻度が偽薬群より一本は50%、もう一本は60%、少なかった。欧米などで承認申請する予定。

喘息症の患者の一部は好酸球値が高く、病理に関与している可能性がある。好酸球の成熟、成長、走化性(移行)などに関与するのがIL-5で、グラクソ・スミスクラインなどが抗IL-5抗体の喘息症増悪予防試験を行い、好酸球増加型の患者に有効である可能性を見つけた。同社の完全ヒト化抗体、mepolizumabは第三相試験が成功、年内に承認申請に向かうだろう。好酸球増加型のCOPDでも第三相が始まった。

アストラゼネカも協和発酵キリンからポテリジェント抗体benralizumabを導入して第三相試験中。好酸球が増加していない患者も組入れて階層化し、本当に好酸球増加型にしか効かないのか確認する構えだ。

reslizumabの開発歴は長く、シェリング・プラウ(後にMSDが買収)がセルテック(後にUCBが買収)と共同開発したが02年に中止、07年にCeption社にアウトライセンス、09年にセファロンがCeptionを買収、そのセファロンを11年にテバが買収した。

リンク:テバのプレスリリース

Cometriqの前立腺がん適応拡大試験はフェール

(2014年9月1日発表)

エグエリキシス(Nasdaq:EXEL)は、Cometriq(cabozantinib)の去勢抵抗性前立腺癌試験がフェールしたと発表した。既存の薬が全てフェールした患者を組入れてステロイド(prednisone)と全生存期間を比較したが、メジアン11.0ヶ月と9.8ヶ月、ハザードレシオ0.90で有意な差が無かった。探索的な解析でPFS(無増悪生存期間)が5.5ヶ月対2.8ヶ月、ハザードレシオ0.5と良さそうな結果が出たが、私見では、これだからPFSを信用してはいけないのである。

CometriqはVEGFR2などを阻害する、数多の血管新生阻害剤の一つで切除不能甲状腺髄様腫に承認されている。腎細胞腫と肝細胞腫でも第三相試験中。腎細胞腫は多くのVEGFR2阻害剤の試験が成功しているが、それだけに、成績がよほど良くなければ出番は少ないだろう。肝細胞腫は前例の多くがフェールしている。結果が出るのは各15年と17年でしばらくかかるため、エグゼリキシスは人員削減を行って寿命を延ばす考え。

リンク:エグゼリキシスのプレスリリース

【承認申請】


アクタビス、IBS-D治療薬と抗菌剤を米国で承認申請

(2014年9月2日、5日発表)

フォレストと合併してダブリン籍の企業となったアクタビス(NYSE:ACT)は、eluxadolineをIBS-D(下痢主導型炎症性腸疾患)の治療薬としてFDAに承認申請した。ミュー・オピオイド受容体にはアゴニストとして作用し、デルタ・オピオイド受容体にはアンタゴニストとして作用する薬で、血液中に吸収されず局所的に作用する。75mgまたは100mgを一日二回、経口投与した第三相試験では、奏効率が23~29%と偽薬群の16~17%を有意に上回った。ジョンソン・エンド・ジョンソンからライセンスしたもの。

リンク:アクタビスのプレスリリース(eluxadoline、9/2付)

アクタビスは、CAZ-AVI(ceftazidimeとavibactamの合剤)をグラム陰性菌による複雑腹腔内感染症と複雑尿道感染症の治療薬としてFDAに申請し受理されたことも発表した。第三世代セフェム系抗生物質とベータラクタムと異なった構造を持つベータラクタマーゼ阻害剤の合剤で、先日、共同開発パートナーであるアストラゼネカが第三相試験の成功を発表している(8月24日号参照)。アクタビスはいつ承認申請するか明確にしていなかったが、既に申請していた訳だ。

ceftazidimeは単剤で承認されているので、この文献情報と合剤の第二相試験データを利用して505(b)(2)条項に基づく申請を行ったとのこと。典型的には既存の薬の異なった塩や剤型を申請する時に用いられる方法だ。第三相試験のデータは追加提出という形を取る。15年第1四半期の承認を見込んでいる。アストラゼネカはEUで15年第1四半期に承認申請する予定なので、半年から1年早く承認を取れることになる。

リンク:アクタビスのプレスリリース(CAZ-AVI、9/5付)

アムジェン、高脂血症治療薬と悪性黒色腫用薬をEUに承認申請

(2014年9月2日発表)

