2013年9月28日

海外医薬ニュース2013年9月29日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • JNJの抗HCV薬が日本で初承認
  • ルンドベック/武田の抗鬱剤は無事承認されるか?
  • イーライリリーの抗VEGFR-2抗体は胃癌が成功、乳癌はフェール
  • dalvancinが二度目の承認申請
  • EUがアストラゼネカのPARP阻害剤とオピオイド誘導性便秘薬の承認申請を受理
  • CHMPがJNJの二型糖尿病薬などの承認を支持
  • FDAはブリディオンを未だ承認しない
  • EUがベーリンガーや武田の新薬とJNJ等の適応拡大申請を承認
  • タイガシルは死亡リスクが高まる
  • 抗CD20抗体のHCV/HBV増悪リスクを警告強化


【今週の話題】



JNJの抗HCV薬が日本で初承認

(2013年9月27日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン・グループのヤンセンファーマは、ソブリアード(Sovriad、simeprevir)が厚生労働省に承認されたと発表した。慢性C型肝炎の一次、二次治療薬としてアルファ・インターフェロンやリバビリンと併用する。併用二剤は24週間又は48週間投与するが、ソブリアードは最初の12週間、100mgを一日一回経口投与する。スエーデンのMedivirからライセンスしたNS3/4Aプロテアーゼ阻害剤。

日本の承認を取り上げたのは、同社が世界に先駆けて日本で申請したからだ。海外と並行して日本でも臨床試験が進められ、理由は知らないが、海外より少ない用量が選定された。日本で最初に承認される薬は珍しくなくなったが、主として海外の治験データに基づくものでありながら、海外の審査機関が承認を躊躇っているうちに日本が承認するというパターンが多い。今回は明らかに異なり、日本の産学官の連携の賜物なので意義がある。

リンク:ヤンセンファーマのプレスリリース(和文)

ルンドベック/武田の抗鬱剤は無事承認されるか?

日本のねじれ国会は解消したが、米国は上院が民主党、下院は共和党が過半数を占める状態が続いており、予算案がすんなりと通らずに綱渡りを繰り返している。行政サービスが滞ったり、国債の元利返済が遅れたら大変なことになるはずだが、お構いなしだ。このままだと10月1日以降、連邦政府の機能がストップし国民や産業界に皺寄せが出てしまう。一日、二日ならまだ良いが、長期化したらどうなるのだろうか?

治安なども心配だが、海外医薬ニュースに関係するのは、ルンドベックが武田薬品と共同開発して承認申請し10月2日にPDUFA審査期限を迎える抗鬱剤、Brintellix(vortioxetine)だ。数年前に当時のFDA長官が、スケジュールが押している場合は休日出勤も辞さずの心構えで審査するよう通知したことがあり、がんばって9月30日に承認したら賞賛ものだが、どうだろうか。

【新薬開発】


イーライリリーの抗VEGFR-2抗体は胃癌が成功、乳癌はフェール

(2013年9月26日発表)

イーライリリーはIMC-1121B(ramucirumab)の第三相試験二本の成否を発表した。転移性胃癌で一次治療に不応・難治性だった患者を組入れてdocetaxelと併用する効果を調べた無作為化割付偽薬対照二重盲検試験は成功、主評価項目の全生存期間も二次的評価項目のPFS(無増悪生存期間)も、docetaxelだけの群より有意に向上した。

同様な患者を対象としたモノセラピー試験が既に成功しており、リリーはローリング承認申請を開始した模様。モノセラピー試験は効果もp値もそれほど良くなかったが、二本目の成功で承認の展望が開けた。

一方、her2陰性転移性乳癌にdocetaxelと併用した一次治療試験はフェールした。IMC-1121BはVEGFの受容体をブロックする完全ヒト化抗体で、VEGFをブロックするロシュのAvastinと同じではないが似かよった作用機序を持つ。両剤ともフェールしたことを考えれば、乳癌細胞がVEGFを分泌して血管新生を促進するのを阻害しても無効なのだろう。

この他に、結腸直腸癌や肺癌、肝細胞腫でも第三相試験中。結腸癌も肺癌もAvastinの試験が成功したので、IMC-1121Bも成功を期待できるだろう。

リンク:イーライリリーのプレスリリース

【承認申請】


dalvancinが二度目の承認申請

(2013年9月26日発表)

シカゴの新興製薬会社、Durata Therapeutics(Nasdaq:DRTX)は、バンコマイシン系静注用抗生物質のdalbavancinをグラム陽性菌によるABSSSI(急性細菌性皮膚・皮膚構造感染症)の治療薬としてFDAに承認申請した。元々はファイザーが19億ドルを投じて買収した企業の開発品で、2004年にSSTI(皮膚・軟組織感染症、その後FDAが呼称を上記に変えた)治療薬として承認申請されたが承認されず、09年にDurataに開発販売権を譲渡したもの。

FDAの特別プロトコル審査を受けた二本の第三相が成功したので、今回こそ承認されるだろう。抗生剤開発奨励制度が適用されたので、優先審査を受け、承認された場合は通常より5年長い排他権が供与される。

リンク:Durataのプレスリリース

EUがアストラゼネカのPARP阻害剤とオピオイド誘導性便秘薬の承認申請を受理

(2013年9月27日発表)

新薬に紆余曲折は付き物だが、アストラゼネカが企業買収によって入手したPARP阻害剤、AZD2281/KU-0059436(olaparib)も崖っぷちから蘇った。卵巣癌維持療法の第二相試験がフェールし、同社がKuDOS買収時に計上した無形資産を償却したのでもう終わりと思っていたが、ポストホック分析でBRCA1/2型に対する有効性が浮上。第三相試験が開始されただけでなく、EUに承認申請され受理されたのである。

PARPは損傷したDNAの塩基を除去修復する生来のメカニズムに係るポリメラーゼ。BRCA1/2はDNAを修復するもう一つのメカニズムに係る蛋白。後者に遺伝性変異を持つ女性は卵巣癌や乳がんを発症するリスクが高い。発症した患者にPARP阻害剤を投与すると、DNA損傷メカニズムが両方とも機能しなくなり、細胞がアポトーシスする。

問題の第二相試験は高悪性度漿液性卵巣癌で白金薬治療を受け部分反応・完全反応した患者に400mgを一日二回、経口投与したもの。PFSはメジアン8.4ヶ月と偽薬群の4.8ヶ月を上回りハザードレシオ0.35と有意な効果を示したが、全生存期間の予備的中間解析はハザードレシオ0.94、有意差なしという失望的な結果だった。

ところが、その後に実施された先天性BRCA1/2変異型患者136人の事後的サブグループ分析で、PFS11.2ヶ月(偽薬群は4.1ヶ月)、ハザードレシオ0.17、95%信頼区間0.09-0.32と大変良い結果が出た。全生存期間の中間解析は34.9ヶ月対31.9ヶ月、ハザードレシオ0.74。症例不足で有意水準には達していないが期待できそうな数値だ。

それにしても、EUが第二相試験の事後的分析に基づく承認申請を受理したのは意外だ。この種の遺伝子検査は偽陽性などのリスクがあり、また、事後的分析なので盲検が維持されないリスクがある。BRCA検査は最もポピュラーな遺伝子検査の一つなので、判定ミスのリスクは小さいのかもしれない。だが、もし検査が簡明なら初めから全例検査して階層化しただろう。

アストラゼネカは、同日、EUがnaloxegolの承認申請を受理したことも発表した。09年にネクター社(Nasdaq:NKTR)からライセンスした末梢オピオイド受容体拮抗剤で、オピオイドの副作用である便秘の治療に用いる。

リンク:アストラゼネカのプレスリリース(olaparib)

リンク:同(naloxegol)

【承認審査・委員会】


CHMPがJNJの二型糖尿病薬などの承認を支持

(2013年9月19日発表)

先週、書き漏らしたものをフォローアップする。EUの医薬品科学的評価機関であるCHMPは9月の会議で以下の新薬、適応拡大に関しても肯定的意見を纏めた。順調なら3ヶ月以内に承認されることになるだろう。

・JNJが田辺三菱製薬からライセンスして共同開発したSGLT2阻害剤、Invokana(canagliflozin)。二型糖尿病の血糖管理に用いる。米国では3月に承認された。

リンク:JNJのプレスリリース

・ギリアッド(Nasdaq:GILD)が日本たばこからライセンスして開発したインテグラーゼ阻害剤、Vitekta(elvitegravir)。HIV/AIDSの多剤併用療法の一つとして用いる。米国は品質検査手法に係る懸念が浮上した模様で、審査完了通知を受領した。ギリアッドは本件に関するプレスリリースを出していないようだ。

