2014年2月23日

海外医薬ニュース2014年2月23日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ISIS、脊髄筋委縮症治療薬の第三相ステージアップを決定
  • イーライリリー、抗VEGF受容体抗体の肺癌試験が成功
  • ノバルティスのSMO阻害剤も試験成功
  • オンコノヴァ、rigosertibはもう一つの第三相もフェール
  • FDAがoritavancinの承認申請を受理
  • CHMP、モルキオA症候群治療薬などに肯定的意見
  • 膿胞性線維症治療薬の対象人口が拡大


【新薬開発】


ISIS、脊髄筋委縮症治療薬の第三相ステージアップを決定

(2014年2月21日発表)

ISISファーマシューティカルズ(Nasdaq:ISIS)は、脊髄筋委縮症治療薬ISIS-SMNRxの第三相試験を年央に開始することを決めた。後期第一相/第二相試験などで良好な忍容性と薬効の兆しが見られたため。

脊髄筋委縮症は脊髄神経細胞の生存に必要なsurvival motor neuronという蛋白の遺伝子、SMN1の欠損が関与している。キャリアは50人に一人と多いが、両親から欠損遺伝子を引継ぐと発症し、SMNが殆ど作られないI型は平均余命2年以下、II型、III型でも生活機能に大きな障害が出る。罹患者数は日米欧で30000~35000人と推定されている。

ISISはアンチセンス薬という、遺伝子情報を元に蛋白が合成される過程を妨げる核酸医薬で独創的かつ圧倒的な実績を持ち、1998年にサイトメガロウイルスによる網膜炎の治療薬、Vitravene(fomivirsen)が、2013年にはホモ接合性家族性高脂血症治療薬、Kynamro(mipomersen sodium)が米国で承認された。

アンチセンスはRNA介入の一つで、標的RNA配列に類似した塩基配列を製剤化し、標的RNA配列と入れ替わらせる(相同組換)ことによって、機能しない蛋白を作らせる。Vitraveneはウイルスの発現を制御する蛋白を無意味化(アンチセンス)し、KynamroはLDL-C/VLDL-Cの一部であるApoB-100をアンチセンスする。ISIS-SMNRxは若干毛色が異なり、機能しない蛋白しか作れないSMN2にSMN1の代わりを務めさせる。

SMN2遺伝子は転写翻訳過程で一部のエクソンが無視されるため、SMNとは異なる蛋白しか作られない。ISIS-SMNRxはSMN2から転写されたRNAのスプライシングを変え、機能するSMNを作らせる。髄腔内投与だが、神経系組織における半減期が長いため、投与頻度は多くない。

II型、III型の小児患者を三群に割付けた後期第一相/第二相試験の中間解析では、Hammersmith Functional Motor Scale-Expandedという筋肉機能を評価するスケールが、3mgを3ヶ月間に3回投与した群では9ヶ月後にベースライン比で1.5ポイント上昇、6mgを同様に投与した群は2.3ポイント上昇、9mgを初日と85日目に投与した群は3.7ポイント上昇した。治験完了者は12mgを6ヶ月に一回投与する延長試験に進んだ。

I型の乳児を組入れた第二相試験では6mgまたは12mgを初日、15日目、85日目に投与するスケジュールを採用。6mg群の患者は治験開始から6ヶ月以上経った時点で全員が生存しているとのことだ。この二つの試験の詳細は4月のANN米国神経学学会で発表される予定。

ISIS-SMNRxはFDAから希少疾患用薬指定とファーストトラック指定を受けている。バイオジェン・アイデックがインライセンスするオプションを持っている、

3.7ポイントの上昇が臨床的にどの程度の意味があるのか私には知識が無い。他の遺伝子のスプライシングに影響しないかどうかも要注意点だろう。それでも、治療法を研究する上で重要な手がかりであり、また、アンチセンス技術の応用範囲が拡大し呼び名を変えなければならないかもしれない、大きなブレークスルーだ。

リンク:ISISのプレスリリース(小児試験)

