2013年11月17日

海外医薬ニュース2013年11月17日号



【ニュース・ヘッドライン】

  • さようなら、コレステロール治療目標
  • 英国の薬品局が抗癲癇薬の交換可能性を評価
  • アルニラムが家族性ポリニューロパシーの第三相に着手
  • GSK、Lp-PLA2阻害剤の大規模試験がフェール
  • Sareptaの核酸医薬は承認申請遅延
  • FDA諮問委員会はサノフィの多発性硬化症薬を支持したが...
  • FDAがJNJの抗がん剤をスピード承認
  • EUがバイエルの前立腺癌用薬を承認


【今週の話題】


さようなら、コレステロール治療目標

(2013年11月12日発表)

ACC/AHAの新しいコレステロール治療ガイドラインがCirculation誌などで公開された。ATP IIIと呼ばれるこれまでのガイドラインと比べてかなり大きな方針変更がある。

まず、LDL-C値治療目標(100mg/dL以下、など)が廃止された。治療がうまくいっているか、定期的に確かめる必要はなくなった。次に、標準的治療薬はスタチンでそれ以外の薬は不耐患者のみに用いることが明記された。更に、患者の心疾患疾患リスクを評価する新しい手法が導入され、治療対象が拡大した。

これまでと同様に患者の特性に応じて治療法を選択するが、選択肢は二種類のみで、強度治療はLDL-Cを50%以上低下させる用量のスタチンを、中度治療は30~49%低下させる用量を、投与する。治療対象は、アテローム性心血管疾患、LDL-Cが190mg/dL超、そして、LDL-Cが70~190mg/dLの場合は40~75歳で、且つ、糖尿病又は向こう10年間にアテローム性心血管疾患を発症するリスクが7.5%を超えると推測される患者。最初の二類型は強度治療。最後の二類型は他の因子も考慮して強度または中度の治療を行う。

報道によると、目標値が廃止されたのは十分なエビデンスがないため。血圧と異なり検査が簡単安価ではないためか、プライマリーケア医はこれまでも特別な検査は行っていなかったようなので、現状追認と言えるだろう。スタチンに限定したのはナイアシンやフィブレートの心血管アウトカム試験がフェールし、Zetia(ezetimibe、和名ゼチーア)も今のところ否定的なデータしかないため。

ZetiaはIMPROVE-ITという大規模心血管アウトカム試験が2004年にロンチされたが、遅延に次ぐ遅延で結果が出るのは2014年の見込み。発売は2002年、米国のGE化は2017年なので、もし効果がなく処方が激減したとしても、12年間収益を上げ、失うのは3年分だけだ。

初発予防は、これまではリスクが20%以上が対象だったが、7.5%に引き下げられた。また、今回のリスク評価法は人種の違いなどを軽視しているという声もあり、医師の判断でもっと多くの患者が治療を受ける可能性もある。スタチンはコレステロール治療薬の中でシェアが上昇し、市場のパイも拡大することになる。殆どの製品がGE化したので、追加的なコストはそれほど大きくないだろう。

尤も、これまでの方針と大きく変わったため、今回のガイドラインに抵抗を示す医師も多いだろう。患者に口をすっぱくして言っていた事を翻さなければならないからだ。

スタチン以外の薬はシェア低下トレンドが続くだろう。十分なエビデンスもないのに多用されていた、今までが間違っていたのだ。問題は、第三相試験段階にある抗PCSK9抗体だ。FDAが心血管アウトカム試験のデータが出るまで承認しないか、それともLDL-C治療効果や安全性が確認されれば承認するのかによって発売時期が大きく変わってくる。

注目されているのは上記のIMPROVE-IT試験だ。スタチンと異なるメカニズムでLDL-Cを引き下げる薬がもし心血管疾患を減らすことができないとしたら、重要なのはLDL-C低下ではなくスタチンということになる。

