2014年8月31日

海外医薬ニュース2014年8月31日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ZMappのサル試験論文が公開
  • ESC:ノバルティスの心不全治療薬が場外ホームラン
  • アムジェン、抗PCSK9抗体を米国で承認申請
  • アムジェン、Ifチャネル阻害剤が優先審査指定
  • ダクルインザがEUでも承認
  • レボレードが再生不良性貧血に承認


【今週の話題】


ZMappのサル試験論文が公開

(2014年8月29日発表)

Mapp Biopharmaceuticalの子会社であるLeafBioがエボラ感染症治療薬として開発しているモノクローナル抗体カクテル療法、ZMappの非ヒト霊長類試験論文が、Nature誌のウェブサイトで公開された。Near-final versionと記されているので最終稿ではないのだろうが、謎に包まれていた概要が明らかになった。

ZMappはこれまでに7人に投与され、米国の医療従事者二人は回復、スペインの牧師とリベリアの医療従事者は死亡した。死亡率3割以下というのはギニア、シエラレオネ、リベリア3ヶ国における40~70%と比べて良好な成績だが、良くデザインされた対照試験ではないので薬効を評価するには不十分である。支持療法だけでも救命効果があるが現地ではリソース不足に陥っているという指摘もある。

だが、エボラのような突発的な、そして致死率の高い疾患で偽薬対照試験を行うのは非現実的であり、だからこそ、今回の試験は重要だ。FDAが非ヒト霊長類試験の成績に基づいてフルオロキノロンやグラクソ・スミスクラインのABthrax(raxibacumab)を肺炭疽の治療薬として承認した前例もある。

ZMappはカナダのDefyrus社がカナダ公衆医療庁からライセンスしMapp社にライセンスしたZMAbと、Mapp社がアメリカ陸軍伝染病医学研究所からライセンスしたMB-003の夫々に含まれるモノクローナル抗体を様々に組み合わせて最も効果の高いカクテルを開発したもの。3種類のキメラ抗体(13C6、2G4、4G7)をブレンドしている。ドイツのIcon Genetics社が開発したベクターを用いてベンサミアナタバコに遺伝子を導入、Kentucky BioProcessing社が培養量産した。

この試験では、エボラウイルスの一つであるZaire型Kikwit株をアカゲザルに感染させ、その3~5日後から3日毎に3回、ZMappを投与したところ、18頭全てが生存した。コントロール群の3頭は8日後までにエボラウイルス感染症により倒れた。現在流行しているギニア型に関しても、in vitroで効果が見られた。忍容性は悪くなかったようだ。

抗ウイルス剤はin vitroのデータの信頼性が高く、臨床入り後に開発中止になるのは副作用、または、ウイルスのいる場所に十分な量を届けることができない薬物動態が原因であることが多い。前臨床ではサルのデータが一番信用できるので、今回のデータは優れたエビデンスだ。但し、抗体医薬の場合はヒトとサルで薬物動態や免疫反応が異なる可能性がある。また、エボラは感染の8~10日後に発症することが多いと言われるので、5日後に治療開始するのは非現実的かもしれない。

残念なことに、ZMappは在庫切れで、供給が可能になるのは来年のようだ。それまでは、他の様々な治療薬をテストして代替的な治療法を探索することになりそうだ。

リンク:Qiuらの論文(Nature、オープンアクセス)

【新薬開発】


ESC:ノバルティスの心不全治療薬が場外ホームラン

(2014年8月30日発表)

ノバルティスは4月にLCZ696の第3相心不全試験の成功を発表したが、具体的な内容がESC欧州心臓学会のプレスブリーフィングと、New England Journal of Medicine誌のホームペイジに掲載された治験論文で明らかになった。

標準療法薬であるACE阻害剤enalaprilと比べて、心血管因による死亡や心不全入院のリスクを20%削減という大変良い内容で、細部に問題が無いようならば広く用いられることになるだろう。ノバルティスは年内に米国で、来年初めにEUで承認申請する計画。日本はこの試験に参加しておらず、承認申請されるかどうか不明。

このPARADIGM-HF試験の対象は、NYHAクラスII~IVの慢性心不全で左室拠出率40%以下(途中で35%以下に変更)、そしてBNP値またはNT-proBNP値が一定以上、且つACE阻害剤またはARBによる治療を受けている18歳以上の患者。除外条件は症候性低血圧症や腎濾過率低下、高カリウム血、血管浮腫歴、ACE阻害剤/ARB不耐など。血管浮腫を除外したのはリスクが懸念されるから。それ以外は常識的なものだ。

10521人を対象にランインを開始。最初の2週間はenalaprilの標準用量(10mg一日二回)を、次の2週間はLCZ696(200mg一日二回、但し当初は半量)を投与し忍容性を確認した。この段階で各剤5%程度の患者が有害事象を理由に離脱した。

無作為化割付二重盲検試験に進みintent-to-treat解析の対象となったのは8399人。患者背景は、平均63歳、女性22%。人種は白人/アジア系/黒人が66/18/5%、治験実施施設は中欧/西欧アフリカ/アジア太平洋/ラテンアメリカ/北米が各34/24/18/17/7%で、北米とアフリカ系は少ない。NYHAクラスはI/II/III/IVが4/70/24/1%で、IとIVが少ない。Iがいるのはスクリーニング時にはIIだったのが無作為化割付までに改善したようである。