リンク:ISISのプレスリリース(幼児試験)

イーライリリー、抗VEGF受容体抗体の肺癌試験が成功

(2014年2月19日発表)

イーライリリーは2008年にイムクローン社を65億ドルで買収、結腸直腸癌用薬Erbitux(cetuximab)に加えて、数多くの抗体医薬パイプラインを入手した。このうち、VEGFの受容体の一つであるVEGFR-2に結合する完全ヒト化抗体、IMC-1121B(ramucirumab)は胃癌の二次治療試験が成功、昨年欧米で承認申請され、その後、胃癌一次治療試験も成功。更に、今回、非小細胞性肺癌の第三相試験の成功が発表された。年内に承認申請に向かう予定。

二次治療を受ける患者をdocetaxelのみの群とramucirumabを併用する群に割付けた試験で、全生存期間に有意な差があったとのこと。データは未発表。類薬では受容体ではなくVEGFに結合するAvastin(bevacizumab)が一次治療薬として承認されているが、扁平上皮腫は適応外。ramucirumabの試験は扁平上皮腫も組入れたので、もし有効性が確認されるなら、そして一次治療試験も成功するならば、適応がAvastinより広い薬として標準療法に採用される楽しみが生まれる。

もう一つ注目されるのは一次治療でAvastinを使った患者に対する効果だ。もし効果が弱いようならば、Avastinを一次治療で用いるのと、用いずに二次治療でramucirumabを使う治療方針の二者択一になり、おそらく、前者が選択されることになるだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

ノバルティスのSMO阻害剤も試験成功

(2014年2月19日発表)

ノバルティスは、LDE225(sonidegib)の第二相局所進行性・転移性基底細胞腫試験が成功したと発表した。承認申請に向けて当局と相談する計画。

LDE225は選択的SMO(Smoothened)阻害剤で、ヘッジホッグ・シグナリング・パスウェイに介入する。類薬ではロシュのErivedge(vismodegib)が第二相試験で反応率43%と良績を上げ、2012年に米国で承認された。LDE225の試験は200mgまたは800mgを経口投与して反応率を調べたもの。

既にErivedgeが存在するのだから、第二相試験に基づいて承認されるとしたら、反応率がよほど良いか、Erivedge経験者に対しても高い反応率を示したのだろう。

リンク:ノバルティスのプレスリリース

オンコノヴァ、rigosertibはもう一つの第三相もフェール

(2014年2月19日発表)

オンコノヴァ(Nasdaq:ONTX)はrigosertibで二本の第三相試験を行ったが、膵癌試験に続いて、骨髄異形成症候群試験もフェールしたことが発表された。全生存期間のメジアン値が8.2ヶ月、支持療法だけの群は5.8ヶ月、ハザードレシオは0.86、p=0.27だった。

中間解析で無益性が認定された膵癌試験と同様に、今回も事後的分析でデータの良いサブグループが発見された。低メチル化剤(セルジーンのVidazaやエーザイのDacogen)による治療中に進行した、またはフェールした患者ではハザードレシオ0.67、p=0.022だったのだ。オンコノヴァは当局と今後を相談する計画。

被験者184名の6割を占めるので一概に後講釈と決めつけるわけにはいかないが、p値は決して低くはなく、72時間連続点滴であるためか偽薬が用いられないオープンレーベル試験であることも考えると、もう一本試験を実施して今回の結果が偶然ではないことを確認する必要があるだろう。

rigosertibはPI-3アルファ/ベータやPLKを阻害するマルチキナーゼ阻害剤。欧州ではバクスターが商業化権を持ち、日本ではシンバイオ製薬が臨床試験を実施中。

リンク:オンコノヴァのプレスリリース

【承認申請】


FDAがoritavancinの承認申請を受理

(2014年2月19日発表)

メディスンズ・カンパニー(Nasdaq:MDCO)は、FDAがoritavancinの承認申請を受理し優先審査を行うと発表した。適応症はグラム陽性菌(MRSAを含む)による急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症。