尤も、私は、もしこの試験がフェールしてもメカニズムの問題と断定することはできないと考えている。スタチンの心血管疾患削減率はLDL-C低下率と相関しており、低力価スタチンを少量投与する試験を行ってもフェールするだろう。ZetiaのLDL-C低下作用は決して大きくなく、だから、小さな差でも統計的に有意になるように18000人という巨大な試験を何年も行うのだ。

私は、IMPROVE-IT試験の成否に関わらず、抗PCSK9抗体も心血管アウトカム試験が成功するまで承認されないと予想している。

リンク:ACC/AHAコレステロール治療ガイドライン(pdfファイル)

英国の薬品局が抗癲癇薬の交換可能性を評価

(2013年月日発表)

英国の薬品医療機器規制機関であるMHRAは、抗癲癇薬とそのGE品の交換可能性に関する推奨を発表した。

抗癲癇薬の中には生物学的利用率に大きな個人差があり、しかも、安全域があまり広くないものがある。GE薬はオリジナルの薬と完全に同じである必要はなく、誤差範囲が一定内に収まっていれば承認されるため、昔から、本当に大丈夫なのかという声が日本でも、米国でもある。GE薬を異なったメーカーの製品とスイッチする場合の交換可能性はもっと曖昧だ。

承認審査機関の建前では、承認された薬は全て問題ない。もし新たに問題が発生したら適切な措置を取るので、安心して使ってよい。勿論、患者の様子を注意深く見守る必要があるのは他の薬と同じである---FDAはこのようなスタンスと思われる。しかし、医師や患者が納得しているかどうかは不明である。

それだけに、MHRAが懸念に応えて推奨を出したことは、当局のあるべき姿を示唆したものとして注目できる。私の知識の範囲内ではあまり意外感はないので、英国の医療に大きな変化をもたらすものではないだろうが...

MHRAの推奨は抗癲癇薬を三種類のカテゴリーに分けている。現在服用している製品を続けるよう推奨するのがカテゴリー1の薬で、phenytoin、carbamazepine、phenobarbital、primidoneが該当する。

逆に、特別な問題がない限り特定の製品に拘る必要はない(スイッチしても良い)のがカテゴリー3の薬で、levetiracetam、lacosamide、tiagabine、gabapentin、pregabalin、ethosuximide、vigabatrinなど比較的新しいくするが該当する。

この中間がカテゴリー2の薬で、癲癇発作の頻度や治療歴などを考慮し、患者や保護者と相談した上で、医師がスイッチの妥当性を判断する。該当するのはvalproate、lamotrigine、perampanel、retigabine、rufinamide、clobazam、clonazepam、oxcarbazepine、eslicarbazepine、zonisamide、topiramate。

リンク:MHRAのプレスリリース

【新薬開発】


アルニラムが家族性ポリニューロパシーの第三相に着手

(2013年11月10日発表)

アルニラム・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ALNY)はALN-TTR02(patisiran)の第三相試験に着手した。異型トランスサイレチンによる家族性ポリニューロパシー(FAP)のステージI、IIの患者200人をALN-TTR02群と偽薬群に2対1割付けして18ヶ月間治療し、mNIS+7というニューロパシー・インペアメント・スコアを用いて治療効果を測定する。試験薬は三週間に一回、70分点滴静注する。

ALN-TTR02はRNA介入薬で、肝臓でトランスサイレチンの遺伝子が翻訳されるのを妨げる。第二相試験では血清トランスサイレチンが9割減少した。欧州などでFAPの治療に用いられているtafamidisなどのトランスサイレチン安定化剤を併用している患者にも効果があった模様。

FAPはトランスサイレチン遺伝子の点変異により発症する疾患で、日本はこの変異を持つ家系が比較的多いようだ。アルニラムは日本やアジアの権利をサノフィの子会社であるジェンザイムにライセンスしているが、残念ながら、clinicaltrials.govの記述を見る限りでは、日本の施設は今回の第三相試験には参加しないようだ。

リンク:アルニラムのプレスリリース

GSK、Lp-PLA2阻害剤の大規模試験がフェール

(2013年11月12日発表)

