2014年8月24日

海外医薬ニュース2014年8月24日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • 経口剤のファブリー病治療試験が成功
  • 抗IL-17A抗体の乾癬試験がまた成功
  • ベータラクタマーゼ阻害剤配合剤の第三相が成功
  • PEG化第VIII因子のルーチン予防試験成功
  • ファイザー、CDK4/6阻害剤を承認申請
  • エーザイ、lenvatinibを欧米でも承認申請
  • ジェンザイム、経口ゴーシェ病治療薬が米国で承認
  • フルチカゾンの新分子が米国で承認
  • dolutegravir配合剤が米国で承認
  • エリキュース、静脈血栓塞栓治療に適応拡大
  • ランタスのバイオシミラーが仮承認


【新薬開発】


経口剤のファブリー病治療試験が成功

(2014年8月20日発表)

アミカス・セラピュティクス(Nasdaq:FOLD)は、migalastatの第三相試験が成功したと発表した。酵素補充療法を受けている患者をmigalastatにスイッチする群と酵素補充療法を継続する群に無作為化割付して18ヶ月間治療したところ、腎濾過率の変化が両群同程度だった。GL-3削減効果を主評価項目とした偽薬対照試験はフェールしたので難しいところだが、今回の試験はEUのアドバイスに基づいて実施したものなので、少なくともEUで承認申請することは可能なのではないか。

ファブリー病はアルファ・ガラクトシダーゼAという酵素の遺伝子異常が原因でグロボトリアオシルセラミド(GL-3)が分解されず臓器に蓄積、機能障害を齎す。治療薬はジェンザイムの酵素補充療法、Fabrazyme(agalsidase beta)が2001~2004年に欧米日で承認された。二週間に一回点滴静注する。

アミカスは、折り畳み異常の蛋白に結合してその蛋白が働くべき場所(アルファ・ガラクトシダーゼAの場合はライソゾーム)に移行するのを助ける、ファーマシューティカル・シャペロンの開発に特化している。経口投与できることが長所で、migalastatは150mgを一日二回服用する。

ファブリー病の遺伝子変異は様々なタイプがありmigalastatに反応する患者としない患者があるようだ。第三相試験では事前にヒト胎児由来腎臓細胞アッセイを用いて薬物応答性を調べ、一定以上の改善を示した患者だけを組入れた。治験中にGLP(医薬品試験実施基準)に対応したアッセイが開発されたため途中で切り替えた。ファブリー病患者の3~5割が応答するようである。今回の試験は二種類の方法で腎濾過率を測定・推測したが、どちらも酵素補充療法群と大差なかった。

FDAとの相談に基づいて実施した第三相偽薬対照試験は腎臓間質性毛細血管におけるGL-3蓄積量の変化を観察したが、主評価項目の半減達成率も二次的評価項目のメジアン減少率も有意ではなかった。観察期間が6ヶ月では足りなかったのか延長試験は良好な結果になったが、途中でアッセイを変えたことが影響している可能性もあり良く分からない。

アミカスの社長は、映画「小さな命が呼ぶ時」の主人公のモデルになったジョン・クラウリー。娘がポンぺ病を発症したためブリストル・マイヤーズ・スクイブを辞めて治療薬の研究者を探し、研究開発資金を集めて、開発に成功した。ジェンザイムが06年に発売したMyozyme(alglucosidase alfa)である。クラウリーは開発の目処が立った段階で事業をジェンザイムに売却し03年にオレキシジェンの社長に、その後05年にアミカスの社長に、就任した。

アミカスでは07年にシャイアと開発販売提携したが権利返還、10年にはグラクソ・スミスクラインと開発販売提携したがまた返還と、紆余曲折している。臨床開発品第一号のisofagamineはゴーシェ病試験がフェールし開発中止になった。第二号の首尾はどうなるか、クラウリーの物語は未だ終わらない。

リンク:アミカスのプレスリリース

リンク:ファブリー病の解説(難病情報センター)

抗IL-17A抗体の乾癬試験がまた成功

(2014年8月21日発表)

イーライリリーは、LY2439821(ixekizumab)の第三相中重度乾癬試験が成功したと発表した。偽薬だけでなく、アムジェン/ファイザーのEnbrel(etanercept)を投与した群と比べても奏効率が有意に優れていた模様だ。15年上期に承認申請する予定。

LY2439821は抗IL-17Aヒト化抗体で、角化細胞の過剰増殖や活性化に係るIL-17Aに選択的且つ高親和性をもって結合する。抗IL-17A抗体は様々な会社が先陣争いをしていて、ノバルティスのAIN457(secukinumab)は日米欧で承認審査中。アストラゼネカと炎症治療用抗体領域で共同開発提携を結んでいるアムジェンも、IL-17受容体Aに結合する完全ヒト化抗体、AMG827(brodalumab)の第三相試験を進めている。

各社、リウマチなど様々な用途を開発しており、上手く行けば、第二のTNF阻害剤になるかもしれない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

