2014年3月2日

海外医薬ニュース2014年3月2日号




【ニュース・ヘッドライン】




  • イーライリリー、週一回投与で効果はビクトーザ並み
  • ピレスパの再試験が成功
  • GSKがレボレードを希少疾患に適応拡大申請
  • 全身性脂肪萎縮症の治療薬が米国でも承認
  • FDAとEMAの科学者がインクレチンの膵安全性にコメント


【新薬開発】


イーライリリー、週一回投与で効果はビクトーザ並み

(2014年2月25日発表)

イーライリリーは、LY2189265(dulaglutide)の第三相Victoza(liraglutide、和名ビクトーザ)非劣性試験が成功したと発表した。有害事象も同程度であった由。皮注頻度は週一回とVictozaの7分の1なのでGLP-1作用剤の中では有力な選択肢になりそうだ。

LY2189265はDPP-IVに分解されにくいGLP-1アナログと免疫グロブリン固定領域を結合した遺伝子組換え薬で、半減期が最長95時間と長い。これまでにGLP-1作用剤の第一号であるByetta(exenatide)や、Januvia(sitagliptin)、Lantus(insulin glargine)など様々な二型糖尿病薬と直接比較試験が行われ、HbA1c治療効果が非劣性であっただけでなく、優越性検定も成功した(有意に優れていた)。

インスリンより優れるというのは理屈に合わないが、しばしば見られる現象だ。低血糖を気にして用量を抑える医師が多いのだろう。

今回の対照薬であるVictoza(liraglutide、和名ビクトーザ)はノボ ノルディスクが開発したGLP-1作用剤のベストセラーで13年の売上高は約20億ドル。長期作用性の薬は悪心嘔吐や血圧心拍影響も高い可能性があるが、もしリスクが同程度ならば、一日一回皮注の薬よりも歓迎されるだろう。昨年、欧米で承認申請された模様なので、年内の承認が見込まれる。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

ピレスパの再試験が成功

(2014年2月25日発表)

インターミューン(Nasdaq:ITMN)は、Esbriet(pirfenidone、和名ピレスパ)の特発性肺線維症第三相試験が成功したと発表した。2000年代後半に行われた二本は判然としない結果になったが、今回は概ね良好な内容なので、承認が遅れた米国でも前途が開けた。

ピレスパは日本で行われた第二相試験の中間解析で効果の兆しが見られ承認申請されたが、サンプル数が少なすぎて承認されなかった。治験はキチンと最後までやらないと結局は患者のためにならないことを示すエピソードだ。

その後、日本は塩野義製薬が、海外はインターミューンが第三相を開始。日本は成功し08年に無事、承認されたが海外の二本は、一本では肺機能悪化を遅らせる効果が見られたが歩行能力に関しては偽薬並み、もう一本は逆だった。日本の結果と合わせれば二本のエビデンスが揃うためEUは11年に承認したが、FDAは、諮問委員会で多数が支持したものの、承認しなかった。

今回の再試験では努力肺活量対予測値(% predicted FVC)が52週間で10%以上低下した患者が試験薬群は16.5%、偽薬群は31.8%となり有意な差があった。6分歩行検査で50m以上悪化した患者も少なかったがp値は0.036なので判然としない。全死亡はハザードレシオが0.55となったがイベント数が少なく検出力不足で有意差は出なかった。過去の三本の試験のプール分析では有意差があったので、現時点では、延命効果もありそうだが十分なエビデンスは無い、と表現するのが適切だろう。

有害事象による治験離脱は14.4%対10.8%で上回った。NNTは1000人中153人、NNHは同じく36人ということになる(1000人に52週間投与すると153人が治療効果を享受し、36人は副作用を被るだけで治療に失敗する)。

リンク:インターミューンのプレスリリース

【承認申請】


GSKがレボレードを希少疾患に適応拡大申請

(2014年2月28日発表)

グラクソ・スミスクラインは、Promacta(eltrombopag、和名レボレード)を免疫抑制剤では十分に管理できない重度再生不良性貧血の治療薬として米国で適応拡大申請したと発表した。

再生不良性貧血は何らかの理由で赤血球、好中球、血小板が作られなくなる難病で、米国では年600~900人が診断される。アジア系が多いようだ。日本では100万人当り6人が診断される。免疫が誤作動して造血幹細胞を破壊するケースがある模様で、治療には免疫抑制剤などが用いられる。