グラクソ・スミスクラインは、GSK480848(darapladib)の第三相心血管アウトカム試験がフェールしたことを発表した。安定期冠状心疾患を対象とした試験で、もう一本の急性冠症候群試験は来年、開票する見込み。残念だが、Lp-PLA2阻害剤がアテローム性心疾患を防ぐというエビデンスは存在しないので、意外感はない。

Lp-PLA2(別名PAFアセチルハイドラーゼ)は脂肪酸の加水分解にかかわる酵素で、LDL-Cの酸化に関係しているようだ。高Lp-PLA2かつ高CRPの人は低い人と比べて心血管疾患のリスクが4倍、卒中リスクは8倍と高い。IVUS(血管内超音波検査)を用いた第二/三相試験では、プラク変形能、hsCRP量、プラク量の何れも有意な改善効果は見られなかったが、壊死性コアの増大を抑制効果は見られた模様。

作用機序が斬新なせいか既存の確立したバイオマーカーでは評価できなかったわけだが、今回の試験では主要有害心臓イベント(MACE:心筋梗塞など)が6%減っただけであり、pは0.199だったので、臨床的な効果はなく、もしあったとしても小さいことになる。

尚、Anthera Pharmaceuticalsが塩野義製薬らからライセンスしたPLA2阻害剤、varespladibも急性冠症候群の第三相が無益性により中止となり、AHA米国心臓協会科学部会で11月18日にデータ発表される見込み。

リンク:GSKのプレスリリース

Sareptaの核酸医薬は承認申請遅延

(2013年11月12日発表)

Sarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)はAVI-4658(eteplirsen)をデュシェンヌ型筋ジストロフィーの治療薬として承認申請することをFDAと相談していたが、結局、第二相試験に基づく申請は認められず、キチンとした第三相試験を行うことになりそうだ。9月22日号で書いたように、競合品の第三相試験がフェールしたことは朗報ではなかった。

第二相試験では12週間治療してジストロフィン量の変化を偽薬群と比較した。有意な差は出なかったが、偽薬群を試験薬に再無作為化割付して実施した延長試験では、試験薬を投与し続けた群も含めて全群、48週時点でベースライン比有意に増加した。しかし、同様な効果を示したProsensa(Nasdaq:RNA)・グラクソ・スミスクラインのPRO051/GSK2402968(drisapersen)の第三相試験はフェール、6分歩行テストの成績が改善しなかった。

FDAは、drisapersenの試験結果を踏まえて、ジストロフィンが一定以上増えないと運動機能を改善できない可能性があると判定。従来から指摘していた、Sareptaのジストロフィン量計測手法の妥当性に関する懸念を強めた。

また、上記の第二相試験の評価についても疑義を表明。被験者は全て、ベースライン時点の6分歩行テスト成績が350mを超えていたが、患者の自然経過に関する研究では、このような患者はその後の悪化が小さく、本当に悪化を防いだのか分からないと結論した。延長試験は偽薬対照試験でなかったことが裏目に出た格好だ。

幸か不幸かProsensa・GSKの試験がフェールしたので、Sareptaは急ぐ必要はなくなった。じっくりと第三相試験に取り組んで患者が納得するデータを作るべきだろう。

リンク:Sareptaのプレスリリース

【承認審査・委員会】


FDA諮問委員会はサノフィの多発性硬化症薬を支持したが...

(2013年11月13日発表)

FDA末梢中枢神経系薬諮問委員会はサノフィが再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として承認申請したLemtrada(alemtuzumab)を検討し、過半の委員が二次治療薬としてなら承認に値すると判定した。FDA審査官の評価は厳しいので、すんなり承認されるかどうかは不透明だ。