ベータラクタマーゼ阻害剤配合剤の第三相が成功

(2014年8月19日発表)

アストラゼネカとアクタヴィス(NYSE:ACT)は、CAZ-AVIの第三相複雑腹腔内感染症治療試験が成功したと発表した。15年第1四半期にアストラゼネカがEUで承認申請する計画。米国は明らかではないが、複雑尿道感染症試験も進行しているのでデータが出揃った段階で承認申請するのではないか。

CAZ-AVIはグラム陰性菌に活性を持つ第三世代セフェム系抗生剤のceftazidimeと、ベータラクタムとは異なった構造を持つ新規ベータラクタマーゼ阻害剤avibactamの合剤。FDAから感染症製品認定(QIDP)を受けている。avibactamはアベンティスからスピンアウトした会社が開発し北米の権利をフォレストにライセンス、その後アストラゼネカがこの会社を買収し、フォレストはアクタヴィスと合併した。

今回の試験ではmetronidazoleと併用で、入院患者に2時間点滴静注して臨床的治癒率をmeropenem30分点滴静注群と比較した。二本の試験のデータをプールして分析している点が奇異だが、事前にFDAやEMAの同意を得ている由だ。FDAとEMAの要求が異なるため三種類の解析が行われたが、何れも非劣性であることが確認できた。ceftazidime抵抗菌に対する効果もmeropenemと同程度であった模様。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

リンク:アクタヴィスのプレスリリース

PEG化第VIII因子のルーチン予防試験成功

(2014年8月21日発表)

バクスター・インターナショナル(NYSE:BAX)は、BAX 855の第三相A型血友病ルーチン予防試験が成功したと発表した。A型血友病で重い出血を頻繁に経験する患者は定期的に第VIII因子の投与を受けて予防するのが一般的。BAX 855は同社のAdvateの活性成分をネクター(Nasdaq:NKTR)の技術でPEG化し半減期を1.4~1.5倍に長期化したもので、投与頻度を減らすことができる。

今回の試験では、45IU/kgを週二回投与したところ、出血エピソードがメジアンで年率1.9回となり、出血時に治療する群の41.5回と比べて有意に少なかった。出血時の治療も96%の症例は1~2回の投与で奏功した。インヒビターは発生しなかった。バクスターは年内に米国で承認申請する予定。EUは12歳歳以下の患者の治験を完了してから承認申請へ。

Advateをルーチン予防に用いる場合は週2~4回投与する模様であり、PEG化しても週2回というのは案外だ。今年承認されたバイオジェン・アイデックのEloctateも4日に一回なのでそれほど変わらない。第VIII因子の作用長期化は難しいのだろう。

異なったメカニズムでは中外製薬の抗第IX因子/第X因子ヒト化バイスペシフィック抗体ACE910が週一回投与で注目される。活性型第IX因子と第X因子の両方に結合し、第VIII因子に代わって第X因子の活性化を促す。血液凝固因子に作用する薬は安全性が特に重要なので、長期投与試験のデータが待望される。

リンク:バクスターのプレスリリース

【承認申請】


ファイザー、CDK4/6阻害剤を承認申請

(2014年8月18日発表)

ファイザーは、PD-0332991(別名PD-991、palbociclib)を米国で承認申請したと発表した。第二相試験のデータに基づくもので、エストロゲン受容体陽性・her2陰性の閉経後局所進行性/転移性乳癌の一次治療にFemara(letrozole)と併用する。この第二相試験ではPFS(無増悪生存期間)がメジアン20.2ヶ月とFemaraだけの群の10.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.488、統計的に有意だった。全生存期間は37.5ヶ月対33.3ヶ月、ハザードレシオ0.813、p=0.21と検出力不足で有意差は出ていないが効果を否定するデータではない。

ファイザーが買収したワーナー・ランバートとアムジェンが買収したオニクスの共同研究が礎となって創製されたCDK4/6阻害剤で、細胞周期がG1期からS期に進行するのを阻害する。CDK4/6はエストロゲン陽性乳癌で活性化が見られ、in vitro試験でFemaraとpalbociclibのシナジーが見られた。経口剤で、一日一回、3週間服用して1週間休む用法。別途、第三相薬効確認試験が進行中。

ファイザーは、EAP(早期入手プログラム)の開始も発表した。命に係る病気に係る未承認の薬を有償または無償で提供するもの。野放図に提供すると偽薬対照臨床試験に参加する患者がいなくなって開発に差し障るため、米国では承認申請と前後して開始することが多い。患者が欲しいのは新薬ではなく効く薬なので、期待を裏切らないように、効果と安全性をキチンと確認することが重要だ。

リンク:ファイザーのプレスリリース

リンク:EAPに関するリリース(8/21付)

エーザイ、lenvatinibを欧米でも承認申請

(2014年8月18日発表)