リンク:EUのプレスリリース

・スエーディッシュ・オーファン・バイオヴィトラム(STO:SOBI)のKineret(anakinra)の適応拡大。クリオピリン関連周期性症候群(CAPS)に用いる。CAPSは100万人に一人の希少疾患。1月に米国で承認されたが、EUの方が様々なサブタイプに対する効能・安全性を認めた。

リンク:SOBIのプレスリリース

・BMSのYervoy(ipilimumab)の適応拡大。悪性黒色腫の再発時だけでなく、一次治療に用いることも支持された。

・ノバルティスのVotubia(everolimus)をTSC(結節硬化複合体)患者のSEGA(上衣下巨細胞性星細胞腫)に用いる時の対象年齢制限(3歳以上)を解除。

FDAはブリディオンを未だ承認しない

(2013年9月23日発表)

MSDはFDAにBridion(sugammadex、和名ブリディオン)の承認申請をしていたが、再び審査完了通知を受領した。FDAが過敏反応リスクを懸念したためアレルギー感受性試験を実施したが、治験施設の査察で懸念が浮上した模様。残念な話だ。

Bridionは多くの国で承認され、特に日本で多く使われている。日本のレーベルを見ると、海外の健常者試験でアナフィラキシーを含む過敏反応の発生率が4mg/kg投与群で0.7%、16mg/kg群では4.7%発生した。アナフィラキシー・ショックも発生した模様だ。16mg/kgは日本で承認されている用量なので、レーベルに記されているように、医療従事者は観察を十分に行い、異常が認められた場合には直ちに適切な処置を行う必要がある。

リンク:MSDのプレスリリース

【承認】


EUがベーリンガーや武田の新薬とJNJ等の適応拡大申請を承認

(2013年9月25日発表)

CHMPは夏休み期間に数多くの肯定的意見を出したが、2~3ヶ月のラグで以下の新薬、適応拡大がEUに認められた。

・武田薬品のDPP-4阻害剤alogliptinと二種類のコンビ薬が同時承認。二型糖尿病の血糖治療に用いる。alogliptinの製品名は日本はネシーナ、米国もNesinaだが欧州はVipidia。pioglitazone配合剤は夫々リオベル配合錠、Oseni、Incresync。metformin配合剤は米国がKazano、欧州はVipdomet、と複雑だ。

リンク:武田のプレスリリース(9月24日付、和文)

・ベーリンガー・インゲルハイムのGiotrif(afatinib)。EGFR変異陽性の非小細胞性肺癌の治療に用いる。米国では7月に承認。

リンク:ベーリンガーのプレスリリース(9月25日付)

・ギリアッドの3A4阻害剤、Tybost。抗HIV薬atazanavirまたはdarunavirのブースターとして用いる。アッヴィ社の隠れたベストセラー、ritonavirの競合薬。米国は品質検査手法に関する懸念が浮上、審査完了に留まった。

リンク:ギリアッドのプレスリリース(9月25日付)

・GSKのRevolade(eltrombopag、和名レボレード)の適応拡大。慢性C型肝炎でインターフェロン・ベースの治療を受ける患者の血小板減少症の治療する。肝炎で血小板減少症を合併する患者はインターフェロンとリバビリンによる治療を行うと副作用で悪化する可能性があるのでNG。Revoladeで血小板を増やせばもっと多くの患者が抗HCV治療を受けられるようになる。肝臓副作用が出ることがあるので要注意。

リンク:GSKのプレスリリース(9月24日)

・JNJのStelara(ustekinumab)の適応拡大。乾癬性関節炎に用いる。JNJは同日に米国でも承認されたことを発表した。

リンク:JNJのプレスリリース(欧州適応拡大、9月23日付)

リンク:同(米国適応拡大、9月23日付)

・JNJのSimponi(golimumab)の適応拡大。難治性中重度潰瘍性大腸炎に用いる。類薬であるRemicade(infliximab)は数多くの用途で承認されているのでSimponiも一つ一つキャッチアップする必要がある。

リンク:JNJのプレスリリース(9月23日)

【医薬品の安全性】


タイガシルは死亡リスクが高まる

(2013年9月27日発表)

FDAは、Tygacil(tigecycline、和名タイガシル)の死亡リスクを警告するべく、ファイザーがレーベルを改定して枠付警告することを承認したと発表した。静注用抗生物質で、多剤耐性グラム陽性菌にも活性を持つため、わが国でも日本感染症学会、日本化学療法学会、日本環境感染学会、日本臨床微生物学会が共同で要望し、昨年承認された。

第三相試験で死亡リスクが活性対照薬より高かったが、サンプル数が少なく、安全性ではなく効果の問題である可能性も考えられた。その後、別の試験も含めてFDAが行ったメタアナリシスで死亡率が4%と対照群の3%より高く、群間差の95%信頼区間は0.1~1.2%だった。更に、承認されている用途の試験だけの5000例を超えるメタアナリシスが行われ、死亡率2.5%対1.8%、差の95%信頼区間は0.0~1.2%だった。

このため、FDAは、他の治療薬が不適当な場合だけに用いることを推奨した。

リンク:FDAのプレスリリース

抗CD20抗体のHCV/HBV増悪リスクを警告強化

(2013年9月25日発表)

FDAは、Rituxan(rituximab、和名リツキサン)とArzerra(ofatumumab、和名アーゼラ)のレーベルを改定して、慢性B型肝炎や慢性C型肝炎の増悪リスクを枠付警告したことを発表した。この二つの抗CD20抗体医薬は免疫抑制作用が強くウイルスや細菌による感染症のリスクが高まることは周知だが、肝炎が悪化して肝不全や致死例も発生しているようだ。作用が長く続くせいか、治療を終了して数ヶ月経ってから発症した例もある由。

このため、投与開始前にウイルス検査を行い、感染経験者であった場合はモニタリング方法や治療方針を専門医に相談する。発症したら投与を止め速やかに治療する。

リンク:FDAのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年9月22日

海外医薬ニュース2013年9月22日号

 



【ニュース・ヘッドライン】




  • 第二のXenicalが遂に発売
  • FDAがランバキシーに新たな輸入禁止措置
  • エクソン・スキッピング薬の第三相試験がフェール
  • 二重顎治療薬の第三相が4本とも成功
  • CHMPがロシュのカドサイラなどに肯定的意見
  • EUがサノフィのLemtradaを承認


【今週の話題】



第二のXenicalが遂に発売

(2013年9月20日発表)

武田薬品は厚生労働省から肥満症治療薬オブリーン錠(セチリスタット)の製造販売承認を取得したと発表した。ロシュが海外で販売しているXenical(orlistat)の類薬で、脂肪の吸収に必要なリパーゼを阻害する。ライセンス元はオランダのNorgine BVで、経営破たんした英国のAlizyme社から2009年に権利を完全取得したもの。

リパーゼ阻害剤は吸収されなかった脂肪が肛門から漏れたり脂肪便になって水洗トイレで中々流れなかったりする。cetilistatはこの副作用がXenicalより起きにくいことが期待されたが、それほどでもなかった。Alizymeは2003年に日本の権利を武田薬品にライセンスした後、欧米市場での開発販売パートナーを探したが、見つからなかった。

体重管理薬は米国でfenfluramineとその光学異性体、欧州ではsibutramineやbenfluorexなどを巡り安全性懸念が浮上、大規模な心血管アウトカム試験が求められるようになり、Alizymeのような新興企業が単独で開発するのは困難になった。体重管理薬を開発する米国の新興企業も開発パートナーを探したが、アリーナ(Nasdaq:ARNA)はエーザイ、オレキシジェン(Nasdaq:OREX)は武田と日本の製薬会社しか手を組まず、ヴィーヴァス(Nasdaq:VVUS)は単独販売となった。

sibutramineは心血管アウトカム試験で懸念が浮上し欧州では承認取消、米国でも警告強化されたが、その直前に、日本では第一部会を通過した。このように、日本は欧米とは全く異なった考えを持っており、今や、日本企業と日本市場は体重管理薬開発の主要な担い手になっている。

オブリーンの日本での第三相では、120mgを一日三回、52週間投与したところ体重が2.8%減少し、偽薬群の1.1%減少を有意に上回った。治療効果は1.7%、体重100kgの患者なら1.7kgということになる。腹囲は体重と相関するので、1.7kg低下なら1~2cm改善するだろう。腹囲が86cmの男性なら、メタボのレッテルを破り捨てることができるかもしれない。

リンク:武田薬品のプレスリリース(日本語)

FDAがランバキシーに新たな輸入禁止措置

(2013年9月16日発表)

FDAは第一三共グループのGE薬メーカーであるランバキシーに対して、インドのMohali工場で生産された医薬品を米国に輸入することを禁じる措置を取った。cGMP(生産管理に関する基準)違反が理由。Paonta Sahib工場とDewas工場も同様な措置を受けており、事態が改善するどころかむしろ悪化している。