Lemtradaは抗CD52ヒト化抗体で、慢性リンパ性白血病用薬MabCampathとして2001年に欧米で承認された。多発性硬化症では3~5日間連続で点滴静注するコースを年一回施行する用法で開発され、高い再発予防効果を示したが、深刻な甲状腺疾患や免疫性血小板減少性紫斑症のリスクも見られた。このため、諮問委員会の前に公開されたFDAブリーフィング資料では、安全性に関する重大な懸念が表明されていた。また、これらの試験は皮注用インターフェロンを対照薬とした為、盲検ではなくオープンレーベルで行われた。

諮問委員は、18人中11人が臨床試験のデザインが不適当と判定したが、効果については12人が支持した。とは言え、障害進行抑制効果については14人が支持しなかった。安全性については、効果を評価せずに安全性だけに基づいて承認しないほど酷くはない点で全員が一致。但し、一次治療は適応外にして既存薬に不耐、不応の患者に限定することを16人が支持した。

FDAの末梢中枢神経系薬審査部門は審査が厳しく、ブリーフィング資料の内容を多少割り引いて受け止める必要がある。専門医が使う薬なので、多少リスクがあっても密接に監視することで早期に発見、対処できる可能性があり、副作用が中枢神経に関わるものなら自分で対処できるし、他の病気なら専門医の治療を受けるよう患者に指示することができる。専門医が担当する患者は難治性であることが多く、治療の選択肢は一つでも多いほうが良い。

それでも、上記のように諮問委員の評価は区々であり、全員が承認に賛成したわけではない。適切な使用、監視を担保するためのプログラム(REMS)を作成することも重要な課題だ。このため、Lemtradaが順調に年内承認となる可能性は低いだろう。尚、EUでは今年9月に承認された。

リンク:Medpage(要登録)の記事・・・サノフィはプレスリリースを出していない

【承認】


FDAがJNJの抗がん剤をスピード承認

(2013年11月13日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、FDAがImbruvica(ibrutinib)をマントルセルリンパ腫の二次治療薬として承認したと発表した。7月に承認申請されたばかりなので、4ヶ月のスピード承認だ。ブレークスルー・セラピー指定を受けており、今月承認されたロシュのGazyva (obinutuzumab)に次ぐ承認第二号となった。慢性リンパ性白血病でも審査中で、来年3月までに承認されるだろう。

ImbruvicaはBrutonチロシン・キナーゼ(Btk)阻害剤で、Bセルの生存に関わるBtkを阻害し細胞死を誘導する。再発性・難治性患者を組入れた第二相試験では、rIWG基準による反応率が65%、完全反応率17%、反応持続期間がメジアン17.5ヶ月と良い成績を上げた。血液癌は反応率と延命効果が相関することが多く、FDAはこれらの代理マーカーによる評価を認め加速承認した。

主な有害事象は出血、感染症、骨髄抑制、腎毒性、二次性原発性腫瘍、胚胎児毒性など。この試験では10%が有害事象により治験を離脱、14%が薬を減量した。

JNJはカリフォルニアのファーマサイクリクス(Nasdaq:PCYC)から共同開発販売権を取得、開発費の6割を負担し、利益は折半する。報道によると一日薬価は360ドル、臨床試験のメジアン投与期間は8ヶ月強だったので、患者一人当たり約8万ドル掛かることになる。結構な値段だが、慢性リンパ性白血病では服用量が一日三カプセルと3/4で済むので若干安くなる。

リンク:FDAのプレスリリース

リンク:JNJのプレスリリース

EUがバイエルの前立腺癌用薬を承認

(2013年11月15日発表)

バイエルは、Xofigo(radium-223 dichloride)を去勢抵抗性前立腺癌用薬として承認したと発表した。症候性骨転移を合併し、腹部転移はない場合に適応になる。

Xofigoは放射線核種をカルシウムに類似した化学物質と結合し骨に分布するよう工夫した放射線核種薬。化学療法不耐、不適、不応の患者を組入れた第三相偽薬対照試験では、メジアン生存期間が14.9ヶ月と偽薬群の11.3ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.695、pは0.00007だった。米国では5月に承認されている。ノルウェーのAlgetaから開発販売権を取得したもの。

リンク:バイエルのプレスリリース

今週は以上です。

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