エーザイはE7080(lenvatinib)を日本に続いて欧米でも承認申請したことを発表した。VEGFR阻害剤で、進行性放射性ヨウ素治療抵抗性分化型甲状腺癌に用いる。承認されれば、バイエルのVEGFR阻害剤Nexavar(sorafenib)に次ぐ第二号となる。甲状腺癌の多くは放射性ヨウ素に反応するため、市場性は小さい。

リンク:エーザイのプレスリリース(和文)

【承認】


ジェンザイム、経口ゴーシェ病治療薬が米国で承認

(2014年8月19日発表)

サノフィの子会社であるジェンザイムは、FDAがCerdelga(eliglustat)をI型ゴーシェ病治療薬として承認したと発表した。Cerezyme(imiglucerase)など酵素補充療法が承認されているが、経口剤は初めて。報道によると価格はCerezymeと同程度になる模様だ。

I型ゴーシェ病はライソゾーム疾患の一つで、米国の患者数は6000人と推定されている。グルコセレブロシダーゼの遺伝子異常が原因で、グルコシルセラミドが分解されず組織に蓄積、機能不全を齎す。Cerdelgaはグルコシルセラミド合成酵素を阻害する新作用機序を持つ。臨床試験では脾臓量が偽薬比有意に減少し、スイッチ試験では酵素補充療法を継続した群と効果が非劣性だった。

薬物動態面で注意が必要。CYP2D6の機能が著しく高いウルトラ・ラピッド・メタボライザーは十分な効果を得られないので適応外。それ以外のタイプも薬物相互作用に注意。血中濃度が高まると不整脈のリスクが高まるからだ。CYP2D6のエクステンシブ・メタボライザーやインターメディエイト・メタボライザーは、2D6と3Aを中強度に阻害する薬を両方同時使用するのは禁忌。インターメディエイト・メタボライザーとプアー・メタボライザーは3Aを強度に阻害する薬の同時使用は禁忌。

エクステンシブ・メタボライザーが一番多く他のタイプは数%、十数%を占める程度のようだが、エチオピアやサウジアラビアではウルトラ・ラピッド・メタボライザーが2~3割というデータもある。希少疾患で治療薬自体が高価なので、事前検査が課せられても特別な負担にはならないだろう。それにしても、薬物代謝酵素多型に応じて禁忌がここまで細かく変わる薬は初めて見た。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

リンク:FDAのリリース

フルチカゾンの新分子が米国で承認

(2014年8月20日発表)

グラクソ・スミスクラインは、FDAがArnuity(fluticasone furoate)を喘息症の維持療法として承認したと発表した。Flovent(fluticasone propionate、和名フルタイド)の活性成分の新しい塩で、ELLIPTAという新しい吸入器を用いている。

この吸入用コルチコイドはBreoの活性成分の一つとしてCOPD向けに既に承認されている。Breoは欧州ではCOPDと喘息症、日本では喘息症に承認されており、米国でも喘息症適応拡大申請が審査中。普通は単剤の開発が先行するが、おそらく市場のニーズを考慮して、合剤を優先したのだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

dolutegravir配合剤が米国で承認

(2014年8月22日発表)

グラクソ・スミスクラインは、FDAがTriumeqをHIV-1感染症の治療薬として承認したと発表した。三種類の抗HIV薬の合剤で、インテグラーゼ・ストランド・トランスファー阻害剤dolutegravirと、核酸系逆転写阻害剤のabacavir及びlamivudineを配合、一日一回一錠の服用で足りる。

dolutegravirは他のインテグラーゼ阻害剤に抵抗性を持つウイルスでもある程度の活性を持つが、ウイルスの遺伝子型によっては用量を増やしたり、無効だったりする。Triumeqは用量の組み合わせが一種類だけなので、増量の必要な患者には適さない。また、HLA-B*5701という多型を持つ患者はabacavirによる深刻な過敏反応のリスクが高いため、適さない(患者の8%程度が該当する模様)。

リンク:GSKのプレスリリース

エリキュース、静脈血栓塞栓治療に適応拡大

(2014年8月21日発表)

BMSとファイザーは、FDAがEliquis(apixaban、和名エリキュース)を静脈血栓塞栓の治療と再発予防に用いることを承認したと発表した。第三相試験では、最初はenoxaparin、その後はワーファリンで治療した群と効果が非劣性で、重要な出血のリスクは有意に小さかった。最初の一週間は10mgを一日二回、その後は5mgを一日二回、服用する。心原性脳卒中予防に次いで大きな市場なので重要な適応拡大だ。

治療完了前に服薬を中止すると血栓性疾患のリスクが高まることや、脊椎硬膜外麻酔や脊椎穿刺を受ける時のリスクが枠付警告された。

リンク:両社のプレスリリース

ランタスのバイオシミラーが仮承認

(2014年8月18日発表)

イーライリリーは、FDAが持効性インスリンBasaglar(insulin glargine)を仮承認したと発表した。サノフィのベストセラーであるLantusのシミラーで、サノフィが特許侵害で提訴したため30ヶ月ステイの対象になり、紛争が決着するか16年央にステイが終了するまでFDAは承認することができない。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

今週は以上です。

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