この抗生物質の開発歴は長く、イーライリリーがvancomycinの次世代品として90年代に臨床試験を行った。細胞膜の二ヶ所に結合するため耐性が生まれ難いことが長所と考えられていた。しかし、イーライリリーは自社開発を断念、01年にインターミューン社にアウトライセンス。その後、05年にTarganta社が権利を取得し第三相試験を経て08年に欧米で承認申請したが、治験成績が今一つであったことや副作用懸念から承認されず、09年にMDCOがTargantaを買収して追加試験を実施したもの。

リンク:MDCOのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMP、モルキオA症候群治療薬などに肯定的意見

(2014年2月21日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPは、2月の会議で、バイオマリン(Nasdaq:BMRN)の希少疾患用薬やグラクソ・スミスクラインのCOPD治療薬などについて肯定的意見を纏めた。順調なら2~3ヶ月内にEU全域での販売承認を受けることになる。

リンク:CHMPのプレスリリース

バイオマリンのVimizim(elosulfase alfa)は酵素補充療法で、IVA型ムコ多糖症(モルキオA症候群)の治療に用いる。運動機能などを改善する。

米国では今月承認されたが、命に係るアナフィラキシーのリスクが枠付警告。米国で800人、先進国全体でも3000人の希少疾患なので値段が高く、体重22.5kgの患者の場合で年38万ドル。報道によると、高額薬ランキングで第3位とのこと。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:バイオマリンのプレスリリース

GSKがテラバンス(Nasdaq:THRX)と共同開発したAnoro(umeclidinium bromide、vilanterol)は長期作用性ムスカリン拮抗剤と長期作用性ベータ2作用剤の合剤でCOPDの維持療法として一日一回、吸入する。米国では昨年12月に承認された。GSKはAdvair(fluticasone、salmeterol、和名アドエア)の特許が切れ始めているので、ステロイドとベータ2作用剤の合剤であるBreo/Relvar(fluticasone furoate、vilanterol、和名レルベア)と共に、後継薬として大きく育てたいところだ。

この二剤はどちらもGSK由来だが、二社がパイプラインを持ち寄った共同開発プロジェクトの中から生まれたため、テラバンスが最大10%の売上ロイヤルティ権を持っている。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:GSKとテラバンスのプレスリリース

一方、GSKだけが権利を持つIncruse(umeclidinium bromide)も肯定的意見を受けた。COPD維持療法薬は多くの場合、ムスカリン拮抗剤で開始し、発作を十分に予防できない場合はベータ2作用剤を追加するので、重要な品揃えになる。米国でも承認審査中。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:GSKのプレスリリース

新規活性成分ではないが、ピエール・ファーブルのHemangiol(propranolol経口液)を小児血管腫用薬として小児用途販売承認(PUMA)とすることが勧告された。

PUMAは小児疾患に有効だが既に特許が失効し製薬会社が開発しても投資を回収できない場合に適用される制度で、市場を10年間独占できる。今回の場合、60年代から高血圧の治療などに用いられているベータ・ブロッカーを、生後5週間から5ヶ月までの幼児が重い小児血管腫を発症した場合に用いる。製薬会社がPUMAを利用することは稀である模様だ。

リンク:CHMPのプレスリリース

この他に、ギリアッドが開発した慢性C型肝炎治療用の合剤(sofosbuvir、ledipasvir)をコンパッショネイト・ユース・プログラム(CUP)に採用することも勧告した。

CUPは命に係る病気の患者に未承認の薬を逸早く届けるための制度で、今回の場合、非代償性肝疾患を合併するリスクが高い患者が対象。この合剤はNS5Bポリメラーゼ阻害剤とファースト・イン・クラスのNS5A複製複合体阻害剤を配合しており、遺伝子型I型のウイルスに感染している患者の場合、インターフェロンやribavirinを併用せずにこの合剤だけで完治する可能性が高い。米国では今月承認申請、欧州でも近いうちに承認申請が受理されるのではないだろうか。