アムジェンは、AMG145(evolocumab)とtalimogene laherparepvecをEUで承認申請したと発表した。前者は抗PCSK9完全ヒト化抗体で、高脂血症の治療に月一回、皮注する。LDL-Cを50~60%削減することができる。心血管疾患予防効果は確立していないが、第三相試験のプール分析では、少なくとも悪い結果は出ていないようだ。

同じ作用機序を持つリジェネロン/サノフィのalirocumabは1年時点のプール分析で主要有害心血管イベントが偽薬群の半分だったことがESC欧州心臓学会で発表された。しかし、ポストホック分析でイベント数が50例足らず、全心血管疾患の発生率は偽薬群と大差なかったことを考えれば、まだ何とも言えないだろう。

米国では8月に承認申請。リジェネロン等も欧米で承認申請に向かう構え。

リンク:アムジェンのプレスリリース(AMG145)

talimogene laherparepvecは単純ヘルペスウイルスにGM-CSFの遺伝子を組入れたもので、切除不能黒色腫に直接注射すると、ウイルスが増殖して腫瘍を破壊し、免疫細胞がGM-CSFの刺激の下、腫瘍抗原に対する監視を強化する。第三相試験では持続的反応率が16%とGM-CSFだけを投与した群の2%を上回り、全生存期間でも好ましいトレンドが見られた。但し、遠隔転移や二次治療のポストホック・サブグループ分析では好ましい数値が出なかった。米国は7月に承認申請済み。

リンク:同(talimogene laherparepvec)

【承認】


抗PD-1抗体が米国でも承認

(2014年9月5日発表)

FDAは、MSDのKeytruda(MK-3475、pembrolizumab)を切除不能・転移性黒色腫用薬として承認したと発表した。審査期限より1ヶ月早かったが、ローリング承認申請された薬は期限前承認が珍しくない。腫瘍細胞がPD-L1/L2を免疫細胞のPD-1に結合させて抑制刺激を送り込むのをブロックする、抗PD-1ヒト化抗体。開発競争の第一幕は、日本では小野薬品・BMS連合のオプジーボが勝ち、米国はMSDが勝った。

第二幕はBMSのYervoyなど近年続々と登場している新薬との併用法の開発で、スピードアップと資金節約を目的に積極的な提携戦術が採用されている。

直接試験は実施されていないので効果や安全性の優劣は不明だが、Keytrudaの長所は投与が三週間に一回であること。Yervoyを含めて既存の薬も三週間毎が多いので、オプジーボのように併用するために何度も診療所に行く必要がない。尤も、オプジーボも二週間毎だけでなく三週間毎に投与する併用試験が進行中で、同じような薬なのだから不可能ではないのだろう。

良く分からないのはPD-L1発現状況と応答性の相関関係。肺癌では有益な応答性予測因子になりそうなので、閾値をどこに置くかなど、研究の余地が大きそうだ。開発競争で先んじても用法の至適化で出遅れたら後から来たのに追い越されるリスクがある。報道によるとKeytrudaの価格は年15万ドル相当、日本のオプジーボよりは安いが十分に高い。深刻な有害事象の発生率が36%、有害事象による治験離脱が6~9%と、免疫性疾患のリスクも高いので尚更、無駄打ちは避けたい。

もう一つのバトルフィールドが特許裁判だ。報道によるとBMSと小野が連邦デラウェア地裁に特許侵害でMSDを提訴した模様。命に係る病気の薬なので、まさか販売差止命令を請求することはないだろう。

リンク:FDAのリリース

リンク:MSDのリリース

リオナが米国でも承認

(2014年9月5日発表)

Keryx Biopharmaceuticals(Nasdaq:KERX)は、FDAがferric citrateを慢性腎疾患透析期の高リン血症治療薬として承認したと発表した。経口鉄剤で、台湾のPanion社から権利を取得したもの。日本では今年5月、Keryxの導出先である鳥居薬品がリオナとして発売した。

リンク:Keryxのプレスリリース

TriumeqがEUでも承認

(2014年9月3日発表)

GSKと塩野義製薬、ファイザーとのHIV/AIDS合弁会社は、TriumeqがEUで承認されたと発表した。塩野義が創製したインテグラーゼ・トランスフェラーゼ阻害剤dolutegravirと、GSKの核酸系逆転写阻害剤abacavir及びlamivudineを配合した錠剤で、一日一回服用で足りる。但し、ウイルス型によっては用量が足りず、また、abacavirを配合しているので深刻な過敏反応のリスクを調べるために事前にHLA-B*5701検査が必要。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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