FDAはMohali工場を2012年9月と12月に査察し、異物混入が看過され適切な再発防止策が取られていないことを発見した。ランバキシーにとっては三度目の経験なのだから、上場企業の責務としてこの時点で公表してもよかったのではないかと感じられる。

リンク:FDAのプレスリリース

【新薬開発】


エクソン・スキッピング薬の第三相試験がフェール

(2013年9月20日発表)

オランダの新興企業Prosensa(Nasdaq:RNA)と開発パートナーのグラクソ・スミスクラインは、PRO051/GSK2402968(drisapersen)の第三相デュシェンヌ型筋ジストロフィー(DMD)試験がフェールしたと発表した。Prosensaの株価は70%下落、競合品を開発しているSarepta Therapeutics(Nasdaq:SRPT)の株価は高騰と明暗が分かれたが、今回のフェールは作用メカニズムに疑念を生じさせた面もあるので、要注意だ。

この無作為化割付偽薬対照二重盲検試験は、DMDの少年186人を6mg/kgを週一回、皮注する群と偽薬群に2:1割付して48週間実施した。主評価項目の6分歩行テスト改善幅の群間差は10.3m、p=0.415となりフェール。第二相試験実績の31.5mを大幅に下回った。運動機能に係る様々な二次的評価項目でも効果が見られなかったようだ。主な有害事象は注射箇所反応(発生率78%、偽薬群は16%)や腎有害事象(各46%と25%)。

drispersenは、DMDの原因であるジストロフィン遺伝子の変異を補うために、遺伝子が翻訳される時に変異部位の塩基配列を無視してしまう、エクソン・スキッピングという現象を誘導する。短いがある程度の機能を持つジストロフィンが作られるようになる。ジストロフィン遺伝子は79のエクソンに分かれているが、drispersenが有効なのはエクソン51だけで、DMD患者の13%程度が対象になる。

Sareptaも同様な作用を持つeteplirsenを開発しているが、CMC(生産プロセスや品質検査、管理などに係る事項)に問題が生じたようで、第三相入りが遅れている。日本では国立精神・神経医療研究センターと日本新薬がエクソン53をスキップする化合物で臨床開発を開始した。

drispersenもeteplirsenもジストロフィンが増えることは確認されているはずだ。今回のフェールが示唆するのは、1)ジストロフィン検査方法が不正確で本当は増えていない、2)増えるが運動能力を大きく改善するには足りない、3)エクソン51スキッピングでジストロフィンを増やしても無効、の三つのシナリオだ。

1)はSareptaがジストロフィン増加作用を代理マーカーとして行った第二相試験のデータに基づいて承認申請すべく相談した時にFDAが指摘した、要確認点の一つである。3)は断定するにはまだ早い。エクソン・スキッピング薬やRNA介入薬のようなオリゴヌクレオシドは薬物動態が不安定という弱点を持ち、似たような薬でも効果が異なることは十分考えられるからだ。現時点では2)を本命とするのが妥当だろう。但し、今後drispersenの治験データが学会、論文発表され、3)の可能性が浮上する可能性もあるので要注意だ。

リンク:ProsensaとGSKのプレスリリース

二重顎治療薬の第三相が4本とも成功

(2013年9月16日発表)

Kythera Biopharmaceuticals(Nasdaq:KYTH)は、ATX-101の米国第三相試験が二本とも成功したと発表した。欧州の試験も成功しており、四戦四勝となった。北米以外の権利はバイエルの皮膚科用薬部門が保有している。

ATX-101は食物脂肪を分解するデオキシコール酸の特許性製剤で、二重顎の原因になる頤(おとがい)下の脂肪を減らす。頤下脂肪領域に直接注射するコースを月一回、最大で4コース施行する。第三相試験では医師の評価と患者の満足度評価の両方が1段階以上改善したら奏効と判定した。今回の米国試験では試験薬群の奏効率が7割前後に達し、一方、偽薬群は2割前後に留まったため、二本とも有意な差が見られた。有害事象は疼痛、腫脹、痺れなど。

1段階の差が臨床的にどの程度の意味があるのか知らないが、この種の薬は患者が喜べばそれでよいのだろう。日本の美白化粧品ではないが、患者を喜ばすための薬なのだから、美容面の副作用が発生して患者を悲しませたら元も子もない。ATX-101も安全性のハードルを十分に高く維持しなければならない。

リンク:Kytheraのプレスリリース

【承認審査・委員会】


CHMPがロシュのカドサイラなどに肯定的意見

(2013年9月20日発表)

EUの医薬品科学的評価委員会であるCHMPが9月の例会でロシュのKadcyla(trastuzumab emtansine)などの新薬に肯定的意見を出した。順調なら2~3ヶ月以内にEUで承認されることになるだろう。尚、日本時間の9月21日、22日時点でEMAのウェブサイトがメンテナンス中でアクセスできず、企業リリースなどに基づいて作成したため、見落としがあるかもしれない。

Kadcylaは日本でもカドサイラとして承認された。her2陽性の切除不能、または転移性の乳癌に二次治療薬として用いる。her2陽性乳癌の典型的な一次治療薬であるHerceptin(trastuzumab)とタクサン系抗癌剤を既に使った患者が対象。capecitabine・lapatinib併用群と比較した第三相試験では、共同主評価項目であるPFS(無増悪生存期間)と全生存期間がメジアン値で3~6ヶ月長く、ハザードレシオは0.65~0.68だった、

イミュノジェン(Nasdaq:IMGN)の抗体薬品結合技術を持ちいて開発したもので、Herceptinの抗体とDM1という細胞毒をリンカーで結合。腫瘍細胞の表面分子であるher2に結合するとher2と共に細胞内部に移行、リンカーが外れて細胞毒が腫瘍細胞選択的に攻撃する。

臨床試験でHerceptinとの取り違え事故が発生したことから、米国ではFDAの要請に基づきado-trastuzumab emtansineという一般名が用いられている。

リンク:ロシュのプレスリリース

バイエルのXofigo(radium-223 dichloride)はアルファ線を放射する放射性核種と、カルシウムに類似し骨に分布しやすい化学物質を結合したもの。去勢抵抗性前立腺癌で症候性骨転移があり、内臓転移のない患者に用いる。第三相試験では既承認薬であるdocetaxelに不耐、不適、不応の患者に投与したところ、骨関連イベント(増悪による治療など)や全生存期間が偽薬比有意に改善した。ノルウェイのAlgeta社からライセンスした。

リンク:バイエルのプレスリリース

ノボ ノルディスクのNovoEight(turoctocog alfa)は遺伝子組換え型血液凝固第VIII因子。A型血友病の出血治療、予防に用いる。バイエルやバクスターの製品と競合することになる。バイオジェン・アイデックも承認申請中。新薬は投与頻度の長期化が期待されたが、それほど変わらないようだ。十年以上前に品質管理問題が元で供給不足が生じたことがあるので、メーカーが増えることはそれ自体が患者にプラス。

リンク:ノボ ノルディスクのプレスリリース

大塚製薬のAbilify MaintenaはAbilify(aripiprazole)の長期持効性デポ製剤で、一回の筋注で効果が一ヶ月持続する。非定型向精神薬は薬を飲みたがらない患者に使う注射用持効性製剤が無いことがボトルネックだったが、ジョンソン・エンド・ジョンソン始め多くの会社が開発に成功。aripiprazoleは大塚のほかにAlkermes社も持効性製剤を開発していて年内に第三相試験の結果が出る見込み。

リンク:ルンドベックと大塚のプレスリリース

Relvar Ellipta(fluticasone furoate, vilanterol)はグラクソ・スミスクラインがテラバンス(Nasdaq:THRX)とCOPDや喘息症のパイプラインを持ち寄って共同研究・開発した成果である。

吸入ステロイドと長期作用性ベータ2作用剤のコンビ薬で、本来ならCOPDと喘息症の両方に有効なはずだが、米国ではCOPD向けしか承認されなかった。長期作用性ベータ2作用剤を喘息に使う時の安全性にFDAが懸念を持っていることが原因だろう。日本は逆で、喘息症しか承認されなかった。日本のCOPD試験成績が悪かったようだ。CHMPは両適応症を支持しており、三極の評価が大きく分かれた。

リンク:GSKとテラバンスのプレスリリース

【承認】


EUがサノフィのLemtradaを承認

(2013年9月17日発表)

サノフィは、EUがLemtrada(alemtuzumab)を多発性硬化症の維持療法薬として承認したと発表した。CD-52に結合するヒト化抗体で、元々はMabCampath/CampathとしてBセル慢性リンパ性白血病用薬として承認されたが、グラム単価が低く流用されるとLemtradaが売れなくなる懸念があるせいか、Lemtradaの承認を前に販売中止となった。

点滴静注だが頻度は少なく、最初は5日連続で投与するが、次回は1年後に3日連続投与するだけ。再発予防効果はトッププラスだが自己免疫性の血小板減少や甲状腺疾患、腎症などのリスクを持つため、用途は難治性患者に限定されるのではないか。

リンク:
ジェンザイムのプレスリリース


今週は以上です。

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2013年9月15日

海外医薬ニュース2013年9月15日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ベクチビックスをnras変異型に使うと患者が早死にする!
  • 旧三井製薬の開発品がブレークスルー・セラピー指定!
  • BMS、Yervoyの第三相試験がフェール
  • ギリアッドがidelalisibを承認申請
  • GSK、主力薬のGE化を前に諮問委員会が新薬を支持
  • ロシュ、諮問委員会がパージェタの適応拡大を支持
  • サノフィが米国でリキスミアの承認申請を撤回
  • アブラキサンが米国で膵癌に承認
  • セルトリオン、レミケードのバイオシミラーがEUで承認
  • EUでProcysbiが承認


【今週の話題】


ベクチビックスをnras変異型に使うと患者が早死にする!

