2014年6月1日

海外医薬ニュース2014年6月1日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ASCO:E7080の第三相データが発表
  • ASCO:イーライリリーの肺癌用薬は効果が穏やか
  • ASCO:Imbruvicaはアーゼラより効果が高い
  • ニューロンがパーキンソン病薬を承認申請
  • ジェンザイム、Lemtradaの追加データをFDAに提出
  • ネクサバール、EUで分化甲状腺癌に適応拡大


【新薬開発】


ASCO:E7080の第三相データが発表

(2014年5月31日発表)

ASCO(米国臨床腫瘍学会)が始まり、エーザイのVEGFR受容体阻害剤、E7080(lenvatinib)の第三相試験データが5月31日のプレスブリーフィングで取り上げられた。類薬のデータと見比べても良好な内容だが、致死的有害事象がやや多いように感じられる。本当に薬物関連なのか?6ヶ月とか1年とかの時点の生存率はE7080のほうが高いのか?6月2日の学会発表で追加的な情報が提供されるかどうか、注目される。承認申請される予定だが、承認審査機関もこの点を精査するだろう。

この第三相試験は、進行性分化型甲状腺癌で放射性ヨウ素による治療が奏功しなかった難治性の患者392人をE7080群(24mgを一日一回、経口投与)と偽薬群に2対1割付して、PFS(無増悪生存期間・・・担当医の判定を独立放射線学委員会が査読)を比較したもの。偽薬群の患者は疾病進行後にE7080による治療を受けること(クロスオーバー)が可能。今年2月に成功した旨、発表されたが、データは今回初めて公表。

PFSのハザードレシオは0.21、95%信頼区間0.14~0.31、p値は0.0001未満、メジアンは偽薬群3.6ヶ月、E7080群18.3ヶ月。反応率は各群2%と65%、完全反応率は0%と1.5%だった。全生存期間のデータは未公表。おそらく、まだ死亡例が少なく解析できないのだろう。クロスオーバー可なので意味のある解析はできないかもしれない。私はPFSという指標を好きでないので残念だ。

メジアン投与期間は13.8ヶ月。グレード3以上の治療時発現有害事象のうち試験薬群で多かったのは高血圧、蛋白尿、体重減、下痢、食欲低下などで、VEGF受容体阻害剤では一般的なもの。有害事象による試験薬減量は患者の78.5%で発生、投与中止に至ったのは14.2%だった。

先に承認されているNexavar(和名ネクサバール)のデータは、PFSハザードレシオ0.59、メジアン値は10.8ヶ月で偽薬群は5.8ヶ月。この試験もクロスオーバーが可能で偽薬群の75%が進行後にNexavarによる治療を受けたせいか、全生存期間のハザードレシオは0.88とあまり良くなく有意差は出なかった。

偽薬群のメジアン生存期間は36.5ヶ月となっており、クロスオーバーがあったにしても、進行後の生存期間は長い。つまり、PFSを延長することは決定的に重要なことではないのである。従って、忍容性も重要なチェックポイントになる。Nexavarの有害事象による投与中止は14%でE7080と大差ない。となると、E7080のほうが効果が高そうなので良い、ということになる。

しかし、気になるのは、致死的な治療時発現有害事象の発生率が8%(20例)と偽薬群の5%(6例)を上回り、うち6例については担当医が薬物関連と判定したことだ。肺塞栓と出血性脳卒中が各1例、全般的な健康状態悪化が4例となっており、最初の2例はVEGF受容体阻害剤の出血リスクを考えれば副作用であっても不思議はないが、それ以外は何故薬物関連と判定されたのか良く分からない。

もし本当に副作用ならば、メジアン生存期間3年の疾患に対して、2~3%の患者が副作用で死亡するが延命効果は確認されていない治療法は、便益がリスクを上回るとは言えないだろう。

リンク:ASCOの抄録(LBA6008)

ASCO:イーライリリーの肺癌用薬は効果が穏やか

(2014年5月31日発表)

土曜日のプレスブリーフィングでは、イーライリリーのCyramza(ramucirumab)の第三相非小細胞性肺癌二次治療試験も取り上げられた。この薬は今年4月に米国で胃癌の二次治療薬として承認された抗VEGFR-2ファージディスプレイ抗体。VEGF標的薬はAvastinが扁平上皮腫以外の非小細胞性肺癌の一次治療向けに承認されているが、Cyramzaの試験のように扁平上皮腫も組入れた試験は多くが薬効不足または喀血リスクが原因でフェールしている。それだけに快挙と言えるだろう。但し、効果は小さそうだ。

この試験は、二次治療を受ける患者をdocetaxelだけの群とCyramzaを併用する群に無作為化割付した偽薬対照二重盲検試験(近年はCyramzaのような注射薬でも偽薬を用意する)。主評価項目の全生存期間は各群メジアン9.1ヶ月と10.5ヶ月、ハザードレシオは0.857(95%信頼区間0.759、0.979)、p=0.0235となり、統計学的な有意性はそれほど高くはないが、取り敢えず有意な差があった。治療効果はメジアン値で見てもハザードレシオで見てもそれほど高くはない。