心不全治療薬の使用状況は、利尿剤80%、ジギタリス29%、ベータブロッカー93%、アルドステロン阻害剤54%。埋込型除細動器は14%と少ない。

主評価項目は心血管因による死亡または心不全による入院の複合評価項目で、time-to-event分析。治験医の判定を第三者委員会が盲検で査読した。解析計画上は心血管因死亡が最重点項目のようで、enalapril群の発生率を年7.0%、LCZ696の相対リスク削減率を15%と前提、検出力80%を確保した。中間薬効解析は当初の計画では2回だったが2013年3月のプロトコル変更で3回に増やされ、2回目以降におけるp値要件が若干緩和された。

治験実施委員会がスポンサーであるノバルティスと共同で治験を立案、監督。データの回収、管理、分析はノバルティスが実施。グラスゴー大学の統計学者が別途、検証のための解析を行った。独立データ安全性監視委員会が中間データに基づき安全性や薬効の解析データを監視。14年3月に3回目の中間解析で成功が認定され、最終的な解析に進んだ。メジアン追跡期間は27ヶ月間、追跡不能は20例と大変少ない。

心血管因死亡・心不全の発生率はLCZ696群が21.8%、enalapril群は26.5%で、ハザードレシオ0.80(95%CI0.73、0.87)、p<0.001。心血管因死亡は各558人(13.3%)と693人(16.5%)、ハザードレシオ0.80(0.71、0.89)、p<0.001、治療効果の大きさを表現する指標であるNNTは32で、enalaprilの代わりにLCZ696を32人に27ヶ月投与すると一人を心血管死から救うことが出来る勘定になる。

サブグループ分析は概ね一貫しているが、クラスIII/IVや黒人、アジア人、糖尿病患者のデータはあまり鮮明ではない。また、多くの患者を組入れた西欧・アフリカ地域のデータも明確ではない。

忍容性は、有害事象による治験離脱がLCZ696群10.7%、enalapril群12.3%で、若干良かった。有害事象はLCZ696の方が降圧作用が高いせいか症候性低血圧が増加したが、血清クレアチニン上昇や咳は少なかった。

類似した作用を持つomapatrilatの試験では血管浮腫が増加した。LCZ696は19例のみで、enalapril群の10例より多いもののサンプル数が少ないせいか統計的に有意な差はなかった。尤も、この試験は血管浮腫歴を持つ患者は除外し、アフリカ系人種(血管浮腫のリスクが白人より高い)を少ししか組入れていないので、何とも言えないだろう。

LCZ696はARBのvalsartan(和名ディオバン)とネプリライシン阻害剤sacubitrilを一つの分子に纏めた新しいタイプの薬。ネプリライシンはBNPやブラディキニンなどを零落する中性エンドペプチダーゼで、omepatrilatのようなACE阻害作用も持つ薬ではなくアンジオテンシン受容体阻害作用と組み合わせることによって、血管浮腫のリスクは高めずに心血管保護作用を増強することを意図した。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

リンク:McMurrayらの治験論文(NEJM、オープンアクセス)

リンク:Jessupのエディトリアル(NEJM、オープンアクセス)

【承認申請】


アムジェン、抗PCSK9抗体を米国で承認申請

(2014年8月28日発表)

アムジェンは、AMG145(evolocumab)を米国で承認申請したと発表した。欧州でも9月中に、日本は15年に、承認申請する計画。抗PCSK9完全ヒト化抗体で、高脂血症を治療する。スタチンによる治療を受けている患者を組入れた試験でも、2週間に一回、または月一回の皮注でLDL-Cを5~6割削減した。心血管疾患リスクを削減する効果は確認されていない。

リンク:アムジェンのプレスリリース

アムジェン、Ifチャネル阻害剤が優先審査指定

(2014年8月27日発表)

アムジェンは、フランスのセルビエからライセンスしたIfチャネル阻害剤、ivabradineを慢性心不全治療薬として米国で承認申請し、FDAが受理して優先審査指定したことを発表した。

EUでは05年にProcoralan名で慢性安定性狭心症などに承認されている抗不整脈薬だが、慢性心疾患に承認用量より若干多い量を投与した試験で症候性狭心症患者の心血管死・非致死的心筋梗塞が有意に増加したため、CHMPが再評価中。このSIGNIFY試験の結果はESCで本日31日に発表される予定だが、欧米で審査中であるせいか、プレスブリーフィングでは取り上げられなかった。スポンサーがデータについてコメントすることを禁じた模様だ。欧州で服用している患者はどうしたら良いのだろう?

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認】


ダクルインザがEUでも承認

(2014年8月27日発表)

BMSは、NS5A複製複合体阻害剤Daklinza(daclatasvir、和名ダクルインザ)がEUで慢性C型肝炎治療薬として承認されたと発表した。日本でも薬価収載されたところだが、I型感染者に同社のNS3Aプロテアーゼ阻害剤スンベプラ(asunaprevir)と併用する用法ではなく、EUではI~IV型にギリアッドのNS5Bポリメラーゼ阻害剤Sovaldi(sofosbuvir)あるいはribavirinやPEG化インターフェロン・ベータと併用することが認められた。

リンク:BMSのプレスリリース

レボレードが再生不良性貧血に承認

(2014年8月26日発表)

グラクソ・スミスクラインは、FDAがPromacta(eltrombopag、和名レボレード)の適応拡大を承認したと発表した。重度再生不良性貧血症で免疫抑制剤に十分に反応しない患者に用いる。米国では年300~600人が発症、命に係る出血や感染症のリスクが高い。免疫抑制剤に反応するが、不応患者は死亡率も高いようだ。米国医療研究所が実施した試験では4割の患者が反応した。2割程度の患者で染色体異常が発生した模様なので、要注意。

Promactaは08年に特発性血小板減少性紫斑症治療薬として米国で承認されたスロンボポイエチン受容体作動剤で巨核球が血小板に分化するのを促す。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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