(2013年9月11日発表)

アムジェンは、Vectibix(panitumab、和名ベクチビックス)のPRIME試験論文がNew England Journal of Medicine誌に刊行されたと発表した。今年のASCO米国臨床腫瘍学会で発表されたのと同内容で、krasだけでなくnrasの変異も事前に確認しないと、患者を早死にさせてしまう可能性があることを示唆している。

この、医師や患者にとって極めて重要な発見は、米国では6月に、EUでも9月に、レーベルに記載されたが、日本はまだのようだ。日本の抗癌剤の承認の仕方は海外と異なり、細かいところは医師の判断に委ねる傾向があるので、ネグるのかもしれない。

VectibixとErbitux(cetuximab、和名アービタックス)の抗EGFR抗体二剤は、転移性結腸直腸癌に承認された後に、krasという主要関連遺伝子に変異のある患者に用いると却って有害であることが判明、禁忌となった。

PRIME試験はEloxatin(oxaliplatin、和名エルプラット)など三剤を併用するFOLFOXレジメンにVectibixを追加する効果を確認したもので、krasのエクソン2変異を持たない結腸直腸癌だけを対象とした。今回の論文は、他の箇所やnrasの多型の影響を検討した、事前に設定された後顧的研究。

結果は、krasもnrasも野生型の患者(野生ras型)はメジアン生存期間が26.0ヶ月とFOLFOXだけの群の20.2ヶ月を上回り、ハザードレシオ0.78、95%信頼区間0.62~0.99と良好だった。一方、krasやnrasのエクソン2、3、4の何れかに変異のある変異ras型ではハザードレシオ1.25、95%信頼区間1.02~1.55と好ましくない結果となった。転移性結腸直腸がんのうち野生krasは5~6割を占める。今回の試験では、変異ras型が17%を占めた。

判断が難しいのは、第一に、この試験の所見だけで結論を下してもよいか?第二に、有害性はFOLFOX併用時に限られるのか?FDAは事実を尊重し、FOLFOX併用時はras変異は禁忌とした。EUは限定せず、ras変異は禁忌とした。もう一つの広く用いられている併用レジメンであるFOLFIRI/IFLレジメンの併用で同様な試験を行うのは倫理的な問題があり難しいだろうから、EU方式が妥当と感じられる。

第三の難題は、Erbituxも同じなのか、ということだ。メーカーが確認試験を行うのが望ましいが、これも、非現実的だろう。日米欧の審査機関がどう判断するか、注目される。

リンク:アムジェンのプレスリリース

リンク:NEJM論文(抄録だけオープンアクセス)

旧三井製薬の開発品がブレークスルー・セラピー指定!

(2013年9月11日発表)

2001年にシエーリングに買収された三井製薬のヒストン・ジアセチラーゼ1阻害剤、SNDX275(三井製薬の開発コードMS-275、entinostat)が、FDAからブレークスルー・セラピー指定を受けた。シエーリングを買収したバイエルから2007年に権利を取得した、米国マサチューセッツのSyndax Pharmaceuticalsが申請したもの。

HDAC阻害剤は旧藤沢薬品のFR901228が末梢Tセルリンパ腫用薬Istodax(romidepsin)として米国でセルジーンによって販売されている。薬理解明に携わった中島秀典によると、FR901228 は、『当時の藤沢薬品の開発力や日本での臨床開発の限界を超えていた.米国に出さなかったら,日本で潰れていただろう.画期的過ぎた』と記している。この画期的すぎる技術が、SNDX275の代になって、ブレークスルーと認められた。

尤も、ブレークスルー・セラピー指定は技術や作用機序ではなく、治療薬としての効果に与えられるものだ。SNDX275の場合、非ステロイド系アロマターゼ阻害剤に反応しなかったエストロゲン受容体陽性転移性乳癌の第二相試験でexemestane(非ステロイド系アロマターゼ阻害剤)と併用したところ、メジアン生存期間が28.1ヶ月と、exemestaneと偽薬を併用した群の19.8ヶ月を上回った(p=0.04)。

2014年にECOG(米国の腫瘍学共同治験グループ)などが共同で第三相試験を開始する予定。対象患者が第二相と若干異なるが、成功が期待されるところだ。

リンク:Syndaxのプレスリリース

リンク:中島秀典、ヒストン脱アセチル化酵素阻害薬の探索研究経緯(日薬理誌 132, 173~176)

【新薬開発】


BMS、Yervoyの第三相試験がフェール

(2013年9月12日発表)

ブリストル・マイヤーズ スクイブ(BMS)は、抗CTLA-4完全ヒト化抗体Yervoy(ipilimumab)の適応拡大試験がフェールしたと発表した。残念なことだが、他の用途の試験の成功に期待したい。

この第三相試験は去勢抵抗性(去勢やホルモン療法に反応しなくなった)前立腺癌でdocetaxelによる治療に不応・不耐な患者に放射線療法を行った後に、Yervoyで治療する手法を検討したもの。メジアン生存期間は11.2ヶ月、偽薬群は10.0ヶ月で大差なく、ハザードレシオは0.85、p=0.053だった。この試験の検出力はハザードレシオが0.7なら90%というもので、楽観的過ぎたのだろう。

Yervoyは2011年に欧米で切除不能または転移性の黒色腫向けに承認された。活性化したTセルが発現する抑制的副刺激受容体、CLTA-4に結合してレガンドをブロックすることによって、免疫を強化する。

リンク:BMSのプレスリリース

【承認申請】


ギリアッドがidelalisibを承認申請

(2013年9月11日発表)

ギリアッド・サイエンシーズ(Nasdaq:GILD)はGS-1101(別名CAL-101、idelalisib)を米国で低悪性度NHL(非ホジキン型リンパ腫)向けに承認申請したと発表した。Bセルの活性化、増殖、生存に必須の酵素であるPI3K(phosphoinositide-3 kinase)デルタを阻害する経口剤で、2011年にCalistoga Pharmaceuticalsを3.75億ドル及び達成報奨金2.25億ドルで買収して入手したもの。

承認申請の根拠はRituxan(rituximab)及びアルキル化剤に不応の難治性低悪性度NHLを組入れた第二相試験の中間解析。反応率53.6%、メジアン反応持続期間11.9ヶ月、PFS(無増悪生存期間)11.4ヶ月と良い結果だった。深刻な有害事象は下痢、肝機能検査値異常、好中球減少症など。

リンク:ギリアッドのプレスリリース

【承認審査・委員会】


GSK、主力薬のGE化を前に諮問委員会が新薬を支持

(2013年9月10日発表)

グラクソ・スミスクラインは、FDAの肺アレルギー薬諮問委員会がAnoroの承認を支持したと発表した。長期作用性ムスカリン拮抗剤umeclidiniumと長期作用性ベータ2作用剤vilanterolのコンビ薬で、COPD(慢性閉塞性肺疾患)の維持療法としてElliptaという吸入器を用いて一日一回、吸入する。単剤では十分に増悪を防げない患者に、ステップアップ・セラピーとして用いる。

第三相では二種類の用量をテストしたが、FDAは高用量は承認しない方向。薬効については13人の委員全員が、安全性については10人が支持し、便益がリスクを上回る、即ち承認に値すると判定した委員は11人だった。

AnoroはGSKとテラバンス(Nasdaq:THRX)の共同開発プロジェクトから生まれた製品で、テラバンスは売上高の最大10%を受け取る。COPDの合剤は開発が活発で、ベーリンガー・インゲルハイムやノバルティスなどとの競争が繰り広げられることになりそうだ。