注目されるのは扁平上皮腫にも効果があったこと(但し、データは未公表)。肺出血(全グレード)の発生率は各1.6%と2.1%で若干増える程度、扁平上皮腫だけの解析だと2.4%と3.8%でリスクが高くなるものの、もし命に係る症例がないならば、許容できるかもしれない。忍容性面の問題が小さいなら扁平上皮腫にはCyramzaを使わざるを得ないだろう。

リンク:ASCOの抄録(LBA8006)

ASCO:Imbruvicaはアーゼラより効果が高い

(2014年5月31日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソンがファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)から導入したImbruvica(ibrutinib)の第三相慢性リンパ性白血病試験も取り上げられた。PFSのハザードレシオが0.215と、対照薬であるArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)よりかなり良く、標準治療薬の座に一歩近付いた。米国で昨年、加速承認されたBtk阻害剤で、この試験のデータを提出して本承認を取得することになるだろう。

再発性・難治性の患者を組入れた二次治療のオープンレーベル試験で、Imbruvicaは140mgカプセル3個を一日一回投与。主評価項目はPFSで独立放射線学委員会が査読した。中間解析で主目的を達成、Arzerra群の患者のクロスオーバーが認められた。ハザードレシオ0.215(95%信頼区間0.146~0.317)、pは0.0001未満、全生存期間の解析もハザードレシオ0.434で統計的に有意な差があった。忍容性面では大出血の発生率は同程度、心房細動が5%と多かったが神経症は少なかった。

慢性リンパ性白血病や非ホジキンリンパ腫は今回のASCOでも画期的新薬のデータが続々発表される予定。併用法もアクティブに探索されることになるだろう。急性リンパ性白血病のように、様々なタイプがあるのに患者数が少ないため一緒くたにされている疾患についても、標的を見つけて有効な薬を探索してほしいものだ。

リンク:ASCOの抄録(LBA7008)

【承認申請】


ニューロンがパーキンソン病薬を承認申請

(2014年5月29日発表)

ニューロン・ファーマシューティカルズ(SIX:NWRN)は、safinamideをパーキンソン病のアドオン薬として米国で承認申請したことを明らかにした。MAO-Bを選択的可逆的に阻害すると共に、ドーパミンの再取込やグルタミン酸の放出も阻害する小分子薬。

セラノがライセンスして第三相試験を実施、成功したが効果が今一つだった模様でドイツのメルクに買収された後、権利返還となった。前臨床の懸念材料もあるようだ。ニューロンは改めて第三相を成功させ、イタリアのZambonと開発販売提携。欧州でも昨年12月に承認申請された。Zambonは米国の権利をサブライセンスする考え。

日本とアジアの一部地域での権利はMeiji Seikaファルマが持っている。

リンク:ニューロンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


ジェンザイム、Lemtradaの追加データをFDAに提出

(2014年5月30日発表)

サノフィの子会社であるジェンザイムは、Lemtrada(alemtuzumab)の追加データをFDAに提出した。6ヶ月審査になる模様。再発寛解型多発性硬化症の維持療法として欧米で承認申請され、EUでは昨年9月に承認されたが、米国は審査完了通知を受領していた。

FDAは第二相試験で表面化した甲状腺副作用リスクを懸念、治験中断を求める共に、その後の第三相試験でも患者を十分に観察・対処するよう求めた。甲状腺疾患やGraves病、特発性血小板減少性紫斑症などのリスクが確認されたため、あとは、これらのリスクを上回る便益があるかどうかが問題になる。

2011年に開催された末梢中枢神経系薬諮問委員会では、過半の委員が再発予防効果や障害進行抑制効果を認めたが、同時に、過半が臨床試験は不十分と判定した。この薬の用法は5日間に亘り毎日静注点滴投与したら次の治療は1年後、対照薬は定期的に皮注と大きく異なるため、オープンレーベルで実施された。このため、対照群に割付けられた患者が、早く治験を離脱してLemtradaを使用できるようにするために再発したと虚偽報告するリスクがある。

深刻な副作用を持つ薬なので、もし承認されても広くは用いられないだろう。

リンク:ジェンザイムのプレスリリース

【承認】


ネクサバール、EUで分化甲状腺癌に適応拡大

(2014年5月30日発表)

バイエルとオニクス(アムジェンの子会社)は、EUがNexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を進行性、局所進行、転移性の分化甲状腺癌用薬として承認したと発表した。放射性ヨウ素に反応しなくなった患者に用いる。NexavarはVEGF受容体やRETを阻害する小分子薬で、バイエルとオニクスの共同研究の成果。腎細胞腫、肝細胞腫に次ぐ第三の用途となる。米国では13年に適応拡大承認、日本でも第二部会を通過した。

甲状腺癌は世界で年30万人が診断され、多くは緩徐であり放射性ヨウ素による治療に反応するが、それでも年4万人が死亡する。分化型が9割以上を占める。VEGF受容体/RET阻害剤は甲状腺癌の進行を抑制する作用を持ち、アストラゼネカのCaprelsa(vandetanib)が欧米で遺伝性甲状腺髄様腫(RET変異が関与)に承認されている。更に、上記のように、エーザイのE7080(lenvatinib)もNexavarと同様な第三相が成功、承認申請される予定。

リンク:バイエルのプレスリリース

今週は以上です。

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