Promactaはトロンボポエチン受容体作動剤で、08年に特発性血小板減少症性紫斑症の治療薬として承認された。赤血球や好中球には関与しないのではないかと思われるが、New England Journal of Medicine誌の試験論文によると、一部の患者では血小板だけでなく赤血球や好中球の増加も見られた。

この種の薬は、骨髄の密集した環境で巨核球の分化を促進する過程で他の血球細胞の増殖・分化も誘発してしまうのではないか、その結果として骨髄異形成症候群や白血病を誘導してしまうのではないかという懸念が付きまとう。上記の治験論文に関しても同様な懸念が寄せられている。

米国医療研究所(NIH)が主導した第二相試験では、登録された患者の半分程度しか組入れられなかった。Promactaは肝毒性を持ち、これが理由で除外された患者が多かったようだ。同様な作用を持ち肝毒性の見られないNplate(romiplostim、和名ロミプレート)は効果があるのだろうか?

リンク:GSKのプレスリリース

リンク:治験論文(Olnesら、NEJM、オープンアクセス)

【承認】


全身性脂肪萎縮症の治療薬が米国でも承認

(2014年2月25日発表)

FDAは、アミリンのMyalept(metreleptin、和名メトレレプチン)を全身性脂肪萎縮症の治療薬として承認した。数百万人に一人の希少疾患で、脂肪組織が欠如・減少し、摂食やインスリンなどのホルモンを制御するレプチンという脂肪細胞由来のホルモンが分泌されないために、糖尿病や高トリグリセライド血症になりやすく、血糖降下薬を使っても血糖値を十分に管理できない。Myaleptは遺伝子組換え型レプチンによる補充療法。

レプチンは抗肥満ホルモンとも呼ばれ、動物試験で体重低下作用が見られたことから体重管理薬として臨床開発が行われたが、効果が持続しないことが判明した。アミリンは武田薬品と共に二種類のホルモンの併用療法も探索したが、駄目だった。同社は部分性脂肪萎縮症の承認も求めた模様だが、FDAは承認しなかった。薬効に関する十分なエビデンスが無いことに加えて、治験で中和抗体のリスクが見られたため。中和抗体ができると薬が破壊されて薬効を発揮できなくなるだけでなく、重度感染症のリスクも高まるようだ。

また、薬との関連性は明確ではないがTセルリンパ腫のリスクも見られた。これらのことから、FDAは厳格な処方・取扱い制限であるREMSを要求すると共に、肥満症やHIV関連脂肪萎縮症には承認されていないことを特記している。

承認の根拠となった試験は米国医療研究所(NIH)が主導したもの。日本の承認の根拠となった試験も医療特区で行われた医学者主導試験なので、開発の経緯はよく似ている。希少疾患の治療法を開発する上で、政府や医学者の役割が大きいことを示している。

アミリンは2012年にBMSに買収され、今年、BMSの他の代謝学領域事業と共にアストラゼネカに譲渡された。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:アストラゼネカのプレスリリース

【医薬品の安全性】


FDAとEMAの科学者がインクレチンの膵安全性にコメント

(2014年2月27日発表)

FDAとEMA、そしてオランダの医薬品承認審査機関の科学者が連名でNew England Journal of Medicine誌にインクレチンの膵安全性に関するコメントを寄稿した。FDAのオフィサーが寄稿することはしばしばあるが、欧米連携は珍しい。日米欧の当局は承認審査や立入り調査の情報交換・共同検討を推進しているが、その成果の一例だろう。

内容的には、一部で言われているインクレチンの膵毒性に否定的な意見を述べる一方で、アウトカム試験の結果などが出揃うまではインクレチン療法は膵炎のリスクに関連すると見做されるとも述べており、玉虫色である。現時点での評価を伝える途中経過報告の意図なのだろう。

著者らは動物試験や臨床試験の分析結果について、ごく簡単に触れている。Januvia(sitagliptin、和名ジャヌビア)の25本の試験のプール分析では、膵炎や膵癌のリスクが高まることを示す説得力のあるエビデンスは見つからなかった。Onglyza(saxagliptin、和名オングリザ)の16492名の二型糖尿病患者を組入れた心血管アウトカム試験、SAVORでは、急性膵炎がOnglyza群22例、偽薬群16例と両群大差なかった。

Nesina(alogliptin、和名ネシーナ)の5380名の二型糖尿病患者を組入れたEXAMINE試験ではも12例と8例で同程度だった。膵癌はSAVOR試験が5例対12例、EXAMINEは両群ゼロだった。

リンク:Eganらの論評(NEJM、オープンアクセス)

今週は以上です。

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