GSKは吸入用ベータ2作用剤コンビ薬の先駆で、Advair(和名アドエア)が大成功した。米国の特許が2010年に失効した後も、同等性評価方法が確立していないためにGE品の承認が遅れていたが、FDAが先般、ガイドラインを公開したことから、2016年頃に発売の可能性が出てきた。喘息症でも承認されているAdvairには敵わないが、市場が大きいのでAnoroの投入は重要な特許切れ対策になるだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

ロシュ、諮問委員会がパージェタの適応拡大を支持

(2013年9月13日発表)

ロシュは、FDA腫瘍学薬諮問委員会がPerjeta(pertuzumab、和名パージェタ)の適応拡大を支持したと発表した。早期乳癌のネオアジュバント療法に用いるもので、14人の委員中13人が支持した(一名棄権)。現在は転移性乳癌の一次治療薬として承認されているが、市場が大きく拡大する。

Perjetaは抗2C4ヒト化抗体。Herceptinの標的であるher2が、her3などヒト表皮受容体ファミリーの他の受容体と共役するのを防ぐので、Herceptin耐性癌にも効果が期待される。ネオアジュバント療法は治癒目的の切除術を受ける患者に予め抗癌剤治療を行うことによって、腫瘍を小さくして切除しやすくしたり、視認できない腫瘍を叩くもので、乳房温存術の前に施行することが多い。米国では年1.5万人が受けるという。

乳癌は早期に発見して摘出することが多く、薬の需要も、転移癌より摘出後の再発を予防するアジュバントの方が大きい。従って、アジュバント療法の適応拡大は重要な開発課題だが、癌を切除して健康になった患者が対象なので、開始前に十分に安全性を検討する必要がある。更に、アジュバント試験は時間が掛かる。そこで、ネオアジュバント療法試験という、まだ切除していない、しかし早期段階の患者の試験が重要になる。

今回の適応拡大申請は第二相試験に基づくものだ。ネオアジュバント療法の承認はPerjetaが第一号になりそうだが、今後は、末期癌の開発と並行してネオアジュバントも第二相試験を行い、目途が立った段階でアジュバントの第三相を開始する、雁行的開発方法が一般的になるだろう。

リンク:ロシュのプレスリリース

サノフィが米国でリキスミアの承認申請を撤回

(2013年9月12日発表)

サノフィは、GLP-1作用剤Lyxumia(lixisenatide、和名リキスミア)の米国での承認申請を撤回したことを明らかにした。サノフィのプレスリリースによると、FDAが進行中の心血管アウトカム試験の中間データを要求したが、治験の厳格性が損なわれるため、15ヶ月後に最終解析結果が出るまで待つことを決めた。安全性問題や承認申請の欠陥によるものではないとのことだが、それならなぜ撤回したのか理解できない。

この二型糖尿病薬は今年、欧州や日本で承認された。日本のインタビューフォームによると、心臓障害発生リスクは偽薬の1.44倍、95%信頼区間1.04~2.00と有意に高かった。非致死的卒中の発生率が0.7%対0.4%で数値上高かったようだ。EUの審査文書によると、MACE(主要有害心臓事象:心血管死や非致死的心筋梗塞、卒中)のハザードレシオは1.25、95%信頼区間は0.67~2.35なので有意ではないが、95%上限がFDAの要求値より高い。また、動悸・頻脈のリスクがあるようだ。

こうしてみると、Lyxumiaの承認が遅れたのは心血管リスクのハードルをクリアしていないことが原因で、FDAは心血管アウトカム試験の中間解析データで懸念を払拭することを提案したが、サノフィが拒否したという経緯なのではなかろうか。

ところで、日本人は欧米人と比べて脳梗塞のリスクが高いとされる。PMDAは非致死的卒中の発生率が高いことをどのように評価したのだろうか。

リンク:サノフィのプレスリリース(pdfファイル)

【承認】


アブラキサンが米国で膵癌に承認

(2013年9月6日発表)

セルジーン(Nasdaq:CELG)は、FDAがAbraxane(アルブミン懸濁型パクリタキセル、和名アブラキサン)を転移性膵臓腺腫の一次治療薬として承認したと発表した。Gemzar(gemcitabine)と併用した試験ではメジアン生存期間が8.5ヶ月とGemzarだけの群の6.7ヶ月を上回り、ハザードレシオは0.72だった。主な有害事象は骨髄抑制、疲労、末梢神経症など。

Gemzarを膵癌に用いる時は様々な投与スケジュールが存在するが、併用試験では28日サイクルで初日にAbraxane 125mg/m2を30~40分かけて点滴静注した後、gemcitabine 1000mg/m2を30~40分かけて点滴静注、第8日と第15日はgemcitabineだけを同様に投与した。対照群はgemcitabineを週一回、7週連続投与した後に一週間休み、その後は28日サイクルで第1、8、15日に投与した。

AbraxaneはTaxolの新製剤で、溶剤に起因する過敏反応がなく、忍容性が比較的良いため点滴時間が短く、高集中度投与にも適している。膵癌で承認され、悪性黒色腫試験も成功するなど、Taxolが承認されていない用途でも成果が出始めた。

リンク:FDAのリリース

リンク:セルジーンのプレスリリース

セルトリオン、レミケードのバイオシミラーがEUで承認

(2013年9月10日発表)

米国の注射用薬メーカーであるホスピラ(NYSE:HSP)は、EUがRemicade(infliximab、和名レミケード)のバイオシミラーを承認したと発表した。韓国のセルトリオン(KOSDAQ:068270)が開発・承認申請したもので、ホスピラはInflectra、セルトリオンはRemsimaという製品名で販売する模様だ。欧米で抗体医薬のシミラーが承認されたのは初。セルトリオンは日本でもパートナーである日本化薬と共に承認申請した。Remicadeの欧州での売上高は20億ドル、日本は900億円。

RemicadeはTNF阻害剤の先駆で、リウマチや潰瘍性大腸炎など様々な自己免疫疾患に用いられている。バイオ薬は30年程度の歴史しかなく、生産技術に関する知的所有権がまだ残っているため、完全に同じ方法で作ることができず、同等性の評価が難しい。ジェネリックと呼ばずにシミラーと呼んでいるのは、完全に同じとは言えないからである。

このため、先に承認されたエポエチンなどのサイトカイン系のバイオシミラーは、化学合成される小分子薬のGE品ほど高いシェアを取れていない。製薬会社に情報伝達活動が求められるなど、通常のGE品とは全く異なるマーケットになっている。シミラーの開発も容易ではなく、少なくとも向こう10年ほどは少数の会社しか発売できないだろう。それだけに、GE薬メーカーにとっては、コモディティ化していない高付加価値商品である。

尚、セルトリオンの創業者大株主は負債を返済するために持ち株を売却する意向を示しており、投資銀行と方策を検討している。

リンク:ホスピラのプレスリリース

リンク:セルトリオンの身売り報道に関するコメント(7/31付)

EUでProcysbiが承認

(2013年9月12日発表)

Raptor Pharmaceutical(Nasdaq:RPTP)は、EUがProcysbi(mercaptamine)を腎性シスチン蓄積症の治療薬として承認したと発表した。活性成分自体は昔から存在するが、服用頻度が6時間おきではなく12時間おきであることが長所。シスチン蓄積症は遺伝子疾患で、患者は世界で3000人とのこと。体や骨の成長が遅れ、腎不全のリスクが高まる。三種類の中で最も重いのが腎性シスチン蓄積症で、腎臓に重い障害を与える。

米国で4月に承認されたが、年25万ドルと既存製品の30倍高い価格が付けられた。医療費抑制に熱心な欧州で受け入れられるか注目される。

リンク:Raptorのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年9月8日

海外医薬ニュース2013年9月8日号




【お詫びと訂正】



9月1日号でEfient(prasugrel)のACCOAST試験に関して、『報道によると、2年前に出血リスクを理由に中止になったようだ。』と書きましたが、正しくは昨年11月に中止でした。お詫びして訂正します。


【ニュース・ヘッドライン】




  • 大塚製薬がアステックスと買収合意
  • Lancetが日本人研究者の論文を撤回
  • ESC:リクシアナとオングリザの心血管アウトカム試験
  • GSK、癌治療用ワクチンの第三相試験は最初の解析がフェール
  • ジョンソン・エンド・ジョンソンが抗IL-6抗体を承認申請
  • ハーセプチン皮注がEUで承認
  • GSKのbraf阻害剤がEUでも承認


【今週の話題】


大塚製薬がアステックスと買収合意

(2013年9月5日発表)