リンク:CHMPのプレスリリース

新規活性成分を含まない合剤では、ジョンソン・エンド・ジョンソンが田辺三菱製薬と共同開発したSGLT2阻害剤、canagliflozinとmetforminの合剤が肯定的意見を受けた。欧州ではmetforminが二型糖尿病の第一選択、SU剤が第二選択で、それ以外の薬はインスリンを除いて不応不耐の患者だけにしか適応にならない。この障壁を超える上でmetformin合剤のラインアップは商業的に不可欠だ。

リンク:CHMPのプレスリリース(pdfファイル)

リンク:JNJのプレスリリース

一方、米国のダイナヴァックス(Nasdaq:DVAX)がB型肝炎予防ワクチンとして承認申請したHEPLISAVは、CHMPの質問事項に回答が間に合わず、承認申請撤回となった。アジュバントとしてTLR9アゴニストを混合したもので既存のワクチンより接種回数が少ない長所を持つが、治験でウェゲナー肉芽腫が発生し治験中断命令を受けたことがある。今回は腎臓疾患の患者に限定して承認申請した模様だが、治験実施施設の査察で治験実施基準違反などの懸念が浮上。安全性の検討も不十分と判定された。

リンク:CHMPのプレスリリース

また、英国のシャイアが行ったFirazyr(icatibant)の適応拡大申請も撤回となった。遺伝性血管浮腫の治療薬として承認されているブラディキニンB2受容体拮抗剤で、ACE阻害剤誘導性血管浮腫に申請されたが、治験実施施設の査察で誰に何を投与したか記録が残っていなかったり、盲検失敗が発覚したり、治験結果の収集方法がプロトコルから逸脱していたり、様々な欠陥が見つかったため、CHMPがエビデンスとしての有効性を認めなかった。

リンク:CHMPのプレスリリース

今回、治験の実施方法が原因で承認されない事例が重なったのは偶然だろうが、このようなケースは決して珍しくない。これらの試験に不正があったのか、それとも単純なミスだったのかは明らかではないが、医薬品ビジネスが巨大化し、不埒な輩が現れても不思議ではなくなったことは確かである。医学研究者に対する公的資金援助が減少し、外部から研究資金を獲得することが奨励される経済環境では尚更だ。

不適切なことをする医学者に悪意があるとは限らない。誰だって有効な新薬の登場を渇望しており、治験に参加する医師も治験成功を望んでいるだろう。薬効評価が甘くなっても不思議はない。その意味で、あらゆる臨床試験にはバイアスがある。

私はKYOTO HEART STUDYの治験論文を読んで違和感を覚えたが、眉に唾を付けた経験は他にもある。臨床試験の費用と成功した時に得る利益が巨大化した今日では、リターンの大きさと釣り合いを取るために、今回の治験施設の査察のような監視の厳格化とペナルティの強化が必要だ。少なくとも、性善説は捨てなければならない。

【承認】


膿胞性線維症治療薬の対象人口が拡大

(2014年2月21日発表)

ヴァーテックス(Nasdaq:VRTX)は、Kalydeco(ivacaftor)の適応拡大がFDAに承認されたと発表した。2012年に承認された時はCFTR遺伝子にG551D置換を持つ膿胞性線維症だけが対象だったが、新たにG178Rなど8種類の置換型も適応となった。米国の対象人口が1200人から1350人に増加することになる。

膿胞性線維症はCFTR蛋白の遺伝子に欠損があり、粘液が肺に蓄積、感染症を発症しやすくなる。KalydecoはCFTRをポテンシエートする作用を持ち、CFTRチャネルの開口時間を長期化する。G551D置換などの患者に有効だが、該当するのは患者の5%程度である。

患者の5割程度を占めるF508欠損型に関しては十分な効果は無いが、VX-809(lumacaftor)併用の第三相試験が進行しており年内に開票する見込み。VX-809はCFTRコレクターと呼ばれており、CFTR蛋白が細胞表面に移行するのを助ける。他にも幾つかの変異型に対するKalydecoの試験が進行中。

リンク:ヴァーテックスのプレスリリース

今週は以上です。

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