大塚製薬は米国のアステックス ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ASTX)を8.86億ドルで買収することで合意した。一株当たり8.5ドル、過去3ヶ月間の終値平均の1.48倍の水準。今後、株式公開買い付けに進む。機関投資家株主の一部から低すぎるという不満が出ているが、同社の財務的価値の中心はいつGE化しても不思議のない薬に関するロイヤルティ権と第二相段階の開発品数品なので、多くは望めないだろう。発表後の株価も8.73ドルと、買収価格と大差ない。

アステックスは2011年に英国のアステックス社と米国のスーパージェン社が合併したもの。代表作は骨髄異形成症候群用薬(MDS)Dacogen(decitabine)で、スーパージェンが1999年にテバの子会社、ファーマケミーからdecitabine及び関連化合物の知的所有権を取得、米国で2006年に承認された。米国ではエーザイが販売、希少疾患用薬排他権は今年5月に失効したが、競合薬であるセルジーンのVidaza(azacitidine)と同様に、まだGE品は発売されていない。

海外ではジョンソン・エンド・ジョンソンが販売。欧州では急性骨髄性白血病薬として2012年に承認されたばかりなので、2022年までGE化の懸念はない。但し、Vidazaが2018年にGE化するリスクがある。

パイプラインでは、Dacogenの改良品であるSGI-110(別名S-110)が注目される。decitabineと異なり宿主細胞のDNAに組入れられなくてもメチル化を阻害でき、また、安定的なので半減期が長いとのこと。改良品なのでDacogenより優れていることを立証しないと商業的な成功は難しいだろう。エーザイが優先的インライセンス権を持っている。

日本の製薬会社は腫瘍学での出遅れを挽回すべく企業買収を通じて開発プラットフォームとパイプラインを調達している。アステックスは武田のミレニアムほどの大物ではないが、ゲームに参加するための参加料としては手頃だ。

リンク:アステックスのプレスリリース

Lancetが日本人研究者の論文を撤回

(2013年9月7日発表)

Lancet誌は2007年に刊行したJIKEI HEART STUDYの治験論文を撤回した。慈恵医大関連病院で実施されたDiovan(valsartan、和名ディオバン)の心血管アウトカム試験で、ARBは降圧を超えた心血管保護作用を持つという仮説を検証したもの。国内、海外で実施された様々なARBの全てのアウトカム試験は否定的な結果になったが、何故かこの試験とKYOTO HEART STUDYでは仮説が立証された。日本は欧米と比べてARBのシェアが著しく高いので、当時は多くの医師が快哉を叫んだだろう。

Lancet誌における日本の研究者の論文撤回としては、昭和医大藤が丘病院に在籍していた研究者が玄々堂君津病院で実施したCOOPERATE試験の論文以来だろう。この試験もACE阻害剤にARBを追加するデュアル・レニン-アンジオテンシン・ブロックに関わるものであり、やはり、日本はARB信者が多いと言えよう。

ディオバン三部作ではノバルティスの社員が大学在籍者として関与していたが、このエピソードは、山中教授がノーベル賞を受賞した直後の虚言研究者騒動を思い出させる。ひょっとして私でも一年間ボランティアをすれば一生、ハーバードや東大の研究者を名乗ることができるのだろうか?高名な科学者を共同著者として論文を刊行しても、誰からもクレームは来ないのだろうか?

今回の件は関わった個人や組織を非難して終われる問題ではないだろう。この機会に学会や企業は襟を正さなくてはならない。政治家や官僚も他人事ではないだろう。化粧品副作用騒動では、厚生労働省が承認した成分と聞いて安心して使ったという声も出ている。トクホも、今のままではコレステロールを下げる成分を含有する食べるタバコが承認されかねない。科学を軽視すべきではない。

リンク:Lancetの撤回発表分(購読者以外は冒頭のみ閲覧可能)

リンク:Retraction Watchの記事(Lancet発表文がかなり引用されている)

【新薬開発】


ESC:リクシアナとオングリザの心血管アウトカム試験

(2013年9月1日発表)

ESC欧州心臓学会のホットライン演題から、第一三共のLixiana(edoxaban、和名リクシアナ)のHOKUSAI-VTE試験とBMS/アストラゼネカのOnglyza(saxagliptin)のSAVOR-TIMI 53試験を取り上げよう。この二本の試験はNew England Journal Medicine誌に同時オンライン刊行された。

HOKUSAI-VTE試験は症候性深静脈血栓や肺塞栓の患者に対する再発予防効果をワーファリンと比較したもの。Xa阻害剤ではバイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)やBMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)でも同様な試験が行われたが、HOKUSAIは最初の数日間、両群とも低分子量ヘパリンで治療した点が異なる。

治療当初は特に強い抗血栓作用が求められるようで、Xareltoは第二相試験の経験を踏まえて最初の3週間は15mgを一日二回、その後は20mgを一日一回に減量する用法を採用した。Eliquisも最初の7日間は10mg一日二回、その後は5mg一日二回だ。従って、Lixianaの試験で最初は既存の薬を使ったのは一理ある。Lixianaの用法は60mg一日一回だが、クレアチニン・クリアランスが30~50 ml/分の患者や体重60kg未満の患者は30mgを用いた。

この三剤の試験のヘッドライン・データを比較すると、

再発性症候性静脈血栓塞栓:

  • Lixiana 3.2%対3.5% HR0.89(非劣性)


  • Xarelto 2.1%対3.0% HR0.68(非劣性)


  • Eliquis 2.3%対2.7% HR0.84(非劣性)


臨床的に重要な出血:

  • Lixiana 8.5%対10.3%
  • Xarelto 8.1%対 8.1%
  • Eliquis 4.3%対 9.7%(優越性)


となり、薬効も安全性もEliquisのデータが一番良い。このため、学会ではEliquisに見劣りするという意見が多かったようだ。

Lixianaのデータにはヘパリン治療期の血栓塞栓、出血が含まれているはずなので、もしこの時期のイベントを除いても全体の解析と大差ないならば、Eliquisに軍配が上がるだろう。BMS/ファイザーはこの用途の適応拡大を申請する予定。

リンク:HOKUSAI-VTE試験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

DPP-4阻害剤OnglyzaのSAVOR-TIMI 53は、FDAの糖尿病薬開発ガイドラインに則り新薬の心血管リスクが高くないことを確認する目的で、二型糖尿病で心血管疾患既往/高リスク患者16492人をOnglyza群と偽薬群に無作為化割付しメジアン2.1年間追跡した大規模試験。FDAに対するフェーズIVコミットメントとして、膵炎を始めとする様々な有害事象の発生も監視した。

FDAが規制を強化した時には、新薬の開発が遅れるとか製薬会社に過剰な資金負担を強いるため開発意欲が低下するとかの反対意見があったが、製薬会社は真実を求めれば答えてくれるのである。費用は数百億円のオーダーになるだろうが、糖尿病薬の10年間、20年間累計の購入額と比べれば決して大きくない。大規模な試験で稀な副作用を検討しておけば、将来、疑惑が浮上した時に反論するエビデンスになるので、保険という意味合いもある。

さて、SAVOR試験の結果は、心血管疾患の発生率が2年間のカプランマイヤー推定で7.3%となり、偽薬群の7.2%と比べて非劣性であることが確認された。武田のDPP-4阻害剤の同様な試験も同様だった。リスク削減を期待していた研究者には残念な結果だが、結局、血糖治療を行っても心血管リスクを削減することはできない、あるいは、スタチンを始めとして心血管リスクを抑制する様々な手段が実用化された今日では血糖治療薬にできることは限られているのだろう。

血糖治療は心血管リスクを削減するという仮説が浮上したのは、UKPDSでmetforminが肥満患者の心血管リスクを削減するトレンド(有意ではないが有意水準に近い)が見られたことが契機だ。検出力の高い試験を行えば有意差が出るはず、と数多くの大規模試験が行われたが、何れもフェールし幾つかの試験ではむしろ有害だった。

UKPDSに関しては数十のサブ試験の論文が刊行されているが、解析回数が増えれば増える程、偶然に有意差が出てしまうリスクが高まる。論文著者が明記しているように、探索的研究に過ぎず別途前向き試験を行って確認する必要があることを肝に銘じるべきだろう。

検出力の高い大規模な試験を行うとノイズを拾うリスクが高まるという法則は今回のSAVOR試験にも当てはまる。但し、このノイズは安全性に関わることなので、今後の研究で否定されるまでは真実である可能性を意識しておいた方が良いだろう。

ノイズの第一は、心不全による入院の発生率が3.5%対2.8%、p=0.007と、有意に多かったことだ。主要低血糖イベントの発生率も2.1%対1.7%、p=0.047だった。Onglyza固有のリスクなのかもしれないが、低血糖症は心臓に悪影響を与える可能性があるので、ACCORD試験と同様に、積極的な血糖治療に潜む危険性が表面化したのかもしれない。もしそうだとしたら、二型糖尿病の治療方針全体に係る重要なエビデンスになりうる。

第二は最近話題になった膵臓安全性。膵癌は5例対12例、p=0.095で大差なかったが、2年程度の試験で癌原性を発見できるはずがない。一方、膵炎の方ははっきりしない。慢性膵炎を含めれば両群大差なかったが、急性膵炎は0.3%(22例)対0.2%(16例)、うち明確に(definite)膵炎と診断されたのは17人対9人、p=0.17。症例数が少ないので有意差は出なかったが、もし被験者数と症例数が何れも2倍だったら有意水準に達しただろう。

また、心血管疾患による死亡は3.2%対2.9%、ハザードレシオ1.03、有意ではなかったが、それ以外の理由による死亡は1.7%対1.3%、HR1.27、p=0.051と有意水準まであと一歩だった。死因は区々で、主要な死因は何れもOnglyzaのほうが多いという奇妙な結果である。

このように、SAVOR試験は報道されているほど良い結果ではなかった。Nesina(alogliptin)のEXAMINE試験の論文も同時にオンライン刊行されたので読んでみたが、対応するデータが記されていない項目があり、クラス・イフェクトなのかSAVOR試験だけのノイズなのか明確ではない。

これらの試験のデータはFDAやEMAに提出されるので、欧米の承認審査機関の評価を待ちたい。

リンク:SAVOR-TIMI 53試験論文(NEJM誌、オープンアクセス)

リンク:BMS/アストラゼネカのプレスリリース(9/2付)

GSK、癌治療用ワクチンの第三相試験は最初の解析がフェール

(2013年9月5日発表)

グラクソ・スミスクラインは、癌治療用MAGE-A3ワクチンの第三相悪性黒色腫試験の共同主評価項目のうち、全症例の解析がフェールしたことを発表した。もう一つの主評価項目の解析は2015年に行われる見込み。また、非小細胞性肺癌の第三相試験結果は来年上半期に開票する予定。

MAGEは通常の成人細胞には殆ど発現しないが、悪性黒色腫の2/3、非小細胞性肺癌の1/3で高発現している。MAGE-A3ワクチンはMAGEのA3サブユニットに対する免疫を誘導し癌細胞を攻撃させるもので、アジュバントとしてAgenus社のサポニン誘導体とMPL、そしてTLR-9アゴニストを用いている。今回の悪性黒色腫試験はMAGE-A3を高発現するIIIB/C期の黒色腫で切除術を受けた患者を組入れて無病生存率(DFS)を偽薬と比較した。

ClinicalTrials.govの治験登録を読む限りでは主評価項目は一つのようだが、GSKのプレスリリースによると、全症例の解析のほかに、特定の遺伝子署名を示す患者だけの無病生存期間も主評価項目とのこと。どんな遺伝子署名なのかは不明。Agenusのプレスリリースによれば、こちらの解析だけが成功した場合でも承認申請できる可能性があるようだ。全ての主評価項目の解析が完了していないため、最初の解析データや安全性データは未だアンブラインドされていない。

日本では良くデザインされた無作為化割付対照試験の裏付けがないまま様々なペプチドワクチンが研究、治療に用いられているが、残念なことである。丸山ワクチンの時代とは違い、今日の科学なら、有効なワクチンとそうでないワクチンを的確に見分けることができるだろう。それはそれとして、海外でもワクチン療法は苦戦しており、MAGE-A3ワクチンも元々の期待値が低いのでフェールしてもサプライズではないだろう。

リンク:GSKのプレスリリース

【承認申請】


ジョンソン・エンド・ジョンソンが抗IL-6抗体を承認申請

(2013年9月3日発表)

ジョンソン・エンド・ジョンソン(JNJ)は、CNTO 328(siltuximab)を多中心性キャッスルマン病(MCD)治療薬として欧米で承認申請したと発表した。IL-6を標的とするキメラ抗体で、中外/ロシュの抗IL-6受容体ヒト化抗体Actemra(tocilizumab、和名アクテムラ)に似ている。Actemraも初承認はキャッスルマン病だった。JNJは様々な抗IL-6抗体をリウマチや癌向けに開発しているが、遂に水面に浮上した。

MCDはキャッスルマン病の一種で、リンパ球が増殖し複数の異なった箇所のリンパ節や臓器のリンパ組織が腫脹、免疫力が低下したり臓器が障害を受けたりする。JNJは79人を組入れた第二相試験に基づいて申請した模様で、データは今年の学会で発表される。

IL-6はTセルやBセルなどが分泌する炎症促進的サイトカイン。IL-6受容体は細胞膜だけでなく血液中にも存在してIL-6と複合体を形成する。この複合体が細胞内のgp120と複合体を形成して活性を発揮するので、IL-6受容体とIL-6の関係は、通常のレガンドと受容体の関係とは異なる。つまり、抗IL-6抗体も抗IL-6受容体抗体も他の条件が同じなら薬効や安全性は大差ないかもしれない。

従って、JNJの抗IL-6抗体シリーズは、リジェネロンがサノフィと共同開発している抗IL-6受容体抗体REGN88/SAR153191(sarilumab)などと同様に、Actemraには強力なライバルになりそうだ。

リンク:JNJのプレスリリース

【承認】


ハーセプチン皮注がEUで承認

(2013年9月2日発表)

ロシュは、Herceptin(trastuzumab、和名ハーセプチン)の皮注用製剤がEUで承認されたと発表した。既存の製剤は30分点滴静注だが、皮注は5分で足りる。おそらく自己注も可能だろうから、乳癌摘出後の再発予防で用いる場合の利便性が大きく向上する。面白いのは、点滴用は用量を体重に合わせて決定するが、皮注は600mg一本であること。ハロザイム社の技術を用いて開発した。

リンク:ロシュのプレスリリース

GSKのbraf阻害剤がEUでも承認

(2013年9月2日発表)

GSKはTafinlar(dabrafenib)がEUで承認されたと発表した。ロシュのZelboraf(vemurafenib)と同様なbraf阻害剤で、braf-V600E変異型の切除不能/転移性の黒色腫に用いる。この変異を持たない癌では成長を促進してしまう可能性があるので、禁忌。米国では今年5月に承認され問屋取得価格が月7600ドルとZelborafより安価に発売された。

リンク:GSKのプレスリリース

今週は以上です。

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2013年9月1日

海外医薬ニュース2013年9月1日号



【ニュース・ヘッドライン】




  • ESCの注目演題~HOKUSAI試験が成功
  • アムジェンのオニクス買収交渉が決着
  • 大塚製薬のSamscaの適応拡大は承認されず
  • 局所性メクロレタミンが米国で初承認
  • EUでサノフィのAubagioが承認
  • EUがバイエルのアイリーアの適応拡大とスチバーガの販売承認申請を承認


【今週の話題】



ESCの注目演題~HOKUSAI試験が成功

ESC欧州心臓学会が9月1日から始まる。近年の心臓学会は開発後期段階の新薬に係るLate-breaking発表が少なくなっており、今回も不作という印象だ。学会はフェールした試験も差別しないので、ESCのホット・ラインの演題にはフェールした試験が数多く含まれている。昨日時点で成否不明なのは第一三共のLixiana(edoxaban、和名リクシアナ)の静脈血栓塞栓治療試験、Hokusai-VTEと、武田のNesina(alogliptin、和名ネシーナ)の二型糖尿病急性冠症候群試験、EXAMINE位だ。

本日、ホット・ラインの皮切りとして発表されたのがHokusai-VTE試験だ。Lixianaはベーリンガー・インゲルハイムのPradaxa(dabigatran、和名プラザキサ)、バイエル/ジョンソン・エンド・ジョンソンのXarelto(rivaroxaban、和名イグザレルト)、BMS/ファイザーのEliquis(apixaban、和名エリキュース)に次ぐ第四の新規経口抗血栓薬。

今回の試験は、急性の症候性深静脈血栓や肺塞栓をヘパリンで治療した後にLixiana(60mg一日一回・・・日本で関節術後深静脈血栓予防に承認されている用量の倍)またはワーファリンを用いて長期再発予防する効果を比較したもの。

結果は、Xareltoと同様、再発予防効果は非劣性だったが、臨床的に重要な出血は少なかったようだ。また、被験者の3割を占める肺塞栓で右心室機能不全の見られる患者では再発予防効果が優れ、20%を占める出血リスクの高い患者にはLixianaを30mgに減量する用法が奏功、ワーファリンより出血リスクが小さく効果は同程度だった。

現時点ではESCのプレスリリースしか見ていないので詳細は不明。経口抗血栓薬の本命の用途である心原性脳卒中予防試験の結果は11月19日にAHA科学部会で発表される予定だが、この用途は出血リスクに鋭敏なので、Hokusai試験の論文が刊行されたらよく吟味する必要がある。

経口抗血栓薬はワーファリンのように用量を頻繁に調整する必要がなく、食物・薬物相互作用が少ないため大いに期待されたが、これまでの販売は期待を下回っている。Lixianaは後発なので、治験でできるだけ良いデータを収集することが重要だ。

リンク:ESCのリリース




サノフィの静注用Xa阻害剤otamixabanの治験結果も発表される予定だが、既に開発中止になった。Pradaxaの人工心弁患者脳卒中予防試験も効果不足でフェールしたことが明らかにされている。

日曜午後には第一三共/イーライリリーのEfient(prasugrel)のACCOAST試験の結果も発表される予定だが、報道によると、2年前に出血リスクを理由に中止になったようだ。この試験は非ST上昇型心筋梗塞でPCIを受ける患者を対象に、プリトリートメント(血管造影術時ではなく非ST上昇型心筋梗塞と診断された段階で負荷用量の半分の量を、PCI時に残りの量を投与する)の効用を検討したもの。目標症例4100例とのことなので、かなり大きな試験だ。

Efientはサノフィ/BMSのPlavix(clopidogrel、和名プラビックス)と異なり作用のオンセットが早いためプリトリートメントする必要はないと考えられ、第三相試験では採用されなかった。しかし、入院後早い段階でPlavixを投与する病院もあるので、Efientでも同じことができるのか確認するのは重要だ。

それだけに、もし出血リスクが高まるだけで効果は大差ないことが2年前に判明しているならば、メーカー側は、今日まで公表しなかった理由を釈明すべきだろう。

9月2日には二型糖尿病薬二剤の心血管アウトカム試験の結果が発表される予定。一つはBMS/アストラゼネカのOnglyza(saxagliptin、日本は協和発酵キリンのオングリザ)のSAVOR-TIMI 53試験で、心血管疾患を持つ、あるいはそのリスクが高い二型糖尿病を組入れて、心血管疾患リスク削減効果を通常の医療と比較したもの。フェールしたことが既に公表されている。

もう一本は武田のNesinaのEXAMINE試験。急性冠症候群を発症して15~90日経った二型糖尿病患者を対象としており、Actos(pioglitaxone)のPROACTIVE試験と似ている。心血管アウトカム改善効果が確認されたらSAVOR試験との違い、フェールした場合はPROACTIVE試験の違いが注目されることになりそうだ。

アムジェンのオニクス買収交渉が決着

(2013年8月25日発表)

アムジェンはオニクス・ファーマシューティカルズ(Nasdaq:ONXX)を一株当たり125ドルの現金で買収することで合意した。総額104億ドル、オニクスの手元現金とネットで97億ドルの買収となる。

オニクスはバイエルと抗癌剤Nexavar(sorafenib、和名ネクサバール)を共同開発販売しているほか、バイエルの新規抗癌剤であるStivarga(regorafenib)の売上の20%を得る権利と、ファーザーがホルモン陽性乳癌で第三相試験中のCDK4/6阻害剤、PD-0332991(palbociclib)の売上の8%を得る権利を持っている。

更に、2012年には、2009年にProteolix社を8.1億ドルで買収して入手したKyprolis(carfilzomib)を多発骨髄腫用薬として米国で発売した。ジョンソン・エンド・ジョンソン/武田薬品のVelcade(bortezomib)の類薬であり、Velcade並みの成功が期待されている。欧州では2014年に二本の第三相対照試験の中間解析結果が出てから承認申請される予定。

一本はセルジーンのRevlimid(lenalidomide、和名レブラミド)及びdexamethasoneと三剤併用で再発性多発骨髄腫の2~4次治療を行う。他剤の試験を見ても、三剤併用は効果が高いので期待できそうだ。もう一本は既存の主要な抗癌剤3種類(Velcadeを含む)を既に用いた、最終治療抵抗性の多発骨髄腫に対する効果をステロイド・ベースの最良支持療法と比較する。

過去の報道によるとオニクスは一株当たり130ドルを要求したが、アムジェンがこの二本の試験の途中データを要求したため、頓挫した。アムジェンの狙いは忍容性を確認することだったのだろうが、商業的な意味で本当に重要なのは、数多く実施されているVelcade直接比較試験だ。2015年頃から結果が出始めると推測される。

リンク:アムジェンのプレスリリース

【承認審査・委員会】


大塚製薬のSamscaの適応拡大は承認されず

(2013年8月30日発表)

大塚製薬は米国でバソプレシン2受容体拮抗剤Samsca(tolvaptan、和名サムスカ)をADPKD(常染色体優性多発性嚢胞腎)に適応拡大申請していたが、予想された通り、審査完了となった。薬効や安全性の立証が不十分と判定されたようだ。

承認申請の根拠となった臨床試験では腎臓量の増加や腎機能の悪化を抑制する効果が確認されたが、治験デザイン上の制約で、臨床的な転帰を改善する効果は明確にならなかった。重大な肝毒性リスクがあるため、転帰改善効果が曖昧なままでは便益がリスクを上回るとは断定できない。諮問委員会でも15人の委員中9人が承認に反対した。

日本では承認を期待する声もあったようだが、肝毒性懸念が原因で承認されなかった薬は枚挙に暇がないことを知らないのだろうか?日本企業絡みでも08年に武田のTAK-475(lapaquistat acetate)が承認申請直前に開発中止になった。SamscaもFDAが今年1月に肝毒性リスクを警告した段階で、ハードルが高まったと判断しなければいけない。現在承認されている用途は治療を30日以内に終わらせることが可能だが、ADPKDは長期治療が必要なので話が別である。

リンク:大塚製薬のプレスリリース

【承認】


局所性メクロレタミンが米国で初承認

(2013年8月26日発表)

フィラデルフィアの新興製薬会社Ceptaris Therapeuticsは、FDAがValchlor(mechlorethamineジェル製剤)を真菌性菌状息肉腫治療薬として承認したと発表した。局所性製剤の承認は初とのこと。今後は、調剤薬局製品と競争することになる。同社はスイスのアクテリオン(SIX:ATLN)が2.5億ドル+達成報奨金で買収することに合意しているが、Valchlorの承認が前提条件の一つなので、買収に向けて一歩前進したことになる。

リンク:Ceptarisのプレスリリース

EUでサノフィのAubagioが承認

(2013年8月30日発表)

サノフィはAubagio(teriflunomide)が再発寛解型多発性硬化症の維持療法薬として承認されたと発表した。経口剤なので利便性が高く、再発リスク削減効果はバイオジェン・アイデックのTecfidera(dimethyl fumarate)などと比べて見劣りするものの、免疫抑制剤に付き物な日和見感染症や癌のリスクは見られない。但し、肝毒性に注意が必要だ。

米国でも昨年承認されたが、EUは一日7mg服用は承認しなかった。14mgと異なり疾病進行抑制作用が確認されていないからだろう。米国がこの点をスルーしたのは、現在の疾病進行評価方法を妥当と見做していないからだろう。

リンク:ジェンザイム(サノフィの子会社)のプレスリリース

EUがバイエルのアイリーアの適応拡大とスチバーガの販売承認申請を承認

(2013年8月29日と30日発表)

バイエルは、Eylea(aflibercept、和名アイリーア)を網膜中心静脈閉塞症の治療に用いる適応拡大と、Stivarga(regorafenib)を転移性結腸直腸がんのサルベージ療法として用いる販売承認申請がEUで承認されたと発表した。

Eyleaはロシュ/ノバルティスのLucentis(ranibizumab)と同様なVEGFに結合する抗体だが、結合力の高さと、二種類のVEGF受容体のサブユニットを免疫グロブリンの固定領域と結合した融合蛋白であること、そして、Lucentisより割安な価格で販売されていることが特徴。

Eyleaはリジェネロン(Nasdaq:REGN)の開発品。同社のような、先行企業の特許を侵害せずに類似した抗体医薬を生産する技術を持っている企業は、要注目だ。

リンク:バイエルのプレスリリース(8/29付)

Stivargaは同社のNexavar(regorafenib)の誘導体。Nexavarはオニクスとの共同研究の成果だが、バイエルは当初、Stivargaは異なると主張。結局、20%の売上ロイヤルティを払うことで和解したのだが、そうなると、Stivargaの位置付けが曖昧になる。Nexavarが承認されている用途で開発しても意味がないからだ。切除不能のGIST(消化管間質腫瘍)のサルベージ療法としても申請中で米国では既に承認されたが、今後も、Nexavarの次に使う薬としての位置付けに留まりそうだ。

リンク:バイエルのプレスリリース(8/30付)

今週は以上です。

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